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特開2024-131272水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラム
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  • 特開-水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131272
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20240920BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20240920BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240920BHJP
【FI】
C02F1/00 D
C02F1/00 V
C02F1/50 510A
C02F1/50 520B
C02F1/50 531M
C02F1/50 550L
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041442
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊
(72)【発明者】
【氏名】久本 祐資
(72)【発明者】
【氏名】山口 太秀
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】給水地での水質を精度よく向上するための情報を提供することができる、水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係る水質管理方法は、少なくとも1つの給水地において、給水される水の水質情報を取得するステップと、前記水質情報に基づいて、配水池での水の処理を制御するステップと、を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの給水地において、給水される水の水質情報を取得するステップと、
前記水質情報に基づいて、配水池での水の処理を制御するステップと、
を備えている、水質管理方法。
【請求項2】
前記水質情報は、残留塩素濃度、色度または濁度の少なくとも一つであり、
前記水の処理の制御は、薬品注入量を制御することにより行う、請求項1に記載の水質管理方法。
【請求項3】
前記水の処理を制御するステップでは、
前記給水地の位置情報及び滞留時間情報に基づいて、当該給水地点における前記残留塩素濃度の目標値を設定し、
前記給水地での前記残留塩素濃度の計測値と、前記目標値の乖離に基づいて、前記薬品注入量を制御する、請求項2に記載の水質管理方法。
【請求項4】
前記配水池における水の残留塩素濃度をCin[mg/L]、前記給水地で計測される水の残留塩素濃度をCTP[mg/L]としたとき、以下の式(1)から算出される前記Cinに基づいて、前記薬品注入量を制御する、請求項2または3に記載の水質管理方法。
TP/Cin=exp(-kxtb) (1)
但し、kは包括残留塩素濃度減少速度係数[hr-1]、tbは滞留時間[hr]である。
【請求項5】
少なくとも1つの給水地において給水される水の水質情報を取得する水質情報取得部と、
前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく配水池の水の残留塩素濃度を出力する出力部と、
を備えている、水質管理装置。
【請求項6】
少なくとも給水地において水質情報を計測する計測装置と、
前記計測装置から前記水質情報を取得する水質情報取得部と、
前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく、配水池の水の残留塩素濃度を出力する出力部と、
を備えている、水質管理システム。
【請求項7】
コンピュータに、
少なくとも1つの給水地において、給水される水の残留塩素濃度を取得するステップと、
前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく、配水池の水の残留塩素濃度を出力するステップと、
