(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131352
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】係合部付ボルトの締結方法及び係合部付ボルトの締結工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20240920BHJP
F16B 35/04 20060101ALI20240920BHJP
F16B 37/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B25B21/00 540Z
F16B35/04 A
F16B35/04 Z
F16B35/04 Q
F16B37/04 A
F16B37/04 Z
B25B21/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041561
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】501415682
【氏名又は名称】株式会社横井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 隼
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 徹
(72)【発明者】
【氏名】松村 信
(72)【発明者】
【氏名】横井 洋治
(72)【発明者】
【氏名】横井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】柳田 和輝
(57)【要約】
【課題】係合部付ボルトを一方側から容易かつ確実に締め付けられるようにする。
【解決手段】第1被固定部材31及び第2被固定部材32の貫通孔に第1被固定部材31側から係合部付ボルト1を挿通し、係合部付ボルト1の先端に第2被固定部材32側から緩み止めナット10を仮止めし、緩み止めナット10側からアウタ部材24の先端を挿入し、インナ部材25の先端を係合部付ボルト1の第2係合部6に当接させ、電動工具21の回転軸21aを第1回転速度で所定時間回転させ、係合部付ボルトを螺進させてインナ部材25の先端を係合部付ボルト11の第2係合部6に係合させ、所定時間の経過後、第1回転速度よりも高速の第2回転速度で係合部付ボルト11を螺進させ、第1被固定部材31及び第2被固定部材32を締め付けると共に、ナット10の緩み止め部11に係合部付ボルト1の第1係合部5を係合させて緩み止めする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具で掴んで締付可能なボルト頭部と、該ボルト頭部に連続する棒状のボルト本体と、該ボルト本体の先端側の雄ネジ部と、該雄ネジ部の先端における、周方向に間隔を開けて設けた緩み止め凸部を有する第1係合部と、該第1係合部の更に先端に設けた、工具係合用凸部を有する第2係合部とを備える係合部付ボルト、
上記係合部付ボルトの雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を備えると共に、上記第1係合部の緩み止め凸部に係合し、該係合部付ボルトを緩み止めする緩み止め部を有する緩み止めナット、及び、
基端側が電動工具に固定され、該電動工具の回転軸の半径方向に距離を空けて配置され、先端側で係合部付ボルトに仮止めされたナットを回り止めする筒状のアウタ部材と、該アウタ部材の内部に径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記回転軸に回転一体に固定され、先端側が上記係合部付ボルトの先端の係合部に係合するインナ部材とを備える係合部付ボルトの締結工具を準備する準備工程と、
第1被固定部材及び第2被固定部材の貫通孔に該第1被固定部材側から上記係合部付ボルトを挿通し、上記係合部付ボルトに上記第2被固定部材側から上記緩み止めナットを仮止めする仮止め工程と、
上記緩み止めナット側から上記締結工具のアウタ部材の先端を挿入し、上記インナ部材の先端を上記係合部付ボルトの第2係合部に当接させるボルトセット工程と、
上記電動工具の回転軸を第1回転速度で所定時間回転させ、上記係合部付ボルトを螺進させて上記インナ部材の先端を上記係合部付ボルトの第2係合部に係合させるボルト係合工程と、
上記所定時間の経過後、上記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で上記係合部付ボルトを螺進させ、上記第1被固定部材及び上記第2被固定部材を締め付けると共に、上記ナットの緩み止め部に上記係合部付ボルトの第1係合部の緩み止め凸部を係合させて緩み止めする締結工程とを含む
