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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131435
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】両面研磨方法及び両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01L21/304 621A
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041690
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康太
(72)【発明者】
【氏名】天海 史郎
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA03
5F057BA12
5F057BB03
5F057CA19
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA31
5F057EA33
5F057EA40
5F057GA07
(57)【要約】
【課題】
前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のフラットネスの悪化を防ぐことが可能な両面研磨方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
上下定盤に貼り付けられた研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させて、コロイダルシリカを含有したアルカリ溶液をスラリーとして供給しつつウェーハを研磨する両面研磨方法において、スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを特徴とする両面研磨方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下定盤に貼り付けられた研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させて、コロイダルシリカを含有したアルカリ溶液をスラリーとして供給しつつ前記ウェーハを研磨する両面研磨方法において、
該スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを特徴とする両面研磨方法。
【請求項2】
前記ステップを研磨終了まで続けてpHを低下させ続けるか、または、
前記ステップを研磨途中まで行い、前記スラリーのpHを前記終了時pHまで低下させその後、前記スラリーのpHを一定に保ち研磨を終了することを特徴とする請求項1に記載の両面研磨方法。
【請求項3】
前記スラリーのpHを一定に保ち研磨する際の取り代を1μm以上とすることを特徴とする請求項2に記載の両面研磨方法。
【請求項4】
前記ステップで前記スラリーのpHを低下させる際に、研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きが-0.1/min以上、-0.01/min以下となるように連続的に低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の両面研磨方法。
【請求項5】
研磨開始時の前記スラリーのpHを、pH=11以上、pH=12以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の両面研磨方法。
【請求項6】
前記終了時pHをpH=10以上、pH=11以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の両面研磨方法。
【請求項7】
研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差を0.5以上、2以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の両面研磨方法。
【請求項8】
研磨前の前記ウェーハの表面粗さをSaで100nm以上、1000nm以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の両面研磨方法。
【請求項9】
上下定盤に貼り付けられた研磨パッドと、前記研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させる加圧接触手段と、前記研磨パッドを前記ウェーハに対して相対移動させて研磨する移動手段と、砥粒を含有したアルカリ溶液であるスラリーを貯蔵するタンクと、前記タンクと前記上下定盤の間で前記スラリーを循環させる循環手段を備える両面研磨装置であって、
前記スラリーのpHの監視、制御を行うため、前記上下定盤と前記タンク間を循環する前記スラリーのpHを秒単位でモニタリングし、プロットされる研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出し、前記傾きを制御するため研磨中に無砥粒のアルカリ溶液を前記スラリーに加える機構を有することを特徴とする両面研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面研磨方法及び両面研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メモリーデバイスなどに用いられる半導体基板材料として用いられるシリコンウェーハの製造方法は、一般にチョクラルスキー(Czochralski;CZ)法や浮遊帯域溶融(FloatingZone;FZ)法等を使用して単結晶インゴットを製造する単結晶成長工程と、この単結晶インゴットをスライスし、少なくとも一主面が鏡面状に加工されるウェーハ製造(加工)工程とを有し、その後鏡面研磨ウェーハ上にデバイスを形成するデバイス製造工程が行われる。
【0003】
更に詳しくウェーハ製造(加工)工程について示すと、単結晶インゴットをスライスして薄円板状のウェーハを得るスライス工程と、該スライス工程によって得られたウェーハの割れ、欠けを防止するためにその外周部を面取りする面取り工程と、このウェーハを平坦化するラッピング工程や研削工程と、面取り及びラッピングや研削されたウェーハに残留する加工歪みを除去するエッチング工程と、そのウェーハ表面を鏡面化する研磨(ポリッシング)工程と、研磨されたウェーハを洗浄して、これに付着した研磨剤や異物を除去する洗浄工程を有している。
