IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図1
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図2
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図3
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図4
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図5
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図6
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図7
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図8
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図9
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図10
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図11
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図12
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図13
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図14
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図15
  • 特開-締付工具及び被締付品の製造方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131274
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】締付工具及び被締付品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/153 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B25B23/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041445
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】菅原 弘行
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA06
3C038BB06
(57)【要約】
【課題】ハイロックファスナ等の規定のトルクがかかるとナットが破断するファスナを使用して部品を連結する場合において、ナットの切れ端をレンチから除去する手間を省けるようにすることである。
【解決手段】実施形態に係る締付工具は、規定のトルクで破断するナットを挿入して回転させるためのソケットレンチを形成する一方、他端に回転駆動装置のロータに着脱するための着脱構造を形成し、かつ前記規定のトルクで破断した前記ナットの切れ端を吸引するための吸引口を側面に開口させたパイプと、前記回転駆動装置で発生させたトルクで回転する前記パイプの前記吸引口から前記ナットの切れ端をエジェクタで吸引するための流路を形成し、かつ前記回転駆動装置の筐体に連結するための第1の連結部と、前記エジェクタのダクトと連結するための第2の連結部とを有する連結部材とを有するものである。
【選択図】 図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定のトルクで破断するナットを回転させてボルトに締付けるための締付工具であって、
一端に前記ナットを挿入して回転させるためのソケットレンチを形成する一方、他端に回転駆動装置のロータに着脱するための着脱構造を形成し、かつ前記規定のトルクで破断した前記ナットの切れ端を吸引するための吸引口を側面に開口させたパイプと、
前記回転駆動装置で発生させたトルクで回転する前記パイプの前記吸引口から前記ナットの切れ端をエジェクタで吸引するための流路を形成し、かつ前記回転駆動装置の筐体に連結するための第1の連結部と、前記エジェクタのダクトと連結するための第2の連結部とを有する連結部材と、
を有する締付工具。
【請求項2】