ことを特徴とする係合部付ボルトの締結方法。
【請求項2】
基端側が電動工具に固定され、該電動工具の回転軸の半径方向に距離を空けて配置され、先端側で係合部付ボルトに仮止めされたナットを回り止めする筒状のアウタ部材と、
上記アウタ部材の内部に径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記回転軸に回転一体に固定され、先端側が上記係合部付ボルトの先端の工具用係合部に係合するインナ部材と、
上記電動工具の回転軸を第1回転速度で所定時間回転させ、上記係合部付ボルトを螺進させて該係合部付ボルトの先端を上記インナ部材の先端に係合させ、上記所定時間経過後、上記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で上記係合部付ボルトを螺進させて被固定部材を締結するように上記電動工具の回転速度を自動で切り換える制御部とを備える
ことを特徴とする係合部付ボルトの締結工具。
【請求項3】
上記インナ部材が、上記係合部付ボルトの工具用係合部を軸方向に進退可能に支持する被係合孔を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の係合部付ボルトの締結工具。
【請求項4】
上記インナ部材の先端の被係合孔は、多角形状であり、該被係合孔の内周面の各辺には、前記係合部付ボルトの第2係合部の導入を促す傾斜部が形成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の係合部付ボルトの締結工具。
【請求項5】
上記アウタ部材が、上記電動工具に上記回転軸と径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記電動工具の本体に固定される脚部を備えている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の係合部付ボルトの締結工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄ネジ部の先端に係合部を有する係合部付ボルトの締結方法及び係合部付ボルトの締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被締結部材間をボルト及びナットで締結する際に、被締結部材間に仮止めされたボルト及びナットの締付を一方の被締結部材側からのみ行うことが可能ないわゆる「ワンサイドボルト」というものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ワンサイドボルトの締結工具には、特許文献2及び3のようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2723493号公報
【特許文献2】特開昭47-24698号公報
【特許文献3】特表2021-511220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2及び3の締結工具は、電動工具の先端に取り付け、ボルト側に回転力を与えられるものであるが、特に、特許文献2のものでは、電動工具との取付構造が複雑で汎用品として使用しにくい。また、ボルト先端の係合部を保持するインナ部材も汎用品として使用しにくい。
【0006】
更に、いずれの締結工具でもインナ部材にボルト先端の係合部が確実に係合されたかどうかを確認するのが難しい。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で電動工具を用いて係合部付ボルトを一方側から容易かつ確実に締め付けられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、締付対象のナットを回り止めするアウタ部材と、係合部付ボルトの第2係合部に係合するインナ部材とを設け、電動工具の回転力を係合部付ボルトに伝達して回転させるようにし、特にインナ部材を第2係合部に係合させる速度の調整を行った。
【0009】
具体的には、第1の発明の係合部付ボルトの締結方法では、
工具で掴んで締付可能なボルト頭部と、該ボルト頭部に連続する棒状のボルト本体と、該ボルト本体の先端側の雄ネジ部と、該雄ネジ部の先端における、周方向に間隔を開けて設けた緩み止め凸部を有する第1係合部と、該第1係合部の更に先端に設けた、工具係合用凸部を有する第2係合部とを備える係合部付ボルト、
上記係合部付ボルトの雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を備えると共に、上記第1係合部の緩み止め凸部に係合し、該係合部付ボルトを緩み止めする緩み止め部を有する緩み止めナット、及び、
