(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131174
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】無鉛圧電磁器組成物、圧電素子及び装置
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20240920BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/078 20230101ALI20240920BHJP
H10N 30/05 20230101ALI20240920BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/87
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/50
H10N30/078
H10N30/05
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041272
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 吉進
(72)【発明者】
【氏名】山田 嗣人
(72)【発明者】
【氏名】市橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠島 崇
(72)【発明者】
【氏名】小塚 久司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】無鉛圧電磁器組成物における圧電特性及び高温耐久性を向上させる。
【解決手段】無鉛圧電磁器組成物において、複数の粒子10の少なくとも一部は、コア部とシェル部とを備えたコアシェル構造を有し、かつ下記の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子である。
R
2/R
1≧1.2…関係式(1)
R
3/R
4≧1.3…関係式(2)
R
1=K
c/(K
c+Na
c)
R
2=K
s/(K
s+Na
s)
R
3=Na
c/(K
c+Na
c)
R
4=Na
s/(K
s+Na
s)
K
c:コア部に存在するKの含有割合(原子%)
Na
c:コア部に存在するNaの含有割合(原子%)
K
s:シェル部に存在するKの含有割合(原子%)
Na
s:シェル部に存在するNaの含有割合(原子%)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の複数の粒子を主成分として含有する無鉛圧電磁器組成物であって、
複数の前記粒子の少なくとも一部は、コア部とシェル部とを備えたコアシェル構造を有し、かつ下記の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子である、無鉛圧電磁器組成物。
R2/R1≧1.2 …関係式(1)
R3/R4≧1.3 …関係式(2)
但し、R1、R2、R3、R4は以下の比の値を示している。
R1=Kc/(Kc+Nac)
R2=Ks/(Ks+Nas)
R3=Nac/(Kc+Nac)
R4=Nas/(Ks+Nas)
また、Kc、Nac、Ks、Nasは以下の含有割合を示している。
Kc:前記コア部に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nac:前記コア部に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
Ks:前記シェル部に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nas:前記シェル部に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
【請求項2】
前記無鉛圧電磁器組成物の切断面に現れた複数の前記コアシェル粒子を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により分析して、
各前記コアシェル粒子について前記コア部の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S1を算出し、
各前記コアシェル粒子について前記シェル部の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S2を算出した場合に、
前記平均断面積S1と前記平均断面積S2とが以下の関係式(3)を満たす、請求項1に記載の無鉛圧電磁器組成物。
0.06≦S2/S1≦0.37 …関係式(3)
【請求項3】
Ti(チタン)を含むスピネル化合物からなる副成分を含む、請求項1又は請求項2に記載の無鉛圧電磁器組成物。
【請求項4】
前記ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、組成式(KaNabCc)d(DeEf)Og
(元素CはBa(バリウム),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム)の一種以上、
元素Dは少なくともNb(ニオブ)を含み且つTa(タンタル),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),Sn(スズ),Sb(アンチモン),Si(ケイ素)のうちの少なくとも一種を含んでもよく、
元素EはMg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Sc(スカンジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Y(イットリウム)の一種以上、
a+b+c=1、a+b≠0、0.80≦d≦1.10、e+f=1を満たし、gはペロブスカイトを構成する任意の値)で表される、請求項1又は請求項2に記載の無鉛圧電磁器組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の無鉛圧電磁器組成物で形成された圧電磁器と、
前記圧電磁器に取り付けられた電極と、
を備える、圧電素子。
【請求項6】
前記電極は、卑金属を主成分とする、請求項5に記載の圧電素子。
【請求項7】
請求項5に記載の圧電素子を有する、装置。
【請求項8】
