(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131444
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/28 20060101AFI20240920BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/06 A
H01L21/203 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041708
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】519338902
【氏名又は名称】有限会社アルファシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 大助
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA58
4K029CA02
4K029DB03
4K029DB04
4K029DB20
4K029EA03
4K029EA04
4K029EA08
4K029EA09
5F103AA10
5F103BB23
5F103BB42
5F103DD30
5F103HH04
5F103NN01
5F103NN04
5F103NN05
5F103RR10
(57)【要約】
【課題】成膜速度を特に落とすことなく、ドロップレットの発生を抑制することができる成膜方法及び成膜装置を提供すること。
【解決手段】チャンバ10内に配置されたターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射することにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させて、蒸発したターゲット材料又はターゲット材料の化合物を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に堆積させることで、基板4の表面に成膜を行う、成膜方法。ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置を高速にずらしながら、基板4への成膜を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜方法であって、
上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置を高速にずらしながら、上記基板への成膜を行う、成膜方法。
【請求項2】
上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かす、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
上記チャンバ内において上記ターゲットを動かしつつ、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かす、請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
上記レーザ光を屈折又は反射する機能を有する光学素子を、上記レーザ光の光路に配置しておき、上記光学素子を高速振動又は高速回転させることにより、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かす、請求項2又は3に記載の成膜方法。
【請求項5】
上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置が通過することにより生じる上記ターゲットのエッチング深さが、上記レーザ光の波長の半分以下となるようにする、請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項6】
上記ターゲットにおける上記レーザ光のスポット径をφ、上記レーザ光のパルス間隔をΔt、上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置の移動速度をvとしたとき、v≧φ/(Δt×10)が成り立つ、請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項7】
上記ターゲットに連続発振レーザ光を照射しながら、上記パルス状のレーザ光を上記ターゲットに照射する、請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項8】
チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜装置であって、
上記レーザ光を屈折又は反射する機能を有する光学素子と、該光学素子を高速振動又は高速回転させる駆動装置と、を有し、
上記駆動装置によって上記光学素子を高速振動又は高速回転させることにより、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かしながら、上記基板への成膜を行うことができるよう構成されている、成膜装置。
【請求項9】
上記ターゲットにおける上記レーザ光のスポット径をφ、上記レーザ光のパルス間隔をΔt、上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置の移動速度をvとしたとき、v≧φ/(Δt×10)が成り立つように、上記レーザ光の光軸を高速に動かしながら、上記基板への成膜を行うことができるよう構成されている、請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
