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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131245
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】作業指示装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/00 20060101AFI20240920BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 35/02 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20240920BHJP
   B25J 5/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
C12M1/00 A
G01N35/02 G
G01N35/00 E
B25J5/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041385
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 義也
(72)【発明者】
【氏名】中島 千智
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓真
(72)【発明者】
【氏名】八瀬 哲志
(72)【発明者】
【氏名】北島 博史
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 崇紀
【テーマコード(参考)】
2G058
3C707
4B029
【Fターム(参考)】
2G058CB16
2G058CD23
2G058EA14
2G058GC02
2G058GC03
2G058GC05
2G058GD05
3C707AS05
3C707BS10
3C707BS26
3C707CS08
3C707CT05
3C707JS02
3C707KS13
3C707KT03
3C707KT06
3C707LV02
3C707LV14
3C707WA16
3C707WA28
4B029AA25
4B029HA09
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】実験対象の細胞の取り出し及び実験後の細胞の保管を含めて、細胞を扱う実験を自動化する。
【解決手段】ロボットシステム100は、ローカルコントローラ11を含むモバイルマニピュレータ10と、ローカルコントローラ21を含むワークベンチロボット20と、統括コントローラ30と、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う作業指示装置40とを含む。作業指示装置40は、準備搬送情報及びワークベンチ実験特定情報を含む実験定義データにアクセスし、準備搬送情報に基づいて、実験の対象とする細胞を第1保管場所から取り出してワークベンチに搬送するための準備搬送指示、及びワークベンチ実験特定情報に基づいて、搬送された細胞に対する実験を実行するためのワークベンチ実験指示を作成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床上を移動するための機構及び物体を把持するための機構を備えたモバイルマニピュレータと、ワークベンチに対して固定されており、前記ワークベンチ上の物体を把持するための機構を備えたワークベンチロボットと、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラ及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラとを含むロボットシステムに対して、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う作業指示装置であって、
前記実験の対象とする前記細胞を第1保管場所から取り出すために必要な情報である準備搬送情報及びワークベンチロボットによる実験を特定する情報であるワークベンチ実験特定情報を含む実験定義データにアクセスする実験定義データアクセス部と、
前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する準備搬送指示及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラに対するワークベンチ実験指示を作成する指示作成部とを備え、
前記準備搬送指示は、前記準備搬送情報に基づいて作成する、前記実験の対象とする前記細胞を前記第1保管場所から取り出して前記ワークベンチに搬送するための指示であり、
前記ワークベンチ実験指示は、前記ワークベンチ実験特定情報に基づいて作成する、搬送された前記細胞に対する前記実験を実行するための指示である、
作業指示装置。
【請求項2】
前記作業指示装置は、さらに、前記ワークベンチ実験特定情報の入力を受け付ける入力部を備える、請求項1に記載の作業指示装置。
【請求項3】
前記作業指示装置は、さらに、後続実験において利用するための、細胞を収納した容器を特定するデータ又は細胞を収納した容器を保管する第2保管場所を特定するデータを含む後続実験データを作成する後続実験データ作成部を備える、請求項1又は請求項2に記載の作業指示装置。
【請求項4】
前記実験定義データは、さらに、前記ワークベンチにおける前記実験が行われた後の細胞を第2保管場所に搬送するための情報である保管搬送情報を含み、
前記指示作成部は、さらに、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する保管搬送指示を作成し、
前記保管搬送指示は、前記保管搬送情報に基づいて作成する、前記ワークベンチにおける前記実験が行われた後の細胞を前記第2保管場所に搬送するための指示である、
請求項1又は請求項2に記載の作業指示装置。
【請求項5】
前記作業指示装置は、さらに、後続実験において利用するための、細胞を収納した容器を特定するデータ又は前記第2保管場所を特定するデータを含む後続実験データを作成する後続実験データ作成部を備える、請求項4に記載の作業指示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットを制御するための作業指示を作成する作業指示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学や生物及び生命工学の分野における実験のプロトコルを、処理シンボルを用いた表記法によりコンピュータで作成する技術が存在する。例えば、検体が収容される容器の初期状態を表す初期シンボルを配置する初期シンボル配置部と、初期シンボルから第1の軸に沿った方向に容器に対する処理順序を示す順序線を配置する順序線配置部と、容器になされる処理を表す処理シンボルを、順序線に沿って配置する処理シンボル配置部であって、一の容器に対しなされる処理が複数ある場合に、当該処理を表す処理シンボルを順序線に沿って並べて配置する処理シンボル配置部と、異なる容器についての初期シンボル、順序線及び処理シンボルの配置を、第1の軸に交差する第2の軸に沿った方向に離間させる離間部と、を有するプロトコルチャート作成装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、コンピュータで作成したプロトコルをロボットに実行させる技術が存在する。例えば、処理順番が決定された複数の処理シンボルと、ジョブ記憶部に記憶された1以上のジョブとに基づいて、2以上の処理シンボルのそれぞれに対応する1以上のジョブを生成する処理ジョブ生成部と、処理順番が連続する2つの処理シンボルに関し、処理順番が先である処理シンボルに対応する1以上のジョブのうち最後に行われる第1のジョブに属する第1の基準点と、処理順番が後である処理シンボルに対応する1以上のジョブのうち最初に行われる第2のジョブに属する第2の基準点とに基づいて、第1の基準点から第2の基準点へと、アームを移動させるつなぎジョブを生成するつなぎジョブ生成部と、を有する動作指令生成装置により、プロトコルに基づく実験を、ロボットを含む処理システムに行わせるための動作指令を自動的に生成するシステムが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5886482号公報
【特許文献2】特許第6399214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、実験のプロトコルは、ワークベンチ上で研究員が行う実験操作の手順を記述したものであり、上記の特許文献1及び2に記載の技術も、そのようなプロトコルの作成にコンピュータを利用し、プロトコルに基づいてロボットに実験操作を行わせている。
【0006】
一方、細胞を扱う実験に関しては、ワークベンチ上の実験操作で処理された細胞は、インキュベータ等で保管又は培養され、後続の実験では保管又は培養された特定の細胞を取り出したうえで、その細胞に対する実験操作を行う場面が多くある。
【0007】
