(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131154
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元電解槽、並びに、当該二酸化炭素還元槽を用いる、一酸化炭素の製造方法及びエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240920BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240920BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240920BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240920BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240920BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C25B1/23
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B13/04 301
C25B9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041245
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】市原 健生
(72)【発明者】
【氏名】中井 諭
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AB25
4K021AC02
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA15
4K021DB40
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】ガスクロスオーバーが抑制される二酸化炭素還元電解槽、並びに、当該二酸化炭素還元槽を用いる、一酸化炭素の製造方法及びエチレンの製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素還元用カソードと、前記カソードに気体の二酸化炭素を供給する二酸化炭素流路と、酸化反応が進行するアノードと、前記アノードに電解液を供給する電解液流路と、前記カソードと前記アノードとの間に隔膜として配置される多孔膜と、前記二酸化炭素流路に供給する二酸化炭素を加湿する加湿装置と、を有し、前記多孔膜の第1の面が前記カソードに接し、かつ前記多孔膜の第2の面が前記アノードに接する構造を有する、二酸化炭素還元電解槽、当該二酸化炭素還元電解槽を用いる一酸化炭素の製造方法、及び二酸化炭素還元電解槽を用いるエチレンの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素還元用カソードと、
前記カソードに気体の二酸化炭素を供給する二酸化炭素流路と、
酸化反応が進行するアノードと、
前記アノードに電解液を供給する電解液流路と、
前記カソードと前記アノードとの間に隔膜として配置される多孔膜と、
前記二酸化炭素流路に供給する二酸化炭素を加湿する加湿装置と、
を有し、
前記多孔膜の第1の面が前記カソードに接し、かつ前記多孔膜の第2の面が前記アノードに接する構造を有する、二酸化炭素還元電解槽。
【請求項2】
前記多孔膜の水分保有率が50~1000%である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項3】
前記多孔膜の水に対する接触角θが140度以下である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項4】
前記多孔膜の1.0MK2CO3の水溶液で湿潤させたときのバブルポイントが0.1MPa以上である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項5】
前記多孔膜の膜厚が5~1000μmである、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項6】
前記多孔膜の気孔率が50~98%である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項7】
前記多孔膜の平均細孔径が3μm以下である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項8】
前記多孔膜の曲路率が10以下である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電解槽。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二酸化炭素還元電解槽を用いる、一酸化炭素の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二酸化炭素還元電解槽を用いる、エチレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元電解槽、並びに、当該二酸化炭素還元槽を用いる、一酸化炭素の製造方法及びエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルを通じた持続可能な社会の実現のために、二酸化炭素を燃料や化学品に変換して利用する技術が求められている。二酸化炭素電解還元反応(CO2RR)は、再生可能エネルギー由来などの電力を用いて二酸化炭素を直接電気化学的に還元し有価物へと変換する反応であり、カーボンニュートラル実現のための有力な手段として注目されている。
【0003】
二酸化炭素還元電解槽において、カソードでは二酸化炭素が還元されて一酸化炭素やエチレン等の化学品が発生し、アノードでは水の酸化反応によって酸素が発生する。カソードでは水の還元反応による水素発生が併発することから、二酸化炭素を優先的に還元するためにはカソードへの効率的な二酸化炭素の供給が重要となる。このような観点から、二酸化炭素還元電解用のカソードとしてガス拡散電極が広く用いられている。これは多孔質構造のカソードを用いて、カソードのうちアノードに近い面は電解液と接し、もう一方の面は二酸化炭素ガスを含む気相と接するようにしたものであり、カソードへの二酸化炭素の拡散が大幅に促進される。(例えば、非特許文献1参照)
【0004】
特許文献1には、多孔膜に電解液を染み込ませることによって、多孔膜に隔膜とイオン伝導体の両方の機能を付与したものを用い、カソードのガス拡散電極とアノードの間に多孔膜を配置し、カソード、多孔膜、アノードを接合させた二酸化炭素還元電解槽の構成が記載されている。カソード、多孔膜、アノードを接合することにより電極間距離が小さくなり、セル電圧が小さくなる傾向にある。また、目的化合物である一酸化炭素が97.8%という高い選択率で得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Burdyny and W. A. Smith, Energy. Environ. Sci., 12, 1442-1453, (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1では、カソードのガス拡散電極とアノードの間にイオン交換膜等の隔膜を配置し、さらにカソードとイオン交換膜の間にイオン伝導体である電解質水溶液(電解液)を流通させる電解液流路を配置した二酸化炭素還元電解槽について数値シミュレーションを行い、このような電解槽構成では、電解液流路の存在によってカソードとアノードの間の距離(電極間距離)が必然的に大きくなってしまい、イオン伝導抵抗によってセル電圧が大きくなると記載されている。
【0008】
また、特許文献1において、カソードで生成したガス、又はアノードで生成したガスが多孔膜を介して相互に移動する現象(ガスクロスオーバー)が記載されている。クロスオーバーしたガスは、反対の極性を持つ電極と再反応し、電解の効率を低下してしまうため、多孔膜は高いガス遮断性を有することが好ましい。特許文献1では、多孔膜が厚いとガスクロスオーバーを低減できる傾向にあり、一方で、多孔膜が薄いとイオン伝導抵抗を低減できる傾向にあることから、多孔膜の膜厚が1~500μmであることが好ましいと記載されている。
【0009】
そこで本発明では、ガスクロスオーバーが抑制される二酸化炭素還元電解槽、並びに、当該二酸化炭素還元槽を用いる、一酸化炭素の製造方法及びエチレンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、供給する二酸化炭素を加湿する加湿装置を有する二酸化炭素還元電解槽を用いることで、ガスクロスオーバーが抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の実施形態を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガスクロスオーバーが抑制される二酸化炭素還元電解槽、並びに、当該二酸化炭素還元槽を用いる、一酸化炭素の製造方法及びエチレンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る二酸化炭素還元電解槽の一例の概略図である。
【
図2】アノード集電板兼電解液流路板やカソード集電板兼ガス流路板の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る二酸化炭素還元電解装置の一例の概略図である。
【
