(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131183
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】非調質ボルト
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240920BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240920BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20240920BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20240920BHJP
C21D 3/06 20060101ALN20240920BHJP
C21D 9/52 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/06
C22C38/54
C21D8/06 A
C21D3/06
C21D9/52 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041288
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】新貝 康晴
(72)【発明者】
【氏名】小此木 真
(72)【発明者】
【氏名】平上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】根石 豊
【テーマコード(参考)】
4K032
4K043
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA27
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4K032AA35
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC03
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4K043AA02
4K043AB01
4K043AB02
4K043AB04
4K043AB05
4K043AB07
4K043AB10
4K043AB13
4K043AB15
4K043AB18
4K043AB20
4K043AB21
4K043AB22
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB27
4K043AB29
4K043AB30
4K043BA01
4K043BA03
4K043BA06
4K043BB01
4K043CB02
4K043DA00
4K043FA12
4K043FA13
4K043HA04
(57)【要約】
【課題】引張強さ1200MPa以上で、耐水素脆化特性に優れた非調質ボルトを提供する。
【解決手段】C、Si、Mn、Alを含有し、残部:Fe及び不純物からなり、軸部の直径をD、C含有量を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、フェライト及びベイナイトの少なくとも一方である0%以上の残部とからなり、ボルト頭部と軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面のX線回折ピークの半価幅βCと、接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面のX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比が1.50以下、引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルトを採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.82%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.20~1.00%、
Al:0.005~0.050%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物からなり、
軸部の直径をD、化学組成におけるC含有量(質量%)を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における前記軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、残部が0%以上のフェライトとからなり、
ボルト頭部と前記軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、前記接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下であり、
引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルト。
【請求項2】
化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.82%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.20~1.00%、
Al:0.005~0.050%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、を含有し、
更に、下記A群、B群およびC群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、
残部:Fe及び不純物からなり、
軸部の直径をD、化学組成におけるC含有量(質量%)を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における前記軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、残部が0%以上のフェライトとからなり、
ボルト頭部と前記軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、前記接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下であり、
引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルト。
[A群]Cr:1.00%以下、Mo:0.50%以下、Ti:0.050%以下、Nb:0.050%以下、V:0.200%以下、B:0.0050%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上
[B群]Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下からなる群から選択される1種又は2種
[C群]Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、Sn:0.0400%以下からなる群から選択される1種又は2種以上
【請求項3】
質量%で、前記A群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の非調質ボルト。
【請求項4】
質量%で、前記B群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の非調質ボルト。
【請求項5】
質量%で、前記C群を含有する化学組成を有する請求項2に記載の非調質ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非調質ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の各種機械や土木・建築分野において、軽量化や小型化、コスト低減等の観点からボルトの高強度化が求められている。しかし、一般に1200MPaを超える高強度のボルトは、水素脆化が生じ易くなることが知られており、1200MPa以上の高強度のボルトを実現するためには、強度と共に耐水素脆化特性を向上させる必要がある。
【0003】