ノックセンサ、超音波振動子、切削工具、超音波センサ、及びアクチュエータからなる群より選択される、請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無鉛圧電磁器組成物、圧電素子及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧電磁器組成物において、鉛が含有されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が用いられていた。環境負荷低減などのために鉛を用いない材料が求められている。例えば、特許文献1,2には、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を主成分とする無鉛圧電磁器組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-139132号公報
【特許文献2】国際公開第2017/6984号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の無鉛圧電磁器組成物では、圧電特性は必ずしも十分でなく、高温耐久性も十分ではなかった。そこで、更なる圧電特性及び高温耐久性の向上が求められている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、無鉛圧電磁器組成物における圧電特性及び高温耐久性を向上させることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の複数の粒子を主成分として含有する無鉛圧電磁器組成物であって、
複数の前記粒子の少なくとも一部は、コア部とシェル部とを備えたコアシェル構造を有し、かつ下記の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子である、無鉛圧電磁器組成物。
R2/R1≧1.2 …関係式(1)
R3/R4≧1.3 …関係式(2)
但し、R1、R2、R3、R4は以下の比の値を示している。
R1=Kc/(Kc+Nac)
R2=Ks/(Ks+Nas)
R3=Nac/(Kc+Nac)
R4=Nas/(Ks+Nas)
また、Kc、Nac、Ks、Nasは以下の含有割合を示している。
Kc:前記コア部に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nac:前記コア部に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
Ks:前記シェル部に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nas:前記シェル部に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
【0006】
〔2〕前記無鉛圧電磁器組成物の切断面に現れた複数の前記コアシェル粒子を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により分析して、
各前記コアシェル粒子について前記コア部の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S1を算出し、
各前記コアシェル粒子について前記シェル部の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S2を算出した場合に、
前記平均断面積S1と前記平均断面積S2とが以下の関係式(3)を満たす、〔1〕に記載の無鉛圧電磁器組成物。
0.06≦S2/S1≦0.37 …関係式(3)
【0007】
〔3〕Ti(チタン)を含むスピネル化合物からなる副成分を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の無鉛圧電磁器組成物。
【0008】
〔4〕前記ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、組成式(KaNabCc)d(DeEf)Og
(元素CはBa(バリウム),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム)の一種以上、
元素Dは少なくともNb(ニオブ)を含み且つTa(タンタル),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),Sn(スズ),Sb(アンチモン),Si(ケイ素)のうちの少なくとも一種を含んでもよく、
元素EはMg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Sc(スカンジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Y(イットリウム)の一種以上、
a+b+c=1、a+b≠0、0.80≦d≦1.10、e+f=1を満たし、gはペロブスカイトを構成する任意の値)で表される、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の無鉛圧電磁器組成物。
【0009】
〔5〕〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の無鉛圧電磁器組成物で形成された圧電磁器と、
前記圧電磁器に取り付けられた電極と、
を備える、圧電素子。
【0010】
〔6〕前記電極は、卑金属を主成分とする、〔5〕に記載の圧電素子。
【0011】
〔7〕〔5〕又は〔6〕に記載の圧電素子を有する、装置。
【0012】
〔8〕ノックセンサ、超音波振動子、切削工具、超音波センサ、及びアクチュエータからなる群より選択される、〔7〕に記載の装置。
【発明の効果】
【0013】
本開示の無鉛圧電磁器組成物では、圧電特性及び高温耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の無鉛圧電磁器組成物の切断面をあらわす模式図である。
【
図2】コアシェル粒子のコア部及びシェル部を通る直線上に測定点を設定した場合のK(カリウム)元素の含有率を模式的に示した図である。
【
図3】実施形態の圧電素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態の一つである圧電フィルタを示す模式図である。
【
