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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131442
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両用ドアロック装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 81/20 20140101AFI20240920BHJP
   E05C 9/00 20060101ALI20240920BHJP
   E05B 81/66 20140101ALI20240920BHJP
   E05B 77/48 20140101ALI20240920BHJP
   E05B 81/56 20140101ALI20240920BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20240920BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20240920BHJP
   E05B 83/38 20140101ALN20240920BHJP
【FI】
E05B81/20 B
E05C9/00 A
E05B81/66
E05B77/48
E05B81/56
B60J5/00 N
B60J5/04 C
E05B83/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041701
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】和泉 健太
(72)【発明者】
【氏名】石河 開
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ46
2E250LL01
2E250MM03
2E250RR11
(57)【要約】
【課題】相対的なクローズ作動の遅延を低減する。
【解決手段】ドアロック装置は、駆動源となるモータに対して駆動電力を供給することにより、独立に設けられた第1及び第2のクローザ装置の作動を制御する制御装置としてのドアECUを備える。また、ドアECUは、車載電源の電源電圧Vbに基づいた電圧指示値Vt1,Vt2を演算することにより、第1及び第2のクローザ装置の各モータに対して駆動電力の供給を実行するクローザ制御部を備える。更に、クローザ制御部は、これらの第1及び第2のクローザ装置について、同時にクローズ制御を開始する。そして、クローザ制御部は、このクローズ制御において、第1のクローザ装置については、これら第1及び第2のクローザ装置間に生ずる相対的なクローズ作動の遅延が低減するように補正された電圧指示値Vt1を演算する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源となるモータに対して駆動電力を供給することにより独立に設けられた第1及び第2のクローザ装置の作動を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、車載電源の電源電圧に基づいた電圧指示値を演算することにより前記駆動電力の供給を実行するとともに、
前記第1のクローザ装置については、前記第1及び第2のクローザ装置について同時にクローズ制御を開始した場合に前記第1及び第2のクローザ装置間に生ずる相対的なクローズ作動の遅延が低減するように補正された前記電圧指示値を演算する
車両用ドアロック装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドアロック装置において、
前記第1及び第2のクローザ装置は、前記第1のクローザ装置よりも前記第2のクローザ装置の方が、前記クローズ制御の実行による前記クローズ作動に遅れが生じやすい互いに固有の機械要素を有するものであって、
前記制御装置は、前記電源電圧に対して、前記機械要素により生ずる前記遅延を低減すべく前記電圧指示値を低減させる第1の補正係数を乗ずることにより、前記補正された前記第1のクローザ装置の前記電圧指示値を演算すること、
を特徴とする車両用ドアロック装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ドアロック装置において、
前記制御装置は、前記電源電圧に対して、前記モータの温度特性に関する第2の補正係数を乗ずることにより、前記補正された前記第1のクローザ装置の前記電圧指示値を演算すること、を特徴とする車両用ドアロック装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ドアロック装置において、
前記第1のクローザ装置は、前記クローズ制御の実行により、前記第1のクローザ装置に駆動されるラッチ機構に対して、該ラッチ機構をハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させる駆動力を付与する駆動区間と、該駆動区間に到達する前の空走区間と、を有して前記クローズ作動するものであって、
前記制御装置は、前記クローズ制御の実行時、前記空走区間に設定された計時区間の通過時間を計測するとともに、該通過時間を予め保持した基準通過時間で除することにより、前記第2の補正係数を演算すること、を特徴とする車両用ドアロック装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用ドアロック装置において、
前記第1のクローザ装置は、前記クローズ作動時とは反対方向に作動位置が移動することにより前記第1のクローザ装置に駆動された前記ラッチ機構をフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるべくリリース作動するとともに、
前記制御装置は、前記作動位置について、前記クローズ作動により前記第1のクローザ装置が前記ラッチ機構を駆動するクローズ領域、前記リリース作動により前記第1のクローザ装置が前記ラッチ機構を駆動するリリース領域、及び前記クローズ領域と前記リリース領域との中間領域の何れに位置するかを検出可能に構成されるものであって、
前記クローズ制御の開始から前記作動位置が前記中間領域外に移動するまでを前記計時区間の通過時間として前記計測すること、を特徴とする車両用ドアロック装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の車両用ドアロック装置において、
前記第1及び第2のクローザ装置が互いに異なる数のラッチ機構を駆動すること、
を特徴とする車両用ドアロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のドアロック装置には、モータ等を駆動源として、そのラッチ機構をハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させるクローザ装置を備えるものがある。即ち、車両用のドアロック装置は、そのラッチ機構がハーフラッチ状態となることにより、所謂「半ドア状態」で車両のドアを開動作不能に拘束する。更に、ドアロック装置は、そのラッチ機構がフルラッチ状態となることにより、車両のドアがドア開口部を完全に閉塞する位置において、そのドアを開動作不能に拘束する。しかしながら、アクチュエータの駆動力に基づきドアを閉動作させる場合、高い質感を確保しながら、その「半ドア状態」を越えてドアを全閉動作させることが難しい。このため、上記のようなドアロック装置は、「半ドア状態」までドアが閉動作した場合、クローザ装置の作動によって、そのラッチ機構を強制的にハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させる。そして、これにより、そのドアを引き込むように全閉動作させる構成となっている。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、複数のクローザ装置を用いて複数のラッチ機構を独立に駆動する構成が開示されている。そして、この従来技術のドアロック装置においては、これらのクローザ装置について、そのクローズ制御が同時に開始される構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-196238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように複数のクローザ装置を同時にクローズ制御した場合には、これら各クローザ装置のクローズ作動に相対的な遅延が生じやすい。そして、これにより、これらの各クローザ装置に駆動された各ラッチ機構がハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行するタイミングにズレが生ずるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両用ドアロック装置の各態様を記載する。
態様1の車両用ドアロック装置は、駆動源となるモータに対して駆動電力を供給することにより独立に設けられた第1及び第2のクローザ装置の作動を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、車載電源の電源電圧に基づいた電圧指示値を演算することにより前記駆動電力の供給を実行するとともに、前記第1のクローザ装置については、前記第1及び第2のクローザ装置について同時にクローズ制御を開始した場合に前記第1及び第2のクローザ装置間に生ずる相対的なクローズ作動の遅延が低減するように補正された前記電圧指示値を演算する。
【0007】
上記構成によれば、第1及び第2のクローザ装置について、その相対的なクローズ作動の遅延を低減することができる。その結果、これら第1及び第2のクローザ装置のクローズ作動が完了するタイミングにズレが生じ難くなる。つまりは、これらの第1及び第2のクローザ装置に駆動された各ラッチ機構がハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行するタイミングを略一致させることができる。そして、これにより、高い質感を確保することができる。
【0008】
