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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013116
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240124BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240124BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20240124BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240124BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240124BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
F16C33/78 G
F16C19/18
F16C33/20 Z
F16C17/02 Z
F16J15/3232 201
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115067
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J011
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE42
3J006CA01
3J011BA02
3J011KA02
3J011PA10
3J011QA20
3J011SC01
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA05
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA12
3J216BA16
3J216BA24
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB15
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC15
3J216CC24
3J216CC25
3J216CC26
3J216CC33
3J216CC38
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA12
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701DA16
3J701EA03
3J701EA06
3J701EA41
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA38
3J701FA44
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】シール装置を設置する際に摺接環が塑性変形することを回避しやすいハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】シール装置5は、摺接環21と、少なくとも1個の支持軸受22と、第1シールリング23と、第2シールリング24とを有する。摺接環21は、ハブ3の周囲に、外輪2、ハブ3、および転動体4aのいずれにも接触しない状態で配置されている。支持軸受22は、摺接環21を、ハブ3に対して回転可能に支持している。第1シールリング23は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、かつ、摺接環21の表面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第1シールリップ42a、42b、42cを有する。第2シールリング24は、摺接環21に固定され、かつ、回転フランジ10の軸方向内側面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第2シールリップ48を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置と、を備え、
前記シール装置は、摺接環と、少なくとも1個の支持軸受と、第1シールリングと、第2シールリングとを有し、
前記摺接環は、前記ハブの周囲に、前記外輪、前記ハブ、および前記転動体のいずれにも接触しない状態で配置されており、
前記支持軸受は、前記摺接環を、前記ハブに対して回転可能に支持しており、
前記第1シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記摺接環の表面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第1シールリップを有し、
前記第2シールリングは、前記摺接環に固定され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第2シールリップを有する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記支持軸受が、支持外輪、支持内輪、および前記支持外輪の内周面に備えられた支持外輪軌道と前記支持内輪の外周面に備えられた支持内輪軌道との間に配置された複数個の支持転動体とを有し、
前記支持外輪が前記摺接環に内嵌されており、
前記支持内輪が前記ハブに外嵌されている、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記支持軸受が、前記摺接環の内周面に備えられた支持外輪軌道と、前記ハブの外周面に備えられた支持内輪軌道と、前記支持外輪軌道と前記支持内輪軌道との間に配置された複数個の支持転動体を有する、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記支持軸受が、前記摺接環の内周面に固定された滑り軸受により構成されている、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側である。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。
【0005】
特開2014-240679号公報には、金属板により円環状に構成され、ハブに圧入外嵌される摺接環と、それぞれの先端部を摺接環の表面に摺接させる複数本のシールリップを有し、外輪の軸方向外側の端部に固定されるシールリングとを含むシール装置を備えるハブユニット軸受が記載されている。
【0006】
