(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131302
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240920BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/419
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041494
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 勇太
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BD05
2G004BF06
2G004BJ03
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】水がコネクタ電極に到達するのをより抑制する。
【解決手段】ガスセンサ10は、センサ素子20と圧粉体45a,45bと碍子44a~44cとを備えている。センサ素子20は、素子本体60と上側コネクタ電極71と多孔質層80と第1水浸入抑制部91とを備えている。第1水浸入抑制部91は、素子本体60の第1面60aに設けられている。第1水浸入抑制部91は、多孔質層80が存在しない領域である複数の第1隙間領域93を有している。複数の第1隙間領域93は、各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と素子本体60の長手方向(前後方向)における位置が重複し、且つ、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つは、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と長手方向における位置が重複している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子と、前記センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒状体と、前記貫通孔内に配置され且つ前記貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された1又は複数の圧粉体と、前記貫通孔内に配置され且つ内部を前記センサ素子が貫通し且つ前記圧粉体を前記軸方向に押圧する中空柱状の複数の緻密体と、を備えるガスセンサであって、
前記センサ素子は、
長手方向に沿った両端である前端および後端と、前記長手方向に沿った表面である側面と、を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面の少なくとも一部を被覆する多孔質層と、
前記多孔質層の少なくとも一部よりも前記後端側に位置し且つ前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置するように前記側面に設けられた水浸入抑制部と、
を備え、
前記水浸入抑制部は、前記多孔質層が存在しない領域である複数の隙間領域を有しており、
前記複数の隙間領域は、各々が前記複数の緻密体のいずれかの内周面と前記長手方向における位置が重複し、
前記複数の隙間領域のうち少なくとも1つは、前記複数の緻密体のうち最も前記後端側に位置する緻密体の内周面と前記長手方向における位置が重複している、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記複数の隙間領域のうち少なくとも2つは、前記複数の緻密体のうち最も前記後端側に位置する緻密体の内周面と前記長手方向における位置が重複している、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記複数の隙間領域の各々は、前後方向の長さが0.2mm以上である、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記水浸入抑制部は、前記複数の緻密体のいずれかの内周面と前記長手方向における位置が重複する緻密層を有し、
前記複数の隙間領域のうち少なくとも1つは、前記緻密層よりも前記後端側に位置する、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
前記センサ素子は、前記側面に配設された電極と、前記電極と前記コネクタ電極とを導通する外側リード部とを備えており、
前記多孔質層は、前記外側リード部の少なくとも一部を被覆している、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子を備えるガスセンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のガスセンサは、センサ素子と2個の圧粉体と3個の碍子とを備えている。センサ素子は、素子本体と検出部と上側コネクタ電極と多孔質層と水侵入抑制部とを備えている。検出部は、素子本体の前端側に配設された複数の電極を有している。上側コネクタ電極は、素子本体の側面の後端側に配設されている。多孔質層は、側面の少なくとも前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上である。水侵入抑制部は、多孔質層を素子本体の長手方向に沿って分割するように素子本体の側面に配設された隙間領域を有している。隙間領域は、上側コネクタ電極よりも前端側に位置し、前後方向の存在範囲と碍子の内周面の前後方向の存在範囲との連続した重複部分の長さである重複距離が0.5mm以上であり、前後方向に沿った水の毛細管現象を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のガスセンサでも、隙間領域を有する水侵入抑制部が存在することで、水(水や水に溶けた硫酸など)が水侵入抑制部よりもセンサ素子の後端側に移動してコネクタ電極に到達するのを抑制できる。しかし、水蒸気濃度が高い被測定ガスにセンサ素子の前端側の部分が晒される場合など、ガスセンサがより過酷な環境で使用される場合を想定すると、水がコネクタ電極に到達するのをより抑制することが求められている。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、水がコネクタ電極に到達するのをより抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
[1]本発明のガスセンサは、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子と、前記センサ素子が内部を軸方向に貫通する貫通孔を有する筒状体と、前記貫通孔内に配置され且つ前記貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された1又は複数の圧粉体と、前記貫通孔内に配置され且つ内部を前記センサ素子が貫通し且つ前記圧粉体を前記軸方向に押圧する中空柱状の複数の緻密体と、を備えるガスセンサであって、
前記センサ素子は、
長手方向に沿った両端である前端および後端と、前記長手方向に沿った表面である側面と、を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面の少なくとも一部を被覆する多孔質層と、
前記多孔質層の少なくとも一部よりも前記後端側に位置し且つ前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置するように前記側面に設けられた水浸入抑制部と、
を備え、
前記水浸入抑制部は、前記多孔質層が存在しない領域である複数の隙間領域を有しており、
前記複数の隙間領域は、各々が前記複数の緻密体のいずれかの内周面と前記長手方向における位置が重複し、
前記複数の隙間領域のうち少なくとも1つは、前記複数の緻密体のうち最も前記後端側に位置する緻密体の内周面と前記長手方向における位置が重複している、
ものである。
【0008】
このガスセンサでは、センサ素子は、素子本体の側面の後端側に配設されたコネクタ電極と、側面の少なくとも一部を被覆する多孔質層と、コネクタ電極よりも前端側に位置するように側面に設けられた水浸入抑制部とを備える。センサ素子が水浸入抑制部を備えることにより、センサ素子(素子本体)の前端側が被測定ガスに晒された場合に、被測定ガス中の水蒸気が液化して生じた水が毛細管現象によって多孔質層内を長手方向に沿ってセンサ素子の後端側に移動したとしても、その水は、コネクタ電極に到達する前に水浸入抑制部に到達する。そして、水浸入抑制部は、多孔質層が存在しない領域である複数の隙間領域を有しており、複数の隙間領域は、各々が複数の緻密体のいずれかの内周面と長手方向における位置が重複している。隙間領域では多孔質層とは異なり素子本体の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。このような隙間領域が複数存在するため、例えば隙間領域が1個のみである場合に比して、長手方向に沿った水の移動をより抑制することができる。また、複数の隙間領域は各々が複数の緻密体のいずれかの内周面と素子本体の長手方向における位置が重複するから、複数の隙間領域の各々が圧粉体と長手方向における位置が重複する場合に比して、液体の水が複数の隙間領域を回り込んで移動することも抑制できる。さらに、複数の隙間領域のうち少なくとも1つは、複数の緻密体のうち最も後端側に位置する緻密体の内周面と長手方向における位置が重複している。ここで、被測定ガス中の水蒸気は、熱源(被測定ガス)から離間するすなわち素子本体の後端側に向かうにつれて液化しやすい。また、隙間領域は、水蒸気の移動を抑制する効果よりも液体の水の毛細管現象による移動を抑制する効果が高い。そのため、最も後端側に位置する緻密体の内周面と長手方向における位置が重複する位置に隙間領域が少なくとも1つ存在することで、その隙間領域には、水蒸気が液化した水の状態で到達しやすいから、隙間領域によって水の移動を十分抑制することができる。この結果、水が水浸入抑制部よりもセンサ素子の後端側に移動してコネクタ電極に到達するのをより抑制することができる。
