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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013114
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】水耕栽培用シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/44 20180101AFI20240124BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20240124BHJP
   D04H 1/46 20120101ALI20240124BHJP
   D04H 1/488 20120101ALI20240124BHJP
   A01G 24/22 20180101ALI20240124BHJP
【FI】
A01G24/44
D04H1/4258
D04H1/46
D04H1/488
A01G24/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115065
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】野末 はつみ
(72)【発明者】
【氏名】薄井 義治
(72)【発明者】
【氏名】森田 遼
(72)【発明者】
【氏名】野口 晃
(72)【発明者】
【氏名】中屋敷 萌美
【テーマコード(参考)】
2B022
4L047
【Fターム(参考)】
2B022BA11
2B022BB02
4L047AA12
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA03
4L047BA09
4L047BB06
4L047CB02
4L047CB07
4L047CB08
4L047CC15
(57)【要約】
【課題】水耕栽培に適しており、かつ、環境負荷の小さい水耕栽培用シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、前記不織布は、条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シート。
(方法1)a1)JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。b1)ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部のガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シート。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットする。前記ろ紙を前記不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。
b1)前記ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部の前記ガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【請求項2】
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シート。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【請求項3】
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、
本数割合として90%以上の繊維径が、5.0μm以上26.0μm以下の範囲内にあり、かつ、
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、繊維径の標準偏差が1.2μm以上5.0μm以下である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項4】
前記不織布は、繊維径が14.5μm以下である再生セルロース繊維からなる第1再生セルロース繊維群と、繊維径14.5μm超19.0μm以下である再生セルロース繊維からなる第2再生セルロース繊維群とを含み、
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維の繊維径分布において、
前記第1再生セルロース繊維群は、繊維径10.0μm超14.5μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有し、
前記第2再生セルロース繊維群は、繊維径14.5μm超19.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有する、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項5】
前記第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維の本数の30%以上である、請求項4に記載の水耕栽培用シート。
【請求項6】
前記第1再生セルロース繊維群および前記第2再生セルロース繊維群を構成するすべての再生セルロース繊維の繊維径の標準偏差が、2.0μm以上5.0μm以下である、請求項4に記載の水耕栽培用シート。
【請求項7】
前記不織布は、さらに、繊維径が19.0μm超である再生セルロース繊維からなる第3再生セルロース繊維群を含む、請求項4に記載の水耕栽培用シート。
【請求項8】
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、
本数割合として90%以上の繊維径が、10.0μm以上20.0μm以下の範囲内にあり、かつ、繊維径の標準偏差が、1.0μm以上2.5μm以下である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項9】
前記再生セルロース繊維は、平均繊維径が12.0μm以上17.0μm以下である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項10】
前記不織布の単位面積当たりの質量が、150g/m以上450g/m以下である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項11】
前記不織布の単位体積当たりの質量が、0.035g/cm以上0.08g/cm以下である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項12】
前記不織布がニードルパンチ不織布である、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項13】
前記再生セルロース繊維は、平均の繊維長Lを有し、
本数割合として90%以上の前記再生セルロース繊維の繊維長が、前記平均の繊維長L±3mmの範囲に含まれる、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項14】
前記平均の繊維長Lが、30mm以上80mm以下である、請求項13に記載の水耕栽培用シート。
【請求項15】
前記不織布が、さらに接着性繊維を含む、請求項1または2に記載の水耕栽培用シート。
【請求項16】
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットする。前記ろ紙を前記不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。
b1)前記ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部の前記ガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【請求項17】
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【請求項18】
