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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131306
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240920BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0585
H01M10/0568
H01M50/451
H01M50/46
H01M50/443 M
H01M50/434
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041500
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(71)【出願人】
【識別番号】501415752
【氏名又は名称】日本ファインセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩視
(72)【発明者】
【氏名】小路 慎二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正之
(72)【発明者】
【氏名】木村 博充
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE20
5H021EE22
5H021EE32
5H021HH03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
5H029HJ14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定のセパレータと、特定の固体電解質との組み合わせを用いて、非水電解質と負極との反応を抑制し、金属リチウムデンドライトの成長を抑制して、サイクル特性を向上させるリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極5と、電解液と、該正極と該負極との間に配置されたセパレータ10とを少なくとも含むリチウム二次電池であって、該負極は、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成され、該セパレータは、基体と、該基体の少なくとも1の面に形成された、固体電解質の粒子3とバインダとを含む固体電解質層4を含み、該固体電解質層は、該セパレータが該負極と接する面に配置され、該固体電解質の粒子の体積基準粒度分布が、二峰性の分布を示す、リチウム二次電池を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、該正極と該負極との間に配置されたセパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池であって、
該負極は、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成され、
該セパレータは、基体と、該基体の少なくとも1の面に形成された、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層を含み、
該固体電解質層は、該セパレータが該負極と接する面に配置され、
該固体電解質の粒子の体積基準粒度分布が、二峰性の分布を示す、リチウム二次電池。
【請求項2】
該固体電解質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をD[μm]と表した場合、D30が0.30
-0.42[μm]であり、D50が0.50-0.70[μm]である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
該固体電解質が、下記式(1):
[化1]

Li7-3bLa3-cZr2-aAl12 (1)

(式中、aは、0≦a<2を満たす数であり、bは、0≦b≦2.3を満たす数であり、cは、0≦c<3を満たす数であり、Aは、Y、Nd、SmおよびGdからなる群より選択される金属元素であり、Mは、NbまたはTaから選択される元素である。)で表される物質である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
該電解液が、2モル/リットル以上のリチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩とを少なくとも含み、該電解液の総量を100重量部としたとき、該有機塩が20重量部以上含まれる、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
該電解液が、2モル/リットル以上のリチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩とを少なくとも含み、該電解液の総量を100重量部としたとき、該有機塩が20重量部以上含まれる、請求項3に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のリチウム二次電池に関する。より詳細には、本発明は、特定のセパレータを備えたサイクル特性に優れたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車の開発がすすめられ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車などには、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
【0003】
リチウム二次電池のエネルギー密度は、比較的高いことが知られているが、リチウム二次電池はサイクル特性がやや低いと言われている。リチウム二次電池の充放電を繰り返すと、金属リチウムのデンドライトが発生して、これがセパレータを損傷することがあり、リチウム二次電池のサイクル特性に影響を与える。このような問題を解決するために、セパレータの強度を向上させたり、セパレータにコーティング層を設けたりする等の試みがなされていた。
【0004】
特許文献1には、高分子化合物と固体電解質とを含む非水電解質二次電池用セパレータが開示されている。固体電解質の例として、ガーネット型LiLaZrO(以下、「LLZ」または「LLZO」と称する。)、ナシコン型Li1+xAlTi2-x12(以下、「LATP」と称する。)、ペロブスカイト型La2/3-xLiTiO(以下、「LLT」と称する。)、リチウムイオンを含有するポリエチレンオキサイド(以下、「Li・PEO」と称する。)が挙げられている。特許文献1の当該セパレータは、セパレータの一方の面から他方の面まで複数の固体電解質が接触して連なるようにしたり、セパレータの厚みを固体電解質の平均粒子径以下にしたりすることで、固体電解質の粒子がセパレータを貫通するようにして、リチウムイオンの移動のしやすさを向上させている。