上記ターゲットに連続発振レーザ光を照射しながら、上記パルス状のレーザ光を上記ターゲットに照射することができるよう構成されており、上記連続発振レーザ光は、上記光学素子の動きによって、上記ターゲットに入射する光軸が高速に移動するよう構成されている、請求項8又は9に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザ堆積法を用いて、III族金属等の膜を基板上に成膜する方法が提案されている。パルスレーザ堆積法は、成膜材料からなるターゲットの表面に、パルス状のレーザ光を照射し、材料を蒸発させ、基板に成膜する方法である。以下において、パルスレーザ堆積法を、PLD法ともいう。PLDは、Pulsed Laser Depositionの略である。
【0003】
PLD法による成膜を行う場合、成膜表面に、成膜材料の大きい粒子であるドロップレットが付着することがある。形成する膜によっては、ドロップレットが膜の特性等に影響を与えることにもなりかねない。それゆえ、ドロップレットの付着を防ぐべく、特許文献1においては、照射レーザ光のフルエンスを調整することが記載されている。非特許文献1においては、エクリプス法と呼称する手法を用いて、ドロップレットの基板への付着を防ぐことが提案されている。エクリプス法は、遮蔽板によってドロップレットを捕捉して、基板へのドロップレットの到達を防ぐ方法である。なお、ターゲット表面の平坦性が高いと、ドロップレットが発生し難いことも知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小林猛,秋吉秀樹,佐藤一成,「3.アブレーションプラズマ生成・制御1(レーザー)」,プラズマ・核融合学会誌第76巻第11号,p.1145-1150,2000年11月
【非特許文献2】S.Faehler,M.Stoermer,H.U.Krebs,“Origin and avoidanceof droplets during laser ablation of metals”,Applied Surface Science Volumes 109-110,(蘭),1 February 1997,Pages 433-436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、照射レーザ光のフルエンスを調整することは、成膜速度を制限することにもなる。それゆえ、生産性の向上を図ることが困難である。また、エクリプス法を用いる場合も、成膜速度の低下は避けられない。そこで、成膜速度を低減させることなく、ドロップレットの発生を抑制する技術が求められている。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、成膜速度を特に落とすことなく、ドロップレットの発生を抑制することができる成膜方法及び成膜装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜方法であって、
上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置を高速にずらしながら、上記基板への成膜を行う、成膜方法にある。
【0009】
本発明の他の態様は、チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜装置であって、
上記レーザ光を屈折又は反射する機能を有する光学素子と、該光学素子を高速振動又は高速回転させる駆動装置と、を有し、
上記駆動装置によって上記光学素子を高速振動又は高速回転させることにより、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かしながら、上記基板への成膜を行うことができるよう構成されている、成膜装置にある。
【発明の効果】
【0010】
上記成膜方法においては、上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置を高速にずらして、上記基板への成膜を行う。これにより、成膜速度を特に落とすことなく、基板上にターゲット材料のドロップレットが付着することを抑制することができる。
【0011】
上記成膜装置においては、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かしながら、上記基板への成膜を行うことができるよう構成されている。これにより、ターゲットにおけるレーザ光の照射位置を高速にずらして、基板への成膜を行うことができる。それゆえ、成膜速度を特に落とすことなく、基板上にターゲット材料のドロップレットが付着することを抑制することができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、成膜速度を特に落とすことなく、ドロップレットの発生を抑制することができる成膜方法及び成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施形態1における、ターゲットへのレーザ光の入射を示す斜視説明図。
【
図3】実施形態1における、ターゲットへのレーザ光の入射を示す断面説明図。
【
図4】実施形態1における、ターゲットの表面のレーザ光の照射位置の軌跡を示す説明図。
【
図5】実施形態1における、ターゲットへのレーザ光の照射スポットの説明図。
【
図6】実施形態1における、レーザ光のパルス波形の説明図。
【
図7】実施形態1における、時系列的に前後して照射される2つの照射スポットの説明図。
【
図8】実施形態1における、ターゲットの一つのポイントに重複して照射される複数の照射スポットの説明図。
【
図9】ターゲットの表面荒れにより、プルームが傾斜する様子を示す模式説明図。
【
図10】ターゲットの表面荒れにより、ドロップレットが発生する様子を示す模式説明図。
【
図12】実施形態2における、ターゲットへのレーザ光の入射を示す斜視説明図。
【
図13】実施形態2における、ターゲットの表面のレーザ光の照射位置の軌跡を示す説明図。
【
図14】実験例における、方法1によるターゲット表面の写真撮影画像。
【
図15】実験例における、方法2によるターゲット表面の写真撮影画像。