特開2014-240679号公報に記載のハブユニット軸受は、ハブの外周面のうち、摺接環の径方向内端部に備えられた嵌合筒部の軸方向内側に隣接する部分に、径方向外側に突出した凸部を備える。このため、ハブと摺接環との嵌合部でクリープが発生した場合でも、嵌合筒部と凸部との係合に基づいて、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを防止できる。したがって、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することにより、摺接環の表面に対するシールリップの先端部の軸方向の締め代が増大して、シールトルクが増大するといった不都合が生じることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-240679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2014-240679号公報に記載された従来構造では、摺接環の組み付け作業を行う際、具体的には、摺接環をハブに圧入外嵌する際、摺接環を拡径させながら、凸部を乗り越えさせる必要がある。このため、摺接環の組み付け作業に伴って、摺接環が塑性変形するなどの問題を生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、シール装置を設置する際に摺接環が塑性変形することを回避しやすいハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
【0011】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0012】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
【0013】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0014】
前記シール装置は、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0015】
前記シール装置は、摺接環と、少なくとも1個の支持軸受と、第1シールリングと、第2シールリングとを有する。
【0016】
前記摺接環は、前記ハブの周囲に、前記外輪、前記ハブ、および前記転動体のいずれにも接触しない状態で配置されている。
【0017】
前記支持軸受は、前記摺接環を、前記ハブに対して回転可能に支持している。なお、支持軸受を2個以上備える場合には、これらの支持軸受を軸方向に並べて配置することができる。
【0018】
前記第1シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記摺接環の表面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第1シールリップを有する。
【0019】
前記第2シールリングは、前記摺接環に固定され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第2シールリップを有する。
【0020】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記支持軸受が、支持外輪、支持内輪、および前記支持外輪の内周面に備えられた支持外輪軌道と前記支持内輪の外周面に備えられた支持内輪軌道との間に配置された複数個の支持転動体とを有する。前記支持外輪が前記摺接環に内嵌されており、前記支持内輪が前記ハブに外嵌されている。
【0021】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記支持軸受が、前記摺接環の内周面に備えられた支持外輪軌道と、前記ハブの外周面に備えられた支持内輪軌道と、前記支持外輪軌道と前記支持内輪軌道との間に配置された複数個の支持転動体を有する。
【0022】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記支持軸受が、前記摺接環の内周面に固定された滑り軸受により構成されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、シール装置を設置する際に摺接環が塑性変形することを回避しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例のハブユニット軸受の断面図である。
図2図2は、図1のA部拡大図である。
図3図3は、第1例のハブユニット軸受のシール装置を構成する1対の支持軸受の部分断面図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第2例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図5図5は、本発明の実施の形態の第3例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
図6図6は、本発明の実施の形態の第4例のハブユニット軸受についての図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1例]
本発明の実施の形態のハブユニット軸受の第1例について、図1図3を用いて説明する。
【0026】
本発明のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に、本発明を適用する場合について説明する。
【0027】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。
【0028】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1の右側である。
【0029】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0030】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0031】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道9a、9bを有し、かつ、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジ10を有する。さらに、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部11を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0032】
回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔12を有する。取付孔12のそれぞれには、ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールを、回転フランジ10に対し結合固定するためのスタッド13が圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔12は、円筒孔により構成されている。
【0033】
ブレーキディスクなどの制動用回転体および車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド13を挿通した状態で、スタッド13の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
【0034】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体および車輪を回転フランジに結合固定する。
【0035】
本例では、ハブ3は、内輪14とハブ輪15とを組み合わせてなる。