特許文献2には、ポリマーとリチウムイオン伝導性粒子とを含むリチウムイオン伝導性複合材料が開示されている。特許文献2で用いられるリチウムイオン伝導性粒子は、特定の球形度と粒径分布の多分散度指数とを有し、リチウムイオン伝導性粒子の例として、リチウムランタンジルコネート(LLZO)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LATP)、ガーネット型結晶構造を有する化合物、ナシコンと同形の結晶構造を有する化合物が挙げられている。
特許文献3には、多孔質フィルム上に固体電解質層を備えたセパレータが開示されている。特許文献3には、固体電解質には特定の平均粒径を有する無機粒子が含有され、無機粒子の例として酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルサイト、チタン酸バリウム等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/132203号
【特許文献2】特開2019-102460号公報
【特許文献3】特開2013-218926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のセパレータは、フルオロエチレンカーボネートと3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させた特定の非水電解質を用いることが開示されている。特許文献2で用いられるリチウムイオン伝導性粒子は特定の球形度と多分散度指数を有するが、実際に用いられているイオン伝導性粒子の粒子径はかなり大きいことが開示されている(球形度0.92を有する粒子からなり且つその粒径分布がD10=1.22μm、D50=2.77μmm、D90=5.85μm、D99=9.01μmの値を有する、リチウムランタンジルコニウム酸化物粉末)。特許文献3では、用いられる固体電解質の例示が限られている。
【0007】
本発明者らは、特定のセパレータと、特定の固体電解質との組み合わせを用いて、非水電解質と負極との反応を抑制し、金属リチウムデンドライトの成長を抑制して、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、正極と、負極と、電解液と、該正極と該負極との間に配置されたセパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで該負極は、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成され、
該セパレータは、基体と、該基体の少なくとも1の面に形成された、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層を含み、
該固体電解質層は、該セパレータが該負極と接する面に配置され、
該固体電解質の粒子の体積基準粒度分布が、二峰性の分布を示すことを特徴とする。
【0009】
ここで、該固体電解質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をD[μm]と表した場合、D30が0.30-0.42[μm]であり、D50が0.50-0.70[μm]であることが好ましい。
【0010】
また、該固体電解質が、下記式:
[化1]

Li7-3bLa3-cZr2-aAl12

(式中、aは、0≦a<2を満たす数であり、bは、0≦b≦2.3を満たす数であり、cは、0≦c<3を満たす数であり、Aは、Y、Nd、SmおよびGdからなる群より選択される金属元素であり、Mは、NbまたはTaから選択される元素である。)で表される物質であることが好ましい。
【0011】
該電解液が、2モル/リットル以上のリチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩とを少なくとも含み、該電解液の総量を100重量部としたとき、該有機塩が20重量部以上含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるリチウム二次電池は、充放電を繰り返してもリチウムデンドライトの形成が少なく、優れたサイクル特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のリチウム二次電池を表す模式図である。
図2】従来のリチウム二次電池を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、正極と、負極と、電解液と、該正極と該負極との間に配置されたセパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで該負極は、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成され、
該セパレータは、基体と、該基体の少なくとも1の面に形成された、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層を含み、
該固体電解質層は、該セパレータが該負極と接する面に配置され、
該固体電解質の粒子の体積基準粒度分布が、二峰性の分布を示す。
【0015】
実施形態において、二次電池とは、可逆的に充放電可能な化学電池のことを云う。本明細書では、リチウムイオンの移動により可逆的に充電および放電を行う電池をすべてリチウム二次電池と称する。本明細書において、リチウム二次電池の語は、後述する負極活物質として金属リチウムを用いた、いわゆる金属リチウム二次電池と、負極活物質としてリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質を用いた、リチウムイオン二次電池の両方を含む概念とする。
【0016】
実施形態における正極ならびに負極を含む電極は、リチウム二次電池の構成要素である。リチウム二次電池の放電の際に、電位の高い方の電極が正極、電位の低い方の電極が負極である。実施形態において、電極は、電極集電体の表面に電極活物質を含む電極合剤層が形成されている。ここで電極集電体は、通常、金属板または金属箔から構成され、電極活物質をその表面に保持し、電流を電極活物質に供給する、あるいは電極活物質から電流が供給される役割を果たす。また、電極活物質とは、化学反応を起こしてエネルギーを放出する物質であり、特に二次電池内において電池反応を起こして外部に電気エネルギーを放出することができる物質のことである。電極合剤層は、先述の電極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む電極活物質混合物を堆積させた層である。電極合剤層は、電池反応の場を提供する。ここで導電助剤とは、電極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。一方、バインダとは、上述の電極活物質、および場合により導電助剤を互いに結着して電極合剤層を構成するためのものである。
【0017】