態様2の車両用ドアロック装置は、態様1の車両用ドアロック装置において、前記第1及び第2のクローザ装置は、前記第1のクローザ装置よりも前記第2のクローザ装置の方が、前記クローズ制御の実行によるクローズ作動に遅れが生じやすい互いに固有の機械要素を有するものであって、前記制御装置は、前記電源電圧に対して、前記機械要素により生ずる前記遅延を低減すべく前記電圧指示値を低減させる第1の補正係数を乗ずることにより、前記補正された前記第1のクローザ装置の前記電圧指示値を演算する。
【0009】
上記構成によれば、精度よく、第1及び第2のクローザ装置に固有の機械要素により生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。そして、これにより、高い質感を確保することができる。
【0010】
態様3の車両用ドアロック装置は、態様2の車両用ドアロック装置において、前記制御装置は、前記電源電圧に対して、前記モータの温度特性に関する第2の補正係数を乗ずることにより、前記補正された前記第1のクローザ装置の前記電圧指示値を演算する。
【0011】
上記構成によれば、温度環境が変化した場合においても、精度よく、第1及び第2のクローザ装置間に生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。
態様4の車両用ドアロック装置は、態様3の車両用ドアロック装置において、前記第1のクローザ装置は、前記クローズ制御の実行により、前記第1のクローザ装置に駆動されるラッチ機構に対して、該ラッチ機構をハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させる駆動力を付与する駆動区間と、該駆動区間に到達する前の空走区間と、を有して前記クローズ作動するものであって、前記制御装置は、前記クローズ制御の実行時、前記空走区間に設定された計時区間の通過時間を計測するとともに、該通過時間を予め保持した基準通過時間で除することにより、前記第2の補正係数を演算する。
【0012】
上記構成によれば、クローズ制御の実行時における精度の高い第2の補正係数を演算することができる。そして、これにより、温度環境が変化した場合においても、より精度よく、その第1及び第2のクローザ装置間に生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。
【0013】
態様5の車両用ドアロック装置は、態様4の車両用ドアロック装置において、前記第1のクローザ装置は、前記クローズ作動時とは反対方向に作動位置が移動することにより前記第1のクローザ装置に駆動された前記ラッチ機構をフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるべくリリース作動するとともに、前記制御装置は、前記作動位置について、前記クローズ作動により前記第1のクローザ装置が前記ラッチ機構を駆動するクローズ領域、前記リリース作動により前記第1のクローザ装置が前記ラッチ機構を駆動するリリース領域、及び前記クローズ領域と前記リリース領域との中間領域の何れに位置するかを検出可能に構成されるものであって、前記クローズ制御の開始から前記作動位置が前記中間領域外に移動するまでを前記計時区間の通過時間として前記計測する。
【0014】
上記構成によれば、簡素な構成にて、精度よく、その空走区間に設定された計時区間の通過時間を計測することができる。そして、これにより、精度よく、第2の補正係数を演算することができる。
【0015】
態様6の車両用ドアロック装置は、態様1~態様5の何れか一つに記載の車両用ドアロック装置において、前記第1及び第2のクローザ装置が互いに異なる数のラッチ機構を駆動する。
【0016】
上記構成によれば、第1及び第2のクローザ装置が、互いに固有の機械要素を有するものとなりやすい。その結果、これらの第1及び第2のクローザ装置間に相対的なクローズ動作の遅延が生じやすくなる。従って、このような構成に適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、相対的なクローズ作動の遅延を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両のドア開口部に設けられた前部ドア及び後部ドアの正面図である。
図2】車両のドア開口部に設けられた前部ドア及び後部ドアの正面図である。
図3】車両の前部ドア及び後部ドアを開閉動作させるドア装置の上面図である。
図4】全閉位置近傍における前部ドア及び後部ドアの開閉動作軌跡を示す説明図である。
図5】ドア側係合部及び車体側係合部の概略構成図である。
図6】ドアロック装置の概略構成図である。
図7】ドアロック装置の制御ブロック図である。
図8】クローザ装置の動作説明図である。
図9】相対的なクローズ作動の遅延低減制御についての処理手順を示すフローチャートである。
図10】遅延補正を行わない場合に生じた相対的な遅延時間のグラフである。
図11】機械要素の遅延補正を行った場合に生じた相対的な遅延時間のグラフである。
図12】機械要素の遅延補正及び温度特性補正を行った場合に生じた相対的な遅延時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両用ドアロック装置に関する一実施形態を図面に従って説明する。
図1図3に示すように、本実施形態の車両1は、車体2の側面2sに設けられたドア開口部3を有している。そして、本実施形態の車両1は、このドア開口部3に設けられた一対のドア10,10を備えている。
【0020】
具体的には、本実施形態のドア開口部3は、このドア開口部3を、その車両前後方向(各図中、左右方向)に沿った開口幅方向の前方側と後方側とを隔てる柱構造を有しない所謂ピラーレス構造を有している。そして、本実施形態の車両1は、このドア開口部3の開口幅方向、その前方開口部3F及び後方開口部3Rとなる位置に並んで設けられた前部ドア11及び後部ドア12を備えている。
【0021】
また、本実施形態の車両1において、これらの前部ドア11及び後部ドア12は、それぞれ、独立に設けられたリンク機構13,14を介して車体2に支持されている。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、各リンク機構13,14の動作に基づいて、ドア開口部3に設けられた前部ドア11及び後部ドア12を互いに相反する方向に独立して開閉動作させることのできる車両用のドア装置20が形成されている。
【0022】
(リンク機構)
本実施形態のドア装置20において、各リンク機構13,14は、それぞれ、互いに独立した第1及び第2のリンクアーム21,22を備えている。更に、これらの第1及び第2のリンクアーム21,22は、それぞれ、車体2に対して回動可能に連結されるとともに、その対応する前部ドア11及び後部ドア12に対して回動可能に連結されている。そして、本実施形態のドア装置20においては、これにより、これらの各リンク機構13,14が、それぞれ、互いに独立した4節リンク機構としての構成を有するものとなっている。
【0023】
具体的には、前部ドア11を前方開口部3Fに支持するリンク機構13において、第1及び第2のリンクアーム21,22は、それぞれ、ドア開口部3の前縁部3f近傍において、その車体2に対して回動可能に連結された第1の回動連結点X1を有している。また、これら第1及び第2のリンクアーム21,22は、それぞれ、前部ドア11に対して回動可能に連結された第2の回動連結点X2を有している。更に、後部ドア12を後方開口部3Rに支持するリンク機構14において、第1及び第2のリンクアーム21,22は、それぞれ、ドア開口部3の後縁部3r近傍において、その車体2に対して回動可能に連結された第1の回動連結点X1を有している。そして、これら第1及び第2のリンクアーム21,22は、それぞれ、後部ドア12に対して回動可能に連結された第2の回動連結点X2を有している。
【0024】
また、これらの各リンク機構13,14において、各第1のリンクアーム21は、それぞれ、その対となる各第2のリンクアーム22の上方に配置されている。具体的には、各第1のリンクアーム21は、それぞれ、その前部ドア11及び後部ドア12が形成する車両1の窓部23の下方、所謂ベルトライン付近となる高さに配置されている。そして、各第2のリンクアーム22は、それぞれ、その前部ドア11及び後部ドア12の下端部11b,12b近傍の高さに配置されている。
【0025】
即ち、本実施形態のドア装置20においては、第1のリンクアーム21の方が、第2のリンクアーム22よりも、その前部ドア11及び後部ドア12の重心に近い位置に第2の回動連結点X2を有している。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、各リンク機構13,14の何れにおいても、第1のリンクアーム21の方が、その第2のリンクアーム22よりも、より大きなドア荷重を支える構成となっている。
【0026】
尚、本実施形態のドア装置20において、メインリンク25として位置付けられた第1のリンクアーム21は、サブリンク26に位置付けられた第2のリンクアーム22よりも大型の外形を有している。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、その第1のリンクアーム21に高い支持剛性を付与する構成となっている。
【0027】
さらに詳述すると、図3に示すように、本実施形態のドア装置20において、前部ドア11を支持するリンク機構13は、開動作時、第1及び第2のリンクアーム21,22が、それぞれ、第1の回動連結点X1周りに、図3中、時計回り方向に回動する。また、本実施形態のドア装置20は、前部ドア11の閉動作時、そのリンク機構13を形成する第1及び第2のリンクアーム21,22が、それぞれ、第1の回動連結点X1周りに、図3中、反時計回り方向に回動する。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、このリンク機構13を介してドア開口部3の前方開口部3Fに支持された前部ドア11が、車両前方側に開動作し、及び車両後方側に閉動作する構成になっている。
【0028】
