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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131337
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】高強度コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/26 20060101AFI20240920BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20240920BHJP
   B21B 37/76 20060101ALI20240920BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240920BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240920BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B21C47/26 A
B21B1/26 E
B21B37/76 A
C22C38/00 301W
C21D9/46 S
C22C38/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041541
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】比護 剛志
(72)【発明者】
【氏名】玉木 克尚
(72)【発明者】
【氏名】小倉 良太
(72)【発明者】
【氏名】石井 誠也
(72)【発明者】
【氏名】森 伸子
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
【テーマコード(参考)】
4E002
4E026
4E124
4K037
【Fターム(参考)】
4E002AD04
4E002BD03
4E002BD07
4E002CA08
4E002CB05
4E026AA03
4E026BA04
4E026EA09
4E124AA07
4E124BB07
4E124BB08
4E124EE14
4E124FF01
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB09
4K037FB00
4K037FC04
4K037FC05
4K037FD06
4K037FD08
4K037FE02
4K037FE03
4K037GA05
4K037HA05
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、高強度かつ表面疵及び内巻き垂れが抑制されたコイルであって、冷間加工が可能なコイルを製造することができる高強度コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る高強度コイルの製造方法は、質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ1.0mm以上4.0mm以下に圧延して鋼帯を製造する熱間圧延工程と、鋼帯を冷却する冷却工程と、冷却工程後の鋼帯を巻き取る巻取り工程と、を含み、冷却工程では、鋼帯の先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ1.0mm以上4.0mm以下に圧延して鋼帯を製造する熱間圧延工程と、
前記鋼帯を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後の前記鋼帯を巻き取る巻取り工程と、を含み、
前記冷却工程では、前記鋼帯の先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留する、高強度コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの製造において、熱間圧延後の鋼帯は、仕上げ圧延機からランアウトテーブルと呼ばれる搬送装置で搬送され、巻取り装置によりマンドレルに巻き取られてコイルとされる。ランアウトテーブルによる鋼帯の搬送中に、冷却装置により鋼帯は冷却される。このようなコイルの製造について様々な技術開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼素材に熱間圧延を施す熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程で得られた厚肉高強度熱延鋼板を冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された前記熱延鋼板をコイル状に巻取る巻取工程とを有し、前記熱間圧延工程での仕上げ圧延終了温度が790℃以上であり、前記仕上げ圧延終了後の前記熱延鋼板を前記冷却工程で冷却し、前記熱延鋼板の温度が600℃以下になってから5秒以内に前記巻取工程で400℃以上で巻取ることを特徴とする厚肉高強度熱延鋼板の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の技術は、厚肉の高強度熱延鋼板をコイルとしたときに生じる外周の巻き緩みを抑制する技術である。
