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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131202
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】マスダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240920BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240920BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/04 P
E04H9/02 341C
E04H9/02 301
E04H9/02 331A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041318
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽根 孝行
(72)【発明者】
【氏名】渡井 一樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 達彦
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 史朗
(72)【発明者】
【氏名】藤田 尚大
(72)【発明者】
【氏名】上野 史也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139BB02
2E139BB24
2E139CA02
3J048AD07
3J048BF01
3J048BF20
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】マスダンパーのアイソレータに発生する変動軸力を低減する。
【解決手段】マスダンパー100は、複数の積層ゴム支承150と、複数の積層ゴム支承150に支持され積層ゴム支承150の上端150Uよりも鉛直方向下側に突出する下部214を有する錘110と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアイソレータと、
複数の前記アイソレータに支持され、前記アイソレータの上端よりも鉛直方向下側に突出する突出部を有する錘と、
を備えたマスダンパー。
【請求項2】
前記錘は、
重心の高さが前記アイソレータの上端と同じ位置又は前記上端よりも下方に位置する、
請求項1に記載のマスダンパー。
【請求項3】
前記錘の重心の高さは、
前記アイソレータの上端と下端との間の中心位置の高さ又は前記中心位置の高さの近傍に位置する、
請求項2に記載のマスダンパー。
【請求項4】
前記突出部は、
横から見た場合の、前記錘の中央部から前記アイソレータの間に鉛直方向下側へ突出する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマスダンパー。
【請求項5】
前記アイソレータは、中間フレームを間に介在させて複数の積層ゴム支承が鉛直方向に積層されて構成されている、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマスダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水平方向へ相対移動可能に構築された下部構造体と上部構造体との間に設けられたダンパー構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、上部構造体から下方へ突設された軸部材と、下部構造体に下端部が固定されて軸部材の周りに配置された複数の減衰材と、軸部材が挿入される孔部が形成され複数の減衰材の上端部が固定された連結部材と、孔部に設けられ減衰材の中央部位置の高さで軸部材から連結部材へ水平力を伝達する荷重伝達部と、を有している。
【0003】
特許文献2には、制振対象の構造物と、構造物の上方に設けられた質量体と、質量体を支持するとともに構造物と質量体との相対的な位置関係を復元させる積層ゴムと、を備える構造物の振動を制振する制振構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、質量体は、構造物との間に積層ゴムが介在された第1部位であって、構造物との間隔が第1距離の第1部位と、構造物との間隔が第1距離よりも小さい第2距離の第2部位と、を有し、質量体と構造物が水平方向に相対変位した際に、積層ゴムが水平方向にせん断変形することにより、質量体が構造物に対して鉛直方向の下側に第2距離移動すると、質量体の第2部位が構造物に当接するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-69921号公報
【特許文献2】特開2016-23765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のアイソレータを用いたマスダンパーでは、風や地震により錘が動いた際の水平方向の錘の慣性力は、建物の揺れを抑える制振力となる。しかし、錘の慣性力によって転倒モーメントが作用し、錘を支持するアイソレータには鉛直方向の変動軸力が発生する。
【0006】
本発明は、上記事実を鑑み、マスダンパーのアイソレータに発生する変動軸力を低減することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様は、複数のアイソレータと、複数の前記アイソレータに支持され、前記アイソレータの上端よりも鉛直方向下側に突出する突出部を有する錘と、を備えたマスダンパーである。
【0008】
第一態様のマスダンパーでは、錘はアイソレータの上端よりも鉛直方向下側に突出する突出部を有しているので、突出部がない場合と比較し、錘の重心が低くなる。よって、錘が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータに発生する変動軸力が低減する。
【0009】
第二態様は、前記錘は、重心の高さが前記アイソレータの上端と同じ位置又は前記上端よりも下方に位置する、第一態様に記載のマスダンパーである。
【0010】
第二態様のマスダンパーでは、錘の重心の高さがアイソレータの上端と同じ位置又は上端よりも下方に位置しているので、錘の重心の高さがアイソレータよりも上方にある場合と比較し、錘が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータに発生する変動軸力が低減する。
