(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131309
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】揮発性薬剤含有フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240920BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240920BHJP
A61L 2/16 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B15/08 E
B32B27/18 F
A61L2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041503
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹本 貴司
【テーマコード(参考)】
4C058
4F100
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB07
4C058JJ12
4F100AB01B
4F100AB01D
4F100AB10B
4F100AB10D
4F100AK01A
4F100AK01E
4F100AK03A
4F100AK03E
4F100AK15A
4F100AK15E
4F100AK25C
4F100AK42
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4F100AK51E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CA12C
4F100CB00C
4F100EH46
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4F100EJ37
4F100EJ86
4F100JD01A
4F100JD01E
4F100JD04
4F100JK01A
4F100JK01E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】本発明は、使用前には、包装材を用いることなく揮発性薬剤の揮発を抑制し、使用時に適切にフィルムから揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムを提供する。
【解決手段】第1の薬剤透過性樹脂基材、第1の金属蒸着層、揮発性薬剤が保持された粘着剤層、第2の金属蒸着層、第2の薬剤透過性樹脂基材がこの順に配置されてなる、揮発性薬剤含有フィルムであって、前記第1の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下であり、前記第2の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下である、揮発性薬剤含有フィルム;
降伏強度:JIS K 7161-1:2014に準拠し、幅15mmの試験片を使用し、試験速度200mm/minで試験した際の降伏点における力。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の薬剤透過性樹脂基材、第1の金属蒸着層、揮発性薬剤が保持された粘着剤層、第2の金属蒸着層、第2の薬剤透過性樹脂基材がこの順に配置されてなる、揮発性薬剤含有フィルムであって、
前記第1の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下であり、前記第2の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下である、揮発性薬剤含有フィルム;
降伏強度:JIS K 7161-1:2014に準拠し、幅15mmの試験片を使用し、試験速度200mm/minで試験した際の降伏点における力。
【請求項2】
前記第1の薬剤透過性樹脂基材および前記第2の薬剤透過性樹脂基材が、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【請求項3】
40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度が3g/m2/day以下である、請求項1または2に記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【請求項4】
厚さ方向に力を付与するための把持部を有する、請求項1または2に記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の揮発性薬剤含有フィルムを面方向に延伸して揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【請求項6】
請求項4に記載の揮発性薬剤含有フィルムにおいて、前記把持部を把持して厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張ることで揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【請求項7】
下記(1)~(3);
(1)前記粘着剤層の少なくとも一部が破壊する、
(2)前記粘着剤層および前記第1の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第1の金属蒸着層が分離する、ならびに
(3)前記粘着剤層および前記第2の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第2の金属蒸着層が分離する;