さらに、前記不織布に、70℃以上190℃以下の温度で乾熱処理を行うことを含む、請求項16または17に記載の水耕栽培用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水耕栽培用シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業従事者の不足が深刻化し、自然災害の増加による農作物の安定調達の問題が顕在化していることから、農作物の栽培方法として水耕栽培が注目されている。水耕栽培には、一般に発泡ウレタンシートが用いられる(例えば、特許文献1)。発泡ウレタンシートは、適度な空隙性を有し、安価であるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-192911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水耕栽培は、一般に、水耕栽培用シートに養液を吸収させるステップ、水耕栽培用シートに、植物の種子を播種するステップ、および、種子が発芽した後、水耕栽培用シートを栽培プレートに移植するステップ、を備える方法により実施される。移植後、植物の苗は、育成されて、収穫される。
【0005】
発泡ウレタンシートを上記のステップを有する水耕栽培に使用する場合、下記のような課題がある。まず、養液吸収ステップにおいて、発泡ウレタンシートは初期吸水性に劣るため、圧縮して吸水させる必要がある。播種ステップにおいて、発泡ウレタンシートは高いクッション性を有するため、予め発泡ウレタンシートに形成された切込みまたは窪みに、種子を一つ一つ押し込む必要がある。移植ステップにおいて、一つの苗を保持するように発泡ウレタンシートを小片に切り分けて、支持枠に嵌め込む必要がある。
【0006】
さらに、収穫後、発泡ウレタンシートは産業廃棄物として処理される必要があり、環境負荷が懸念される。加えて、産業廃棄物として処理する際、根と発泡ウレタンシートとを分離する必要がある。また、発泡ウレタンシートを薄くすると、水耕栽培に必要な保液性および強度が低下してしまうため、ある程度の厚さが必要である。そのため、水耕栽培に用いられる発泡ウレタンシートは非常に嵩高く、輸送および保管のコストが高くなり易い。
【0007】
本開示は、発泡ウレタンシートの代替品として有用であって、水耕栽培に適しており、かつ、環境負荷の小さい水耕栽培用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートを提供する。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットする。前記ろ紙を前記不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。
b1)前記ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部の前記ガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【0009】
本開示はまた、
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートを提供する。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【0010】
本開示はさらに、
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法を提供する。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットして前記不織布の下に重ねて試料とし、前記試料を一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて挟持させ固定する。
b1)上部よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部のガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【0011】
本開示はさらに、
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法を提供する。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、水耕栽培に適しており、かつ、環境負荷の小さい水耕栽培用シートおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で作製された再生セルロース不織布表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
図2】実施例4で作製された再生セルロース不織布表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
図3】実施例5で作製された再生セルロース不織布表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
図4】比較例1で準備された発泡ウレタンシート表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
図5】比較例2で作製された再生セルロース不織布表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[水耕栽培用シート]
本開示の水耕栽培用シートは、水耕栽培に用いられる。水耕栽培の手法は、流動法であってよく、静置法であってよい。水耕栽培される植物は特に限定されず、代表的には葉物野菜である。
【0015】
本開示の水耕栽培用シート(以下、単にシートと称する場合がある。)は、不織布を有する。この不織布は、交絡した複数の再生セルロース繊維を含む。
【0016】
本開示のシートは、播種から収穫の間を通して使用される。本開示のシートは、播種から収穫までの間、一定の形状を保つ。一方、植物の収穫後、再生セルロース繊維を含む不織布(以下、再生セルロース不織布と称する場合がある。)は、植物の根とともに生分解され得るため、廃棄処理に際し環境への負荷が小さい。
【0017】
<再生セルロース不織布>
本開示において、再生セルロース不織布は、少なくともシートの播種側に設けられる。
【0018】
不織布は、JIS L 0222に「繊維シート、ウェブ又はバットで、繊維が一方向又はランダムに配向しており、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの。ただし、紙、織物、編物、タフト及び縮じゅう(絨)フェルトを除く。」と定義されている。再生セルロース不織布は、再生セルロース繊維の交絡によって繊維間が結合されている。
【0019】
再生セルロース不織布は、条件1:下記の方法1で測定される通水時間が75秒以下、および、条件2:下記の方法1で測定される初期通水時間が5秒以下、の少なくとも一方の条件を満たす。
【0020】
(方法1)
a1)不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を不織布と同じサイズにカットする。このろ紙を不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。
b1)ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部のガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
【0021】
条件1および条件2の少なくとも一方の条件を満たす再生セルロース不織布は、通水速度が速い。通水速度が速いほど、播種された種に水分がいきわたり易くなって発芽が促進されるとともに、発芽後の生育性(生育速度)が向上する。加えて、再生セルロース繊維は高い親水性および保液性を有するため、播種の前あるいは後に、シートを養液に浮かべるかあるいは浸すだけで、シートは養液を吸い上げて、種子に必要な養分および水分を与えることができる。よって、シートに養液を含浸させる作業を要しない。
【0022】
条件1において、通水時間は、70秒以下であってよく、65秒以下であってよい。通水時間は、30秒以上であってよく、35秒以上であってよく、40秒以上であってよい。通水時間が上記範囲内であると、再生セルロース不織布が十分量の養液を保持できて、植物に十分な養液が与えられる。
【0023】
条件2において、初期通水時間は、4.5秒以下であってよく、4秒以下であってよい。初期通水時間は、0.5秒以上であってよく、1秒以上であってよい。初期通水時間が上記範囲内であると、再生セルロース不織布は、養液を保持する一方で、速やかに保持した養液を植物に供給することができる。
【0024】
