(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131366
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】亜鉛溶解方法、および亜鉛溶解装置
(51)【国際特許分類】
C25D 21/14 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C25D21/14 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041582
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 伸治
(72)【発明者】
【氏名】渡部 清彦
(72)【発明者】
【氏名】赤松 慎也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 康明
(72)【発明者】
【氏名】内田 智也
(72)【発明者】
【氏名】村越 広基
(57)【要約】
【課題】不働態を形成させずに、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを課題とする。
【解決手段】電気的に接続された亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる。これにより、亜鉛溶解促進部材を用いて亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる際に不働態を形成させずに、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に接続された亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、前記亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする亜鉛溶解方法。
【請求項2】
前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間に向かって流される亜鉛めっき浴の流速が、0.1m/分以上であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛溶解方法。
【請求項3】
亜鉛めっき浴に浸漬された前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間の距離が、5mm以上且つ100mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛溶解方法。
【請求項4】
前記亜鉛溶解促進部材が、
金属表面を有する被処理物と、
ピリジン系化合物を含有する酸性電気めっき浴により前記金属表面に形成された電気めっき皮膜と
を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の亜鉛溶解方法。
【請求項5】
電気的に接続された亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、前記亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする亜鉛溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき浴に亜鉛を溶解させる亜鉛溶解方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性亜鉛めっき浴に亜鉛イオンを供給する方法として、一般的に、強アルカリ性のめっき液中に金属亜鉛を浸漬して化学的に溶解させる方法がある。しかしながら、このような方法では、亜鉛の溶解速度は低く、めっき浴中に必要な亜鉛イオン濃度を維持することは困難である。このため、実際の工場等では、亜鉛金属より貴な金属である鉄、ニッケル等を含む金属と金属亜鉛とを電気的に接触させた状態で、亜鉛めっき浴に浸漬させることで、金属と金属亜鉛との電位差を利用して、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法が採用されている。下記特許文献には、金属と金属亜鉛との電位差を利用して、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属と金属亜鉛との電位差を利用して亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる方法を採用した場合であっても、高濃度高電流の高速めっきラインでは、亜鉛イオンの供給が追い付かないため、更に多くの亜鉛イオンの供給が望まれている。そこで、亜鉛の溶解を促進する亜鉛溶解促進部材を用いて亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させて亜鉛イオンを供給することが考えられる。ただし、亜鉛溶解促進部材を用いて亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる際に、亜鉛の表面に不働態が形成されると、不働態により亜鉛の溶解が阻害されるため、亜鉛イオンを適切に供給することができない。このため、本発明は、亜鉛溶解促進部材を用いて亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる際に不働態を形成させずに、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の亜鉛溶解方法は、電気的に接続された亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、前記亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の亜鉛溶解装置は、電気的に接続された亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された前記亜鉛溶解促進部材と前記亜鉛との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、前記亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の亜鉛溶解方法及び亜鉛溶解装置では、電気的に接続された亜鉛溶解促進部材と亜鉛とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬して、亜鉛めっき浴に浸漬された亜鉛溶解促進部材と亜鉛との間に向かって亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる。これにより、亜鉛溶解促進部材を用いて亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させる際に不働態を形成させずに、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】亜鉛溶解促進部材形成時の酸性電気めっき浴の組成を示す図である。