【0011】
第三態様は、前記錘の重心の高さは、前記アイソレータの上端と下端との間の中心位置の高さ又は前記中心位置の高さの近傍に位置する、第二態様に記載のマスダンパーである。
【0012】
第三態様のマスダンパーでは、錘の重心の高さがアイソレータの上端と下端との間の中心位置の高さ又は中心位置の高さの近傍に位置するので、錘が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータに発生する変動軸力が効果的に低減する。
【0013】
第四態様は、前記突出部は、横から見た場合の、前記錘の中央部から前記アイソレータの間に鉛直方向下側へ突出する、第一態様~第三態様のいずれか1態様に記載のマスダンパーである。
【0014】
第四態様のマスダンパーでは、横から見た場合、突出部は錘の中央部からアイソレータの間に鉛直方向下側へ突出する。よって、上部の外縁部からアイソレータの外側に突出部がある場合と比較し、錘の平面形状を小さくできる。
【0015】
第五態様は、前記アイソレータは、中間フレームを間に介在させて複数の積層ゴム支承が鉛直方向に積層されて構成されている、第一態様~第四態様のいずれか1態様に記載のマスダンパーである。
【0016】
第五態様のマスダンパーでは、アイソレータは中間フレームを間に介在させて複数の積層ゴム支承が鉛直方向に積層されて構成されているので、各積層ゴム支承が錘の変位を分割して分担でき、積層ゴム支承一つ当たりの変形を小さくできる。これにより、積層ゴム支承の座屈が防止又は抑制される。
【0017】
また、複数の積層ゴム支承を積層することでアイソレータの鉛直方向の全長が長くなり、錘の重心が高くなる。よって、錘が動いた際の転倒モーメントの影響が鉛直方向下側の積層ゴム支承ほど大きくなり発生する軸力が大きくなる。しかし、錘に突出部を設けることで、錘の重心が低くなるので、錘が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータに発生する変動軸力が低減する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マスダンパーのアイソレータに生じる変動軸力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は第一実施形態のマスダンパーの立面図であり、(B)は(A)の1B-1B断面図である。
図2】(A)は第二実施形態のマスダンパーの立面図であり、(B)は(A)の2B-2B断面図であり、(C)は(A)の2C-2C断面図である。
図3】第三実施形態のマスダンパーの立面図である。
図4】(A)は第三実施形態のマスダンパーの図3の3A-3A断面図であり、(B)は図3の3B-3B断面図であり、(C)は図3の3C-3C断面図である。
図5】(A)は第一実施形態のマスダンパーのモーメント図であり、(B)は第二実施形態のマスダンパーのモーメント図であり、(C)は第三実施形態のマスダンパーのモーメント図である。
図6】第一変形例のマスダンパーの立面図である。
図7】(A)は第二変形例のマスダンパーの立面図であり、(B)は(A)の7B-7B断面図である。
図8】アイソレータの他の例の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0021】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態のマスダンパーについて説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。なお、Z方向(鉛直方向)の上側から見る場合は平面視しとし、Y方向及びX方向(水平方向)から見る場合を「横から見た場合」とする。
【0022】
[構造]
まず、第一実施形態のマスダンパーの構造について説明する。
【0023】
図1(A)に示すように、マスダンパー100は、建物10に設置され、建物10の揺れに同調して振動する錘110を用いて建物10の揺れを抑制する制振装置である。なお、本実施形態のマスダンパーはTMD(チューンド・マス・ダンパー)であるが、AMD(アクティブ・マス・ダンパー)にも適用することができる。
【0024】
本実施形態では、建物10の屋上12にマスダンパー100が設置されているとするが、これに限定されるものではない。建物10の内部にマスダンパー100が設置されていてもよい。
【0025】
図1(A)及び図1(B)に示すように、マスダンパー100は、複数、本実施形態では四つのアイソレータの一例としての積層ゴム支承150と錘110とを有して構成されている。図1(A)に示すように、本実施形態では、積層ゴム支承150は、建物10の屋上12に形成された台部14の上に設置されている。
【0026】
図1(A)に示す積層ゴム支承150は、免震装置に用いる免震ゴム支承と同様の構成であり、薄いゴム152と鋼板154を交互に重ねて接着した積層ゴム部160と、この積層ゴム部160の上下に設けられたフランジ162と、を有して構成されている。よって、積層ゴム支承150は鉛直方向(Z方向)には硬く水平方向(X方向及びY方向)には柔らかい性能を発揮する。つまり、積層ゴム支承150は、鉛直方向に対しては錘110を支えるが水平方向に対しては錘110が自由に揺れる機能を有している。
【0027】
なお、本実施形態の積層ゴム支承150は、減衰性能を有していないが、減衰性能を有する高減衰ゴム支承、鉛プラグ入りゴム支承及び錫プラグ入りゴム支承等であってもよい。
【0028】
積層ゴム支承150における上側のフランジ162が錘110に接合され、この上側のフランジ162の上面が積層ゴム支承150の上端150Uである。また、積層ゴム支承150における下側のフランジ162が台部14に接合され、この下側のフランジ162の下面が積層ゴム支承150の下端150Lである。四つの積層ゴム支承150は、同様の構成である。
【0029】
図1(A)及び図1(B)に示す本実施形態の錘110は、鉄筋コンクリート製であるが、これに限定されるものではない。錘110の平面視における外形形状は矩形状、本実施形態ではX方向を長手方向とする長方形である(図1(B)参照)。錘110は、上部112と下部114とを有して構成されている。上部112は、平面形状が矩形状の平板状となっている(図1(B)参照)。上部112の各角部を積層ゴム支承150の上端150Uが支持している。
【0030】
