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特開2024-131396明度推定装置、明度判定システムおよび比色マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131396
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】明度推定装置、明度判定システムおよび比色マスク
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/46 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01J3/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041631
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 綾子
(72)【発明者】
【氏名】大野 央人
(72)【発明者】
【氏名】榎並 祥太
(72)【発明者】
【氏名】星野 慧
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA04
2G020DA05
2G020DA15
2G020DA16
2G020DA34
2G020DA43
2G020DA45
(57)【要約】
【課題】木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄にも適用でき、且つJIS通りに厳密な条件で実施せずとも有効性が保たれる、新たな表面色の視感比較を実現する技術を提供すること。
【解決手段】観察者であるユーザは、明度推定装置100に、実施条件として環境照度・年齢条件・性別などを入力する。そして、木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調などの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料30の明度を、比色マスク20を用いて視認した視認明度を入力する。明度推定装置100は、入力された実施条件に応じて予め記憶している補正関数の中から何れかを選択して、入力された視認明度から統計処理して求められた代表視認明度を、選択した補正関数で補正処理して試料30の明度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調などの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料の明度を判定するための比色マスクをユーザが用いて視認した視認明度を補正して前記試料の明度を推定するための明度推定装置であって、
前記ユーザの年齢条件を入力する年齢条件入力手段と、
1つの前記試料に対して異なるN箇所(N≧2)の前記視認明度を入力する視認明度入力手段と、
前記年齢条件入力手段により入力された前記年齢条件に基づいて前記補正のための設定を行う補正設定手段と、
前記視認明度入力手段により入力された前記視認明度を統計処理し、統計処理後の代表視認明度を、前記補正設定手段の設定に従って補正処理する補正処理手段と、
を備える明度推定装置。
【請求項2】
N≧4であり、
前記視認明度入力手段は、前記N箇所の前記視認明度が入力されるまで、前記N箇所分の前記視認明度の入力を促す入力要求手段を有する、
請求項1に記載の明度推定装置。
【請求項3】
前記視認時の照度を入力する照度入力手段、を更に備え、
前記補正設定手段は、前記照度入力手段により入力された照度に基づいて前記設定を行う、
請求項1に記載の明度推定装置。
【請求項4】
前記ユーザの性別を入力する性別入力手段、を更に備え、
前記補正設定手段は、前記性別入力手段により入力された性別に基づいて前記設定を行う、
請求項1に記載の明度推定装置。
【請求項5】
前記補正処理手段は、前記代表視認明度が所定明度より低い場合には低いほど明度を高く補正し、前記所定明度より高い場合には高いほど明度を低く補正する所与の補正傾向に基づいて前記補正処理を行い、
前記補正設定手段は、前記補正傾向の強弱を前記年齢条件に基づいて設定する、
請求項1に記載の明度推定装置。
【請求項6】
前記年齢条件には、第1の年齢条件と、前記第1の年齢条件の年齢より高い第2の年齢条件と、が少なくとも含まれ、
前記補正設定手段は、前記年齢条件入力手段により入力された年齢条件が前記第2の年齢条件の場合には、前記第1の年齢条件の場合に比べて、前記補正傾向を強く設定する、
請求項5に記載の明度推定装置。
【請求項7】
前記比色マスクと、
請求項1から6の何れか一項に記載の明度推定装置と、
を具備する明度判定システム。
【請求項8】
前記比色マスクは、
前記試料の上に載置して使用されるシート状の基体と、
前記基体に空けられた窓部であって、前記試料と前記試料の上に載置される前記基体との間に、複数の色票を有する色見本群の中から前記ユーザによって選択される色票が挿入される窓部と、
を備え、
前記基体は、厚さが3mm以下の軟質材であり、前記窓部を形成する当該基体の窓枠部分が前記試料の表面形状に沿って密接可能である、
請求項7に記載の明度判定システム。
【請求項9】
木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調などの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料の明度を判定するための比色マスクと、ユーザが前記比色マスクを用いて視認した視認明度を補正して前記試料の明度を推定するための明度推定装置とを具備する明度判定システムの前記比色マスクであって、