再生セルロース不織布は、また、条件3:下記の方法2で測定される厚さ回復率が99.5%以下、および、条件4:下記の方法3で測定される厚さ変化率が3.0%超、の少なくとも一方の条件を満たす。
【0025】
(方法2)
a2)標準状態に保たれた不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の不織布の厚さT12を測定する。
d2)厚さT11および厚さT12から、次の式を用いて、厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
【0026】
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【0027】
条件3および条件4の少なくとも一方の条件を満たす再生セルロース不織布は、低クッション性あるいは低反発性である。言い換えれば、交絡した再生セルロース繊維が、動きやすい状態で再生セルロース不織布に含まれている。そのため、再生セルロース繊維は、発芽後、苗の根に沿って動くことができて、根の生長を妨げることが抑制される。その結果、生育性が向上する。加えて、種子を再生セルロース不織布上に播いても、種子は跳ね上げられることなくシート上に留まりやすい。よって、シートに切込みまたは窪みを形成したり、その中に種子一つ一つを押し込んだりすることを要しない。
【0028】
再生セルロース不織布の厚さは、CCDレーザー変位計(例えば、株式会社キーエンス製のアンプユニット型式:LK-2100、センサヘッド型式:LK-080)により測定できる。
【0029】
方法3において、4.9kPa荷重時の厚さT2は、以下の通りに求めてもよい。再生セルロース不織布に4.9kPa荷重を約10秒間加えた後、荷重を取り除き、速やかに40Paの荷重をかけて、厚さを測定する。このときの厚さを、4.9kPa荷重時の再生セルロース不織布の厚さT2としてよい。
【0030】
「標準状態」とは、再生セルロース不織布を予備乾燥した後、標準状態(23℃±2℃、相対湿度50±4%)の試験室または装置内に放置し,一定の状態(例えば、一定の長さ)になった状態を指す。
【0031】
条件3において、厚さ回復率は、99.0%以下であってよく、98.5%以下であってよい。厚さ回復率は、90%以上であってよく、92%以上であってよく、95%以上であってよい。厚さ回復率が90%以上であると、再生セルロース不織布内に十分な空隙があるため、養液が保持され易く、また、根が成長し易い。
【0032】
条件4において、厚さ変化率は、3.2%以上であってよく、3.5%以上であってよい。厚さ変化率は、10%以下であってよく、8%以下であってよく、7%以下であってよい。厚さ変化率10%以下であると、取り扱い性が向上し、また、再生セルロース繊維が適度に動くことが出来て、根の生育が阻害され難い。
【0033】
再生セルロース不織布の種類としては、例えば、サーマルボンド不織布(エアスルー不織布、エンボス不織布など)、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布が挙げられる。なかでも、強度が高く、厚手であっても安価な点で、ニードルパンチ不織布であってよい。
【0034】
再生セルロース不織布の単位面積当たりの質量(以下、目付ともいう。)は、150g/m以上450g/m以下であってよい。目付がこの範囲であると、水耕栽培に適した剛性と強度とが得られ易い。不織布の目付は、200g/m以上であってよく、250g/m以上であってよい。不織布の目付は、440g/m以下であってよく、430g/m以下であってよい。
【0035】
再生セルロース不織布の単位体積当たりの質量(以下、密度ともいう。)は、0.035g/cm以上0.08g/cm以下であってよい。密度がこの範囲であると、適度な嵩を有するため、取り扱い性が向上し、また支持体としての機能が発揮され易い。不織布の密度は、0.04g/cm以上であってよく、0.05g/cm以上であってよい。不織布の密度は、0.078g/cm以下であってよく、0.075g/cm以下であってよい。
【0036】
特に、再生セルロース不織布は、目付が150g/m以上450g/m以下であり、かつ、密度が0.035g/cm以上0.08g/cm以下であってよい。これにより、強度および嵩が水耕栽培により適したものになる。
【0037】
再生セルロース不織布は、適度な剛性を有している。再生セルロース不織布の標準状態での剛軟度は、例えば150mN・cm以上4,000mN・cm以下であってよい。剛軟度がこの範囲であると、取り扱い性が向上し、また、再生セルロース繊維が適度に動くことが出来て、根の生育が阻害され難い。剛軟度は、JIS L 1913(2010)の41.5°カンチレバー法に準じて測定される。
【0038】
接着性繊維が含まれる場合、剛性は大きくなり易い。接着性繊維を含む再生セルロース不織布の剛軟度は、500mN・cm以上であってよく、800mN・cm以上であってよい。上記剛軟度は、2,000mN・cm以下であってよく、1,200mN・cm以下であってよい。
【0039】
接着性繊維を含まない再生セルロース不織布の剛軟度は、200mN・cm以上であってよく、230mN・cm以上であってよい。上記剛軟度は、500mN・cm以下であってよく、480mN・cm以下であってよい。
【0040】
上記剛軟度は、不織布の機械方向(MD方向)および幅方向(CD方向)のいずれの場合にも当てはまる。不織布のMD方向およびCD方向における平均の剛軟度もまた、上記剛軟度の範囲内にあってよい。不織布のMD方向およびCD方向については、JIS L 0222:2001(不織布用語)を参照できる。
【0041】
再生セルロース不織布は、適度な吸水性を有している。再生セルロース不織布のJIS L 1907:2010 7.1.2 バイレック法に準じて測定される10秒経過後の吸水速度は、例えば、1mm以上20mm以下である。10秒経過後の吸水速度は、例えば、1.5mm以上であってよく、2mm以上であってよい。10秒経過後の吸水速度は、例えば、17mm以下であってよく、15mm以下であってよい。吸水速度が上記範囲であると、養液が保持され易い一方で、速やかに植物に供給される。
【0042】
再生セルロース不織布のJIS L 1907:2010 7.1.2 バイレック法に準じて測定される60秒経過後の吸水速度は、例えば、3mm以上30mm以下である。60秒経過後の吸水速度は、例えば、5mm以上であってよく、6mm以上であってよい。60秒経過後の吸水速度は、例えば、25mm以下であってよく、20mm以下であってよい。
【0043】
上記吸水速度は、不織布の機械方向(MD方向)および幅方向(CD方向)のいずれの場合にも当てはまる。不織布のMD方向およびCD方向における平均の吸水速度もまた、上記吸水速度の範囲内にある。
【0044】
再生セルロース不織布は空隙(空気で満たされている連通孔)を有する。種子が発芽すると、根は再生セルロース繊維に絡まりながら、再生セルロース不織布の空隙を通って養液側へと成長していく。根は、再生セルロース不織布の空隙によって十分な酸素を取り込むことができる。加えて、根は、再生セルロース繊維に絡まって再生セルロース不織布に固定される。よって、植物は、再生セルロース不織布でよく支持されて、良好に生長することができる。
【0045】
再生セルロース不織布の通気度は、例えば50cm/(cm・s)以上150cm/(cm・s)以下であってよい。通気度は、60cm/(cm・s)以上であってよく、70cm/(cm・s)以上であってよい。通気度は、100cm/(cm・s)以下であってよく、90cm/(cm・s)以下であってよい。通気度は、JIS L 1096:2010 8.26.1(A法)(フラジール法)に準じて測定される。
【0046】
再生セルロース不織布は、目付(単位面積当たりの質量)が同じ発泡ウレタンシートと比べて、一般に薄く(嵩が低く)、クッション性が小さい。そのため、輸送および保管のコストは、発泡ウレタンシートよりも低減される。
【0047】
(再生セルロース繊維)
再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、溶剤紡糸セルロース繊維が挙げられる。なかでも、レーヨンであってよい。
【0048】