【0004】
上記ウェーハ加工工程は、主な工程を示したもので、他に熱処理工程等の工程が加わったり、同じ工程を多段で行ったり、工程順が入れ替えられたりする。
【0005】
特に研磨工程では、粗研磨と称される1次研磨工程と精密研磨と称される仕上げ研磨工程に区分けされ、場合により1次研磨工程や精密研磨を更に2工程以上に分け、1次、2次研磨工程等と称する場合がある。
【0006】
研磨工程では、定盤上で回転する研磨布と、研磨ヘッドのウェーハ支持盤に支持されたエッチング済みのシリコンウェーハ等を、適切なる圧力で接触させて研磨する。この際にコロイダルシリカを含有したアルカリ溶液(スラリー、研磨剤などと呼ばれる)が用いられている。このようなスラリーを研磨布とシリコンウェーハの接触面に添加することにより、スラリーとシリコンウェーハがメカノケミカル作用を起こし研磨が進行する(例えば特許文献1)。
【0007】
ウェーハを鏡面研磨する前のラッピングや、研削条件及びエッチング条件によっては、ウェーハ表面の形状が変化し、急峻な凹凸からなる表面モフォロジを持ったCWウェーハ(エッチドウェーハ)となる場合がある(例えば特許文献2)。
【0008】
このようなウェーハを両面研磨でバッチを重ねて加工し続けると、研磨パッドにダメージが生じてしまい、フラットネスが悪化してしまう。そのため研磨パッドのライフを短くする必要がある。
【0009】
研磨パッドへのダメージなどを低減する対策として、両面研磨スラリーのpHを上げることでケミカル作用を増大させ、ウェーハ表面を軟質化する方法が挙げられるが、同じくケミカル作用によりフラットネスに異方性が発現し、結局フラットネスは悪化してしまう。
【0010】
なお、研磨中にpHを変化させる技術として、例えば特許文献3には第1のpH値の平坦化液体と研磨パッドとを用意するステップ(a)と、前記第1のpH値の平坦化液体を前記研磨パッドに配送するステップ(b)と、前記ウェハと前記研磨パッドに所定の圧力を加えるステップ(c)と、前記ウェハと前記研磨パッドの少なくとも一方を移動することによって第1段階の研磨を実行するステップ(d)と、前記平坦化液体の第1のpH値を第2pH値に変更すると共に、第2段階の研磨を実行するステップ(e)とを有する技術が開示されている。
【0011】
この技術は、二酸化珪素の残留の問題を解消できると共に、反マスクエッチング作業や再除去作業を要しないようにすることができ、研磨制御能力を向上でき、コストを低減させることができるとともに、歩留まりをも向上できる化学機械平坦化方法、すなわちCMPと言われる片面研磨方法に関するものであり、二酸化珪素(SiO、酸化膜)を除去する研磨である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-342848号公報
【特許文献2】特許第7168113号公報
【特許文献3】特開2002-231662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、シリコン等の半導体ウェーハの両面研磨工程では、加工前のウェーハはエッチングなどにより粗面を形成しており、特許文献3のCMP研磨のような枚葉式の研磨装置ではなく、複数枚の(直径300mm程度の)ウェーハを加工するバッチ式の両面研磨装置が採用されており、この両面研磨装置においては、枚葉式よりもスラリーが定盤間に長く滞在するため、pHを2段階に変化させようとすると、単にpHの異なるスラリーAとBが混在し、意図したpHを研磨面において達成することが難しかった。
【0014】
また、pHの高いスラリーに低いスラリーを混在させることから、電気的にシリカ砥粒を分散させる働きを持つ水酸化物イオンの混合が活発となり、瞬間的に砥粒から脱離してしまって砥粒が凝集し、マイクロスクラッチが発生することがあった。
【0015】
このように研磨工程においては、フラットネスの悪化を防止する事が重要であるが、両面研磨する前のウェーハの表面状態により、両面研磨後のフラットネスが悪化するという問題があった。特に研磨布のライフが進むにつれてフラットネスが悪化するなどの不具合があった。
【0016】
特に、結晶の方位やウェーハの面方位などの影響や、研削条件及びエッチング条件によっては、ウェーハ表面の形状が変化し、急峻な凹凸からなる表面モフォロジをもったCWウェーハ(エッチドウェーハ)を両面研磨した場合、ライフの初期でもフラットネスの悪化が顕著であった。
【0017】
そこで、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐ両面研磨方法および両面研磨装置が必要であった。
【0018】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のフラットネスの悪化を防ぐことが可能な両面研磨方法、及び、前工程のウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなる両面研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、上下定盤に貼り付けられた研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させて、コロイダルシリカを含有したアルカリ溶液をスラリーとして供給しつつ前記ウェーハを研磨する両面研磨方法において、該スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを特徴とする両面研磨方法を提供する。
【0020】
このような両面研磨方法によれば、研磨初期においてpHを高くしてケミカル作用を増大させウェーハ表面を軟質化して表面の凹凸を溶かすように除去することで、投入ウェーハの粗さによる研磨パッドへのダメージを抑制しながら、ウェーハ表面を研磨する。さらに、研磨後期においてpHを低くしてケミカル作用を抑制することでフラットネスに異方性が発現するのを抑制しつつメカニカル作用によって良好なフラットネスを得る。また、連続的にpHを低下させることで、pHの急変によるスクラッチの発生も抑制される。
【0021】
そのため、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能になる。
【0022】