前記パイプを金属製とし、かつ
前記ソケットレンチを形成した前記パイプの前記一端の端面よりも、前記ボルトと前記ナットで連結される部品からの前記ナットの突出長さ及び前記ナットの形状に応じた距離だけ端面が突出した状態で前記パイプを回転可能に覆う樹脂製の保護パイプであって、前記連結部材に固定される保護パイプを更に有する請求項1記載の締付工具。
【請求項3】
前記エジェクタを更に有し、
前記エジェクタは、
前記連結部材と連結される前記ダクトと、
前記回転駆動装置がエアモータで前記ロータを回転させるように構成されている場合において、前記エアモータを回転させるために前記回転駆動装置から排気されるエアを前記ナットの切れ端を吸引するためのエアとして前記ダクト内に取り込むための流路を形成する連結管と、
を有する請求項1記載の締付工具。
【請求項4】
前記回転駆動装置を更に有する請求項1記載の締付工具。
【請求項5】
複数の部品に設けられた貫通孔に前記ボルトを挿入するステップと、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の締付工具を用いて前記ナットを前記ボルトに締付け、前記ナットを破断させることによって、前記ボルトの雄ねじに締付けられた破断後における前記ナットの雌ねじを有する部分と前記ボルトで前記複数の部品が連結された被締付品を製造するステップと、
を有する被締付品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、締付工具及び被締付品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に航空機部品を連結するためのファスナの1つとして、ハイロック(HI-LOK)(登録商標)ファスナが知られている。ハイロックファスナは、規定のトルクがかかると破断するファスナである。ハイロックファスナはボルトを部品の貫通穴に挿入して雄ねじが形成された先端を突出させ、レンチでナットをボルトに形成された雄ねじに締付けることによって使用される。レンチからナットにかかるトルクが規定値に達するとナットが破断するようになっている。
【0003】
ハイロックファスナを構成するボルトの先端には六角穴が形成されており、ボルトと部品との間に隙間がある場合には六角棒レンチをボルト先端の六角穴に挿入してボルトの回転を抑止しながらオープンレンチでナットが締付けられる。一方、部品にボルトが打ち込まれる場合には、六角棒レンチを使用せずにオープンレンチでナットを締付けることができる。
【0004】
また、ハイロックファスナを締付けるための専用の締付工具も知られている(例えば特許文献1乃至4参照)。ハイロックファスナ用の締付工具は、ボルト先端の六角穴に挿入するための六角棒レンチと、ナットを回転させるためのソケットレンチの双方を有しており、六角棒レンチをボルト先端の六角穴に挿入してボルトの回転を抑止しながらソケットレンチでナットが破断するまでナットを締付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4538483号明細書
【特許文献2】米国特許第5305666号明細書
【特許文献3】特開平6-155319号公報
【特許文献4】特開2011-230244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の締付工具でハイロックファスナを締付けると、破断したナットの切れ端がソケットレンチ内に残る。このため、ソケットレンチからナットの切れ端を取り除く手間が生じる。
【0007】
そこで本発明は、ハイロックファスナ等の規定のトルクがかかるとナットが破断するファスナを使用して部品を連結する場合において、ナットの切れ端をレンチから除去する手間を省けるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る締付工具は、規定のトルクで破断するナットを回転させてボルトに締付けるための締付工具であって、一端に前記ナットを挿入して回転させるためのソケットレンチを形成する一方、他端に回転駆動装置のロータに着脱するための着脱構造を形成し、かつ前記規定のトルクで破断した前記ナットの切れ端を吸引するための吸引口を側面に開口させたパイプと、前記回転駆動装置で発生させたトルクで回転する前記パイプの前記吸引口から前記ナットの切れ端をエジェクタで吸引するための流路を形成し、かつ前記回転駆動装置の筐体に連結するための第1の連結部と、前記エジェクタのダクトと連結するための第2の連結部とを有する連結部材とを有するものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る被締付品の製造方法は、複数の部品に設けられた貫通孔に前記ボルトを挿入するステップと、上述した締付工具を用いて前記ナットを前記ボルトに締付け、前記ナットを破断させることによって、前記ボルトの雄ねじに締付けられた破断後における前記ナットの雌ねじを有する部分と前記ボルトで前記複数の部品が連結された被締付品を製造するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る締付工具の構成を示す正面図。
