(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131199
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】血球細胞の初期化のための情報処理方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20240920BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240920BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12M1/00 A
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041312
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】岡野 美絵
(72)【発明者】
【氏名】原田 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽治
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康雄
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029AA27
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4B029DF10
4B029DG10
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4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】安定した細胞の初期化方法の提供。
【解決手段】対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、および前記自家蛍光情報並びに、前記対象血球細胞の細胞情報に基づき、解析する解析工程、を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法であって、前記細胞情報は、血球細胞の同定情報を含む、血球細胞の初期化のための情報処理方法を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、および
前記自家蛍光情報に基づき解析する解析工程、
を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項2】
前記自家蛍光情報は、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報を含む請求項1に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項3】
前記青色成分は、350nm以上500nm以下の波長範囲の蛍光であり、前記緑色成分は、500nm以上600nm以下の波長範囲の蛍光である請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記解析工程は、前記対象血球細胞における青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞の割合を算出することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項5】
前記初期化条件は、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報からなる群より選ばれる少なくともいずれかに関する条件を含む請求項1に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項6】
前記初期化後の性質は、初期化後の細胞の数に関する情報を含む請求項1に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項7】
前記対象血球細胞における青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞とは、幹細胞性の高い細胞であることを特徴とする請求項4に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項8】
前記幹細胞性の高い細胞は、CD34陽性細胞である、請求項7に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項9】
前記対象血球細胞がヒト末梢血単核球である請求項1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項10】
前記解析工程において、
自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報を参照することを特徴とする請求項9に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項11】
前記解析工程において、
前記自家蛍光情報および、前記対象血球細胞の同定情報を含む細胞情報に基づき、解析することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項12】
前記解析工程において、
細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報を参照する請求項11に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項13】
前記解析工程において、
前記自家蛍光情報並びに、前記対象血球細胞の同定情報を含む細胞情報に基づき、解析することを特徴とし、
さらに、細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件を入力データとし、初期化後の性質を出力データとする学習データを用いて得られる学習モデルを用いる請求項1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【請求項14】
前記解析工程は、
所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件を生成する第1の推奨初期化条件生成工程を有し、
さらに、使用者の指示があれば、
所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件を生成する第2の推奨初期化条件生成工程を有する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか1項に記載の情報処理方法を実行する、情報処理装置。
【請求項16】
請求項1から8のいずれか1項記載の情報処理方法を情報処理装置に実行させるための情報処理プログラム。
【請求項17】
請求項16に記載の情報処理プログラムを保存した電子媒体。
【請求項18】
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する撮像手段、
情報処理システム、および
前記対象血球細胞に初期化因子を導入する初期化因子導入手段、
を有する血球細胞の初期化装置であって、
前記情報処理システムは、
前記撮像手段より前記自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得手段、および
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析手段、を含み、
前記解析手段は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定手段、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成手段、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化装置。
【請求項19】
前記解析手段は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成手段を有し、
前記初期化因子導入手段は、前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞に初期化因子を導入する、
請求項18に記載の血球細胞の初期化装置。
【請求項20】
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析工程、
および
前記対象血球細胞を初期化する工程、
を含む多能性幹細胞の製造方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを含む、
多能性幹細胞の製造方法。
【請求項21】
前記解析工程は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成工程を有し、
前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する請求項20に記載の多能性幹細胞の製造方法。
【請求項22】
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