【
図16】実験例における、方法3によるターゲット表面の写真撮影画像。
【
図17】実験例における、方法2による成膜表面の顕微鏡写真撮影画像。
【
図18】実験例における、方法3による成膜表面の顕微鏡写真撮影画像。
【
図19】実施形態3における、ターゲットへのパルスレーザ光及びCWレーザ光の入射を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記成膜方法は、上記ターゲット材料と実質的に同様の材料からなる膜を基板の表面に成膜するものとすることもできるし、ターゲット材料と他の物質との化合物を基板上に成膜するものとすることもできる。
【0015】
上記成膜方法において、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かすものとすることができる。この場合には、容易に、ターゲットにおけるレーザ光の照射位置を高速にずらすことができる。
【0016】
また、上記チャンバ内において上記ターゲットを動かしつつ、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かすものとすることができる。この場合には、ターゲットにおける、より広い範囲に、レーザ光の照射位置を分散させることができる。そのため、一層、ドロップレットの発生を抑制することができる。
【0017】
また、上記レーザ光を屈折又は反射する機能を有する光学素子を、上記レーザ光の光路に配置しておき、上記光学素子を高速振動又は高速回転させることにより、上記ターゲットに入射する上記レーザ光の光軸を高速に動かすものとすることができる。この場合には、容易かつ確実に、ターゲットにおけるレーザ光の照射位置を高速にずらすことができる。
【0018】
また、上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置が通過することにより生じる上記ターゲットのエッチング深さが、上記レーザ光の波長の半分以下となるようにすることができる。この場合には、ドロップレットの発生をより効果的に抑制することができる。
【0019】
また、上記ターゲットにおける上記レーザ光のスポット径をφ、上記レーザ光のパルス間隔をΔt、上記ターゲットにおける上記レーザ光の照射位置の移動速度をvとしたとき、v≧φ/(Δt×10)が成り立つものとすることができる。この場合には、より確実に、ドロップレットの発生を抑制することができる。更に好ましくは、v≧φ/Δtが成り立つようにすることができる。
【0020】
また、上記ターゲットに連続発振レーザ光(CWレーザ光)を照射しながら、上記パルス状のレーザ光を上記ターゲットに照射することもできる。この場合には、CWレーザ光によってターゲットの一部を加熱しながら、当該加熱された箇所にパルス状のレーザ光を照射することができる。これにより、ターゲット表面の平坦性を上げた状態で、パルス状のレーザ光を照射することができ、ドロップレットの発生をより一層抑制しやすくなる。
【0021】
また、上記成膜装置は、次のように構成されたものとすることもできる。すなわち、上記成膜装置は、上記ターゲットに連続発振レーザ光を照射しながら、上記パルス状のレーザ光を上記ターゲットに照射することができるよう構成されており、上記連続発振レーザ光は、上記光学素子の動きによって、上記ターゲットに入射する光軸が高速に移動するよう構成されているものとすることができる。この場合には、ターゲット表面の平坦性を上げた状態で、パルス状のレーザ光を照射することができ、ドロップレットの発生をより一層抑制しやすくなる。
【0022】
(実施形態1)
成膜方法及び成膜装置に係る実施形態について、
図1~
図8を参照して説明する。
本形態の成膜方法は、以下のようにして基板4の表面に成膜を行う方法である。すなわち、
図1、
図2に示すごとく、チャンバ10内に配置されたターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射する。これにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させ、蒸発したターゲット材料又はターゲット材料の化合物を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に堆積させる。これにより、基板4の表面に成膜を行う。本形態の成膜方法は、いわゆるパルスレーザ堆積法(PLD法)である。
【0023】
そして、
図2、
図3に示すごとく、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置(照射スポット)を高速にずらしながら、基板4への成膜を行う。
照射位置を高速にずらすための手段として、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。特に、本形態においては、チャンバ10内においてターゲット2を動かしつつ、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。
【0024】
レーザ光3の光軸を高速に動かす手段として、レーザ光3を屈折又は反射する機能を有する光学素子15を用いる。すなわち、光学素子15を、レーザ光3の光路に配置しておき、光学素子15を高速振動又は高速回転させることにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。本形態において、光学素子15として、レーザ光3を屈折させるプリズム(以下において、「プリズム15」とも表す。)を用いる。
【0025】