を実行させる、水質管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の塩素濃度は、水道法によって0.1mg/L以上に保持することが定められている。そのため、水処理プロセスにおいては、給水地の水が適切な塩素濃度となるように調整する必要がある。例えば、特許文献1では、水処理プロセスに流入する原水に関する予想情報に基づいて、被処理水に対する薬品の注入量を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-168618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、給水地の残留塩素濃度を精度よく適切な値とするためには上記システムでは十分とは言えず、さらなる改良が要望されていた。このような問題は塩素濃度だけではなく、色度、濁度などの水質情報全般に要望される問題である。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、給水地での水質を精度よく向上するための情報を提供することができる、水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水質管理方法は、少なくとも1つの給水地において、給水される水の水質情報を取得するステップと、前記水質情報に基づいて、配水池での水の処理を制御するステップと、を備えている。
【0006】
本発明に係る水質管理装置は、少なくとも1つの給水地点において給水される水の水質情報を取得する水質情報取得部と、前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく、配水池の水の残留塩素濃度を出力する出力部と、を備えている。
【0007】
本発明に係る水質管理システムは、少なくとも給水地において水質情報を計測する計測装置と、前記計測装置から前記水質情報を取得する水質情報取得部と、前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく、配水池の水の残留塩素濃度を出力する出力部と、を備えている。
【0008】
本発明に係る水質管理プログラムは、コンピュータに、少なくとも1つの給水地において、給水される水の残留塩素濃度を取得するステップと、前記給水地の残留塩素濃度を調整するために、当該給水地における水質情報に基づく、配水池の水の残留塩素濃度を出力するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、給水地での水質を精度よく向上するための情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る水質管理システムで管理する管理地域の概略の一例を示す図である。
図2】本発明に係る水質管理システムの一実施形態を示す概略図である。
図3】水質管理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】水質管理装置のソフトウェア構成を示すブロック図である。
図5】水質管理方法を示すフローチャートである。
図6】本発明に係る水質管理システムで管理する管理地域の概略の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る水質管理システムの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る水質管理システムは、給水地で計測された水の残留塩素濃度に基づいて、水処理施設内にある配水池での水の残量塩素濃度を制御するためのシステムである。図1に示すように、本システムは、一の水処理施設(配水池)の管理地域における水の水質管理に用いられる。この管理地域では、配水池から水を供給するための水道網(図示省略)が形成され、水道網内の給水地で給水が行われる。管理地域には、家庭用施設(一戸建て、マンション等)、公共施設、浄水場などの種々の施設が含まれ、これらの施設の給水設備が給水地となり得る。本明細書では、この管理地域において、配水池から最も遠い給水地を末端給水地と称し、それ以外の給水地を中間給水地と称することとする。また、管理地域の外縁付近にある給水地を末端給水地と称することもある。この例では、配水池から配水された水は、中間給水地及び末端給水地においてそれぞれ給水されるか、あるいは中間給水地を経て末端給水地において給水される。本明細書で、単に給水地という場合には、末端給水地及び中間給水地の両方を意味する。
【0012】
<1.システム概要>