基端側が電動工具に固定され、該電動工具の回転軸の半径方向に距離を空けて配置され、先端側で係合部付ボルトに仮止めされたナットを回り止めする筒状のアウタ部材と、該アウタ部材の内部に径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記回転軸に回転一体に固定され、先端側が上記係合部付ボルトの先端の係合部に係合するインナ部材とを備える係合部付ボルトの締結工具を準備する準備工程と、
第1被固定部材及び第2被固定部材の貫通孔に該第1被固定部材側から上記係合部付ボルトを挿通し、上記係合部付ボルトに上記第2被固定部材側から上記緩み止めナットを仮止めする仮止め工程と、
上記緩み止めナット側から上記締結工具のアウタ部材の先端を挿入し、上記インナ部材の先端を上記係合部付ボルトの第2係合部に当接させるボルトセット工程と、
上記電動工具の回転軸を第1回転速度で所定時間回転させ、上記係合部付ボルトを螺進させて上記インナ部材の先端を上記係合部付ボルトの第2係合部に係合させるボルト係合工程と、
上記所定時間の経過後、上記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で上記係合部付ボルトを螺進させ、上記第1被固定部材及び上記第2被固定部材を締め付けると共に、上記ナットの緩み止め部に上記係合部付ボルトの第1係合部の緩み止め凸部を係合させて緩み止めする締結工程とを含む構成とする。
【0010】
上記の構成によると、仮止めした状態の係合部付ボルト及び緩み止めナットをアウタ部材及びインナ部材の先端側でそれぞれ固定した状態で、電動工具の回転軸を回転させることにより、係合部付ボルトの雄ネジ部が緩み止めナットの雌ネジ部を螺進させるようにして第1被固定部材と第2被固定部材とを確実に固定すると共に、緩み止め凸部と緩み止め部との緩み止め効果が得られる。そして、インナ部材の先端を係合部付ボルトの第2係合部に係合させるボルト係合工程で電動工具の回転数が抑えられているので、確実にインナ部材の先端と第2係合部との係合が行われる。係合後は、通常通りの、より速い回転速度で係合部付ボルトの締結を行える。
【0011】
第2の発明では、基端側が電動工具に固定され、該電動工具の回転軸の半径方向に距離を空けて配置され、先端側で係合部付ボルトに仮止めされたナットを回り止めする筒状のアウタ部材と、
上記アウタ部材の内部に径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記回転軸に回転一体に固定され、先端側が上記係合部付ボルトの先端の工具用係合部に係合するインナ部材と、
上記電動工具の回転軸を第1回転速度で所定時間回転させ、上記係合部付ボルトを螺進させて該係合部付ボルトの先端を上記インナ部材の先端に係合させ、上記所定時間経過後、上記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で上記係合部付ボルトを螺進させて被固定部材を締結するように上記電動工具の回転速度を自動で切り換える制御部とを備える構成とする。
【0012】
上記の構成によると、アウタ部材の先端でナットを回り止めしながら、インナ部材の先端に第2係合部が係合された係合部付ボルトを回転させることで、電動工具を利用して容易かつ確実に係合部付ボルトをナットに締結することができる。そして、制御部によって、インナ部材の先端を係合部付ボルトの第2係合部に係合させるボルト係合工程で電動工具の回転数が抑えられているので、確実にインナ部材の先端と第2係合部との係合が行われる。係合後は、通常通りのより速い回転速度で係合部付ボルトの締結を行える。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、
上記インナ部材が、上記係合部付ボルトの係合部を軸方向に進退可能に支持する被係合孔を有する。
【0014】
上記の構成によると、電動工具により係合部付ボルトを螺進させるときに、アウタ部材でナットを固定したまま、係合部が被係合孔内を進むので、係合部付ボルトが螺進するのを妨げない。
【0015】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、
上記インナ部材の先端の被係合孔は、多角形状であり、該被係合孔の内周面の各辺には、前記係合部付ボルトの第2係合部の導入を促す傾斜部が形成されている。
【0016】
上記の構成によると、電動工具の回転力が多角形状の被係合孔の内周面の各辺に設けた導入用傾斜部によって、第2係合部がインナ部材の被係合孔に係合し易くなるように効果的に伝達される。
【0017】
第5の発明では、第2から第4のいずれか1つの発明において、
上記アウタ部材が、上記電動工具に上記回転軸と径方向に間隔を開けて配置され、基端側が上記電動工具の本体に固定される脚部を備えている。