【0009】
[2]上述したガスセンサ(前記[1]に記載のガスセンサ)において、前記複数の隙間領域のうち少なくとも2つは、前記複数の緻密体のうち最も前記後端側に位置する緻密体の内周面と前記長手方向における位置が重複していてもよい。こうすれば、水がコネクタ電極に到達するのを抑制する効果がより高まる。
【0010】
[3]上述したガスセンサ(前記[1]又は[2]に記載のガスセンサ)において、前記複数の隙間領域の各々は、前後方向の長さが0.2mm以上であってもよい。こうすれば、隙間領域がより確実に水の移動を抑制できる。この場合において、前記複数の隙間領域のうち1以上について、前記長手方向の長さが4.6mm以下であってもよい。前記複数の隙間領域のいずれもが、前記長手方向の長さが4.6mm以下であってもよい。
【0011】
[4]上述したガスセンサ(前記[1]~[3]のいずれかに記載のガスセンサ)において、前記水浸入抑制部は、前記複数の緻密体のいずれかの内周面と前記長手方向における位置が重複する緻密層を有し、前記複数の隙間領域のうち少なくとも1つは、前記緻密層よりも前記後端側に位置していてもよい。緻密層の内部は水蒸気が通過しにくいから、緻密層が存在することで水蒸気の後端側への移動を抑制できる。一方で、水蒸気が液体の水に変化し緻密層と他の部材との隙間など緻密層の内部以外を通って後端側へ移動する場合はある。このとき、緻密層よりも後端側に少なくとも1つの隙間領域が存在することで、水蒸気は緻密層の存在によって緻密層よりも後端側の隙間領域に到達しにくくなり、液体の水は緻密層よりも後端側の隙間領域に到達してもその隙間領域によって後端側への移動が十分抑制される。このように、緻密層とその後方に位置する少なくとも1つの隙間領域とが存在することで、水のコネクタ電極への到達をより抑制できる。
【0012】
[5]上述したガスセンサ(前記[1]~[4]のいずれかに記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記側面に配設された電極と、前記電極と前記コネクタ電極とを導通する外側リード部とを備えており、前記多孔質層は、前記外側リード部の少なくとも一部を被覆していてもよい。こうすれば、外部リード部の少なくとも一部を多孔質層により保護することができる。また、外部リード部を多孔質層により保護する場合、コネクタ電極に近い位置に多孔質層が存在しやすいため、本発明を適用する意義がより高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図。
【
図7】比較形態の水浸入抑制部90の配置を示す説明図。
【
図8】変形例の水浸入抑制部90の配置を示す説明図。
【
図9】変形例の水浸入抑制部90の配置を示す説明図。
【
図10】変形例の水浸入抑制部90の配置を示す説明図。
【
図11】変形例のガスセンサ10の水浸入抑制部90と碍子44a,44cおよび圧粉体45a,45bとの位置関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。
図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。
図3は、センサ素子20の縦断面を模式的に示す縦断面図である。
図4は、センサ素子20の上面図である。
図5は、センサ素子20の下面図である。本実施形態において、
図2および
図3に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の固体電解質層の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向および上下方向に垂直な方向すなわち
図3で紙面を貫通する方向を左右方向(幅方向)とする。
【0015】
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ナット47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO
2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は、特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端および後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
【0016】
保護カバー30は、
図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側保護カバー31および外側保護カバー32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)は、この素子室33内に配置されている。
【0017】
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42および内筒43を有する筒状体41と、碍子44a~44c(緻密体の一例)と、圧粉体45a,45bと、メタルリング46とを備えている。センサ素子20は、素子封止体40の中心軸(ここでは前後方向に延在する軸)に沿って延在するように配置されており、素子封止体40を軸方向に貫通している。
【0018】
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は、内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は、段差面である底面42bとなっている。この底面42bは、碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。主体金具42は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って主体金具42を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。
【0019】
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは、同軸に溶接されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bを前側に押圧するための縮径部43dとが形成されている。内筒43は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って内筒43を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。主体金具42の貫通孔と内筒43の貫通孔とは軸方向に連通しており、これらが筒状体41の貫通孔を構成している。
【0020】
碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、筒状体41の貫通孔の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。碍子44a~44cの材質としては、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライトなどのセラミックス、またはガラスを挙げることができる。碍子44a~44cは、緻密な部材であり、その気孔率は例えば1%未満である。碍子44a~44cの各々は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って自身を貫通する貫通孔を有する中空柱状の部材であり、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。碍子44a~44cの各々の貫通孔は、本実施形態では、センサ素子20の形状に合わせて、軸方向に垂直な断面が四角形状になっている。圧粉体45a,45bは、例えば粉末を成型したものであり、封止材としての役割を果たす。圧粉体45a,45bの材質としては、例えばタルクのほか、アルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末が挙げられ、圧粉体45a,45bは、それぞれこれらの少なくとも何れかを含んでいてもよい。圧粉体45a,45bを構成する粒子の平均粒径は、150~300μmであってもよい。圧粉体45aは、碍子44a,44b間に充填され、碍子44a,44bにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。圧粉体45bは、碍子44b,44c間に充填され、碍子44b,44cにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、主体金具42の肉厚部42aの底面42bと、縮径部43dおよびメタルリング46と、により軸方向に両側(前後)から挟まれて押圧されている。縮径部43c,43dからの押圧力によって、圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間で圧縮されることにより、圧粉体45a,45bは、保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共にセンサ素子20を固定している。
【0021】
