(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131186
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】センシングデバイス、及びセンシングデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/08 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240920BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240920BHJP
H10K 10/46 20230101ALI20240920BHJP
H01L 31/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L31/08 Z
H01L21/28 301R
H01L21/28 301B
H01L29/78 618B
H01L29/78 616U
H10K10/46
H01L31/02 B
H01L29/78 616V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041293
(22)【出願日】2023-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】乘松 正明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【テーマコード(参考)】
4M104
5F110
5F149
【Fターム(参考)】
4M104AA09
4M104AA10
4M104BB02
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB06
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4M104HH15
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5F149XB04
5F149XB13
5F149XB24
5F149XB51
(57)【要約】
【課題】コンタクト抵抗の低減と歩留まりの向上を両立させたセンシングデバイスを提供する。
【解決手段】センシングデバイスは、基板と、前記基板の上に設けられるセンシング材料層と、前記センシング材料層に接続される電極と、を有し、前記電極は、前記センシング材料層の表面と接して設けられる第1電極膜と、前記第1電極膜を覆って前記第1電極膜を前記センシング材料層に対して固定する第2電極膜と、を有し、前記センシング材料層または前記基板に対する前記第2電極膜の密着性は、前記センシング材料層または前記基板に対する前記第1電極膜の密着性よりも高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に設けられるセンシング材料層と、
前記センシング材料層に接続される電極と、
を有し、
前記電極は、前記センシング材料層の表面と接して設けられる第1電極膜と、前記第1電極膜を覆って前記第1電極膜を前記センシング材料層に対して固定する第2電極膜と、を有し、
前記センシング材料層または前記基板に対する前記第2電極膜の密着性は、前記センシング材料層または前記基板に対する前記第1電極膜の密着性よりも高い、
センシングデバイス。
【請求項2】
前記センシング材料層は、半導体または層状物質を含む、
請求項1に記載のセンシングデバイス。
【請求項3】
前記センシング材料層は、グラフェンまたはカルコゲナイドの層である、
請求項2に記載のセンシングデバイス。
【請求項4】
前記電極は、前記センシング材料層の長さ方向に所定の距離をおいて配置される一対の電極を含み、
前記一対の電極のそれぞれで、前記第1電極膜は前記センシング材料層の前記長さ方向の両端で前記センシング材料層にオーバーラップし、
前記第2電極膜は、前記一対の電極の前記第1電極膜が互いに対向する対向面を露出させた状態で、前記第1電極膜を覆っている、
請求項1に記載のセンシングデバイス。
【請求項5】
前記第2電極膜は、前記第1電極膜の上面と、前記対向面を除く側面を覆い、前記センシング材料層の幅方向の両側の基板表面に延びて前記第1電極膜を固定する、
請求項4に記載のセンシングデバイス。
【請求項6】
前記第1電極膜は、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Al、Co、またはNiで形成されており、