【0018】
上記の構成によると、脚部を利用して各種電動工具に容易かつ確実な取り付けが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、締付対象のナットを回り止めするアウタ部材と、係合部付ボルトの第2係合部に係合するインナ部材とを設け、電動工具の回転力を係合部付ボルトに伝達して回転させ、インナ部材の先端を第2係合部に係合させるときには低速で、その後は通常の回転速度で回転させるようにしたので、簡単な構成で電動工具を用いて係合部付ボルトを一方側から容易かつ確実に締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】係合部付ボルトの締結工具が固定された電動工具を示す正面図である。
【
図2】係合部付ボルトの締結工具が固定された電動工具を示す側面図である。
【
図3】係合部付ボルトを示し、(a)が左側面図で、(b)が正面図で、(c)が右側面図である。
【
図4】緩み止めナットが係合部付ボルトに締結されて緩み止められた状態を示す正面図である。
【
図5】緩み止めナットが係合部付ボルトに仮止めされた状態を示す正面図である。
【
図6】緩み止めナットを示し、(a)が左側面図で、(b)が正面図で、(c)が右側面図である。
【
図7】係合部付ボルトの締結工具に係合部付ボルト及び緩み止めナットが取り付けられた様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
-係合部付ボルトの構成-
図3は本発明の実施形態に係る係合部付ボルト1を示し、この係合部付ボルト1は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などが含有される強化繊維合成樹脂などの強化繊維樹脂製の一体成形品よりなる。合成樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。このように、係合部付ボルト1が強化繊維樹脂製の一体成形品よりなるので、複雑な形状でも容易に比較的剛性の高いボルトを成形できるようになっている。
【0023】
係合部付ボルト1は、トルクレンチなどの工具で掴んで締付可能な、例えば、六角のボルト頭部2を備えている。これは、六角穴付頭部でもよい。
【0024】
係合部付ボルト1は、ボルト頭部2に連続する棒状のボルト本体3を有し、本実施形態では、このボルト本体3は、凹凸のない円柱状部分と、先端側の雄ネジ部4とを有する。
【0025】
そして、この雄ネジ部4の先端には、周方向に間隔を開けて設けた緩み止め凸部5aを有する第1係合部5を備える。この緩み止め凸部5aは、ボルト本体3の長手方向に延び、周方向に等間隔に並ぶ突条を構成している。
【0026】
緩み止め凸部5aは、
図3(c)に一部拡大して示すように、同形同大の断面略三角形をした外歯爪車で構成されている。具体的には、この外歯爪車は、ボルト本体3の軸心と同一仮想面内に含まれる外側噛み合い面5bと、この外側噛み合い面5bの先端から緩み止めナット10の締付方向側に向かって外側噛み合い面5bに対して傾斜する外側テーパ面5cとを備えている。外歯爪車により、締付方向には回転を許容し、緩み方向には回転を阻止する最適な緩み止め凸部5aが得られる。なお、この外側噛み合い面5bに嵌合する緩み止めナット10の緩み止め部11については後述する。
【0027】
この第1係合部5の更に先端には、後述する締結工具20のインナ部材25の先端が係合する工具係合用凸部6aを有する第2係合部6が設けられている。この第2係合部6は、例えば、角部が工具係合用凸部6aを構成する正六角柱である。但し、工具が係合可能であれば、三角柱、四角柱等でもよい。断面多角形状の第2係合部6であれば、レンチやペンチなどの工具で締付が容易である。
【0028】
本実施形態では、第2係合部6の先端には、先端に向かって先細になるテーパ部6bが形成されている。テーパ部6bは、正六角柱状の先端の各辺をC面取りすることで形成されている。面取り量は、雄ネジ部4のボルト呼び径に対し、10%以上20%以下の大きさが望ましい。10%よりも小さくても20%よりも大きくても工具導入効果が減るためである。例えば、M12でC2の面取りが行われ、M16でC3の面取りが行われる。
【0029】
この面取りは、係合部付ボルト1の一体成形後に面取り加工してもよいが、一体成形時に同時に成形するのが、製造が容易で望ましい。
【0030】
なお、テーパ部6bは、鉛筆のように丸く削ったようなテーパ面で構成してもよい。その場合も、先端は尖っている必要はない。
【0031】
また、テーパ部6bは、ボルト軸に対して対象な形状が望ましいが、工具の形状に合わせて偏心していたり、非対称であったりしてもよい。
