IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エア・ウォーター株式会社の特許一覧

特開2024-131184化合物半導体構造およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131184
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】化合物半導体構造およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20240920BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/80 H
H01L21/66 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041289
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】浦谷 泰基
(72)【発明者】
【氏名】川村 啓介
【テーマコード(参考)】
4M106
5F102
5F152
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106BA02
4M106CB19
4M106DH11
4M106DH33
4M106DH50
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ10
5F102GK02
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F152LL03
5F152LL09
5F152LL13
5F152LM08
5F152LN28
5F152LP01
5F152LP08
5F152LP09
5F152MM18
5F152NN03
5F152NN04
5F152NP02
5F152NP27
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】損失を低減することのできる化合物半導体構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】化合物半導体構造CS1は、下地基板1と、下地基板1の一方の主面1a側に形成されたSiC(炭化ケイ素)層2と、下地基板1とSiC層2との界面に形成された接合層3とを備える。透過電子顕微鏡を用いて、下地基板1の一方の主面1aに対して垂直な断面を見た場合、検出位置P1における複数の転位欠陥または積層欠陥DFのうち少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥DF1と、転位欠陥または積層欠陥DF1と検出位置P1において隣接する他の転位欠陥または積層欠陥DF2との検出位置P1に沿った距離はXnmである。透過電子顕微鏡の電子線が透過したSiC層2の部分の厚さはYnmである。XおよびYは式(1)を満たす。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板と、
前記下地基板の一方の主面側に形成された炭化ケイ素層と、
前記下地基板と前記炭化ケイ素層との界面に形成された接合層とを備え、
透過電子顕微鏡を用いて前記下地基板の前記一方の主面に対して垂直な断面を見た場合、検出位置では複数の転位欠陥または積層欠陥が検出され、
前記検出位置における前記複数の転位欠陥または積層欠陥のうち少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥と、前記複数の転位欠陥または積層欠陥のうち前記少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥と前記検出位置において隣接する他の転位欠陥または積層欠陥との前記検出位置に沿った距離はXnmであり、
前記透過電子顕微鏡の電子線が透過した前記炭化ケイ素層の部分の長さはYnmであり、
前記XおよびYは下記式(1)を満たし、
前記炭化ケイ素層が400nmより大きい厚さを有する場合、前記検出位置は、前記炭化ケイ素層における前記接合層との界面から200nm離れた位置であり、
前記炭化ケイ素層が0より大きく400nm以下の厚さを有する場合、前記検出位置は、前記炭化ケイ素層における厚さ方向の中間位置である、化合物半導体構造。
X≧14000/Y ・・・(1)
【請求項2】
前記下地基板はダイヤモンド、炭化ケイ素、またはケイ素を含む、請求項1に記載の化合物半導体構造。
【請求項3】
前記炭化ケイ素層は、少なくともバナジウムおよびボロンのうちいずれか一方を含む、請求項1に記載の化合物半導体構造。
【請求項4】
前記炭化ケイ素層の一方の主面側に形成された層であって、窒化ガリウム、酸化ガリウム、ガリウム砒素、タンタル酸リチウム、およびニオブ酸リチウムよりなる群より選ばれる少なくとも1種以上の材料よりなる層をさらに備えた、請求項1に記載の化合物半導体構造。
【請求項5】
第1の基板の一方の主面側に、炭化ケイ素層を形成する工程と、
前記炭化ケイ素層の一方の主面側に第2の基板を設ける工程と、
前記第2の基板を設ける工程の後で、前記第1の基板を除去することにより、前記炭化ケイ素層の他方の主面を露出させる工程と、
前記炭化ケイ素層の前記他方の主面を露出させる工程の後で、前記炭化ケイ素層における前記他方の主面側の部分を除去する工程と、
前記炭化ケイ素層における前記他方の主面側の部分を除去する工程の後で、前記炭化ケイ素層の前記他方の主面に下地基板を接合する工程と、
前記下地基板を接合する工程の後で、前記第2の基板を前記炭化ケイ素層の前記一方の主面側から除去する工程とを備え、
前記炭化ケイ素層における前記他方の主面側の部分を除去する工程において、前記炭化ケイ素層における400nm以上の厚さの部分を除去する、化合物半導体構造の製造方法。
【請求項6】
前記炭化ケイ素層における前記他方の主面側の部分を除去する工程において、CMP(Chemical Mechanical Polish)を用いて前記炭化ケイ素層における前記他方の主面側の部分を除去する、請求項5に記載の化合物半導体構造の製造方法。
【請求項7】
前記下地基板を接合する工程において、表面活性化接合を用いて前記炭化ケイ素層の前記他方の主面に前記下地基板を接合する、請求項5に記載の化合物半導体構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体構造およびその製造方法に関する。より特定的には、本発明は、炭化ケイ素層を備えた化合物半導体構造およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの通信機器が本格的に普及している。これに伴い、移動体無線通信システムにおける通信機器間の通信容量および通信速度を向上するニーズが増加している。近年の移動体無線通信システムでは、携帯電話の通信規格であるLTE(Long Term Evolution)のサービスが実施されている。LTEの次の世代の通信規格の実用化も検討されている。
【0003】
上記の移動体通信システムにおいて鍵となる技術として、GaN(窒化ガリウム)やAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)などの窒化物半導体よりなるHEMT(High Electron Mobility Transistor、高電子移動度トランジスタ)が注目されている。窒化物半導体よりなるHEMTの技術は、近年、急速に開発されている。
【0004】
HEMTは、電子走行層と、電子走行層上に形成された障壁層とを含んでいる。障壁層を構成する材料は、電子走行層を構成する材料のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有している。HEMTでは、電子走行層における障壁層との界面付近に2次元電子ガスが形成される。この2次元電子ガスがHEMTの動作に用いられる。窒化物半導体よりなるHEMTは、GaAs(ガリウムヒ素)系の半導体材料よりなる電界効果トランジスタと比較して、多くの2次元電子ガスを生み出すことができ、電流密度が大きい。