の少なくとも一が起こるように、厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張る、請求項6に記載の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性薬剤含有フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤、防虫剤、香料などの常温で揮発する薬剤をフィルムに含有させ、薬剤を徐放させることで薬剤の効能を発揮させる揮発性薬剤含有フィルムが知られている。
【0003】
このような揮発性薬剤含有フィルムとして、例えば、特許文献1では、粘着剤層に揮発性薬剤を含浸保持させた揮発性薬剤層にポリビニルアルコール等の親水性高分子からなる徐放膜を積層させ、さらに、徐放膜と対面側の揮発性薬剤層上にガスバリヤー層を積層する構成が開示されている。当該構成においては、粘着剤層内の揮発性薬剤が、徐放膜面から外部に放出され、薬効が発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揮発性薬剤含有フィルムは、実際に使用者が使用する前に薬剤が揮発することで薬効が減ずることを防止するために、通常、ガスバリア性を有する包装材により個包装されている。したがって、使用時には、包装材は廃棄物として処理する必要がある。
【0006】
一方、昨今の環境意識の高まりから、不要な包装材を減らす動きがある。
【0007】
したがって、本発明は、使用前には、包装材を用いることなく揮発性薬剤の揮発を抑制し、使用時に適切にフィルムから揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る揮発性薬剤含有フィルムは、以下の構成を有する。
【0009】
1.第1の薬剤透過性樹脂基材、第1の金属蒸着層、揮発性薬剤が保持された粘着剤層、第2の金属蒸着層、第2の薬剤透過性樹脂基材がこの順に配置されてなる、揮発性薬剤含有フィルムであって、
前記第1の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下であり、前記第2の薬剤透過性樹脂基材の、下記で定義した降伏強度が30N/15mm以下である、揮発性薬剤含有フィルム;
降伏強度:JIS K 7161-1:2014に準拠し、幅15mmの試験片を使用し、試験速度200mm/minで試験した際の降伏点における力。
【0010】
2.前記第1の薬剤透過性樹脂基材および前記第2の薬剤透過性樹脂基材が、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、1.に記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【0011】
3.40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度が3g/m2/day以下である、1.または2.に記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【0012】
4.厚さ方向に力を付与するための把持部を有する、1.~3.のいずれかに記載の揮発性薬剤含有フィルム。
【0013】
5.1.~4.のいずれかに記載の揮発性薬剤含有フィルムを面方向に延伸して揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【0014】
6.4.に記載の揮発性薬剤含有フィルムにおいて、前記把持部を把持して厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張ることで揮発性薬剤を放出させる、揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【0015】
7.下記(1)~(3);
(1)前記粘着剤層の少なくとも一部が破壊する、
(2)前記粘着剤層および前記第1の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第1の金属蒸着層が分離する、ならびに
(3)前記粘着剤層および前記第2の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第2の金属蒸着層が分離する;
の少なくとも一が起こるように、厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張る、6.に記載の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の揮発性薬剤含有フィルムによれば、使用前には、包装材を用いることなく揮発性薬剤の揮発を抑制し、使用時に、例えばフィルムを面方向に延伸することによって、適切にフィルムから揮発性薬剤を放出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の揮発性薬剤含有フィルムの一態様を示す断面模式図である。
【
図2A】
図1の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す図である。
【
図2B】
図1の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す図である。
【
図3A】本発明の揮発性薬剤含有フィルムの他の態様を示す断面模式図である。
【
図3B】
図3Aの揮発性薬剤含有フィルムの上面からの模式図である。
【
図4A】
図3の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す図である。
【
図4B】
図3の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す図である。
【
図5】本発明の揮発性薬剤含有フィルムの他の態様を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、揮発性薬剤含有フィルムの構成について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1は、本発明の揮発性薬剤含有フィルムの一態様を示す断面模式図である。