【0032】
図3(c)に示すように、緩み止め凸部5aの周方向ピッチP1は、第2係合部6の工具係合用凸部6aの周方向ピッチP2(すなわち、六角柱の頂点間の距離)よりも小さい(P1<P2)。このように、緩み止め部11の周方向ピッチP1を小さくすることで、緩み止め効果を向上させ、工具係合用凸部6aの周方向ピッチP2を大きくすることで、工具のトルクを伝達し易くすることができるようになっている。
【0033】
図3(b)に拡大して示すように、第1係合部5の最大外径D1が第2係合部6の最大外径D2よりも大きい(D1>D2)。そして、第1係合部5と第2係合部6との間に段差部7が設けられている。
【0034】
このように、両係合部5,6の間に段差部7を設けることで、第2係合部6に係合した工具により第1係合部5に傷が付くのを防ぐことができるようになっている。段差部7の大きさは、特に限定されないが、小さすぎると効果が低くなる。また、図示するように、第1係合部の最大径D1が、雄ネジ部の最大径D3よりも小さく、第2係合部の最大径D2よりも大きくなっている(D2<D1<D3)。
【0035】
-係合部付ボルトの締結工具の構成-
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、上述した係合部付ボルト1を締結するために専用の締結工具20が用いられる。本発明の締結工具20は、基端側が電動工具21に固定され、この電動工具21の回転軸21aの半径方向に距離を空けて配置され、先端側で係合部付ボルト1に仮止めされた緩み止めナット10を回り止めする筒状のアウタ部材24を備えている。具体的には、アウタ部材24は、基端側が電動工具21の本体に固定され、先端側が円盤状のフランジ部23の脚部取付孔23cに固定される、例えば、4本の脚部22を備えている。脚部22は、それぞれ周方向に90°空けて配置され、それぞれが、電動工具21の回転軸21aから径方向に十分な間隔を保っている。この脚部22を利用して電動工具21に取り付けることで、電動工具21の形状が異なる場合でも、比較的容易かつ確実な取り付けが可能となる。
【0036】
図2に一部拡大して示すように、アウタ部材24は、断面正六角形筒状であり、その基端部は、フランジ部23の貫通孔23aに挿入され、その面取部24cが貫通孔23aに形成した平坦面23bに当接し、その平坦面23bにおいて、図示しない締結部材等で固定されている。アウタ部材24は、例えば樹脂成形品よりなる。
【0037】
アウタ部材24の先端側には、断面正六角形状のナット用貫通孔24bが設けられており、このナット用貫通孔24bに後述する緩み止めナット10を嵌合可能となっている。
【0038】
アウタ部材24の先端のナット用貫通孔24bの内周面の各辺には、緩み止めナット10の導入を促す導入用傾斜部24dが形成されている。具体的には、
図2A及び
図2Bに示すように、ナット用貫通孔24bは、正六角形であり、その各辺が緩み止めナット10が当接後、緩み止めナット10がナット用貫通孔24bに嵌まり込むように、軸方向に向かって徐々に傾斜する機械加工が施されている。なお、各辺の間はキリ孔24eを設けることで、導入用傾斜部24dの機械加工が容易となっている。各辺に形成された導入用傾斜部24dの傾斜は、軸方向だけでなく、各辺に沿って時計回りあるいは半時計周りに形成すると、導入効果が高まり、より好ましい。
【0039】
図7に示すように、アウタ部材24の例えば上面側には、アウタ部材24に回り止めされた緩み止めナット10及び係合部付ボルト1の先端側を露出させる開口部24aが設けられている。なお、このような開口部は、下面側にも設けてもよい。下面側にも設けることで、作業性が向上する。
【0040】
アウタ部材24の内部には、径方向に間隔を開けてインナ部材25が配置されている。
図2に一部拡大して示すように、インナ部材25は、例えば、断面正六角形筒状であり、内部に六角形状の被係合孔25aが貫通形成されている。その被係合孔25aの基端側が回転軸21aに回転一体に固定されると共に、先端側が係合部付ボルト1の先端の第2係合部6に係合するようになっている。
【0041】
なお、アウタ部材24及びインナ部材25は、防食のために塗装、メッキ等を施してもよい。
【0042】
緩み止めナット10は、
図6に示すように、係合部付ボルト1の雄ネジ部4に螺合する雌ネジ部12を基端側内周面に有し、先端側には、係合部付ボルト1の第1係合部5の緩み止め凸部5aに係合する緩み止め部11を有する分割部13が一体成形されている。本実施形態では、緩み止め部11は、第1係合部5の緩み止め凸部5a(外側爪車)に嵌合する内側爪車よりなる。緩み止めナット10は、例えば係合部付ボルト1と同じ強化繊維樹脂一体成形品であり、正六角柱部分の端面に面取りが設けられていてもよい。