このとき、前記ステップを研磨終了まで続けてpHを低下させ続けるか、または、前記ステップを研磨途中まで行い、前記スラリーのpHを前記終了時pHまで低下させその後、前記スラリーのpHを一定に保ち研磨を終了することができる。
【0023】
このように、研磨中にpHを低下させ続ける場合は、pHの低下速度を一定に保つことができ、pHの急変によるスクラッチの発生を抑制する上で有利である。
また、pHを低下させるステップを研磨途中まで行い、その後はpHを一定に保つ場合、pHを一定に保った状態では研磨レートが一定になるため、研磨後の狙い厚さを達成しやすくなり、厚みの制御やフラットネスの作り込みも容易となる。
【0024】
このとき、前記スラリーのpHを一定に保ち研磨する際の取り代を1μm以上とすることができる。
このようにpHを一定に保ち研磨する際の取り代を1μm以上とすることで、取り代を1μm未満とする場合と比べて表面を深く研磨するため、さらに良好なフラットネスが得られる。
【0025】
このとき、前記ステップで前記スラリーのpHを低下させる際に、研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きが-0.1/min以上、-0.01/min以下となるように連続的に低下させることができる。
【0026】
傾きを-0.1/min以上とすることで、傾きを緩やかにできるので、スラリーの急激なpH低下を防ぎ、砥粒の凝集を確実に防ぐことができ、pHの急変によるスクラッチの発生を確実に抑制できる。
傾きを-0.01/min以下とすることで、pHが高くケミカルな作用が主体となる状態となる期間を必要十分な期間にでき、フラットネスを良くできる。
【0027】
このとき、研磨開始時の前記スラリーのpHを、pH=11以上、pH=12以下とすることができる。
pH=11以上とすることで、研磨初期においてpHを高くしてケミカル作用を確実に増大させウェーハ表面を軟質化することができ、投入ウェーハの粗さによる研磨パッドへのダメージを抑制しながら、ウェーハ表面を研磨する点で、より有利となる。
pH=12以下とすることで、フラットネスに異方性が発現するのをより確実に抑制できる。
【0028】
このとき、前記終了時pHをpH=10以上、pH=11以下とすることができる。
終了時pHをpH=10以上とすることで、スラリーの凝集を確実に抑制できる。
pH=11以下とすることで、フラットネスに異方性が発現するのをより確実に抑制できる。
【0029】
このとき、研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差を0.5以上、2以下とすることができる。
【0030】
研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差を0.5以上とすることで、研磨初期のケミカル作用が主体となる研磨から、研磨後期のメカニカル作用が主体の研磨へと、効果的に変化させられる。
研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差を2以下とすることでpHの傾きを緩やかにでき、pHの急変によるスクラッチの発生を確実に抑制できる。
【0031】
このとき、研磨前の前記ウェーハの表面粗さをSaで100nm以上、1000nm以下とすることができる。
【0032】
研磨前の前記ウェーハの表面粗さをSaで100nm以上とすることで、表面粗さの粗いウェーハをより良好なフラットネスに研磨できる。
研磨前の前記ウェーハの表面粗さをSaで1000nm以下とすることで研磨パッドへの負荷をより減らすことができる。
【0033】
また本発明は、上下定盤に貼り付けられた研磨パッドと、前記研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させる加圧接触手段と、前記研磨パッドを前記ウェーハに対して相対移動させて研磨する移動手段と、砥粒を含有したアルカリ溶液であるスラリーを貯蔵するタンクと、前記タンクと前記上下定盤の間で前記スラリーを循環させる循環手段を備える両面研磨装置であって、前記スラリーのpHの監視、制御を行うため、前記上下定盤と前記タンク間を循環する前記スラリーのpHを秒単位でモニタリングし、プロットされる研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出し、前記傾きを制御するため研磨中に無砥粒のアルカリ溶液を前記スラリーに加える機構を有することを特徴とする両面研磨装置を提供する。
【0034】
このような両面研磨装置によれば、スラリーのpHをモニタリングして得られた研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを、研磨中に無砥粒のアルカリ溶液をスラリーに加えることで制御できる。
【0035】
これにより、研磨中にpHを低下させる際に、所望の傾きとなるような正確な低下速度でpHを低下させることができるものとなる。
そのため、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなる。
【発明の効果】
【0036】
このように本発明の両面研磨方法ではシリコン等のウェーハを両面研磨する際に、加工直後は投入ウェーハの表面粗さの影響をケミカル作用で低減して加工を進め、加工終端においては、メカニカル作用により良好なフラットネスを得ることができる。
【0037】
そのため、本発明の両面研磨方法では前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のフラットネスの悪化を防ぐことが可能になる。
また本発明の両面研磨装置では、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係る両面研磨装置の概略図を示す。
図2】本発明の実施形態に係る両面研磨方法における研磨時間と、スラリーのpHの関係を示す。
図3】本発明の第1の形態に係る両面研磨方法における研磨時間と、スラリーのpHの関係を示す。
図4】本発明の第2の形態に係る両面研磨方法における研磨時間と、スラリーのpHの関係を示す。
図5】実施例1~4と比較例1のGBIRを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
上述のように、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能な両面研磨方法が求められていた。