下部114は、平面視において平板状の上部112の中央部から鉛直方向下側に突出し、平面視における外形形状は十字形状である(図1(B)参照)。下部114は、X方向から見た場合ではY方向に並んだ積層ゴム支承150間に突出し、Y方向から見た場合ではX方向に並んだ積層ゴム支承150間に突出している。
【0031】
別の観点から説明すると、錘110の角部に凹部120が形成され、この凹部120を積層ゴム支承150が支持している。
【0032】
このような構成の本実施形態のマスダンパー100では、四つの積層ゴム支承150は、平面視において直交するX方向とY方向とに対して、それぞれ線対称に配置されると共に積層ゴム支承150の中心位置150C及び上端150Uの高さが揃えられている。また、錘110は、X方向とY方向とに対してそれぞれ線対称の平面形状とされている。
【0033】
図1(A)に示すように、マスダンパー100の錘110の重心110Gの高さは、積層ゴム支承150の上端150Uよりも鉛直方向下側に位置している。
【0034】
本実施形態では、錘110の重心110Gの高さは、積層ゴム支承150の上端150Uと下端150Lとの間の中心位置150Cの高さ又は中心位置150Cの高さの近傍に位置している。また、マスダンパーを設置した設置床(本実施形態では屋上52)が水平方向に動き、それによってマスダンパー100が動いて錘110に大きな加速度が生じたときの錘110の慣性力(以降「マス慣性力」と記す)によって生じるモーメントは、積層ゴム支承150の上端150Uと下端150Lとの間の中心位置150Cを反曲点とした分布になる。よって、別の観点から説明すると、錘110の重心110Gの高さは、積層ゴム支承150の反曲点の位置の高さ又はその近傍の高さに位置している。
【0035】
また、本実施形態では、平面視において、錘110の重心110Gと、複数の積層ゴム支承150同士を結んで形成される多角形の外形(本実施形態では長方形)の中心位置と、が一致又は略一致している。
【0036】
<作用>
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0037】
マスダンパー100は、錘110の重心110Gの高さが積層ゴム支承150の上端150Uよりも鉛直方向下側に位置している。よって、マスダンパー100は、錘110の重心110Gの高さが積層ゴム支承150の上端150Uよりも上方にある場合と比較し、転倒モーメントによる積層ゴム支承150に生じる変動軸力が低減する。詳しくは、設置床が水平方向に動き、それによってマスダンパー100が動いて錘110に大きな加速度が生じた際のマス慣性力によって生じるモーメント、すなわち転倒モーメントによる軸力変動が小さくなる。
【0038】
また、マスダンパー100の錘110は、平面視における上部112の中央部から積層ゴム支承150間に鉛直方向下側へ突出する下部114によって重心110Gの高さが下がっている。よって、錘の上部の外縁部から積層ゴム支承150の外側に下部が突出している場合と比較し、錘110の平面形状を小さくできるので、マスダンパー100の設置面積又は設置長を小さくできる。
【0039】
ここで、マスダンパーを設置した設置床が水平方向に動き、それによってマスダンパーが動いて錘に大きな加速度が生じた際のマス慣性力に伴う積層ゴム支承150の変動軸力を抑えるため、錘の鉛直方向幅を小さくした扁平な形状とすることで錘の重心を低くし、マス慣性力に伴う転倒モーメントを抑えることが考えられる。しかし、錘を扁平形状にすると、マスダンパーの設置面積又は設置長等が大きくなる。特に主に地震時の建物10の揺れを制振する場合は、錘110の質量が大きく、錘110の体積が大きくなるので、錘110を扁平形状にするとマスダンパーの設置面積又は設置長等への影響が大きい。
【0040】
しかし、前述したように、本実施形態のマスダンパー100は、錘110の重心110Gの高さが積層ゴム支承150の上端150Uよりも鉛直方向下側に位置し、更に平面視における上部112の中央部から横から見た場合の積層ゴム支承150間に鉛直方向下側へ突出する下部114によって重心110Gの高さを下げている。したがって、錘110の質量が大きくても、錘110の平面形状を小さくでき、マスダンパー100の設置面積又は設置長等を小さくできるので、好適である。
【0041】
ここで、扁平形状の錘と扁平形状でない錘との比較は、両者の錘が同じ材質で同じ重量である場合の比較である。そして、この条件において、扁平形状の錘の方が扁平形状でない錘よりも設置面積又は設置長が大きくなる。例えば、仮に両者が矩形状の錘で、ある一辺の長さが同じだった場合、扁平形状の錘の方が平面的に広くなるので、扁平形状でない錘と比較し、設置面積が大きくなる。また、仮に両者の錘の形状がそれぞれ自由に決められる場合は、細長い平面形状が可能になるので、扁平形状の錘の方が細長くなり、設置長が大きくなる。
【0042】
また、マスダンパー100は、錘110の重心110Gの高さが積層ゴム支承150の上端150Uと下端150Lとの間の中心位置150Cの高さ又中心位置150Cの高さの近傍に位置するので、積層ゴム支承150に生じる変動軸力が効果的に低減する。
【0043】
[軸力変動の詳細]
次に、マスダンパー100における錘110の重心110Gの高さを積層ゴム支承150の上端150Uと下端150Lとの間の中心位置150Cの高さ又は中心位置150Cの高さの近傍に位置すると、積層ゴム支承150に生じる変動軸力が効果的に低減することについて詳しく説明する。
【0044】
図5(A)は、マスダンパー100をモデル化したモーメント分布図である。詳しくは水平方向のマス慣性力に対するモーメント分布図である。なお、説明をしやすくするため、錘110の形状は本実施形態と異なっている。台部14(図1(A)参照)を省略している。また、計算上は、積層ゴム支承150は二つとした。各積層ゴム支承150にかかる錘110の荷重は等しいとした。
【0045】
積層ゴム支承150の剛性に対して、錘110の剛性が十分大きく(硬く)、錘110を剛部材として考えられるとすれば、錘110はモーメントに対してほとんど変形しない。よって、マス慣性力が発生している際にマスダンパー100に生じる曲げモーメントは、積層ゴム支承150の中心位置150Cを反曲点とした分布となる。これを踏まえると、マス慣性力の作用位置と積層ゴム支承150に生じる変動軸力の大きさの関係は図5(A)のモーメント分布図より次式で表される。なお、オイルダンパー等の減衰手段は無いものとして式を考えている。更に、マス慣性力による軸力変動分を考えるため、Pδ効果は含めていない。