図2は、本実施形態に係る水質管理システムの概略構成を示す図である。図2に示すように、このシステムは、複数の計測装置1と、これら計測装置1とインターネットなどの回線を通じて接続された水質管理装置2と、を備えている。計測装置1は、給水地での水の残留塩素濃度を計測する装置である。計測装置1としては、公知の残留塩素計のほか、例えば、撮影した水の色から残留塩素濃度を推測する装置等とすることができる。計測装置1と、水質管理装置2とは直接回線を通じて接続することもできるし、計測装置1で取得した残留塩素濃度を、パソコン、タブレット、スマートフォンなどの携帯端末に入力し、携帯端末を介して水質管理装置に送信することができる。また、携帯端末に、撮影した水の色から残留塩素濃度を推測可能なアプリケーションをインストールしておき、推測された残留塩素濃度を、携帯端末を介して水質管理装置2に直接送信することもできる。このように、水質管理装置2に残留塩素濃度を送信可能な計測装置1、計測装置1と携帯端末の組み合わせ、または残留塩素濃度を算出可能な携帯端末が、本発明の計測装置に相当する。
【0013】
<2.水質管理装置のハードウェア構成>
図3は、水質管理装置2のハードウェア構成の一例である。この水質管理装置2は、制御部21、記憶部22、外部インタフェース23、及び通信インタフェース24が電気的に接続されたコンピュータである。このようなコンピュータとしては、例えば、汎用のパーソナルコンピュータ、専用のコンピュータ等で構成することができるほか、タブレットコンピュータなどで構成することもできる。また、水質管理装置2を複数のコンピュータで構成することもできる。なお、図3では、外部インタフェース23及び通信インタフェース24を「外部I/F」及び「通信I/F」と記載している。
【0014】
制御部21は、CPU、RAM、ROM等を含み、プログラム及びデータに基づいて各種情報処理を実行するように構成される。記憶部22は、例えば、HDD、SSD等の補助記憶装置で構成され、水質管理プログラム221、給水地計測データ222、配水池計測データ223、制御データ224、及び水質管理装置2を駆動するための種々のデータを記憶する。水質管理プログラム221は、計測装置1から送信された給水地の残留塩素濃度に基づいて、配水池の水の残留塩素濃度を算出するためのプログラムである。
【0015】
給水地計測データ222は、各給水地の水の残留塩素濃度であり、各給水地において計測装置1で計測されたデータである。配水池計測データ223は、配水池において計測された水の残留塩素濃度である。制御データ224は、水質管理プログラムによって算出された配水池の水の残留塩素濃度、残留塩素濃度の調整のために配水池の水に注入される薬品注入量、後述する式(1)に用いる各給水地のデータなど、配水池の水の処理を制御するための各種のデータである。
【0016】
外部インタフェース23は、外部装置と接続するためのインタフェースであり、接続する外部装置に応じて適宜構成される。本実施形態では、外部インタフェース23が、表示装置4及び入力装置5に接続されている。表示装置4は、例えば、ディスプレイであり、上述した入力、出力等を表示するのに利用される。ディスプレイは、特には限定されず、公知の液晶ディスプレイ等を用いることができる。入力装置5は、キーボード、マウスなどであり、上述した入力を行うためのものである。その他、外部インタフェース23には、各種の外部装置を適宜接続することができる。例えば、表示装置4及び入力装置5を兼ねたタッチパネルディスプレイを用いることができる。
【0017】
通信インタフェース24は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。すなわち、通信インタフェース24は、計測装置1(または携帯端末)や他の装置と通信を行うように構成された通信部の一例である。
【0018】
なお、水質管理装置2の具体的なハードウェア構成は、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部21は、複数のプロセッサを含んでもよい。また、制御部21は、FPGAにより構成されてもよい。記憶部22は、制御部21に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。
【0019】
<3.水質管理装置のソフトウェア構成>
図4は、水質管理装置のソフトウェア構成の一例である。水質管理装置2においては、以下の処理が行われる。すなわち、水質管理装置2の制御部21は、記憶部22に記憶された水質管理プログラム221をRAMに展開すると、その水質管理プログラム221をCPUにより解釈及び実行して、図4に示すようなデータ取得部(水質情報取得部)211、及び出力部212として機能する。
【0020】
