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特開2024-131290異方軟磁性積層造形物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131290
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】異方軟磁性積層造形物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20240920BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240920BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240920BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240920BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F1/147 166
C22C38/00 303T
B33Y70/00
B33Y80/00
H01F1/20
H01F1/147 191
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041469
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】池畑 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 朋泰
(72)【発明者】
【氏名】和田 耕昇
(72)【発明者】
【氏名】粂 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伴 美織
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA04
5E041CA10
5E041HB19
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】方向により異なる軟磁気特性を発現する積層造形物を提供する。
【解決手段】本発明は、鉄基合金からなる異方軟磁性積層造形物である。この鉄基合金は、全体に対してSiを1.5~7.5質量%含む合金組成と、<001>に配向した結晶粒を有する金属組織とを備える。鉄基合金は、Alを0.1~2.5質量%含んでもよいが、C含有量は0.1質量%以下であるとよい。結晶粒は、例えば、<001>配向しつつ成長した柱状晶であるとよい。このような金属組織を有する鉄基合金は、例えば、指向性エネルギー堆積法(DED)により得られる。本発明の異方軟磁性積層造形物で、従来の電磁鋼板の積層体(コア、ヨーク等)を置換すれば、電磁機器の性能や効率を向上させれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体に対してSiを1.5~7.5質量%含む合金組成と、
<001>に配向した結晶粒を有する金属組織と、
を備えた鉄基合金からなる異方軟磁性積層造形物。
【請求項2】
前記合金組成は、さらに、Alを0.001~2.5質量%含む請求項1に記載の異方軟磁性積層造形物。
【請求項3】
前記合金組成は、C含有量が0.1質量%以下である請求項1に記載の異方軟磁性積層造形物。
【請求項4】
前記結晶粒は、柱状晶である請求項1に記載の異方軟磁性積層造形物。
【請求項5】
前記柱状晶は、最大長が500μm以上である請求項4に記載の異方軟磁性積層造形物。
【請求項6】
前記金属組織は、指向性凝固組織である請求項1~5のいずれかに記載の異方軟磁性積層造形物。
【請求項7】
指向性エネルギー堆積法により、請求項1~5のいずれかに記載の異方軟磁性積層造形物を得る製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向により磁気特性が異なる異方軟磁性積層造形物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の除去加工(切削、研削、切断等)や成形加工(鋳造、鍛造、プレス等)とは異なり、専用の型や大型の工作機械等を必要とせずに、所望の造形物を得る付加加工(AM:Additive Manufacturing)が注目されている。積層を繰り返す付加加工(「積層造形」という。)によれば、従来の製造方法では製作が困難であった造形物(「積層造形物」という。)が得られる。
【0003】
付加加工(積層造形)は、大別して7種類に分類される(ASTM規格)。具体的にいうと、指向性エネルギー堆積法(DED: Directed Energy Deposition)、粉末床溶融結合法(PBF:powder bed fusion)、結合剤噴射法(binder jetting)、材料噴射法(material jetting)、材料押出法(material extrusion)、液槽光重合法(vat photopolymerization)およびシート積層法(sheet lamination)の各方式がある。
【0004】
このうち、DEDやPBFによれば、金属やセラミックからなる実用的な造形物が得られる。DEDとPBFはいずれも、高エネルギービーム(レーザや電子ビームなどの熱源)で原料粉末(混合粉末を含む。)を溶融凝固(結合)させて造形物を得る点で共通する。特にDEDはPBFよりも、原料粉末の使用量を抑制でき、造形条件の自由度も大きくできる。このような積層造形に関する提案は多くなされており、例えば、下記の文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中野貴由,チタンならびにチタン合金のAdditive Manufacturing プロセス,まてりあ,Vol.58 (2019),p. 181-187.
【非特許文献2】K. Sofinowski et. al; Encoding data into metal alloys using laser powder bed fusion, Additive Manufacturing, Vol. 52 (2022), 102683.
【非特許文献3】金丸ら,2021年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集, (2021) p. 326.
