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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131181
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】NMR測定用試料管
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01N24/00 510A
G01N24/00 510F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041283
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由宇生
(72)【発明者】
【氏名】戸田 充
(72)【発明者】
【氏名】端 健二郎
(57)【要約】
【課題】NMR測定用試料管において、内容器から外容器へ伝わる熱の量を少なくする。
【解決手段】試料管16は、内容器40及び外容器42を含む。内容器40内に試料が収容される。第1ホルダ44及び第2ホルダ46は、回転中心軸方向(z方向)から内容器40を保持する。第1ホルダ44及び第2ホルダ46は、それぞれ、z方向に伸長しており、断熱材料により構成される。内容器40と外容器42の間に、z方向に広がる筒状の隙間が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの熱線により間接的又は直接的に加熱される試料を収容した内容器と、
前記内容器を収容した外容器であって、回転中心軸方向に伸長したスリーブと、前記スリーブの一方端側に設けられた第1キャップと、前記スリーブの他方端側に設けられた第2キャップと、を有する外容器と、
断熱材料により構成され、前記回転中心軸方向へ伸長しており、前記回転中心軸方向から前記内容器の一方端部を保持する第1保持部材と、
断熱材料により構成され、前記回転中心軸方向へ伸長しており、前記回転中心軸方向から前記内容器の他方端部を保持する第2保持部材と、
を含み、
前記内容器から前記第1保持部材及び前記第2保持部材を介して前記外容器へ熱が伝わる、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項2】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記第1保持部材の熱伝導率及び前記第2保持部材の熱伝導率は、いずれも、前記内容器の熱伝導率より小さい、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項3】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記内容器と前記外容器の間に前記回転中心軸方向に伸長した筒状の隙間が設けられ、
前記筒状の隙間は、前記回転中心軸方向において前記内容器の側面を超えている、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項4】
請求項3記載のNMR測定用試料管において、
前記第1保持部材は、前記内容器の一方端部を保持する第1近位端部と、前記第1近位端部から離れた第1遠位端部と、前記第1近位端部と前記第1遠位端部の間の第1中間部と、を含み、
前記第2保持部材は、前記内容器の他方端部を保持する第2近位端部と、前記第2近位端部から離れた第2遠位端部と、前記第2近位端部と前記第2遠位端部の間の第2中間部と、を含み、
前記筒状の隙間は、前記第1近位端部の側面、前記第1中間部の側面、前記第2近位端部の側面、及び、前記第2中間部の側面を包み込んでいる、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項5】
請求項4記載のNMR測定用試料管において、
前記第1キャップにより前記第1遠位端部が保持されており、
前記第2キャップにより前記第2遠位端部が保持されている、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項6】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は同じ形態を有し、
