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特開2024-131324高炉の炉内状態推定方法、炉内状態推定プログラム及び炉内状態推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131324
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】高炉の炉内状態推定方法、炉内状態推定プログラム及び炉内状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C21B5/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041524
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】松崎 眞六
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BB00
(57)【要約】
【課題】 数学モデルで推定した炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避する。
【解決手段】 数学モデルで適用される境界条件として複数の初期値を設定し、数学モデルによって、設定した複数の初期値のそれぞれに応じて複数の炉内状態を推定する。推定した複数の炉内状態に基づいて、最終的な炉内状態を推定する。操業管理指標毎に求められた不安定スコアが閾値以上であるとき、不安定スコアを示す操業管理指標に起因する項目について、初期値の設定を行ったり、数学モデルの推定値が高炉操業時の実測値に沿うように、数学モデルで用いられる各パラメータを調整するときの調整量が閾値以上であるとき、この調整量を示すパラメータに起因する項目について、初期値の設定を行ったり、機械学習モデルにおける高炉操業データの再現率が閾値以下であるとき、この再現率を示す高炉操業データに起因する項目について、初期値の設定を行ったりする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉内における物質収支、エネルギ収支及び運動量収支から構築された数学モデルを用いて炉内状態を推定する推定方法であって、
前記数学モデルで適用される境界条件として複数の初期値を設定し、
前記数学モデルによって、設定した前記複数の初期値のそれぞれに応じて複数の炉内状態を推定し、
推定した複数の炉内状態に基づいて、最終的な炉内状態を推定し、
前記複数の初期値は、下記A)~C)の少なくともいずれか1つに基づいて設定される、
A)操業管理指標毎に求められた炉況の不安定状態を規定する不安定スコアが閾値以上であるとき、この不安定スコアを示す操業管理指標に起因する項目について、前記初期値の設定を行う、
B)前記数学モデルから推定される推定値が高炉の操業時に取得した実測値に沿うように、前記数学モデルで用いられる各パラメータを調整するときの調整量が閾値以上であるとき、この調整量を示す前記パラメータに起因する項目について、前記初期値の設定を行う、
C)予め構築された機械学習モデルにおける高炉操業データの再現率が閾値以下であるとき、この再現率を示す高炉操業データに起因する項目について、前記初期値の設定を行う、
ことを特徴とする炉内状態推定方法。
【請求項2】
前記A)のみに基づいて、前記複数の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の炉内状態推定方法。
【請求項3】
前記B)のみに基づいて、前記複数の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の炉内状態推定方法。
【請求項4】
前記C)のみに基づいて、前記複数の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の炉内状態推定方法。
【請求項5】
前記A)、前記B)及び前記C)に基づいて、前記複数の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の炉内状態推定方法。
【請求項6】
前記複数の初期値を設定するとき、
前記初期値を設定する項目について、所定期間内で測定した複数の項目値に基づいて、平均値及び標準偏差を求め、
前記平均値に対して、前記標準偏差に応じた値を加算又は減算することにより、前記複数の初期値を設定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の炉内状態推定方法。
【請求項7】
炉況が不安定状態に向かうことを条件として、前記標準偏差に応じた値の加算又は減算を決定することを特徴とする請求項6に記載の炉内状態推定方法。
【請求項8】
前記初期値を設定する項目について、前記数学モデルによる推定値が実測値に対して許容範囲内に含まれるように項目値を調整し、調整後の項目値を前記初期値として用いることを特徴とする請求項1に記載の炉内状態推定方法。
【請求項9】
請求項1に記載の炉内状態推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする炉内状態推定プログラム。
【請求項10】
請求項1に記載の炉内状態推定方法を実行することを特徴とする炉内状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉内状態を推定する方法、プログラム及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、高炉の高さ方向、炉径方向及び炉周方向を含む3次元方向の非定常状態を記述する3次元非定常モデルを用いて高炉の操業をシミュレートしている。ここでは、実炉での計測値と一致するように3次元非定常モデルのプロセス定数及び装入物分布モデルによって算出される炉頂での鉄鉱石及びコークスのそれぞれの堆積層厚さ等の分布状態を修正している。