【0036】
内輪14は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪14は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0037】
ハブ輪15は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、パイロット部11とを備える。
【0038】
ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪14が外嵌される小径段部16を有する。さらに、ハブ輪15は、小径段部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、小径段部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
【0039】
ハブ3は、ハブ輪15の小径段部16に内輪14を外嵌し、かつ、ハブ輪15の段差面17とかしめ部18との間で内輪14を軸方向両側から挟持することにより、内輪14とハブ輪15とを結合固定することで構成されている。
【0040】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0041】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0042】
ただし、本発明のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0043】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器19a、19bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0044】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本発明のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0045】
シール装置5は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、転動体4a、4bが配置された転動体設置空間20の軸方向外側の開口を塞ぐ。シール装置5は、図2に示すように、摺接環21と、少なくとも1個の支持軸受22と、第1シールリング23と、第2シールリング24とを有する。
【0046】
摺接環21は、ハブ3の周囲に、外輪2、ハブ3、および転動体4a、4bのいずれにも接触しない状態で配置されている。摺接環21は、たとえば、ステンレス鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。
【0047】
本発明において、摺接環の具体的な形状は任意であるが、摺接環は、少なくとも、径方向に伸長する部分と、軸方向に伸長し、径方向内側に前記少なくとも1個の支持軸受22が配置される部分とを備える。本例では、摺接環21は、径方向に伸長する部分に相当する、曲板部27、側板部28、傾斜板部29、および外側鍔部30と、軸方向に伸長し、径方向内側に前記少なくとも1個の支持軸受22が配置される部分に相当する、円筒部25とを備える。本例では、摺接環21は、内側鍔部26をさらに備える。
【0048】
具体的には、円筒部25は、円筒状に構成されている。曲板部27は、円環状に構成されており、円筒部25の軸方向外側の端部から軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に曲線的に傾斜している。側板部28は、円輪状に構成されており、曲板部27の径方向外端部から径方向外側に向けて伸長している。傾斜板部29は、円すい筒状に構成されており、側板部28の径方向外側の端部から軸方向内側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に直線的に傾斜している。外側鍔部30は、円輪状に構成されており、傾斜板部29の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて伸長している。内向鍔部26は、円輪状に構成されており、円筒部25の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて伸長している。
【0049】
支持軸受22は、摺接環21を、ハブ3に対して回転可能に支持している。本例では、支持軸受22は、1対備えられている。1対の支持軸受22は、軸方向に並べて配置されている。ただし、本発明を実施する場合、支持軸受22の個数は、1個または3個以上とすることもできる。
【0050】
本発明において、支持軸受のタイプは任意であり、具体的には、転がり軸受と滑り軸受とのいずれを採用するか、転がり軸受を採用する場合に、軌道輪やシールリングを備えているか、およびいかなる転動体を使用するかなどは、任意である。本例では、1対の支持軸受22を構成するそれぞれの支持軸受22は、支持外輪31、支持内輪32、および支持外輪31の内周面に備えられた支持外輪軌道33と支持内輪32の外周面に備えられた支持内輪軌道34との間に配置された複数個の支持転動体35とを有する。支持転動体35として、玉を使用している。支持外輪軌道33および支持内輪軌道34のそれぞれは、円弧形の断面形状を有する溝により構成されている。1対の支持軸受22を構成するそれぞれの支持軸受22は、支持外輪31の内周面と支持内輪32の外周面との間に存在する内部空間の軸方向両側の開口のうち、隣り合う支持軸受22と反対側の開口を塞ぐ摺接型のシールリング36を有する。シールリング36の径方向外端部は、支持外輪31の軸方向端部内周面に係止されている。シールリング36の径方向内端部に備えられたリップの先端部は、支持内輪32の軸方向端部の表面に摺接している。
【0051】
1対の支持軸受22の支持外輪31は、摺接環21に内嵌されている。具体的には、1対の支持軸受22の支持外輪31は、摺接環21の円筒部に径方向のがたつきなく内嵌されている。さらに、この状態で、1対の支持軸受22の支持外輪31は、内側鍔部26と、円筒部25と曲板部27との接続部の内周面に係止された止め輪37とにより、軸方向両側から挟持されている。これにより、1対の支持軸受22の支持外輪31と摺接環21との軸方向の相対変位が阻止されている。
【0052】
1対の支持軸受22の支持内輪32は、ハブ3に外嵌されている。具体的には、1対の支持軸受22の支持内輪32は、ハブ3の外周面のうち、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する円筒面状の溝肩部38に圧入により外嵌されている。さらに、この状態で、1対の支持軸受22の支持内輪32は、ハブ3のうち、溝肩部38の軸方向外側の端部に備えられた、軸方向内側を向いた段差面39と、溝肩部38の軸方向内側の端部に係止された止め輪40とにより、軸方向両側から挟持されている。これにより、1対の支持軸受22の支持内輪32とハブ3との軸方向の相対変位が阻止されている。
【0053】