また、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなる両面研磨装置が求められていた。
【0041】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上下定盤に貼り付けられた研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させて、コロイダルシリカを含有したアルカリ溶液をスラリーとして供給しつつ前記ウェーハを研磨する両面研磨方法において、該スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを特徴とする両面研磨方法により、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことができることを見出し、本発明を完成した。
【0042】
また本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上下定盤に貼り付けられた研磨パッドと、前記研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させる加圧接触手段と、前記研磨パッドを前記ウェーハに対して相対移動させて研磨する移動手段と、砥粒を含有したアルカリ溶液であるスラリーを貯蔵するタンクと、前記タンクと前記上下定盤の間で前記スラリーを循環させる循環手段を備える両面研磨装置であって、前記スラリーのpHの監視、制御を行うため、前記上下定盤と前記タンク間を循環する前記スラリーのpHを秒単位でモニタリングし、プロットされる研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出し、前記傾きを制御するため研磨中に無砥粒のアルカリ溶液を前記スラリーに加える機構を有することを特徴とする両面研磨装置により、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0043】
以下、図1図4を参照しながら本発明の実施形態に係る両面研磨方法及び両面研磨装置について説明する。
【0044】
まず、図1を参照して本発明の実施形態に係る両面研磨装置100について説明する。ここでは両面研磨装置100として、シリコンウェーハWの表裏両面を研磨する装置を例示している。
【0045】
図1に示すように両面研磨装置100は、上定盤3、下定盤5、研磨パッド7、サンギヤ11、インターナルギヤ13、キャリア1、加圧接触手段23、回転軸21、22、タンク25、循環手段27、及びpH調整機構51を備える。
【0046】
上定盤3と下定盤5はシリコンウェーハWを上下に挟むように配置された円板状の定盤であり、互いに上下に対向配置される。上定盤3には上下に貫通する孔であるスラリー供給口17が設けられており、研磨時にはスラリー供給口17から砥粒を含むアルカリ溶液がスラリーとして供給される。
【0047】
研磨パッド7はシリコンウェーハWを研磨する研磨布であり、上側研磨パッド7a及び下側研磨パッド7bを有する。上側研磨パッド7aはシリコンウェーハWの上面を研磨する研磨布であり、上定盤3の下面に貼り付けられて保持される。下側研磨パッド7bはシリコンウェーハWの下面を研磨する研磨布であり、下定盤5の上面に貼り付けられて保持される。
【0048】
サンギヤ11は上定盤3と下定盤5の間に同軸配置された平歯車であり、インターナルギヤ13は上定盤3と下定盤5の間の周縁部に同軸配置された内歯車である。
【0049】
キャリア1は上側研磨パッド7aが貼付された上定盤3と下側研磨パッド7bが貼付された下定盤5の間に配設された金属製の平歯車であり、サンギヤ11及びインターナルギヤ13と噛合する。キャリア1は研磨の際に上定盤3と下定盤5の間に挟まれるシリコンウェーハWを保持するための保持孔24が形成されており、保持孔24の内周にはシリコンウェーハWの外周を保護する樹脂製のリング状のインサート26が嵌合あるいは接着されている。
【0050】
加圧接触手段23は研磨パッド7が貼付された上定盤3を上下動させるシリンダ等の駆動機構である。加圧接触手段23はキャリア1がシリコンウェーハWを保持した状態、つまり下側研磨パッド7b上にシリコンウェーハWを載せた状態で上定盤3を下降させて上側研磨パッド7aをシリコンウェーハWの上面に接触させて加圧することで研磨パッド7をシリコンウェーハ両面に加圧接触させる。
【0051】
回転軸21は上側研磨パッド7aが貼付された上定盤3を回転させることで上側研磨パッド7aをシリコンウェーハWに対して相対移動させる軸であり、その軸方向が鉛直方向を向いて上定盤3の円板の上面の軸中心に固定される。回転軸22は下側研磨パッド7bが貼付された下定盤5を回転させることで下側研磨パッド7bをシリコンウェーハWに対して相対移動させる軸であり、その軸方向が鉛直方向を向いて下定盤5の円板の下面の軸中心に固定される。
【0052】
タンク25は砥粒を含有したアルカリ溶液であるスラリーを貯蔵する容器である。タンク25は研磨に必要十分な量のスラリーを貯蔵でき、砥粒やアルカリ溶液で内周面が消耗しない範囲で、容量や材質は適宜選択できる。容量は例えば50L以上である。
【0053】
循環手段27はタンク25と、上定盤3及び下定盤5との間でスラリーを循環させる手段であり、供給管29a、回収槽41、回収管29b、及びポンプ39を備える。
供給管29aはタンク25から上定盤3のスラリー供給口17にスラリーを供給する配管であり、一端がタンク25の下部に接続され、他端がスラリー供給口17の上方に位置する。
【0054】
シリコンウェーハWの両面研磨の際には、図1に示す上定盤3を加圧接触手段23で下降させて研磨パッド7をシリコンウェーハ両面に加圧接触させ、さらに上定盤3及び下定盤5が回転軸21、22によって回転されることで、キャリア1は自転しつつサンギヤ11の周りを公転して研磨パッド7がシリコンウェーハWに対して相対移動する。さらにスラリー供給口17から供給されたスラリーは上側研磨パッド7aと下側研磨パッド7bの間に研磨剤として流れ込み、シリコンウェーハWが研磨される。
【0055】
上側研磨パッド7aと下側研磨パッド7bの間に流れ込んだスラリーはシリコンウェーハWを研磨しつつ、下側研磨パッド7bが回転する際の遠心力によって、下側研磨パッド7bおよび下定盤5の外周に向けて押し出され、下定盤5の外周端から流れ落ちる。
【0056】
