(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131320
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】発光素子および発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/08 20100101AFI20240920BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240920BHJP
H01L 33/10 20100101ALI20240920BHJP
H01L 33/42 20100101ALI20240920BHJP
H01L 33/06 20100101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L33/08
H01L33/32
H01L33/10
H01L33/42
H01L33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041519
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大矢 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】五所野尾 浩一
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA12
5F241AA14
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA75
5F241CA88
5F241CB11
5F241CB15
5F241CB22
5F241CB29
5F241FF06
(57)【要約】
【課題】各色の光の干渉が制御された発光素子を提供する。
【解決手段】第2活性層から放射される光は、基板側に向かう光と第1p電極側に向かい第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は第1p層の厚さa1によって制御され、第1活性層から放射される光は、基板側に向かう光と、第2p電極側に向かい第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は第2p層の厚さa2およびノンドープ層のうち溝が形成された領域の厚さbによって制御され、第1活性層から放射される光と第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbが設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、所定の発光波長の第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層が順に積層された構造である中間層と、
前記中間層上に設けられ、前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層と、
前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝と、
前記第2活性層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層と、
前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第2p層と、
前記第1p層上に設けられ、光を反射させる第1p電極と、
前記第2p層上に設けられ、光を反射させる第2p電極と、を有し、
前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第1p層の厚さa1によって制御され、
前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御され、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbが設定されている、発光素子。
【請求項2】
前記第1p層と前記第1p電極との間に設けられた第1透明電極と、
前記第2p層と前記第2p電極との間に設けられた第2透明電極と、をさらに有し、
前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記第1透明電極の厚さc1によって制御され、
前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、b、および前記第2透明電極の厚さc2によって制御され、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、c1、c2が設定されている、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第2活性層と前記第1p層との間にp型のIII族窒化物半導体からなる電子ブロック層をさらに有し、
前記溝は、前記電子ブロック層側から前記ノンドープ層に達する深さであり、
前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記電子ブロック層の厚さdによって制御され、
前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、bによって制御され、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、dが設定されている、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
厚さa1と厚さa2は等しい、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
前記基板上にn型のIII族窒化物半導体からなるn層を形成するn層形成工程と、
前記n層上所定の発光波長の第1活性層を形成する第1活性層形成工程と、
前記第1活性層上に、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層を順に積層して中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上に前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層を形成する第2活性層形成工程と、
前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝を形成する溝形成工程と、
前記第2活性層上、および前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層、第2p層をそれぞれ形成するp層形成工程と、
前記第1p層上および前記第2p層上に、光を反射させる第1p電極、第2p電極をそれぞれ形成するp電極形成工程と、を有し、
前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第1p層の厚さa1によって制御し、
前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御し、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbを設定する、発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記p層形成工程の後、前記p電極形成工程の前に、前記第1p層上および前記第2p層上に、第1透明電極、第2透明電極をそれぞれ形成する透明電極形成工程をさらに有し、
前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記第1透明電極の厚さc1によって制御し、
前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、b、および前記第2透明電極の厚さc2によって制御し、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、c1、c2を設定する、請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2活性層形成工程後、前記溝形成工程前に、前記第2活性層上にp型のIII族窒化物半導体からなる電子ブロック層を形成する電子ブロック層形成工程をさらに有し、
前記溝形成工程は、前記電子ブロック層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝を形成する工程であり、
前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記電子ブロック層の厚さdによって制御し、
前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、bによって制御し、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、dを設定する、請求項1に記載の発光素子。
【請求項8】
厚さa1と厚さa2を同じ厚さとし、前記第1p層と前記第2p層は同時に形成する、請求項5~7のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子および発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの高精細化が求められており、1ピクセルを1~100μmオーダーの微細なLEDとするマイクロLEDディスプレイが注目されている。フルカラーとする方式は各種知られているが、たとえば青、緑、赤の各色を発光する3つの活性層を同一基板上に順に積層する方式が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
