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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131135
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20240920BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240920BHJP
   H01G 2/10 20060101ALI20240920BHJP
   H01G 4/224 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01G4/32 540
C08L63/00 C
H01G2/10 R
H01G4/224 200
H01G4/32 301F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041224
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】島崎 幸博
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 宏樹
【テーマコード(参考)】
4J002
5E082
【Fターム(参考)】
4J002CD051
4J002DE097
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD037
4J002FD207
4J002HA09
5E082AB05
5E082BC19
5E082EE07
5E082EE23
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG35
5E082HH27
5E082HH43
5E082HH47
5E082HH48
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂を含有する樹脂層を有し、エポキシ樹脂に含まれる塩化物イオンによる電子部品素子の劣化を効率良く抑制し得る電子部品を提供する。
【解決手段】電子部品1は、電子部品素子2と、電子部品素子2の外側に配置されているバリア層3と、を備える。バリア層3は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層35と、イオン捕捉剤を含有するイオン捕捉層31と、を含む。イオン捕捉層31が、電子部品素子2と、樹脂層35との間に介在する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品素子と、前記電子部品素子の外側に配置されているバリア層と、を備え、
前記バリア層は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、イオン捕捉剤を含有するイオン捕捉層と、を含み、
前記イオン捕捉層が、前記電子部品素子と、前記樹脂層との間に介在する、
電子部品。
【請求項2】
前記イオン捕捉層が、前記電子部品素子の全部又は一部を覆っている、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記イオン捕捉層は、バインダー樹脂を更に含有する、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記バインダー樹脂の塩素含有量は900ppm以下である、
請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記イオン捕捉剤の割合は、前記イオン捕捉層の全体に対して、5.0質量%以上50.0質量%以下である、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
前記バリア層が、粘土を含有する粘土層を更に含む、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項7】
前記電子部品素子と、前記粘土層との間に少なくとも1層の前記イオン捕捉層が介在する、
請求項6に記載の電子部品。
【請求項8】
前記粘土層は、バインダー樹脂を更に含有し、
前記粘土に含有される鉱物粒子は板状又は薄片状の粒子を含む、
請求項6に記載の電子部品。
【請求項9】
前記バリア層は、前記イオン捕捉層と基材層とが積層した積層体を備える、
請求項1に記載の電子部品。
【請求項10】
前記電子部品素子がフィルムコンデンサ素子を含む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の電子部品。
【請求項11】
前記フィルムコンデンサ素子は、誘電体フィルムと、前記誘電体フィルムの表面に配置されている電極膜と、を有する金属化フィルムを備える、
請求項10に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子部品に関し、より詳しくは、樹脂層を含むバリア層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フィルムコンデンサまたはフィルムコンデンサモジュールの封止に用いられる封止用樹脂組成物であって、エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、無機充填材とを含む封止用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-152822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の課題は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を有し、電子部品素子の劣化を効率良く抑制し得る電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る電子部品は、電子部品素子と、前記電子部品素子の外側に配置されているバリア層と、を備える。前記バリア層は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、イオン捕捉剤を含有するイオン捕捉層と、を含む。前記イオン捕捉層が、前記電子部品素子と、前記樹脂層との間に介在する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を有し、電子部品素子の劣化を効率良く抑制し得る電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は本開示の電子部品の一例を示す概略の断面図である。
図2図2は本開示の電子部品素子の一例を示す概略の構造図である。
図3図3は本開示の実施形態に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図4図4Aは鉱物粒子を示す概略図である。図4Bは粘土層を示す断面図である。
図5図5は本開示の第二変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図6図6は本開示の第三変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図7図7は本開示の第三変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図8図8は本開示の第四変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図9図9は本開示の第四変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図10図10は本開示の第六変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図11図11は本開示の第六変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図12図12は本開示の第六変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図13図13は本開示の第七変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
図14図14は本開示の第七変形例に係る電子部品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.概要
本開示の電子部品1に至った経緯について説明する。
【0009】
電子部品1に関し、電子部品1の外部にある水分が電子部品素子2に接触することを防ぐことを目的として、電子部品素子2が樹脂組成物から作製された樹脂層35を含むバリア層3により封止されている場合がある(図3参照)。
【0010】
樹脂層35を作製するために用いられる樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有することがある。しかし、エポキシ樹脂は製造方法に起因して塩素を含有することがある。塩素を含むエポキシ樹脂が樹脂組成物に含有された場合、その樹脂組成物から作製された樹脂層35には塩素に起因する塩化物イオン(Cl)が発生しうる。そのため、塩化物イオンが電子部品素子2を劣化させる問題が生じる。