を有し、
前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する請求項20に記載の多能性幹細胞の製造方法。
【請求項23】
前記解析工程は、
所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件を生成する第1の推奨初期化条件生成工程、および
所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件を生成する第2の推奨初期化条件生成工程、
を有し、
前記推奨する第2の初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する請求項20に記載の多能性幹細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球細胞の初期化のための情報処理方法、該情報処理方法を実行する情報処理装置、情報処理プログラム、電子媒体、血球細胞の初期化装置、および多能性幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、幹細胞の分野に関する。より具体的には、体細胞、とくに血球細胞を初期化し、多能性幹細胞を作製する過程に関する。
【0003】
多能性幹細胞、中でも、iPS細胞と呼ばれる人工多能性幹細胞は、初期化因子(例えば、Oct4、Klf4、Sox2、c-myc、Lin28またはL-myc)の体細胞への導入によるリプログラミング(初期化)を経て樹立される。しかしながら、iPS細胞の樹立効率は低いことが知られている。また、産業化の観点から安定的な作製が求められており、iPS細胞の樹立方法(初期化方法、リプログラミング方法)は改良され続けている。例えば、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬やp53遺伝子の抑制、低酸素培養などにより初期化効率が改善することが報告されており、今もなお、様々な研究が進められている。
【0004】
細胞内成分には、蛍光を発するものがあることが知られており、細胞内の酸化還元状態や代謝状態に関連する補酵素のうち、複数は蛍光を発する。このように、細胞に内在する物質が発する蛍光を自家蛍光という。自家蛍光を細胞選別に利用する研究が進められており、特許文献1では、細胞の自家蛍光を利用して、T細胞の選別を実施している。具体的には、細胞が有する補酵素NADHおよびFADの蛍光強度比を計測し、細胞の酸化還元状態を定量化することでT細胞の活性化状態を判断し、選別を行なっている。
【0005】
特許文献2では、初期化後の細胞集団から、細胞の自家蛍光、E-カドヘリン発現、c-kit発現を利用して、多能性幹細胞の選別を行なっている。しかし、特許文献2では、血球細胞の選別を実施しているものの、細胞選別には、E-カドヘリンやc-kitに対する抗体などの利用が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2021-533808号公報
【特許文献2】特開2010-200676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、多能性幹細胞作製において、樹立効率の低さが問題として残っている。また、血球細胞の製造ロットや血液ドナーにより、取得できるコロニーの数や細胞の量にばらつきが出ることが知られている。そのため、未知の細胞やドナーの場合、初期化後に得られるコロニーが予想できないため、樹立してみたものの、想定より得られたコロニーが少ない、逆に、多いといった問題が生じており、安定した細胞の初期化方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は一実施形態として、以下の情報処理方法を提供する。
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、および
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析工程、
を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化のための情報処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自家蛍光を利用した解析工程を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法が提供され、安定した多能性幹細胞作製が可能となる。本発明によれば、細胞の自家蛍光を利用するため、抗体などによる染色の必要がなく、非侵襲に、解析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】情報処理方法の一実施形態を示す図である。
【
図1B】情報処理方法の一実施形態を示す図である。
【
図1C】情報処理方法の一実施形態を示す図である。
【
図2A】対応関係に関する情報を参照する場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図2B】対応関係に関する情報を参照する場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図2C】対応関係に関する情報を参照する場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図2D】対応関係に関する情報を参照する場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図3】対応関係に関する情報の一例を示す図である。
【
図4A】学習モデルを用いる場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図4B】学習モデルを用いる場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図4C】学習モデルを用いる場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図4D】学習モデルを用いる場合の情報処理方法の一例を説明する概念図である。
【
図5A】自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞を説明する概念図である。
【
図5B】細胞の蛍光輝度分布およびクラスタリング結果の一例である。
【
図6A】細胞の自家蛍光情報の処理の一例を示す図である。
【
図6B】細胞の自家蛍光情報の処理の一例を示す図である。
【
図8】初期化後のコロニーの数を推論して、推論結果を取得した例を説明する図である。
【
図10】表示部に示される推定結果および推奨する初期化条件の例である。
【
図11】実施例で情報処理装置に記憶させた実験データである。
【
図12A】実施例1における、初期化後のコロニーまたは細胞の数の推定結果の提示図である。
【
図12B】実施例1および2における、初期化後のコロニーまたは細胞の数の推定結果と推奨する初期化条件の提示図である。
【
図12C】実施例2における、推奨する初期化条件で初期化した際に実際に得られたコロニーの明視野画像である。
【
図13】多能性幹細胞の製造のフローおよび対応する実施例の番号を示す図である。
【
図14A】実施例3における、初期化後のコロニーまたは細胞の数の推定結果と推奨する初期化条件の提示図である。
【
図14B】実施例3における、基本の初期化条件で初期化した際に実際に得られたコロニーの明視野画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に含まれる各態様について説明する。以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は請求項によって特定されるものであって、以下の形態に限定解釈されるものではない。
【0012】
<情報処理方法>
本実施形態に関わる情報処理方法は、
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、および
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析工程、
を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化のための情報処理方法である。
【0013】
解析工程は、予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程を有することができる。
あるいは、解析工程は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程を有することができる。初期化条件(予定初期化条件、推奨初期化条件)は、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報からなる群より選ばれる少なくともいずれかに関する条件を含むことができる。
解析工程は、推定工程と推奨初期化条件生成工程を両方有してもよい。
【0014】
本実施形態に係る方法を
図1Aに示す。自家蛍光情報取得工程1001において、対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する。解析工程1002において、自家蛍光情報、および必要に応じ対象血球細胞の細胞情報に基づいて、解析を行う。