また、半導体層の厚さを調整し、光の干渉効果を利用して発光が増幅するようにしたLEDが知られている(たとえば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl.Phys. Lett. 82, 2221 (2003)
【非特許文献2】Appl.Phys. Express 14, 084004 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光の干渉を利用した発光素子は単色の発光であり、青、緑、赤の各色を発光する3つの活性層が同一基板上に積層された発光素子について、光干渉効果を利用した例は知られていない。そのような発光素子において発光を増幅する場合、青、緑、赤の各色についてそれぞれ光の干渉を制御する必要がある。しかし従来そのような検討はされていなかった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、異なる発光色の複数の活性層が同一基板上に積層された発光素子において、各色の光の干渉が制御された発光素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、所定の発光波長の第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層が順に積層された構造である中間層と、
前記中間層上に設けられ、前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層と、
前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝と、
前記第2活性層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層と、
前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第2p層と、
前記第1p層上に設けられ、光を反射させる第1p電極と、
前記第2p層上に設けられ、光を反射させる第2p電極と、を有し、
前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第1p層の厚さa1によって制御され、
前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御され、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbが設定されている、発光素子にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
前記基板上にn型のIII族窒化物半導体からなるn層を形成するn層形成工程と、
前記n層上所定の発光波長の第1活性層を形成する第1活性層形成工程と、
前記第1活性層上に、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層を順に積層して中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上に前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層を形成する第2活性層形成工程と、
前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝を形成する溝形成工程と、
前記第2活性層上、および前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層、第2p層をそれぞれ形成するp層形成工程と、
前記第1p層上および前記第2p層上に、光を反射させる第1p電極、第2p電極をそれぞれ形成するp電極形成工程と、を有し、
前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第1p層の厚さa1によって制御し、
前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御し、
前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbを設定する、発光素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、厚さa1、a2、およびbをそれぞれ調整することで、第1活性層からの光の干渉と第2活性層からの光の干渉を個別に制御することができ、少なくとも一方を干渉により増幅するように設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1における発光素子の構成を示した図であって、基板の主面に垂直な方向での断面図。
【
図2】実施形態1における発光素子の等価回路を示した図。
【
図3】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
【
図4】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
【
図5】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
【
図6】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
【
図7】実施形態2における発光素子の構成を示した図であって、基板の主面に垂直な方向での断面図。
【
図8】実施形態3における発光素子の構成を示した図であって、基板の主面に垂直な方向での断面図。
【
図9】O、Si、Cの深さプロファイルを示したグラフ。
【
図10】O、Si、Cの深さプロファイルを示したグラフ。
【
図11】Mg/III気相比と光出力の関係を示したグラフ。
【
図12】赤色発光の光出力とp型層の厚さの関係を示したグラフ。
【
図13】緑色発光の光出力とp型層の厚さの関係を示したグラフ。
【
図14】理論式により導かれた、光出力と光学的厚さの関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発光素子は、フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子である。発光素子は、基板と、前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、前記n層上に設けられ、所定の発光波長の第1活性層と、前記第1活性層上に設けられ、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層が順に積層された構造である中間層と、前記中間層上に設けられ、前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層と、前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝と、前記第2活性層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層と、前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に設けられ、p型のIII族窒化物半導体からなる第2p層と、前記第1p層上に設けられ、光を反射させる第1p電極と、前記第2p層上に設けられ、光を反射させる第2p電極と、を有している。また、前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第1p層の厚さa1によって制御され、前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉は前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御されている。そして、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbが設定されている。
【0013】
上記発光素子において、前記第1p層と第1p電極との間に設けられた第1透明電極と、前記第2p層と第2p電極との間に設けられた第2透明電極と、をさらに有していてもよい。また、前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記第1透明電極の厚さc1によって制御され、前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、b、および前記第2透明電極の厚さc2によって制御され、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、c1、c2が設定されていてもよい。
【0014】
上記発光素子において、前記第2活性層と前記第1p層との間にp型のIII族窒化物半導体からなる電子ブロック層をさらに有し、前記溝は、前記電子ブロック層側から前記ノンドープ層に達する深さであってもよい。また、前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記電子ブロック層の厚さdによって制御され、前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、bによって制御され、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、dが設定されていてもよい。
【0015】
上記発光素子において、厚さa1と厚さa2は等しくてもよい。素子構造がより簡単となり、製造コストの低減を図ることができる。
【0016】