本発明は、実験の対象とする細胞の取り出し、及び必要であれば実験操作で処理された後の細胞の保管を含めて、細胞を扱う実験を自動化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る作業指示装置は、床上を移動するための機構及び物体を把持するための機構を備えたモバイルマニピュレータと、ワークベンチに対して固定されており、前記ワークベンチ上の物体を把持するための機構を備えたワークベンチロボットと、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラ及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラとを含むロボットシステムに対して、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う作業指示装置であって、前記実験の対象とする前記細胞を第1保管場所から取り出すために必要な情報である準備搬送情報及びワークベンチロボットによる実験を特定する情報であるワークベンチ実験特定情報を含む実験定義データにアクセスする実験定義データアクセス部と、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する準備搬送指示及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラに対するワークベンチ実験指示を作成する指示作成部とを備え、前記準備搬送指示は、前記準備搬送情報に基づいて作成する、前記実験の対象とする前記細胞を前記第1保管場所から取り出して前記ワークベンチに搬送するための指示であり、前記ワークベンチ実験指示は、前記ワークベンチ実験特定情報に基づいて作成する、搬送された前記細胞に対する前記実験を実行するための指示である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る作業指示装置によれば、実験の対象とする細胞の取り出し、及び必要であれば実験操作で処理された後の細胞の保管を含めて、細胞を扱う実験を自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るロボットシステムが稼働する実験環境の一例を示す概略平面図である。
図2】本実施形態に係るロボットシステムの概略構成を示すブロック図である。
図3】モバイルマニピュレータの外観斜視図である。
図4】ワークベンチロボットの外観斜視図である。
図5】作業指示装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6】作業指示装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図7】解凍実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。
図8】解凍実験入力前のデータの一例を示す図である。
図9】解凍実験開始時のデータの一例を示す図である。
図10】解凍実験における後続実験データの一例を示す図である。
図11】維持継代実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。
図12】維持継代実験入力前のデータの一例を示す図である。
図13】維持継代実験開始時のデータの一例を示す図である。
図14】維持継代のプロトコルデータの一例を示す図である。
図15】維持継代実験における後続実験データの一例を示す図である。
図16】拡大継代実験開始時のデータの一例を示す図である。
図17】拡大継代実験における後続実験データの一例を示す図である。
図18】アッセイ前処理実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。
図19】アッセイ前処理実験入力前のデータの一例を示す図である。
図20】アッセイ前処理実験開始時のデータの一例を示す図である。
図21】アッセイ前処理実験における後続実験データの一例を示す図である。
図22】統括コントローラによる制御処理の流れを示すフローチャートである。
図23】継代処理の流れを示すフローチャートである。
図24】第2容器への細胞の播種を説明するための図である。
図25】コントローラの構成の他の例を説明するための図である。
図26】コントローラの構成の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法及び比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本実施形態では、研究員が利用する実験環境と同等の環境において、細胞を扱う実験を自動化するロボットシステムについて説明する。なお、本実施形態における「実験」は、細胞等の対象に対する操作又は処理の結果を知ることを目的とするものに限らず、対象に対する操作又は処理をするだけで、その結果は調べない場合を含む。例えば、細胞の継代処理のことも実験とよぶ。
【0013】
研究員が利用する実験環境の典型例としては、実験作業の多くの部分を行うワークベンチが設置されると共に、細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機等が、ワークベンチから離れた場所に設置されている環境が挙げられる。研究員が実験作業を行う場合、研究員は、実験作業をワークベンチで行う一方、実験作業の途中で必要に応じて、ワークベンチと細胞観察装置、細胞計測装置、又は遠心分離機との間を、試料容器を持って歩いて移動して、それらの装置を使用する。
【0014】
本実施形態に係るロボットシステムは、上記の、研究員が利用する実験環境の典型例と同様の環境において稼働する。図1は、本実施形態に係るロボットシステムが稼働する実験環境の一例を示す概略平面図である。図1の例では、上述した細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機、ワークベンチに加え、薬品棚、インキュベータ、冷蔵庫、消耗品棚、充電ステーション、流し、椅子等の実験設備が実験環境に含まれている。なお、図1における顕微鏡は、上述した細胞観察装置及び細胞計測装置の一例である。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係るロボットシステム100は、モバイルマニピュレータ10と、ワークベンチロボット20と、統括コントローラ30と、作業指示装置40と、実験定義DB(database)50と、プロトコルDB52と、保管場所DB54とを含む。なお、図2の例では、モバイルマニピュレータ10が2台、ワークベンチロボット20が2台の例を示しているが、これに限定されない。モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20は、それぞれ1台でもよいし、3台以上であってもよい。
【0016】
モバイルマニピュレータ10は、ローカルコントローラ21と、床上を移動するための移動機構と、物体を把持するための把持機構とを備える。図3に、モバイルマニピュレータ10の外観斜視図を示す。図3に示すように、モバイルマニピュレータ10は、台車12と、ロボットアーム13とを備える。
【0017】
台車12は、移動機構の一例であり、ローカルコントローラ11による制御で駆動される2つの駆動輪12Aを有する。さらに、台車12は、図3で手前側の底面に方向の自在に変わるキャスターを有する。2つの駆動輪12Aは互いに独立に駆動されるため、台車12は、研究員と同様に床上を自由に移動することができる。移動機構は、2つの独立駆動輪に限らず、床上を移動することができる任意の機構であってよく、旋回を含む移動の態様についての制約が少ない機構であることが好ましい。ロボットアーム13は、把持機構の一例であり、台車12上に搭載されている。ロボットアーム13は、アーム13Aと、アーム13Aの先端に取り付けられたハンド13Bとを有する。アーム13Aは、3次元空間において、ハンド13Bの位置及び姿勢を、例えば6自由度で変位させるための構成を備えた垂直多関節型のアームとしてよい。ハンド13Bは、容器等を把持可能な、例えば2指のロボットハンドである。なお、図3では、モバイルマニピュレータ10は、1つのロボットアーム13を備える例を示しているが、ロボットアーム13を2本備えた双腕としてもよい。
【0018】
モバイルマニピュレータ10は、アーム13Aのハンド13Bに近い箇所に図示しないビジョンセンサを有する。ビジョンセンサは、モバイルマニピュレータ10周辺の物体、及びハンド13Bで把持する容器等の把持対象物を認識するためのセンサである。ビジョンセンサは、カメラ及び画像処理装置を含んで構成され、カメラにより撮影した画像を画像処理装置で画像処理することにより、周辺の物体及び把持対象物を認識する。これによりモバイルマニピュレータ10の自律的な移動が可能となる。なお、周辺の物体及び把持対象物を認識するためのセンサはビジョンセンサに限定されず、周辺の各点の3次元位置を計測可能なレーザレーダ等を用いてもよい。また、周辺の物体を認識するためのセンサは、台車12に搭載されてもよい。
【0019】
