(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131292
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電流指令テーブル自動適合装置および電流指令テーブル自動適合方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20240920BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041478
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悠太
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 正寿
(72)【発明者】
【氏名】山口 崇
(72)【発明者】
【氏名】金井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】高所 健太
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505BB07
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505KK06
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL38
5H505LL41
5H505MM17
(57)【要約】
【課題】idiqテーブルパラメータの、調整時間の短縮および調整精度のバラつきの低減を図る。
【解決手段】同期モータ1を制御するベクトル制御インバータ5と、前記モータ1に軸接続され、速度制御を行うダイナモメータ2と、idiqテーブル自動適合ツール10とを備え、前記ツール10には電流位相を走査して計測を行うための計測スケジュールを入力しておく。自動運転部11は計測スケジュールに従って、回転数の走査、電流の走査、電流位相の走査を行って総合効率η1、モータ効率η2、id,iq電流、トルクT、三相平均電圧Vのデータを計測する。テーブル作成部12は、前記計測データを基に、2D解析によって、回転数と電流ごとのθの最適点を求め、θの最適点とそのときのトルクを、idiqの分布とし、回転数とトルクに対する3Dマップを推定しidiqテーブル化する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転座標系のd軸電流指令、q軸電流指令を空間ベクトル変換した三相交流によって同期モータを制御するインバータと、前記同期モータに軸接続され、速度制御を行うダイナモメータと、を有し、回転数とトルクの動作状態に応じたd軸電流指令値、q軸電流指令値を定義した電流指令テーブルを用いて前記同期モータを制御する装置において、
設計値として予めインバータに設定されているidiqテーブルを基準の動作点とし、その動作点の電流位相を中心として任意の角度範囲、刻み幅で電流位相を走査して計測を行うために設定した、回転数、トルク、電流、電流位相と、位相走査範囲および刻み幅の情報を含む計測スケジュールに従って、目標回転数の走査、目標電流の走査、電流位相の走査を行い、総合効率η1、モータ効率η2、d軸電流idおよびq軸電流iq、トルクT、三相平均電圧Vのデータを計測する自動運転部と、
前記自動運転部で計測されたデータから、同一回転数及び電流iで電流位相θを変化させて取得したデータを抽出し、該抽出したデータに基づいて、効率とトルクの重みづけを考慮して電流位相に関する効率解析曲線を求め、前記効率解析曲線のピーク点を電流位相θの最適点として出力する2D解析処理と、前記2D解析処理によって求められた回転数と電流iごとのθの最適点と、このときのトルクを、回転数とトルクに対するid、iqの分布とし、回転数とトルクに対する3Dのマップを推定し、id、iqをテーブル化する3D補間解析処理と、を実行するテーブル作成部と、
を備えたことを特徴とする電流指令テーブル自動適合装置。
【請求項2】
前記自動運転部は、前記ダイナモメータによって、同期モータの回転数を前記計測スケジュールに記載の目標回転数に制御させる目標回転数移行処理と、前記インバータにトルク指令を送って計測スケジュールに記載の電流i、電流位相θで動作させる目標電流移行処理と、前記インバータにd軸電流指令値idとq軸電流指令値iqを送って電流iの絶対値を一定に保ったまま電流位相θを走査する電流位相走査処理と、安定時間経過後に平均計測により前記総合効率η1、モータ効率η2、idおよびiq電流、トルクT、三相平均電圧Vのデータを取得するデータ計測処理と、を実行し、
前記η1、η2、Vは、前記インバータの直流側電流および交流側電流、直流側電圧および交流側電圧を入力とするパワーアナライザの出力によって取得し、前記idおよびiq電流はインバータから取得し、Tは前記同期モータとダイナモメータ間に設けたトルクメータから取得し、