ボルトのような高強度部品の耐水素脆化特性を向上させる方法として、組織をパーライト組織とし、伸線加工によって組織を強化する手法が知られており、これまでに多くの提案がなされている(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
しかし、一層のスペースの効率化のために、ボルトの更なる高強度化が望まれており、特に非調質ボルトの高強度化に対応していくためには、従来の技術のみでは十分でない可能性がある。
【0005】
引張強さが1200MPa以上の高強度のボルトを製造する方法としては、例えば、Cr、Mo、V等の合金元素を添加した合金鋼の鋼線を、所定の形状に成形した後に、焼入れ・焼戻し処理を行うことで高強度ボルトを製造する方法がある。しかし、この方法では熱処理コストがかかり、製造コストの面で不利である。
【0006】
一方で、製造コストを低減するために、成形後の焼入れ焼戻しを省略し、急速冷却、析出強化等によって強度を高めた線材に伸線加工を加えることで、所定の強度を付与した高強度のボルトを製造する方法が知られている。この方法により製造されたボルトは非調質ボルトと呼ばれている。
【0007】
引張強さ1200MPa以上の非調質ボルトは、引張強さ1000MPa以上の鋼線を冷間加工することにより製造され得る。例えば、パーライト組織を伸線加工して強化した鋼線を冷間加工して製造した非調質ボルトにおいては、パーライト組織が、セメンタイトとフェライトとの界面で水素を捕捉するため、鋼材内部への水素の侵入が抑制され、耐水素脆化特性が向上すると考えられる。しかし、この技術だけで耐水素脆化特性を十分に向上させることは容易ではなく、更なる向上が望まれている。
【0008】
非調質ボルトの製造方法として、特許文献4には、棒状の金属材料を予備成形することにより、押圧側が膨出したボルト予備成形材を形成し、次いで、ボルト予備成形材の軸部体積を、ボルト仕上げ成形材の軸部体積よりも大きくするように成形するボルトの圧造方法が記載されている。しかし、特許文献4の方法によって製造されたボルトであっても、耐水素脆化特性は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-315348号公報
【特許文献2】特開2001-348618号公報
【特許文献3】特開2005-281860号公報
【特許文献4】特開2007-136460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、引張強さ1200MPa以上で、かつ、耐水素脆化特性に優れた非調質ボルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.82%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.20~1.00%、
Al:0.005~0.050%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、並びに、
残部:Fe及び不純物からなり、
軸部の直径をD、化学組成におけるC含有量(質量%)を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における前記軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、残部が0%以上のフェライトとからなり、
ボルト頭部と前記軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、前記接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下であり、
引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルト。
[2] 化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.82%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.20~1.00%、
Al:0.005~0.050%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、を含有し、
更に、下記A群、B群およびC群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、
残部:Fe及び不純物からなり、
軸部の直径をD、化学組成におけるC含有量(質量%)を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における前記軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、残部が0%以上のフェライトとからなり、
ボルト頭部と前記軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、前記接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下であり、
引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルト。
[A群]Cr:1.00%以下、Mo:0.50%以下、Ti:0.050%以下、Nb:0.050%以下、V:0.200%以下、B:0.0050%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上
[B群]Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下からなる群から選ばれる1種または2種
[C群]Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、Sn:0.0400%以下からなる群から選択される1種又は2種以上
[3] 質量%で、前記A群を含有する化学組成を有する[2]に記載の非調質ボルト。
[4] 質量%で、前記B群を含有する化学組成を有する[2]に記載の非調質ボルト。
[5] 質量%で、前記C群を含有する化学組成を有する[2]に記載の非調質ボルト。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引張強さ1200MPa以上で、かつ、耐水素脆化特性に優れた非調質ボルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態である非調質ボルトのパーライトの面積率の測定位置を説明する軸部の断面模式図。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図6A】
図6Aは、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図6B】
図6Bは、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図7B】
図7Bは、本発明の実施形態である非調質ボルトのβ
MAX/β
Cの測定位置を示す図であって、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の軸部中心軸を含む断面模式図。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態である非調質ボルトの製造方法を説明する工程図。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態である非調質ボルトの製造方法を説明する工程図。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態である非調質ボルトの製造方法を説明する工程図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る非調質ボルトについて、詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る非調質ボルトは、化学組成が、質量%で、C:0.40~0.82%、Si:0.02~0.50%、Mn:0.20~1.00%、Al:0.005~0.050%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.0150%以下、O:0.0050%以下、並びに、残部:Fe及び不純物からなり、軸部の直径をD、化学組成におけるC含有量(質量%)を[C%]とした場合に、軸方向に対して垂直な断面における軸部の表面からの深さD/4位置における金属組織が、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上のパーライトと、残部が0%以上のフェライトとからなり、ボルト頭部と軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下であり、引張強さが1200~1800MPaである、非調質ボルトである。