【0015】
あるいは
図1Bに示すように、解析工程は、予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程1003を有することができる。
あるいは、解析工程は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程1004を有することができる。
初期化条件(予定初期化条件、推奨初期化条件)は、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報からなる群より選ばれる少なくともいずれかに関する条件を含むことができる。
【0016】
図1Cに示すように、解析工程1002は、推定工程1003と推奨初期化条件生成工程1004を両方有してもよく、この場合、いずれの工程が先に行われてもよい。また、それぞれの工程を複数回有しても良く、その場合も順序は問わない。
【0017】
推定工程1003の後に推奨初期化条件生成工程1004が行われる場合、推定工程1003で生成された推定結果を検討してから、あるいは、推定結果を踏まえて対象血球細胞の初期化を進めてから、推奨初期化条件生成工程1004を行ってもよい。推奨初期化条件生成工程の後に推定工程が行われる場合、推奨初期化条件生成工程で生成された、推奨する初期化条件を検討してから、あるいは、さらには推奨する初期化条件を踏まえて、初期化を進めてから、推定工程を行ってもよい。このような場合、推定結果を得るために用いられた予定初期化条件と、推奨する初期化条件は異なる場合がある。
【0018】
解析工程1002が推定工程1003を複数回有する場合、第1の推定工程の後、さらに使用者の指示があれば、第2の推定工程を有することができ、第1の予定初期化条件に基づいて、初期化後の細胞に関する第1の情報が生成され、第2の予定初期化条件に基づいて、初期化後の細胞に関する第2の情報が生成される。このとき、第1の予定初期化条件と第2の予定初期化条件は異なることが好ましく、初期化後の細胞に関する第1の情報と初期化後の細胞に関する第2の情報も異なることが好ましい。
【0019】
解析工程1002が推奨初期化条件生成工程1004を複数回有する場合、第1の推奨初期化条件生成工程の後、さらに使用者の指示があれば、第2の推奨初期化条件生成工程を有することができる。所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件が生成され、所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件が生成される。このとき、所望する初期化後の細胞の性質その1と所望する初期化後の細胞の性質その2は異なることが好ましく、対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件と対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件も異なることが好ましい。
【0020】
解析工程においては、細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報(以下対応関係に関する情報という場合がある)を参照することができる。
図2Aに概念図を示す。対象血球細胞の細胞情報201として、同定情報を取得し、また、対象血球細胞の自家蛍光情報202を取得する。同定情報とは、対象血球細胞を同定するための情報で、対象血球細胞の種類、名称、記号、番号または由来などの細胞情報を含むことができる。細胞情報201、自家蛍光情報、並びに初期化条件と、対応関係に関する情報203を参照し、例えば、対象血球細胞と近似する細胞情報を有する細胞(例えば同じ細胞種類や、同じ細胞株)のデータを参照し、推定結果204、あるいは、推奨する初期化条件205を生成することができる。
【0021】
推定結果204を生成する場合について、
図2Bに示す。推定結果204を生成する場合、対象血球細胞の自家蛍光情報202、対象血球細胞の細胞情報201に加え、対象血球細胞を初期化する際に、予定している初期化条件である、予定初期化条件210を取得し、これらの情報を対応関係に関する情報203を参照し、例えば、対象血球細胞と近似する細胞情報を有する細胞のデータの、さらに、近似する初期化条件を用いたデータを参照し、推定結果204を生成することができる。推定結果204として、例えば、推定される細胞の数や、コロニーの数を生成することができる。
【0022】
推奨する初期化条件205を生成する場合について、
図2Cに示す。推奨する初期化条件205を生成する場合、対象血球細胞の自家蛍光情報202、対象血球細胞の細胞情報201に加え、所望する初期化後の細胞の性質220を取得し、これらの情報を対応関係に関する情報203を参照し、例えば、対象血球細胞と近似する細胞情報を有する細胞のデータの、さらに、近似する初期化条件を用いたデータを参照し、推奨する初期化条件205を生成することができる。この場合、推奨する初期化条件205として、例えば、推奨する初期化の際の、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報を取得することができる。
【0023】
なお、予定初期化条件210あるいは所望する初期化後の細胞の性質220は、使用者が入力するものであってもよいし、あるいは、あらかじめ設定されていてもよい。あらかじめ設定されている場合、必要に応じ使用者が変更できることが望ましい。なお、所望する初期化後の細胞の性質とは、初期化後の細胞の数、初期化後のコロニーの密度、初期化後のコロニーのサイズや、初期化後の細胞のコロニーの数に関する情報などであっても構わない。また、初期化後に得られる細胞のうち、多能性幹細胞の率(割合)に関する情報であっても構わない。例えば、初期化後、14日目の時点での細胞数や、コロニーの数とすることができる。
【0024】
自家蛍光情報は、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報を含むことができる。後述のように、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報は、青色成分と緑色成分の輝度値に関する情報であり、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞(以降、BR細胞と呼ぶ場合がある)の割合とすることができる。自家蛍光の青色成分は、350nm以上500nm以下の波長範囲の蛍光とすることができ、自家蛍光の緑色成分は、500nm以上600nm以下の波長範囲の蛍光とすることができる。
【0025】
初期化条件は、細胞数、ベクター量、初期化因子、培養日数、培養容器の情報からなる群より選ばれる少なくともいずれかに関する条件を含むことができる。
初期化後の性質は、初期化後の細胞の数に関する情報を含むことができる。
【0026】
自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報の例を
図3に示す。対応関係に関する情報203とは、細胞同定情報301を様々に変更し、また、初期化条件を様々に変更した場合の、初期化後の性質104と、自家蛍光情報302を収集したものである。
図3では、細胞種等の細胞同定情報301毎に表が作成され、これが細胞種の数だけ重ねられた例が示されるが、これは模式図であり、細胞同定情報301と、自家蛍光情報302、並びに初期化条件303と、初期化後の性質304との対応が分かれば、どのような形式でもよく、好ましくは、情報処理システムが、参照可能に保存される。対応関係は、全てが示される必要はなく、部分的なものであってもよい。また、必ずしも実験データである必要はなく、シミュレーションの結果を含んでもよい。
【0027】
図2Dに示すように、推奨する初期化条件205を生成する際には、さらに、あらかじめ、予定初期化条件210を取得し、対象血球細胞の細胞情報201、対象血球細胞の自家蛍光情報202、所望する初期化後の細胞の性質220、予定初期化条件210を対応関係に関する情報203を参照し、推奨する初期化条件205を生成することができる。この場合、推奨する初期化条件205は、入力された予定初期化条件210になるべく近い推奨する初期化条件を生成する、あるいは、予定初期化条件210の修正を提案するものであってもよい。あるいは、はじめに取得する予定初期化条件210については、検討中の条件(例えば、何日培養するのが適しているのかを検討中であれば日数)については入力せず、その他の条件のみを予定初期化条件とし、生成される推奨する初期化条件205は、検討中の条件に関するもの(例えば、何日培養することが推奨されるか)に限定してもよい。
あるいは、解析工程においては、細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件を入力データとし、初期化後の性質を出力データとする学習データを用いて得られる学習モデルを用いることができる。
【0028】
学習モデルは、ディープラーニングなどの任意の機械学習アルゴリズムに従った機械学習モデルに対して、事前にトレーニング(学習)を行ったモデルである。学習モデルは、事前に学習を行っているが、それ以上の学習を行わないものではなく、追加の学習を行ってもよい。本実施形態の情報処理方法が実行された際のデータに基づき随時追加の学習を行ってもよい。
