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特開2024-131314セグメント揚重装置、及びセグメント設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131314
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】セグメント揚重装置、及びセグメント設置方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/40 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E21D11/40 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041510
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】596104728
【氏名又は名称】日本メンテナンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597094503
【氏名又は名称】巴機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 篤
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 尚志
(72)【発明者】
【氏名】新原 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】神屋 良五郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 和男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠之
(72)【発明者】
【氏名】石倉 照夫
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA01
2D155BB06
2D155CA01
2D155GB11
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して簡易な装置を利用し、しかも計画された設置位置まで拡幅セグメントSGを移動させることができるセグメント揚重装置と、これを用いたセグメント設置方法を提供することである。
【解決手段】本願発明のセグメント揚重装置は、シールドトンネルに配置され、セグメントを吊上げかつ吊下ろす装置であって、後方支持体と前方支持体、固定梁、支持部材、移動梁、係止部材、吊治具を備えたものである。移動梁は、係止部材によって固定梁に係止されるとともに、支持部材によって支持されることによって、トンネル断面方向にスライド移動するように固定梁に取り付けられる。そして、吊治具によってセグメントが吊られた状態で、移動梁はスライド移動することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドトンネルに配置され、セグメントを吊上げかつ吊下ろす装置であって、
左後方支柱、右後方支柱、及び後方梁によって構成され、トンネル内空側に配置される門型の後方支持体と、
左前方支柱、右前方支柱、及び前方梁によって構成され、地山側に配置される門型の前方支持体と、
トンネル断面方向に配置され、前記後方梁と前記前方梁に固定される固定梁と、
前記固定梁のうち地山側に取り付けられる支持部材と、
トンネル断面方向に配置される移動梁と、
前記移動梁のうちトンネル内空側に取り付けられる係止部材と、
前記移動梁に沿ってスライド移動するように、該移動梁に取り付けられる吊治具と、を備え、
前記移動梁は、前記係止部材によって前記固定梁に係止されるとともに、前記支持部材によって支持されることによって、トンネル断面方向にスライド移動するように該固定梁に取り付けられ、
前記吊治具によって前記セグメントが吊られた状態で、前記移動梁はスライド移動し得る、
ことを特徴とするセグメント揚重装置。
【請求項2】
前記固定梁は、トンネル軸方向に並ぶ左固定梁と、右固定梁と、からなり、
前記支持部材は、前記左固定梁に取り付けられる左支持部材と、前記右固定梁に取り付けられる右支持部材と、からなり、
前記移動梁は、トンネル軸方向に並ぶ左移動梁と、右移動梁と、からなり、
前記係止部材は、前記左移動梁に取り付けられる左係止部材と、前記右移動梁に取り付けられる右係止部材と、からなり、
前記左支持部材が前記左移動梁を支持するとともに、前記左係止部材が前記左固定梁に係止され、
前記右支持部材が前記右移動梁を支持するとともに、前記右係止部材が前記右固定梁に係止される、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項3】
