(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131436
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】直流開閉器
(51)【国際特許分類】
H01H 9/54 20060101AFI20240920BHJP
H01H 33/59 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01H9/54 E
H01H33/59 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041692
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】516131843
【氏名又は名称】ANP株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516091112
【氏名又は名称】神崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【テーマコード(参考)】
5G028
5G034
【Fターム(参考)】
5G028AA03
5G028AA08
5G028AA22
5G028FB06
5G028FC04
5G028FD02
5G034AA08
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で自律的に動作しかつ線路の切断後には電源側と物理的かつ電気的に非接続となる直流開閉器を提供する。
【解決手段】線路に挿入接続された電流路と制御端とを具備する第1の半導体スイッチ素子と、線路間に直列接続されたコンデンサと定電圧素子とを含み機械的接点が閉状態のときにコンデンサが充電状態に維持されると共に定電圧素子の両端電圧が所定の定電圧に維持される負荷電圧監視部と、定電圧素子の所定の定電圧によって制御端が駆動されて電流路が導通状態に維持される第2の半導体スイッチ素子と、を有し、第1の半導体スイッチ素子は、第2の半導体スイッチ素子が導通状態に維持されることによって制御端が駆動されて導通状態に維持され、機械的接点が開かれて定電圧素子の両端電圧が低下すると、第2の半導体スイッチ素子が非導通となり、それにより第1の半導体スイッチ素子が非導通となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と負荷とを接続する線路を開閉する機械的接点と連動する直流開閉器であって、
前記線路に挿入接続された第1の電流路と前記第1の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第1の制御端とを具備する第1の半導体スイッチ素子と、
前記機械的接点よりも負荷側にて一対の前記線路間に直列接続されたコンデンサと定電圧素子とを含み、前記機械的接点が閉状態のときに前記直流電源によって前記コンデンサが充電状態に維持されると共に前記定電圧素子の両端電圧が所定の定電圧に維持される負荷電圧監視部と、
第2の電流路と前記第2の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第2の制御端とを具備し、前記定電圧素子の前記所定の定電圧によって前記第2の制御端が駆動されて前記第2の電流路が導通状態に維持される第2の半導体スイッチ素子と、を有し、
前記第1の半導体スイッチ素子は、前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が導通状態に維持されることによって前記第1の制御端が駆動されて前記第1の電流路が導通状態に維持され、
前記機械的接点が開かれて前記定電圧素子の両端電圧が低下すると、前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が非導通となり、それにより前記第1の半導体スイッチ素子の前記第1の電流路が非導通となる、直流開閉器。
【請求項2】
前記定電圧素子の前記所定の定電圧は、前記機械的接点の間にアークを生じない大きさに設定される、請求項1に記載の直流開閉器。
【請求項3】
前記第1の半導体スイッチ素子及び前記第1の制御端が、MOS型FET及びそのゲートであり、
前記機械的接点が開かれたときに前記MOS型FETを速やかに非導通とするために、第3の電流路と前記第3の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第3の制御端とを具備する第3の半導体スイッチ素子をさらに有し、
前記第3の制御端は前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が非導通となることによって駆動されて前記第3の電流路に前記ゲートを放電する電流が流れる、請求項1又は2に記載の直流開閉器。
【請求項4】
前記負荷電圧監視部よりも負荷側にて前記線路に挿入接続された、負荷側からの電流の逆流を防止する素子をさらに有する、請求項1又は2に記載の直流開閉器。
【請求項5】