図6】実施形態の一つである超音波振動子を示す模式図である。
【
図7】実施形態の一つである超音波センサを示す模式図である。
【
図8】実施形態の一つである圧電トランスを示す模式図である。
【
図9】実施形態の一つである圧電超音波トランスデューサを示す模式図である。
【
図10】実施形態の一つである圧電ジャイロセンサを示す模式図である。
【
図11】実施形態の一つであるノックセンサを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を詳しく説明する。
1.(1)無鉛圧電磁器組成物
本開示の一実施形態としての無鉛圧電磁器組成物は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の複数の粒子を主成分として含有する。なお、主成分とは、含有率が50体積%以上の物質をいう。複数の粒子の少なくとも一部の粒子は、コア部とシェル部とを備えたコアシェル構造を有する。
【0016】
1-1.ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物
本開示のニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物(以下、単に「ペロブスカイト型酸化物」ともいう。)のアルカリ系成分は、アルカリ金属(K(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)等)、及びアルカリ土類金属(Ba(バリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)等)のいずれであってもよい。本開示のペロブスカイト型酸化物のアルカリ系成分には、アルカリ金属(K(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)等)が含まれることが好ましく、更にアルカリ土類金属(Ba(バリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)等)が含まれることがより好ましい。
【0017】
このようなペロブスカイト型酸化物としては、以下の組成式(1)で表されるものが好ましく例示される。なお、O原子はペロブスカイト構造を維持できる量とされている。
(KaNabCc)d(DeEf)Og …組成式(1)
【0018】
上記組成式(1)において、ペロブスカイト構造のいわゆるAサイトには、K(カリウム),Na(ナトリウム)、元素Cが配置される。元素Cは、Ba(バリウム),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム)のうちの一種以上である。
ペロブスカイト構造のいわゆるBサイトには、元素D,元素Eが配置される。元素Dは、少なくともNb(ニオブ)を含み且つTa(タンタル),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),Sn(スズ),Sb(アンチモン),Si(ケイ素)のうちの少なくとも一種を含む。元素Eは、Mg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Sc(スカンジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Y(イットリウム)の一種以上である。
【0019】
上記組成式(1)において、それぞれの元素割合は、無鉛圧電磁器組成物の圧電特性の向上の観点から、以下の範囲が好ましい。
0≦a≦1.00、
0≦b≦1.00、
0≦c≦0.20、
0.80≦d≦1.10、
0≦e≦1.00、
0≦f≦0.10、
gの値は、ペロブスカイト型結晶構造を維持し得る任意の値
a+b+c=1
a+b≠0
e+f=1
【0020】
ペロブスカイト型酸化物の主成分には、電気機械結合係数の増大、及び焼結性向上の観点からMn(マンガン)が含まれることが好ましい。
【0021】
無鉛圧電磁器組成物におけるマンガン(Mn)の含有量は、Aサイト、及びBサイトを構成する元素の合計100モル%に対し、0モル%より大きく10.0モル%以下であることが好ましい。無鉛圧電磁器組成物におけるMn(マンガン)の含有割合は、0.3モル%以上8.0モル%以下であることがより好ましい。無鉛圧電磁器組成物におけるMn(マンガン)の含有割合は、0.6モル%より大きく5.0モル%以下であることが更に好ましい。
【0022】
ペロブスカイト型酸化物の組成式の好適な例として、以下の組成式(2)式で表されるものが好ましい。
(KaNabBac)d(Nbe1Tie2Zre3Mnf)Og …組成式(2)
0≦a≦1.00、
0≦b≦1.00、
0≦c≦0.20、
0.80≦d≦1.10、
0≦e1≦1.00、
0≦e2≦0.20、
0≦e3≦0.20、
0≦f≦0.10、
gの値は、ペロブスカイト型結晶構造を維持し得る任意の値
a+b+c=1
a+b≠0
e1+e2+e3+f=1
【0023】
1-2.粒子10
図1は、無鉛圧電磁器組成物の断面を表す模式図である。無鉛圧電磁器組成物には、ペロブスカイト型酸化物の複数の粒子10が含有されている。無鉛圧電磁器組成物においては、ペロブスカイト型酸化物の粒子10が主成分となっている。なお、主成分とは、含有率が50体積%以上の物質をいう。
【0024】
1-3.粒子10の組成
本開示の無鉛圧電磁器組成物における複数の粒子10の少なくとも一部の粒子は、コア部13とシェル部15とを備えたコアシェル構造を有し、かつ下記の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子11である。
R2/R1≧1.2 …関係式(1)
R3/R4≧1.3 …関係式(2)
但し、R1、R2、R3、R4は以下の比の値を示している。
R1=Kc/(Kc+Nac)
R2=Ks/(Ks+Nas)
R3=Nac/(Kc+Nac)
R4=Nas/(Ks+Nas)
また、Kc、Nac、Ks、Nasは以下の含有割合を示している。
Kc:コア部13に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nac:コア部13に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
Ks:シェル部15に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%)