【0029】
学習モデルは、回帰分析で得られる回帰式であってもよいし、ディープラーニング(深層学習)などで得られるニューラルネットワークモデルであってもよく、そのモデルのデータ構造や学習アルゴリズムなどは限定されない。学習モデルは、ニューラルネットワークで構築される場合で、かつ、入力層、中間層および出力層を一つのニューラルネットワークの単位と捉えた場合に、一つのニューラルネットワークを指してもよい。また、上記の場合において学習モデルは、複数のニューラルネットワークの組合せを指してもよい。また、学習モデルは、複数の重回帰式の組合せで構成されてもよいし、一つの重回帰式で構成されてもよい。
【0030】
機械学習モデルに対して事前に行う学習は、適切な教師データ(学習データ)を用いた教師あり学習であってもよいし、報酬を最大化するように行う強化学習であってもよい。ここで、教師データとは、学習データのことをいい、入力データおよび出力データのペアで構成される。また、教師データや報酬は、所望の結果が得られるような推奨条件が生成されるように定めてもよい。
【0031】
学習モデルを用いた場合のフローを
図4Aに示す。対象血球細胞の細胞情報401として、対象血球細胞の種類、名称、または由来を取得し、また、対象血球細胞の自家蛍光情報402を取得する。これらの情報に基づき、学習モデル403により、例えば、推定結果404、あるいは、推奨する初期化条件405を生成することができる。
【0032】
学習モデル403は、細胞情報411、自家蛍光情報412、初期化条件413を入力データとし、初期化後の性質414を出力データとして学習した学習モデル403を用いることができる。
【0033】
初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する場合、
図4Bに示すように、対象血球細胞の自家蛍光情報402、対象血球細胞の細胞情報401に加え、対象血球細胞を初期化する際に、予定している初期化条件である、予定初期化条件410を取得し、これらの情報に基づき、学習モデル403を用いて、推定結果404を生成することができる。この場合、推定結果404として、例えば、推定される細胞の数や、コロニーの数を生成することが考えられる。
【0034】
対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する場合、
図4Cに示すように、対象血球細胞の自家蛍光情報402、対象血球細胞の細胞情報401に加え、所望する初期化後の細胞の性質420を取得し、これらの情報に基づき、学習モデル403を用いて、推奨初期化条件405を生成することができる。この場合、推奨する初期化条件405として、例えば、推奨する初期化の際の、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報を生成することができる。
図4Dに示すように、推奨する初期化条件405を生成する際には、さらに、あらかじめ、予定している初期化条件である、対象血球細胞の予定初期化条件410を取得し、対象血球細胞の細胞情報401、対象血球細胞の自家蛍光情報402、所望する初期化後の細胞の性質420、予定初期化条件410に基づき、学習モデル403を用いて、推奨する初期化条件405を生成することができる。この場合、推奨する初期化条件405は、入力された予定初期化条件410になるべく近い推奨する初期化条件を生成する、あるいは、予定初期化条件410の修正を提案するものであってもよい。あるいは、はじめに取得する予定初期化条件410については、検討中の条件(例えば、何日培養するのが適しているのかを検討中であれば日数)については入力せず、その他の条件のみを予定初期化条件とし、生成される推奨する初期化条件405は、検討中の条件に関するもの(例えば、何日培養することが推奨されるか)に限定してもよい。
【0035】
以下により具体的に説明を行う。
(血球細胞)
本実施形態における血球細胞とは、血液細胞のことを指し、造血幹細胞と呼ばれる細胞を出発点として、赤血球、血小板、白血球細胞に分化したものである。また、白血球細胞は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球など種々の細胞の総称とする。本実施形態においては、市販のヒト末梢血単核球(PBMC)を用いた場合を記載するが、公知の方法、例えば密度勾配遠心などで全血から精製して、得た細胞やPBMCを用いることも可能である。例えば、Ficollやバキュテイナという製品を利用して、血液からPBMCを分離することができる。また、さらに表面抗原などを利用して、不要な細胞を除去後、それらの細胞を用いてもよい。以下の例ではPrecision for Medicine社のPBMCを利用した例を記載するが、別のメーカーから購入したものを使用してもよい。また、分離後のPBMCあるいは市販のPBMCをそのまま使用してもよいし、前培養などを実施してから使用してもよい。
【0036】
また、本実施形態におけるコロニーとは、細胞が単体で存在せず、複数以上の細胞が集まった細胞集合体のことを指す。一般的には、1つの細胞から増えた細胞集団のことを示すが、時に異なる細胞が混ざることもある。また、iPS細胞のコロニーは、形状は、比較的丸みを帯びており、コロニー内は細胞が詰まった構造をしており、細胞は細胞質に対する核の比率が高く、核が細胞全体に広がっているといった特徴を持っている。
【0037】
(自家蛍光情報の取得)
細胞の自家蛍光情報の取得においては、例えば、細胞の自家蛍光画像、あるいは自家蛍光画像と明視野画像を取得することが可能である。これらの画像は、細胞を、顕微鏡などの拡大レンズを含む光学系を介してカメラなどの画像取得装置によって、撮像することで取得できる。
【0038】
なお、細胞は、自家蛍光情報の取得が可能な状態であれば、どんな状態であってもよいが、生きた状態であることが好ましい。例えば、一般的な顕微鏡を使用して自家蛍光画像を取得する場合は、細胞は、シャーレ、プレート、フラスコなどに懸濁、付着された状態であることが好ましく、フローサイトメトリーなどを使用する場合は、細胞懸濁液として細胞が液中で分散した状態であることが好ましい。より好ましくは、細胞の自家蛍光情報の取得がしやすいよう、細胞は塊ではなく、1つ1つの細胞が分散した状態、あるいは細胞1つ1つが認識できる状態であることが好ましい。
【0039】
自家蛍光とは、細胞や組織に内在する物質が励起波長の照射を受けて、発する蛍光をいう。自家蛍光を発する内因性成分としてはNAD(P)H、フラビン類(FADなど)、コラーゲン、フィブロネクチン、トリプトファン、葉酸など、細胞内で産生される自家蛍光分子がある。ただし、本実施形態においては、自家蛍光を発している内因性成分が何であるかを特定する必要はなく、自家蛍光は、上述した例以外の蛍光性内因性成分以外の成分が発する蛍光であってもよい。
【0040】
自家蛍光画像は、複数の細胞を含む試料に対し、1つ以上の励起光を照射し、1つ以上の自家蛍光情報を取得することで取得する。励起光は1つの波長であってもよいし、複数の波長の光からなる光でもよい。また、蛍光は1つの波長の光であってもよいし、複数の波長の光からなる光を蛍光としてもよい。
【0041】
また、自家蛍光情報は、複数の細胞に関する自家蛍光画像から取得することが可能である。自家蛍光情報は、自家蛍光の輝度を含み、さらには輝度の位置情報、面積情報、その他の情報を含むことができる。輝度は、蛍光強度を示す値であれば、特に限定されず、どのような指標を用いてもよい。なお、輝度は強度と解釈してもよい。
【0042】
輝度は、空間座標上で表し、その座標で得られる値としてもよい。空間座標の例として色空間座標を挙げられる。色空間の一例としてRGBの色空間を用いることが可能である。輝度はRGBの色区間におけるR,G,およびBの少なくともいずれかの指標として算出される値であってもよい。
なお、これら以外の色彩による色空間を用いて輝度情報を記述してもよい。
【0043】
本実施形態では、Bである青色成分とGである緑色成分の2つの自家蛍光情報を取得するが、それ以外の成分を利用してもよい。なお、自家蛍光の青色成分とは350nm以上500nm以下の波長範囲の蛍光であることが好ましく、緑色成分とは、500nm以上600nm以下の波長範囲の蛍光であることが好ましい。
【0044】
(自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報)
青色成分と緑色成分の輝度に関する情報とは、青色成分と緑色成分の輝度値に関する情報である。この輝度値に関する情報から公知のクラスタリング技術や機械学習などを利用することで、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞(BR細胞)の細胞群(BR細胞群)を分類することが可能である。例えば、特許文献2に記載の方法および解析装置を用いて、細胞を分類することで、BR細胞の割合を算出することができる。
図5Aに概念図を示す。この概念図は、X軸を緑色成分の輝度、Y軸を青色成分の輝度とした場合の、細胞の分布を示す。点線で囲まれた青色成分、緑色成分が高い領域510に含まれる細胞は、G成分の輝度、B成分の輝度が共に高い細胞であり、すなわち、BR細胞とすることができる。
【0045】