図1は、PLD法によって成膜を行う本形態の成膜装置1の概略図である。同図に示すように、成膜装置1は、チャンバ10と、ターゲット保持部12と、レーザ照射装置13と、基板保持部14とを有する。ターゲット保持部12は、チャンバ10内に配置され、ターゲット2を保持する。基板保持部14も、チャンバ10内に配置され、基板4を保持する。ターゲット2と基板4における被成膜表面とが互いに対向するように、それぞれターゲット保持部12と基板保持部14とに保持される。また、基板保持部14は、基板4を加熱するヒータを有する。
【0026】
レーザ照射装置13は、チャンバ10の外部に配置されている。チャンバ10には、レーザ光3を透過する光透過窓101が設けてある。レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、レンズ16と、プリズム15とが介在している。レーザ照射装置13から放射されるレーザ光3は、レンズ16によって、ターゲット2の表面に集光される。
【0027】
本形態においては、プリズム15を、レーザ光3の光路における、レンズ16と光透過窓101との間に配置した。ただし、この配置は特に限定されるものではなく、例えば、プリズム15を、レーザ光3の光路における、レーザ照射装置13とレンズ16との間に配置することもできる。また、レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、適宜、他のレンズ等の光学素子を設置してもよい。
【0028】
本形態の成膜装置1は、上記プリズム15と、該プリズム15を高速回転させる駆動装置150と、を有する。そして、成膜装置1は、駆動装置150によってプリズム15を高速回転させることにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かすことができるよう構成されている。駆動装置150は、プリズム15を保持すると共に、モータ等の駆動源によってプリズム15を回転駆動する。プリズム15の回転軸は、プリズム15に入射するレーザ光3の光軸と一致もしくは平行である。
【0029】
また、
図1に示すごとく、チャンバ10には、排気口102が設けてある。排気口102は、真空ポンプ(図示略)に接続されている。これにより、チャンバ10内のガスを排気口102から排気して、チャンバ10内を実質的な真空状態とすることができるよう構成されている。また、本形態において、成膜装置1は、ラジカル照射装置5を有する。ラジカル照射装置5は、チャンバ10内に配置された基板4へ向かってラジカル50を照射する。
【0030】
以下において、上記成膜装置1を用いた本形態の成膜方法の一例につき、説明する。
ここでは、ターゲット2として、アルミニウム(Al)を用いる。ターゲット2の表面は、略平面状となっている。なお、本形態においては、ターゲット2の表面を鉛直上向き、基板4の被成膜面を鉛直下向きとした場合について説明するが、ターゲット2及び基板4の配置の向きと、鉛直方向との関係は、特に限定されるものではない。
【0031】
まず、チャンバ10内からガスを吸引して、チャンバ10内を実質的に真空の状態とする。また、基板保持部14のヒータにより、基板4を所定の温度(例えば400~800℃程度)に加熱する。また、ターゲット2の温度は、室温~100℃程度に保つ。なお、ターゲット2は、例えば、基板保持部14のヒータの加熱による輻射熱により加熱される構成としてもよい。
【0032】
この状態において、ラジカル照射装置5から、窒素ラジカル50を基板4へ向かって照射する。それと共に、レーザ照射装置13から、レンズ16、プリズム15、光透過窓101を介して、レーザ光3を、ターゲット2へ照射する。レーザ光3は、ターゲット2の表面に対して、斜めに入射する。すなわち、
図2に示すごとく、ターゲット2の表面に対するレーザ光3の入射角θが、90°未満となるようにする。なお、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸は、上述のように高速で動くこととなるため、入射角θもこれに伴い変動する。この変動する入射角θが最大となるときのθが、90°未満となるようにする。
【0033】
パルス状のレーザ光3は、例えば、パルス幅10~50ps、パルスの繰り返し周波数1~100kHz(より好ましくは、50kHz程度)、照射出力2~5W程度、フルエンス0.2~3.8J/cm2程度(より好ましくは、0.2~2.1J/cm2程度)、照射エネルギ50~100μJ程度とすることができる。
【0034】
これにより、ターゲット2から、アルミニウムが蒸発する。すなわち、ターゲット2の表面の一部がアブレーションされる。アブレーションされたターゲット2の材料であるアルミニウムは、イオン、原子、分子等となり、
図1に示すごとく、プルーム20を形成する。プルーム20は、ターゲット2におけるレーザ光3の照射面の法線方向に向かうように形成される。これにより、アルミニウムのイオン、原子、分子等が、基板4の表面に堆積する。
【0035】
基板4上において、アルミニウムは、ラジカル照射装置5から基板4に供給される窒素ラジカル50と化学反応して、窒化アルミニウム(AlN)が生成される。これにより、AlNの薄膜が基板4上に形成される。
【0036】
上述のように、本形態の成膜方法においては、プリズム15を高速に回転させながら、パルス状のレーザ光3をターゲット2に照射する。プリズム15の回転数は、例えば、1000~10000rpmとすることができる。これにより、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置は、
図2、
図3のように、細かく高速に移動する。
図2に示すレーザ光3の照射位置の軌跡Tは、ターゲット2が静止している場合の軌跡である。ただし、ターゲット2の自転速度に比べて、レーザ光3の光軸の動く速度を充分に速くすることで、照射位置の軌跡Tは、概ね、
図2に示すような円形の軌跡を描く。そして、照射位置の軌跡Tの円形の直径は、例えば、1~10mm程度とすることができる。
【0037】