ナット47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ナット47の外周面には、雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接された固定用部材59の内周面に設けられた雌ネジ部と螺合される。これにより、ガスセンサ10は、センサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出するように配管58に固定される。
【0022】
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には、主体金具42の後端部が挿入されている。外筒48の前端部は、主体金具42と溶接されている。外筒48の後端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、センサ素子20の後端側の表面に配設された上側コネクタ電極71および下側コネクタ電極72に接触して電気的に接続されている。このコネクタ50を介して、リード線55はセンサ素子20の内部の各電極64~68およびヒータ69と電気的に導通している。外筒48とリード線55との隙間は、ゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は、基準ガスで満たされている。空間49には、センサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
【0023】
センサ素子20は、
図2~5に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、上側コネクタ電極71と、下側コネクタ電極72と、多孔質層80と、水浸入抑制部90とを備えている。素子本体60は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数(
図3では6個)積層した積層体を有している。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている長尺な直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62とが形成されている。
【0024】
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65、内側補助ポンプ電極66、測定電極67、基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65および内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されており、トンネル状の構造を有している。
【0025】
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため、詳細な説明は省略する。検出部63は、例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定濃度に調整された被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力、または、その起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このようにして検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
【0026】
ヒータ69は、素子本体60の内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層の加熱および保温を行って、固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
【0027】
上側コネクタ電極71および下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面の何れかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。上側、下側コネクタ電極71,72は、いずれも多孔質層80に被覆されずに露出している。本実施形態では、上側コネクタ電極71として上側コネクタ電極71a~71dの4個が左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)の後端側に配設されている。下側コネクタ電極72として下側コネクタ電極72a~72dの4個が、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)に対向する第2面60b(下面)の後端側に配設されている。上側コネクタ電極71a~71dおよび下型コネクタ電極72a~72dは、それぞれ検出部63の複数の電極64~68およびヒータ69の何れかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、下側コネクタ電極72a~72cがそれぞれヒータ69と導通し、下側コネクタ電極72dが基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設された外側リード線75を介して導通している(
図3および
図4参照)。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリード線やスルーホールなどを介して、対応する電極またはヒータ69と導通している。
【0028】
多孔質層80は、上側、下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1、第2面60a,60bの少なくとも一部を被覆する多孔質体である。本実施形態では、多孔質層80は、第1、第2面60a,60bのうち、少なくとも前端側を被覆している。多孔質層80は、第1、第2面60a,60bをそれぞれ被覆する内側多孔質層81と、内側多孔質層81の外側に配設された外側多孔質層85とを備えている。
【0029】
内側多孔質層81は、第1面60aを被覆する第1内側多孔質層83と、第2面60bを被覆する第2内側多孔質層84とを備えている。第1内側多孔質層83は、第1~第4部分83a~83dを有している(
図2~
図4参照)。第1部分83aは、第1面60aにおける、第1面60aの前端から第1水浸入抑制部91の第1緻密層92の前端部までの領域を被覆している。第2部分83bは、第1面60aにおける、第1緻密層92の後端部から第1水浸入抑制部91の複数の第1隙間領域93のうち最も前端側の第1隙間領域93までの領域を被覆している。第3部分83cは、第1面60aにおける、複数の第1隙間領域93のうち素子本体60の長手方向に隣り合う第1隙間領域93の間の領域を被覆している。第3部分83cは、複数の第1隙間領域93の数よりも1つ少ない数だけ存在する。本実施形態では、第1隙間領域93の数は2つであるため、第3部分83cの数は1つである。第4部分83dは、第1面60aにおける、複数の第1隙間領域93のうち最も後端側の第1隙間領域93の後端部から第1面60aの後端までの領域を、上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて被覆している。本実施形態の第1内側多孔質層83は、こうした第1~第4部分83a~83dを有することで、第1面60aにおける第1水浸入抑制部91および上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて、第1面60aの前端から後端までの領域を被覆している。第1内側多孔質層83の第1~第4部分83a~83dの左右の幅は、第1面60aの左右の幅と同じであり、第1~第4部分83a~83dは、第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1内側多孔質層83は、外側電極64および外側リード線75のそれぞれ少なくとも一部を被覆している。本実施形態では、
図3および
図4に示すように、第1内側多孔質層83は、外側電極64の全てを被覆し、且つ、外側リード線75のうち、第1水浸入抑制部91の第1緻密層92および複数の第1隙間領域93が存在する領域を除く部分の全てを被覆している。第1内側多孔質層83は、例えば被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64および外側リード線75を保護して、これらの腐食などを抑制する保護層としての役割を果たす。
【0030】
第2内側多孔質層84は、第1~第4部分84a~84dを有している(
図2、
図4、
図5参照)。第1部分84aは、第2面60bにおける、第2面60bの前端から第2水浸入抑制部95の第2緻密層96の前端部までの領域を被覆している。第2部分84bは、第2面60bにおける、第2緻密層96の後端部から第2水浸入抑制部95の複数の第2隙間領域97のうち最も前端側の第2隙間領域97までの領域を被覆している。第3部分84cは、第2面60bにおける、複数の第2隙間領域97のうち素子本体60の長手方向に隣り合う第2隙間領域97の間の領域を被覆している。第4部分84dは、第2面60bにおける、複数の第2隙間領域97のうち最も後端側の第2隙間領域97の後端部から第2面60bの後端までの領域を、下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて被覆している。本実施形態の第2内側多孔質層84は、こうした第1~第4部分84a~84dを有することで、第2面60bにおける第2水浸入抑制部95および下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて、第2面60bの前端から後端までの領域を被覆している。第2内側多孔質層84の第1~第4部分84a~84dの左右の幅は、第2面60bの左右の幅と同じであり、第1~第4部分84a~84dは、第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。
【0031】