【非特許文献4】Hideaki Ikehata, et. al; Grain refinement of Fe-Ti alloys fabricated by laser powder bed fusion, Materials &Design, Volume 204, 2021, 109665,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1は、人口骨に用いるTi基合金からなる積層造形物に関して報告している。非特許文献2は、ステンレス鋼からなる積層造形物に関して報告している。
【0007】
非特許文献3は、DEDで製作したFeSi造形物とFeCoV造形物について、磁気特性に及ぼす入熱量や熱処理の影響を報告している。もっとも非特許文献3は、具体的な合金組成を開示しておらず、等方性な結晶粒からなる軟磁性造形物を対象にしているに過ぎない。
【0008】
非特許文献4は、鉄基合金からなる積層造形物の機械的特性を向上させるため、レーザを熱源としたPBF(L-PBF)やDED(L-DED)により生成される結晶粒を、柱状晶から微細な等方晶へ変化させる旨を報告している。もっとも非特許文献4には、積層造形物の磁気特性に関する記載はない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、異方軟磁性積層造形物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究した結果、軟磁性な磁気特性(「軟磁気特性」または単に「磁気特性」という。)が方向により異なる積層造形物を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《異方軟磁性積層造形物》
本発明は、全体に対してSiを1.5~7.5質量%含む合金組成と、<001>に配向した結晶粒を有する金属組織と、を備えた鉄基合金からなる異方軟磁性積層造形物である。
【0012】
本発明の異方軟磁性積層造形物(単に「造形物」ともいう。)は、結晶粒が磁化容易方向<001>に配向した金属組織を有し、軟磁気特性が方向により異なる異方性を発現する。この造形物によれば、高効率な磁気回路を高自由度で実現でき、高性能な軟磁性部材の提供等が可能となる。また本発明の造形物は、Siを含む鉄基合金(Fe基合金)からなるため、高透磁率や低鉄損等を実現し得る。
【0013】
《製造方法》
本発明は、異方軟磁性積層造形物の製造方法(積層造形方法)としても把握される。例えば、上述した造形物は、指向性エネルギー堆積法(DED)や粉末床溶融結合法(PBF)を行なう製造方法により得られる。
【0014】
その際に用いる粉末は、単種の合金粉末でも、所望組成に配合された混合粉末でもよい。粉末を溶融させる熱源は、レーザビーム、電子ビーム、プラズマアーク等である。本明細書では、便宜上、代表的な熱源であるレーザビームを用いたL-DED(LMD)またはL-PBFを取り上げて説明する。
【0015】
《その他》
(1)本明細書でいう「積層造形」または「積層造形物」には、他部材の一部を改質、補修等したり、他部材の一部に肉盛等する場合も含まれる。
【0016】
鉄基合金の(軟)磁気特性が方向により異なる特性(異方軟磁性)の具体的な程度は問わない。磁気特性は、飽和磁束密度、所定磁場を印加したときの磁束密度(または磁化)、透磁率、保磁力(残留磁化)等により指標される。このような磁気特性の特定方向または直交二方向に関する比率や差分等を用いて、異方軟磁性が指標されてもよい。
【0017】
(2)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試料1の金属組織に係るIPFである。
図2A】試料Aの金属組織に係るIPFである。
図2B】試料Bの金属組織に係るIPFである。
図2C】試料Cの金属組織に係るIPFである。
図3】試料1と試料Cに係る磁束密度と磁化力の関係を示すグラフである。
図4A】試料2の金属組織に係るIPFである。
図4B】試料3の金属組織に係るIPFである。
図5】Fe-Si状態図とFe-Al状態図である。
図6】鉄基合金に係る結晶方位と磁気特性の関係を示すB-H曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、原料粉末としてのみならず、その原料粉末を用いた積層造形方法や積層造形物等にも適宜該当する。
【0020】
《合金組成》
(1)鉄基合金は、その全体(100%)に対してSiを、例えば、1.5~7.5%、2~6%、2.5~5%または3~4%含む。なお、本明細書でいう合金組成は、特に断らない限り、観察対象である鉄基合金全体(100質量%)に対する質量割合であり、「%」または数値のみで示す。
【0021】