本例では、この状態で、摺接環21は、1対の支持軸受22により、ハブ3に対する回転を可能に、かつ、ハブ3に対する軸方向の相対変位を不能に、支持されている。さらに、摺接環21は、外輪2、ハブ3、および転動体4aのいずれにも接触していない。摺接環21の傾斜板部29の軸方向内側部分の内周面は、外輪2の軸方向外側の端部外周面に備えられた、軸方向外側に向かうにしたがって直径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面部41に対向している。
【0054】
第1シールリング23は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、かつ、摺接環21の表面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第1シールリップ42a、42b、42cを有する。本例では、第1シールリング23は、3本の第1シールリップ42a、42b、42cを有する。ただし、本発明を実施する場合、第1シールリップの本数を、3本以外の本数とすることもできる。
【0055】
本例では、第1シールリング23は、芯金43と、シール材44とを備える。
【0056】
芯金43は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金43は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部45と、シール嵌合筒部45の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった支持板部46とを有する。
【0057】
シール材44は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により構成され、芯金43の支持板部46の表面に加硫接着により結合固定されている。3本の第1シールリップ42a、42b、42cは、シール材44に備えられている。シール材44は、3本の第1シールリップ42a、42b、42cに加え、基部47を備える。なお、図2では、それぞれの第1シールリップ42a、42b、42cを、自由状態で示している。
【0058】
基部47は、支持板部46の表面、具体的には、支持板部46の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側の端部を覆っている。
【0059】
3本の第1シールリップ42a、42b、42cのうち、最も径方向外側の第1シールリップ42aは、基部47のうちで支持板部46の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、側板部28の軸方向内側面に接触させている。径方向外側から2番目の第1シールリップ42bは、基部47のうちで支持板部46の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、曲板部27の軸方向内側面に接触させている。最も径方向内側の第1シールリップ42cは、基部47のうちで支持板部46の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、円筒部25の外周面に接触させている。
【0060】
これにより、摺接環21と第1シールリング23との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間20に侵入したり、転動体設置空間20に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0061】
第2シールリング24は、摺接環21に固定され、かつ、回転フランジ10の軸方向内側面にその先端部を接触させる少なくとも1本の第2シールリップ48を有する。本例では、第2シールリング24は、1本の第2シールリップ48を有する。ただし、本発明を実施する場合、第2シールリップの本数を、2本以上とすることもできる。
【0062】
本例では、第2シールリング24は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により、全体を円環状に構成されている。第2シールリング24は、摺接環21の側板部28の軸方向外側面に加硫接着により結合固定されている。第2シールリング24は、1本の第2シールリップ48に加え、基部49および1本の補助リップ50を備える。なお、図2では、第2シールリップ48および補助リップ50を、自由状態で示している。
【0063】
基部49は、側板部28の軸方向外側面を覆っている。
【0064】
第2シールリップ48は、基部49の径方向内側部から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内端部に存在する平面部51に接触させている。補助リップ50は、基部49の径方向外側部から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、回転フランジ10の軸方向内側面のうち、平面部51の径方向外側に隣接する部分に存在する径方向外側を向いた段部52に近接対向させている。
【0065】
これにより、摺接環21とハブ3との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間20に侵入したり、転動体設置空間20に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、本発明を実施する場合には、補助リップを省略することもできる。
【0066】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間20の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ53(図1参照)をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間20に侵入したり、転動体設置空間20に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ53に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間20の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0067】
本例のハブユニット軸受1では、シール装置5を構成する摺接環21は、ハブ3の外周面に圧入外嵌されておらず、ハブ3に対して、1対の支持軸受22により回転可能に支持されている。本例では、シール装置5を設置する際に、摺接環21の組み付け作業を、たとえば、次のようにして行うことができる。まず、摺接環21の円筒部25に、1対の支持軸受22の支持外輪31を径方向のがたつきなく内嵌し、内嵌後に止め輪37を取り付けて、該支持外輪31を、内側鍔部26と止め輪37とにより軸方向両側から挟持する。次に、1対の支持軸受22の支持内輪32を、ハブ3の溝肩部38に圧入により外嵌し、かつ、該支持内輪32を、段差面39と止め輪40とにより軸方向両側から挟持する。
【0068】