外側多孔質層85は、第1~第5面60a~60eを被覆している。外側多孔質層85は、第1面60aおよび第2面60bについては、内側多孔質層81を被覆することにより、これらの面を被覆している。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側多孔質層81とは異なり素子本体60の前端および前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側多孔質層85は、素子本体60のうち検出部63の各電極64~68の周辺部分、言い換えると、素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分、を被覆している。これにより、外側多孔質層85は、例えば被測定ガス中の水等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する保護層としての役割を果たす。
【0032】
多孔質層80は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体、チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などのセラミックス多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質層80は、アルミナ多孔質体からなるものとした。第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84の各々の厚さは、例えば5μm以上40μm以下としてもよい。外側多孔質層85の厚さは、例えば40μm以上800μm以下としてもよい。多孔質層80は、気孔率が10%以上である。多孔質層80は外側電極64や被測定ガス導入口61を覆っているが、多孔質層80の気孔率が10%以上であれば、被測定ガスは多孔質層80を通過できる。内側多孔質層81の気孔率は、10%以上50%以下としてもよい。外側多孔質層85の気孔率は、10%以上85%以下としてもよい。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と気孔率が同一でもよいし、内側多孔質層81よりも気孔率が高くてもよい。
【0033】
内側多孔質層81の気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、内側多孔質層81の断面を観察面とするように内側多孔質層81の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋めおよび研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで内側多孔質層81のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。外側多孔質層85の気孔率や、後述する第1緻密層92および第2緻密層96の気孔率も、同様にして導出した値とする。
【0034】
水浸入抑制部90は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するものである。本実施形態では、水浸入抑制部90は、第1水浸入抑制部91と第2水浸入抑制部95とを有している。第1水浸入抑制部91は、上側コネクタ電極71および第1内側多孔質層83が配設された第1面60aに設けられている。第1水浸入抑制部91は、多孔質層80の少なくとも一部(ここでは外側多孔質層85および第1部分83a)よりも素子本体60の後端側すなわち後方に設けられている。第1水浸入抑制部91は、上側コネクタ電極71よりも素子本体60の前端側すなわち上側コネクタ電極71の前方に設けられている。第1水浸入抑制部91は、外側電極64よりも後方に設けられている。第1水浸入抑制部91は、外側電極64も含む検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に設けられている(
図3参照)。第1水浸入抑制部91は、水が第1内側多孔質層83内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水が第1水浸入抑制部91を通過するのを抑制して、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する役割を果たす。第1水浸入抑制部91は、第1緻密層92と、複数(
図2~
図4では2個)の第1隙間領域93とを備えている。第1緻密層92は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第1緻密層92の左右の幅は、第1面60aの左右の幅と同じであり、第1緻密層92は、第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1緻密層92の前端部は、第1内側多孔質層83の第1部分83aの後端部に接している。第1緻密層92は、
図4に示すように、外側リード線75の一部を被覆している。複数の第1隙間領域93の各々は、第1面60a上の領域であって多孔質層80および第1緻密層92が存在しない領域である。複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つは、第1緻密層92よりも後端側に位置する。本実施形態では、複数の第1隙間領域93のいずれもが、第1緻密層92よりも後端側に位置する。第1隙間領域93が存在する部分では、第1面60aおよび外側リード線75が露出している。素子本体60の長手方向において隣り合う2つの第1隙間領域93の間(
図2~4では1箇所)には、多孔質層80の一部(ここでは第1内側多孔質層83の第3部分83c)が配設されている。
【0035】
第2水浸入抑制部95は、下側コネクタ電極72および第2内側多孔質層84が配設された第2面60bに設けられている。第2水浸入抑制部95は、多孔質層80の少なくとも一部(ここでは外側多孔質層85および第1部分84a)よりも素子本体60の後端側すなわち後方に設けられている。第2水浸入抑制部95は、下側コネクタ電極72よりも素子本体60の前端側すなわち下側コネクタ電極72の前方に設けられている。第2水浸入抑制部95は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(
図3参照)。第2水浸入抑制部95は、水が第2内側多孔質層84内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水が第2水浸入抑制部95を通過するのを抑制して、水が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。第2水浸入抑制部95は、第2緻密層96と、複数(
図2、
図3、
図5では2個)の第2隙間領域97とを備えている。第2緻密層96は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第2緻密層96の左右の幅は、第2面60bの左右の幅と同じであり、第2緻密層96は、第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。第2緻密層96の前端部は、第2内側多孔質層84の第1部分84aの後端部に接している。複数の第2隙間領域97の各々は、第2面60b上の領域であって多孔質層80および第2緻密層96が存在しない領域である。複数の第2隙間領域97のうち少なくとも1つは、第2緻密層96よりも後端側に位置する。本実施形態では、複数の第2隙間領域97のいずれもが、第2緻密層96よりも後端側に位置する。第2隙間領域97が存在する部分では、第2面60bが露出している。素子本体60の長手方向において隣り合う2つの第2隙間領域97の間(
図2、
図3、
図5では1箇所)には、多孔質層80の一部(ここでは第2内側多孔質層84の第3部分84c)が配設されている。
【0036】
第1緻密層92および第2緻密層96は、気孔率が10%未満である点で多孔質層80と異なるものの、上述した多孔質層80について例示した材料からなるセラミックスを用いることができる。本実施形態では、第1緻密層92および第2緻密層96は、いずれもアルミナのセラミックスとした。第1緻密層92および第2緻密層96の各々の厚さは、例えば5μm以上40μm以下としてもよい。第1緻密層92の厚さは、第1内側多孔質層83の厚さ以上であることが好ましい。同様に、第2緻密層96の厚さは、第2内側多孔質層84の厚さ以上であることが好ましい。第1緻密層92および第2緻密層96の各々の気孔率は、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。気孔率が小さいほど、第1緻密層92および第2緻密層96は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象をより抑制することができる。
【0037】
素子本体60の長手方向(ここでは前後方向)において、第1緻密層92の長さLe1(
図4参照)および第2緻密層96の長さLe2(
図5参照)は、互いに同一である。長さLe1,Le2は、それぞれ0.5mm以上であることが好ましい。これにより、水が長手方向に沿って第1緻密層92および第2緻密層96を通過するのを抑制することができる。長さLe1,Le2は、それぞれ5mm以上としてもよい。長さLe1,Le2は、それぞれ25mm以下としてもよく、それぞれ20mm以下としてもよい。なお、長さLe1と長さLe2とは、互いに異なる値でもよい。
【0038】
素子本体60の長手方向(ここでは前後方向)において、各第1隙間領域93の長さLg1(
図4参照)および各第2隙間領域97の長さLg2(