【0003】
特許文献2では、高炉の操業状態を表す特徴量である高炉操業特徴量の時間変化をモデルを用いたシミュレーションにより演算している。そして、操業安定性評価モデルから取得した高炉の操業状態の安定性を表す操業安定性評価情報に基づいて、高炉の操業状態が安定状態あるいは不安定状態のいずれにあるかを判別し、高炉の操業状態を安定させる操作量を決定している。
【0004】
ここで、境界条件に外乱を加えた情報を、高炉操業特徴量を算出するための高炉の非定常物理モデルへの入力情報とし、入力情報に基づき非定常物理モデルを用いて算出された高炉操業特徴量から取得される外乱の影響を出力情報として取得している。そして、高炉操業情報、高炉操業特徴量、入力情報および出力情報に基づいて、4SID法を用いて、入出力信号のダイナミクスを近似する状態空間表現モデルを導出し、この状態空間表現モデルを操業安定性評価モデルとして用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-295910号公報
【特許文献2】特開2012-172221号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kouji TAKATANI、Takanobu INADA、Yutaka UJISAWA、「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」、ISIJ International、Vol.39(1999)、No.1、p.15-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
数学モデルは、高炉内における物質収支、エネルギ収支及び運動量収支から炉内状態を推定するものであり、例えば、非特許文献1に記載の高炉数学モデルを用いることができる。高炉数学モデルとしては、1次元定常モデル、1次元非定常モデル、2次元定常モデル、3次元非定常モデルがある。3次元非定常モデルは、気体・固体・液体の各相に関して、物質収支式、エネルギ収支式及び運動量収支式を定義し、高炉の炉内状態を推定するものである。
【0008】
数学モデルは、一般的に初期値の影響を受けやすい。ここで、初期値として実測値を用いた場合には、以下に説明する理由により、適切な初期値を設定しにくくなり、数学モデルから推定された炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことがある。
【0009】
まず、高炉では、実測値を得るためのセンサの設置場所が限られてしまうため、数学モデルで必要となる十分な初期値が得られにくい。また、高炉の操業が不安定である場合には、操業の変動に伴って実測値が大きく変動してしまったり、センサに起因する検出誤差が実測値に含まれてしまったりすることがあるため、実測値に対する信頼性が低下してしまう。このような実測値だけを数学モデルの初期値として用いてしまうと、数学モデルから推定された炉内状態が実際の炉内状態から乖離してしまうことがある。
【0010】
本発明の目的は、数学モデルを用いて推定した炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願第1の発明は、高炉内における物質収支、エネルギ収支及び運動量収支から構築された数学モデルを用いて炉内状態を推定する推定方法である。ここで、数学モデルで適用される境界条件として複数の初期値を設定し、数学モデルによって、設定した複数の初期値のそれぞれに応じて複数の炉内状態を推定する。そして、推定した複数の炉内状態に基づいて、最終的な炉内状態を推定する。
【0012】
複数の初期値は、下記A)~C)の少なくともいずれか1つに基づいて設定される。
A)操業管理指標毎に求められた炉況の不安定状態を規定する不安定スコアが閾値以上であるとき、この不安定スコアを示す操業管理指標に起因する項目について、初期値の設定を行う。
B)数学モデルから推定される推定値が高炉の操業時に取得した実測値に沿うように、数学モデルで用いられる各パラメータを調整するときの調整量が閾値以上であるとき、この調整量を示すパラメータに起因する項目について、初期値の設定を行う。
C)予め構築された機械学習モデルにおける高炉操業データの再現率が閾値以下であるとき、この再現率を示す高炉操業データに起因する項目について、初期値の設定を行う。
【0013】
複数の初期値の設定は、A)のみに基づいて行ったり、B)のみに基づいて行ったり、C)のみに基づいて行ったり、A)、B)及びC)に基づいて行ったりすることができる。
【0014】
複数の初期値を設定するときには、初期値を設定する項目について、所定期間内で測定した複数の項目値に基づいて、平均値及び標準偏差を求めることができる。そして、平均値に対して、標準偏差に応じた値を加算又は減算することにより、複数の初期値を設定することができる。ここで、炉況が不安定状態に向かうことを条件として、標準偏差に応じた値の加算又は減算を決定することができる。
【0015】
初期値を設定する項目について、数学モデルによる推定値が実測値に対して許容範囲内に含まれるように項目値を調整し、調整後の項目値を初期値として用いることができる。
【0016】