【0046】
なお、反曲点は、曲げモーメントの値が0となり、且つその点の上下(若しくは左右)での曲げモーメントの向きが反対になる点である。また、Pδ効果は、支承がδ変形した状態の形を考えて応力を求める際に、鉛直荷重により付加される応力のことである。
【0047】
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
=M=PH/4・・・・・・・・・・・・・・・(2)
=-N=(P/L)×[(H/2)+y]・・・(3)
【0048】
なお、Pはマス慣性力であり、Hは積層ゴム支承150が錘110を支持する高さであり、この図では屋上12から積層ゴム支承150の上端150Uまでの高さと一致している。なお、図1の場合では、屋上12から積層ゴム支承150の上端150Uまでの高さから台部14の高さを引いたものが高さHになる。
【0049】
また、yは高さHから錘110の重心110Gまでの高さ(上側正)である。Lは左右の積層ゴム支承150の中心間距離である。図中のA点は積層ゴム支承150の作用点である。
【0050】
左側の積層ゴム支承150に作用するNは左側の軸力であり、Qはせん断力であり、Mはモーメントの反力である。同様に、N、Q及びMは、右側の積層ゴム支承150に作用する軸力、せん断及びモーメントの反力である。
【0051】
前述の式(3)から錘110の重心110Gの高さがy=-H/2の位置にあるとき、つまり積層ゴム支承150の中心位置150Cの高さにあるとき、マス慣性力に伴う変動軸力N及びNを計算上0(ゼロ)にできることがわかる。
【0052】
このことより、錘110の重心110Gの高さを積層ゴム支承150の中心位置150Cの高さ又は中心位置150Cの高さの近傍とすることで、積層ゴム支承150に作用する変動軸力を効果的に低減できることが判る。
【0053】
<第二実施形態>
次に本発明の第二実施形態のマスダンパーについて説明する。なお、第一実施形態と同様の部材には、同一の符号を付し、重複する内容は説明を省略又は簡略化する。
【0054】
[構造]
まず、第二実施形態のマスダンパーの構造について説明する。
【0055】
図2(A)、図2(B)及び図2(C)に示すように、マスダンパー200は、複数、本実施形態では四つのアイソレータ250と錘210とを有して構成されている。アイソレータ250は、中間フレーム260を間に介在させて二つの積層ゴム支承150を鉛直方向に積層した構成となっている。なお、上側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162は中間フレーム260の上面に接合され、下側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162は中間フレーム260の下面に接合されている。
【0056】
図2(A)に示すように、アイソレータ250における上側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162が錘210に接合され、このフランジ162の上面がアイソレータ250の上端250Uである。また、アイソレータ250における下側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162が台部14に接合され、このフランジ162の下面がアイソレータ250の下端250Lである。四つのアイソレータ250は、同様の構成である。
【0057】
図2(C)に示すように、本実施形態の中間フレーム260は、矩形枠状とされ、中央部に開口部262が形成されている。
【0058】
図2(A)、図2(B)及び図2(C)に示す錘210は、鉄筋コンクリート製とされ、平面視における外形形状が矩形状、本実施形態ではY方向を長手方向とする長方形である(図2(B)参照)が、これに限定されるものではない。本実施形態の錘210は、上部212と下部214とを有して構成されている。上部212は、平面形状が矩形状の平板状となっている(図2(A)参照)。上部212の各角部をアイソレータ250が支持している(図2(A)及び図2(B)参照)。
【0059】
下部214は、平面視において平板状の上部212の中央部から鉛直方向下側に突出している(図2(A)参照)。下部214の平面視における外形形状は矩形状である(図2(B)及び図2(C)参照)。また、下部214は、中間フレーム260の開口部262(図2(C)参照)に挿通し、下端部214Lが中間フレーム260よりも下側に位置している(図2(A)参照)。下部214は、X方向から見た場合ではY方向に並んだアイソレータ250間に突出し、Y方向から見た場合ではX方向に並んだアイソレータ250間に突出している。
【0060】
このような構成の本実施形態のマスダンパー200では、アイソレータ250は、平面視において直交するX方向とY方向とに対して、それぞれ線対称に配置されると共に中心位置250C及び上端250Uの高さが揃えられている。また、錘210は、X方向とY方向とに対してそれぞれ線対称の平面形状とされている。
【0061】
また、図2(A)に示すように、本実施形態では、錘210の重心210Gの高さは、アイソレータ250の上端250Uと下端250Lとの間の中心位置250Cの高さ又は中心位置250Cの高さの近傍に位置している。
【0062】
また、平面視において、錘210の重心210Gと、複数のアイソレータ250同士を結んで形成される多角形の外形(本実施形態では長方形)の中心位置と、が一致又は略一致している。
【0063】
<作用>
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0064】
マスダンパー200は、錘210の重心210Gの高さがアイソレータ250の上端250Uよりも下方に位置しているので、錘210の重心210Gの高さがアイソレータ250の上端250Uよりも上方にある場合と比較し、転倒モーメントによりアイソレータ250に生じる変動軸力が低減する。
【0065】
また、マスダンパー200の錘210は、平面視における上部212の中央部からアイソレータ250間に鉛直方向下側へ突出する下部214によって重心210Gの高さが下がっている。よって、錘の上部の外縁部からアイソレータ250の外側に下部が突出している場合と比較し、錘210の平面形状を小さくできる。よって、マスダンパー200の設置面積又は設置長を小さくできる。
【0066】