機械的接点を有するスイッチと、前記機械的接点と連動する請求項1又は2に記載の直流開閉器と、を備えた直流開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源と負荷との間の線路の開閉を行う直流開閉器に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的接点をもつスイッチによる直流線路の開閉はアークを伴うため、スイッチの損傷につながる。そのためアーク防止のために、磁石を用いたり、接点間隔を広げたり、接点の開放時間を早めたりするなどの方式が用いられている(特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-33890号公報
【特許文献2】特公平7-62970号公報
【特許文献3】特開2010-40207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、アーク防止機能を内蔵する機械的スイッチは機構が複雑となるという問題があった。また、機械的スイッチと連動する半導体スイッチ素子を用いた場合にも、電子的制御ユニットを必要とするものは回路が複雑でかつコスト高であった。また、半導体スイッチ素子を含む回路が電源側と物理的かつ電気的に接続される場合は安全性に欠けるという問題があった。
【0005】
以上に鑑み本発明は、汎用的な機械的接点と連動する直流開閉器であって、簡易な構成で自律的に動作し、かつ、線路の切断後には電源側と物理的かつ電気的に非接続となる直流開閉器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
1)直流電源と負荷とを接続する線路を開閉する機械的接点と連動する直流開閉器であって、
前記線路に挿入接続された第1の電流路と前記第1の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第1の制御端とを具備する第1の半導体スイッチ素子と、
前記機械的接点よりも負荷側にて一対の前記線路間に直列接続されたコンデンサと定電圧素子とを含み、前記機械的接点が閉状態のときに前記直流電源によって前記コンデンサが充電状態に維持されると共に前記定電圧素子の両端電圧が所定の定電圧に維持される負荷電圧監視部と、
第2の電流路と前記第2の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第2の制御端とを具備し、前記定電圧素子の前記所定の定電圧によって前記第2の制御端が駆動されて前記第2の電流路が導通状態に維持される第2の半導体スイッチ素子と、を有し、
前記第1の半導体スイッチ素子は、前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が導通状態に維持されることによって前記第1の制御端が駆動されて前記第1の電流路が導通状態に維持され、
前記機械的接点が開かれて前記定電圧素子の両端電圧が低下すると、前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が非導通となり、それにより前記第1の半導体スイッチ素子の前記第1の電流路が非導通となる。
2)上記態様において、前記定電圧素子の前記所定の定電圧は、前記機械的接点の間にアークを生じない大きさに設定される。
3)上記態様において、前記第1の半導体スイッチ素子及び前記第1の制御端が、MOS型FET及びそのゲートであり、
前記機械的接点が開かれたときに前記MOS型FETを速やかに非導通とするために、第3の電流路と前記第3の電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される第3の制御端とを具備する第3の半導体スイッチ素子をさらに有し、
前記第3の制御端は前記第2の半導体スイッチ素子の前記第2の電流路が非導通となることによって駆動されて前記第3の電流路に前記ゲートを放電する電流が流れる。
4)上記態様において、前記負荷電圧監視部よりも負荷側にて前記線路に挿入接続された、負荷側からの電流の逆流を防止する素子をさらに有する。
5)本発明のさらなる態様は、機械的接点を有するスイッチと、前記機械的接点と連動する上記の直流開閉器と、を備えた直流開閉装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、汎用的な機械的接点と連動する直流開閉器であって、簡易な構成で自律的に動作し、かつ、線路の切断後には電源側と物理的かつ電気的に非接続となる直流開閉器が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の直流開閉器の一実施形態を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図1の直流開閉器の主要部の電圧及び電流を計測した波形を示す。
【
図5】
図5は、
図1の直流開閉器の主要部の電圧及び電流を計測した波形を示す。
【
図6】
図6は、比較例の機械的接点のみの場合の接点における電圧及び電流を計測した波形を示す。
【
図7】
図7は、本発明の直流開閉器の別の実施形態を概略的に示した図である。