図5Bに実際に血球細胞について青色成分と緑色成分の輝度値を取得した例を示す。この例においては、395nmの励起光を照射したときの緑色成分(G成分)の蛍光の輝度値を横軸に、青色成分(B成分)の蛍光輝度値を縦軸に取った場合の、細胞の蛍光輝度分布およびクラスタリング結果を示す。これは公知のクラスタリング技術を用いた例であり、このクラスタリングによると、3つの群にクラスタリングされていることが分かる。すなわち、青色成分の輝度、緑色成分の輝度が共に低い領域503、青色成分の輝度、緑色成分の輝度が共に高く、かつ、青色成分が緑色成分に比して相対的に高い領域501(
図5Bにおいて点線で示される)、青色成分の輝度、緑色成分の輝度が共に高いが、青色成分が緑色成分に比して相対的に高いとはいえない領域502である。
このような場合、領域501と領域502に含まれる細胞を合わせてBR細胞としてもよい。より好ましくは、領域501に含まれる細胞のみをBR細胞とすることができる。
【0046】
全細胞数およびBR細胞数の比率は、既存のフリーソフトを利用して算出してもよい。
図6A,
図6BはImageJを用いて、血球細胞の自家蛍光画像をRGB分解し、緑色成分の画像を取得し、さらに青色成分の輝度が高い細胞を抽出した際の結果を示す。自家蛍光画像をRGB分解して得られた緑色成分の画像を
図6Aに、さらに青色成分の輝度が高い細胞を抽出した後の画像を
図6Bに示す。その他、輝度値の閾値を設定し、BR細胞の数をカウントし、比率を算出してもよい。
なお、上記のように分けられた自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度値が高い集団は、幹細胞性の高い細胞を多く含まれていることが知られている。なお、BR細胞群は、より好ましくは、
図6A、
図6Bにおいて矢印で示した幹細胞性の高い細胞に相当する細胞群であることが好ましいが、それ以外の細胞も含んでいてもよい。細胞の幹細胞性の高い細胞の割合が相対的に判断できればよい。
【0047】
(幹細胞性の高い細胞とCD34陽性細胞)
幹細胞とは、他の細胞に変化する分化能と自己複製能を持つ細胞を指し、本明細書においては、その傾向が高い細胞を幹細胞性の高い細胞という。幹細胞には、神経幹細胞・上皮幹細胞・肝幹細胞・生殖幹細胞・造血幹細胞、ES細胞の他、iPS細胞など人工的に作製された幹細胞がある。本実施形態における幹細胞性の高い細胞とは、例えばCD34陽性細胞を指す。CDとは、同一の細胞集団または同一の細胞膜抗原や抗原エピトープを認識するモノクローナル抗体を、1つのカテゴリーにまとめたもので、モノクローナル抗体が認識する表面抗原の名称としても用いられる。CD34陽性分画は、ヒトの血液幹細胞を豊富に含む細胞分画であり、血液系以外の細胞に分化する幹細胞が含まれている可能性が報告されている。そのため、末梢血CD34陽性細胞、および臍帯血のCD34陽性細胞を用いることで、効率良くiPS細胞を樹立することが報告されている。
【0048】
(初期化)
ここでいう初期化とは、分化した体細胞の核がリセットされ受精卵のような発生初期の細胞核の状態に戻り、多能性幹細胞(以下iPS細胞ということがある)などに変化することを指し、それを行う条件を初期化条件とする。初期化条件は、用いる細胞、用いる細胞数、ベクター、ベクター量、初期化因子、培養日数、培養容器をはじめとする、様々なパラメーターが存在し、そのパラメーターを変更することによって、得られるコロニーの数や細胞数が変動することが知られている。用いる細胞としては、例えば、ヒト末梢血単核球(PBMC)を用いることが可能であるが、その製造ロットやドナー、用いる細胞数や細胞濃度、液量などによって初期化後のコロニーまたは細胞の数に影響を及ぼすことが知られている。同様に、ベクターについても、様々なベクターが販売されており、用いるベクターの種類、あるいは量が結果に影響を及ぼす。初期化因子としては、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、mycファミリー(例えば、c-myc、N-myc、L-mycなど)、Nanog、Lin28などが知られている。iPS樹立方法については、多くの文献が発行されており、また、ベクターの販売メーカーによって目安となる初期化条件や初期化プロトコルが記載されているのでそれらを参考にすることができる。
【0049】
以下の例では、ときわバイオ株式会社が販売するSRV iPS-2 Vectorを用いたヒト末梢血単核球・単球からのiPS細胞誘導プロトコルを使用した際の結果を一例として示すが、ベクター、プロトコルに限定はなく、他のメーカーの、あるいは市販されないベクターを用いてもよく、あらゆるプロトコルを利用することができる。
【0050】
以下の例においては、基本となる初期化条件を以下のように設定した。1E5の細胞のペレットに対し、MOI=3となるように、ベクターを加え、ベクターと合わせて20-33μLになるように、血球細胞用培地の量を加えることで、細胞とベクターを反応させた。反応後はメーカー推奨のプロトコルに従い、反応、洗浄を実施後、iMatrix-511をコーティングした12ウェルプレートに播種用培地0.75mLを添加した。その後、プロトコルに従い、培地交換を実施し、14日間培養した。以下の例ではiMatrix-511を0.5μg/cm2となるように調製し、12ウェルプレートに0.75mLコーティングした。
なお、MOIとは、Multiplicity of Infection(感染多重度)を意味し、感染を受ける細胞に対する感染性ウィルスの比率を表すものである。
【0051】
(解析)
以下に解析の具体例を示す。この具体例においては、対象血球細胞の細胞情報、対象血球細胞の自家蛍光情報(BR細胞群割合)、予定初期化条件を取得して、対応関係に関する情報を参照して、推定結果を生成した。すなわち、
図2Bに示す実施形態の一例である。
【0052】
フローは
図7Aに示す通りである。市販のPBMCのロットAを上記の基本となる初期条件で初期化因子を導入した際に得られた実験結果を対応関係に関する情報として、対象血球細胞としてロットBを基本となる初期化条件で初期化した際に得られるコロニーの数を推定する。まず、ステップ1で自家蛍光情報を取得する。具体的には、ロットBの細胞懸濁液を準備し、スライドガラスに滴下し、明視野画像と自家蛍光画像を取得する。自家蛍光画像からBである青色成分とGである緑色成分の2つの自家蛍光情報を取得する。
【0053】
次にステップ2で細胞情報、自家蛍光情報と初期化条件を用いて、初期化後のコロニーの数を推定して、推定結果を生成する。
図8の概念図に示すように明視野画像から全細胞数を算出し、自家蛍光画像から青色成分および緑色成分の輝度値が高い細胞群、すなわち、BR細胞群、の細胞数をカウントし、全細胞数に占めるBR胞群の割合を算出する。なお、全細胞数およびBR細胞群の細胞数の算出においては、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報に記載の方法を用い、算出することができる。この例は、ロットAについては、BR細胞群の割合や、初期化の結果が分かっている。ロットAはロットBと細胞情報が近似するため、ロットAの結果を対応関係に関する情報の中から選択された、参照情報とし、ロットAの結果を利用して、情報処理を実施する場合を想定して記載する。ロットAでは、BR細胞群の割合が10%で、前述の基本となる初期化条件で初期化を実施した場合、得られたコロニーは1個であったとする。ロットBでBR細胞群の割合が20%だった場合、ロットAの初期化後のコロニー数×[ロットBのBR細胞群の割合(20%)/ロットAの輝度値が高い細胞群の割合(10%)]から、ロットBをロットAと同じ条件で初期化した場合、初期化後のコロニーは2個と推定することができる。
【0054】
なお、ここではコロニーの数を推定したが、ロットAのコロニーを剥離し、懸濁後、細胞数をカウントしておき、その値から、ロットBの初期化後の細胞数を推定してもよい。また、あらかじめ、培養日数とコロニーの大きさから、コロニー1個が何個の細胞の集団かを算出しておき、その値を用いて、推定してもよい。このほか、コロニーや細胞が占める面積を算出して、推定してもよい。推定結果は、コロニーの数や、細胞の数の他、初期化後に得られるコロニーのイメージ図でもよい。
【0055】
上記の例では、自家蛍光輝度値が高い細胞群の割合と、初期化後のコロニー数が線形関係にあると仮定して、ロットBを用いた場合に得られるコロニー数を推定したが、推定方法はこれには限定されない。
例えば、複数のロットを用いて自家蛍光情報と初期化後のコロニーまたは細胞数の関係をあらかじめ入手しておき、推定対象のロットBの自家蛍光情報と近いロットでの結果から推定することも可能である。
【0056】
上記の例において、対応関係に関する情報は、市販のPBMCのロットA(細胞情報)を、上記基本条件で初期化した(初期化条件)ときの、コロニー数(初期化後の性質)である。対象の細胞はロットB(細胞情報)であり、これを上記基本条件で初期化した(予定初期化条件)ときの、推定結果(コロニー数)が得られたことを示す。
【0057】
以上のように、本実施形態によって、初期化後の推定結果を得ることが可能となり、使用者はその推定結果から、現在の初期化条件で樹立するか、初期化条件を変更する必要があるかを判断することが可能となる。
【0058】
なお、