図4】電解槽の一例として、単セルを複数つなげたセルスタックを示す図である。
【
図5】電解槽の一例として、バイポーラー電極型のセルスタックを示す図である。
【
図6】本実施形態に係る二酸化炭素還元電解槽における内部構成を示す図である。
【
図7】カソードと膜の間に電解液流路が存在するセル構成の一例を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
[二酸化炭素還元電解槽]
本実施形態の二酸化炭素還元電解槽(図中では符号Aで示す)は、二酸化炭素を還元するカソード7と、カソード7に気体の二酸化炭素を供給する二酸化炭素流路30と、多孔質隔膜5と、酸化反応が進行するアノード3と、アノード3に電解液を供給する電解液流路40と、を有することが好ましい(
図1、
図6等参照)。ここで、多孔質隔膜5として前述の本実施形態に係る多孔膜を用いることが好ましい。
【0016】
また、多孔質隔膜5の第1の面はカソード7と、多孔質隔膜5の第2の面はアノード3と、接するように配置することが好ましい。当該構成により、本実施形態の二酸化炭素還元電解槽は、小さなセル電圧であり、且つ、二酸化炭素還元反応の選択性に優れる。後述するように、カソード7と多孔質隔膜5が接していることで、電極間距離を短くすることや、二酸化炭素と電解液の差圧を大きくすることが可能となり、ひいては、オーム抵抗の低減や、大きな電流密度での二酸化炭素還元反応の選択的な進行、ガス圧や電解圧の変動に伴う影響の軽微化等の効果が得られる。なお、
図1等においては、二酸化炭素還元電解槽Aの内部構造をわかりやすく示すべく、曲線状の破断線を適宜に用いて内部のアノード3、カソード7、多孔膜用ガスケット6等の断面を表示していることに留意されたい。
【0017】
本明細書では、「二酸化炭素還元電解槽」という用語(あるいは「電解槽」と表現する場合がある)を以下の意味で用いる。すなわち、「電解槽」は単セル(
図4等において符号100Cで示す)とセルスタック(
図4等において符号100Sで示す)とに分類されるものであり、別言すれば、本明細書でいう「電解槽」には単セル100Cとセルスタック100Sの両方が含まれる。「単セル」とは、一対のカソード7とアノード3からなる電解槽を意味するものとし、「セルスタック」とは、単セル100Cを複数つないだ電解槽を意味するものとする(
図1、
図4等参照)。セルスタック100Sにおいて単セル100Cを複数つなぐための具体的な形態は限定されず、たとえば導線102で複数の単セル100Cを電気的に接続した形態としてもよいし(
図4参照)、単セル100Cの集電板(たとえば、
図1に示す単セル100Cにおけるアノード集電板兼電解液流路板2とカソード集電板兼ガス流路板9)のうち隣り合う単セル100Cどうしの集電板2つを1つにまとめる形で接続した形態としてもよい(
図5参照)。後者のように隣り合う単セル100Cどうしの集電板(アノード集電板兼電解液流路板2、カソード集電板兼ガス流路板9)をまとめる場合、バイポーラー電極128を用いてもよい(
図5参照)。なお、本実施形態では基本的に単セル100Cを前提にして記述しているが、以下から理解される本発明に係る二酸化炭素還元電解槽の特徴からすればその適用範囲が単セル100Cとセルスタック100Sのいずれか一方に限られることがないことは明らかである。
【0018】
(カソード)
カソード7は、二酸化炭素供給部から気体状態で供給された二酸化炭素を還元し、一酸化炭素、ギ酸、酢酸、メタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、プロパノールなどを生成する(
図1等参照)。カソード7は多孔膜5と接しており、多孔膜中の電解液を介してアノード3とイオンの授受を行う。また、カソード7は集電部(カソード集電板兼ガス流路板9)を介して電解槽外部の電源28と電気的に接続している。
【0019】
カソード7の材質は、導電性を有する物質が少なくとも一部に含まれていれば特に限定されず、チタン、ニッケル、SUSなどの金属材料や、炭素材料などの導電性物質のほか、導電性物質で被覆した樹脂材料などを用いることができる。ただし、少なくとも電解液と接する部分は、水の還元反応を促進する能力が低い材料であることが好ましい。水の還元反応を促進する能力が低い材料としては、たとえば、金、銀、銅、亜鉛、チタン等の金属材料や、炭素材料などが挙げられる。
【0020】
カソード7は、電極中の二酸化炭素の拡散を良好にする観点から、ガス拡散電極を含むことが好ましい。ガス拡散電極は、高い気孔率を有するガス拡散性を有する電極である。二酸化炭素の還元反応は水の還元反応(水素発生反応)と還元電位が近く、水素発生反応が主要な副反応となるが、二酸化炭素の還元反応を優先的に進行させるためには、還元電極(カソード)中の二酸化炭素還元触媒層へ二酸化炭素を効率的に供給することが有効である。このような理由から、大きな電流密度で電解反応を行う場合には、カソードにガス拡散電極が用いられる。ガス拡散電極の例として、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、金属メッシュ、金属フェルトなどが挙げられる。また、ガス拡散電極として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの多孔膜を導電性材料で修飾したもの等を用いてもよい。
【0021】
カソード7は、二酸化炭素還元反応の過電圧を低下させ、水素発生反応よりも二酸化炭素還元反応を優先的に進行させるため、二酸化炭素還元触媒を含むことが好ましい。二酸化炭素還元触媒とカソード7との複合化の方法は特に限定されず、カーボンペーパーなどのガス拡散電極に二酸化炭素還元触媒を修飾してもよいし、二酸化炭素還元触媒を多孔質状に成形してガス拡散電極としてもよい。ガス拡散電極に二酸化炭素還元触媒を修飾する場合、ガス拡散電極を一様に修飾してもよいし、親水性の多孔質隔膜5と接する面の反応性が高まるように、ガス拡散電極の一面を集中的に修飾してもよい。
【0022】
ガス拡散電極を二酸化炭素還元触媒で修飾する場合、二酸化炭素還元触媒がガス拡散電極から容易に剥離しないよう、触媒とバインダーを混合してガス拡散電極に担持してもよい。バインダーは、特に制限はなく、PTFEやPVDFなどの高分子化合物や、スルホン酸基を有するフッ素樹脂(例えば、Nafion(商標))などの陽イオン交換樹脂、窒素系カチオンを有する炭化水素樹脂(例えば、Sustainion(商標))などの陰イオン交換樹脂を用いることができる。
【0023】
二酸化炭素還元触媒としては、例えば、金、銀、銅、亜鉛、鉛、インジウム、スズ、カドミウムなどの金属を含む材料や、鉄、コバルトなどの金属がフタロシアニンやポルフィリン等に配位した金属錯体、鉄やコバルト、ニッケルなどの金属が炭素中に取り込まれた材料などが挙げられる。
【0024】
二酸化炭素還元触媒は、触媒材料の組成や構造等によって二酸化炭素還元生成物の組成を制御することができる。例えば、金、銀、又は亜鉛を含む触媒を用いた場合、一般的には一酸化炭素が選択的に生成する。鉛、インジウム、スズ、又はカドミウムを含む触媒を用いた場合、一般的にはギ酸が選択的に生成する。銅を含む触媒を用いた場合、一般的には一酸化炭素、ギ酸、酢酸、メタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、プロパノールのうち一種類以上を含む生成物が生成する。ただし、触媒と生成物選択性の関係はこれらに限定されるものではなく、公知の二酸化炭素還元触媒を用い、それぞれの触媒特有の生成物選択性に従って、二酸化炭素還元生成物を得ることができる。
【0025】
カソード7は、多孔質隔膜5と接する部分や、多孔質隔膜5から供給される電解液と接する部分のうち、少なくとも一部に親水性を有することが好ましい(カソード7の親水性を有する部分を、カソード親水部と表記する場合がある)。二酸化炭素還元反応は、二酸化炭素と電解液との両方が十分供給されることで良好に進行する。この点、カソードが撥水的である場合、多孔質隔膜5からカソード7への電解液の供給が不足しやすく、カソード7と電解液が接触しうる狭い領域でのみ二酸化炭素の還元反応が進行することになる。この結果、特に、反応場にとどまっている生成物が、二酸化炭素がカソード7から電子を受け取ることを妨げ、二酸化炭素の還元反応が効率的に進行しない。一方、多孔質隔膜5から供給される電解液と接する部分のうち、カソード7の少なくとも一部に親水性を有することで多孔質隔膜5の細孔部からカソード親水部に電解液が良好に供給されるため、カソードと電解液が接触しうる領域が広くなる。この結果、十分な量の二酸化炭素がカソードから電子を受け取ることが可能な状態となり、二酸化炭素の還元反応を良好に進行させることができる。
【0026】
カソードにおける親水性とは、純水に対する接触角θが140度以下であることを意味する。なお、カソード親水部は、カソードを構成する物質自体の水との接触角に関係なく、構成されたカソード表面の水との接触角が上記範囲に含まれていることで、カソードに電解液を十分行きわたらせることができる。接触角θは、JIS R3257:1999静滴法に準拠し、純水を滴下してから1秒後に水滴とカソードとで形成される角度を読み取ることによって測定することができる。カソード表面のうち少なくとも一部が上述の角度の読み取り前に水滴を吸収し、接触角を測定することが困難な場合にも、カソードが非常に親水的であることを意味するため、カソードの接触角は上記範囲に含まれるとみなせる。この場合にも、カソードに電解液が十分行きわたるため、前述したような理由に基づき、二酸化炭素還元反応を良好に進行させることができる。なお、接触角θは、電解槽に組み込まれているカソードと同一又は同等品について測定した値であってもよい。