【0015】
≪化学組成≫
以下、非調質ボルトの鋼の化学組成について説明する。以下の説明において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
【0016】
[C:0.40%~0.82%]
Cは、引張強さを確保するために必要な元素である。C含有量が0.40%未満の場合、所望とする引張強さを得ることが困難である。よって、C含有量の下限を0.40%以上とする。好ましくは0.45%以上である。また、C含有量が0.82%超である場合、冷間加工性が劣化する。よって、C含有量の上限を0.82%以下とする。好ましくは0.75%以下である。
【0017】
[Si:0.02~0.50%]
Si(珪素)は、脱酸元素であると共に、固溶強化により引張強さを高める元素である。Si含有量が0.02%未満である場合、Siの含有効果が十分に発現しない。よって、Si含有量の下限を0.02%以上とする。好ましくは0.05%以上である。また、Si含有量が0.50%超である場合、Siの含有効果が飽和すると共に、熱間圧延時の延性が劣化して疵が発生し易くなる。よって、Si含有量の上限を0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下である。
【0018】
[Mn:0.20~1.00%]
Mn(マンガン)は、パーライト変態後の鋼の引張強さを高める元素である。Mn含有量が0.20%未満である場合、Mnの含有効果が十分に発現しない。よって、Mn含有量の下限を0.20%以上とする。好ましくは0.40%以上である。 また、Mn含有量が1.00%超である場合、局所的にマルテンサイトが生じ易くなり、これにより冷間加工性が劣化する場合がある。よって、Mn含有量の上限を1.00%以下とする。好ましくは0.80%以下である。
【0019】
[Al:0.005~0.050%]
Al(アルミニウム)は、脱酸元素であると共に、ピン止め粒子として機能するAlNを形成する元素である。AlNは結晶粒を細粒化し、これにより冷間加工性を高める。また、Alは、固溶Nを低減して動的ひずみ時効を抑制する作用、及び、耐水素脆化特性を高める作用を有する元素である。Al含有量が0.005%未満である場合、上述の効果が得られない。よって、Al含有量の下限を0.005%以上とする。好ましくは0.020%以上である。また、Al含有量が0.050%超である場合、上述の効果が飽和すると共に、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。よって、Al含有量の上限を0.050%以下とする。好ましくは0.040%以下である。
【0020】
[P:0.030%以下]
P(リン)は、結晶粒界に偏析して耐水素脆化特性を劣化させると共に、冷間加工性を劣化させる元素である。本実施形態に係る非調質ボルトはPを含有する必要がないので、P含有量の下限値は0%である。但し、製造コスト(脱リンコスト)の低減の観点から、P含有量は0%超であってもよく、0.002%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。しかしながら、P含有量が0.030%超の場合、耐水素脆化特性の劣化、及び、冷間加工性の劣化が顕著となる。よってP含有量は0.030%以下に制限する。好ましくは0.015%以下である。
【0021】
[S:0.030%以下]
S(硫黄)は、Pと同様に、結晶粒界に偏析して耐水素脆化特性を劣化させると共に、冷間加工性を劣化させる元素である。従って、本実施形態に係る非調質ボルトはSを含有する必要がないので、S含有量の下限値は0%である。但し、製造コスト(脱硫コスト)の低減の観点から、S含有量は0%超であってもよく、0.002%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。しかしながら、S含有量が0.030%超では、耐水素脆化特性の劣化、及び、冷間加工性の劣化が顕著となる。従って、S含有量は0.030%以下に制限する。好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
【0022】
[N:0.0150%以下]
N(窒素)は、動的ひずみ時効により冷間加工性を劣化させ、さらに耐水素脆化特性も劣化させることがある元素である。従って、本実施形態に係る非調質ボルトはNを含有する必要がないので、N含有量の下限値は0%である。但し、製造コスト(脱窒コスト)の低減の観点から、N含有量は0%超であってもよく、0.0002%以上であってもよく、0.0005%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよい。しかしながら、N含有量が0.0150%超の場合、動的ひずみ時効による冷間加工性の劣化や、耐水素脆化特性の劣化が顕著である。よってN含有量は0.0150%以下に制限する。好ましくは0.0080%以下であり、更に好ましくは0.0050%以下である。
【0023】
[O:0.0050%以下]
O(酸素)は、鋼線中に、Al及びTi等の酸化物として存在する。本実施形態に係る非調質ボルトはOを含有する必要がないので、O含有量の下限値は0%である。但し、製造コスト(脱酸コスト)の低減の観点から、O含有量は、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0002%以上であってもよく、0.0005%以上であってもよい。一方、O含有量が0.0030%を超える場合、粗大な酸化物が鋼中に生成して、疲労破壊が生じ易く、冷間加工性も劣化させる。従ってO含有量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下であり、更に好ましくは0.0030%以下である。
【0024】
本実施形態の非調質ボルトの化学組成は、Feの一部に代えて、下記A群、B群及びC群からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
[A群]Cr:1.00%以下、Mo:0.50%以下、Ti:0.050%以下、Nb:0.050%以下、V:0.200%以下、B:0.0050%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上
[B群]Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下からなる群から選択される1種又は2種
[C群]Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、Sn:0.0400%以下からなる群から選択される1種又は2種以上
【0025】
[A群]について
本実施形態に係る非調質ボルトは、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.00%以下、Mo:0.50%以下、Ti:0.050%以下、Nb:0.050%以下、V:0.200%以下、B:0.0050%以下からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
【0026】
[Cr:1.00%以下]
Cr(クロム)は、任意の元素であり、パーライト変態後の鋼の引張強さを高める元素である。Crは、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.01%以上であり、更に好ましくは0.03%以上であり、更に好ましくは0.05%以上であり、特に好ましくは0.10%以上である。一方、Cr含有量が1.00%超である場合、マルテンサイトが生じ易くなり、これにより冷間加工性が劣化する場合がある。従ってCr含有量は1.00%以下とする。好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