実施形態において、正極は、正極集電体の表面に正極活物質を含む正極合剤層が形成されたものである。正極集電体は、金属板または金属箔、特にアルミニウム板またはアルミニウム箔から構成され、正極活物質をその表面に保持し、電流を正極活物質に供給する、あるいは正極活物質から電流が供給される役割を果たす。正極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで正極活物質として用いられる材料としては、特に限定されないが、リチウムイオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属酸化物や金属硫化物が好ましい。このような金属酸化物や金属硫化物として、バナジウムの酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、チタンの硫化物およびこれらの複合酸化物、複合硫化物等が挙げられる。このような化合物としては、たとえばCr38、V25、V518、VO2、Cr25、MnO2、TiO2、MoV28、TiS225MoS2、MoS3VS2、Cr0.250.752、Cr0.50.52が挙げられる。また、LiMY2(Mは、Co、Ni等の遷移金属、YはO、S等のカルコゲン元素)、LiM24(MはMn、YはO)、WO3等の酸化物、CuS、Fe0.250.752、Na0.1CrS2等の硫化物、NiPS8,FePS8等のリン、硫黄化合物等を用いることもできる。また、マンガン酸化物、スピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物も好ましいものである。
【0018】
正極活物質として、具体的には、LiCoO2、LiNiCoMn、LiNiCoAl、Li6FeO4、LiMn、Li(NiMn、LiVOPO、LiMnO-LiMO固溶体等の、リチウムを含む、リチウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0019】
実施形態において、正極合剤層は、先述の正極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む正極活物質混合物を堆積させた層である。正極合剤層は、電池反応(正極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、正極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の正極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して正極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、正極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用してもよい。
【0020】
正極は、正極活物質、導電助剤、バインダを含む正極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の正極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて正極合剤層を形成することにより得ることができる。
【0021】
本実施形態においてリチウム二次電池を作製する場合、正極活物質は、LiNi1-x(0<a<1.2、0.33<x<0.95、Mは、Mn、Co、Fe、Zr、Alから選択される少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(NCM、NMC等と称される。)を含むことが好ましい。より具体的には、LiNiCoMn1-x-y(0.33<x<0.95、0.01≦y<0.33)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0022】
正極活物質の含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、85重量部以上99.4重量部以下であることが好ましい。これによりリチウムの十分な吸蔵および放出が期待できる。
【0023】
バインダの含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、0.1重量部以上5.0重量部以下が好ましい。バインダの含有量が上記範囲内であると、電極スラリの塗工性、バインダの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。また、バインダの含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。バインダの含有量が上記下限値以上であると、電極剥離が抑制されるため好ましい。
【0024】
導電助剤の含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、0.1重量部以上3.0重量部以下であることが好ましい。導電助剤の含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。導電助剤の含有量が上記下限値以上であると、電極の導電性がより良好になるため好ましい。
【0025】
正極合剤層の密度は特に限定されないが、たとえば、2.0~3.6g/cmとすることが好ましい。この数値範囲内とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上するため好ましい。
【0026】
一方、実施形態において、負極は、負極集電体の表面に負極活物質を含む負極合剤層が形成されたものである。負極集電体は、好ましくは金属板または金属箔、特に銅板または銅箔から構成され、負極活物質をその表面に保持し、電流を負極活物質に供給する、あるいは負極活物質から電流が供給される役割を果たす。負極集電体として銅または銅合金にリチウムを点在させたものや、銅または銅合金に他の金属種(たとえば、スズ、インジウム)をめっきや蒸着により成膜したものを用いることもできる。負極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで負極活物質として用いられる材料としては、正極から移動するリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質であれば特に限定されないが、炭素材料、特に黒鉛を挙げることができる。実施形態において、黒鉛、非晶質炭素化合物およびこれらの混合物からなる群より選択される炭素系活物質を負極活物質として含む負極合剤層が負極集電体上に形成されたものであることが非常に好ましい。
【0027】
黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定で耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体等の不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムなネットワークを形成した構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボン繊維、ハードカーボン、ソフトカーボン、メゾポーラスカーボン等が挙げられる。これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。
なお、実施形態の負極における負極活物質として、金属リチウムを用いることもできる。すなわち、負極を、負極集電体と金属リチウム層とで構成することも非常に好ましい。
【0028】