前記移動梁は、上下に並ぶ上移動梁と、下移動梁と、からなり、
前記吊治具は、前記移動梁のうち前記下移動梁に取り付けられ、
前記係止部材は、前記移動梁のうち前記上移動梁に取り付けられ、
前記移動梁のうち前記上移動梁が、前記支持部材によって支持される、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項4】
前記後方支持体と前記前方支持体との離隔であるスパン長より、前記移動梁が前記前方支持体から張り出す長さの方が長い、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項5】
1又は2以上の重錘を、さらに備え、
前記後方支持体に設けられた載置台に前記重錘を載置することによって、前記吊治具が前記セグメントを吊った状態の前記移動梁が前記前方支持体から張り出したときに、全体のバランスを保つことができる、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項6】
トンネル軸方向に沿って走行する本体部走行体を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項7】
前記左前方支柱と前記右前方支柱は、トンネル断面方向に配置される2本の分離支柱を含んで構成されるV字状の形状であり、
前記前方梁は、主前方梁と副前方梁によって構成され、
前記主前方梁は、前記左前方支柱と前記右前方支柱のうち地山側の前記分離支柱によって支持され、
前記副前方梁は、前記左前方支柱と前記右前方支柱のうちトンネル内空側の前記分離支柱によって支持される、
ことを特徴とする請求項1記載のセグメント揚重装置。
【請求項8】
トンネル軸方向に沿って走行する本体部走行体を備えた請求項1記載の前記セグメント揚重装置を用いて、前記セグメントを設置する方法であって、
前記移動梁の地山側の端部が、前記固定梁の地山側の端部付近に位置するまで、前記移動梁をトンネル内空側に移動することによって収容状態とする移動梁収容工程と、
前記収容状態としたまま、前記本体部走行体を用いて前記セグメント揚重装置をトンネル軸方向に移動する装置移設工程と、
前記セグメント揚重装置が目的地に到着すると、前記吊治具を用いて前記セグメントを吊上げるセグメント吊上げ工程と、
前記吊治具によって前記セグメントが吊られた状態で、前記移動梁を地山側にスライド移動し、該セグメントを設置個所まで搬送するセグメント搬送工程と、
前記吊治具を用いて、前記セグメントを吊下ろして所定位置に設置するセグメント設置工程と、を備えた、
ことを特徴とするセグメント設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、シールド工法によって構築されたトンネル(以下、単に「シールドトンネル」という。)に拡幅部用のセグメント(以下、単に「拡幅セグメント」という。)を配置する技術に関するものであり、より具体的には、拡幅セグメントを吊上げた梁材がスライドすることによって片持ち梁(カンチレバー)の状態で計画位置に拡幅セグメントを配置することができるセグメント揚重装置と、これを用いたセグメント設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、トンネル切羽の安定を図りつつシールドマシンで地中を掘進し、セグメントで覆工することによって、地下に鉄道トンネルや道路トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなどを構築する工法である。地上環境への影響を抑制することができる非開削工法であることから、近年ではこのシールド工法が多用される傾向にあり、さらに大断面化や大深度化、長距離化などが進んでいるところである。
【0003】
シールドトンネルでは、地中拡幅工事が行われることがある。例えば、道路トンネルや鉄道トンネルの分合流区間や、道路トンネルの非常駐車帯、鉄道トンネルの駅舎部などは、本線シールドトンネル区間より大断面となることから、一旦、本線シールドトンネルと同じ断面で構築した後に地中拡幅工事が行われる。あるいは、大断面トンネルを構築するにあたって、平行する2本のシールドトンネルを構築した後に、それぞれ地中拡幅工事を行うことによって1本の大断面トンネルを完成させる技術もある。もちろん、既設のシールドトンネルの断面を拡張したいケースでも地中拡幅工事が行われる。
【0004】