図1の揮発性薬剤含有フィルム10においては、上から順に第1の薬剤透過性樹脂基材11および第1の金属蒸着層12から構成される第1の積層体13、揮発性薬剤が保持された粘着剤層14、第2の金属蒸着層15および第2の薬剤透過性樹脂基材16から構成される第2の積層体17が配置されてなる。
【0020】
第1の金属蒸着層12および第2の金属蒸着層15は、金属蒸着層であるため、ガスバリア性を有する。このため、粘着剤層に保持された揮発性薬剤の外部への放出が極めて少なく、揮発性薬剤は長期間粘着剤層14にとどまることができる。このため、揮発性薬剤含有フィルムの使用前に各フィルムを個包装する必要がなく、包装材を用いる必要がない。本発明の揮発性薬剤含有フィルムは、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度が3g/m2/day以下であることが好ましい。また、第1の薬剤透過性樹脂基材および第1の金属蒸着層からなる積層体、ならびに第2の薬剤透過性樹脂基材および第2の金属蒸着層からなる積層体は、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度が3g/m2/day以下であることが好ましい。水蒸気透過度が上記上限以下であることで、積層体のガスバリア性が担保され、揮発性薬剤の外部への放出が抑制されるため好ましい。本発明の揮発性薬剤含有フィルム(または上記積層体)は、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度が2g/m2/day以下であってもよく、1.5g/m2/day以下であってもよい。
【0021】
40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、JIS Z 0208:1976に準じて測定する。
【0022】
また、第1の金属蒸着層12、第2の金属蒸着層15の表面側に、それぞれ第1の薬剤透過性樹脂基材11、第2の薬剤透過性樹脂基材16が配置される。金属蒸着層は、ガスバリア性を有する一方、耐傷性が極めて低い。このため、第1の薬剤透過性樹脂基材11、第2の薬剤透過性樹脂基材16を配置することで、第1の金属蒸着層12および第2の金属蒸着層15を保護することができる。
【0023】
図2は、
図1の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す模式図である。
図2Aで説明されるように、
図1の態様の揮発性薬剤含有フィルムは、揮発性薬剤が放出されるように面方向に延伸される(横方向に力が付与される。)延伸の方法は、例えば、人が面方向にフィルムを引っ張る。この際、第1の金属蒸着層および/または第2の金属蒸着層が破断するように、延伸される。第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材は、請求項で定義した降伏強度が30N/15mm以下であるため、延伸されやすいが、人による通常の引張力によっては破断しない。そして、
図2Bで説明されるように、第1の金属蒸着層および/または第2の金属蒸着層のいずれかが破断することで、粘着剤層から薬剤が揮発し、薬剤透過性である、第1の薬剤透過性樹脂基材および/または第2の薬剤透過性樹脂基材を揮発性薬剤が通過し、外部に揮発性薬剤が放出される。また、延伸度合い(引張度合い)を調整することで、薬剤放出量の制御が可能となる。第1の金属蒸着層および/または第2の金属蒸着層の破断は、例えば、破断前後で光透過性が変化するので、視認によって確認することができる。
【0024】
図3Aは、本発明の揮発性薬剤含有フィルムの他の態様を示す断面模式図である。
図3の揮発性薬剤含有フィルム20においては、上から順に第1の薬剤透過性樹脂基材21および第1の金属蒸着層22から構成される第1の積層体23、揮発性薬剤が保持された粘着剤層24、第2の金属蒸着層25および第2の薬剤透過性樹脂基材26から構成される第2の積層体27が配置されてなる。そして、
図3の揮発性薬剤含有フィルム20においては、第1の積層体23および第2の積層体27が揮発性薬剤含有粘着剤層24よりも面積が大きく、第1の積層体23の金属蒸着層面、第2の積層体27の金属蒸着層面の外周部全体に粘着剤層24が存在しない(上面図として
図3B)。このような構成となることで、各積層体に厚さ方向に力を付与するための把持部28が形成される。
【0025】
把持部は上記のように粘着剤層を基材および蒸着層の積層体よりも面積を小さくすることで形成することもできるし、薬剤透過性樹脂基材に物理的に例えば矩形状のつかみ代を設けることで形成してもよい。
【0026】
図4は、
図3の態様の揮発性薬剤含有フィルムの使用方法の一例を示す模式図である。
図4Aに示されるように把持部28を把持して厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを上下に引っ張ることで、粘着剤層が破断する。破断は粘着剤層24の少なくとも一部で起こるようにすれば足りる。
【0027】
具体的には、下記(1)~(3);
(1)粘着剤層の少なくとも一部が破壊する、
(2)粘着剤層および第1の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第1の金属蒸着層が分離する、ならびに
(3)粘着剤層および第2の金属蒸着層界面で少なくとも一部の粘着剤層および第2の金属蒸着層が分離する;
の少なくとも一が起こるように、厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張ることが好ましい。
【0028】
破断の仕方としては、例えば、
図4Bで示されるように、粘着剤層が完全に二分されるように破断されてもよい。