前記テーブル作成部の2D解析処理は、前記抽出したデータ中に、同期モータの端子電圧が前記インバータの三相平均電圧以上に上昇した電圧飽和状態があるか否かを判定し、電圧飽和状態がない場合は、電流位相θごとの総合効率η1又はモータ効率η2のいずれかを重み付けにより重視して近似曲線θ-ηを求め、電流位相θごとのトルクに関する近似曲線θ-Tを算出し、前記近似曲線θ-ηとθ-Tのどちら側を重視するかの配分重みを乗算して効率解析曲線を求め、電流位相を走査した範囲内から、この効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力し、電圧飽和状態がある場合は、電流位相θごとの電圧Vに関する近似曲線θ-Vを算出し、電圧飽和点の位相θsatを推定し、電圧飽和状態でない場合と同様の効率解析曲線から、電圧飽和状態を起こさないよう位相θsatまでの範囲に制限を行ったうえでこの効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力する処理であることを特徴とする請求項1に記載の電流指令テーブル自動適合装置。
【請求項3】
回転座標系のd軸電流指令、q軸電流指令を空間ベクトル変換した三相交流によって同期モータを制御するインバータと、前記同期モータに軸接続され、速度制御を行うダイナモメータと、を有し、回転数とトルクの動作状態に応じたd軸電流指令値、q軸電流指令値を定義した電流指令テーブルを用いて前記同期モータを制御する装置における電流指令テーブル自動適合方法であって、
自動運転部が、設計値として予めインバータに設定されているidiqテーブルを基準の動作点とし、その動作点の電流位相を中心として任意の角度範囲、刻み幅で電流位相を走査して計測を行うために設定した、回転数、トルク、電流、電流位相と、位相走査範囲および刻み幅の情報を含む計測スケジュールに従って、目標回転数の走査、目標電流の走査、電流位相の走査を行い、総合効率η1、モータ効率η2、d軸電流idおよびq軸電流iq、トルクT、三相平均電圧Vのデータを計測するステップと、
テーブル作成部が、前記自動運転部で計測されたデータから、同一回転数及び電流iで電流位相θを変化させて取得したデータを抽出し、該抽出したデータ中に、同期モータの端子電圧が前記インバータの三相平均電圧以上に上昇した電圧飽和状態があるか否かを判定し、電圧飽和状態がない場合は、電流位相θごとの総合効率η1又はモータ効率η2のいずれかを重み付けにより重視して近似曲線θ-ηを求め、電流位相θごとのトルクに関する近似曲線θ-Tを算出し、前記近似曲線θ-ηとθ-Tのどちら側を重視するかの配分重みを乗算して効率解析曲線を求め、電流位相を走査した範囲内から、この効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力し、電圧飽和状態がある場合は、電流位相θごとの電圧Vに関する近似曲線θ-Vを算出し、電圧飽和点の位相θsatを推定し、電圧飽和状態でない場合と同様の効率解析曲線から、電圧飽和状態を起こさないよう位相θsatまでの範囲に制限を行ったうえでこの効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力する2D解析処理ステップと、
テーブル作成部が、前記2D解析処理ステップによって求められた回転数と電流iごとのθの最適点と、このときのトルクを、回転数とトルクに対するid、iqの分布とし、回転数とトルクに対する3Dのマップを推定し、id、iqをテーブル化する3D補間解析処理ステップと、を備えたことを特徴とする電流指令テーブル自動適合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータのidiqテーブルパラメータの自動適合手法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同期モータの電流指令テーブル自動生成システムとして、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に回転数とトルクの動作状態に応じたid電流・iq電流を定義したテーブルを用いて同期モータを制御する場合、設計値と実際のモータパラメータには誤差が含まれるため、より高精度な調整を行うために実測値に基づいたテーブルの補正を行う必要がある。
【0005】
例えばモータ回転数・トルクごとに、目標トルクに合致する電流・電流位相を手動で探索しつつ、モータ効率が高くなるパラメータを選定する場合では、電流・電流位相のいずれか一方を振ったときに、検出トルクが目標トルクからずれるため、再度、もう一方の電流位相・電流を目標トルクに合致するように調整し計測を行う必要がある。