実施形態において、負極合剤層は、先述の負極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む負極活物質混合物を堆積させた層である。負極合剤層は、電池反応(負極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、負極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の負極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して負極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、負極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤物を適宜使用してもよい。
【0029】
負極は、負極活物質、導電助剤、バインダを含む負極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の負極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて負極合剤層を形成することにより得ることができる。負極活物質として金属リチウムを用いる場合は、スパッタリング、めっき、蒸着、箔の貼合等の従来から既知の方法により負極集電体の表面に金属リチウムの層を設けることができる。また負極活物質として、黒鉛等の炭素材料を用いることもできる。
【0030】
また、実施形態で用いる負極は、負極集電体のみから構成されていることが特に好ましい。負極集電体のみから構成されるとは、負極合剤層等が設けられていない負極集電体をそのまま用いるという意味である。すなわち、実施形態のリチウム二次電池の初期状態において、集電体が露出した状態の負極であることを意味する。
【0031】
負極集電体からなる負極を用いた本実施形態のリチウム二次電池は、使用に先立ち電圧を印加することで、上述の正極に由来するリチウムが負極集電体上に析出して負極合剤層を形成する。実施形態のリチウム二次電池を、初回充電電圧4.0V以上で充電すると、負極上に適切な量の負極活物質であるリチウムが析出する。このように、負極集電体からなる負極を用いることで、リチウム二次電池の製造過程において高い反応性を有する金属リチウムを直接使用する必要がなくなるので、電池の製造時や製造後の発火リスクを軽減することができる。
【0032】
実施形態のリチウム二次電池は、電解液を含む。実施形態において電解液は、2モル/リットル以上のリチウム塩と、融点が60℃度以下の溶融塩である有機塩とを少なくとも含み、該電解液の総量を100重量部としたとき、該有機塩が20重量部以上含まれることが好ましい。ここでリチウム塩は、下記式(1):
【化2】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)で表されるアニオンを含むリチウム塩である。
一方、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩は、下記式(1):
【化3】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)で表されるアニオンと、下記式(2):
【化4】

(式(2)中、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)で表されるイミダゾリウムカチオン;
下記式(3)
【化5】

(式(3)中、Rおよび、R、R10、R11およびR12は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。
で表されるピリジニウムカチオン;
下記式(4):
【化6】

(式(4)中、R14、R15、R16およびR17は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。)で表される第4級アンモニウムカチオン;
下記式(5):
【化7】

(式(5)中、R18、R19、R20およびR21は、同一または異なって、炭素数1~14のアルキル基から選択される。)
で表される第4級ホスホニウムカチオン;
下記式(6):
【化8】

(式(6)中、R22およびR23は、同一または異なって、炭素数1~6のアルキル基から選択される。)
で表されるピロリジニウムカチオン;
下記式(7)
【化9】

(式(7)中、R24およびR25は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。)で表されるピペリジニウムカチオン;
下記式(8)
【化10】

(式(8)中、R26、R27およびR28は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。)で表されるスルホニウムカチオン;および
これらの混合物からなる群より選択されるカチオンと、を含むことが好ましい。
【0033】
ここで、実施形態のリチウム塩および有機塩の両方に含まれている式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。式(1)で表されるアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオン、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)アニオンからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。実施形態において、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。また、式(1)で表されるアニオンと、以下に説明するカチオンと、が、実施形態で用いられる有機塩を形成する。
【0034】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(2)で表されるカチオンは、一般にイミダゾリウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(2)で表されるカチオンのRおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択される。ここでR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であることの技術的な意義は、後述する。なお、式(2)で表されるカチオンは、R、RおよびRが水素原子であるアルキルイミダゾリムカチオンであることが非常に好ましい。式(2)で表されるカチオンとして、たとえば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-n-オクチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0035】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(3)で表されるカチオンは、一般にピリジニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(3)で表されるカチオンの、Rおよび、R、R10、R11およびR12は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。式(3)で表されるカチオンとして、たとえば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ヘキシル-1-メチルピロリジニウムカチオンが挙げられる。