図11は、シールドトンネルに対して地中拡幅工事を行い、拡幅部に対して新たに拡幅セグメントSGを設置した状態を模式的に示す断面図である。この図に示すような拡幅工事を行う手順は、概ね次のとおりである。まず、既設のセグメント(図に示す破線位置にあったセグメント)を撤去し、バックホウなどの建設機械を用いて地山を掘削して拡幅部を形成する。そして、拡幅部の地山部分を覆うように拡幅セグメントSGを設置するとともに裏込め注入を行っていく。
【0005】
上記したとおり、例えば直径φ16mのシールドトンネルが計画されるなどその大断面化が進んでおり、これに伴って拡幅セグメントSGも大型のもの(例えば、重量11トン)が使用されるようになってきた。しかしながら、大断面とはいえシールドトンネル内で活用できる空間は極めて限定的であり、大型の揚重機を利用することが難しいこともある。そこで、従来では小型(例えば、4.9トン)のテレスコ(登録商標)式クローラクレーンをはじめ、橋形クレーン、テルハ、電動あるいは手動チェーンブロックなどを利用して、拡幅セグメントSGを吊上げていた。
【0006】
このように、狭隘なスペースで拡幅セグメントSGを設置する作業は、非効率であるうえ、安全性の面でも適当ではない。そこで、これまでにも狭隘なシールドトンネル内で効率的にセグメントを設置する種々の技術が提案されている。例えば特許文献1では、拡幅セグメントを回転しながら設置する発明について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-114075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される発明によれば、様々な角度に対応しつつ拡幅セグメントSGを設置することができ、しかも効率的かつ安全に作業を行うことができる。他方、特許文献1の発明を実施するにあたっては、拡幅セグメント配置装置が必要であり、すなわちその装置にかかる製造費や維持費が必要になるといった課題もあった。
【0009】
とはいえ、小型の揚重機を利用する従来技術は、非効率かつ不安全である。また、拡幅セグメントSGは拡幅部まで運搬されるとひとまずトンネル断面の中央付近に仮置きされるため、実際の設置位置(つまり、地山側)まで拡幅セグメントSGを移動させる必要がある。ところが小型の揚重機は作業半径も小さいことから設置位置まで届かないこともあり、その場合は別の手段で小運搬しなければならない。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して簡易な装置を利用し、しかも計画された設置位置まで拡幅セグメントSGを移動させることができるセグメント揚重装置と、これを用いたセグメント設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、トンネル断面方向にスライド移動する移動梁を備えることとし、この移動梁が拡幅セグメントSGを吊上げたまま地山側にスライド移動することによって、拡幅セグメントSGを計画位置まで移動する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明のセグメント揚重装置は、シールドトンネルに配置され、セグメントを吊上げかつ吊下ろす装置であって、後方支持体と前方支持体、固定梁、支持部材、移動梁、係止部材、吊治具を備えたものである。このうち後方支持体は、左後方支柱と右後方支柱、後方梁によって構成され、トンネル内空側に配置される門型のものである。また前方支持体は、左前方支柱と右前方支柱、前方梁によって構成され、地山側に配置される門型のものである。固定梁は、トンネル断面方向に配置され、後方梁と前方梁に固定され、支持部材は、固定梁のうち地山側に取り付けられる。移動梁は、トンネル断面方向に配置され、係止部材は、移動梁のうちトンネル内空側に取り付けられる。吊治具は、移動梁に沿ってスライド移動するように移動梁に取り付けられ、セグメントを吊上げるものである。なお移動梁は、係止部材によって固定梁に係止されるとともに、支持部材によって支持されることによって、トンネル断面方向にスライド移動するように固定梁に取り付けられる。そして、吊治具によってセグメントが吊られた状態で、移動梁はスライド移動することができる。
【0013】
本願発明のセグメント揚重装置は、固定梁がトンネル軸方向に並ぶ左固定梁と右固定梁からなり、移動梁がトンネル軸方向に並ぶ左移動梁と右移動梁からなるものとすることもできる。この場合、支持部材は、左固定梁に取り付けられる左支持部材と、右固定梁に取り付けられる右支持部材からなり、係止部材は、左移動梁に取り付けられる左係止部材と、右移動梁に取り付けられる右係止部材からなるものとされる。そして、左支持部材が左移動梁を支持するとともに、左係止部材が左固定梁に係止され、右支持部材が右移動梁を支持するとともに、右係止部材が右固定梁に係止される。
【0014】
