(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131271
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】褥瘡の予防・改善用マットおよび褥瘡の予防・改善方法
(51)【国際特許分類】
A47C 27/14 20060101AFI20240920BHJP
A61G 7/057 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A47C27/14 B
A47C27/14 D
A61G7/057
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041441
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】591080874
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】上山 昇
【テーマコード(参考)】
3B096
4C040
【Fターム(参考)】
3B096AA01
3B096AB02
3B096AC12
3B096AD07
4C040AA01
4C040GG03
(57)【要約】
【課題】表面洗浄可能でありつつ、従来よりも通気性に優れる褥瘡の予防・改善用マット、およびこのマットを利用した褥瘡の予防・改善方法を提供する。
【解決手段】マット1は、身体の少なくとも一部が載置される、褥瘡の予防・改善用マットであって、島状に複数個点在する連結部2cと閉じられた周縁部2dによって2枚の外装材2a、2bが一体化された袋体2と、袋体2の内部に充填された発泡ビーズとを有し、複数の連結部2cは、第1の方向と、第1の方向と平面視で交差する第2の方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されており、身体側の外装材2aは、最も近くで隣り合う連結部2cの間においてこの連結部2c同士を繋ぐ皺状の凹部2eを有し、身体側の外装材2aの反対側の外装材2bに対して伸縮性が低い防水シートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の少なくとも一部が載置される、褥瘡の予防・改善用マットであって、
島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、前記袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、
複数の前記連結部は、第1の方向と、前記第1の方向と平面視で交差する第2の方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されており、
前記身体側の外装材は、最も近くで隣り合う前記連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、前記身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートであることを特徴とする褥瘡の予防・改善用マット。
【請求項2】
前記防水シートは、布地の上にゴム弾性を有する樹脂が被覆されたシートであり、
前記樹脂により形成された樹脂層は、前記身体側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の褥瘡の予防・改善用マット。
【請求項3】
前記防水シートの厚みが、前記防水シートの反対側の外装材の厚みよりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2記載の褥瘡の予防・改善用マット。
【請求項4】
前記凹部は、延在方向に沿って視認した側面視において、曲率半径の変化点を少なくとも4つ有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の褥瘡の予防・改善用マット。
【請求項5】
前記凹部は、前記身体の少なくとも一部が載置された際に前記身体に接触しない非接触部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の褥瘡の予防・改善用マット。
【請求項6】
褥瘡を予防する、または褥瘡の症状を改善するための褥瘡の予防・改善方法であって、
島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、前記袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、前記身体側の外装材が、最も近くで隣り合う前記連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、前記身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートである褥瘡の予防・改善用マットを準備する工程と、