前記第2電極膜は、TiまたはCrで形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のセンシングデバイス。
【請求項7】
基板の上の所定の領域にセンシング材料層を形成し、
前記センシング材料層に接続される第1電極膜を形成し、
前記第1電極膜よりも前記センシング材料層または前記基板に対する密着性が高い導電性材料で、前記第1電極膜を覆う第2電極膜を形成する、
センシングデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第1電極膜は、前記センシング材料層の長さ方向の両端に接続される一対の第1電極膜を含み、
前記第2電極膜は、前記一対の第1電極膜の互いに対向する対向面を露出させた状態で前記一対の第1電極膜の上面と側面を覆って、前記第1電極膜を前記センシング材料層または前記基板に固定する、
請求項7に記載のセンシングデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センシングデバイス、及びセンシングデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センシングデバイスは、一般に光、熱、圧力などの刺激に感度をもつセンシング材料に電極を接続して、刺激の量を電気信号として取り出す。たとえば赤外線センサは、熱をもつ物体が発する赤外光の波長に感度をもつ材料で形成され、自動ドア、監視カメラ、インフラ点検等に適用されている。赤外線センサの材料として、半導体超格子の他に、グラフェンやカルコゲナイドの層状物質が用いられ得る。赤外線の波長領域は広く、室温で動作する広帯域、高感度のセンサが求められている。
【0003】
グラフェンのような層状物質や半導体層に電極を接続する場合、電極と下地層との密着性を高めるために、下地層と電極の間にチタン(Ti)、クロム(Cr)などの密着性の高い金属が挿入される(たとえば、特許文献1、及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-129548号公報
【特許文献2】国際公開公報第2017/145299号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、電極材料として金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの電気伝導性の高い材料が用いられる。これらの金属の仕事関数は大きく、p型半導体に対してオーミック接触する電極材料としても用いられる。しかし、これらの良導性の金属材料と下地層の密着性が不十分なため、密着性の高いチタン(Ti)、クロム(Cr)等が上記の電極材料の下層に用いられる。金属の密着性は、下地に対する剥離エネルギーの大小で決まり、剥離エネルギーが大きい材料ほど、下地に対する密着性が高い。Ti、Cr等の密着性の高い金属膜を挿入することで、電極の剥離が抑制され、歩留まりが向上する。しかし、下層の金属の存在により、下地層と電極の界面でキャリアの移動度が低下し、コントタクト抵抗が増大する。
【0006】
一つの側面では、コンタクト抵抗の低減と歩留まりの向上を両立させたセンシングデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、センシングデバイスは、
基板と、
前記基板の上に設けられるセンシング材料層と、
前記センシング材料層に接続される電極と、
を有し、
前記電極は、前記センシング材料層の表面と接して設けられる第1電極膜と、前記第1電極膜を覆って前記第1電極膜を前記センシング材料層に対して固定する第2電極膜と、を有し、
前記センシング材料層または前記基板に対する前記第2電極膜の密着性は、前記センシング材料層または前記基板に対する前記第1電極膜の密着性よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
コンタクト抵抗の低減と歩留まり向上を両立させたセンシングデバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態のセンシングデバイスの模式的な斜視図である。
【
図3】
図1の構成のセンシングデバイスのサンプルの光学顕微像である。
【
図4A】伝達長法(TLM:Transfer Length Method)による接触抵抗率算出のための測定及びフィッティング結果を示す図である。
【
図5】
図4A及び
図4Bから求めた実施形態のセンシングデバイスの接触抵抗率を従来構成と比較して示す図である。
【
図6】実施形態の第1電極膜と従来の電極構成における移動度の測定結果を示す図である。
【