前記試料の上に載置して使用されるシート状の基体と、
前記基体に空けられた窓部であって、前記試料と前記試料の上に載置される前記基体との間に、複数の色票を有する色見本群の中から前記ユーザによって選択される色票が挿入される窓部と、
を備え、
前記基体は、厚さが3mm以下の軟質材であり、前記窓部を形成する当該基体の窓枠部分が前記試料の表面形状に沿って密接可能である、
比色マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の明度を推定するための明度推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の色の比較は様々な場面で行われる。
例えば、建築デザインや建物管理の現場では、ロービジョン者(何らかの原因で視覚障害を負った者)等が、トイレの設備を使用する際にトイレや、洗面台、ドアなどの位置が分かりやすくなるように、壁とトイレの間や、壁と洗面台の間、壁とドアの間、といった隣り合う2つの部材の間に色の明度に差や輝度差をつけることが推奨されている。担当者は、設計段階において、隣り合う2つの部材それぞれの建材の試料(サンプル)を取り寄せて色を比較し、ロービジョン者への対応が正しく実現できているかをチェックする。
【0003】
色の比較方法を大きく分けると、色票と比色マスクを使った観察者の視感に基づく「視感比較」と、計測器等を用いた物理測定による「機械的比較」と、に分けられる。視感比較は、例えば「JIS-Z-8732:表面色の視感比較方法」(以下、単にJISと呼称)が知られるところである。機械的比較については、例えば特許文献1に示すように、スキャナーやカメラなどの汎用機器で撮影した画像を用いて、観察対象の表面色を評価する技術が知られている。また、特許文献2には、カラーチャートとグレースケールとサンプルとを1画面内に収めるように撮影した画像から、サンプルの比色座標を判定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-196304号公報
【特許文献2】特表2021-502619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年人気の建材に、木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの素材を模したプリント材がある。プリント材の表面には、所定の対象素材の表面を模倣した模倣素材柄(例えば、木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調など)が印刷されている。その表面は、多色のグラデーションや、微細な多色の粒や斑の集合で構成されており、一見すると配色パターンが有るようにも見えるし無いようにも見える。部分的に色の遍在もある。
【0006】
従来の視感比較の方法は、無地色が想定されており、こうした複雑で観察位置によって視感のバラツキが生じ易い模倣素材柄への適用は想定されていない。模倣素材柄の比色にも対応できる技術的な裏付けのある新たな表面色の視感比較方法が望まれていた。
【0007】
また、従来の視感比較法を実施する際に、観察を実施する観察環境および観察者の条件(以下、実施条件と言う)を「JIS-Z-8723:表面色の視感比較方法」の通りに厳密に整える場合では、その手間の削減も課題の1つであった。
【0008】
例えば、上述したJISによれば、観察環境は、環境照度(1000ルクス以上)を実現しつつ、観察表面での光反射を低減するために適度に光束を分散する手段が講じられている必要がある。それを実現するための機材の準備とセッティングはそれなりのコストや工数を要する。また、上述したJISによれば、観察者については、色覚適正が確認された40歳未満でなければならない。適切な観察者をいつでも確保できるように、40歳未満の人員を常に確保しつつ、定期的な色覚検査が必要である。観察する環境や観察者の条件をJIS通りに厳密に再現せずとも有効性が保たれる新たな視感比較方法が望まれている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄にも適用でき、且つJIS通りに厳密な条件で実施せずとも有効性が保たれる、新たな表面色の視感比較を実現する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための第1の発明は、木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調などの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料の明度を判定するための比色マスクをユーザが用いて視認した視認明度を補正して前記試料の明度を推定するための明度推定装置であって、前記ユーザの年齢条件を入力する年齢条件入力手段と、1つの前記試料に対して異なるN箇所(N≧2)の前記視認明度を入力する視認明度入力手段と、前記年齢条件入力手段により入力された前記年齢条件に基づいて前記補正のための設定を行う補正設定手段と、前記視認明度入力手段により入力された前記視認明度を統計処理し、統計処理後の代表視認明度を、前記補正設定手段の設定に従って補正処理する補正処理手段と、を備える明度推定装置である。
【0011】
第1の発明の明度推定装置は、視感比較を実施するユーザの年齢についての条件(年齢条件)と、観察した異なるN箇所(N≧2)の視認明度を入力すると、入力された視認明度を統計処理して代表視認明度を算出し、入力された年齢条件に対応した補正を施して、試料の明度を推定することができる。
【0012】