図4Bのように粘着剤層が完全に二分されるように破断することで、粘着剤層が露出し、2つの粘着シートとなる。これにより、使用時に各粘着シートを被着体(例えば、衣服)に貼付することも可能となる。このような使用方法によれば、粘着シートの粘着剤層を保護するための剥離ライナーが不要となる。被着体に貼付する態様においては、
図2で示されるように貼付前にフィルムを延伸して薬剤が薬剤透過性樹脂基材から放出されるようにしておいてもよい。
【0029】
図5は、本発明の揮発性薬剤含有フィルムの他の態様を示す断面模式図である。
図5においては、第1の薬剤透過性樹脂基材31および第1の金属蒸着層32から構成される第1の積層体33、揮発性薬剤が保持された粘着剤層34、第2の金属蒸着層35および第2の薬剤透過性樹脂基材36から構成される第2の積層体37が配置されてなる。そして、
図5の揮発性薬剤含有フィルム30においては、第1の薬剤透過性樹脂基材31、第2の薬剤透過性樹脂基材36が、それぞれ第1の金属蒸着層32、第2の金属蒸着層35よりも面積が大きく、第1の薬剤透過性樹脂基材31、第2の薬剤透過性樹脂基材36の外周部全体にそれぞれ第1の金属蒸着層32、第2の金属蒸着層35が存在しない。このような構成となることで、各積層体に厚さ方向に力を付与するための把持部38が形成される。把持部38を把持して厚さ方向に揮発性薬剤含有フィルムを引っ張ることで、粘着剤層が破断し、揮発性薬剤が放出可能となる。
【0030】
なお、
図3および
図5の態様において、
図2のようにフィルムを面方向に延伸させることで、揮発性薬剤を放出するようにしてもよいことはいうまでもない。この際、把持部を把持して面方向に延伸してもよい。
【0031】
また、
図3、
図5の態様における、
図4の使用方法においては、第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材は、必ずしも薬剤透過性でなくともよい。
【0032】
各部材間、または薬剤透過性樹脂基材上には他の機能層(例えば、薬剤透過性樹脂基材上の印刷層や金属蒸着層上の保護層、薬剤透過性樹脂基材上、金属蒸着層上または保護層上の密着付与層)が存在していてもよい。
【0033】
以下、各部材を構成する材料について説明する。
【0034】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等は、室温(20~25℃)/相対湿度45~55%RHの条件で測定する。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を指し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸および/またはメタクリル酸」を指す。さらに、本明細書においては「フィルム」と称しているが、フィルムには、シート、ラベル、テープ等と称されるものも含まれる。また、揮発性薬剤含有フィルムを単にフィルムと称する場合もある。
【0035】
<第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材>
以下、第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材についてまとめて記載するが、各基材は各々独立したものであって、その組成、厚さ等は、個々に同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0036】
第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材の降伏強度は30N/15mm以下である。降伏強度がこのような範囲であることで、薬剤透過性樹脂基材が破断せずに延伸しやすいため、金属蒸着層が面方向に延伸されて金属蒸着層が破断した場合であっても、フィルム形状を維持したまま薬剤を放出させることができる。なお、本明細書において、降伏強度は、JIS K 7161-1:2014に準拠し、幅15mmの試験片を使用し、試験速度200mm/minで試験した際の降伏点における力である。以下、当該定義で定義された降伏強度を単に降伏強度とも称する。
【0037】
第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材の降伏強度の下限は特に限定されるものではなく、例えば、0.1N/15mm以上である。
【0038】
第1の薬剤透過性樹脂基材および第2の薬剤透過性樹脂基材の厚みは、揮発性薬剤透過性や機械的強度を考慮して、10~300μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
【0039】
本発明の好適な一態様は、第1の薬剤透過性樹脂基材、第1の金属蒸着層、揮発性薬剤が保持された粘着剤層、第2の金属蒸着層、第2の薬剤透過性樹脂基材がこの順に配置されてなる、揮発性薬剤含有フィルムであって、第1の薬剤透過性樹脂基材および前記第2の薬剤透過性樹脂基材が、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0040】
第1の薬剤透過性樹脂基材は、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、第2の薬剤透過性樹脂基材は、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。各薬剤透過性樹脂基材中における、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の含有量(合計量)は、50質量%以上(上限100質量%)であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。中でも、本発明の効果の観点から、第1の薬剤透過性樹脂基材は、塩化ビニル樹脂、およびオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、第2の薬剤透過性樹脂基材は、塩化ビニル樹脂、およびオレフィン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0041】