【0006】
つまり互いに干渉するパラメータを調整しながら計測することになり、作業時間の増加を招いていた。更に、idiqテーブル値を決定するための基準は、人の感覚・経験に依存している部分があり、テーブル作成精度にバラつきがあった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、idiqテーブルパラメータの、調整時間の短縮および調整精度のバラつきの低減を図った電流指令テーブル自動適合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電流指令テーブル自動適合装置は、
回転座標系のd軸電流指令、q軸電流指令を空間ベクトル変換した三相交流によって同期モータを制御するインバータと、前記同期モータに軸接続され、速度制御を行うダイナモメータと、を有し、回転数とトルクの動作状態に応じたd軸電流指令値、q軸電流指令値を定義した電流指令テーブルを用いて前記同期モータを制御する装置において、
設計値として予めインバータに設定されているidiqテーブルを基準の動作点とし、その動作点の電流位相を中心として任意の角度範囲、刻み幅で電流位相を走査して計測を行うために設定した、回転数、トルク、電流、電流位相と、位相走査範囲および刻み幅の情報を含む計測スケジュールに従って、目標回転数の走査、目標電流の走査、電流位相の走査を行い、総合効率η1、モータ効率η2、d軸電流idおよびq軸電流iq、トルクT、三相平均電圧Vのデータを計測する自動運転部と、
前記自動運転部で計測されたデータから、同一回転数及び電流iで電流位相θを変化させて取得したデータを抽出し、該抽出したデータに基づいて、効率とトルクの重みづけを考慮して電流位相に関する効率解析曲線を求め、前記効率解析曲線のピーク点を電流位相θの最適点として出力する2D解析処理と、前記2D解析処理によって求められた回転数と電流iごとのθの最適点と、このときのトルクを、回転数とトルクに対するid、iqの分布とし、回転数とトルクに対する3Dのマップを推定し、id、iqをテーブル化する3D補間解析処理と、を実行するテーブル作成部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の電流指令テーブル自動適合装置は、請求項1において、
前記自動運転部は、前記ダイナモメータによって、同期モータの回転数を前記計測スケジュールに記載の目標回転数に制御させる目標回転数移行処理と、前記インバータにトルク指令を送って計測スケジュールに記載の電流i、電流位相θで動作させる目標電流移行処理と、前記インバータにd軸電流指令値idとq軸電流指令値iqを送って電流iの絶対値を一定に保ったまま電流位相θを走査する電流位相走査処理と、安定時間経過後に平均計測により前記総合効率η1、モータ効率η2、idおよびiq電流、トルクT、三相平均電圧Vのデータを取得するデータ計測処理と、を実行し、
前記η1、η2、Vは、前記インバータの直流側電流および交流側電流、直流側電圧および交流側電圧を入力とするパワーアナライザの出力によって取得し、前記idおよびiq電流はインバータから取得し、Tは前記同期モータとダイナモメータ間に設けたトルクメータから取得し、
前記テーブル作成部の2D解析処理は、前記抽出したデータ中に、同期モータの端子電圧が前記インバータの三相平均電圧以上に上昇した電圧飽和状態があるか否かを判定し、電圧飽和状態がない場合は、電流位相θごとの総合効率η1又はモータ効率η2のいずれかを重み付けにより重視して近似曲線θ-ηを求め、電流位相θごとのトルクに関する近似曲線θ-Tを算出し、前記近似曲線θ-ηとθ-Tのどちら側を重視するかの配分重みを乗算して効率解析曲線を求め、電流位相を走査した範囲内から、この効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力し、電圧飽和状態がある場合は、電流位相θごとの電圧Vに関する近似曲線θ-Vを算出し、電圧飽和点の位相θsatを推定し、電圧飽和状態でない場合と同様の効率解析曲線から、電圧飽和状態を起こさないよう位相θsatまでの範囲に制限を行ったうえでこの効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力する処理であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の電流指令テーブル自動適合方法は、
回転座標系のd軸電流指令、q軸電流指令を空間ベクトル変換した三相交流によって同期モータを制御するインバータと、前記同期モータに軸接続され、速度制御を行うダイナモメータと、を有し、回転数とトルクの動作状態に応じたd軸電流指令値、q軸電流指令値を定義した電流指令テーブルを用いて前記同期モータを制御する装置における電流指令テーブル自動適合方法であって、