データ取得部211は、各給水地での計測装置1からの残留塩素濃度を受信する。また、データ取得部211は、配水池で計測された水の残留塩素濃度も受信する。配水池の残留塩素濃度は、配水池の施設から送信されてもよいし、計測した残留塩素濃度をマニュアルで直接入力することもできる。
【0021】
出力部212は、給水地の水の残留塩素濃度が規定値(目標値)以上になるように配水池における水の残留塩素濃度を算出する。そのため、各給水地においては残留塩素濃度の既定値が予め決められている。例えば、管理地域の末端給水地における残留塩素濃度は、水道法上、0.1mg/L以上とされる。但し、これ以上の既定値、例えば、0.15mg/L以上、あるいは0.20mg/L以上とすることもできる。また、中間給水地の残留塩素濃度は、末端給水地での残留塩素濃度が規定値以上になるように設定される。例えば、ある中間給水地の残留塩素濃度が0.5mg/L以上であれば、それよりも配水池から遠い末端給水地の残留塩素濃度を0.1mg/Lとすることができる。したがって、その中間給水地の残留濃度が0.5mg/L以上であることを確認できれば、その末端給水地の残留塩素濃度を測定することなく、末端給水地の残留塩素濃度が規定値以上であることを確認することができる。
【0022】
このように、末端給水地及び各中間給水地の残留塩素濃度の既定値、及び各末端給水地と各中間給水地との残留塩素濃度の規定値の関係は、予め決定されており、上述した制御データ224として記憶部22に記憶されている。
【0023】
出力部212は、次のように動作する。まず、取得した末端給水地または中間給水地の水の残留塩素濃度が規定値以上であるか否かを判断する。例えば、末端給水地の既定値を0.50mg/Lとした場合、計測された末端給水地での残留塩素濃度が0.50mg/L以上であれば、末端給水地での残量塩素濃度が適切であるため、配水池の水の残留塩素濃度を調整する必要はない。一方、末端給水地の水の残留塩素濃度が、0.50mg/L未満である場合、例えば、0.40mg/Lである場合には、末端給水地での残量塩素濃度が適切ではないため、配水池の水の残留塩素濃度の調整が必要である。
【0024】
この場合、計測された末端給水地の残留塩素濃度と規定値との乖離を求める。上記の例では、この乖離が0.10mg/Lであるため、末端給水地での残留塩素濃度が0.10mg/L以上増加するように配水池の水の残留塩素濃度を設定する。このとき、以下の式(1)により、配水池の水の残留塩素濃度を算出する。
【0025】
配水池における水の残留塩素濃度をCin[mg/L]と、給水地で計測される水の残留塩素濃度をCTP[mg/L]との関係は、以下の式(1)により表される。
TP/Cin=exp(-kxtb) (1)
但し、kは包括残留塩素濃度減少速度係数[hr-1]、tbは滞留時間[hr]であり、これらは給水地毎に設定されている。kは水温、水質等に応じて給水地毎に設定されている係数であり、tbは配水池から給水地までの水の滞留時間である。
【0026】
このように、k,tbは給水地毎に設定されている数値であるため、式(1)は給水地毎に相違する。そして、具体的には、以下のように配水池の水の残留塩素濃度をCinが算出される。例えば、上記の給水地について、k=0.11583、tb=6であるとき、上記式(1)の左辺の値は0.5となる。すなわち、配水池における水の残留塩素濃度Cin[mg/L]は、給水地における水の残留塩素濃度CTP[mg/L]の2倍となる。したがって、上記の乖離が0.10mg/Lであれば、配水池では残留塩素濃度が0.20mg/L以上増加するように薬品の注入が必要となる。
【0027】
続いて、出力部212は、算出された配水池の残留塩素濃度Cinから配水池に注入する薬品の注入量を算出する。例えば、残留塩素濃度Cinと対応する薬品注入量との関係を示すテーブルを予め作成しておくことができる。これに続いて、配水池では、算出された注入量の薬品を注入する。薬品は、塩素濃度を調整するための公知の薬品であり、例えば、次亜塩素酸ナトリウム等とすることができる。出力部212で算出された配水池の残留塩素濃度Cin及び薬品の注入量は、例えば、表示装置4への表示のほか、記憶部22への記憶、紙の媒体への印刷、水質管理装置2以外の各種の装置への送信、記憶部22以外の記憶媒体へ記憶、メール送信、音声での通知等、種々の方法により出力することができる。
【0028】
<4.水質管理方法の例>