【0011】
電子部品素子2の劣化を抑制する方法としては、電子部品素子2を封止するために使用される樹脂組成物にイオン捕捉剤を含有させることが挙げられる。しかし、樹脂組成物から作製された樹脂層35はエポキシ樹脂を多く含み、かつ適度な厚みを有する。このため、十分に電子部品素子2の劣化が抑制されるためには、樹脂層35の全体にイオン捕捉剤を一定量分散させる必要性があり、このため、イオン捕捉剤が効率よく塩化物イオンを捕捉することが難しい問題がある。また、予め塩素の含有量を低減させたエポキシ樹脂(低塩素化エポキシ樹脂)を製造するためには特殊な製法が必要とされる。
【0012】
上記のような事情に鑑みて、発明者は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層を有し、電子部品素子の劣化を効率良く抑制し得る電子部品1を提供することができるようにするべく、鋭意研究を行った結果、本開示に至った。
【0013】
本開示では、電子部品1は、電子部品素子2と、電子部品素子2の外側に配置されるバリア層3と、を備える。バリア層3は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層35と、イオン捕捉剤を含有するイオン捕捉層31と、を有する。イオン捕捉層31は、電子部品素子2と樹脂層35との間に介在する。
【0014】
本開示では、塩素を含むエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物から樹脂層35が作製された場合であっても、イオン捕捉層31が電子部品素子2と樹脂層35との間に介在していることにより、イオン捕捉層31が樹脂層35から電子部品素子2に向かおうとする塩化物イオンを十分に捕捉することができる。このため、電子部品素子2の劣化が十分に抑制され得る。また、イオン捕捉層31が効率よく塩化物イオンを捕捉することができるため、樹脂層35の全体にイオン捕捉剤を含有させる場合と比較して、イオン捕捉剤の使用量を減らすことができる。
【0015】
このように本開示における電子部品1はエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層35を有しながら、かつエポキシ樹脂が含有する塩素に起因する電子部品素子2の劣化を効率良く抑制することができる。これにより、電子部品1の電気的特性を維持し得る期間が長くなる。
【0016】
実施形態及び変形例について、図1から図14を参照しながら説明する。下記の実施形態及び変形例は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。下記の実施形態及び変形例は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。各図面に示される同一の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとするものとし、適宜重複した説明は省略する。なお、以下において参照する図は、いずれも模式的な図であり、図中の構成要素の寸法比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。また、実施形態及び変形例に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
2.実施形態
(電子部品)
図1は本実施形態に係る電子部品1の一例を示す概略の断面図である。なお、図1では、イオン捕捉層31及び樹脂層35の図示を省略している。
【0018】
本実施形態では、電子部品1はフィルムコンデンサである。電子部品1(フィルムコンデンサ)が有する内部電極25が塩化物イオンによって腐食された場合、電子部品1の電気的特性の劣化が特に生じやすい傾向がある。このため、イオン捕捉層31による電気的特性の維持作用が顕著にみられる。
【0019】
(電子部品素子)
電子部品1は、上記の通り、電子部品素子2を備える。電子部品素子2は電子部品1の種類に応じたものが選択される。例えば、電子部品素子2はフィルムコンデンサ素子である。
【0020】
電子部品素子2がフィルムコンデンサ素子である場合、電子部品素子2は素子本体21と一対の外部電極22,22とを備える。一対の外部電極22,22は、それぞれ素子本体21の両端部に配置されている(図1図2参照)。素子本体21の形状は特に限定されていないが、例えば略円柱状又は略楕円柱状である。電子部品素子2における素子本体21は、例えば誘電体フィルム24と、誘電体フィルム24の上に配置されている内部電極25と、を備える金属化フィルム23から作製することができる。より具体的には、素子本体21は、上記の金属化フィルム23を2つ用意し、続いて、その2つの金属化フィルム23を重ねた状態で複数回巻回することによって作製される。また、素子本体21は複数の金属化フィルム23を積み重ねることによっても作製される。つまり、電子部品素子2は巻回型のフィルムコンデンサ素子及び積層型のフィルムコンデンサ素子の一方であってよい。なお、誘電体フィルム24は、例えばポリプロピレン樹脂を含有することがある。なお、ポリプロピレン樹脂は、耐熱性、耐湿性及び耐電圧性の観点から、二軸延伸ポリプロピレンが好ましい。
【0021】
内部電極25は、例えばAl、Zn、Mg、Cu、Ag及びこれらの合金等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。内部電極25は、特にAlを含有することが好ましい。この場合、フィルムコンデンサである電子部品1の性能が高められる傾向がある。また、内部電極25が作製される方法は特に限定されていないが、金属を蒸着させることによって作製されることが好ましい。つまり、内部電極25はAlを含有する蒸着膜であることが好ましい。
【0022】
また、外部電極22は、例えば金属材料の溶射(メタリコン)により作製される。外部電極22は、例えばZn、Sn、Al、Mg、Cu、Ag及びこれらの合金等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。外部電極22は、特に、Sn及びZnのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、フィルムコンデンサである電子部品1の性能が高められる傾向がある。
【0023】
なお、本実施形態では、電子部品素子2は、電子部品素子2の外部電極22と電気的に接続される外部接続端子26を備えていてもよい(図1参照)。外部接続端子26はバリア層3の外側に導出していてもよい。この場合、バリア層3は外部接続端子26を除いて、電子部品素子2の全体を覆っていることが好ましい。
【0024】
(バリア層)
バリア層3は電子部品素子2を外部要因から保護し得る。主な外部要因は、例えば、水分が挙げられる。また、外部要因は、水分に加えて、ガス、熱、光、電磁波、衝撃及び薬品等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む場合がある。
【0025】
本実施形態では、バリア層3は電子部品素子2の全体を覆っている。これにより、電子部品素子2が電子部品1の外部にある水分と接触することを防ぐことができる。
【0026】
バリア層3は積層体30と樹脂層35とを備えている(図3参照)。樹脂層35はバリア層3に電子部品素子2を外部要因から保護する機能を付与することができる。樹脂層35は電子部品素子2の全体を覆っている。これによって、バリア層3は電子部品素子2を外部要因から十分に保護することができる。
【0027】
積層体30は電子部品素子2と樹脂層35との間に介在し、かつイオン捕捉層31を備える。積層体30がイオン捕捉層31を備えることにより、樹脂層35で発生した塩化物イオンを効率よく捕捉する機能を有し得る。加えて、積層体30はイオン捕捉層31に加えて、種々の特性を有する層を備える。これにより、積層体30は樹脂層35で発生した塩化物イオンを効率よく捕捉する機能に加えて、追加した層に応じた種々の特性を有することができる。
【0028】
また、本実施形態では、積層体30は、電子部品素子2の全体を覆っている(図3参照)。この場合、樹脂層35が電子部品素子2と直接接触することが防止される。これにより、積層体30は樹脂層35で発生した塩化物イオンが電子部品素子2に到達することを十分に防ぐことができる。その結果、電子部品素子2の劣化、具体的には内部電極25の腐食が十分に抑制され得る。
【0029】
[イオン捕捉層]
イオン捕捉層31は、上記の通り、樹脂層35で発生する塩化物イオンを捕捉する層である。上記の通り、イオン捕捉層31はイオン捕捉剤を含有し、かつ電子部品素子2と樹脂層35との間に介在する。このため、樹脂層35から電子部品素子2に向かおうとする塩化物イオンを効率よく捕捉することができる。
【0030】