回収槽41は研磨時に下定盤5の外周端から流れ落ちたスラリーを回収する容器であり、上面が開放された有底の円筒状で、下定盤5の下方に設けられる。
回収管29bは回収槽41で回収したスラリーをタンク25に戻す配管であり、一端が回収槽41の底面に接続され、他端がタンク25の上面に接続される。
【0057】
ポンプ39は回収槽41で回収したスラリーをタンク25に圧送する流体機械であり、回収管29bの中途に設けられる。ポンプ39は回収槽41で回収したスラリーをタンク25に圧送できる圧力と流量を生成できる範囲で構造を適宜選択すればよい。
【0058】
pH調整機構51はスラリーのpHを調整する機構である。より具体的には研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを制御するため、研磨中に無砥粒のアルカリ溶液をスラリーに加える機構である。
【0059】
両面研磨装置100がpH調整機構51を備える理由について、図2を参照して簡単に説明する。
まず急峻な凹凸からなる表面モフォロジをもったCWウェーハを研磨する際には、研磨パッド7へのダメージを低減する観点からは、スラリーのpHは、高いほうが急峻な凸部を除去しやすいため好ましい。
一方で、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐという観点からは、スラリーのpHは高くしすぎない方が好ましい。
【0060】
そこで本発明者らは図2における研磨時間とスラリーのpHの関係L1またはL2に示すように、スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpH(図2の終了時pH)より高く設定した状態(図2の開始時pH)で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを考えた。
【0061】
特に連続的にpHを低下させる際に研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを図2に示すように一定にすることで、研磨するシリコンウェーハWの粗さによる研磨パッド7へのダメージを抑制しながら、良好なフラットネスを得ることを考えた。
【0062】
ただし、スラリーのpHは研磨の進行によって常に変化するため、線形近似式の傾きを一定にしながらスラリーのpHを連続的に低下させるためには研磨中にアルカリ溶液をスラリーに加えてpHを調整する必要がある。そこで、両面研磨装置100はpH調整機構51を備える。
【0063】
図1に示すようにpH調整機構51は、pHメータ37、アルカリ溶液貯留槽31、アルカリ溶液供給管33、電磁弁35、及び制御部43を備える。
【0064】
pHメータ37は上定盤3及び下定盤5とタンク25間を循環するスラリーのpHを測定するセンサである。具体的にはpHメータ37はタンク25内のスラリーのpHを測定するセンサであり、pHを測定するセンサとしての部分がタンク25内に設けられる。pHメータ37はガラス電極法等の公知の方式のセンサを用いればよい。
【0065】
また、pHメータ37はスラリーのpHを秒単位でモニタリングする必要がある。具体的にはpHメータ37はスラリーのpHの変動に対して秒単位で変動を検出可能である必要がある。
【0066】
アルカリ溶液貯留槽31はスラリーに添加するアルカリ溶液を貯留する容器である。通常は、アルカリ溶液貯留槽31が貯留するアルカリ溶液は、スラリーが含むアルカリ溶液と同じである。
【0067】
アルカリ溶液供給管33はアルカリ溶液貯留槽31からタンク25にアルカリ溶液を供給する配管であり、一端がアルカリ溶液貯留槽31の下部に接続され、他端がタンク25の上面に接続される。
【0068】
なお図1では説明を簡単にするためにアルカリ溶液貯留槽31からタンク25にアルカリ溶液を直接加える構造を例示したが、アルカリ溶液貯留槽31からタンク25の間に調合タンクを設け、調合タンクを介してタンク25にアルカリ溶液を加える構成としてもよい。
【0069】
電磁弁35はアルカリ溶液供給管33を流れるアルカリ溶液の流量を調整する電気的駆動弁であり、アルカリ溶液供給管33の中途に設けられる。
【0070】
制御部43はスラリーのpHの監視、制御を行う装置であり、pHメータ37及び電磁弁35と電気的に接続されたコンピュータである。具体的には制御部43は以下のようにスラリーのpHの監視、制御を行う。
【0071】
まず制御部43はpHメータ37を用いてスラリーのpHを秒単位でモニタリングする。つまり所定の秒数ごとにpHメータ37が測定したpHを取得する。次に制御部43は、モニタリングしたpHと研磨時間の関係からプロットされる研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出する。
【0072】
制御部43はさらに算出した傾きを所望の値に制御するため、研磨中に電磁弁35の開閉を制御して無砥粒のアルカリ溶液をアルカリ溶液貯留槽31からアルカリ溶液供給管33を介してタンク25に注入することでスラリーに加える。
【0073】
このように両面研磨装置100の制御部43は、スラリーのpHをモニタリングして得られた研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを、研磨中に無砥粒のアルカリ溶液をスラリーに加えることで制御する。
【0074】
これにより、研磨中にpHを低下させる際に、所望の傾きとなるような正確な低下速度でpHを低下させることができる。
そのため両面研磨装置100は、前工程に起因するウェーハ表面モフォロジに左右されず、両面研磨後のウェーハ表面のフラットネスの悪化を防ぐことが可能なものとなる。
以上が両面研磨装置100の説明である。
【0075】
次に本発明の実施形態に係る両面研磨方法について、両面研磨装置100を用いた場合を例に説明する。
【0076】
まず、シリコンウェーハWをキャリア1の保持孔24に保持させ、加圧接触手段23を用いて上定盤3及び下定盤5に貼り付けられた研磨パッド7をシリコンウェーハWの両面に加圧接触させる。さらに、循環手段27を用いて砥粒を含有したアルカリ溶液をスラリーとして研磨パッド7に供給しつつ、上定盤3及び下定盤5を回転軸21、22によって回転させることで、研磨パッド7をシリコンウェーハWに対して相対移動させて研磨を行う。
【0077】
