(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131243
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】表面造形方法及び表面造形装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/361 20140101AFI20240920BHJP
【FI】
B23K26/361
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041379
(22)【出願日】2023-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)事業「光量子科学によるものづくりCPS化拠点」、「先端ビームによる微細構造物形成過程解明のためのオペランド計測」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】ヂン タンフン
(72)【発明者】
【氏名】錦野 将元
(72)【発明者】
【氏名】三上 勝大
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD03
4E168DA04
4E168DA47
4E168JA15
(57)【要約】
【課題】深さがナノメートルオーダー又はサブナノメートルオーダーである凹みを表面に造形可能な表面造形技術を提供すること。
【解決手段】表面造形方法(M10)は、酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面が構成されたターゲットに対してパルス状の軟X線レーザを照射する表面造形方法(M10)であって、パターンの細かさに応じて照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する波長選択工程(S11)と、前記波長選択工程で選択された照射波長を有する軟X線レーザを前記表面に照射する照射工程(S15)と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面が構成されたターゲットに対してパルス状の軟X線レーザを照射することによって、前記表面にパターンを造形する表面造形方法であって、
前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する波長選択工程と、
前記波長選択工程で選択された照射波長を有する軟X線レーザを前記表面に照射する照射工程と、を含む、
ことを特徴とする表面造形方法。
【請求項2】
前記波長選択工程では、前記パターンの細かさに応じて前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面造形方法。
【請求項3】
前記照射工程の前に実施される調整工程であって、前記軟X線レーザが前記表面において集光するように照射光学系を調整する調整工程を更に含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面造形方法。
【請求項4】
前記照射工程の前に実施されるパルス幅選択工程であって、前記軟X線レーザのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択するパルス幅選択工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面造形方法。
【請求項5】
酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面が構成されたターゲットに対してパルス状の軟X線レーザを照射することによって、前記表面にパターンを造形する表面造形装置であって、
前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する波長選択部と、
前記波長選択部によって選択された照射波長を有する軟X線レーザを前記表面に照射する照射光学系と、を備えている、
ことを特徴とする表面造形装置。
【請求項6】
前記波長選択部は、前記パターンの細かさに応じて前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する、
ことを特徴とする請求項5に記載の表面造形装置。
【請求項7】
前記軟X線レーザが前記表面において集光するように前記照射光学系を調整する調整部を更に含む、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の表面造形装置。
【請求項8】
前記軟X線レーザのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択するパルス幅選択部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の表面造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線レーザを用いてターゲットの表面にパターンを造形する表面造形方法及び表面造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なレーザ光をターゲットの表面に照射することによって、当該表面にパターンを造形する表面造形技術が知られている。これらの表面造形技術は、レーザ加工とも呼ばれている。
【0003】