また、パルス状のレーザ光3をターゲット2に照射する間、ターゲット2も自転させる。ターゲット2の自転の回転数は、例えば、1~10rpmとすることができる。そして、上記のように高速にて光軸が動くレーザ光3を、ターゲット2の回転中心からずれた位置に照射する。これにより、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置の軌跡Tは、
図4のような細かい円運動と、大きい円運動とが合成されたような軌跡となる。なお、
図4に示す照射位置の軌跡Tは、一例であると共に、概ねの模式図である。照射位置の軌跡Tは、プリズム15の回転数、ターゲット2の回転数、プリズム15におけるレーザ光3の屈折角度、プリズム15からターゲット2までの距離など、種々の条件によって変動する。
【0038】
ここで着目すべきは、まず、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置の移動速度である。この移動速度をvとする。そして、この移動速度vと、ターゲット2におけるレーザ光3のスポット径φ(
図5参照)、及び、レーザ光3のパルス間隔Δt(
図6参照)との関係において、充分に早いと、基板4におけるドロップレットの発生を抑制する効果が得やすい。
【0039】
具体的には、移動速度vと、レーザ光3のスポット径φと、レーザ光3のパルス間隔Δtとが、以下の関係式(1)を満たすことにより、ドロップレットの発生を抑制する効果が特に得やすい。この点については、後述する実験例に示すように、実際に確認された。
v≧φ/(Δt×10) ・・・(1)
【0040】
ここで、レーザ光3のスポット径φは、例えば、50~100μm程度とすることができる。スポット径φは、
図5に示すように、ターゲット2の表面に照射されたレーザ光3の瞬間的な照射スポットSの直径である。なお、実際には、照射スポットSは、必ずしも
図5に示すような円形となるとは限らないが、ターゲット表面が完全な平面であったと仮定して算出される設計値としては、略円形もしくは楕円形となると考えることができる。本明細書においては、この円形の直径もしくは楕円形の円相当直径(同面積の円の直径)を、スポット径φとするものとする。
【0041】
また、レーザ光3のパルス間隔Δtは、上述したパルス幅およびパルスの繰り返し周波数とから決まる。レーザ光3のパルス間隔Δtは、例えば、10~100μsとすることができる。
【0042】
図6に、パルス状のレーザ光3のオンオフの時間変化を示す。同図に示すように、パルス状のレーザ光3のオン時間tonと、オフ時間toffとから、パルス間隔Δtは、Δt=ton+toff と表すことができる。なお、tonは、ピコ秒オーダーもしくはフェムト秒オーダーであり、toffと比べて充分に小さい。
【0043】
このパルス間隔Δtの間に、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置(照射スポット)が移動する距離は、v×Δt にて、表される。そうすると、
図7に示すごとく、ある照射スポットS0と、その直後の照射スポットS1とのずれ量は、v×Δtである。
【0044】
このv×Δtとφとの関係から、
図8に示すごとく、ある照射スポットS0と、その後に照射されて当該照射スポットS0と部分的に重なる照射スポットS1~Snとの合計数は、{φ/(v×Δt)}個となる。換言すると、ターゲット2における一点Pに重複して照射されるレーザ光3の照射スポットS0~Snの数(以下において、「重複照射数」という。)が、{φ/(v×Δt)}個となる。この重複照射数を少なくすることにより、ドロップレットの発生を抑制することができる。なお、{φ/(v×Δt)}にて得られる数値の小数点以下は切り捨てとする。また、重複照射数が1の場合、照射スポットは重複していないが、この場合も、便宜的に「重複照射数」というものとする。
【0045】
そして、後述の実験例に示すように、重複照射数が10個以下である場合、つまり、{φ/(v×Δt)}≦10である場合、ドロップレットの発生を充分に抑制することができる。この関係式を変形すると、上述の関係式(1)となる。それゆえ、好ましくは、関係式(1)を満たすように、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置を高速スキャンさせる。
【0046】
また、下記の関係式(2)を満たす場合には、重複照射数を0個とすることができる。
v≧φ/(Δt) ・・・(2)
それゆえ、より好ましくは、この関係式(2)を満たすように、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置を高速スキャンさせる。
【0047】
このように、上記成膜方法においては、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置を高速にずらして、基板4への成膜を行う。これにより、基板4上にターゲット材料のドロップレットが付着することを抑制することができる。
【0048】
上記成膜装置1は、駆動装置150によってプリズム15を高速回転させることにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かすことができる。これにより、成膜装置1は、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置を高速にずらしながら、基板4への成膜を行うことができるよう構成されている。それゆえ、基板4上にターゲット材料のドロップレットが付着することを抑制することができる。
【0049】
また、上述のように、ターゲット2における同じ個所に照射されるレーザ光3の照射スポットの個数を低減することができる。つまり、重複照射数を低減することができる。それゆえ、レーザ光3によるターゲット2の局部的なエッチングを抑制することができる。その結果、ターゲット2の表面荒れを抑制することができる。そして、このターゲット2の表面荒れの抑制は、アブレーションによるターゲット材料の基板4への供給効率を維持する効果につながる。また、ターゲット2の表面荒れの抑制は、ドロップレットの抑制効果にもつながる。