この研磨方法は、図2における研磨時間とスラリーのpHの関係L1またはL2に示すように、スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップ(以下、第一の研磨S1ともいう)を有しており、終了時pHを研磨開始時のpHである開始時pHより低くした状態で研磨を終了する。
【0078】
従来は、pHは一定に保つように加工するのが常であったが、本発明の実施形態では一加工中に徐々にpHが下がるようにして加工する。
【0079】
このように研磨初期においてpHを高くし、研磨後期においてpHを低くすることで、投入ウェーハの粗さによる研磨パッドへのダメージを抑制しながら、良好なフラットネスを得ることができる。
【0080】
そして、pHを緩やかに低くすることで、スラリーの凝集などを防ぎつつ、スクラッチの発生を防ぎつつ、良好なフラットネスを得ることができる。
【0081】
特に本発明では、加工開始と終了時のpHを変化させるが、このpH変化は、スクラッチの発生などを防ぐため、離散的ではなく、加工中に連続的に変化させることが重要である。
【0082】
なお、pHを一定にする従来の両面研磨においても、厳密にはpHは研磨時間の経過とともに、若干低下するが、本発明のpHを低くするというのは、アルカリ溶液の添加により意図的にpHを関係L1またはL2に示すように研磨時間の経過とともに低下させる場合を意味する。
【0083】
このようにpHを調整するために、本発明ではpHの監視、制御を行うため、上定盤3及び下定盤5とタンク25間を循環するスラリーのpHを秒単位でモニタリングし、プロットされるpHの線形近似式の傾きを算出し、pHの傾きを制御するため研磨中に無砥粒のアルカリ水溶液を加えるpH調整機構51を有する両面研磨装置100を用いるのが好ましい。
【0084】
また、このようにpHの変化(pHの線形近似式の傾き)を制御する場合、傾きが-0.1/min以上、-0.01/min以下となるようにするのが好ましい。
【0085】
このpHの変化を徐々に低下、具体的にはスラリーのpHを低下させる際に研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きが-0.1/min以上、-0.01/min以下となるようにコントロールすることで、スクラッチの発生を確実に抑制でき、フラットネスの悪化も確実に抑制できる。
【0086】
特にpHの変化を-0.1/min以上にすることで、スラリーの急激なpH低下を防ぎ、砥粒の凝集を確実に防ぐことができる。またpHの変化を-0.01/min以下とすることで、pHが高くケミカルな作用が主体となる状態となる期間を必要十分な期間にでき、フラットネスを良くできる。このように本実施形態では、一加工中にケミカルな効果とメカニカルな効果が効果的に変化するようにpHの傾きを調整する。
【0087】
好ましくは、pH変化を-0.05~-0.02/min程度で実施すると、砥粒の凝集を防止しつつ、高pHとなる期間が長いため、ケミカル作用による研磨レート向上、つまり生産性が向上しやすい。
【0088】
なお、本実施形態では両面研磨方法を実施する装置として図1に示す両面研磨装置100を例示しているが、装置は特に限定するものではない。ただし本発明の実施形態に係る両面研磨方法は、スラリーの置換に時間のかかるような大型の装置で特に有効である。例えばバッチ方式で直径300mmを超えるウェーハを両面研磨するような装置に適用すると特に効果が大きい。
【0089】
このような大口径のウェーハを複数枚バッチ式で処理する装置は、装置が大きくなり、加工中のスラリーの置換に時間がかかる。このような装置で、例えば離散的に2段でpHを変化させても、装置内でのアルカリ溶液の濃度差が生じ、十分な効果が得られないことがある。
【0090】
よって本発明の両面研磨方法のようにpHを連続的に変化させることで、装置の大きさに関係なく良好な効果を得ることができる。
【0091】
なお、スラリーは、アルカリ水溶液ベースのシリカ砥粒を含むものが好適である。
アルカリ水溶液ベースであると、水酸化物イオンにより、本発明においてキーポイントとなる砥粒の分散とケミカル作用による粗面の軟質化が同時に達成される。
【0092】
また、スラリーの供給は、容量50L以上のタンク25を用いた循環方式とすることが好ましい。これは、pHを徐々に変化させるためには、アルカリ水溶液を加える必要があるが、大容量のタンク25ではpH調整のためにアルカリ水溶液を加えた際に変動が小さく、pHの調整精度が高くなるためである。このようにスラリーのpHを調整しやすいサイズのタンク25や、アルカリ溶液の注加設備(pH調整機構51)とするのが好ましい。
【0093】
本発明の具体的な両面研磨方法は、2通りの方法を例示できる。
まず図2及び図3における研磨時間とスラリーのpHの関係L1で示すように、pHを通常よりは高めに設定し、ケミカル効果を上げた状態で研磨加工を開始し、徐々にpHを変化させ(好ましくはpH変化の傾きを-0.1/min以上-0.01/min以下となるように連続的にpHを低下させ)、図3に示すように第一の研磨S1を研磨終了まで続けてpHを低下させ続け、最終的に狙い厚さになったときには(終端では)pHを低くした状態で研磨を終了する両面研磨方法が挙げられる(第1の形態)。
【0094】
このように、第1の形態は、研磨開始時はpHを高くし、連続的にpHを変化させ続け、最終的に研磨開始時のpHよりも研磨終了時のpHを低くする。第1の形態は研磨開始から研磨終了までpH変化の傾き、つまりpHの低下速度を一定に保つため、pHの急変によるスクラッチの発生を抑制する上で有利である。
【0095】
次に本発明の別な形態として、本発明の両面研磨方法は、図2及び図4における関係L2で示すように、第1の形態と同様に加工開始時にはpHを高めに設定し、ケミカル効果を上げた状態で研磨加工を開始し、徐々にpHを変化させ(好ましくはpH変化の傾きを-0.1/min以上-0.01/min以下となるように)加工終了直前まで第一の研磨S1を行い、その後狙い厚さまで(終端まで)pHを一定に保つように第二の研磨S2を行う両面研磨方法とすることもできる(第2の形態)。
【0096】
具体的には第2の形態では、pHを低下させる第一の研磨S1を研磨途中まで行い、スラリーのpHを終了時pHまで低下させ、その後、スラリーのpHを一定に保ち研磨を終了する。
【0097】
