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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131182
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】α-ヨード置換カルボン酸
(51)【国際特許分類】
   C07C 53/19 20060101AFI20240920BHJP
   C07C 51/50 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07C53/19 CSP
C07C51/50
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041284
(22)【出願日】2023-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100228164
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 智康
(72)【発明者】
【氏名】小松 弘人
(72)【発明者】
【氏名】山口 優
(72)【発明者】
【氏名】野田 鷹裕
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB40
4H006AB84
4H006AD40
4H006BM10
4H006BM74
4H006BS10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱や光等に対する安定性に優れる、α-ヨード置換カルボン酸を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)で示され、含水量が0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分含有量が0.15~3.0質量%の範囲である、α-ヨード置換カルボン酸。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で示され、含水量が0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分含有量が0.15~3.0質量%の範囲である、α-ヨード置換カルボン酸。
【請求項2】
前記酸成分の酸解離定数(pKa)が、2.8以下である、請求項1に記載のα-ヨード置換カルボン酸。
【請求項3】
前記酸成分が、無機酸である、請求項1又は2に記載のα-ヨード置換カルボン酸。
【請求項4】
下記一般式(1)
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)で示されるα-ヨード置換カルボン酸に、水を0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分を0.15~3.0質量%の範囲で含有させる、α-ヨード置換カルボン酸の安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ヨード置換カルボン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素及びヨウ素化合物はその生理活性、抗菌性、X線吸収能等の独自の性質や、高い反応性等を活かし、殺菌剤、造影剤、色素、医薬品、農薬、電荷輸送材、酸化剤、精密重合、触媒等の種々の用途に広く用いられている(例えば非特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「ヨウ素化合物の機能と応用展開」、シーエムシー出版、2005年10月30日初版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ヨウ素化合物の中でもα-ヨード置換カルボン酸は、制御ラジカル重合とも称されるリビングラジカル重合におけるラジカル発生剤や分子量制御剤、各種ファインケミカルの合成原料又は中間体等として有用である。しかし、α-ヨード置換カルボン酸は、熱や光に晒されたり、酸化還元条件下で分解されやすく、その安定性(長期保存性)には改善の余地があった。
本発明の目的は、熱や光等に対し安定化され、分解が抑制されるα-ヨード置換カルボン酸を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水分及び酸成分を特定範囲でα-ヨード置換カルボン酸に含有させることで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で示され、含水量が0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分含有量が0.15~3.0質量%の範囲である、α-ヨード置換カルボン酸。
[2] 前記酸成分の酸解離定数(pKa)が、2.8以下である、前記[1]に記載のα-ヨード置換カルボン酸。
[3] 前記酸成分が、無機酸である、前記[1]又は[2]に記載のα-ヨード置換カルボン酸。
[4] 下記一般式(1)
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)で示されるα-ヨード置換カルボン酸に、水を0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分を0.15~3.0質量%の範囲で含有させる、α-ヨード置換カルボン酸の安定化方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱や光等に対し安定化され、分解が抑制されるα-ヨード置換カルボン酸を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)