この第1の発明の明度推定装置によれば、木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄にも適用でき、且つJIS通りに厳密な条件で実施せずとも有効性が保たれる、新たな表面色の視感比較を実現できる。
【0013】
第2の発明は、上記の明度推定装置であって、N≧4であり、前記視認明度入力手段は、前記N箇所の前記視認明度が入力されるまで、前記N箇所分の前記視認明度の入力を促す入力要求手段を有する明度推定装置である。
【0014】
第2の発明の明度推定装置は、試料から視認明度を読み取る箇所を4箇所以上とすることで、模倣素材柄の視感のバラツキを考慮した高精度の推定明度を得ることが可能である。
【0015】
第3の発明は、上記の明度推定装置であって、前記視認時の照度を入力する照度入力手段、を更に備え、前記補正設定手段は、前記照度入力手段により入力された照度に基づいて前記設定を行う明度推定装置である。
【0016】
第3の発明の明度推定装置は、視認時の環境照度の違いによる補正を行って推定明度を求めることができる。よって、環境照度をJIS通りの厳密な条件とせずとも有効性が保たれる新たな表面色の視感比較を実現できる。
【0017】
第4の発明は、上記の明度推定装置であって、前記ユーザの性別を入力する性別入力手段、を更に備え、前記補正設定手段は、前記性別入力手段により入力された性別に基づいて前記設定を行う明度推定装置である。
【0018】
第4の発明の明度推定装置は、視感に係る性差を補正して推定明度を求めることができる。
【0019】
第5の発明は、上記の明度推定装置であって、前記補正処理手段は、前記代表視認明度が所定明度より低い場合には低いほど明度を高く補正し、前記所定明度より高い場合には高いほど明度を低く補正する所与の補正傾向に基づいて前記補正処理を行い、前記補正設定手段は、前記補正傾向の強弱を前記年齢条件に基づいて設定する、明度推定装置である。
【0020】
計測器で測定された物理測定明度を基準として、無地の視認明度と模倣素材柄の視認明度とを比較すると、(1)ある所定明度を境として、低明度域では模倣素材柄の明度は無地色の明度よりも低く視感され易く、且つ(2)高明度域では模倣素材柄の明度は無地色の明度よりも高く視感され易い傾向がある、という「評価誤差」があることが分かった。第5の発明の明度推定装置は、この評価誤差を補正して推定明度を求めることができる。
【0021】
第6の発明は、上記の明度推定装置であって、前記年齢条件には、第1の年齢条件と、前記第1の年齢条件の年齢より高い第1の年齢条件と、が少なくとも含まれ、前記補正設定手段は、前記年齢条件入力手段により入力された年齢条件が前記第2の年齢条件の場合には、前記第1の年齢条件の場合に比べて、前記補正傾向を強く設定する、明度推定装置である。
【0022】
第6の発明の明度推定装置は、例えば人間の年齢の増加に伴う明度の視感の衰えを補正して推定明度を求めることができる。
【0023】
第7の発明は、前記比色マスクと、上記の明度推定装置と、を具備する明度判定システムである。
【0024】
第7の発明によれば、第1の発明と同様の作用効果を発揮する明度判定システムを実現できる。
【0025】
第8の発明は、上記の明度判定システムであって、前記比色マスクは、前記試料の上に載置して使用されるシート状の基体と、前記基体に空けられた窓部であって、前記試料と前記試料の上に載置される前記基体との間に、複数の色票を有する色見本群の中から前記ユーザによって選択される色票が挿入される窓部と、を備え、前記基体は、厚さが3mm以下の軟質材であり、前記窓部を形成する当該基体の窓枠部分が前記試料の表面形状に沿って密接可能である、明度判定システムである。
【0026】
第8の発明における比色マスクは、基体の薄さと柔らかさで試料表面形状に沿って密着する。これにより、基体の厚さ分の段差や試料表面からの基体の浮きに起因して、比色マスクの窓部の縁に沿って生じる黒い影線を抑制できる。よって、観察者であるユーザは、より正しい視認明度を視認できるようになる。
【0027】
第9の発明は、木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調などの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料の明度を判定するための比色マスクと、ユーザが前記比色マスクを用いて視認した視認明度を補正して前記試料の明度を推定するための明度推定装置とを具備する明度判定システムの前記比色マスクであって、前記試料の上に載置して使用されるシート状の基体と、前記基体に空けられた窓部であって、前記試料と前記試料の上に載置される前記基体との間に、複数の色票を有する色見本群の中から前記ユーザによって選択される色票が挿入される窓部と、を備え、前記基体は、厚さが3mm以下の軟質材であり、前記窓部を形成する当該基体の窓枠部分が前記試料の表面形状に沿って密接可能である、比色マスクである。
【0028】
第9の発明によれば、従来の比色マスクよりも、木目・石目・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄の試料の明度を判定に適した比色マスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】明度判定システムのシステム構成の一例を示す図。
図2】窓部のサイズ別の視認明度と物理測定明度との相関係数を示す表。
図3図2の相関を得るための試験について説明するための図。
図4】入力画面の表示例を示す図。
図5】視認明度の判定箇所数と精度との関係を示すグラフ。
図6】模倣素材柄の代代表視認明度と物理測定明度との相関を表すグラフ。
図7】補正後の模倣素材柄の代表視認明度と物理測定明度との相関を示すグラフ。