レーザ加工において用いられるレーザ光の波長は、さまざまである。レーザ加工に広く用いられているレーザ光は、例えば、赤外線、可視光線、及び紫外線である。レーザ光の波長は、ターゲットの表面を構成する材料や、パターンの細かさなどに応じて選択される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.-H. Dinh et al., Communication Physics 2, 150 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
造形されるパターンの細かさを左右する一要因として、照射するレーザ光のスポット径が挙げられる。光のスポット径は、可能な限り合焦した場合であっても、その光の波長程度までしか絞れないことが知られている。したがって、レーザ加工において細かいパターンを造形する場合には、より短い波長を有するレーザ光を用いることが好ましい。
【0006】
例えば、非特許文献1には、紫外線よりも波長が短い軟X線レーザを用いた表面造形技術が記載されている。
【0007】
この表面造形技術では、ターゲットとしてシリコンを用い、波長が10.3nmである軟X線レーザをターゲットの表面に照射することにより、深さがナノメートル(2nm/ショット)の凹みを表面に造形している。例えば、2nm/ショットの凹みを再現性よく造形することが可能であるということは、軟X線レーザのショット数を適宜定めることによって、2nmの精度で造形する凹みの深さを制御可能であることを意味する。
【0008】
その一方で、深さが上述したナノメートルオーダーよりも浅いサブナノメートルオーダー(オングストロームオーダーとも呼ばれる)である凹みを、表面に造形する表面造形技術も求められている。この表面造形技術を実現することにより、サブナノメートルオーダーの精度で造形する凹みの深さを制御することができる。深さをサブナノメートルオーダーで制御された凹みを表面に造形できる表面造形技術は、例えば、微量流路、精密鋳型や電子回路などの形成に適用することができる。
【0009】
本発明の一態様は、1ショット当たりの深さがサブナノメートルオーダーである凹みを表面に造形可能な表面造形技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る表面造形方法は、酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面が構成されたターゲットに対してパルス状の軟X線レーザを照射することによって、前記表面にパターンを造形する表面造形方法であって、前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する波長選択工程と、前記波長選択工程で選択された照射波長を有する軟X線レーザを前記表面に照射する照射工程と、を含む。
【0011】
上記の構成によれば、1ショット当たりの深さがサブナノメートルオーダーである凹みを、酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面に造形することができる。
【0012】
なお、以下において、サブナノメートルオーダーとは、0.1nm以上1nm未満の範囲を意味する。
【0013】
また、本発明の第2の態様に係る表面造形方法においては、上述した第1の態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記波長選択工程では、前記パターンの細かさに応じて前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する、構成が採用されている。
【0014】
X線レーザに限らず、レーザのスポット径は、レーザの波長と正の相関を持っている。上記の構成によれば、照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択することにより、ターゲットの表面に造形するパターンの細かさを調整することができる。
【0015】
また、本発明の第3の態様に係る表面造形方法においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記照射工程の前に実施される調整工程であって、前記軟X線レーザが前記表面において集光するように照射光学系を調整する調整工程を更に含む、構成が採用されている。
【0016】
上記の構成によれば、前記表面に対して、目的に応じた波長、集光形状、及び照射強度をもつ軟X線レーザを確実に照射することができる。したがって、前記波長選択工程において選択された軟X線レーザの波長に応じて、照射する軟X線レーザのスポット径を確実に変化させることができる。したがって、得られるパターンを確実に変化させることができる。
【0017】
また、本発明の第4の態様に係る表面造形方法においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る表面造形方法の構成に加えて、前記照射工程の前に実施されるパルス幅選択工程であって、前記軟X線レーザのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択するパルス幅選択工程を更に含む、構成が採用されている。
【0018】
上記の構成によれば、加工部分の熱的影響を排除することができ、照射部周囲のひび割れ(クラック)や辺縁部の盛り上がり(リム)などの意図しない構造の出現を排除することができる。