本願発明のセグメント揚重装置は、移動梁が上下に並ぶ上移動梁と下移動梁からなるものとすることもできる。この場合、吊治具は、移動梁のうち下移動梁に取り付けられ、係止部材は、移動梁のうち上移動梁に取り付けられる。そして、移動梁のうち上移動梁が、支持部材によって支持される。
【0015】
本願発明のセグメント揚重装置は、「スパン長」より「張出し長」の方が長いものとすることもできる。なおスパン長は、後方支持体と前方支持体との離隔であり、張出し長は、移動梁が前方支持体から張り出す最大長さである。
【0016】
本願発明のセグメント揚重装置は、1又は2以上の重錘をさらに備えたものとすることもできる。この場合、後方支持体に設けられた載置台に重錘を載置することによって、吊治具がセグメントを吊った状態の移動梁が前方支持体から張り出したときにも、セグメント揚重装置全体のバランスを保つことができる。
【0017】
本願発明のセグメント揚重装置は、トンネル軸方向に沿って走行する本体部走行体をさらに備えたものとすることもできる。
【0018】
本願発明のセグメント揚重装置は、左前方支柱と右前方支柱がトンネル断面方向に配置される2本の分離支柱を含んで構成されるV字状の形状のものとすることもできる。この場合、前方梁は、主前方梁と副前方梁によって構成され、主前方梁は、左前方支柱と右前方支柱のうち地山側の分離支柱によって支持され、副前方梁は、左前方支柱と右前方支柱のうちトンネル内空側の分離支柱によって支持される。
【0019】
本願発明のセグメント設置方法は、本願発明のセグメント揚重装置を用いて、セグメントを設置する方法であって、移動梁収容工程と装置移設工程、セグメント吊上げ工程、セグメント搬送工程、セグメント設置工程を備えた方法である。このうち移動梁収容工程では、移動梁の地山側の端部が固定梁の地山側の端部付近に位置するまで、移動梁をトンネル内空側に移動することによって「収容状態」とする。また装置移設工程では、収容状態としたまま本体部走行体を用いてセグメント揚重装置をトンネル軸方向に移動し、セグメント吊上げ工程では、セグメント揚重装置が目的地に到着すると、吊治具を用いてセグメントを吊上げる。セグメント搬送工程では、吊治具によってセグメントが吊られた状態で、移動梁を地山側にスライド移動し、セグメントを設置個所まで搬送する。そして、セグメント設置工程では、吊治具を用いてセグメントを吊下ろして所定位置に設置する。
【発明の効果】
【0020】
本願発明のセグメント揚重装置、及びセグメント設置方法には、次のような効果がある。
(1)シールド用のセグメントが吊られた状態で移動梁をスライド移動することができ、すなわちセグメントをトンネル中心から離れた地山付近(例えば、拡幅部)まで運ぶことができる。その結果、設置作業や撤去作業の施工時間を短縮することができ、工期短縮にも貢献する。
(2)チェーンブロックやホイストクレーン、ジャッキといった小型機械を利用する必要がなく、作業者による重量物(セグメント)への接近作業を低減することができる。その結果、挟まれ災害や吊り荷の落下などの事故の発生を従来に比して回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】作業ステージ上に配置された本願発明のセグメント揚重装置を模式的に示すトンネル断面図。
図2】(a)は本願発明のセグメント揚重装置を模式的に示す平面図、(b)は本願発明のセグメント揚重装置を模式的に示す側面図。
図3】後方支持体を模式的に示す正面図。
図4】前方支持体を模式的に示す正面図。
図5】(a)は移動梁を張り出す前の固定梁と移動梁を模式的に示す側面図、(b)は移動梁が張り出したときの固定梁と移動梁を模式的に示す側面図。
図6】支持部材によって支持される移動梁を模式的に示す断面図。
図7】係止部材が固定梁の一部を係止することによって、固定梁に支持される移動梁を模式的に示す断面図。
図8】前方支持体から移動梁が地山側に突出する長さを説明する側面図。
図9】本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すフロー図。
図10】本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すステップ図。
図11】拡幅部に対して新たに拡幅セグメントを設置した状態を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明のセグメント揚重装置、及びセグメント設置方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0023】
1.セグメント揚重装置
はじめに、本願発明のセグメント揚重装置について詳しく説明する。なお、本願発明のセグメント設置方法は、本願発明のセグメント揚重装置を用いて拡幅セグメントを設置する方法である。したがって、まずは本願発明のセグメント揚重装置について説明し、その後に本願発明のセグメント設置方法について説明することとする。