自動運転部が、設計値として予めインバータに設定されているidiqテーブルを基準の動作点とし、その動作点の電流位相を中心として任意の角度範囲、刻み幅で電流位相を走査して計測を行うために設定した、回転数、トルク、電流、電流位相と、位相走査範囲および刻み幅の情報を含む計測スケジュールに従って、目標回転数の走査、目標電流の走査、電流位相の走査を行い、総合効率η1、モータ効率η2、d軸電流idおよびq軸電流iq、トルクT、三相平均電圧Vのデータを計測するステップと、
テーブル作成部が、前記自動運転部で計測されたデータから、同一回転数及び電流iで電流位相θを変化させて取得したデータを抽出し、該抽出したデータ中に、同期モータの端子電圧が前記インバータの三相平均電圧以上に上昇した電圧飽和状態があるか否かを判定し、電圧飽和状態がない場合は、電流位相θごとの総合効率η1又はモータ効率η2のいずれかを重み付けにより重視して近似曲線θ-ηを求め、電流位相θごとのトルクに関する近似曲線θ-Tを算出し、前記近似曲線θ-ηとθ-Tのどちら側を重視するかの配分重みを乗算して効率解析曲線を求め、電流位相を走査した範囲内から、この効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力し、電圧飽和状態がある場合は、電流位相θごとの電圧Vに関する近似曲線θ-Vを算出し、電圧飽和点の位相θsatを推定し、電圧飽和状態でない場合と同様の効率解析曲線から、電圧飽和状態を起こさないよう位相θsatまでの範囲に制限を行ったうえでこの効率解析曲線のピーク点をθの最適点として出力する2D解析処理ステップと、
テーブル作成部が、前記2D解析処理ステップによって求められた回転数と電流iごとのθの最適点と、このときのトルクを、回転数とトルクに対するid、iqの分布とし、回転数とトルクに対する3Dのマップを推定し、id、iqをテーブル化する3D補間解析処理ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1~3に記載の発明によれば、モータ回転数、電流i、電流位相θを走査して計測したデータからトルクの3D補間解析を行うため、未計測のトルクに対するid、iq値を推定することでき、従来手法よりも作業時間を短縮できる。更には、テーブル作成基準を数値化できるため、精度のバラつきを低減できる。
また、計測スケジュールを定めてしまえば、その後の計測動作は自動で行われるため、人による作業を最小限にしてidiqテーブルの適合作業が行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】本実施形態例の全体動作を表すフローチャート。
【
図4】本実施形態例で用いる計測スケジュールの説明図。
【
図5】本実施形態例の計測動作を表すフローチャート。
【
図6】本磁実施形態例における電流位相θの走査の説明図。
【
図7】本実施形態例の補間解析処理を表すフローチャート。
【
図8】本実施形態例の2D解析処理を表すフローチャート。
【
図10】本実施形態例における回転数とトルクに対する電流iの3Dマップ。
【
図11】本実施形態例における回転数とトルクに対する電流位相θの3Dマップ。
【
図12】本実施形態例における回転数とトルクに対するidiqの3Dマップ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態例の基本構成を
図1に示す。
図1において、1は、試験対象となる同期モータであり、同期モータ1はダイナモメータ2と軸接続されている。同期モータ1とダイナモメータ2の結合軸には、軸トルクの検出を行うトルクメータ3が設置されている。ダイナモメータ2は一般的な制御装置により、任意の回転数となるように速度制御を行う。
【0015】
同期モータ1は回転位置センサ4によって検出された回転位相をベクトル制御インバータ5に返し、ベクトル制御インバータ5はidiqテーブル自動適合ツール10内の自動運転部11からのidiq電流指令を空間ベクトル変換した三相交流によって同期モータ1を制御する。
【0016】
6は直流電源7からの直流電圧・電流を検出するセンサ、8はベクトル制御インバータ5からの交流電圧・電流を検出するセンサであり、これらセンサ6、8の検出出力はパワーアナライザ9に入力される。
【0017】
パワーアナライザ9は、センサ6,8の検出出力(直流電圧・電流、交流電圧・電流)を計測し、総合効率η1、モータ効率η2、三相平均電圧V等の計測値をidiqテーブル自動適合ツール10に送る。
【0018】
idiqテーブル自動適合ツール10内の自動運転部11は、後述のとおり速度指令をダイナモメータ2に送り、トルク指令、id、iq指令をベクトル制御インバータ5に送り、ダイナモメータ2からの速度検出信号と、トルクメータ3からのトルク検出信号Tと、ベクトル制御インバータ5からのid、iq電流検出と、パワーアナライザ9からの総合効率η1、モータ効率η2、三相平均電圧V等のデータとを受け取る。
