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特開2024-131267車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法
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  • 特開-車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131267
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20240920BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240920BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20240920BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20240920BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
F16C33/64
F16C35/063
B60B35/14 V
B60B35/14 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041431
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 茂明
(72)【発明者】
【氏名】永井 奈都子
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA02
3J117BA10
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB07
3J117DB08
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA03
3J701EA03
3J701FA01
3J701FA13
3J701FA53
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB26
3J701XB33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軸受装置全体の大型化を抑制しつつ、軸受性能を確保し、車体の大型化および駆動トルクの増大に適合した小型軽量の車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】内周に複列の外側軌道面2c・2dを有する外方部材である外輪2と、外周に複列の外側軌道面2c・2dと対向する複列の内側軌道面3aが設けられたハブ輪3と、内側軌道面3aが設けられた外側継手部材17とを備える内方部材と、内方部材と外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体であるボール5A・5Bと、を備えた車輪用軸受装置において、内側軌道面3a・17aのうち、いずれかの小径である内側軌道面3aのP.C.Dと、複列のボールの軸方向ピッチBとの比が、3:1以上4.2:1以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面が設けられた内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置において、
前記内側軌道面のうち、いずれかの小径である内側軌道面のP.C.Dと、前記複列の転動体の軸方向ピッチBとの比が、3:1以上4.2:1以下である、
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記内側軌道面のうち、いずれかの小径である内側軌道面のP.C.Dと、前記複列の転動体の軸方向ピッチBとの比が、3.2:1以上4:1以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材は、外周に複列の前記内側軌道面のうち少なくとも一方が形成されたハブ輪を有し、
前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を挿入してスプライン嵌合させて、
前記等速自在継手の外方継手部材に前記複列の内側軌道面のうち少なくとも一方が形成され、
前記外側継手部材のアウター側嵌合部と、前記ハブ輪のインナー側嵌合部とは、全体的に密着した状態でスプライン嵌合される、
請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪用軸受装置の製造方法であって、
前記ハブ輪のインナー側嵌合部の外径に刃部を設け、前記外側継手部材のアウター側嵌合部の内径に環状溝部を設け、
前記外側継手部材のアウター側嵌合部に前記ハブ輪のインナー側嵌合部を挿入するとき、前記刃部によって前記環状溝部の径方向外側の壁面を切削する、
車輪用軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの複列の軌道面間に転動体が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
また、従来、ドライブシャフトの一端が等速自在継手を介して車輪に連結される構造が公知となっている。等速自在継手は、ドライブシャフトの一端に取り付けられた内方継手部材と、車輪用軸受装置に連結される外方継手部材と、内側継手部材および外側継手部材のトラック溝間に組み込まれた複数のトルク伝達ボールと、内側継手部材の外球面と外側継手部材の内球面との間に介在してトルク伝達ボールを保持する保持器を主要な構成要素としている。
【0004】
等速自在継手に連結される車輪用軸受装置においては、内周に複列の外側軌道面が一体に形成された外輪と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成され、内周に等速自在継手の外側継手部材がスプライン嵌合される雌スプラインが形成されるハブ輪、および前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、外周に複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記内方部材と外輪のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-123957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、EVなどの普及による車体の大型化や重量増に伴い、等速自在継手にかかる負荷が大きくなる傾向がある。軸受荷重の増大には、車輪用軸受装置全体の大型化で対応していたが、等速自在継手および車輪用軸受装置の大型化は、車両重量の増大およびそれに伴う燃費(電費)の悪化、走行性能の低下の原因となっていた。