図2図1に示す締付工具による締付対象となるハイロックファスナで2つの板状の部品を連結した例を示す図。
図3図1に示すソケットレンチ付吸引パイプの縦断面図。
図4図3に示すソケットレンチ付吸引パイプの左側面図。
図5図3に示すソケットレンチ付吸引パイプの斜視図。
図6図1に示す保護パイプの縦断面図。
図7図6に示す保護パイプの左側面図。
図8図6に示す保護パイプの斜視図。
図9図1に示す連結部材の上面図。
図10図9に示す連結部材の位置A-Aにおける断面図。
図11図9に示す連結部材の一部を取外した状態における斜視図。
図12図1に示すエジェクタにエア供給系として設けられる連結管の構成例を示す上面図。
図13図12に示す連結管の位置B-Bにおける断面図。
図14図12に示す連結管の斜視図。
図15図13に示す連結管の位置Cにおける拡大図。
図16図1に示す締付工具におけるエアの流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る締付工具及び被締付品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る締付工具1の構成を示す正面図である。
【0013】
締付工具1は、規定のトルクがかかるとナットが破断するファスナを締付けるための工具である。また、締付工具1は、ナットを回転させるのみならず、破断したナットの切れ端を回収する機能を有している。
【0014】
規定のトルクがかかるとナットが破断するファスナとしては、ハイロックファスナが代表的であるが、ハイロックファスナを発展させたハイライト(HI-LITE)(登録商標)ファスナなど、他の名称を有するファスナであっても良い。以降では、規定のトルクがかかるとナットが破断するファスナがハイロックファスナである場合を例に説明する。
【0015】
図2図1に示す締付工具1による締付対象となるハイロックファスナFで2つの板状の部品P1、P2を連結した例を示す図である。
【0016】
ハイロックファスナFは、棒状のボルトBと筒状のナットNで構成される。ボルトBとナットNの材質は鋼やチタン合金である場合が多い。ボルトBは後端に頭を有する一方、先端部分における外面にはナットNを締付けるための雄ねじが形成される。また、ボルトBの先端側における端面には、六角棒レンチを挿入するための六角穴が形成される。
【0017】
一方、ハイロックファスナFで連結対象となる複数の部品P1、P2には、ボルトBを挿入するための中心軸が共通の貫通孔が設けられる。部品P1、P2の厚さとボルトBの長さは、ボルトBを部品P1、P2の貫通孔に挿入すると雄ねじが部品P1、P2から突出するように決定される。
【0018】
両端が開口するナットNの一端側はボルトBの先端を挿入することが可能となっており、ナットNの内面には雌ねじが形成される。ナットNの他端側における側面の形状は、レンチで回転させることが可能な六角柱の側面形状となっている。このため、部品P1、P2に設けられた貫通孔にボルトBを挿入した後、レンチでナットNの他端側を回転させれば、部品P1、P2から突出するボルトBの雄ねじにナットNの雌ねじを締付けることができる。
【0019】
ナットNには、局所的に強度が小さく、レンチで規定のトルクを与えると破断する環状のくびれが設けられており、くびれよりも端部側のみがレンチで回転させることが可能な六角柱の側面形状を有している。このため、ボルトBの雄ねじにナットNの雌ねじを締付け、レンチからナットNにかかるトルクが一定の値を超えると、ナットNはくびれにおいて破断する。これにより、ハイロックファスナFによる部品P1、P2の連結が完了する。すなわち、ボルトBと破断後に残留するナットNで複数の部品P1、P2が連結される。また、レンチ側にはねじ切られたナットNの端部が廃棄物として残ることになる。
【0020】
ボルトBを部品P1、P2の貫通孔に挿入した場合に部品P1、P2に設けられた貫通孔の内部となるボルトBの部分には雄ねじが形成されず、雄ねじが形成されていないボルトBの部分の一部が部品P1、P2から突出するようにしても良い。その場合、ナットNの端面付近には雌ねじを形成せず、雄ねじが形成されていないボルトBの部分を挿入するための穴をナットNに形成すれば、ボルトBとナットN間における高精度の位置決めを行うことが可能となる。