発光素子の製造方法は、フリップチップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法である。発光素子の製造方法は、前記基板上にn型のIII族窒化物半導体からなるn層を形成するn層形成工程と、前記n層上所定の発光波長の第1活性層を形成する第1活性層形成工程と、前記第1活性層上に、ノンドープのIII族窒化物半導体からなるノンドープ層と、n型のIII族窒化物半導体からなるn型層を順に積層して中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層上に前記第1活性層とは異なる発光波長の第2活性層を形成する第2活性層形成工程と、前記第2活性層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝を形成する溝形成工程と、前記第2活性層上、および前記溝の底面に露出する前記ノンドープ層上に、p型のIII族窒化物半導体からなる第1p層、第2p層をそれぞれ形成するp層形成工程と、前記第1p層上および前記第2p層上に、光を反射させる第1p電極、第2p電極をそれぞれ形成するp電極形成工程と、を有している。また、前記第2活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第1p電極側に向かい前記第1p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第1p層の厚さa1によって制御し、前記第1活性層から放射される光は、前記基板側に向かう光と、前記第2p電極側に向かい前記第2p電極によって反射された光との間で干渉し、その干渉を前記第2p層の厚さa2および前記ノンドープ層のうち前記溝が形成された領域の厚さbによって制御している。そして、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、およびbを設定する。
【0017】
上記発光素子の製造方法において、前記p層形成工程の後、前記p電極形成工程の前に、前記第1p層上および前記第2p層上に、第1透明電極、第2透明電極をそれぞれ形成する透明電極形成工程をさらに有していてもよい。また、前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記第1透明電極の厚さc1によって制御し、前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、b、および前記第2透明電極の厚さc2によって制御し、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、c1、c2を設定してもよい。
【0018】
上記発光素子の製造方法において、前記第2活性層形成工程後、前記溝形成工程前に、前記第2活性層上にp型のIII族窒化物半導体からなる電子ブロック層を形成する電子ブロック層形成工程をさらに有していてもよい。また、前記溝形成工程は、前記電子ブロック層側から前記ノンドープ層に達する深さの溝を形成する工程であり、前記第2活性層から放射される光の干渉は、厚さa1および前記電子ブロック層の厚さdによって制御し、前記第1活性層から放射される光の干渉は、厚さa2、bによって制御し、前記第1活性層から放射される光と前記第2活性層から放射される光のうち少なくとも一方は、干渉により増幅するように厚さa1、a2、b、dを設定してもよい。
【0019】
上記発光素子の製造方法において、厚さa1と厚さa2を同じ厚さとし、前記第1p層と前記第2p層は同時に形成してもよい。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1における発光素子の構成を示した図である。実施形態1における発光素子は青、緑、赤のそれぞれを発光可能である。また、実施形態1における発光素子は、基板の裏面側から光を取り出すフリップチップ型であり、図示しない実装基板にフェイスダウンで実装されている。なお、実施形態1は1ピクセルが1チップの構造であるが、モノリシック型であってもよい。つまり、実施形態1の素子構造が同一基板上にマトリクス状に配列されたマイクロLEDディスプレイ素子としてもよい。
【0021】
1.発光素子の構成
実施形態1における発光素子は、
図1に示すように、基板10と、n層11と、ESD層12と、下地層13と、第1活性層14と、第1中間層15と、第2活性層16と、第2中間層17と、第3活性層18と、保護層19と、非n型層20A~20Cと、電子ブロック層21A~21Cと、p層22A~22Cと、n電極23と、p電極24A~24Cと、を有している。
【0022】
基板10は、III族窒化物半導体を成長させる成長基板である。たとえば、サファイア、Si、GaN、ScAlMgO4(SAM)などである。
【0023】
n層11は、低温バッファ層や高温バッファ層(図示しない)を介して基板10上に設けられたn型の半導体である。ただし、バッファ層は必要に応じて設ければよく、基板がGaNである場合などにはバッファ層を設けなくともよい。n層11は、たとえばn-GaN、n-AlGaN、n-InGaNなどである。Si濃度は、たとえば1×1018~100×1018cm-3である。
【0024】
ESD層12は、n層11上に設けられた半導体層であり、静電耐圧向上のために設ける層である。ESD層12は必要に応じて設ければよく、省略してよい。ESD層12は、たとえば、ノンドープまたは低濃度にSiがドープされたGaN、InGaN、またはAlGaNである。
【0025】
下地層13は、ESD層12上に設けられた超格子構造の半導体層であり、下地層13上に形成される半導体層の格子歪みを緩和するための層である。下地層13も必要に応じて設ければよく、省略してもよい。下地層13は、組成の異なるIII族窒化物半導体薄膜(たとえばGaN、InGaN、AlGaNのうち2つ)を交互に積層させたものであり、ペア数はたとえば3~30である。ノンドープでもよいし、Siを1×1017~100×1017cm-3程度ドープしてもよい。また、歪を緩和できるのであれば超格子構造である必要はない。第1活性層14とのヘテロ界面で格子定数差が小さくなるような材料であればよく、たとえば、InGaN層、AlInN層、AlGaIn層であってもよい。
【0026】
第1活性層14は、下地層13上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は青色であり、430~480nmである。第1活性層14はAlGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~9ペア積層させた構造である。より好ましくは1~7ペア、さらに好ましくは1~5ペアである。
【0027】
第1中間層15は、第1活性層14上に設けられた半導体層であり、第1活性層14と第2活性層16の間に位置している。第1中間層15は、第1活性層14からの発光と第2活性層16からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第2溝31を形成する際に第1活性層14をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0028】
第1中間層15は、第1活性層14側から順にノンドープ層15A、n型層15Bを積層させた構造である。ノンドープ層15A、n型層15Bは不純物を除いて同一材料から構成してもよい。第1中間層15をこのような2層構造とする理由は後述する。
【0029】
第1中間層15の材料は、Inを含むIII族窒化物半導体であり、たとえばInGaNとするのがよい。Inによるサーファクタント効果によって第1中間層15表面の荒れを抑制し、表面平坦性を向上させることができる。また、格子歪みを緩和させることができる。
【0030】
第1中間層15のIn組成(III族窒化物半導体のIII族金属全体に占めるInのモル比)は、第1活性層14および第2活性層16から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定されていればよい。好ましいIn組成は、10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。In組成が10%よりも大きいと、第1中間層15の表面が荒れる原因となる。Inは0%よりも大きければ任意であり、ドープレベル(混晶を形成しないレベル)でもよい。たとえばIn濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下のGaNである。
【0031】
ノンドープ層15Aはノンドープであり、n型層15BはSiドープである。n型層15BのSi濃度は、1×1017~1000×1017cm-3とすることが好ましい。好ましくは10×1017~100×1017cm-3、さらに好ましくは20×1017~80×1017cm-3である。n型層15BはSiを変調ドープしてもよく、n型層15Bの一部領域にノンドープの領域があってもよい。
【0032】
第1中間層15の厚さは、20~150nmとすることが好ましい。150nmよりも厚いと、第1中間層15の表面が荒れる原因となり得る。また、20nmよりも薄いと、後述の第2溝31を形成する際に第2溝31の深さをノンドープ層15A内とする制御が難しくなる可能性がある。より好ましくは30~100nm、さらに好ましくは50~80nmである。
【0033】
また、ノンドープ層15Aの厚さは、10nm以上とすることが好ましい。エッチング深さの制御性および第1活性層14へのエッチングダメージを回避するためである。また、n型層15Bの厚さは、10nm以上とすることが好ましい。各活性層の発光特性を独立に制御するためである。
【0034】
第2活性層16は、歪緩和層16AとSQWまたはMQWの量子井戸構造層(発光層)16Bを順に積層させた構造である。量子井戸構造層16Bの発光波長は緑色であり、510~570nmである。量子井戸構造層16BはGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。また、第1活性層14のペア数と等しいか少ないことが好ましく、少ないことがより好ましい。