【0019】
idiqテーブル自動適合ツール10内のテーブル作成部12は、自動運転部11から渡された計測データに基づいて、後述する補間解析処理を行う。
【0020】
回転座標系で回転子の永久磁石のN極方向をd軸、d軸から回転方向に90°進んだ方向をq軸とし、d軸方向に磁界を作る電流をid、q軸方向に磁界を作る電流をiqと定義すると、その合成電流iを式(1)の様に定義できる。また電流位相θは式(2)のように定義できる。これらの関係を図で表したものが
図2である。
【0021】
i=√(id
2+iq
2)…(1)
θ=tan
-1(id/iq)…(2)
idiqテーブル自動適合ツール10の全体の動作は
図3のステップS1~ステップS3の流れとなる。
(ステップS1) 計測スケジュール作成
(ステップS2) 自動運転部11による計測
(ステップS3) テーブル作成部12による補間解析処理
(ステップS1) 計測スケジュール作成
本ツール10では、設計値として予めインバータ(5)に設定されているidiqテーブルを基準の動作点とし、その動作点の電流位相を中心として任意の角度範囲・刻み幅で電流位相を走査して計測を行う。そのためユーザーは基準の動作点である設計値の回転数・トルク・電流・電流位相を設計値ファイルからidiqテーブル自動適合ツール10にインポートし、任意の位相走査範囲・刻み幅の情報を計測スケジュールとして例えば
図4のように入力する。
(ステップS2)自動運転部11による計測
計測スケジュール作成後に計測を行う。計測はidiqテーブル自動適合ツール10内の自動運転部11によって全て自動で行われる。計測動作は
図5のようなフローになる。今回は
図4の計測スケジュールで計測するときを例にとって動作を説明する。
【0022】
(ステップS21) 目標回転数移行
同期モータ1と軸接続されたダイナモメータ2の速度制御により、同期モータ1の回転数を目標値に制御する。
図4の計測スケジュールでは1行目の回転数は1100rpmであるので、同期モータ1及びダイナモメータ2の回転数が1100rpmとなるように制御する。
【0023】
(ステップS22) 目標電流i移行
図4の計測スケジュールで1行目のトルクは0Nmなので、自動運転部11からベクトル制御インバータ5に対して0Nmのトルク指令を送る。ベクトル制御インバータ5は予め設定されている設計値のidiqテーブルの設計値に従って、1行目の電流i、電流位相θの動作点に移行する。
【0024】
(ステップS23) 電流位相θ移行
自動運転部11からベクトル制御インバータ5に対してid,iq指令を送り、電流iの絶対値を一定に保ったまま、電流位相θを走査する。電流位相θの走査は
図6のようにd軸側からq軸側の計測点に順に移行するように行う。
図4の計測スケジュールのケースでは1行目の設計値の電流位相θは45.1degであり、位相走査範囲(+/-範囲)は10.0degであるから、1点目の計測点は55.1degの点である。
【0025】
(ステップS24) データ計測
定常データを取得するため安定時間を設け、安定時間経過後に平均計測によりデータを取得する。主な計測項目は、
図1記載の総合効率η1・モータ効率η2・電流i・電流位相θ・トルクT・三相平均電圧V等である。
【0026】
(ステップS25) 電流位相θ走査完了
同じ電流iでの電流位相θの走査が完了したか否かを判断する。
図4の計測スケジュールのケースでは1行目の設計値の電流位相θは45.1degであり、位相走査範囲(+/-範囲)は10.0deg、刻み幅(Δ1)は2.0degなので、計測順に「55.1 , 53.1 , 51.1 , 49.1 , 47.1 , 45.1 , 43.1 , 41.1 , 39.1 , 37.1 , 35.1deg」の11点での計測を完了したとき、電流位相θは走査完了となる。
【0027】
(ステップS26) 電流i走査完了
同じ回転数で電流iの走査が完了したか否かを判断する。
図4の計測スケジュールのケースでは1~17行目が同じ回転数(1100rpm)であり、1行目の電流iが0.8A、2行目の電流iが46.6Aであるので、1行目の計測が完了すると、「(ステップS22) 目標電流i移行」に戻り、2行目のトルクである17.87Nmに移行させる。1~17行目が同じ回転数(1100rpm)であるため、17行目の計測が完了したとき、電流iは走査完了となる。
【0028】
(ステップS27) 回転数走査完了
回転数の走査が完了したか否かを判断する。
図4の計測スケジュールのケースでは17行目の回転数が1100rpm、18行目の回転数が1600rpmであるので、17行目の計測が完了すると、「(ステップS21) 目標回転数移行」に戻り、回転数を18行目の目標値である1600rpmに移行させる。計測スケジュールの最終行まで到達したときに計測動作は終了となる。