Nas:シェル部15に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)
【0025】
R2/R1は、1.2≦R2/R1≦2.0の関係式を満たすことが好ましく、1.3≦R2/R1≦1.8の関係式を満たすことがより好ましく、1.4≦R2/R1≦1.6の関係式を満たすことが更に好ましい。
R3/R4は、1.3≦R3/R4≦2.0の関係式を満たすことが好ましく、1.4≦R3/R4≦1.9の関係式を満たすことがより好ましく、1.5≦R3/R4≦1.8の関係式を満たすことが更に好ましい。
【0026】
粒子10には、
図1に示すように、コアシェル構造を有さない非コアシェル粒子17が存在していてもよい。
コアシェル粒子11は、コア部13の周囲にシェル部15が存在する。コアシェル粒子11は、コア部13が完全にシェル部15に内包されている状態であってもよい。あるいは、コア部13の一部が露出して粒界19に接し、コア部13のその他の部分がシェル部15に内包される状態であってもよい。
【0027】
本開示のペロブスカイト型酸化物からなる粒子10は、M1元素を含むことが好ましい。M1元素は、Ba(バリウム),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。
粒子10の組成は、上述の組成式(2)式で示される組成が好ましい。
【0028】
1-3-1.コアシェル粒子11の判別、K元素及びNa元素の含有率の測定
コアシェル粒子11の判別は以下のように行うことができる。
収束イオンビーム(FIB)を用いて、無鉛圧電磁器組成物の焼成体を薄片化し、断面観察サンプルを得る。得られた断面観察サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察する。観察視野内には、
図1に模式的に示される切断面1が現れ、切断面1に存在する粒界19に囲まれた粒子10を確認する。
粒子10がコアシェル粒子11であるか否かを区別する方法に特に制限はない。例えば、無鉛圧電磁器組成物を任意の面で切断した断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により元素マッピングを行い、元素マッピング像のコントラストを確認することで区別可能である。さらに、この段階でコアシェル粒子11のコア部13とシェル部15との区別も可能である。また、走査電子顕微鏡(SEM)の反射電子像などでも各粒子がコアシェル粒子11であるか否かの区別、およびコアシェル粒子11におけるコア部13とシェル部15との区別が可能な場合がある。
STEMおよびEDSにおける観察視野の設定方法には特に制限はないが、観察視野の大きさは10μm×10μm、観察視野の倍率は60000倍とすることが好ましい。
【0029】
コアシェル粒子11のコア部13とシェル部15との区別の具体的な方法の一例について説明する。粒子10に対して任意の複数の測定点を設定し、エネルギー分散型X線分析(EDS)の点分析を行うことで、各測定点におけるK(カリウム)の含有率を算出する。
図2は、粒子10を通る直線上に測定点を設定した場合のK(カリウム)の含有率を模式的に示した図である。隣り合う測定点で、一方の測定点のK(カリウム)の含有率に対して他方の測定点のK(カリウム)の含有率が2倍以上となる箇所を特定する。例えば、
図2において、測定点P1のK(カリウム)の含有率(C1程度)に対して、測定点P2のK(カリウム)の含有率(C2程度)が2倍以上となっている。特定した隣り合う測定点の間(例えば中間点等)に、コア部13とシェル部15との境界Bを設定する。粒子10を通る直線として複数のものを設定して
図2と同様の測定を行うことで、コア部13とシェル部15との境界Bをより明確に設定することができる。
なお、観察視野内において、粒子10内でK(カリウム)の偏析が存在しているかは、元素マッピング像のコントラストで確認することもできる。同様にして、観察視野内において、粒子10内でNa(ナトリウム)の偏析が存在しているかは、元素マッピング像のコントラストで確認することもできる。
【0030】
上記K
c、Na
c、K
s、Na
sの各含有率は、次のように測定できる。まず、K
c(コア部13に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%))と、K
s(シェル部15に存在するK(カリウム)の含有割合(原子%))について説明する。コアシェル粒子11においてコア部13及びシェル部15のそれぞれに対して任意に測定点を設定し、エネルギー分散型X線分析(EDS)の点分析を行うことで、各測定点におけるK(カリウム)元素の含有率を算出できる。さらに、各測定点におけるK(カリウム)元素の含有率を平均することにより、コア部13におけるK(カリウム)元素の含有率及びシェル部15におけるK(カリウム)元素の含有率を算出できる。
図2の例では、コア部13のK(カリウム)元素の含有率C1よりもシェル部15のK(カリウム)元素の含有率C2が大きいことが示されている。この
図2では、直線上に測定点を設定しているが、測定点は実際には直線上に並んでいなくてもよい。また、コア部13及びシェル部15のそれぞれに設定される測定点は、任意に設定可能である。
【0031】
Nac(コア部13に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%))と、Nas(シェル部15に存在するNa(ナトリウム)の含有割合(原子%))についても、Kc及びKsと同様に測定できる。コアシェル粒子11においてコア部13及びシェル部15のそれぞれに対して任意に測定点を設定し、エネルギー分散型X線分析(EDS)の点分析を行うことで、各測定点におけるNa(ナトリウム)元素の含有率を算出できる。さらに、各測定点におけるNa(ナトリウム)元素の含有率を平均することにより、コア部13におけるNa(ナトリウム)元素の含有率及びシェル部15におけるNa(ナトリウム)元素の含有率を算出できる。
【0032】
なお、コアシェル粒子11の生成割合は、無鉛圧電磁器組成物の焼成条件(焼成温度、酸素分圧)によって、適宜制御できる。
【0033】
複数の粒子10の少なくとも一部の粒子が、上記関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子11であるため、コア部13とシェル部15との界面においてひずみが生じるため、無鉛圧電磁器組成物の圧電特性が向上すると推測される。