Siはフェライト安定化元素であり、鉄基合金のオーステナイト変態を抑制する。またSiは、鉄基合金の電気抵抗率(「比抵抗」ともいう。)や磁気特性(透磁率)を増加させ得る。
【0022】
Siが過少では、凝固相の冷却過程でオーステナイト変態を生じて、結晶粒の配向が低下する。またSiが過少になると、造形物の鉄損が増加する。Siが過多になると、鉄基合金が脆化して、熱衝撃や熱応力等により造形物に割れ等が発生し易くなる。
【0023】
(2)鉄基合金はAlを、例えば、2.5%以下、2%以下または1.8%以下含んでもよい。その下限値は、敢えていえば、例えば、0.001%以上、0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上または1%以上でもよい。
【0024】
AlもSiと同様にフェライト安定化元素である。Alは、造形物の表面における保護膜(酸化膜)の形成に寄与する。Alが過多になると、Siと同様に鉄基合金の脆化ひいては造形物の割れ等を招く。
【0025】
(3)鉄基合金は、不純物の他、金属組織の配向性、磁気特性を向上させ得る改質元素(例えば、Mo、W、Ti、Nb、V)を含んでもよい。このような元素は合計で、例えば、2%以下、1%以下、0.5%以下または0.2%以下である。
【0026】
一例として、炭化物を形成して磁気特性を劣化させるCの含有量は、例えば、0.2%以下または0.1%以下であるとよい。また、酸化物を形成して磁気特性を劣化させるOの含有量も、例えば、0.2%以下または0.1%以下であるとよい。
【0027】
鉄基合金の主成分(残部)であるFeは、敢えていうと、例えば、90%以上、96%以上または95%以上含まれる。
【0028】
《金属組織》
鉄基合金は、結晶方位<001>が所望方向に配向した結晶粒を多く含む金属組織からなるとよい。鉄基合金は、体心立方格子(BCC)のフェライト相(α相)から主になり、<001>が磁化容易方向(磁化容易軸)となる。
【0029】
結晶粒の配向割合(結晶配向度)は、例えば、50%以上(超)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上さらには93%以上であるとよい。結晶配向度は、例えば、金属組織を電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Back Scattered Diffraction Pattern)で解析して得られる逆極点図方位マップ(単に「IPF」(Inverse Pole Figure)という。)に基づいて求められる。具体的にいうと、IPFの視野内で、結晶方位が<001>に対して±15°の範囲内になる結晶粒の合計面積を、その視野の全面積で除した値(%)を結晶配向度(面積)としてもよい。なお、各結晶粒の面積やそれらの合計面積は、例えば、EBSD装置に付属している画像解析ソフトウェアを用いて求めればよい。
【0030】
結晶配向度は、鉄基合金の磁気特性を用いて指標されてもよい。例えば、磁場500A/m、800A/m、1000A/m等を印加したときの磁束密度(B5、B8、B10等)と飽和磁束密度(Bs)とを比較して、結晶配向度(磁気)を指標してもよい。具体例を挙げると、B8/Bsが、例えば、80%以上、85%以上さらには90%以上なら、<001>の結晶配向が顕著であるといえる。また、その直交二方向の差分が、例えば、10%以上さらには15%以上あると、軟磁気特性の異方性が顕著であるともいえる。
【0031】
DEDやPBFのように、粉末の溶融(溶融池の形成)とその凝固が局所的に繰り返される積層造形の場合、溶融池近傍で特殊な温度場が形成され、非常に大きい凝固速度と温度勾配の実現も可能である。このため、造形条件(入熱条件、冷却条件、走査条件等)を調整すれば、例えば、指向性凝固した高配向な結晶粒も生成され得る。
【0032】
結晶粒の形態(形状、大きさ)は問わないが、例えば、<001>配向しつつ成長した柱状晶は金属組織の結晶配向度や鉄基合金の異方度を大幅に増加させ得る。結晶粒が大きくなるほど、保磁力が低下して軟磁気特性が向上し得る。柱状晶は、例えば、積層される層厚または溶融池サイズ(通常500μm未満)を越えて成長しているとよい。具体的にいうと、柱状晶の最大長は、例えば、500μm以上(超)、750μm以上、1mm以上または5mm以上であるとよい。その上限値は問わないが、敢えていえば、例えば、100mm以下または50mm以下である。このように大きな柱状晶は、指向性凝固の繰返しやエピタキシャル成長により生じると考えられる。
【0033】