【0035】
歪緩和層16Aは、障壁層と井戸層を順に積層させたSQW構造であり、発光しないように井戸層の厚さを薄く調整した量子井戸構造である。たとえば井戸層の厚さを1nm以下とすることで発光しないようにすることができる。障壁層はAlGaN、井戸層はInGaNである。歪緩和層16Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長は、量子井戸構造層16Bの発光波長よりも短ければよく、たとえば発光波長が500~560nmであれば400~460nmである。好ましくは量子井戸構造層16Bの発光波長よりも40~100nm短くする。この場合、歪緩和層16Aの成長温度は、700~800℃である。
【0036】
歪緩和層16Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長は、第1活性層14の発光波長と等しくしてもよい。この場合、第1活性層14と同様の成長温度で成長させてもよい。
【0037】
歪緩和層16Aの井戸層におけるバンド端エネルギーの制御は、井戸層の厚さで制御することができる。すなわち、歪緩和層16Aの井戸層の厚さを十分に薄くすることで井戸内のサブバンドのエネルギーが上昇しバンド端エネルギーが大きくなる。これにより、量子井戸構造層16Bの発光波長よりも短くしてもよい。成長温度は任意であるが、量子井戸構造層16Bと同様の成長温度で成長させてもよい。さらに、歪緩和層16Aの井戸層の膜厚を薄くすると、サブバンドがさらに上昇し、障壁層とのエネルギー差が小さくなる。すなわち、障壁層のバンド端エネルギーに近くなる。その結果、歪緩和層16Aの井戸層におけるキャリアの閉じ込めがされ難くなり、発光しにくくなることから、量子井戸構造層16Bの障壁層の一部として機能するとともに、歪緩和の効果も同時に得られる。
【0038】
このように、量子井戸構造層16Bの井戸層よりもキャリア閉じ込めの悪い井戸層を持つ歪緩和層16Aを形成することで、発光しない歪緩和層16Aを形成することができる。
【0039】
要するに、歪緩和層16A全体の平均的な格子定数が、第1中間層15の格子定数と量子井戸構造層16Bの格子定数の間となるように歪緩和層16Aの材料や層構成が設定され、かつ、歪緩和層16Aが発光しないように井戸層の厚さが設定されていればよい。
【0040】
歪緩和層16Aは障壁層と井戸層を2ペア以上積層させたMQW構造としてもよいが、第2活性層16が厚くなるのでSQW構造とすることが好ましい。
【0041】
以上のように歪緩和層16Aを設けることで、その上に積層される量子井戸構造層16Bの歪を緩和させることができ、量子井戸構造層16Bの井戸層の結晶品質を向上させることができる。
【0042】
第2活性層16の厚さに対する第1活性層14の厚さの比が30%以下となるように設定することが好ましい。より効率的に量子井戸構造層16Bの歪を緩和させることができるとともに、pn接合間距離が各p電極24A~24C下で一定となり、各p電極24A~24C下でのデバイス特性を均一にできる。
【0043】
第2中間層17は、第2活性層16上に設けられた半導体層であり、第2活性層16と第3活性層18の間に位置している。第2中間層17は、第1中間層15と同様の理由により設けられたものであり、第2活性層16からの発光と第3活性層18からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第3溝32を形成する際に第2活性層16をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0044】
第2中間層17は、第2活性層16側から順にノンドープ層17A、n型層17Bを積層させた構造である。ノンドープ層17A、n型層17Bは、ノンドープ層15A、n型層15Bと同様の構造である。つまり、ノンドープ層17A、n型層17Bは不純物を除いてノンドープ層15A、n型層15Bと同一材料であり、厚さの範囲などもノンドープ層15A、n型層15Bと同様である。ノンドープ層17Aはノンドープ、n型層17BはSiドープである。第2中間層17をこのような2層構造とする理由は後述する。
【0045】
第2中間層17の材料は、第1中間層15と同様である。第1中間層15と第2中間層17を同一材料としてもよい。また、第2中間層17の厚さも第1中間層15と同様であり、第1中間層15と第2中間層17の厚さを同一としてもよい。ただし、第1中間層15よりも薄くし、In組成も第1中間層15より大きくすることが好ましい。緑色発光の第2活性層16は、青色発光の第1活性層14よりも熱ダメージを受けやすく、界面での歪みの影響が大きくなるためである。
【0046】
ここで、第1中間層15、第2中間層17を2層構造とした理由を説明する。まず、pn接合間距離について説明する。pn接合間距離は、ゼロバイアス時に空乏化している膜厚に相当する。LEDにおいては高濃度のアクセプタ不純物を持つp層と、高濃度のドナー不純物を持つn層とに挟まれたノンドープもしくは低ドープの活性層の総膜厚に相当する。
【0047】
第1中間層15、第2中間層17をノンドープとする場合、pn接合間距離(空乏層の厚さ)は、p電極24A下の領域においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Aからドナー不純物を高ドープされたn層11までの距離、すなわち、第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18と、第1中間層15、第2中間層17を含む膜厚に相当する。また、p電極24B下においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Bからn層11までの距離、すなわち、第1活性層14、第2活性層16と、第1中間層15と、第2中間層17の一部を含む膜厚に相当する。また、p電極24C下においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Cからn層11までの距離、すなわち、第1活性層14と、第1中間層15の一部を含む膜厚に相当する。
【0048】
そのため、これら3つの場合でそれぞれpn接合間距離が異なり、駆動電圧や電流注入効率、逆方向電流が異なってしまう。また、p電極24Aに電圧を印加して第3活性層18を発光させたい場合に、電子とホールのキャリアがすべての活性層に供給されてしまい、第2活性層16や第1活性層14からも発光してしまう可能性がある。同様に、p電極24Bに電圧を印加して第2活性層16を発光させたい場合に第1活性層14からも発光してしまう可能性がある。
【0049】
このような問題を中間層の構造で解決している。つまり、第1中間層15をノンドープ層15A、ドナー不純物が高濃度にドープされたn型層15Bの2層とし、第2中間層17をノンドープ層17A、ドナー不純物が高濃度にドープされたn型層17Bの2層とし、n型層15B、17BにSiをドープしてn型としている。
【0050】
そのため、pn接合間距離は、p電極24A下の領域においては電子ブロック層21Aから第2中間層17のn型層17Bまでの距離、p電極24B下の領域においては電子ブロック層21Bから第1中間層15のn型層15Bまでの距離、p電極24C下の領域においては電子ブロック層21Cからn層11までの距離となる。すなわち、すべての電極下におけるpn接合間距離は、複数の活性層を含まず、1つの活性層と中間層のうちノンドープ層とを含む総膜厚に相当することとなる。
【0051】
ここで、第1中間層15のノンドープ層15A、第2中間層17のノンドープ層17Aの厚さを適切に制御することで、これら3つの場合でpn接合間距離を等しくすることができる。その結果、これら3つの場合で駆動電圧や電流注入効率、逆方向電流のばらつきを抑えることができ、均一な制御が可能となる。さらに、これら3つの場合でpn接合間には第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18がそれぞれ1つしか含まれず、中間層のn型層がホールにとって障壁層となるため、ホールが中間層のn型層を超えて下部の活性層へ注入され難くなる。その結果、pn接合間に位置する発光させたい活性層以外が発光してしまうことを抑制できる。
【0052】
第3活性層18は、第1歪緩和層18Aと、第2歪緩和層18Bと、SQWまたはMQWの量子井戸構造層18Cを順に積層させた構造である。量子井戸構造層18Cの発光波長は赤色であり、590~700nmである。量子井戸構造層18CはInGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。また、第2活性層16の量子井戸構造層16Cのペア数と等しいか少ないことが好ましく、少ないことがより好ましい。
【0053】
第1歪緩和層18Aは、第2活性層16の歪緩和層16Aと同様の構造である。第1歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長は、量子井戸構造層16Bの発光波長よりも短ければよく、たとえば400~460nmである。
【0054】
第2歪緩和層18Bは、第2歪緩和層18Bの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が量子井戸構造層18Cの発光波長よりも短く、第1歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長よりも長い。たとえば、510~570nmである。それ以外は第1歪緩和層18Aと同様である。
【0055】
第1歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長と第2歪緩和層18Bの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長の差、および第2歪緩和層18Bの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長と量子井戸構造層18Cの発光波長の差は、40~100nmとすることが好ましい。