このように本例では、従来構造と異なり、シール装置5を設置する際に、摺接環21を凸部を乗り越えるように拡径させるなどする必要がなく、摺接環21に対して強い力が加わらない。このため、シール装置5を設置する際に、摺接環21が塑性変形することを回避しやすい。
【0069】
本例では、外輪2に固定された第1シールリング23の第1シールリップ42a、42b、42cの先端部と摺接環21の表面との接触部に摩擦トルクT1が作用し、摺接環21に固定された第2シールリング24の第2シールリップ48の先端部と回転フランジ10の平面部51との接触部に摩擦トルクT2が作用し、1対の支持軸受22のシールリング36のリップの先端部と支持内輪32の表面との接触部に摩擦トルクT3が作用する。それぞれの接触部の摩擦トルクT1、T2、T3は、運転時の温度変化および圧力変化によりリップの貼り付きなどが発生することに基づいて、その大きさが個々に変化する場合がある。本例では、運転時の状況に応じて、摩擦トルクT1と、摩擦トルクT2およびT3の和(T2+T3)とのうち、その大きさが小さい方の接触部で摺動が発生し、その大きさが大きい方の接触部で摺動が止まる。このため、シール装置5のシールトルクは、摩擦トルクT1と、摩擦トルクT2およびT3の和(T2+T3)とのうち、その大きさが小さい方のトルクとなる。したがって、シール装置5のシールトルクが増大することを抑えられる。
【0070】
さらに、本例では、1対の支持軸受22の支持外輪31と摺接環21との軸方向の相対変位が阻止されており、1対の支持軸受22の支持内輪32とハブ3との軸方向の相対変位が阻止されており、支持外輪軌道33および支持内輪軌道34のそれぞれと複数個の支持転動体35との係合に基づいて、支持外輪31と支持内輪32との軸方向の相対変位が阻止されている。すなわち、摺接環21とハブ3との軸方向の相対変位が阻止されている。したがって、ハブ3に対して摺接環21が軸方向内側に過度に移動して、摺接環21が軸方向外側列の転動体4aに接触するといった不都合が生じることを防止できる。
【0071】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図4を用いて説明する。
【0072】
本例の構造では、1対の支持軸受22aを構成するそれぞれの支持軸受22aは、摺接環21aの円筒部25の内周面に備えられた支持外輪軌道33aと、ハブ3aの溝肩部38に備えられた支持内輪軌道34aと、支持外輪軌道33aと支持内輪軌道34aとの間に配置された、複数個の支持転動体35を有する。支持転動体35として、玉を使用している。支持外輪軌道33および支持内輪軌道34のそれぞれは、円弧形の断面形状を有する溝により構成されている。支持外輪軌道33および支持内輪軌道34のそれぞれと、複数個の支持転動体35との係合に基づいて、ハブ3aと摺接環21aとの軸方向の相対変位が阻止されている。なお、本発明を実施する場合には、支持転動体35を保持するための保持器を設けることもできる。
【0073】
本例の構造では、支持軸受22aが、独立部品としての支持外輪および支持内輪を備えていない。摺接環21aは、支持外輪の軸方向の位置決めをするための内側鍔部を備えていない。ハブ3aは、支持内輪の軸方向の位置決めをするための段差面を備えていない。本例では、支持外輪および支持内輪の軸方向の位置決めをするための止め輪が存在しない。このため、部品点数の削減、加工工数の削減による、生産コストの低減を図れる。第2例のその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0074】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図5を用いて説明する。
【0075】
本例の構造では、ハブ3bの溝肩部38と摺接環21bの円筒部25の内周面との間に配置された支持軸受22bは、円筒部25の内周面に固定された滑り軸受により構成されている。すなわち、具体的には、支持軸受22bは、滑りやすい合成樹脂などの低摩擦材により円筒状に構成されている。支持軸受22bの外周面は、円筒部25の内周面に接着などにより結合固定されている。支持軸受22bの内周面は、溝肩部38に径方向のがたつきなく外嵌されている。
【0076】
本例では、溝肩部38の軸方向内端部に係止された止め輪40を、摺接環21bの円筒部25の軸方向内側の端面に接触させている。これにより、ハブ3bに対して摺接環21bが軸方向内側に移動して、円筒部25の軸方向内側の端面が軸方向外側列の転動体4aに接触するといった不都合が生じることを防止している。なお、本発明を実施する場合には、支持軸受22bの軸方向内側の端部に径方向外側に向けて突出する鍔部を設け、該鍔部により円筒部25の軸方向内側の端面を覆うこともできる。そして、該鍔部を備えた支持軸受22bの軸方向内側面に、止め輪40を接触させることができる。
【0077】
本例では、支持軸受22bとして、複数個の部品からなる転がり軸受に代えて、単一部品からなる滑り軸受を用いているため、部品点数の削減、および、組み付け作業の容易化による、生産コストの低減を図れる。第3例のその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0078】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、図6を用いて説明する。
【0079】
本例の構造では、第3例の構造との比較で、止め輪40(図5参照)を省略することにより、さらなる生産コストの低減を図っている。本例では、摺接環21bの軸方向位置が、外輪2に固定された第1シールリング23を構成する第1シールリップ42a、42b、42cの摺接環21bに対する緊迫力と、摺接環21bに固定された第2シールリング24を構成する第2シールリップ48の回転フランジ10に対する緊迫力とがバランスする位置に、自動調整される。第4例のその他の構成および作用効果は、第3例と同様である。
【0080】
本発明は、上述した本発明の実施の形態の各例の構造を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3、3a、3b ハブ
4a、4b 転動体
5 シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 取付孔
13 スタッド
14 内輪
15 ハブ輪
16 小径段部
17 段差面
18 かしめ部
19a、19b 保持器
20 転動体設置空間
21、21a、21b 摺接環
22、22a、22b 支持軸受
23 第1シールリング
24 第2シールリング
25 円筒部
26 内側鍔部
27 曲板部
28 側板部
29 傾斜板部
30 外側鍔部
31 支持外輪
32 支持内輪
33、33a 支持外輪軌道
34、34a 支持内輪軌道
35 支持転動体
36 シールリング
37 止め輪
38 溝肩部
39 段差面
40 止め輪
41 傾斜面部
42a、42b、42c 第1シールリップ
43 芯金
44 シール材
45 シール嵌合筒部
46 支持板部
47 基部
48 第2シールリップ
49 基部
50 補助リップ
51 平面部
52 段部
53 軸受キャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6