本実施形態では、イオン捕捉層31の厚みは樹脂層35の厚みよりも薄い。このため、イオン捕捉層31に含有されるイオン捕捉剤の濃度を高めることができ、その結果、樹脂層35から電子部品素子2に向かおうとする塩化物イオンを効率よく捕捉することができる。また、イオン捕捉層31の厚みは、使用の態様に合わせて適宜変更することができるが、5.0μm以上50.0μm以下であることが好ましい。この場合、イオン捕捉層31がイオンを効率よく捕捉することができ、かつイオン捕捉層31の作製のされやすさが高まり得る。また、イオン捕捉層31の厚みは10.0μm以上であることがより好ましい。イオン捕捉層31の厚みは30.0μm以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態では、イオン捕捉層31は電子部品素子2と接するように配置され、かつ電子部品素子2の全体を覆っている(図3参照)。言い換えれば、イオン捕捉層31は電子部品素子2が有する素子本体21と外部電極22との両方を隙間なく覆うようにして配置されている。この場合、塩化物イオンが電子部品素子2に接触することを十分に防ぐことができ、このため、塩化物イオンが内部電極25に接触することも十分に防ぐことができる。これにより、内部電極25の腐食が十分に抑制され、その結果、電子部品1の電気的特性を維持し得る期間が長くなる。
【0032】
イオン捕捉層31はイオン捕捉剤を含有しており、そのイオン捕捉剤が塩化物イオンを捕捉し得る。イオン捕捉剤は、陰イオン又は陰イオン及び陽イオンの両方を捕捉する機能を有するものであれば特に制限はない。したがって、本開示では、イオン捕捉剤は陰イオン捕捉剤及び両イオン捕捉剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し得る。
【0033】
イオン捕捉剤は、例えば金属を含有する無機材料である。より詳細には、イオン捕捉剤は、例えばZr、Bi、Mg及びAl等よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する。この場合、イオン捕捉層31が塩化物イオンを効率よく捕捉し得る。なお、イオン捕捉剤は、上記列挙した金属を1種類のみ含有していてもよく、2種類以上含有していても構わない。
【0034】
陰イオンを捕捉する陰イオン捕捉剤としては、例えば、酸化ビスマス水和物、ハイドロタルサイト類等の無機イオン交換体等が挙げられる。より具体的には、陰イオン捕捉剤は、東亞合成(株)から上市されている、IXE-500(Bi含有化合物)、IXE-530(Bi含有化合物)、IXE-550(Bi含有化合物)、IXE-700(Mg、Al含有化合物)、IXE-700F(Mg、Al含有化合物)、IXE-770D(Mg、Al含有化合物)、IXE-702(Al含有化合物)及びIXE-800(Zr含有化合物)等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0035】
また、陰イオン捕捉剤の構造は特に限定されないが、層状の結晶構造を有していることが好ましい。この場合、イオン捕捉層31が塩化物イオンを捕捉する機能が特に高まり得る。
【0036】
これについて詳しく説明すると、層状の結晶構造におけるシート状の層は、例えば金属イオンと、水酸化物イオンとを含有する金属水酸化物からなる。シート状の層は、Mg、Al等の金属イオンを含有していることが好ましい。また、二つのシート状の層の間には、交換性陰イオンが存在している。この二つのシート状の層の間に存在する交換性陰イオンは結晶構造の外部にある他の陰イオンと容易に交換される性質を有する。つまり、このような層状の結晶構造を有するイオン捕捉剤がイオン捕捉層31に含有されている場合、イオン捕捉剤が有するこの層間に有する交換性陰イオンと樹脂層35で発生した塩化物イオンとのイオン交換が容易に起こり得る。そのため、樹脂層35等で発生した塩化物イオンが特に効率よく捕捉されるようになる。特に、層間に存在する交換性陰イオンは炭酸イオン(CO 2-)であることが好ましい。炭酸イオンは樹脂層35で発生した塩化物イオンと交換された後に容易に脱炭酸し得るため、電子部品1から容易に除去され得る。このため、交換された炭酸イオンによる内部電極25の腐食が特に防止され、その結果、電子部品1の電気的特性を特に維持することができる。なお、このような層状の結晶構造を有するイオン捕捉剤としては、例えばハイドロタルサイトが挙げられる。つまり、イオン捕捉層31が塩化物イオンを特に効率よく捕捉するためには、ハイドロタルサイトを含有していることが好ましい。
【0037】
陽イオン及び陰イオンの両方を捕捉する両イオン捕捉剤としては、例えば酸化アルミニウム水和物、酸化ジルコニウム水和物等の無機イオン交換体等が挙げられる。より具体的には、両イオン捕捉剤は東亞合成(株)から上市されている、IXE-1320(Mg、Al含有化合物)、IXE-600(Bi含有化合物)、IXE-633(Bi含有化合物)、IXE-680(Bi含有化合物)、IXE-6107(Zr、Bi含有化合物)、IXE-6136(Zr、Bi含有化合物)、IXEPLAS-A1(Zr、Mg、Al含有化合物)、IXEPLAS-A2(Zr、Mg、Al含有化合物)及びIXEPLAS-B1(Zr、Bi含有化合物)等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0038】
また、イオン捕捉剤は、上記の陰イオン捕捉剤及び両イオン捕捉剤のうちのいずれか1種を単独で用いることができ又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。すなわち、本実施形態では、イオン捕捉層31は、使用の態様に合わせて、イオン捕捉剤の種類を適宜変更することによって、イオン捕捉層31の塩化物イオンを捕捉する機能が調整されても構わない。
【0039】
イオン捕捉層31に含まれるイオン捕捉剤の割合はイオン捕捉層31の全体(総質量)に対して5.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。イオン捕捉剤の割合はイオン捕捉層31の全体に対して5.0質量%以上である場合、イオン捕捉層31が、樹脂層35で発生する塩化物イオンを十分に捕捉し得る。これにより、内部電極25の腐食が十分に抑制される。イオン捕捉剤の割合はイオン捕捉層31の全体に対して50.0質量%以下である場合、イオン捕捉層31とイオン捕捉層31と接する別の層又は電子部品素子2との密着性が高められながら、かつイオン捕捉層31の作製のされやすさが高まり得る。イオン捕捉剤の割合はイオン捕捉層31の全体に対して10質量%以上であることがより好ましい。イオン捕捉剤の割合はイオン捕捉層31の全体に対して30質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
なお、イオン捕捉層31は、上記の通り、陰イオン捕捉剤及び両イオン捕捉剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し得る。この場合、イオン捕捉層31は塩化物イオンに加えて、塩化物イオン以外の陰イオンも捕捉することができる。具体的に説明すると、イオン捕捉層31は、塩化物イオン(Cl)に加えて、フッ化物イオン(F)、臭化物イオン(Br)及びヨウ化物イオン(I)等よりなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン化物イオンを捕捉することができる。イオン捕捉層31は、ハロゲン化物イオンに加えて、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオン及びシアン化物イオン等よりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンを捕捉することができる。
【0041】
加えて、イオン捕捉層31は陰イオンを捕捉することのみに留まらない。すなわち、イオン捕捉層31は、イオン捕捉層31に含有させるイオン捕捉剤を適宜選択することによって、陰イオンのみに留まらず、陽イオンを捕捉することもできる。具体的には、イオン捕捉層31は、例えばLi、Na、K、Rb等のアルカリ金属の陽イオン;Ca、Mg、Ba等のアルカリ土類金属の陽イオン;及びFe、Zn、Cu、Ni、Cr等の遷移金属の陽イオン等よりなる群から選択される少なくとも1種を捕捉することができる。なお、この場合、イオン捕捉剤として陽イオン捕捉剤又両イオン捕捉剤が適用されることが好ましい。
【0042】
また、イオン捕捉層31はイオン捕捉剤に加えて、バインダー樹脂(以下、第一のバインダー樹脂ともいう)を含有していることが好ましい。この場合、イオン捕捉層31とイオン捕捉層31に接する別の層又は電子部品素子2との密着性が高まり得る。イオン捕捉層31が第一のバインダー樹脂を含有する場合、イオン捕捉層31はイオン捕捉剤と第一のバインダー樹脂とを含有する混合物から作製される。
【0043】
第一のバインダー樹脂はモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びポリマー等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。また、第一のバインダー樹脂は熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方を含有していてもよい。また、第一のバインダー樹脂が熱硬化性樹脂を含有する場合、混合物には硬化剤が含有されていても構わない。また、第一のバインダーが熱硬化性樹脂を含有する場合、イオン捕捉層31は第一のバインダー樹脂の硬化物を含有し得る。