【0027】
カソード7は、その少なくとも一部が親水性を有する。親水性を有する部分としては、例えば、多孔質隔膜5から供給される電解液と接する部分である。より具体的には、カソード7の多孔質隔膜5と接する面である。カソード7は、後述するように積層構造であってもよく、その場合、多孔質隔膜5と接する面が親水性であればよく、疎水性の層が含まれていてもよい。
【0028】
カソード7が二酸化炭素還元触媒を含む場合、二酸化炭素還元触媒の少なくとも一部がカソード親水部に含まれる、あるいは、カソード親水部に接していることが好ましい。カソード親水部は、親水的な材料から構成してもよいし、疎水的な材料で構成してから親水処理してもよい。親水的な材料から構成したカソード親水部の例として、金属粒子や金属酸化物粒子、活性炭等の親水性炭素材料などを含むものが挙げられる。また、親水処理の方法としては、親水性の有機物で金属粒子や金属酸化物粒子の表面を修飾する方法や、ナイロン、ポリエーテルスルホンなどの親水性高分子材料を添加する方法、プラズマ処理を行う方法などが挙げられる。
【0029】
カソード親水部と二酸化炭素流路との間に、カソード親水部より疎水性が高い部分を設けることが好ましい。カソード親水部と二酸化炭素流路との間に、カソード親水部より疎水性が高い部分があると、二酸化炭素をカソードへと効率的に供給することができ、二酸化炭素還元反応を効率的に進行させることができる。カソード親水部より疎水性が高い部分としては、カーボンペーパー、カーボンブラックなどの疎水的な材料を用いてもよいし、親水的な材料を公知の方法で疎水処理してもよい。疎水処理の方法としては疎水性の有機物で金属粒子や金属酸化物粒子などを修飾する方法や、PTFEやPVDFなどの疎水性高分子材料を添加する方法などが挙げられる。
【0030】
カソード7は、ガス拡散電極層と、二酸化炭素還元触媒を含む触媒粒子層とを有することが好ましい。また、カソード7の触媒粒子層が、多孔質隔膜5と接する構造を有することが好ましい。本実施形態の電解層において、カソード7が上述の構造を有することで、触媒粒子層が多孔質隔膜5に接し、触媒粒子層が電解液に満たされながら、ガス拡散電極層に供給される二酸化炭素との接触効率が良好になり、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。
【0031】
触媒粒子層に含まれる二酸化炭素還元触媒としては、上述したものを用いることができる。二酸化炭素還元触媒粒子を含有する塗料をガス拡散電極上に塗工することで触媒粒子層を形成することができる。また、塗工後に加熱処理等を行って、二酸化炭素還元触媒粒子同士を融着させた触媒粒子層を用いることもできる。触媒粒子層は、親水性であることが好ましい。ここで親水性とは上述のカソードにおける親水性の定義と同様である。
【0032】
ここで、ガス拡散電極層としては、上述のガス拡散電極で例示したものを用いることができる。
【0033】
カソード7がガス拡散電極層及び触媒粒子層を有する場合、ガス拡散電極層と、触媒粒子層との界面が撥水加工されていることが好ましい。上述のカソード親水部と二酸化炭素流路との間に、カソード親水部より疎水性が高い部分を設けることと同様で、二酸化炭素をカソードへと効率的に供給することができ、二酸化炭素還元反応を効率的に進行させることができる。
【0034】
(二酸化炭素流路)
二酸化炭素流路30は、カソード7へ気体の二酸化炭素を含むガスを供給するように構成されている(
図1、
図6等参照)。二酸化炭素流路30は二酸化炭素導入口14と二酸化炭素導出口13を有する。二酸化炭素導入口14は電解槽外部の配管と接続されており、反応で消費される二酸化炭素を含むガスを電解槽内部へと導入する。二酸化炭素導出口13は電解槽外部の配管と接続されており、二酸化炭素の還元生成物と、未反応の二酸化炭素を含むガスを電解槽外部へと導出する。二酸化炭素導入口14、二酸化炭素導出口13、カソード7の接続方法は、気体成分が漏出しなければ特に限定されないが、カソード7への二酸化炭素の供給と、カソード7で生成した二酸化炭素還元生成物の排出を良好にする観点から、ガス流路板(たとえば、カソード集電板兼ガス流路板9)を介して接続することが好ましい。ガス流路板の配置方法は、特に限定されないが、例えば、カソード7が第一の面で多孔質隔膜5と接し、カソード7の第一の面の裏側に位置する第二の面で流路板と接するように配置することができる。ガス流路板に形成されるガス流路の幅や深さ、流路の折り返し方は特に限定されず、並行型流路、渦巻型流路、サーペンタイン流路型など、公知の流路板の構成例を用いることができる(
図2参照)。
【0035】
二酸化炭素流路に導入されるガスは、必ずしも純粋な二酸化炭素である必要はなく、水蒸気、窒素、アルゴン、水素などの物質と二酸化炭素の混合ガスであってもよい。ガス中の二酸化炭素濃度は、例えば60体積%以上であってもよく、80体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよく、95体積%以上であってもよい。また、二酸化炭素還元電解槽に導入される加湿されたガス中の水蒸気の分圧は、二酸化炭素還元電解槽の運転温度における飽和水蒸気圧に近いほどガスクロスオーバーを抑制する効果があり、飽和水蒸気圧の50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
【0036】
(アノード)
アノード3は、酸化反応を進行させる。酸化反応の種類は特に限定されないが、アノード3から多孔質隔膜5やカソード7に電解液が供給されることを考慮すると、電解液中に含まれる物質を酸化する反応であることが好ましい。電解液に含まれる物質の酸化反応としては、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンの酸化反応や、鉄イオンやバナジウムイオンなどの金属カチオンの酸化反応、ギ酸や酢酸などの有機酸の酸化反応、エタノールなどの有機物の酸化反応など、特に限定されないが、外部から水以外の原料を供給することなく、継続的に運転する観点からは、電解液中の水、又は水酸化物イオンや炭酸水素イオン、炭酸イオンなどのアニオンを酸化し、酸素を発生させる反応(酸素発生反応)であることが好ましい(
図1等参照)。アノード3は電解液導入口12と電解液導出口11を介して電解液供給部(たとえば、電解液タンク15)から電解液の供給を受ける(
図3参照)。
【0037】
オーム抵抗を小さくする観点から、アノード3は多孔質隔膜5と接していることが好ましい。また、ガス圧を電解液圧より大きくする場合、ガス圧によって膜にかかる力を支えるため、アノード3は多孔質隔膜5と接していることが好ましい。また、アノード3は集電部(たとえば、アノード集電板兼電解液流路板2)を介して電解槽外部の電源28と電気的に接続している。
【0038】
アノード3の形状は、電解液との接触面積を大きくして反応の効率を高める観点と、多孔質隔膜5に電解液を効率的に供給する観点から多孔質体であることが好ましい。たとえば、メッシュ状、微細孔プレート状、スポンジ状、不織布状などが挙げられる。
【0039】
アノード3の材質としては、特に限定されず、例えば、チタン、ニッケル、SUSなどの金属材料や、炭素材料などの導電性物質や、導電性物質で被覆した樹脂材料などが挙げられる。アノード3で進行させる反応に応じて、過電圧を低下させる触媒を含んでいてもよい。たとえば、酸素発生反応を進行させる場合には、アノード3は、酸素発生反応の過電圧を低下させるため、酸素発生触媒を含むことが好ましい。酸素発生触媒としては、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化ニッケルなどの公知の触媒材料を用いることができる。アノード3は酸素発生触媒のみから構成されていてもよいし、チタンやニッケルなどの導電性を有する物質からなる基材に担持されていてもよい。酸素発生触媒を基材に担持する場合、触媒を基材全体に一様に担持してもよいし、基材と多孔膜の間に触媒層が形成されるように、基材の一面のみに担持してもよい。また、酸素還元触媒が基材から容易に剥離しないよう、バインダーを酸素還元触媒と混合して基材に担持してもよい。
【0040】
バインダーは、特に制限はなく、PTFEやPVDFなどの高分子化合物や、スルホン酸基を有するフッ素樹脂(例えば、Nafion(商標))などの陽イオン交換樹脂、窒素系カチオンを有する炭化水素樹脂(例えば、Sustainion(商標))などの陰イオン交換樹脂を用いることができる。
【0041】
(電解液流路)
電解液流路40は、アノード3へ電解液を供給する。電解液流路40は電解液導入口12と電解液導出口11を有する。電解液導入口12は電解槽外部の配管42と接続されており、電解液を電解槽内部へと導入する。電解液導出口11は電解槽外部の配管42と接続されており、電解液や、アノード3で発生した、たとえば、酸素などの生成物を電解槽外部へと導出する(
図3参照)。
【0042】
電解液導入口12、電解液導出口11、アノード3の接続方法は、電解液やアノード3で発生する、たとえば、酸素などの生成物が漏出しなければ特に限定されず、多孔質体からなるアノード3の構造中のみに電解液が通過するように電解液導入口12や電解液導出口11を配置してもよいし、電解液流路板(たとえば、アノード集電板兼電解液流路板2)を介してアノード3と電解液導入口12や電解液導出口11を接続してもよい(
図1等参照)。また、アノード3と接した多孔質隔膜5に直接電解液が供給されるように電解液導入口12や電解液導出口11を接続してもよい。電解液流路板を用いる場合の配置方法は、特に限定されないが、例えば、アノード3が第一の面で多孔質隔膜5と接し、アノード3の第一の面の裏側に位置する第二の面で流路板と接するように配置することができる。電解液流路板に形成される電解液流路の幅や深さ、流路の折り返し方は特に限定されず、並行型流路、渦巻型流路、サーペンタイン流路型など、公知の流路板の構成例を用いることができる(