【0027】
[Mo:0.50%以下]
Mo(モリブデン)は、任意の元素であり、パーライト変態後の鋼の引張強さを高める元素である。Moは、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.01%以上である。一方、Mo含有量が0.50%超である場合、マルテンサイトが生じ易くなり、これにより冷間加工性が劣化する場合がある。従ってMo含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
【0028】
[Ti:0.050%以下]
Ti(チタン)は、任意の元素であり、脱酸元素であるとともに、TiNを形成し、固溶Nを低減して動的ひずみ時効を抑制する作用、及び、耐水素脆化特性を高める作用を有する元素である。Tiは、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.005%以上であり、更に好ましくは0.015%以上である。一方、Ti含有量が0.050%超である場合、上述の効果が飽和すると共に、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。従ってTi含有量は0.050%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
【0029】
[Nb:0.050%以下]
Nb(ニオブ)は、任意の元素であり、NbNを形成し、固溶Nを低減して動的ひずみ時効を抑制する作用、及び、耐水素脆化特性を高める作用を有する元素である。Nbは、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.005%以上であり、更に好ましくは0.015%以上である。一方、Nb含有量が0.050%超である場合、上述の効果が飽和すると共に、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。従ってNb含有量は0.050%以下とする。好ましくは0.035%以下である。
【0030】
[V:0.200%以下]
V(バナジウム)は、任意の元素であり、VはVNを形成し、固溶Nを低減して動的ひずみ時効を抑制する作用、及び、耐水素脆化特性を高める作用を有する元素である。V含有量は好ましくは0%超であり、より好ましくは0.020%以上である。一方、V含有量が0.200%超である場合、上述の効果が飽和すると共に、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。したがって、V含有量は0.200%以下とする。好ましくは0.100%以下または0.050%以下である。
【0031】
[B:0.0050%以下]
B(硼素)は、任意の元素であり、粒界フェライトや粒界ベイナイトを抑制し、冷間加工性及び耐水素脆化特性を向上させる効果や、パーライト変態後の引張強さを高める効果がある。Bは、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.0003%以上である。一方、B含有量が0.0050%を超えると上述の効果が飽和し、粒界にBNを生成して冷間加工性を劣化させる。従って、B含有量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0030%以下である。
【0032】
本実施形態に係る非調質ボルトは、上述した任意の元素の各々の効果を得る観点から、質量%で、Cr:0超1.00%以下、Mo:0超0.50%以下、Ti:0超0.050%以下、Nb:0超0.050%以下、V:0超0.200%以下、及びB:0超0.0050%以下の1種又は2種以上を含有してもよい。
【0033】
[B群]について
また、本実施形態の非調質ボルトは、Feの一部に代えて、Cu、Niの1種又は2種を含有してもよい。
【0034】
[Cu:0.50%以下]
Cu(銅)は、任意の元素であり、耐水素脆化特性を向上させたいときに含有させてもよい。Cuは、0%超でもよく、0.005%以上でもよく、0.01%以上でもよい。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、鋼の熱間延性が低下し、線材圧延時に表面疵が発生しやすくなる。この表面疵に起因して、冷間加工性が低下する場合がある。よって、Cu含有量は0.50%以下とする。
【0035】
[Ni:0.50%以下]
Ni(ニッケル)は、任意の元素である。Niは、Cuを含有する場合に、Cuによる鋼材の熱間延性の低下を抑制するために含有させてもよい。Niは、0%超でもよく、0.005%以上でもよく、0.01%以上でもよい。一方、Ni含有量が0.50%を超えると、鋼の熱間延性が低下し、線材圧延時に表面疵が発生しやすくなる。この表面疵に起因して、冷間加工性が低下する場合がある。よって、Ni含有量は0.50%以下とする。
【0036】
[C群]について
また、本実施形態の非調質ボルトは、Feの一部に代えて、Ca、Mg、Snの1種又は2種以上を含有してもよい。
【0037】
[Ca:0.0100%以下]
Ca(カルシウム)は、任意の元素である。Caは脱酸元素であり、鋼中のMnSの形状を球状化し、冷間加工性や被削性を向上させる効果があるため、これらの特性を向上させたい場合は含有してもよい。Caは、0%超でもよく、0.0002%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、Ca系介在物が鋼中に混入しやすくなり、冷間加工性が低下する場合がある。よって、Ca含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下である。
【0038】
[Mg:0.0100%以下]
Mg(マグネシウム)は、任意の元素である。Mgは脱酸元素であり、鋼材中のMnSの形状を球状化し、冷間加工性や被削性を向上させる効果があるため、これらの特性を向上させたい場合は添加してもよい。Mgは、0%超でもよく、0.0002%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、Mg系介在物が鋼中に混入しやすくなり、冷間加工性が低下する場合がある。よって、Mg含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下である。
【0039】
[Sn:0.0400%以下]
Sn(錫)は、任意の元素である。Snは耐食性を向上させる効果があるため、耐食性を向上させたい場合は含有してもよい。Snは、0%超でもよく、0.0002%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。一方、Sn含有量が0.0400%を超えると、鋼の熱間延性が低下し、線材圧延時に表面疵が発生しやすくなる。この表面疵に起因して、冷間加工性が低下する場合がある。よって、Sn含有量は0.0400%以下とする。好ましくは0.0200%以下である。
【0040】
[残部:Fe及び不純物]
本実施形態の非調質ボルトの化学組成において、上述した各元素を除いた残部は、Fe及び不純物である。ここで、不純物とは、原材料に含まれる成分、又は、製造の工程で混入する成分であって、意図的に鋼に含有させたものではない成分を指す。不純物としては、上述した元素以外のあらゆる元素が挙げられる。不純物としての元素は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0041】
≪金属組織≫
次に、金属組織について説明する。本実施形態に係る非調質ボルトの金属組織は、軸部のC断面(軸部の中心軸に対して垂直な断面)において、非調質ボルトの軸部の軸部直径をDとした場合の軸部表面からの深さD/4位置における金属組織が、パーライトと、残部が0%以上のフェライトからなる。パーライトの面積率は、鋼中のC含有量を[C%]とした場合、面積率で(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上とする。また、残部は、0%以上のフェライトであり、残部は0%であってもよい。パーライトと残部の合計は100面積%とする。
【0042】