【0024】
図1は、作業ステージST上に配置された本願発明のセグメント揚重装置100を模式的に示すトンネル断面図である。この図に示すように本願発明のセグメント揚重装置100は、トンネル拡幅部で組み立てられた作業ステージSTの上に配置され、地山を掘削して拡幅した所定位置に拡幅セグメントSGを設置するものである。なお便宜上ここでは、トンネルの延長方向(図では紙面奥行方向)のことを「トンネル軸方向」と、トンネル軸方向に垂直な水平方向(図では左右方向)のことを「断面方向」ということとし、さらに断面方向のうちトンネル断面中心に向かう方(図では左側)を「内空側」と、地山に向かう方(図では右側)を「地山側」ということとする。
【0025】
図2は、本願発明のセグメント揚重装置100を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は平面図の「A-A矢視」で示す側面図である。本願発明のセグメント揚重装置100は、この図に示す後方支持体110と前方支持体120、固定梁130、移動梁140、後述する支持部材150と係止部材160、吊治具170を備えたものであり、さらに後述する本体部走行体や、重錘180、側方梁190などを含んで構成することもできる。
【0026】
以下、本願発明のセグメント揚重装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0027】
(後方支持体と前方支持体)
図3は、後方支持体110を模式的に示す図であり、図2(b)の「C-C矢視」で示す正面図である。後方支持体110は、図2(b)に示すようにセグメント揚重装置100を作業ステージST上に配置したとき(以下、単に「使用時」という。)に内空側に位置し、後述するように固定梁130の内空側の端部を支持するものである。また後方支持体110は、図3に示すように略鉛直(鉛直を含む)姿勢で配置される左後方支柱111と右後方支柱112、トンネル軸方向に略水平(水平を含む)姿勢で配置される後方梁113によって構成され、左後方支柱111と右後方支柱112によって後方梁113を支持する門型構造体である。なお、左後方支柱111と右後方支柱112、後方梁113は、断面寸法に対して軸寸法が大きないわゆる梁材であり、例えばI型鋼やH型鋼、溝型鋼といった形鋼を利用することができ、あるいは形鋼を組み合わせたものとすることもできる。
【0028】
図4は、前方支持体120を模式的に示す図であり、図2(b)の「D-D矢視」で示す正面図である。前方支持体120は、図2(b)に示すように使用時に地山側に位置し、後述するように固定梁130の地山側の端部を支持するものである。また前方支持体120は、図4に示すように略鉛直(鉛直を含む)姿勢で配置される左前方支柱121と右前方支柱122、トンネル軸方向に略水平(水平を含む)姿勢で配置される前方梁123によって構成され、左前方支柱121と右前方支柱122によって前方梁123を支持する門型構造体である。なお、左前方支柱121と右前方支柱122、前方梁123は、断面寸法に対して軸寸法が大きないわゆる梁材であり、例えばI型鋼やH型鋼、溝型鋼といった形鋼を利用することができ、あるいは形鋼を組み合わせたものとすることもできる。
【0029】
左後方支柱111と右後方支柱112は、H型鋼などによる「単柱構造」とすることもできるし、図2(b)に示すように側面視でV字状となる柱構造(以下、「分離支柱構造」という。)とすることもできる。分離支柱構造とする場合、左後方支柱111は、地山側の主左前方支柱121Mと、内空側の副左前方支柱121Sの2本の分離支柱を含んで構成され、同様に、右前方支柱122も、地山側の主右前方支柱122Mと、内空側の副右前方支柱122Sの2本の分離支柱を含んで構成される。また前方梁123も、地山側の主前方梁123Mと副前方梁123Sを含んで構成され、主前方梁123Mは主左前方支柱121Mと主右前方支柱122Mによって支持され、副前方梁123Sは副左前方支柱121Sと副右前方支柱122Sによって支持される。
【0030】
図2(a)に示すように、使用時における後方支持体110と前方支持体120は、略平行(平行を含む)となるように、より具体的には後方梁113と前方梁123がそれぞれトンネル軸方向となるように配置される。また、後方支持体110と前方支持体120を、側方梁190によって連結する構造とすることもできる。この場合、左後方支柱111と左前方支柱121の頂部に側方梁190を配置するとともに、右後方支柱112と右前方支柱122の頂部に側方梁190を配置し、両脇の側方梁190に架け渡すように後方梁113と前方梁123を配置するとよい。