【0005】
一例として、AlGaNとGaNとの格子定数の差は、AlGaAs(アルミニウムガリウムヒ素)とGaAsとの格子定数差よりも大きい。このため、AlGaN/GaNの積層構造におけるAlGaN層は、AlGaAs/GaAsの積層構造におけるAlGaAs層に比べて大きく歪む。したがって、AlGaN/GaNの積層構造におけるAlGaN層には、AlGaAs/GaAsの積層構造におけるAlGaAs層に比べて大きなピエゾ電界が発生する。この大きなピエゾ電界により、AlGaN/GaNの積層構造には、AlGaAs/GaAsの積層構造よりも多くの2次元電子ガスが誘起される。加えて、AlGaN層はAlGaAs層とは異なり、大きく自発分極する。AlGaN層の自発分極に起因する分極電界によって、AlGaN層との境界付近のGaN層には多くの2次元電子ガスが誘起される。その結果、窒化物半導体であるAlGaN/GaNよりなるHEMTは、GaAs系であるAlGaAs/GaAsよりなる電界効果トランジスタと比較して、約10倍の2次元電子ガスを生み出すことができる。
【0006】
したがって、窒化物半導体よりなるHEMTは、高出力および高効率での動作が可能であるため、次世代の高出力増幅器として期待されている。
【0007】
上述のような窒化物半導体よりなるHEMTなどのデバイスは、基板上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることで作製される。基板としては、GaN基板、Si(ケイ素)基板、SiC(炭化ケイ素)基板、またはサファイア基板などが用いられる。
【0008】
これらの基板のうちGaN基板およびSiC基板は、高品質な窒化物半導体層を形成できるという利点を有している。窒化物半導体の格子定数と、GaNまたはSiCの格子定数との差が小さいためである。しかし、GaN基板およびSiC基板は、大口径にすることが技術的に困難であるという欠点や、製造方法が複雑であり高価であるという欠点を有している。
【0009】
一方、これらの基板のうちSi基板およびサファイア基板は、大口径にすることが容易であり、安価であるという利点を有している。Si基板およびサファイア基板は、窒化物半導体層の品質が低いという欠点を有している。窒化物半導体の格子定数と、Siまたはサファイアとの格子定数との差が大きいためである。しかし、Si基板上に形成された窒化物半導体層の品質の低下は、窒化物半導体層との格子定数の差が小さいSiCなどの材料よりなるバッファ層を、Si基板と窒化物半導体層との間に挿入することで抑止することが可能である。
【0010】
また、窒化物半導体層にAl(アルミニウム)原子やGa(ガリウム)原子が含まれる場合に、これらの原子がSi基板側へ拡散する現象が起こり、デバイスの損失が増加することが知られている。バッファ層としてSiC層を設けることにより、これらの原子がSi基板へ拡散するのを抑止することができる。
【0011】
従って、Si基板と、Si基板上に形成されたSiC層とを含む基板(以降、SiC/Si基板と記すことがある)は、窒化物半導体よりなるデバイスの基板として適している。SiC/Si基板は、窒化物半導体よりなるデバイスのみならず、高周波用途のデバイスの基板としても適している。高周波用途のデバイスには、HEMT、FET(Field Effect Transistor)、およびリチウム化合物を含むSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタなどが含まれる。
【0012】
なお、下記特許文献1には、半絶縁性のSiC基板上に、GaNよりなる電子走行層と、AlGaNよりなる障壁層とが形成されたHEMTが開示されている。下記非特許文献1には、高抵抗のFz-Si(ケイ素)基板上に、GaNよりなる電子走行層と、AlGaNよりなる障壁層とが形成されたHEMTが開示されている。下記特許文献2には、SiC/Si基板上に、GaNよりなる電子走行層と、AlGaNよりなる障壁層とが形成されたHEMTが開示されている。下記非特許文献2には、3C-SiC層の接合面を研磨した後で、3C-SiC層とダイヤモンド基板とを接合するHEMTの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2006-517726号公報(特許第4990496号)
【特許文献2】特開2022-036462号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. W. Johnson et al. "12 W/mm AlGaN-GaN HFETs on Silicon Substrates", IEEE Electron Device Lett., vol.25, No.7, pp.459-461, Jul 2004.
【非特許文献2】Ryo Kagawa1 et al. "AlGaN/GaN/3C-SiC on diamond HEMTs with thick nitride layers prepared by bonding-first process", Applied Physics Express 15, 041003 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来のSiC/Si基板を高周波用途のデバイスの基板として使用した場合には、デバイスの損失が大きいという問題があった。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、損失を低減することのできる化合物半導体構造およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一の局面に従う化合物半導体構造は、下地基板と、下地基板の一方の主面側に形成された炭化ケイ素層と、下地基板と炭化ケイ素層との界面に形成された接合層とを備え、透過電子顕微鏡を用いて、炭化ケイ素層の下地基板の一方の主面に対して垂直な断面を見た場合、炭化ケイ素層における接合層との界面から200nm離れた位置である検出位置では複数の転位欠陥または積層欠陥が検出され、検出位置における複数の転位欠陥または積層欠陥のうち少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥と、複数の転位欠陥または積層欠陥のうち少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥と検出位置において隣接する他の転位欠陥または積層欠陥との検出位置に沿った距離はXnmであり、透過電子顕微鏡の電子線が透過した前記炭化ケイ素層の部分の長さはYnmであり、XおよびYは下記式(1)を満たし、炭化ケイ素層が400nmより大きい厚さを有する場合、検出位置は、炭化ケイ素層における接合層との界面から200nm離れた位置であり、炭化ケイ素層が0より大きく400nm以下の厚さを有する場合、検出位置は、炭化ケイ素層における厚さ方向の中間位置である。
【0018】
X≧14000/Y ・・・(1)
【0019】
上記化合物半導体構造において好ましくは、下地基板はダイヤモンド、炭化ケイ素、またはケイ素を含む。
【0020】
上記化合物半導体構造において好ましくは、炭化ケイ素層は、少なくともバナジウムおよびボロンのうちいずれか一方を含む。
【0021】
上記化合物半導体構造において好ましくは、炭化ケイ素層の一方の主面側に形成された層であって、窒化ガリウム、酸化ガリウム、ガリウム砒素、タンタル酸リチウム、およびニオブ酸リチウムよりなる群より選ばれる少なくとも1種以上の材料よりなる層をさらに備える。
【0022】
本発明の一の局面に従う化合物半導体構造の製造方法は、第1の基板の一方の主面側に、炭化ケイ素層を形成する工程と、炭化ケイ素層の一方の主面側に第2の基板を設ける工程と、第2の基板を設ける工程の後で、第1の基板を除去することにより、炭化ケイ素層の他方の主面を露出させる工程と、炭化ケイ素層の他方の主面を露出させる工程の後で、炭化ケイ素層における他方の主面側の部分を除去する工程と、炭化ケイ素層における他方の主面側の部分を除去する工程の後で、炭化ケイ素層の他方の主面に下地基板を接合する工程と、下地基板を接合する工程の後で、第2の基板を炭化ケイ素層の一方の主面側から除去する工程とを備え、炭化ケイ素層における他方の主面側の部分を除去する工程において、炭化ケイ素層における400nm以上の厚さの部分を除去する。