前記褥瘡の予防・改善用マットを椅子またはベッドの上に設ける工程と、
前記身体の少なくとも一部を、前記凹部の少なくとも一部が前記身体に接触しないように前記褥瘡の予防・改善用マットの上に載置する工程と、
を備えることを特徴とする褥瘡の予防・改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡(床ずれ)を予防する、または褥瘡の症状を改善するための褥瘡の予防・改善用マットおよび褥瘡の予防・改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化の進展により、寝たきりの高齢者が増加している。寝たきりなどにより長期にわたって同じ姿勢が維持されると、皮膚の同じ部分が持続的に圧迫され褥瘡が生じる場合がある。褥瘡は、圧迫を受けやすい肩甲骨や、肘頭部、仙骨、踵の周囲に生じる場合が多い。褥瘡の症状としては、皮膚の発赤や、ただれ、潰瘍などがある。
【0003】
褥瘡を予防・改善するためには、体圧を分散させることが重要と考えられており、褥瘡防止マットやパッドなどが提案されている(例えば特許文献1参照)。このような褥瘡防止用具の素材には、ウレタンフォームが多く用いられている。しかし、ウレタンフォームは、体圧分散には優れるものの、通気性が悪いことが指摘されている。また、身体が沈み込むことで体位交換が行いづらく、寝たきりの人や介助者の負担を増加させる傾向がある。一方、褥瘡の予防・改善には、利用者の血流を促進させることが重要との指摘もある。
【0004】
適度な体圧分散を有しつつ、通気性に優れ、利用者の血流促進が図れる褥瘡の予防・改善用マットとして、袋体と、該袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、複数の連結部の間に、身体からの荷重を受ける複数の突出部が形成されているマットが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-224324号公報
【特許文献2】特開2021-23788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の褥瘡の予防・改善用マットの場合、突出部の適度な反発力によって、身体とマットとの間に空間が生じ、その結果、通気性が向上する旨が記載されている。また、浸出液などで汚染されても洗浄できるように身体側に防水性の素材が配置されたマットが記載されている。しかし、このようなマットであっても、使用者が汗をかきやすく、褥瘡が悪化しやすい夏場などの時期には、身体とマットとの間の湿気が高まりやすいため、通気性により優れたマットが望まれる場合がある。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、表面洗浄可能でありつつ、従来よりも通気性に優れる褥瘡の予防・改善用マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の褥瘡の予防・改善用マットは、身体の少なくとも一部が載置される、褥瘡の予防・改善用マットであって、島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、上記袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、複数の上記連結部は、第1の方向と、上記第1の方向と平面視で交差する第2の方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されており、上記身体側の外装材は、最も近くで隣り合う上記連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、上記身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートであることを特徴とする。
【0009】
上記防水シートは、布地の上にゴム弾性を有する樹脂が被覆されたシートであり、上記樹脂により形成された樹脂層は、上記身体側に設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記防水シートの厚みが、上記防水シートの反対側の外装材の厚みよりも大きいことを特徴とする。
【0011】
上記凹部は、延在方向に沿って視認した側面視において、曲率半径の変化点を少なくとも4つ有することを特徴とする。
【0012】