本願第2の発明である炉内状態推定プログラムは、本願第1の発明である炉内状態推定方法をコンピュータに実行させる。本願第3の発明である炉内状態推定装置は、本願第1の発明である炉内状態推定方法を実行する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の初期値のそれぞれから推定される複数の炉内状態に基づいて最終的な炉内状態を推定することにより、特定の初期値に依存して炉内状態を推定する場合と比べて、最終的な炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】炉内状態の推定方法1Aを説明するフローチャートである。
図2】炉内状態の推定方法2Aを説明するフローチャートである。
図3】炉内状態の推定方法3Aを説明するフローチャートである。
図4】炉内状態の推定方法1Bを説明するフローチャートである。
図5】炉内状態の推定方法2Bを説明するフローチャートである。
図6】炉内状態の推定方法3Bを説明するフローチャートである。
図7】炉内状態を推定するブロック構成を示す図である。
図8】従来方法及び本実施形態の推定方法(1A~3A)について、ソリューションロスカーボン量に関するRMSEを示す図である。
図9】従来方法及び本実施形態の推定方法(1A~3A)について、推定値が変化する方向と実測値が変化する方向とが同一方向であるときの割合(同一変化割合)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本実施形態の概要)
本実施形態では、高炉内における物質収支、エネルギ収支及び運動量収支から構築された数学モデルを用いて炉内状態を推定するときにおいて、数学モデルで適用される境界条件として複数の初期値を設定し、複数の初期値のそれぞれから推定される複数の炉内状態(以下、「初期炉内状態」という)に基づいて最終的な炉内状態(以下、「最終炉内状態」という)を推定する。ここで、数学モデルの初期値には、様々な指標に関する初期値が含まれ、本実施形態では、複数の初期値を設定すべき指標を特定し、この指標に関して複数の初期値を設定する。
【0020】
本実施形態によれば、複数の初期値のそれぞれから推定される複数の初期炉内状態に基づいて最終炉内状態を推定することにより、特定の初期値に依存して炉内状態を推定する場合と比べて、最終炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避できる。以下、本実施形態について、具体的に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後述する3つの推定方法1A~3Aのうち、少なくとも1つの推定方法を用いることにより、最終炉内状態を推定するための複数の初期炉内状態を推定する。ここで、1つの推定方法によって1つの初期炉内状態しか推定できない場合には、他の推定方法も用いることにより、複数の初期炉内状態を推定する。
【0022】
(炉内状態の推定方法1A)
炉内状態を推定する推定方法1Aでは、炉況の不安定を判断するための不安定スコアSnに基づいて、複数設定すべき初期値の項目を特定し、特定した項目に関して複数の初期値を設定する。そして、複数の初期値のそれぞれを数学モデルで用いることにより、初期炉内状態を推定する。以下、推定方法1Aについて、図1を用いて具体的に説明する。
【0023】
ステップS101では、炉況の不安定を判断するための不安定スコアSnを算出する。この不安定スコアSnは、特開2021-80556号公報に記載された個別不安定スコアに相当し、複数種類の操業管理指標のそれぞれで算出される。すなわち、不安定スコアSnは、各操業管理指標に着目して炉況が不安定であるか否かを判断するためのスコアである。
【0024】
操業管理指標は、炉況の判断に用いられる指標であり、例えば、下記表1に示す指標が挙げられる。下記表1に示す通り、操業管理指標には、炉頂で取得される指標、炉内又は炉壁で取得される指標、羽口又は出銑口で取得される指標がある。なお、下記表1に示すすべての指標について、不安定スコアSnを算出しなくてもよく、下記表1に記載していない指標について、不安定スコアSnを算出してもよい。
【0025】
【表1】
【0026】
上記表1に示す各操業管理指標の内容について以下に説明する。なお、以下に説明する各操業管理指標の測定方法又は演算方法は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0027】
「日内装入回数」とは、装入物(コークスや鉱石)を高炉に装入するときにおいて、1日あたりに装入されるチャージの回数(総数)である。「片持ちゾンデ温度」とは、炉口部に設置された片持ちゾンデによって測定される炉内ガス温度[℃]である。「炉頂平均温度」とは、炉頂部の上昇管で測定される炉頂ガス温度の平均値[℃]である。「差指降下異常回数」とは、高炉内における装入物の降下異常現象(いわゆるスリップやドロップ等)の発生回数である。「着床時装入深度」とは、サウンジングが装入物に着床したときの深度[m]である。「巻き上げ時装入深度」とは、サウンジングの巻き上げ時の装入物の深度[m]である。「サウンジング降下速度」とは、サウンジングによって測定される装入物の降下速度[mm/min]である。「差指層厚比」とは、サウンジングによって測定される鉱石とコークスの層厚比[-]である。
【0028】
「炉頂ガスCO分析値」、「炉頂ガスCO分析値」、「炉頂ガスH分析値」、「炉頂ガスN分析値」及び「炉頂ガスCH分析値」とは、炉頂部で測定される、炉頂ガスに含まれる各ガス成分(CO、CO、H、N、CH)の組成[mоl%]である。「炉頂ガス流量」とは、炉頂部で測定される炉頂ガスの流量[Nm/min]である。「炉口ガス流速」とは、炉頂ガス流量を炉口断面積で除算して求められる炉頂ガスの流速[m/sec]である。「炉頂散水流量」とは、炉頂温度を調整するために炉内で散水される冷却水の流量[t/h]である。
【0029】