また、マスダンパー200のアイソレータ250は、中間フレーム260を間に介在させて二つの積層ゴム支承150が鉛直方向に積層されて構成されている。よって、各積層ゴム支承150が錘210の左右方向の変位を分割して分担でき、積層ゴム支承150一つ当たりの変形を小さくできる。これにより、積層ゴム支承150の座屈が防止又は抑制される。
【0067】
また、二つの積層ゴム支承150を積層することでアイソレータ250の鉛直方向の全長が長くなり、錘210の重心210Gが高くなる。よって、錘210が動いた際の転倒モーメントの影響が下側の積層ゴム支承150に対して大きくなり発生する軸力が大きくなる。しかし、錘210に下部214を設けることで、錘210の重心210Gが低くなるので、錘210が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータ250に発生する変動軸力を低減することができる。
【0068】
したがって、アイソレータ250の鉛直方向の全長を大きくして錘210の左右方向の変位量を大きくし、制振効果を高めつつ、アイソレータ250に発生する変動軸力を低減することができる。
【0069】
また、マスダンパー200は、錘210の重心210Gの高さがアイソレータ250の上端250Uと下端250Lとの間の中心位置250Cの高さ又は中心位置250Cの高さの近傍に位置するので、アイソレータ250に生じる変動軸力が効果的に低減する。
【0070】
[軸力変動の詳細]
次に、マスダンパー200における錘210の重心210Gの高さがアイソレータ250の上端250Uと下端250Lとの間の中心位置250Cの高さ又は中心位置250Cの高さの近傍に位置すると、アイソレータ250に生じる変動軸力が効果的に低減することについて詳しく説明する。
【0071】
図5(B)は、マスダンパー200をモデル化したモーメント分布図である。説明をしやすくするため、錘210の形状は本実施形態と異なっている。台部14(図2(A)参照)を省略している。計算上は、アイソレータ250は二つとした。各アイソレータ250にかかる錘210の荷重は等しいとした。中間フレーム260の下側を第一層271とし上側を第二層272とする。
【0072】
アイソレータ250の剛性に対して、錘210及び中間フレーム260の剛性が十分大きく(硬く)、錘210及び中間フレーム260を剛部材として考えられるとすれば、錘210及び中間フレーム260はモーメントに対してほとんど変形しない。よって、マス慣性力が発生している際にマスダンパー200に生じる曲げモーメントは、アイソレータ250の中心位置250Cの高さを反曲点とした分布となる。これを踏まえると、マス慣性力の作用位置とアイソレータ250の変動軸力の大きさの関係は図5(B)のモーメント分布図より次式で表される。なお、オイルダンパー等の減衰手段は無いものとして式を考えている。また、マス慣性力による軸力変動分を考えるため、Pδ効果は含めていない。
【0073】
アイソレータ250における第二層272(上側)の式は下記となる。
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
=M=(P×H)/4・・・・・・・・・・・・(5)
=-N=(P/L)×[(H/2)+y]・・・・(6)
【0074】
アイソレータ250における第一層271(下側)の式は下記となる。
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
=M=(P×H)/4・・・・・・・・・・・・・(8)
=-N=(P/L)×[(3×H/2)+h+y]・・(9)
【0075】
なお、Pはマス慣性力であり、Hはアイソレータ250が錘210を支持する高さである。yは高さHから錘210の重心210Gまでの高さ(上側正)である。Lは左右のアイソレータ250の中心間距離である。hは、中間フレーム260の上下高さである。Hbは積層ゴム支承150の上端と下端との間の距離であり、本実施形態では第一形態におけるHと同じ値である。図中のA点及びB点は積層ゴム支承150の作用点である。
【0076】
左側の積層ゴム支承150に作用するNは左側の軸力であり、Qはせん断力であり、Mはモーメントの反力である。同様に、N、Q及びMは、右側の積層ゴム支承150に作用する軸力、せん断及びモーメントの反力である。
【0077】
前述の式(6)及び式(9)から錘210の重心210Gの高さがy=-H/2の位置にあるとき、つまりアイソレータ250の中心位置250Cの高さにあるとき、マス慣性力に伴う変動軸力N及びNは、第二層272と第一層271とで同じ大きさで符号が逆(一方がプラスであれば他方はマイナス)になり、アイソレータ250全体としては計算上0(ゼロ)にできることがわかる。
【0078】
このことより、錘210の重心210Gの高さをアイソレータ250の中心位置250Cの高さ又は中心位置250Cの高さの近傍とすることで、アイソレータ250に作用する変動軸力を効果的に低減できることが判る。
【0079】
<第三実施形態>
次に本発明の第三実施形態のマスダンパーについて説明する。なお、第一実施形態及び第二実施形態と同様の部材には、同一の符号を付し、重複する内容は説明を省略又は簡略化する。
【0080】
[構造]
次に本発明の第三実施形態のマスダンパーについて説明する。
【0081】
図3図4(A)、図4(B)及び図4(C)に示すように、マスダンパー300は、複数、本実施形態では四つのアイソレータ350と錘310とを有して構成されている。アイソレータ350は、中間フレーム260を間に介在させて三つの積層ゴム支承150を鉛直方向に積層した構成となっている。なお、上側の中間フレーム260の上面に上側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162が接合され、上側の中間フレーム260の下面に中央の積層ゴム支承150の上側のフランジ162が接合されている。また、下側の中間フレーム260の上面に中央の積層ゴム支承150の下側のフランジ162が接合され、下側の中間フレーム260の下面に下側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162が接合されている。
【0082】
図3に示すように、アイソレータ350における上側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162が錘310に接合され、このフランジ162の上面がアイソレータ350の上端350Uである。また、アイソレータ350における下側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162が台部14に接合され、このフランジ162の下面がアイソレータ350の下端350Lである。四つのアイソレータ350は、同様の構成である。