【0036】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(4)で表されるカチオンは、一般に第4級アンモニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(4)で表されるカチオンの、R14、R15、R16およびR17は、同一または異なって、炭素数1~6のアルキル基から選択される。式(4)で表されるカチオンとして、たとえば、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムカチオン、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-N-メチル-N-プロピルアンモニウムカチオン、N-トリブチル-N-メチルアンモニウムカチオン、ブチルトリエチルアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0037】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(5)で表されるカチオンは、一般に第4級ホスホニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(5)で表されるカチオンの、R18、R19、R20およびR21は、同一または異なって、炭素数1~14のアルキル基から選択される。式(5)で表されるカチオンとして、たとえば、トリイソブチルメチルホスホニウムカチオン、トリオクチルメチルホスホニウムカチオン、トリブチルテトラデシルホスホニウムカチオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0038】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(6)で表されるカチオンは、一般にピロリジニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(6)で表されるカチオンの、R22およびR23は、同一または異なって、炭素数1~6のアルキル基から選択される。式(6)で表されるカチオンとして、たとえば、N-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムカチオン、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-ヘキシル-N-メチルピロリジニウムカチオンが挙げられる。
【0039】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(7)で表されるカチオンは、一般にピペリジニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(7)で表されるカチオンの、R24およびR25は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。式(7)で表されるカチオンとして、たとえば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン、N-ブチル-N-メチルピペリジニウムカチオンが挙げられる。
【0040】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(8)で表されるカチオンは、一般にスルホニウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(8)で表されるカチオンの、R26、R27およびR28は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基から選択される。式(8)で表されるカチオンとして、たとえば、トリメチルスルホニウムカチオン、ジエチルメチルスルホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオンが挙げられる。
実施形態で用いられる有機塩は、上記の式(1)-(8)で表されるいずれか1つのカチオン、または2以上のカチオンを含んでいてよい。これらの有機塩のうち、60℃以下の融点を有する溶融塩として、たとえば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMIFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)、N-ブチル-N-メチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(P14TFSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MPPYFSI)を挙げることができる。
【0041】
実施形態において、電解液は、必要に応じて、ハイドロフルオロエーテル類(たとえば1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)、スルホン類、ニトリル類、リン化合物、ホウ素化合物、フッ素化芳香族化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を含んでいても良い。
【0042】
上記のとおり、実施形態で用いる電解液は、イオン(アニオンとカチオン)のみから構成される有機塩を一成分として含むものである。実施形態の電解質に含有されている有機塩は、一般にイオン液体、イオン性液体または常温溶融塩等と呼称される液体の塩である。本明細書では、このような液体の塩を、単に溶融塩あるいはイオン液体と称するものとする。本実施形態においては、電解液は、リチウム塩と有機塩(イオン液体)との2種の塩を主成分として含むことが好ましい。ここで、2種の塩、すなわち、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、式(1)で表されるアニオンと、式(2)で表されるカチオンとの有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンは、同一のものであっても異なるものであっても良い。リチウム塩と有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンが同一のアニオンであることが非常に好ましい。
【0043】