【0023】
上記製造方法において好ましくは、炭化ケイ素層における他方の主面側の部分を除去する工程において、CMP(Chemical Mechanical Polish)を用いて炭化ケイ素層における他方の主面側の部分を除去する。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、下地基板を接合する工程において、表面活性化接合を用いて炭化ケイ素層の他方の主面に下地基板を接合する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、損失を低減することのできる化合物半導体構造およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図3】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図4】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
図5】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第4の工程を示す断面図である。
図6】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第5の工程を示す断面図である。
図7】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第6の工程を示す断面図である。
図8】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第7の工程を示す断面図であって、表面活性化接合法を用いた場合の断面図である。
図9】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第8の工程を示す断面図であって、表面活性化接合法を用いた場合の断面図である。
図10】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第7の工程を示す断面図であって、親水化接合法を用いた場合の断面図である。
図11】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法の第8の工程を示す断面図であって、親水化接合法を用いた場合の断面図である。
図12】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の他の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図13】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の他の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
図14】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の他の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
図15】エピタキシャル成長したSiC層がデバイスの損失を増加させる原理を説明する図である。
図16】本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の効果を説明する図である。
図17】TEMを用いて化合物半導体構造CS1の断面を観察する場合の電子線EBの照射方向と、観察する化合物半導体構造CS1の断面との関係を示す図である。
図18図17中XVIII-XVIII線に沿った化合物半導体構造CS1の断面のTEM像で検出される複数の転位欠陥または積層欠陥DFを模式的に示す図である。
図19】本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の構成を示す断面図である。
図20】本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の製造方法を示す断面図である。
図21】本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の他の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図22】本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の他の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
図23】本発明の一実施の形態の第2の変形例における化合物半導体構造CS3の構成を示す断面図である。
図24】本発明の一実施の形態の第3の変形例における化合物半導体構造CS4の構成を示す断面図である。
図25】本発明の一実施例において得られたSiC層の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。以下の説明において、「主面に形成されている」という表現は、その主面と接触して形成されていることを意味している。「主面側に形成されている」という表現は、その主面と接触して形成されていることと、その主面と接触せずに(その主面と間隔をおいて)形成されていることとの両方を意味している。化合物半導体構造などにおける各層の積層方向(図1中上下方向)を厚さ方向と記すことがある。
【0028】
図1は、本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の構成を示す断面図である。本願の図面では、下地基板1の主面1aに対して垂直な断面が示されている。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態における化合物半導体構造CS1(化合物半導体構造の一例)は、HEMTなどの高周波デバイスの基板として使用される化合物半導体基板である。化合物半導体構造CS1は、下地基板1(下地基板の一例)と、SiC層2(炭化ケイ素層の一例)と、接合層3(接合層の一例)と、GaN層4(窒化ガリウム層の一例)とを備えている。
【0030】
下地基板1は2つの主面1aおよび1bを含んでいる。下地基板1の主面1aは図1中上方を向いており、下地基板1の主面1bは図1中下方を向いている。下地基板1は、任意の材料よりなっており、たとえばダイヤモンド、SiC、またはSiよりなっている。化合物半導体構造CS1を高周波用途のデバイスの基板として使用した場合の損失を低減する観点で、下地基板1は高い絶縁性を有していることが好ましく、1000Ω・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。下地基板1の抵抗率の測定上限は、1017Ω・cm程度である。一方で、下地基板1は導電性を有していてもよい。この場合、高周波用途のデバイスの電流経路の付近が、十分な厚さの絶縁層で覆われる必要がある。また、デバイスの発熱による電動損失を低減する観点で、下地基板1は、ダイヤモンドなどの高い熱伝導率を有する材料よりなっていることが好ましい。
【0031】
SiC層2は、下地基板1の主面1a側に形成されている。SiC層2は単結晶であり、3C型や六方晶などの結晶構造を有している。SiC層2は多結晶であってもよい。SiC層2は2つの主面2aおよび2bを含んでいる。SiC層2の主面2aはGaN層4側を向いており、SiC層2の主面2bは下地基板1側を向いている。SiC層2は、たとえば0.1μmから10μmの厚さW1を有している。SiC層2の絶縁性を向上する観点で、SiC層2は、V(バナジウム)原子やB(ボロン)原子などの不純物を含んでいてもよい。
【0032】