【
図8】
図8は、本発明の直流開閉器をさらに別の実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の直流開閉器の別の適用形態を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例示としての図面を参照しつつ、本発明による直流開閉器の実施形態について説明する。
【0010】
(1)直流開閉器の構成
図1は、本発明の直流開閉器の一実施形態を概略的に示す回路図である。直流開閉器1は、直流電源2と負荷3とを接続する一対の線路4、5上に設けられる。直流電源2の正極端と負荷3の正極端は第1の線路4により接続され、直流電源2の負極端と負荷3の負極端は第2の線路5により接続されている。
【0011】
ここでは一例として、線路4上に線路を開閉する機械的接点Sが挿入接続されている。これにより、線路4は、電源側線路4aと負荷側線路4bに分離される。
【0012】
直流開閉器1は、直流電源2の両端に接続される電源側端子6、7と、負荷3の両端に接続される負荷側端子8、9とを有する。直流開閉器1の正極側の端子6と端子8との間の線路は、第1の線路4(4b)と共通する線路である。直流開閉器1の負極側の端子7と端子9との間の線路は、第2の線路5と共通する線路である。直流開閉器1は、機械的接点Sよりも負荷側に設置される。これにより、直流開閉器1は、機械的接点Sの特に開状態において直流電源2と物理的かつ電気的に切り離されるため、安全性を確保できる。
【0013】
図1の例では、第2の線路5上に半導体スイッチ素子Q1が挿入接続されている。半導体スイッチ素子Q1は、線路5に挿入接続された電流路と、電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される制御端とを具備する。一例として、半導体スイッチ素子Q1は、nチャネルMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、ソースが直流電源2の負極端に接続され、ドレインが負荷3の負極端に接続されている。ドレイン-ソース間が負荷電流の電流路となる。ドレイン-ソース間電流路の導通及び非導通はゲート-ソース間電圧により制御される。
【0014】
直流開閉器1はさらに、負荷電圧監視部11を有する。負荷電圧監視部11は、機械的接点Sが開くときの負荷電圧の低下によって自律的に作動する回路である。負荷電圧監視部11は、機械的接点Sよりも負荷側にて第1の線路4と第2の線路5の間に設けられており、そして負荷3と並列に設けられている。負荷電圧監視部11は、線路4と線路5の間に直列接続されたコンデンサCと、定電圧素子Z1とを有する。
【0015】
定電圧素子Z1は、所定の定電圧以上の電圧が印加されたとき、両端電圧をその所定の定電圧に維持する。一例として、定電圧素子Z1はツェナーダイオードであり、アノードが抵抗素子R1の一端に、カソードが線路4に接続されている。所定の定電圧はツェナー電圧である。コンデンサCと定電圧素子Z1の間に直列接続された抵抗素子R1は電流制限用である。
【0016】
さらに、コンデンサCと並列に抵抗素子R2が接続されている。抵抗素子R2は、線路4、5間に直流電圧が印加されないときにコンデンサCの放電電流路となる。そのため、時定数が大きくなるように、抵抗素子R2は十分大きい値に設定されている。
【0017】
直流開閉器1はさらに、電流路とその電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される制御端とを具備する半導体スイッチ素子Q2を有する。ここでは一例として、半導体スイッチ素子Q2はpnp型バイポーラトランジスタである。ベースは、定電圧素子Z1の低電位端すなわちツェナーダイオードのアノードに接続されている。エミッタが抵抗素子R3を介して線路4に接続され、コレクタは整流素子であるダイオードDを介して半導体スイッチ素子Q1の制御端(ゲート)に接続されている。ダイオードDは、アノードが半導体スイッチ素子Q2のコレクタに、カソードが半導体スイッチ素子Q1のゲートに接続されている。
【0018】
半導体スイッチ素子Q1のゲート-ソース間を過電圧から保護するために、ツェナーダイオードである定電圧素子Z2が、半導体スイッチ素子Q2の一端(コレクタ)と線路5との間に接続されている。
【0019】
直流開閉器1はさらに、遮断促進部12を有する。遮断促進部12は、MOS型FETである半導体スイッチ素子Q1を導通状態から非導通状態へ速やかに移行させる回路である。MOS型FETのゲートは所定の容量成分を有しており、非導通状態から導通状態となるときに流れるゲート電流でゲートが充電される。導通状態から非導通状態となるときには逆方向にゲート電流が流れてゲートが放電される。ゲートを放電する電流が速やかに流れるほど、ドレインソース間の電流路は早く遮断される。
【0020】