【0056】
第3活性層18の厚さに対する第1活性層14の厚さの比や、第3活性層18の厚さに対する第2活性層16の厚さの比は、30%以下となるように設定することが好ましい。より効率的に量子井戸構造層18Cの歪を緩和させることができるとともに、pn接合間距離が各p電極24A~24C下で一定となり、各p電極24A~24C下でのデバイス特性を均一にできる。
【0057】
このように第1歪緩和層18A、第2歪緩和層18Bを設けることで、段階的に歪を緩和させることができ、その上に積層される量子井戸構造層18Cの歪を効果的に緩和させることができる。その結果、量子井戸構造層18Cの井戸層の品質を向上させることができる。
【0058】
なお、第3活性層18では第1歪緩和層18A、第2歪緩和層18Bによって2段階に歪を緩和させているが、歪緩和層を3つ以上設けて3段階以上に歪を緩和させてもよい。また、第2活性層16においても、歪緩和層16Aを複数にして段階的に歪を緩和させてもよい。
【0059】
また、第1活性層14においても、同様にして歪緩和層を設けてよい。この場合、歪緩和層の成長温度は、たとえば、800~900℃である。
【0060】
保護層19は、第3活性層18上に設けられた半導体層である。保護層19は、活性層を保護するとともに、電子ブロック層としても機能する層である。保護層19は、第3活性層18の井戸層よりもバンドギャップの広い材料であればよく、AlGaN、GaN、InGaNなどである。保護層19の厚さは、2.5~50nmが好ましく、より好ましくは5~25nmである。保護層19に不純物をドープしてもよく、Mgをドープしてもよい。その場合、Mg濃度は1×1018~1000×1018cm-3とするのがよい。
【0061】
保護層19の一部領域はエッチングされて溝が設けられ、保護層19から第2中間層17に達する第3溝32、第1中間層15に達する第2溝31、n層11に達する第1溝30が設けられている。
【0062】
第3溝32は、第2中間層17のノンドープ層17Aに達する深さとなっている。このように、p電極24B下において第2中間層17のn型層17Bを除去することで第2活性層16上にn型層が位置しないようにし、第2活性層16が発光するようにしている。また、第2溝31は、第1中間層15のノンドープ層15Aに達する深さとなっている。これも同様の理由であり、p電極24C下において第1中間層15のn型層15Bを除去することで第1活性層14上にn型層が位置しないようにし、第1活性層14が発光するようにしている。
【0063】
非n型層20A~20Cは、保護層19上、第3溝32底面に露出する第2中間層17のノンドープ層17A上、第2溝31底面に露出する第1中間層15のノンドープ層15A上にそれぞれ接して設けられている。非n型層20A~20Cは、成長炉からウェハを一旦取り出した後、再び成長炉にウェハを入れて結晶成長させた層である。
【0064】
非n型層20A~20CのMg濃度は、0.1×1018~100×1018cm-3である。非n型層20A~20Cにこのような濃度範囲のMgをドープする理由は次の通りである。
【0065】
実施形態1における発光素子では、後述の製造工程で述べるように、第3溝32や第2溝31の形成のためウェハが一旦反応炉から取り出され、大気に暴露される。このとき、ウェハの表面がOやSiなどの元素により汚染されてしまう。洗浄などによって不純物はある程度取り除けるが、完全には取り除くことができない。
【0066】
これらの不純物は、意図しないn型不純物となり、非発光再結合中心となる。また、意図しないn型層が形成されてバンド構造を変化させる。たとえば、n型層が形成されることでpn接合間のビルトインポテンシャルを変化させてしまい、電子やホールの注入効率に影響し、発光効率の低下を引き起こす。特に、活性層へのホールの注入がn型層によって阻害され、発光効率が低下する。以上の理由により、活性層に近いところ、特にpn接合内に再成長界面が存在すると発光効率の低下が著しい。実施形態1における発光素子では、保護層19と非n型層20Aの界面、ノンドープ層17Aと非n型層20Bの界面、およびノンドープ層15Aと非n型層20Cの界面が再成長界面となり、pn接合内となる。
【0067】
そこで実施形態1では、非n型層20A~20CにMgをドープすることで再成長界面の意図しないn型層を中性化(高抵抗化、絶縁化)、もしくはp型化している。発明者らの検討により、再成長界面におけるOやSiの濃度が0.1×1018~100×1018cm-3程度であることが分かった。そこで、非n型層20A~20CのMg濃度を0.1×1018~100×1018cm-3とし、n型不純物であるOやSiの濃度と同程度もしくはそれ以上のMg濃度とすることで、共ドープ状態にし、再成長界面を中性化もしくはp型化して、n型層ではない状態にしている。
【0068】
再成長界面の中性化により、実質的なn型層は活性層(第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18)の下部(基板10側)となる。これにより、活性層へのホール注入効率を向上させ、発光効率の向上を図っている。
【0069】
非n型層20A~20Cの材料は、AlGaNとするのがよい。Al組成はたとえば0.5~30%である。非n型層20A~20CをAlGaNとすることで電子ブロック層として機能させることができる。非n型層20A~20Cの厚さは、たとえば0.5~10nmである。
【0070】
電子ブロック層21A~21Cは、非n型層20A~20C上にそれぞれ設けられた半導体層であり、n層11から注入された電子を第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18に効率よく閉じ込めるためにブロックする層である。電子ブロック層はGaNやAlGaNの単層でもよいし、AlGaN、GaN、InGaNのうち2以上を積層させた構造や、組成比のみ替えて積層させた構造であってもよい。また、超格子構造としてもよい。電子ブロック層21A~21Cの厚さは、5~50nmが好ましく、より好ましくは5~25nmである。電子ブロック層21A~21CのMg濃度は1×1019~100×1019cm-3とするのがよい。
【0071】
p層22A~22Cは、電子ブロック層21A~21C上にそれぞれ設けられた半導体層であり、電子ブロック層21側から順に第1層、第2層で構成されている。第1層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第1層の厚さは10~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nm、さらに好ましくは10~100nmである。第1層のMg濃度は1×1019~100×1019cm-3とするのがよい。第2層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第2層の厚さは2~50nmが好ましく、より好ましくは4~20nm、さらに好ましくは6~10nmである。第2層のMg濃度は1×1020~100×1020cm-3とするのがよい。
【0072】
n電極23は、第1溝30の底面に露出するn層11上に設けられた電極である。基板10が導電性材料である場合には、第1溝30を設けずに基板10裏面にn電極23を設けてもよい。n電極23の材料は、たとえばTi/Al、V/Alである。
【0073】
p電極24A~24Cは、p層22A~22C上にそれぞれ設けられた電極である。p電極24A~24Cの材料は、発光波長の光の反射率が高く、p層22A~22Cに対するコンタクト抵抗の低い材料がよい。たとえばAg、Ni/Au、Co/Au、ITO/Ni/Al、Rh、Ruなどである。第3活性層18から放射される赤色光のうちp層22A側に向かう光はp電極24Aによって反射され、基板10側へと向かう。同様に、第2活性層16から放射される緑色光のうちp層22B側に向かう光はp電極24Bによって反射され、基板10側へと向かい、第1活性層14から放射される赤色光のうちp層22C側に向かう光はp電極24Cによって反射され、基板10側へと向かう。
【0074】
2.各層の厚さの設定
第3活性層18から放射される赤色光は、基板10側に放射される光と、基板10側とは反対側に放射され、p電極24Aによって反射された後に基板10側に向かう光が存在し、干渉を生じる。第2活性層16から放射される緑色光、第1活性層14から放射される青色光についても同様である。実施形態1における発光素子では、青色、緑色、赤色の各発光色について、光の干渉によって増幅するように素子構造が設定されている。具体的には以下の通りである。
【0075】
まず、厚さa1~a3、b2、b3を定義しておく。厚さa1は、非n型層20A、電子ブロック層21A、およびp層22Aの総膜厚とする。また、厚さa2は、非n型層20B、電子ブロック層21B、およびp層22Bの総膜厚とする。また、厚さa3は、非n型層20C、電子ブロック層21C、およびp層22Cの総膜厚とする。また、厚さb2は、第2中間層17のノンドープ層17Aのうち、第3溝32によって薄くなった領域の厚さとする。また、厚さb3は、第1中間層15のノンドープ層15Aのうち、第2溝31によって薄くなった領域の厚さとする。
【0076】
厚さa1~a3、b2、b3は、以下の式(1)~(3)を満たすように設定されている。なお、式(1)~(3)では全ての放射角での干渉効果を積算し、全体として光出力が最大となる範囲に設定している。
(m-0.1)×(λR/nR)<a1<(m+0.1)×(λR/nR) ・・・(1)
(m-0.1)×(λG/nG)<a2+b2<(m+0.1)×(λR/nR) ・・・(2)
(m-0.1)×(λB/nB)<a3+b3<(m+0.1)×(λB/nB) ・・・(3)