図7】実施形態の第1電極膜と従来の電極構成のトータルのコンタクト抵抗の測定結果を示す図である。
【
図8】センシングデバイスの動作特性を示す図である。
【
図9A】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9B】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9C】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9D】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9E】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9F】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9G】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9H】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【
図9I】実施形態のセンシングデバイスの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下で、図面を参照しながら発明を実施するための形態を説明する。下記で述べる実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を下記の構成や数値に限定するものではない。図面中、同一の機能を有する構成要素には、同一符号を付して、重複する記載を省略する場合がある。異なる実施形態や構成例の間での部分的な置換または組み合わせは可能である。各図面が示す各部材の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために誇張して描かれている場合がある。
【0011】
実施形態では、グラフェン、カルコゲナイド等の層状物質や、半導体材料をセンシング材料として用いるセンシングデバイスにおいて、コンタクト抵抗の低減と歩留まりの向上を両立させる。一般的な電極構造として、下地に対する密着性の高いTiやCrの薄膜の上に、Auなどの電気伝導性の高い金属が積層されている。しかし、密着層としてTiやCrを挿入することで、電極のコンタクト抵抗が高くなる。他方、密着層を用いないでAu、Pt等の電気伝導性の高い金属で電極を形成すると、電極が剥離しやすく、歩留まりが低下する。このような問題を解決するために、Au、Pd、Pt、Ag、Cu、Al、Co、Niなどの電気伝導性の高い材料で下層の電極膜を形成し、下層の電極膜を覆ってTi、Crなどの密着性の高い上層の電極膜を形成する。密着性の高い上層の電極膜で、下層の電極膜をセンシング材料層または基板に対して固定する。
【0012】
<センシングデバイスの構成例>
図1は、実施形態のセンシングデバイス10の模式的な斜視図、
図2は、
図1のA-A断面模式図である。センシングデバイス10は、基板11と、基板11の上に設けられるセンシング材料層15と、センシング材料層15に接続される電極12S、及び12Dとを有する。基板11は、たとえば絶縁膜付きの基板であり、シリコン基板110の上に、酸化シリコン、酸化アルミニウムなどの絶縁膜111が形成された基板である。センシング材料層15は、一例としてグラフェン、カルコゲナイド等の層状物質の層であり、基板11の上の所定の領域に形成されている。この例では、センシング材料層15をグラフェンで形成し、センシングデバイス10を赤外線センサとして用いる。
【0013】
電極12Sと12Dは、センシング材料層15の長さ方向の両端に接続されている。電極12Sと12Dのそれぞれは、センシング材料層15の表面に接して設けられる第1電極膜121と、第1電極膜121を覆って第1電極膜121をセンシング材料層15に対して固定する第2電極膜122とを有する。第2電極膜122のセンシング材料層15または基板11の表面に対する密着性は、第1電極膜121のセンシング材料層15または基板11の表面に対する密着性よりも高い。センシング材料層15または基板11の表面に対する密着性が高いということは、センシング材料層15または基板11の表面からの剥離エネルギーが大きいことを意味する。
【0014】