図7Bに示すように、ステップ2で推定結果を生成した後、さらに、ステップ3に記載しているように、推奨する初期化条件を生成してもよい。この例においては、推奨する初期化条件は、基本となる初期化条件のうち、初期化に用いる細胞数、ベクター量、初期化因子、培養日数、培養容器の1つまたは1つ以上を変更した条件とすることができる。この例においては、10個のコロニーを得たい場合には、例えば、初期化に用いる細胞を5E5の細胞のペレットとする条件を推奨することができる。また、細胞数をそのままの条件にしたまま実施する場合、培養日数を長くする条件を推奨してもよい。
【0059】
以上、本実施形態によれば、自家蛍光情報と初期化条件から初期化後のコロニーまたは細胞の数に関する情報を推定し、推定結果を生成し、推奨する初期化条件を生成することができる。また、使用者が、以上のようにして得られた推奨する初期化条件を用いて、初期化を実施することで安定したiPS細胞製造が可能となる。
【0060】
なお、上記の例では、細胞情報、対象血球細胞の自家蛍光情報と所望する初期化後の細胞の性質を用いて、初期化後のコロニーまたは細胞の数に関する情報を推定して、推定結果を生成し、推奨する初期化条件を生成しているが、自家蛍光情報を取得し、その自家蛍光情報から推奨する初期化条件を生成してもよい。すなわち、
図7Cに示すように、ステップ2の工程を省いてもよい。対応関係に関する情報から、細胞情報が近似した細胞を選び、その、自家蛍光情報、初期化条件、初期化後の性質から、所望する初期化後の細胞の性質を満たす初期化条件を満たす結果を見出し、これを推奨する初期化条件とすることができる。
【0061】
また、上述したように、参照する対応関係に関する情報に変えて、機械学習などの手法により得られた学習モデルを用いてもよい。
【0062】
<情報処理装置、情報処理プログラムおよび情報処理プログラムを保存した、電子媒体>
本発明は、さらなる実施形態として、上記実施形態に係る情報処理方法を実行する、情報処理装置を提供する。情報処理装置は、対象血球細胞の自家蛍光情報を取得し、自家蛍光情報並びに、対象血球細胞の細胞情報に基づき、解析する。
【0063】
図9は、本実施形態に係る情報処理装置の構成の一例である。なお、情報処理装置は、コンピュータの機能を有する。例えば、情報処理装置は、デスクトップPC(Personal Computer)、ラップトップPC、タブレットPC,スマートフォンなどと一体に構成されていてもよい。
【0064】
演算および記憶を行う情報処理装置は、演算および記憶を行うコンピュータとしての機能を実現するため、記憶部、データ取得部、演算部、通信I/F(インターフェース)部、表示部、および入力部を備えている。
図9では、情報処理装置を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付けされていてもよい。例えば、表示部および入力部は、外付けであってもよい。
【0065】
記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびHDD(Hard Disk Drive)である。自家蛍光情報や推定結果、初期化条件などをこの記憶部に記録させておくことができる。
【0066】
データ取得部は、自家蛍光情報を取得する機能を有する。たとえば、データ取得部として、顕微鏡やカメラ、フローサイトメトリーなどの装置が情報処理装置に組み込まれていてもよい。また、データ取得部としては、装置本体には組み込まれず、通信I/F(インターフェース)や記憶部を介して、外部の装置からデータを取得してもよい。
【0067】
演算部は、例えばCPUであり、RAM、HDDなどに記憶されたプログラムに従って所定の動作を行うとともに、情報処理装置の各部を制御する機能を有する。また、記憶部、入力部、通信I/F部などからデータを受け取り、コンピュータの制御・演算を行う。上記実施形態に係る情報処理方法を実際に行い、推定結果や推奨する初期化条件を算出する機能を有する。また、演算結果を表示部に送る役割を担う。
【0068】
通信I/F部は、Wi-Fi(登録商標)、4Gなどの規格に基づく通信インターフェースであり、他の装置との通信を行うためのモジュールである。例えば、顕微鏡などの画像取得装置によって取得した自家蛍光情報をWi-Fiを介して、記憶部へ保存することも可能である。
【0069】
表示部は、液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどであって、動画、静止画、文字などの表示に用いられる。
図10に示すように、演算部で算出した推定結果や推奨する初期化条件などを表示する機能を有する。
【0070】
入力部は、ボタン、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイスなどであって、利用者が情報処理装置を操作するために用いられる。初期化条件や、初期化後に欲しいコロニー数や細胞数などを入力することも可能である。なお、表示部および入力部は、タッチパネルとして一体に形成されていてもよい。
【0071】
なお、
図9に示されている装置の構成は例示であり、これら以外の装置が追加されていてもよく、一部の装置が設けられていなくてもよい。また、一部の装置が同様の機能を有する別の装置に置換されていてもよい。さらに、一部の機能がネットワークを介して他の装置により提供されてもよく、本実施形態を構成する機能が複数の装置に分散されて実現されるものであってもよい。例えば、HDDは、フラッシュメモリなどの半導体素子を用いたSSD(Solid State Drive)に置換されていてもよく、クラウドストレージに置換されていてもよい。
【0072】
上記の装置を利用して、対象血球細胞の自家蛍光情報と、予定初期化条件から、初期化後の性質、を推定する例を示す。通信I/F部を介して記憶部に保存された対象血球細胞の自家蛍光情報と、使用者が新たに入力部から入力した予定初期化条件から、演算部が初期化後の性質を推定する。なお、初期化条件については、あらかじめHDDに入力されたものを使用してもよい。また、推定する際、記憶部に保存された既存の実験結果からなる対応関係に関する情報、あるいは、学習モデルを利用して、推定してもよい。なお、推定した結果は、表示部に表示することが可能である。
図10に示すように、表示部には、生成した推定結果、推奨する初期化条件のいずれかが表示されてもよいし、両方が表示されてもよい。また、推定結果としては、予定初期化条件で設定した培養日数で培養した日に取得されるコロニーの数や細胞の数を表示してもよいし、その際の細胞のイメージ図を表示してもよい。また、予定初期化条件を採用した場合に得られる細胞やコロニーの数と、推奨する初期化条件で得られる細胞やコロニーの数の両方を表示してもよい。
【0073】
また、さらなる実施形態は、上記実施形態に係る情報処理方法を情報処理装置に実行させるための、情報処理プログラムを提供する。情報処理プログラムをコンピュータなどに内蔵させることで、情報処理装置として扱うことも可能である。
【0074】
また、さらなる実施形態は、上記情報処理プログラムを保存した電子媒体を提供する。例えば、磁気テープやフロッピーディスク、光学ディスク、メモリーカード、HDDやSSD、USBメモリなどがあり、情報を物理的に記録可能で、電磁的な作用により記録や読み出しを行うもののことを指す。この電子媒体を介してプログラムを既存のコンピュータにインストールすることで情報処理装置とすることも可能である。
【0075】
<血球細胞の初期化装置>
本発明は、さらなる実施形態として、対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する撮像手段、情報処理システム、および前記対象血球細胞に初期化因子を導入する初期化因子導入手段、を有する血球細胞の初期化装置であって、前記情報処理システムは、前記撮像手段より前記自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得手段、および前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析手段、を含み、前記解析手段は、予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定手段、および所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成手段、の少なくともいずれかを有する、血球細胞の初期化装置を提供する。
【0076】
具体的には、上記実施形態に係る情報処理装置と、情報処理装置に提供する自家蛍光情報を取得するための撮像手段と、対象血球細胞に初期化因子を導入する初期化因子導入手段を備える。
【0077】
なお、好ましくは、情報処理システムの解析手段は、対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成手段を有し、初期化因子導入手段は、推奨する初期化条件に従って、対象血球細胞に初期化因子を導入する。
【0078】
撮像手段は、細胞の自家蛍光画像を取得することができればよく、明視野画像を取得することできればなおよい。撮像手段は、励起光、レンズ、検出器などを有することができ、蛍光顕微鏡を撮像手段としてもよい。
【0079】