【0034】
1-3-2.平均断面積S1,S2
平均断面積S1,S2の測定方法を説明する。無鉛圧電磁器組成物の切断面に現れた複数のコアシェル粒子11を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により分析する。
各コアシェル粒子11についてコア部13の各断面積を求め、各断面積を平均して平均断面積S1を算出する。具体的には、各断面積は、エネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピング像に画像処理を施し、求めたいコア部13の面積領域を選択し、その領域を占めるピクセルの個数をカウントし、1ピクセルあたりの面積を掛けることで算出できる。測定に用いるコアシェル粒子11の数は、例えば10個とする。
各コアシェル粒子11についてシェル部15の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S2を算出する。具体的には、各断面積は、エネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピング像に画像処理を施し、求めたいシェル部15の面積領域を選択し、その領域を占めるピクセルの個数をカウントし、1ピクセルあたりの面積を掛けることで算出できる。
なお、観察視野から一部がはみ出るコアシェル粒子11については、面積の算出から除外する。すなわち、観察視野内に全体が収まっているコアシェル粒子11のみを面積の算出の対象とした。また、コアシェル粒子11中のポア(空孔)、空隙が析出したピクセルについては面積の算出から除外する。
【0035】
S2/S1は、無鉛圧電磁器組成物における圧電特性及び高温耐久性の向上の観点から、以下の関係式(3)を満たすことが好ましい。
0.06≦S2/S1≦0.37 …関係式(3)
S2/S1は、0.10≦S2/S1≦0.30の関係式を満たすことがより好ましく、0.15≦S2/S1≦0.25の関係式を満たすことが更に好ましい。
【0036】
2.副成分(任意成分)
本開示の実施形態としての無鉛圧電磁器組成物は、ニオブ酸アルカリ系のペロブスカイト型酸化物からなる主成分と異なる副成分を含み得る。副成分は、Tiを含むスピネル化合物であってもよい。本開示における、副成分を構成するTiを含むスピネル化合物は、以下の組成式(3)で表されるものが好ましい。
【0037】
Tiを含むスピネル化合物の組成は、次の組成式(3)式で表すことができる。
MxTiOy…組成式(3)
元素Mは、1価から5価の金属元素であり、Li(リチウム),Na(ナトリウム),K(カリウム),Mg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Sc(スカンジウム),Cr(クロム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Y(イットリウム),Zr(ジルコニウム),Sn(スズ),Sb(アンチモン),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),Si(ケイ素),Hf(ハフニウム)のうちの少なくとも1種である。なお、元素MとしてLi(リチウム)を含む場合には、スピネル化合物を形成するために、上記金属元素のうちのLi(リチウム)以外の他の1種以上の金属元素がLi(リチウム)とともに含まれることが好ましい。係数x、yは、Ti(チタン)の含有量を1としたときの相対値である。スピネル化合物を形成するために、係数xは、0.5≦x≦8.0を満たすことが好ましく、0.5≦x≦5.0を満たすことが更に好ましい。また、係数yは、スピネル化合物を形成する任意の値であるが、典型的には2≦y≦8を満たすことが好ましい。具体的なスピネル化合物としては、例えば、NiFeTiO4,MgFeTiO4,Ni2(Ti,Zr)O4,Ni2(Ti,Hf)O4,Ni1.5FeTi0.5O4,CoMgTiO4,CoFeTiO4,(Fe,Zn,Co)2TiO4,CoZnTiO4,LiMnTiO4を使用することが好ましい。スピネル化合物は、主成分の構造を安定化するので、高い電気機械結合係数を有する無鉛圧電磁器組成物を提供することができる。
【0038】
Tiを含むスピネル化合物は、A-Ti-B-O系化合物も含まれ、以下の組成式(4)又は組成式(5)式の組成を有するものを利用可能である。
A1-xTi1-xB1+xO5 …組成式(4)
A1Ti3B1O9 …組成式(5)
ここで、元素Aはアルカリ金属(K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)等)のうちの少なくとも1種であり、元素BはNb(ニオブ)とTa(タンタル)のうちの少なくとも1種である。上記組成式(4)の係数xは任意の値である。但し、係数xは、0≦x≦0.15を満たすことが好ましい。係数xがこの範囲の値を取れば、化合物の構造が安定し、均一な結晶相を得ることができる。
【0039】
上記組成式(4)式に従った具体的な化合物としては、KTiNbO5,K0.90Ti0.90Nb1.10O5,K0.85Ti0.85Nb1.15O5,RbTiNbO5,Rb0.90Ti0.90Nb1.10O5,Rb0.85Ti0.85Nb1.15O5,CsTiNbO5,Cs0.90Ti0.90Nb1.10O5,KTiTaO5,及びCsTiTaO5などを使用可能である。なお、この化合物の構造的な安定性の観点から、係数xは、元素AがK(カリウム)又はRb(ルビジウム)の場合には0≦x≦0.15を満たすことが好ましく、元素AがCs(セシウム)の場合には0≦x≦0.10を満たすことが好ましい。元素AとしてK(カリウム)を選択し、元素BとしてNb(ニオブ)を選択すれば、高い電気機械結合係数を有する無鉛圧電磁器組成物を提供することができる。
【0040】
上記組成式(4)と組成式(5)で表される副成分は、いずれも元素A(アルカリ金属)と、Ti(チタン)と、元素B(NbとTaのうちの少なくとも1種)の複合酸化物である点で共通している。このように、元素Aと、Ti(チタン)と、元素Bの複合酸化物を「A-Ti-B-O系複合酸化物」と呼ぶ。A-Ti-B-O系複合酸化物(元素Aはアルカリ金属、元素BはNbとTaのうちの少なくとも1種、元素Aと元素BとTiの含有量はいずれもゼロで無い)を利用することが可能である。