図2に示すように、電極12S、及び12Dの第1電極膜121は、センシング材料層15を間に挟んで対向する対向面121fを有する。第2電極膜122は、第1電極膜121の対向面121fを除いて、第1電極膜121の上面と側面を覆っている。第2電極膜122は、第1電極膜121の対向面121fを露出させた状態で、センシング材料層15の幅方向の両側の基板11の表面に延びて、第1電極膜121をセンシング材料層15及び基板11の表面に安定的に固定する。第1電極膜121の対向面121fを覆わずに露出しておくことで、電極12Sと12Dの間に延びるセンシング材料層15の有効領域の長さと特性が設計された通りに維持される。第1電極膜121は、センシング材料層15の長さ方向の両端で、幅方向の全体にわたって設けられていることが望ましい。これにより、第2電極膜122が第1電極膜121を覆って第1電極膜121を基板11の表面に固定する際に、第2電極膜122がセンシング材料層15と接触することを防止できる。
【0015】
電極12Sと12Dは、センシング材料層15に流れる電流を外部に取り出すための電極パッド14-1と14-2にそれぞれ接続されている。基板11の裏面に、ゲート電極13が形成されていてもよい。ゲート電極13に所定のゲート電圧が印加されることで、センシングデバイス10は、光入射のない状態で流れるドレイン電流が最小となる点に制御される。
【0016】
図1及び
図2に示した構成の全体を、樹脂または無機材料の保護層で覆ってもよい。保護層を設けることで、センシングデバイス10の耐候性が向上する。保護層を設ける場合は、保護層に電極パッド14-1及び14-2に達するコンタクトホールを形成し、コンタクトホール内に設けられる配線により、電気信号をセンシングデバイス10の外部に引き出す。
【0017】
センシングデバイス10の電極12S及び12D(適宜、「電極12」と総称する)では、電気伝導性の高い第1電極膜が、上層の第2電極膜122によってセンシング材料層15に固定され、センシング材料層15と安定的に接触している。これにより、センシング材料層15と電極12の間のコンタクト抵抗が低減され、かつセンシングデバイス10の歩留まりが改善される。
【0018】
<測定と評価>
図3は、
図1の構成のセンシングデバイスのサンプルの光学顕微像である。センシング材料層15としてグラフェン層155を用いる。グラフェン層155は、基板11の表面の絶縁膜111上に形成されている。グラフェン層155の両端に、第1電極膜121が接続されている。第1電極膜121は、対向面121fを除いて、第1電極膜121よりも平面積の大きい第2電極膜122で覆われている。第1電極膜121はAuで形成されており、第2電極膜122はTiで形成されている。
【0019】
第1電極膜121の対向面121fの間の距離をグラフェン層155の長さL、絶縁膜111の面内で長さLと直交する方向の寸法を幅Wとする。第2電極膜122は、グラフェン層155の幅方向で第1電極膜121を完全に覆って、グラフェン層155の幅方向の両側の絶縁膜111の上に伸びている。第2電極膜122の絶縁膜111に対する密着性は、第1電極膜121の絶縁膜111に対する密着性より高く、Auの第1電極膜121はグラフェン層155の表面に固定されている。
【0020】
図3の画像のサンプルのグラフェン層155の幅Wは10.0μm、長さLは13.3μmである。
図3と同じ構成で、グラフェン層155の幅Wをある値に固定し、長さLを変えたサンプルを複数作製し、電気抵抗(Ω)を測定する。次に、グラフェン層155の幅Wを異なる値に変えて、変更後の幅Wで、長さLを変えて電気抵抗を測定する。測定した電気抵抗に基づいて、TLM法により接触抵抗率を求める。
【0021】
図4Aは、TLM法で接触抵抗率を算出するための測定結果とフィッティング結果を示す。
図4Bは、
図4Aの長さLが30μmまでの領域の拡大図である。aからdの4つの組のそれぞれで、グラフェン層155の幅Wを固定し、長さLを変えた複数のサンプルを作製して電気抵抗を測定する。各組のサンプルのグラフェン層155の幅Wは以下のとおりである。
a組:幅Wを1.5μmに固定し、異なる長さLでの電気抵抗を測定する。
b組:幅Wを2.0μmに固定し、異なる長さLでの電気抵抗を測定する。
c組:幅Wを5.0μmに固定し、異なる長さLでの電気抵抗を測定する。
d組:幅Wを50.0μmに固定し、異なる長さLでの電気抵抗を測定する。
【0022】
aからdの各組の各サンプルについて、ゲート電圧を0Vに設定し、所定のドレイン電圧を印加したときに流れるドレイン電流を測定して、電気抵抗(Ω)を計算する。電気抵抗(Ω)は、ドレイン電圧/ドレイン電流で計算される。計算された電気抵抗Rは、ひとつのサンプルの全体の電気抵抗である。グラフェン層155の長さ方向の抵抗をRgrp、グラフェン層155に接続された一対の電極のそれぞれのコンタクト抵抗(Ω)をRcとすると、全体の電気抵抗Rは、グラフェン層155の抵抗と、一対の電極のコンタクト抵抗との和である(R=Rgrp+2Rc)。