遮断促進部12は、電流路とその電流路の導通及び非導通を制御するべく駆動される制御端とを具備する半導体スイッチ素子Q3を有する。ここでは一例として、半導体スイッチ素子Q3は、pnp型バイポーラトランジスタである。エミッタが半導体スイッチ素子Q3の制御端(ゲート)に接続され、コレクタは線路5に接続されている。ベースは半導体スイッチ素子Q2の一端(コレクタ)に接続されている。ベースと線路5との間に抵抗素子R4が接続されている。
【0021】
機械的接点Sは、例えば、トグルスイッチ、ロッカスイッチ、押ボタンスイッチ、ロータリスイッチ、スライドスイッチ、キーロックスイッチ、タクティルスイッチ等の接点、又は、リレー接点である。
【0022】
(2)直流開閉器の動作
図2~
図4を参照して
図1に示した直流開閉器1の動作を説明する。
図2は、機械的接点Sが閉状態の直流開閉器1の状態を模式的に示す。
図3は、機械的接点Sが開いた直後の直流開閉器1の状態を模式的に示す。
図4は、
図2の閉状態(オン)から
図3の開き始めの状態を経て機械的接点Sが完全に開状態(オフ)となるまでの、直流開閉器1の主要部の電圧又は電流を計測した波形を示す。
【0023】
図2に示すように、機械的接点Sが閉状態のときは直流電源2と負荷3が接続されている。機械的接点Sの接点間電圧Vsは零である(
図4(c)の前半部を参照)。負荷3の両端電圧Voは、直流電源2の電源電圧Viと一致している(
図4(a)の前半部を参照)。また、線路4と線路5の間に印加される電源電圧Viによって、定電圧素子Z1と、抵抗素子R1と、抵抗素子R2とを含む回路に電流I1が流れている。コンデンサCは、機械的接点Sが開状態から閉じたときに流れる初期電流(点線で示す)によって満充電され、機械的接点Sが閉状態のときは充電状態に維持され、その両端電圧Vcは一定に維持されている。
【0024】
定電圧素子Z1の所定の定電圧Vz(ツェナーダイオードの場合はツェナー電圧)は、機械的接点Sの接点間にアークを生じない電圧に設定されている。限定しないが、所定の定電圧Vzは20V未満、好ましくは10V未満とする。また、定電圧Vzが小さすぎると電源電圧Viが変動した場合に誤動作の可能性があるため、定電圧Vzは少なくとも5V程度が好ましい。電源電圧Viは、この所定の定電圧Vzよりも十分に大きい値である。一例として、電源電圧Viが360Vの場合、定電圧素子Z1の所定の定電圧Vzを5Vとする。機械的接点Sが閉状態のとき、定電圧素子Z1の両端電圧は所定の定電圧Vzに維持されている。
【0025】
このように負荷電圧監視部では、機械的接点Sが閉状態のときに線路4、5間に印加される直流電圧Viによって、コンデンサCが充電状態に維持されると共に定電圧素子Z1の両端電圧が所定の定電圧Vzに維持される。
【0026】
さらに、定電圧素子Z1の両端電圧が定電圧Vzに維持されているとき、半導体スイッチ素子Q2であるpnp型トランジスタのベース電位がエミッタ電位より降下することで抵抗素子R3を通してベース電流I2が流れ、トランジスタが導通してコレクタ電流I3が流れる。これは、半導体スイッチ素子Q2の制御端が定電圧素子Z1の定電圧Vzによって駆動されて半導体スイッチ素子Q2の電流路が導通状態に維持されることを意味する。
【0027】
さらに、電流I3は、ダイオードDを通して半導体スイッチ素子Q1の制御端へ流れる。半導体スイッチ素子Q1であるnチャネルMOS型FETのゲートが電流I3により充電されることでゲート-ソース間電圧Vgが上昇してドレイン-ソース間の電流路が導通状態となり、負荷電流I4が流れる(
図4(b)の前半部を参照)。これは、半導体スイッチ素子Q2の電流路が導通状態を維持するときに、半導体スイッチ素子Q1の制御端が駆動されて半導体スイッチ素子Q1の電流路も導通状態を維持することを意味する。
【0028】
図3に示すように、機械的接点Sが開き始めると、負荷3の両端電圧Voは直ちに低下し始める。負荷3の両端電圧Voが、電源電圧Viよりも定電圧素子Z1の定電圧Vzの大きさだけ低下した時点で、定電圧素子Z1の両端電圧は零となる。さらに負荷3の両端電圧Voは零となるまで低下する(
図4(a)の中央部を参照)。
【0029】
定電圧素子Z1の両端電圧が零となると、半導体スイッチ素子Q2のベース電流が流れなくなり半導体スイッチ素子Q2は非導通状態となる。これによりダイオードDを介した半導体スイッチ素子Q1のゲートへの電流も消失し、ゲート-ソース間電圧が低下して半導体スイッチ素子Q1が非導通状態となる。この結果、線路5が切断され、負荷電流は流れなくなる(
図4(b)の中央部を参照)。ここまでの変化は、機械的接点Sが開き始めるとほぼ瞬間的に生じる。
【0030】
上記の瞬間的な変化を生じる間、コンデンサCの両端電圧Vcは、
図2の状態とほぼ同じ値に維持されている。これは、抵抗素子R2の値が十分に大きいことからコンデンサCが極めてゆっくりと放電するためである。よって、機械的接点Sの負荷側端子の電位は、コンデンサCの正極側電位とほぼ同じに維持される。一方、機械的接点Sの電源側端子の電位は、直流電源2の正極側電位と同じである。よって、機械的接点Sの接点間電圧は、定電圧素子Z1の定電圧Vzの大きさにほぼ等しい値に維持される(
図4(c)の中央から後半部を参照)。
【0031】
このように、機械的接点Sの接点間には定電圧Vz程度の電圧(例えば5V程度)しか生じないため、アークの発生を防止できる。