更に、本実施形態に係る非調質ボルトは、ボルト頭部と軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCは1.50以下とする。
【0043】
(パーライト)
軸部のC断面における、軸部表面からの深さD/4位置における金属組織におけるパーライトの面積率は、(95-42.5×(0.82-[C%]))%以上とする。これにより、冷間加工性及び耐水素脆化特性が向上する。パーライトの面積率が(95-42.5×(0.82-[C%]))%未満である場合、パーライト以外の金属組織が多く混在することにより非調質ボルトの強度(引張強さ、硬度等)が不均一になるので、非調質ボルトへの冷間加工の際に割れが発生し易くなる(即ち、冷間加工性が低下する場合がある)。また、耐水素脆化特性が劣化する場合がある。パーライトの面積率の具体的な好ましい範囲は、[C%]にもよるが、80~99%が好ましく、83~97%がより好ましく、85~95%が特に好ましい。
【0044】
パーライトの面積率の上限は100%である。一方、製造適性の観点から、軸部のC断面における軸部表面からの深さD/4位置におけるパーライトの面積率は、99%以下が好ましく、97%以下がより好ましく、95%以下が更に好ましい。
【0045】
なお、パーライトは、ラメラパーライトが主体であるが、パーライト中に、少量の疑似パーライトや、疑似パーライトとの識別が困難な少量のベイナイトが存在する場合がある。本実施形態では、これら疑似パーライトやベイナイトはごく少量であるので、パーライトに含めるものとし、残部とはしない。
【0046】
(残部)
本実施形態に係る非調質ボルトの金属組織における残部は、0%以上のフェライトである。パーライトの面積率が100%の場合の残部は0%であってもよい。従って、残部は0%以上とする。
【0047】
(パーライト及び残部の面積率の測定方法)
本明細書において、パーライトの面積率(%)は、以下の手順によって求められた値を指す。
【0048】
非調質ボルトの軸部のC断面(ボルト軸方向に垂直な断面)を、ピクラール(エタノール100mlに対しピクリン酸4gの混合溶液)を用いてエッチングし、金属組織を現出させる。
次いで、
図1に示すように、エッチング後の軸部のC断面における軸部表面からの深さD/4位置(即ち、円周状の位置)から、円周方向に90°おきに4箇所の観察位置を選び、各々の観察位置について、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡:Field Emission - Scanning Electron Microscope)を用いて倍率1000倍のSEM写真を撮影する。
【0049】
得られた4つのSEM写真において、フェライトを目視でマーキングし、フェライトの面積率(%)を画像解析によって求める。得られたフェライトの面積率(%)を100%から差し引くことにより、パーライトの面積率(%)が得られる。パーライト中に少量の疑似パーライトや、疑似パーライトとの識別が困難な少量のベイナイトが存在する場合、これらはパーライトに含める。
【0050】
(βMAX/βC)
本実施形態に係る非調質ボルトでは、ボルト頭部と軸部との接続部の軸部中心におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅βCと、接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域におけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCが1.50以下とする。本発明者らは、非調質ボルトの耐水素脆化特性を向上させるため、鋭意検討した結果、フェライトのX線回折ピークの半価幅と耐水素脆化特性との相関を見出した。より具体的には、βMAX/βCが1.50以下であるときに、非調質ボルトの耐水素脆化特性が優れることを見出した。
【0051】
非調質ボルトにおいて、締結時に発生する応力は、伸線・圧造時に導入された歪量と相関があると考えられる。一般的に、水素脆化による遅れ破壊は、高い応力が発生する箇所で発生しやすい。一般的に、ボルト製造時の圧造工程ではボルト首下部に大きな歪が導入される。従って、非調質ボルトの首下部は、水素脆化による遅れ破壊が生じやすく、非調質ボルトの耐水素脆化特性を劣化させる原因となる。
【0052】
ところで、X線回折ピークの半価幅は、一般的に、測定位置における歪量と関係していると考えられる。しかし、鋭意検討した結果、βMAX/βCと非調質ボルトの耐水素脆化特性との間に相関が見出されたことから、非調質ボルトの耐水素脆化特性は、首下部における歪量によって決まるのではなく、非調質ボルトの歪分布によって決まると推定される。
【0053】
βMAX/βCが1.50超の場合、非調質ボルトの耐水素脆化特性が十分でなく、水素脆化による破断が生じやすくなる。好ましくは1.40以下であり、より好ましくは1.35以下である。一方、βMAX/βCの下限は特に規定されないが、製造性の面から、0.70以上であることが好ましい。また、βMAX/βCの下限は、0.80以上であってもよく、0.90以上であってもよい。
【0054】
(X線回折ピークの半価幅の測定位置及び測定方法)
βMAX/βCの分母である半価幅βCは、ボルト頭部と軸部との接続部の軸部中心において測定する。また、βMAX/βCの分子であるβMAXは、ボルト頭部と軸部との接続部の表面から軸部の中心軸線に向かう深さ500μmまでの領域の複数箇所においてX線回折ピークを測定し、その中の最大値とする。X線回折ピークの半価幅の比を接続部において測定する理由は、ボルト頭部と軸部との接続部は、応力集中を受けやすい箇所であって、水素脆化による遅れ破壊の起点となりやすいためであり、この接続部のX線回折ピークの半価幅の比を制御することで、耐水素脆化特性を向上することが可能になることを見出したためである。以下、図面を参照して測定位置を説明する。
【0055】
図2~
図5は、半価幅β
MAX及び半価幅β
Cの測定位置を説明する断面模式図である。
図2~
図5にはそれぞれ、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の断面であって、軸部の中心軸を含むL断面(ボルト軸方向に平行な断面)を示している。
【0056】
まず
図2において、符号1は、接続部近傍のL断面におけるボルト頭部の下面の輪郭線であり、符号2は、接続部近傍のL断面における軸部の表面の輪郭線であり、符号3は、ボルト頭部と軸部との接続部の表面の輪郭線である。ボルト頭部の下面の輪郭線1と、軸部の表面の輪郭線2とは、相互に交差する方向を向いている。
図2の例では、輪郭線1と軸部の表面の輪郭線2とはほぼ直交しているが、後述する別例に示すように、必ずしも直交している必要はない。また、ボルト頭部の下面と軸部の表面との接続部分は微小なR面となっているため、接続部の表面の輪郭線3は、交差方向に延在する輪郭線1、2を結ぶように凹曲線で近似的に表すことができる。
【0057】
ここで、ボルト頭部の下面の輪郭線1の延長線をlflgとし、軸部の表面の輪郭線2の延長線をlaxisとし、延長線lflgと延長線laxisとの交点をAとする。
【0058】
次に、
図3に示すように、交点Aから、接続部の表面の輪郭線3に向けて線分を描き、線分と輪郭線3との交点をOとする。交点Aから輪郭線3に向けて描く線分は、延長線l
flgとのなす角が45°になるような線分である。
【0059】
次に、
図4に示すように、交点Oから、軸部の中心軸線4に向けて、延長線l
flgと平行な延長線l
measureを延ばす。延長線l
measureと中心軸線4との交点をCとする。
【0060】
そして
図5に示すように、交点Cを半価幅β
Cの測定位置とする。また、
図5に示すように、交点Oから延長線l
measureに沿って深さ500μmまでの領域Dを、半価幅β
MAXの測定領域とする。
【0061】
図2~
図5に示したように、ボルト頭部と軸部との接続部近傍の断面であって、ボルトの中心軸を含む接続部のL断面を、後述するように鏡面仕上げにする。そして、
図5の交点CにおいてX線回折測定を行い、交点Cにおけるフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅(半価幅は、FWHM:Full Width Half Maximum(半値全幅)を意味する)を測定する。X線回折測定は5回行う。5回の測定によって得られた5つの半価幅の平均値を半価幅β