式(1)~(3)において、m≒0.2、0.7、1.2、・・・である。ここで≒としているのは、mの値について0.1程度の誤差が許容されるということであり、たとえばm≒0.7は0.6~0.8程度の誤差が許容される。各式においてmの値は異なっていてもよい。
【0077】
なお、干渉効果によって光出力が減衰するように設定する場合には、式(1)~(3)において、m≒0.5、1.0、1.5、・・・とすればよい。
【0078】
光出力が増減衰する上記m値は、反射金属膜における位相シフトによって若干のズレが生じる。上記m値は、一般的に反射金属として用いられるNi/Au、Rh、Ru、Alなどの場合に大体相当するが、他の多くの反射金属の場合も、上記値に近しいものになる。しかしながら、光出力が増減衰するm値は特に上記値に限定されるものではない。
【0079】
式(1)~(3)において、λRは第3活性層18の発光波長(赤色)、λGは第2活性層16の発光波長(緑色)、λBは第1活性層14の発光波長(青色)である。また、nRは、波長λRにおける屈折率であり、非n型層20A、電子ブロック層21A、およびp層22A全体の平均的な屈折率である。また、nGは、波長λGにおける屈折率であり、ノンドープ層17A、非n型層20B、電子ブロック層21B、およびp層22B全体の平均的な屈折率である。また、nBは、波長λBにおける屈折率であり、ノンドープ層15A、非n型層20C、電子ブロック層21C、およびp層22C全体の平均的な屈折率である。
【0080】
厚さa1~a3は、非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21B、p層22A~22Cを個別に形成することでそれぞれ調整可能である。また、b2、b3は、第3溝32、第2溝31の形成時のエッチング深さによって調整可能である。
【0081】
厚さa1~a3、b2、b3の具体的な設定手段としては、a1~a3を所定値(特にa1=a2=a3)とし、b2、b3を調整することにより上記式を満たすように設定する。あるいは、b2、b3を所定値(特にb2=b3)とし、a1~a3を調整することによって上記式を満たすように設定する。これにより、設定するパラメータが少なくなり、実施形態1における発光素子の製造が容易となる。なお、a1を調整する場合、非n型層20A、電子ブロック層21A、p層22Aのうち少なくとも1層の厚さを調整すればよい。
【0082】
上記式は干渉効果によって光出力の増幅・減衰が起きる目安であり、光による干渉効果が得られる範囲であればよい。たとえば、増幅率が50~100%となるような範囲であればよい。好ましくは増幅率70~100%、より好ましくは80~100%である。ここで増幅率は、干渉により光出力が最大となるときを100%とし、光出力の最大値と最小値の中間を0%とした値である。増幅率は各色で異なっていてもよい。
【0083】
mは任意に選択してよいが、mの値が大きくなるということは、発光面から反射面までの法線方向の距離(膜厚)が長くなるということである。結晶層、特に不純物を含む結晶層では光の吸収が少なからずあるので、距離が長くなると光の吸収量が大きくなり、そのため光干渉による増幅効果も小さくなる。したがって、mの値は2.3以下がよく、好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.2以下がよい。光干渉によって得られる増幅効果が得られるmの下限は0.1であり、光面から反射面までの法線方向の距離が最も短い。この場合、非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、およびp層22A~22Cに必要な十分な厚さを得ることが困難になる。したがって、mは0.3以上が好ましい。
【0084】
式(1)~(3)においてm≒0.2、0.7、1.2、・・・を満たすように、a1、a2+b2、a3+b3を設定すれば、すべての活性層から放射した光の増幅が期待できる。
【0085】
このように、実施形態1における発光素子では、式(1)~(3)を満たすように厚さa1~a3、b2、b3が設定されているので、第3活性層18からの赤色光、第2活性層16からの緑色光、および第1活性層14からの青色光についてそれぞれ増幅するように光の干渉を制御することができる。
【0086】
なお、実施形態1では赤色、緑色、青色の3色全てが干渉により増幅されるように厚さa1~a3、b2、b3が設定されているが、3色のうち1色、または2色が増幅されるようにしてもよい。たとえば、赤色や緑色は青色に比べて発光効率が低いので、赤色と緑色のみ増幅されるようにしてもよい。また、3色のうち赤色が最も発光効率が低いので、赤色のみ増幅されるようにしてもよい。
【0087】
また、3色のうち1色、または2色が干渉により減衰されるようにしてもよい。たとえば、青色は赤色や緑色に比べて発光効率が高いので、青色のみ減衰されるようにしてもよい。この場合、減衰率はたとえば50~100%であり、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%である。ここで減衰率は、干渉により光出力が最小となるときを100%とし、光出力の最大値と最小値の中間を0%とした値である。青色を減衰させる場合、m≒0.5、1.0、1.5、・・・を満たすようにa3、b3が設定されていればよい。
【0088】
また、増幅と減衰を組み合わせ、各色の光出力がなるべく揃うようにしてもよい。たとえば、赤色は増幅率60~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%とし、緑色は増幅率0~70%、好ましくは0~50%、より好ましくは0~30%とし、青色は減衰率60~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%としてもよい。この場合、光干渉効果による増幅・減衰を、0.1<m<1.5、好ましくは0.4<m<1.1、さらに好ましくは0.5<m<0.9の範囲で制御するのがよい。
【0089】
また、厚さa1~a3、b2、b3に加えて、歪緩和層16A、第1歪緩和層18A、第2歪緩和層18Bの厚さで干渉を制御してもよい。
【0090】
3.発光素子の動作
次に、実施形態1における発光素子の動作について説明する。実施形態1における発光素子では、p電極24Aとn電極23の間に電圧を印加することで第3活性層18から赤色の光を発光させることができ、p電極24Bとn電極23の間に電圧を印加することで第2活性層16から緑色の光を発光させることができ、p電極24Cとn電極23の間に電圧を印加することで第1活性層14から青色の光を発光させることができる。また、青色、緑色、赤色のうち2以上を同時に発光させることもできる。このように、実施形態1における発光素子では、電圧を印加する電極の選択によって青、緑、赤の発光を制御することができ、ディスプレイの1ピクセルとして利用することができる。
【0091】
図2に実施形態1における発光素子の等価回路を示す。
図2に示すように、実施形態1における発光素子は、青色、緑色、赤色のLEDが1素子内に形成された構造であり、1素子でフルカラーの発光を実現することができる。そのため、青色、緑色、赤色のLEDを個別に準備してそれらを同一基板に配列させて1ピクセルのフルカラーの発光素子を作製するよりも、1素子のサイズを非常に小さくすることが可能である。さらに、実施形態1の構造であれば、青色、緑色、赤色のLEDを個別に準備して配列する工程を省くことができ、製造コストも大幅に低減でき、非常に低コストのフルカラー発光素子、およびそれを応用した発光ディスプレイを実現することができる。
【0092】
4.発光素子の製造工程
次に、実施形態1における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0093】
まず、基板10を用意し、水素や窒素、必要に応じてアンモニアを加えて、基板の熱処理を行う。
【0094】
次に、基板10上にバッファ層を形成し、バッファ層上にn層11、ESD層12、下地層13、第1活性層14、第1中間層15、第2活性層16、第2中間層17、第3活性層18、保護層19を順に形成する(
図3参照)。各層の好ましい成長温度は次の通りである。
【0095】
第1活性層14の成長温度は、700~950℃が好ましい。結晶品質を向上でき、発光効率を高めることができる。第1活性層14は井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低いことが好ましい。
【0096】
第1中間層15の成長温度は、700~1000℃が好ましい。第1活性層14への熱ダメージを抑制するためである。また、700℃よりも低いと貫通転位に起因したピットや点欠陥が生じやすくなってしまう。より好ましくは800~950℃、さらに好ましくは850~950℃である。
【0097】
第2活性層16の成長温度は、650~950℃が好ましい。結晶品質を向上でき、発光効率を高めることができる。第2活性層16は井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低くすることが好ましい。また、第2活性層16の成長温度は、第1活性層14の成長温度よりも低いことが好ましい。
【0098】
第2中間層17の成長温度は、第1中間層15の成長温度と同様の範囲が好ましい。ただし、第2中間層17の成長温度は、第1中間層15の成長温度よりも低くすることが好ましい。緑色発光の第2活性層16は、青色発光の第1活性層14よりも熱ダメージを受けやすく、界面での歪みの影響が大きくなるためである。
【0099】
第3活性層18の成長温度は、500~950℃が好ましい。結晶品質を向上でき、発光効率を高めることができる。第3活性層18は井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低くすることが好ましい。また、第3活性層18の成長温度は、第2活性層16の成長温度よりも低いことが好ましい。