ローカルコントローラ11は、統括コントローラ30の指示を実現できるように、モバイルマニピュレータ10の各モータの動作を制御する。具体的には、ローカルコントローラ11は、ビジョンセンサから出力される認識結果、統括コントローラ30からの指示等に基づいて、モバイルマニピュレータ10の動作を制御する。より具体的には、ローカルコントローラ11は、ハンド13Bで容器等の把持対象物を把持し、把持した把持対象物をワークベンチ等の所定位置へ搬送するように、モバイルマニピュレータ10の動作を制御する。
【0020】
ワークベンチロボット20は、ワークベンチに対して固定されており、ローカルコントローラ21と、ワークベンチ上の物体を把持するための把持機構とを備える。ワークベンチロボット20による把持対象物は、容器の他に、容器内の細胞等の吸引、及び容器内への細胞等の吐出を行うためのアスピレータ、電動ピペッター、電動マイクロピペット等を含む。図4に、ワークベンチロボット20の外観斜視図を示す。図4に示すように、ワークベンチロボット20は、2本のロボットアーム22と、ビジョンセンサ23とを備える。
【0021】
ロボットアーム22は、把持機構の一例であり、アーム22Aと、アーム22Aの先端に取り付けられたハンド22Bとを有する。アーム22Aは、3次元空間において、ハンド22Bの位置及び姿勢を、例えば6自由度で変位させるための構成を備えた垂直多関節型のアームとしてよい。ハンド22Bは、容器等を把持可能な、例えば、各指が関節を有する3指のロボットハンドである。
【0022】
図4の下部に、ハンド22Bを拡大した概略図を示す。この概略図では、ハンド22Bの各指の関節の図示を省略すると共に、各指の形状及び配置を簡略化して図示している。ハンド22Bは、第1指22B1を含む指の第1グループと、第2指22B2及び第3指22B3を含む指の第2グループとを備え、第1グループと第2グループとは互いに対向して間に物体を把持できる構造である。人の指との対応としては、第1指22B1は親指、第2指22B2は人差し指、第3指22B3は中指の働きをする。なお、ハンド22Bは、4指以上のロボットハンドでもよい。すなわち、第1グループは第1指22B1以外の指を含んでもよく、第2グループは第2指22B2及び第3指22B3以外の指を含んでもよい。また、ハンド22Bの各指は、途中に2つの関節を有することが好ましい。これにより、物体の外形を包むような安定した把持が可能となり、また、実験器具のボタンを押す等の細かな操作も容易になる。
【0023】
以下では、2本のロボットアーム22のハンド22Bについて、左手と右手とを区別して説明する場合には、左手をハンド22BL、右手をハンド22BRと表記する。ハンド22Bの指についても同様に、左手のハンド22BLの指を第1指22B1L、第2指22B2L、第3指22B3L、右手のハンド22BRの指を第1指22B1R、第2指22B2R、第3指22B3Rと表記する。
【0024】
ビジョンセンサ23は、パンチルト台に搭載されており、ワークベンチ上に配置された容器等の把持対象物を認識するためのセンサである。
【0025】
ローカルコントローラ21は、統括コントローラ30の指示を実現できるように、ワークベンチロボット20の各モータの動作を制御する。具体的には、ローカルコントローラ21は、ビジョンセンサ23から出力される認識結果、統括コントローラ30からの指示等に基づいて、ワークベンチロボット20の動作を制御する。より具体的には、ローカルコントローラ21は、2本のロボットアーム22が協調して細胞を扱う実験処理を実行するように、ワークベンチロボット20の動作を制御する。例えば、ローカルコントローラ21は、一方のロボットアーム22のハンド22Bで容器を把持し、他方のロボットアーム22のハンド22Bでピペットを把持して、容器内の液体を吸引する等の処理を実行するように、ワークベンチロボット20の動作を制御する。
【0026】
なお、図4では、ワークベンチロボット20が直接ワークベンチに固定されている例を示しているが、ワークベンチロボット20は、ワークベンチとの相対位置関係が固定されていればよく、例えば、床、壁、天井等に固定されていてもよい。
【0027】
統括コントローラ30は、作業指示装置40からの作業指示に基づいて、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、及びワークベンチロボット20のローカルコントローラ21と連携して、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々の動作を制御する。具体的には、統括コントローラ30は、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20に、ワークベンチと他の実験設備との間における、細胞を収めた容器の搬送及び設置を含む実験を実行させる。
【0028】
モバイルマニピュレータ10による把持動作、実験設備に対する操作は、ローカルコントローラ11が、予めティーチングされた動作計画を、ビジョンセンサから出力される認識結果に基づいてモバイルマニピュレータ10に実行させることにより実現される。ワークベンチロボット20による把持動作、実験設備に対する操作についても同様である。
【0029】
また、モバイルマニピュレータ10の移動は、ローカルコントローラ11が、予め保持する実験環境のレイアウト図に基づいて、統括コントローラ30から指示された実験設備の位置へモバイルマニピュレータ10を移動させることにより実現される。なお、ローカルコントローラ11は、ビジョンセンサから出力される認識結果に基づいて、障害物を回避しながら目的の位置へ移動するように、モバイルマニピュレータ10を移動させる。
【0030】
作業指示装置40は、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う。図5は、作業指示装置40のハードウェア構成を示すブロック図である。図5に示すように、作業指示装置40は、CPU(Central Processing Unit)41、メモリ42、記憶装置43、入力装置44、出力装置45、記憶媒体読取装置46、及び通信I/F(Interface)47を有する。各構成は、バス48を介して相互に通信可能に接続されている。
【0031】
記憶装置43には、後述する作業指示処理を実行するためのプログラムが記憶されている。CPU41は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU41は、記憶装置43からプログラムを読み出し、メモリ42を作業領域としてプログラムを実行する。CPU41は、記憶装置43に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0032】
メモリ42は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置43は、ROM(Read Only Memory)、及びHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを記憶する。
【0033】
入力装置44は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置45は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置45として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置44として機能させてもよい。
【0034】
記憶媒体読取装置46は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。通信I/F47は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。なお、他の機器には、統括コントローラ30が含まれる。また、他の機器には、必要に応じて、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21、細胞観察装置、細胞計測装置、遠心分離機等が含まれる。本実施形態では、これらの他の機器についても通信機能を備えるものとする。
【0035】
なお、統括コントローラ30、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11、及びワークベンチロボット20のローカルコントローラ21のハードウェア構成は、概ね作業指示装置40のハードウェア構成と同様であるため、説明を省略する。
【0036】
次に、作業指示装置40の機能構成について説明する。図6は、作業指示装置40の機能構成の例を示すブロック図である。図6に示すように、作業指示装置40は、機能構成として、実験定義データアクセス部142と、指示作成部144と、入力部146と、後続実験データ作成部148とを含む。各機能構成は、CPU41が記憶装置43に記憶された作業指示プログラムを読み出し、メモリ42に展開して実行することにより実現される。
【0037】