【0004】
特許文献2には、熱延コイルによる圧延材の巻き取り温度を、熱延コイルの外径寸法に応じて調節し、内巻き部分よりも外巻き部分を高くすることによって、外巻き部分の熱収縮量を内巻き部分より大きくし、冷却に起因する巻き緩みを相殺的に抑制する熱延コイルの製造方法が開示されている。特許文献2に記載の技術は、冷却に起因するコイル全体の巻き緩みを抑制する技術である。
【0005】
特許文献3には、鋼板巻取り装置で鋼板を巻き取る方法において、巻き取られる鋼板の巻取り先端から巻取られ積層される厚さの40mm以上に相当する部分を、残りの部分よりも40~80℃低い温度に冷却して巻き取る熱延鋼板の巻取方法が開示されている。特許文献3に記載の技術は、巻き始めに発生するすりかき疵を防止する技術である。
【0006】
特許文献4には、Cを0.01~0.025%、Mnを0.05~0.2%、Pを0.015%以下、Sを0.004~0.015%、Alを0.05~0.15%、Nを0.0025%以下とした鋼を熱延し、640~700℃で巻取る際にコイル両端部各長さ3%以上の部分の巻取温度を680~850℃とし、巻緩みがないようにして、端部の冷却速度が550℃以上の温度から3℃/分以下にする熱延原板の製造方法が開示されている。特許文献4に記載の技術は、コイル長手方向の先端及び後端部の材質劣化を防止する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-69278号公報
【特許文献2】特開平8-323417号公報
【特許文献3】特開平7-124621号公報
【特許文献4】特開平5-43946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、マンドレルから抜き取られたコイルの内周部では、内巻き垂れが生じることがある。内巻き垂れとは、図1に示すように、コイルの内周部における高強度鋼帯が垂れ下がる現象である。内巻き垂れが発生すると、巻直し又は内巻き垂れ箇所の切断が必要になるため、工程増やガスカットによる歩留まり低下につながる。そのため、内巻き垂れのないコイルを製造する方法が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高強度であり、かつ、材質劣化、表面疵及び内巻き垂れが抑制されたコイルであって、冷間加工が可能なコイルを製造することが可能なコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
コイルの内周部における内巻き垂れの発生について本発明者らが検討したところ、本発明者らは、内巻き垂れは高張力鋼帯の製造時の巻き取りにおいて頻繁に発生するという知見を得た。高張力鋼帯のコイルにおける内巻き垂れの発生機構について、本発明者らは以下のように考えている。普通鋼や590MPa級の高張力鋼では、ランアウトテーブルによる搬送中の冷却によって変態が完了し、ランアウトテーブルによる搬送時に高強度鋼帯に付与された張力により、高強度鋼帯は平坦に拘束されたまま巻き取られる。一方、例えば780MPa級以上の高張力鋼では、ランアウトテーブルにおいて変態が完了しておらず、巻取り及びその後においても徐冷されることで変態が完了していることが分かった。金属組織の変態時には高強度鋼帯の変形抵抗が著しく低下する。巻取り完了後、マンドレルをコイルから引き抜いた後、コイルの内周部に位置する高強度鋼帯には自重により応力が作用するため、コイル内周部の変態が完了していない高強度鋼帯に変態塑性変形が生じる。その結果、内巻き垂れが生じると考えられる。
【0011】
本発明者らは、上記考察に基づき、内巻き垂れを抑制することについて検討を重ねた結果、熱間圧延の最終圧延パスから巻取りまでの間に、コイルの内側に位置する部分の変態を促進させることで、内巻き垂れを抑制可能であることが分かった。
【0012】
上記知見に基づきなされた本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係る高強度コイルの製造方法は、質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ1.0mm以上4.0mm以下に圧延して鋼帯を製造する熱間圧延工程と、前記鋼帯を冷却する冷却工程と、前記冷却工程後の前記鋼帯を巻き取る巻取り工程と、を含み、前記冷却工程では、前記鋼帯の先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高強度であり、かつ、材質劣化、表面疵及び内巻き垂れが抑制されたコイルであって、冷間加工が可能なコイルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】高強度コイルに生じる内巻き垂れを示す模式図である。