図5参照)は、互いに同一である。長さLg1,Lg2は、それぞれ0.2mm以上であることが好ましい。長さLg1,Lg2は、それぞれ4.6mm以下としてもよい。長さLg1,Lg2は、それぞれ1.0mm以下としてもよい。長さLg1,Lg2を比較的短くすることにより、素子本体60の第1、第2面60a,60bが露出する部分、即ち、多孔質層80および各第1、第2緻密層92,96のいずれにも覆われていない部分を少なくすることができる。特に、本実施形態では、第1面60aに外側リード線75が配設されており、各第1隙間領域93が存在する部分で外側リード線75が露出する。このため、各第1隙間領域93の長さを短くすることにより、外側リード線75のうち多孔質層80および各第1緻密層92に保護されない部分を少なくすることができる。各第1隙間領域93の長さLg1は、互いに異なっていてもよい。各第2隙間領域97の長さLg2は、互いに異なっていてもよい。長さLg1と長さLg2とは、互いに異なっていてもよい。
【0039】
図6は、水浸入抑制部90と碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bとの位置関係を示す説明図であり、説明に無関係な部材の図示を省略したガスセンサ10の縦断面図である。第1水浸入抑制部91の各第1緻密層92および第2水浸入抑制部95の各第2緻密層96は、それぞれ、複数の碍子44a~44cのいずれかの内周面と素子本体60の長手方向における位置が重複するように配置されてる。本実施形態では、第1、第2緻密層92,96は、それぞれ碍子44a~44cのうち碍子44bの内周面44b1,44b2とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置されている。ここで、碍子44bの内周面44b1は、碍子44bのうち各第1緻密層92に対向している面、即ち、各第1緻密層92に向けて露出している面であり、碍子44bの断面四角形状の内周面のうち上側に位置する面である。また、碍子44bの内周面44b2は、碍子44bのうち各第2緻密層96に対向している面、即ち、各第2緻密層96に向けて露出している面であり、碍子44bの断面四角形状の内周面のうち下側に位置する面である。
【0040】
第1水浸入抑制部91の複数の第1隙間領域93は、各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と長手方向(ここでは前後方向)における位置が重複するように位置している。さらに、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つは、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と長手方向における位置が重複している。本実施形態では、
図6に示すように、複数の第1隙間領域93(ここでは2つの第1隙間領域93)のいずれもが、碍子44cの内周面44c1と長手方向における位置が重複している。また、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つは、第1緻密層92よりも素子本体60の後端側に位置している。本実施形態では、
図6に示すように、複数の第1隙間領域93(ここでは2つの第1隙間領域93)のいずれもが、第1緻密層92よりも素子本体60の後端側に位置している。
【0041】
第2水浸入抑制部95の複数の第2隙間領域97は、各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と長手方向(ここでは前後方向)における位置が重複するように位置している。さらに、複数の第2隙間領域97のうち少なくとも1つは、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c2と長手方向における位置が重複している。本実施形態では、
図6に示すように、複数の第2隙間領域97(ここでは2つの第2隙間領域97)のいずれもが、碍子44cの内周面44c2と長手方向における位置が重複している。また、複数の第2隙間領域97のうち少なくとも1つは、第2緻密層96よりも素子本体60の後端側に位置している。本実施形態では、
図6に示すように、複数の第2隙間領域97(ここでは2つの第2隙間領域97)のいずれもが、第2緻密層96よりも素子本体60の後端側に位置している。
【0042】
ここで、碍子44cの内周面44c1は、碍子44cのうち第1隙間領域93に露出している面であり、碍子44cの断面四角形状の内周面のうち上側に位置する面である。また、碍子44cの内周面44c2は、碍子44cのうち第2隙間領域97に露出している面であり、碍子44cの断面四角形状の内周面のうち下側に位置する面である。
【0043】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の製造方法について説明する。以下、センサ素子20の製造方法について説明した後に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。
【0044】
センサ素子20の製造方法について説明する。まず、素子本体60に対応する複数(ここでは6枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や配線パターンをスクリーン印刷したりする。また、焼成後に第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層や、焼成後に第1緻密層92および第2緻密層96となる未焼成緻密層についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち第1、第2面60a,60bに対応する面に形成する。第1隙間領域93および第2隙間領域97は、焼成後に第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層を形成しない部分を設けることで、形成できる。その後に、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体であり、未焼成多孔質層および未焼成緻密層を備えている。そして、この未焼成素子本体を焼成して、第1内側多孔質層83、第2内側多孔質層84、第1緻密層92、第2緻密層96を備える素子本体60を得る。続いて、プラズマ溶射により外側多孔質層85を形成して、センサ素子20を得る。なお、多孔質層80、第1緻密層92、第2緻密層96の製造方法としては、スクリーン印刷やプラズマ溶射の他に、ゲルキャスト法、ディッピングなどを用いることもできる。
【0045】
センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。まず、筒状体41の貫通孔の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a、圧粉体45a、碍子44b、圧粉体45b、碍子44c、メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することによって素子封止体40を製造し、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。この状態の素子封止体40及びそれに固定されたセンサ素子20とをまとめて一次組立品とも称する。こうして一次組立品を得た後に、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ナット47を取り付けて組立体15を得る。そして、ゴム栓57内を通したリード線55と、これに接続されたコネクタ50とを用意して、コネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続する。その後に、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
【0046】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例について説明する。ガスセンサ10が
図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、ヒータ69によって素子本体60が加熱されて固体電解質層が活性化した状態で、被測定ガスが多孔質層80を通過して外側電極64に到達および被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側、下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことにより、電気信号に基づいてNOx濃度が検出される。
【0047】
このとき、被測定ガス中には水蒸気(水蒸気や水蒸気に溶けた硫酸など)が含まれている場合があり、この水蒸気が液化する場合がある。例えばガスセンサ10の使用後にヒータ69による素子本体60の加熱が終了すると、素子本体60の温度が低下していくため水蒸気が液化する。なお、このときには、熱源(被測定ガス)から離間するすなわちセンサ素子20(素子本体60)の後端側に向かうほど温度が低下しやすく、水蒸気が液化しやすい。そして、この液化した水が毛細管現象によって多孔質層80内を移動していく場合がある。この液体の水が上側、下側コネクタ電極71,72に到達すると、水や水に溶けた硫酸などによって上側、下側コネクタ電極71,72に錆や腐食が発生したり、上側、下側コネクタ電極71,72のうち隣接する電極間の短絡が生じたりする場合がある。あるいは、コネクタ50の一部であり上側、下側コネクタ電極71,72と接触する接触金具に錆や腐食が発生する場合もある。しかし、本実施形態のガスセンサ10では、被測定ガス中の水が毛細管現象によって多孔質層80内(特に第1内側多孔質層83内および第2内側多孔質層84内)をセンサ素子20(素子本体60)の後端側に向かって移動したとしても、水は、上側、下側コネクタ電極71,72に到達する前に、第1、第2水浸入抑制部91,95に到達する。そして、第1、第2水浸入抑制部91,95は、多孔質層80が存在しない領域である複数の第1、第2隙間領域93,97を有している。第1、第2隙間領域93,97では多孔質層80とは異なり素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。このような第1、第2隙間領域93,97がそれぞれ複数存在するため、例えば第1隙間領域93および第2隙間領域97がそれぞれ1個のみである場合に比して、長手方向に沿った水の移動をより抑制することができる。