【0023】
計算した電気抵抗Rに、グラフェン幅Wを掛け算した値R×Wを抵抗率(Ωm)とし、低効率(Ωm)を
図4A及び
図4Bの縦軸にとる。抵抗率(Ωm)をグラフェン層155の長さLの関数としてプロットする。プロットした点を直線近似する。各組の直線近似式は以下のとおりである。
a組(W=1.5μm):y=(6.14E-04)x+8.12E-04、
b組(W=2.0μm):y=(1.77E-04)x+4.30E-03、
c組(W=5.0μm):y=(6.20E-04)x+7.62E-04
d組(W=50.0μm):y=(9.54E-04)x+2.15E-04。
a組からd組のそれぞれの接触抵抗率(Ωm)を、切片の1/2、すなわちL=x=0のときの電極1つあたりの抵抗率として計算する。近似直線aとcは傾きと切片が近接しており
図4Aと
図4Bでは一つの直線に見えるが、別々の近似直線である。
【0024】
aからdの各組について、上記のサンプルと同じグラフェン幅Wと長さLで、電極構造だけを上下逆にした比較例のサンプルを作製し、同じくTLM法で電極の接触抵抗率を計算する
【0025】
図5は、
図4A及び
図4Bから求めた実施形態のセンシングデバイスの接触抵抗率を、2層構造の上下を逆にした従来構成と比較して示す。黒丸は実施形態の電極構造、すなわち、下層の第1電極膜をAu、上層の第2電極膜をTiで形成したサンプルの接触抵抗率を示す。クロスマークは、比較例の電極構造、すなわち、下層の第1電極膜とTi、上層の第2電極膜をAuで形成したサンプルの接触抵抗率を示す。なお、縦軸の接触抵抗率(Ωμm)の数値は、
図4Aの縦軸の数値に1E+6を乗算している。
【0026】
図5から明らかなように、下層にAu等の良導体を用い、上層にTi等の密着性の高い導体膜を用いる実施形態の構成により、従来の積層構造と比較して、接触抵抗率が大きく低減されることがわかる。なお、グラフェン幅Wが2.0μmのサンプルの一部で、接触抵抗率が実施形態の電極構成と従来の電極構成とで差がないものもあるが、サンプルの製造ばらつき、または電気抵抗の測定ばらつきに起因するものと考えられ、全体の傾向としては、実施形態の電極構成で接触抵抗率が低減されている。実施形態で、上層のTi膜により、Au膜をグラフェン層155に密着させた状態で固定することで、本来は剥離しやすいAu膜をグラフェン層155の表面に安定的に保持して接触抵抗率を下げることができる。
【0027】
図6は、実施形態の第1電極膜121と従来構成の移動度の測定結果を示す図である。横軸は移動度、縦軸は平均頻度である。抵抗率をρ、電子の移動度をμとすると、
ρ=1/q・n・μ
であるから、移動度は、1/q・n・ρで求められる。ここで、qは素電荷、nはキャリア密度である。
【0028】
白バーで示すAu/Ti_EBは、従来の電極構成で下層にTi、上層にAuを有する電極層をグラフェン層155上に電子線蒸着で形成したサンプルの出現頻度を示す。斜線のバーで示すAu/Cr_EBは、従来の電極構成で下層にCr、上層にAuを有する電極層をグラフェン層155上に電子線蒸着で形成したサンプルの出現頻度を示す。黒バーで示すAu_EBは、実施形態の第1電極膜121としてAuをグラフェン層155上に電子線蒸着で形成したサンプルの出現頻度を示す。横線のバーで示すPd_EBは、実施形態の第1電極膜121としてPdをグラフェン上に電子線蒸着で形成したサンプルの出現頻度を示す。すべてのサンプルで、グラフェン層155と電極との接触面積は同じである。
【0029】
図6の結果から、グラフェン上に直接形成されたAuまたはPdの方が、グラフェン上にTiまたはCrを介して形成されたAuよりも移動度が高い。これは、下層のTiまたはCrの影響で、移動度が低下するためと考えられる。
【0030】
図7は、
図6で用いたサンプルの電極とグラフェン層155の間のコンタクト抵抗(Ω)を示す。このコンタクト抵抗は、印加電圧と測定された電流値から計算されている。グラフェン上に直接形成されたAuまたはPdの方が、グラフェン上にTiまたはCrを介して形成されたAuよりもコンタクト抵抗が小さい。ただし、AuまたはPdの単層膜では、デバイス作製過程でリフトオフ等により剥離されやすく、コンタクト抵抗が上昇し、歩留まりが下がる蓋然性が高い。そこで、実施形態のように、下層の第1電極膜121をAu、Pd等の良導体で形成し、密着性の高い上層の第2電極膜122で下層の第1電極膜121をグラフェンに対して固定する。これにより、
図5のように、接触抵抗率を低く保つことができる。
【0031】
<センシングデバイスの動作>