再生セルロース繊維は、平均繊維径Dが12.0μm以上17.0μm以下であってよい。再生セルロース繊維の平均繊維径Dが12.0μm以上であることにより、再生セルロース不織布が過度に緻密にならず、根の成長が妨げられ難い。再生セルロース繊維の平均繊維径Dが17.0μm以下であることにより、再生セルロース不織布が水耕栽培に適した剛性を有し易い。平均繊維径Dは、13.0μm以上であってよく、13.5μm以上であってよい。平均繊維径Dは、16.5μm以下であってよく、16.0μm以下であってよい。
【0049】
一態様において、再生セルロース繊維は、本数割合として90%以上、望ましくは95%以上の繊維径D90が5.0μm以上26.0μm以下の範囲内にあり、かつ、再生セルロース不織布に含まれるすべての再生セルロース繊維の繊維径Dの標準偏差σが、1.2μm以上5.0μm以下であってよい。本数割合として90%以上の繊維径D90が上記範囲であることにより、再生セルロース不織布が過度に緻密になったり、剛性が過度に高くなったりすることが抑制される。繊維径Dの標準偏差σが上記範囲であることは、繊維径Dが適度にばらついていることを示している。繊維径Dの適度なバラツキによって、不織布内部の空隙の大きさがランダムになって、酸素の供給と植物の支持体としての機能とが両立でき、植物の生長がさらに促進される。
【0050】
本数割合90%以上の繊維径D90は、7.0μm以上であってよく、7.5μm以上であってよい。本数割合90%以上の繊維径D90は、22.0μm以下であってよく、21.5μm以下であってよい。
【0051】
上記の繊維径DおよびD90は平均としての値ではなく(すなわち、平均繊維径Dとは異なり)、個々の再生セルロース繊維の繊維径を意味する。以下、繊維径Dと総称する場合がある。以下、単に繊維径Dと言う場合は、上記と同様に、個々の再生セルロース繊維の繊維径を意味する。
【0052】
繊維径Dは、以下のようにして求められる。まず、再生セルロース不織布あるいはこれを綿状に解した試料を固定して、任意の箇所で裁断し、再生セルロース繊維の断面を得る。この断面を電子顕微鏡で観察する。観察視野は、50本以上の再生セルロース繊維の断面が観察できるように設定する。倍率は、例えば、500倍とする。観察視野内から任意に50本の再生セルロース繊維を選択して、解析ソフトによりその長径および短径を算出する。長径および短径の平均値を、当該再生セルロース繊維の繊維径Dとする。
【0053】
繊維径分布は、以下のようにして得られる。上記操作を計5つの観察視野において繰り返して、計250本の再生セルロース繊維の繊維径Dを求める。得られた繊維径Dを、縦軸が積算本数、横軸が繊維径(μm)のグラフに0.1μm刻みでプロットして、繊維径分布を得る。
【0054】
再生セルロース繊維断面の長径は、当該断面の中心Cを通り、これを分断する線分のうち最大のものである。再生セルロース繊維断面の短径は、当該断面の中心Cを通り、これを分断する線分のうち最小のものである。再生セルロース繊維断面の中心Cは、当該断面を内包する最小円の中心である。
【0055】
再生セルロース不織布は、繊維径Dが14.5μm以下である再生セルロース繊維からなる第1再生セルロース繊維群と、繊維径Dが14.5μm超19.0μm以下である再生セルロース繊維からなる第2再生セルロース繊維群とを含み得る。当該不織布に含まれるすべての再生セルロース繊維の繊維径分布において、第1再生セルロース繊維群は、繊維径10.0μm超14.5μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有する。第2再生セルロース繊維群は、繊維径14.5μm超19.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有する。すなわち、再生セルロース不織布は、異なる繊維径ピークを有する2つの再生セルロース繊維群を含み得る。これにより、不織布内部の空隙の大きさは、よりランダムになり易い。
【0056】
第1再生セルロース繊維群および第2再生セルロース繊維群はそれぞれ、繊維径ピークを2以上有していてよい。
【0057】
隣接するピーク(極大値)同士の間隔が1.0μm未満の場合、これらのピークは1つとカウントすればよい。
【0058】
第1再生セルロース繊維群および第2再生セルロース繊維群を構成するすべての再生セルロース繊維の繊維径Dの標準偏差(μm)は、2.0μm以上5.0μm以下であり得る。標準偏差(μm)は、2.2μm以上であってよく、2.5μm以上であってよい。標準偏差(μm)は、4.5μm以下であってよく、4.0μm以下であってよい。
【0059】
第1再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N1と、第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N2とは、例えば、N1/N2=1/2~2/1を満たす。
【0060】
第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、不織布に含まれるすべての再生セルロース繊維の本数の30%以上であってよい。これにより、再生セルロース不織布の空隙が大きくなり易い。上記本数割合は、32%以上であってよく、35%以上であってよい。
【0061】
不織布は、さらに、繊維径が19.0μm超である再生セルロース繊維からなる第3再生セルロース繊維群を含んでよい。これにより、空隙と剛性とのバランスがとり易くなる。第3再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、不織布に含まれるすべての再生セルロース繊維の本数の1%以上10%以下であってよい。
【0062】
他の一態様において、再生セルロース不織布に含まれるすべての再生セルロース繊維は、本数割合として90%以上、望ましくは95%以上の繊維径が10.0μm以上20.0μm以下の範囲内にあり、かつ、繊維径Dの標準偏差が、1.0μm以上2.5μm以下であってよい。この場合も、再生セルロース不織布が過度に緻密になったり、剛性が過度に高くなったりすることが抑制される。加えて、繊維径Dが適度にばらついているため、不織布内部の空隙の大きさがランダムになり得る。
【0063】
上記態様において、本数割合90%以上の繊維径D90は、11.0μm以上であってよく、12.0μm以上であってよい。本数割合90%以上の繊維径D90は、19.0μm以下であってよく、18.5μm以下であってよい。
【0064】
再生セルロース繊維の平均の繊維長Lは、例えば、30mm以上80mm以下である。これにより、再生セルロース繊維同士が交絡し易くなる。平均の繊維長Lは、35mm以上であってよく、40mm以上であってよい。平均の繊維長Lは、70mm以下であってよく、65mm以下であってよい。
【0065】
平均の繊維長Lは、以下のようにして求められる。まず、必要に応じてシートから不織布を分離して、その端面以外の部分を解し、1.0gの再生セルロース繊維を得る。この得られた複数の再生セルロース繊維の繊維長Lをすべて測定し、平均化した値を、平均の繊維長Lとする。
【0066】
不織布に含まれる再生セルロース繊維は、実質的に同じ繊維長Lを有していてよい。これにより、水耕栽培に適した空隙と強度とが得られ易くなる。具体的には、本数割合として90%以上、望ましくは95%以上の再生セルロース繊維の繊維長Lが、平均の繊維長L±3mmの範囲に含まれていてよい。
【0067】
(接着性繊維)
再生セルロース不織布は、接着性繊維を含み得る。接着性繊維は、繊維同士を接着する。これにより、再生セルロース不織布の剛性が高まって、取り扱い性が向上する。
【0068】
接着性繊維の混合割合は特に限定されず、再生セルロース不織布の剛軟度を考慮して、適宜決定される。接着性繊維の混合割合は、例えば、再生セルロース不織布の5質量%以上50質量%以下であってよい。接着性繊維の混合割合は、再生セルロース不織布の10質量%以上であってよく、15質量%以上であってよい。接着性繊維の混合割合は、再生セルロース不織布の40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよい。
【0069】
接着性繊維は、例えば、合成繊維である。接着性繊維は、接着性を発現した状態で繊維層に含まれる合成繊維であり得る。接着性繊維は、典型的には、加熱により接着性を示す。
【0070】
接着性繊維が合成繊維である場合、合成繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(PHBH)およびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーから任意に選択される1または複数の熱可塑性樹脂からなるものであってよい。