【0043】
図6(c)に一部拡大して示すように、この緩み止め部11は、緩み止めナット10の軸心と同一仮想面内に含まれる内側噛み合い面11aと、この内側噛み合い面11aの先端から雌ネジ部12の締め込み方向側に向かって内側噛み合い面11aに対して傾斜する内側テーパ面11bを備えている。
【0044】
緩み止め部11と雌ネジ部12との間には、凹凸のない緩衝部14が設けられており、また、分割部13には、周方向に間隔を開けて複数の、例えば4つの切欠15が形成されている。
【0045】
そして、インナ部材25は、係合部付ボルト1の第2係合部6を軸方向に進退可能に支持する被係合孔25aを有する。インナ部材25のアウタ部材24と同様に、例えば樹脂成形品よりなる。本実施形態では、被係合孔25aは、第2係合部6の正六角柱形状に合わせて正六角形状貫通孔で構成されている。これにより、電動工具21により係合部付ボルト1を螺進させるときに、アウタ部材24で緩み止めナット10を固定したまま、第2係合部6が被係合孔25a内を進むので、係合部付ボルト1が螺進するのを妨げないようになっている。
【0046】
アウタ部材24と同様にインナ部材25の先端の被係合孔25aの内周面の各辺にも、係合部付ボルト1の第2係合部6の導入を促す導入用傾斜部25bが形成されている。具体的には、
図2A及び
図2Cに示すように、被係合孔25aも正六角形であり、その各辺が、第2係合部6が当接後、係合部付ボルト1が被係合孔25aに嵌まり込むように、軸方向に向かって徐々に傾斜する加工が施されている。なお、各辺の間はキリ孔25cを設けることで、導入用傾斜部25bの機械加工が容易となっている。
【0047】
そして、例えば、電動工具21内には、マイコンなどを有する制御部40が内蔵されており、この制御部40は、詳細を後述するように、電動工具21の回転軸21aを第1回転速度で所定時間回転させ、係合部付ボルト1を螺進させて係合部付ボルト1の先端をインナ部材25の先端に係合させ、所定時間経過後、第1回転速度よりも高速の第2回転速度で係合部付ボルト1を螺進させて第1及び第2被固定部材31,32を締結するように電動工具21の回転速度を切り換えることをプログラム等で設定できるようになっている。
【0048】
-係合部付ボルトの締結方法-
まず、準備工程において、上述した締結工具20を準備し、電動工具21に固定しておく。上述した係合部付ボルト1及び緩み止めナット10を必要な分だけ用意する。特に図示しないが、必要な場合は、例えば同じく繊維強化樹脂製のワッシャも用意してもよい。
【0049】
次いで、仮止め工程において、第1被固定部材31及び第2被固定部材32の貫通孔に第1被固定部材31側から係合部付ボルト1を挿通し、
図5に示すように、この係合部付ボルト1の先端に第2被固定部材32側から緩み止めナット10を仮止めする。仮止めは、手で容易に回転できる範囲で行えばよいが、係合部付ボルト1の雄ネジ部4と緩み止めナット10の雌ネジ部12とが係合することが望ましい。
【0050】
次いで、ボルトセット工程において、緩み止めナット10側からアウタ部材24の先端を挿入させる。
【0051】
このとき、アウタ部材24の先端のナット用貫通孔24bの内周面の各辺に緩み止めナット10の導入を促す導入用傾斜部24dが形成されているので、緩み止めナット10とナット用貫通孔24bの各辺との位置がずれていると、緩み止めナット10の角部がナット用貫通孔24bの導入用傾斜部24dに当接し、そのまま押し付けると緩み止めナット10が回転して工具に嵌まり込むように誘導される。
【0052】
次いで、インナ部材25の先端の被係合孔25aを係合部付ボルト1の第2係合部6に当接させる。
図5に矢印で示すように、電動工具21を前進させながら、係合部付ボルト1の第2係合部6をインナ部材25の被係合孔25aに当接させる。
【0053】
このとき、緩み止めナット10はナット用貫通孔24bに嵌まり込んでおり、電動工具21を同一軸線上で前進するため、容易に係合部付ボルト1の第2係合部6とインナ部材25の被係合孔25aを当接させることができる。なお、
図7に示すように、アウタ部材24の開口部24aから緩み止めナット10と係合部付ボルト1の先端部とが露出するので、これらを見ながら第2係合部6とインナ部材25の被係合孔25aの当接を確認してもよい。
【0054】
次いで、ボルト係合工程において、電動工具21の回転軸21aを第1回転速度で所定時間回転させ、係合部付ボルト1を螺進させてインナ部材25の先端を係合部付ボルト1の第2係合部6に係合させる。
【0055】
第1回転速度は、例えば、100rpm以上150rpm以下が望ましく、本実施形態では、130rpmである。第1回転速度が150rpmを超えると、回転が速すぎ、インナ部材25の先端が第2係合部6に差し込まれない。