図8】環境照度別・観察者の年齢別に見た代表視認明度と物理測定明度との相関を示すグラフ。
図9】明度推定装置が記憶するプログラムやデータの例を示す図。
図10】明度推定プログラムを実行することによって実装する機能部を示す図。
図11】明度推定装置における処理の流れを説明するためのフローチャート。
図12】明度推定装置の実用試験結果を示すグラフ。
図13】許容色差の分類の一例を示す図。
図14】比色マスクの変形例の図。
図15】比色マスクの変形例の図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を適用した実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0031】
図1は、明度判定システムのシステム構成図の一例である。明度判定システム4は、環境照度を計測するための照度計6と、色見本帳10と、比色マスク20と、明度推定装置100と、を有する。
【0032】
色見本帳10は、複数の色票12(12a,12b,…)を有する。色見本帳10には、色票12それぞれに対応する色票番号14とマンセル値16が付記されている。色見本帳10としては、広く普及している日本塗料工業会の色見本帳が好例である。
【0033】
比色マスク20は、基体22と、窓部24とを有する。
基体22は、厚さ3mm以下(望ましくは2mm以下)の軟質シート材(例えば、シリコンシート、ポリプロピレンシート、など)から作られる。比色マスク20の表面はグレー(例えばL=50程度の均一無彩色)であり裏面は白色である。基体22は、比色マスク20越しに試料表面の色が透けない光不透過性を有する。
【0034】
窓部24は、視認距離300mm程度を想定して基体22に空けられた開口部であって、高さ11mm、幅22mmから50mmの長さの長方形状を有する。窓部24の開口サイズの一例としては、高さ11mm×幅50mmとする。窓部24のサイズは、JISサイズ(視認距離300mm用11mm×11mm)と比較すると、JISサイズよりも幅方向に大きいが大きくなり過ぎない程度に設定されている。
【0035】
近年人気の内装建材に、例えば、木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模したプリント材がある。プリント材の表面には、所定の対象素材の表面色を模倣した模倣素材柄(例えば、木目調・石目調・織物調・漆喰調・和紙調・セメント調・レンガ調など)が印刷されている。表面色は、様々な色のグラデーションや、微細な色の粒や斑の集合で構成されており、一見すると配色パターンが無いようにも見える一方で、模倣素材柄には、色の遍在があるケースも見られる。
【0036】
窓部24を従来のJISサイズと同じにした場合、模倣素材柄の局所的に偏った色が窓部24内を占める割合が高くなる。すると、窓部24を試料30の何処に当てたかによって視認明度の判定にバラツキが生じ易くなるので、窓部24のサイズをJISサイズより大きくしてある。しかし、逆に大きくし過ぎると、模倣素材柄における複数の色の偏りが窓部24内に入る確率が高くなり、観察者であるユーザは窓部24から見える何処の表面色で視認明度を判定すればよいか惑い易くなる。つまり、窓部24が広過ぎると却って視認明度の判定にバラツキが生じる元になり得る。
【0037】
図2は、窓部24のサイズ別の視認明度と物理測定明度(明度測定器により機械的に測定した明度)との相関係数を示す表である。窓部24のサイズ毎に、単数又は複数の視認明度の平均と物理測定明度との相関とを示している。
【0038】
図3は、図2の相関を得るための試験を説明するための図である。
試験の実施条件は次の通り。
(1)試料30:色違いの無地(一様な色)の13種類と、様々な木目柄メラミン内装材の15種類とを合わせた合成28種類。
(2)環境光:三波長型昼白色蛍光ランプによる500ルクス。
(3)観察者:男女混合。40歳未満を20名、40歳以上20名の合計40名。
(4)比色マスクテストプレート33:1枚で6箇所に同サイズの窓部24が開口。
(5)窓部24のサイズ:11mm×22mm、11mm×36mm、11mm×50mm、11mm×64mmの4種類。
(6)試料30の所定位置に比色マスクテストプレート33を合わせて(図3の例では右上の角に合わせて)密着させる。
【0039】
観察者であるユーザは、試料30と、試料30の上に載置される比色マスクテストプレート33との間に色票12を挿入する。窓部24の右半分に試料30の表面を露わにして、左半分に色票12が見えるように挿入する。そして、右半分に見える試料30の表面の明度が同じに視感された色票12を選んで、そのマンセル値16から明度を読み取る。これを比色マスクテストプレート33に設けられた窓部24それぞれについて行い、読み取った窓部24毎の明度の平均を観察結果である視認明度とする。
【0040】
図2に示すように、11mm×22mm、11mm×36mm、11mm×50mm、11mm×64mmの4種類の窓部24で比較すると、何れも良好な相関を示しているが、特に11mm×50mmが最も良好な相関を示している。よって、本実施形態の比色マスク20では、窓部24のサイズを高さ11mm×幅50mmとした。本明細書の以降の記載における各種試験では、11mm×50mmの窓部24を有する比色マスク20を用いている。
【0041】
なお、図1に示すように、明度判定システム4の実際の運用にあたっては、比色マスク20の窓部24を1つとしたため、観察者であるユーザは、1つの試料30に対して比色マスク20を密着させる位置を変えながら当該試料30の複数箇所で視認明度を判定する。
【0042】