Cとする。
【0062】
また、
図5に示すように延長線l
measureに沿って深さ500μmまでの領域Dから、5点の測定位置を設定する。例えば、交点Oから100μm、200μm、300μm、400μm、500μm離れた5点を測定位置とし、各測定位置において、フェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅(半価幅は、FWHM:Full Width Half Maximum(半値全幅)を意味する)を測定する。X線回折測定は各測定点においてそれぞれ5回行い、5回の平均をそれぞれの測定位置における半価幅とする。そして、5箇所の測定位置で得られた半価幅のうち、最大の半価幅を半価幅β
MAXとする。
【0063】
そして、半価幅βCと半価幅の最大値βMAXとの比βMAX/βCを求める。
【0064】
測定対象であるフェライトは、主にパーライトに含まれるものであり、また、フェライトの(211)面のX線回折ピークは、下記条件でX線回折測定を行った場合に150~170°の範囲に現れるピークである。
【0065】
通常、X線回折測定により得られたフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークは、Kα1線とKα2線に対応するX線回折ピークが重畳した形で観測される。そのため、Rachingerの方法(Rachinger, W. A., J. Sci. Instrum., 25(1948), p.254-255.)によって、得られたフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークからKα2線に対応するX線回折ピークの強度分を差し引き、その半価幅をフェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅とする。
【0066】
更に、半価幅は、FWHM:Full Width Half Maximum(半値全幅)を意味する。なお、下記測定条件のうち、回折装置を除く条件が満たされればよいので、X線回折装置はRigaku製と同等の装置を用いてもよい。
【0067】
(X線回折の測定条件)
X線回折装置:Rigaku AutoMATE
X線ターゲット:CrKα
加速電圧:40kV
加速電流:40mA
コリメータ径:φ150μm
【0068】
X線回折測定を行う場合、非調質ボルトの軸部のL断面を、以下に説明するように鏡面研磨処理した後に、測定を行うとよい。
具体的には、非調質ボルトの軸部のL断面を、まず#400から#1500のエメリー紙(炭化珪素耐水研磨紙)で湿式研磨する。その後ダイヤモンド懸濁液(粒度1~6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体)を染み込ませた琢磨布で試験片を琢磨するにより、試験片を鏡面に仕上げる。その後、コロイダルシリカ琢磨により、試験片表層の加工変質層を除去する。そして、軸部中心、および接続部の表面から500μmまでの領域内(例えば表層から100μm、200μm、300μm、400μm、500μmの5点)において、フェライトの(211)面に対応するX線回折ピークの半価幅を測定する。
【0069】
また、非調質ボルトの軸部の表層に電気亜鉛めっき等の皮膜が存在する場合、皮膜部分の表層を測定の起点とせずに、地鉄部分の表層を測定の起点とする。また、測定の起点におけるX線の照射領域(コリメータ径と同じ直径の円領域)内に地鉄以外の領域が含まれないように、測定の起点を設定する。すなわち、測定の起点におけるX線の照射領域が地鉄部分の表層部分に外接するように、測定の起点を設定する。
【0070】
更に、半価幅β
MAX及び半価幅β
Cの測定位置の特定方法は、ボルトの接続部の形状に応じて、適宜修正してもよい。
例えば、
図6Aに示すように、ボルトの別の例として、軸部の頭部側の端部がテーパー形状になっているボルトがある。
図6Aにおいて、符号1は、接続部近傍のL断面におけるボルト頭部の下面の輪郭線であり、符号2は、接続部近傍のL断面における軸部の表面の輪郭線であり、符号3は、ボルト頭部と軸部との接続部の表面の輪郭線である。さらにこの例では、輪郭線2、3の間に、軸部に設けられたテーパー形状の輪郭線2aがある。
【0071】
ボルト頭部の下面の輪郭線1と、テーパー形状の輪郭線2aとは、相互に交差する方向を向いている。
図6Aでは、軸部のテーパー部分の輪郭線2aは、テーパー形状の分だけ、軸部の輪郭線2に対して傾いており、また、輪郭線1とは直交していない。また、ボルト頭部の下面と軸部の表面との接続部分は微小なR面となっているため、接続部の表面の輪郭線3は、交差方向に延在する輪郭線1、2aを結ぶように凹曲線で近似的に表される。
【0072】
このように、テーパー形状を有するボルトの場合、
図6Bに示すように、ボルト頭部の下面の輪郭線1の延長線をl
flgとし、軸部のテーパー部分の輪郭線2aの延長線をl
axisとし、延長線l
flgと延長線l
axisとの交点をAとする。次いで、交点Aから、輪郭線3に向けて線分を描き、線分と輪郭線3との交点をOとする。交点Aから輪郭線3に向けて描く線分は、延長線l
flgとのなす角が45°になるような線分である。次いで、交点Oから、軸部の中心軸線4に向けて、延長線l
flgと平行な延長線l
measureを延ばす。延長線l
measureと中心軸線4との交点をCとする。そして、交点Cを半価幅β
Cの測定位置とする。また、交点Oから延長線l
measureに沿って深さ500μmまでの領域Dを、半価幅β
MAXの測定領域とする。
【0073】
更に、
図7Aに示すように、ボルトの更に別の例として、軸部と頭部の接続部分において、頭部の下面がアンダーカットされているボルトがある。
図7Aにおいて、符号1は、接続部近傍のL断面におけるボルト頭部の下面の輪郭線であり、符号2は、接続部近傍のL断面における軸部の表面の輪郭線であり、符号3aは、ボルト頭部と軸部との接続部の表面の輪郭線である。輪郭線3aは、アンダーカットされた形状の輪郭線になっている。軸部の輪郭線2と、アンダーカット形状の輪郭線3aとの接続点である点Bは、頭部の下面よりも図中、低い位置にある。また、頭部の下面の輪郭線1と、軸部の輪郭線2aとは、相互に直交する方向を向いている。接続部の表面の輪郭線3aは、アンダーカットの形状を反映しつつ、交差方向に延在する輪郭線1、2aを結ぶように凹曲線で近似的に表される。
【0074】
このように、アンダーカットを有するボルトの場合、
図7Bに示すように、ボルト頭部の下面の輪郭線1の延長線をl
flgとし、軸部の輪郭線2の延長線をl
axisとし、延長線l
flgと延長線l
axisとの交点をAとする。次いで、交点Aから、輪郭線3aに向けて線分を描き、線分と輪郭線3aとの交点をOとする。交点Aから輪郭線3aに向けて描く線分は、延長線l
flgとのなす角が45°になるような線分である。次いで、交点Oから、軸部の中心軸線4に向けて、延長線l
flgと平行な延長線l
measureを延ばす。延長線l
measureと中心軸線4との交点をCとする。そして、交点Cを半価幅β
Cの測定位置とする。また、交点Oから延長線l
measureに沿って深さ500μmまでの領域Dを、半価幅β
MAXの測定領域とする。
【0075】
≪引張強さ≫
本実施形態に係る非調質ボルトの引張強さは1200~1800MPaの範囲とする。
従来の非調質ボルトでは、非調質ボルトの引張強さが1200MPa以上であると、耐水素脆化特性が低下する傾向にある。しかし、本実施形態に係る非調質ボルトは、引張強さが1200MPa以上の非調質ボルトでありながら、優れた耐水素脆化特性を有する。また、引張強さが1800MPa以下であることにより、非調質ボルトの製造適性に優れる。
【0076】
本明細書において、非調質ボルトの引張強さは、JIS B 1051:2014に記載の試験方法に準拠して測定された値を意味する。
【0077】
次に、本実施形態に係る非調質ボルトの製造方法を説明する。
本発明の実施形態に係る非調質ボルトと同一の化学組成を有する鋼片を、1000~1150℃に加熱し、仕上げ圧延温度800~950℃で熱間圧延することにより線材を得る。
【0078】