【0007】
また、車体の大型化や重量増は、駆動トルクの増大に繋がり、ひいては、重量増やエンジン駆動からモーター駆動への転換は、トルクの増大によって外側継手部材におけるスプライン嵌合部分のスティックスリップに起因する騒音、いわゆるカッキン音の発生が問題となりつつある。さらに、EVは、静音性が高いため、従来のエンジン搭載車両よりも、騒音の抑制が望まれていた。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、軸受装置全体の大型化を抑制しつつ、軸受性能を確保し、車体の大型化や重量増および駆動トルクの増大に適合した小型軽量の車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面が設けられた内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置において、
前記内側軌道面のうち、いずれかの小径である内側軌道面のP.C.D(Pitch Circle Diameter)と、前記複列の転動体の軸方向ピッチBとの比が、3:1以上4.2:1以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車輪用軸受装置全体の大型化を抑制しつつ、軸受性能を確保し、車体の大型化や重量増および駆動トルクの増大に適合する、大径幅狭化が図られた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における上半分の構成を示す断面図。
図2】車輪用軸受装置の大径幅狭化の構成を示す模式図。
図3】車輪用軸受装置の第二実施形態における上半分の構成を示す断面図。
図4】車輪用軸受装置の第二実施形態における全体構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図1から図2を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0013】
図1に示されるように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両において図示しない車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、複列の転動体であるボール5A・5B、インナー側シール部材6、アウター側シール部材7、および磁気エンコーダ8、を具備する。車輪用軸受装置の内方部材は、内輪を設けず、ハブ輪3および等速自在継手11の外側継手部材17にインナー側の内側軌道面3a、17aを形成している。
【0014】
図1に示されるように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と外側継手部材17を支持する。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2aが設けられている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2bが設けられている。外輪2の内周面には、複列の外側軌道面2c・2dが形成されている。インナー側の外側軌道面2cは、外側継手部材17の外周面に設けられた内側軌道面17aと対向して形成される。また、アウター側の外側軌道面2dは、ハブ輪3の外周面に形成された内側軌道面3aと対向して形成される。外輪2の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に設けられている。S53C等の中炭素鋼からなる外輪2の外側軌道面2c・2dには、高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。これにより、外側軌道面2c・2dは、例えば、SUJ2に代表される高炭素クロム軸受鋼をずぶ焼きされた転動体である複数のボール5A・5Bの摩耗への耐性を有し、車輪用軸受装置1全体の強度が向上する。
【0015】
内方部材は、ハブ輪3と等速自在継手11の外側継手部材17によって構成されている。ハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪3は、略円筒状に形成され、例えば、S53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径されたインナー側嵌合部22が設けられている。インナー側嵌合部22の外周面には、環状に熱処理硬化され、インナー側端部外径には面取りが施されず、軸方向段面形状が略直角のスプライン状の刃部22aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ装置とを締結、固定するため、雄ねじが形成されたホイールボルト(図示しない)を螺合するための雌ねじ3cが形成されている。ハブ輪3の外周面には内側軌道面3aが設けられている。ハブ輪3の内側軌道面3aには、高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。これにより、外側軌道面2c・2dは、転動体である複数のボール5A・5Bの摩耗への耐性を有し、車輪用軸受装置1全体の強度が向上する。
【0016】
等速自在継手11は、ドライブシャフトを構成する中間軸の一端に設けられ、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材17と、その外側継手部材17のトラック溝と対向するトラック溝が外周面に形成された内側継手部材(図示せず)と、外側継手部材17のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に組み込まれたボール(図示せず)とからなる。外側継手部材17は、内側継手部材およびボールを収容したマウス部13と、マウス部13から軸方向に一体的に延び、外周面にスプライン14が設けられたステム部15を有する。マウス部13の内周面には、高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。これにより、外側軌道面2c・2dは、外側継手部材17のトラック溝の摩耗への耐性を有し、車輪用軸受装置1全体の強度が向上する。また、マウス部13の外径周面には、環状の磁気エンコーダ8が固設されている。