実施形態のリチウム二次電池には、セパレータを含む。セパレータは、正極と負極との間に積層され、正極と負極を分離して短絡を防止することや、電池反応に必要な電解質を保持して高いイオン伝導性を確保すること、電池反応阻害物質の通過防止、安全性確保のための電流遮断特性を有することを目的として使用される部材である。セパレータは、基体と、該基体の少なくとも1の面に形成された、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層を含む。ここで基体は、高分子樹脂を基材とする膜構造を形成していることが好ましい。高分子樹脂を基材とする膜構造として、ポリオレフィンフィルムを用いることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等のα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。このほか、ポリイミド樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスチアゾール樹脂等を用いても良い。樹脂が低融点あるいは低軟化点である場合、リチウム二次電池の温度が上昇するとセパレータが熱溶融し収縮しやすい。セパレータの熱収縮が起こると電極間での短絡を起こすという問題が生じることから、樹脂としては、融点あるいは軟化点が高いもの、たとえば、140℃以上の融点あるいは軟化点を有するものが好ましい。
【0044】
実施形態で使用するセパレータの基体として、ポリオレフィンフィルムを用いる場合、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであると好都合である。また、セパレータの基体として架橋されたポリオレフィンフィルムを用いることができる。なお、セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。耐熱性の無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム等の無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライト等の鉱物を挙げることができる。
【0045】
さらにセパレータの基体として、三次元的に空孔が連通孔により互いに連通された多孔質樹脂膜(本明細書では、このような構造を「3DOM構造」と称するものとする。)を用いることも好ましい。このような「3DOM構造」のセパレータを用いることにより、二次電池(特にリチウム二次電池、またはリチウムイオン二次電池)中のリチウムイオンの電流分布を均一化し、リチウムデンドライトを生成することなく安全に二次電池の充放電を行うことが可能となる。リチウムイオンの拡散が均一化され、これにより拡散律速反応の場合においても、イオン電流密度が均一化されるため、リチウムの電析反応が均一に制御される。また、3DOM構造がイオン電流密度を均一化する効果によって、電流密度の高い充放電条件においても、リチウムの電析反応が均一に制御され、リチウム金属負極を用いた二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0046】
3DOM構造のセパレータ基体は、分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーである高分子樹脂で形成することが好ましい。3DOM構造のセパレータ基体は、多塩基酸または多塩基酸無水物とジアミンとの縮合物であるポリイミドで形成することが特に好ましい。セパレータ基体を構成する高分子樹脂の重量を100重量部として、99重量部以上がポリイミド樹脂であることが非常に好ましい。ポリイミド樹脂の一つの原料モノマーである多塩基酸として、四塩基酸を用いることが好ましい。四塩基酸とは、1分子で4個の水素イオンを塩基に供与できる酸のことであり、たとえば、テトラカルボン酸類やジフタル酸類を挙げることができる。実施形態で用いるセパレータ基体を形成するポリイミド樹脂の原料として好適に用いられるのは、分子内に芳香族基を有する四塩基酸およびその無水物であり、たとえば、ベンゼン-1,1,4,5-テトラカルボン酸およびその無水物、ジフェニル-3,3’、4,4’テトラカルボン酸およびその無水物、4,4’-オキシジフタル酸およびその無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンおよびその二無水物、4,4’-ビフタル酸およびその無水物、3、4’-ビフタル酸およびその無水物を挙げることができる。
【0047】
一方、ポリイミド樹脂のもう一つの原料モノマーであるジアミンは、一分子内に2つのアミノ基を有する化合物である。ポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンは、好ましくは分子内に芳香族基を有するジアミンであり、たとえば、1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、3,4-フェニレンジアミン、4、4’-イソプロピリデンビス-[(4-アミノフェノキシ)ベンゼン]、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、4、4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、o-トルイジン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,6-ジアミノカルバゾール挙げることができる。また、一分子内の2つのアミノ基が脂肪族基または脂環族基を介して結合したジアミン、たとえば、1,4-シクロヘキサン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミンを用いても良い。
【0048】
ここで、実施形態で用いられるセパレータの基体は、ポリイミド樹脂からなる多孔質基材であることが好ましい。特に上記の3DOM構造を有するポリイミド樹脂からなる多孔質基材を用いることが好ましい。
【0049】
ポリイミド樹脂3DOM構造セパレータ基体は、たとえば、以下のように形成することができる:単分散のポリスチレンビーズ等を鋳型として用い、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを縮重合させる。得られたポリイミド樹脂膜を加熱してポリスチレンビーズを昇華させると、ポリスチレンビーズが存在していた部分に空隙が生じる。こうして、三次元的な空孔が連通孔により互いに連通された多孔質(3DOM構造を有する)ポリイミド樹脂膜を得ることができる。
このように、実施形態において、セパレータが、ポリイミド樹脂から形成された多孔質基材であることは、非常に好ましい。
この際、セパレータの空孔率は、55-74%であると、リチウム塩濃度が高く高粘度の電解液を用いた場合でも含浸性が高くなり、その結果良好な電池特性が得られるほか、高温耐久性、機械的強度にも優れたセパレータ基体となり、好ましい。
【0050】
上記のようなセパレータの基体の少なくとも1の面には、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層が形成されていることが好ましい。一般に、電解質とは、水に溶解させると電気を通す性質を有する物質のことであるが、本明細書における固体電解質とは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、フッ素イオン、塩化物イオン等のイオンを通す性質を有した、常温で固体の物質のことである。実施形態において、固体電解質の粒子とバインダとを含む固体電解質層を、セパレータの少なくとも1の面に形成することができ、セパレータの両面に形成することも可能である。ここで、バインダは、固体電解質の粒子をセパレータの少なくとも1の面に保持させる機能を有する物質である。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。セパレータの少なくとも1の面に固体電解質を形成するには、たとえば、固体電解質粒子とバインダとを適切な溶媒に分散させたスラリを形成し、スラリをセパレータの少なくとも1の面に塗布して、溶媒を蒸発させることが好適である。