熱間圧延の後、450~600℃の溶融塩槽に50秒以上浸漬して、恒温変態処理を行う。溶融塩槽の温度が低過ぎる場合、線材表層部のパーライトのラメラ間隔が小さくなる。これにより、製造される非調質ボルトの軸部表層部の引張強さが局所的に高くなり、かつ軸部表層部の絞りが低下する。また、線材表層部において局所的にマルテンサイトが生成し、冷間加工性が低下する。したがって、溶融塩槽の温度は450℃以上とする。また、溶融塩槽の温度が高過ぎる場合、パーライト変態の開始が遅くなり、生産性が低下するため、溶融塩槽の温度は600℃以下とする。
【0079】
また、溶融塩槽への浸漬時間が短過ぎる場合、パーライト変態が十分に進行しない。これにより、製造される非調質ボルトの軸部直径をDとして軸部表面からD/4の深さ位置において、パーライトの面積率が(95-42.5×(0.82-[C%]))%未満になるため、溶融塩槽への浸漬時間は50秒以上とする。なお、溶融塩槽への浸漬時間が長過ぎても製造される非調質ボルトの特性に大きな影響を与えないため、溶融塩槽への浸漬時間の上限は特に定められないが、生産性の観点から、溶融塩槽への浸漬時間は150秒以下とすることが好ましい。
【0080】
恒温変態処理の後、線材を水冷し、300℃以下の温度で水冷を終了する。
【0081】
次に、得られた線材を伸線加工することにより、鋼線を製造する。このとき、単一のパスあるいは複数のパスで伸線を行い、総減面率を15~65%とする。
【0082】
単一のパスあるいは複数のパスのどちらで伸線するかにかかわらず、総減面率は15%以上とする。総減面率が低過ぎる場合、耐水素脆化特性が低下する場合がある。また、十分な引張強さが得られない場合がある。
【0083】
単一のパスあるいは複数のパスのどちらで伸線するかにかかわらず、総減面率が高過ぎる場合、鋼線の加工性が低下するため、総減面率は65%以下とする。
【0084】
なお、製造される鋼線の直径は、特に制限はなく、本発明の実施形態に係る非調質ボルトの寸法に応じて、適切な直径が選択されればよいが、例えば10.0mm以下としてもよい。非調質ボルトの軸部直径も同様に10.0mm以下としてもよい。
【0085】
次に、得られた鋼線を冷間加工(冷間鍛造)することにより、非調質ボルトとして、フランジ付六角ボルトの形状に加工する。冷間鍛造工程は、剪断工程、前方押出し工程、ボルト頭部予備成形工程、ボルト頭部仕上げ工程からなる。各工程について、
図8~
図10を参照しつつ説明する。
【0086】
本実施形態の非調質ボルトは、下記の製造方法によって製造されたものに限られるものではなく、下記の製造方法以外の製造方法によって製造された非調質ボルトであっても、化学組成、金属組織、およびX線回折ピークの半価幅の比(比βMAX/βC)が本発明の範囲を満足するものであれば、本発明の非調質ボルトに含まれる。
【0087】
剪断工程では、得られた鋼線を切断し、必要な長さを有するブランク材に加工する。
【0088】
前方押出し工程では、
図8に示すように、ブランク材1に対して前方押出し加工を施すことにより、ブランク材1の一部を絞り、押出加工材1aとする。押出加工材1aの絞り部2(前方押出し加工部)には、フランジ付六角ボルトの形状に仕上げられたときの首下部に相当する部分が含まれる。その後、ボルト頭部予備成形工程、ボルト頭部仕上げ工程を経てボルト頭部を成形する。
【0089】
前方押出し工程における前方押出し比(押出加工材1aの大径部3の断面積に対する絞り部2の断面積の比)を、例えば、0.10以上とすればよい。前方押出し工程により、ボルトの歪分布が調整され、ボルト頭部と軸部との接続部におけるX線回折ピークの半価幅の比(比βMAX/βC)を1.50以下とすることができる。
【0090】
ボルト頭部予備成形工程では、
図9に示すように、前方押出し加工した押出加工材1aの大径部3(前方押出し加工が施されていない部分)を据込むことで、据込み加工を受けた大径部13を有する予備成形材1bとする。予備成形材1bは、押出加工材1aの大径部3に対し、大径部13の外径が拡大されるとともに大径部13の高さが小さくされたものとなる。
【0091】
ボルト頭部仕上げ工程では、
図10に示すように、ボルト頭部予備成形工程後の予備成形材1bを仕上げ成形ダイス孔型21に挿入し、六角形の型孔が形成されたパンチ20で据込むことによって、最終的なフランジ付六角ボルトの形状に加工する。このとき、予備成形材1bの下にノックアウト22を配置することにより、予備成形材1bを位置決めする。予備成形材1bを仕上げ成形ダイス孔型21に挿入する際には、予備成形材1bの大径部13(据込み加工部)の下端13aと仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aが接触しないように配置する。
【0092】
大径部13(据込み加工部)の下端13aと仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aの間の距離は、(ΔL)mm以上、(ΔL+r)mm以下であることが望ましい。ここで、ΔLは下記式によって求めることができる。
【0093】
ΔL=L2×[(S2/S1)-1]
【0094】
上記式において、S1:予備成形材1bの軸部断面積、S2:ボルト頭部仕上げ工程後の軸部断面積、L2:ボルト頭部仕上げ工程後の軸部長さ、r:ボルト頭部仕上げ工程後の軸部半径である。
【0095】
下端13aと上端21aの距離が(ΔL)mm未満の場合、ボルト頭部と軸部との接続部におけるX線回折ピークの半価幅の比(比βMAX/βC)が1.50超となる可能性があり、(ΔL+r)mm超の場合は、ボルト頭部仕上げ工程で座屈が生じる可能性がある。よって、下端13aと上端21aの距離は(ΔL)mm以上、(ΔL+r)mm以下がよい。
【0096】
このようにしてボルト頭部予備成形工程およびボルト頭部仕上げ工程を設計することで、ボルト頭部と軸部との接続部におけるX線回折ピークの半価幅の比(比βMAX/βC)を1.50以下とすることができる。
【0097】
冷間鍛造工程の後、転造によりボルトの軸部にねじ部を形成する。
最後に、加工されたボルトを、200~400℃に加熱し、10~120分保持することで、非調質ボルトを得る。なお、この熱処理は調質のための熱処理には該当しない。
【0098】
また、防錆のため、電気亜鉛めっき等の皮膜処理を行ってもよい。また、前述の防錆皮膜処理により非調質ボルト中に水素が侵入する場合は、水素をボルト外部に放出するための熱処理として、150~250℃に60~480分保持し、その後、冷却してもよい。なお、この熱処理は調質のための熱処理には該当しない。
【0099】
このように、本実施形態では、本発明に係る化学組成を有する鋼線に対して、前述のような、剪断工程、前方押出し工程、ボルト頭部予備成形工程、ボルト頭部仕上げ工程に沿って冷間鍛造し、ボルトの形状に成形することで、ボルト頭部と軸部との接続部におけるX線回折ピークの半価幅の比(比βMAX/βC)を1.50以下にすることが可能になり、水素脆化を原因とする接続部を起点とする遅れ破壊を防止できるようになる。
【実施例0100】
<非調質ボルトの製造>
最初に、表1A~表2Bに示す化学組成の鋼片を用い、鋼線を次のような手順で製造した。表1中の各鋼種の化学組成において、表1に示した元素以外の残部は、Fe及び不純物である。なお、鋼線の化学組成は、鋼片の化学組成と同一であると見なせる。その理由は、次の手順に含まれる熱間圧延、恒温変態処理、水冷、風冷、伸線加工は、いずれも鋼線の化学組成に影響を及ぼさないためである。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
水準1~58、60~64では、鋼片に対し、表3Aおよび表3Bに示す条件の熱間圧延を施して、表3Aおよび表3Bに示す線材径の線材を得た。次いで、恒温変態処理、水冷及び伸線加工を順次施すことにより、鋼線を得た。なお、いずれの水準も単一のパスで伸線した水準である。
【0106】
水準59では、鋼片に対し、表3Bに示す条件の熱間圧延を施し、恒温変態処理を行わずに、風冷した。その後、表3Bに示す条件の伸線加工を施すことにより、鋼線を得た。
【0107】
次に、各水準の鋼線を表3Aおよび表3Bに示す条件で冷間加工(冷間鍛造)することにより、呼び径が8.0mmまたは4.0mmであるフランジ付ボルトの形状(JIS B1189:2015に規定されるM8、M4フランジ付き六角ボルト)に加工した。
【0108】