【0056】
所定時間は、例えば、締結作業時間軽減のため5秒以内が望ましく、2秒以内がより望ましく、本実施形態では、1秒である。
【0057】
但し、ボルトセット工程において、締結工具20は、少なくとも360/N°以上(Nは、第2係合部6が正N角形の場合を示し、六角形なら60°で、四角形なら90°)、好ましくは、1回転以上回転することが望ましい。これらの第2係合部6の形状と時間設定とから回転速度の下限を決定できる。
【0058】
インナ部材25の先端を係合部付ボルト1の第2係合部6に係合させる係合工程では、電動工具21の回転数が抑えられているので、確実にインナ部材25の先端と第2係合部6との係合が行われる。
【0059】
また、インナ部材25の先端の被係合孔25aに導入用傾斜部25bが形成されているので、電動工具21の回転力が導入用傾斜部25bによって第2係合部6が被係合孔25aに係合し易くなるように効果的に伝達される。
【0060】
更に、第2係合部6の工具係合用凸部6aに被係合孔25aを係合させるときに、第2係合部6の先端にもテーパ部6bが設けられているので、導入用傾斜部25bの効果とも相まって挿入し易く、締結作業が容易となる。
【0061】
次に、締結工程において、上記所定時間の経過後、自動で第1回転速度よりも高速の第2回転速度に切り換えられる。第2回転速度は、例えば、一般的な締付速度(約1000~5000rpm)であり、本実施形態では、約2000rpmである。この第2回転速度で電動工具21の回転軸21aを回転させ、係合部付ボルト1を螺進させ、
図4に示すように、第1被固定部材31及び第2被固定部材32を締め付けると共に、ナット10の緩み止め部11に係合部付ボルト1の第1係合部5を係合させて緩み止めする。
【0062】
このように、電動工具21により係合部付ボルト1を螺進させるときに、アウタ部材24でナット10を固定したまま、係合部が被係合孔25a内を進むので、係合部付ボルト1が螺進するのを妨げない。
【0063】
本実施形態では、第1係合部5を、緩み止めナット10の緩み止め部11に締結することで、緩み止め効果を発揮する。また、先端側から工具係合用凸部6aを利用して締結工具20を係合して回転させることにより、雄ネジ部4を螺進させて締結を行うことができる。
【0064】
本実施形態では、仮止めした状態の係合部付ボルト1及び緩み止めナット10をアウタ部材24及びインナ部材25の先端側でそれぞれ固定した状態で、電動工具21の回転軸21aを回転させることにより、係合部付ボルト1の雄ネジ部4が緩み止めナット10の雌ネジ部を螺進させるようにして第1被固定部材31と第2被固定部材32とを確実に固定すると共に、第1係合部5と緩み止め部11との緩み止め効果が得られる。
【0065】
そして、インナ部材25の先端を係合部付ボルト1の第2係合部6に係合させるボルト係合工程で電動工具21の回転数が抑えられているので、空回り等が行われることなく確実にインナ部材25の先端と第2係合部6との係合が行われる。係合後は、通常通りの、より速い回転速度に自動で切り換えられて係合部付ボルト1の締結を迅速かつ確実に行えるので、位置合わせのし直しなどの余計な作業を必要とせず、全体の工程時間はむしろ短くなる。
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、締付対象の緩み止めナット10を回り止めするアウタ部材24と、係合部付ボルト1の第2係合部6に係合するインナ部材25とを設け、電動工具21の回転力を係合部付ボルト1に伝達して回転させ、インナ部材25の先端を第2係合部6に係合させるときには低速で、その後は通常の回転速度で回転させるようにしたので、簡単な構成で電動工具21を用いて係合部付ボルト1を一方側から容易かつ確実に締め付けることができる。
【0067】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0068】
1 係合部付ボルト
2 ボルト頭部
3 ボルト本体
4 雄ネジ部
5 第1係合部
5a 緩み止め凸部
5b 外側噛み合い面
5c 外側テーパ面
6 第2係合部
6a 工具係合用凸部
6b テーパ部
7 段差部
10 緩み止めナット
11 緩み止め部
11a 内側噛み合い面
11b 内側テーパ面
12 雌ネジ部
14 緩衝部
15 切欠
20 締結工具
21 電動工具
21a 回転軸
22 脚部
23 フランジ部
23a 貫通孔
23b 平坦面
23c 脚部取付孔
24 アウタ部材
24a 開口部
24b ナット用貫通孔
24c 面取部
24d 導入用傾斜部
24e キリ孔
25 インナ部材
25a 被係合孔
25b 導入用傾斜部
25c キリ孔
31 第1被固定部材
32 第2被固定部材
40 制御部