【0044】
第一のバインダー樹脂は、例えばポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアセタール樹脂並びにポリビニルアルコール樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有する。また、第一のバインダー樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂並びにポリウレタン樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、イオン捕捉層31の作製されやすさが向上し、かつイオン捕捉層31とイオン捕捉層31と接する別の層又は電子部品素子2との密着性がより高まり得る。
【0045】
また、第一のバインダー樹脂は変性処理されていてもよい。この場合、イオン捕捉層31とイオン捕捉層31と接する別の層又は電子部品素子2との密着性がより高まり得る。
【0046】
イオン捕捉層31の塩化物イオンを捕捉する機能を確保する観点から、第一のバインダー樹脂は塩素を含有しないことが好ましい。言い換えれば、第一のバインダー樹脂は塩素含有量が少ない樹脂を含有することが好ましい。第一のバインダー樹脂が塩素含有量の少ない樹脂を含有していることにより、第一のバインダーに由来する塩化物イオンの発生が抑制され得る。このため、イオン捕捉層31の塩化物イオンを捕捉する機能が確保されるため、効率よく樹脂層35で発生した塩化物イオンを捕捉することができる。これにより、内部電極25の腐食が抑制され得る。
【0047】
なお、ここでいう、塩素含有量が少ない樹脂とは、樹脂全体に含有される塩素の含有量が900ppm以下のものを指す。つまり、第一のバインダー樹脂の塩素含有量は900ppm以下であることが好ましい。また、第一のバインダー樹脂の塩素含有量は300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。なお、樹脂の塩素含有量に関しては、樹脂を溶液で溶解させた後に、その溶液を重量法、容量法、分光法、電流測定等の電気化学的手法等で分析することによって測定することができる。また、樹脂が固体状態である場合、樹脂の塩素含有量は、蛍光X線等で分析することができる。
【0048】
また、エポキシ樹脂の塩素含有量は、次のようにして測定することができる。まず、JIS K 7243-3に準拠し、エポキシ樹脂をジエチレングリコールモノブチルエーテルに溶解させ、水酸化カリウムアルコール溶液を用いて加熱還流下でけん化する。続いて、標準容量分析用硝酸銀溶液を用いた電位差滴定によって、けん化されたエポキシ樹脂を含む溶液の全塩素量を測定する。この全塩素量をエポキシ樹脂の塩素含有量とすることができる。
【0049】
また、イオン捕捉剤はイオン捕捉層31の中に分散していることが好ましい。この場合、イオン捕捉層31におけるイオン捕捉剤の濃度にムラが生じることを抑制することができる。その結果、イオン捕捉層31における塩化物イオンを捕捉する機能が局所的に低下する箇所の発生を防ぐことができる。なお、イオン捕捉剤をイオン捕捉層31の中に分散させるためには、イオン捕捉剤と第一のバインダーとを含有する混合物において、イオン捕捉剤が混合物の中で均一に分散されていることが好ましい。つまり、第一のバインダー樹脂はイオン捕捉剤を混合物中で分散させておくことができるものであることが好ましい。具体的には、イオン捕捉剤を混合物中で分散させておくために、第一のバインダー樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂並びにポリウレタン樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していることが好ましい。
【0050】
[基材層]
本実施形態では、積層体30は、基材層32を備えている(図3参照)。基材層32は、基材層32と接する他の層を支持する機能を有する層である。
【0051】
本実施形態では、基材層32は電子部品素子2の全体を覆っており、かつ積層体30が備える層のうち最も外側に配置されている。この場合、基材層32とイオン捕捉層31との間に後述の粘土層33を介在させることができる。これにより、積層体30における樹脂層35で発生した塩化物イオンを捕捉する機能が特に高まり得る。その結果、内部電極25の腐食が抑制され得る。
【0052】
基材層32は、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂並びにエポキシ樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。これらの中でも、基材層32は、ポリプロピレン樹脂を含有することが好ましい。例えば、電子部品素子2が備える素子本体21が、ポリプロピレン樹脂を含有する誘電体フィルム24を用いて作製されている場合、基材層32にポリプロピレン樹脂を含有させておくことで、基材層32と、上記の誘電体フィルム24との熱による収縮の差を小さくすることができる。これによって、エージング工程(経時変化)における、基材層32と、誘電体フィルム24との熱による収縮の差に起因するフィルムコンデンサの性能の低下が抑制され得る。なお、ポリプロピレン樹脂は、結晶性であり、二軸延伸ポリプロピレンあることが好ましい。二軸延伸ポリプロピレンを用いることで、基材層32の耐熱性及び耐湿性が向上し得る。
【0053】
基材層32は、例えばフィルム、シート又は板等の形態を有している。基材層32の厚みは5μm以上50μm以下であることが好ましい。この場合、基材層32の電気絶縁性が高まりながら、かつ基材層32の可撓性が高まり得る。その結果、基材層32と接する他の層を支持する機能が高まり得る。基材層32の厚みは10μm以上であることがより好ましい。基材層32の厚みは30μm以下であることがより好ましい。
【0054】
[粘土層]
本実施形態では、積層体30は粘土層33を備えている(図3参照)。粘土層33は樹脂層35で発生した塩化物イオンの侵入を抑制する機能を有し得る。つまり、粘土層33は樹脂層35に含まれる塩化物イオンが電子部品素子2に到達することを妨げる機能を有し得る。これにより、内部電極25の腐食が抑制される。なお、粘土層33は、塩化物イオンの侵入を抑制する機能に加えて、電子部品1の外部に存在する水分が電子部品素子2に接触することを防ぐ機能を有していても構わない。
【0055】
本実施形態では、粘土層33も電子部品素子2の全体を覆っており、かつイオン捕捉層31と基材層32との間に配置されている。この場合、積層体30における樹脂層35で発生した塩化物イオンを捕捉する機能が特に高まり得る。その結果、内部電極25の腐食が抑制される。
【0056】
なお、本開示では、図3に示すように、電子部品素子2と粘土層33との間に少なくとも1層のイオン捕捉層31が配置されていることが好ましい。この場合、樹脂層35で発生した塩化物イオンが粘土層33で侵入が抑制された後、粘土層33を通過し、僅かに侵入してきた塩化物イオンをイオン捕捉層31で捕捉することができるため、樹脂層35で発生した塩化物イオンが電子部品素子2に到達することが特に難しくなる。つまり、本実施形態における電子部品1は樹脂層35で発生した塩化物イオンが電子部品素子2に到達することを特に防ぐことができる構造を有している。
【0057】
粘土層33は粘土を含有している。本開示において、粘土は複数の鉱物粒子331の集合体である。また、粘土は複数の鉱物粒子331の集合体に加えて、少量の水を含有していても構わない。
【0058】
鉱物粒子331は、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0059】
鉱物粒子331は、例えばAl(アルミニウム原子)を中心とした八面体構造と、2つのSi(シリコン原子)を中心とした四面体構造とから構成された単層構造を有することがある。この場合、2つの四面体構造の間に、八面体構造が配置されている。加えて、この単層構造に関し、3価のAlの一部が2価のMgやFeに置換されている場合がある。この場合、単層構造は負の電荷を帯びる。そのため、単層構造を電気的に中性にするため、単層構造の間にNaやCa2+のような陽イオンの水和物が存在し得る。
【0060】
また、鉱物粒子331は水に分散させると、上記の陽イオンの部分の水和が進行し得ることがある。この場合、鉱物粒子331は、単層構造を1つの単位として分離し得る。言い換えれば、鉱物粒子331は水に分散させることにより、単層構造への分離が容易になることがある。
【0061】
単層構造に分離した鉱物粒子331から粘土層33が作製された場合、粘土層33においても鉱物粒子331は単層構造に分離した状態を維持し得る。これにより、粘土層33の内部には迷路のような構造(迷路構造)が形成され得る(図4B参照)。迷路構造が形成された粘土層33は、塩化物イオンの侵入を特に抑制する機能を有し得る。
【0062】