【0051】
実施形態において、固体電解質の粒子は、体積基準粒度分布が、二峰性の分布を示すことが非常に好ましい。体積基準粒度分布が二峰性の分布を有するとは、固体電解質の粒子の体積基準の粒度分布(横軸:粒子径、縦軸:頻度分布)をプロットした時に、プロットを繋いだラインのピークが2つあることを意味する。ここで粒度分布のピークは、山の頂の形状の部分(すなわちラインの傾きが0になる部分)のみでなく、ラインの傾きが極めて0に近い部分のことも含むものとする。特に実施形態の固体電解質の粒子は、体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をD[μm]と表した場合、D30が0.30-0.42[μm]であり、D50が0.50-0.70[μm]であることが非常に好ましい。体積基準累積粒度分布とは、固体電解質の粒子の体積基準の累積粒度分布(横軸:粒子径、縦軸:積算分布)をプロットしたものである。この累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をD[μm]と表した場合、D30が0.30-0.42[μm]であり、D50が0.50-0.70[μm]である。固体電解質の粒子の体積基準累積粒度分布がこのようになっていることは、固体電解質の粒子の体積基準粒度分布が二峰性である、すなわち、粒子の体積基準粒度分布において、小粒子側にピークがあるような二峰性であることを端的に表している。
【0052】
実施形態において、固体電解質は、下記式:
[化11]

Li7-3bLa3-cZr2-aAl12

(式中、aは、0≦a<2を満たす数であり、bは、0≦b≦2.3を満たす数であり、cは、0≦c<3を満たす数であり、Aは、Y、Nd、SmおよびGdからなる群より選択される金属元素であり、Mは、NbまたはTaから選択される元素である。)で表される物質であることが好ましい。上記の固体電解質は、ガーネット型LLZと称される固体電解質である。
【0053】
上記の正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、発電素子を形成することができる。正極と負極と、セパレータは、それぞれ1以上積層することができる。この際、セパレータの面に形成された固体電解質層は、セパレータが負極と接する面に配置されるように、正極と負極とセパレータとを重ね合わせることが非常に好ましい。すなわち、固体電解質層が形成されたセパレータの面が負極側に面するように、正極と負極とセパレータとを積層するということである。そして、正極に正極タブ等、負極に負極タブ等の、電流を取り出すための部材を適宜設け、その他必要な部材を適宜加え、金属製のコインセルやアルミニウムラミネートフィルム等の外装体に封入し、上記の電解液を注入して、実施形態のリチウム二次電池を得ることができる。電池の形状はラミネート型のほか、筒型、角型、コイン型等、従来知られた形状を含むどのような形状であってもよく、特に限定されるものではない。リチウム二次電池が、たとえばコイン型等の電池である場合、通常、セル床板上に負極板を乗せ、その上にセパレータと電解質を乗せ、さらに負極と対向するように正極を乗せ、ガスケット、封口板と共にかしめてリチウム二次電池とされる。また二次電池がたとえばラミネート型の電池である場合、発電素子に正極タブ、負極タブ等の端子を付け、これらを、セパレータを介して積層して発電素子を形成し、これを金属ラミネートフィルムで作製したバッグに挿入し、バッグ内に電解質を注入してラミネートフィルムを封止しリチウム二次電池を得ることができる。実施形態のリチウム二次電池の構造あるいは作製方法がこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施形態において、固体電解質の粒子として、特定の粒度分布を有することの技術的な意味を、図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態の粒度分布を有する固体電解質の粒子を用いて固体電解質層を形成したセパレータと、負極とが接する面を表す模式図である。図1中、10:セパレータ、1:セパレータ基材、2:リチウムイオン、3:固体電解質の粒子、4:固体電解質層、5:負極、6:析出リチウムである。図1には正極が示されていないが、セパレータ1を介在して負極5と正極とが積層されるような位置に正極が配置されている(すなわち図1では、セパレータ1の上面)。固体電解質の粒子3は、便宜上完全な球形で表されているが、実際の固体電解質の粒子3には、完全な球形ではなく、歪な形状を有したものも含まれている。図1中の点線矢印は、リチウムイオン2がセパレータ1の孔の中を通過するときの動きを示している。すなわち図1は、リチウム二次電池の充電時のリチウムイオン2の動きを示している。図1において、固体電解質の粒子3は、体積基準粒度分布が二峰性を示すような粒子である。図1に示すように、固体電解質の粒子3は、一定の粒径を有する均一な粒子ではなく、比較的粒径の小さい粒子や比較的粒径の大きい粒子が混在したものである。セパレータ1を通過したリチウムイオン2は、固体電解質の粒子3が形成する固体電解質層4に達すると、固体電解質の粒子3の中を通過していく。リチウムイオン2は、負極5に達して電子と結合し、負極5の上にリチウムが析出する。図1において、二峰性の体積基準粒度分布を有する固体電解質の粒子3は、比較的大きな粒径を有する粒子と粒子の間を、比較的小さな粒径を有する粒子が埋めるような構造を取った固体電解質層4を形成しているため、析出するリチウム6の形状が、「つらら」のような、突起を有する形状になりにくい。たとえ析出リチウム6が形成したとしても、突起形状のリチウムデンドライトにはなりにくいため、リチウムデンドライトが成長してセパレータ1を突き破る等の不都合が生じにくい。
【0055】
一方、固体電解質の粒子として、一峰性の粒度分布を有するものを用いた場合(図2)、固体電解質の粒子3は、一定の粒径を有する粒子の集合であるため、粒子間に突起を有する形状の析出リチウム6が形成される。この場合、突起形状の部分にリチウムイオン2がより集まりやすくなって、「つらら」状のリチウムデンドライトが形成しやすい。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0057】
[リチウム二次電池の作製]
正極活物質であるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1、以下NCM811)98.96重量%、導電助剤としてカーボンナノチューブ0.44重量%、バインダとしてポリビニリデンフルオライド(PVDF)0.6重量%を混合した正極合剤を厚さ12μmのアルミニウム箔上に目付3.6mg/cmで積層した正極(サイズ:30×40mm)を用意した。