【0041】
スピネル化合物は、正スピネル化合物であってもよく、逆スピネル化合物であってもよい。なお、スピネル化合物であるか否かは、粉末X線回折(XRD)の回折結果を使用したリートベルト解析(Rietveld Analysis)を行うことによって判定可能である。
【0042】
副成分の含有割合は、0.5体積%以上10体積%以下が好ましく、2体積%以上7体積%以下であることがより好ましく、3体積%以上5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
3.無鉛圧電磁器組成物の作製方法
3-1.作製方法
図3は、本開示の実施形態における無鉛圧電磁器組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3では、無鉛圧電磁器組成物を作製し、その後、利用態様の一つである圧電素子を作製する一例を示している。以下で作製される第1成分と第2成分とが混合されて、主成分と副成分が構成される。第1成分は、主成分に主に含まれる成分である。第2成分は、副成分に主に含まれる成分である。
【0044】
3-2.仮焼粉末Aの調製
図3に示すように、工程T110では、第1成分の原料として、K
2CO
3粉末、Na
2CO
3粉末、Li
2CO
3粉末、Nb
2O
5粉末、Ta
2O
5粉末、TiO
2粉末、ZrO
2粉末、HfO
2粉末、SnO
2粉末、Sb
2O
3粉末、SiO
2粉末、MnO
2粉末、BaCO
3粉末、CaCO
3粉末、SrCO
3粉末等のうちから、必要なものを選択し、下記組成式(1)における係数a、b、c、d、e、fの値に応じて秤量する。
(K
aNa
bC
c)
d(D
eE
f)O
g …組成式(1)
工程T120では、原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。工程T120では、スラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600℃以上1100℃以下で、1時間以上10時間以下仮焼して仮焼粉末Aを生成する。
【0045】
3-3.仮焼粉末Bの調製
工程T130では、第2成分の原料として、TiO2粉末のほか、Li2CO3粉末,MgO粉末,Al2O3粉末,Sc2O3粉末,Cr2O3粉末,MnO2粉末,Fe2O3粉末,CoO粉末,NiO粉末,ZnO粉末,Ga2O3粉末,Y2O3粉末,ZrO2粉末,CaCO3粉末,SrCO3粉末,BaCO3粉末等のうちから必要なものを選択し、副成分の下記組成式(5)における係数x、yの値に応じて秤量する。なお、第2成分の原料粉末は、副成分に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよく、その他、複数の元素からなる化合物であってもよい。
MxTiOy…組成式(5)
【0046】
工程T140では、第2成分の原料粉末にエタノールを加えてボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。工程T140では、スラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600℃以上1100℃以下で1時間以上10時間以下仮焼して仮焼粉末Bを生成する。この仮焼粉末Bは、スピネル化合物、又は、スピネル化合物の前駆体の粉体である。スピネル化合物の前駆体は、工程T140の仮焼の終了後にはスピネル化合物となっていないが、後述する工程T180の焼成によってスピネル化合物となる物質である。
【0047】
3-4.混合・積層体の形成
工程T150では、仮焼粉末A及び仮焼粉末Bをそれぞれ秤量し、ボールミルにて、分散剤、バインダ及びトルエン等の有機溶剤を加えて粉砕・混合してスラリーとする。その後、ドクターブレード法等を使用してシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作製する。
続いて、内部電極用導電性ペーストを用いて、セラミックグリーンシートの一面に、例えばスクリーン印刷により内部電極となる電極層を形成する。電極層は、例えば卑金属(例えばNi)を主成分とする。
続いて、電極層が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層し、さらにその表裏両面に電極層が形成されていないセラミックグリーンシートを積層し、圧着し、セラミックグリーンシートと電極層とが交互に積層された積層体を得る。
【0048】
3-5.外部電極の形成
工程T160では、積層体の外面に外部電極を形成する。例えば、焼成後の積層体の両面に、スクリーン印刷により、電極用導電性ペーストを塗布し、外部電極を形成する。外部電極は、例えば卑金属(例えばNi)を主成分とする。
【0049】
3-6.脱脂
工程T170では、外部電極が形成された積層体を、例えば200℃以上400℃以下、2時間以上10時間以下保持し、バインダを脱脂する脱脂工程を行う。
【0050】
3-7.焼成
工程T180では、脱バインダ処理後の積層体を、例えば900℃以上1200℃以下で、電極層が酸化しない酸素分圧に調整した還元雰囲気下で2時間以上5時間以下保持して焼成する(共焼成工程)。
【0051】
3-8.分極処理
工程T190では、得られた焼成体に分極処理を行って圧電素子を得る。圧電素子は、無鉛圧電磁器組成物と内部電極とが交互に積層された圧電層と、この圧電層の表裏両面に配された外部電極と、を備える圧電素子を得る。
【0052】
なお、上述した製造方法は一例であり、圧電素子を製造するための他の種々の工程や処理条件を利用可能である。例えば、第1成分の仮焼粉末と第2成分の仮焼粉末を予め別個に生成した後に両者の粉末を混合し焼成する代わりに、最終的な無鉛圧電磁器組成物の組成に応じた量比で原料を混合し、焼成してもよい。ただし、第1成分の仮焼粉末と第2成分の仮焼粉末を予め別個に生成した後に混合する方法によれば、第1成分の組成と第2成分の組成をより厳密に管理し易いので、無鉛圧電磁器組成物の歩留まりを高めることが可能である。
【0053】
なお、本実施形態では、圧電素子が、圧電層と内部電極とが交互に積層された構成を有する例を示したが、圧電素子が、一層の圧電体(無鉛圧電磁器組成物)と、この圧電体の表面に配された電極とを備える単層構造を有する圧電素子であっても構わない。