明度推定装置100は、アプリケーションソフトウェアを実行可能なコンピュータである。図1の例では、明度推定装置100をデスクトップパソコンとして例示しているが、ノートパソコン、タブレット型コンピュータ、スマートフォンなどに分類されるコンピュータであってもよい。
【0043】
明度推定装置100は、画像を表示出力するディスプレイ106と、操作入力手段であるキーボード108と、制御部150と、を有する。ディスプレイ106は、タッチパネルであってもよい。
【0044】
制御部150には、CPU(Central Processing Unit)151やGPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などの各種マイクロプロセッサ、VRAMやRAM,ROM等の各種ICメモリ152、通信装置153が搭載されている。なお、制御部150の一部又は全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、SoC(System on a Chip)により実現するとしてもよい。
【0045】
そして、明度推定装置100は、制御部150が所定の明度推定プログラムを実行し、キーボード108等から視認明度や、照度計6で計測した照度値、観察者であるユーザの年齢などの実施条件についての入力を受け付ける。そして、それらに基づいて演算処理することにより、試料30の明度を推定する。
【0046】
図4は、明度推定装置100が表示する入力画面W2の表示例を示す図である。
明度推定装置100は、明度推定プログラムを実行すると入力画面W2を表示する。入力画面W2は、実施条件入力部40と、視認明度入力部50と、代表視認明度表示部60と、推定明度表示部62と、リセット操作アイコン64と、を含む。
【0047】
実施条件入力部40は、試料30の表面色の評価(視感比較)を、どのような条件で行ったか、すなわち実施条件の入力を受け付ける。具体的には、実施条件入力部40は、色種類入力部41と、照度入力部42と、年齢条件入力部43と、性別入力部44と、を含む。
【0048】
色種類入力部41は、明度推定の対象とされる試料30の表面色が、無地/模倣素材柄の何れであるかの選択入力を受け付けて、これを示す。
照度入力部42では、照度計6で計測した環境照度値の入力を受け付けて、これを表示する。
年齢条件入力部43では、「40歳未満」又は「40歳以上」の何れかの選択操作を受け付けて、これを表示する。
性別入力部44は、男性/女性の性別の選択操作を受け付けて、これを表示する。
【0049】
視認明度入力部50は、入力を促す入力要求表示52と、視認明度の入力を受け付けて、これを表示する4つの入力欄54(54a,54b,…)と、入力欄54を1つ追加する操作を受け付ける追加操作アイコン56と、を有する。4つの入力欄54に視認明度が入力されるまで入力要求表示52が表示される。
【0050】
代表視認明度表示部60は、視認明度入力部50で入力された複数の視認明度の値の平均値(又は中央値)を統計処理して求めた代表視認明度を表示する。
推定明度表示部62は、代表視認明度に所与の補正を行って算出された推定明度を表示する。
リセット操作アイコン64は、明度推定を最初からやり直す操作を受け付ける。
【0051】
図5は、視認明度の判定箇所数と精度との関係を示すグラフである。
実施条件は次の通り。
(1)試料30:色違いの無地(一様な色)の13種類と、様々な木目柄メラニン内装材の15種類とを合わせた合計28種類。
(2)環境照度:D=65の光源による200ルクス/500ルクス/750ルクス/1000ルクス。
(3)観察者:男女混合。40歳未満を20名、40歳以上20名の合計40名。
(4)比色マスク20を使用。
【0052】
因みに、環境照度のバリエーションは、実際にロービジョン者が使用する鉄道駅のトイレの照度の例である。
【0053】
グラフに示すように、40歳未満、40歳以上の年齢条件に係わらず、視認明度の判定箇所は、単数よりも複数の方が物理測定明度との相関が良好になる。
【0054】
視認明度の判定過程では、比色マスク20の窓部24に試料30の模倣素材柄が露出した状態とした上で、色票12を代わる代わる窓部24の半分ほどに挿入する。そして、模倣素材柄の明度と同じ明度と視認できる色票12を探し出し、色票12のマンセル値16から色情報を読み取ることで視認明度とする。ここで、模倣素材柄は、多色のグラデーションや、微細な多色の粒や斑の集合であるため、試料30の何処に比色マスク20を当てるかによって視認明度にバラツキが生じ易い。
【0055】
しかし、明度判定システム4は、試料30の複数箇所における視認明度を統計処理して代表視認明度を求め、代表視認明度に基づいて推定明度を算出する。このため、比色マスク20を試料30に当てる位置によって視認明度にバラツキが生じたとしても、それを許容して推定明度を算出することができる。よって、視認明度の判定箇所は、単数よりも複数の方が物理測定明度との相関が良好になり、有効性の高い推定明度が得られる。
【0056】
また、図5に示すグラフが示すように、視認明度の判定箇所が増えるほど相関係数が高くなるが、年齢条件に関わらず、視認明度が4箇所以上になると相関係数はほぼ横ばいになる。視認明度の判定箇所が増えるほど、試料30の明度推定に係る工数が増えるため、できるだけ判定箇所の数は少ない方が望ましい。そこで、本実施形態では、視認明度の判定箇所の数(視認明度の入力数)の初期値を「4」とし、視認明度入力部50が初期状態で表示する入力欄54(54a,54b,…)の数を「4」とする。
【0057】
図6は、模倣素材柄の代表視認明度と物理測定明度との相関を表すグラフである。サンプルデータは、図5を参照して説明した試験の結果である。図6のグラフには、全てのサンプルデータをプロットしていないが、1次関数モデルは全サンプルデータから求めている。