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の第5の態様に係る表面造形装置は、酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより表面が構成されたターゲットに対してパルス状の軟X線レーザを照射することによって、前記表面にパターンを造形する表面造形装置であって、応じて前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する波長選択部と、前記波長選択工程で選択された照射波長を有する軟X線レーザを前記表面に照射する照射光学系と、を備えている。
【0020】
また、本発明の第6の態様に係る表面造形装置においては、上述した第5の態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記波長選択部は、前記パターンの細かさに応じて前記軟X線レーザの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する、構成が採用されている。
【0021】
また、本発明の第7の態様に係る表面造形装置においては、上述した第5の態様又は第6の態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記軟X線レーザが前記表面において集光するように前記照射光学系を調整する調整部を更に含む、構成が採用されている。
【0022】
また、本発明の第8の態様に係る表面造形装置においては、上述した第5の態様~第7の態様の何れか一態様に係る表面造形装置の構成に加えて、前記軟X線レーザのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択するパルス幅選択部を更に備えている、構成が採用されている。
【0023】
上述の第5の態様~第8の態様に係る発明の各々は、上述の第1の態様~第4の態様に係る発明の各々に対応する表面造形装置である。したがって、上述の第5の態様~第8の態様に係る発明の各々は、上述の第1の態様~第4の態様に係る発明の各々と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、深さがサブナノメートルオーダーである凹みを表面に造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る表面造形装置の模式図である。
【
図2】
図1に示した表面造形装置が備えている制御部の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る表面造形方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の第1の実施例~第4の実施例により得られた凹みのAFM像である。
【
図5】本発明の第5の実施例及び第6の実施例により得られたパターンのAFM像と、第5の実施例において得られたAFM像であって、高倍率なAFM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔表面造形装置〕
本発明の第1の実施形態に係る表面造形装置10について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、表面造形装置10の模式図である。
図2は、表面造形装置10が備えている制御部16の機能ブロック図である。
【0027】
図1に示すように、表面造形装置10は、X線レーザ光源11と、ガスエネルギーモニター13と、K-Bミラー14と、X線フィルタ15と、パソコンPCと、を備えている。ガスエネルギーモニター13、K-Bミラー14、及びX線フィルタ15は、照射機構10Aを構成する。照射機構10Aは、
図2に示す波長選択部161が選択する照射波長、照射密度選択部162が選択する照射エネルギー密度、及びパルス幅選択部163が選択するパルス幅を有するX線レーザLをターゲットTの表面に照射する。波長選択部161、照射密度選択部162、及びパルス幅選択部163を含む制御部16については、
図2を参照して後述する。
【0028】
表面造形装置10は、点状に合焦されたX線レーザLをターゲットTの表面に対して照射することにより、当該表面に微細な凹みを施すことができる。この凹みは、表面造形の一態様である。表面造形装置10によりターゲットTの表面に形成される凹みの深さは、1ショットのX線レーザLに対してサブナノメートルオーダーである。なお、以下において、サブナノメートルオーダーとは、0.1nm以上1nm未満の範囲を意味する。
【0029】
表面造形装置10の照射機構10Aは、ターゲットTの表面に照射するX線レーザLの位置を走査することによって任意のパターンの凹みを形成可能なように構成されている。ただし、表面造形装置10の一態様において、照射機構10Aは、1ショットのX線レーザLを用いて任意のパターンを有する凹みを形成可能なように構成されていてもよい。1ショットのX線レーザLを任意のパターンに変換する場合、例えば、H. Motoyama et al., Proc. SPIE 10386, 1038609 (2017)、H. Motoyama et al., J. Synchrotron Rad. 26, 1406 (2019)、及び、H. Motoyama, S. Owada, G. Yamaguchi, T. Kume, S. Egawa, K. Tono, Y. Inubushi, T. Koyama, M. Yabashi, H. Ohashi, and H. Miura, “Intense sub-micrometer focusing of soft X-ray free-elecron laser beyond 1016 W cm-2 with an ellipsoidal mirror,” J. Synchrotron Rad. 26 1406-1411 (2019)に記載のマイクロ集光光学鏡を用いることができる。