【0031】
(固定梁と移動梁)
図5は、固定梁130と移動梁140を模式的に示す図であって、図2(a)の「B-B矢視」で示す側面図であり、(a)は移動梁140を張り出す前の状態(以下、「収容状態」という。)を示し、(b)は移動梁140が張り出した状態(以下、「張出し状態」という。)を示している。
【0032】
固定梁130は、図2(a)に示すように、セグメント揚重装置100のトンネル軸方向における中央付近に、断面方向に沿って配置される。この固定梁130は、後方梁113と前方梁123下方(例えば、下フランジ)で固定され、これにより後方梁113と前方梁123によって支持される。また固定梁130のうち地山側には、移動梁140を支持するための支持部材150が取り付けられる。例えば図5では、左前方支柱121と右前方支柱122が分離支柱構造とされており、主前方梁123Mの直下に主支持部材150Mが取り付けられている。さらに、副前方梁123Sの直下に副支持部材を取り付けてもよい。
【0033】
移動梁140は、固定梁130と同様、セグメント揚重装置100のトンネル軸方向における中央付近に、断面方向に沿って配置され、しかも固定梁130の下方に位置するように配置される。また移動梁140のうち内空側には、固定梁130の一部(例えば、下フランジ)を係止するための係止部材160が取り付けられる。
【0034】
固定梁130と移動梁140は、断面寸法に対して軸寸法が大きないわゆる梁材であり、例えばI型鋼やH型鋼、溝型鋼といった形鋼を利用することができ、あるいは形鋼を組み合わせたものとすることもできる。固定梁130と移動梁140は、それぞれ1本の梁部材で構成することもできるし、図6図7に示すように左右に並列配置された2本の梁部材で構成することもできる。以下では、固定梁130と移動梁140が2本1組の梁部材で構成される例で説明することとする。なお、固定梁130のうち一方の梁部材のことを「左固定梁131」と、他方の梁部材のことを「右固定梁132」ということとし、移動梁140のうち一方の梁部材のことを「左移動梁141」と、他方の梁部材のことを「右移動梁142」ということとする。
【0035】
移動梁140は、固定梁130に懸垂するように支持され、しかも図5に示すように断面方向にスライド可能とされる。以下、図6図7を参照しながら移動梁140が固定梁130に支持される構造について詳しく説明する。図6は、支持部材150によって支持される移動梁140を模式的に示す断面図であり、図7は、係止部材160が固定梁130の一部を係止することによって固定梁130に支持される移動梁140を模式的に示す断面図である。
【0036】
図6に示すように固定梁130に取り付けられる支持部材150は、移動梁140を吊り下げるように支持する。例えば図6では、左固定梁131に取り付けられた左支持部材151が左移動梁141を吊り下げるように支持し、右固定梁132に取り付けられた右支持部材152が右移動梁142を吊り下げるように支持している。上記したとおり移動梁140は断面方向にスライドすることから、支持部材150(左支持部材151や右支持部材152)としてはローラーやタイヤといった回転体を備えていることが望ましく、図6の例では支持部材150として電動トロリーを利用している。
【0037】
図7に示すように移動梁140に取り付けられる係止部材160は、固定梁130の一部を係止し得るものであり、これにより移動梁140は固定梁130に吊り下げられて支持される。例えば図7では、左移動梁141に取り付けられた左係止部材161が左固定梁131の下フランジを係止するとともに、右移動梁142に取り付けられた右係止部材162が右固定梁132の下フランジを係止しており、これにより移動梁140は固定梁130に吊り下げられるように支持される。また、移動梁140は断面方向にスライドすることから、支持部材150と同様、係止部材160(左係止部材161や右係止部材162)としてはローラーやタイヤといった回転体を備えていることが望ましく、図7の例では係止部材160として電動トロリーを利用している。
【0038】
移動梁140が、支持部材150と係止部材160を介して、いわば懸垂するように固定梁130に支持され、しかも支持部材150と係止部材160が回転体を備えていることから、移動梁140は円滑に断面方向にスライド移動することができる。すなわち、図5(a)に示すように移動梁140が固定梁130の下方に収められた「収容状態」から、移動梁140が地山側にスライド移動することによって「張出し状態」とすることができるわけである。
【0039】