つまり、第2の形態では本発明の緩やかにpHを変化させる第一の研磨S1は加工終端の直前まで実施し、その後、pHを低い状態で一定に保つようにして加工する。なお、第一の研磨S1を終了する時刻t1は、スラリーのpHが終了時pHまで低下するのに必要な時間と、第一の研磨S1のpHの傾きと第二の研磨S2での取り代に応じて設定する。
【0098】
第1の形態のように、常にpHを低下させながら研磨する場合、pHによって変動する研磨レートを予測しながら、良好なフラットネスと狙い厚さを同時に達成する必要があるが、第2の形態のように一定期間pHを一定とする第二の研磨S2を加えることで、第2の研磨の際はケミカル作用が一定、つまり研磨レートが一定となるため、狙い厚みを達成しやすくなる。また厚さの制御やフラットネスの作り込みも容易となる。
【0099】
第2の形態では、スラリーのpHを一定に保ち研磨する際、つまり第二の研磨S2の際の取り代を1μm以上とすることが好ましい。この取り代以上にすることで更に良好なフラットネスを形成できる。また、第二の研磨S2の取り代の上限は特に限定するものではないが、3μm以下にするのが良い。取り代の上限を3μm以下とすることで、トータルの両面研磨時間に対する、pHを緩やかに変化させる部分、つまり第一の研磨S1の時間を長くでき、研磨時間を短縮できる。
【0100】
第1の形態および第2の形態のいずれも、終了時pHを10以上とすることが好ましい。
終了時pHを10以上とすることでスラリーの凝集を確実に抑制できる。上限は時に限定するものではないが、本発明のように開始時と終了時の差をつけるようにする必要がある(好ましくはpH=0.5以上の差になるように加工する)場合、開始時のpHにもよるが、終了時pHを、pH=11以下とすると、良好なフラットネスが得られる。
【0101】
また、第1の形態および第2の形態のいずれも、研磨開始時のスラリーのpHは、pH=11以上、pH=12以下にすることが好ましい。
pH=11以上とすることで、研磨初期においてpHを高くしてケミカル作用を確実に増大させウェーハ表面を軟質化することができ、投入ウェーハの粗さによる研磨パッドへのダメージを抑制しながら、ウェーハ表面を研磨する点で、より有利となる。
pH=12以下とすることで、フラットネスに異方性が発現するのをより確実に抑制できる。
【0102】
第1の形態および第2の形態のいずれも、研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差は0.5以上となるような条件で加工することが好ましい。このような差であれば、ケミカルとメカニカルの作用が効果的に変化する。
つまり、始めはケミカル強めでウェーハの凹凸を溶かすように除去し、その後pHを下げて通常のフラットネスを狙う研磨にシフトする。
【0103】
研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差の上限は特に限定しないが、2以下とすることでpHの傾きを緩やかにでき、pHの急変によるスクラッチの発生を確実に抑制できるので、好ましい。
【0104】
第1の形態および第2の形態のいずれも、投入するウェーハ、つまり研磨前のシリコンウェーハWの表面粗さは算術平均高さSaにして100nm以上の粗いものが好ましい。
【0105】
このような加工開始時のウェーハ表面の粗いウェーハを加工する時に、本発明の方法を使用すると、研磨パッド7への負荷を減らし、良好なフラットネスのシリコンウェーハWが得られる。
また、研磨前のシリコンウェーハWの表面粗さをSaで1000nm以下とすることで研磨パッド7への負荷をより減らすことができるので、好ましい。
【0106】
なお、Saが鏡面に近いものよりは多少粗い方が初期のケミカル作用での軟質化の効果が大きく、粗すぎないものの方が研磨パッド7への負荷を小さくできる。よって本発明の両面研磨方法は、ラップや研削、エッチングなどを行ったウェーハなどで、Saで100nm以上1μm(1000nm)以下の表面粗さの粗いウェーハを両面研磨するのに適している。
【0107】
このように本発明の両面研磨方法は(特に複数枚同時に加工する)両面研磨において、研磨中に、pHを徐々に下げるように加工を行うことで、投入ウェーハの表面粗さの影響を高pH(=ケミカル作用大)によって低減し、加工終端においては低pH(=メカニカル作用大)でフラットネスを良化することができる。
【実施例0108】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
本発明の実施形態に係る両面研磨措置を用いて第2の形態に基づきpHを徐々に下げながら両面研磨を行い、pHを一定にして研磨を行った場合とフラットネスを比較した。具体的な手順は以下の通りである。
【0109】
(実施例1)
まず直径300mmのP型シリコン単結晶ウェーハを用意し、#1000のラッピング後にアルカリエッチングで処理したものを研磨対象として用意した。
このウェーハの粗さは、算術平均高さSaにして、平均183nmであった。
【0110】
[両面研磨について]
両面研磨装置100として、不二越機械工業のDSP-20Bに研磨パッド7として発泡ポリウレタンパッドを貼り、キャリア1はチタン基板にインサート26としてガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸したFRP(Fiber Reinforced Plastics)を用い、スラリーは平均粒径35nmのシリカ砥粒を含有したKOH水溶液を用いた。
【0111】
また、本装置に付随のタンク25は、タンク内のスラリー容量を100Lとし、装置に循環方式で供給できるように循環手段27を設けたものとした。
【0112】
また実施例1はpH12から研磨を開始し、pH=10.1まで変化させながら両面研磨した。狙い厚さの2μm前でpHを低下させる制御を終了し、その後は狙い厚さまでpHが一定になるように制御しつつ研磨を続けた。pHが一定になる前のpHの傾きは-0.096/minであった。
【0113】
また実施例1では、pHメータ37が測定したタンク25内のpHのロギングデータから、制御部43を用いて研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出しつつ、電磁弁35の開閉を制御して、pH=11の無砥粒アルカリ水溶液を1~10mL/回の範囲でpHの傾き(pH変化)が-0.096/minを保つように無砥粒アルカリ水溶液の供給を繰り返した。なお、研磨中はアルカリ成分を添加しないとスラリーのpHがアルカリ溶液のpH以下に下がるため、pH=11の無砥粒アルカリ水溶液を用いる場合でも電磁弁35の開閉制御でpH=10.1まで下げられる。