【0048】
また、複数の第1、第2隙間領域93,97は、各々が複数の碍子44a~44cのいずれかの内周面(本実施形態では碍子44cの内周面44c1,44c2)と長手方向における位置が重複している。これにより、液体の水が複数の第1、第2隙間領域93,97をセンサ素子20の外側から回り込んでセンサ素子20の後端側に移動するのを抑制することができる。例えば、比較形態として、
図7に示すように、各第1、第2隙間領域93,97がそれぞれ圧粉体45bの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置される場合を考える。ここで、圧粉体45bは、例えば粉末を成型したものであり、吸水性を有する。この場合、液体の水は、複数の第1、第2隙間領域93,97内の移動は抑制されるものの、圧粉体45b内の移動は容易である。このため、液体の水が圧粉体45b内を移動することにより、複数の第1、第2隙間領域93,97をセンサ素子20の外側から回り込んで複数の第1、第2隙間領域93,97よりも後端側に移動してしまう場合がある(
図7中の太矢印参照)。これに対して、本実施形態のセンサ素子20では、
図6に示すように、複数の第1、第2隙間領域93,97がそれぞれ碍子44cの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置されており、碍子44cは緻密である。このため、液体の水が複数の第1、第2隙間領域93,97をセンサ素子20の外側から回り込んでセンサ素子20の後端側に移動するのを抑制することができる。
【0049】
さらに、複数の第1、第2隙間領域93,97のうち少なくとも1つは、複数の碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1,44c2と長手方向における位置が重複している。ここで、被測定ガス中の水蒸気は、上述したように、熱源(被測定ガス)から離間するすなわちセンサ素子20(素子本体60)の後端側に向かうにつれて液化しやすい。また、第1,第2隙間領域93,97は、水蒸気の移動を抑制する効果よりも液体の水の毛細管現象による移動を抑制する効果が高い。そのため、複数の碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1,44c2と長手方向における位置が重複する位置に第1、第2隙間領域93,97がそれぞれ少なくとも1つ存在することで、その第1、第2隙間領域93,97に到達する水は水蒸気ではなく液体の状態になりやすいから、第1、第2隙間領域93,97によって水の移動を十分抑制することができる。
【0050】
そして、第1、第2水浸入抑制部91,95は、碍子44bの内周面44b1,44b2と素子本体60の長手方向における位置が重複するように配置された第1,第2緻密層92,96を有している。第1、第2緻密層92,96は緻密であるから、第1、第2隙間領域93,97と比較して水蒸気の移動を抑制する効果が高い。そのため、第1、第2緻密層92,96が存在することで水蒸気の後端側への移動を抑制できる。また、第1、第2緻密層92,96は緻密であるから、多孔質層80とは異なり素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくいため、第1、第2緻密層92,96の内部の液体の水の移動も抑制できる。ただし、水蒸気が液体の水に変化し第1、第2緻密層92,96と他の部材との隙間など第1、第2緻密層92,96の内部以外を通って後端側へ移動する場合はある。このとき、第1、第2緻密層92,96よりも後端側に少なくとも1つ(本実施形態では2つ)の第1、第2隙間領域93,97が存在することで、水蒸気は第1、第2緻密層92,96の存在によって第1、第2緻密層92,96よりも後端側の第1、第2隙間領域93,97に到達しにくくなり、液体の水は第1、第2緻密層92,96よりも後端側の第1、第2隙間領域93,97に到達してもその第1、第2隙間領域93,97によって後端側への移動が十分抑制される。このように、第1、第2緻密層92,96とその後方に位置する少なくとも1つの第1、第2隙間領域93,97とが存在することで、水の上側、下側コネクタ電極71,72への到達をより抑制できる。
【0051】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセンサ素子20が本発明のセンサ素子に相当し、筒状体41が筒状体に相当し、圧粉体45a,45bが圧粉体に相当し、碍子44a~44cが緻密体に相当し、素子本体60が素子本体に相当し、第1、第2面60a,60bが側面に相当し、上側、下側コネクタ電極71(71a~71d),72(72a~72d)がコネクタ電極に相当し、多孔質層80、特に第1、第2内側多孔質層83,84が多孔質層に相当し、第1、第2水浸入抑制部91,95が水浸入抑制部に相当し、複数の第1、第2隙間領域93,97が複数の隙間領域に相当する。また、第1、第2緻密層92,96が緻密層に相当し、外側電極64が側面に配設された電極に相当し、外側リード線75が外側リード部に相当する。
【0052】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子20によれば、素子本体60の第1面60aに配設された第1水浸入抑制部91が複数の第1隙間領域93を有するから、第1隙間領域93が1個のみである場合に比して、液体の水が第1水浸入抑制部91よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側コネクタ電極71a~71dに到達するのをより抑制することができる。また、複数の第1隙間領域93は各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と素子本体60の前後方向における位置が重複するから、第1隙間領域93の位置が圧粉体45a,45bと重複する場合に比して、液体の水が複数の第1隙間領域93を回り込んで移動するのも抑制できる。さらに、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と前後方向における位置が重複する。そのため、その第1隙間領域93には、熱源(被測定ガス)から遠いことで水蒸気が液化した水の状態で到達しやすいから、その第1隙間領域93によって水の移動を十分抑制できる。これらの結果、水が第1水浸入抑制部91よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側コネクタ電極71に到達するのをより抑制できる。
【0053】
同様に、素子本体60の第2面60bに配設された第2水浸入抑制部95が複数の第2隙間領域97を有するから、第2隙間領域97が1個のみである場合に比して、液体の水が第2水浸入抑制部95よりもセンサ素子20の後端側に移動して下側コネクタ電極72a~72dに到達するのをより抑制することができる。また、複数の第2隙間領域97は各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複するから、第2隙間領域97の位置が圧粉体45a,45bと重複する場合に比して、液体の水が複数の第2隙間領域97を回り込んで移動するのも抑制できる。さらに、複数の第2隙間領域97のうち少なくとも1つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c2と前後方向における位置が重複する。そのため、その第2隙間領域97には、熱源(被測定ガス)から遠いことで水蒸気が液化した水の状態で到達しやすいから、その第2隙間領域97によって水の移動を十分抑制できる。これらの結果、水が第2水浸入抑制部95よりもセンサ素子20の後端側に移動して下側コネクタ電極72に到達するのをより抑制できる。
【0054】
また、複数の第1隙間領域93のうち2つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と前後方向における位置が重複している。そのため、複数の第1隙間領域93のうち1つのみが碍子44cの内周面44c1と位置が重複する場合に比して、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する効果がより高まる。同様に、複数の第2隙間領域97のうち2つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c2と前後方向における位置が重複している。そのため、複数の第2隙間領域97のうち1つのみが碍子44cの内周面44c2と位置が重複する場合に比して、水が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する効果がより高まる。
【0055】
さらに、複数の第1、第2隙間領域93,97の各々が、前後方向の長さが0.2mm以上であるため、複数の第1、第2隙間領域93,97がより確実に水の移動を抑制できる。
【0056】