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は互いに逆向きで配置されている、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項7】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記第1キャップ及び前記第2キャップの内で少なくとも前記第1キャップは、前記熱線を通過させる空洞を有し、
前記第1保持部材及び前記第2保持部材の内で少なくとも前記第1保持部材は、前記熱線を通過させる空洞を有する、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項8】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記熱線はレーザー光であり、
前記内容器が前記レーザー光を吸収し、これにより前記内容器において熱が生じ、
前記内容器で生じた熱が前記試料に伝わる、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項9】
請求項8記載のNMR測定用試料管において、
前記内容器は、
前記レーザー光を吸収する底壁を有し、前記試料を収容した本体と、
前記本体が有する開口を塞ぐ開閉可能な蓋と、
を含む、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項10】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は、それぞれ、前記回転中心軸方向に伸長した複数のスリットを含む、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【請求項11】
請求項1記載のNMR測定用試料管において、
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は、それぞれ、ジグザグ熱伝導経路を生じさせる内筒、中間筒及び外筒を含む多重構造を備える、
ことを特徴とするNMR測定用試料管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMR測定用試料管に関し、特に、MASモジュール内に配置されるNMR測定用試料管に関する。
【背景技術】
【0002】
固体試料のNMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定では、必要に応じて、MAS(Magic-Angle Spinning)モジュールが用いられる。MASモジュールは、NMR測定用プローブ内に配置され、試料管を静磁場方向に対して所定角度(54.7°)傾けつつ、試料管を高速で回転させる装置である。MASモジュールに試料管がセットされた状態において試料管内の試料を加熱することにより試料の温度を操作したい場合がある。
【0003】
特許文献1には、MASモジュールを備えたNMR測定用プローブが開示されている。MASモジュール内には試料管が配置されている。試料管内の試料に対して赤外線が照射されている。具体的には、試料管は、外容器と、それに収容された内容器と、を有する。内容器の中に試料が収容されている。内容器は、透明な蓋を有する。その透明な蓋を通じて試料に対して赤外線が照射され、これにより試料が加熱されている。内容器は、外容器の内面から径方向に突出した複数のリブによって保持されている。換言すれば、内容器は径方向から保持されている。内容器から外容器への熱伝導の方向は径方向である。
【0004】
上記特許文献1に開示された構成では、試料管の直径を小さくすればするほど、内容器から外容器への熱伝導経路が短くなるので、流出する熱量を抑制することが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5233040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、NMR測定用試料管において、内容器から外容器へ伝わる熱の量を少なくすることにある。あるいは、本発明の目的は、内容器の中に収容された試料の温度を高められるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るNMR測定用試料管は、外部からの熱線により間接的又は直接的に加熱される試料を収容した内容器と、前記内容器を収容した外容器であって、回転中心軸方向に伸長したスリーブと前記スリーブの一方端側に設けられた第1キャップと前記スリーブの他方端側に設けられた第2キャップとを有する外容器と、断熱材料により構成され、前記回転中心軸方向へ伸長しており、前記回転中心軸方向から前記内容器の一方端部を保持する第1保持部材と、断熱材料により構成され、前記回転中心軸方向へ伸長しており、前記回転中心軸方向から前記内容器の他方端部を保持する第2保持部材と、を含み、前記内容器から前記第1保持部材及び前記第2保持部材を介して前記外容器へ熱が伝わる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NMR測定用試料管において、内容器から外容器へ伝わる熱の量が少なくなる。