【化3】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)で示され、含水量が0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分含有量が0.15~3.0質量%の範囲である、α-ヨード置換カルボン酸である。
本発明のα-ヨード置換カルボン酸は、熱や光等に対する安定性に優れており、分解が抑制され、また、長期に亘る保存後も着色が抑制される。
このような効果が発現する詳細な理由は不明であるが、α-ヨード置換カルボン酸におけるカルボキシル基の水存在下における解離平衡が、酸成分が特定量の範囲で存在することにより、水素イオンが解離しない側に傾くため、α-ヨード置換カルボン酸としての安定性が高まり、ヨウ素の遊離等の分解が抑制されると推定される。
【0008】
一般式(1)において、R及びRがそれぞれ独立して表す脂肪族基としては、直鎖又は分岐状の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。
直鎖又は分岐状の脂肪族炭化水素基の炭素数は1~12が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。
脂環式炭化水素基の炭素数は3~12が好ましく、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ビシクロヘキシル基等が挙げられる。
中でも、脂肪族基として、炭素数は1~12の直鎖又は分岐状の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基がより好ましい。
【0009】
一般式(1)において、R及びRがそれぞれ独立して表す芳香族基としては、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。
芳香族炭化水素基の炭素数は6~20が好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、アズレニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
芳香族複素環基の炭素数は6~20が好ましく、例えばフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾフラニル基、インドリル基、ベンゾチアゾリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0010】
上述した脂肪族基又は芳香族基は、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基等のアルコキシル基等が挙げられる。
【0011】
また、一般式(1)において、R及びRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。かかる環構造としては、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、テトラヒドロフラン環、ジオキサン環、ピロリジン環、ピペリジン環、オキサゾリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、チアゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、ピロール環、トリアゾール環、ピペラジノン環等が挙げられる。
【0012】
一般式(1)で示されるα-ヨード置換カルボン酸の具体例としては、2-ヨード酢酸、2-ヨードプロピオン酸、2-ヨード-2-メチルプロピオン酸、2-ヨードペンタン酸、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードマロン酸、2-ヨード-2-メチルマロン酸、2,5-ジヨードアジピン酸、2,5-ジヨード-2,5-ジメチルアジピン酸、2-ヨードアセト酢酸、2-ヨード-2-メチルアセト酢酸等が挙げられる。
中でも、本発明の安定化の効果がより奏される観点から、α-ヨード置換カルボン酸として2-ヨード-2-メチルプロピオン酸、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨード-2-メチルマロン酸、2-ヨード-2-メチルアセト酢酸が好ましい。
【0013】
α-ヨード置換カルボン酸に、水と共に含有させる酸成分は、α-ヨード置換カルボン酸以外の酸であり、有機酸でも無機酸でもよく、ブレンステッド酸でもルイス酸でもよい。本発明において、酸成分としてルイス酸を用いる場合は、水と共存させることで無機酸を発生し、かかる無機酸が本発明の安定化作用を奏する場合もある。例えば塩化アルミニウムを使用する場合は、水が共存すると塩化水素を発生し、塩酸と同様の作用を奏する。
【0014】
酸成分としては、本発明において、α-ヨード置換カルボン酸の熱や光等に対する安定性をより高められる観点から、酸解離定数(pKa)が2.8以下である酸が好ましい。酸解離定数(pKa)の下限に厳密な意味での制限はないが、取扱い性等の観点から-9以上であることが好ましい。なお、酸解離定数(pKa)は、化学便覧 基礎編 改訂6版(令和3年1月20日発行)に示される、25℃での値である。また、酸成分が2価又はそれ以上の価数の酸である場合には、本明細書におけるpKaは、pKa(第1解離段)の値を意味する。
好適な酸成分としては、例えば臭化水素酸、塩酸、硫酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、シュウ酸等が挙げられる。
中でも、安価で工業的に入手容易である観点、酸成分の含有量の制御が容易であり、本発明の効果を奏しやすい観点から、無機酸がより好ましく、硫酸(-3.29)又は塩酸(-5.9)がさらに好ましい。ここで、括弧内の数値は各々の酸のpKa値を示す。
【0015】
本発明において、α-ヨード置換カルボン酸が含有する酸成分の含有量は、0.15質量%以上であり、0.2質量%以上であるのが好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。酸成分の含有量は3.0質量%以下であり、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0016】