上記凹部は、上記身体の少なくとも一部が載置された際に上記身体に接触しない非接触部を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の褥瘡の予防・改善方法は、褥瘡を予防する、または褥瘡の症状を改善するための方法であって、島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、上記袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、上記身体側の外装材が、最も近くで隣り合う上記連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、上記身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートである褥瘡の予防・改善用マットを準備する工程と、上記褥瘡の予防・改善用マットを椅子またはベッドの上に設ける工程と、上記身体の少なくとも一部を、上記凹部の少なくとも一部が上記身体に接触しないように上記褥瘡の予防・改善用マットの上に載置する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の褥瘡の予防・改善用マットは、島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、複数の連結部は、第1の方向と、第1の方向と平面視で交差する第2の方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されており、身体側の外装材は、最も近くで隣り合う連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートであるので、マット利用者が身体の少なくとも一部を載置した際に、身体と防水シートとの間に通気経路となる筋状の隙間が形成されやすく、従来よりも通気性に優れる。その結果、本発明のマットは、表面洗浄可能でありつつ、防水シートと利用者の身体の間の湿度が過度に高まることを防止でき、褥瘡の予防・改善に効果的である。
【0015】
防水シートは、布地の上にゴム弾性を有する樹脂が被覆されたシートであり、樹脂により形成された樹脂層は、身体側に設けられているので、身体から荷重を受けた際の突出部の身体への形状追従性と、凹部の形状維持性が両立されやすい。その結果、表面洗浄性、通気性に優れるとともに、使用感にも優れる。
【0016】
防水シートの厚みが、防水シートの反対側の外装材の厚みよりも大きいので、凹部の形状維持性がより高く、通気性により優れる。
【0017】
凹部は、延在方向に沿って視認した側面視において、曲率半径の変化点を少なくとも4つ有するので、凹部が略矩形状になりやすいことで構造的に強度が高まりやすく、凹部と身体との全面的な密着が起こりにくい。
【0018】
凹部は、身体の少なくとも一部が載置された際に身体に接触しない非接触部を有するので、身体と防水シートとの間に通気経路が確保され、通気性に特に優れる。
【0019】
本発明の褥瘡の予防・改善方法は、島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、身体側の外装材が、最も近くで隣り合う連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートである褥瘡の予防・改善用マットを準備する工程と、褥瘡の予防・改善用マットを椅子またはベッドの上に設ける工程と、身体の少なくとも一部を、凹部の少なくとも一部が身体に接触しないように褥瘡の予防・改善用マットの上に載置する工程と、を備えるので、身体と防水シートとの間に通気経路となる筋状の隙間が形成されやすく、介護者などは、容易に患者などの褥瘡予防や改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の褥瘡の予防・改善用マットの斜視図である。
【
図2】本発明の褥瘡の予防・改善用マットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る褥瘡の予防・改善用マットの一例を
図1に示す。
図1は、該マットの斜視図である。
図1のマット1は、平面視略正方形で厚みを有するクッション様形状である。本発明のマットのサイズは、寝たきりの人などの利用者の身体の少なくとも一部が載置されるサイズであればよい。例えば、踵周囲や仙骨周囲などの身体の一部のみを載置するマットであれば、第1の方向(
図1のX軸方向)の長さが30~60cm程度であり、第1の方向と平面視で直交する第2の方向(
図1のY軸方向)の長さが30~60cm程度である。また、利用者の全身を載置するマットであれば、直方体状であり、長手方向の長さが120~200cm程度、短手方向の長さが50~100cm程度である。
【0022】
図1に示すように、マット1は2枚の外装材2a、2bからなる袋体2と、該袋体2の内部に充填された発泡ビーズ(
図2参照)とを有する。袋体2は、独立して島状に複数個点在する連結部2cと周縁部2dとによって外装材2a、2bが一体化され、全体が密閉されたキルティング状の袋体となっている。2枚の外装材2a、2bを連結する連結部2cは、内部に充填される発泡ビーズの移動を防ぐ間隔であればよく、また、隣り合う連結部同士は、後述する金属製パイプの外径を超える間隔でそれぞれ配置される。
【0023】
マット1の周縁部2dは、使用時において、充填された発泡ビーズが散逸しない程度に閉じられていればよい。周縁部2dは、2枚の外装材2a、2bの周縁を連結するとともに、別布による縁取りにより補強されることが好ましい。縁取りを設けることにより、布のほつれなどを防ぐことができる。