実験定義データアクセス部142は、準備搬送情報、ワークベンチ実験特定情報、及び保管搬送情報を含む実験定義データを記憶する実験定義DB50にアクセスする。実験定義DB50の物理的所在は、作業指示装置40がアクセスできる限り、任意である。例えば、作業指示装置40内の記憶装置43に記憶されてもよいし、作業指示装置40に接続された外部記憶装置に記憶されてもよいし、ネットワーク経由でアクセスできるサーバーに記憶されてもよい。作業指示装置40が外部の装置に対して、例えば実験IDのような実験を特定するキーとなるデータにより特定の実験定義データを指定して要求し、その要求に応答して指定した実験定義データが送られてくるような間接的なアクセス形態でもよい。
【0038】
準備搬送情報は、実験の対象とする細胞を第1保管場所から取り出すために必要な情報である。ワークベンチ実験特定情報は、ワークベンチロボット20による実験を特定する情報である。保管搬送情報は、ワークベンチにおける実験が行われた後の細胞を第2保管場所に搬送するための情報である。
【0039】
なお、ワークベンチ実験特定情報で特定される実験は、ワークベンチロボット20のみで操作又は処理が行われる実験に限らず、実験の途中でモバイルマニピュレータ10が関与する実験であってもよい。モバイルマニピュレータ10が関与する部分については、ワークベンチ実験指示の中にモバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに対する指示を含む。ここにいう「コントローラ」は、作業指示装置40からワークベンチ実験指示が与えられるコントローラのことであるから、図2の実施形態においては統括コントローラ30が該当する。モバイルマニピュレータ10の動作は、統括コントローラ30及びローカルコントローラ11により階層的に制御されるので、統括コントローラ30もモバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに該当する。実験の途中におけるモバイルマニピュレータ10の関与の態様は、例えば、モバイルマニピュレータ10による試薬、道具等の搬送、モバイルマニピュレータ10による実験対象の細胞のワークベンチと細胞観察装置、遠心分離機、インキュベータのような機器との間での搬送である。ここでのインキュベータは、細胞の培養を主目的として利用するのではなく、例えばアッセイ前処理において、細胞に試薬を投与した後、細胞に対する試薬の影響が現れるのを待つために細胞を一定時間一定温度の環境に置くために利用することを想定している。
【0040】
また、実験定義データアクセス部142は、後述する後続実験データ作成部148で作成された後続実験データを実験定義DB50に記憶させる。
【0041】
指示作成部144は、モバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに対する準備搬送指示、及びワークベンチロボット20の動作を制御するコントローラに対するワークベンチ実験指示を作成する。ここにいう「コントローラ」は、作業指示装置40から準備搬送指示又はワークベンチ実験指示が与えられるコントローラのことであるから、図2の実施形態においては統括コントローラ30が該当する。モバイルマニピュレータ10の動作は、統括コントローラ30及びローカルコントローラ11により階層的に制御されるので、統括コントローラ30もモバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに該当する。また、ワークベンチロボット20の動作は、統括コントローラ30及びローカルコントローラ21により階層的に制御されるので、統括コントローラ30もワークベンチロボット20の動作を制御するコントローラに該当する。
【0042】
準備搬送指示は、準備搬送情報に基づいて作成する、実験の対象とする細胞を第1保管場所から取り出してワークベンチに搬送するための指示である。例えば、準備搬送指示は、モバイルマニピュレータ10の移動に関する指示、及びモバイルマニピュレータ10の操作に関する指示を含む。モバイルマニピュレータ10の移動に関する指示は、例えば、移動先の位置の情報を含む。モバイルマニピュレータ10の操作に関する指示は、例えば、対象物を把持するための情報、把持した対象物を載置するための情報を含む。対象物を把持するための情報は、例えば、把持の対象物が容器である場合の、容器を特定する情報、容器の場所を特定する情報を含む。対象物を載置するための情報は、例えば、対象物を載置するワークベンチ上の位置の情報を含む。
【0043】
ワークベンチ実験指示は、ワークベンチ実験特定情報に基づいて作成する、搬送された細胞に対する実験を実行するための指示である。
【0044】
また、指示作成部144は、モバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに対する保管搬送指示を作成する。保管搬送指示は、保管搬送情報に基づいて作成する、ワークベンチにおける実験が行われた後の細胞を第2保管場所に搬送するための指示である。ここにいう「コントローラ」は、作業指示装置40から保管搬送指示が与えられるコントローラのことであるから、図2の実施形態においては統括コントローラ30が該当する。モバイルマニピュレータ10の動作は、統括コントローラ30及びローカルコントローラ11により階層的に制御されるので、統括コントローラ30もモバイルマニピュレータ10の動作を制御するコントローラに該当する。
【0045】
入力部146は、ワークベンチ実験特定情報の入力を受け付ける。実行を予定する実験に対応する実験定義データにワークベンチ実験特定情報が含まれていない場合、又は当該実験定義データに含まれているワークベンチ実験特定情報を変更したい場合に、入力部146は、ユーザから入力されるワークベンチ実験特定情報を受け付ける。
【0046】
後続実験データ作成部148は、後続実験において利用するための、細胞を収納した容器を特定するデータ又は細胞を収納した容器を保管する第2保管場所を特定するデータを含む後続実験のためのデータ(以下、「後続実験データ」という)を作成する。
【0047】
後続実験データには、細胞を収納した容器を特定するデータ、及び細胞を収納した容器を保管する第2保管場所を特定するデータの両方を含めてもよいし、何れか一方のデータを含めてもよい。第2保管場所のデータを含めない場合には、容器を特定するデータから第2保管場所を特定できるような管理する。例えば、容器を第2保管場所に受け入れた時点で、別途用意された保管場所を管理するシステムに、どの保管場所にどの容器を受け入れたかを登録してもよい。これにより、後続実験を行う際に、容器を特定する情報から、その容器の保管場所を検索することができる。
【0048】
また、実験後の細胞を収納した容器は、モバイルマニピュレータ10によって搬送せず、ワークベンチロボット20の手が届く範囲の第2保管場所に置いて後続実験に供してもよい。この場合、同じワークベンチで後続実験を行うのであれば、後続実験においてモバイルマニピュレータ10による準備搬送を行う必要はない。
【0049】
次に、本実施形態に係るロボットシステム100の作用について説明する。以下では、実験が、解凍実験、継代実験、及びアッセイ前処理実験である場合について、それぞれ説明する。なお、本実施形態では、継代のうち、細胞を生存させ続けることを目的とし、細胞数の増大を目的としない継代処理を維持継代といい、細胞数の増大を目的とする継代処理を拡大継代という。維持継代の場合もインキュベータ内での培養中に細胞数は増大するが、継代実験で新たな容器に播種する細胞の数は培養前の細胞数と同程度にとどめる。新たな容器に播種しない細胞は廃棄する。拡大継代の場合は、培養前の細胞数より多い数の細胞を新たな容器に播種する。そのため、継代実験前に1つの細胞容器内で培養されていた細胞を播種する新たな容器は、複数にするか、より大きな容器にする。
【0050】
図7は、作業指示装置40のCPU41により実行される解凍実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。
【0051】
ステップS10で、細胞を冷凍する際に、指示作成部144が、細胞ID、細胞ID枝番、容器ID、容器保管場所IDのデータを含む解凍実験入力前のデータを作成する。容器ID及び容器の保管場所IDは、準備搬送情報の一例である。実験定義データアクセス部142は、作成された解凍実験入力前データを、実験定義DB50に記憶させる。図8に、実験定義DB50に記憶された解凍実験入力前のデータの一例を示す。各IDは、予め定めたルールに基づき自動で付与してもよいし、入力部146を介して手動による各IDの入力又は修正を受け付けてもよい。
【0052】
図8の例では、細胞IDの記述形式は「CEL-aaa-bb」である。CELは細胞IDであることを表す文字列、aaaは細胞の種類を表す数字、bbは入手経路、変異種等を区別するための数字である。また、細胞ID枝番の記述形式は「-n-o-p-・・・」である。細胞を多数の容器に分割した内の何番目の容器の細胞であるかを、拡大継代処理において複数の容器に細胞を分割する都度、n、o、p、・・・の順に追加することで、細胞ID枝番を更新する。図8の例では、n=14であることを表しており、これは、解凍処理した細胞が、凍結前に細胞を多数の容器に分割した内の14番目の容器の細胞であることを示している。
【0053】