【0029】
尚、
図4の計測スケジュールでは1600rpmまでしか記載していないが、実際の運転では10000回転以上の高回転まで計測を行う。
【0030】
(ステップS3) テーブル作成部12による補間解析処理
idiqテーブル自動適合ツール10内のテーブル作成部12は、自動運転部11から出力した計測データを読み込み、補間解析処理を行う。補間解析処理の動作フローは
図7の通りである。
【0031】
(ステップS31) 2D解析
2D解析の処理フローは
図8の通りである。
同じ回転数及び電流iで電流位相θを変化させて取得したデータ群を全体データからピックアップする。このうち、データ中に電圧飽和状態があるか否かをステップS311で判定し、電圧飽和状態がある/ないで推定方法を場合分けする。
【0032】
尚、電圧飽和状態とは同期モータ1の回転数が高くなったときに、端子電圧が同期モータ1へ供給される三相平均電圧以上に上昇してしまう状態のことである。
【0033】
トルク最適点と効率最適点が必ずしも同じ電流位相であるとは限らず、トルクと効率のトレードオフを考慮した中間点を狙う必要があるため、効率とトルクの重みづけを考慮し、最適点を算出する。
【0034】
図9に2D解析結果の一例を示す。
図9において△印は総合効率η1、L1は近似曲線θ-η1、□印はモータ効率η2、L2は近似曲線θ-η2、〇印はトルクT、L3は近似曲線θ-T、L4は、後述のように効率とトルクの重み付けを考慮して求められた効率解析曲線、*印はθの最適点(最大効果点)である。
【0035】
尚、
図9の例では、近似曲線θ-η2(L2)は重み付け考慮の結果、効率解析曲線L4と同一特性であり重なって表示されている。
【0036】
<電圧飽和がない場合>
まずステップS312aにおいて、電流位相θごとの総合効率η1とモータ効率η2に関して近似曲線θ-η1,θ-η2を算出する。曲線は上に凸の形状をもつことに期待し、2次曲線またはスプライン系の近似手法により求める。また、電流位相θごとのトルク出力効率に関して近似曲線θ-Tを算出する。
【0037】
次にステップS313aにおいて、θ-η1又はθ-η2のどちら側を重視するかの配分重みを乗算して一つの近似曲線θ-ηを求める。
【0038】
次にステップS314aにおいて、θ-ηとθ-Tのどちら側を重視するかの配分重みを乗算して一つの近似曲線(
図9の効率解析曲線L4)を求め、次にステップS315において電流位相を走査した範囲内から、この近似曲線のピーク点を最適点(最大効果点)としてアウトプットする。
【0039】
<電圧飽和がある場合>
電圧飽和を挟んでデータ取得されているものとする。まずステップS316において、電流位相θごとの電圧Vに関して近似曲線θ-Vを算出した後、ステップS317において電圧飽和点の位相θsatを推定(検索)し、電圧飽和がない場合と同様に前記近似曲線θ-ηとθ-Tの配分重みを考慮し(ステップS312a、S313a、S314aと同様の処理であるステップS312b、S313b、S314bを実行して)、電圧飽和を起こさないよう位相θsatまでの範囲に制限を行ったうえで、この効率解析曲線のピーク点を最適点としてアウトプットする(ステップS318)。
【0040】
(ステップS32) 3D解析
前記ステップS31の2D解析により、回転数と電流iごとの最適点θと、このときのトルクが求まる。これを回転数とトルクに対する、iq、idの分布とし、回転数とトルクに対する3Dのマップを
図10、
図11、
図12のように推定する。
【0041】
図10は電流iの3Dマップであり、黒色部分は近似マップを、〇印は推定点を各々示している。
図11は電流位相θの3Dマップであり、黒色部分は近似マップを、〇印は推定点を各々示している。
図12はidiqの3Dマップであり、淡い黒色部分はidを、濃い黒色部分はiqを各々示している。
【0042】
以上のように本実施形態例によれば、モータ回転数、電流i、電流位相θを走査して計測したデータからトルクの3D補間解析を行うため、未計測のトルクに対するid、iq値を推定することでき、従来手法よりも作業時間を短縮することができる。
【0043】
更には、テーブル作成基準を数値化できるため、精度のバラつきを低減できる。また、計測スケジュールを定めてしまえば、その後の計測動作は自動で行われるため、人による作業を最小限にしてidiqテーブルの適合作業が行える。
【符号の説明】
【0044】
1…同期モータ
2…ダイナモメータ
3…トルクメータ
4…回転位置センサ
5…ベクトル制御インバータ
6、8…センサ
7…直流電源
9…パワーアナライザ
10…idiqテーブル自動適合ツール
11…自動運転部
12…テーブル作成部