接合層3は、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの界面に形成されている。接合層3は、下地基板1とSiC層2との接合の痕跡である。下地基板1とSiC層2とが接合されていない場合、接合層3は現れない。接合層3の成分は接合方法に依存する。
【0033】
GaN層4は、SiC層2の主面2a側に形成されている。GaN層4は、電流経路が形成される半導体層であるデバイス層となり得る。GaN層4は、アンインテンショナルドープ層(uid層)、Cがドープされた層、または遷移金属がドープされた層などよりなっている。GaN層4は、主面4aおよび4bを含んでいる。GaN層4の主面4aはSiC層2が存在する側とは反対側を向いており、GaN層4の主面4bはSiC層2側を向いている。
【0034】
uid層とは、層の形成時に意図的な不純物の導入が行われていない層を意味している。uid層は、層の形成時に意図せず導入された不純物(層の形成時の雰囲気中の不純物)をわずかに含んでいる。
【0035】
次に、本実施の形態における化合物半導体構造CS1の製造方法について、図2図11を用いて説明する。
【0036】
図2を参照して、第1の基板91(第1の基板の一例)を準備する。第1の基板91は、主面91aを含んでいる。第1の基板91の主面91aは図2中上方を向いている。第1の基板91は、高い剛性を有し、かつSiC層のエピタキシャル成長する際の下地として適した材料よりなることが好ましい。具体的には、第1の基板91は、SiまたはSiGe(シリコンゲルマニウム)などよりなっている。第1の基板91がSiよりなる場合、第1の基板91の主面91aの面方位は、たとえば(111)面、(100)面、または(110)面などよりなってる。第1の基板91は、たとえば6インチの直径を有しており、1000μmの厚さを有している。
【0037】
次に、第1の基板91の主面91a側にSiC層21を形成する。これにより、SiC層21は第1の基板91によって支持される。SiC層21は、2つの主面21aおよび21bを含んでいる。SiC層21の主面21aは第1の基板91から離れる側を向いており、主面21bは第1の基板91側を向いている。SiC層21は、第1の基板91の主面91aを炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはLPE(Liquid Phase Epitaxy)法などを用いて、SiCをホモエピタキシャル成長させることによって形成されてもよい。SiC層21は、第1の基板91の主面91aにSiCをヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されてもよい。
【0038】
CVD法などを用いてSiC層21を形成する場合、Si源としては、たとえばSiH4(モノシラン)、SiH3Cl(モノクロロシラン)、SiH2Cl2(ジクロロシラン)、SiHCl3(トリクロロシラン)、SiCl4(四塩化ケイ素)、Si26(ジシラン)、Si38(トリシラン)、SiH3(CH3)(モノメチルシラン)、SiCl3(CH3)(メチルトリクロロシラン)などの原料ガスが用いられる。不純物としてV原子を添加する場合、V源としては、たとえばVCl4(塩化バナジウム)やV[N(CH324(テトラキスジメチルアミノバナジウム)などの原料ガスが用いられる。SiC層21内のV原子の濃度は、SiC層21の成長中にV源の原料ガスの流量を調整することにより制御される。不純物としてB原子を添加する場合、B源としては、たとえばTEB(トリエチルボロン)、TMB(トリメチルボロン)、またはB26(ジボラン)などの原料ガスが用いられる。SiC層21内のB原子の濃度は、SiC層21の成長中にB源の原料ガスの流量を調整することにより制御される。C(炭素)源としては、たとえばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、アセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、またはオクチンなどの炭化水素が用いられる。C源として、特にメタン、エタン、またはプロパンが用いられる。
【0039】
第1の基板91の主面91aにSiC層21を炭化、ホモエピタキシャル成長、ヘテロエピタキシャル成長のいずれかの方法により形成した場合、SiC層21は、3C型の結晶構造を有している。SiC層21が3C型の結晶構造を有する場合、SiC層21の主面21aの面方位は(111)、(100)、または(110)であることが好ましい。SiC層21は、たとえば0.5μm以上11μm以下の厚さを有している。
【0040】
図3を参照して、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などの方法を用いて、主面21a側に存在するSiC層21の部分RG1を除去する。図3では、SiC層21の部分RG1が点線で示されている。SiC層21の部分RG1は、たとえば0より大きく0.5μm以下の厚さW2を有している。これにより、SiC層21の主面21aが第1の基板91側に退行する。主面21a側に存在するSiC層21の部分RG1を除去することで、SiC層21の主面21aに形成される層(ここではGaN層4)の品質を向上することができる。
【0041】
なお、部分RG1の除去は省略されてもよい。
【0042】
図4を参照して、SiC層21の主面21a側にGaN層4を形成する。GaN層4は、MOCVD法を用いて形成される。このとき、Ga源ガスとしては、TMG(Tri Methyl Gallium)や、TEG(Tri Ethyl Gallium)などが用いられる。N源ガスとしては、たとえばNH3(アンモニア)などが用いられる。GaN層4は、たとえば500nm(0.5μm)以上12000nm(12μm)以下の厚さを有している。
【0043】
図5を参照して、SiC層21の主面21a側に第2の基板92(第2の基板の一例)を設ける。これにより、SiC層21は第2の基板92によって支持される。ここでは、第2の基板92は、熱可塑性の接着剤(たとえば樹脂系の接着剤)などを用いてGaN層4の主面4aに接着される。GaN層4と第2の基板92との間には接着層93が形成される。SiC層21の主面21a側へ第2の基板92を設ける方法は任意であり、粘着テープなどを用いた固定方法が用いられてもよい。第2の基板92は、表面活性化接合などを用いてGaN層4の主面4aに接合されてもよい。第2の基板92は、第1の基板91およびSiC層21の部分の除去の際に、SiC層21を支持する役割を果たす。第2の基板92は、高い剛性を有する材料よりなることが好ましい。具体的には、第2の基板92は、Si、SiC、SiO2(酸化ケイ素)、ガラス基板、サファイア基板、または黒鉛基板などよりなっている。
【0044】
図6を参照して、第2の基板92を設けた後で、第1の基板91を除去する。これにより、SiC層2の主面2bが露出する。図6では、除去された第1の基板91が点線で示されている。バックグラインド加工装置を用いて第1の基板91の一部を機械研磨し、続いてスピンエッチング装置を用いて第1の基板91の残りの部分をウエットエッチングすることにより、第1の基板91は除去されることが好ましい。第1の基板91がSiよりなる場合、ウエットエッチングの際には混酸が用いられることが好ましい。第1の基板91を機械研磨により除去することで、第1の基板91を高速で除去することができる。機械研磨後にウエットエッチングにより第1の基板91を除去することにより、第1の基板91の除去に伴うSiC層21へのダメージを低減することができる。
【0045】
図7を参照して、SiC層21の主面21bを露出させた後で、SiC層21の主面21b側の部分RG2を除去する。図7では、除去された部分GR2が点線で示されている。SiCの除去速度の観点で、SiC層21の部分RG2はCMPを用いて除去されることが好ましい。これにより、SiC層21はSiC層2となる。SiC層21の主面はSiC層2の主面2aとなる。SiC層21の主面21bはGaN層4側に退行してSiC層2の主面2bとなる。除去するSiC層21の部分RG2の厚さW3は、400nm(0.4μm)以上であることが好ましい。厚さW3を400nm以上とすることにより、第1の基板91との界面付近に形成された高い欠陥密度を有する領域のSiC層21を効果的に除去することができる。部分RG2を除去した後のSiC層2の厚さは、10μm以下であることが好ましい。