薬剤透過性とは、薬剤の1日あたりの透過量が30℃で1g/m2以上であることが好ましく、200g/m2以下であることが好ましい。かような透過性を有することで、薬剤の効果が発揮されやすく、また、持続時間も適当になる。
【0042】
また、樹脂基材の金属蒸着層面には、コロナ処理、プライマー処理、酸化法などによる表面処理を施されていてもよい。上記プライマー処理に使用し得る液剤としては、特に制限はされず、例えばアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系、ゴム系などの従来公知のものを用いることができる。一方、上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられる。
【0043】
以下、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂について説明する。
【0044】
(塩化ビニル樹脂)
塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーおよび塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体(以下、塩化ビニル共重合体とも称する)等が挙げられる。塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニルのようなビニルエステル類、エチレンビニルエーテルのようなビニルエーテル類、エチレン、プロピレン、1-ブテン等のα-オレフィン類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、塩化ビニリデン等が挙げられる。上記のポリ塩化ビニルおよび塩化ビニル共重合体は、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法などの公知の製造法によって製造することができる。
【0045】
塩化ビニル樹脂は、通常、可塑剤と併用される。可塑剤は、基材に柔軟性を付与する目的で添加され、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸系可塑剤、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリル、リン酸トリブチル、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸オクチルジフェニル、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。可塑剤の添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、例えば、10~60質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。
【0046】
塩化ビニル樹脂は、必要に応じて、安定剤、滑剤、充填剤、着色剤、加工助剤、軟化剤、金属粉、防曇剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難撚剤等と併用されていてもよい。安定剤としては、例えば、Ba-Zn系、Cd-Ba系、Sn系等のものが用いられ、或いはこれらがエポキシ化大豆油、エポキシ樹脂等と併用されていてもよい。また、軟化剤としては、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体やエチレン/酢酸ビニル/一酸化炭素共重合体等が用いられていてもよい。
【0047】
(オレフィン樹脂)
オレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィンをモノマー成分とするものが挙げられる。
【0048】
ポリエチレンは、(分岐状)低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、極低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、またはこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0049】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂としては、例えばポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂などを用いることができる。
【0050】
<第1の金属蒸着層および第2の金属蒸着層>
金属蒸着層を形成する材料としては、例えばアルミニウム、珪素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、これら1種又は2種以上の酸化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。中でも、薬剤の放出量を制御しやすいことから、金属蒸着層を形成する材料としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、および酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。
【0051】
金属蒸着層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法などの物理気相成長法(PVD法);並びにプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法及び光化学気相成長法などの化学気相成長法(CVD法)が挙げられる。
【0052】