一方、厚さ10μmの銅箔と、厚さ20μmの圧延リチウムとを貼り合わせて積層した負極(サイズ:32×42mm)を用意した。
セパレータは、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物(PMDA)と4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とを縮重合させて得たポリイミド樹脂から形成された3DOM構造を有する高分子樹脂基材膜(厚さ20μm、サイズ:35×45mm)をセパレータ基材として用いた。LLZ100グラムと、バインダとしてポリエチレンオキシド(PEO)、5.3グラムと、溶媒としてシクロヘキサノン、452グラムとを混合してスラリを調製し、スラリをセパレータ基材の一方の面に塗布して、溶媒を蒸発させ、固体電解質層を形成したセパレータを得た。
電解液の材料として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)(有機塩)と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)(リチウム塩)を用意した。
【0058】
上記の正極(サイズ:30×40mm)と、セパレータ(サイズ:35×45mm)と、負極(サイズ:32×42mm)とを重ね合わせ、発電素子を作製し、これに正極タブと負極タブを設けた。正極の空孔体積とセパレータの空孔体積(各々の単位:ミリリットル)の合計の2倍の体積の上記電解質と共に、タブを設けた電池素子をアルミニウムラミネートフィルム(厚さ:110μm)の外装体内に組み込み、外装体の周囲を封止して、セル容量44mAhのラミネート型のセル(二次電池)を得た。
【0059】
なお、負極材料として使用するリチウム箔、銅箔および正極材料として使用するアルミニウム箔は適切な市販品を入手することができる。また正極活物質として使用するNCMは、たとえば北京当升材料科技股彬有限公司、ユミコア社等による市販品を、バインダとして使用するPVDFおよびスチレンブタジエンゴムは、それぞれたとえばクレハ株式会社、ソルベイ社、アルケマ社や、日本ゼオン株式会社、JSR株式会社等による市販品を、増粘剤として使用するカルボキシメチルセルロースは、たとえば日本製紙株式会社等による市販品を、導電助剤として使用するカーボンナノチューブは、たとえばNano-C社等による市販品を、電解質として使用するEMIFSIは、たとえばキシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、同じくLiFSIは、たとえば日本触媒株式会社、キシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、それぞれ入手することができる。
【0060】
[固体電解質]
[実施例1]
体積基準粒度分布が二峰性を示し、体積基準累積粒度分布のD30の値が0.39μm、D50の値が0.61μmのLLZを固体電解質として用い、セパレータ上に厚み5μmの固体電解質層を設けた。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
[実施例2]
体積基準粒度分布が二峰性を示し、体積基準累積粒度分布のD30の値が0.30μm、D50の値が0.50μmのLLZを固体電解質として用い、セパレータ上に厚み5μmの固体電解質層を設けた。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
[実施例3]
体積基準粒度分布が二峰性を示し、体積基準累積粒度分布のD30の値が0.42μm、D50の値が0.70μmのLLZを固体電解質として用い、セパレータ上に厚み5μmの固体電解質層を設けた。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
【0061】
[比較例1]
体積基準粒度分布が二峰性を示し、体積基準累積粒度分布のD30の値が0.51μm、D50の値が0.75μmのLLZを固体電解質として用い、セパレータ上に厚み5μmの固体電解質層を設けた。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
[比較例2]
体積基準粒度分布が一峰性を示し、体積基準累積粒度分布のD30の値が0.77μm、D50の値が0.91μmのLLZを固体電解質として用い、セパレータ上に厚み5μmの固体電解質層を設けた。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
[比較例3]
上記のセパレータ基材の一方の面に厚み1μmのアルミナコーティングを施したセパレータを用意した。このセパレータを用いて上記に従いリチウム二次電池を得た。
[比較例4]
上記のセパレータ基材をそのまま用いて、上記に従いリチウム二次電池を得た。
【0062】
[リチウム二次電池の評価]
[セパレータの透気度の測定]
日本産業規格(JIS P 8117)に準拠して、各セパレータの透気度を測定した。透気度が大きいセパレータは、空気抵抗度が高いことを意味する。
【0063】
[200サイクル後の充放電容量値の測定]
上記のように作製したラミネート型セルを、内部の温度が30℃になるように制御した恒温槽内にて0.2C相当の電流値で終止電圧4.3Vまで定電流で充電したのち、さらに前記電圧を維持しつつ充電電流を漸次減少させながら0.03C相当の電流値以下になるまで定電圧充電を方式で充電した。その後、0.2Cに相当する電流値で2.5Vまで定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとし、繰り返し充放電を行った。200サイクルの充放電を行った後のラミネート型セルの放電容量値を測定した。
【表1】
【0064】
[電気化学インピーダンス測定]
200回の充放電を経た後のラミネート型セルについて、周波数応答アナライザ(機種名:VMP-300、会社:BioLogic)を用いて電気化学インピーダンス測定を行った。ナイキストプロットの半円の半径の大きさは、比較例4>比較例2>比較例1>実施例1>実施例2の順であった。
【0065】
[サイクル充放電後の負極表面の観察]
200回の充放電を経た後、ラミネート型セルを0.05C放電状態にし、ラミネート型セルを解体して負極を取り出した。比較例3、比較例4および実施例3のラミネート型セルから取り出された負極表面の電子顕微鏡写真にて観察した。比較例3および比較例4の電池から取り出された負極の表面には、リチウム析出物が不均一に分布しており、粗密(凹凸)があるのが観察された。一方、実施例3の電池から取り出された負極の表面には、リチウム析出物が比較的均一に分布しており、粗密(凹凸)は観察されなかった。
【0066】
セパレータ基材に特定の固体電解質を含む固体電解質層を設けた本発明のセパレータは、稠密な固体電解質層によるコーティングが形成されている。本発明のセパレータの、固体電解質層が設けられた面と負極とが接するように配置した発電素子を含むリチウム二次電池は、充放電を繰り返しても、負極表面に突起形状のリチウムデンドライトが析出しにくく、優れたサイクル特性を有している。
図1
図2