【0071】
合成繊維は、単一成分(「単一セクション」ともいう)からなる単一繊維であってよく、および/または複数の成分(「セクション」ともいう)から構成される複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維等であってよい。繊維の断面は円形であっても非円形であってもよく、非円形の形状としては、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形等が挙げられる。また、合成繊維は、中空断面を有するものであってよい。単一繊維および複合繊維のいずれの場合も、繊維を構成する各セクションは、一種類の樹脂からなっていてよく、あるいは二種以上の樹脂が混合されたものであってもよい。
【0072】
合成繊維が単一繊維である場合には、単一繊維は、上記ポリオレフィン系樹脂、上記ポリエステル系樹脂、上記ポリアミド系樹脂、および上記アクリル系樹脂から成る群から選ばれる一種以上の樹脂からなるものであってよい。より具体的には、ポリエチレン単一繊維、ポリプロピレン単一繊維、ポリエチレンテレフタレート単一繊維等を用いてよい。
【0073】
合成繊維が複合繊維である場合には、融点の最も低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。その場合、不織布を生産する工程において、最も融点が低い熱可塑性樹脂からなる成分(以下、「低融点成分」)が溶融または軟化する条件で熱を加えると、低融点成分が接着成分となる。融点のより高い熱可塑性樹脂である第1成分と、融点のより低い熱可塑性樹脂である第2成分とからなる複合繊維を構成する樹脂の組み合わせ(第1/第2)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体等のポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ならびにポリプロピレン/ポリエチレン、およびポリプロピレン/プロピレン共重合体等の二種類のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせである。
【0074】
合成繊維が、融点のより高い熱可塑性樹脂が第1成分として芯成分を構成し、融点のより低い熱可塑性樹脂が第2成分として鞘成分を構成する同心または偏心芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘の組み合わせは、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/プロピレン-エチレン共重合体、ポリプロピレン/プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル(例えば、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート)であってよい。これらの樹脂の組み合わせは、分割型複合繊維において用いてもよい。
【0075】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比(芯成分:鞘成分)が体積比で80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0076】
分割型複合繊維の場合、二つの成分の比(第1:第2)は体積比で、80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。分割型複合繊維の場合、分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。
【0077】
環境負荷を低減する点で、接着性繊維は生分解性であってよい。単一繊維である生分解性の接着性繊維は、例えば、ポリ乳酸あるいはポリ乳酸を主体とするポリエステル系樹脂により形成される。ポリ乳酸を主体とするポリエステル系樹脂としては、乳酸に、例えば、ε-カプロラクトン等の環状ラクトン類;α-ヒドロキシ酪酸、α-ヒドロキシイソ酪酸、α-ヒドロキシ吉草酸等のα-オキシ酸類;エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等のグリコール類;コハク酸、セバチン酸等のジカルボン酸類の一種または二種以上を共重合させることにより得られる。共重合体は、ランダム共重合体であってよく、ブロック共重合体であってよい。複合繊維である生分解性の接着性繊維は、例えば、第1成分としてポリ乳酸あるいはポリ乳酸を主体とするポリエステル系樹脂を含み、第2成分としてポリブチレンサクシネートを含む。合成繊維に生分解性促進剤を添加した生分解性繊維を用いてもよい。
【0078】
接着性繊維の繊度は、例えば、1.0dtex以上10.0dtex以下である。これにより、不織布に適度な剛性が与えられて、取り扱い性が向上する。接着性繊維の繊度は、1.5dtex以上であってよく、1.6dtex以上であってよく、1.7dtex以上であってよい。接着性繊維の繊度は、8.0dtex以下であってよく、6.0dtex以下であってよく、4.0dtex以下であってよい。
【0079】
特に接着性繊維が分割型複合繊維である場合、分割型複合繊維は分割前の繊度が1.0dtex以上4.0dtex以下であってよく、分割後に0.1dtex以上1.0dtex未満の接着性繊維を与えるものであってよい。
【0080】
接着性繊維の繊維長は、特に限定されず、例えば、20mm以上100mm以下であってよい。接着性繊維の繊維長は、25mm以上であってよく、80mm以上であってよい。接着性繊維の繊維長は、30mm以下であってよく、70mm以下であってよい。
【0081】
(他の繊維)
不織布は、その効果を妨げない範囲において、再生セルロース繊維および接着性繊維以外の他の繊維を含み得る。他の繊維としては、例えば天然繊維、半合成繊維および、上記接着性繊維以外の合成繊維が挙げられる。
【0082】
繊維の素材の分類は、例えば消費者庁から公表されている「繊維の名称を示す用語」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/fiber/fiber_term.html)における「繊維等の種類」に従う。
【0083】
天然繊維は、植物繊維および動物繊維に大別される。植物繊維としては、例えば、コットン(木綿)、麻、パルプが挙げられる。動物繊維としては、例えば、羽毛、シルク(絹)、獣毛(ウール(羊毛)、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ、らくだ)が挙げられる。半合成繊維としては、例えば、アセテート、トリアセテートが挙げられる。
【0084】
他の繊維の質量割合は、各繊維層の総質量を基準として、30質量%以下であってよく、20質量%、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下であってよい。環境負荷の観点から、不織布は生分解性の繊維のみで構成されてよい。このような不織布は、サスティナブルな製品として提供することができる。
【0085】
(その他)
本開示のシートは、再生セルロース不織布に加えて、他の部材を備えてよい。他の部材としては、例えば、生分解性樹脂により形成されるネットあるいはメッシュ、生分解性繊維により形成される上記再生セルロース不織布以外の不織布が挙げられる。他の部材は、シートの播種側とは反対側に設けられる。本開示のシートは、再生セルロース不織布のみから構成されてよい。本開示のシートは、複数の再生セルロース不織布を備えてよい。本開示のシートは、一層の再生セルロース不織布のみから構成されてよい。
【0086】
本開示のシートは、種子を埋め込むための切込み、小片化するためのミシン目等を備えていてもよい。再生セルロース不織布は低反発性であるため、本開示のシートには種子を埋め込むための切込みを備えなくてもよい。本開示のシートは、適度な強度および剛性を有しているため、このまま栽培プレートに載置することができる。よって、シートには小片化するためのミシン目等を備えなくてよい。
【0087】
[水耕栽培用シートの製造方法]
本開示の水耕栽培用シートは、再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含む方法によって製造することができる。