【0050】
すなわち、
図9に示すごとく、ターゲット2の表面が荒れると、レーザ光3の照射面が、任意の向きに傾斜してしまう。アブレーションにより生じるプルーム20は、照射面の法線方向に向かうように形成されるため、ターゲット2の表面が荒れると、
図9に示すごとく、照射位置によっては、プルーム20の形成方向が斜めとなってしまい、基板4へ向かう方向(
図9の上方)とは異なってしまう。その結果、成膜効率が低下してしまうこととなる。
【0051】
また、ターゲット2の表面が荒れると、
図10に示すごとく、荒れた表面に生じた突起の先端部等が、レーザ光3によるアブレーションの際に、比較的大きな粒子21となって飛散しやすくなる。その結果、よりドロップレットが発生しやすくなると考えられる。
【0052】
また、ターゲット2の表面の粗さとレーザ光3の波長との関係も、ドロップレットの発生に影響すると考えられる。すなわち、ターゲット2の表面における段差が、レーザ光3の半波長以下であると、回折現象がほとんど起こらない。そのため、当該段差は光学的に平坦面と同視できる。そこで、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置が通過することにより生じるターゲット2のエッチング深さが、レーザ光3の波長の半分以下となるようにすることが望ましい。これにより、ドロップレットの発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
なお、「ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置が通過することにより生じるターゲット2のエッチング深さ」(以下において、これを「エッチング深さD」という。)は、照射位置を高速に移動させた際に、ターゲット2の表面における特定の一点Pを、照射位置が一度通過した際に生じる点Pにおけるエッチング深さに相当する。このエッチング深さDがレーザ光3の波長λの半分以下となることを実現するためには、1回のパルスによるエッチング深さをdとして、重複照射数をλ/2d以下とすることとなる。
【0054】
また、本形態の成膜方法においては、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かすため、容易に、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置を高速にずらすことができる。
【0055】
また、本形態の成膜方法においては、チャンバ10内においてターゲット2を動かしつつ、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。これにより、ターゲット2における、より広い範囲に、レーザ光3の照射位置を分散させることができる。そのため、一層、ドロップレットの発生を抑制することができる。
【0056】
また、本形態においては、プリズム15を高速回転させることにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。これにより、容易かつ確実に、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置を高速にずらすことができる。
【0057】
以上のごとく、本形態によれば、成膜速度を特に落とすことなく、ドロップレットの発生を抑制することができる成膜方法及び成膜装置を提供することができる。
【0058】
(実施形態2)
本形態は、
図11、
図12に示すごとく、レーザ光3の光路に配置する光学素子として、ガルバノミラー151を用いた形態である。
【0059】
ガルバノミラー151は、レーザ光3を反射する機能を有する光学素子であり、高速振動することができるよう構成されている。このガルバノミラー151を高速振動させることにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸を高速に動かす。ガルバノミラー151の高速振動を実現するための駆動装置150としては、例えば、モータ、ピエゾ素子等を用いたものとすることができる。なお、本形態において、ガルバノミラー151の高速振動は、入射するレーザ光3に対するガルバノミラー151の傾斜角度が高速に変動することを意味する。つまり、ガルバノミラー151の反射面の向きが、所定の振幅角度の範囲内にて、高速に変動する。
【0060】
これにより、ターゲット2に入射するレーザ光3の光軸の角度を高速に変動させ、その結果、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置を、高速に振動させる。この照射位置の振動方向は、例えば、ターゲット2の径方向とすることができる。照射位置の振動周波数は、例えば、1~400kHz、振幅は、例えば、1~10mmとすることができる。また、ガルバノミラー151の角度変動の回動軸は、
図11、
図12に示すごとく、ガルバノミラー151に対するレーザ光3の入射面に対して、直交するものとすることができる。
【0061】
本形態の成膜方法においては、ガルバノミラー151を高速に振動させながら、パルス状のレーザ光3をターゲット2に照射する。また、パルス状のレーザ光3をターゲット2に照射する間、ターゲット2も自転させる。ターゲット2の自転の回転数は、例えば、1~10rpmとすることができる。
【0062】
これにより、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置は、
図12のように、細かく高速に移動する。そして、ターゲット2の表面におけるレーザ光3の照射位置の軌跡Tは、例えば、
図13のような細かい往復運動と、大きい円運動とが合成されたような軌跡となる。なお、