【
図2】下地ニッケル皮膜形成時の酸性電気めっき浴の組成を示す図である。
【
図3】実施例1~13の亜鉛めっき浴の組成,亜鉛溶解条件,溶解結果を示す図である。
【
図4】実施例14~27の亜鉛めっき浴の組成,亜鉛溶解条件,溶解結果を示す図である。
【
図5】比較例1~9の亜鉛めっき浴の組成,亜鉛溶解条件,溶解結果を示す図である。
【
図6】比較例10~22の亜鉛めっき浴の組成,亜鉛溶解条件,溶解結果を示す図である。
【
図7】亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に下方から亜鉛めっき浴を流しながら亜鉛を溶解させる亜鉛溶解装置を示す図である。
【
図8】亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に側方から亜鉛めっき浴を流しながら亜鉛を溶解させる亜鉛溶解装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に記載の「亜鉛溶解促進部材」は、亜鉛の溶解を促進可能な部材であればよく、例えば、ピリジン系化合物により形成される。ピリジン系化合物は、ピリジン環を有する化合物であり、具体的には、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-プロピルピリジン、3-プロピルピリジン、4-プロピルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,3,5-トリメチルピリジン、2-メチル-5-エチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、2-シアノピリジン、3-シアノピリジン、4-シアノピリジン、2-ピコリンアミド、3-ピコリンアミド、4-ピコリンアミド、ピリジン-2-カルボン酸、ピリジン-3-カルボン酸、ピリジン-4-カルボン酸、1-メチルピリジニウム-2-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-3-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-4-カルボン酸塩酸塩、2-ピリジンカルボキシアルデヒド、3-ピリジンカルボキシアルデヒド、4-ピリジンカルボキシアルデヒド、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、1-メチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムクロリド、1-プロピルピリジニウムクロリド、1-ブチルピリジニウムクロリド、1-ペンチルピリジニウムクロリド、1-ヘキシルピリジニウムクロリド、1-ヘプチルピリジニウムクロリド、1-オクチルピリジニウムクロリド、1-ノニルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムクロリド、1-ウンデシルピリジニウムクロリド、1-ドデシルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウム-3-カルボキシラート、1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム、2-ベンジルピリジン、3-ベンジルピリジン、4-ベンジルピリジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2-アセチルピリジン、3-アセチルピリジン、4-アセチルピリジン、2-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロキノリン 、2-メチルピラジン、5-メチルピラジンなどが挙げられる。
【0010】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴でのピリジン系化合物の濃度は、0.18~938ミリmol/Lであることが好ましく、特に、0.88~368ミリmol/Lであることが好ましい。
【0011】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴の浴温は、5~90℃であることが好ましく、特に、25~45℃であることが好ましい。
【0012】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、導電性および緩衝性を与える化合物として、無機酸、有機酸、それらのアルカリ塩類、有機錯化剤などと、それらのアルカリ塩類、さらに、有機アミン、有機ポリアミンなどが含まれてもよい。
【0013】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、さらに、皮膜安定剤、皮膜密着性強化剤として、フェノール水酸基を有する化合物、フェノール酸塩など低分子化合物や、それらを骨格に持つ高分子化合物、タンニン、タンニン酸、カテキンなどポリフェノールといわれる高分子化合物などが含まれてもよい。
【0014】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式を採用することが好ましい。これにより、耐久性の高い皮膜を形成することが可能となる。なお、陰極電解時の電流密度は、0.2~60A/dm2であることが好ましく、特に、1~10A/dm2であることが好ましい。これにより、比較的低い電流密度で皮膜を形成することが可能となる。
【0015】