【0088】
(1)繊維ウェブの準備
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備する。
繊維ウェブは、例えば、繊維径の異なる複数の再生セルロース繊維の混合物を用いて、カード式法、エアレイド法または湿式法等により作製される。繊維ウェブに含まれる繊維の種類は、上記の通りである。
【0089】
繊維ウェブとしては、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、および湿式抄紙ウェブが挙げられる。繊維ウェブは、カードウェブであってよい。カードウェブは、カード機を用いて、繊維を一定方向またはランダムに並べることにより形成される。
【0090】
(2)交絡処理
繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、再生セルロース繊維同士を交絡させる。これにより、再生セルロース繊維が一体化され、ニードルパンチ不織布が得られる。
【0091】
ニードルパンチ処理によれば、嵩高で柔軟な再生セルロース不織布を安価に得ることができる。ニードルパンチ処理は、再生セルロース不織布の密度を調整し易い。ニードルパンチ処理は、通常のニードルパンチ機を用いて実施することができる。ニードルパンチ処理では、例えば、バーブの数が3個~12個である、36番手~42番手の針を用いて、針深度を3mm~20mmとし、30本/cm~500本/cmの密度(単位面積当たりの針の打ち込み本数。ペネ数とも称される)で打ち込みが実施される。
【0092】
(3)乾熱処理
交絡処理の後、乾熱処理を行ってもよい。これにより、菌およびカビの除去や、これらの発生抑制が期待できる。さらに、接着性繊維が含まれる場合には、一部の繊維同士が接着するため、不織布の強度が向上し得る。
【0093】
乾熱処理は、水分を使用しない熱処理であって、加熱(代表的には、熱風)であってよく、電子線照射であってよく、超音波照射であってよい。
【0094】
加熱温度は、70℃以上190℃以下であってよい。加熱温度は、90℃以上であってよく、110℃以上であってよい。加熱温度は、180℃以下であってよく、160℃以下であってよい。加熱温度は、例えば、接着性繊維を構成する成分が軟化または溶融する温度であってよい。
【0095】
[水耕栽培方法]
水耕栽培は、一般に、水耕栽培用シートに養液を吸収させるステップ、水耕栽培用シートに、植物の種子を播種するステップ、および、種子が発芽した後、水耕栽培用シートを栽培プレートに移植するステップ、移植後、植物の苗を育成するステップを備える方法により実施される。その後、植物は収穫される。
【0096】
育成ステップは、例えば、養液が根域を流動する流動法、根に養液を噴射する噴射法、養液を毛管現象により根に供給する静置法のいずれかで行われる。
【0097】
本開示のシートは、上記のような一般的な水耕栽培法に用いられる。本開示のシートは、土壌への移植ステップを備えない水耕栽培法に適している。本開示のシートは、少なくともその一部が養液に接触するか、あるいは、直接対向するように設置される時期を経る、水耕栽培法に適している。本開示のシートを用いた水耕栽培法は、例えば、水耕栽培用シートを、その表面の少なくとも一部が養液と接触するように載置して、苗を育成するステップがあってよく、苗の根を、水耕栽培用シート以外の部材を経ずに、養液に接触させるステップがあってよい。
【0098】
育成ステップにおいて、シートは、メッシュ等により支持されてもよい。メッシュ等の支持体を用いる場合であっても、シートはメッシュの隙間から露出しており、養液と接触し得、養液と直接対向するように設置され得る。
【0099】
上記の通り、本開示のシートは、播種から収穫の間を通して水耕栽培を行う方法において、使用することができる。さらに、播種から収穫の間、本開示のシートに対して特別な操作(典型的には、小片化)を行うことを要しない。そのため、本開示のシートを水耕栽培に用いることにより、作業の効率化および人員の削減が達成できる。また、本開示のシートは、生分解性の不織布を備えるため、例えば、根が付いたままの状態で土中に埋めて、土中の微生物により生分解させる方法で廃棄することも可能であり、廃棄処理に際し環境への負荷が小さい。
【実施例0100】
以下、本開示を、実施例により説明する。
本実施例で使用する繊維として以下のものを用意した。
(異繊度混レーヨン1)
繊維径D:6.6μm~23.7μm
平均繊維径D:14.6μm
繊維長L:51±3mm
繊維径分布の標準偏差σ:3.0μm
平均繊維長L:約51mm
【0101】
異繊度混レーヨン1に含まれる再生セルロース繊維は、本数割合として90%以上の繊維径が、5.0μm以上26.0μm以下の範囲内にあった。異繊度混レーヨン1は、繊維径が14.5μm以下である再生セルロース繊維からなる第1再生セルロース繊維群と、繊維径14.5μm超19.0μm以下である再生セルロース繊維からなる第2再生セルロース繊維群と、を含む。繊維径分布において、第1再生セルロース繊維群は、繊維径約11.8μmおよび約13.0μmに1つずつピークを有していた。第2再生セルロース繊維群は、繊維径約15.6μmおよび約17.1μmに1つずつピークを有していた。
【0102】
第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、すべての再生セルロース繊維の本数の30%以上であった。第1再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N1と、第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N2とは、N1/N2=1/2~2/1を満たしていた。
【0103】
(異繊度混レーヨン2)
繊維径D:4.7μm~21.6μm
平均繊維径D:13.6μm
繊維径分布の標準偏差σ:3.8μm
繊維長L:51±3mm
平均繊維長L:約51mm
【0104】
異繊度混レーヨン2に含まれる再生セルロース繊維は、本数割合として90%以上の繊維径が、5.0μm以上26.0μm以下の範囲内にあった。異繊度混レーヨン2は、繊維径が14.5μm以下である再生セルロース繊維からなる第1再生セルロース繊維群と、繊維径14.5μm超19.0μm以下である再生セルロース繊維からなる第2再生セルロース繊維群と、を含む。繊維径分布において、第1再生セルロース繊維群は、約11.5μmにピークを有していた。第2再生セルロース繊維群は、約16.2μmおよび約18.9μmに1つずつピークを有していた。
【0105】
第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、すべての再生セルロース繊維の本数の30%以上であった。第1再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N1と、第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数N2とは、N1/N2=1/2~2/1を満たしていた。
【0106】
(レーヨンA)
繊維径D:11.7μm~25.4μm
平均繊維径D:約15.6μm
繊維径分布の標準偏差σ:1.6μm
繊維長L:51±3mm
平均繊維長L:約51mm
【0107】
レーヨンAに含まれる再生セルロース繊維は、本数割合として90%以上の繊維径が、10.0μm以上20.0μm以下の範囲内にあった。レーヨンAは、繊維径分布において、14.5μm超19.0μm以下の範囲にピークを1つ有する、単一の再生セルロース繊維群であった。
【0108】
(レーヨンB)
繊維径D:6.9μm~10.5μm
平均繊維径D:約6.9μm
繊維径分布の標準偏差σ:0.6μm
繊維長L:38±3mm
平均繊維長L:約38mm
レーヨンBは、繊維径分布において、6.9μm以上10.0μm未満の範囲にピークを1つ有する、単一の再生セルロース繊維群であった。
【0109】
(生分解性PET)
接着性繊維:生分解性のポリエチレンテレフタレート繊維、商品名PSF PRIMALOFT BIO ‘V‘、Fiberpartner社製
平均繊維径:14.7μm
平均繊維長:51mm
【0110】
[実施例1]
(i)繊維ウェブの準備
表1に記載されている繊維をセミランダムカードで解繊して、所定の目付のカードウェブを作製した。
【0111】
(ii)ニードルパンチ不織布の作製