金属蒸着層の平均厚みは、5~200nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましい。金属蒸着層の厚みが上記範囲内であることで、薬剤透過性が適度となり、また、機械的特性も確保されるため、好ましい。ここで、金属蒸着層の平均厚みとは、電子顕微鏡により測定される金属蒸着層断面の任意の10点における厚みの平均値である。なお、金属蒸着層は、当該層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより、その厚さなどから金属箔と区別することができる。一般的に金属箔の厚さはμmオーダーとなる。
【0053】
なお、上記において、第1の金属蒸着層と、第2の金属蒸着層とを併せて記載したが、各層の組成、厚さ等は同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0054】
<揮発性薬剤が保持された粘着剤層>
揮発性薬剤(揮発性化合物)としては、例えば、ラベンダー油、ハッカ油、レモン油、ローズ油、ショウノウ油、ビャクダン油、ヒノキ油、シトロネラ油、シナモン油、ティートリー油、ヒバ油、シナモン油、ユーカリ油、ユーカリシトリオドラ、コリアンダー油、タイム油などの植物精油からなる植物性香料などの天然香料、テルペン化合物、エステル化合物、芳香族化合物などからなる合成香料、あるいはそれらをブレンドした調合香料などの香料、イソチオシアン酸メチル、イソチオシアン酸エチル、イソチオシアン酸アリル、イソチオシアン酸イソブチル、イソチオシアン酸n-ブチル、イソチオシアン酸フェニル、イソチオシアン酸ベンジルなどのイソチオシアン酸エステル類などが挙げられる。
【0055】
本実施形態においては、揮発性薬剤は油状であることが好ましい。揮発性薬剤が油状であることで、後述の製造方法で記載するような粘着剤層への含浸が均一となりやすい。油状とは、水不溶性で液状であることを指す。ここで、液状とは、25℃にて流動性を有するものを指す。より具体的には、薬剤を4°傾けた場合、その形状を10分以上保持できず、形状の変化を生じることをいう。また、水不溶性とは、25℃における水に対する溶解度が5重量%以下(下限0重量%)であることを指し、1重量%以下であることが好ましい。
【0056】
さらに、「揮発性」とは、25℃において薬剤として有効な程度の揮発性を示すことを意味する。
【0057】
揮発性薬剤量はフィルム中、0.1g/m2以上であることが好ましい。また、揮発性薬剤量は0.2~10.0g/m2であることがより好ましい。かような濃度とすることで、薬剤の効果が適切に発揮される。
【0058】
<粘着剤層>
粘着剤層に用いられる粘着剤としては、特に限定されず、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、スチレン-ジエンブロック共重合体粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤などを用いることができる。上記粘着剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0059】
粘着剤としては、接着の信頼性の観点から、特にアクリル系粘着剤を好適に用いることができる。
【0060】
アクリル系粘着剤を構成するアクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単量体主成分とし、必要に応じて(メタ)アクリル酸アルキルエステルに共重合可能な単量体(共重合性単量体)を用いることにより形成される。ここで、主成分とは、単量体中50質量%以上(上限100質量%)であることを指し、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単量体全体に対する含有割合は、好ましい順に、65質量%以上、85質量%以上、90質量%以上である。
【0061】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、粘着性能の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチル、および(メタ)アクリル酸n-ブチルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸n-ブチルであることがより好ましく、アクリル酸n-ブチルであることがさらにより好ましい。
【0062】
架橋剤を用いる場合、さらに、架橋剤と反応しうる官能基含有ビニルモノマー(以下、架橋性官能基含有ビニルモノマーとも称する)を用いることが好ましい。
【0063】
架橋性官能基含有ビニルモノマーにおける官能基は、選択される架橋剤により異なるが、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、グリシジル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。中でも、高い凝集力を確保できることから、架橋性官能基含有ビニルモノマーが、カルボキシル基含有ビニルモノマーおよび水酸基含有ビニルモノマーの少なくとも一方から選択される架橋性官能基含有ビニルモノマーであることが好ましい。
【0064】
架橋性官能基含有ビニルモノマーは1種単独であっても、2種以上併用してもよい。
【0065】
カルボキシル基または酸無水物基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、およびオレイン酸などが挙げられる。中でも、重合性の観点から、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、アクリル酸であることがより好ましい。
【0066】
架橋性官能基含有ビニルモノマーの含有量は、全単量体中、0.1~20質量%であることが好ましい。架橋性官能基含有ビニルモノマーがこのような範囲にあることで、架橋密度が適当となり粘着性が維持される。
【0067】