【0030】
表面造形装置10のターゲットTは走査機構を有する保持装置に設置されており、ターゲットの保持装置を走査することによって任意のパターンの凹みを形成可能なように構成されている。ただし、表面造形装置10の一態様において、照射機構10Aは、1ショットのX線レーザLを用いて任意のパターンを有する凹みを形成可能なように構成されていてもよい。
【0031】
本実施形態においては、X線レーザLを照射されるターゲットTとして、酸化アルミニウム(Al2O3)の単結晶基板を用いている。ただし、ターゲットTは、これに限定されず、その表面が酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより構成されたものであればよい。
【0032】
<X線レーザ光源>
X線レーザ光源11は、波長が1nm以上30nm以下の範囲に含まれ、且つ、パルス幅が10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを生成する軟X線レーザ光源である。すなわち、X線レーザ光源11は、パルス状の軟X線レーザを生成する。
【0033】
X線レーザ光源11は、X線レーザLの波長を少なくとも1nm以上30nm以下の範囲において変化させることができる波長可変レーザ光源である。
【0034】
本実施形態においては、X線レーザ光源11として、X線自由電子レーザ(X-ray Free Electron Laser :XFEL)の一例であるSACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)を採用している。表面造形装置10は、X線レーザ光源11が生成したX線レーザLを集光し、ターゲットTの表面に照射する。本実施形態において、X線レーザLのパルス幅として、28×10-15秒(28フェムト秒)を採用した(S. Owada, M. Fushitani, A. Matsuda, H. Fujise, Y. Sasaki, Y. Hikosaka, A. Hishikawa, and M. Yabashi, “Characterization of soft x-ray FEL pulse duration with two-color photoelectron spectroscopy,” Journal of Synchrotron Radiation 27, 1362-1365 (2020)参照)。なお、X線レーザLのパルス幅は、パルスの半値幅を用いて定義している。また、本実施形態において、X線レーザ光源11は、X線レーザLの偏光方向が水平面と平行になるように構成されている。ただし、X線レーザLの偏光方向は、水平面と平行な方向に限定されるものではない。
【0035】
また、本発明の一態様において、X線レーザ光源11は、SACLAに限定されるものではない。波長が1nm以上30nm以下の範囲に含まれ、且つ、パルス幅が10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲に含まれるX線レーザLを生成するレーザ光源のなかから適宜選択することができる。例えば、X線レーザ光源11は、プラズマを用いたX線レーザ光源であってもよいし、高次高調波を用いて上述した波長のX線レーザを生成するX線レーザ光源であってもよい。
【0036】
<ガスエネルギーモニター>
ガスエネルギーモニター13は、X線レーザLの1ショットごとのエネルギーを検出する。ガスエネルギーモニター13が検出したX線レーザLのエネルギーは、パソコンPCに供給される。
【0037】
<K-Bミラー>
K-B(Kirkpatrick-Baez)ミラー14は、X線レーザ光源11が生成したX線レーザLをターゲットTの表面に集光する。K-Bミラー14は、集光光学系の一例である。ただし、集光光学系は、
図1に図示したようなK-Bミラー14に限定されず、集光ミラー及び集光レンズの少なくとも何れかを用いて適宜構成することができる。
【0038】
<X線フィルタ>
X線フィルタ15は、X線レーザLの強度を低下させる。本実施形態では、ジルコニウム製の板状部材と、シリコン製の板状部材とを用いてX線フィルタ15を構成している。X線フィルタ15は、様々な膜厚をもつジルコニウム製の板状部材及びシリコン製の板状部材の各々の数を適宜調整することによって、X線レーザLの透過率を変化させることができる。その結果、X線フィルタ15は、X線レーザLの強度を所望の強度に調整することができるので、ターゲットTの表面における照射スポットにおけるエネルギー密度を所望のエネルギー密度に調整することができる。なお、X線フィルタ15は、照射スポットにおけるエネルギー密度を少なくとも10mJ/cm2以上の範囲において変化させることができるように、上記板状部材の膜厚及び数の組み合わせが構成されていることが好ましい。ただし、X線レーザLのエネルギー密度が既に適当な値にある場合、X線フィルタ15は省略することができる。