【0021】
このため、ハイロックファスナFのボルトBはピン又はハイロックピンと呼ばれる場合もある。一方、ハイロックファスナFのナットNは環状であることからカラー又はハイロックカラーと呼ばれる場合もある。
【0022】
部品P1、P2の貫通孔とボルトBとの間に隙間がある場合には、ナットNを回転させるために、ボルトBの先端部分に形成される六角穴に六角棒レンチを挿入してボルトBの回転を抑止することが必要となる。すなわち、ナットNを回転させた場合にナットNとともにボルトBが部品P1、P2に対して回転しないように、六角棒レンチでボルトBの回転を抑止することが必要となる。
【0023】
これに対して、部品P1、P2の貫通孔にボルトBが圧入される場合のように部品P1、P2の貫通孔とボルトBとの間に隙間が無い場合には、ナットNを回転させるために、ボルトBの回転を抑止する必要は無い。すなわち、部品P1、P2の貫通孔の内面とボルトBとの間における摩擦力によってボルトBが部品P1、P2に対して回転しない場合には、ボルトBの回転を抑止する必要は無い。
【0024】
部品P1、P2の材質が複合材とも呼ばれる繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)である場合には、部品P1、P2の貫通孔とボルトBとの間に通常隙間が設けられる。これに対して、部品P1、P2の材質がアルミニウム合金に代表される金属である場合には、通常、ボルトBが部品P1、P2の貫通孔に打ち込まれる。これは、部品P1、P2の貫通孔周辺に圧縮残留応力を発生させて疲労強度を向上させるためである。
【0025】
図1に示す締付工具1は、上述したような規定のトルクで破断するナットNを回転させてボルトBに締付けるための工具であるが、六角棒レンチでボルトBの回転を抑止する必要が無い場合、すなわちボルトBが部品P1、P2の貫通孔に打ち込まれる場合に用いられる工具である。従って、図1に示す締付工具1は、主にアルミニウム合金等の金属からなる部品P1、P2をハイロックファスナFで連結する場合に使用される。
【0026】
締付工具1は、回転動力を発生させる回転駆動装置2に取付けるアタッチメントとしても良いし、回転動力を発生させる回転駆動装置2自体を構成要素としても良い。回転駆動装置2としては、エアモータ、油圧モータ或いは電動モータ等のモータで回転するロータを有する所望の装置を用いることができる。もちろん、従来のハイロックファスナF用の締付工具から六角棒レンチを取外した装置を回転駆動装置2として用いても良い。
【0027】
以降では、回転駆動装置2がエアラチェット3である場合を例に説明する。エアラチェット3は、エアモータ4の回転動力でロータ5を回転させる工具である。このため、典型的なエアラチェット3は、エアモータ4及びロータ5の他、ロータ5に回転対象を着脱できるようにロータ5の一部を露出させた状態でロータ5及びエアモータ4を収納する筐体6、圧縮エアを供給するためのホースを連結するためのカプラ7、排気エアを排出するための排気口8を有する。
【0028】
エアラチェット3を締付工具1の構成要素とするか締付工具1をエアラチェット3のアタッチメントとするかを問わず、エアラチェット3に取付けられる締付工具1の構成要素は、図1に例示されるように、ソケットレンチ付吸引パイプ9、保護パイプ10、連結部材11及びエジェクタ12で構成することができる。
【0029】
図3図1に示すソケットレンチ付吸引パイプ9の縦断面図、図4図3に示すソケットレンチ付吸引パイプ9の左側面図、図5図3に示すソケットレンチ付吸引パイプ9の斜視図である。
【0030】
図示されるようにソケットレンチ付吸引パイプ9は、一端にナットNを挿入して回転させるためのソケットレンチ13を形成する一方、他端にエアラチェット3のロータ5に着脱するための着脱構造14を形成したパイプである。ソケットレンチ13は横断面が六角形の穴を有する筒状の開口端として形成することができる。
【0031】
着脱構造14は、エアラチェット3のロータ5が有する着脱構造に合わせて決定される。図示された例では、エアラチェット3のロータ5に雌ねじが形成されていることから、着脱構造14が雄ねじとされているが、エアラチェット3のロータ5が有する着脱構造に応じて着脱構造14を所望の構造を有するカプラとしたり、切削工具のストレートシャンクのように単純な円柱形状としたりしても良い。
【0032】