これに対し、後部ドア12を支持するリンク機構14は、その開動作時、第1及び第2のリンクアーム21,22が、それぞれ、第1の回動連結点X1周りに、図3中、反時計回り方向に回動する。更に、本実施形態のドア装置20は、後部ドア12の閉動作時、そのリンク機構14を形成する第1及び第2のリンクアーム21,22が、それぞれ、第1の回動連結点X1周りに、図3中、時計回り方向に回動する。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、このリンク機構13を介してドア開口部3の後方開口部3Rに支持された後部ドア12が、車両後方側に開動作し、及び車両前方側に閉動作する構成になっている。
【0029】
即ち、本実施形態のドア装置20においては、リンク機構13の動作に基づいて、円弧状軌跡Rgを描くように、その前部ドア11の開閉動作軌跡R1が規定される。そして、後部ドア12の開閉動作軌跡R2についても同様に、そのリンク機構14の動作に基づいて、円弧状軌跡Rgを描くように規定される。
【0030】
つまり、本実施形態のドア装置20は、各リンク機構13,14に支持された前部ドア11及び後部ドア12が、それぞれ全閉位置P0に近づくことで、その第1及び第2のリンクアーム21,22が車両前後方向に延在する状態となる。そして、これにより、これらの前部ドア11及び後部ドア12は、それぞれ、その車幅方向に向かう移動成分が大きくなる。
【0031】
また、各リンク機構13,14を形成する第1及び第2のリンクアーム21,22が車幅方向に延在する状態となる中間の開閉動作位置においては、それぞれ、その車両前後方向に向かう前部ドア11及び後部ドア12の移動成分が大きくなる。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、車両1の前部ドア11及び後部ドア12の開閉動作時、その車幅方向の変位量を抑えることで、障害物との干渉を回避して、より大きなドア開口量を確保することのできる構成となっている。
【0032】
また、図1図3に示すように、本実施形態のドア装置20は、後部ドア12を支持するリンク機構14において、その第2のリンクアーム22に設けられた連結長可変機構30を備えている。そして、本実施形態のドア装置20においては、この連結長可変機構30の動作に基づいて、リンク機構14を形成する第2のリンクアーム22について、その第1及び第2の回動連結点X1,X2間の連結長Lを変更することが可能となっている。
【0033】
具体的には、本実施形態のドア装置20において、この連結長可変機構30は、図示しない付勢部材によって、この連結長可変機構30が設けられたリンク機構14側の第2のリンクアーム22による後部ドア12の連結長Lを短縮する方向に付勢されている。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、以下に詳述する後部ドア12が全閉位置P0近傍にある場合以外については、この第2のリンクアーム22による連結長Lが短縮された状態で、その後部ドア12が開閉動作する構成になっている。
【0034】
(全閉位置近傍の開閉動作軌跡)
図4に示すように、本実施形態のドア装置20においては、この後部ドア12を支持するリンク機構14側の第2のリンクアーム22に設けられた連結長可変機構30の動作に基づいて、その後部ドア12の開閉動作軌跡R2が変化する。具体的には、後部ドア12が全閉位置P0近傍にある場合、その後部ドア12の開閉動作軌跡R2が直線状軌跡Rsに変化する。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、各リンク機構13,14の動作に基づいて、それぞれ、その独立に開閉動作する前部ドア11及び後部ドア12が、互いに干渉しないように構成されている。
【0035】
詳述すると、本実施形態の車両1においては、後部ドア12が全閉位置P0にある場合に、その前端部12fが、同じく全閉位置P0にある前部ドア11の後端部11rよりも車幅方向内側に配置される。このため、全閉位置P0近傍においても、これら前部ドア11及び後部ドア12の双方が円弧状軌跡Rgで開閉動作すると仮定した場合、その前部ドア11の前端部12fと後部ドア12の前端部12fとが互いに干渉するという問題が生ずる。
【0036】
この点を踏まえ、本実施形態のドア装置20においては、上記のように、全閉位置P0近傍に後部ドア12がある場合には、連結長可変機構30の動作に基づいて、その後部ドア12の開閉動作軌跡R2が変化する。具体的には、後部ドア12の全閉動作時には、その前端部12fが車両後方側から前方側(図4中、右側から左側)に向かう直線状軌跡Rsを描く態様で、この後部ドア12が移動する。また、全閉位置P0からの開動作時には、同じく、その前端部12fが車両前方側から後方側(図4中、左側から右側)に向かう直線状軌跡Rsを描く態様で、この後部ドア12が移動する。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、互いの開閉動作位置に依らず、これらの前部ドア11及び後部ドア12が、それぞれ、独立に開閉動作することが可能となっている。
【0037】
(ドア側係合部及び車体側係合部)
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態のドア装置20は、後部ドア12の前端部12fに設けられたドア側係合部31を備えている。また、このドア装置20は、車両前後方向に延在するドア開口部3の開口幅方向、略中央位置に設けられた車体側係合部32を備えている。即ち、車両前方側に閉動作する後部ドア12においては、その前端部12fが、この後部ドア12の閉側端部33となる。更に、この後部ドア12が設けられたドア開口部3の後方開口部3Rにおいては、その前端部分に位置するドア開口部3の開口幅方向、略中央位置が、その閉側端部34となる。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、後部ドア12が全閉位置P0近傍にある場合に、そのドア側係合部31及び車体側係合部32が互いに係合する構成になっている。
【0038】
尚、図1に示すように、本実施形態の車両1において、ドア側係合部31は、後部ドア12の前端部12fにおいて、その上端部12fa及び下端部12fbに設けられている。そして、車体側係合部32は、ドア開口部3の開口幅方向、略中央位置において、その上縁部3a及び下縁部3bに設けられている。
【0039】
また、図5に示すように、本実施形態のドア側係合部31は、そのガイド係合部35として、車両1の上下方向(図5中、紙面に直交する方向)に延びる軸状係合部36を備えている。尚、本実施形態のドア装置20において、このガイド係合部35としての軸状係合部36は、上下方向に延在する支軸周りに回転自在に軸支されたローラ37としての構成を有している。更に、車体側係合部32は、車幅方向(図4中、上下方向)に対向する一対の側壁部38a,38bを有して後部ドア12の開閉動作方向に延在するガイド溝38を備えている。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、このガイド溝38内に、ガイド係合部35及び軸状係合部36としてのローラ37が配置される状態で、これらのドア側係合部31及び車体側係合部32が互いに係合する構成になっている。
【0040】
即ち、車幅方向に対向する一対の側壁部38a,38b間に挟み込まれる状態で、車体側係合部32のガイド溝38内にドア側係合部31の軸状係合部36が配置されることにより、その車幅方向における後部ドア12の変位が規制される。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、リンク機構14を形成する第1及び第2のリンクアーム21,22が並んだ状態になりやすい全閉位置P0近傍においても、その後部ドア12を安定的に支持することが可能になっている。
【0041】
更に、本実施形態のドア装置20においては、その第2のリンクアーム22に設けられた連結長可変機構30の動作に基づいて、ドア側係合部31と車体側係合部32とが係合した状態での後部ドア12の開閉動作が許容される。具体的には、ドア側係合部31及び車体側係合部32が係合する状態で後部ドア12が開閉動作することにより、連結長可変機構30の動作に基づく連結長Lの変更を伴いつつ、ガイド溝38の延在方向に沿ってガイド係合部35としてのローラ37が相対変位する。つまり、本実施形態のドア装置20は、後部ドア12が全閉位置P0に移動する際、車体側係合部32に対してドア側係合部31が係合することにより、そのガイド溝38内にローラ37が配置された状態で後部ドア12の開閉動作が案内される。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、その後部ドア12の開閉動作軌跡R2が変化する。つまりは、その後部ドア12を支持するリンク機構14の動作に基づいた円弧状軌跡Rgが、ドア開口部3の開口幅方向に沿った直線状軌跡Rsに変化する構成となっている。
【0042】
(アクチュエータ)
また、図1及び図2に示すように、本実施形態のドア装置20は、アクチュエータ40の駆動力に基づいて、そのドア開口部3に設けられた各ドア10を、それぞれ独立に開閉動作させるパワードア装置としての構成を有している。
【0043】
詳述すると、本実施形態のドア装置20は、前部ドア11を支持するリンク機構13に駆動力を付与することにより、その前部ドア11を開閉動作させるアクチュエータ41を備えている。そして、このドア装置20は、後部ドア12を支持するリンク機構14に駆動力を付与することにより、その後部ドア12を開閉動作させるアクチュエータ42を備えている。
【0044】
本実施形態のドア装置20は、これらの各アクチュエータ41,42は、それぞれ、図示しないモータを駆動源として、その対応する各リンク機構13,14のメインリンク25に位置付けられた第1のリンクアーム21を回転駆動する。具体的には、これらの各アクチュエータ41,42は、それぞれ、車体2に固定された状態で、その車体2に対する第1の回動連結点X1周りに第1のリンクアーム21を回転駆動する。そして、本実施形態のドア装置20は、これにより、その各リンク機構13,14の動作に基づいて、これらの各リンク機構13,14に支持された前部ドア11及び後部ドア12が、それぞれ、開閉動作する構成になっている。
【0045】
(ドアロック装置)
次に、本実施形態の車両1に設けられたドアロック装置の構成について説明する。