あるいは、本発明によれば、NMR測定用試料管において、内容器の中に収容された試料の温度を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る試料管を収容したMASモジュールを示す断面図である。
図2】実施形態に係る試料管を示す斜視断面図である。
図3】実施形態に係る試料管を示す断面図である。
図4】試料管の変形例を示す断面図である。
図5】保持部材の第1変形例を示す斜視図である。
図6】保持部材の第2変形例を示す斜視断面図である。
図7】保持部材の第3変形例を示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(1)実施形態の概要
実施形態に係るNMR測定用試料管は、内容器、外容器、第1保持部材、及び、第2保持部材を有する。内容器は、外部からの熱線により間接的又は直接的に加熱される試料を収容した容器である。外容器は、内容器を収容した容器であり、回転中心軸方向に伸長したスリーブと、スリーブの一方端側に設けられた第1キャップと、スリーブの他方端側に設けられた第2キャップと、を有する。第1保持部材は、断熱材料により構成され、回転中心軸方向へ伸長しており、回転中心軸方向から内容器の一方端部を保持する。第2保持部材は、断熱材料により構成され、回転中心軸方向へ伸長しており、回転中心軸方向から内容器の他方端部を保持する。内容器から第1保持部材及び第2保持部材を介して外容器へ熱が伝わる。
【0012】
上記構成によれば、第1保持部材及び第2保持部材が回転中心軸方向から内容器を保持しているので、内容器から外容器までの熱伝導経路を長くすることが可能となる。試料管それ全体は回転中心軸方向に伸長しているので、回転中心軸方向に伸長した断熱材料を用いるのは非常に合理的である。よって、上記構成によれば、試料管を細径化できるので、試料管の回転速度を上げられる。また、試料の温度を高められるので、従来においては実現困難であった高い温度を有する試料に対してNMR測定を行える。
【0013】
熱線は、望ましくは、レーザー光である。レーザー光以外のエネルギー線が利用されてもよい。内容器による熱線の吸収によって内容器の中の試料が間接的に加熱されてもよいし、内容器を透過した熱線によって試料が直接的に加熱されてもよい。間接的な加熱方式を採用した場合、内容器がオーブンのように機能するので、試料の光吸収特性にかかわらず試料を確実に加熱できる。断熱材料は、内容器を構成する材料よりも熱を伝え難い材料である。外容器は、例えば、物理的強度を備えた材料により構成される。
【0014】
実施形態において、第1保持部材の熱伝導率及び第2保持部材の熱伝導率は、いずれも、内容器の熱伝導率より小さい。逆に言えば、内容器の熱伝導率は、断熱材料の熱伝導率より大きい。内容器の熱伝導率を高くし、且つ、内容器における温度勾配を小さくすることにより、試料それ全体の温度を高められる。
【0015】
実施形態において、内容器と外容器の間に回転中心軸方向に伸長した筒状の隙間が設けられている。筒状の隙間は、回転中心軸方向において内容器の側面を超えている。この構成によれば、内容器の側面(外面)から外容器の内面への直接的な熱伝導が遮断される。
【0016】
実施形態において、第1保持部材は、内容器の一方端部を保持する第1近位端部と、第1近位端部から離れた第1遠位端部と、第1近位端部と第1遠位端部の間の第1中間部と、を含む。第2保持部材は、内容器の他方端部を保持する第2近位端部と、第2近位端部から離れた第2遠位端部と、第2近位端部と第2遠位端部の間の第2中間部と、を含む。筒状の隙間は、第1近位端部の側面、第1中間部の側面、第2近位端部の側面、及び、第2中間部の側面を包み込んでいる。この構成によれば、内容器から外容器を熱的に遠ざけることが可能となる。
【0017】
実施形態に係るNMR測定用試料管において、第1キャップにより第1遠位端部が保持されており、第2キャップにより第2遠位端部が保持されている。この構成によれば、部品点数を削減できる。
【0018】