図2】熱間圧延設備の構成の概略を示す概略構成図である。
図3】巻取り装置の概略を示す概略構成図である。
図4】恒温変態図の一例である。
図5】最終圧延パスからの経過時間tと、高強度鋼帯先端部の温度T及び変態率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<熱間圧延設備>
本発明の一実施形態に係る高強度コイルの製造方法の説明に先立ち、図2、3を参照して、本実施形態に係る高強度コイルの製造方法を適用可能な熱間圧延設備の構成例を説明する。図2は、熱間圧延設備の構成の概略を示す概略構成図である。図3は、巻取り装置の概略を示す概略構成図である。
【0017】
図2に示す熱間圧延設備10は、加熱炉11から排出され粗圧延機12で粗圧延された鋼帯Sを所定の厚さに熱間圧延する仕上圧延機13、仕上げ圧延後の鋼帯Sを所定温度まで冷却する冷却装置14、冷却された鋼帯Sを巻き取る巻取り装置15を、鋼帯Sの搬送方向にこの順で備える。仕上圧延機13と巻取り装置15との間には、鋼帯Sを搬送するランアウトテーブル16が設けられている。仕上圧延機13で圧延された鋼帯Sは、ランアウトテーブル16上で搬送中に冷却装置14によって冷却され、巻取り装置15に巻き取られて熱延コイルCが製造される。
【0018】
粗圧延機12は、複数の粗圧延スタンド、例えば、図2に示すように第1スタンドR1~第3スタンドR3の3つの粗圧延スタンドから構成されている。また、粗圧延機12の下流に位置する仕上圧延機13は、複数の仕上圧延スタンド、例えば、図2に示すように第1スタンドF1~第6スタンドF6の6つの仕上圧延スタンドから構成されている。なお、各圧延スタンドにはそれぞれ上下一対の圧延ロール(ワークロール)やバックアップロール等が設けられているが、これら各圧延スタンド等の構成は公知であるため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0019】
冷却装置14は、ランアウトテーブル16上の鋼帯Sを冷却する。冷却装置14は、冷却時間、冷却温度等の冷却条件を制御する。例えば、ランアウトテーブル16上の鋼帯Sへの注水量、注水時間等を制御して鋼帯Sを冷却する。
【0020】
巻取り装置15は、図3に示すように、ピンチロール151、シュート152、マンドレル153、及び、複数のラッパーロール154を備えている。
【0021】
巻取り装置15では、鋼帯Sの進行方向をピンチロール151でマンドレル153の方向に変更し、シュート152を通過させる。ここで、鋼帯Sの先端がマンドレル153に到達する前までは、ラッパーロール154は閉、言い換えるとラッパーロール154とマンドレルとが接触しており、互いに鋼帯Sの速度よりも数%増速した速度で回転しながら待機している。そして、鋼帯Sがマンドレル153とラッパーロール154に到達すると、マンドレル153とラッパーロール154で鋼帯Sを挟み込みながら巻き取る。鋼帯Sが所定の巻き数だけ巻き取られると、マンドレル153は拡大を始め、拡大する力と熱延コイルCが巻き締まる力とが釣り合うところで径の拡大を停止し、ラッパーロール154は開となりコイルCから離れていく。巻取り完了後、マンドレル153はコイルCから引き抜かれる。
ここまで、熱間圧延設備10を説明した。なお、上述したとおり、本実施形態におけるコイルは、熱間圧延後の鋼帯が巻き取られて製造されたコイルである。したがって、以下では、熱間圧延後のコイルを、単に「コイル」又は「熱間圧延コイル」と呼称することがある。
【0022】
<高強度コイルの製造方法>
続いて、本実施形態に係る高強度コイルの製造方法を説明する。本実施形態に係る高強度コイルの製造方法は、質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ1.0mm以上4.0mm以下に圧延して鋼帯を製造する熱間圧延工程と、前記鋼帯を冷却する冷却工程と、前記冷却工程後の前記鋼帯を巻き取る巻取り工程と、を含み、前記冷却工程では、前記鋼帯の先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留する。
【0023】
[熱間圧延工程]
熱間圧延工程では、質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を圧延して厚さ1.0mm以上4.0mm以下の鋼帯を製造する。なお、以下では、組成における質量%は単に%と記す。
【0024】