図6に示すように、本実施形態の車両1は、そのドア開口部3に設けられた前部ドア11及び後部ドア12を全閉位置P0に拘束するドアロック装置50を備えている。具体的には、このドアロック装置50は、これらの前部ドア11及び後部ドア12に対して、それぞれ、独立に設けられたロック装置51を備えて構成される。そして、本実施形態の車両1は、これにより、そのドア開口部3に設けられた前部ドア11及び後部ドア12を、それぞれ、独立且つ安定的に、その全閉位置P0に保持することが可能となっている。
【0046】
詳述すると、本実施形態のドアロック装置50は、前部ドア11の前端部11fに設けられたロック装置51fを備えている。また、このドアロック装置50は、前部ドア11の後端部11rにおいて、その上端11ra及び下端11rbに設けられたロック装置51a,51bを備えている。そして、本実施形態のドアロック装置50は、後部ドア12の後端部12rに設けられたロック装置51rを備えている。
【0047】
また、本実施形態のドアロック装置50において、これらの各ロック装置51は、それぞれ、ドア開口部3の周縁部に設けられたストライカ52に係合する周知のラッチ機構53を備えている。即ち、これらの各ラッチ機構53は、それぞれ、ハーフラッチ状態及びフルラッチ状態の二段階で、その車体2側に設けられた対となるストライカ52に係合する周知の構成を有している。そして、本実施形態のドアロック装置50は、これにより、これらの各ラッチ機構53及び各ストライカ52の係合力に基づいて、その各ロック装置51が設けられたドア10の各位置を、それぞれ、開動作不能に拘束する構成になっている。
【0048】
具体的には、前部ドア11の前端部11fに設けられたロック装置51fは、前部ドア11が全閉位置P0に移動することにより、そのラッチ機構53fが、ドア開口部3の前縁部3fに設けられたストライカ52fに係合する。そして、本実施形態のドアロック装置50は、このロック装置51fのラッチ機構53fと車体2側のストライカ52fとの係合力に基づいて、その前部ドア11の前端部11fを、ドア開口部3の前縁部3fに拘束する。
【0049】
更に、前部ドア11の後端部11rにおいて、その上端11raに設けられたロック装置51aもまた、前部ドア11が全閉位置P0に移動することで、そのラッチ機構53aが、ドア開口部3の上縁部3aに設けられたストライカ52aに係合する。そして、本実施形態のドアロック装置50は、このロック装置51aのラッチ機構53aと車体2側のストライカ52aとの係合力に基づいて、その前部ドア11の後端部11rにおける上端11raを、ドア開口部3の上縁部3aに拘束する。
【0050】
同様に、前部ドア11の後端部11rにおいて、その下端11rbに設けられたロック装置51bは、前部ドア11が全閉位置P0に移動することで、そのラッチ機構53bが、ドア開口部3の下縁部3bに設けられたストライカ52bに係合する。そして、本実施形態のドアロック装置50は、このロック装置51bのラッチ機構53bと車体2側のストライカ52bとの係合力に基づいて、その前部ドア11の後端部11rにおける下端11rbを、ドア開口部3の下縁部3bに拘束する。
【0051】
また、後部ドア12を構成する後部ドア12の後端部12rに設けられたロック装置51rは、後部ドア12が全閉位置P0に移動することにより、そのラッチ機構53rが、ドア開口部3の後縁部3rに設けられたストライカ52rに係合する。そして、本実施形態のドアロック装置50は、このロック装置51rのラッチ機構53rと車体2側のストライカ52rとの係合力に基づいて、その後部ドア12の後端部12rを、ドア開口部3の後縁部3rに拘束する構成になっている。
【0052】
尚、本実施形態の車両1においては、上記のように、後部ドア12が全閉位置P0にある場合、その後部ドア12の前端部12fに設けられたドア側係合部31とドア開口部3の下縁部3bに設けられた車体側係合部32とが互いに係合する。そして、本実施形態の車両1は、これにより、後部ドア12の前端部12fについてもまた、これらのドア側係合部31及び車体側係合部32の係合力に基づいて、その全閉位置P0で安定的に保持される構成になっている。
【0053】
ここで、本実施形態の車両1は、そのパワードア装置としての構成を有したドア装置20の機能、つまりは前部ドア11及び後部ドア12に設けられた各アクチュエータ41,42の駆動力に基づいて、これらの各ドア10が、それぞれ独立に開閉動作する。そして、これら各ドア10の全閉動作時には、そのアクチュエータ40の駆動力に基づくドア10の閉方向移動によって、上記各ロック装置51を構成するラッチ機構53がハーフラッチ状態で車体2側の各ストライカ52に係合する。
【0054】
即ち、ロック装置51のラッチ機構53がハーフラッチ状態に移行することで、このラッチ機構53が設けられたドア10は、所謂「半ドア状態」で全閉位置P0に保持された状態となる。また、本実施形態の車両1において、パワードア装置としてのドア装置20は、このハーフラッチ状態への移行により、そのアクチュエータ40によるドア10の閉駆動を停止する。そして、本実施形態のドアロック装置50は、この状態から、その各ロック装置51を駆動するクローザ装置60を備えている。
【0055】
具体的には、クローザ装置60は、図示しないモータを駆動源として、各ロック装置51のラッチ機構53を駆動することによりハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させるクローズ機能を有している。更に、本実施形態の車両1は、このクローザ装置60のクローズ作動によって、そのラッチ機構53に拘束されたドア10が完全な閉塞状態で全閉位置P0に保持された状態となる。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、その自動化されたドア10の全閉動作が終了する構成になっている。
【0056】
詳述すると、本実施形態のドアロック装置50は、前部ドア11の前端部11fに設けられたロック装置51fのラッチ機構53fを駆動する第1のクローザ装置61を備えている。また、このドアロック装置50は、前部ドア11の後端部11rに設けられた各ロック装置51a,51bのラッチ機構53a,53bを駆動する第2のクローザ装置62を備えている。そして、本実施形態のドアロック装置50は、後部ドア12の後端部12rに設けられたロック装置51rのラッチ機構53rを駆動する第3のクローザ装置63を備えている。
【0057】
本実施形態のドアロック装置50において、第1のクローザ装置61は、前部ドア11の前端部11fに設けられたロック装置51fと一体に設けられている。更に、第3のクローザ装置63もまた、後部ドア12の後端部12rに設けられたロック装置51rと一体に設けられている。そして、本実施形態のドアロック装置50は、これにより、これら第1のクローザ装置61及び第3のクローザ装置63が、それぞれ、その対応する各ロック装置51f,51rを直接的に駆動することのできる構成となっている。
【0058】
これに対し、第2のクローザ装置62は、その駆動対象となる各ロック装置51a,51bから離間した位置において、その前部ドア11に設けられている。そして、本実施形態のドアロック装置50は、この第2のクローザ装置62の駆動力を、駆動ケーブル70を介して、その対応する各ロック装置51a,51bに伝達する構成になっている。
【0059】
また、本実施形態のドアロック装置50において、前部ドア11の前端部11fに設けられた第1のクローザ装置61は、その一体に設けられたロック装置51fのラッチ機構53fをフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるリリース機能を有している。そして、後部ドア12の後端部12rに設けられた第3のクローザ装置63も同様に、その一体に設けられたロック装置51fのラッチ機構53fをフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるリリース機能を有している。
【0060】
更に、本実施形態のドアロック装置50においては、第1のクローザ装置61がリリース作動することにより、その駆動力が駆動ケーブル70を介して前部ドア11の後端部11rに設けられた各ロック装置51a,51bに伝達される。そして、本実施形態のドアロック装置50は、これにより、これら各ロック装置51a,51bのラッチ機構53a,53bが、その第1のクローザ装置61と一体に設けられたロック装置51fのラッチ機構53fに連動してリリース動作する構成になっている。
【0061】
即ち、本実施形態の車両1においては、全閉位置P0にあるドア10の開動作時、先ず、その開作動するドア10に設けられた第1のクローザ装置61及び第3のクローザ装置63がリリース作動する。更に、パワードア装置としての構成を有するドア装置20は、このリリース作動により、その開作動するドア10に設けられたラッチ機構53が全てアンラッチ状態に移行した状態で、アクチュエータ40によるドア10の開駆動を開始する。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、その全閉位置P0にあるドア10の開動作が自動化されている。
【0062】
また、本実施形態の車両1において、前部ドア11には、上記のような駆動ケーブル70を用いた駆動力の伝達系において、その中継機となるリモコン71が設けられている。そして、本実施形態のドアロック装置50は、全閉位置P0にある前部ドア11を開作動させる際、その第1のクローザ装置61の駆動力が、このリモコン71を経由して、その駆動ケーブル70を介して各ロック装置51a,51bに伝達される構成になっている。
【0063】
尚、本実施形態のドアロック装置50においては、このリモコン71に対し、その前部ドア11に設けられた図示しない非常操作レバーの操作力が入力される。更に、この非常操作レバーの操作力もまた、駆動ケーブル70を用いた駆動力の伝達系を介して、その前部ドア11に設けられた各ロック装置51a,51b,51fに伝達される。そして、本実施形態のドアロック装置50は、これにより、例えば、電源喪失時等、第1のクローザ装置61が作動不能となった場合であっても、手動により、前部ドア11を全閉位置P0に拘束する各ラッチ機構53をリリース動作させることが可能になっている。