【0039】
<照射機構のまとめ>
上述したように、本実施形態では、X線レーザLを照射されるターゲットTとして、酸化アルミニウムの単結晶を用いている。酸化アルミニウムの単結晶は、その表面がX線レーザLの光軸と直交するように、該光軸上に配置されている。また、上述したK-Bミラー14によって、X線レーザLは、ターゲットTの表面上に集光されている。
【0040】
<パソコン>
パソコンPCは、表面造形装置10を制御する制御部16を備えている。
図1に示すように、制御部16は、X線レーザ光源11及びK-Bミラー14の各々を制御する。また、制御部16は、ガスエネルギーモニター13が検出したX線レーザLのエネルギーを取得し、表示部に表示させる。制御部16が備えている具体的な各機能ブロックついては、
図2を参照して次に説明する。
【0041】
図2に示すように、制御部16は、波長選択部161と、照射密度選択部162と、パルス幅選択部163と、調整部164と、光源制御部165と、を備えている。
【0042】
(波長選択部)
波長選択部161は、X線レーザLの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する。本実施形態において、波長選択部161は、ユーザが造形したいと考えるパターンの細かさに応じて照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する。波長選択部161は、ユーザからの入力に基づいて1nm以上30nm以下の範囲から照射波長を選択するように構成されていてもよいし、ユーザが造形したいと考えるパターンであってユーザから指定されたパターンを参照し、1nm以上30nm以下の範囲から照射波長を自動的に選択するように構成されていてもよい。
【0043】
波長選択部161が選択する照射波長の例としては、18.9nmや、13.9nmや、13.5nmや、10.3nmなどが挙げられる。
【0044】
波長選択部161は、1nm以上30nm以下の範囲内において、パターンの細かさに応じて自由に照射波長を選択することができる。
【0045】
(照射密度選択部)
照射密度選択部162は、X線レーザLのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する。照射密度選択部162は、ユーザからの入力に基づいて照射エネルギー密度を選択するように構成されていてもよいし、ユーザが造形したいと考えるパターンであってユーザから指定されたパターンを参照し、そのパターンに適した照射エネルギー密度を選択するように構成されていてもよい。
【0046】
(パルス幅選択部)
パルス幅選択部163は、X線レーザLのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択する。
【0047】
パルス幅選択部163は、ユーザからの入力に基づいてパルス幅を選択するように構成されていてもよいし、ユーザが造形したいと考えるパターンであってユーザから指定されたパターンを参照し、そのパターンに適したパルス幅を選択するように構成されていてもよい。
【0048】
(調整部)
調整部164は、X線レーザLがターゲットTの表面に集光するように(より好ましくは、合焦するように)K-Bミラー14(照射光学系の一例)を調整する。調整部164は、K-Bミラー14を調整するための制御信号をK-Bミラー14に出力する。
【0049】
調整部164は、ユーザからの入力に基づいてK-Bミラー14を調整するように構成されていてもよいし、オートフォーカス機能を用いて自動的にK-Bミラー14を調整するように構成されていてもよい。
【0050】
(光源制御部)
光源制御部165は、波長選択部161が選択する照射波長、照射密度選択部162が選択する照射エネルギー密度、及びパルス幅選択部163が選択するパルス幅を有するX線レーザLを生成するように、X線レーザ光源11を制御する。
【0051】
<X線レーザとターゲットとの相互作用>
上述したように構成された表面造形装置10は、ターゲットTの表面に集光した状態のX線レーザLを照射することができる。
図4には、X線レーザLを表面に照射されたターゲットTを模式的に示している。
【0052】
〔表面造形方法〕
本発明の第2の実施形態に係る表面造形方法M10について、
図3を参照して説明する。
図3は、表面造形方法M10のフローチャートである。
【0053】
表面造形方法M10は、
図1に示した表面造形装置10を方法として表現したものである。したがって、表面造形方法M10は、表面造形装置10と対応している。したがって、本変形例においては、表面造形方法M10と表面造形装置10との対応関係を主に示し、各工程の詳細な説明は、省略する。なお、表面造形装置10の場合と同様に、ターゲットTとして、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の単結晶基板を用いている。ただし、ターゲットTは、これに限定されず、その表面が酸化アルミニウム及び酸化チタンの少なくとも何れかにより構成されたものであればよい。
【0054】
表面造形方法M10は、
図3に示すように、波長選択工程S11と、照射密度選択工程S12と、パルス幅選択工程S13と、調整工程S14と、照射工程S15と、を含んでいる。
【0055】
<波長選択工程>
波長選択工程S11は、制御部16の波長選択部161に対応する。すなわち、波長選択工程S11は、ユーザが造形したいと考えるパターンの細かさに応じて、X線レーザLの波長である照射波長を1nm以上30nm以下の範囲から選択する。