そして、第1水浸入抑制部91は、碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複する第1緻密層92を有し、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つは、第1緻密層92よりも後端側に位置している。これにより、水蒸気は第1緻密層92の存在によって第1緻密層92よりも後端側の第1隙間領域93に到達しにくくなり、液体の水は第1緻密層92よりも後端側の第1隙間領域93に到達してもその第1隙間領域93によって後端側への移動が十分抑制される。このように、第1緻密層92とその後方に位置する少なくとも1つの第1隙間領域93とが存在することで、水の上側コネクタ電極71への到達をより抑制できる。同様に、第2水浸入抑制部95は、碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複する第2緻密層96を有し、複数の第2隙間領域97のうち少なくとも1つは、第2緻密層96よりも後端側に位置している。これにより、水蒸気は第2緻密層96の存在によって第2緻密層96よりも後端側の第2隙間領域97に到達しにくくなり、液体の水は第2緻密層96よりも後端側の第2隙間領域97に到達してもその第2隙間領域97によって後端側への移動が十分抑制される。このように、第2緻密層96とその後方に位置する少なくとも1つの第2隙間領域97とが存在することで、水の下側コネクタ電極72への到達をより抑制できる。
【0057】
そしてまた、センサ素子20は、上側コネクタ電極71が配設された第1面60aに配設された外側電極64と、外側電極64と上側コネクタ電極71bとを導通する外側リード線75と、を備えている。多孔質層80(特に第1内側多孔質層83)は、外側リード線75の少なくとも一部を被覆している。このため、外側リード線75の少なくとも一部を多孔質層80によって保護することができる。また、外側リード線75を多孔質層80によって保護する場合、上側コネクタ電極71に近い位置に多孔質層80(第1内側多孔質層83)が存在しやすいため、水が第1内側多孔質層83を介して上側コネクタ電極71に到達するのを第1水浸入抑制部91の複数の第1隙間領域93によって抑制する意義がより高い。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0059】
例えば、上述した実施形態では、第1緻密層92は碍子44bと前後方向における位置が重複していたが、これに限られない。第1緻密層92は、例えば碍子44a又は碍子44cと前後方向における位置が重複していてもよい。これらの場合も、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つが第1緻密層92よりも後端側に位置していればよい。また、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも2つが第1緻密層92よりも後端側に位置していることが好ましく、複数の第1隙間領域93のうちのいずれもが第1緻密層92よりも後端側に位置していることがより好ましい。第2緻密層96の位置および第2緻密層96と第2隙間領域97との位置関係についても同様である。
【0060】
上述した実施形態において、第1水浸入抑制部91が第1緻密層92を備えなくてもよい。同様に、第2水浸入抑制部95が第2緻密層96を備えなくてもよい。例えば、
図8に示す変形例の水浸入抑制部90は、第1緻密層92および第2緻密層96を備えていない。この場合も、上述した実施形態と同様に、複数の第1、第2隙間領域93,97の各々が、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1,44c2と前後における位置が重複しているから、水が第1、第2水浸入抑制部91,95よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのをより抑制することができる。
【0061】
上述した実施形態では、複数の第1隙間領域93のうち2つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と前後方向の位置が重複していたが、これに限られない。複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と前後方向の位置が重複していればよい。第2隙間領域97についても同様である。例えば、
図9に示す変形例の水浸入抑制部90では、複数(ここでは2個)の第1隙間領域93のうち1つが碍子44cの内周面44c1と前後方向の位置が重複しており、もう1つの第1隙間領域93は碍子44bの内周面44b1と前後方向の位置が重複している。同様に、複数(ここでは2個)の第2隙間領域97のうち1つが碍子44cの内周面44c2と前後方向の位置が重複しており、もう1つの第2隙間領域97は碍子44bの内周面44b2と前後方向の位置が重複している。また、
図10に示す変形例の水浸入抑制部90では、複数(ここでは2個)の第1隙間領域93のうち1つが碍子44cの内周面44c1と前後方向の位置が重複しており、もう1つの第1隙間領域93は碍子44aの内周面44a1と前後方向の位置が重複している。同様に、複数(ここでは2個)の第2隙間領域97のうち1つが碍子44cの内周面44c2と前後方向の位置が重複しており、もう1つの第2隙間領域97は碍子44aの内周面44a2と前後方向の位置が重複している。
図9および
図10に示す水浸入抑制部90においても、複数の第1、第2隙間領域93,97の各々が、碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複し、且つ、複数の第1、第2隙間領域93,97のうち少なくとも1つずつが、最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1,44c2と前後における位置が重複しているから、水が第1、第2水浸入抑制部91,95よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのをより抑制することができる。ただし、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも2つが碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1と前後方向の位置が重複している方が、水が上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのをより抑制することができるため好ましい。そのため、
図9および
図10のセンサ素子20よりも
図9のセンサ素子20がより好ましい。
【0062】
上述した実施形態では、ガスセンサ10は、3個の碍子44a~44cおよび2個の圧粉体45a,45bを備えていたが、1又は複数の圧粉体と、複数の碍子とを備えていればよい。例えば、
図11に示す変形例のガスセンサ10は、上述した実施形態の碍子44bを備えておらず、2個の碍子44a,44cを備えている。また、このガスセンサ10は、圧粉体45aと圧粉体45bとが前後方向に隣接している。圧粉体45aと圧粉体45bとは互いの境界が区別できず一体化していてもよい。このガスセンサ10においても、複数(ここでは2個)の第1、第2隙間領域93,97の各々が、碍子44a,44cのうち最も後端側に位置する碍子44cの内周面44c1,44c2と前後における位置が重複しているから、水が第1、第2水浸入抑制部91,95よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側、下側コネクタ電極71,72に到達するのをより抑制することができる。
図11のガスセンサ10において、水浸入抑制部90が、碍子44aと前後方向の位置が重複する第1緻密層92および第2緻密層96を備えていてもよい。
図11のガスセンサ10において、複数の第1、第2隙間領域93,97の配置を
図10と同様となるように変更してもよい。
【0063】
上述した実施形態および
図8~
図11に示した変形例では、第1隙間領域93および第2隙間領域97がそれぞれ2つであったが、これに限らず第1隙間領域93および第2隙間領域97の少なくとも一方が3つ以上設けられていてもよい。例えば上述した実施形態において第1隙間領域93を3つ以上とする場合、複数の第1隙間領域93の各々が碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複し、且つ、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つが、碍子44cの内周面44c1と前後方向における位置が重複していればよい。また、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも2つが、碍子44cの内周面44c1と前後方向における位置が重複していることが好ましい。第2隙間領域97についても同様である。
【0064】
上述した実施形態では、緻密体の例として碍子44a~44cを挙げたが、これに限らず碍子以外の緻密体を用いてもよい。緻密体は、気孔率が10%未満であればよい。気孔率が10%未満の緻密体であれば、内部を水が通過しにくいため、上述した第1、第2隙間領域93,97を回り込むことによる水の移動を十分に抑制できる。緻密体の気孔率は、5%未満であってもよい。緻密体の気孔率は、内側多孔質層81の気孔率と同様にSEMを用いて導出した値とする。
【0065】
上述した実施形態において、センサ素子20が第2内側多孔質層84を備えずに、第2面60bが多孔質層80で被覆されていなくてもよい。この場合、センサ素子20は、第2水浸入抑制部95を備えなくてもよい。水浸入抑制部は、素子本体が有する側面(上述した実施形態では第1~第4面60a~60d)のうち、コネクタ電極および多孔質保護層が配設された側面(上述した実施形態では、第1、第2面60a,60b)の少なくとも1つに配設されていればよい。こうすれば、少なくとも水浸入抑制部が配設された側面において、水が水浸入抑制部を通過してコネクタ電極に到達するのを抑制することができる。