図8は、実施形態のセンシングデバイス10の動作特性を示す。この例では、センシング材料層15をグラフェンで形成し、センシングデバイス10を赤外線センサとして用いている。横軸はゲート電圧、縦軸はドレイン電流である。光入射がないときの電流-電圧特性を実線で示し、光が入射したときの電流-電圧特性を破線で示す。グラフェンに光入射がない状態でドレイン電流が最小となるポイントP
DIRACを、ここではディラックポイントと呼ぶ。
【0032】
センシング材料層15のグラフェンに光が入射することでグラフェン中にキャリアが生成され、ディラックポイントPDIRACがシフトして、電流-電圧特性カーブ全体が、矢印の方向にシフトする。これにより、同じゲート電圧で流れるドレイン電流が増加し、ΔIの電流変化が得られる。このドレイン電流の変化を測定することで、光入射量を求めることができる。ドレイン電流を測定するかわりに、電気抵抗の変化を測定してもよい。実施形態のセンシングデバイス10は、電極12の下層にコンタクト抵抗の小さい良導性の金属を用い、この良導性の金属をセンシング材料層15に密着させており、電極12とセンシング材料層15の間の接触抵抗率が低減されている。センシングデバイス10は、ドレイン電流や電気抵抗の変化に対する感度が高く、センシング精度を向上できる。
【0033】
<センシングデバイスの作製工程>
【0034】
図9Aから
図9Iは、センシングデバイス10の製造工程図である。以下の説明では、便宜上、主面の積層方向を「上」または「上側」とするが、このような方向を表す表現は、絶対的な位置関係を示すものではない。
【0035】
図9Aで、一方の面に絶縁膜111が形成された基板11を準備する。基板11として熱酸化膜付きのシリコン基板110を用いる場合は、熱酸化膜を絶縁膜111として用いてもよいし、熱酸化膜を除去して、別途、酸化アルミニウム等の絶縁膜111を形成してもよい。この場合、絶縁膜111はスパッタリング、原子層堆積(ALD)などにより形成される。
【0036】
図9Bで、基板11の他方の面(裏面)にゲート電極13を形成する。基板11が熱酸化膜付きのシリコン基板110である場合は、裏面の熱酸化膜を除去して、ゲート電極13を形成する。ゲート電極13は、バックゲートとなる。
【0037】
図9Cで、絶縁膜111の上に電極パッド14-1、及び14-2を形成する。電極パッド14-1、及び14-2は、たとえばリフトオフ法で、Au、Pd、Al、Cuなどの良導性の金属の単層膜として形成されてもよい。あるいは、良導性の金属膜の全体をTi,Crなどの密着性の高い第2金属膜で覆って、第2金属膜で電極パッドを絶縁膜111上に固定してもよい。
【0038】
図9Dで、電極パッド14-1及び14-2と絶縁膜111を覆って、センシング材料151を設ける。センシング材料151としてグラフェンを用いる場合は、HOPG(Highly oriented pyrolytic graphite)からテープ等で剥離する機械的剥離法、または化学気相成長法(Chemical vapor deposition)で銅箔などの触媒上に合成したグラフェンから樹脂等を用いて剥離・転写する転写法などで、絶縁膜111と電極パッド14-1及び14-2の上に塗布されてもよい。グラフェンを用いる場合に、単層グラフェンを用いてもよいし、数原子層の厚さのグラフェンを用いてもよい。複数層のグラフェンを重ねることで、光吸収量を増加させることができる。グラフェンのセンシング材料151を設けた後に、150~200℃の温度でアニールして、絶縁膜111とグラフェンの密着性を高めてもよい。
【0039】
図9Eで、センシング材料151を所定の形状にパターニングして、センシング材料層15を形成する。センシング材料層15としてグラフェン層を形成する場合は、酸素アッシング、酸素イオンビーム等で加工が可能である。電極パッド14-1と14-2の間に延びる方向を、センシング材料層15の長さ方向とする。
【0040】
図9Fで、加工されたセンシング材料層15の長さ方向の両端にオーバーラップするように、第1電極膜121を電子線蒸着により形成する。第1電極膜121は、Au、Pd、Pt、Ag、Cu、Alなどの電気伝導性の高い材料で形成されており、センシング材料層15の表面の一部と接触している。第1電極膜121は、センシング材料層15を間に挟んで互いに対向する対向面121fを有する。2つの第1電極膜121は、対向面121fと反対側で電極パッド14-1と14-2にそれぞれ接続されている。2つの第1電極膜121は、上述した電気伝導性の高い材料であれば、同じ金属材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。
【0041】
図9Gで、第1電極膜121を覆う第2電極膜122を電子線蒸着により形成する。