実施形態に係るNMR測定用試料管において、第1保持部材及び第2保持部材は同じ形態を有する。第1保持部材及び第2保持部材は互いに逆向きで配置されている。この構成によれば、試料管の製造コストを低減できる。また、2つの保持部材の配置に起因して生じる静磁場の乱れ(又は非一様性)を小さくすることが可能となる。
【0019】
実施形態に係るNMR測定用試料管において、第1キャップ及び第2キャップの内で少なくとも第1キャップは、熱線を通過させる空洞を有する。第1保持部材及び第2保持部材の内で少なくとも第1保持部材は、熱線を通過させる空洞を有する。この構成によれば、試料管において、熱線の通過経路を確保できる。更に、第2キャップ及び第2保持部材のそれぞれに対して空洞を形成してもよい。そのような構成によれば、内容器の両側から内容器へ向けて2つの熱線を照射することが可能となる。
【0020】
実施形態において、熱線はレーザー光である。内容器がレーザー光を吸収し、これにより内容器において熱が生じる。内容器で生じた熱が試料に伝わる。この構成によれば、内容器がオーブンのように機能し、内容器に収容された試料が加熱される。
【0021】
実施形態において、内容器は、レーザー光を吸収する底壁を有し、試料を収容した本体と、本体が有する開口を塞ぐ開閉可能な蓋と、を含む。本体及び蓋を同じ熱伝導材料で構成してもよい。
【0022】
第1保持部材及び第2保持部材のそれぞれに対して、回転中心軸方向に伸長した複数のスリットを設けてもよい。複数のスリットの形成により、各保持部材における熱伝導断面積を小さくできる。これにより、熱流束(つまり流出する熱量)を効果的に抑制できる。
【0023】
第1保持部材及び第2保持部材のそれぞれに対して、多重構造を設けてもよい。多重構造は、ジグザグ熱伝導経路を生じさせる内筒、中間筒及び外筒を含む。例えば、内筒の遠位端と中間筒の遠位端とが連結され、且つ、中間筒の近位端と外筒の近位端とが連結される。その場合、内筒の近位体が熱流入端となり、外筒の遠位端が熱流出端となる。あるいは、外筒の遠位端と中間筒の遠位端とが連結され、且つ、中間筒の近位端と内筒の近位端とが連結される。その場合、外筒の近位端が熱流入端となり、内筒の遠位端が熱流出端となる。ジグザグ熱伝導経路によれば、熱流束を効果的に抑制できる。
【0024】
(2)実施形態の詳細
図1には、NMR測定用プローブ10が示されている。プローブ10は、試料のNMR測定において使用される装置である。具体的には、プローブ10は、静磁場発生器の中に挿入された状態で使用される。プローブ10は、円筒状のケース12を有する。
【0025】
プローブ10内には、MASモジュール14が配置されている。MASモジュール14は、本実施形態に係る試料管16を収容及び保持しつつ、その試料管16を高速で回転させる装置である。試料管16は、静磁場方向に対して所定角度傾いている。図1において、Z方向が静磁場方向であり、それは垂直方向に相当する。X方向は第1水平方向である。図1には示されていないY方向が第2水平方向である。
【0026】
試料管16は回転中心軸Cを有する。試料管16は回転中心軸Cを中心として回転運動する。具体的には、MASモジュール14は、ハウジング14Aを有し、ハウジング14A内には、第1ラジアルベアリング20及び第2ラジアルベアリング22が設けられている。各ラジアルベアリング20,22は、いずれも、ガスベアリングであり、つまり、試料管16の周囲から試料管16に対してベアリングガスを吹き付ける装置である。また、ハウジング14A内には、タービンノズル24が設けられている。タービンノズル24は、試料管16が有するタービンブレードに対してドライブガスを吹き付ける装置である。
【0027】
試料管16内には試料18が収容されている。試料18は例えば粉体である固体試料である。試料18の加熱に伴って試料18の状態が変化する。ハウジング14A内にはスラストベアリング23が設けられている。スラストベアリング23もガスベアリングの一種である。実施形態に係るスラストベアリング23は中空構造を有する。
【0028】
第1ラジアルベアリング20、第2ラジアルベアリング22、及び、スラストベアリング23に対して、ベアリングガス26が供給されている。タービンノズル24に対して、ドライブガス28が供給されている。試料管16の回転速度を検出するために、発光用光ファイバ30及び受光用光ファイバ32が設けられている。
【0029】