【0024】
利用者の身体側に配置される外装材2aは、防水シートである。防水シート2aとしては、基材となる布地の上にゴム弾性を有する樹脂が被覆されたシート(ゴム被覆シート)、撥水加工生地、樹脂シートなどが挙げられる。ゴム被覆シートとしては、例えば、織物、編物、不織布などの上に、ウレタンゴム、天然ゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴムなどのゴム弾性を有する樹脂が、トッピング加工、コーティング加工、ラミネート(熱溶着)加工、ディッピング(含浸)加工などによって被覆された布が挙げられる。撥水加工生地としては、例えば、表面にフッ素系やシリコーン系の表面処理剤のスプレーコーティングなどにより形成された100μm以下の撥水層を有する撥水加工生地が挙げられる。樹脂シートとしては、例えば、布地を含まないポリウレタン系樹脂シートや、塩化ビニル系樹脂シートが挙げられる。
【0025】
利用者の身体の反対側に配置される外装材2bとしては、編織布などの布地が用いられることが好ましい。これにより、マット1を製造する際の発泡ビーズ充填工程において、圧縮空気が袋体2の内側から外側へと容易に拡散され、スムーズに発泡ビーズを充填することができる。外装材2bが編織布である場合、袋体2は、防水シート2aと、編織布の外装材2bからなるキルティング状の袋体2となり、2つの外装材2a、2bの表面がマット1の外皮を形成する。
【0026】
編織布は、主に、単層編織布で形成されるが、必要に応じて複層とすることができる。編織布の織り方としては、特に制限がなく、緯編、経編など公知の編み方や、平織、綾織など公知の織り方であればよい。本発明においては、発泡ビーズが散逸しない程度の編み目や織り目が必須であるが、また、後述する発泡ビーズ充填時に圧縮気体が通過しやすいように、高い空気透過性を有することが好ましい。また、ポリエーテル・エステル系弾性糸やポリウレタン系弾性糸を使用するなどして、編織布全体として弾性回復性のある伸縮性布地であることが好ましい。
【0027】
外装材2bは、体圧分散性の観点からは、伸縮性が高く、袋体内部により多くの発泡ビーズを充填可能な編物であることが好ましい。また、編物は、織物に比べて目が詰まっていないため通気性の観点からも好ましい。
【0028】
防水シートがゴム被覆シートや撥水加工生地である場合、基材として用いる布地は外装材2bと同様に編織布とすることができる。マット利用者の使用感の観点からは、基材の布地は、伸縮性が高く、柔軟性に優れる編物であることが好ましい。防水シートは、特に、編物の上に、ウレタンゴムまたはシリコーンゴムを、コーティング加工、ラミネート加工、またはディッピング加工によって被覆したシートであることが好ましい。この場合、防水シートは、織物などの布地上に単に防水フィルムを被覆した場合に比べて、布地と樹脂とが一体化しやすいため、柔軟性、防水性とともに、マット利用時に通気経路となる筋状の隙間の形成されやすさおよび安定性にも優れる。上記加工方法で被覆した場合、樹脂が布地の繊維の間に浸透しやすいため、防水シートにおける樹脂層と布地層との間の密着性にも優れる。
【0029】
2枚の外装材は、周縁部および連結部で相互に連結される。連結方法としては、2枚の外装材の縫い合わせ、2枚の外装材の同時編み、接着剤による接着、熱融着などにより一体化される。縫い合わせは2枚の外装材を重ねて縫製することにより形成されるものであり、同時編みは布地形成時に連結部などを形成する方法である。なお、外装材2aがゴム被覆シートである場合、2枚の布地の縫い合わせや同時編みによって一体化された後に、身体側の布地の上にゴム弾性を有する樹脂で被覆する加工を行い防水シートとしてもよい。
【0030】
周縁部と、該周縁部に最も近い連結部との距離は、最も近くで隣り合う連結部同士の距離よりも小さいことが好ましい。この場合、周縁部と、該周縁部に最も近い連結部との間に皺が形成されやすく、マットの中央部と周縁部とが複数の皺で通気可能に連通されやすく、通気性により優れる。
【0031】
褥瘡が進行すると患部から滲出液がにじみ出てくることがある。滲出液が付着するとマットが汚染されることになるが、身体側の外装材が防水シートであることで、マットの洗浄が可能となる。また、身体側とは反対側の外装材には防水加工を施さないことで、マット内部に蓄積される熱を放熱させることができ、マット全体の通気性を維持できる。
【0032】
防水シート2aは、外装材2bに対して伸縮性が低い。これにより、マット製造時に発泡ビーズが袋体2に充填されると、外装材2bが比較的伸びやすいのに対して、防水シート2aは伸びにくく、発泡ビーズからの力を受けると皺状の凹部2eが形成されやすい。そのため、袋体にマットとして機能するのに必要な量の発泡ビーズが充填されると、最も近くで隣り合う連結部2c、2cの間においてこの連結部2c、2c同士を繋ぐ凹部2eが形成される。
【0033】