着脱構造14が雄ねじである場合のように筒状の構造を有さない場合には、ソケットレンチ付吸引パイプ9のエアラチェット3側における端部は閉口端となる。ソケットレンチ付吸引パイプ9は、着脱構造14でエアラチェット3のロータ5に固定される。このため、エアラチェット3でソケットレンチ付吸引パイプ9とともにソケットレンチ13に挿入したナットNを回転させることができる。
【0033】
上述したようにナットNを回転させるとナットNの端部が破断し、切れ端が生じる。このため、ソケットレンチ付吸引パイプ9の内部には、破断したナットNの切れ端を回収するための経路が形成される。具体的には、ソケットレンチ13を形成する横断面が六角形の穴の最大径よりも直径が大きい吸引エアの流路15としてナットNの切れ端を回収するための経路がソケットレンチ付吸引パイプ9の内部に形成される。また、ソケットレンチ13を形成するソケットレンチ付吸引パイプ9の開口端は吸引エアを取込むためのエア取込口として利用される。
【0034】
一方、ソケットレンチ付吸引パイプ9の側面には、破断したナットNの切れ端を吸引するための吸引口16が開口している。このため、吸引エアの流路15内に導かれたナットNの切れ端を、吸引口16を介してソケットレンチ付吸引パイプ9から排出することができる。
【0035】
ソケットレンチ13を形成するソケットレンチ付吸引パイプ9の開口端から取込んだ吸引エアを側面の吸引口16から排出するためには、ソケットレンチ付吸引パイプ9のエアラチェット3側における端部からエアが漏れないようにすることが重要である。このため、吸引口16よりもエアラチェット3側におけるソケットレンチ付吸引パイプ9の部分は、着脱構造14の形状に関わらず、中空とせずに閉口端とすることが合理的である。逆に、吸引口16とソケットレンチ13の間におけるソケットレンチ付吸引パイプ9の部分については、ソケットレンチ付吸引パイプ9自体がエアラチェット3で回転することから、単純な円筒形状とすることが合理的である。
【0036】
ソケットレンチ付吸引パイプ9は、機械的強度が大きい金属製のナットNが破断するまでナットNにトルクを付与する必要があることから金属製とすることが現実的である。但し、機械的強度が大きいソケットレンチ13の先端が部品P2又はナットNの残留部分と接触すると部品P2又はナットNの残留部分が損傷する恐れがある。
【0037】
そこで、図1に例示されるように、ソケットレンチ13を保護パイプ10で覆うことができる。保護パイプ10は、ソケットレンチ付吸引パイプ9を回転可能に覆う樹脂製のパイプである。保護パイプ10の形状は、内部にソケットレンチ付吸引パイプ9を挿入できるようにソケットレンチ付吸引パイプ9の外面形状に応じて決定される。
【0038】
図6図1に示す保護パイプ10の縦断面図、図7図6に示す保護パイプ10の左側面図、図8図6に示す保護パイプ10の斜視図である。
【0039】
保護パイプ10は回転しないが、ソケットレンチ付吸引パイプ9の外面形状が単純な円筒形状である場合には、図示されるように、保護パイプ10も円筒形状とすることが合理的である。保護パイプ10の内部にはソケットレンチ13を形成したソケットレンチ付吸引パイプ9が挿入されるため、保護パイプ10の両端は開口端となる。
【0040】
保護パイプ10は、ソケットレンチ13側における端面が、ソケットレンチ付吸引パイプ9のソケットレンチ13側における端面よりも、部品P2からのナットNの突出長さ及びナットNの形状に応じた距離だけ突出するように配置される。また、保護パイプ10は、ソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16が保護パイプ10の外部で開口するように配置される。
【0041】
換言すれば、保護パイプ10の長さは、ソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16が保護パイプ10の外部で開口し、かつソケットレンチ13側における端面が、ソケットレンチ付吸引パイプ9のソケットレンチ13側における端面よりも、部品P2からのナットNの突出長さ及びナットNの形状に応じた距離だけ突出するように決定される。
【0042】
その結果、金属製のソケットレンチ13ではなく、樹脂製の保護パイプ10の先端が部品P2又はナットNに接触することになる。具体的には、図2に例示されるようにナットNに部品P2に向かって外径が大きくなるテーパが形成されている場合であれば、樹脂製の保護パイプ10がナットNのテーパ部に接触する。一方、ナットNにテーパ部が無い場合やテーパ部があってもナットNの最大径が保護パイプ10の内径よりも小さい場合には樹脂製の保護パイプ10が部品P2の表面に接触する。このため、金属製のソケットレンチ13がナットNのテーパ部又は部品P2の表面に接触することに起因するナットN又は部品P2の損傷を回避することができる。