「炉内平均ガス流速」とは、炉頂部におけるガス量とボッシュガス量の平均を炉内平均断面積で除算して、さらに羽口先と炉頂部の平均温度と圧力で補正した平均ガス流速[m/sec]である。「シャフト圧力」とは、シャフト部に設置された圧力センサによって測定された圧力[kPa]である。「シャフト圧力変動時間」とは、シャフト部の炉円周方向に設置された複数の圧力センサによってそれぞれ測定された圧力が各レベルで定められた所定値以上であるときの時間[sec]である。「ステーブ温度」とは、炉壁部のステーブで測定される温度[℃]である。
【0030】
「K値(全体)」とは、下記式(1)によって算出される高炉全体での通気抵抗指数[-]である。
【数1】
【0031】
上記式(1)において、Pblastは送風圧[kg/cm]、Ptоpは炉頂圧[kg/cm]、Vはボッシュガス量[Nm/min]である。上記表1に示すK値(上部・中部・下部)は、炉高方向で互いに異なる位置(上部、中部及び下部)に設置された圧力センサのそれぞれによって測定された圧力を用いて、上記式(1)の応用式(炉頂圧Ptоpを上部、中部及び下部のそれぞれの圧力に置き換えた式)から算出される通気抵抗指数である。
【0032】
「SLC量」とは、羽口先の送風条件と炉頂ガス条件から算出される高炉内でのソリューションロスカーボン量[kg/t-p]である。「総合熱負荷」とは、ステーブの冷却水の入側温度及び出側温度、水の比熱、冷却水の流量から算出される熱負荷を高炉全体において合計した値[MW]である。「送風圧力」とは、環状管前で測定される熱風の圧力[kPa]である。「羽口先微粉炭比」とは、銑鉄1トンあたりの微粉炭の吹込み量[kg/t-p]である。「PCI吹込み量」とは、送風量あたりの微粉炭の吹込み量(実績値)[g/Nm]である。「InputH」とは、銑鉄1トンあたりの水素投入量[kg/t-p]である。
【0033】
「羽口先銑鉄生成量」とは、羽口先に降下した原料から算出される1日あたり銑鉄生成量[t/D]である。「羽口先スラグ生成量」とは、羽口先に降下した原料から算出される1日あたりのスラグ生成量[t/D]である。「PC置換率」とは、微粉炭及びコークス中の炭素分から算出される微粉炭とコークスの置換率[-]である。「溶銑温度」とは、溶銑樋で温度センサによって測定される溶銑の温度[℃]である。
【0034】
不安定スコアSn(個別不安定スコア)の算出方法については、特開2021-80556号公報に記載されているため、詳細な説明は省略する。不安定スコアSnは、所定の数値範囲(例えば、0.0~1.0)で規定することができ、本実施形態では、不安定スコアSnが大きいほど、炉況が不安定であることを意味し、言い換えれば、不安定スコアSnが小さいほど、炉況が安定であることを意味する。例えば、炉内状態が安定状態であるとき、不安定スコアSnを1.0と定義し、炉況が不安定状態であるとき、不安定スコアSnを0.0と定義することができる。実際の高炉操業では、炉内状態は安定状態及び不安定状態の間で存在することになるため、不安定スコアSnは0.0~1.0の間の値を取り得る。
【0035】
ステップS102では、操業管理指標のそれぞれについて、ステップS101の処理で算出された不安定スコアSnが閾値Sth以上であるか否かを判別する。閾値Sthは、炉況が不安定である傾向が高いことを判別するための不安定スコアSnであり、上述した数値範囲内で予め決めておくことができる。不安定スコアSnが閾値Sth以上であるときには、炉況が不安定である傾向が高いと判別してステップS103の処理に進み、不安定スコアSnが閾値Sth未満であるときには、炉況が不安定である傾向が高くないと判別して図1に示す処理を終了する。
【0036】
ステップS103では、不安定スコアSnが閾値Sth以上である操業管理指標(すなわち、炉況の不安定に影響を与えていると考えられる操業管理指標)を特定し、この操業管理指標に関して、数学モデルの初期値として設定できる項目を特定する。各操業管理指標に対して、数学モデルの初期値として設定できる項目を予め決めておくことにより、不安定スコアSnが閾値Sth以上である操業管理指標に対応する項目を特定することができる。例えば、下記表2に示すように、操業管理指標と、操業管理指標に関する項目とを対応付けておくことができる。
【0037】
【表2】
【0038】
上記表2に示すように、操業管理指標によっては、初期値として設定される項目が複数存在する場合もあるし、初期値として設定される項目が存在しない場合もある。複数の項目が存在する場合には、少なくとも1つの項目を特定することができる。
【0039】
ステップS104では、ステップS103の処理で特定された項目に関して、複数の初期値を設定する。ここで、複数の初期値を設定することができればよく、設定する初期値の総数や、この設定方法は適宜決めることができる。
【0040】
例えば、ステップS103の処理で特定された項目に関して、所定時間内で測定された複数の測定値に基づいて、平均値Mave及び標準偏差σを算出する。そして、平均値Maveに対して標準偏差σを加算又は減算したり、平均値Maveに対して標準偏差σをN倍(Nは正の整数)した値を加算又は減算したりすることにより、複数の初期値を設定することができる。設定された複数の初期値には、平均値Mave、値(Mave±σ)、値(Mave±σ×N)を含めることができる。
【0041】