次に、上記のシステムによる水質管理方法の一例について、図5を参照しつつ説明する。まず、計測装置1により、末端給水地において残留塩素濃度CTPを計測する(S1)。次に、計測装置1または計測者の携帯端末等から、計測した残留塩素濃度CTPを水質管理装置2へ送信する(S2)。水質管理装置2は、受信した残留塩素濃度CTPが、計測した末端給水地における残留塩素濃度の規定値未満であるか否かを判定する(S3)。その結果、計測した残留塩素濃度が規定値以上であれば(S3のNO)、処理を終了する。すなわち、末端給水地においては適切な残留塩素濃度の水が給水されていると判断する。
【0029】
一方、計測した残留塩素濃度が規定値未満であれば(S3のYES)、水質管理装置2は計測した末端給水地に対応する式(1)により、配水池での適切な残留塩素濃度Cinを算出する(S4)。続いて、算出された残留塩素濃度Cinに基づいて、水質管理装置2は配水池に注入すべき薬品の注入量を算出する(S5)。最後に、算出された注入量の薬品を配水池に注入する(S6)。薬品の注入は、S5の結果に基づいて、配水池の設備の機械が行ってもよいし、運転作業員等による人力で行ってもよい。また、S5の注入量の算出についても、水質管理装置が算出するほか、S4で算出された残留塩素濃度Cinに基づいて、運転作業員が算出してもよい。また、S4で算出された残留塩素濃度Cinは、上述した各種の方法で出力することができる。
【0030】
この例では、末端給水地を給水地として選定し、配水池における適切な残留塩素濃度Cinを算出したが、中間給水地を用いて残留塩素濃度Cinを算出することもできる。
【0031】
<5.式(1)のキャリブレーション>
次に、式(1)のキャリブレーションについて説明する。式(1)のkは、水温、水質等によって変化することがある。そのため、水温、水質等が変化すれば、kの値が変化するため、式(1)により正しいCinが算出できないおそれがある。そのため、正しいCinを算出するためには、そのときの水温、水質に適したkに修正する必要がある。この点について、説明する。
【0032】
例えば、上記の例のように、末端給水地の水の残留塩素濃度が0.40mg/Lである場合には、現状の薬品注入量では末端給水地において正しい残留塩素濃度が得られていないことになる。そこで、配水池において、現状の薬品注入量よりも多い任意の注入量にて薬品を注入し(上記の例では、残留塩素濃度が0.20mg/L以上増加する薬品を注入)、配水池の残留塩素濃度Cinを計測する。
【0033】
続いて、末端給水地または中間給水地にて残留塩素濃度CTPを計測する。このとき、残留塩素濃度CTPが規定値未満であれば、薬品の注入量が十分ではないため、注入量をさらに増やした後、再度、残留塩素濃度Cinを計測する。一方、残留塩素濃度CTPが規定値であれば、配水池において適切な量の薬品が注入されたことになる。こうして、給水地における残留塩素濃度CTPが規定値以上になったときの残留塩素濃度CTP、Cinを式(1)に代入し、kを算出する。したがって、このkが現状の水温、水質に適合したものとなり、式(1)のキャリブレーションが完了する。
【0034】
<6.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。従来は、給水地の残留塩素濃度を適切なものとするために、水処理施設(配水池)の情報のみを用いて残留塩素濃度を調整していた。そのため、実際の滞留時間や水道使用量等により、配水池で設定された残留塩素濃度では、実際に利用するときに既定値が満たされない場合がある。これに対して、本実施形態では、給水地の残留塩素濃度を用いて残留塩素濃度を調整している。すなわち、給水地の実情を考慮し、給水地で得られる残留塩素濃度を利用することで、配水池において適切な残留塩素濃度を算出している。したがって、本実施形態では、配水池の残留塩素濃度を精度よく算出するための情報を提供することができる。
【0035】
<7.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0036】
(1)上記実施形態では、1つの給水地(末端給水地及び中間給水地)の残留塩素濃度CTPに基づいて、残留塩素濃度Cinを算出しているが、複数の給水地の残留塩素濃度CTPに基づいて残留塩素濃度Cinを算出することができる。例えば、図6に示す例では、2つの中間領域と、1つの末端領域が示されている。各中間領域には、近接する複数の中間給水地が含まれている。一方、末端領域には、末端給水地と、これに近接する複数の中間給水地が含まれている。
【0037】