なお、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式ではなく、陽極電解と陰極電解とを交互に繰り返す電解方式、所謂、PR電解方式を採用することも可能である。PR電解方式を採用する際には、陰極電解時の電流密度を0.2~60A/dm2とし、陽極電解時の電流密度を0~30A/dm2とすることが好ましく、特に、陰極電解時の電流密度を1~10A/dm2とし、陽極電解時の電流密度を0~10A/dm2とすることが好ましい。また、陰極電解時間を0.1~10秒とし、陽極電解時間を0.1~10秒とすることが好ましく、陰極電解時間と陽極電解時間との比率は、陰極電解時間:陽極電解時間=1:0.1~1:1とすることが好ましい。
【0016】
また、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴によって皮膜を形成する前に、下地ニッケルめっきを施すことが好ましい。これにより、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴による皮膜を適切に形成するとともに、密着性を高くすることが可能となる。なお、下地ニッケルめっき処理時の陰極電流密度は、0.2~60A/dm2であることが好ましく、特に、0.5~10A/dm2であることが好ましい。また、浴温は、5~90℃であることが好ましく、特に、25~45℃であることが好ましい。
【0017】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて形成される皮膜には、添加する金属イオン等を調整することで、Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Ir,Pt,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの単金属または、それら2元素以上の合金などを含むことが可能である。さらに、皮膜には、Mo,W,Zr,Si,Ce,V,Al,Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの金属酸化物、硫化物などの微粒子、カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンブラックのような炭素体、アルカリ金属化合物,アルカリ土類金属化合物などを含むことが可能である。
【0018】
上述したように、亜鉛溶解促進部材は、例えば、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて、基材の表面にめっき皮膜が形成されることで製造される。そして、この亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを電気的に接触させて亜鉛めっき浴中に離隔させた状態で浸漬して、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら亜鉛金属を溶解することで、高速で亜鉛イオンをめっき浴に供給することが可能となる。
【0019】
亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との電気的な接触は、亜鉛めっき浴の外部において亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを直接的に接触させてもよい。また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを、導電線等により接続することで、間接的に接触させてもよい。なお、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを間接的に接触させる場合には、可変抵抗器を介して接触させてもよい。これにより、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間を流れる電流を調整することが可能となり、亜鉛めっき浴中に供給される亜鉛イオンの量を調整することが可能となる。また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを間接的に接触させる場合に、導電線等にスイッチを配設することで、スイッチの操作により亜鉛溶解の開始及び停止を容易に行うことが可能となる。
【0020】
なお、亜鉛めっき浴中の亜鉛の濃度は、1~100g/Lであることが好ましく、特に、8~40g/Lであることが好ましい。また、亜鉛めっき浴中の水酸化ナトリウムの濃度は、30~250g/Lであることが好ましく、特に、80~170g/Lであることが好ましい。また、炭酸ナトリウムは稼働に伴い亜鉛めっき液に蓄積するものだが、蓄積した炭酸ナトリウムの濃度は、0~150g/Lになる場合がある。炭酸ナトリウムの蓄積により稼働に支障が生じる場合は冷却等により除去することが好ましい。また、亜鉛めっき浴には、光沢剤などの種々の添加物を含むことも可能である。
【0021】
また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを亜鉛めっき浴中に離隔させた状態で浸漬する場合に、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させる必要があり、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離が5mm未満である場合に亜鉛めっき浴中で亜鉛を溶解させると、亜鉛金属の表面に不働態が形成される。また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを亜鉛めっき浴中で接触させた状態で亜鉛めっき浴に亜鉛を溶解させても、亜鉛金属の表面に不働態が形成される。このように、亜鉛金属の表面に不働態が形成されると、亜鉛の溶解速度が低下するため、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させて亜鉛を溶解させる必要がある。ただし、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とが離れすぎると、亜鉛の溶解速度が低下するため、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離は、100mm以下であることが好ましい。つまり、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離は、5mm以上且つ100mm以下であることが好ましい。さらに言えば、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離は、10mm以上且つ70mm以下であることが好ましい。