上述した平均値Maveに対する加算又は減算は、項目ごとに予め決めておくことができる。各項目について、炉況が不安定状態に向かうように、平均値Maveに対する加算又は減算を決めることができる。すなわち、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を加算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する加算を行うこととする。一方、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を減算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する減算を行うこととする。ここで、炉況が不安定状態に向かうことには、例えば、上述したK値(通気抵抗指数)が増大することが含まれる。
【0042】
ステップS105では、ステップS104の処理で設定した複数の初期値のそれぞれを用いて、数学モデルによる炉内状態の推定を行う。これにより、推定方法1Aによって推定された少なくとも1つの初期炉内状態が得られる。
【0043】
(炉内状態の推定方法2A)
炉内状態を推定する推定方法2Aでは、数学モデルで用いられる各パラメータを実測値に応じて調整(いわゆる、データ同化)するときの調整量ΔPcに基づいて、複数設定すべき初期値の項目を特定し、特定した項目に関して複数の初期値を設定する。そして、複数の初期値のそれぞれを数学モデルで用いることにより、初期炉内状態を推定する。以下、推定方法2Aについて、図2を用いて具体的に説明する。
【0044】
ステップS201では、数学モデルで用いられる各パラメータを実測値に応じて調整するときの調整量ΔPcを算出する。数学モデルでは、数学モデルによる推定値が実測値に対して許容範囲内に含まれるように、数学モデルで用いられるパラメータが調整される。パラメータの調整量ΔPcは、調整を行う前のパラメータと、調整を行った後のパラメータとの差分である。ここで、数学モデルによって推定値を算出するとき、数学モデルの初期値としては実測値を用いることができる。
【0045】
数学モデルには複数種類のパラメータが用いられており、上述した調整量ΔPcを算出するときには、1つのパラメータに着目し、他のパラメータは調整しないようにする。これにより、数学モデルによる推定値を実測値に対して許容範囲内に含ませるときにおいて、1つのパラメータの調整量ΔPcを把握することができる。この処理をすべてのパラメータについて行うことにより、各パラメータの調整量ΔPcを算出することができる。
【0046】
ステップS202では、ステップS201の処理で算出した調整量ΔPcが閾値ΔPth以上であるか否かを判別する。ここで、閾値ΔPthは、パラメータ毎に予め設定しておくことができ、閾値ΔPth以上の調整量ΔPcが発生したときには、炉況が不安定である傾向が高いことを意味する。調整量ΔPcが閾値ΔPth以上であるときには、炉況が不安定である傾向が高いと判別してステップS203の処理に進み、調整量ΔPcが閾値ΔPth未満であるときには、炉況が不安定である傾向が高くないと判別して図2に示す処理を終了する。
【0047】
ステップS203では、調整量ΔPcが閾値ΔPth以上であるパラメータ(すなわち、炉況の不安定に影響を与えていると考えられるパラメータ)を特定し、このパラメータに関して、数学モデルの初期値として設定できる項目を特定する。各パラメータに対して、数学モデルの初期値として設定できる項目を予め決めておくことにより、調整量ΔPcが閾値ΔPth以上であるパラメータに対応する項目を特定することができる。例えば、下記表3に示すように、パラメータと、パラメータに関する項目とを対応付けておくことができる。
【0048】
【表3】
【0049】
ステップS204では、ステップS203の処理で特定された項目に関して、複数の初期値を設定する。ここで、複数の初期値を設定することができればよく、設定する初期値の総数や、この設定方法は適宜決めることができる。
【0050】
例えば、ステップS203の処理で特定された項目に関して、所定時間内で測定された複数の測定値に基づいて、平均値Mave及び標準偏差σを算出する。そして、平均値Maveに対して標準偏差σを加算又は減算したり、平均値Maveに対して標準偏差σをN倍(Nは正の整数)した値を加算又は減算したりすることにより、複数の初期値を設定することができる。設定された複数の初期値には、平均値Mave、値(Mave±σ)、値(Mave±σ×N)を含めることができる。
【0051】
上述した平均値Maveに対する加算又は減算は、項目ごとに予め決めておくことができる。また、各項目について、炉況が不安定状態に向かうように、平均値Maveに対する加算又は減算を決めることができる。すなわち、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を加算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する加算を行うこととする。一方、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を減算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する減算を行うこととする。ここで、炉況が不安定状態に向かうことには、例えば、上述したK値(通気抵抗指数)が増大することが含まれる。
【0052】
ステップS205では、ステップS204の処理で設定した複数の初期値のそれぞれを用いて、数学モデルによる炉内状態の推定を行う。これにより、推定方法2Aによって推定された少なくとも1つの初期炉内状態が得られる。
【0053】
(炉内状態の推定方法3A)
炉内状態を推定する推定方法3Aでは、オートエンコーダ(自己符号化器)による再現率Rcに基づいて、複数設定すべき初期値の項目を特定し、特定した項目に関して複数の初期値を設定する。そして、複数の初期値のそれぞれを数学モデルで用いることにより、初期炉内状態を推定する。以下、推定方法3Aについて、図3を用いて具体的に説明する。