【0046】
図8を参照して、SiC層21の部分RG2を除去した後で、下地基板1を準備し、主面1aが上方向を向いた状態となるように下地基板1をセットする。この状態で、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとを接合する。下地基板1の主面1aと確実に接触するようにするために、SiC層2の主面2bの算術平均粗さRaは0より大きく1nm以下であることが好ましい。SiC層2の主面2bの算術平均粗さRaは0より大きく、0.5nm以下であることがより好ましい。また、第2の基板92のサイズが4インチ以上である場合のSiC層2の主面2bの反りは、0より大きく50μm以下であることが好ましい。
【0047】
下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの接合方法としては、任意の方法を用いることができ、表面活性化接合法を用いることが好ましい。表面活性化接合法を用いる場合には、1×10-5Pa以下、好ましくは1×10-6Pa以下の減圧かつ常温(一例として10℃以上30℃以下の温度)の雰囲気で、下地基板1の主面1aおよびSiC層2の主面2bの各々に、矢印AW1で示すようにエネルギー粒子を照射する。これにより、下地基板1の主面1aおよびSiC層2の主面2bの各々からガス、水、有機物、または酸素などの吸着物質が除去される。エネルギー粒子は、たとえばイオン、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、もしくはNe(ネオン)などの中性原子、またはクラスターイオンなどよりなっている。エネルギー粒子は、Arよりなることが好ましい。
【0048】
ここで、下地基板1が結晶性の材料よりなる場合、下地基板1の主面1aおよびSiC層2の主面2bの各々にエネルギー粒子を照射すると、下地基板1の主面1aおよびSiC層2の主面2bの各々には、たとえば0より大きく5nm以下の厚さのアモルファス層31および32の各々が現れる。アモルファス層31は、下地基板1の主面1aに存在する結晶がエネルギー粒子の衝突により非晶質化したものである。アモルファス層32は、SiC層2の主面2bに存在するSiCがエネルギー粒子の衝突により非晶質化したものである。
【0049】
図9を参照して、次に、矢印AW2で示すように、アモルファス層31とアモルファス層32とを互いに接触させる。これにより、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとが接合され、接合層3が現れる。接合層3は、アモルファス層31と、アモルファス層32とを含んでいる。アモルファス層31は、下地基板1の主面1aに形成されている。アモルファス層32は、アモルファス層31とSiC層2の主面2bとの間に形成されている。アモルファス層31および32は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以降、TEMと記すことがある)などにより観察することができる。
【0050】
表面活性化接合法を用いる場合、下地基板1とSiC層2との接合後に、接合層3に対して熱処理を行ってもよい。これにより、接合層3の強度を向上することができる。
【0051】
たとえば1000℃以上下地基板1を構成する材料の融点未満の温度で接合層3に対して熱処理を行った場合、接合層3の内部では、アモルファス層31および32に含まれる原子が再結晶化する。その結果、接合層3は多結晶層を含み得る。多結晶層は、少なくともSiCの多結晶粒を含んでおり、SiCの多結晶粒を主成分としている。多結晶層は、接合の際に用いたエネルギー粒子の原子を含む多結晶粒をさらに含み得る。
【0052】
熱処理により接合層3中のアモルファス層31および32に含まれる一部の原子のみが再結晶化した場合には、接合層3は、多結晶層と、アモルファス層31および32のうち少なくともいずれか一方とを含み得る。接合層3中のアモルファス層31および32に含まれる全ての原子が熱処理により再結晶化した場合には、接合層3はアモルファス層31および32を含まず、接合層3の全体が多結晶層よりなり得る。
【0053】
表面活性化接合法を用いる場合、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの間に接合中間層(図示無し)を挟んで、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとを接合してもよい。この接合中間層は任意の材料よりなっており、下地基板1とSiC層2との接合強度を向上する役割などを果たす。この接合中間層は、たとえばSi、SiC、またはAlNよりなることが好ましい。
【0054】
図10を参照して、下地基板1がSiを含む材料よりなる場合、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの接合方法としては、表面活性化接合法の代わりに親水化接合法が用いられてもよい。親水化接合法は、フュージョンボンディング(Fusion Bonding)またはシリコン直接接合(Silicon Direct Bonding:SDB)とも呼ばれる。親水化接合法を用いる場合には、CVD法などを用いて、下地基板1の主面1aにSiO2層33を形成する。SiC層2の主面2bにSiO2層34を形成する。SiO2層34は、CVD法などを用いてSiC層2の主面2bにSiO2層34を形成する方法、SiC層2の主面2bにSi層を形成しSi層を熱酸化する方法、またはSiC層2の主面2bを熱酸化する方法などによって形成されてもよい。SiO2層33およびSiO2層34の各々を親水化処理する。
【0055】
図11を参照して、矢印AW2で示すように、SiO2層33とSiO2層34とを互いに接触させる。これにより、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとが接合され、SiO2層33および34が一体化した接合層3が得られる。接合層3はSiO2を含んでいる。
【0056】
なお、フュージョン接合法またはプラズマ接合法などを用いて、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとが接合されてもよい。
【0057】
下地基板1とSiC層2とを接合した後、SiC層2の主面2a側から第2の基板92および接着層93を除去する。第2の基板92が熱可塑性の接着剤を用いてGaN層4の主面4aに接着されている場合には、第2の基板92および接着層93は、接着層93を加熱することで除去される。第2の基板92は、熱剥離やレーザー剥離などの方法で除去されてもよい。第2の基板92および接着層93の除去後には、GaN層4の主面4aが露出する。以上の工程により、図1に示す化合物半導体構造CS1が得られる。
【0058】
なお、化合物半導体構造CS1において、GaN層4は省略されてもよい。この場合、図5に示す工程において、SiC層2の主面2aに第2の基板92が固定されてもよい。第2の基板92は、熱可塑性の接着剤などを用いてSiC層2の主面2aに接着されてもよい。
【0059】
化合物半導体構造CS1は、次の方法で製造されてもよい。
【0060】
図12図14は、本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の他の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0061】
図12を参照して、図2および図3に示す工程を経た後で(言い換えれば、GaN層4を形成する前に)、熱可塑性の接着剤(たとえば樹脂系の接着剤)などを用いて、SiC層21の主面21aに第2の基板92を接着する。SiC層21と第2の基板92との間には接着層93が形成される。