図2参照)。
【0043】
アノード3で発生した生成物が、たとえば酸素のように気体である場合には、必ずしも電解液導出口11から導出する必要はなく、電解液導出口11とは別に設けたガス導出口(図示省略)から導出してもよい。ガス導出口は、酸素などのガス生成物の気泡が電解液から効率的に分離、排出されるように配置することが好ましく、例えば、電解液導出口11よりガス導出口を上方に配置してもよいし、電解液流路40とガス導出口の間に疎水性の多孔膜やカーボンペーパーなどを配置し、酸素などのガス生成物のみがガス導出口に到達するようにしてもよい。
【0044】
電解液流路40は、ポンプ16に接続されていることが好ましい。電解液をポンプ16で流通させることで、アノードで生成物をアノードから良好に排出することができる。ポンプ16は、電解液のみをアノードに供給してもよいし、気泡などを含む状態で電解液をアノードに供給してもよいが、多孔質隔膜5への電解液供給を十分にしてイオン伝導性を向上させる観点と、アノードに電解液中の酸化反応を受ける物質を十分供給する観点から、電解液のみを電解液流路40を通じてアノードに供給することが好ましい。ポンプ16は、電解液を流通させることができる機構で代替することも可能であり、例えば、電解液流路40の上流の液面を下流の液面より高くして、電解液が流れるようにしてもよい。また、電解液はポンプ16や流量制御装置(マスフローコントローラー)によって流量を制御してアノードに流通させてもよい。
【0045】
(集電部)
集電部は、電解槽と電解槽外部の電源28を電気的に接続する。カソード7又はアノード3(以下、電極ともいう)と、集電部との接続方法は特に限定されず、電極そのものを電解槽外部の電源28に直接接続できるように加工して集電部としてもよいし、ガス流路板又は電解液流路板(以下、流路板ともいう)を、導電性を有する素材で構成して集電部とし、流路板を介して電極と電解槽外部の電源28を接続してもよい。また、導電性を有する素材で構成された集電板を、電極又は導電性を有する流路板に接するように配置して集電部とし、集電板や流路板を介して電極と電解槽外部の電源を接続してもよい。集電板はガスや電解液が通過することができる孔部を有していてもよい。
【0046】
カソード7、多孔質隔膜5、アノード3、流路板、集電板などを十分に固定するため、エンドプレート1,10を電解槽の最外部に配置してもよい(
図1等参照)。エンドプレート1,10は、電解槽が導電性材料で露出し漏電することを防ぐため、少なくとも表面に絶縁性を有することが好ましい。エンドプレート1,10には、二酸化炭素導入口14や二酸化炭素導出口13、電解液導入口12、電解液導出口11などを設けてもよい。また、カソード7、多孔質隔膜5、アノード3が十分に接合されるよう、ボルトなどによって電解槽を締め付けるための孔部を設けてもよい。
【0047】
(多孔質隔膜)
多孔質隔膜5は、主に、カソード7とアノード3を電気的に隔てる効果、多孔膜の構造中に電解液を保持することでカソード7とアノード3の間のイオン伝導を担う効果、多孔膜の構造中に電解液を保持することでカソード7に流通させる原料ガス、もしくはカソード7で発生したガスと、アノード3で発生したガスが混合することを防止する効果(ガス遮断性)が求められる。
【0048】
二酸化炭素還元電解槽において、イオン伝導抵抗を最小化する観点から、当該多孔質隔膜5の第1の面51がカソード7に接するように配置し、当該多孔質隔膜5の第2の面52がアノード3に接するように配置することが好ましい。(
図1、
図3参照)。このような配置にすることにより、ガス圧と電解液圧の差によって膜に係る力を支える効果も生じる。多孔質隔膜5の第1の面51はそのうちの一部においてカソード7に接している状態であれば足り、第2の面52をアノードに接するように配置する場合、第2の面52はそのうちの一部においてアノード3に接している状態であれば足りる。
【0049】
前述のように、カソード7と、多孔質隔膜5と、アノード3がサンドイッチ状に密着した構造であることが、同一の多孔質隔膜5を用いた場合に二酸化炭素還元電解槽のイオン伝導抵抗を最小化する配置となる。次に、多孔質隔膜5そのものの、イオン伝導抵抗について説明する。
【0050】
多孔質隔膜5は、その細孔に電解液を保持することによって良好なガス遮断性を示す。多孔質隔膜5を有する二酸化炭素還元電解槽を運転している際に、多孔質隔膜5の細孔の一部から電解液が失われると、その細孔を経由してカソード7に流通させる原料ガス、もしくはカソード7で発生したガスと、アノード3で発生したガスが混合してしまうものと考えられる。多孔質隔膜5の細孔の一部から電解液が失われる原因は必ずしも明らかではないが、カソード7とアノード3の圧力差によって瞬間的に電解液が細孔から押し出されてしまう機構や、カソード7に流通させる原料ガスによって多孔質隔膜5が乾燥してしまう機構が推定される。
【0051】
また上述の多孔膜のバブルポイントに関して、本実施形態のような構成の電解槽を用いる場合、ガス圧が電解液圧より高い状態で電解反応を行うことが好ましいが、二酸化炭素が多孔質隔膜5を通過して電解液流路へ流出するのを防止する観点から、ガス圧と電解液圧との差圧は、使用する電解液に対して示す多孔質隔膜5のバブルポイントBPより小さいことが好ましい。言い換えれば、大きい値のバブルポイントBPを有する多孔質隔膜5を用いることで、ガス圧と電解液圧との差圧の許容範囲を広くすることができる。多孔質隔膜5のバブルポイントBPの値が上記範囲内であると、二酸化炭素が電解液流路40へと流出しにくくなり、カソード7に供給するガス圧を、電解液圧に対して十分に高めることができる。カソード7に供給するガス圧が高いと、電解液流路40から供給された電解液が多孔質隔膜5を介してカソード7へ過剰に染み出して二酸化炭素の供給が阻害されることを防止でき、さらに、ヘンリーの法則に従ってカソード7の近傍の電解液中の二酸化炭素濃度を高めることができる(
図10参照)。したがって、水素発生反応が抑制され、二酸化炭素還元反応をより効率的に進行させることができる。
【0052】
本実施形態のように、多孔質隔膜5の第1の面51がカソード7に接する構造を有する電解槽を用いた場合には、電気伝導率の高い電解液を含んだ多孔質隔膜5をイオン伝導体として用いることができるため、十分な膜強度が得られる厚さの多孔膜を使用しても、電解液により高いイオン伝導性が得られるため、セル電圧が大きくなりにくい。つまり、イオン伝導抵抗低減と膜強度の確保を両立させることができる。
【0053】
また、多孔質隔膜5を用いることにより、仮に電極と多孔質隔膜5との接合が不十分で隙間が一部存在するような状況であっても、電解液が電極と膜の間の空間を満たすため、イオン伝導抵抗が大きくならず、セル電圧を小さくすることができる。
【0054】
特許文献1に記載の電解槽の構成の場合、ガス圧と電解液圧との差圧が変動すると、カソードへの電解液の過剰な染み出しや、カソードへの電解液供給の不足、電解液流路への二酸化炭素の流出などにより、二酸化炭素還元反応の効率が低下しやすい。一方、本実施形態に係る電解槽は、多孔質隔膜5のバブルポイントBPが上記範囲内であることで、ガス圧と電解液圧との差圧が広い範囲で、二酸化炭素還元反応を効率的に進行させることができる。
【0055】
[多孔膜]
多孔質隔膜5は、以下の多孔膜を用いることが好ましい。
本実施形態に係る多孔膜は、水分保有率が50~1000%であることが好ましい。当該多孔膜により、二酸化炭素還元電解槽に用いる際に、高いガス遮断性を有する。また、多孔膜は、二酸化炭素還元電解槽等の電解液を保持することによって、イオン伝導とガス遮断性を発現する。前述の範囲の水分保有率を有することで、二酸化炭素還元電解槽を稼働させる際に、優れたガス遮蔽性を示す。当該ガス遮蔽性は、水分保有率が高いため、二酸化炭素還元電解槽の上部の空間など、気体との接触部で多孔膜が乾燥し、気体が通過しやすくなることを抑制するため、ガス遮蔽性が向上したものと考えられる。
【0056】
多孔膜における水分保有率は、好ましくは60~500%であり、より好ましくは70~400%である。なお、本実施形態における水分保有率とは、純水を含浸した多孔膜を25℃から80℃まで5分間で昇温させて乾燥させた際に、多孔膜が保有している水分重量と、多孔膜の重量の比率である。
水分保有率を決定する因子は完全には明らかではないが、多孔膜の接触角θが小さいほど、膜厚が厚いほど、平均細孔径が小さいほど水分保有率が高くなる傾向にある。したがって、多孔膜の接触角θや膜厚、平均細孔径を適宜調整することにより、水分保有率を上述の範囲とすることができる。
【0057】
多孔膜の材料は特に限定されないが、電解槽の組み立て時や、運転時に膜が破断することを防止するため、電解液で湿潤した状態での強度が十分であることが好ましい。このような材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、セルロース混合エステル、再生セルロース、ポリカーボネートなどの高分子材料や、シリカやアルミナなどの金属酸化物からなるセラミックフィルターやグラスファイバーフィルターなどを用いることができる。多孔膜は、上述の材料の中でも、ポリエーテルスルホン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及び酢酸セルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含むことが好ましい。
【0058】