アクリル系共重合体の分子量は、特に制限されるものではないが、重量平均分子量(Mw)は、例えば、10万~200万であり、20万~100万であってもよい。本明細書において重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により標準ポリスチレン換算分子量として測定されたものを用いる。
【0068】
アクリル系共重合体の製造方法は、特に制限されず、重合開始剤を使用する溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法、薄膜重合法、噴霧重合法など従来公知の方法を用いることができる。また、重合開始剤により重合を開始させる方法の他に、放射線、電子線、紫外線等を照射して重合を開始させる方法を採用することもできる。
【0069】
粘着剤は、粘着剤組成物から形成されうる。アクリル系共重合体の粘着剤組成物中の含有量は、50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましい。
【0070】
当該粘着剤組成物は、アクリル系共重合体の他、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤などが挙げられる。架橋剤の添加量は、アクリル系共重合体100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。架橋剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
図4のような上下にフィルムを引っ張る使用方法の場合、粘着剤層が破断されやすいように粘着剤組成物中の架橋剤量を少なくすることができ、粘着剤組成物中の架橋剤の含有量を例えば0.05~3質量部とすることが好ましい。
【0071】
粘着剤組成物は、従来公知のその他の添加剤をさらに含みうる。かような添加剤としては、例えば、充填剤、顔料、紫外線吸収剤、粘着付与剤などが挙げられる。充填剤としては、例えば、亜鉛華、シリカ、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0072】
粘着剤層の厚みは、通常5~100μmであってもよく、5~50μmであってもよい。
【0073】
[製造方法]
揮発性薬剤含有フィルムの製造方法は特に限定されるものではないが、(1)第1の薬剤透過性樹脂基材上に第1の金属蒸着層を形成して、第1の積層体を準備し、同様に、第2の薬剤透過性樹脂基材上に第2の金属蒸着層を形成して、第2の積層体を準備する、(2)第1の積層体の金属蒸着層面上に粘着剤層を形成した後、粘着剤層に揮発性薬剤を塗布・含浸させる、(3)粘着剤層上に第2の積層体の金属蒸着層面を貼付して、揮発性薬剤含有フィルムを得る、などの方法が挙げられる。
【0074】
粘着剤層の形成方法は、第1の金属蒸着層上に粘着剤組成物を直接塗工して形成してもよく、また、剥離ライナー上に粘着剤層を形成した後、これを第1の積層体と貼合してもよい。生産性の観点からは、剥離ライナー上に粘着剤層を形成した後、これを第1の積層体と貼合する方法が好ましい。具体的には、剥離ライナー上に粘着剤組成物を塗布し、架橋後の粘着剤組成物からなる粘着剤層を基材に転写する方法が挙げられる。
【0075】
形成された粘着剤層への揮発性薬剤の塗布・含浸方法は特に限定されるものではなく、グラビアコート、マイヤーバーコート、スプレーコート、カーテンコートなどの塗布、ディッピング法などの浸漬などを挙げることができる。揮発性薬剤を塗布・含浸させることで、粘着剤が溶解または膨潤し、揮発性薬剤が粘着剤層に保持される。
【0076】
粘着剤層を形成した後に、揮発性薬剤を保持させることで、粘着剤および揮発性薬剤を混合することによる粘着剤の粘性低下を抑制することができるとともに、高濃度の揮発性薬剤を保持させることができる。
【実施例0077】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0078】
測定方法1:基材の降伏強度
基材の降伏強度は、JIS K 7161-1:2014に準拠して、試料:幅15mm(長さ200mm)、標点間距離100mm、試験速度200mm/minの条件で測定した。
【0079】
測定方法2:水蒸気透過率
実施例1、2で用いたアルミ蒸着フィルム、比較例1、2で用いたフィルムについて、JIS Z 0208:1976に準拠して水蒸気透過率を測定した。試験は40℃、90%RH雰囲気下で行った。
【0080】
[実施例1]
1.アクリル系共重合体の製造
還流器及び攪拌機を備えたフラスコに、アクリル酸n-ブチル90質量部、アクリル酸10質量部の組成を有するモノマー混合物、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤) モノマー混合物100質量部に対して0.25質量部、及び酢酸エチル(溶剤) モノマー混合物100質量部に対して200質量部を添加し、窒素置換を行いながら65℃まで加温した後、重合を行って、アクリル系共重合体を得た。得られたアクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、50万であった。
【0081】
2.粘着剤組成物の作製
1.で得られたアクリル系共重合体100質量部に対して、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(固形分75質量%、NCO13.2質量%)2質量部(カルボキシル基に対するイソシアネート基の当量:22mol%)を添加・混合して粘着剤組成物を作製した。
【0082】
3.揮発性薬剤含有フィルムの作製