次いで、両面のニードルパンチ処理を行い、ニードルパンチ不織布を作製した。ニードルパンチ処理は、ペネ数(単位面積当たりの針の打ち込み本数)135本/cm、針深度:10mmの条件で実施した。得られたニードルパンチ不織布の目付は約314g/m、厚さは4.83mm、密度は約0.065g/cmであった。
【0112】
(iii)乾熱処理
得られたニードルパンチ不織布を、135℃、風速1.6m/sの熱風で23秒間、乾熱処理させた。このようにして、水耕栽培用のシートを得た。
【0113】
[比較例1]
厚さ約10mm、目付約138.5g/m、密度約0.014g/cmの市販の発泡ウレタンシートを準備した。
【0114】
[実施例2~4、比較例2]
繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合等を、表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で、不織布(シート)をそれぞれ得た。
[実施例5~6]
繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合等を、表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で、不織布(シート)をそれぞれ得た。実施例5および6では接着性繊維が用いられているため、乾熱処理によって、繊維同士を接着させた。
【0115】
実施例1、4、5、比較例1および2のシートの表面の電子顕微鏡写真(倍率50倍)を図1~5に示す。
【0116】
[評価]
評価方法は、以下の通りである。評価結果を表1に示す。
【0117】
(目付)
JIS L 1913(2010)6.2(単位面積当たりの質量)に準拠して測定した。
【0118】
(密度)
上記方法で求めた目付と、厚み測定機(商品名:CCDレーザー変位計(アンプユニット型式:LK-2100、センサヘッド型式:LK-080、株式会社キーエンス製)によって、40Paの荷重を加えた状態で測定した厚さとから不織布の密度を算出した。
【0119】
(繊維径および繊維径分布)
再生セルロース不織布を綿状に解した試料を固定して、任意の箇所で裁断し、再生セルロース繊維の断面を得た。この断面を電子顕微鏡(倍率500倍)で観察して、任意の50本の再生セルロース繊維を選択した。上記の通りに再生セルロース繊維の中心Cを決定し、この再生セルロース繊維の長径および短径を、解析ソフト(PhotoRuler)により算出した。長径および短径の平均値を、当該再生セルロース繊維の繊維径Dとした。かかる操作を計5つの観察視野において繰り返して、計250本の再生セルロース繊維の繊維径Dを求めた。
【0120】
得られた繊維径Dを、縦軸が積算本数、横軸が繊維径(μm)のグラフに0.1μm刻みでプロットして、繊維径分布を得た。
【0121】
(通水時間)
JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙として、アドバンテック東洋社製、ADVANTEC(商品名) No.2を用意した。このろ紙を40mm×40mmの正方形にカットして不織布(40mm×40mm)の下に重ねて試料とした。この試料を、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間に、シリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定した。ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とした。その後、20mlのイオン交換水が、下部のガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とした。
【0122】
(厚さ回復率)
標準状態に保たれた不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT1を測定した。続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。再度、40Paの荷重を加えた時の厚さT12を測定した。厚さT11および厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出した。不織布の厚さは、厚み測定機(商品名:CCDレーザー変位計(アンプユニット型式:LK-2100、センサヘッド型式:LK-080、株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
厚さ回復率(%)=(T12-T11)×100
【0123】
(厚さ変化率)
標準状態に保たれた不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定した。次いで、4.9kPa荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、速やかに40Paの荷重をかけて、厚さを測定した。この厚さを、4.9kPa荷重時の不織布の厚さT2として、厚さT11および厚さT2から、次の式を用いて、厚さ変化率(%)を算出した。不織布の厚さは、厚み測定機(商品名:CCDレーザー変位計(アンプユニット型式:LK-2100、センサヘッド型式:LK-080、株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
【0124】
(吸水性)
JIS L 1907:2010 7.1.2 バイレック法に準じて、吸水性を評価した。具体的には、MD方向×CD方向=200mm×25mmの試料を作成し、短辺側から20mmを水中に漬けた。10秒経過後および60秒経過後の、水面から水が到達した高さまでの距離を測定した。試料3枚の上記距離をそれぞれ測定し、これらの平均値をMD方向の吸水速度(mm)とした。吸水速度は、表中、「10s MD」、「60s MD」として示した。
【0125】
別途、MD方向×CD方向=25mm×200mmの試料3枚を作成し、同様にして、10秒経過後および60秒経過後の、水面から水が到達した高さまでの距離を測定した。これらの平均値をCD方向の吸水速度(mm)とした。吸水速度は、表中、「10s CD」、「60s CD」として示した。また、「10s MD」と「10s CD」との平均値を「10s AVE.」、「60s MD」と「60s CD」との平均値を、「60s AVE.」として示した。
【0126】
(通気性)
JIS L 1096:2010 8.26.1(A法)(フラジール法)に準じて、通気度計(商品名:通気性試験機(ラボエアー)、モデル:FX3300-IV、高山リード(株))を用いて、通気度を測定した。
【0127】
(剛軟度)
剛軟度を、JIS L 1913(2010)の41.5°カンチレバー法に準じて測定した。具体的には、次の手順で測定した。
試料台の上に、縦:20cm、横:20cmの標準状態に保たれた試料片を、測定方向がスロット(隙間幅10mm)と直角になるように置き、試験片の下に試験片と同じ大きさの離型紙を敷く。
次に、試料台の表面から8mmまで下がるように調整されたペネトレータのブレードを下降させ、試料片を押し込んだ。測定は、いずれか一方の辺から6.7cm(試料片の幅の1/3)の位置で、MD方向およびCD方向それぞれ表裏異なる個所について行い、押し込みに対する抵抗値を読み取った。抵抗値として、マイクロアンメータの示す最高値(cN)を読み取った。この操作を同一の不織布から採取した3つの試料片について実施した。3つの試料片の平均値を算出して、MD方向、CD方向、およびMD方向とCD方向との平均の剛軟度をそれぞれ得た。
【0128】
(生育性)
養液の入ったトレイの上にシートを載置して、シートに養液を含浸させた。シート上に、小松菜(ピノグリーン)の種子1.5mLを、ランダムに播種した。続いて、23℃、湿度55~60%の暗室内にて2日間静置した。発芽および発根していることを確認した後、播種3日目より人工光(LED)を1日16時間照射(8時間消灯)しながら4日間育成した。次いで、播種7日目にシートを養液の入った水耕装置に移動させ、23℃、湿度55~60%の室内で人工光(LED)を1日16時間照射(8時間消灯)しながら、さらに7日間育成させた。
【0129】
その後、シート表面から約1cm上の位置で、2株の小松菜をハサミで刈り取り、刈り取った小松菜の重さを1株ずつ測定して、その平均値を可食部質量Aとした。別の日に播種および収穫したこと以外は同様にして、可食部質量Bを算出した。