図13に示す照射位置の軌跡Tは、一例であると共に、概ねの模式図である。照射位置の軌跡は、ガルバノミラー151の振動数、ターゲット2の回転数、ガルバノミラー151の振幅、ガルバノミラー151からターゲット2までの距離など、種々の条件によって変動する。
【0063】
本形態においては、
図11に示すごとく、ガルバノミラー151を、レーザ光3の光路における、レーザ照射装置13とレンズ16との間に配置している。ただし、この配置は特に限定されるものではなく、例えば、ガルバノミラー151を、レーザ光3の光路における、レンズ16と光透過窓101との間に配置することもできる。
【0064】
その他は、実施形態1と同様であり、同様の作用効果を有する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0065】
(実験例)
本例は、実施形態1の成膜方法による、ターゲット2の表面荒れ抑制効果と、基板4におけるドロップレットの発生抑制効果につき、確認した例である。
【0066】
試験にあたっては、下記の3つの方法(方法1~3)にて、それぞれPLD法にて、基板4への成膜を行った。いずれも、実施形態1に示す成膜装置1と実質的に同様な成膜装置にて、成膜を行った。
【0067】
方法1としては、プリズム15を回転させずに、レーザ光3をターゲット2に照射した。方法2としては、プリズム15を比較的低速(180rpm)にて回転させながら、レーザ光3をターゲット2に照射した。方法3としては、プリズム15を高速(1800rpm)にて回転させながら、レーザ光3をターゲット2に照射した。
【0068】
各方法において、ターゲット2は、それぞれ下記の表1に示す回転数にて自転させた。なお、方法1に関しては、チャンバ10内において、ターゲット2を公転させて、レーザ光3の照射位置を径方向にも大きくずらしている。公転は、ターゲット中心から40mm離れた回転中心を中心に回動させるが、その回動は、20°程度の中心角の範囲を往復させた。公転速度も1rpm程度の低速である。また、ターゲット2におけるレーザ光3のスポット径φを100μm、レーザ光3のパルス幅(オン時間ton)を15psとした。また、レーザ光3のパルス周期Δtは、いずれも、20μ秒とした。
【0069】
それぞれの方法にてターゲット2へレーザ光3を照射する場合、上述の重複照射数は、計算上、以下のようになる。すなわち、方法1の場合は、重複照射数が955回、方法2の場合は、重複照射数が105回、方法3の場合は、重複照射数が11回、となる。これらの各条件を、表1に示す。その他、各方法における、照射位置の移動速度v、Δtの間の照射位置の移動距離、ターゲット2のエッチング深さDも、表1に示す。
【0070】
【0071】
なお、本例において、レーザ照射装置13としては、Panasonic Boston Lab.社製のピコ秒レーザを用いた。レーザ照射装置13からは、波長が1064nm、パルス幅が15ps、繰り返し周波数が50kHzのパルス状のレーザ光3を放射させた。ターゲット2の表面に対するレーザ光3の入射角θ(
図2参照)は、30°とした。
また、ターゲット2に照射されるレーザ光3の照射出力は0.74W、フルエンスは0
.2J/cm
2とした。
【0072】
また、ラジカル照射装置5としては、ICP(誘導結合型プラズマ)とCCP(容量結合型プラズマ)とを組み合わせた高密度ラジカル源を用いた。ラジカル照射装置5においては、窒素ラジカルを生成し、
図1に示すごとく、窒素ラジカル50を基板4に向かって照射した。すなわち、基板4に窒素ラジカル50を照射しながら、ターゲット2にレーザ光3を照射して、AlNの成膜を行った。
【0073】
他の成膜条件として、基板4の温度は650℃、ターゲット2の温度は27℃、チャンバ10内の圧力は5×10-2Pa、窒素の流量は20sccm、ラジカル出力は600Wとした。また、レーザ光3の照射の仕方として、本願発明者らが既に提案しているレーザブランキング法(児玉和樹他、第66回春季応用物理学会11p-W541-11(2019)参照)を利用し、照射オン/オフ時間を、それぞれ1秒/1秒とした。また、基板4としては、C面サファイヤ基板を用いた。
【0074】
成膜時間(ターゲット2へのレーザ光3照射時間)は30分間、ターゲット2と基板4との間の距離は、60mmとした。方法2及び方法3においては、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置は、ターゲット2の中心に対して径方向に4~7.6mmオフセットさせた。方法1においては、オフセット量を、5mmとした。方法1においては、ターゲット2を公転させることで、照射位置のオフセット量を2~15mmまで変動させた。
【0075】
方法1~3のそれぞれを実施した後に、ターゲット2の表面を観察した。それらのターゲット2の表面の撮影画像を、
図14~
図16に示す。
図14が方法1によるもの、
図15が方法2によるもの、
図16が方法3によるもの、をそれぞれ示す。
【0076】
図14に示すように、方法1(プリズム回転なし)による場合のターゲット表面は、レーザ光3の照射痕が、同心円状に深い溝として形成されており、ターゲット表面は大きく荒れている。
図15に示すように、方法2(プリズム低速回転)による場合のターゲット表面も、レーザ光3の照射痕が、略円環状の領域に深く形成されている。一方、
図16に示すように、方法3(プリズム高速回転)による場合のターゲット表面は、レーザ光3の照射痕がほとんど観察されず、平坦面に近い表面状態を保っている。
【0077】
上記の結果から、ターゲット2へのレーザ光3の照射位置を高速にずらすことで、ターゲット2の表面荒れを抑制することができることが分かる。特に、照射スポットの重複照射数を10回以下程度に抑えることで、ターゲット2の表面荒れを充分に抑制することができることが分かる。すなわち、v≧φ/(Δt×10)が成り立つように、レーザ光3を照射することで、ターゲット2の表面荒れを充分に抑制することができるといえる。