【0064】
更に、本実施形態のドアロック装置50は、後部ドア12についても同様に、この後部ドア12に設けられた図示しない非常操作レバーの操作力が入力されるリモコン72を有している。即ち、本実施形態の車両1においては、これにより、前部ドア11と同じく、その非常時の操作入力が、駆動ケーブル70を用いた駆動力の伝達系を介して、その後部ドア12に設けられたロック装置51rに伝達される。そして、本実施形態のドアロック装置50は、これにより、手動によっても、その後部ドア12を全閉位置P0に拘束するラッチ機構53をリリース動作させることが可能になっている。
【0065】
(ドアロック装置の電気的構成)
図7に示すように、本実施形態のドア装置20において、各ドア10のアクチュエータ40は、制御装置としてのドアECU80によって、その作動が制御されている。そして、各ドア10に設けられた上記各クローザ装置60もまた、このドアECU80によって、その作動が制御されている。
【0066】
詳述すると、本実施形態のドアECU80には、ドア10や車室内、或いは携帯機等に設けられた操作入力部81の出力信号が入力される。即ち、本実施形態のドアECU80は、この操作入力部81が出力する操作入力信号Scrに基づいて、その利用者によるドア10の作動要求を検知する。そして、本実施形態のドアECU80においては、この作動要求の検知に基づいて、その開閉駆動制御部82が、前部ドア11及び後部ドア12に設けられた各アクチュエータ41,42の作動を独立に制御する構成となっている。
【0067】
具体的には、本実施形態のドアECU80において、この開閉駆動制御部82は、利用者の作動要求に基づき、その対象となるドア10を駆動するアクチュエータ40のモータ83に対して駆動電力を供給する。そして、本実施形態の開閉駆動制御部82は、モータ83に対する駆動電力の供給を通じて、そのアクチュエータ40の作動、つまりは、このアクチュエータ40によるドア10の開閉駆動制御を実行する構成になっている。
【0068】
また、本実施形態のドアECU80は、上記各クローザ装置60の各モータ84に対して駆動電力を供給することにより、これら各クローザ装置60の作動を独立に制御するクローザ制御部85を備えている。
【0069】
具体的には、本実施形態のドアECU80において、このクローザ制御部85は、各クローザ装置60のモータ84に対し、車載電源86の電源電圧Vbに基づいた駆動電力を供給する。更に、本実施形態のクローザ制御部85は、上記開閉駆動制御部82が実行するドア10の開閉駆動制御に連動する態様で、その各クローザ装置60の作動制御を実行する。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、上記のような自動化されたドア10の全閉動作、及び全閉状態にあるドア10の自動化された開動作が実現されている。
【0070】
詳述すると、本実施形態のドアECU80には、各ロック装置51に設けられた図示しないハーフラッチスイッチ、フルラッチスイッチ、及びポールスイッチの各出力信号Swh,Swf,Swpが入力される。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、これらの各出力信号Swh,Swf,Swpに基づいて、その各ロック装置51を構成するラッチ機構53の作動状態を検知する。
【0071】
また、本実施形態のドアECU80には、各クローザ装置60に設けられた図示しない中立スイッチの出力信号Swnが入力される。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、この中立スイッチの出力信号Swnに基づいて、そのクローザ装置60の作動位置Qを検知する。
【0072】
即ち、本実施形態のドアロック装置50において、各クローザ装置60は、それぞれ、モータ駆動により回動する図示しないレバー部材を備えた周知の構成を有している。そして、各クローザ装置60の作動位置Qは、このレバー部材の回動位置を示すものとなっている。
【0073】
さらに詳述すると、図8に示すように、本実施形態のドアロック装置50において、第1のクローザ装置61は、その駆動源となるモータ84aが、第1方向に回転することによりクローズ作動する(図8中、左側)。そして、第1のクローザ装置61は、このクローズ作動時とは反対方向となる第2方向に、そのモータ84aが回転することによりリリース作動する(図8中、右側)。
【0074】
また、第1のクローザ装置61については、上記のようなクローズ作動及びリリース作動の完了後、そのクローザ制御部85による反転制御が実行される。そして、ドアロック装置50は、これにより、その第1のクローザ装置61が、次回のクローズ作動及びリリース作動に備える構成になっている。
【0075】
即ち、第1のクローザ装置61は、そのクローズ作動によって、この第1のクローザ装置61がラッチ機構53を駆動するクローズ領域α1を有している。また、第1のクローザ装置61は、そのリリース作動により、この第1のクローザ装置61がラッチ機構53を駆動するリリース領域α2を有している。そして、第1のクローザ装置61は、これらクローズ領域α1及びリリース領域α2の間に中間領域α0を有している。
【0076】
また、第1のクローザ装置61は、その作動位置Qが、中間領域α0とクローズ領域α1との境界位置Qaを越えて移動した場合に、その中立スイッチの出力信号Swnが変化する。更に、第1のクローザ装置61は、その作動位置Qが、中間領域α0とリリース領域α2との境界位置Qbを越えて移動した場合に、その中立スイッチの出力信号Swnが変化する。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、これにより、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが、中間領域α0、クローズ領域α1及びリリース領域α2の何れにあるかを検知する構成になっている。
【0077】
(クローズ制御)
即ち、本実施形態のクローザ制御部85は、第1のクローザ装置61のクローズ制御として、その駆動源となるモータ84aに対し、このモータ84aを第1方向に回転させる駆動電力の供給を実行する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、その開始点となる中間領域α0内の第1位置Q1からクローズ領域α1側(図8中、左側)に向かって移動する。
【0078】
また、本実施形態のドアロック装置50においては、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが、中間領域α0とクローズ領域α1との境界位置Qaを越えることで、この第1のクローザ装置61に設けられた中立スイッチの出力信号Swnが変化する。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、この出力信号Swnの変化に基づいて、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、その中間領域α0からクローズ領域α1に移動したことを検知する。
【0079】
更に、第1のクローザ装置61は、そのクローズ作動により、作動位置Qがクローズ領域α1内の第2位置Q2に到達することで、この第1のクローザ装置61が、そのロック装置51fのラッチ機構53fに駆動力を付与する状態となる。そして、本実施形態のドアロック装置50は、この状態で、その第1のクローザ装置61がクローズ作動を継続することにより、この第1のクローザ装置61に駆動されたラッチ機構53fがハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行する。
【0080】
本実施形態のドアロック装置50においては、このラッチ機構53fがハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行するタイミングで、そのラッチ機構53fの作動状態を示す各スイッチの出力信号Swh,Swf,Swpが変化する。更に、本実施形態のクローザ制御部85は、これら各出力信号Swh,Swf,Swpの変化に基づいて、第1のクローザ装置61のクローズ作動が完了したことを検知する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、ドアECU80のクローザ制御部85が、その第1のクローザ装置61のクローズ制御を終了する。つまりは、第1のクローザ装置61のクローズ作動が完了した第3位置Q3において、その第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第1方向に回転させる駆動電力の供給を停止する構成になっている。
【0081】
即ち、第1のクローザ装置61においては、クローズ作動時、その作動位置Qが上記第2位置Q2から第3位置Q3に到達するまでが、この第1のクローザ装置61に駆動されるラッチ機構53fに対して、その駆動力を付与する駆動区間Ddとなる。そして、この駆動区間Ddに到達する前の上記第1位置Q1から第2位置Q2までについては、その駆動源となるモータ84aの負荷が小さい空走区間Deとなっている。
【0082】
更に、本実施形態のクローザ制御部85は、そのクローズ制御の終了後、第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第2方向に回転させる駆動電力の供給を実行する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、第1のクローザ装置61が反転作動することで、その作動位置Qが、クローズ領域α1から中間領域α0側(図8中、右側)に向かって移動する。
【0083】
また、このとき、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが、クローズ領域α1と中間領域α0との境界位置Qaを越えることで、その第1のクローザ装置61に設けられた中立スイッチの出力信号Swnが変化する。更に、本実施形態のクローザ制御部85は、この出力信号Swnの変化に基づいて、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、そのクローズ領域α1から中間領域α0に移動したことを検知する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、ドアECU80のクローザ制御部85が、その第1のクローザ装置61の反転制御を終了する。つまりは、この第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第2方向に回転させる駆動電力の供給を停止する構成になっている。