【0058】
グラフ中の「長破線」は、代表視認明度と物理測定明度との理想的な相関(Y=X)を示す。試料30の表面色が無地の場合、代表視認明度と物理測定明度との相関は、ほぼ理想的な相関を示す。
【0059】
グラフ中の「太実線」は、試料30の表面色が模倣素材柄である場合の代表視認明度と物理測定明度との相関を示している。模倣素材柄である場合の代表視認明度の相関は、理想的な相関(Y=X)と比較すると、(1)ある所定明度(図6中の星マーク)を境として、低明度域において、模倣素材柄の視認明度が無地色の視認明度よりも低く視感され易い傾向にあり、且つ(2)高明度域において、模倣素材柄の視認明度が無地色の視認明度よりも高く視感され易い傾向にある。これを「評価誤差」と呼ぶこととする。
【0060】
そこで、入力画面W2(図4参照)の色種類入力部41への選択入力が「模倣素材柄」である場合には、明度推定装置100は、予め用意されている模倣素材柄用の補正関数に代表視認明度を入力して推定明度を算出することで、この評価誤差を補正する。
【0061】
評価誤差の補正は、図6に基づいて説明すると、太実線の傾きを長破線で表された理想的な相関(Y=X)に合わせる「傾き補正」と、更に傾き補正後のY軸切片位置のズレを補正する「切片補正」と、で実現される。
【0062】
これらの補正によって、(1)代表視認明度が所定明度よりも低明度域である場合には、代表視認明度と所定明度との差が大きいほど値を高めるように補正されて推定明度が算出される。逆に、(2)代表視認明度が所定明度よりも高明度域である場合には代表視認明度と所定明度との差が大きいほど値を下げるように補正されて推定明度が算出される。
【0063】
図7は、補正後の模倣素材柄の代表視認明度と物理測定明度との相関の例を示すグラフである。当該グラフに示すように、補正後の模倣素材柄の代表視認明度の相関は、理想的とする相関(Y=X)に限りなく近づいており、誤差評価補正をすることで模倣素材柄の試料30であってもその明度を精度よく推定できることを示している。
【0064】
理想的な相関(Y=X)とのズレは、評価誤差に限らず、実施条件の要素(環境照度、観察者であるユーザの年齢、観察者であるユーザの性別、など)によっても生じ得る。
【0065】
そこで、明度推定装置100は、模倣素材柄の評価誤差補正のために、(1)環境照度を200ルクス/500ルクス/750ルクス/1000ルクスの4通り、(2)年齢条件を40歳未満/40歳以上の2通り、(3)性別を男性/女性の2通り、を組み合わせた合計16通りの実施条件それぞれに対応する補正関数を予め記憶している。これら16通りの補正関数は、合計16通りの実施条件それぞれについて、図5の試験と同様にしてサンプリングし、図6図7を用いて説明したのと同様にして求められる。
【0066】
図8は、環境照度と観察者であるユーザの年齢とについて代表視認明度と物理測定明度との相関を示すグラフである。サンプリングデータは、図5に係る試験結果である。
グラフに示すように、1000ルクスの環境照度があると観察者であるユーザによる年齢の影響を抑制できる点においては優れているが、相関の精度の観点からするとむしろ500ルクス程度のほうが好適であることが分かる。よって、補正関数の環境照度に係るバリエーションは、500ルクスを基準とし、500ルクスを挟んで1段階照度の低い200ルクスおよび1段階照度の高い750ルクス、1000ルクスの4種類とした。
【0067】
明度推定装置100は、照度入力部42・年齢条件入力部43・性別入力部44の各部に入力された結果に基づいて、合計16通りの補正関数のうちどれを使用するかを選択する。当該選択を「補正の設定」と呼ぶこととする。
【0068】
明度推定装置100は、照度入力部42の入力結果に基づいて補正の設定をすることで、環境照度に基づく理想的な相関(Y=X)とのズレを補正する「照度補正」ができる。
【0069】
また、明度推定装置100は、年齢条件入力部43の入力結果に基づいて補正の設定をすることで、観察者であるユーザの年齢に基づく理想的な相関(Y=X)とのズレの補正すなわち「年齢補正」ができる。
【0070】
また、明度推定装置100は、性別入力部44の入力結果に基づいて補正の設定をすることで、観察者であるユーザの性別に基づく理想的な相関(Y=X)とのズレの補正すなわち「性別補正」ができる。
【0071】
なお、評価誤差補正、照度補正、年齢条件補正、性別補正のうち、理想的な相関(Y=X)とのズレを許容できるのであれば、その1つ又は複数を適宜省略する構成も可能である。その場合、省略された補正の数だけ、予め用意しておく補正関数の数は、上述した16通りよりも少なくなる。
【0072】
図9は、明度推定装置100が記憶するプログラムやデータの例を示す図である。
明度推定装置100は、制御部150のICメモリ152に、明度推定プログラム501と、16通りの補正関数定義データ503と、明度推定制御データ510と、を記憶する。
【0073】
1つの補正関数定義データ503は、適合実施条件と、関数データとを対応付けて格納している。適合実施条件は、当該データを推定明度の算出に適用するために満たすべき要件であって、入力された実施条件(環境照度が4通り×年齢条件が2通り×性別が2通り=合計16通りの組み合わせ)が満たすべき要件を示す。
【0074】
図10は、明度推定装置100が明度推定プログラム501を実行することによって実現される機能部を示す図である。
明度推定プログラム501を実行することによって、明度推定装置100は、入力受付制御部210、補正設定部220、補正処理部222、としての機能を実現する。
【0075】