詳しく説明すると、粘土層33中において、複数の鉱物粒子331が、厚み方向が粘土層33の厚み方向と一致しながら、幅方向でほぼランダムに位置した状態で分散されているため、隣り合う鉱物粒子331の間がジグザグの通路のように形成されている。したがって、塩化物イオンが粘土層33を厚み方向で通過する際には、直線的には移動することができず、隣り合う鉱物粒子331の間を通ってジグザグに移動しなければならない(図4Bの点線参照)。粘土層33が、このような構造を有していることにより、樹脂層35で発生した塩化物イオンが電子部品素子2に到達しにくくなる。
【0063】
なお、上記のような単層構造を有する鉱物粒子331としては、例えばモンモリロナイトが挙げられる。つまり、粘土層33が塩化物イオンの侵入を特に効率よく抑制するためにはモンモリロナイトを含有していることが特に好ましい。
【0064】
図4Aは鉱物粒子331の具体例の概略図である。本実施形態において、鉱物粒子331は板状又は薄片状の粒子であることが好ましい。この場合、粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が高まり得る。
【0065】
また、鉱物粒子331は厚みaが横幅bよりも小さい形状を有する粒子であることが好ましく、この場合も、粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が高まり得る。なお、横幅bは鉱物粒子331を視認した場合に、鉱物粒子331の一番長い部分の寸法である。例えば、鉱物粒子331の形状が円形であれば、その直径が横幅bである。また、厚みaは横幅bと直交し、かつ鉱物粒子331の最も短い寸法である。
【0066】
本実施形態では、鉱物粒子331は高アスペクト比を有していることが好ましい。つまり、横幅b/厚みaで定義されるアスペクト比が高いことが好ましい。アスペクト比は、鉱物粒子331の厚みaと横幅bとを測定して確認することができる。なお、厚みaは、例えば透過電子顕微鏡(TEM)で測定されるが、鉱物粒子331の単層の厚みは種類ごとに略均一であるため、多量の鉱物粒子331に対して測定する必要はない。例えば、モンモリロナイトであれば、その厚みaは1nm程度である。また、横幅bは原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで測定することができる。具体的には、鉱物粒子331の平坦部分を観察し一番長い寸法を横幅bとして規定することができる。
【0067】
更に説明すると、鉱物粒子331のアスペクト比は20以上であることが好ましい。樹脂層35で発生した塩化物イオンが粘土層33を通過することを防ぐことができる。鉱物粒子331のアスペクト比は100以上であることがより好ましく、150以上であることが更に好ましい。この場合、粘土層33中における鉱物粒子331の分散性が確保され得るため、粘土層33の強度が維持されながら、かつ粘土層33が容易に作製され得る。
【0068】
また、鉱物粒子331において、複数の異なるアスペクト比を有する材料が組み合わされていても構わない。例えば、低いアスペクト比を有する材料は高いアスペクト比を有する材料の間に入り込むことができる。そのため、粘土層33中の鉱物粒子331の充填率が高められ得る。これにより、樹脂層35で発生した塩化物イオンが粘土層33を通過することをより防ぐことができる。
【0069】
図4Bは粘土層33の断面図を示している。粘土層33は鉱物粒子331に加えて、バインダー樹脂(以下、第二のバインダー樹脂332ともいう)を含有してもよい。言い換えれば、粘土層33は、鉱物粒子331と第二のバインダー樹脂332とを含む粘土組成物から作製することができる。
【0070】
例えば、第二のバインダー樹脂は、モノマー、オリゴマー、プレポリマー及びポリマー等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有していてもよい。
【0071】
第二のバインダー樹脂332は、例えば熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方を含む。また、第二のバインダー樹脂332が、熱硬化性樹脂を含む場合、混合物には、硬化剤が含有されていることが好ましい。また、第二のバインダーが熱硬化性樹脂を含有する場合、粘土層33は第二のバインダーの硬化物を含み得る。
【0072】
第二のバインダー樹脂332は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアセタール樹脂並びにポリビニルアルコール樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。これらの中でも、第二のバインダー樹脂332は、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂並びにフェノキシ樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、粘土層33が容易に作製され、かつ粘土層33と粘土層33と接する別の層との密着性が高まり得る。
【0073】
また、第二のバインダー樹脂332は、変性処理されていても構わない。この場合、粘土層33と、粘土層33と接する別の層との密着性が高まり得る。
【0074】
粘土層33は、例えば鉱物粒子331が第二のバインダー樹脂332の中に分散されている。この場合、鉱物粒子331は、その厚み方向が粘土層33の厚み方向と略一致した状態で分散されている。また、厚み方向で隣り合う複数の鉱物粒子331の間には、間隙が存在している。この間隙には、第二のバインダー樹脂332が充填され得る。更に、厚み方向と直交する方向で隣り合う複数の鉱物粒子331の間にも間隙が存在し得る。この間隙にも、第二のバインダー樹脂332が充填され得る。
【0075】
粘土層33における鉱物粒子331の割合は粘土層33の全体に対して50.0質量%以上であることが好ましい。この場合、粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が確保され得る。また、粘土層33が鉱物粒子331と第二のバインダー樹脂332とを含有する場合、鉱物粒子331の割合が特定の数値範囲に調整されることにより、粘土層33の強度が確保されながら、かつ粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が高まり得る。具体的には、鉱物粒子331の割合は粘土層33の全体に対して50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。第二のバインダー樹脂332の割合は粘土層33の全体に対して5.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。これにより、粘土層33の強度が確保されながら、かつ粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が高められ得る。
【0076】
粘土層33の厚みは0.5μm以上100.0μm以下であることが好ましい。粘土層33の厚みは0.5μm以上であれば、粘土層33の塩化物イオンの侵入を抑制する機能が確保され得る。粘土層33の厚みは100.0μm以下であれば、粘土層33の強度が確保されながら、かつ粘土層33と粘土層33に接する別の層又は電子部品素子2との密着性を高めることができる。また、粘土層33の厚みは100.0μm以下であれば、粘土層33を作製することが容易となる。粘土層33の厚みは50.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以下であることが更に好ましい。
【0077】
なお、粘土層33は塩化物イオンの侵入を抑制するのみに留まらず、種々の陰イオン又は陽イオンの侵入を抑制する機能を有し得る。
【0078】
<樹脂層>
バリア層3は、上記の通り、樹脂層35を備える。樹脂層35は電子部品1の外部にある水分が電子部品素子2に接触することを防ぐ機能を有する。
【0079】
樹脂層35はエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物から作製される。言い換えれば、樹脂層35はエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む。この場合、電子部品素子2を封止するバリア層3の成形性及び機械的特性が高まり得る。また、前記の樹脂組成物は、使用の態様に合わせて、エポキシ樹脂に加えて、反応硬化性の化合物を更に含有してもよい。反応硬化性の化合物は、例えば不飽和ポリエステル樹脂及びポリイミド樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種の反応性樹脂を含有する。更に、樹脂組成物は、エポキシ樹脂又は反応性樹脂の硬化を促進するために、硬化剤を含有していてもよい。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、酸無水物等が挙げられる。
【0080】