【0100】
保護層19の成長温度は、500~950℃が好ましい。第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18への熱ダメージを抑制するためである。保護層19の結晶性向上のためには成長温度が高い方が好ましく、より好ましくは600~900℃、さらに好ましくは700~900℃である。
【0101】
次に、保護層19表面の一部領域を第2中間層17のノンドープ層17Aに達するまでドライエッチングして第3溝32を形成し、第1中間層15のノンドープ層15Aに達するまでドライエッチングして第2溝31を形成する(
図4参照)。
【0102】
第3溝32、第2溝31の形成により、第2中間層17のノンドープ層17A、第1中間層15のノンドープ層15Aもエッチングされるが、エッチングされ薄くなった領域のノンドープ層17Aの厚さb2、ノンドープ層15Aの厚さb3は、式(1)~(3)においてm≒0.2、0.7、1.2、・・・を満たすようにエッチング深さを設定する。
【0103】
ノンドープ層17A、ノンドープ層15Aのエッチング深さはたとえば5~50nmである。この範囲であればノンドープ層17A、ノンドープ層15Aを精度よく露出させることができる。より好ましくは5~35nm、さらに好ましくは5~20nmである。
【0104】
また、厚さb2、b3は5nm以上とするのがよい。再成長界面を第1活性層14、第2活性層16から遠ざけ、再成長界面の不純物が第1活性層14、第2活性層16に影響するのを抑制するためである。
【0105】
この第3溝32、第2溝31の形成の過程では、ウェハは一旦成長炉から取り出され、エッチング工程を行った後、再び成長炉に戻される。そのため、ウェハは大気に暴露され、ウェハ表面はO、Siなどの不純物に汚染される。
【0106】
次に、保護層19上、第3溝32によって露出した第2中間層17のノンドープ層17A上、および第2溝31によって露出した第1中間層15のノンドープ層15A上に、非n型層20A~20Cを形成する。保護層19と非n型層20Aの界面、ノンドープ層17Aと非n型層20Bの界面、およびノンドープ層15Aと非n型層20Cの界面が再成長界面であり、OやSiなどの不純物が存在している。
【0107】
非n型層20A~20Cの成長温度は、たとえば800~1000℃である。第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18への熱ダメージを抑制するためである。好ましくは850~950℃、より好ましくは875~925℃である。
【0108】
また、非n型層20A~20Cの成長速度は0.5~5nm/minとすることが好ましい。エッチングされた荒れた表面上に、もしくは汚染された表面上に成長する非n型層は、成長速度が速いとその表面が荒れやすくなるため、遅い成長速度で1原子層ずつゆっくりと成長させた方が非n型層20A~20Cの表面を平坦にできるためである。
【0109】
Mg/III気相比(III族金属の原料ガスに対するMgドーパントガスのモル比)は0.0005~0.02とすることが好ましい。この範囲であれば再成長界面を十分に中性化して光出力の向上を図ることができる。特に0.002~0.02とすることが好ましい。
【0110】
次に、非n型層20A~20C上に電子ブロック層21A~21Cを形成する。電子ブロック層21A~21Cの成長温度は、750~1000℃が好ましい。第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18への熱ダメージを抑制するためである。より好ましくは750~950℃、さらに好ましくは800~900℃である。
【0111】
次に、電子ブロック層21A~21C上にp層22A~22Cを形成する(
図5参照)。p層22A~22Cの成長温度は、650~1000℃が好ましい。より好ましくは700~950℃、さらに好ましくは750~900℃である。
【0112】
なお、上記では非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cについてそれぞれ同時に成長させており、厚さa1~a3は等しいが、厚さa1~a3を異なるようにする場合にはそれぞれ個別に形成すればよい。
【0113】
次に、p層22C表面の一部領域をn層11に達するまでドライエッチングして第1溝30を形成する(
図6参照)。そして、第1溝30の底面に露出するn層11上にn電極23を形成し、p層22A~22C上にp電極24A~24Cを形成する。以上によって実施形態1における発光素子が製造される。
【0114】
5.各種変形形態
なお、実施形態1では、非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cはそれぞれ分離して設けられているが、一続きにしてもよい。この場合、第3溝32の側面や第2溝31の側面にも非n型層、電子ブロック層、p層が形成されることとなるが、素子の動作にはほとんど影響しない。その理由は次の通りである。
【0115】
p電極24A、p電極24B、p電極24Cがそれぞれ空間的に十分に分離されていれば、p電極24A、p電極24B、p電極24Cの間をつなぐp層の抵抗が非常に高いために電流はほとんど流れない。加えて、ホールは移動度が低いため、電極と接触している領域からホールは横方向に広がらず、電極直下のpnジャンクションを縦方向へ支配的に流れる。そのため非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cが一続きであっても素子の動作に影響がないのである。すなわち、p電極24Aに電流を流した場合、p電極24Aの直下に電流が流れ、その結果p電極24A直下の活性層が発光し、p電極24B、24C直下の活性層に電流が流れて発光することはほとんどないのである。
【0116】
また、第3溝32の側面や第2溝31の側面に絶縁膜を設けてもよい。この絶縁膜は、非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを選択成長させる際のマスクを残したものとすることができる。
【0117】
(実施形態2)
図7は、実施形態2における発光素子の構成を示した図であり、基板の主面に垂直な方向での断面図である。実施形態2における発光素子は、
図7に示すように、実施形態1における発光素子のp層22A~22Cとp電極24A~Cの間に、透明電極124A~124Cをそれぞれ設けたものである。透明電極124A~124Cは、たとえばITO、IZO、などである。以下、透明電極124A~124Cの厚さをc1~c3とする。
【0118】
実施形態2における発光素子では、厚さa1~a3、b2、b3に加えて、厚さc1~c3によって光の干渉を制御し、赤色、緑色、青色の各発光色が増幅するように設定している。つまり、厚さa1~a3、b2、b3、c1~c3は下記式(4)~(6)を満たすように設定されている。
(m-0.1)×(λR/nR)<a1+c1<(m+0.1)×(λR/nR) ・・・(4)
(m-0.1)×(λG/nG)<a2+b2+c2<(m+0.1)×(λR/nR) ・・・(5)
(m-0.1)×(λB/nB)<a3+b3+c3<(m+0.1)×(λB/nB) ・・・(6)
式(4)~(6)において、m≒0.2、0.7、1.2、・・・である。
【0119】
厚さa1~a3、b2、b3、c1~c3の設定では、a1=a2=a3、b2=b3として厚さを所定値に固定し、c1~c3によって調整を行うとよい。実施形態1で述べたように非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを一括で成膜させることができ、第3溝32、第2溝31のエッチングも同一条件で行うことができるので、製造工程を簡略化できる。もちろん、a1=a2=a3として厚さを所定値に固定し、b2、b3、c1~c3によって調整を行ってもよい。
【0120】
また、b2=b3、c1=c2=c3として厚さを所定値に固定し、a1~a3によって調整を行うようにしてもよいし、c1=c2=c3として厚さを所定値に固定し、a1~a3、b2、b3によって調整を行うようにしてもよい。また、b2=b3として厚さを所定値に固定し、a1~a3、c1~c3によって調整を行ってもよい。
【0121】
(実施形態3)
図8は、実施形態3における発光素子の構成を示した図であり、基板の主面に垂直な方向での断面図である。実施形態3における発光素子は、
図8に示すように、保護層19に替えて、歪緩和層220、電子ブロック層221、pコンタクト層222が順に積層された構造である。
【0122】
歪緩和層220、電子ブロック層221、pコンタクト層222は第3活性層18上に連続して形成された層であり、pコンタクト層222の形成後、第3溝32、第2溝31を形成し、その後に非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを再成長させている。
【0123】
実施形態3における発光素子では、pコンタクト層222と非n型層20Aの界面、ノンドープ層17Aと非n型層20Bの界面、およびノンドープ層15Aと非n型層20Cの界面が再成長界面となる。
【0124】
第3活性層18は赤色発光であり、再成長界面の影響を大きく受けて発光効率が低下してしまう可能性がある。そこで実施形態3における発光素子では、第3活性層18上に歪緩和層220、電子ブロック層221、pコンタクト層222を設け、第3活性層18から再成長界面までの距離を長くしている。これにより、再成長界面の第3活性層18への影響を低減することができる。また、再成長界面が2つのp型層によって挟まれる形となり、再成長界面での非発光再結合を抑制することができる。よって、第3活性層18の発光効率の低下を抑制することができる。
【0125】