表3Aおよび表3Bに記載の「圧造1」は、以下に説明する冷間加工を行う条件とした。すなわち、剪断工程、前方押出し工程、ボルト頭部予備成形工程およびボルト頭部仕上げ工程を行った。剪断工程では、鋼線を切断してブランク材とした。前方押出し工程では、
図8に示すように、ブランク材1を前方押出し加工して、絞り部2および大径部3を有する押出加工材1aとした。前方押出し比は0.12とした。ボルト頭部予備成形工程では、
図9に示すように、押出加工材1aの大径部3を据込むことで、据込み加工を受けた大径部13を有する予備成形材1bとした。ボルト頭部仕上げ工程では、
図10に示すように、予備成形材1bを仕上げ成形ダイス孔型21に挿入し、六角形の型孔が形成されたパンチ20で据込むことによって、最終的なフランジ付六角ボルトの形状に加工した。加工時に、予備成形材1bの大径部13の下端13aが仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aに接触しないように配置した。大径部13(据込み加工部)の下端13aと仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aの間の距離は、0.45mmとした。なお、「圧造1」においてΔL=0.30mmであった。ΔL+rは0.45mm超であった。
【0109】
表3Aおよび表3Bに記載の「圧造2」は、ボルト頭部仕上げ工程において、予備成形材1bの大径部13の下端13aを仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aに接触させるように配置した。すなわち、大径部13(据込み加工部)の下端13aと仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aの間の距離は、0mmであり、ΔL未満だった。それ以外の条件は、「圧造1」と同様にした。
【0110】
表3Aおよび表3Bに記載の「圧造3」は、前方押出し工程における前方押出し比が0.11であること、ボルト頭部仕上げ工程における大径部13(据込み加工部)の下端13aと仕上げ成形ダイス孔型21の上端21aの間の距離が0.42mmである以外は、「圧造1」と同様の冷間加工を行った。なお、「圧造3」においてΔL=0.41mmであった。ΔL+rは0.42mm超であった。
【0111】
その後、仕上げ成形された非調質ボルトを転造してねじ部を形成し、更に300℃に加熱し、この温度で20分保持することにより、非調質ボルトを得た。
【0112】
なお、非調質ボルトの化学組成は、鋼線の化学組成と同一と見なせる。その理由は、上記の冷間加工(冷間鍛造)及び熱処理は、非調質ボルトの化学組成に影響を及ぼさないためである。即ち、非調質ボルトの化学組成は、鋼片の化学組成と同一と見なせる。
【0113】
【0114】
【0115】
<非調質ボルトにおける測定>
各水準の非調質ボルトについて、前述した方法により、軸部表面からの深さD/4位置におけるパーライトの面積率の測定、軸部表面からの深さD/4位置におけるパーライト以外の残部の確認、X線回折ピークの半価幅の測定、引張強さの測定、をそれぞれ行った。
【0116】
<非調質ボルトの引張強さの測定>
各水準の非調質ボルトについて、引張強さを、前述した測定方法によって測定した。引張試験時のクロスヘッド変位速度は3.0mm/minとした。
【0117】
<非調質ボルトの耐水素脆化特性の評価>
得られた非調質ボルトについて、以下の方法により、耐水素脆化特性を測定した。 まず、非調質ボルトを電解水素チャージすることにより、0.5ppmの拡散性水素を非調質ボルトに含有させた。電解水素チャージ方法は、ISO16573に準拠した。 次に、試験中に水素が機械部品から大気中に放出することを防ぐために、試料にCdめっきを施した。 次に、大気中で、その非調質ボルトの最大引張荷重の90%の荷重を非調質ボルトに負荷し、この状態で100時間以上保持した。
【0118】
その結果、100時間経過時において破断が生じなかった場合を耐水素脆化特性が良好であると判断し、100時間経過時において破断が生じた場合を耐水素脆化特性が不良であると判断した。
【0119】
以上の結果を表4Aおよび表4Bに示す。
【0120】
【0121】
【0122】
本発明の実施例である水準1~40の非調質ボルトは、いずれも良好な耐水素脆化特性を有していた。
【0123】
水準41の非調質ボルトは、C含有量が少ないため、引張強さが本発明から外れた。
水準42では、C含有量が高すぎたため、十分な冷間加工性が確保されていなかったため、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0124】
水準43では、Si含有量が過剰であり、熱間線材に発生した表面疵に起因して圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0125】
水準44では、Mn含有量が過剰であり、局所的に生成したマルテンサイトに起因して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0126】
水準45、46はそれぞれ、P含有量、S含有量が過剰であり、耐水素脆化特性が不十分になった。
水準47はN含有量が過剰であり、動的ひずみ時効により冷間加工性が劣化して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
水準48では、O含有量が過剰であり、鋼中の粗大な酸化物に起因して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0127】
水準49、50はそれぞれ、Cr含有量、Mo含有量が過剰であり、局所的に生成したマルテンサイトに起因して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0128】
水準51、52、53はそれぞれ、Ti含有量、Nb含有量、V含有量が過剰であり、熱間線材に発生した表面疵に起因して圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0129】
水準54は、Bの含有量が過剰であり、粒界に析出したBNに起因して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0130】
水準55では、Cu含有量が過剰であり、熱間線材に発生した表面疵に起因して圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0131】
水準56、57はそれぞれ、Ca含有量、Mg含有量が過剰であり、鋼中の介在物に起因して、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0132】
水準58では、Sn含有量が過剰であり、熱間線材に発生した表面疵に起因して圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0133】
水準59の非調質ボルトは、恒温変態処理を行わず、水冷ではなく風冷としたため、軸部表面からの深さD/4位置におけるパーライト面積率が(95-42.5×(0.82-[C%]))%未満となり、残部に多くのフェライトが混在する金属組織となったため、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0134】
水準60の非調質ボルトは、鋼線の恒温変態処理の処理時間が短すぎたため、金属組織にマルテンサイトが含まれることになり、圧造時に割れが生じてしまい、引張強さ及び耐水素脆化特性の評価を行うことができなかった。
【0135】
水準61、62の非調質ボルトは、予備成形したボルトを仕上げ成形ダイス孔型に挿入したときに、予備成形したボルトの膨張部の下端と仕上げ成形ダイス孔型の上端が接触するように工程設計した冷間鍛造工程を行ったため、X線回折ピーク半価幅の比βMAX/βCが1.50超となり、十分な耐水素脆化特性を有していなかった。
【0136】
水準63の非調質ボルトは、伸線加工条件が好ましい条件ではなかったため、引張強さが本発明から外れた。
【0137】
水準64は、SAE1536に相当する線材を用いて製造した非調質ボルトであり、C含有量が少なく,軸部表面からの深さD/4位置におけるパーライト面積率が(95-42.5×(0.82-[C%]))%未満となり,十分な耐水素脆化特性を有していなかった。