2.で得られた粘着剤組成物を、ポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離剤層上にナイフコーターにより乾燥膜厚30μmとなるように塗布した後、乾燥させて、粘着剤層を形成した。次いで、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム上にアルミニウム蒸着したアルミ蒸着フィルム(厚み50μm、基材:ポリ塩化ビニル、降伏強度26N/15mm、金属蒸着層:アルミニウム、厚み15nm)を2枚準備した。まず1枚のアルミ蒸着フィルムのアルミ蒸着面と粘着剤層とを貼合して、第1の薬剤透過性樹脂基材(PVCフィルム)-第1の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)-粘着剤層-剥離ライナーの積層体を作製した。
【0083】
この後、剥離ライナーを剥がし、香料を含浸量が5g/m2となるようにグラビアコーターにより粘着剤層に含浸させて、粘着剤層に香料を保持させた。その後、粘着剤層面にもう1枚のアルミ蒸着フィルムのアルミ蒸着面と粘着剤層とを貼合して2日間放置して粘着剤層を形成させて、第1の薬剤透過性樹脂基材(PVCフィルム)-第1の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)-香料含有粘着剤層-第2の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)-第2の薬剤透過性樹脂基材(PVCフィルム)の揮発性薬剤含有フィルムを作製した。
【0084】
なお、第1の薬剤透過性樹脂基材(PVCフィルム)-第1の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)の積層体および第2の薬剤透過性樹脂基材(PVCフィルム)-第2の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)の積層体の、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、それぞれ0.8g/m2/dayであった。また、揮発性薬剤含有フィルムの、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、0.8g/m2/day以下であった。
【0085】
[実施例2]
ポリプロピレン(PP)フィルム上にアルミニウムを蒸着したアルミ蒸着フィルム(厚み50μm、基材:ポリプロピレン、降伏強度28N/15mm、金属蒸着層:アルミニウム、厚み15nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の揮発性薬剤含有フィルムを得た。
【0086】
なお、第1の薬剤透過性樹脂基材(PPフィルム)-第1の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)の積層体および第2の薬剤透過性樹脂基材(PPフィルム)-第2の金属蒸着層(アルミニウム蒸着層)の積層体の、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、それぞれ1.3g/m2/dayであった。また、揮発性薬剤含有フィルムの、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、1.3g/m2/day以下であった。
【0087】
[比較例1]
アルミ蒸着フィルムの代わりにポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm、降伏強度37N/15mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の揮発性薬剤含有フィルムを得た。ポリエチレンテレフタレートフィルムの、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、7.0g/m2/dayであった。
【0088】
[比較例2]
アルミ蒸着フィルムの代わりにポリ塩化ビニルフィルム(厚み 50μm、降伏強度 26N/15mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の揮発性薬剤含有フィルムを得た。ポリ塩化ビニルフィルムの、40℃、90%RH雰囲気下における水蒸気透過度は、10.0g/m2/dayであった。
【0089】
評価方法:香りの評価
実施例1~2及び比較例1~2の各揮発性薬剤含有フィルムについて、1ヶ月室温で保管後、揮発性薬剤含有フィルムの開発を担当する訓練された10人のパネラーによる官能評価試験を行った。試験は、シートをパネラーによるシートの面方向の延伸後にも行った。この際の延伸量は10%とした。以下の評価基準に基づいて3段階評価を行い、平均点を算出した。それぞれの平均点の結果を表1に示す。
【0090】
(評価基準)
3:外部からは全く香りを感知しない、
2:外部からわずかに香りを感知する、
1:外部からはっきり香りを感知する。
【0091】
なお、比較例1については、パネラーの通常の力では伸びず(下記表1、延伸×)、フィルムから香りはしなかった。
【0092】
【0093】
上記結果より、実施例の揮発性薬剤含有フィルムは、個包装することなく、1ヶ月保管後であっても、外部から香りを確認することができなかった。一方で、1ヶ月保管後に揮発性薬剤含有フィルムを延伸すると、外部から明確に香りを確認することができた。一方で、金属蒸着層を有していない比較例2の揮発性薬剤含有フィルムは、1ヶ月保管後のサンプルについて、延伸前後の双方で外部から香りを確認することができなかった。比較例2については、揮発性薬剤含有フィルムを分解し、粘着剤層を露出させて粘着剤層について香りを確認したところ、香りを確認することができなかった。このことから、比較例2の揮発性薬剤含有フィルムにおいては、1ヶ月の保管期間中に、粘着剤層から揮発性薬剤が薬剤透過性のPVC基材を通過して外部に放出されたものと考えられる。一方で、PET基材を用いた比較例1は、力を付加しても延伸することができず、粘着剤層からの香料の放出をさせることができなかった(このため、表中の1ヶ月保管後の延伸後の欄は-となっている)。