樹脂層35は無機フィラーを含有していてもよい。つまり、樹脂層35は、エポキシ樹脂と無機フィラーとを含有する樹脂組成物から作製されてもよい。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、水酸化アルミ、タルク等が挙げられる。また、樹脂層35の全体に対する無機フィラーの割合は、例えば10質量%以上80質量%以下である。樹脂層35の全体に対する無機フィラーの割合は、30質量%以上であることが好ましい。樹脂層35の全体に対する無機フィラーの割合は、60質量%以下であることが好ましい。
【0081】
なお、樹脂層35はエポキシ樹脂のみから作製されてもよい。また、樹脂層35に含有される無機フィラーはイオン捕捉剤を含有していても構わない。樹脂層35がイオン捕捉剤を含有する場合、バリア層3で発生した塩化物イオンが電子部品素子2に到達することをより防ぐことができる。
【0082】
樹脂層35の厚みは1.0mm以上であることが好ましい。この場合、電子部品素子2が電子部品1の外部に存在する水分と接触することがより防止され得る。また、樹脂層35の厚みは4.5mm以下であることがより好ましく、3.0mm以下であることが更に好ましい。この場合、樹脂層35の厚みの減少に伴い、樹脂層35に発生する塩化物イオンの発生量も少なくなる。そのため、内部電極25の腐食が抑制される傾向がある。
【0083】
(バリア層の作製方法)
本実施形態におけるバリア層3は以下のような方法によって作製することができる。まず、積層体30を基材層32上に粘土層33とイオン捕捉層31とを順次作製することによって積層体30を作製する。続いて、この積層体30を電子部品素子2に貼り付ける又は巻き付けることによって電子部品素子2の外側に配置する。そして、積層体30が配置された電子部品素子2を覆うようにして樹脂層35を作製する。このような手順によってバリア層3を作製することができる。樹脂層35は上記の樹脂組成物を成形することにより作製される。成形方法は特に限定されていないが、例えばケース注型成形、金型成形、トランスファー成形、又はディップ、はけ塗り、スプレー等の塗布成形等が挙げられる。
【0084】
(電子部品の特性)
本実施形態では、電子部品1の内部電極25の腐食が抑制される。このため、電子部品1の電気的特性を維持し得る期間が長くなる。
【0085】
例えば、電子部品1は、高温通電が行われたとしても、高温通電後における電子部品1の誘電正接の上昇が抑えられる傾向がある。例えば、本実施形態の電子部品1の高温通電後における誘電正接の上昇変化率(正の向きの変化率)は50%以下に抑えられる。なお、本開示における高温通電試験は、105℃の温度条件下で電子部品1に対して615Vの直流電圧を1500時間かけ続けることをいう。上記の上昇変化率は、高温通電前に測定した電子部品1の誘電正接の値と、高温通電後に測定した電子部品1の誘電正接の値とを比較することによって求めることができる。電子部品1の誘電正接は、市販のLCRメーターを用いて測定することができる。また、高温通電後に測定した電子部品1の誘電正接の値と、高温通電後に測定した電子部品1の誘電正接の値との差は0.002以下に抑えられることが好ましい。この場合、電子部品1の電気的特性を維持し得る期間が長くなる。
【0086】
なお、本実施形態では、電子部品1がフィルムコンデンサであることから、コンデンサの性能を示す特性の一つである誘電正接を評価している。つまり、電子部品1の種類が異なれば、別の項目を評価することによって、電気的特性が維持されているかを確認する場合がある。
【0087】
3.変形例
本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態の変形例を列挙する。
【0088】
(第一変形例)
上記実施形態では、電子部品1がフィルムコンデンサであるが、電子部品1が対象とする製品はフィルムコンデンサのみ限られない。つまり、本開示の電子部品1の構成は種々の製品に適用することができる。具体的に例を挙げて説明すると、電子部品1は能動部品及び受動部品のうち少なくとも一方を含む。能動部品としては、半導体デバイス等が挙げられる。また、受動部品としては、例えば抵抗器、コンデンサ、コイル等が挙げられる。電子部品1が受動部品である場合、電子部品1の種類に応じた電子部品素子2である受動素子が選択され、また、電子部品1が受動部品である場合、電子部品1の種類に応じた電子部品素子2である能動素子が選択され得る。能動素子は、例えばダイオード、トランジスタ等の単体素子;レーザーダイオード、フォトダイオード等の光半導体素子;温度センサ、圧力センサ等のセンサ素子;及びIC等の集積回路素子等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。受動素子は、例えば抵抗素子、コンデンサ素子及びコイル素子等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0089】
(第二変形例)
上記実施形態では、積層体30は電子部品素子2に近い側からイオン捕捉層31と粘土層33と基材層32とがこの順に積層していた(図3参照)が、イオン捕捉層31と粘土層33と基材層32との並びはこの順のみに限定されない。つまり、本開示における積層体30の構造は、使用の態様に応じて、イオン捕捉層31と基材層32と粘土層33との順番が適宜入れ替えられても構わない。具体的な例としては、積層体30が、電子部品素子2に近い側から基材層32とイオン捕捉層31と粘土層33とがこの順に積層していてもよい(図5参照)。
【0090】
(第三変形例)
本開示では、イオン捕捉層31が電子部品素子2の全部又は一部を覆っていればよい。つまり、上記実施形態では、電子部品素子2の全体をイオン捕捉層31が覆っているが、本開示では、イオン捕捉層31は電子部品素子2を部分的に覆っていてもよい。この場合、電子部品素子2を部分的に積層体30で覆うことによって、イオン捕捉層31で覆われた箇所から塩化物イオンが侵入することを効率よく防ぐことができる。つまり、電子部品素子2の全体をイオン捕捉層31で覆うことなく、塩化物イオンによる電子部品素子2の劣化を抑制することができる。
【0091】
電子部品1が有する具体的な構造について説明すると、イオン捕捉層31は電子部品素子2が有する外部電極22,22を覆わないようにして、電子部品素子2における素子本体21のみを覆うようにして配置されていてもよい(図6参照)。また、イオン捕捉層31は電子部品素子2が有する外部電極22,22のみを覆うようにして配置されていてもよい(図7参照)。
【0092】
なお、塩化物イオンは素子本体21と外部電極22,22との間の隙間を通過して、内部電極25に到達することがある。このため、イオン捕捉層31は素子本体21と外部電極22,22との間の隙間のみを覆うようにして配置されても、塩化物イオンに起因する電子部品素子2の劣化を抑制することができる(不図示)。
【0093】
(第四変形例)
上記実施形態では、電子部品1が備える積層体30は粘土層33を備えているが、変形例においては、積層体30が粘土層33を備えていなくてもよい。つまり、電子部品1が備える積層体30において、イオン捕捉層31及び基材層32のみが積層していてもよい。
【0094】
具体的な構造を挙げて説明すると、例えば粘土層33を積層せず、かつイオン捕捉層31と基材層32とが積層した構造が電子部品素子2の全体を覆っていてもよく(図8参照)、電子部品素子2の一部分だけを覆っていてもよい(図9参照)。
【0095】
(第五変形例)
上記実施形態では、電子部品1が積層体30を1つ備えていたが、電子部品1は積層体30を備えていなくても構わない。例えば、バリア層3は基材層32を備えず、かつイオン捕捉層31と粘土層33とを備える構造を有していても構わない。また、バリア層3が基材層32を備えない場合、電子部品素子2の外側にはイオン捕捉層31と粘土層33とが順次設けられることとなる。
【0096】
具体的な構造を挙げて説明すると、例えば基材層32を積層せず、かつイオン捕捉層31と粘土層33とが積層した構造が電子部品素子2の全体を覆っていてもよく、電子部品素子2の一部分だけを覆っていてもよい。
【0097】
また、本変形例では、バリア層3はイオン捕捉層31を複数備えていてもよい。バリア層3は粘土層33を複数備えていてもよい。つまり、バリア層3は複数のイオン捕捉層31と複数の粘土層33とが積層した構造を有していても構わない。また、バリア層3が複数のイオン捕捉層31と複数の粘土層33とが積層した構造を有する場合、複数のイオン捕捉層31と複数の粘土層33とは交互に積層していてもよい。
【0098】
なお、本変形例では、混合物及び粘土組成物の各々を電子部品素子2に塗布し、続いて、それらを乾燥又は硬化させることによってイオン捕捉層31及び粘土層33のそれぞれを作製することができる。このような方法に従って作製されたイオン捕捉層31と粘土層33とで覆われた電子部品素子2を更に覆うようにして樹脂層35を作製することによって、バリア層3を作製してもよい。また、上記の混合物又は粘土組成物は溶剤を含有していても構わない。この場合、混合物を電子部品素子2に塗布することが容易になる。
【0099】
(第六変形例)
上記実施形態では、電子部品1が積層体30を1つ備えていたが、電子部品1が備える積層体30の数は1つに限られない。つまり、バリア層3は複数の積層体30を備える構造を有していても構わない。