【0022】
また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に流される亜鉛めっき浴の流速は、0.1m/分以上であることが好ましく、さらに言えば、0.25m/分以上であることが好ましい。また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に流される亜鉛めっき浴の流速は、1m/分以上であっても、効果を発揮するが、亜鉛めっき浴の流速の上限は、めっき槽からめっき浴が溢れ出ない速度であればよい。
【0023】
また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との各々の形状として、種々の形状を採用することができるが、板形状,ブロック形状であることが好ましい。亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との各々の形状が板形状,ブロック形状であれば、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを離隔した状態で対向して適切に配設することが可能となり、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを平行に配設することができる。なお、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを平行に配設することが好ましいが、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との一方が他方に対して傾斜していてもよい。
【0024】
亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴が流される際に、亜鉛めっき浴は、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との下方から流されてもよく、上方から流されてもよく、側方から流されてもよい。さらに言えば、亜鉛めっき浴は、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との斜め下方,斜め上方等、種々の方向から流されてもよい。
【実施例0025】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0026】
図1に示す配合の各原料から、亜鉛溶解促進部材を製造するための酸性電気めっき浴を調整した。なお、各原料の詳細は、下記の通りある。
塩化ニッケル・6水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
35%塩酸:東亜合成株式会社製
ピリジン系化合物:1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム
【0027】
また、酸性電気めっき浴による電気めっき皮膜の形成前には、皮膜の密着性を高めるべく、基材に下地ニッケルめっきが行われる。なお、基材として、板形状(50×100×0.8mm:1dm2)のSPCC-SD材(株式会社エンジニアリングテストサービス製)が用いられる。
【0028】
下地ニッケル用のめっき浴は、
図2に示すめっき浴組成の各原料により調整される。また、
図2での各原料の詳細も、上記の通りである。
【0029】
また、下地ニッケルのめっき条件は、下記の通りである。
陰極電流密度:1A/dm2
浴温:35℃
液pH:0.1未満
陽極:Ni材または不溶性陽極
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
処理時間:70分
【0030】
上記条件で下地ニッケルめっきが行われると、基材の表面に5μmの膜厚のニッケル皮膜(以下、「下地ニッケル皮膜」と記載する。)が形成される。そして、下地ニッケル皮膜が形成された基材に、上述した酸性電気めっき浴を用いて、陰極電解方式の電気めっきが実行される。この際の電気めっきの条件は、下記の通りである。
陰極電流密度:4A/dm2
浴温:35℃
液pH:0.1未満
陽極:Ni材または不溶性陽極
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
処理時間:105分
【0031】
上記条件で電気めっきが行われることで、下地ニッケル皮膜が形成された基材に、ニッケル皮膜(以下、「亜鉛溶解促進皮膜」と記載する)が形成される。つまり、基材の表面に、下地ニッケル皮膜が形成され、その下地ニッケル皮膜の表面に、亜鉛溶解促進皮膜が形成される。なお、亜鉛溶解促進皮膜の膜厚は5μmである。
【0032】
また、亜鉛溶解促進皮膜の組成を、走査電子顕微鏡(JSM-IT300:日本電子株式会社製)及び、エネルギー分散形X線分析装置(EX-37001:日本電子株式会製)によって測定した。以下に、その組成を示す。
亜鉛溶解促進皮膜の組成
Ni:93.04wt%
C:3.36wt%
O:3.61wt%
【0033】
そして、電気的に接触させた亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを、実施例1~27(
図3,4参照)及び比較例1~22(
図5,6参照)の亜鉛めっき浴中に離隔させた状態で浸漬して、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら亜鉛金属を溶解させた。詳しくは、
図7及び
図8に示す亜鉛溶解装置10では、めっき槽12の内部に亜鉛めっき浴が投入されている。めっき槽12のサイズは、180×110×L310mmである。そして、めっき槽12のAの位置において亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とがABの方向で対向するように離隔した状態で亜鉛めっき浴に浸漬されている。なお、図では、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とを保持する保持具は省略されている。また、A,B,C、Dは、めっき槽12の上方からの視点における4個の角部を示す位置である。また、
図7及び
図8での上面は、亜鉛溶解装置10を上方からの視点で示す図面であり、槽正面は、めっき槽12のA及びDの位置を正面とする図面であり、槽測面は、めっき槽12のD及びCの位置を側面とする図面である。
【0034】