【0130】
【表1】
【0131】
実施例1~6のシートによれば、比較例1の発泡ウレタンシートと同等かそれ以上の生育性が認められた。比較例2で用いた再生セルロース繊維は、本数割合で90%以上の繊維径が10.0μm以下であり、その繊維径分布の標準偏差も小さい。そのため、比較例2で得られた不織布は緻密であって、根の伸長が実施例のものと比較して悪く、実施例と比較して生育性に劣るものであった。
【0132】
本開示は以下の態様を含む。
(態様1)
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シート。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットする。前記ろ紙を前記不織布の下に重ねて試料とし、一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて、挟持および固定する。
b1)前記ガラス器具の上方よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部の前記ガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
(態様2)
交絡した再生セルロース繊維を含む不織布を有し、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シート。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
(態様3)
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、
本数割合として90%以上の繊維径が、5.0μm以上26.0μm以下の範囲内にあり、かつ、
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、繊維径の標準偏差が、1.2μm以上5.0μm以下である、態様1または2の水耕栽培用シート。
(態様4)
前記不織布は、繊維径が14.5μm以下である再生セルロース繊維からなる第1再生セルロース繊維群と、繊維径14.5μm超19.0μm以下である再生セルロース繊維からなる第2再生セルロース繊維群とを含み、
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維の繊維径分布において、
前記第1再生セルロース繊維群は、繊維径10.0μm超14.5μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有し、
前記第2再生セルロース繊維群は、繊維径14.5μm超19.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークを有する、態様1~3のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様5)
前記第2再生セルロース繊維群を構成する再生セルロース繊維の本数割合は、前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維の本数の30%以上である、態様4の水耕栽培用シート。
(態様6)
前記第1再生セルロース繊維群および前記第2再生セルロース繊維群を構成するすべての再生セルロース繊維の繊維径の標準偏差が、2.0μm以上5.0μm以下である、態様4または5の水耕栽培用シート。
(態様7)
前記不織布は、さらに、繊維径が19.0μm超である再生セルロース繊維からなる第3再生セルロース繊維群を含む、態様4~6のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様8)
前記不織布に含まれるすべての前記再生セルロース繊維は、
本数割合として90%以上の繊維径が、10.0μm以上20.0μm以下の範囲内にあり、かつ、繊維径の標準偏差が、1.0μm以上2.5μm以下である、態様1~3の水耕栽培用シート。
(態様9)
前記再生セルロース繊維は、平均繊維径が12.0μm以上17.0μm以下である、態様1~8のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様10)
前記不織布の単位面積当たりの質量が、150g/m以上450g/m以下である、態様1~9のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様11)
前記不織布の単位体積当たりの質量が、0.035g/cm以上0.08g/cm以下である、態様1~10のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様12)
前記不織布がニードルパンチ不織布である、態様1~11のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様13)
前記再生セルロース繊維は、平均の繊維長Lを有し、
本数割合として90%以上の前記再生セルロース繊維の繊維長が、前記平均の繊維長L±3mmの範囲に含まれる、態様1~12のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様14)
前記再生セルロース繊維の平均の繊維長Lが、30mm以上80mm以下である、態様1~13のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様15)
前記不織布が、さらに接着性繊維を含む、態様1~14のいずれかの水耕栽培用シート。
(態様16)
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件1:下記の方法1で得られる通水時間が75秒以下、および、
条件2:下記の方法1で得られる初期通水時間が5秒以下、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法。
(方法1)
a1)前記不織布を40mm×40mmの寸法に切り出し、JIS P 3801で規定される2種に相当する定性分析用ろ紙を前記不織布と同じサイズにカットして前記不織布の下に重ねて試料とし、前記試料を一対の円筒状のガラス器具(高さ75mm、内径36mm、肉厚3mm)の間にシリコーンパッキングを介して、小型万力を用いて挟持させ固定する。
b1)上部よりイオン交換水40mlを注入して、最初の一滴目が通過するまでの時間を計測し、初期通水時間(秒)とする。
c1)その後、20mlのイオン交換水が、下部のガラス器具へと通過するまでの時間を計測し、通水時間(秒)とする。
(態様17)
再生セルロース繊維を含む繊維ウェブを準備すること、および、
前記繊維ウェブにニードルパンチ処理を施して、前記再生セルロース繊維同士を交絡させて不織布を得ること、を含み、
前記不織布は、
条件3:下記の方法2で得られる厚さ回復率が99.5%以下、および、
条件4:下記の方法3で得られる厚さ変化率が3.0%超、
の少なくとも一方の条件を満たす、水耕栽培用シートの製造方法。
(方法2)
a2)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11を測定する。
b2)続いて、4.9kPaの荷重を10秒間加えた後、荷重を取り除き、1分間静置する。
c2)再度、40Paの荷重を加えた時の前記不織布の厚さT12を測定する。
d2)前記厚さT11および前記厚さT12から、次の式を用いて、前記厚さ回復率(%)を算出する。
厚さ回復率(%)=(T12/T11)×100
(方法3)
a3)標準状態に保たれた前記不織布を100mm×100mmの寸法に切り出し、40Pa荷重時の厚さT11、および4.9kPa荷重時の厚さT2をそれぞれ測定する。
b3)前記厚さT11および前記厚さT2から、次の式を用いて、前記厚さ変化率(%)を算出する。
厚さ変化率(%)={(T11-T2)/T11}×100
(態様18)
さらに、前記不織布に、70℃以上190℃以下の温度で乾熱処理を行うことを含む、態様16または17の水耕栽培用シートの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示に用いられる不織布は、適度な空隙および強度を有し、環境負荷が小さい。したがって、本開示のシートは、発泡ウレタンシートの代替品として、水耕栽培に好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5