【0043】
保護パイプ10の内径はナットNの最大径及びテーパ部の有無に合わせて決定されるが、ナットNの形状及び最大径には複数の種類がある。そこで、ナットNの形状及び最大径に合わせて、互いに異なる内径を有する複数の保護パイプ10を交換可能に準備しておくことができる。
【0044】
図9図1に示す連結部材11の上面図、図10図9に示す連結部材11の位置A-Aにおける断面図、図11図9に示す連結部材11の一部を取外した状態における斜視図である。
【0045】
連結部材11は、エアラチェット3で回転するソケットレンチ付吸引パイプ9を回転可能に保持しつつ、保護パイプ10及びエジェクタ12をエアラチェット3に連結するための部品である。保護パイプ10及びエジェクタ12は連結部材11を介してエアラチェット3の筐体6に固定される。
【0046】
従って、連結部材11は、連結部材11をエアラチェット3の筐体6に連結するための第1の連結部17、連結部材11にエジェクタ12を連結するための第2の連結部18及び連結部材11に保護パイプ10を連結するための第3の連結部19を有する。図示された例では、第1の連結部17が、エアラチェット3の筐体6を挟み込んでねじで固定する連結具となっている。
【0047】
また、連結部材11は、第1の連結部17でエアラチェット3に連結すると、エアラチェット3のロータ5を保護する筐体6の部分における環状の端面と接触する形状を有している。このため、ソケットレンチ付吸引パイプ9のエアラチェット3側における部分が外部に露出しないように連結部材11でソケットレンチ付吸引パイプ9を覆うことができる。もちろん、エアラチェット3のロータ5を保護する筐体6の部分を連結部材11に連結できるように第1の連結部17を構成しても良い。具体例として、ロータ5を保護する筐体6の円筒状の部分を連結部材11に差し込めるようにしても良い。
【0048】
また、エジェクタ12をエアラチェット3の筐体6と連結し、第2の連結部18でエジェクタ12を連結部材11と連結することによって、連結部材11をエアラチェット3の筐体6に間接的に固定するようにしても良い。その場合には、連結部材11をエアラチェット3の筐体6に連結するための第1の連結部17がエジェクタ12のダクト20等に取付けられ、連結部材11が分離した複数のパーツで構成される。すなわち、第1の連結部17、第2の連結部18及び第3の連結部19は、必ずしも一体化する必要はない。
【0049】
第2の連結部18及び第3の連結部19は、それぞれエジェクタ12を構成するダクト20の円筒状の端部及び保護パイプ10の円筒状の端部と連結するための構造を有している。このため、エジェクタ12のダクト20及び保護パイプ10を、それぞれ連結部材11に固定することができる。
【0050】
連結部材11及びエジェクタ12のダクト20は、保護パイプ10と同様に樹脂製とすることができる。その場合、第2の連結部18及び第3の連結部19の構造は、それぞれエジェクタ12を構成するダクト20の円筒状の端部及び保護パイプ10の円筒状の端部を差し込むだけの単純な構造とすることができる。具体的には、第2の連結部18及び第3の連結部19は、それぞれ円筒状の内面を形成する壁面を有する部分とすることができる。
【0051】
また、連結部材11は複雑な形状となることから樹脂製とすれば、三次元(3D:three-dimensional)プリンタを用いた造形によって容易に製作することが可能となる。同様に、ダクト20を含むエジェクタ12全体についても樹脂製とすれば、3Dプリンタを用いて容易に造形することが可連結部材11能となる。
【0052】
保護パイプ10から突出するソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16を含む部分は、連結部材11で覆われる。このため、ソケットレンチ付吸引パイプ9は、保護パイプ10及び連結部材11の内部において、エアラチェット3で発生させたトルクで回転する。従って、ナットNの切れ端を吸引するためのソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16は、連結部材11の内部で回転することになる。
【0053】
そこで、連結部材11の内部には、回転中のソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16からナットNの切れ端をエジェクタ12で吸引するための流路21が形成される。より具体的には、連結部材11の内部に形成される流路21は、回転するソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16が、どの位置になっても吸引口16からナットNの切れ端を吸引でき、かつ吸引口16から吸引したナットNの切れ端をエジェクタ12のダクト20内に排出することが可能な空隙とされる。