C(炭素)は、鋼の強度を向上させ、延性を向上させる残留オーステナイトを安定化させる元素である。C含有量が0.15%未満では引張強度の確保が困難である。したがって、C含有量は0.15%以上である。C含有量は、好ましくは0.16%以上である。一方、C含有量が0.22%超であると、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で巻取り後に変態が進行し、内巻き垂れが発生する。したがって、C含有量は0.22%以下である。C含有量は、好ましくは0.20%以下である。
【0025】
Si(ケイ素)は、固溶強化により鋼板の強度を増大させるのに有用な元素である。また、Siはフェライト変態を早期化させる一方、Si含有量が過剰であると、表面のスケール疵が発生する。一方で、内巻き垂れの抑制と強度とのバランスを保つためにSiの含有は重要であるが、Si含有量が2.00%超では、スケール疵が発生する。したがって、Si含有量は2.00%以下である。Si含有量は、好ましくは1.80%以下である。一方、Si含有量が過少であると、強度不足が生じる。したがって、Si含有量は1.50%以上である。Si含有量は、好ましくは1.60%以上である。
【0026】
Mn(マンガン)は、焼入れ性を高めるために有効な元素である。Mn含有量が2.30%未満では焼入れ性を高める効果が十分には発現されず十分な強度が得られない。したがって、Mn含有量は2.30%以上である。Mn含有量は、好ましくは2.40%以上である。一方、Mn含有量が3.00%超であると、コイル内での変態が遅延するため、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で変態が進行し、内巻き垂れが発生する。したがって、Mn含有量は3.00%以下である。Mn含有量は、好ましくは2.90%以下である。
【0027】
P(リン)は、粒界に偏析して粒界強度を低下させ、靱性を劣化させる。また、P含有量が過剰であると、材質不良となる。具体的には、主に低温域での靭性が低下する。したがって、P含有量は0.015%以下である。P含有量は、好ましくは0.008%以下である。一方、P含有量は低減させることが望ましいが、P含有量を著しく低減しようとすると、コスト増を招く。したがって、P含有量は0.001%以上である。P含有量は、好ましくは0.003%以上である。
【0028】
S(硫黄)は、熱間加工性及び靭性を劣化させる。また、S含有量が過剰であると、材質不良となる。具体的には、水素や引張り応力環境下での脆性破壊の起点となる。したがって、S含有量は0.015%以下である。S含有量は、好ましくは0.010%以下である。一方、S含有量は低減させることが望ましいが、S含有量を著しく低減しようとすると、コスト増を招く。したがって、S含有量は0.001%以上である。S含有量は、好ましくは0.002%以上である。
【0029】
Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、及びV(バナジウム)は、コイルの強度を向上させる。一方、これらの元素が過剰に含有すると、かえって強度が低下する。したがって、コイル及びその材料である鋼材は、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有する。
【0030】
残部は、Fe及び不純物である。不純物としては、鋼原料又はスクラップ、製鋼過程で不可避的に混入する元素であり、例えば、N、As、Cu、Sn等が例示される。不純物の含有量は、要求されるコイルの特性を阻害しない範囲で許容される。
【0031】
鋼材の成分が上記含有量の元素を含有することで、高強度の鋼帯を製造することができる。鋼帯の強度は、例えば、熱間圧延コイルに巻き取られた後の酸洗、冷延、熱処理、又はめっき等を経た後の製品強度として、780MPa以上、980MPa以上、1180MPa以上、又は1470MPa以上である。
【0032】
さらに、コイルは、所望の特性に応じて、適宜合金元素を含有してもよい。例えば、Al、Cr、Mo、Ni、Cu、B、Ca、Mg、REM(希土類元素)等を含有してもよい。
【0033】
鋼帯の厚さは熱間圧延コイル状態で、1.0mm以上4.0mm以下である。上記成分を有する鋼材は高強度であるため、当該鋼材から1.0mm未満の鋼帯を製造しづらく、生産性が低下する。したがって、鋼帯の厚さは1.0mm以上とする。鋼帯の厚さは、好ましくは1.5mm以上である。一方、鋼帯の厚さを4.0mm超とすると、当該鋼帯をコイルとした後、コイルを構成する鋼帯を冷間圧延しようとしても冷間圧延が困難である。したがって、鋼帯の厚さは4.0mm以下とする。鋼帯の厚さは、好ましくは3.0mm以下である。
【0034】
熱間圧延条件は、特段制限されず、要求される特性等に応じて定められればよい。また、最終圧延パスの温度(FT)は、例えば、900℃以上1100℃以下である。
【0035】
熱間圧延は、例えば、上述した熱間圧延設備10における加熱炉11、粗圧延機12、及び仕上圧延機13により行われる。
【0036】
[冷却工程]