【0084】
(リリース制御)
また、本実施形態のクローザ制御部85は、第1のクローザ装置61のリリース制御として、その駆動源となるモータ84aに対し、このモータ84aを第2方向に回転させる駆動電力の供給を実行する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、その開始点となる中間領域α0内の第4位置Q4からリリース領域α2側(図8中、右側)に向かって移動する。
【0085】
更に、本実施形態のドアロック装置50においては、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが、中間領域α0とリリース領域α2との境界位置Qbを越えることで、この第1のクローザ装置61に設けられた中立スイッチの出力信号Swnが変化する。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、この出力信号Swnの変化に基づいて、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、その中間領域α0からリリース領域α2に移動したことを検知する。
【0086】
また、第1のクローザ装置61は、リリース領域α2内において、そのリリース作動を継続することにより、この第1のクローザ装置61が、そのロック装置51fのラッチ機構53fを駆動する状態となる。そして、これにより、このラッチ機構53fがフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行する。
【0087】
尚、リリース作動時、その第1のクローザ装置61がラッチ機構53fに付与する駆動力は、そのクローズ作動時に付与する駆動力よりも小さい。このため、図8中、リリース作動時の駆動区間及び空走区間については、その記載を省略する。
【0088】
本実施形態のドアロック装置50においては、このラッチ機構53fがフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行したタイミングで、そのラッチ機構53fの作動状態を示す各スイッチの出力信号Swh,Swf,Swpが変化する。更に、本実施形態のクローザ制御部85は、これら各出力信号Swh,Swf,Swpの変化に基づいて、第1のクローザ装置61のリリース作動が完了したことを検知する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、ドアECU80のクローザ制御部85が、その第1のクローザ装置61のリリース制御を終了する。つまりは、第1のクローザ装置61のリリース作動が完了した第5位置Q5において、その第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第2方向に回転させる駆動電力の供給を停止する構成になっている。
【0089】
更に、本実施形態のクローザ制御部85は、そのリリース制御の停止後、第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第1方向に回転させる駆動電力の供給を実行する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、第1のクローザ装置61が反転作動することで、その作動位置Qが、リリース領域α2から中間領域α0に移動する。
【0090】
また、このとき、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが、中間領域α0とリリース領域α2との境界位置Qbを越えることで、その第1のクローザ装置61に設けられた中立スイッチの出力信号Swnが変化する。更に、本実施形態のクローザ制御部85は、この出力信号Swnの変化に基づいて、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、そのリリース領域α2から中間領域α0に移動したことを検知する。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、ドアECU80のクローザ制御部85が、その第1のクローザ装置61の反転制御を終了する。つまりは、この第1のクローザ装置61のモータ84aに対し、このモータ84aを第2方向に回転させる駆動電力の供給を停止する構成になっている。
【0091】
尚、本実施形態のドアロック装置50においては、第3のクローザ装置63もまた、ドアECU80のクローザ制御部85に制御されることにより、上記第1のクローザ装置61と略同様にクローズ作動及びリリース作動する。このため、第3のクローザ装置63については、そのクローズ作動及びリリース作動の説明を省略する。更に、本実施形態のドアロック装置50においては、リリース機能を有しない第2のクローザ装置62もまた、その第1のクローザ装置61と略同様にクローズ作動する。そのため、この第2のクローザ装置62についてもまた、そのクローズ作動の説明を省略することとする。
【0092】
(相対的なクローズ作動の遅延低減制御)
また、本実施形態のドアロック装置50においては、前部ドア11が全閉動作する際、この前部ドア11に設けられた第1及び第2のクローザ装置61,62について、略同時に、そのクローズ制御が開始される。
【0093】
しかしながら、これら第1及び第2のクローザ装置61,62は、互いに異なる固有の機械要素を有している。このため、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ制御時には、その機械要素の違いにより、互いのクローズ作動に相対的な遅延が生じやすくなっている。
【0094】
具体的には、上記のように、第1のクローザ装置61は、そのクローズ作動によって、前部ドア11の前端部11fに設けられた一つのラッチ機構53fを駆動する。これに対し、第2のクローザ装置62は、駆動ケーブル70を介して駆動力を伝達することにより、その前部ドア11の後端部11rにおける上端11ra及び下端11rbに設けられた上下二つのラッチ機構53a,53bを同時に駆動する。このため、これら第1及び第2のクローザ装置61,62を同時にクローズ制御した場合、第1のクローザ装置61よりも第2のクローザ装置62の方が、そのクローズ作動に遅れが生じやすい。換言すると、第1のクローザ装置61よりも第2のクローザ装置62の方が、そのクローズ制御の実行による作動時間が長くなる。
【0095】
この点を踏まえ、本実施形態のドアロック装置50においては、そのドアECU80のクローザ制御部85が、第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ制御時、そのクローズ作動に生ずる相対的な遅延を低減するための遅延低減制御を実行する。
【0096】
詳述すると、本実施形態のクローザ制御部85は、第1及び第2のクローザ装置61,62について、それぞれ、電源電圧Vbに基づいた電圧指示値Vtを生成することにより、その駆動源となる各モータ84a,84bに対して駆動電力を供給する。
【0097】
Vt=Vb ・・・(1)
更に、本実施形態のクローザ制御部85は、この電圧指示値Vtを演算する際、上記のように、そのクローズ作動が相対的に速くなりやすい第1のクローザ装置61について、補正された電圧指示値Vt1を演算する。
【0098】
具体的には、次式に示すように、第1のクローザ装置61については、電源電圧Vbに対し、相対的なクローズ作動の遅延を低減するための補正係数として、第1及び第2の補正係数K1,K2を乗ずることにより、その補正された電圧指示値Vt1を演算する。
【0099】
Vt1=Vb×K1×K2 ・・・(2)
さらに詳述すると、本実施形態のドアロック装置50において、第1の補正係数K1は、直接的に、その第1及び第2のクローザ装置61,62に固有の機械要素により生ずる相対的なクローズ作動の遅延を補正するための補正係数となっている。
【0100】
即ち、本実施形態のドアロック装置50においては、この第1の補正係数K1を電源電圧Vbに乗ずることにより、その第1のクローザ装置61の電圧指示値Vt1が第2のクローザ装置62の電圧指示値Vt2よりも低くなる(Vt1<Vt2)。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、これにより、そのクローズ制御に基づいた第1のクローザ装置61のクローズ作動を遅くすることで、第2のクローザ装置62のクローズ作動との比較における相対的な遅延を低減する構成となっている。
【0101】
具体的には、この第1の補正係数K1は、例えば、そのモータ回転の減速比やクローズ作動のストローク比等、第1及び第2のクローザ装置61,62における機械要素の仕様により規定される。
【0102】
本実施形態のドアロック装置50においては、第1のクローザ装置61の電圧指示値Vt1を電源電圧Vbとした場合、この第1のクローザ装置61と同時に、そのクローズ作動が完了するような第2のクローザ装置62の電圧指示値Vt2を基準電圧Vsとする。例えば、電源電圧Vbが「7V」であるとして、第2のクローザ装置62の電圧指示値Vt2を「10V」した場合に、これら第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ作動が同時に完了するならば、その「10V」が基準電圧Vsとなる。つまり、この基準電圧Vsは、第2のクローザ装置62のモータ84bを昇圧駆動することが可能であると仮定した場合の「等速補正電圧」と言い換えることができる。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、次式に示すように、この基準電圧Vsで電源電圧Vbを除した値を、その第1の補正係数K1とする。
【0103】
K1=Vb/Vs ・・・(3)