【0054】
エジェクタ12は、圧縮エアでナットNの切れ端を吸引する所望の吸引装置で構成することができる。エジェクタ12は、連結部材11と一端を連結して内部に流路を形成するためのダクト20の他、吸引用のエアを供給するためのエア供給系22及び捕集部23で構成することができる。ダクト20の一端は、連結部材11と連結され、ダクト20の他端には、捕集部23を直接又は間接的に着脱可能に連結することができる。また、ダクト20の所望の位置にエア供給系22を連結することができる。
【0055】
捕集部23は、エアで吸引したナットNの切れ端を回収するための袋又は容器である。捕集部23は、例えば、布製の袋、網目状の袋、エアの排出口を有する箱のように、エアを通過させることが可能な所望の形状及び構造を有する袋又は容器で構成することができる。
【0056】
エア供給系22は、ナットNの切れ端を吸引するためのエアをダクト20内に供給する装置である。エア供給系22は、ダクト20の側面に限らず、捕集部23の後方に別のダクトを介して連結しても良い。
【0057】
回転駆動装置2がエアラチェット3である場合には、エアモータ4でロータ5を回転させるように構成されている。このため、エアラチェット3からは、エアモータ4を回転させるためのエアが排気される。そこで、エアラチェット3からの排気を利用してナットNの切れ端を吸引できるようにエジェクタ12を構成することができる。
【0058】
その場合には、図示されるように、エアラチェット3から排気されるエアをナットNの切れ端を吸引するためのエアとしてダクト20内に取り込むための流路24を形成する連結管25で、簡易にエア供給系22を構成することができる。
【0059】
図12図1に示すエジェクタ12にエア供給系22として設けられる連結管25の構成例を示す上面図、図13図12に示す連結管25の位置B-Bにおける断面図、図14図12に示す連結管25の斜視図、図15図13に示す連結管25の位置Cにおける拡大図である。
【0060】
連結管25は、例えば、エアラチェット3の筐体6から排出されるエアを取込むための取込口26を開口させたエア取込部27、連結部材11と直接連結されるダクト20の端部と着脱可能に連結するための第4の連結部28、捕集部23を取付けるための第5の連結部29、エア取込部27を第4の連結部28及び第5の連結部29と連結するための管路30で構造することができる。
【0061】
第4の連結部28及び第5の連結部29は、連結部材11と直接連結されるダクト20の端部と連結されることによってダクト20の一部を形成する。連結部材11と直接連結されるダクト20の端部が単純な円筒形状である場合には、連結部材11に形成される第2の連結部18と同様に、連結管25に形成される第4の連結部28の構造についても、円筒状のダクト20の端部を差し込むための円筒状の内面を壁面で形成した単純な構造とすることができる。
【0062】
他方、第5の連結部29の構造は、捕集部23の形状及び構造に対応する構造とすることができる。図示された例では、第5の連結部29の構造は、単純な円筒状となっている。
【0063】
連結管25のエア取込部27に形成される取込口26の形状は、エアラチェット3の筐体6に形成されるエアの排気口の形状に合わせて決定することが適切である。エアラチェット3の筐体6には、エアモータ4の回転用のエアを取込むためのカプラ7を取囲むように円弧状のスリットがエアの排出口として設けられる場合が多い。このため、図示された例では、取込口26は環状となっており、エアラチェット3の筐体6に取付けられるカプラ7と干渉しないように、エア取込部27には貫通孔が設けられている。
【0064】
エア取込部27に連結される管路30の内部には、エアラチェット3から排気されるエアをダクト20内に取り込むための流路24の一部が形成される。管路30の内部に形成される流路24Aの入口は、エア取込部27に形成される環状の取込口26と連結される。一方、管路30の内部に形成される流路24Aの出口は、ダクト20の内部と連結される。
【0065】
管路30内の流路24Aからダクト20内に流れ込むエアの流れは、ナットNの切れ端を吸引する方向に形成することが必要である。すなわち、ダクト20内において下流に向かってエアの流れが形成されるように、管路30内の流路24Aからダクト20内に向けてエアを流し込むことが必要である。
【0066】