本発明の褥瘡の予防・改善用マットは、マット利用者が身体の少なくとも一部を載置しても、防水シート2aの伸縮性が外装材2bよりも比較的低いことで、凹部2eの形状が維持されやすく(身体の形状に追従しにくく)、身体と防水シートとの間に通気経路となる筋状の隙間が確保されやすい。そのため、身体側の防水性に優れるとともに通気性にも優れる。
【0034】
ここで、本明細書における伸縮性は、「JIS L 1096 2020織物及び編物の生地試験方法」に基づいた試験により得られる伸び率と伸長回復率とから判断され、伸長回復率が一定の値以上(例えば、60%以上)であるうえで、伸び率が大きいほど伸縮性が高く、伸び率が小さいほど伸縮性が低いと判断する。
【0035】
マット1において、袋体2内における発泡ビーズの発泡倍率は、例えば、70~90倍である。マット1は、連結部2cと、該連結部から2番目に近い連結部2cとの間に、身体からの荷重を受ける突出部3を有している。突出部3は、発泡ビーズからの圧力を受けることで大きな皺は形成されていない。また、マット1において、外装材2bが編物で、袋体2内における発泡ビーズの充填比率が80%以上であることが好ましい。この場合、外装材2bが大きく伸びる一方で、防水シート2aは伸び難く、凹部2eがより深く形成されやすいため、通気性に一層優れる。また、袋体2の内部を連結部2cによってある程度区分けした上で、発泡ビーズの充填比率を高くすることで、充填された発泡ビーズの自由な移動が制限できる。その結果、突出部3に適度な反発力が付与され、身体を部分的に点で支えることができるとともに、身体とマットとの間に適度な空間が生まれる。なお、充填比率は、袋体内部の空間全体積に対する発泡ビーズの全体積の割合(%)をいう。発泡ビーズの充填比率は、より好ましくは80%~95%であり、さらに好ましくは80%~90%である。
【0036】
図1において、連結部2cは、X軸方向と、X軸方向と平面視で交差するY軸方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されている。
図1に示すように、連結部2cを千鳥状に配置することで、突出部3が、略ひし形状に形成され、かつ、千鳥状に配置されるので、利用者の体圧をより分散させやすくすることができる。また、複数の突出部3の周囲に形成される凹部2e同士が繋がることで、2方向へ交差して伸びる複数の通気経路が形成され、通気性に優れる。
【0037】
X軸方向で隣り合う連結部2c間の距離は、Y軸方向で隣り合う連結部2c間の距離と同じであることが好ましい。この場合、複数の凹部2eは、XY平面内におけるX軸方向に対して45°の方向と、-45°の方向へ延在するように形成される。その結果、複数の凹部2eが繋がることで、直交する複数の通気経路が形成され、通気性に特に優れる。
【0038】
凹部の具体的な構造について、
図2および
図3を用いて説明する。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図2に示すように、最も近くで隣り合う連結部2c、2cの間に形成される凹部2eの延在方向に沿って切断したこの断面図において、連結部2cによって区分けされた充填室2fが形成されている。この充填室2f内に発泡ビーズ4が充填されている。
【0039】
凹部2eの深さDp(溝深さ)は、例えば、1mm~20mmである。この溝深さDpは、凹部2eを挟んで隣接する2つの突出部3、3の頂点から、2つの突出部3、3の頂点を通る防水シート2a上の線分の最下点までの深さである。溝深さDpをある程度確保することで、身体から荷重を受けた場合でも身体とマットとの間に筋状の隙間を生じさせやすくなる。溝深さDpは、好ましくは3mm~15mmであり、より好ましくは5mm~10mmである。
【0040】
図2において、突出部3を挟んで隣接する凹部2e、2e間の距離をL
cとすると、L
cは2cm~8cmが好ましく、3cm~7cmがより好ましい。この場合の距離L
cは、最も近くで隣り合う連結部2c、2c間の距離と略等しい。隣接する凹部2e、2e間の距離L
cと、それに対して直交する方向に延在する凹部間の距離とは、略等しいことが好ましい。
【0041】
防水シート2aの厚みは、凹部2eの形状維持の観点から、外装材2bの厚みよりも大きいことが好ましい。また、防水シート2aの厚みは、1.0~5.0mmであることが好ましい。この場合、防水シート2aは、発泡ビーズからの力や、身体からの荷重を受けても変形しにくく、通気経路が確保されやすい。
【0042】
図3は、2つの突出部とその間に形成された凹部の側面図を拡大した図である。
図3(a)は曲率半径の変化点を2つ有する凹部の側面図であり、
図3(b)は曲率半径の変化点を4つ有する凹部の側面図である。
図3に示すように、凹部2eを挟んで隣接する2つの突出部3、3の頂点間の距離をL
pとし、凹部2eの溝深さD
pに対して20%の深さD
bにおける凹部の幅を底部幅W
bとした場合、W
b/L
pは、例えば、0.01~0.4の範囲とすることができる。W