【0062】
図13を参照して、次に図6および図7に示す工程と同様の工程を経ることで、第1の基板91を除去し、SiC層21の主面21b側の部分RG2を除去する。部分RG2の除去により、SiC層21はSiC層2となる。図13では、除去された第1の基板91および部分RG2が点線で示されている。
【0063】
図14を参照して、次に、図8および図9に示す工程と同様の工程、または図10および図11に示す工程と同様の工程を経ることで、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとを接合する。下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの間には、接合層3が現れる。次に、第2の基板92および接着層93を除去する。これにより、SiC層2の主面2bが露出される。図14では、除去された第2の基板92および接着層93が点線で示されている。
【0064】
図1を参照して、その後、SiC層2の主面2bにGaN層4を形成する。これにより、化合物半導体構造CS2が得られる。GaN層4の形成は省略されてもよい。
【0065】
[実施の形態の効果]
【0066】
一般的に、高周波用途のデバイスにおいては、高周波の電流が流れる経路である電流経路の付近に絶縁性の低い領域が存在する場合、高周波の電流の影響を受けてその領域に存在する電子が振動する。その結果、それらの電子の振動により不要なエネルギーが消費され、デバイスの損失が増加する。このため、高周波用途のデバイスにおいては、損失低減の観点から、電流経路の付近は十分な厚さの絶縁層で覆われることが好ましい。
【0067】
本願発明者らは、従来のSiC/Si基板を高周波用途のデバイスの基板として使用した場合にデバイスの損失が大きいのは、次の理由によるものであることを見出した。
【0068】
図15は、エピタキシャル成長したSiC層がデバイスの損失を増加させる原理を説明する図である。図15(a)は、図2の構造ST1におけるSiC層21に含まれる欠陥を模式的に示す図である。図15(b)は、図2の構造ST1を用いて作製した高周波用途のデバイスの構成を示す断面図である。ここでは、エピタキシャル成長したSiC層(一部が除去されていないSiC層)が図2のSiC層21に相当するものとして説明する。
【0069】
図15(a)を参照して、SiC層21は第1の基板91の主面91aにエピタキシャル成長により形成される。SiC層21のエピタキシャル成長の初期に形成されるSiCは、第1の基板91の結晶構造の影響を大きく受ける。このため、SiC層21のエピタキシャル成長の初期に形成されるSiCの結晶には、第1の基板91を構成する材料の格子定数とSiCの格子定数との差に起因して多くの欠陥(特に転位欠陥および積層欠陥)DFが発生する。これらの欠陥DFは、SiC層21のエピタキシャル成長が進行しSiC層21の厚さが増加するにつれて、会合消滅などのメカニズムにより消滅する。その結果、SiC層21における第1の基板91との界面付近の領域である第1の領域211には、相対的に多くの欠陥DF(主に転位欠陥および積層欠陥)が存在する。SiC層21における第1の基板91との界面(つまり主面21b)から400nm未満の領域には、転位欠陥および積層欠陥が特に集中している。一方、SiC層21における第1の基板91との界面から離れた領域である第2の領域212には、相対的に少ない欠陥DF(主に転位欠陥および積層欠陥)が存在する。SiC層21に意図的にn型またはp型の不純物を添加しない場合、あるいは、VなどのSiC層21を半絶縁化する不純物をSiC層21に添加した場合には、第1の領域211は欠陥DFの存在により十分な高抵抗にはならないが、第2の領域212は高抵抗となる。この場合、第1の領域211は、LR(Low Resistivity)-SiC層とも呼ばれる。第2の領域212は、HR(High Resistivity)-SiC層とも呼ばれる。
【0070】
図15(b)を参照して、構造ST1には、高周波用途のデバイス(ここではHEMT)が作製されている。具体的には、構造ST1には、GaN層4と、障壁層6と、ゲート電極11と、ソース電極12と、ドレイン電極13とが形成されている。障壁層6は、GaN層4の主面4aに形成されている。ゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々は、障壁層6の主面6aに形成されている。GaN層4は電子走行層として機能する。
【0071】
このデバイスにおいては、ソース電極12とドレイン電極13との間に電位差が与えられた状態でゲート電極11に高周波数を有する電圧が印加されると、障壁層6との界面付近のGaN層4中に、二次元電子ガスの電流経路41が生じる。電流経路41を通じてソース電極12とドレイン電極13との間に高周波の電流が流れる。
【0072】
SiC層21には、厚い第1の領域211が含まれており、局所的に多くの転位欠陥および積層欠陥が存在している。一般的に、転位欠陥密度が高いほど、SiC層の絶縁性は低下し、SiC層に含まれる電子の数は増加する。このため、電流経路41に沿って高周波の電流が流れる場合に、主に第1の領域211に含まれる大量の電子が振動し、それらの電子の振動により不要なエネルギーが消費される。従来のSiC/Si基板は、エピタキシャル成長したSiC層をそのまま(SiC層の一部を除去せずに)含んでいる。このため、従来のSiC/Si基板を高周波用途のデバイスの基板として使用した場合、デバイスの損失が増加する。
【0073】
図16は、本発明の一実施の形態における化合物半導体構造CS1の効果を説明する図である。図16(a)は、化合物半導体構造CS1のSiC層2に含まれる欠陥を模式的に示す図である。図16(b)は、化合物半導体構造CS1を用いて作製した高周波用途のデバイスの構成を示す断面図である。
【0074】
図15(a)および図16(a)を参照して、本実施の形態の化合物半導体構造CS1において、SiC層2は、SiC層21における第1の基板91との界面から400nm以上の厚さの部分を除去することにより得られる。SiC層2からは、局所的に多くの欠陥DFが存在する領域である第1の領域211の少なくとも一部(好ましくは第1の領域211全体)が除去される。このため、化合物半導体構造CS1におけるSiC層2に含まれる転位欠陥および積層欠陥の密度は、SiC層21の転位欠陥および積層欠陥の密度よりも低くなる。
【0075】
図16(b)を参照して、化合物半導体構造CS1には、高周波用途のデバイス(ここではHEMT)が作製されている。具体的には、化合物半導体構造CS1には、障壁層6と、ゲート電極11と、ソース電極12と、ドレイン電極13とが形成されている。障壁層6、ゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の構成は、図15(b)の場合と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0076】
化合物半導体構造CS1におけるSiC層2に含まれる転位欠陥および積層欠陥の密度は、SiC層21の転位欠陥および積層欠陥の密度よりも低い。化合物半導体構造CS1におけるSiC層2の絶縁性は、SiC層21の絶縁性よりも高い。化合物半導体構造CS1では、電流経路41に沿って高周波の電流が流れる場合に、高周波の電流の影響を受けて振動する電子または正孔の数が少なくなり、それらの振動により消費される不要なエネルギーが少なくなる。その結果、化合物半導体構造CS1を高周波用途のデバイスの基板として使用した場合、デバイスの損失を低減することができる。
【0077】
加えて、SiC層2の主面2b側に、SiC層21のエピタキシャル成長の際の下地基板である第1の基板91とは異なる材料よりなる下地基板1を設けることができる。これにより、第1の基板91として、SiC層21を支持するのに適した材料(一例として、SiC層21のエピタキシャル成長に適しており、かつ高い剛性を有する材料)よりなるものを採用することができる。また、下地基板1として、高周波用途のデバイスの下地基板として適した材料(一例として、高い絶縁性を有する材料)よりなるものを採用することができる。