【0083】
図4(B)及び図4(C)に示すように、本実施形態の中間フレーム260は、矩形枠状とされ、中央部に開口部262が形成されている。
【0084】
図3図4(A)、図4(B)及び図4(C)に示す錘310は、鉄筋コンクリート製とされ、平面視における外形形状が矩形状、本実施形態ではY方向を長手方向とする長方形である(図4(A)参照)。本実施形態の錘310は、上部312と下部314とを有して構成されている。上部312は、平面形状が矩形状の平板状となっている(図3参照)。上部312の各角部をアイソレータ350が支持している(図3及び図4(A)参照)。
【0085】
下部314は、平面視において平板状の上部312の中央部から鉛直方向下側に突出している(図3参照)。下部314の平面視における外形形状は矩形状である(図4(A)、図4(B)及び図4(C)参照)。また、下部314は、二つの中間フレーム260の開口部262(図3(B)及び図3(C)参照)に挿通し、下端部314Lが中間フレーム260よりも下側に位置している。下部314は、X方向から見た場合ではY方向に並んだアイソレータ350間に突出し、Y方向から見た場合ではX方向に並んだアイソレータ350間に突出している。
【0086】
このような構成の本実施形態のマスダンパー300では、アイソレータ350は、平面視において直交するX方向とY方向とに対して、それぞれ線対称に配置されると共に中心位置350C及び上端350Uの高さが揃えられている。また、錘310は、X方向とY方向とに対してそれぞれ線対称の平面形状とされている。
【0087】
また、図3に示すように、本実施形態では、錘310の重心310Gの高さは、アイソレータ350の上端350Uと下端350Lとの間の中心位置350Cの高さ又は中心位置250Cの高さの近傍に位置している。
【0088】
また、平面視において、錘310の重心310Gと、複数のアイソレータ350同士を結んで形成される多角形の外形(本実施形態では長方形)の中心位置と、が一致又は略一致している。
【0089】
<作用>
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0090】
マスダンパー300は、錘310の重心310Gの高さがアイソレータ350の上端350Uよりも鉛直方向下側に位置しているので、錘310の重心310Gの高さがアイソレータ350の上端350Uよりも上方にある場合と比較し、転倒モーメントによりアイソレータ350に生じる変動軸力が低減する。
【0091】
また、マスダンパー300の錘310は、平面視における上部312の中央部からアイソレータ350間に鉛直方向下側へ突出する下部314によって重心310Gの高さが下がっている。よって、錘の上部の外縁部からアイソレータ350の外側に下部が突出している場合と比較し、錘310の平面形状を小さくできる。よって、マスダンパー300の設置面積又は設置長を小さくできる。
【0092】
また、マスダンパー300のアイソレータ350は、中間フレーム260を間に介在させて三つの積層ゴム支承150が鉛直方向に積層されて構成されている。よって、錘310の左右方向の変位量を大きくするために、アイソレータ350の鉛直方向の全長を大きくしても積層ゴム支承150の座屈が防止又は抑制される。よって、アイソレータ350の鉛直方向の全長を大きくして錘310の左右方向の変位量を大きくし、制振効果を高めることができる。
【0093】
また、マスダンパー300のアイソレータ350は、中間フレーム260を間に介在させて三つの積層ゴム支承150が鉛直方向に積層されて構成されている。よって、各積層ゴム支承150が錘310の左右方向の変位を分割して分担でき、積層ゴム支承150一つ当たりの変形を小さくできる。これにより、積層ゴム支承150の座屈が防止又は抑制される。
【0094】
また、三つの積層ゴム支承150を積層することでアイソレータ350の鉛直方向の全長が長くなり、錘310の重心310Gが高くなる。よって、錘310が動いた際の転倒モーメントの影響が下側の積層ゴム支承150ほど大きくなり発生する軸力が大きくなる。しかし、錘310に下部314を設けることで、錘310の重心310Gが低くなるので、錘310が動いた際の転倒モーメントによりアイソレータ350に発生する変動軸力を低減することができる。
【0095】
したがって、アイソレータ350の鉛直方向の全長を大きくして錘310の左右方向の変位量を大きくし、制振効果を高めつつ、アイソレータ350に発生する変動軸力を低減することができる。
【0096】
[軸力変動の詳細]
次に、マスダンパー300における錘310の重心310Gの高さをアイソレータ350の上端350Uと下端350Lとの間の中心位置350Cの高さ又は中心位置350Cの高さの近傍に位置すると、アイソレータ350に生じる変動軸力が効果的に低減することについて詳しく説明する。
【0097】
図5(C)は、マスダンパー300をモデル化したモーメント分布図である。説明をしやすくするため、錘310の形状は本実施形態と異なっている。台部14(図3参照)を省略している。計算上は、アイソレータ350は二つとした。各アイソレータ350にかかる錘310の荷重は等しいとした。また、下側の中間フレーム260の下側を第一層371とし、下側の中間フレーム260と上側の中間フレーム260との間を第二層372とし、上側の中間フレーム260の上側を第三層373とする。
【0098】
アイソレータ350の剛性に対して、錘310及び中間フレーム260の剛性が十分大きく(硬く)、錘310及び中間フレーム260を剛部材として考えられるとすれば、錘310及び中間フレーム260はモーメントに対してほとんど変形しない。よって、マス慣性力が発生している際にマスダンパー300に生じる曲げモーメントは、アイソレータ350の中心位置350Cの高さを反曲点とした分布となる。これを踏まえると、マス慣性力の作用位置とアイソレータ350の変動軸力の大きさの関係は図5(C)のモーメント分布図より次式で表される。なお、オイルダンパー等の減衰手段は無いものとして式を考えている。また、マス慣性力による軸力変動分を考えるため、Pδ効果は含めていない。
【0099】
アイソレータ350における第三層373(上側)の式は下記となる。
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