後述するように、二酸化炭素還元電解槽に用いる際に、水を溶媒とする電解液を好ましく用いることができるため、多孔膜は、親水性を有することが好ましい。多孔膜の水に対する接触角θは、140度以下であることが好ましく、120度以下であることが好ましく、90度以下であることがより好ましい。なお、多孔膜は、多孔膜を構成する物質自体の水との接触角に関係なく、構成された多孔膜表面の水との接触角が上記範囲に含まれていることで、多孔膜に電解液を十分行きわたらせることができる。接触角θは、JIS R3257:1999静滴法に準拠し、純水を滴下してから1秒後に水滴と多孔膜とで形成される角度を読み取ることによって測定することができる。多孔膜表面が上述の角度の読み取り前に水滴を吸収し、接触角を測定することが困難な場合にも、多孔膜表面が非常に親水的であることを意味するため、多孔膜表面の接触角は140度以下とみなせる。なお、接触角θは、電解槽に組み込まれている多孔膜と同一又は同等品について測定した値であってもよい。
【0059】
多孔膜は細孔の表面が親水性を有している限り、必ずしも親水性の材質のみから構成される必要はなく、例えば、疎水性の材質からなる多孔膜の細孔部の表面を親水処理したものを用いてもよい。
【0060】
また、多孔膜の平均細孔径は、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以下であり、更に好ましくは0.2μm以下である。多孔膜の平均細孔径の測定方法は、ASTM F838 バクテリアチャレンジ試験に準拠して測定することができる。
【0061】
多孔膜における、1.0MK2CO3の水溶液で湿潤させたときのバブルポイント(以下「BP」ともいう)は、好ましくは0.10MPa以上であり、より好ましくは0.20MPa以上であり、更に好ましくは0.30MPa以上であり、より更に好ましくは0.50MPa以上である。多孔膜は、二酸化炭素還元電解槽に用いる際に電解液に圧力差があっても、電解液を良好に保持する観点から、大きなバブルポイントを有することが好ましい。多孔膜のバブルポイントは、JIS K3832:1990に準拠して測定される。ただし、測定に用いる試験液は、1.0MK2CO3の水溶液を用いるものとする。なお、多孔膜のバブルポイントは、上述の多孔膜の水に対する接触角θや、多孔膜の平均細孔径dにより調整することができる。
【0062】
多孔膜の膜厚は、二酸化炭素還元電解槽に用いる際にイオン電導性を高め、且つ、機械強度を高める観点から、好ましくは5~1000μmであり、より好ましくは15~300μmであり、さらに好ましくは20~150μmである。
【0063】
多孔膜の気孔率は、二酸化炭素還元電解槽に用いる際にイオン電導性を高め、且つ、機械強度を高める観点から、好ましくは50~98%であり、より好ましくは60~95%であり、更に好ましくは65~90%であり、より更に好ましくは70~85%である。
【0064】
多孔膜の曲路率は、二酸化炭素還元電解槽に用いる際にイオン伝導性を高める観点から、好ましくは10以下であり、より好ましくは7以下であり、更に好ましくは5以下であり、より更に好ましくは4以下である。曲路率は、1以上であってもよい。多孔膜の中にある細孔は複雑な形状を有しているため、電解液中のイオンが電場によって多孔膜の一端からも一端へ移動する場合、イオンの移動経路の長さは膜厚よりも大きくなる。この移動経路の長さと、膜厚との比を曲路率という。
【0065】
多孔膜は、二酸化炭素還元電解槽に用いる際にカソードとアノードを電気的に隔てるために、絶縁体であることが好ましい。
【0066】
(電解液)
電解液は、カソード7とアノード3の間のイオン伝導体として機能する。電解液は、溶媒として少なくとも1成分に水を含み、溶質として電解質を含有することが好ましい。
【0067】
電解液は、水系電解液であることが好ましい。水系電解液とは、溶媒中の水の含有量が50質量%以上である電解液を意味する。溶媒中の水の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0068】
電解質は、特に限定されないが、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、四級アルキルアンモニウムイオンなどの陽イオンのうち少なくとも一種類と、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、リン酸二水素イオン、リン酸一水素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、ホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどの陰イオンのうち少なくとも一種類を含むことが好ましい。電解質は、必ずしも一種類ずつの陽イオンと陰イオンから構成される必要はなく、多成分からなる混合物であってもよい。
【0069】
電解液中の電解質濃度は、イオン伝導抵抗を小さくする観点から、陽イオンの濃度に電荷を乗じたものの総和と陰イオンの濃度に電荷を乗じたものの総和がそれぞれ0.001M以上であることが好ましく、0.01M以上であることがより好ましく、0.1M以上であることがより好ましい。
【0070】
電解液に含まれる水素イオン濃度は、二酸化炭素還元反応の副反応である水素発生反応を抑制する観点から、1.0M以下であることが好ましく、0.1M以下であることがより好ましい。
【0071】
[二酸化炭素還元電解装置]
本実施形態の二酸化炭素還元電解装置(図中は符号200で示す)は、アノード集電板兼電解液流路板2やカソード集電板兼ガス流路板9と導線29を介して接続する電源(直流電源)28と接続する(
図3参照)。電解装置200は、電解液タンク15、又は二酸化炭素ボンベ18と接続していてもよい。二酸化炭素導出口13には、ガスクロマトグラフ22が接続されていてもよい。二酸化炭素導出口13から排出された還元生成物を含む二酸化炭素は、ガスクロマトグラフ22によってその成分が分析される。
【0072】
(二酸化炭素圧力制御装置)
二酸化炭素流路30は、二酸化炭素圧力制御装置60に接続していることが好ましい(
図3参照)。二酸化炭素圧力制御装置60は、二酸化炭素流路30の上流に配置され、昇圧された二酸化炭素を含むガスを供給するマスフローコントローラー19と、二酸化炭素流路30の下流に配置され、二酸化炭素流路30内の二酸化炭素を含むガスの圧力を制御する圧力制御弁21のうち、少なくとも一つを有する。二酸化炭素流路30と二酸化炭素圧力制御装置60の接続方法は特に限定されず、二酸化炭素導出口13を介した電解槽外部の配管32に二酸化炭素圧力制御装置60を接続してもよいし、電解槽内部の二酸化炭素流路30に直接二酸化炭素圧力制御装置60を配置してもよい。昇圧二酸化炭素供給部61は特に限定されず、公知のコンプレッサー(図示省略)などを用いて二酸化炭素を含むガスを昇圧してもよいし、二酸化炭素ボンベ18などに封入された昇圧状態にある二酸化炭素を含むガスを、レギュレータを用いて圧力調整してもよい。圧力制御弁21は特に限定されず、玉形弁など、公知の弁を用いることができる。以上のとおり、二酸化炭素は、圧力調整器を有する二酸化炭素ボンベ18から、マスフローコントローラー19によって流量を制御して二酸化炭素導入口14に供給し、圧力制御弁21により二酸化炭素の圧力を制御する。
【0073】
(電解液圧力制御装置)
電解液流路40は、電解液圧力制御装置70に接続していることが好ましい(
図3参照)。電解液圧力制御装置70は、電解液流路40の上流に配置され、昇圧された電解液を供給する電解液用ポンプ16と、電解液流路40の下流に配置され、電解液流路40内の電解液の圧力を制御する圧力制御弁41のうち、少なくとも一つを有する。電解液流路40と電解液圧力制御装置70の接続方法は特に限定されず、電解液導出口12を介した電解槽外部の配管42に電解液圧力制御装置70を接続してもよいし、電解槽内部の電解液流路40に直接電解液圧力制御装置70を配置してもよい。なお、電解液は、電解液タンク15から、電解液用ポンプ16によって流量を制御して電解液導入口12に供給し、圧力制御弁41により、電解液の圧力を制御する。
【0074】
(二酸化炭素-電解液圧力差制御装置)
本実施形態の二酸化炭素還元電解装置は、二酸化炭素を含むガスの圧力と電解液の圧力の差を制御する二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80を有することが好ましい。なお、
図3中の破線は、二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80と各構成との電気的な接続を意味する。二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、例えばCPUやメモリを含み、二酸化炭素を含むガス、及び電解液の供給系統を制御している。
【0075】
二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、マスフローコントローラー19及び圧力制御弁21に電気的に接続し、マスフローコントローラー19及び圧力制御弁21により二酸化炭素の圧力を制御できるように構成してもよい。また、二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、二酸化炭素圧力計20及び二酸化炭素圧力計31に電気的に接続し、二酸化炭素圧力計20から二酸化炭素流路の入口側の二酸化炭素を含むガスの圧力PCO2_IN、及び、二酸化炭素圧力計31から二酸化炭素流路の出口側の二酸化炭素を含むガスの圧力PCO2_OUTを取得可能に構成してもよい。
【0076】