本明細書でいう「エピタキシャル成長(Epitaxial Growth)」は、高エネルギービームが照射される溶融池において、結晶構造や結晶方位を維持しつつ凝固が進展するモード、または指向性凝固により生成した結晶粒が結晶方位を揃えつつ成長するモードである。このようなエピタキシャル成長は、積層造形物を形成する基体(基板)の表面状態(結晶構造等)による影響を殆ど受けないと考えられる。このため本発明では、積層造形が可能な限り、基体の材質や結晶構造等を問わない。
【0034】
なお、金属組織(結晶粒)の配向方向は、造形方向(走査方向または積層方向)や指向性凝固方向と必ずしも一致していなくてもよい。造形条件の調整や選択により、配向方向の制御も可能である。
【0035】
《原料粉末》
(1)積層造形に供される原料粉末は、高エネルギービームの照射域(溶融池)で略均一的な液相となる限り、種類、製造プロセス、形態(形状、サイズ)を問わない。例えば、一種の合金粉末でも、複数種の粉末からなる混合粉末や造粒粉末でもよい。またアトマイズ粉末でも、粉砕粉末でもよい。
【0036】
原料粉末の粒度は、適宜、調整または選択されてもよい。例えば、原料粉末の粒度は、5~150μmまたは20~105μmである。本明細書でいう粒度は、例えば、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分け法で規定される。粒度「x~y」の粉末は、篩目開きx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。「y未満」は、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。
【0037】
《異方軟磁性積層造形物》
(1)造形物は、積層数、層厚さ、形態(形状、大きさ)、用途等を問わない。造形物は、例えば、ヨーク(継鉄)やコア(磁心)等の軟磁性部材となる。軟磁性部材は、例えば、電動機(発電機を含む)のロータやステータ、変圧器用コア等の全部または一部である。電動機は、その種類は問わず、永久磁石を備える同期モータや直流モータ、永久磁石を備えない誘導モータやスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)等である。
【0038】
本発明によれば、結晶粒の配向方向を部位や区間(区域)で変化させた軟磁性部材を得ることも可能である。このため、無方向性電磁鋼板や方向性電磁鋼板の積層体からなる軟磁性部材を本発明の造形物で置換すれば、電磁機器の性能や効率をさらに向上させることもできる。
【実施例0039】
LMD(L-DED)により鉄基合金からなる試料(積層造形物)を種々製造し、その金属組織や特性を評価した。このような具体例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0040】
[第1実施例]
《試料の製造》
(1)原料粉末
純Fe粉、純Si粉末、合金粉末(Fe-3Si、Fe-3.5Si-1.5Al、Fe-6.5Si-1.5Al)を用意した。合金粉末の成分組成を示す数値は、その粉末全体に対する質量%(残部:Fe)である。
【0041】
純Fe粉(Fe源粉末)にはガスアトマイズ粉(粒度:45~105μm)を用いた。純Si粉末は粉砕粉(粒度:-300μm)を用いた。合金粉末にはガスアトマイズ粉末を用いた。その粒度は、Fe-3Si粉末とFe-3.5Si-1.5Al粉末:45~105μm、Fe-6.5Si-1.5Al粉末:25~105μmとした。
【0042】
所望の合金組成に応じて、各粉末を秤量・配合した混合粉末(45rpm×1時間回転混合)を積層造形に供した。
【0043】
(2)積層造形
LMD装置(エンシュウ株式会社製レーザー加工試験機)のパウダーフィーダ(粉箱)に入れた原料粉末(混合粉末)を、キャリアガス(Ar)でパウダーノズルへ供給した。
【0044】
そのLMD装置を用いて、室温大気雰囲気中で、基板(SS400/100×100×t10mm)上に、略立方体状(10mm×10mm×10mm)のブロック(積層造形物)を製作した。
【0045】
レーザ(株式会社IPG製YLS-4000CW)の照射条件は、出力:750Wまたは600W、ビーム径(スポット径):2.0mm、走査速度:40mm/sとした。粉末供給量:0.08g/s 、走査ピッチ(x方向):0.5mm、積層ピッチ(z方向/造形方向):0.3mm、キャリアガス(Ar)流量:25L/minとした。ブロックの製作に要した積層数は33であった。
【0046】
このようにして、次のような合金組成(質量%)からなる試料を得た。
試料1:Fe-3.5Si-1.5Al (出力:750W)
試料A:Fe-1Si (出力:750W)
試料B:Fe-6.5Si-1.5Al (出力:600W)
【0047】
(3)溶製材