冷却工程では、鋼帯の先端から10mまでの部分(以下では、「鋼帯の先端から10mまでの部分」を「先端部」と呼称することがある。)を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留する。以下にこの理由を説明する。
【0037】
上述した通り、金属組織の変態時には変形抵抗が著しく低下する。マンドレルをコイルから引き抜いた後、コイルの内周部に位置する高強度鋼帯には自重により応力が作用する。そのため、コイル内周部の変態が完了していない高強度鋼帯に変態塑性変形が生じ、内巻き垂れが生じると考えられる。そこで、マンドレルをコイルから引き抜くまでにコイル内周部の変態が進行していれば、内巻き垂れが抑制される。内巻き垂れはコイルの最内周から5巻程度で発生する。そのため、この部分を含むように、鋼帯の先端から10mまでの部分の変態が促進されていればよい。
【0038】
図4に高強度鋼の恒温変態図の一例を示す。図4に示すように、高強度鋼では、550~650℃にノーズが表れる。巻取り前に当該温度域に先端部を滞留させ、先端部の温度変化をノーズにかかるようにすれば、先端部の変態が促進される。ここで、図5に最終圧延パスからの経過時間tと、高強度鋼帯先端部の温度T及び変態率との関係のグラフを示す。図5における実線で示された温度推移は、本実施形態が適用されたときの高強度鋼帯先端部の温度推移の一例であり、破線で示された温度推移は、従来の高強度鋼帯先端部の温度推移の一例である。また、図5における実線で示された変態率の推移は、本実施形態が適用されたときの変態率の推移の一例であり、破線で示された変態率の推移は、従来の変態率の推移の一例である。図5において、0(秒)は最終圧延パス直後の時点であり、CTはコイル巻き取り開始時点を示す。図5に示すように、先端部が550~650℃に滞留する時間を5秒以上にすれば、従来の冷却工程による場合と比較して、巻取り開始時点での先端部の変態率が10%程度向上する。これにより、内巻き垂れを抑制することができる。
【0039】
冷却工程は、例えば、冷却装置14により行われる。
【0040】
[巻取り工程]
巻取り工程では、前記冷却工程後の鋼帯を巻き取る。巻取り方法は特段制限されず、公知の方法で鋼帯を巻き取る。巻取り温度は、例えば、600℃以上750℃以下である。
【0041】
巻取り工程は、例えば上述した巻取り装置15により行われる。
【0042】
ここまで、本実施形態に係る高強度コイルの製造方法を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
例えば、高強度コイルの製造方法を適用可能であれば、用いられる熱間圧延設備は、上述した熱間圧延設備10に限られない。また、熱間圧延設備は、上記以外の構成を有していてもよい。
【実施例0044】
続いて、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1に示す化学成分を有するA1~20の鋼材を用意した。各鋼材を加熱し、粗圧延及び仕上げ圧延を実施して表2に示す目標板厚の鋼帯とし、当該鋼帯を仕上げ圧延機の最終圧延スタンドと巻取り装置の間のランアウトテーブル上で、鋼帯に注水して当該鋼帯を冷却した。このとき、最終圧延パス時の温度(FT)、巻取り温度(CT)、及び鋼帯の先端から10mの部分(先端部)の温度を制御した。表2に、FT、CT、及び先端部の550~650℃の温度範囲への滞留時間を変更した各条件を示す。先端部の温度は、ランアウトテーブル上での先端部への注水量を変更して調整した。製造された各鋼帯の長さは650mであり、各鋼帯は直径700mmのマンドレルに巻き付けられた。巻き付け完了後のコイルをマンドレルから抜き取って冷却を完了させた。なお、表1に示す元素以外の化学成分は、Fe及び不純物である。また、表1~3中の下線は、本発明の範囲外であることを示している。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
冷却完了後のコイルの最小内径dを測定した。コイルの最小内径dは、図1に示すように、コイルの内側において最も小さい径である。コイルの最小内径が650mm以下であると、追加加工を要する程度の内巻き垂れが発生しているため、不合格であるとした。
【0049】
また、強度が500MPa未満であるコイルは不合格であるとした。コイルの強度は以下の方法で判断した。すなわち、板の幅方向を長さとするJIS13号引張り試験片を採取し、JIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行い、得られた公称応力-公称ひずみ曲線の、公称応力の最大値を引張り強度として測定した。
【0050】
また、表面に疵が発生しているコイルは不合格であるとした。疵の有無は以下の方法で判断した。すなわち、鋼板表面の外観を目視観察し、スケールを押し込んだような疵が確認されたコイルを不合格であるとした。