図9Gでは、第1電極膜121と第2電極膜122の位置関係を例示するために、断面構成とともに、対応する上面図を示している。第2電極膜122は、第1電極膜121の金属材料よりも、センシング材料層15と基板11の表面の絶縁膜111に対する密着性が高い導電材料で形成されている。第2電極膜122は、第1電極膜121の対向面121fを除いて、第1電極膜121の上面と側面を覆い、センシング材料層15の幅方向の両側の絶縁膜111上に延びている。第2電極膜122の平面積を第1電極膜121の平面積よりも大きくし、第2電極膜122の密着性を利用して、第1電極膜121をセンシング材料層15の表面に確実に接触させる。この構成により、第1電極膜121の剥離が抑制され、センシング材料層15との間のコンタクト抵抗を低くすることができる。
【0042】
第1電極膜121とその上層の第2電極膜122で、電極12S及び12Dが形成される。電極12Sはソース電極として機能し、電極12Dはドレイン電極として機能する。グラフェンで形成されたセンシング材料層15にポテンシャルの勾配をつけるために、第1電極膜121を異なる金属材料で形成してもよい。第1電極膜121を同じ金属材料で形成する場合は、センシング材料層15との界面の形状を電極間で異ならせるなど、なんらかの非対称性を与えてもよい。
【0043】
図9Hで、全面に保護層16を形成する。保護層16は、検出する光の波長領域で透明であり、センシング材料層15への水分の侵入を防止できる材料、たとえば、樹脂、酸化アルミニウム等で形成される。樹脂層は、塗布法で形成できるので簡便である。酸化アルミニウムの保護層16をALD法により形成する場合は、保護層16の成膜前にウエハ全体を加熱してウエハ表面に付着した水分や汚れを除去してもよい。
【0044】
図9Iで、電極パッド14-1及び14-2に達するコンタクトホール161を形成する。保護層16を感光性の樹脂で形成する場合は、露光と現像によりコンタクトホール161を形成できる。ALD法で形成された酸化アルミニウムの保護層16の場合は、エッチングによりコンタクトホール161を形成する。その後、コンタクトホール161内に配線または端子を形成して、センシングデバイス10が得られる。
【0045】
上記では、単一のセンシングデバイス10に着目して製造工程を説明したが、ウエハ上の各チップ領域に、多数のセンシングデバイス10を同時に形成して、センシングアレイとしてもよい。実施形態の二層構造の電極12により、コンタクト抵抗が低く、かつ剥離が抑制されたセンシングアレイが実現される。
【0046】
上記で、特定の構成例に基づいてセンシングデバイス10の構成と製造方法を説明したが、本開示は上記の構成と手法に限定されない。センシングデバイス10は、バックゲート構成に替えて、埋め込み型のゲート電極を有していてもよい。この場合、絶縁膜111の上に、電子線蒸着等でゲート電極を形成し、その後、全面に別の絶縁膜を形成してもよい。別の絶縁膜を形成した後の工程は、
図9C以降の工程を同じである。
【0047】
センシング材料層15として、グラフェンに替えて、遷移金属ダイカルコゲナイド(transition metal dichalcogenide;TMDC)を用いてもよい。TMDCは、一般式TX2で表される。遷移金属原子Tをカルコゲン元素Xで挟み込んだ層状の2次元結晶は、高いキャリア移動度と良好な力学特性を有し、種々のデバイスへの適用が期待されているが、Pdこのような層状結晶へのAuやPdの密着性は必ずしも十分ではない。実施形態の電極の二層構成を用いることで、コンタクト抵抗を低くし、かつ歩留まりを向上することができる。
【0048】
実施形態の2層の電極構造は、タイプ2超格子等の半導体超格子を用いた赤外線センサや、半導体ナノ構造を用いたセンサで、半導体層とオーミック接触する金属電極にも適用可能である。オーミック接触を形成する層としてAu、Pd等の良導体の第1電極膜121を形成し、第1電極膜121の上に密着性の高い第2電極膜122を設けて第1電極膜121を半導体層に固定してもよい。
【0049】
いずれの適用例においても、下地と電極の間のコンタクト抵抗が低減され、かつ電極の剥離を抑制して歩留まりを向上することができる。実施形態の電極構成を用いたセンシングデバイスは、自動ドア、監視カメラ、インフラ点検等に適用される。
【符号の説明】
【0050】
10 センシングデバイス
11 基板
12S、12D 電極
13 ゲート電極
14-1、14-2 電極パッド
15 センシング材料層
16 保護層
110 シリコン基板
111 絶縁膜
121 第1電極膜
122 第2電極膜
151 センシング材料
155 グラフェン層
161 コンタクトホール