また、容器IDの記述形式は「CTN-cc-dd-eeeee」である。CTNは容器IDであることを表す文字列、ccは容器の種類の大分類を表す数字であり、例えば、01はコニカルチューブ、02は角型フラスコ等である。ddは容器の種類の小分類を表す数字であり、例えば、容器の製品型番と紐付けられた数字等である。eeeeは容器の個体番号である。容器IDは、バーコードのような光学読み取り可能なコード、RFID(radio frequency identification)タグなどを容器に付しておき、これを読み取ることにより取得してもよい。また、容器IDを特定した容器の位置を追跡して、容器の現在位置から容器IDを取得するようにしてもよい。
【0054】
容器保管場所IDの記述形式は「PLA-ff-gg-hh-ii-jj」である。PLAは容器保管場所IDであることを表す文字列、ffは保管場所の種類を表す数字であり、例えば、01は冷蔵庫、02はインキュベータ、03は保管棚、04はテーブル等である。ggは同種の保管場所を識別する番号であり、例えば、03は3号機(ffが01冷蔵庫であれば冷蔵庫の3号機)等である。hhは容器ラックが置かれる保管場所内の区域を表す数字、容器ラックを用いない場合は容器が置かれる保管場所内の区域を表す数字であり、例えば、棚の番号である。iiは容器ラックが置かれる区域内の位置を表す数字、容器ラックを用いない場合は容器が置かれる区域内の位置を表す数字であり、例えば、棚の上の位置を表す数字である。jjは容器ラック内の容器の位置を表す数字であり、容器ラックを用いない場合は、例えば、00である。
【0055】
保管場所DB54には、保管場所IDと保管場所の位置とを対応付けた保管場所データが記憶される。保管場所の位置は、保管場所である冷蔵庫、インキュベータ、保管棚、テーブルのような設備の位置と、設備内における位置との組み合わせで表される。設備の位置は、例えば、設備が置かれた部屋に設定された座標によって表される。設備内における位置は、例えば、各設備内に設定された座標によって表される。保管場所DB54の物理的所在は、上述の実験定義DB50が記憶されるのと同じ記憶装置内でもよいし、別の記憶装置内でもよい。例えば、統括コントローラ30内の記憶装置に記憶されていてもよい。統括コントローラ30内に保管場所DB54がない場合、統括コントローラ30は、作業指示装置40を経由して保管場所DBから保管場所データを取得してもよいし、作業指示装置40を経由することなく、例えば、無線通信を介して保管場所DB54の記憶場所から直接保管場所データを取得してもよい。
【0056】
次に、ステップS12で、指示作成部144が、解凍実験のための実験定義データ(解凍実験開始時のデータ)を作成する。具体的には、入力部146が、細胞ID(及び細胞ID枝番)、実験前の容器ID、及び実験前の容器保管場所IDのいずれかの入力を受け付ける。指示作成部144は、受け付けられたいずれかのIDで実験定義DB50を検索して、該当する解凍実験入力前のデータを実験定義データとして実験定義DB50から取得する。そして、指示作成部144が、解凍実験のプロトコルIDを特定する。プロトコルIDは、ワークベンチ実験特定情報の一例である。プロトコルIDは、入力を受け付けることにより特定してもよいし、表示した選択肢のリストから選択させることにより特定してもよい。指示作成部144は、特定したプロトコルIDを実験定義データに追加する。
【0057】
図9の例では、プロトコルIDの記述形式は「PRT-kk-lll」である。PRTはプロトコルIDであることを表す文字列である。kkはプロトコルの種類を表す数字であり、例えば、01は解凍、02は維持継代、03は拡大継代、04はアッセイ前処理等である。lllは同種プロトコル内の識別番号である。
【0058】
また、指示作成部144は、実験ID、実験後の細胞ID枝番、実験後の容器ID、及び実験後の容器保管場所IDを実験定義データに追加する。各IDは、予め定めたルールに基づき自動で付与してもよいし、入力部146を介して手動による各IDの入力又は修正を受け付けてもよい。
【0059】
図9に、作成された実験定義データ(解凍実験開始時のデータ)の一例を示す。この実験定義データは、実験定義DB50にいったん記憶されてもよいし、実験定義DB50に記憶されることなく、統括コントローラ30へ送信されるようにしてもよい。前者の場合、指示作成部144が作成した実験定義データを、実験定義データアクセス部142が実験定義DB50に記憶させる。
【0060】
次に、ステップS14で、指示作成部144が、統括コントローラ30に対し、実験の実行を指示する。具体的には、入力部146が、実験IDの入力を受け付ける。指示作成部144は、受け付けられた実験IDで実験定義DB50を検索して、該当する実験定義データを実験定義DB50から取得する。上記ステップS12で作成した実験定義データを実験定義DB50に記憶させることなく送信する場合には、この処理は不要である。なお、実験IDに代えて、細胞ID(及び細胞ID枝番)、実験前の容器ID、及び実験前の容器保管場所IDのいずれかのIDで実験定義データを検索してもよい。
【0061】
指示作成部144は、取得した実験定義データに含まれるプロトコルIDで特定されるプロトコルデータをプロトコルDB52から取得する。プロトコルデータは、プロトコルID、実験内容、対象細胞、実験手順等がテキスト形式で記述されたデータである。プロトコルDB52には、実験の種類毎に応じて、複数のプロトコルデータが記憶されている。指示作成部144は、統括コントローラ30に、実験実行を指示するコマンド、実験定義データ、及びプロトコルデータを送信することにより、実験の実行を指示する。
【0062】
次に、ステップS16で、指示作成部144が、後続実験データを作成する。具体的には、指示作成部144は、実行を指示した実験の実験定義データに含まれる細胞IDを引き継ぐと共に、実行を指示した実験の実験定義データに含まれる実験後の細胞ID枝番、実験後の容器ID、及び実験後の容器保管場所IDを、実験前の細胞ID枝番、実験前の容器ID、及び実験前の容器保管場所IDとした、図10に示すような後続実験データを作成する。そして、実験定義データアクセス部142が、作成された後続実験データを実験定義DB50に記憶させる。そして、解凍実験を行う場合の作業指示処理は終了する。
【0063】
図11は、作業指示装置40のCPU41により実行される維持継代実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。なお、図7に示す解凍実験を行う場合の作業指示処理と同様の処理については、詳細な説明を省略する。
【0064】
ステップS20で、指示作成部144が、維持継代実験のための実験定義データ(維持継代実験開始時のデータ)を作成する。具体的には、細胞ID(及び細胞ID枝番)、実験前の容器ID、及び実験前の容器保管場所IDのいずれかのIDで検索して、該当する維持継代実験入力前のデータを実験定義データとして実験定義DB50から取得する。図12に示すように、維持継代実験入力前のデータは、過去の解凍実験、維持継代実験、及び拡大継代実験のいずれかの後続実験データとして記憶されている。
【0065】
指示作成部144は、取得した実験定義データが過去の解凍実験で作成された後続実験データである場合、図13に示すように、維持継代実験のプロトコルIDを特定し、実験定義データに追加する。また、指示作成部144は、実験ID、指定継代回数、実験後の細胞ID枝番、実験前の継代済み回数、実験後の培養時間、実験後の容器ID、及び実験後の容器保管場所IDを実験定義データに追加する。
【0066】
図13の例では、実験前の継代済み回数の記述形式は「m」である。mは維持継代、拡大継代を問わず継代処理をするとインクリメントされる。図13では、解凍処理後の継代済み回数を示しているが、凍結前に継代処理を行った場合にその継代処理の回数を含めてもよい。
【0067】
指示作成部144は、取得した実験定義データが過去の維持継代実験又は拡大継代実験で作成された後続実験データである場合、実験ID、実験後の細胞ID枝番、実験後の培養時間、実験後の容器ID、実験後の容器保管場所IDを実験定義データに追加する。各IDは、予め定めたルールに基づき自動で付与してもよいし、入力部146を介して手動による各IDの入力又は修正を受け付けてもよい。また、実験後の培養時間及びプロトコルIDを手動で変更してもよい。
【0068】
次に、ステップS22で、指示作成部144が、統括コントローラ30に対し、実験の実行を指示する。指示作成部144は、実験IDで実験定義DB50を検索して、該当する実験定義データを実験定義DB50から取得する。取得した実験定義データは、維持継代実験開始時のデータとして扱う。指示作成部144は、取得した実験定義データに含まれるプロトコルIDで特定されるプロトコルデータをプロトコルDB52から取得する。図14に、維持継代のプロトコルデータの一例を示す。なお、実際のプロトコルデータでは、試薬や培地の種類、量なども指定される。指示作成部144は、統括コントローラ30に、実験実行を指示するコマンド、実験定義データ、及びプロトコルデータを送信することにより、実験の実行を指示する。
【0069】