【0051】
また、材質が基準に満たないコイルは不合格であるとした。材質の評価は以下の方法で行った。すなわち、当該コイルをさらに冷間圧延及び熱処理を施した後に、引張強度が780MPaを下回った場合、材質不良として不合格であるとした。ただし、本評価では、冷間圧延及び熱処理後のサンプル板幅方向を長手方向とするJIS13号引張り試験片を採取し、JIS Z2241:2011に準拠して引張試験を行い、公称応力-公称ひずみ線図を測定した際の、公称応力の最大値を引張強度とした。
表3に、各製造条件、コイルの最小内径、及び評価結果を示す。表3における「〇」は、内巻き垂れがなく、強度、表面性状、及び材質が合格であることを示し、「×」は、内巻き垂れが発生している、又は、強度、表面性状、もしくは材質が不合格であることを示している。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、No.3、4、6、9、10、13、14、19、20の例は、質量%で、C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ2.0mmに圧延して鋼帯を製造し、冷却工程において先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留した鋼帯を巻き取って製造されたコイルの例であり、当該コイルは、高強度であって、表面疵及び内巻き垂れが抑制されており、材質が良好であった。
【0054】
一方、No.1、2の例は、先端部の550~650℃の温度範囲の滞留時間が5秒未満であったため、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で変態が進行し、内巻き垂れが発生した。
【0055】
No.5の例は、C含有量が過少であったため、十分な強度が得られなかった。
【0056】
No.7の例は、C含有量が過剰であったため、B4の冷却条件では先端部の変態が完了しておらず、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で変態が進行し、内巻き垂れが発生した。
【0057】
No.8の例は、Si含有量が過少であったため、B4の冷却条件では先端部の変態が完了しておらず、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で変態が進行し、内巻き垂れが発生した。
【0058】
No.11の例は、Si含有量が過剰であったため、表面にスケールが確認された。
【0059】
No.12の例は、Mn含有量が過少であったため、十分な強度が得られなかった。
【0060】
No.15の例は、Mn含有量が過剰であったため、B4の冷却条件では先端部の変態が完了しておらず、コイルをマンドレルから抜き取った後にも先端部で変態が進行し、内巻き垂れが発生した。
【0061】
No.16の例は、P含有量が過剰であったため、靭性の低下が懸念されるため、材質を不合格と判定した。
【0062】
No.17の例は、S含有量が過剰であったため、溶接部への影響が懸念されるため材質を不合格と判定した成分規定から外れる。
【0063】
No.18の例は、Ti含有量、Nb含有量、及びV含有量が過少であったため、十分な強度が得られなかった。
【0064】
No.21の例は、目標厚さが過少であったため、熱間圧延工程において十分な負荷を鋼帯に作用させることができず、所望の厚さが得られなかった。
【0065】
No.22の例は、得られたコイルが厚すぎたため、後工程の冷間圧延において十分な負荷をコイルに作用させることができず、所望の厚さが得られなかった。
【0066】
No.23~25の例は、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有しておらず、十分な強度が得られなかった。
【0067】
C:0.15~0.22%、Si:1.50~2.00%、Mn:2.30~3.00%、P:0.001~0.015%、S:0.001~0.015%、並びに、Ti:0.04~0.10%、Nb:0.03~0.10%、及びV:0.04~0.10%からなる群から選択されるいずれか1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を、厚さ1.0mm及び3.0mmに圧延して鋼帯を製造し、冷却工程において先端から10mまでの部分を550℃以上650℃以下の温度に5秒以上滞留した鋼帯を巻き取って製造されたコイルも、高強度であって、表面疵及び内巻き垂れが抑制されており、材質が良好であった。
【符号の説明】
【0068】
10 熱間圧延設備
11 加熱炉
12 粗圧延機
13 仕上圧延機
14 冷却装置
15 巻取り装置
16 ランアウトテーブル
151 ピンチロール
152 シュート
153 マンドレル
154 ラッパーロール
C コイル
H 鋼板
図1
図2
図3
図4
図5