【0054】
4.無鉛圧電磁器組成物の適用例
4-1.圧電素子20
図4は、本開示の圧電素子の一実施形態としての圧電素子20を示す斜視図である。この圧電素子20は、本開示の無鉛圧電磁器組成物からなる円板状の圧電体23の上面と下面に電極21、22が取り付けられた構成を有している。電極21、22は、卑金属を主成分とすることが好ましい。卑金属としては、例えば、Ni(ニッケル)、Ni(ニッケル)合金、Cu(銅)等が挙げられる。
【0055】
4-2.圧電素子20の適用例
上記圧電素子20は、以下の装置に好適に用いられる。装置として、例えば、圧電フィルタ30、圧電振動子50,70、圧電トランス90、圧電超音波トランスデューサ110、圧電ジャイロセンサ130、ノックセンサ150などがあげられる。また、装置として、モータ、リニアアクチュエータ等の電動機、切削工具などが挙げられる。装置は、圧電体(圧電磁器)23と、電極21,22が取り付けられた圧電素子20を備える。
【0056】
4-3.圧電フィルタ30
図5は、本開示の圧電フィルタの一実施形態としての積層型の圧電フィルタ30を表す模式図である。積層型の圧電フィルタ30は、円柱形状の圧電体(圧電磁器)33と、圧電体33の両面に電極32a、及び32bを備える圧電素子31を有する。圧電素子31は、圧電素子20と同様の構成である。
【0057】
4-4.圧電振動子50(超音波振動子)
図6は、本開示の圧電振動子の一実施形態としての圧電振動子50を示す模式図である。圧電振動子50は、圧電体(圧電磁器)51b,51dと、電極51a,51cを備える圧電素子53を有している。圧電素子53は、圧電素子20と同様の構成である。
【0058】
4-5.圧電振動子70(超音波センサ)
図7は、本開示の圧電振動子の一実施形態としての圧電振動子70を示す模式図である。圧電振動子70は、圧電体(圧電磁器)72cと、電極72a,72bを備える圧電素子72を有している。圧電素子72は、圧電素子20と同様の構成である。
【0059】
4-6.圧電トランス90
図8は、本開示の圧電トランスの一実施形態としての積層型の圧電トランス90を示す模式図である。
積層型の圧電トランス90は、圧電素子93を有している。圧電素子93は、長方形状の多層の圧電体(圧電磁器)92と、多層の圧電体92の各層間に、それぞれ電極91を備える。圧電素子93は、圧電素子20と同様の構成である。
【0060】
4-7.圧電超音波トランスデューサ110
図9は、本開示の圧電超音波トランスデューサの一実施形態としての圧電超音波トランスデューサ110を示す模式図である。圧電超音波トランスデューサ110は、圧電体(圧電磁器)113、圧電体113の両面に塗布された電極115を備える圧電素子111を有している。圧電素子111は、圧電素子20と同様の構成である。
【0061】
4-8.圧電ジャイロセンサ130
図10は、本開示の実施形態1つである圧電ジャイロセンサ130を示す模式図である。圧電ジャイロセンサ130は、圧電体(圧電磁器)132と、圧電体132の両面に塗布された電極131a,131bを備える圧電素子133を有している。圧電素子133は、圧電素子20と同様の構成である。
【0062】
4-9.ノックセンサ150
図11は、本開示の装置の一実施形態であるノックセンサ150の模式図である。ノックセンサ150は、圧電体(圧電磁器)155c、電極155a,155bを備える圧電素子155を有している。圧電素子155は、圧電素子20と同様の構成である。
【実施例0063】
実施例により、本開示をさらに具体的に説明する。
【0064】
1.サンプル組成物の調製、及び評価用の圧電素子の作製
A 実施例
1-1.仮焼粉末Aの調製
第1成分の原料として、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、TiO2粉末、MnO2粉末、BaCO3粉末、ZrO2粉末のうちから必要なものを選択し、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物となるように秤量した。そして、これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得た。乾燥した混合粉末を、例えば大気雰囲気下600℃以上1100℃以下で、1時間以上10時間以下仮焼して仮焼粉末Aを得た。
【0065】
【0066】
1-2.仮焼粉末Bの調製
第2成分の原料として、MnO2粉末、TiO2粉末のうちから必要なものを選択し、MnTi2O4となるように秤量した。そして、これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得た。乾燥した混合粉末を、大気雰囲気下600℃以上1100℃以下で、1時間以上10時間以下仮焼して仮焼粉末Bを得た。
【0067】
1-3.圧電素子の作製
得られた仮焼紛末A、仮焼紛末B、分散剤、バインダ、及びトルエン等の有機溶剤を加えて粉砕・混合してスラリーとした。その後、得られたスラリーに対してドクターブレード法を使用してシート形状に加工することにより、セラミックグリーンシートを作成した。得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して圧着した後、円板状に切断して成形体を得た。得られた成形体の両面に、スクリーン印刷により、電極用導電性ペーストを塗布して、電極層を形成した。電極用導電性ペーストは、実施例ではNi(ニッケル)を主成分とし、比較例ではPt(白金)を主成分とした。
【0068】
電極層が形成された成形体を、200℃以上400℃以下で2時間以上10時間以下保持し、脱バインダ処理を行った。その後、表1に示す焼成温度で、2時間以上5時間以下保持して共焼成した。実施例及び比較例における共焼成時の酸素分圧は、表1に示すように制御した。実施例では、電極層が酸化しない酸素分圧に制御した還元雰囲気下で共焼成を行った。比較例では、大気雰囲気下で共焼成を行った。
【0069】
得られた焼成体を、50℃のシリコーンオイル中にて、5kV/mmの電解を印加して、分極処理を行い、サンプル組成物とした。得られたサンプル組成物は、表2に示される組成(以下に示す組成式で表される組成)の圧電体(ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の複数の粒子を主成分として含有する無鉛圧電磁気組成物)と、圧電体の表面に形成された電極層と、を備える圧電素子である。