また、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とは上下方向での3/4程度が亜鉛めっき浴に浸漬されており、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との上端部は亜鉛めっき浴の上面から上方に延びだしている。そして、亜鉛めっき浴の上面から上方に延びだしている亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とが銅製の導線24により接続されている。これにより、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とが電気的に接続される。
【0035】
また、
図7の亜鉛溶解装置10では、めっき槽12のAの位置に塩ビ性のパイプ30が上下方向に延びる姿勢で配設されており、パイプ30の上端から亜鉛性めっき液が噴出される。これにより、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に下方から亜鉛めっき浴が流れ込む。なお、パイプ30の上端と亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22の下端との間の距離は30mmである。また、パイプ30の直径は16mmである。
【0036】
また、
図8の亜鉛溶解装置10では、めっき槽12のDの位置において概してL字型の塩ビ性のパイプ32が、パイプ32の先端部をDの位置からAの位置を向けて配設されている。そして、パイプ32の先端から亜鉛性めっき液が噴出される。これにより、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に側方から亜鉛めっき浴が流れ込む。なお、パイプ32の先端と亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22のパイプ32と対向する測端との間の距離は30mmである。また、パイプ32の直径は16mmである。
【0037】
また、
図7及び
図8に示すように、めっき槽12のCの位置の底面には排出口36が形成されている。このため、パイプ30,32から噴出された亜鉛めっき浴が亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間を通って、矢印の方向に流れる水流となり、排出口36に向かう。
【0038】
上述した構造の亜鉛溶解装置10において、実施例1~27(
図3,4参照)及び比較例1~22(
図5,6参照)に示す組成の亜鉛めっき浴が投入されて、実施例1~27(
図3,4参照)及び比較例1~22(
図5,6参照)に示す条件で亜鉛が溶解される。なお、
図3~
図6での液温は、亜鉛溶解時の亜鉛めっき浴の温度であり、流速はパイプ30,32から噴出される亜鉛めっき液の流速である。また、離隔距離は、対向する亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間の距離であり、面積比は、亜鉛めっきに浸漬されている亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との面積比であり、亜鉛溶解促進部材20の亜鉛めっき浴中の露出面積:亜鉛金属22の亜鉛めっき浴中の露出面積である。なお、亜鉛溶解促進部材20の亜鉛めっき浴中の露出面積および亜鉛金属22の亜鉛めっき浴中の露出面積は、マスキングテープ等により調整される。
【0039】
また、実施例1~5,7~17,22~27及び比較例2~9の亜鉛めっき浴を用いた亜鉛の溶解処理は、
図7の亜鉛溶解装置10を用いて行われ、実施例6,18~21及び比較例10~17の亜鉛めっき浴を用いた亜鉛の溶解処理は、
図8の亜鉛溶解装置10を用いて行われる。ただし、比較例1の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との離隔距離が0であり、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22とが接触した状態で亜鉛めっき浴に浸漬されている。このため、比較例1の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に亜鉛めっきを流すことができないため、パイプ30,32から亜鉛めっき液は噴出されない。
【0040】
また、比較例18~20の亜鉛めっき浴では、
図7の亜鉛溶解装置10と亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22の配設位置が異なる亜鉛溶解装置を用いて亜鉛の溶解処理が行われる。詳しくは、
図7の亜鉛溶解装置10では亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がAの位置に配設されているが、比較例18の亜鉛めっき浴で用いられる亜鉛溶解装置では、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がBの位置に配設されている。また、比較例19の亜鉛めっき浴で用いられる亜鉛溶解装置では、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がCの位置に配設されている。また、比較例20の亜鉛めっき浴で用いられる亜鉛溶解装置では、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がDの位置に配設されている。このため、比較例18~20の亜鉛めっき浴では、パイプ30から噴出される亜鉛めっき液は亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に噴出されない。
【0041】
また、比較例21,22の亜鉛めっき浴では、
図8の亜鉛溶解装置10と亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22の配設位置が異なる亜鉛溶解装置を用いて亜鉛の溶解処理が行われる。詳しくは、
図8の亜鉛溶解装置10では亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がAの位置に配設されているが、比較例21の亜鉛めっき浴で用いられる亜鉛溶解装置では、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がBの位置に配設されている。また、比較例22の亜鉛めっき浴で用いられる亜鉛溶解装置では、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22がCの位置に配設されている。このため、比較例21,22の亜鉛めっき浴では、パイプ32から噴出される亜鉛めっき液は亜鉛溶解促進部材20と亜鉛金属22との間に噴出されない。