次に、ステップS24で、指示作成部144が、後続実験データを作成する。具体的には、指示作成部144は、実行を指示した実験の実験定義データの細胞ID、指定継代回数、実験後の培養時間、及びプロトコルIDを引き継ぐと共に、実行を指示した実験の実験定義データの実験後の細胞ID枝番、実験後の容器ID、及び実験後の容器保管場所IDを、実験前の細胞ID枝番、実験前の容器ID、及び実験前の容器保管場所IDとする後続実験データを作成する。また、指示作成部144が、後続実験データの実験前の継代済み回数を、実験実行を指示した実験定義データの実験前の継代済み回数に1回加算した回数とする。そして、実験定義データアクセス部142が、図15に示すような、作成された後続実験データを実験定義DB50に記憶させる。
【0070】
次に、ステップS26で、指示作成部144が、実験実行の指示をした時点から、当該実験の実験定義データに含まれている実験後の培養時間が経過する日時をユーザに通知する。例えば、指示作成部144は、画面にメッセージを表示してもよいし、当該日時の所定時間前にリマインドの電子メールをユーザに送信してもよい。また、指示作成部144は、当該実験の実験定義データに含まれている実験前の継代済み回数に1回加算した回数が指定継代回数に一致する場合は、最終回の維持継代実験後の培養時間が経過する日時である旨も通知する。そして、維持継代実験を行う場合の作業指示処理は終了する。
【0071】
拡大継代実験を行う場合の作業指示処理は、図11に示す維持継代実験を行う場合の作業指示処理と同様である。ただし、図16及び図17に示すように、拡大継代実験において容器数が増えていくことに対応して、実験定義データ及び後続実験データも増える点が維持継代実験と異なる。
【0072】
なお、図16の例における細胞ID枝番(-n-o-p)のo=1,2は、実験ID00193の拡大継代処理で1番目の容器と2番目の容器とに分割した細胞のいずれであるかを示している。また、p=1,2は、実験ID00202,00203の拡大継代処理で1番目の容器と2番目の容器とに分割した細胞のいずれであるかを示している。例えば、2回目の拡大継代処理である実験ID00203における実験後の細胞ID枝番の「-14-2-1」は、1回目の拡大継代処理で2番目の容器に入れられ、2回目の継代処理で1番目の容器に入れられた細胞であることを示している。このように、細胞ID枝番により、細胞の分割の履歴を追跡することができる
【0073】
図18は、作業指示装置40のCPU41により実行されるアッセイ前処理実験を行う場合の作業指示処理の流れを示すフローチャートである。なお、図7に示す解凍実験を行う場合の作業指示処理及び図11に示す維持継代又は拡大継代実験を行う場合の作業指示処理と同様の処理については、詳細な説明を省略する。
【0074】
ステップS30で、指示作成部144が、アッセイ前処理実験入力前のデータから、アッセイ前処理実験のための実験定義データ(アッセイ前処理実験開始時のデータ)を作成する。図19に示すように、アッセイ前処理実験入力前のデータは、過去の解凍実験、維持継代実験、及び拡大継代実験のいずれかの後続実験データとして、実験定義DB50に記憶されている。
【0075】
次に、ステップS32で、指示作成部144が、統括コントローラ30に、実験実行を指示するコマンド、図20に示すような実験定義データ、及びプロトコルデータを送信することにより、実験の実行を指示する。
【0076】
次に、ステップS34で、指示作成部144が、図21に示すような後続実験データを作成する。そして、実験定義データアクセス部142が、作成された後続実験データを実験定義DB50に記憶させる。そして、アッセイ前処理実験を行う場合の作業指示処理は終了する。
【0077】
なお、上記の各作業指示処理では、作業指示装置40が、実験実行を指示するコマンド、実験定義データ、及びプロトコルデータを統括コントローラ30へ送信する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、作業指示装置40が、実験実行を指示するコマンド、実験IDを統括コントローラ30へ送信し、統括コントローラ30が、実験IDによって特定される実験定義データを実験定義DB50から取得し、取得した実験定義データに含まれるプロトコルIDによって特定されるプロトコルデータをプロトコルDB52から取得してもよい。実験実行を指示するコマンドと実験定義データなどの実験内容の特定に関するデータとの組み合わせが、準備搬送指示、ワークベンチ実験指示、又は保管搬送指示を構成する。
【0078】
統括コントローラ30は、プロトコルデータに基づいて、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20を制御するための動作指令を作成し、ローカルコントローラ11及びローカルコントローラ21を介して、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20を制御する。
【0079】
継代処理の場合を例に、統括コントローラによる制御処理について説明する。図22は、統括コントローラ30のCPUにより実行される制御処理の流れを示すフローチャートである。以下では、接着培養の例について説明する。
【0080】
ステップS100で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10に、継代処理の準備処理として、培養中の細胞を収めた第1容器を、第1インキュベータから取り出させ、ワークベンチの上まで搬送させる。第1容器は、例えば、角型フラスコ等である。
【0081】
具体的には、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に準備処理を指示する。準備処理の指示を受けたローカルコントローラ11の制御により、モバイルマニピュレータ10が、第1インキュベータの位置まで移動し、第1インキュベータの扉を開け、ハンド13Bで第1容器を把持する。そして、モバイルマニピュレータ10が、第1容器を把持した状態でワークベンチまで移動し、ワークベンチ上に第1容器を配置する。
【0082】
次に、ステップS200で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20に、継代処理を実行させる。ここで、図23を参照して、継代処理について説明する。
【0083】
ステップS202で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器からの培地の除去を指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、ハンド22BLで第1容器を把持し、ハンド22BRでアスピレータを把持し、アスピレータを操作して、第1容器内の培地を吸引除去するように、ワークベンチロボット20を制御する。
【0084】
次に、ステップS204で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器への細胞分散酵素液の添加を指示する。細胞分散酵素液は、細胞分散試薬の一例であり、例えば、トリプシンである。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、ハンド22BRで電動ピペッターを把持し、電動ピペッターを操作して、第1容器内に細胞分散酵素液を添加するように、ワークベンチロボット20を制御する。電動ピペッターの操作は、例えば、ハンド22BRのいずれかの指(例えば、第2指22B2R又は第3指22B3R)で吐出ボタンを押下することである。
【0085】
次に、ステップS206で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、第1容器を細胞観察装置まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の、細胞分散酵素液が添加された第1容器を、例えば、コンピュータ制御により観察対象物の拡大画像取得及び画像分析を行う光学顕微鏡等の細胞観察装置へ搬送し、細胞観察装置の所定位置に配置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。細胞観察装置としては、第1容器の透明な壁面を通して細胞を観察することができるだけの対物距離の長い装置が用いられる。
【0086】
次に、ステップS208で、統括コントローラ30が、細胞観察装置による観察結果に基づいて、継代処理が続行可能か否かを判定する。例えば、統括コントローラ30は、細胞観察装置から、観察結果として第1容器内の細胞の画像又は画像分析結果を取得し、細胞が容器壁から十分に剥離して浮遊状態となっている場合に、継代処理を続行可能であると判定する。なお、細胞観察装置による細胞の剥離度合いの観察は、細胞観察装置又は統括コントローラ30における画像処理を用いて自動で行われてもよいし、人手を介入させて行われてもよい。継代処理が続行可能な場合には、ステップS210へ移行し、続行不可の場合には、ステップS226へ移行する。なお、ステップS226へ移行する代わりに、数分間待ってから再度細胞観察装置による観察を試みてもよい。時間の経過と共に細胞の容器壁からの剥離が進行することが期待できる場合があるからである。
【0087】