b/L
pは、凹部が身体に接触しにくいようにする観点から、0.01~0.3の範囲が好ましく、0.01~0.2の範囲がより好ましく、0.01~0.1の範囲がさらに好ましい。W
b/L
pは、0.01よりも小さい場合、身体とマットとの間の隙間は維持されやすいが、通気経路としては狭く通気性が不十分となるおそれがある。また、W
b/L
pが0.4よりも大きい場合、身体から大きな荷重が掛かった際に凹部と身体が接触しやすく、体とマットとの隙間が維持できないおそれがある。
【0043】
図3(b)のように曲率半径の変化点P
iを4つ有する凹部2eは、
図3(a)のように曲率半径の変化点P
iを2つ有する凹部2eと比べ、身体からの荷重が掛かった際に、溝底部分の形状が変化しにくく、体とマットとの隙間が維持されやすい。そのため、凹部2eは、通気性向上の観点から、延在方向に沿って視認した側面視において、曲率半径の変化点を少なくとも4つ有することが好ましい。この場合、マットに大きな荷重が掛かる場合でも十分な通気経路を確保しやすいため、使用者の体重や体形に関わらず広く使用できる。
【0044】
マットに充填される発泡ビーズの材質としては、発泡できる熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂には、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらは、単一の樹脂からなる発泡体粒子や、複数の樹脂を複合した発泡体粒子として使用できる。複数の樹脂を複合した発泡体粒子としては、例えばポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂を使用できる。特に、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂は、反発力に優れるので、褥瘡の予防または改善に適している。また、発泡剤としては、公知の発泡剤(プロパン、ブタン、ペンタンなど)を使用できる。
【0045】
マットに充填される発泡ビーズは、例えば、平均粒径が0.1~5.0mmの球状の発泡ビーズであり、好ましくは、平均粒径が3.0~5.0mmの球状の発泡ビーズである。また、発泡倍率は80~90倍が好ましい。平均粒径が0.1mm未満であると布地から散逸しやすくなり、5.0mmを超えるとキルティング状製品としての風合いに劣る。なお、平均粒径はレーザー回析・散乱法で測定される値である。
【0046】
発泡ビーズの表面は滑性処理されていることが好ましい。滑性処理することにより、マットの充填室に充填された発泡ビーズの流動性が改善され、マットとして使用したときにシットリ感を持たせることができる。滑性処理の方法としては、粘性の高い液体、固体潤滑剤などを発泡ビーズ表面に塗布する方法が挙げられる。粘性の高い液体を塗布する方法が作業上好ましい。粘性の高い液体としては、グリセリン、ポリブテン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、シリコンオイルなどが挙げられる。固体潤滑剤としてはグラファイト粉末、フッ素樹脂粉末などが挙げられる。これらの中で、グリセリンが作業上好ましい。また、発泡ビーズには、必要に応じて香料、マイナスイオン発生剤、遠赤外粉末などを配合することができる。
【0047】
マットに発泡ビーズを充填する方法について、
図4および
図5により説明する。
図4は充填装置であり、
図5は充填工程を示す図である。充填装置5は、発泡ビーズを貯蔵するホッパー6と、このホッパー6から供給される発泡ビーズの供給量を調整する供給弁6aと、発泡ビーズを移送するための圧縮気体供給管7とその供給量を調整する供給弁7aと、移送される発泡ビーズを袋体に充填するための導電性金属製パイプ9に連結する弾性ホース8と、供給弁6aおよび7aを制御する制御装置10とから構成されている。導電性金属製パイプ9を含めて充填装置全体がアース(図示省略)により電気的に接地されている。そのため、導電性金属製パイプ9内での内面接触による発泡ビーズの帯電を防ぐことができる。
【0048】
図5(a)に示すように、発泡ビーズを充填する前の袋体2には、発泡ビーズ充填口11が袋体の一部に設けられている。この発泡ビーズ充填口11より金属製パイプ9を袋体2内部に挿入する。発泡ビーズ充填に用いられる金属製パイプ9は円筒形であることが好ましい。またその外径は、袋体2に形成されている連結部の最短の隣同士(最も近くで隣り合う連結部同士)を通過挿入できる径以下に設定される。また、上記径以下であれば、袋体2の容量の大きさ、形状に応じて金属製パイプ9の外径を変化させることができる。金属製パイプ9の形状は直線状であることが好ましいが、袋体2の形状に応じて曲線とすることができる。金属製パイプ9の材質は導電性であればよく、特に発泡ビーズの帯電を防ぐことができる銅または銅合金製パイプであることが好ましい。
【0049】
袋体2内部に挿入された金属製パイプ9は、