【0066】
上述した実施形態では、第1内側多孔質層83は、第1面60aにおける第1水浸入抑制部91および上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて、第1面60aの前端から後端までの領域を被覆していたが、これに限られない。例えば、第1内側多孔質層83のうち第4部分83dは、第1面60aにおける、複数の第1隙間領域93のうち最も後端側の第1隙間領域93の後端部から上側コネクタ電極71の前端部までの領域またはそれよりも前端側までの領域を被覆していてもよい。第2内側多孔質層84の第4部分83dについても同様である。
【0067】
上述した実施形態では、素子本体60は、直方体形状としたが、これに限られない。例えば、素子本体60は、円筒または円柱状であってもよい。この場合、素子本体60は、側面を1つ有することになる。
【実施例0068】
以下に、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[比較例1および実施例1~3]
図1~
図5に示したガスセンサ10と同様の製造方法を途中まで実行してセンサ素子20を素子封止体40に固定した一次組立品を作製し、比較例1および実施例1~3とした。比較例1および実施例1~3は、いずれもセンサ素子20が第1、第2緻密層92,96を備えない態様とした。表1に示すように、比較例1および実施例1~3では、いずれも第1隙間領域93が2つ設けられているものとした。また、比較例1および実施例1~3では、センサ素子20を素子封止体40に固定したときに碍子44a,44b,44cのそれぞれと重複する位置に存在する第1隙間領域93の数を種々変更した。具体的には、比較例1では、2つの第1隙間領域93が碍子44bと重複する位置に設けられている。実施例1は、
図8に示した態様とし、2つの第1隙間領域93が碍子44cと重複する位置に設けられている。実施例2は、
図9に示した態様とし、1つの第1隙間領域93が碍子44bと重複する位置に設けられ、もう1つの第1隙間領域93が碍子44cと重複する位置に設けられている。実施例3は、
図10に示した態様とし、1つの第1隙間領域93が碍子44aと重複する位置に設けられ、もう1つの第1隙間領域93が碍子44cと重複する位置に設けられている。比較例1および実施例1~3の各第1隙間領域93の長さLg1は、いずれも0.2mmとした。なお、比較例1および実施例1~3のいずれにおいても、第2隙間領域97については、第1隙間領域93と同数設けられており、それぞれ第1隙間領域93と前後方向における同一の位置に設けられている。
【0070】
【0071】
比較例1および実施例1~3のセンサ素子20は、以下のように作製した。まず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。各々のグリーンシートには各電極等のパターンを印刷した。また、焼成後に第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層を、スクリーン印刷により形成した。未焼成多孔質層は、原料粉末(アルミナ粉末)、バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール)、溶媒(アセトン)、造孔材を混合して調合したスラリーとした。その後に、6枚のグリーンシートを積層および焼成した。これにより、第1、第2内側多孔質層83,84を備えた素子本体60を作製して、比較例1および実施例1~3のセンサ素子20とした。素子本体60の寸法は、長さが67.5mm、幅が4.25mm、厚さが1.45mmとした。第1,第2内側多孔質層83,84は、厚さが20μm、気孔率が30%とした。素子封止体40の碍子44a~44cはいずれもアルミナからなるセラミックスの焼結体とした。碍子44a~44cの気孔率をSEM画像を用いて導出したところ、1%未満であった。圧粉体45a,45bはタルク粉末を成形したものとした。また、筒状体41内で圧粉体45a,45bに前後から加わる封止荷重が適切となるように、タルク粉末の量を調整した。
【0072】
[液体浸入試験]
比較例1および実施例1~3の一次組立品について、素子本体60の前端側を液体に浸した場合に毛細管現象によって素子本体60の後端側にどの程度液体が浸入するかを試験した。まず、センサ素子20の前端(第5面60e)側が下側で長手方向が鉛直方向に沿うように一次組立品を配置した。続いて、センサ素子20の前端側が被測定ガスを模擬したモデルガス(温度100℃,水濃度3%,ベースガスは窒素)に晒されるようにした。この状態で、センサ素子20の素子本体60の前端から後端側に向かって20mmの位置(以下、浸漬位置)までの部分を、レッドチェック液に浸した。浸漬位置は、碍子44aよりも素子本体60の前端側である。その状態で放置し、レッドチェック液がセンサ素子20の上側コネクタ電極71の前端部に到達するまでの時間を計測し、染み上がり時間とした。素子本体60の浸漬位置から上側コネクタ電極71の前端部までの前後方向の距離を、染み上がり時間で除すことで、染み上がり速度を算出した。比較例1の染み上がり速度を基準(F)とし、実施例1~3において、染み上がり速度が比較例1に対して15%以上低下していた場合に優(A)と判定し、15%未満且つ10%以上低下していた場合に良(B)と判定し、10%未満且つ5%以上低下していた場合に可(C)と判定した。レッドチェック液は、栄進化学製のR-3B(NT)プラスを用いた。レッドチェック液は、炭化水素油を40~60wt%、可塑性溶剤を10~20wt%、グリコールエーテルを1~20wt%、非イオン界面活性剤を12~50wt%、アゾ系油溶性赤色染料を1~5wt%含む。レッドチェック液は、20℃での密度が0.86g/cm3であり、水よりも密度が小さい。レッドチェック液の沸点は100℃である
【0073】
表1には、比較例1および実施例1~3の一次組立品のそれぞれの、碍子44a,44b,44cのそれぞれと重複する位置に存在する第1隙間領域93の数と、液体浸入試験の判定結果とを示した。
【0074】
表1から分かるように、比較例1および実施例1~3の一次組立品は、いずれも、碍子44a~44cのいずれかの内周面と前後方向における位置が重複する複数(2個)の第1隙間領域93を有している。そして、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cと重複する位置に第1隙間領域93が存在しない比較例1と比べて、碍子44cと重複する位置に少なくとも1つの第1隙間領域93が存在する実施例1~3は、いずれも液体浸入試験の判定結果がC以上であった。すなわち、比較例1に比して、実施例1~3はいずれも染み上がり速度が5%以上低下していた。このことから、複数の第1隙間領域93のうち少なくとも1つが、碍子44a~44cのうち最も後端側に位置する碍子44cと重複する位置に設けられていることで、水が複数の第1隙間領域93よりもセンサ素子20の後端側に移動して上側コネクタ電極71に到達するのをより抑制できることが確認された。
【0075】
また、表1からわかるように、碍子44a~44cのうち最も後端側の碍子44cと重複する位置に2つの第1隙間領域93が存在する実施例1は、碍子44cと重複する位置に1つの第1隙間領域93のみが存在する実施例2,3と比べて、染み上がり速度がより低下していた。このことから、碍子44a~44cのうち最も後端側の碍子44cと重複する位置に少なくとも2つの第1隙間領域93が設けられることで、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する効果がより高まることが確認された。なお、実施例2と実施例3とを比較すると、碍子44aと重複する位置に第1隙間領域93が設けられた実施例3と比べて、碍子44aよりも素子本体60の後端側に位置する碍子44bと重複する位置に第1隙間領域93が設けられた実施例2の方が、染み上がり速度がより低下していた。このことから、碍子44a~44cのうち最も後端側の碍子44c以外の碍子と重複する位置に第1隙間領域93を設ける場合、なるべく後端に近い碍子と重複する位置に第1隙間領域93を設けることで、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する効果が高まることが確認された。
10 ガスセンサ、15 組立体、20 センサ素子、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室、40 素子封止体、41 筒状体、42 主体金具、42a 肉厚部、42b 底面、43 内筒、43a フランジ部、43c,43d 縮径部、44a~44c 碍子、44a1,44a2,44b1,44b2,44c1,44c2 内周面、45a,45b 圧粉体、46 メタルリング、47 ナット、48 外筒、49 空間、50 コネクタ、55 リード線、57 ゴム栓、58 配管、59 固定用部材、60 素子本体、60a~60f 第1面~第6面、61 被測定ガス導入口、62 基準ガス導入口、63 検出部、64 外側電極、65 内側主ポンプ電極、66 内側補助ポンプ電極、67 測定電極、68 基準電極、69 ヒータ、71,71a~71d 上側コネクタ電極、72,72a~72d 下側コネクタ電極、75 外側リード線、80 多孔質層、81 内側多孔質層、83 第1内側多孔質層、83a~83d 第1~第4部分、84 第2内側多孔質層、84a~84d 第1~第4部分、85 外側多孔質層、90 水浸入抑制部、91 第1水浸入抑制部、92 第1緻密層、93 第1隙間領域、95 第2水浸入抑制部、96 第2緻密層、97 第2隙間領域。