ステップS210では、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、第1容器をワークベンチの上まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、細胞観察装置から第1容器を取り出して把持し、ワークベンチまで搬送して、ワークベンチ上に配置させるように、モバイルマニピュレータ10を制御する。以上説明したステップS206からステップS210までは、細胞観察装置で確認するまでもなく、細胞の容器壁からの剥離が十分にできていると推定できる場合には省略してもよい。例えば、同種の細胞を同様の条件で培養し、同様の条件で細胞の容器壁からの剥離に成功してきた実績がある場合である。
【0088】
次に、ステップS212で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、第1容器に酵素反応停止液及び新しい培地の少なくとも一方である添加物を添加させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、ハンド22BLに第1容器を把持させ、ハンド22BRに電動ピペッターを把持させ、第1容器内に添加物を添加するように、ワークベンチロボット20を制御する。以下では、細胞と添加物との混合物が収められた第1容器、又はその第1容器の内容物が移された第3容器を遠心分離用容器という。
【0089】
なお、細胞と添加物との混合物を第3容器に移す場合、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、その旨を指示する。指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、電動ピペッターを操作して、混合物を第1容器から吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。ここでの電動ピペッターの操作は、例えば、ハンド22BRのいずれかの指(例えば、第2指22B2R又は第3指22B3R)で吸引ボタンを押下することである。そして、ローカルコントローラ21は、ハンド22BLで、例えば、コニカルチューブ等の遠心分離用容器に持ち替えるように、ワークベンチロボット20を制御する。さらに、ローカルコントローラ21は、電動ピペッターを操作して、吸引した混合物を遠心分離用容器に移し替えるように、ワークベンチロボット20を制御する。ここでの電動ピペッターの操作は、例えば、ハンド22BRのいずれかの指(例えば、第2指22B2R又は第3指22B3R)で吐出ボタンを押下することである。
【0090】
なお、第1容器をそのまま遠心分離用容器とする場合は、第1容器は角型フラスコではなく、当初よりコニカルチューブを使用する。
【0091】
次に、ステップS214で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、遠心分離用容器を遠心分離機まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の遠心分離用容器を遠心分離機へ搬送し、遠心分離機の所定位置(例えば、回転部)に設置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。その際、遠心分離機の仕様上必要であれば、ローカルコントローラ11は、遠心分離用容器が設置されるべき部材を遠心分離機内から取り出してから当該部材に遠心分離用容器を設置し、その後当該部材を遠心分離機内に戻すように、モバイルマニピュレータ10を制御する。さらに、ローカルコントローラ11は、遠心分離機のスタートボタンを押下させ、遠心分離機の運転を開始させるように、モバイルマニピュレータ10を制御してもよい。なお、遠心分離機の運転開始操作は、統括コントローラ30が遠心分離機に制御信号を送信して行ってもよい。
【0092】
次に、ステップS216で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、遠心分離用容器をワークベンチの上まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、遠心分離機から遠心分離用容器を回収して把持し、ワークベンチまで搬送して、ワークベンチ上に配置させるように、モバイルマニピュレータ10を制御する。
【0093】
次に、ステップS218で、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、遠心分離用容器から細胞の一部を抽出し、試料ホルダに載置するよう指示する。試料ホルダは、細胞計測装置の仕様に合わせたものが用いられる。例えば、細胞計測装置が光学顕微鏡の場合には、試料ホルダはスライドガラスである。スライドガラスには試料を入れるくぼみがあってもよい。細胞計測装置の仕様によっては、試料ホルダとして何らかの容器が用いられる場合もある。
【0094】
指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、電動マイクロピペットを操作して、遠心分離用容器から細胞の一部を吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。そして、ローカルコントローラ21は、電動マイクロピペットを操作して、吸引した細胞を、例えば、細胞カウント用プレート等の試料ホルダのくぼみに吐出するように、ワークベンチロボット20を制御する。統括コントローラ30は、細胞計測の前に、計測対象の細胞を染色する処理をワークベンチロボット20に実行させてもよい。
【0095】
なお、電動マイクロピペットは、少量の細胞を吸引及び吐出可能な機器である。電動マイクロピペットの吸引及び吐出のオン及びオフの制御は、USBケーブル等を介した有線電子制御とし、ワークベンチロボット20のハンド22Bによるオン及びオフの操作は行わないようにしてもよい。
【0096】
次に、ステップS220で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に、試料ホルダを、細胞の数又は濃度を計測する細胞計測装置まで搬送させるよう指示する。指示を受けたローカルコントローラ11は、ワークベンチ上の試料ホルダを、例えばコンピュータ制御により観察対象物の拡大画像取得及び画像分析を行う光学顕微鏡等の細胞計測装置へ搬送し、細胞計測装置の設置部に設置するように、モバイルマニピュレータ10を制御する。なお、ここでの「設置部」は、試料ホルダがそこに設置されれば、その後は細胞計測装置による計測が可能となる設置部位を指す。設置部に設置された試料ホルダが細胞計測装置の機能により計測場所まで移動させられてもよく、設置部に設置されたまま計測可能である必要はない。
【0097】
次に、ステップS222で、統括コントローラ30が、細胞計測装置による計測結果に基づいて、継代処理が続行可能か否かを判定する。例えば、統括コントローラ30は、細胞計測装置から、計測結果として、試料ホルダ内の細胞の数又は濃度を取得し、細胞の数又は濃度が予め定めた閾値以上の場合に、継代処理を続行可能であると判定する。なお、細胞計測装置による細胞の数又は濃度の計測は、画像処理を用いて自動で行われてもよいし、人手を介入させて行われてもよい。継代処理が続行可能な場合には、ステップS224へ移行し、続行不可の場合には、ステップS226へ移行する。
【0098】
ステップS224では、統括コントローラ30が、ワークベンチロボット20のローカルコントローラ21に、1又は複数の第2容器への細胞の播種を指示する。なお、第2容器は、第1容器と同様のものでもよい。拡大継代の場合には、第2容器は、容器数1のまま容器のサイズを大きくする場合と、容器の数を増やす場合とがある。複数のウェル(くぼみ)が設けられた容器については、それぞれのウェルを第2容器とみなす。
【0099】
指示を受けたローカルコントローラ21は、例えば、図24の上図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、遠心分離用容器から、第2容器に播種する量の細胞(培地も含む)を吸引するように、ワークベンチロボット20を制御する。そして、ローカルコントローラ21は、図24の下図に示すように、電動マイクロピペットを操作して、吸引した細胞を、例えば、角型フラスコ等の第2容器に吐出するように、ワークベンチロボット20を制御する。ローカルコントローラ21は、この制御を、第2容器の数だけ繰り返す。また、必要に応じて、電動ピペッターを用いて、第2容器に培地を補充するようにしてもよい。
【0100】
ステップS226では、統括コントローラ30が、継代処理が続行不可であることを出力装置45から出力し、継代処理及び制御処理を終了する。その際、続行不可である理由を示す情報を出力に含めてもよい。そうすることにより、出力を受ける人又は上位システムが継代処理の状況を把握して適切に対処することが容易になる。なお、第1インキュベータ内の次の第1容器を継代処理の対象として、制御処理を継続するようにしてもよい。この場合、ステップS226の後、制御処理のステップS100に戻るようにすればよい。
【0101】