図示されていないレーザー装置で生成されたレーザー光34がプローブ10内に導かれている。レーザー光34は、試料管16内の試料を加熱するための熱線である。実施形態においては、後述するように、試料を収容した内容器の底壁に対してレーザー光34が照射されている。内容器でのレーザー光34の吸収により、内容器で熱が生じる。その熱により試料が加熱される。レーザー光34は例えば近赤外レーザー光である。
【0030】
プローブ10内には、ミラー36を含む光学設備が設けられている。ミラー36は、レーザー光34を反射するものである。反射前のレーザー光が符号34Aで示されており、反射後のレーザー光が符号34Bで示されている。反射後のレーザー光34Bが、スラストベアリング23の内部を通じて、試料管16の内部へ進行している。
【0031】
なお、レーザー光34による試料の加熱と共に、高温のガスが試料管に吹き付けられてもよい(符号38を参照)。試料の加熱のために、ベアリングガス26等の温度が操作されてもよい。レーザー光34に代わる熱線として、マイクロ波、赤外線等が挙げられる。
【0032】
図2には、実施形態に係る試料管16が示されている。z方向は回転中心軸方向である(回転中心軸に平行な方向であるとも言い得る)。x方向及びy方向は、z方向に直交している。
【0033】
試料管16はz方向に伸長しており、それ全体として円柱状又は棒状の形態を有する。試料管16は、内容器40、外容器42、第1ホルダ44及び第2ホルダ46を有する。第1ホルダ44は第1保持部材として機能し、第2ホルダ46は第2保持部材として機能する。
【0034】
内容器40は、本体48及び蓋50により構成される。本体48は、底壁48A及び側壁48Bにより構成される。底壁48Aは、-z方向へ突出した突出部を有する。その突出部の端面が受光面60である。受光面60は図示の構成例において平面である。底壁48Aは、環状の肩部58を有する。側壁48Bは、円筒状の形態を有する。側壁48Bの外面が内容器40の側面に相当する。本体48の内部が試料室40Aである。
【0035】
蓋50は、大径部50Aと、+z方向へ突出した突出部50Bと、-z方向へ突出した突出部50Cと、を有する。突出部50Cが本体48内に差し込まれている。蓋50は、環状の肩部62及び環状の肩部64を有する。蓋50は、本体48が有する開口を開閉する部材である。環状の肩部64に対して側壁48Bの先端が突き当たっている。
【0036】
外容器42は、スリーブ52、第1キャップ54、及び、第2キャップ56により構成される。スリーブ52は、z方向に伸長しており、円筒状の形態を有する。スリーブ52の一方端側に第1キャップ54が設けられており、スリーブ52の他方端側に第2キャップ56が設けられている。
【0037】
第1キャップ54は、環状のベース54A及び+z方向へ突出した挿入部54Bにより構成される。挿入部54Bの先端部は先細形状を有し、その先端部には傾斜面としてのテーパー面68が設けられている。挿入部54Bにz方向に平行な複数のスリットを設けてもよい。第1キャップ54は中空部材であり、その内部は空洞54Cである。空洞54Cは外界に臨む開口を有する。
【0038】
第2キャップ56は、タービンブレード56A及び-方向へ突出した挿入部56Bを有する。挿入部56Bの先端部は先細形状を有し、その先端部には傾斜面としてのテーパー面70が設けられている。挿入部56Bにz方向に平行な複数のスリットを設けてもよい。第2キャップ56は中空部材であり、その内部は空洞56Cである。図示の構成例では、空洞56Cは外界に臨む開口を有していない。もっとも、第2キャップ56において、空洞56Cを外界に繋げる開口を形成してもよい。
【0039】
タービンブレード56Aには、複数のブレード要素が含まれる。第1キャップ54にタービンブレードを設けてもよく、第1キャップ54及び第2キャップ56の両方にタービンブレードを設けてもよい。
【0040】
外容器42の内部には、内容器40を保持し且つ断熱作用を発揮する第1ホルダ44及び第2ホルダ46が設けられている。以下、第1ホルダ44及び第2ホルダについて詳述する。
【0041】
第1ホルダ44は、z方向に伸長しており、それは概ね筒状の形態を有する。第1ホルダ44によって、内容器40の一方端部(図2において下側端部)が保持される。これと同様に、第2ホルダ46は、z方向に伸長しており、それは概ね筒状の形態を有する。第2ホルダ46によって、内容器40の他方端部(図2において上側端部)が保持される。
【0042】