【0114】
(実施例2)
pH11から研磨を開始し、pH=10.3まで変化させながら両面研磨した。狙い厚さの1μm前でpHを低下させる制御を終了し、その後は狙い厚さまでpHが一定になるように制御しつつ研磨を続けた。一定になる前のpHの傾きは-0.013/minであった。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0115】
(実施例3)
pH11.5から研磨を開始し、-0.04/minでpHを低下させ続け、狙い厚さで研磨を終了した。研磨終了時のpH=10.2であった。その他の条件は実施例2と同様とした。
【0116】
(実施例4)
pH11から研磨を開始し、pH=10.0まで変化させながら両面研磨した。
pHの傾きは-0.07/minであった。その他の条件は実施例2と同様とした。
【0117】
(比較例1)
pH10.3から研磨を開始し、pH=10.3に維持して研磨を行った。つまり意図的にpHを下げる制御を行わず、図2の関係L3に示すように一定のpHとなるように研磨を行った。実施例1~4などと同じ見方をした場合、pH変化としては-0.008/min程度でありほぼ一定であった。
【0118】
実施例1~4および比較例1の条件で研磨した後のシリコンウェーハWのフラットネスおよびスクラッチの発生状況を確認した。
【0119】
[フラットネス評価]
研磨後のフラットネスは1バッチ5枚をすべてKLA製のウェーハ平坦度測定装置Wafersight1で測定し、GBIR(Global Backside Ideal Range)のバッチ平均を算出した。
結果を図5に示す。
【0120】
図5に示すように比較例1に比べ、実施例1~4ではGBIRが大きく改善した。
そのため、本発明のようなpHの制御が有効であることが分かった。
【0121】
[スクラッチ評価]
また、スクラッチについて実施例1と実施例2の1バッチ5枚をすべてRaytex社製のウェーハ検査装置にて測定を行い、すべてのウェーハにスクラッチが検出されなかった場合のみ「無し」と判断した。
結果を表1に示す。表1に示すように実施例1、2ではスクラッチの発生はなかった。
【0122】
【表1】
【0123】
この結果から、平坦度も良くまたスクラッチも確実に良くするには、pHの変化の仕方なども最適にすることが好ましく、pH変化の傾きを-0.1/min以上-0.01/min以下とすることでフラットネスとスクラッチを高いレベルで両立することができ、より好ましいことが分かった。
【0124】
以上の結果から、本発明の両面研磨方法により、研磨パッド7へのダメージを低減しつつ、フラットネスが良好な両面研磨ができ、研磨布のライフが延びた。またそれに伴い両面研磨装置100も装置の生産性が向上したものとなった。
【0125】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:上下定盤に貼り付けられた研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させて、コロイダルシリカを含有したアルカリ溶液をスラリーとして供給しつつ前記ウェーハを研磨する両面研磨方法において、
該スラリーのpHを研磨開始時には研磨終了時のpHである終了時pHより高く設定した状態で研磨を開始し、連続的にpHを低下させるステップを有し、研磨終了時のpHを研磨開始時より低くした状態で研磨を終了することを特徴とする両面研磨方法。
[2]:前記ステップを研磨終了まで続けてpHを低下させ続けるか、または、
前記ステップを研磨途中まで行い、前記スラリーのpHを前記終了時pHまで低下させその後、前記スラリーのpHを一定に保ち研磨を終了することを特徴とする上記[1]の両面研磨方法。
[3]:前記スラリーのpHを一定に保ち研磨する際の取り代を1μm以上とすることを特徴とする上記[2]の両面研磨方法。
[4]:前記ステップで前記スラリーのpHを低下させる際に、研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きが-0.1/min以上、-0.01/min以下となるように連続的に低下させることを特徴とする上記[1]~上記[3]のいずれかの両面研磨方法。
[5]:研磨開始時の前記スラリーのpHを、pH=11以上、pH=12以下とすることを特徴とする上記[1]~上記[4]のいずれかの両面研磨方法。
[6]:前記終了時pHをpH=10以上、pH=11以下とすることを特徴とする上記[1]~上記[5]のいずれかの両面研磨方法。
[7]:研磨開始時のpHと研磨終了時のpHの差を0.5以上、2以下とすることを特徴とする上記[1]~上記[6]のいずれかの両面研磨方法。
[8]:研磨前の前記ウェーハの表面粗さをSaで100nm以上、1000nm以下とすることを特徴とする上記[1]~上記[7]のいずれかの両面研磨方法。
[9]:上下定盤に貼り付けられた研磨パッドと、前記研磨パッドをウェーハの両面に加圧接触させる加圧接触手段と、前記研磨パッドを前記ウェーハに対して相対移動させて研磨する移動手段と、砥粒を含有したアルカリ溶液であるスラリーを貯蔵するタンクと、前記タンクと前記上下定盤の間で前記スラリーを循環させる循環手段を備える両面研磨装置であって、前記スラリーのpHの監視、制御を行うため、前記上下定盤と前記タンク間を循環する前記スラリーのpHを秒単位でモニタリングし、プロットされる研磨時間とpHの関係を示す線形近似式の傾きを算出し、前記傾きを制御するため研磨中に無砥粒のアルカリ溶液を前記スラリーに加える機構を有することを特徴とする両面研磨装置。
【0126】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0127】
1…キャリア、 3…上定盤、 5…下定盤、 7…研磨パッド、 7a…上側研磨パッド、 7b…下側研磨パッド、 11…サンギヤ、 13…インターナルギヤ、 17…スラリー供給口、 21…回転軸、 22…回転軸、 23…加圧接触手段、 24…保持孔、 25…タンク、 26…インサート、 27…循環手段、 29a…供給管、 29b…回収管、 31…アルカリ溶液貯留槽、 33…アルカリ溶液供給管、 35…電磁弁、 37…pHメータ、 39…ポンプ、 41…回収槽、 43…制御部、 51…pH調整機構、 100…両面研磨装置、 W…シリコンウェーハ。
図1
図2
図3
図4
図5