入力受付制御部210は、試料30の表面色の視感比較(評価)に関する各種入力を受け付ける制御を実行する。具体的には、入力画面W2(図4参照)を表示させ、色種類、照度、年齢条件、性別、視認明度の入力を受け付ける制御を行う。
【0076】
よって、制御部150およびキーボード108は、年齢条件入力部43における表示と入力受付に係り、ユーザの年齢条件を入力する年齢条件入力手段211、として機能するといえる。
【0077】
また、制御部150およびキーボード108は、視認明度入力部50における表示と入力受付に係り、1つの試料30に対して異なるN箇所(N≧2)の視認明度を入力する視認明度入力手段212、として機能するといえる。更には、4つの入力欄54(図4参照)の全てに視認明度が入力されるまで入力要求表示52が表示されることから、視認明度入力手段212は、N箇所(N≧4)の視認明度が入力されるまで、N箇所分の視認明度の入力を促す入力要求手段214、を有するといえる。
【0078】
また、制御部150およびキーボード108は、照度入力部42における表示と入力受付に係り、視認時の照度を入力する照度入力手段216、として機能するといえる。
【0079】
また、制御部150およびキーボード108は、性別入力部44における表示と入力受付に係り、ユーザの性別を入力する性別入力手段218、として機能するといえる。
【0080】
補正設定部220は、入力された実施条件(試料30の色の種類、環境照度、観察者であるユーザの年齢条件、観察者であるユーザの性別)に基づいて補正のための設定を行う。具体的には、16通りの補正関数定義データ503の中から、何れかの補正関数定義データ503を選択する処理を実行する。
【0081】
補正処理部222は、入力された視認明度を統計処理し、統計処理後の代表視認明度を、補正設定部220の設定に従って補正処理する。
具体的には、16通りの補正関数定義データ503の中から選択された補正関数定義データ503の示す関数へ、代表視認明度を入力して推定明度を算出する。
選択された補正関数定義データ503を適用することで、補正処理部222は、代表視認明度が所定明度より低い場合には低いほど明度を高く補正し、所定明度より高い場合には高いほど明度を低く補正する所与の補正傾向に基づいて補正処理を行う(図6図7参照)。この補正処理は、補正設定部220が、補正傾向の強弱を年齢条件に基づいて設定する、ということもできる。
【0082】
図9に戻って、明度推定制御データ510は、試料30の明度の推定に係る各種データを格納する。明度推定制御データ510は、実施条件データ512と、視認明度データ514と、代表視認明度516と、どの補正関数定義データ503を使用するかを示す補正設定データ518と、推定明度520と、を含む。勿論、これら以外のデータも適宜含めることができる。
【0083】
図11は、明度推定装置100における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
明度推定装置100は、明度推定プログラムの実行を開始すると、明度推定制御データ510(図9参照)の各値を全て「未定」に初期化・リセットして(ステップS8)、入力画面W2(図4参照)を表示する(ステップS10)。
【0084】
入力画面W2の表示に伴い、明度推定装置100は、実施条件入力部40での実施条件(色種類、環境照度、年齢条件、性別条件)の入力受付と入力結果の表示とを開始する。また、視認明度入力部50は、入力要求表示52の表示を開始し、入力欄54での視認明度の入力受付と入力結果の表示とを開始する。なお、入力欄54は、初期状態が未入力であり、入力欄54の初期表示数は4つである。代表視認明度表示部60および推定明度表示部62は、表示無しである。
【0085】
明度推定装置100は、追加操作アイコン56への操作を検出すると(ステップS12のYES)、入力欄54を追加表示して、当該入力欄での入力受付と入力結果の表示とを開始する(ステップS14)。
【0086】
明度推定装置100は、入力された視認明度の数が「4」以上になったならば(ステップS16のYES)、視認明度の入力を要求する入力要求表示52の表示を解除する(ステップS18)。入力要求表示52に代えて、視認明度の入力が十分である旨の表示をしてもよい。
【0087】
次に、明度推定装置100は、入力された視認明度を統計処理して代表視認明度を算出し(ステップS20)、代表視認明度表示部60にて算出結果を表示する(ステップS22)。なお、代表視認明度は、統計処理によって平均値或いは中央値として求められる。
【0088】
次に、明度推定装置100は、補正の設定を行う(ステップS24)。具体的には、入力された環境照度、年齢条件、性別が、適合実施条件を満たす補正関数定義データ503を選択する。
【0089】
そして、明度推定装置100は、選択した補正関数定義データ503が示す補正関数へ代表視認明度を入力して推定明度を算出し(ステップS26)、推定明度表示部62で算出結果を表示する(ステップS28)。これで、試料30の表面色の評価が完了したことになる。
【0090】
別の評価を行いたければ、ユーザはリセット操作アイコン64を操作する。
明度推定装置100は、リセット操作を検出すると(ステップS30のYES)、ステップS8に戻る。
所定のアプリケーション終了操作が入力されると(ステップS32のYES)、明度推定装置100は一連の処理を終了する。
【0091】
図12は、明度推定装置100の実用試験結果を示すグラフであって、横軸は、推定明度と物理測定明度との色差(ΔE)、縦軸が度数(試験結果の数)である。
実施条件は、環境照度が200ルクス、年齢条件が40歳以上、性別条件は無し(男女同比各20名)である。試料30は、模倣素材柄が異なる15種類を用意した。
【0092】