第1ホルダ44の内部は空洞44Dである。空洞44Dは空洞54Cに連なっている。第2ホルダ46の内容は空洞46Dである。空洞46Dは空洞56Cに連なっている。空洞54C及び空洞44Dは、レーザー光用の通路として機能する。第2キャップ56に対して開口を形成し、空洞56C及び空洞46Dをレーザー光用の通路として機能させてもよい。
【0043】
詳しくは、第1ホルダ44は、筒状部44A、大径部44B及び突出部44Cにより構成される。それらはz方向に並んでいる。筒状部44Aは、第1ホルダ44における近位端部及び中間部に相当する。筒状部44Aの先端が底壁48Aにおける突出部の周囲に差し込まれている。筒状部44Aの先端が肩部58に突き当たっている。本願明細書では、内容器40に近い位置を近位と表現し、内容器40から遠い位置を遠位と表現する。
【0044】
大径部44B及び突出部44Cは、第1ホルダ44における遠位端部に相当する。大径部44Bの側面(外面)がスリーブ52の内面に接触している。突出部44Cは-z方向に突出しており、それは第1キャップ54内に差し込まれている。+z方向に突出した挿入部54Bの先端が、第1ホルダ44における肩部66に突き当たっている。その状態では、テーパー面68の一部がスリーブ52の内面に接触している。
【0045】
第2ホルダ46の形態は、第1ホルダ4の形態と同一である。但し、第1ホルダ44及び第2ホルダ46は互いに逆向きで配置されている。
【0046】
具体的には、第2ホルダ46は、筒状部46A、大径部46B及び突出部46Cにより構成される。それらはz方向に並んでいる。筒状部46Aは、第2ホルダ46における近位端部及び中間部に相当する。筒状部46Aの先端が+z方向へ突出した突出部50B周囲に差し込まれており、同時に、その先端が肩部62に突き当たっている。+z方向へ突出した突出部50Bは、筒状部46Aの中に差し込まれている。
【0047】
大径部44B及び突出部44Cは、第2ホルダ46における遠位端部に相当する。大径部46Bの側面(外面)がスリーブ52の内面に接触している。突出部46Cは+z方向に突出しており、それは第2キャップ56内に差し込まれている。-z方向に突出した挿入部56Bの先端が、第2ホルダ46における肩部69に突き当たっている。その状態では、テーパー面70の一部がスリーブ52の内面に接触している。
【0048】
後に詳述するように、内容器40の外面とスリーブ52の内面との間に筒状の隙間が設けられている。筒状の隙間はz方向に伸長しており、具体的には、z方向において、内容器40を超えて、第1ホルダ44の中間部及び第2ホルダ46の中間部まで及んでいる。
【0049】
内容器40(つまり本体48及び蓋50)は、相対的に見て熱伝導が良好な第1材料により構成される。第1材料は、例えば、窒化アルミ、炭化ケイ素等のセラミックである。参考までに、窒化アルミの熱伝導率は150~230W/(m・K)である。
【0050】
保持部材(つまり第1ホルダ44及び第2ホルダ46)は、相対的に見て、熱伝導が良くない、つまり絶縁性が良好な第2材料により構成される。例えば、第2材料は、ジルコニア、石英等である。参考までに、ジルコニアの熱伝導率は3W/(m・K)である。窒化アルミの熱伝導率は、ジルコニアの熱伝導率の約50~75倍である。第1材料の熱伝導率をλ1と表記し、第2材料の熱伝導率をλ2と表記した場合、λ1>λ2の関係が成立している。
【0051】
外容器42(つまりスリーブ52、第1キャップ54及び第2キャップ56)は、物理的に強い第3材料により構成される。第3材料は、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、安定化ジルコニア、等である。参考までに、窒化ケイ素の熱伝導率は20~27W/(m・K)である。第3材料の熱伝導率をλ3と表記した場合、実施形態においては、λ1>λ3>λ2の関係が成立している。
【0052】
組立時には、スリーブ52の中に、試料を収容した内容器40が配置され、次に、スリーブの中における内容器40の両側に、第1ホルダ44及び第2ホルダ46が配置される。その後、スリーブ52の両端部に第1キャップ54及び第2キャップ56が取り付けられる。
【0053】
第1キャップ54及び第2キャップ56によって、スリーブ52内の積層体(第1ホルダ44、内容器40及び第2ホルダ46)が挟み込まれる。具体的には、第1ホルダ44の遠位端部が第1キャップ54によって保持され、第2ホルダ46の遠位端部が第2キャップ56によって保持される。内容器40の一方端部が第1ホルダ44の近位端部によって保持され、内容器40の他方端部が第2ホルダ46の近位端部によって保持される。
【0054】