【0042】
上述した亜鉛溶解装置を用いて実施例1~27及び比較例1~22の亜鉛めっき浴で亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解させた際の亜鉛溶解速度を測定した。詳しくは、亜鉛めっき浴に浸漬された亜鉛金属22の溶解量(g)を測定し、単位時間当たりの亜鉛の溶解量(亜鉛:1dm2換算)、つまり、亜鉛溶解速度(g/dm2・h)を演算した。その演算された亜鉛溶解速度(g/dm2・h)を、溶解結果として実施例1~27及び比較例1~22に示す。なお、試験時間は2時間である。また、2時間の試験時間、つまり、亜鉛溶解促進部材20及び亜鉛金属22を亜鉛めっき浴に浸漬している時間の経過後に、亜鉛金属22に不働態が成形されているか否かを目視にて確認し、不働態の形成の有無を、溶解結果として実施例1~27及び比較例1~22に示す。
【0043】
この溶解結果から、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解することで、不働態を形成させることなく亜鉛を溶解させることが可能となることが解る。詳しくは、実施例1~27の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛の溶解処理が実行されており、不働態は形成されていない。一方、比較例1の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離が0,つまり、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを接触させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流すことなく、亜鉛の溶解処理が実行されており、不働態が形成されている。また、比較例2~17の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm未満離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛の溶解処理が実行されており、不働態が形成されている。また、比較例18~22の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流すことなく、亜鉛の溶解処理が実行されており、不働態が形成されている。このように、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを5mm以上離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解することで、不働態を形成させることなく亜鉛を溶解させることが可能となる。
【0044】
また、実施例17の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属とを70mm離隔させた状態で亜鉛めっき浴に浸漬させて、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら、亜鉛を亜鉛めっき浴に溶解することで、不働態を形成させることなく亜鉛が溶解される。このことから、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との離隔距離は、5mm以上且つ100mm以下であれば、不働態を形成させることなく亜鉛を溶解させることができると想定される。
【0045】
また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に流される亜鉛めっき浴の流速は、実施例1~27の亜鉛めっき浴において0.25~1m/分であり、不働態は形成されていない。このことから、0.1m/分以上の流速で亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴を流しながら亜鉛の溶解処理を行うことで、不働態を形成させることなく亜鉛を溶解させることができると想定される。
【0046】
また、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との面積比は、実施例1~27の亜鉛めっき浴において1:1~1:3であり、不働態は形成されていない。このことから、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との面積比を2:1~1:4にして亜鉛の溶解処理を行うことで、不働態を形成させることなく亜鉛を溶解させることができると想定される。
【0047】
また、実施例1~5,7~17,22~27の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に下方から亜鉛めっき浴が流されており、実施例6,18~21の亜鉛めっき浴では、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に側方から亜鉛めっき浴が流されている。そして、いずれの実施例の亜鉛めっき浴においても、不働態が形成されることなく亜鉛めっき浴に亜鉛が供給されている。このため、亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間への亜鉛めっき浴の流入方向は限定されず、いずれの方向から亜鉛溶解促進部材と亜鉛金属との間に亜鉛めっき浴が流されてもよい。
【0048】
なお、工場等における亜鉛めっき浴での亜鉛の溶解は、一般的に、数日間以上連続して行われる。このため、比較例の亜鉛めっき浴のように2時間の亜鉛の溶解処理において不働態が発生していては、工場等において亜鉛めっき浴に継続して適切に亜鉛を供給することはできない。このことから、実施例の亜鉛めっき浴での溶解速度が比較例の亜鉛めっき浴での溶解速度より遅くても問題なく、実施例の亜鉛めっき浴において不働態が形成されずに、2時間以上継続して適切に亜鉛が供給されることが重要である。つまり、実施例に記載された溶解速度は、亜鉛が2時間以上継続して供給されることを示していればよく、比較例の亜鉛めっき浴での溶解速度より遅くても問題ない。