そこで、管路30内の流路24Aを、図示されるように、ダクト20内に形成される流路の長さ方向に対して傾斜する流路24Bでダクト20内に形成される流路と連結することが適切である。図示された例では、ダクト20内に形成される流路を囲むようにそれぞれ円錐台の側面形状を有する2つの壁面間に形成される環状の傾斜スリットからなる流路24Bで、管路30内の流路24Aがダクト20内の流路と連結されている。
【0067】
このため、ダクト20内において、ナットNの切れ端を吸引する下流方向に向かうエアの流れを均一に形成することができる。すなわち、捕集部23及びダクト20の出口に向かう適切なエアの流れを形成することができる。
【0068】
図16図1に示す締付工具1におけるエアの流れを示す図である。
【0069】
図16に一点鎖線で示すように、圧縮エアを供給するためのホースからエアラチェット3のカプラ7を介してエアモータ4に供給されたエアは、筐体6に形成された排気口8から排出される。エアラチェット3の筐体6の排気口8から排出されたエアは、図16に点線で示すように連結管25のエア取込部27に形成される取込口26に流入する。エア取込部27の取込口26に流入したエアは、管路30内の流路24A及び流路24Bを通ってダクト20の内部に流入する。
【0070】
流路24Bは、流路24B内を流れるエアがダクト20の内部において下流に向かって流れるように傾斜している。このため、ダクト20内において開口する流路24Bの出口からは、捕集部23及びダクト20の出口に向かってエアが流れる。
【0071】
そうすると、ダクト20内において流路24Bの出口よりも上流側における圧力が負圧となる。その結果、図16に二点鎖線で示すように、ソケットレンチ13を形成するソケットレンチ付吸引パイプ9の開口端からエアが流れ込む。ソケットレンチ付吸引パイプ9の内部に流れ込んだエアは、ソケットレンチ付吸引パイプ9の内部に形成される流路15及びソケットレンチ付吸引パイプ9の吸引口16を通って連結部材11の内部に形成される流路21に流れ込み、連結部材11内の流路21に流れ込んだエアは、エジェクタ12のダクト20内に流れ込む。エジェクタ12のダクト20内に流れ込んだエアは、ダクト20の出口から捕集部23に向かって排出される。
【0072】
このようなエアの流れによって、ソケットレンチ13の内部に留まったナットNの切れ端を吸引し、捕集部23において回収することができる。すなわち、エアラチェット3自体に吸引機能はないが、エアラチェット3からの排気を利用したエジェクタ12によって、ナットNの切れ端をダクト20内に吸引し、捕集部23に集めることができる。
【0073】
以上のような締付工具1は、エアラチェット3で回転するソケットレンチ13でハイロックファスナFを締結しながら、エジェクタ12で発生させた負圧で、ナットNの切れ端を捕集部23まで吸引するようにしたものである。そして、この締付工具1を用いてハイロックファスナFのナットNをボルトBに締付け、ナットNを破断させることによって、ボルトBの雄ねじに締付けられた破断後におけるナットNの雌ねじを有する部分と、ボルトBで複数の部品P1、P2が連結された被締付品を製造することができる。
【0074】
(効果)
上述した締付工具1及び被締付品の製造方法によれば、主に航空機部品の組立に使用されるハイロックファスナF等の規定のトルクがかかるとナットNが破断するファスナを使用して部品P1、P2を連結する場合において、ナットNから破断した切れ端を作業者がソケットレンチ13から除去する手間を省くことができる。また、ソケットレンチ13の内部にナットNの切れ端が残留していても、次の締付作業を続行することができる。このため、部品P1、P2の組立作業において、生産性を向上することができる。
【0075】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0076】
1 締付工具
2 回転駆動装置
3 エアラチェット
4 エアモータ
5 ロータ
6 筐体
7 カプラ
8 排気口
9 ソケットレンチ付吸引パイプ
10 保護パイプ
11 連結部材
12 エジェクタ
13 ソケットレンチ
14 着脱構造
15 流路
16 吸引口
17 第1の連結部
18 第2の連結部
19 第3の連結部
20 ダクト
21 流路
22 エア供給系
23 捕集部
24、24A、24B 流路
25 連結管
26 取込口
27 エア取込部
28 第4の連結部
29 第5の連結部
30 管路
B ボルト
F ハイロックファスナ
N ナット
P1、P2 部品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16