なお、底壁48Aにおける突出部と第1ホルダ44の筒状部44Aとの間に、環状の隙間を設けてもよい。そのような構成を採用すれば、底壁48Aから第1ホルダ44へ直接的に移動する熱の量を少なくできる。
【0055】
図3には、試料管16の断面が示されている。上述のように、内容器40は本体48及び蓋50により構成される。内容器40内に試料89が収容されている。外容器42は、スリーブ52、第1キャップ54及び第2キャップ56により構成される。z方向は、回転中心軸Cに対して並行な方向である。第1ホルダ44、内容器40及び第2ホルダ46はz方向に並んでいる。
【0056】
内容器40における底壁は受光面60を有する。レーザー光92が、開口90、空洞54C及び空洞44Dを通過して受光面60に達している。これにより底壁においてレーザー光が吸収され、底壁で熱が生じる。その熱が図3に示されるように内容器40それ全体に伝わる。内容器40から試料89へ熱が伝わる。これによって試料が加熱される。内容器40がそれ全体として高温になる。レーザー光の強度の調整により試料の温度が調整される。試料の加熱により到達可能な最高温度は、例えば、700℃以上、又は、1000℃以上である。本願明細書において挙げる数値はいずれも例示に過ぎないものである。
【0057】
実施形態に係る試料管16においては、第1ホルダ44及び第2ホルダ46により、内容器40がz方向から保持されている。その結果、内容器40の側面(外面)S1とスリーブ52の内面S2との間に筒状の隙間88が生じている。筒状の隙間88は、z方向において、内容器40の側面S1を超えて、第1ホルダ44の中間部及び第2ホルダ46の中間部まで及んでいる。第1ホルダ44の遠位端部及び第2ホルダ46の遠位端部が外容器42に接触している。
【0058】
ここで、z方向に着目する。符号71は内容器40の側面S1の幅を示しており、符号72は第1ホルダ44の近位端部の幅を示しており、符号74は第1ホルダ44の中間部の幅を示しており、符号78は第2ホルダ46の近位端部の幅を示しており、符号80は第2ホルダ46の中間部の幅を示している。それらの幅を足したものが筒状の隙間88のz方向の幅86に相当する。なお、符号76は第1ホルダ44の遠位端部の幅を示しており、符号84は第2ホルダ46の遠位端部の幅を示している。
【0059】
ちなみに、試料管16のz方向の長さは、例えば15~25mmである。試料管の外径は、例えば3~5mmである。内容器40の外径は、例えば1.3~1.5mmである。筒状の隙間88の厚みは、例えば0.1~0.3mmである。
【0060】
図3に示されるように、内容器40から-z方向及び+z方向へ熱が流出しようとする。しかし、内容器40の両側には、断熱材料で構成され且つz方向に伸長した第1ホルダ44及び第2ホルダ46が設けられている。実施形態では、内容器40が第1ホルダ44及び第2ホルダ46のみに接している。よって、内容器40から外容器42への熱の流出が効果的に抑制される。これにより、加熱温度の上限を引き上げることが可能である。また、実施形態に係る構成によれば、試料管16の外径を小さくしても、熱伝導経路の長さを維持することが容易である。
【0061】
図4には、試料管の変形例が示されている。内容器40aは本体48a及び蓋50aで構成されている。内容器40aにおける少なくとも底壁94が透明な材料(例えば石英)により構成されている。内容器40aの中には試料96が収容されている。試料96に対して底壁94を透過したレーザー光92が到達している。試料がレーザー光92を直接吸収し、これにより試料で熱が生じている。この変形例を採用する場合においても、内容器40aが第1ホルダ44及び第2ホルダ46により保持される。
【0062】
図5には、ホルダの第1変形例が示されている。図5に示されているホルダ100は、図2図4に示した第1ホルダ及び第2ホルダに相当する。ホルダ100は、断熱材料からなり、本体102及び突出部104により構成される。本体102は、支柱列108及び環状部106により構成される。支柱列108は、環状に配列され、回転中心軸方向に平行な複数の支柱110によって構成される。複数の支柱110に対して互い違いの関係をもって、複数のスリット109aが生じている。それらによりスリット列109が構成されている。すなわち、本体102はスリット列109を有する。
【0063】
各支柱110の一方端部110aが環状部106に連結されており、各支柱110の他方端部110bが突出部104に連結されている。個々の他方端部110bは肥大している。突出部104は開口部104Aを有する。突出部104が第1キャップ54内に挿入される。一方、本体102内には内容器の本体48が挿入される。