また、図8に示すように、本実施形態のクローザ制御部85は、クローズ制御の実行時、第1のクローザ装置61について、そのクローズ作動における空走区間Deに設定された計時区間Dtの通過時間Tを計測する。具体的には、本実施形態のドアロック装置50においては、クローズ作動の開始点となる中間領域α0内の第1位置Q1から中間領域α0とクローズ領域α1との境界位置Qaまでが、その計時区間Dtに設定されている。即ち、本実施形態のクローザ制御部85は、計時区間Dtの通過時間Tとして、クローズ制御の開始から、その第1のクローザ装置61の作動位置Qが中間領域α0外に移動するまでの経過時間を計測する。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、次式に示すように、この計時区間Dtの通過時間Tを、予め保持された基準通過時間Tsで除することにより、その第2の補正係数K2を演算する。
【0104】
K2=T/Ts ・・・(4)
即ち、クローザ装置60の駆動源となるモータ84は、環境温度が変化することにより、その特性が変化する。この点を踏まえ、本実施形態のドアロック装置50においては、予め、実験やシミュレーション等により、その常温時における計時区間Dtの通過時間Tが測定されている。更に、本実施形態のドアECU80は、この予め測定された常温時の通過時間Tを、上記基準通過時間Tsとして、その記憶領域88に保持する(図7参照)。そして、本実施形態のドアロック装置50においては、これにより、上記(4)式を用いて演算される第2の補正係数K2が、第1のクローザ装置61の駆動源となるモータ84aの温度特性に関する補正係数となっている。
【0105】
詳述すると、図9に示すように、本実施形態のクローザ制御部85は、第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ制御を開始すると(ステップ101:YES)、先ず、これらの電圧指示値Vt1,Vt2を演算する(ステップ102)。具体的には、本実施形態のクローザ制御部85は、このステップ102におけるクローズ制御開始時の電圧指示値Vt1,Vt2として、ともに等しい電源電圧Vbに基づく値を演算する(Vt1=Vb,Vt2=Vb)。そして、クローザ制御部85は、これらの各電圧指示値Vt1,Vt2に基づいて、第1及び第2のクローザ装置61,62の各モータ84a,84bに対し、それぞれ、その駆動電力の供給を実行する(ステップ103)。
【0106】
次に、本実施形態のクローザ制御部85は、第1のクローザ装置61について、その作動位置Qが計時区間Dtを通過したか否かを判定する(ステップ104)。即ち、本実施形態のクローザ制御部85は、上記のように、その作動位置Qが中間領域α0外に移動したか否かに基づいて、このステップ104の計時区間通過判定を実行する(図8参照)。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、まだ計時区間Dtを通過していない場合(ステップ104:NO)、そのクローズ制御開始からの経過時間を計測しつつ、上記ステップ103及びステップ104の処理を繰り返し実行する。
【0107】
また、本実施形態のクローザ制御部85は、第1のクローザ装置61について、その作動位置Qが計時区間Dtを通過した場合(ステップ104:YES)、クローズ制御開始からの経過時間を計時区間Dtの通過時間Tとして取得する(ステップ105)。更に、クローザ制御部85は、ドアECU80の記憶領域88に保持された基準通過時間Tsを読み出す(ステップ106)。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、上記ステップ105で取得した今回のクローズ制御における計時区間Dtの通過時間Tを、この基準通過時間Tsで除することにより、その第2の補正係数K2を演算する(ステップ107)。
【0108】
更に、本実施形態のクローザ制御部85は、予めドアECU80の記憶領域88に保持された第1の補正係数K1を読み出す(ステップ108)。そして、この第1の補正係数K1及び上記ステップ107で演算した第2の補正係数K2を電源電圧Vbに乗ずることにより、第1のクローザ装置61について、その補正された電圧指示値Vt1を演算する(ステップ109、Vt1=Vb×K1×K2)。
【0109】
また、本実施形態のクローザ制御部85は、このステップ109においても、第2のクローザ装置62については、そのクローズ制御開始時の電圧指示値Vt2と同じく電源電圧Vbに基づいた値を演算する(Vt2=Vb)。そして、クローザ制御部85は、このステップ109において演算した各電圧指示値Vt1,Vt2に基づいて、第1及び第2のクローザ装置61,62の各モータ84a,84bに対し、それぞれ、その駆動電力の供給を実行する(ステップ110)。
【0110】
次に、本実施形態のクローザ制御部85は、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62に駆動された各ラッチ機構53が、それぞれ、ハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行したか否かを判定する(ステップ111)。更に、クローザ制御部85は、このステップ110においてフルラッチ状態に移行していないと判定した場合(ステップ111:NO)、上記ステップ110及びステップ111の処理を繰り返し実行する。そして、本実施形態のクローザ制御部85は、各ラッチ機構53がフルラッチ状態に移行したと判定した場合(ステップ111:YES)に、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62について、それぞれ、そのクローズ制御を終了する(ステップ112)。
【0111】
(作用)
次に、本実施形態のクローザ制御部85が実行する相対的なクローズ作動の遅延低減制御について、その作用を説明する。尚、以下に参照する図10図12中に示す遅延時間Δtは、クローズ制御の実行による第1のクローザ装置61の作動時間から第2のクローザ装置62の作動時間を減じた値である。つまり、各図中に示す遅延時間Δtは、第1のクローザ装置61よりも第2のクローザ装置62が遅れた場合に「マイナス」の値となる。そして、各図中に示す遅延時間Δtは、第2のクローザ装置62よりも第1のクローザ装置61が遅れた場合に「プラス」の値となっている。
【0112】
また、これらの各図中には、「高温時(80℃)」「常温時(RT)」「低温時(-30℃)」の異なる温度環境下において、それぞれ、「V1」「V2」「V3」の3通りの電源電圧Vbで測定した遅延時間Δtの結果が示されている。更に、これらの各図中、試験条件毎の遅延時間Δtの値を示す3本のヒストグラムのうち、中央に位置する「白抜き」のヒストグラムは、その測定した遅延時間Δtの平均値を示している。そして、この「白抜き」のヒストグラムの左右に位置する「ハッチング入り」の各ヒストグラムは、それぞれ、その標準偏差の「-3σ」「3σ」を示す値となっている。
【0113】
図10は、補正を行うことなく、ともに電源電圧Vbに基づいた等しい電圧指示値Vt1,Vt2で第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ制御を実行した場合である(Vt1=Vb,Vt2=Vb)。この場合、何れの試験条件においても、これら第1及び第2のクローザ装置61,62に固有の機械要素に基づいて、第1のクローザ装置61よりも第2のクローザ装置62の方に遅延が生ずることになる。
【0114】
これに対し、図11は、このような機械要素の遅延補正を行うべく、クローズ作動が相対的に速い第1のクローザ装置61については、電源電圧Vbに第1の補正係数K1を乗ずることにより、その電圧指示値Vt1を演算した場合である(Vt1=Vb×K1)。この場合、常温環境下においては、第1及び第2のクローザ装置61,62について、その相対的なクローズ作動の遅延を小さく抑えることが可能となる。
【0115】
しかしながら、このような機械要素の遅延補正を行った場合においても、異なる温度環境では、その駆動源となるモータ84の特性が変化することで、上記のような相対的な遅延の低減効果が低下する。そして、特に、低温時には、そのモータ特性の変化によって、第2のクローザ装置62よりも第1のクローザ装置61の方に遅延が生ずる結果となっている。
【0116】
更に、図12は、上記実施形態と同じく、電源電圧Vbに対し、第1の補正係数K1及び温度特性に関する第2の補正係数K2を乗ずることにより、第1のクローザ装置61について、その電圧指示値Vt1を演算した場合である(Vt1=Vb×K1×K2)。そして、この場合には、何れの試験条件においても、その相対的なクローズ作動の遅延を小さく抑えることが可能となっている。
【0117】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)ドアロック装置50は、駆動源となるモータ84に対して駆動電力を供給することにより、独立に設けられた第1及び第2のクローザ装置61,62の作動を制御する制御装置としてのドアECU80を備える。また、ドアECU80は、車載電源86の電源電圧Vbに基づいた電圧指示値Vt1,Vt2を演算することにより、第1及び第2のクローザ装置61,62の各モータ84a,84bに対して駆動電力の供給を実行するクローザ制御部85を備える。また、クローザ制御部85は、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62について、同時にクローズ制御を開始する。そして、クローザ制御部85は、このクローズ制御において、第1のクローザ装置61については、これら第1及び第2のクローザ装置61,62間に生ずる相対的なクローズ作動の遅延が低減するように補正された電圧指示値Vt1を演算する。
【0118】
上記構成によれば、第1及び第2のクローザ装置61,62について、その相対的なクローズ作動の遅延を低減することができる。その結果、これら第1及び第2のクローザ装置61,62のクローズ作動が完了するタイミングにズレが生じ難くなる。つまりは、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62に駆動された各ラッチ機構53がハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行するタイミングを略一致させることができる。そして、これにより、高い質感を確保することができる。