【0078】
上記効果は、JFET(Junction Field Effect Transistor)やMISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのHEMT以外の高周波用途のデバイス全般において得られる。
【0079】
図17は、TEMを用いて化合物半導体構造CS1の断面を観察する場合の電子線EBの照射方向と、観察する化合物半導体構造CS1の断面との関係を示す図である。図18は、図17中XVIII-XVIII線に沿った化合物半導体構造CS1の断面のTEM像で検出される複数の転位欠陥または積層欠陥DFを模式的に示す図である。図18に対応する化合物半導体構造CS1の断面は、下地基板1の主面1aに対して垂直な断面に相当する。
【0080】
図17および図18を参照して、TEMの電子線EBは、図18に示す断面の法線方向から化合物半導体構造CS1に照射される。SiC層の主面の面方位が<111>である場合、観察する断面(つまり、図18に示す断面)の面方位は{110}であることが好ましい。図18に示す断面において、所定の検出位置P1(図18中点線で示す位置)では、複数の転位欠陥または積層欠陥DFが検出される。検出位置P1における複数の転位欠陥または積層欠陥DFのうち少なくとも一の転位欠陥または積層欠陥DF1と、転位欠陥または積層欠陥DF1と検出位置P1において隣接する他の転位欠陥または積層欠陥DF2との検出位置P1に沿った距離を、欠陥の距離X(nm)と表記する。また、TEMの電子線EBが透過したSiC層2の部分の長さ(言い換えれば、図18に示す断面の法線方向のSiC層2の長さ)を、SiC層の長さY(nm)と表記する。
【0081】
本実施の形態において、SiC層2に含まれる転位欠陥および積層欠陥の数が従来と比較して少ないという事実は、欠陥の距離X(nm)およびSiC層の長さY(nm)が下記式(1)を満たすことで確認される。
【0082】
X≧14000/Y ・・・(1)
【0083】
式(1)の導出方法について説明する。
【0084】
SiC層2に含まれる転位欠陥および積層欠陥の数は従来のSiC層と比較して少ないため、欠陥の距離Xは従来の欠陥の距離と比較して大きくなる。本願発明者らは、TEMを用いた観察により、SiC層の長さYが70nmである場合に、欠陥の距離Xが200nm以上(つまり、Y=70の場合に、X≧200)であることを見出した(事実1)。
【0085】
TEMは、試料に電子線を照射し、電子線の透過率の空間分布に基づいて、試料の試料の拡大投影像を出力する電子顕微鏡である。このため、化合物半導体構造CS1の断面のTEM像では、TEMの電子線EBが透過したSiC層2の部分(つまり、長さY(nm)の部分)に存在する全ての転位欠陥および積層欠陥が検出される。SiC層2の内部に存在する転位欠陥および積層欠陥の密度は、電子線EBの進行方向に沿って均一であるものと推測される。したがって、化合物半導体構造CS1の断面のTEM像で検出される複数の転位欠陥または積層欠陥DFの数は、SiC層の長さY(nm)に比例する。欠陥の距離X(nm)は、化合物半導体構造CS1の断面のTEM像で検出される複数の転位欠陥または積層欠陥DFの数に反比例するものと推測される。
【0086】
したがって、欠陥の距離X(nm)は、SiC層の長さY(nm)に反比例する(事実2)。
【0087】
上記事実1および2から、上記式(1)が導出される。
【0088】
検出位置P1としては、SiC層2において転位欠陥および積層欠陥の数の減少が明確に確認される位置が選ばれる。具体的には、SiC層2が400nmより大きい厚さW1を有する場合、SiC層2における主面(接合層3との界面)2bから200nm離れた位置が検出位置P1として選ばれる。一方、SiC層2が0より大きく400nm以下の厚さW1を有する場合、検出位置P1として、SiC層2における厚さ方向の中間位置が検出位置P1として選ばれる。厚さW1は、主面2aから主面2bまでの図18中縦方向の長さとして定義される。
【0089】
[変形例]
【0090】
図19は、本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の構成を示す断面図である。図20は、本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の一の製造方法を示す断面図である。図21および図22は、本発明の一実施の形態の第1の変形例における化合物半導体構造CS2の他の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0091】
図19を参照して、第1の変形例における化合物半導体構造CS2(化合物半導体構造の一例)は、上述の実施の形態の化合物半導体構造CS1の構成に加えて、高周波用途のデバイス(ここではHEMT)の構成10を備える化合物半導体デバイスである。構成10は、障壁層6と、ゲート電極11と、ソース電極12と、ドレイン電極13とを含んでいる。障壁層6は、AlGaNなどよりなっており、GaN層4の主面4aに形成されている。ゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々は、障壁層6の主面6aに形成されている。GaN層4は電子走行層として機能する。
【0092】
化合物半導体構造CS2においては、ソース電極12とドレイン電極13との間に電位差が与えられた状態で、高い周波数で変化する電圧がゲート電極11に印加されると、障壁層6との界面付近のGaN層4中に、二次元電子ガスの電流経路が生じる。この電流経路を通じてソース電極12とドレイン電極13との間に高周波の電流が流れる。
【0093】
化合物半導体構造CS2は、JFET(Junction Field Effect Transistor)やMISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのHEMT以外の高周波用途のデバイスの構成を含んでいてもよい。
【0094】
化合物半導体構造CS2は、図1の化合物半導体構造CS1を得た後で、GaN層4の主面4aに障壁層6を形成し、障壁層6の主面6aにゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々を形成することにより作製されてもよい。
【0095】
また、化合物半導体構造CS2は、図2図4に示す工程を経た後で(言い換えれば、SiC層21の部分RG2を除去する前に)、図20に示すように、GaN層4の主面4aに障壁層6を形成し、障壁層6の主面6aにゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々を形成することにより作製されてもよい。この場合、障壁層6の主面6a側に第2の基板92が設けられる。第2の基板92は、熱可塑性の接着剤などを用いて障壁層6の主面6a、ならびにゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々に接着される。その後、図6図9に示す工程と同様の工程を経て、化合物半導体構造CS2が得られる。
【0096】
さらに、化合物半導体構造CS2は、次の方法で作製されてもよい。
【0097】
図21を参照して、図2図4に示す工程を経た後で(言い換えれば、SiC層21の部分RG2を除去する前に)、GaN層4の主面4aに障壁層6を形成する。次に、SiC層21の主面21a側に第2の基板92を設ける。ここでは、GaN層4と第2の基板92との間には接着層93が形成される。次に、図6および図7に示す工程と同様の工程を経ることで、第1の基板91を除去し、SiC層21の主面21b側の部分RG2を除去する。
【0098】