【0078】
また、方法2と方法3とについて、基板4への成膜状態を観察した。その結果を、
図17、
図18に示す。これらは、光学顕微鏡(Leica DM8000-M)を用いて撮影した画像であり、光学倍率は1000倍である。
図17に示すように、方法2(プリズム低速回転)による場合には、成膜表面にドロップレットが発生していることが確認された。一方、
図18に示すように、方法3(プリズム高速回転)による場合には、成膜表面にドロップレットは確認されなかった。
【0079】
上記の結果から、ターゲット2へのレーザ光3の照射位置を高速にずらすことで、ドロップレットの発生を抑制することができることが分かる。特に、照射スポットの重複照射数を10回以下程度に抑えることで、ドロップレットの発生を回避することができることが分かる。すなわち、v≧φ/(Δt×10)が成り立つように、レーザ光3を照射することで、ドロップレットの発生を回避することができるといえる。
【0080】
また、上記実験例の結果は、エッチング深さDがレーザ光3の波長λの半分以下となるようにすることにより、ドロップレットの発生を抑制できるという上述の推論とも整合する。すなわち、この考え方に基づくと、本実験例においてはレーザ光3の波長が1064nmであるので、エッチング深さDを532nm以下とすることで、ドロップレットの発生を抑制できることとなる。本実験例では、方法2によるエッチング深さDは940nm、方法3によるエッチング深さDは91nmであり、前者は上記条件(半波長以下)を満たさず、後者は上記条件(半波長以下)を満たす。そして、方法2による場合は充分にドロップレットの発生を抑制できず、方法3による場合は充分にドロップレットの発生を抑制できた。この結果は、エッチング深さDが、レーザ光3の波長λの半分以下となるようにすることにより、ドロップレットの発生を抑制できることと整合する。
【0081】
(実施形態3)
本形態は、
図19に示すごとく、ターゲット2に連続発振レーザ光(CWレーザ光30)を照射しながら、パルス状のレーザ光3をターゲット2に照射する成膜方法の形態である。
【0082】
この成膜方法を実現するための成膜装置1は、パルス状のレーザ光3を発振するレーザ照射装置13と共に、CWレーザ光30を発振するCWレーザ照射装置130を有する。また、成膜装置1は、パルスレーザ光3を反射して、プリズム15に入射させるためのミラー131と、CWレーザ光30を反射して、プリズム15に入射させるためのミラー132とを有する。
【0083】
CWレーザ光30も、プリズム15の動きによって、ターゲット2に入射する光軸が高速に移動するよう構成されている。つまり、本形態においては、CWレーザ光30をパルスレーザ光3と共に、高速回転するプリズム15に透過させる。これにより、CWレーザ光30は、パルスレーザ光3と共に、光軸が高速に移動する。このようにして、ターゲット2に対して、CWレーザ光30をパルスレーザ光3に重畳させて、照射する。しかも、ターゲット2におけるCWレーザ光30及びパルスレーザ光3の照射位置を高速に移動させる。また、この場合、ターゲット2における特定箇所に、CWレーザ光30とパルスレーザ光3とが同時に照射されることとなる。
【0084】
また、ターゲット2におけるCWレーザ光30のスポット径は、パルスレーザ光3のスポット径よりも大きくなるようにする。そして、CWレーザ光30の照射スポットの中に、パルスレーザ光3の照射スポットが収まるようにする。
【0085】
ターゲット2におけるCWレーザ光30の照射スポットの軌跡Tcは、略円環形状の軌跡を描く。そして、この円環形状の軌跡Tcの中(内周円と外周円との間)に、パルスレーザ光3の軌跡Tが収まる形となる。なお、CWレーザ光30の波長は、例えば、パルスレーザ光3の波長と同程度とすることができ、例えば1064nmとすることができる。
その他は、実施形態1と同様である。
【0086】
本形態においては、CWレーザ光30によってターゲット2の一部を加熱しながら、当該加熱された箇所にパルス状のレーザ光3を照射することができる。これにより、ターゲット表面の平坦性を上げた状態で、パルス状のレーザ光3を照射することができ、ドロップレットの発生をより一層抑制しやすくなる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0087】
上記実施形態においては、ターゲットにおけるレーザ光の照射位置を高速にずらす手段として、プリズム15を高速回転する方法、及び、ガルバノミラー151の角度を高速変動させる方法を示したが、他の手段を用いることもできる。例えば、レーザ光を反射するミラーを、角度を変えずに高速に往復運動させることで、レーザ光の光軸を変動させることもできる。或いは、複数のガルバノミラー151をそれぞれ異なる向きの回動軸を中心に高速に回動(角度変化)させて、レーザ光の光軸を変動させることもできる。
【0088】
上記実施形態においては、ターゲット材料をAlとした形態を示したが、ターゲット材料は、特に限定されるものではない。例えば、ターゲット材料として、Ga、Ti等、他の金属、或いは合金等とすることもできる。
【0089】
また、上記実施形態においては、レーザアブレーションと共に窒素ラジカルの供給を行う形態を示したが、これに限らず、例えば、基板へ供給するラジカルを、酸素ラジカル等、他のラジカルとすることもできる。また、ラジカルではない反応性ガス(窒素ガス、酸素ガス等)を供給して、蒸発したターゲット材料と化学反応させることもできる。或いは、ターゲット材料を特に化学反応させずに、ターゲット材料そのものを基板に堆積させることもできる。
【0090】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 成膜装置
10 チャンバ
15 プリズム(光学素子)
151 ガルバノミラー(光学素子)
2 ターゲット
3 レーザ光
4 基板