二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、電解液用ポンプ26及び圧力制御弁41に電気的に接続し、電解液用ポンプ26及び圧力制御弁41により電解液の圧力を制御できるように構成してもよい。また、二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、電解液圧力計27及び電解液圧力計43に電気的に接続し、電解液圧力計27から電解液流路の入口側の電解液の圧力PEL_IN、及び、電解液圧力計43から電解液流路の出口側の電解液の圧力PEL_OUTを取得可能に構成してもよい。
【0077】
二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、二酸化炭素流路の入口側の二酸化炭素を含むガスの圧力P
CO2_INと、電解液流路の出口側の電解液の圧力P
EL_OUTとの差(P
CO2_IN-P
EL_OUT)は、以下の式(1)の条件を満たすよう制御するように構成されることが好ましい。
0MPa<(P
CO2_IN-P
EL_OUT) ・・・(1)
以上の条件に示すように、カソード7に供給するガスの圧力がアノード3に供給する電解液の圧力より高いことで、電解液流路40から供給された電解液が多孔質隔膜5を介してカソード7へ適度に染み出しながら(例えば、
図6に示す、電解液の染み出し部分E)、さらには、カソード7や二酸化炭素流路30へと過剰に染み出すことを防止することができる。したがって、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。
【0078】
また、二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、差(P
CO2_IN-P
EL_OUT)は、下記の式(3)の関係式を満たすよう制御するように構成されることがより好ましい。
0.02MPa≦(P
CO2_IN-P
EL_OUT) ・・・(3)
差(P
CO2_IN-P
EL_OUT)が上記の範囲にあると、カソード7への電解液の染み出しが抑制されることに加え、気相の二酸化炭素を高い圧力に制御することにより、ヘンリーの法則(p=K
Hχ(pは溶質の蒸気圧、χはモル分率、K
Hは比例定数))に従って電解液への二酸化炭素の溶解度が向上する。このため、カソード7の近傍の電解液中の二酸化炭素濃度を高くすることができ、水素発生反応を抑制して二酸化炭素還元反応をより効率的に進行させることができる(
図8参照)。
【0079】
差(PCO2_IN-PEL_OUT)は、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.07MPa以上であることがより好ましく、0.10MPa以上であるとより好ましく、0.15MPa以上であるとより好ましい。
【0080】
二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、二酸化炭素流路の出口側の二酸化炭素を含むガスの圧力PCO2_OUTと、電解液流路の入口側の電解液の圧力PEL_INとの差(PCO2_OUT-PEL_IN)と、多孔膜のバブルポイントBPが、以下の式(2)の関係を満たすよう制御するように構成されることが好ましい。
(PCO2_OUT-PEL_IN)<BP ・・・(2)
差(PCO2_OUT-PEL_IN)が多孔質隔膜5のバブルポイントBPより低いことにより、二酸化炭素や、二酸化炭素を還元して得られた、一酸化炭素、エタン、エチレンなどの生成物や、副生する水素などが多孔質隔膜5を通過してアノード3の電解液流路40へと大量に流出して、気泡によってイオンの伝導性が悪化することを防ぐことができ、二酸化炭素還元反応をより効率的に進行させることができる。
【0081】
二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80は、電解液流路の出口側の電解液の圧力PEL_OUTが0.01MPaG以上に制御するように構成されることが好ましい。圧力PEL_OUTが0.01MPaG以上となることで、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。圧力PEL_OUTは、より好ましくは0.02MPaG~0.5MPaGであり、さらに好ましくは0.03MPaG~0.4MPaGであり、さらに好ましくは0.05MPaG~0.3MPaGである。
【0082】
(二酸化炭素加湿装置)
本実施形態に係る二酸化炭素還元電解槽は、二酸化炭素流路に供給する二酸化炭素を加湿する加湿装置を有することが好ましい。加湿装置を有することで、ガスクロスオーバーを抑制することができる。二酸化炭素還元電解槽へと導入する二酸化炭素を加湿することで、多孔質隔膜5が乾燥しにくくなるため、隔膜におけるガスの通過を抑制することができると考えられる。二酸化炭素還元電解槽のカソードに、加湿した二酸化炭素を供給することで、多孔質隔膜5の乾燥が抑制でき、ガス遮断性が向上する。二酸化炭素加湿装置の構造は特に限定されず、例えば水中に二酸化炭素ガスをバブリングする方法や、二酸化炭素流路に霧状の水や水蒸気を導入する方法を用いることができる。加湿した二酸化炭素の湿度は、二酸化炭素ガスをバブリングする方法においてはバブリングで得られた100%加湿した二酸化炭素ガスと加湿していない二酸化炭素ガスを適量混合することにより、二酸化炭素流路に霧状の水や水蒸気を導入する方法においては導入量を変化させることにより、調整できる。また、気温による絶対湿度の変化を抑制する観点から、二酸化炭素加湿装置と、二酸化炭素還元電解槽と、二酸化炭素流路30のうち、少なくとも二酸化炭素加湿装置と二酸化炭素還元電解槽をつなぐ部分とは、温度が一定になるように温度調整する機構を有することが好ましい。また、加湿した二酸化炭素ガスが、水の液滴を含むと、カソードのガス流路やガス拡散層に付着して、二酸化炭素の供給を妨げることがある。そのため、二酸化炭素流路30のうち、二酸化炭素加湿装置と、二酸化炭素還元電解槽をつなぐ部分において、水の液滴を除去するミストセパレーターが設置されていることが好ましい。
【0083】
[電解方法]
本実施形態の電解方法は、本実施形態に係る二酸化炭素還元電解装置を用いる方法である。
本実施形態の電解方法は、
二酸化炭素流路30に二酸化炭素を含むガスを供給すること、
電解液流路40に電解液を供給すること、
カソード7と前記アノード3に電圧を印加すること、
とを含む。
また、本実施形態の電解方法は、二酸化炭素流路30の入口側の二酸化炭素を含むガスの圧力PCO2_INと、電解液流路40の出口側の電解液の圧力PEL_OUTとの差(PCO2_IN-PEL_OUT)を、以下の式(1)の条件を満たすことが好ましい。
0MPa<(PCO2_IN-PEL_OUT) ・・・(1)
以上の構成により、小さなセル電圧で二酸化炭素還元反応の選択性に優れる電解方法を提供することができる。
また、本実施形態の電解方法では、差(PCO2_IN-PEL_OUT)は、下記の式(3)の関係式を満たすことが好ましい。
0.02MPa≦(PCO2_IN-PEL_OUT) ・・・(3)
以上の式(3)の関係式を満たすことにより、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。
【0084】
差(PCO2_IN-PEL_OUT)は、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.07MPa以上であることがより好ましく、0.10MPa以上であるとより好ましく、0.15MPa以上であるとより好ましい。
【0085】
また、本実施形態の電解方法では、二酸化炭素流路の出口側の二酸化炭素を含むガスの圧力PCO2_OUTと、電解液流路の入口側の電解液の圧力PEL_INとの差(PCO2_OUT-PEL_IN)と、多孔膜のバブルポイントBPが、以下の式(2)の関係を満たすよう制御するように構成されることが好ましい。
(PCO2_OUT-PEL_IN)<BP ・・・(2)
以上の式(2)の関係式を満たすことにより、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。
【0086】
電解液流路の出口側の電解液の圧力PEL_OUTが0.01MPaG以上であることが好ましい。圧力PEL_OUTが0.01MPaG以上となることで、二酸化炭素還元反応の選択性をより向上させることができる。圧力PEL_OUTは、より好ましくは0.02MPaG~0.5MPaGであり、さらに好ましくは0.03MPaG~0.3MPaGである。
【0087】
上記の圧力条件は、例えば二酸化炭素電解装置200の二酸化炭素-電解液圧力差制御装置80により調整してもよいが、二酸化炭素圧力計20及び二酸化炭素圧力計31の値を参照しながら、マスフローコントローラー19及び圧力制御弁21を調整してもよいし、電解液圧力計27及び電解液圧力計43の値を参照しながら電解液用ポンプ26及び圧力制御弁41を調整してもよい。
【0088】
本実施形態の電解方法における二酸化炭素を含むガス供給量は、セルに印加する電流あたり、好ましくは5mL/(min・A)~5000mL/(min・A)であり、より好ましくは25mL/(min・A)~2500mL/(min・A)であり、さらに好ましくは50mL/(min・A)~1000mL/(min・A)である。二酸化炭素を含むガスの供給量が上記の範囲内であると、カソードに二酸化炭素を十分に供給することができ、また、カソードで生成した物質を良好に排出することができることから、二酸化炭素還元反応を良好に進行させることができる。なお、上述のガス供給量は、0℃、1気圧に換算した体積流量とする。
【0089】