移動梁140には、吊治具170が取り付けられる。この吊治具170は、拡幅セグメントSGを吊上げるものであり、チェーンブロックやウィンチ、ホイストといった荷揚げ用の装置である。拡幅セグメントSGを吊上げるため、吊治具170は移動梁140の下側に取り付けるとよい。例えば図6では、移動梁140が上移動梁(左移動梁141と右移動梁142)と下移動梁143の2段梁構造とされており、この場合、吊治具170は下移動梁143の下側に取り付け、係止部材160は上移動梁(左移動梁141と右移動梁142)に取り付けるとよい。なお図6に示す移動梁140は、上段に左移動梁141と右移動梁142を配置するとともに、下段に下移動梁143を配置したうえで、横継材144によって上移動梁(左移動梁141と右移動梁142)と下移動梁143を連結固定している。
【0040】
また吊治具170は、移動梁140の軸方向(つまり、断面方向)に沿ってスライド移動することができるように、移動梁140に取り付けられる。すなわち、吊治具170が拡幅セグメントSGを吊上げた状態で、移動梁140が固定梁130に対してスライド移動するとともに、吊治具170が移動梁140に対してスライド移動することとなり、吊治具170に吊られた拡幅セグメントSGはいわば2段階で断面方向にスライド移動するわけである。したがって吊治具170は、円滑にスライド移動することができる構成にすることが望ましい。例えば図6示す吊治具170は、チェーンブロック171と吊治具用係止部材172を備えており、吊治具用係止部材172を利用して移動梁140に取り付けられている。この吊治具用係止部材172は、例えば電動トロリーなど、移動梁140に沿って走行可能な装置であり、チェーンブロック171のフックを吊治具用係止部材172に掛けたうえで、吊治具用係止部材172を移動梁140の一部(例えば、下フランジ)に係止している。これにより吊治具170は、横断方向にスライド移動することができるように移動梁140に取り付けられるわけである。
【0041】
移動梁140は、横断方向にスライド移動することから、その一部が前方支持体120よりも地山側に張り出すこととなる。前方支持体120から移動梁140が地山側に突出し得る最大の長さ(以下、「張出し長」という。)は、地山の掘削幅(つまり、拡幅幅)や、作業ステージSTの幅、拡幅セグメントSGの設置位置などを勘案して設計することができる。例えば図8に示すように、後方支持体110と前方支持体120との間隔である「スパン長」よりも、「張出し長」の方が長くなるように設計することもできる。もちろん、「スパン長」よりも、「張出し長」の方が短くなる(あるいは、同じになる)ように設計してもよい。
【0042】
ところで、張出し状態とされた移動梁140は、支持部材150を支点とする片持ち梁(カンチレバー)となる。この場合、セグメント揚重装置100は地山側に下がるように傾く力が作用し、その結果、後方支持体110は浮き上がろうとする。そこで、後方支持体110には、図3に示すようにカウンターウェイトとしての重錘180を設置するとよい。なお図3では、重錘180としての平鋼を6段重ねているが、もちろん状況に応じて1段あるいは2段以上の平鋼を載置してもよいし、平鋼以外の重量物を重錘180として利用することもできる。また、支持部材150には上向きの力(以下、「突き上げ力」という。)が作用することになり、移動梁140の円滑なスライド移動にとってはこの突き上げ力が妨げとなる。そこで、前方梁123(分離支柱構造とする場合は、特に副前方梁123S)と移動梁140との間には押さえローラーなどを設けるとよい。
【0043】
このように、カンチレバーとなる移動梁140は、ある程度のたわみが生じ、特に「スパン長」よりも「張出し長」の方が長いケースでは相当のたわみが生じることが予想される。この点、発明者らが種々の条件で実験を実施したところ、重錘180を設置したり、固定梁130を左固定梁131と右固定梁132で構成(いわば、ダブルレール構成)したり、移動梁140も左移動梁141と右移動梁142で構成(いわば、ダブルレール構成)したりすることによって、安定度(安定モーメント÷転倒モーメント)は1を超え、たわみ度(最大たわみ量÷張出し長)も通常の閾値(1/500)以下となることを確認することができた。
【0044】
(本体部走行体)
本体部走行体は、セグメント揚重装置100をトンネル軸方向に移動させるものであり、図2(b)や図3などに示すように車輪とレールの組み合わせを利用するほか、台車やクローラ、タイヤなど従来用いられている種々の手段を利用することができる。またセグメント揚重装置100を移動させる動力としては、自走するためのモータを利用することもできるし、ワイヤーロープで牽引するためのウィンチなどを利用することもできるし、ギア(ラックピニオン)などその他種々の手段を利用することもできる。本体部走行体を備えるセグメント揚重装置100は、例えば地山の掘削中はその作業の支障とならない場所に退避することができ、一方、拡幅セグメントSGを設置するときはその設置場所まで迅速に移動することができる。