=M=(P×H)/4・・・・・・・・・・・・(11)
=-N=(P/L)×[(H/2)+y]・・・・(12)
【0100】
アイソレータ350における第二層372(中央)の式は下記となる。
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)
=M=(P×H)/4・・・・・・・・・・・・(14)
=-N=(P/L)×[(3×H/2)+h+y]・・・・(15)
【0101】
アイソレータ350における第一層371(下側)の式は下記となる。
=Q=P/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16)
=M=(P×H)/4・・・・・・・・・・・・・(17)
=-N=(P/L)×[(5×H/2)+2h+y]・・(18)
【0102】
なお、Pはマス慣性力であり、Hはアイソレータ350が錘310を支持する高さである。yは高さHから錘310の重心310Gまでの高さ(上側正)である。Lは左右のアイソレータ350の中心間距離である。hは、中間フレーム260の上下高さである。Hbは積層ゴム支承150の上端と下端との間の距離である。図中のA点、B点及びC点は積層ゴム支承150の作用点である。
【0103】
左側の積層ゴム支承150に作用するNは軸力であり、Qはせん断力であり、Mはモーメントの反力である。同様に、N、Q及びMは、右側の積層ゴム支承150に作用する軸力、せん断及びモーメントの反力である。
【0104】
前述の式(12)、式(15)及び式(18)から錘310の重心310Gの高さがy=-H/2の位置にあるとき、つまりアイソレータ350の中心位置350Cの高さにあるとき、マス慣性力に伴う変動軸力N及びNは、第三層373と第一層371とで同じ大きさで符号が逆(一方がプラスであれば他方はマイナス)になる。また、第二層372では、マス慣性力に伴う変動軸力N及びNは、0(ゼロ)となる。よって、アイソレータ350全体としては計算上0(ゼロ)にできることがわかる。
【0105】
このことより、錘310の重心310Gの高さをアイソレータ350の中心位置350Cの高さ又は中心位置350Cの高さの近傍とすることで、アイソレータ350に作用する変動軸力を効果的に低減できることが判る。
【0106】
<第一変形例>
上記実施形態では、マスダンパー100、200、300では、錘110、210、310が揺れた際に水平抵抗となる抵抗手段を有してないが、これに限定されるものではない。なお、抵抗手段は、水平方向のみに抵抗するコイルバネのような弾性部材やダンパーなどの減衰手段等である。
【0107】
そして、次に抵抗手段の一例としてのオイルダンパーをマスダンパーに併設した例を第一変形例として説明する。なお、本変形例では第一実施形態のマスダンパー100にマスダンパーを併設した例で説明するが、第二実施形態のマスダンパー200及び第三実施形態のマスダンパー300でも同様である。
【0108】
図6に示す第一変形例では、建物10の屋上12には、マスダンパー100の横にオイルダンパー400が設置されている。オイルダンパー400は、水平方向に伸縮して減衰機能を発揮する。オイルダンパー400の一方の端部404は、マスダンパー100の錘110にピン接合されている。オイルダンパーの一方の端部402は、屋上12に設けられた支柱部20にピン接合されている。なお、オイルダンパー400は、軸心400Cが水平方向となるように設置されている。
【0109】
オイルダンパー400の軸心400Cの高さは、錘110の重心110Gの高さと一致又は略一致している。更に、本変形例では、オイルダンパー400の軸心400Cは、錘110の重心110G又はその近傍を通っている。
【0110】
したがって、錘110のマス慣性力とオイルダンパー400の水平抵抗との鉛直方向の距離が0又は略0となる。したがって、オイルダンパー400を設けたことに起因する積層ゴム支承150への軸力変動は生じない又は殆ど生じない。
【0111】
ここで、本発明が適用されていない積層ゴム支承150の上端150Uよりも錘の重心が高い比較例のマスダンパーに対してオイルダンパー400を併設する場合、オイルダンパー400の軸心400Cの高さは積層ゴム支承150の上端よりも高くなる。これに対して、マスダンパー100の場合は、オイルダンパー400の軸心400Cは、積層ゴム支承150の上端150Uよりも低くなる。
【0112】
したがって、マスダンパー100におけるオイルダンパー400の設置高さは、比較例のマスダンパーよりも低くなる。よって、マスダンパー100の方がオイルダンパー400の軸心400Cの高さを錘110の重心110Gの高さと一致又は略一致して設置しやすい。
【0113】
ここで、一般的には、オイルダンパーを併設する場合、錘の下側にオイルダンパーを設け、錘の下端と設置床との間にオイルダンパーを繋ぐ構成とする。そのため、オイルダンパーの軸心の高さは錘の重心よりも低くなり、オイルダンパーが負担する分のマス慣性力に対して、軸力変動が積層ゴム支承に生じることになる。前述したように、積層ゴム支承に軸力変動を生じさせないためには、高い位置(マス重心位置)にオイルダンパーを設置する必要があるが、非常に大変であり通常は行われない。
【0114】
<第二変形例>
上記実施形態では、マスダンパー100、200、300では、積層ゴム支承150、又は積層ゴム支承150を中間フレーム260を介して積層したアイソレータ250、350で錘110、210、310を支持していたが、これに限定されるものではない。そして、次に積層ゴム支承以外のアイソレータを備えた例を第二変形例として説明する。
【0115】
図7(A)及び図7(B)に示す第二変形例のマスダンパー700は、二つの積層ゴム支承150と二つの直動レール800と錘710とを有して構成されている。積層ゴム支承150及び直動レール800は、建物10の屋上12に形成された台部14、15の上に設置されている。
【0116】
錘710は、鉄筋コンクリート製とされ、上部712と下部714とを有して構成されている。上部712は、平面形状が矩形状の平板状となっている。下部714は、平面視において平板状の上部512の中央部から鉛直方向下側に突出し、平面視における外形形状は矩形状である。
【0117】
積層ゴム支承150及び直動レール800は、平面視における上部712の角部に配置されている。図7(B)における上側左の角部と下側右の角部を積層ゴム支承150が支持し、図7(B)における上側右の角部と下側左の角部を直動レール800が支持している。
【0118】