【0064】
上記の第1変形例によれば、本体102がスリット列109を有するので、つまり、本体102における熱伝導断面積が小さいので、内容器からの熱流出量をより抑制することが可能となる。
【0065】
図6には、ホルダの第2変形例が示されている。図6に示されているホルダ112は、図2図4に示した第1ホルダ及び第2ホルダに相当する。図6において、ホルダ112は、断熱材料からなり、本体114及び突出部116により構成される。
【0066】
本体114は、ジグザグ熱伝導経路を生じさせる多重構造123を有する。多重構造123は、内筒124、中間筒126及び外筒128を有し、また、連結部130及び連結部132を有する。内筒124、中間筒126及び外筒128は、同心円状に並んでいる。内筒124と中間筒126は互いに非接触の関係にあり、それらの間には筒状の隙間が存在している。これと同様に、中間筒126と外筒128は互いに非接触の関係にあり、それらの間には筒状の隙間が存在している。
【0067】
内筒124の遠位端と中間筒126の遠位端が連結部130により連結されている。また、中間筒126の近位端と外筒128の近位端が連結部132により連結されている。内筒124の中に内容器の端部が挿入される(符号134を参照)。多重構造123において、内筒124の近位端が熱流入端である。外筒128の遠位端が熱流出端である。外筒128の遠位端が大径部122に連結されている。符号136はレーザー光を示している。突出部116の外側にキャップが差し込まれる(符号120を参照)。
【0068】
上記の第2変形例によれば、多重構造123によってジグザグ熱伝導経路が生じているので、熱伝導経路長を増大でき、これにより熱流出量をより抑制できる。
【0069】
図7には、ホルダの第3変形例が示されている。図7に示されているホルダ137は、図2図4に示した第1ホルダ及び第2ホルダに相当する。図7において、ホルダ137は、断熱材料からなり、本体138及び突出部140により構成される。
【0070】
本体138は、多重構造150及び環状部151を有する。多重構造150はジグザグ熱伝導経路を生じさせるものである。多重構造150は、外筒152、中間筒154及び内筒156を有し、また、連結部158及び連結部160を有する。外筒152、中間筒154及び内筒156は、同心円状に並んでいる。外筒152と中間筒154は互いに非接触の関係にあり、それらの間には筒状の隙間が存在している。これと同様に、中間筒154と内筒156は互いに非接触の関係にあり、それらの間には筒状の隙間が存在している。
【0071】
外筒152の近位端が環状部151に連結されている。外筒152の遠位端と中間筒154の遠位端が連結部158により連結されている。また、中間筒154の近位端と内筒156の近位端が連結部160により連結されている。環状部151の中に内容器の端部が挿入される(符号162を参照)。多重構造150において、外筒152の近位端が熱流入端である。内筒156の遠位端が熱流出端である。内筒156の遠位端が大径部144に連結されている。符号136はレーザー光を示している。突出部140の外側にキャップが差し込まれる(符号146を参照)。
【0072】
上記の第3変形例によれば、上記の第2変形例と同様に、熱伝導経路長を増大でき、これにより熱流出量をより抑制できる。
【0073】
上記実施形態によれば、断熱材料で構成され回転中心軸方向に伸長した第1ホルダ及び第2ホルダによって、回転中心軸方向から内容器が保持されているので、且つ、内容器と外容器との間に回転中心軸方向に広がる筒状の隙間が存在しているので、内容器から外容器へ流出する熱量を効果的に抑制できる。換言すれば、試料の加熱により到達可能な温度の上限を高められる。また、上記実施形態によれば、試料管の外径が小さくなっても熱伝導経路長を維持することが容易である。よって、試料管を細径化できる。この細径化により試料管の回転速度を引き上げられる。
【符号の説明】
【0074】
10 NMR測定用プローブ、14 MASモジュール、16 試料管、34,92 レーザー光、40 内容器、42 外容器、44 第1ホルダ(第1保持部材)、46 第2ホルダ(第2保持部材)、52 スリーブ、54 第1キャップ、56 第2キャップ、60 受光面、88 筒状の隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7