年齢条件が40歳以上で環境照度が200ルクスという実施条件は、ロービジョン者の使用が想定される現場環境の中では最も視認明度と物理測定明度との相関が悪くなる最悪ケースである(図8参照)。にもかかわらず、明度推定装置100による推定明度と物理測定明度との色差が平均「4.98」、標準偏差が「4.052」であった。
【0093】
図13は、塗料・塗装等の業界において一般的に使われている許容色差の分類の一例である。この分類によれば、明度差の平均「4.98」は4級相当である。4級は、経時比較(2つの色を時間差をおいて順に見比べること)してその違いを認識できるレベルである。ロービジョン者等がトイレの設備を使用する際にトイレや、洗面台、ドアなどの位置が分かりやすくなるように、壁とトイレの間や、壁と洗面台の間、壁とドアの間、といった隣り合う2つの部材の間に色の明度差をつけるレベルとしては、明度推定装置100による明度の推定は実用に十分な精度を有するといえる。
【0094】
以上、本実施形態によれば、木材・石材・織物・漆喰・和紙・セメント・レンガなどの所定の対象素材を模倣した模倣素材柄にも適用でき、且つJIS通りに厳密な条件で実施せずとも有効性が保たれる、新たな表面色の視感比較を実現できる。
【0095】
すなわち、色票と比色マスクを使う表面色の視感比較では、比色マスクの窓部から試料の模倣素材柄が見える状態とした上で、色票を代わる代わる窓部の半分ほどに挿入する。そして、模倣素材柄の明度と同じ明度と視認できる色票を探し出し、色票のマンセル値から色情報を読み取ることで視認明度とする。ここで、模倣素材柄は、多色のグラデーションや、微細な多色の粒や斑の集合であるため、観察位置によって視認明度のバラツキが生じ易い。しかし、試料の複数箇所における視認明度を統計処理して代表視認明度を求め、当該代表視認明度に基づいて推定明度を算出するので、位置によって視認明度にバラツキが生じたとしても、それを許容して推定明度を算出することができる。
【0096】
また、環境照度や、観察者であるユーザの年齢、観察者であるユーザの性別など、視感に影響を与える要素に応じた補正を施して推定明度を求めることができるので、適切な評価(推定明度)を得ることが可能になる。
【0097】
[変形例]
本発明を適用した実施形態の例について説明したが、本発明を適用可能な形態は上記形態に限定されるものではなく適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0098】
(変形例その1)
例えば、上記実施形態では、実施条件に含まれる要素として、環境照度、観察者であるユーザの年齢、観察者であるユーザの性別、を例示したが、これらのうち1つ又は複数を省略する形態も可能である。逆に、実施条件に含める要素(例えば、環境光の色温度)を追加してもよい。
【0099】
(変形例その2)
上記実施形態では、比色マスク20には窓部24が1つだけ設けられた例を示したが(図1参照)、比色マスク20の構造はこの例に限らない。
【0100】
例えば、図14に示す比色マスク20Bは、4つの窓部24(24a,24b,24c,24d)を有する。第1窓部24aの長手方向は、基体22の短辺方向に沿って設定されているが、第2窓部24b・第3窓部24c・第4窓部24dは、基体22の短辺方向に対してそれぞれ異なる相対角度を有するように離間して作られている。
【0101】
模倣素材柄の中には、強い方向性や遍在性を有するものがある場合がある。木目柄にはその傾向が強く、例えば年輪の筋状が強い方向性を示す場合がある。窓部24が1つの比色マスク20(図1参照)の場合には、方向性や遍在性のある模様素材柄の何処にマスクを当てればよいか、観察者によって個性が生まれ、それが視認明度のバラツキとなる可能性が考えられる。
【0102】
そこで、比色マスク20Bには、基体22の短辺方向に対してそれぞれ異なる相対角度を有する複数の窓部24が設けられている。観察者であるユーザは、試料30の何処でも良いので比色マスク20Bを試料30に当てて各窓部24で視認明度を判断すれば、自ずと柄の方向性や遍在性の影響を受けにくい視認明度の評価結果が得られる。
【0103】
(変形例その3)
比色マスク20の窓部24(図1参照)は、単なる基体22の切り欠き開口部として例示したが、図15の比色マスク20Cのように窓部24に、光拡散板26を嵌め込んだ構成も可能である。
【0104】
光拡散板を通すことで、試料30の模倣素材柄がぼかされて、観察者であるユーザにはより無地に近く見えるようになる。勿論、観察者であるユーザは、試料30の表面色と色票12の色の両方を、同じ光拡散板越しに見ることになるので明度の比較には影響が無い。
【符号の説明】
【0105】
4…明度判定システム
10…色見本帳
12…色票
20…比色マスク
22…基体
24…窓部
30…試料
33…比色マスクテストプレート
40…実施条件入力部
41…色種類入力部
42…照度入力部
43…年齢条件入力部
44…性別入力部
50…視認明度入力部
52…入力要求表示
54…入力欄
60…代表視認明度表示部
62…推定明度表示部
100…明度推定装置
108…キーボード
150…制御部
204…補正設定部
210…入力受付制御部
211…年齢条件入力手段
212…視認明度入力手段
214…入力要求手段
216…照度入力手段
218…性別入力手段
220…補正設定部
222…補正処理部
501…明度推定プログラム
503…補正関数定義データ
510…明度推定制御データ
512…実施条件データ
514…視認明度データ
516…代表視認明度
518…補正設定データ
520…推定明度
W2…入力画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15