【0017】
外側継手部材17のハブ輪3と当接する部分のアウター側端部には、ハブ輪3のインナー側嵌合部22と突き合せるアウター側嵌合部16が設けられている。アウター側嵌合部16の内周面には、環状溝部16aが設けられている。
【0018】
ステム部15をハブ輪3の貫通孔に挿入するときは、スプライン14のインナー側、且つ、ハブ輪3の内側軌道面3aの直下に位置するパイロット嵌合部21により、両列軌道面の同心度を確保しながら、ハブ輪3のインナー側嵌合部22に外側継手部材17のアウター側嵌合部16を嵌合した状態で、ステム部15の端部に形成された雄ねじ部29にナット30を締め付けることによって、等速自在継手11をハブ輪3に固定している。ステム部15の外周面およびハブ輪3の貫通孔の内周面に形成されたスプライン14を嵌合させることにより、トルクを伝達可能に軸支される。外側継手部材17のステム部15の外周面に設けられたスプライン14には、高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。これにより、ステム部15は、トルクに対して十分な機械的強度を有し、車輪用軸受装置1全体の強度が向上する。
【0019】
また、外側継手部材17のアウター側嵌合部16に設けられた環状溝部16aに、ハブ輪3のインナー側嵌合部22のスプライン状の刃部22aを挿入することにより、PCS嵌合を施すものである。PCS嵌合とは、熱処理硬化された刃部22aを未熱処理部に対して切削しつつ嵌合する方式である。インナー側嵌合部22の刃部22aには、高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。また、外側継手部材17のアウター側嵌合部16の外周面側から内側軌道面17aまでの部分には高周波焼き入れが施されており、表面硬さが58~64HRCの範囲に硬化処理が施されている(図1の太線斜線部分参照)。そして、アウター側嵌合部16の内周面側には、焼き入れを施さず、未熱処理部が残されている。
【0020】
これにより、環状溝部16aの未熱処理部の壁面、即ち、環状溝部16aの径方向外周面を刃部22aが切削しながら挿入されることとなり、アウター側嵌合部16およびインナー側嵌合部22が隙間なく嵌合される。つまり、アウター側嵌合部16に対してインナー側嵌合部22が全体的に密着した状態でスプライン嵌合される。切削屑は、環状溝部16aのインナー側底部に設けられた空間に貯留される。
【0021】
外側継手部材17とハブ輪3との嵌合固定において、ステム部15の外周面およびハブ輪3の貫通孔の内周面に形成されたスプライン14によりトルクの主伝達が行われる。さらに、外側継手部材17のアウター側嵌合部16に設けられた環状溝部16aと、ハブ輪3のインナー側嵌合部22の刃部22aとの間で、トルクが補助的に伝達可能に軸支される。
【0022】
このように構成することにより、PCS嵌合によって固設されることで、ハブ輪3のインナー側端部が外側継手部材17の肩部によって押圧支持され、かつ、抜け耐力が付与されるため、軸受部に繰り返しのモーメント荷重が作用した際のステム部15と雄ねじ部29との間のくびれ部に発生する応力を低減することができ、くびれ部における折損を防止することができる。
【0023】
さらには、スプライン14による嵌合と、環状溝部16aと、刃部22aとの間のPCS嵌合を併用することにより、車軸回りの異音を効果的に抑制することができる。即ち、従来のスプライン嵌合においては、駆動トルク負荷により、ステム部15の外周面およびハブ輪3の貫通孔の内周面に形成されたスプライン14、および、ステム部のねじれに伴い生じる、ハブ輪、あるいは内輪のインナー側端面と外側接手部材の当接面との間のスティックスリップに起因して金属音が発生する。スティックスリップは、スプライン14にかかる過大な負荷によって発生するが、ハブ輪3のインナー側嵌合部22の刃部22aとの間で、トルクが補助的に伝達可能に軸支されることで、負荷を分散させてスティックスリップの発生を抑制することができるのである。
【0024】
転動体である複数のボール5A・5Bは、保持器9によって保持されることにより構成されている。インナー側のボール5Aの列は、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと、外側継手部材17の外周面に設けられた内側軌道面17aとの間に転動自在に挟まれている。アウター側のボール5Bの列は、ハブ輪3のアウター側の外側軌道面2dと、ハブ輪3の外周面に形成された内側軌道面3aとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側のボール5Aの列とアウター側のボール5Bの列とは、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および外側継手部材17との両軌道面間に転動自在に収容されている。外方部材である外輪2は、インナー側のボール5Aの列およびアウター側のボール5Bの列を介してハブ輪3および外側継手部材17を回転可能に支持している。
【0025】
また、保持器9は、ボール5A・5Bが個別に嵌るポケットを有しておりポケットの内面は球面上に構成されている。保持器9の内面の中心Pの配列のピッチ円直径すなわちボール5A・5Bの配列のピッチ円直径をP.C.D.とする。
【0026】
本実施形態においては、内側軌道面3aおよび内側軌道面17aは、どちらも同一の径で形成されている。内側軌道面3aのP.C.Dと、複列のボール5A・5Bの軸方向ピッチBとの比は、3:1以上4.2:1以下である。これにより、車輪用軸受装置1の大径幅狭化が図られる。また、より好ましくは、複列のボール5A・5Bの軸方向ピッチBとの比は、3.2:1以上4:1以下である。このように構成することにより、車体重量の増加による負荷の増大にも適応した車輪用軸受装置1を提供することができる。
【0027】
以下に、内側軌道面3aのP.C.Dと、複列のボール5A・5Bの軸方向ピッチBの測定結果を示す。
【表1】
実施例1~3のP.C.Dと、複列のボールの軸方向ピッチBとの比は、3:1以上4.2:1以下となり、いずれも良好な負荷容量を示した。
【0028】