図22を参照して、次に、図8および図9に示す工程と同様の工程、または図10および図11に示す工程と同様の工程を経ることで、下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとを接合する。下地基板1の主面1aとSiC層2の主面2bとの間には、接合層3が現れる。次に、第2の基板92および接着層93を除去する。図22では、除去された第2の基板92および接合層93が点線で示されている。
【0099】
図19を参照して、その後、障壁層6の主面6aにゲート電極11、ソース電極12、およびドレイン電極13の各々を形成する。これにより、化合物半導体構造CS2が得られる。
【0100】
なお、化合物半導体構造CS2は、高周波用途のデバイスの構成10の一部(たとえば障壁層6)のみを備えていてもよい。
【0101】
図23は、本発明の一実施の形態の第2の変形例における化合物半導体構造CS3の構成を示す断面図である。
【0102】
図23を参照して、第2の変形例における化合物半導体構造CS3(化合物半導体構造の一例)は、上述の実施の形態の化合物半導体構造CS1の構成に加えて、中間層8を備えている。高周波用途のデバイスの特性を向上させる役割や、GaN層4の品質を向上する役割などを果たす。中間層8は、SiC層2とGaN層4との間に形成されている。中間層8は、AlN層、AlGaN層、またはGaN層などよりなっている。中間層8は複数の層を含んでいてもよい。
【0103】
図24は、本発明の一実施の形態の第3の変形例における化合物半導体構造CS4の構成を示す断面図である。
【0104】
図24を参照して、第3の変形例における化合物半導体構造CS4(化合物半導体構造の一例)は、GaN層4を備えておらず、かつ高周波用途のデバイスの構成として、SAWフィルタの構成10を備えている点において、上述の実施の形態の化合物半導体構造CS1と異なっている。具体的には、構成10は、圧電体層14と、櫛形電極15とを含んでいる。圧電体層14は、SiC層2の主面2aに形成されている。圧電体層14は、たとえばLiTaO3(LT、タンタル酸リチウム)やLiNbO3(LN、ニオブ酸リチウム)などのリチウム化合物よりなっている。櫛形電極15は、圧電体層14の主面14aに形成されている。櫛形電極15は、駆動用電極と検出用電極とを含んでいる。櫛形電極15の駆動用電極に高周波電圧が印加されると、駆動用電極の電極間の距離に応じた波長の振動が生じ、この振動が表面波となる。表面波は、圧電体層14を通じて櫛形電極15の検出用電極に伝播する。
【0105】
化合物半導体構造CS4のSiC層2に含まれる転位欠陥および積層欠陥の密度は低く、SiC層2に含まれる電子の数が少ない。このため、圧電体層14を伝播する表面波の影響を受けて振動する電子の数が少なくなり、それらの電子の振動により消費される不要なエネルギーが少なくなる。その結果、損失を低減することができる。
【0106】
加えて、SiC層2の厚さを数μmのオーダーまで薄膜化することができる。SiC層2の厚さを数μmのオーダーまで薄膜化し、ダイヤモンドなどのSiCよりも熱伝導率の高い材料よりなる下地基板1と接合することにより、デバイスの放熱性を向上することができる。この点において、バルクのSiC基板を用いてデバイスを作製した場合には、SiC基板の強度の観点から数μmのオーダーまで薄膜化することは困難である。
【0107】
[実施例]
【0108】
本願発明者らは、TEMを用いて、エピタキシャル成長したSiC層(一部が除去されていないSiC層)に含まれる欠陥を確認した。具体的には、Siよりなる支持体の一方の主面上に約3μmの厚さのSiC層を形成した。次に、FIB(Focused Ion Beam)加工観察装置およびイオンミリング装置を用いて、SiC層の主面に対して垂直にSiC層を切断した。TEMの電子線が透過するSiC層の部分の長さ(図17中長さY)が70nm~100nmの範囲内となるように、SiC層は切断された。次に、TEMを用いて、得られたSiC層の断面を観察した。続いて、SCM(Scanning Capacitance Microscope)を用いて、SiC層の物性を計測した。TEMとして、株式会社日立ハイテク製H-9000UHRを使用した。TEMによる観察の際の加速電圧を300kVとした。FIB加工観察装置として、株式会社日立ハイテク製FB-2100-Sampling System、およびFEI社製デュアルビーム装置STRATA DB235を使用した。イオンミリング装置として、Gatan社製600型を使用した。
【0109】
図25は、本発明の一実施例において得られたSiC層の状態を示す図である。図25(a)は、SiC層のTEM像を示す図である。図25(b)は、SCMで得られたSiC層のdC/dV像である。
【0110】
なお、SCMで得られるdC/dV像は、実際にはカラー画像である。SCMで得られるdC/dV像では、p型の導電型の部分は赤色、n型の導電型の部分は青色、非導電型の部分は黒色を呈する。図25(b)のSiC層のdC/dV像では、n型の部分(青色の部分)が明るい色で表示されており、非導電型の部分(黒色の部分)が暗い色で表示されている。p型の部分(赤色の部分)は存在していない。
【0111】
図25(a)を参照して、TEM像では、支持体との界面からの距離が約1.8μm以内の領域である領域RG3には、多数の転位欠陥および積層欠陥(矢印で示した明るい色の部分)が存在していた。支持体との界面からの距離が400nm以内の領域には、特に多数の転位欠陥および積層欠陥が存在していた。支持体との界面からの距離が約1.8μmより大きい領域RG4には、ほとんど転位欠陥が存在していなかった。図25(b)を参照して、SCMで得られるdC/dV像では、領域RG3がn型の導電型を呈し、領域RG4は導電型を呈しなかった。
【0112】
これらの結果から、エピタキシャル成長したSiC層(一部が除去されていないSiC層)における支持体との界面付近の領域RG3は、支持体との界面から離れた領域RG4と比較して、多数の転位欠陥および積層欠陥を含んでおり、低い絶縁性を有していることが分かる。ゆえに、SiC層における支持体側の部分を除去する際に、SiC層における400nm以上の厚さの部分を除去することで、領域RG3の少なくとも一部が除去される。その結果、SiC層内の転位欠陥および積層欠陥を低減でき、SiC層の絶縁性を向上できることが分かる。
【0113】
[その他]
【0114】
上述の実施の形態および変形例の構成および製造方法は、適宜組み合わせることが可能である。たとえば化合物半導体構造CS2またはCS4において、化合物半導体構造CS3の中間層8が設けられてもよい。
【0115】
本開示は、デバイスの損失を低減する化合物半導体構造およびその製造方法を提供するものである。本開示により、半導デバイスの電力エネルギー変換効率の改善による省エネ効果を得ることができ、持続可能な開発目標の達成に貢献することができる。
【0116】
上述の実施の形態、変形例、および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0117】
1 下地基板(下地基板の一例)
1a,1b 下地基板の主面
2,21 SiC(炭化ケイ素)層(炭化ケイ素層の一例)
2a,2b,21a,21b SiC層の主面
3 接合層(接合層の一例)
4,7 GaN(窒化ガリウム)層(窒化ガリウム層の一例)
4a,4b GaN層の主面
6 障壁層
6a 障壁層の主面
8 中間層
10 高周波用途のデバイスの構成
11 ゲート電極
12 ソース電極
13 ドレイン電極
14 圧電体層
14a 圧電体層の主面
15 櫛形電極
31,32 アモルファス層
33,34 SiO2(酸化ケイ素)層
41 電流経路
91 第1の基板(第1の基板の一例)
91a 第1の基板の主面
92 第2の基板(第2の基板の一例)
93 接着層
211 SiC層の第1の領域
212 SiC層の第2の領域
CS1,CS2,CS3,CS4 化合物半導体構造(化合物半導体構造の一例)
DF,DF1,DF2 転位欠陥または積層欠陥
EB 電子線
RG1,RG2 SiC層の除去する部分
RG3,RG4 SiC層内の領域
ST1 図2の構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25