【0056】
<照射密度選択工程>
照射密度選択工程S12は、制御部16の照射密度選択部162に対応する。すなわち、照射密度選択工程S12は、X線レーザLのエネルギー密度である照射エネルギー密度を選択する。
【0057】
<パルス幅選択工程>
パルス幅選択工程S13は、制御部16のパルス幅選択部163に対応する。すなわち、パルス幅選択工程S13は、X線レーザLのパルス幅を10×10-15秒以上10×10-12秒以下の範囲内において選択する。
【0058】
<調整工程>
調整工程S14は、制御部16の調整部164に対応する。すなわち、調整工程S14は、X線レーザLがターゲットTの表面において合焦するようにK-Bミラー14(照射光学系の一例)を調整する。
【0059】
<照射工程>
照射工程S15は、X線レーザ光源11が生成したX線レーザLであって、波長選択部161が選択する照射波長、照射密度選択部162が選択する照射エネルギー密度、及びパルス幅選択部163が選択するパルス幅を有するX線レーザLを、照射機構10Aを用いてターゲットTの表面に照射する。
【実施例0060】
図1に示す表面造形装置10、及び、
図3に示す表面造形方法M10の複数の実施例について、以下に説明する。
【0061】
第1の実施例では、ターゲットTとして酸化アルミニウムの単結晶基板を用い、ターゲットTの表面において1ショットのX線レーザLを、ターゲットTの表面に照射した。
【0062】
第2の実施例では、ターゲットTとして酸化チタンの単結晶基板を用い、ターゲットTの表面において合焦した1000ショットのX線レーザLを、ターゲットTの表面に照射した。
【0063】
第1の実施例及び第2の実施例では、X線レーザLの照射波長として10.3nm(光子エネルギー120eV)を用い、X線レーザLのパルス幅として28×10-15秒を用いた。また、第1の実施例及び第2の実施例の各々では、X線レーザLの照射密度として、それぞれ、1ショット当たり65mJ/cm2及び121mJ/cm2を用いた。但し、X線レーザの照射強度は、ショット毎に変動があるために、第2の実施例における照射密度は、1000ショットの平均値である。
【0064】
図4の(a)及び(c)には、第1の実施例及び第2の実施例において得られたAFM像を示す。
図4の(a)及び(c)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例の各々では、照射したX線レーザLのスポット形状とほぼ一致した凹みが得られた。
図4の(b)及び(d)には、
図4の(a)及び(c)に図示している破線における断面プロファイルを示す。
図4の(b)及び(d)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例の各々により得られた凹みの深さは、それぞれ、0.7nm及び0.1nmであった。第2の実施例において、平均照射強度を低く設定し、かつ、X線レーザの出力変動を利用した積算照射を行うことによって、サブナノメートルの精度で超精密な仕上げ加工が可能であることが分かった。
【0065】
第3の実施例では、ターゲットTとして酸化アルミニウムの単結晶基板を用い、照射機構10AとしてH. Motoyama et al., Proc. SPIE 10386, 1038609 (2017) 及びH. Motoyama et al., J. Synchrotron Rad. 26, 1406 (2019)に記載のマイクロ集光光学鏡の構成を用いた。第3の実施例では、X線レーザLのパルス幅として28×10
-15秒を用い、X線レーザLの照射密度として170mJ/cm
2を用いた。
図5の(a)には、第3の実施例において得られたAFM像を示す。
図5の(a)に示すように、集光光学鏡の集光形状が線上となる位置に試料表面を置いたときに、
図5の(a)のAFM像に示す縞状のパターンを得た。
図5の(b)には、
図5の(a)に図示している破線における断面プロファイルを示す。
図5の(b)に示すように、この時の溝部分(凹み)の幅は、100nm~200nmであり、深さが0.5nmであることがわかった。
【0066】
また、第4の実施例及び第5の実施例では、ターゲットTとして酸化アルミニウムの単結晶基板を用い、照射機構10AとしてH. Motoyama et al., Proc. SPIE 10386, 1038609 (2017) 及びH. Motoyama et al., J. Synchrotron Rad. 26, 1406 (2019)に記載のマイクロ集光光学鏡の構成を用いた。集光条件は第3の実施例と同一の線状集光である。なお、第4の実施例及び第5の実施例の各々では、それぞれ、照射波長として10.3nm及び13.5nmを用いた。また、第4の実施例及び第5の実施例では、X線レーザLのパルス幅として28×10
-15秒を用い、X線レーザLの照射密度として50~200mJ/cm
2を用いた。
図5の(c)及び(d)には、それぞれ、第4の実施例及び第5の実施例において得られたAFM像を示す。
X線レーザの照射に同期させて試料を走査することにより、
図5の(c)及び(d)に示すように10μmを超えるライン状パターンを得ることができた。第3の実施例~第5の実施例により得られたAFM像によれば、照射条件を調整することにより、サブナノメートルの深さ精度を持つパターンを目的に合わせて調整できることが分かった。