また、本発明におけるα-ヨード置換カルボン酸の含水量は、0.1質量%以上であり、0.5質量%以上であるのが好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。含水量は15.0質量%以下であり、10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましい。
本発明においては、α-ヨード置換カルボン酸の含水量が0.1~5.0質量%の範囲であり、かつ酸成分の含有量が0.15~1.0質量%の範囲であるのが、熱や光等に対する安定性をより高められ、分解を抑制でき、長期に亘る保存後も着色が抑制される観点から好ましい。
本発明のα-ヨード置換カルボン酸は、換言すれば、α-ヨード置換カルボン酸と、水及び酸成分とをそれぞれ特定量含有する組成物であるとも言える。すなわち、本発明では、α-ヨード置換カルボン酸が、酸成分の含有量及び含水量が共に上記した範囲であることで、熱や光等に対する安定性に優れており、分解が抑制され、また長期に亘る保存後も着色が抑制される。
【0017】
α-ヨード置換カルボン酸は、例えば国際公開2018/180547号に記載される方法等で製造できる。得られたα-ヨード置換カルボン酸に、上述した所定量の範囲で水及び酸成分を添加して、本発明のα-ヨード置換カルボン酸を得る。
ここで、水及び酸成分は得られたα-ヨード置換カルボン酸に直接添加してもよく、酸成分を水に溶解させた水溶液として、公知の方法で得たα-ヨード置換カルボン酸に接触させることもできる。操作性の観点からは、酸成分を水に溶解させた水溶液として、公知の方法で得たα-ヨード置換カルボン酸に接触させることが好ましい。
酸成分を水に溶解させた水溶液を接触させる際の接触時間に特に制限はないが、操作性や生産性の観点から、通常、1分~24時間の範囲であるのが好ましい。また、接触温度は、発熱等を抑制する観点から、通常、0℃~40℃以下の範囲が好ましく、0℃~20℃以下の範囲がより好ましい。
【0018】
酸成分を水に溶解させた水溶液との接触後、濾過、遠心分離等の通常の分離操作により、本発明のα-ヨード置換カルボン酸を得る。
本発明のα-ヨード置換カルボン酸を得るに際しての含水量及び酸成分含有量の制御は、例えば、接触時に用いる水及び酸成分の量の調整により、好適には酸成分を水に溶解させた水溶液において酸成分の濃度を調整することにより、行うことができる。また、水及び酸成分を接触させた後の分離時に、本発明で規定する範囲内に水及び酸成分が残留する程度に、分離操作を行ってもよい。さらには、水が過剰に残留する状態となるように分離操作を行い、次いで減圧下に水を留去して、本発明で規定する範囲内に含水量を調節してもよい。
【0019】
本発明のα-ヨード置換カルボン酸は、各種ファインケミカルの合成原料又は中間体として有用である。また、本発明のα-ヨード置換カルボン酸は、例えばリビングラジカル重合におけるラジカル発生剤や分子量制御剤として有用である。
ここで、リビングラジカル重合では、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;過酸化ベンゾイル、ジt-ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物;レドックス系触媒;等のラジカル重合開始剤と、本発明のα-ヨード置換カルボン酸を併用することができる。
また、ラジカル重合可能なモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリル等の、(メタ)アクリル酸若しくはその塩、エステル、アミド又はニトリル等の(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、ジクロロスチレン等の、スチレン又はスチレン誘導体;エチレン、プロプレン、ブテン、イソブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、ピネン、リモネン、インデン等のオレフィン;ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ビシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等のジエン;酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;等が挙げられる。
本発明のα-ヨード置換カルボン酸は、上述したモノマーのリビングラジカル重合において、ラジカル発生剤や分子量制御剤として有効に適用できる。
【0020】
本発明はまた、前述した一般式(1)で示されるα-ヨード置換カルボン酸に、水を0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分を0.15~3.0質量%の範囲で含有させる、α-ヨード置換カルボン酸の安定化方法である。
例えば国際公開2018/180547号に記載される方法等で得たα-ヨード置換カルボン酸に、水及び酸成分を上記範囲で含有させることで、α-ヨード置換カルボン酸の熱や光等に対する安定性が改善され、分解が抑制され、長期に亘る保存後も着色が抑制される。
α-ヨード置換カルボン酸、酸成分の詳細や、水及び酸成分を上記範囲で含有させる手段の詳細は、上述した通りである。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されない。各評価における分析は以下のようにして行った。
〔純度〕
各実施例及び比較例で得た試料をジクロロメタンに溶解させ、ガスクロマトグラフィー分析によるクロマトグラムのピーク面積値より算出した。測定条件は以下のとおりである。
機器:島津製作所社製「GC-2010」
カラム:HP-ULTRA1(Agilent社製、25m×0.32mmI.D.)