本実施形態の電解方法における電解液供給量は、セルに印加する電流あたり、好ましくは5mL/(min・A)~1000mL/(min・A)であり、より好ましくは25mL/(min・A)~500mL/(min・A)であり、さらに好ましくは50mL/(min・A)~250mL/(min・A)である。電解液の供給量が上記の範囲内であると、アノードで生成した酸素などの物質を良好に排出することができる。
【0090】
本実施形態の電解方法において、二酸化炭素を含むガスは、電解槽の運転温度における相対湿度70%以上に加湿されていることが好ましく、80%以上に加湿されていることがより好ましく、90%以上に加湿されていることが更に好ましい。二酸化炭素を含むガスが加湿されていることにより、多孔質隔膜5の乾燥が抑制され、ガス遮断性が向上する傾向にある。
【0091】
本実施形態の電解方法における単セルにかかる電圧(セル電圧)は、好ましくは1.0V~10Vであり、より好ましくは1.1V~6Vであり、さらに好ましくは1.2V~4Vである。セル電圧の値が上記の範囲内であると、二酸化炭素の還元反応の進行に好ましいエネルギーを供給することができ、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。
【0092】
本実施形態の電解方法における電流密度は、好ましくは200mA/cm2~2000mA/cm2であり、より好ましくは300mA/cm2~1500mA/cm2であり、さらに好ましくは350mA/cm2~1000mA/cm2である。電流密度の値が上記範囲内であると、二酸化炭素還元反応の生成物の生産性を十分に高めることができる。
【0093】
本実施形態の電解方法では、CO2を還元し、一酸化炭素、ギ酸、酢酸、メタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、プロパノールなどのCO2還元物質を生成することができる。
【0094】
[一酸化炭素又はエチレンの製造方法]
本実施形態の一酸化炭素又はエチレンの製造方法は、上述の電解方法により、一酸化炭素又はエチレンを得る。好適な条件は、上述の電解方法と同様である。
【実施例0095】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。したがって、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができる。
【0096】
各種測定方法は、以下に示す方法により行った。
【0097】
〔多孔膜の膜厚〕
多孔膜の膜厚は、マイクロメータ(製品名「MDC―25PX」、ミツトヨ社製)でランダムに10点測定し、その平均値を膜厚とした。。
【0098】
〔接触角θ〕
接触角θは、JIS R3257:1999に規定される静滴法に準じて、基板ガラスを多孔隔膜、カソード等の試料と置き換えて測定した。純水の液滴を多孔膜に滴下し、滴下してから1秒後に液滴と試料とで形成される接触角θの角度を記録することによって測定した。水滴を滴下し、角度記録時までに染み込む場合には、水との接触角θは0度と判断した。
【0099】
〔バブルポイント〕
多孔膜のバブルポイントBPは、以下の方法によって測定した。
JIS K3832:1990に準拠し、1.0MK2CO3の水溶液で湿潤させた多孔膜の片面に供給した二酸化炭素の圧力を上昇させ、気泡が連続的に通過し始める圧力をバブルポイントBPとした。
【0100】
〔気孔率〕
多孔膜の気孔率は水銀圧入法によって測定した。マイクロメリティック社製の水銀ポロシメータAuto Pore IVで多孔膜に水銀を圧入し、圧入された水銀の体積から気孔率を算出した。
【0101】
〔平均細孔径〕
平均細孔径は、ASTM F838 バクテリアチャレンジ試験に準拠して測定した。
【0102】
〔水分保有率〕
多孔膜の水分保有率は、以下の方法によって測定した。まず、直径47mmの円形に切り出した多孔膜を純水に浸し、10kPa(絶対圧)まで減圧して脱泡した。大気圧に復圧した後、多孔膜の表面についた水を振り落とし、加熱乾燥式水分計(製品名「MS-70」、エーアンドディ社製)に配置した。25℃から80℃まで5分間で昇温し、その後、加熱乾燥式水分計で重量変化が観測されなくなるまで80℃で保持した。なお、ここでは、1分間当たりの重量変化が初期重量の0.1%未満になったときに重量変化が観測されなくなったと判定した。80℃に到達した時点のサンプル重量をW80,重量変化がなくなった時点のサンプル重量をWFinalとすると、水分保有率は下記式で表される。
水分保有率 = 100×(W80-WFinal)/WFinal
なお、水分保有率は80℃に到達した時点における、多孔膜が保持する水分の重量と、多孔膜自体の重量の比率を意味する。
【0103】
〔曲路率〕
多孔膜の曲路率は、多孔膜を、多孔質隔膜として電解槽に組み込んで、交流インピーダンス法によって多孔膜中のイオン伝導抵抗を測定することによって算出した。電解槽の組み立ては、多孔膜をはめ込んだPTFE製の多孔膜用ガスケットを、両側からマイクロ―ポーラス層付ガス拡散電極(1cm角に切り出したSIGRACET社製22BB)をはめ込んだPTFE製のガスケット、集電板兼液流路板、エンドプレートの順に重ね、ボルトによって締め付けることによって行った。両側の液流路から1.0MのK2CO3水溶液を10mL/minで流通させた状態で、交流インピーダンス測定を実施し、多孔膜中のイオン伝導抵抗(RMeas)を測定した。
また、1.0MのK2CO3水溶液のイオン伝導度κ=0.15(S/cm),電極面積A=1(cm2),多孔膜の膜厚t(cm),多孔膜の気孔率ε(%)から、下記式で理論的なイオン伝導抵抗(RTheor)が算出される。
RTheor = 100t/(κAε)
このとき、曲路率はRMeasとRTheorの比で表される。
曲路率 = RMeas/RTheor
【0104】
多孔膜の物性について測定した結果を表1に示す。多孔膜の種類として、下記の略称を用いた。なお、いずれの多孔膜も水との接触角は90度以下であった。
PES1:ポリエーテルスルホン膜(アズワン製、平均細孔径0.1μm)
PES2:ポリエーテルスルホン膜(GVS製、平均細孔径0.03μm)
PES3:ポリエーテルスルホン膜(アズワン製、平均細孔径0.45μm)
親水性PTFE1:(メルク製、平均細孔径0.10μm)
親水性PTFE2:(住友電工製、平均細孔径0.10μm)
親水性PVDF:(メルク製、平均細孔径0.10μm)
NY:ナイロン膜(アズワン製、平均細孔径0.20μm)
CA:酢酸セルロース膜(柴田化学製、平均細孔径0.20μm)
【0105】
【0106】
〔二酸化炭素の圧力〕
二酸化炭素の圧力の測定方法は、二酸化炭素導入口14の上流に設けた二酸化炭素圧力計20の値と、二酸化炭素導出口13の下流に設けた二酸化炭素圧力計31の値とをそれぞれ読み取ることにより測定し、それぞれPCO2_IN、PCO2_OUTとして記録した。
【0107】
〔電解液の圧力〕
電解液の圧力の測定方法は、電解液導入口12の上流に設けた電解液圧力計17の値と、電解液導出口11の下流に設けた電解液圧力計43の値とをそれぞれ読み取ることにより測定し、それぞれPEL_IN、PEL_OUTとして記録した。
【0108】
[電解性能評価の指標]
二酸化炭素電解装置の性能を、電解槽に定電流を印加する方法によって評価した。二酸化炭素還元反応においては、一酸化炭素、エチレン、水素など様々な物質が生成する場合がある。このため、ファラデー効率、セル電圧、電流密度の性能を評価した。ある生成物(生成物Aとする)が生成した場合の各指標について以下に説明する。
【0109】
〔ファラデー効率〕
ファラデー効率は、電解槽に印加した電流がすべて生成物Aの生成に使われた場合に、単位時間当たり生成するAの量に対して、実際に観測されたAの量の割合を%の単位で示した値である。電解槽に印加した電流値は電気化学測定装置により測定し、実際に生成したAの量はガスクロマトグラフによって測定することによってファラデー効率を算出した。
【0110】
〔セル電圧〕
セル電圧は、電気化学測定装置により測定し、単セルのカソードとアノードとの間にかかる電圧を記録することにより測定した。
【0111】
Aのファラデー効率が高いことはAの選択性が高いことを意味する。また、セル電圧が小さいことは電気エネルギーを効率的に利用できていることを意味する。したがって、物質Aを効率的に生成するためには、高いファラデー効率と、小さいセル電圧を両立することが好ましい。
【0112】
〔電流密度〕
電流密度は、電解槽に印加した電流値は電気化学測定装置により測定し、電流値を電極面積で割ることによって算出した。また、電流密度にAのファラデー効率を掛けた値を「Aの部分電流密度」として算出した。
【0113】
電流密度は生産性の指標となる。特に、Aの部分電流密度が高いことは、生成物Aの単位時間当たりの生産性が高いことを意味する。部分電流密度を高めるためには、二酸化炭素や水などの反応物を反応場に効率的に供給したり、生成した物質を反応場から効率的に排出したりする必要がある。このため、電解槽に印加する電流密度の値を単に大きくしても、生成物Aの部分電流密度が必ずしも大きくなるわけではない。例えば、副生成物である水素の部分電流密度のみが大きくなり、生成物Aの部分電流密度は大きくならないことがある。
【0114】
[実施例1]
(カソード)
カソードとして、Dioxide Materials社製の二酸化炭素還元電極を1cm角に切り出して使用した。Dioxide Materials社製の二酸化炭素還元電極は、カーボンペーパーの片面に撥水加工を施し、撥水加工を施した面に銀粒子とSustainionバインダーを混合した触媒インクを塗布したものである。
【0115】
(二酸化炭素還元電解槽)