参考に、試料1と同じ合金組成からなる溶製材を塑性加工した試料Cも用意した。溶製材は、合金溶湯(1650℃)を金型に注湯し、Ar雰囲気中で空冷凝固させた鋳物である。この鋳物をスエージ(300℃程度)した後、熱処理(800℃×3hr)により結晶粒径を微細化させた。
【0048】
《観察》
(1)試料から切り出した試験片の金属組織をEBSD装置(株式会社TSLソリューションズ製MSC-2200)により解析した。得られた逆極点図方位マップ(IPF)を、図1(試料1)、図2A(試料A)、図2B(試料B)および図2C(試料C)にそれぞれ示した。試料1と試料Bについては、造形方向に対する垂直方向のIPFと、造形方向(積層方向)のIPFとを示した。なお、本実施例でいう「垂直方向」は走査方向とは限らない。
【0049】
(2)各IPFから明らかなように、試料1の金属組織は、<001>配向しつつ成長した巨大な柱状晶(最大長が5mm以上)で形成されていた。各試料の結晶配向度(面積)は、試料1:約99.5%、試料A:約15.4%、試料B:約2.4%、試料C:約23.4%であった。結晶配向度は、結晶方位が<001>方向に対して±15°内である結晶粒の合計面積を、視野(IPF)の全面積で除して求めた。この算出は、OIM(Orientation Imaging Microscopy)-Analysis7(株式会社TSLソリューションズ製)を用いて行なった。試料C以外は、造形方向に対する垂直方向のIPFに基づいて算出した。
【0050】
(3)試料1、試料Aおよび試料Bの比較から明らかなように、適切な合金組成と造形条件の採用により、結晶粒が特定の方向に配向した金属組織が得られることがわかった。
【0051】
《測定》
(1)試料1と試料Cの磁気特性(磁化曲線)を、振動試料型磁力計(東英工業株式会社製VSM-35-15)を用いて測定した。試料1では、造形方向に対する平行方向と垂直方向の両方について測定した。得られた結果を図3に併せて示した。
【0052】
また、磁場500A/mを印加したときの磁束密度(B5)、磁場800A/mを印加したときの磁束密度(B8)、磁場1000A/mを印加したときの磁束密度(B10)、残留磁化(HC)および結晶配向度(磁気)を表1にまとめて示した。その結晶配向度(B8/Bs)は、飽和磁束密度(Bs=1.93T)に対するB8の割合(%)とした。
【0053】
(2)図3および表1から明らかなように、積層造形した試料1は、造形方向に対する平行方向と垂直方向で磁気特性が異なること、つまり磁気異方性を有することが確認された。一方、溶製した試料Cは、磁気特性が方向により異ならず、等方的であった。
【0054】
[第2実施例]
粉末の合金組成と造形条件を変更した試料2、試料3も製作した。
【0055】
試料2は試料1と同じ合金組成(Fe-3.5Si-1.5Al)であり、レーザ出力:500W、走査速度:5mm/sとして製作した。試料3はFe-3Siからなり、レーザ出力:500W、走査速度:5mm/sとして製作した。
【0056】
各試料のIPFを図4A図4Bに示した。試料2の結晶粒は、造形方向に対して約90°の方向に<001>配向していた。試料3の結晶粒は、造形方向に対して約45°の方向に<001>配向していた。
【0057】
これらから、造形方向以外にも<001>配向させた金属組織を形成できること、つまり配向方向の制御もできることが確認された。
【0058】
《補足》
(1)状態図
熱力学解析ソフト(Thermo-Calc、データベースTCFE6)を用いて作成したFe-Si系状態図とFe-Al系状態図を図5に併せて示した。
【0059】
固相変態(γ相→α相)が生じると、結晶粒の微細化や等軸化が進行し、その結晶方位がランダム状態となる。つまり、結晶粒が配向し難く、磁気特性が等方的になる。図5から明らかなように、合金組成を所定範囲内にすることで、γ相を経由する固相変態が回避され、結晶方位<001>が優先的に配向した結晶粒からなるα相(フェライト)の生成が可能になる。
【0060】
(2)結晶方位と磁気特性
結晶方位と磁気特性の関係を図6(出典:H.J. Williams; Magnetic Properties of Single Crystals of Silicon Iron, Phys. Rev., vol. 52(1937), pp.747-751.)に示した。図6は、Fe-3.85Siからなる単結晶について、結晶方位毎の磁化曲線を示している。図6から明らかなように、Siを適量含む鉄基合金は、磁化容易方向<001>に関して、軟磁気特性(透磁率、飽和磁束密度、残留磁化等)が最も優れる。
【0061】
以上から、本発明の積層造形物は、方向により異なる軟磁気特性を発現することが確認された。
【0062】
【表1】
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6