直動レール800は、X方向に沿ったレール部812(図7(A)参照)とY方向に沿ったレール部810との間にブロック部814が設けられた構成となっている。
【0119】
本変形例のマスダンパー700では、錘710の重心710Gの高さと、積層ゴム支承150の鉛直方向の中心位置150Cの高さと、直動レール800の鉛直方向の中心位置800Cの高さと、を一致又は略一致させている。したがって、本変形例のマスダンパー700においても積層ゴム支承150及び直動レール800に作用する変動軸力は0又は略0となる。
【0120】
なお、直動レール800は、ブロック部814が上側ブロック部と下側ブロック部とに分割され、上側ブロック部と下側ブロック部と間に数mm程度のクリアランスが設けられた構成であってもよい。
【0121】
このような構成とすることで、強風時等の建物10の揺れが小さく錘710の水平変位が小さい場合は、積層ゴム支承150のみが錘710を支持する。地震時等の建物10の揺れが大きく錘710の水平変位が大きい場合は、錘710が沈み込みクリアランスが無くなり、直動レール800の上側ブロック部と下側ブロック部とが接触し、直動レール800が錘710を支持する。
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0122】
例えば、上記実施形態のマスダンパー200、300のアイソレータ250、350では、中間フレーム260を介して複数の積層ゴム支承150を積層した構造であったが、これに限定されるものではない。図8に示すアイソレータ650のように、中間フレーム260を介さないで複数の積層ゴム支承150を積層した構成であってもよい。
【0123】
図8に示すアイソレータ650は、上側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162と下側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162とが、ボルト等で接合されている。
【0124】
アイソレータ650おける上側の積層ゴム支承150の上側のフランジ162の上面がアイソレータ650の上端650Uである。また、アイソレータ650における下側の積層ゴム支承150の下側のフランジ162の下面がアイソレータ650の下端650Lである。
【0125】
本例のアイソレータ650を用いた場合もモーメントの考え方から図5(A)と同様になる。アイソレータ650における上端650Uと下端650Lとの間の中心位置650Cが反曲点となる。
【0126】
なお、本例のアイソレータ650を設ける場合、座屈防止の観点から直動レールを併設することが望ましい。
【0127】
また、図8のアイソレータ650は、二つの積層ゴム支承150を積層したが、これに限定されるものではない。三以上の積層ゴム支承150を中間フレーム260を介さないで積層した構成であってもよい。
【0128】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、積層ゴム支承150、積層ゴム支承150を積層したアイソレータ250、350、650及び直動レール800を用いたが、これに限定されるものではない。どのような構成のアイソレータであってもよい。なお、マスダンパーにおけるアイソレータは、錘の鉛直荷重を支持しながら錘を水平方向に自由に揺れるようする装置である。
【0129】
また、例えば、上記実施形態及び変形例のマスダンパーでは、複数のアイソレータは平面視において直交するX方向とY方向とに対して、それぞれ線対称に配置されていたが、これに限定されるものではない。アイソレータの配置は自由である。
【0130】
また、例えば、上記実施形態及び変形例のマスダンパーは、複数のアイソレータの中心位置及び上端の高さが揃えられていたが、これに限定されるものではない。
【0131】
また、例えば、上記実施形態の錘110、210、310、710では、上部112、212、312、712の中央部から下部124、214、314、714が鉛直方向下側に突出していたが、これに限定されるものではない。例えば、錘の上部の外縁部から鉛直方向下側に下部が突出していてもよい。
【0132】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、錘110、210、310、710はX方向とY方向とに対してそれぞれ線対称の平面形状とされていたが、これに限定されるものではない。
【0133】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、積層ゴム支承150、アイソレータ250、アイソレータ350、650及び直動レール800の中心位置150C,250C、350C、650C、800Cの高さと、錘110、210、310、710の重心110G、210G、310G、710Gの高さとは、一致又は略一致していたが、これに限定されるものではなく、これらが一致又は略一致していなくてもよい。
【0134】
すなわち、アイソレータの上端よりも下側に突出する突出部があれば錘の形状は自由である。アイソレータの上端の高さが異なる場合、突出部は最も低いアイソレータの上端よりも鉛直方向下側に突出することが望ましい。なお、錘の重心の高さは、アイソレータの上端と同じ位置又は上端よりも鉛直方向下側に位置していることが望ましい。アイソレータの上端の高さが異なる場合、錘の重心の高さは、最も低いアイソレータの上端以下であることが望ましい。
【0135】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0136】
100 マスダンパー
110 錘
110G 重心
112 上部
114 下部(突出部の一例)
150 積層ゴム支承(アイソレータの一例)
150C 中心位置
150U 上端
200 マスダンパー
210 錘
210G 重心
212 上部
214 下部(突出部の一例)
250 アイソレータ
250C 中心位置
250U 上端
260 中間フレーム
300 マスダンパー
310 錘
310G 重心
312 上部
314 下部(突出部の一例)
350 アイソレータ
350C 中心位置
350U 上端
650 アイソレータ
650C 中心位置
650U 上端
700 マスダンパー
710 錘
710G 重心
712 上部
714 下部(突出部の一例)
800 直動レール(アイソレータの一例)
800C 中心位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8