【0054】
ステップS301では、オートエンコーダによる再現率Rcを算出する。再現率Rcは、入力データに対して、入力データと一致する出力データが占める割合であり、0~1の範囲内の値を取り得る。オートエンコーダとは、ニューラルネットワークの1種であって、教師データを一度圧縮し、重要な特徴量だけを残した後、再度もとの次元に復元処理をする機械学習モデルである。ここで、教師データとしては、炉況が安定状態であるときの操業データを用いており、この教師データに基づいてオートエンコーダが構築されている。このようなオートエンコーダにおいて、炉況が安定状態ではないときの入力データを用いると、再現率Rcが低下する。再現率Rcは、種類の異なる入力データ毎に算出される。
【0055】
ステップS302では、ステップS301の処理で算出した再現率Rcが閾値Rth以下であるか否かを判別する。ここで、閾値Rthは、入力データ毎に予め設定しておくことができ、閾値Rth以下の再現率Rcが発生したときには、炉況が不安定である傾向が高いことを意味する。再現率Rcが閾値Rth以下であるときには、炉況が不安定である傾向が高いと判別してステップS303の処理に進み、再現率Rcが閾値Rthよりも高いときには、炉況が不安定である傾向が高くないと判別して図3に示す処理を終了する。
【0056】
ステップS303では、再現率Rcが閾値Rth以下である入力データ(すなわち、炉況の不安定に影響を与えていると考えられる入力データ)を特定し、この入力データに関して、数学モデルの初期値として設定できる項目を特定する。各入力データに対して、数学モデルの初期値として設定できる項目を予め決めておくことにより、再現率Rcが閾値Rth以下である入力データに対応する項目を特定することができる。例えば、下記表4に示すように、入力データと、入力データに関する項目とを対応付けておくことができる。
【0057】
【表4】
【0058】
ステップS304では、ステップS303の処理で特定された項目に関して、複数の初期値を設定する。ここで、複数の初期値を設定することができればよく、設定する初期値の総数や、この設定方法は適宜決めることができる。
【0059】
例えば、ステップS303の処理で特定された項目に関して、所定時間内で測定された複数の測定値に基づいて、平均値Mave及び標準偏差σを算出する。そして、平均値Maveに対して標準偏差σを加算又は減算したり、平均値Maveに対して標準偏差σをN倍(Nは正の整数)した値を加算又は減算したりすることにより、複数の初期値を設定することができる。設定された複数の初期値には、平均値Mave、値(Mave±σ)、値(Mave±σ×N)を含めることができる。
【0060】
上述した平均値Maveに対する加算又は減算は、項目ごとに予め決めておくことができる。また、各項目について、炉況が不安定状態に向かうように、平均値Maveに対する加算又は減算を決めることができる。すなわち、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を加算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する加算を行うこととする。一方、平均値Maveに標準偏差σ(又は標準偏差σをN倍した値)を減算すると、炉況が不安定状態に向かうことが想定される項目については、平均値Maveに対する減算を行うこととする。ここで、炉況が不安定状態に向かうことには、例えば、上述したK値(通気抵抗指数)が増大することが含まれる。
【0061】
ステップS305では、ステップS304の処理で設定した複数の初期値のそれぞれを用いて、数学モデルによる炉内状態の推定を行う。これにより、推定方法3Aによって推定された少なくとも1つの初期炉内状態が得られる。
【0062】
上述した推定方法1A~3Aによれば、初期炉内状態として複数の推定値が得られる。そして、推定方法1A~3Aの少なくとも1つから得られた複数の推定値を平均することにより、最終的な推定値(最終炉内状態)を算出する。
【0063】
具体的には、推定方法1A~3Aのいずれか1つだけを用いる場合には、この推定方法から得られた1つの推定値を最終的な推定値としたり、推定方法から得られた複数の推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。推定方法1A~3Aのいずれか2つを用いる場合には、2つの推定方法のそれぞれにおいて少なくとも1つの初期値が設定され、2つの推定方法から得られたすべての推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。推定方法1A~3Aのすべてを用いる場合には、3つの推定方法のそれぞれにおいて少なくとも1つの初期値が設定され、3つの推定方法から得られたすべての推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。
【0064】
なお、最終的な推定値としては、複数の推定値の平均値に限るものではない。例えば、複数の推定値を重み付け加算することにより、最終的な推定値を算出することができる。ここで、推定方法1A~3Aに応じて、重み付け係数を予め決めておくことができる。
【0065】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態において、第1実施形態で説明した内容については説明を省略し、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0066】
(炉内状態の推定方法1B)