歪緩和層220は、第3活性層18上に設けられた層であり、第3活性層18の歪みを緩和するための層である。歪緩和層220の材料はInを含む)III族窒化物半導体であり、たとえばノンドープのInGaNである。In組成はたとえば0.1~10%である。
【0126】
電子ブロック層221は、歪緩和層220上に設けられた層であり、電子を第3活性層18に効率よく閉じ込めるためにブロックする層である。電子ブロック層221は、電子ブロック層21A~21Cと同様の構成とすることができる。電子ブロック層221はp型とすることが好ましい。
【0127】
pコンタクト層222は、電子ブロック層221上に設けられた層である。pコンタクト層222の材料は、たとえばp-GaNやp-AlGaNである。p層22Aと同様の構成とすることもできる。pコンタクト層222を設けることにより再成長界面がp型の層で挟まれることになり、効率的に再成長界面を中性化あるいはp型化することができ、非発光再結合を抑制することができる。また、pコンタクト層222は第3活性層18にホールを供給する層としても機能する。pコンタクト層222のMg濃度は、たとえば1×1018~100×1018cm-3である。
【0128】
なお、歪緩和層220やpコンタクト層222は省いてもよく、電子ブロック層221のみとしてもよい。pコンタクト層222を省いた場合、電子ブロック層221と電子ブロック層21Aとが一体となり、厚い電子ブロック層とすることができるので、電子ブロック層としての機能向上を図ることができる。
【0129】
歪緩和層220、電子ブロック層221、pコンタクト層222の総膜厚をd1として、厚さa1、d1は、
(m-0.1)×(λR/nR)<a1+d1<(m+0.1)×(λR/nR)、m≒0.2、0.7、1.2、・・・を満たすように設定されている。これにより第3活性層18から放射される赤色光を光の干渉により増幅させることができる。なお、実施形態1で述べたように厳密にこの式を満たしている必要はなく、増幅できる範囲であればよい。緑色光、青色光については実施形態1と同様に増幅するよう設定されている。
【0130】
厚さa1~a3、b2、b3、d1の設定では、a1=a2=a3として厚さを所定値に固定し、b2、b3、d1によって調整を行うとよい。実施形態1で述べたように非n型層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを一括で成膜させることができ、製造工程を簡略化できる。また、b2=b3として所定値に固定し、a1~a3やd1を調整するようにしてもよい。
【0131】
(実験例1)
実施形態に係る各種実験例について説明する。
【0132】
サファイア基板上にn層、n-SL(n超格子層)、青色光を発するMQW層、中間層、EBL(電子ブロック層)、p層を順に積層した発光素子(試料1)を作製した。その試料1についてSIMS解析を行い、O、Si、Cの元素について深さプロファイルを求めた。
【0133】
また、サファイア基板上にn層、n-SL、青色光を発するMQW層、中間層を順に積層した後、ウェハを成長炉から一旦取り出してウェハ表面を大気に暴露した後、再びウェハを成長炉に入れ、中間層上にEBL、p層を順に積層した発光素子(試料2)を作製した。試料2は、中間層形成後、EBL形成前に大気に暴露している点以外は試料1と同様の構成である。その試料2についてSIMS解析を行い、O、Si、Cの元素について深さプロファイルを求めた。
【0134】
図9は試料1についてのO、Si、Cの深さプロファイル、
図10は、試料2についてのO、Si、Cの深さプロファイルである。
【0135】
試料1では、
図9のように、中間層とEBLの界面においてOとSiの濃度は2×10
17~3×10
17cm
-3程度であった。これは成長温度を変化させる際、成長が一時的に中断していることによって炉内の残留不純物が取り込まれた影響による不純物濃度と考えられる。成長条件の最適化によってSIMS分析の検出限界まで減らすことは可能である。
【0136】
一方、試料2では、
図10のように、再成長界面(中間層とEBLの界面)においてOとSiの鋭いピークが見られ、OやSiの濃度は、1×10
18~3×10
18cm
-3程度の濃度であり、試料1に比べて濃度が高いことが分かった。
図9、
図10の結果、再成長界面では明確にO、Siなどの不純物で汚染されることが分かった。これらの不純物の濃度は大気暴露の程度、もしくは溝形成した表面の状態によって増減し、再成長までの洗浄方法にも依存するが、最大で100×10
18cm
-3の高濃度に達する場合がある。そのため、再成長界面を非n型とするためには0.1×10
18~100×10
18cm
-3程度のMgをドープする必要があることが分かった。
【0137】
次に、試料2についてEBL形成初期(つまり非n型層)のMgドープ量を変化させ、光出力を測定した。
図11は、非n型層を成長させるときのMg/III気相比と光出力の関係を示したグラフである。Mg/III気相比は、MOCVDによって非n型層を形成する際のIII族金属の原料ガスとMgドーパントガスのモル比である。また、光出力は試料1の場合の光出力を1(
図11中Refとして示した点線)として規格化した。
【0138】
図11のように、Mg/III気相比が増加するにつれて光出力も増加し、Mg/III気相比が0.005以上で光出力はおよそ0.7で一定となった。Mgドープによって再成長界面が非n型となり、光出力が向上したと考えられる。
【0139】
(実験例2)
サファイア基板上にn層、n-SL、青色発光層、中間層、緑色発光層、中間層、赤色発光層、EBL(約30nm)、p層(約70nm)を順に積層した後、ウェハを成長炉から一旦取り出してウェハ表面を大気に暴露した後、再びウェハを成長炉に入れ、p層上にEBL(約30nm)、p層(約30~170nm)を順に積層した発光素子(試料3)を作製した。pの反射電極はNi(約10nm)/Au(約50nm)とした。赤色発光層の発光波長は590nmとした。試料3は再成長層のp層の厚さを種々(約30~170nm)に替えて複数作成した。そして、試料3の光出力を測定した。
【0140】
また、サファイア基板上にn層、n-SL、青色発光層、中間層、緑色発光層、EBL(約25nm)、p層(約75~175nm)を順に積層した発光素子(試料4)を作製した。pの反射電極はNi(約10nm)/Au(約50nm)とした。緑色発光層の発光波長は530nmとした。試料4はp層の厚さを種々(約75~175nm)に替えて複数作成した。そして、試料4の光出力を測定した。
【0141】
図12は、試料3について赤色発光の光出力とp型層の厚さの関係を示したグラフである。
図12において、縦軸の光出力は最大値を1として規格化した値である。横軸のp型層の厚さは赤色発光層よりも上の層の厚さであり、実施形態3におけるa1+d1の値に相当する。
【0142】
また、
図13は、試料4について緑色発光の光出力とp型層の厚さの関係を示したグラフである。縦軸の光出力は最大値を1として規格化した値である。横軸のp型層の厚さは緑色発光層よりも上の層の厚さであり、実施形態1における式(2)のa2+b2(b2=0)の値に相当する。
【0143】
また、
図14は、理論式により導かれた、光出力とm値を示したグラフであり、光出力の理論式において入射角0~90度の範囲の強度を積算し、全体の光出力を求めた結果を示したグラフである。
図14において縦軸の光出力は最大値を1として規格化した値である。横軸は光学的な厚さを媒質中の波長λ’で規格化した値であり、実施形態1、2における式(1)~(6)のmの値に相当する。m値に媒質中の波長λ’(真空中の波長λ÷媒質の屈折率n)を掛けることで発光面から反射面までの膜厚(光学膜厚)が得られる。これにより、任意の波長での光干渉効果における膜厚依存性を把握することができる。
【0144】
図14のように、光出力は周期的に増減しており、m≒0.2、0.7、1.2、・・・に光出力のピークがあり、m≒0.5、1.0、1.5、・・・光出力の底があることが分かる。
【0145】
また、
図12のように、p型層の厚さが200nmのときに光出力のピークがあることが分かる。発光波長590nm、屈折率2.38とすると、m=0.8となり、
図14の理論値0.7とおよそ整合することがわかる。
【0146】
また、
図13のように、p型層の厚さが150nmのときに光出力のピークがあることが分かる。発光波長530nm、屈折率2.38とすると、m=0.67となり、
図14の理論値0.7とおよそ整合することがわかる。
【0147】
図12,13から、実施形態1~3の方法で光の干渉の制御を行うことに妥当性があることが確認できた。
【0148】
(他の変形例)
実施形態1~3における発光素子は、第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18の3つの活性層を有するものであったが、発光波長が互いに異なる2以上の活性層を有する構造であれば本発明は適用できる。また、発光色も青、緑、赤に限らず、異なる発光波長であれば任意である。たとえば、青と黄色の2つの活性層を有するもの、青、緑、赤に紫や黄色を加えた4つの活性層を有するものであってもよい。
【0149】
また、実施形態1~3における発光素子は、PWM回路によりPWM駆動して発光を制御することが好ましい。パルス幅とパルス周期によって光強度を容易に制御でき、駆動電流の違いによる波長シフトも抑制できる。
【符号の説明】
【0150】
10:基板 11:n層 12:ESD層 13:下地層 14:第1活性層 15:第1中間層 16:第2活性層 17:第2中間層 18:第3活性層 19:保護層 20A~20C:非n型層 21A~21C:電子ブロック層 22A~22C:p層 23:n電極 24A~24C:p電極 15A、17A:ノンドープ層 15B、17B:n型層 16A:歪緩和層 16B、18C、18C:量子井戸構造層 18A:第1歪緩和層 18B:第2歪緩和層