【0119】
(2)第1及び第2のクローザ装置61,62は、第1のクローザ装置61よりも前記第2のクローザ装置62の方が、そのクローズ制御の実行によるクローズ作動に遅れが生じやすい互いに固有の機械要素を有する。そして、クローザ制御部85は、電源電圧Vbに対して、その機械要素により生ずる遅延を低減すべく電圧指示値Vtを低減させる第1の補正係数K1を乗ずることにより、その補正された第1のクローザ装置61の電圧指示値Vt1を演算する。
【0120】
上記構成によれば、精度よく、第1及び第2のクローザ装置61,62に固有の機械要素により生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。そして、これにより、高い質感を確保することができる。
【0121】
(3)クローザ制御部85は、電源電圧Vbに対して、モータ84aの温度特性に関する第2の補正係数K2を乗ずることにより、その補正された第1のクローザ装置61の電圧指示値Vtを演算する。
【0122】
上記構成によれば、温度環境が変化した場合においても、精度よく、第1及び第2のクローザ装置61,62間に生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。
(4)第1のクローザ装置61は、その駆動するラッチ機構53に対し、このラッチ機構53をハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させる駆動力を付与する駆動区間Ddと、この駆動区間Ddに到達する前の空走区間Deと、を有してクローズ作動する。また、クローザ制御部85は、クローズ制御の実行時、その空走区間Deに計時区間Dtを設定する。更に、クローザ制御部85は、この計時区間Dtの通過時間Tを計測する。そして、クローザ制御部85は、この計測した通過時間Tを予め保持した基準通過時間Tsで除することにより、その第2の補正係数K2を演算する。
【0123】
上記構成によれば、クローズ制御の実行時における精度の高い第2の補正係数K2を演算することができる。そして、これにより、温度環境が変化した場合においても、より精度よく、その第1及び第2のクローザ装置61,62間に生ずる相対的なクローズ動作の遅延を低減することができる。
【0124】
(5)第1のクローザ装置61は、そのクローズ作動時とは反対方向に作動位置Qが移動することにより、この第1のクローザ装置61に駆動されたラッチ機構53をフルラッチ状態からアンラッチ状態に移行させるべくリリース作動する。クローザ制御部85は、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、そのクローズ作動により第1のクローザ装置61がラッチ機構53を駆動するクローズ領域α1に位置することを検知可能に構成される。また、クローザ制御部85は、第1のクローザ装置61の作動位置Qが、そのリリース作動により第1のクローザ装置61がラッチ機構53を駆動するリリース領域α2に位置することを検知可能に構成される。更に、クローザ制御部85は、第1のクローザ装置61の作動位置Qについて、これらのクローズ領域α1とリリース領域α2との中間領域α0に位置することを検出可能に構成される。そして、クローザ制御部85は、クローズ制御の開始から、第1のクローザ装置61の作動位置Qが中間領域α0外に移動するまでを、その計時区間Dtの通過時間Tとして計測する。
【0125】
上記構成によれば、簡素な構成にて、精度よく、その空走区間Deに設定された計時区間Dtの通過時間Tを計測することができる。そして、これにより、精度よく、第2の補正係数K2を演算することができる。
【0126】
(6)第1及び第2のクローザ装置61,62が互いに異なる数のラッチ機構53を駆動する。
上記構成によれば、第1及び第2のクローザ装置61,62が、互いに固有の機械要素を有するものとなりやすい。その結果、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62間に相対的なクローズ動作の遅延が生じやすくなる。従って、このような構成に適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【0127】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0128】
・上記実施形態では、クローズ制御の実行時、ドアECU80の記憶領域88に予め保持された第1の補正係数K1を読み出すこととした。しかし、これに限らず、クローズ制御の実行時に、その第1の補正係数K1を演算する構成であってもよい。
【0129】
・上記実施形態では、クローズ制御の開始から、第1のクローザ装置61の作動位置Qが中間領域α0外に移動するまでを、その計時区間Dtの通過時間Tとして計測することとした。しかし、これに限らず、計時区間Dtは、任意に設定してもよい。例えば、第1のクローザ装置61がリリース機能を有していない。つまりは、必ずしも中間領域α0がなくともよい。但し、計時区間Dtは、空走区間Deに設定することが好ましい。
【0130】
・電源電圧Vbは任意である。また、第1の補正係数K1は、上記(3)式以外の方法で求めた値を用いてもよい。そして、第2の補正係数K2についてもまた、上記(4)式に示すような計時区間Dtの通過時間Tを計測する方法以外の方法で求めた値を用いてもよい。例えば、モータ84の環境温度を検出可能であれば、その第2の補正係数K2を環境温度と関連付けたマップ形式で保持する構成であってもよい。そして、第1のクローザ装置61の作動位置Qが中間領域α0外に移動する前に、その補正された電圧指示値Vt1を演算する構成であってもよい。
【0131】
・上記実施形態では、電源電圧Vbに対し、相対的なクローズ作動の遅延を低減するための補正係数として、第1及び第2の補正係数K1,K2を乗ずることにより、その補正された第1のクローザ装置61の電圧指示値Vt1を演算することとした。しかし、これに限らず、例えば、電源電圧Vbに対し、第1の補正係数K1のみを乗ずることにより、その補正された電圧指示値Vt1を演算する構成としてもよい。そして、車載電源86の電源電圧Vbに基づいた電圧指示値Vtを演算する構成であれば、電源電圧Vbに、その他の係数を乗ずる構成であってもよい。
【0132】
・また、第2のクローザ装置62についてもまた、電源電圧Vbに対し、第1のクローザ装置61と同様、モータ84の温度特性に関する第2の補正係数K2を乗ずることにより、その電圧指示値Vt2を演算する構成としてもよい。
【0133】
・更に、クローズ制御に限らず、上記(4)式に示すような計時区間Dtの通過時間Tを計測する方法でモータ84の温度特性に関する第2の補正係数K2を演算することにより、その電源電圧Vbに基づいた電圧指示値Vtを演算する構成であってもよい。つまりは、モータ84の温度特性に関する補正を独立に行う構成に具体化してもよい。そして、この場合、その制御装置が一つのクローザ装置60を制御する構成に適用してもよい。
【0134】
・第1及び第2のクローザ装置61,62は、任意に設定してもよい。また、これらの第1及び第2のクローザ装置61,62が駆動するラッチ機構53の数も任意である。更に、3つ以上のクローザ装置60を同時にクローズ制御する構成に適用してもよい。この場合、そのクローズ制御の実行によるクローズ作動が最も遅れやすいクローザ装置60を第2のクローザ装置62とし、その他のクローザ装置60をそれぞれ独立した第1のクローザ装置61とする。そして、これにより形成される複数組の第1及び第2のクローザ装置61,62について、それぞれ、その相対的なクローズ作動の遅延低減制御を実行するとよい。
【0135】
・上記実施形態では、リンク機構13に支持された車両1の前部ドア11に対し、その第1及び第2のクローザ装置61,62が設けられたドアロック装置50に具体化した。しかし、これに限らず、そのドアロック装置50が設けられるドアの型式は任意である。例えば、スライドドアであっても、スイングドアであってもよい。そして、跳ね上げ式のドア等であってもよい。
【0136】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)駆動源となるモータに対して駆動電力を供給することによりクローザ装置の作動を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、車載電源の電源電圧に基づいた電圧指示値を演算することにより前記駆動電力の供給を実行するとともに、前記クローザ装置は、前記制御装置がクローズ制御を実行することにより、前記クローザ装置が該クローザ装置に駆動されたラッチ機構をハーフラッチ状態からフルラッチ状態に移行させる駆動区間と、該駆動区間に到達する前の空走区間と、を有してクローズ作動するものであって、前記制御装置は、前記空走区間に設定された計時区間の通過時間を計測するとともに、該通過時間を予め保持した基準通過時間で除することにより、前記電源電圧の補正係数を演算する車両用ドアロック装置。
【0137】
上記構成によれば、クローザ装置の駆動源となるモータについて、精度よく、その温度特性に関する補正を実行することができる。そして、これにより、温度環境が変化した場合においても、精度よく、そのクローザ装置を制御することができる。
【0138】
(ロ)前記制御装置は、前記第1のクローザ装置に対する前記電圧指示値を前記電源電圧とした場合に、前記第1のクローザ装置と同時に前記ハーフラッチ状態から前記フルラッチ状態への移行が完了するような前記第2のクローザ装置に対する前記電圧指示値を基準電圧として、前記電源電圧を前記基準電圧で除した値を前記第1の補正係数とすること、を特徴とする車両用ドアロック装置。これにより、精度よく、その第1の補正係数を求めることができる。
【符号の説明】
【0139】
50…ドアロック装置
61…第1のクローザ装置
62…第2のクローザ装置
84…モータ
85…クローザ制御部
80…ドアECU(制御装置)
86…車載電源
Vb…電源電圧
Vt1,Vt2…電圧指示値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12