図1に示すように二酸化炭素還元電解槽を構成した。電解槽の組み立ては、エンドプレート1上にアノード集電板兼電解液流路板2、アノード3をはめ込んだPTFE製のアノード用ガスケット4、多孔質隔膜5をはめ込んだPTFE製の多孔膜用ガスケット6、カソード7をはめ込んだPTFE製のカソード用ガスケット8、カソード集電板兼ガス流路板9、エンドプレート10の順に重ね、図示しないボルトによって締め付けることによって行った。
【0116】
電解槽外部の配管32,42と接続できるよう、エンドプレート1には電解液導出口11、電解液導入口12を、エンドプレート10には二酸化炭素導出口13、二酸化炭素導入口14を設けた。エンドプレート1、10には、電解液や二酸化炭素をアノード集電板兼電解液流路板2やカソード集電板兼ガス流路板9に供給するための直径2mmの貫通孔を設けた。
【0117】
アノード集電板兼電解液流路板2やカソード集電板兼ガス流路板9には、
図2に示すように、電解液や二酸化炭素が供給される直径2mmの貫通孔a部と、流路板の片面に設けたサーペンタイン状の流路b部を設けた。流路bは幅1mm、深さ1mmの溝が彫られ、1cm角の範囲内に4回の折り返し構造を有している。アノード集電板兼電解液流路板2やカソード集電板兼ガス流路板9は導電性のあるカーボンで構成し、電解槽外部の電源28と接続できる端子2’、9’を設けた。
【0118】
(アノード3)
アノード3として、Dioxide Materials社製の酸素発生電極を1cm角に切り出して使用した。この酸素発生電極は、カーボンペーパーの片面に撥水加工を施し、二酸化イリジウム粒子とPTFEバインダーを混合した触媒インクを撥水加工面に塗布したものである(以下、アノードaとする)。アノード用ガスケット4やカソード用ガスケット8には、PTFEシートに1cm角の孔部を設けたものを使用し、それぞれカソード7やアノード3をはめ込めんだ。
【0119】
(多孔質隔膜5)
多孔質隔膜5として、前記PES1を2cmに切り出して使用した。多孔質隔膜用ガスケット6には、多孔質隔膜5と同じ厚さのPTFEシートに2cm角の孔部を設けたものを使用し、多孔質隔膜5をはめ込めんだ。
【0120】
(カソード7)
カソード7として、SIGRACET社製のマイクロポーラス層付きガス拡散層22BBをガス拡散基材上に、平均粒子径70nmの銅ナノ粒子からなる厚さ18μm(3mg/cm2)の触媒層を形成したガス拡散電極を使用した。
【0121】
(二酸化炭素還元電解装置200)
二酸化炭素還元電解槽を電解槽外部の配管32,42と
図3に示すように接続し、二酸化炭素還元電解装置200とした。アノード集電板兼電解液流路板2やカソード集電板兼ガス流路板9を、導線29を介して電源(直流電源)28と接続した。電解液は、電解液タンク15から、電解液用ポンプ16によって流量を制御して電解液導入口12に供給した。電解液用ポンプ16と電解液導入口12の間の配管42には電解液圧力計17を設けた。電解液導出口11から排出された電解液は、電解液タンク15に戻した。電解液導出口11と電解液タンク15の間には圧力制御弁41を設け、電解液の圧力を制御できるようにした。電解液導出口11と圧力制御弁41の間には電解液圧力計43を設けた。二酸化炭素は、圧力調整器を有する二酸化炭素ボンベ18から、マスフローコントローラー19によって流量を制御して二酸化炭素導入口14に供給した。マスフローコントローラー19と二酸化炭素導入口14の間の配管32には二酸化炭素圧力計20を設けた。二酸化炭素導出口13から排出された還元生成物を含む二酸化炭素は、ガスクロマトグラフ22によって分析を行った。二酸化炭素導出口13とガスクロマトグラフ22の間の配管32には圧力制御弁21を設け、二酸化炭素の圧力を制御できるようにした。二酸化炭素導出口13と圧力制御弁21の間には二酸化炭素圧力計31を設けた。なお、二酸化炭素電解槽においては、電解液流路板と二酸化炭素流路板の圧力損失が1kPa未満であったため、有効数字を考慮すれば電解液圧力計17と電解液圧力計43の値、二酸化炭素圧力計20と二酸化炭素圧力計31は同じ値とみなすことができた。
【0122】
二酸化炭素還元電解槽を用いて二酸化炭素還元電解装置200を構成し、以下の条件で電解液と二酸化炭素の供給を行った。電解液として濃度1MのK2CO3水溶液を用い、電解液用ポンプ16を用いて20mL/minで二酸化炭素還元電解槽に電解液を供給した。気体の二酸化炭素は、マスフローコントローラー19を用いて150mL/minとなるように二酸化炭素還元電解槽に供給した。次に、電解液圧力計17と二酸化炭素圧力計20を確認しながら、二酸化炭素の圧力と電解液の圧力の差が0.1MPaとなるように、圧力制御弁21の開度を調節した。
【0123】
(加湿装置)
また、マスフローコントローラー19と二酸化炭素導入口14の間に、図示しない加湿装置を設置し、二酸化炭素を50mL/minで供給した。加湿装置は、二酸化炭素ガスが純水中をバブリングされる構造となっているため、二酸化炭素還元電解槽Aに供給されるガスは水蒸気と二酸化炭素の混合ガスとなる。なお、混合ガス中の水蒸気の分圧は25℃における飽和水蒸気圧となる。
【0124】
続いて、二酸化炭素還元電解装置200に、直流電源から電流密度200mA/cm2の定電流を供給して運転することで、二酸化炭素還元電解性能を評価した。通電開始から60分経過後に、二酸化炭素還元電解槽Aのカソードから排出された生成物を含む二酸化炭素ガス組成物を、ガスクロマトグラフ22を用いて分析した。ガスクロマトグラフ22で観測された生成物濃度から算出した水素、一酸化炭素、メタン、エチレン、エタンのファラデー効率(以下、H2 FE,CO FE,C2H4 FE,C2H6 FEとも表記する)と、それぞれの部分電流密度、通電開始から60分経過後のセル電圧を表2に示す。
【0125】
また、電解液タンク15の上部には、図示しないアルゴンガス供給ラインとガス排出ラインが設置されており、アルゴンガスを100mL/minで流通させた。アノード3で生成したガスおよびカソード7からアノード3へクロスオーバーしたガスは、電解液流路を経由して電解液タンク15のガス排出ラインから排出される。通電開始から60分経過後に、二酸化炭素還元電解槽Aのアノードから排出された生成物を含むアルゴンガス組成物を、図示しないガスクロマトグラフを用いて分析した。図示しないガスクロマトグラフで観測された生成物濃度から算出した水素、一酸化炭素、メタン、エチレン、エタンのファラデー効率(以下、H2 FE,CO FE,C2H4 FE,C2H6FEとも表記する)と、通電開始から60分経過後のセル電圧を表2に示す。
【0126】
[比較例1]
加湿装置を設置しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0127】
実施例1と比較例1の比較から、加湿装置によってガスクロスオーバーを抑制できることがわかる。
【0128】
[実施例2]
電流密度を400mA/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0129】
[比較例2]
電流密度を400mA/cm2としたこと以外は比較例1と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0130】
実施例2と比較例2の結果から、実施例1よりも大きな電流密度においても、加湿装置によってガスクロスオーバーが抑制できることがわかる。
【0131】
[実施例3]
二酸化炭素を100mL/minで供給したこと以外は実施例2と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0132】
実施例2と3の結果から、加湿した二酸化炭素の供給量を増やすほどガスクロスオーバーがより効果的に抑制されることがわかる。
【0133】
[実施例4]
多孔質隔膜としてPES2を使用したこと以外は実施例3と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0134】
[実施例5]
多孔質隔膜として親水性PTFE2を使用したこと以外は実施例4と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0135】
実施例3~5の結果から、水分保有率が100%以上の多孔質隔膜を使用することで、ガスクロスオーバーがより効果的に抑制されることがわかる。実施例3と4の結果から、水分保有率が100%以上である場合は、細孔径が小さいほどガスクロスオーバーがより効果的に抑制されることがわかる。また、実施例5と比較例2の結果から、水分保有率が低い膜であっても、加湿装置によって十分な水分を供給することでガスクロスオーバーが抑制されることがわかる。
【0136】
[実施例6]
(カソード)
二酸化炭素還元触媒粒子として粒径70nmの銅粒子をエタノール中に分散させ、ガス拡散基材(SIGRACET社製のマイクロポーラス層付きガス拡散層「22BB」(製品名))上に塗工した。塗工は手動スクリーン印刷機(製品名「MEC-2400」ミタニマイクロニクス社製)に、1cm角の開口部を有するスクリーンマスクを取り付けて実施し60℃で10分間乾燥させて触媒層を形成した。
【0137】
前記カソードを用い、二酸化炭素を150mL/minで供給し、電流密度を400mA/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0138】
[比較例3]
加湿装置を設置しなかったこと以外は実施例6と同様の方法で電解評価を実施した。結果を表2に示す。
【0139】
実施例6と比較例3の結果から、エチレンを製造する二酸化炭素還元電解槽においても加湿装置によってガスクロスオーバーが抑制できることがわかる。
【0140】