キャリアガス:ヘリウム
温度:50℃で3分保持→30℃/分で昇温→250℃で保持
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0022】
〔遊離ヨウ素量〕
各実施例及び比較例で得た試料2gと、1,2-ジクロロエタン(DCE)18gとをそれぞれ精秤して混合し、試料を完全に溶解させて溶液を調製した。この溶液の吸光度(498nm、700nm)を吸光光度計(日本分光社製「V-730iRM」)で測定し、ヨウ素濃度を変化させたDCE溶液を用いて別途予め作成した吸光度検量線より、試料中の遊離ヨウ素濃度(ppm)を求めた。
【0023】
<製造例1:2-ヨード-2-メチルプロピオン酸の製造>
2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸10.0質量部をアセトン160質量部に溶解させ、この溶液にヨウ化ナトリウム44.9質量部を加えて、55℃で18時間撹拌した。反応混合物からアセトンを減圧下で留去し、残留物にジクロロメタン及び水を加えて分液した。
得られた有機層を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮して、2-ヨード-2-メチルプロピオン酸10.1質量部を結晶として得た。
【0024】
[実施例1]
製造例1の方法で得た2-ヨード-2-メチルプロピオン酸100質量部に、硫酸水溶液(濃度17.4質量%)100質量部を加え、5℃で30分間撹拌した。その後、遠心効果390Gで10分、遠心分離することにより、含水量4.23質量%、酸成分含有量(硫酸含有量)0.21質量%である2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を得た。
ここで、含水量は、得られた2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を所定量秤量して五酸化二リンを乾燥剤とするデシケーター中に配置して恒量とし、乾燥前後の質量減量分より算出した。また、酸成分の含有量は、上記で算出された含水量に基づいて算出した。
【0025】
[実施例2~3]
実施例1において、硫酸水溶液に代えて塩酸又はシュウ酸水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、表1に示す含水量及び酸成分含有量である2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を得た。
[比較例1]
実施例1において、硫酸水溶液に代えて純水を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、表1に示す含水量である2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を得た。
【0026】
<評価例1>
実施例1~3、及び比較例1で得た2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を、アルゴン雰囲気下で容量6mlのサンプル瓶に入れて蓋をした後、40℃の恒温槽中で静置し、静置直後(0日)、4日後、10日後の純度を測定し、安定性を評価した。
結果を表1に示す。本発明の規定を満足するα-ヨード置換カルボン酸は、熱に対する安定性に優れる。一方、酸成分を含有せず含水量のみが本発明で規定する範囲である場合は、純度が経時的に低下し、熱に対する安定性を維持できないことがわかる。
【0027】
【表1】
【0028】
[実施例4~6、比較例2]
実施例1において、硫酸濃度を変化させた水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、表2に示す含水量及び酸成分含有量である2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を得た。
<評価例2>
実施例4~6、及び比較例2で得た2-ヨード-2-メチルプロピオン酸を、アルゴン雰囲気下で容量6mlのサンプル瓶に入れて蓋をした後、40℃の恒温槽中で静置し、静置直後(0日)、6日後及び20日後の純度及び遊離ヨウ素量の経時変化を追跡して、安定性を評価した。
結果を表2に示す。本発明の規定を満足するα-ヨード置換カルボン酸は、熱に対する安定性に優れ、着色も抑制される。一方、比較例2より、酸成分である硫酸の含有量が本発明で規定する範囲を下回ると、遊離ヨウ素の発生が増大し、着色の要因となる。
【0029】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のα-ヨード置換カルボン酸は安定性に優れ、例えばリビングラジカル重合におけるラジカル発生剤や分子量制御剤、各種ファインケミカル製造における原料又は中間体等に有効に使用できる。

【手続補正書】
【提出日】2023-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で示されるα-ヨード置換カルボン酸、水及び酸成分を含有するα-ヨード置換カルボン酸含有組成物であって
前記酸成分は、塩酸、硫酸、シュウ酸から選択される少なくとも1種であり、
前記組成物は、含水量が0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分含有量が0.15~3.0質量%の範囲である、α-ヨード置換カルボン酸含有組成物
【請求項2】
前記α-ヨード置換カルボン酸は、2-ヨード-2-メチルプロピオン酸、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨード-2-メチルマロン酸、2-ヨード-2-メチルアセト酢酸から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のα-ヨード置換カルボン酸含有組成物
【請求項3】
下記一般式(1)
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、脂肪族基又は芳香族基を表す。)で示されるα-ヨード置換カルボン酸に、水を0.1~15.0質量%の範囲、かつ酸成分を0.15~3.0質量%の範囲で含有させる、α-ヨード置換カルボン酸の安定化方法であって、
前記酸成分は、塩酸、硫酸、シュウ酸から選択される少なくとも1種であるα-ヨード置換カルボン酸の安定化方法