次に、ステップS300で、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10に、継代処理の片付け処理として、継代処理後の細胞が収められた第2容器を第2インキュベータに収納させる。第2インキュベータは、第1インキュベータと同一であってもよい。
【0102】
具体的には、統括コントローラ30が、モバイルマニピュレータ10のローカルコントローラ11に片付け処理を指示する。片付け処理の指示を受けたローカルコントローラ11の制御により、モバイルマニピュレータ10が、ワークベンチ上の第2容器を把持し、第2インキュベータの位置まで移動し、第2インキュベータの扉を開け、第2インキュベータ内に第2容器を収納する。そして、制御処理は終了する。
【0103】
以上説明したように、本実施形態に係るロボットシステムは,床上を移動するための機構及び物体を把持するための機構を備えたモバイルマニピュレータと、ワークベンチに対して固定されており、ワークベンチ上の物体を把持するための機構を備えたワークベンチロボットと、モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラ及びワークベンチロボットの動作を制御するコントローラと、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う作業指示装置とを含む。作業指示装置は、実験の対象とする細胞を第1保管場所から取り出すために必要な情報である準備搬送情報及びワークベンチロボットによる実験を特定する情報であるワークベンチ実験特定情報を含む実験定義データにアクセスする実験定義データアクセス部と、モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する準備搬送指示及びワークベンチロボットの動作を制御するコントローラに対するワークベンチ実験指示を作成する指示作成部とを備える。準備搬送指示は、準備搬送情報に基づいて作成する、実験の対象とする細胞を第1保管場所から取り出してワークベンチに搬送するための指示であり、ワークベンチ実験指示は、ワークベンチ実験特定情報に基づいて作成する、搬送された細胞に対する実験を実行するための指示である。これにより、実験の対象とする細胞の取り出し、及び必要であれば実験操作で処理された後の細胞の保管を含めて、細胞を扱う実験を自動化する
【0104】
また、上記実施形態では、図2に示すように、本発明のコントローラの一例として、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20とは独立した統括コントローラ30を用いる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、図25(A)に示すように、いずれかのワークベンチロボット20が統括コントローラ30を搭載するようにしてもよいし、図13(B)に示すように、いずれかのモバイルマニピュレータ10が統括コントローラ30を搭載するようにしてもよい。この場合、作業指示装置40は、統括コントローラ30と無線通信を行えばよい。
【0105】
また、図26(A)及び(B)に示すように、本発明のコントローラを、複数の分散コントローラ60で構成するようにしてもよい。この場合、分散コントローラ60同士で通信して、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々が互いに連携して動作するように制御する。この場合、作業指示装置40は、各分散コントローラ60と無線通信を行えばよい。
【0106】
なお、モバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々にローカルコントローラ11、21を設けず、統括コントローラ30又は分散コントローラ60がモバイルマニピュレータ10及びワークベンチロボット20の各々の各モータの動作を制御してもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、実験定義DBを実験ID毎にデータレコードを形成するデータ構造のデータベースの例で説明したが、これに限定されない。例えば、リレーショナルデータベースのような形態で、指定された実験を行うために必要なデータの抽出ができるようなデータベースが形成されていれば、実験定義データのデータ構造は問わない。
【0108】
また、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行したロボットシステム処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、ロボットシステム処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0109】
また、上記実施形態では、ロボットシステムプログラムが記憶装置に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、ブルーレイディスク、USBメモリ等の記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0110】
以下に、本開示に関する付記項を記載する。
【0111】
(付記項1)
床上を移動するための機構(12A)及び物体を把持するための機構(13)を備えたモバイルマニピュレータ(10)と、ワークベンチに対して固定されており、前記ワークベンチ上の物体を把持するための機構(22)を備えたワークベンチロボット(20)と、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラ及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラ(30)とを含むロボットシステム(100)に対して、細胞に対する実験を実行させるための作業指示を行う作業指示装置(40)であって、
前記実験の対象とする前記細胞を第1保管場所から取り出すために必要な情報である準備搬送情報及びワークベンチロボットによる実験を特定する情報であるワークベンチ実験特定情報を含む実験定義データ(50)にアクセスする実験定義データアクセス部(142)と、
前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する準備搬送指示及び前記ワークベンチロボットの動作を制御するコントローラに対するワークベンチ実験指示を作成する指示作成部(144)とを備え、
前記準備搬送指示は、前記準備搬送情報に基づいて作成する、前記実験の対象とする前記細胞を前記第1保管場所から取り出して前記ワークベンチに搬送するための指示であり、
前記ワークベンチ実験指示は、前記ワークベンチ実験特定情報に基づいて作成する、搬送された前記細胞に対する前記実験を実行するための指示である、
作業指示装置。
【0112】
(付記項2)
前記作業指示装置は、さらに、前記ワークベンチ実験特定情報の入力を受け付ける入力部(146)を備える、付記項1に記載の作業指示装置。
【0113】
(付記項3)
前記作業指示装置は、さらに、後続実験において利用するための、細胞を収納した容器を特定するデータ又は細胞を収納した容器を保管する第2保管場所を特定するデータを含む後続実験データを作成する後続実験データ作成部(148)を備える、付記項1又は付記項2に記載の作業指示装置。
【0114】
(付記項4)
前記実験定義データは、さらに、前記ワークベンチにおける前記実験が行われた後の細胞を第2保管場所に搬送するための情報である保管搬送情報を含み、
前記指示作成部は、さらに、前記モバイルマニピュレータの動作を制御するコントローラに対する保管搬送指示を作成し、
前記保管搬送指示は、前記保管搬送情報に基づいて作成する、前記ワークベンチにおける前記実験が行われた後の細胞を前記第2保管場所に搬送するための指示である、
付記項1~付記項3のいずれか1項に記載の作業指示装置。
【0115】
(付記項5)
前記作業指示装置は、さらに、後続実験において利用するための、細胞を収納した容器を特定するデータ又は前記第2保管場所を特定するデータを含む後続実験データを作成する後続実験データ作成部(148)を備える、付記項4に記載の作業指示装置。
【符号の説明】
【0116】
100 ロボットシステム
10 モバイルマニピュレータ
11 ローカルコントローラ
12 台車
12A 駆動輪
13 ロボットアーム
13A アーム
13B ハンド
20 ワークベンチロボット
21 ローカルコントローラ
22 ロボットアーム
22A アーム
22B、22BL、22BR ハンド
22B1、22B1L、22B1R 第1指
22B2、22B2L、22B2R 第2指
22B3、22B3L、22B3R 第3指
23 ビジョンセンサ
30 統括コントローラ
40 作業指示装置
41 CPU
42 メモリ
43 記憶装置
44 入力装置
45 出力装置
46 記憶媒体読取装置
47 通信I/F
48 バス
142 実験定義データアクセス部
144 指示作成部
146 入力部
148 後続実験データ作成部
50 実験定義DB
52 プロトコルDB
54 保管場所DB
60 分散コントローラ
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