本実施形態における推定方法1Bについて、図4に示すフローチャートを用いて説明する。図4に示すS101~S103の処理のそれぞれについては、図1(推定方法1A)で説明した処理(S101~S103)と同じである。
【0067】
ステップS106では、数学モデルによって炉内状態を推定した推定値が実測値と一致するように、ステップS103の処理で特定した項目に関する値(以下、「項目値」という)を調整する。具体的には、項目値を変更しながら推定値を求め、この推定値及び実測値の差分が最小となるときの項目値を特定する。
【0068】
上述した項目値の調整においては、公知の最急降下法を用いることができる。最急降下法では、まず、項目値を任意に設定し、この項目値に基づいて推定値を算出する。そして、算出した推定値及び実測値に基づいて、平均二乗誤差を求める。なお、平均二乗誤差に限られるものではなく、例えば、平均絶対誤差を用いることができる。
【0069】
次に、設定した項目値における最急降下方向を求め、この最急降下方向において、設定した項目値から所定量だけ変更して項目値を更新する。更新後の項目値に基づいて推定値を算出し、この推定値及び実測値に基づいて平均二乗誤差を求める。上述した最急降下方向を求める処理と、項目値の更新とを繰り返し、平均二乗誤差が最小となるときの項目値を特定する。
【0070】
ステップS107では、ステップS106の処理で特定された項目値を数学モデルの初期値として設定し、数学モデルによって初期炉内状態を推定する。ここで、ステップS106の処理で特定された項目が複数である場合には、各項目に対応して初期炉内状態が推定されることにより、複数の推定値が得られる。
【0071】
(炉内状態の推定方法2B)
本実施形態における推定方法2Bについて、図5に示すフォローチャートを用いて説明する。図5に示すS201~S203の処理のそれぞれについては、図2(推定方法2A)で説明した処理(S201~S203)と同じである。
【0072】
ステップS206では、数学モデルによって炉内状態を推定した推定値が実測値と一致するように、ステップS203の処理で特定した項目に関する値(項目値)を調整する。具体的には、項目値を変更しながら推定値を求め、この推定値及び実測値の差分が最小となるときの項目値を特定する。この項目値の調整においては、上述した最急降下法を用いることができる。
【0073】
ステップS207では、ステップS206の処理で特定された項目値を数学モデルの初期値として設定し、数学モデルによって初期炉内状態を推定する。ここで、ステップS206の処理で特定された項目が複数である場合には、各項目に対応して初期炉内状態が推定されることにより、複数の推定値が得られる。
【0074】
(炉内状態の推定方法3B)
本実施形態における推定方法3Bについて、図6に示すフォローチャートを用いて説明する。図6に示すS301~S303の処理のそれぞれについては、図3(推定方法3A)で説明した処理(S301~S303)と同じである。
【0075】
ステップS306では、数学モデルによって炉内状態を推定した推定値が実測値と一致するように、ステップS303の処理で特定した項目に関する値を調整する。具体的には、項目値を変更しながら推定値を求め、この推定値及び実測値の差分が最小となるときの項目値を特定する。この項目値の調整においては、上述した最急降下法を用いることができる。
【0076】
ステップS307では、ステップS306の処理で特定された項目値を数学モデルの初期値として設定し、数学モデルによって炉内状態を推定する。ここで、ステップS306の処理で特定された項目が複数である場合には、各項目に対応して炉内状態が推定されることにより、複数の推定値が得られる。
【0077】
上述した推定方法1B~3Bのそれぞれによって、少なくとも1つの推定値が得られるため、すべての推定方法1B~3Bによって、少なくとも3つの推定値が得られる。これらの推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。具体的には、推定方法1B~3Bのいずれか1つだけを用いる場合には、この推定方法から得られた複数の推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。推定方法1B~3Bのいずれか2つを用いる場合には、2つの推定方法から得られたすべての推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。推定方法1B~3Bのすべてを用いる場合には、3つの推定方法から得られたすべての推定値を平均することにより、最終的な推定値を算出する。
【0078】
本実施形態では、推定方法1B~3Bに着目しているが、これに限るものではない。具体的には、第1実施形態で説明した推定方法1A~3Aを組み合わせて、最終炉内状態を推定することもできる。ここで、推定方法1A又は1Bと、推定方法2A又は2Bと、推定方法3A又は3Bとを任意に組み合わせることができる。
【0079】
(ブロック構成及び処理)
炉内状態を推定するブロック構成について、図7を用いて説明する。
【0080】
第1推定部11は、上述した図1に示す処理を行ったり、図4に示す処理を行ったりする。第1推定部11は、推定した初期炉内状態に関する情報を最終推定部10に送信する。第2推定部12は、上述した図2に示す処理を行ったり、図5に示す処理を行ったりする。第2推定部12は、推定した初期炉内状態に関する情報を最終推定部10に送信する。第3推定部13は、上述した図3に示す処理を行ったり、図6に示す処理を行ったりする。第3推定部13は、推定した初期炉内状態に関する情報を最終推定部10に送信する。
【0081】
最終推定部10は、第1推定部11、第2推定部12及び第3推定部13の少なくとも1つから受信した複数の初期炉内状態に基づいて最終炉内状態を推定する。