初期化因子導入手段は、前述の初期化の処理を行えればよく、ロボットアーム、ポンプ、ピペット、移動ベルト、インキュベータ、などを備えることができる。
【0080】
<多能性幹細胞の製造方法>
本発明はさらなる実施形態として、対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析工程、および前記対象血球細胞を初期化する工程、を含む多能性幹細胞の製造方法であって、前記解析工程は、予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、の少なくともいずれかを含む、多能性幹細胞の製造方法を提供する。
【0081】
解析工程は、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成工程を有し、初期化因子導入手段は、推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化することができる。
【0082】
また、解析工程は、所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件を生成する推奨初期化条件生成工程の後、さらに、使用者が希望すれば、所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件を生成する推奨初期化条件生成工程、を有することができる。推奨する第2の初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化することができる。
【実施例0083】
以下に実施例を用いて、より具体的に説明を行う。本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
本実施例では、市販のPBMCを、5日間、前培養を実施したものを使用した。前培養とは、サイトカインを加えた培地で培養することで、単核球のうちの幹・前駆細胞を増殖させることをいう。なお、前培養のプロトコルについては、CiRAFが公開している研究用iPS細胞の樹立プロトコルver.1.1に従い、実施した。以上のようにして得られたPBMCを血球細胞として利用した。以下、この細胞をPBMC ロットC、あるいは単にロットCと示す。本実施例では、ロットCを対象血球細胞とした。以下、
図7Bのフローに従い説明する。
【0085】
まず、ステップ1でロットCの自家蛍光情報を取得した。PBMC ロットCの細胞懸濁液を準備し、スライドガラスに滴下し、明視野画像と自家蛍光画像を取得した。上述のImageJを利用する方法を利用し、青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い集団の比率を算出した。その結果、PBMC ロットCの青色成分と緑色成分の輝度値が高い集団の比率は、10%であった。
【0086】
次にステップ2でロットCの自家蛍光情報と予定初期化条件を用いて、初期化後のコロニーの数を推定した推定結果を生成した。予定初期化条件は、ときわバイオのSRV-iPSC2を利用する際の条件を使用した。初期化に用いる細胞数は1E5細胞(液量は10μL)、ベクター量はMOI=3となる量、用いる培養容器は12ウェルプレート、培養期間は14日で設定し、情報処理を実施した。また、コロニーの1つ1つを観察でき、かつ、必要量のiPS細胞を得ることを所望する初期化後の細胞の性質とした。
【0087】
本実施例においては、あらかじめPBMCを参照細胞として用いて取得した複数の実験データをHDDに記憶させた。実験データは、初期化に用いた細胞数と、初期化後に得られたコロニーの数を含んでいた。参照細胞のうち、青色成分と緑色成分の輝度値が高い集団が10%のPBMCを使用した際の初期化後のコロニーの像を
図11に示す。
【0088】
このように青色成分と緑色成分の輝度値が高い集団の比率、初期化に用いた細胞数、得られるコロニーの画像や数を事前に装置に記憶させることで推定結果および推奨する初期化条件の生成が可能となる。なお、本実施例においてはコロニー画像を記憶させたが、画像ではなく、数値情報として記憶させ、それを利用してもよい。
【0089】
本実施例においては、予定初期化条件で初期化すると、
図11の1E5 cells/wellの結果のように、コロニー数が多すぎて、コロニーがカウントできないという推定結果が得られた。このようにコロニーが重なり、カウントできないような状態が予想される場合には、推定結果を数で表示しなくてもよく、例えば
図12Aのように、コロニーが多すぎるため、カウント不可と表示してもよい。また、記憶させた実験データを使用し、初期化後のコロニーの明視野画像のイメージを提示してもよい。
【0090】
さらには、ステップ3において、推奨する初期化条件を生成する工程を実施した場合においては、細胞数を1.25E4cellsで初期化するという条件が提示された。
図12Bに、生成できる推定結果および推奨する初期化条件の提示の例を示す。ここでは、具体的な細胞数を提示しているが、細胞の希釈条件や、現在の細胞懸濁液を用いた場合の推量する量を表示することも可能である。また、記憶させた実験データを使用し、初期化後のコロニーの明視野画像のイメージを提示してもよい。
【0091】
以上のように、情報処理方法を利用することで、対象血球細胞の初期化後の結果を推定することができ、推奨する初期化条件の生成が可能となる。
【0092】
(実施例2)
図13に実施例のフローおよび対応する実施例の番号を示す。
実施例2においては、実施例1と同様、ロットCを対象血球細胞とした。実施例1において、
図12Bに示すように、細胞数を1.25E4cellsで初期化するという条件が推奨初期化条件として提示された。そこで、
図13中のステップ4に進み、推奨する初期化条件で初期化を行った。なお、推奨する初期化条件で初期化を行うか行わないかは、使用者が選択することができる。選択に関しては、入力部を利用することで選択することが可能である。
【0093】
ステップ4では、例えば、細胞懸濁液を希釈し、1.25E6cells/mLとなるように希釈し、1.25E4の細胞に相当する10μLを使用して初期化を実施する。より好ましくは、1.25E4の細胞に相当する細胞懸濁液を分注し、遠心を実施し、上清を除き、10μLの培地に再懸濁させるとよい。以上のように推奨する初期化条件で初期化を実施した結果、
図12Cに示す結果が得られた。
【0094】
なお、本実施例では、予定初期化条件より、細胞数を減らして初期化したが、ステップ2で取得できるコロニー数が少ないという推定結果が得られた場合には、ステップ3では細胞量を増やした初期化条件が推奨されることになる。この場合においては、細胞液量が増えてしまうと初期化効率に影響が出るため、必要な細胞を分注し、遠心、上清除去を行い、少ない溶液量、例えば10μLに再懸濁させることが好ましい。
【0095】
(実施例3)
本実施例では、実施例1、2と同様、市販のPBMCを使用し、5日間、前培養を実施したものを使用したが、ロットは別のものを利用した。以下、この細胞をPBMC ロットDと示す。
【0096】
まず、
図13に示すステップ1で自家蛍光情報を取得した結果、PBMC ロットDの青色成分と緑色成分の輝度値が高い集団の比率は、0.05%であった。
【0097】
次にステップ2で自家蛍光情報と予定初期化条件を用いて、初期化後のコロニーの数を推定して、推定結果を生成した。予定初期化条件は、実施例1と同じとし、情報処理を実施した。本実施例においては、予定初期化を実施すると、
図14Aに示すように、コロニーが20個以下になることが推定された。推定結果および推奨する初期化条件の生成においては、実施例1と同様、
図11に示す実験結果から算出した。
【0098】
ステップ3において、推奨する初期化条件を生成する工程においては、
図14Aに示されるように、細胞数を4E5cellsにするという条件が提示された。実施例2では、ステップ3で生成した初期化条件を用いて、ステップ4である、初期化因子を導入して、多能性幹細胞を得る工程に進んだ。一方、本実施例は、推奨する初期化条件で初期化しない場合に該当する。すなわち、本実施例では、推奨する初期化条件の細胞数が準備できないため、ステップ3で生成した初期化条件で初期化しなかった。なお、推奨する初期化条件で初期化するかしないかの選択は、装置の使用者が入力部を通じて、選択することが可能である。初期化しないを選択した場合、ステップ3の後、ステップ3-2に進む。本実施例の場合、ステップ3で提示された推奨する初期化条件でステップ4に進むことが不可能であったため、しないを選択した。
【0099】
また、ステップ3-2では、初期化条件を変更するか、そのままの状態でステップ4に進むかについては、ステップ3の結果を見て、使用者が選択することが可能である。選択においては、装置に付属されている入力部を介して、選択することが可能である。実施例3では、推奨する条件の細胞数が準備できないため、変更しないを選択し、そのままの条件でステップ4に進み、基本の初期化条件で初期化を実施した。その結果、
図14Bに示すようなコロニーを得た。
【0100】