図4の各波形に示すように、機械的接点Sを開くときにチャタリングやアークの続流は全く観測されない。この結果、機械的接点Sの焼損等を防止できる。
【0032】
好ましい実施形態では、半導体スイッチ素子Q1の電流路の遮断を促進する遮断促進部が設けられている。半導体スイッチ素子Q3は、半導体スイッチ素子Q2が導通状態のときは非導通状態である。半導体スイッチ素子Q2が遮断されて電流が消失することによって、半導体スイッチ素子Q3であるpnp型トランジスタのベース電位がエミッタ電位より降下することでベース電流I5が流れ、導通状態となる。これにより、トランジスタの電流増幅率hFEにより増幅されたコレクタ電流I6が、半導体スイッチ素子Q1であるMOS型FETのゲートから流れる。それによってゲートに蓄積された電荷が急速に放電される。この結果、半導体スイッチ素子Q1を速やかに非導通とし、線路5を遮断することができる。
【0033】
図5(a)は、機械的接点Sを開状態(オフ)から閉状態(オン)に移行するときの負荷電圧Voを計測した波形、(b)は負荷電流I4を計測した波形を示している。この場合も、チャタリングは見られず、オン時の応答遅れもない。機械的接点Sが閉じられると、直ちにコンデンサCが満充電されかつ定電圧素子Z1の両端電圧が定電圧Vzとなる。すなわち
図2に示した状態となる。
【0034】
図示しないが、
図1の機械的接点Sを、線路4上に設ける替わりに線路5上に設けた場合も上記の動作は全く同じとなる。機械的接点Sを線路5上に設ける場合も、直流開閉器1は、機械的接点Sよりも負荷側に取り付けられる。
【0035】
図6は比較例であり、(a)は従来の磁石式スイッチにおいて接点を開くときの接点間電圧を、(b)は負荷電流を計測した波形を示す。
図6の時間軸は、
図4と同じ尺度である。
図4(c)と比較すると、本発明では接点間に定電圧Vz程度の電圧しか印加されないが、
図6(a)では接点間に電源電圧と同じ大きさの電圧が印加されている。また
図4(b)と比較すると、本発明では負荷電流が瞬時に零となるのに対し、
図6(b)では約3mSに亘ってアーク電流が流れている。
【0036】
(3)その他の実施形態
図7は、直流開閉器の別の実施形態を概略的に示す回路図である。
図7の直流開閉器1Aは、線路4上に整流素子であるダイオードD1が挿入接続されている。ダイオードD1は、負荷電圧監視部11よりも負荷側の線路に挿入されており、アノードが定電圧素子Z1のカソードに、カソードが負荷3の正極側の端子8に接続されている。ダイオードD1は、負荷3が容量性負荷すなわちコンデンサのときに設けられる。
【0037】
負荷3がコンデンサの場合、コンデンサは機械的接点Sが閉状態のときに電源電圧により充電される。コンデンサは両端電圧を維持する性質がある。このため、機械的接点Sが開いたとき、負荷3のコンデンサから線路4を介して定電圧素子Z1に放電電流が流れると、定電圧素子Z1の両端電圧が低下しない可能性がある。その結果、半導体スイッチ素子Q2及びQ1が遮断されず、直流開閉器が正常に動作しないこととなる。ダイオードD1は、負荷3のコンデンサからの電流の逆流を防止することができる。これにより、直流開閉器1Aの正常な動作を確保できる。
【0038】
図8は、直流開閉器のさらに別の実施形態の概略的な回路図である。
図8の直流開閉器1Bでは、半導体スイッチ素子Q1としてpチャネルMOS型FETを、半導体スイッチ素子Q2及びQ3としてnpn型バイポーラトランジスタを用いている。半導体スイッチ素子Q1の電流路は、正極側の線路4上に挿入接続されている。直流開閉器1Bの回路動作は、上述した直流開閉器1と実質的に同じである。
【0039】
図示しないが、以上に述べた各実施形態において、半導体スイッチ素子Q1、Q2、Q3は、MOS型FET、バイポーラトランジスタ、又はIGBTのいずれの素子も用いることができる。
【0040】
図9は、本発明の直流開閉器1を、両切り型の機械的接点S1、S2に適用した形態である。この場合も、直流開閉器1の動作は上述したものと同じである。
【0041】
さらに、機械的接点を有する各種のスイッチ(リレーを含む)と、そのスイッチと連動する上述した直流開閉器とを組み合わせて構成した直流開閉装置も、本発明の実施形態の一つである。
【0042】
以上に述べた本発明の直流開閉器は、複雑な機械的機構や電子的制御ユニットを必要とせず、自律的動作のみによって機械的接点間に生じるアークを防止することができる。また、本発明の実施形態を、例示としての構成を参照して説明したが、具体的な構成はこれらに限定されない。本発明の原理に従う限り、多様な変形形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1、1A、1B 直流開閉器
2 直流電源
3 負荷
4 第1の線路
4a 電源側線路
4b 負荷側線路
5 第2の線路
6、7 電源側端子
8、9 負荷側端子
11 負荷電圧監視部
12 遮断促進部
Q1、Q2、Q3 半導体スイッチ素子
Z1、Z2 定電圧素子
C コンデンサ
D、D1 整流素子
R1、R2、R3、R4 抵抗素子
S 機械的接点