この場合、残留塩素濃度CTPを、1つの給水地の残留塩素濃度CTPではなく、領域内の複数の給水地から算出する。例えば、領域内のすべてまたは一部の給水地の平均値、中央値、最頻値などをその領域の残留塩素濃度CTPとして、式(1)を用いて残留塩素濃度Cinを算出することができる。このような複数の給水地での残留塩素濃度を用いることで、配水池の残留塩素濃度を精度よく算出することができる。この観点から、1つの領域に含まれる給水地は、統計的に近接した残留塩素濃度CTPが計測される傾向にある給水地であることが好ましい。
【0038】
(2)上記実施形態では、既定値として残留塩素濃度の下限値を規定しているが、上限値を設定することもできる。残留塩素濃度が高すぎると、例えば、トリハロメタンの生成が問題になる可能性があることによる。したがって、計測される残留塩素濃度CTPが所定の範囲に含まれるように、式(1)を利用して、所定範囲の残留塩素濃度Cinを算出することができる。
【0039】
(3)上記実施形態では、水質管理装置2において残留塩素濃度Cinから薬品の注入量を算出しているが、残留塩素濃度Cinを算出した後、薬品の注入量は水質管理装置2以外の装置やマニュアルで算出することもできる。なお、本発明の水質管理方法における「配水池での水の処理の制御」とは、例えば、薬品の注入量を調整することのほか、残留塩素濃度Cinを算出することも意味する。
【0040】
(4)式(1)の利用に当たっては、給水地の種類、計測を行う者の種類により、重み付けを行うこともできる。例えば、水質管理業務の従事者、データ収集頻度が高い者については、提供される水質情報の精度が高いと思われるため、高い重み付けをすることができる。重み付けの例として、水質管理業務の従事者を0.8、それ以外の水質管理に慣れていない者を0.2とすることができる。この場合、例えば、配水池からの距離がほぼ等しい領域内での給水地の残留塩素濃度の規定値が0.5mg/Lであるとき、水質管理業務の従事者が計測した残留塩素濃度が0.7mg/L、水質管理に慣れていない者が計測した残留塩素濃度が0.6mg/Lであれば、その領域内の給水地での残留塩素濃度は、(0.7mg/L×0.8+0.6mg/L×0.2)/(0.8+0.2)=0.68mg/Lと算出することができる。この数値は規定値よりも高いため、問題ないという判断になる。なお、水質管理業務の従事者及び水質管理に慣れていない者が複数存在する場合には、計測値(例えば、上記の0.7mg/L、0.6mg/L)は平均とすることができる。
【0041】
また、配水池からの距離に応じて重み付けすることができる。例えば、配水池の近傍の給水地を重視して、これらの給水地の重み付けを大きくすることができる。この場合、配管素材や配管距離等不明確な要素が少ないというメリットがあるためである。一方、配水池から遠方の給水地を重視して重み付けをすることもできる。この場合には、リスクのある地域を重点的に高い重みづけする。
【0042】
(5)上記実施形態においては、水質管理方法、水質管理装置、水質管理システム、及び水質管理プログラムとして、図5のS1~S6の説明を行ったが、本発明の課題は、給水地での水質を精度よく向上するための情報の提供である。そのため、この課題の解決のためには、少なくともS3及びS4の工程により、計測された残留塩素濃度CTPを入力とし、残留塩素濃度Cinが出力されればよい。したがって、上記実施形態のS5及びS6は付加的な事項であり、必要に応じて適宜実行すればよい。また、S1及びS2の工程にかかわらず、計測された残留塩素濃度CTPが、残留塩素濃度Cinを算出するための入力となればよい。
【0043】
(6)上記実施形態では、計測された末端給水地の残留塩素濃度CTPと規定値との乖離を求め、この乖離に基づいて、式(1)から現在の配水池の残留塩素濃度と必要な残留塩素濃度との差分を算出しているが、乖離を求めず、計測された末端給水地の残留塩素濃度CTPから式(1)に基づいて、配水池で必要な残留塩素濃度Cinを直接算出することもできる。
【0044】
(7)上記実施形態では、水質情報として残留塩素濃度を用いているが、これ以外でもよい。例えば、水質情報として、水の色度や濁度を用いることができ、このような水質情報を用いても上記実施形態で示した手法により、配水池において色度や濁度を向上するための水の処理を行うことができる。なお、水質情報として残留塩素濃度等の数値そのものを用いなくてもよく、これに対応する数値等のデータ(例えば、正規化した数値など)を用いることもでき、そのようなデータも残留塩素濃度等に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 :計測装置
2 :水質管理装置
21 :データ取得部(水質情報取得部)
22 :演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6