【0100】
例えば、バリア層3が、電子部品素子2に近い側からイオン捕捉層31と基材層32とが積層した積層体30が複数重ねられている構造を有していても構わない(図10参照)。この場合、複数の積層体30が重ねられていることにより、電子部品素子2の劣化がより抑制され得る。なお、図10では、重ねられている積層体の数が8であるが、積層体30の数は特に限定されておらず、使用の態様に応じて、積層体30の数を適宜調整することができる。また、このような構造は、1つのイオン捕捉層31と1つの基材層32とが積層した積層体30を電子部品素子2に対して複数回巻回することによって、複数のイオン捕捉層31と複数の基材層32とが積層するようにして作製されてもよい。
【0101】
また、電子部品1が、電子部品素子2に近い側からイオン捕捉層31と粘土層33と基材層32とがこの順に積層した積層体30が複数重ねられている構造(図11参照)を有していても構わないし、基材層32とイオン捕捉層31と粘土層33とがこの順に積層した積層体30が複数重ねられた構造を有していても構わない(図12参照)。この場合、積層体30がイオン捕捉層31と粘土層33とを備え、かつそのような積層体30が複数重ねられているため、電子部品素子2の劣化が特に抑制され得る。なお、図11及び図12ではいずれも積層体の数が4であるが、積層体30の数は特に限定されておらず、使用の態様に応じて、積層体30の数を適宜調整することができる。
【0102】
更に、積層体30を複数回巻回することで複数のイオン捕捉層31と複数の基材層32と複数の粘土層33とが積層する構造をバリア層3が有していても構わない。
【0103】
なお、バリア層3は積層体30に含まれる層の並びが異なる積層体30同士を積層した構造を有していても構わない。例えば、図11に示す電子部品1が備える積層体30と図12に示す電子部品1が備える積層体30とが組み合わされた構造をバリア層3が有していても構わない。
【0104】
(第七変形例)
上記実施形態では、積層体30がイオン捕捉層31と基材層32と粘土層33とを備えていたが、これらの層に加えて、更に接着層34を備えていても構わない。
【0105】
例えば、積層体30が電子部品素子2に近い側から接着層34とイオン捕捉層31と粘土層33と基材層32とがこの順で積層する構造(図13参照)であれば、電子部品素子2とイオン捕捉層31との間に接着層34が介在することになる。この場合、接着層34はイオン捕捉層31と電子部品素子2との両方と強く接着することができる。このため、積層体30と電子部品素子2との密着性が特に高まり得る。
【0106】
また、接着層34は接着層34を介して配置されている2つの層の密着性を高めることもできる。例えば、積層体30が電子部品素子2に近い側からイオン捕捉層31と粘土層33と接着層34と基材層32とがこの順で積層する構造(図14参照)であれば、粘土層33と基材層32との間に接着層34が介在することになる。この場合、接着層34が粘土層33と基材層32との両方と強く接着することができる。このため、粘土層33と基材層32との密着性が特に高まり得る。
【0107】
接着層34の接着性を発現する温度は、130℃以下であることが好ましい。例えば、接着層34は、加熱によって溶融されることによって接着性を発現し得る。また、接着層34の接着性が、加熱されて溶融したときに向上が見られた場合、加熱されて溶融したときの温度が、接着層34の接着性を発現する温度とすることができる。
【0108】
また、接着層34の接着性を発現する温度を130℃以下とすることを目的として、接着層34は、ホットメルト樹脂を含有してもよい。ホットメルト樹脂とは、加熱によって溶融し、加熱がなくなり冷却されることによって可逆的に固化する樹脂である。ホットメルト樹脂は、例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。ホットメルト樹脂は、融点の低い樹脂を含有していることが好ましい。
【0109】
基材層32が、結晶性のポリプロピレン樹脂を含有する場合は、接着層34は、結晶性のポリプロピレンとの親和性が高いオレフィン樹脂を含有していることが好ましい。親和性の高いオレフィン樹脂は非晶質であることが好ましい。より具体的には、基材層32が、結晶性のポリプロピレン樹脂を含有する場合は、接着層34は、結晶性のポリプロピレン樹脂よりも結晶性が小さい非晶質のポリプロピレン樹脂を含有していることが好ましい。非晶質のポリプロピレン樹脂は、例えば極性基を有さず、かつ分岐の多いポリプロピレン又はエチレン及びブテン等を共重合させたポリプロピレン樹脂である。非晶質のポリプロピレン樹脂の密度は、例えば0.855g/cm以下である。
【0110】
また、接着層34は、極性基を有する樹脂を含有していても構わない。極性基を有する樹脂としては、例えば変性ポリプロピレン樹脂が挙げられる。変性ポリプロピレン樹脂は、有機酸及びその無水物によって変性された酸変性ポリプロピレン樹脂を含有する。有機酸及びその無水物は、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸及び無水アコニット酸等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。酸変性ポリプロピレン樹脂は、例えば無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂、アクリル酸で変性されたポリプロピレン樹脂及びイミンで変性されたポリプロピレン樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0111】
接着層34の厚みは、例えば5.0μm以下であり、1.0μm以下であることが好ましい。この場合、接着層34の接着性が確保されながら、かつ接着層34を作製することが容易になる。
【0112】
なお、本変形例における電子部品1の構造は、図13及び図14に示すもののみに限定されない。例えば、使用の態様に応じて、イオン捕捉層31と基材層32と粘土層33と接着層34との順番が適宜入れ替えられても構わない。また、積層体30が備える接着層34は1つのみに限定されない。つまり、積層体30は、使用の態様に応じて、2つ以上の接着層34を備えていても構わない。
【0113】
また、積層体30が接着層34を備えず、接着層34が発揮し得る機能をイオン捕捉層31が有していても構わない。
【実施例0114】
以下、本開示の具体的な実施例について説明する。
【0115】
1.樹脂層作製用の樹脂組成物の調製
下記の原料を用意した。
【0116】
[原料]
-エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、塩素含有量350ppm。
-硬化剤:酸無水物。
-硬化促進剤:アミン系硬化促進剤。
-無機フィラー:シリカを主成分とする無機フィラー。
-イオン捕捉剤:無機イオン捕捉剤(Zr、Bi含有化合物)、東亞合成株式会社製、品名IXEPLAS-B1。
【0117】
[調製方法]
表1に示す割合で原料をプラネタリーミキサー又はオープンニーダーを用いて混練し、樹脂組成物を調製した。
【0118】
2.イオン捕捉層作製用の混合物の調製
下記の原料を用意した。
【0119】
[原料]
-バインダー樹脂:変性ポリオレフィン、東洋紡製、品名ハードレンNS2002、溶液品(固形分20質量%、主溶剤:メチルシクロヘキサン)、塩素含有なし。
-イオン捕捉剤:無機イオン捕捉剤(Zr、Bi含有化合物)、東亞合成株式会社製、品名IXEPLAS-B1。
【0120】
[調製方法]
表1に示す割合で原料をペイントシェイカーで混合し、混合物を調製した。
【0121】
3.電子部品の作製方法
「1.樹脂層形成用の樹脂組成物の調製」で調製した樹脂組成物と「2.イオン捕捉層形成用の混合物の調製」で調製した混合物とを用いて電子部品を作製した。
【0122】
[実施例1~3(素子全体成膜)]
実施例1~3に関しては、以下のようにして電子部品を作製した。
【0123】
まず、予め作製したフィルムコンデンサ素子(誘電体フィルム:ポリプロピレン樹脂製(二軸延伸ポリプロピレン)、内部電極主成分:Al、外部電極主成分:Zn、Sn)を混合物にディップすることによって、フィルムコンデンサ素子全体を覆うようにして塗布した。次に、混合物を塗布したフィルムコンデンサ素子を60℃で6h加熱し、その後120℃で2h加熱することによって、混合物に含有される溶剤を乾燥させて除去することによって、フィルムコンデンサ素子の外側にイオン捕捉層(厚み20μm)を形成した。続いて、イオン捕捉層が重ねられたフィルムコンデンサ素子を覆うようにして樹脂層(厚み2mm)を作製した。樹脂層は樹脂組成物を金型成形することにより作製された。金型成形は120℃で2h加熱することによって、樹脂組成物を硬化させることで行われた。このような手順で電子部品を作製した。
【0124】
[実施例4~6(フィルム積層)]
実施例4~6に関しては、以下のようにして電子部品を作製した。
【0125】