図5(b)に示すように、その先端部を袋体2の最深部12に到達させる。発泡ビーズを充填する前の袋体2は任意の形態に変化できるので、金属製パイプ9が直線状であっても容易に最深部12に到達させることができる。その後に、制御装置10により制御される供給弁6aおよび7aを調整することで、発泡ビーズを袋体2の最深部12より、順次発泡ビーズ充填口11側に引き抜きながら、
図5(b)から
図5(d)に示すように、発泡ビーズ4を充填する。発泡ビーズ4の充填により、袋体2は所定の厚みを有するキルティング状となる。この際、最も近くで隣り合う連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部が形成され、発泡ビーズ4の充填率が高まるにつれて、凹部の溝深さが深く(大きく)なっていく。
【0050】
供給弁6aを開放した状態で、圧縮空気供給弁7aを開放して圧縮空気を金属製パイプ9側に供給すると、ホッパー6側が減圧状態となり、発泡ビーズ4は、圧縮空気と共に袋体2に供給・充填される。袋体2が、防水シートと編織布から形成されている場合、圧縮空気は袋体2の編織布より容易に放散される。
【0051】
発泡ビーズ4の充填が終了した後に、
図5(e)に示すように、発泡ビーズ充填口11を縫い合わせる。その後、縫い合わされた発泡ビーズ充填口11を袋状体内部に折り返し、
図5(f)に示すように、周縁部2dに沿って縫い合わせ、その後縁取りすることにより、褥瘡の予防・改善用マットが完成する。このマットは、発泡ビーズ充填口を充填した後に縫製により封止するので、発泡ビーズを散逸することなく封止できる。
【0052】
以上より、本発明のマットは、それ自体は低通気性(低透湿性)の防水シートが身体側に設けられていながら、身体とマットとの間に通気経路が形成されやすいため、蒸れにくい。特に、防水シートの凹部が、身体の少なくとも一部が載置された際に身体に接触しない非接触部を有する場合、身体とマットとの間に通気経路が確保されるため、防水性と通気性を両立することができる。
【0053】
本発明のマットは、褥瘡の予防・改善方法に好適に利用できる。褥瘡の予防・改善方法について、以下に説明する。本発明の褥瘡の予防・改善方法は、マットを準備する工程と、マットをベッドまたは椅子の上に設ける工程と、身体をマットの上に載置する工程とを備える。
【0054】
マットを準備する工程では、島状に複数個点在する連結部と閉じられた周縁部によって2枚の外装材が一体化された袋体と、袋体の内部に充填された発泡ビーズとを有し、身体側の外装材が、最も近くで隣り合う連結部の間においてこの連結部同士を繋ぐ皺状の凹部を有し、身体側の外装材の反対側の外装材に対して伸縮性が低い防水シートである褥瘡の予防・改善用マットを準備する。この工程で準備するマットにおいて、複数の連結部が、第1の方向と、第1の方向と平面視で交差する第2の方向にそれぞれ整列して千鳥状に配置されていることが好ましい。なお、複数の連結部は、防水シート上に凹部が形成されれば、自由に配置されていてもよい。
【0055】
マットをベッドまたは椅子の上に設ける工程では、褥瘡の予防・改善用マットを防水シートが上を向くようにして、椅子またはベッドの上に設ける。この際、凹部の溝深さが浅くならないように、マットを大きく屈曲させる(例えば、曲率半径15cm以下)ことなく椅子の座面またはベッドに沿わせて設けることが好ましい。マットを設ける際の曲率半径としては、凹部の溝深さを十分に確保する観点から、20cm以上であることが好ましく、100cm以上であることがより好ましい。マットの曲率半径が15cm以下の場合、体とマットとの間に隙間が形成されにくくなる。なお、椅子としては、車椅子などの座った状態で移動可能な椅子であってもよいし、据え置き式の椅子であってもよい。
【0056】
身体をマットの上に載置する工程では、身体の少なくとも一部を、凹部の少なくとも一部が身体に接触しないように褥瘡の予防・改善用マットの上に載置する。
【0057】
本発明のマットは、褥瘡を予防または改善するため、長時間にわたって同じ姿勢が維持される人に利用されることが好ましい。本発明のマットの利用者としては、寝たきりの高齢者や、入院患者、長時間の手術患者、車椅子利用者などが挙げられる。例えば、車椅子利用者の場合、本発明のマットは、車椅子の座面に敷くマットとして利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の褥瘡の予防・改善用マットは、表面洗浄可能でありつつ、従来よりも通気性に優れるので、医療機関や高齢者施設などにおいて褥瘡を予防または改善するマットとして利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 マット(褥瘡の予防・改善用マット)
2 袋体
2a 外装材(防水シート)
2b 外装材
2c 連結部
2d 周縁部
2e 凹部
2f 充填室
3 突出部
4 発泡ビーズ
5 充填装置
6 ホッパー
7 圧縮気体供給管
8 弾性ホース
9 金属製パイプ
10 制御装置
11 発泡ビーズ充填口
12 袋体の最深部