(K0.51Na0.47Ba0.02)1.03(Nb0.96Ti0.01Zr0.02Mn0.01)O3±1
【0070】
2.評価
2-1.評価方法
2-1-1.主成分の組成
EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)を用いて、主成分の組成を分析した。サンプル組成物に対して倍率5000倍の像を撮影し、得られた像から任意の粒子内の3点の定量分析を行い、その平均値を主成分の組成とした。結果を表2に示す。
【0071】
【0072】
2-1-2.コアシェル構造の含有率の評価
収束イオンビーム(FIB)を用いて、無鉛圧電磁器組成物の焼成体を薄片化し、断面観察サンプルを得た。得られた断面観察サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察した。断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により元素マッピングを行い、元素マッピング像のコントラストを確認することでコアシェル構造を確認した。具体的には、K(カリウム)のコアシェル構造、及びNa(ナトリウム)のコアシェル構造を確認した。さらに、上記実施形態で示した方法と同様の方法によってコア部13とシェル部15とを区別した。具体的には、粒子を通る直線上に測定点を設定した場合のK(カリウム)の含有率を測定し、隣り合う測定点で、一方の測定点のK(カリウム)の含有率に対して他方の測定点のK(カリウム)の含有率が2倍以上となる箇所を特定した。特定した隣り合う測定点の間(例えば中間点等)に、コア部とシェル部との境界を設定した。
STEMおよびEDSにおける観察視野の大きさは10μm×10μm、観察視野の倍率は60000倍とした。
【0073】
以下の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子が存在していることを確認するために、K(カリウム)及びNa(ナトリウム)の含有割合(原子%)を、次のように測定した。
R2/R1≧1.2 …関係式(1)
R3/R4≧1.3 …関係式(2)
コアシェル粒子においてコア部及びシェル部のそれぞれに対して3カ所に測定点を設定し、エネルギー分散型X線分析(EDS)の点分析を行うことで、各測定点におけるK(カリウム)及びNa(ナトリウム)の含有率を算出した。さらに、各測定点におけるK(カリウム)及びNa(ナトリウム)の含有率を平均することにより、コア部におけるK(カリウム)及びNa(ナトリウム)の含有率及びシェル部におけるK(カリウム)及びNa(ナトリウム)の含有率を算出した。
【0074】
2-1-3.コアシェル構造の断面積の評価
平均断面積S1,S2は以下のように測定した。切断面(断面)に現れた複数のコアシェル粒子を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により分析した。
各コアシェル粒子についてコア部の各断面積を求め、各断面積を平均して平均断面積S1を算出した。具体的には、各断面積は、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるBaの元素マッピング像に画像処理を施し、求めたいコア部の面積領域を選択し、その領域を占めるピクセルの個数をカウントし、1ピクセルあたりの面積を掛けることで算出した。測定に用いるコアシェル粒子の数は、10個とした。
平均断面積S1を算出に用いた各コアシェル粒子についてシェル部の各断面積を求め、各前記断面積を平均して平均断面積S2を算出した。具体的には、各断面積は、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるBaの元素マッピング像に画像処理を施し、求めたいシェル部の面積領域を選択し、その領域を占めるピクセルの個数をカウントし、1ピクセルあたりの面積を掛けることで算出した。
このようにS1,S2を求めてBa元素についてのS2/S1を算出した。
なお、観察視野から一部がはみ出るコアシェル粒子については、面積の算出から除外した。すなわち、観察視野内に全体が収まっているコアシェル粒子のみを面積の算出の対象とした。また、コアシェル粒子中のポア(空孔)、空隙が析出したピクセルについては面積の算出から除外した。
【0075】
2-1-4.圧電定数d33の評価
実施例及び比較例の圧電素子について、圧電定数d33を測定した。圧電定数d33は、d33メータ(ZJ-4B)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0076】
2-1-5.電気機械結合係数の評価
実施例及び比較例の圧電素子について、電気機械結合係数を測定した。電気機械結合係数は、インピーダンスアナライザ(Keysight Technologies社製、E4990A)を使用し、共振-反共振法から算出した。算出結果を表1に示す。
【0077】
2-1-6.高温耐久性の評価
実施例及び比較例の圧電素子について、150℃、100時間、大気雰囲気下で耐久試験(加熱処理)を実施した。耐久試験前後の圧電定数d33を測定し、耐久試験前後の減少率を算出した。
高温耐久性の評価は以下の基準とした。
「A」:減少率が15%以下である。
「B」:減少率が15%より大きい。
【0078】
2-2.評価結果
実施例1~4では、以下の関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子の存在が確認できた。
R2/R1≧1.2 …関係式(1)
R3/R4≧1.3 …関係式(2)
一方で、比較例1では、上記関係式(1)及び(2)を満たすコアシェル粒子の存在が確認できなかった。
実施例1~4は、圧電定数d33、電気機械結合係数、及び高温耐久性が、比較例1に比べて良好であった。
また、実施例1~5では、平均断面積S1に対する平均断面積S2の値(S2/S1)が、以下の関係式(3)を満たしており、これにより、圧電定数d33、電気機械結合係数、及び高温耐久性が良好であることも確認できた。
0.06≦S2/S1≦0.37 …関係式(3)
【0079】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。