まず、基材フィルム(二軸延伸ポリプロピレン樹脂、厚み25μm)の上に混合物を塗工することによって塗布し、その塗布した混合物を60℃で6h加熱し、その後120℃で2h加熱することによって、混合物に含有される溶剤を乾燥させて除去することによってイオン捕捉層(厚さ5μm)を形成した。続いて、この基材フィルムにイオン捕捉層が重なったものを、フィルムコンデンサ素子に対して4回巻回することによって、イオン捕捉層と基材フィルムとが交互に積層した8つの層からなる積層構造を作製した。次に、イオン捕捉層と基材フィルムとが巻回された電子部品素子を覆うようにして樹脂層(厚み2mm)を作製した。樹脂層は樹脂組成物を金型成形することにより作製された。金型成形は120℃で2h加熱することによって、樹脂組成物を硬化させることで行われた。このような手順で電子部品を作製した。なお、フィルムコンデンサ素子は、実施例1~3で使用したものと同様のものを使用した。
【0126】
[比較例1~2]
比較例1~2に関しては、以下のようにして電子部品を作製した。
【0127】
イオン捕捉層を形成することなく、フィルムコンデンサ素子を覆うようにして樹脂層(厚み2mm)を作製した。樹脂層は樹脂組成物を金型成形することにより作製された。金型成形は加熱することによって、樹脂組成物を硬化させることで行われた。このような手順で電子部品を作製した。なお、フィルムコンデンサ素子は、実施例1~3で使用したものと同様のものを使用した。
【0128】
4.電子部品の評価
[高温通電試験]
実施例1~6、比較例1~2の電子部品に関し、外部接続端子間の誘電正接を測定した。次に、それらの電子部品を105℃の温度条件下、1500時間、615Vの電圧をかけ続けることで高温通電を行った。表1に、高温通電試験前の誘電正接、高温通電試験後の誘電正接の値を記載した。続いて、高温通電前後での誘電正接の値を比較することで、高温通電試験における誘電正接変化量、高温通電試験における誘電正接変化率を算出し、その結果も表1に記載した。
【0129】
なお、誘電正接は、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社、型番:E4980A)を用いて測定を行った。誘電正接の測定条件は以下の通りである。
【0130】
・測定周波数 :1kHz
・AC電圧 :1Vrms
・DCバイアス:0V
・測定温度 :20℃
【0131】
【表1】
【0132】
実施例1~6と、イオン捕捉層を有さず、樹脂層にイオン捕捉剤を含有しない比較例1との結果を比較すると、比較例1は、実施例1~6よりも高温通電試験前後における誘電正接の変化量が大きく、かつその変化率も大きいことが確認された。つまり、イオン捕捉層を有することにより、高温通電後における電子部品の誘電正接の悪化を防ぐことができることが示された。
【0133】
実施例1~6と、イオン捕捉層を有さず、樹脂層にイオン捕捉剤を含有する比較例2との結果を比較すると、比較例2は、実施例1~6よりも高温通電試験前後における誘電正接の変化量が大きく、かつその変化率も大きいことが確認された。つまり、樹脂層にイオン捕捉剤を含有させただけでは、高温通電後における電子部品の誘電正接の悪化を防ぐことは難しいことが示された。加えて、実施例1~6は、比較例2よりもイオン捕捉剤の使用量が少ないにも関わらず、高温通電試験における誘電正接変化量を小さくでき、かつその変化率も小さくできることが確認された。つまり、電子部品がイオン捕捉層を備えることによりイオン捕捉剤の使用量を抑えることができ、かつ効率よくイオンを捕捉することができるため、高温通電後における電子部品の誘電正接の悪化を効率よく防ぐことができることが示された。
【0134】
実施例1~3と、実施例4~6とに関し、イオン捕捉層に含有されているイオン捕捉剤の割合が同じ実施例1及び実施例4と、実施例2及び実施例5と、実施例3及び実施例6とをそれぞれ比較すると、電子部品素子全体をイオン捕捉層で覆った実施例(実施例1~3)の方が、イオン捕捉層が、素子本体のみを覆い、外部電極部分を覆っていない実施例(実施例4~6)よりも高温通電試験における誘電正接変化量を小さくでき、かつその変化率も小さくすることができることが確認された。つまり、イオン捕捉層が電子部品素子全体を覆うことによって、高温通電後における電子部品の誘電正接の悪化を特に防ぐことができることが示された。
【0135】
4.態様
上記の実施形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0136】
本開示の第一の態様に係る電子部品(1)は、電子部品素子(2)と、電子部品素子(2)の外側に配置されているバリア層(3)と、を備える。バリア層(3)は、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層(35)と、イオン捕捉剤を含有するイオン捕捉層(31)と、を含む。イオン捕捉層(31)が、電子部品素子(2)と、樹脂層(35)との間に介在する。
【0137】
第一の態様によれば、エポキシ樹脂を含有する樹脂層(35)を有し、エポキシ樹脂に含まれる塩化物イオンによる電子部品素子(2)の劣化を効率良く抑制し得る電子部品(1)を提供することができる。
【0138】
本開示の第二の態様に係る電子部品(1)は、第一の態様において、イオン捕捉層(31)が、電子部品素子(2)の全部又は一部を覆っている。
【0139】
第二の態様によれば、イオン捕捉層(31)の塩化物イオンを捕捉する機能が適宜調整され得る。
【0140】
本開示の第三の態様に係る電子部品(1)は、第一又は第二の態様において、イオン捕捉層(31)は、バインダー樹脂を更に含有する。
【0141】
第三の態様によれば、イオン捕捉層(31)とイオン捕捉層(31)に接する別の層又は電子部品素子(2)との密着性が高まりながら、かつイオン捕捉剤がイオン捕捉層(31)の全体に分散し得る。
【0142】
本開示の第四の態様に係る電子部品(1)は、第三の態様において、バインダー樹脂の塩素含有量は900ppm以下である。
【0143】
第四の態様によれば、電子部品素子(2)の劣化がより抑制され得る。
【0144】
本開示の第五の態様に係る電子部品(1)は、第一から第四のいずれか一の態様において、イオン捕捉剤の割合は、イオン捕捉層(31)の全体に対して、5.0質量%以上50.0質量%以下である。
【0145】
第五の態様によれば、電子部品素子(2)の劣化が十分に抑制されながら、かつイオン捕捉層(31)とイオン捕捉層(31)と接する別の層又は電子部品素子(2)との密着性及びイオン捕捉層(31)の作製のされやすさとの両方が高まり得る。
【0146】
本開示の第六の態様に係る電子部品(1)は、第一から第五のいずれか一の態様において、バリア層(3)が、粘土を含有する粘土層(33)を更に含む。
【0147】
第六の態様によれば、粘土層(33)は樹脂層(35)に含まれる塩化物イオンが積層体(30)を通過することを妨げる機能を有し得る。これにより、内部電極(25)の腐食が抑制される。
【0148】
本開示の第七の態様に係る電子部品(1)は、第六の態様において、電子部品素子(2)と粘土層(33)との間に少なくとも1層のイオン捕捉層(31)が介在する。
【0149】
第七の態様によれば、樹脂層(35)で発生したイオンが粘土層(33)で捕捉された後に、粘土層(33)で捕捉しきれなかったイオンを更にイオン捕捉層(31)で捕捉することができる。樹脂層(35)で発生した塩化物イオンが電子部品素子(2)に到達することが特に難しくなる。
【0150】
本開示の第八の態様に係る電子部品(1)は、第六又は第七の態様において、粘土層(33)は、バインダー樹脂(332)を更に含有する。粘土に含有される鉱物粒子(331)は板状又は薄片状の粒子を含む。
【0151】
第八の態様によれば、粘土層(33)の塩化物イオンを捕捉する機能が高まり得る。
【0152】
本開示の第九の態様に係る電子部品(1)は、第一から第八のいずれか一の態様において、バリア層(3)は、イオン捕捉層(31)と基材層(32)とが積層した積層体(30)を備える。
【0153】
第九の態様によれば、積層体(30)が粘土層(33)を備えていないため、電子部品(1)の作製のされやすさが高まり得るという利点がある。
【0154】
本開示の第十の態様に係る電子部品(1)は、第一から第九のいずれか一の態様において、電子部品素子(2)がフィルムコンデンサ素子を含む。
【0155】
第十の態様によれば、イオン捕捉層(31)が特に効率よく塩化物イオンを捕捉する機能を発揮しうるフィルムコンデンサを提供することができる。
【0156】
本開示の第十一の態様に係る電子部品(1)は、第十の態様において、フィルムコンデンサ素子は、誘電体フィルム(24)と、誘電体フィルム(24)の表面に配置されている内部電極(25)と、を有する金属化フィルム(23)を備える。
【0157】
第十一の態様によれば、塩化物イオンに起因する内部電極(25)の腐食が抑制され得るフィルムコンデンサを提供することができる。
【符号の説明】
【0158】
1 電子部品
2 電子部品素子
3 バリア層
21 素子本体
22 外部電極
23 金属化フィルム
24 誘電体フィルム
25 内部電極
26 外部接続端子
30 積層体
31 イオン捕捉層
32 基材層
33 粘土層
35 樹脂層
331 鉱物粒子
332 第二のバインダー樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14