以上のように、内周に複列の外側軌道面2c・2dを有する外方部材である外輪2と、外周に複列の外側軌道面2c・2dと対向する複列の内側軌道面3aが設けられたハブ輪3と、内側軌道面3aが設けられた外側継手部材17とを備える内方部材と、内方部材と外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体であるボール5A・5Bと、を備えた車輪用軸受装置において、内側軌道面3a・17aのうち、いずれかの小径である内側軌道面3aのP.C.Dと、複列のボールの軸方向ピッチBとの比が、3:1以上4.2:1以下である。
【0029】
このように構成することにより、車輪用軸受装置1の大径幅狭化が図られ、車輪用軸受装置1全体の大型化を抑制しつつ、軸受性能を確保し、車体の大型化および駆動トルクの増大に適合することができる。
【0030】
ここで、車輪用軸受装置1の大径幅狭化について詳細に説明する。図2に示すように、車輪用軸受装置1において、複列の転動体であるボール5A・5Bの列の作用点間距離Lを同等としつつ、大径幅狭化を図る。図2において、従来のボール5A・5Bの列を二点鎖線で示し、本実施形態におけるボール5A・5Bの列を実線でしめす。このように、従来のボール5A・5Bの列の接触角線と同一の接触角線上にボール5A・5Bの中心を配置することで、ボール5A・5Bの列の作用点間距離Lを同等としたまま、大径幅狭化を達成することができる。このように構成することにより、駆動力伝達用のスプライン嵌合を大径化しつつ、軸受重量の増加を抑制することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、等速自在継手11をハブ輪3に固定する方法等して、ステム部15の端部に形成された雄ねじ部29にナット30を締め付けることによって、等速自在継手11をハブ輪3に固定しているがこれに限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、ステム部15のアウター側端部に加締め部40を設けることにより、ハブ輪3の貫通孔のアウター側端部に固定することも可能である。
【0032】
環状溝部16aの未熱処理部の壁面に刃部22aが切削しながら挿入されることとなり、隙間なく嵌合される。このように構成することにより、ステム部15の外周面およびハブ輪3の貫通孔の内周面に形成されたスプライン14によりトルクの主伝達が行われるが、同時に外側継手部材17のアウター側嵌合部16に設けられた環状溝部16aと、ハブ輪3のインナー側嵌合部22の刃部22aとの間で、トルクが補助的に伝達可能に軸支される。
【0033】
このように構成することにより、ハブ輪3のインナー側端部が、PCS嵌合によって固設されることで外側継手部材17の肩部で押圧支持され、かつ、抜け耐力が付与されるため、ステム部15と加締め部40との間のくびれ部にかかる負荷を低減することができ、くびれ部における折損を防止することができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、複列の転動体のP.C.Dが同一である構成としたがこれに限定するものではなく、例えば、インナー側の転動体のP.C.Dが、アウター側の転動体のP.C.Dよりも大きい構成であってもよい。
【0035】
図4に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両において車輪(図示しない)を回転自在に支持する。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、複列の転動体であるボール5A・5B、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。車輪用軸受装置の内方部材は、内輪4およびハブ輪3にインナー側の内側軌道面3a、4aを形成している。
【0036】
図4に示されるように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4を支持する。外輪2のインナー側端部には、インナー側開口部2aが設けられている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2bが設けられている。外輪2の内周面には、複列の外側軌道面2c・2dが形成されている。インナー側の外側軌道面2cは、内輪4の外周面に設けられた内側軌道面4aと対向して形成される。また、アウター側の外側軌道面2dは、ハブ輪3の外周面に形成された内側軌道面3aと対向して形成される。
【0037】
内方部材は、ハブ輪3と内輪4によって構成されている。ハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径されたインナー側嵌合部22が設けられている。インナー側嵌合部22の外周面には、環状に刃部22aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪またはブレーキ装置とを締結、固定するため、雄ねじが形成されたホイールボルト(図示しない)を螺合するための雌ねじ3cが形成されている。ハブ輪3の外周面には内側軌道面3aが設けられている。
【0038】
内輪4は、インナー側のボール5Aに予圧を与えるものである。内輪4は、円筒所に形成され、内輪4の外周面には、周方向に環状の内側軌道面4aが形成される。内輪4のインナー側の内周には、ハブ輪3のインナー側嵌合部22と嵌合するアウター側嵌合部51が設けられている。
【0039】
外側軌道面2cは、外側軌道面2dよりも径方向外側に設けられている。また内輪4のインナー側嵌合部22の径方向外側面と、外輪2の外側軌道面の径方向内側面とは、部分的に当接してシール部分を形成している。この場合、より小径であるアウター側のボール5BのP.C.Dと複列のボール5A・5Bの軸方向ピッチBとの比が、3:1以上4.2:1以下となる。
【0040】
なお、本実施形態では、車輪用軸受装置1は、外側継手部材17の外周面に内輪軌道面を設けた第四世代構造として構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明は、ハブ輪に一対の内輪が圧入固定された第二世代構造、もしくはハブ輪の外周にアウター側の転動体の列の内側軌道面が形成されている第三世代構造の車輪用軸受装置であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
5A・5B ボール(転動体)
11 等速自在継手
13 マウス部
14 スプライン
15 ステム部
16 アウター側嵌合部
16a 環状溝部
17 外側継手部材
22 インナー側嵌合部
22a 刃部
29 雄ねじ部
30 ナット
図1
図2
図3
図4