なお、実施例2のようにコロニーが多すぎてカウントできないという推定結果が得られ、推奨する初期化条件として細胞数を減らした条件が生成された場合も、初期化条件を変更せず、当初の予定初期化条件で初期化するという選択をすることもある。この場合、コロニー1つ1つの成長は観察しづらいが、多くのコロニーと多能性幹細胞を得ることができる。以上のように、推奨する初期化条件で初期化を実施するかどうかは、目的に応じて、使用者が選択することが可能である。また、あらかじめ、目的を装置に設定しておいてもよい。1つ1つのコロニーが観察できる個数であること、多能性幹細胞をできるだけ多く得ることなど、目的を選択できるような設定が装置に備わっていてもよい。
【0101】
(実施例4)
実施例3では、推奨する初期化条件の細胞数が準備できないため、当初の予定初期化条件で初期化した。本実施例では、できるだけ多くの多能性幹細胞を取得したいため、推奨する初期化条件を変更した。
【0102】
ステップ3までの工程については、実施例3と同様の方法で実施し、推奨する初期化条件を生成した。その結果、推奨する初期化条件として、細胞数を4E5cellsにするという条件が提示された。しかし、推奨された細胞数が準備できないため、実施例3と同様、ステップ3の後、装置の使用者が推奨する初期化条件で初期化しないを選択し、ステップ3-2に進んだ。次に、ステップ3-2で、初期化条件を変更するを選択すると、初期化条件を変更することが可能となり、その条件で再度、ステップ2の推定結果を得る工程に戻ることになった。本実施例の場合、必要な細胞数が準備できないため、培養期間を長く、例えば18日と入力した場合を想定する。なお、初期化条件の変更については、装置の使用者が入力部を利用して、入力することが可能となる。実施例4では、培養日数を18日に変更した結果、ステップ2、ステップ3で現在の条件で、必要量の多能性幹細胞を得ることができるという結果が得られたため、ステップ4へ進んだ。その結果、必要量の多能性幹細胞を得ることが可能となった。
【0103】
本発明の実施形態は以下の方法および構成を含む。
[方法1]
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、および
前記自家蛍光情報に基づき解析する解析工程、
を含む血球細胞の初期化のための情報処理方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法2]
前記自家蛍光情報は、自家蛍光の青色成分と緑色成分の輝度に関する情報を含む方法1に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法3]
前記青色成分は、350nm以上500nm以下の波長範囲の蛍光であり、前記緑色成分は、500nm以上600nm以下の波長範囲の蛍光である方法2に記載の情報処理方法。
[方法4]
前記解析工程は、前記対象血球細胞における青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞の割合を算出することを含む、方法1から3のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法5]
前記初期化条件は、細胞数、初期化因子、ベクター量、培養日数、培養容器の情報からなる群より選ばれる少なくともいずれかに関する条件を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法6]
前記初期化後の性質は、初期化後の細胞の数に関する情報を含む方法1から5のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法7]
前記対象血球細胞における青色成分と緑色成分の輝度値がともに高い細胞とは、幹細胞性の高い細胞である方法4に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法8]
前記幹細胞性の高い細胞は、CD34陽性細胞である、方法7に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法9]
前記対象血球細胞がヒト末梢血単核球である方法1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法10]
前記解析工程において、
自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報を参照する方法9に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法11]
前記自家蛍光情報および、前記対象血球細胞の同定情報を含む細胞情報に基づき、解析することを特徴とする方法1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法12]
前記解析工程において、
細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件と、初期化後の性質の対応関係に関する情報を参照する方法11に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法13]
前記解析工程において、
前記自家蛍光情報並びに、前記対象血球細胞の同定情報を含む細胞情報に基づき、解析することを特徴とし、
さらに、細胞情報、自家蛍光情報、並びに初期化条件を入力データとし、初期化後の性質を出力データとする学習データを用いて得られる学習モデルを用いる方法1から8のいずれか1項に記載の血球細胞の初期化のための情報処理方法。
[方法14]
前記解析工程は、
所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件を生成する第1の推奨初期化条件生成工程を有し、
さらに、使用者の指示があれば、
所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件を生成する第2の推奨初期化条件生成工程を有する、
方法1から13のいずれか1項に記載の情報処理方法。
[構成1]
方法1から14のいずれか1項に記載の情報処理方法を実行する、情報処理装置。
[構成2]
方法1から14のいずれか1項記載の情報処理方法を情報処理装置に実行させるための情報処理プログラム。
[構成3]
構成2に記載の情報処理プログラムを保存した電子媒体。
[構成4]
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する撮像手段、
情報処理システム、および
前記対象血球細胞に初期化因子を導入する初期化因子導入手段、
を有する血球細胞の初期化装置であって、
前記情報処理システムは、
前記撮像手段より前記自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得手段、および
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析手段、を含み、
前記解析手段は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定手段、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成手段、
の少なくともいずれかを有する、
血球細胞の初期化装置。
[構成5]
前記解析手段は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成手段を有し、
前記初期化因子導入手段は、前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞に初期化因子を導入する、
構成4に記載の血球細胞の初期化装置。
[方法15]
対象血球細胞の自家蛍光情報を取得する自家蛍光情報取得工程、
前記自家蛍光情報に基づき、解析する解析工程、
および
前記対象血球細胞を初期化する工程、
を含む多能性幹細胞の製造方法であって、
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
の少なくともいずれかを含む、
多能性幹細胞の製造方法。
[方法16]
前記解析工程は、所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する推奨初期化条件生成工程を有し、
前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する方法15に記載の多能性幹細胞の製造方法。
[方法17]
前記解析工程は、
予定初期化条件に基づいて、初期化後の性質を推定した、推定結果を生成する推定工程、および
所望する初期化後の細胞の性質に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する初期化条件を生成する、推奨初期化条件生成工程、
を有し、
前記推奨する初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する方法15または16に記載の多能性幹細胞の製造方法。
[方法18]
前記解析工程は、
所望する初期化後の細胞の性質その1に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第1の初期化条件を生成する第1の推奨初期化条件生成工程、および
所望する初期化後の細胞の性質その2に基づいて、前記対象血球細胞のための推奨する第2の初期化条件を生成する第2の推奨初期化条件生成工程、
を有し、
前記推奨する第2の初期化条件に従って、前記対象血球細胞を初期化する方法15から17のいずれか1項に記載の多能性幹細胞の製造方法。