【0082】
なお、図1図6で説明した処理(いわゆる機能)は、プログラムによって実現可能である。具体的には、各機能を実現するために予め用意されたコンピュータプログラムを補助記憶装置に格納しておき、CPU等の制御部が補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置に読み出し、主記憶装置に読み出されたプログラムを制御部が実行することにより、各機能を動作させることができる。各機能は、1つの制御装置で動作させることもできるし、互いに接続された複数の制御装置によって動作させることもできる。
【0083】
上記プログラムは、コンピュータで読取可能な記録媒体に記録された状態において、コンピュータに提供することも可能である。記録媒体としては、CD-ROM等の光ディスク、DVD-ROM等の相変化型光ディスク、MO(Magnet Optical)やMD(Mini Disk)などの光磁気ディスク、フロッピー(登録商標)ディスクやリムーバブルハードディスクなどの磁気ディスク、コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア、SDメモリカード、メモリスティック等のメモリカードが挙げられる。また、本発明の目的のために特別に設計されて構成された集積回路(ICチップ等)等のハードウェア装置も記録媒体として含まれる。
【実施例0084】
炉容積が5000m級であり、還元材比が500kg/pig-tである高炉を対象とし、最終炉内状態としてSLC量(ソリューションロスカーボン量)を推定した。図8には、推定値としてのSLC量と、実測値としてのSLC量とに基づいて、RMSEを算出した結果を示す。推定値としては、従来方法と、推定方法1Aと、推定方法2Aと、推定方法3Aと、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法とに基づいて推定した値を示す。従来方法では、実測値を数学モデルの初期値として用いた。
【0085】
推定方法1Aでは、SLC量に関する不安定スコアSnが閾値Sth以上となったため、原料粒度及び原料RIについて複数の初期値を設定した。ここで、複数の初期値は、上述したように平均値Mave及び標準偏差σに基づいて設定した。そして、各初期値に基づいて数学モデルによって初期炉内状態(SLC量)を推定した後、複数の初期炉内状態(SLC量)を平均することによって、最終炉内状態(SLC量)を推定した。
【0086】
推定方法2Aでは、コークスガス化反応式の係数について、調整量ΔPcが閾値ΔPth以上となったため、コークス反応性及びコークス粒度について、複数の初期値を設定した。ここで、複数の初期値は、上述したように平均値Mave及び標準偏差σに基づいて設定した。そして、各初期値に基づいて数学モデルによって初期炉内状態(SLC量)を推定した後、複数の初期炉内状態(SLC量)を平均することによって、最終炉内状態(SLC量)を推定した。
【0087】
推定方法3Aでは、原料性状に関するデータと熱レベルに関するデータのそれぞれについて、再現率Rcが閾値Rth以下となったため、原料粒度、原料RI、原料RDI、熱負荷、溶銑温度、溶銑Siについて、複数の初期値を設定した。ここで、複数の初期値は、上述したように平均値Mave及び標準偏差σに基づいて設定した。そして、各初期値に基づいて数学モデルによって初期炉内状態(SLC量)を推定した後、複数の初期炉内状態(SLC量)を平均することによって、最終炉内状態(SLC量)を推定した。
【0088】
図8によれば、推定方法1Aと、推定方法2Aと、推定方法3Aと、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法とのいずれであっても、従来方法と比べて、SLC量に関するRMSEが低くなった。すなわち、従来方法と比べて、最終炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避することができた。ここで、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法については、SLC量に関するRMSEが最も低くなった。
【0089】
一方、所定期間内において、推定方法1A~3Aによる推定値が時間の経過に応じて変化する方向と、実測値が時間の経過に応じて変化する方向とを確認した。ここで、推定値及び実測値のすべての変化方向に対して、推定値が変化する方向と実測値が変化する方向とが同一方向であるときの割合(以下、「同一変化割合」という)[%]を算出した。この同一変化割合が高いほど、実測値が変化する方向に沿って推定値が変化しやすくなっていることを意味する。
【0090】
図9には、従来方法と、推定方法1Aと、推定方法2Aと、推定方法3Aと、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法とについて、上述した同一変化割合を示す。図9によれば、推定方法1Aと、推定方法2Aと、推定方法3Aと、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法とのいずれであっても、従来方法と比べて、同一変化割合が高くなった。すなわち、従来方法と比べて、最終炉内状態が実際の炉内状態から大きくずれてしまうことを回避することができた。ここで、推定方法1A~3Aを組み合わせた方法については、同一変化割合が最も高くなった。
【符号の説明】
【0091】
10:最終推定部、11:第1推定部、12:第2推定部、13:第3推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9