【0045】
2.セグメント設置方法
続いて、本願発明のセグメント設置方法ついて説明する。なお、本願発明のセグメント設置方法は、ここまで説明したセグメント揚重装置100用いて拡幅セグメントを設置する方法である。したがって、セグメント揚重装置100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のセグメント設置方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.セグメント揚重装置」で説明したものと同様である。
【0046】
以下、図9図10を参照しながら本願発明の吊荷昇降方法ついて説明する。図9は、本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、図10は、本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すステップ図である。なお、図10(b)~(d)では便宜上、前方支持体120を省略して描いている。本願発明の吊荷昇降方法に使用するセグメント揚重装置100は本体部走行体を備えたものであり、すなわちこのセグメント揚重装置100はトンネル軸方向に移動することができるものである。
【0047】
はじめに、張出し状態とされているときは、移動梁140を内空側にスライド移動して、図10(a)に示すように収容状態とする(図9のStep201)。より詳しくは、移動梁140の地山側の端部が、固定梁130の地山側の端部付近に位置するまで、移動梁140を内空側にスライド移動することによって収容状態とする。
【0048】
収容状態のまま、本体部走行体を使用してトンネル軸方向に移動し、拡幅セグメントSGの設置場所までセグメント揚重装置100を移動する(図9のStep202)。そして図10(b)に示すように、作業ステージSTの上で、吊治具170を使用して拡幅セグメントSGを吊上げる(図9のStep203)。次いで図10(c)に示すように、拡幅セグメントSGを吊上げたまま、移動梁140を地山側にスライド移動するとともに、吊治具170も地山側にスライド移動することによって、拡幅セグメントSGを設置位置まで搬送する(図9のStep204)。拡幅セグメントSGを設置位置まで搬送すると、図10(d)に示すように、吊治具170を使用して拡幅セグメントSGを吊降し、計画位置に拡幅セグメントSGを設置する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本願発明のセグメント揚重装置、及びセグメント設置方法は、地下に構築される道路トンネルのほか、鉄道トンネルや上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなど、様々な用途のシールドトンネルの地中拡幅工事に利用できる。本願発明によれば効率的かつ安全にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0050】
100 本願発明のセグメント揚重装置
110 (セグメント揚重装置の)後方支持体
111 (後方支持体の)左後方支柱
112 (後方支持体の)右後方支柱
113 (後方支持体の)後方梁
120 (セグメント揚重装置の)前方支持体
121 (前方支持体の)左前方支柱
121M (左前方支柱の)主左前方支柱
121S (左前方支柱の)副左前方支柱
122 (前方支持体の)右前方支柱
122M (右前方支柱の)主右前方支柱
122S (右前方支柱の)副右前方支柱
123 (前方支持体の)前方梁
123M (前方梁の)主前方梁
123S (前方梁の)副前方梁
130 (セグメント揚重装置の)固定梁
131 (固定梁の)左固定梁
132 (固定梁の)右固定梁
140 (セグメント揚重装置の)移動梁
141 (移動梁の)左移動梁
142 (移動梁の)右移動梁
143 (移動梁の)下移動梁
144 (移動梁の)横継材
150 (セグメント揚重装置の)支持部材
150M (支持部材の)主支持部材
151 (支持部材の)左支持部材
152 (支持部材の)右支持部材
160 (セグメント揚重装置の)係止部材
161 (係止部材の)左係止部材
162 (係止部材の)右係止部材
170 (セグメント揚重装置の)吊治具
171 (吊治具の)チェーンブロック
172 (吊治具の)吊治具用係止部材
180 (セグメント揚重装置の)重錘
190 (セグメント揚重装置の)側方梁
SG 拡幅セグメント
ST 作業ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11