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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131445
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】オルガノアシロキシシラン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C07F7/18 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041709
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】都合 達男
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP10
4H049VQ28
4H049VQ78
4H049VR21
4H049VR22
4H049VR42
4H049VR43
4H049VU21
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】反応性及び保存安定性に優れたオルガノアシロキシシラン組成物を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物、及び(B)水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸を含み、前記オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と前記脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときの前記脂肪族カルボン酸の含有量が、0.1~35質量%である、オルガノアシロキシシラン組成物。
一般式(1)
(R)-Si-(OCOR)4-n
(一般式(1)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、Rは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、nは1又は2である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物、及び(B)水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸を含み、
前記オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と前記脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときの前記脂肪族カルボン酸の含有量が、0.1~35質量%である、オルガノアシロキシシラン組成物。
一般式(1)
(R)-Si-(OCOR)4-n
(一般式(1)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、Rは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、nは1又は2である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノアシロキシシラン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノアルコキシシラン化合物及びオルガノアシロキシシラン化合物は、有機基の疎水性と、アルコキシ基又はアシロキシ基の反応性を利用して、無機物や樹脂などをはじめとする基質と反応して、(有機基)-Si-O-(基質)のように変性させて、基質に疎水性を付与することができる。また、このように基質に付与されたオルガノアルコキシシリル基及びオルガノアシロキシシリル基は、加水分解縮合によってシロキサン結合を形成し、基質のコーティングをすることができる。このため、オルガノアルコキシシラン化合物及びオルガノアシロキシシラン化合物は、無機フィラーや樹脂の改質剤若しくは変性剤、塗料添加剤、含浸材、コーティング剤、又は表面処理剤等として利用されている。
【0003】
オルガノアシロキシシラン化合物は、オルガノアルコキシシラン化合物に比べ、反応性に優れている。実際、非特許文献1では、アシロキシシラン化合物がアルコキシシラン化合物より反応性の高いカップリング剤として報告されている。
また、特許文献1には、フルオロアルキル基含有トリアシロキシシランを用いて、プラズマコーティングにて基材表面に疎水性構造を形成する方法が記載されている。
一方で、オルガノアルコキシシランは、オルガノアシロキシシランに比べて、酸以外の化学物質に対して安定な化合物であり、保存安定性が必要な場面で多く用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中村吉伸、永田員也、他、「シランカップリング剤の効果と使用法 全面改訂版」S&T出版、2012年、第1章
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-177328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オルガノアシロキシシラン化合物は、反応性が高く、固体表面と効率的に反応することが知られているが、安定性が低く、保存安定性に乏しい。特許文献1では、アシロキシシランの反応性の高さから、アシロキシシランを溶液として使用できず、さらに反応を制御できないため、基材表面にアシロキシシランを選択的に反応させることができず、一部重合体が形成してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、反応性及び保存安定性に優れたオルガノアシロキシシラン組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のオルガノアシロキシシラン化合物と特定の脂肪族カルボン酸を特定量で組み合わせることで、オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性を向上させることができ、反応性及び保存安定性に優れたオルガノアシロキシシラン組成物を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、(A)下記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物、及び(B)水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸を含み、
前記オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と前記脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときの前記脂肪族カルボン酸の含有量が、0.1~35質量%であることを特徴とする。
一般式(1)
(R)-Si-(OCOR)4-n
(一般式(1)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、Rは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、nは1又は2である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応性及び保存安定性に優れたオルガノアシロキシシラン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば、「10~30」は10以上、かつ30以下の範囲を表す。
【0012】
[オルガノアシロキシシラン組成物]
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、(A)下記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物、及び(B)水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸を含み、前記オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と前記脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときの前記脂肪族カルボン酸の含有量が、0.1~35質量%であることを特徴とする。
一般式(1)
(R)-Si-(OCOR)4-n
(一般式(1)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、Rは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、nは1又は2である。)
【0013】
以下、本発明においては、上記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物を、単に「(A)オルガノアシロキシシラン化合物」又は「(A)」と称する場合があり、水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸を、単に「(B)脂肪族カルボン酸」又は「(B)」と称する場合がある。また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物を、単に「シラン組成物」と称する場合がある。
【0014】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物においては、上記特定の(A)オルガノアシロキシシラン化合物と、上記特定の(B)脂肪族カルボン酸とを、上記特定量で組み合わせて含むことにより、(A)オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性が向上されている。そのため、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物においては、(A)オルガノアシロキシシラン化合物の自己重合及び分解が生じにくく、(A)オルガノアシロキシシラン化合物がもつ高い反応性が維持されるため、反応性に優れる。例えば、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、基質と十分に反応するため、基質に対する疎水性付与効果に優れる。また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、(A)オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性に優れているため、保存安定性に優れる。
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、保存安定性に優れるため、樹脂変性剤、塗料添加剤、接着剤、含浸材、コーティング剤、表面処理剤等の原料及び合成中間体として好適に用いられる。
【0015】
(A)オルガノアシロキシシラン化合物
上記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物((A)オルガノアシロキシシラン化合物)において、上記一般式(1)におけるRは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基である。当該脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和であってよい。溶剤溶解性の観点から、Rは、炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることがより好ましい。
炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びイソプロピル基などのアルキル基;エテニル基、1-プロペニル基、2-プロぺニル基等のアルケニル基等が挙げられる。中でも、溶剤溶解性の観点から、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基及びイソプロピル基がより好ましく、メチル基及びエチル基が更に好ましく、溶剤溶解性の観点、並びに、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点から、メチル基が特に好ましい。
なお、上記一般式(1)においてRが複数ある場合、複数あるRは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0016】
上記一般式(1)におけるRは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基である。当該脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和であってよい。
の炭素数が17以下であることにより、(A)オルガノアシロキシシラン化合物は、水及び溶剤に対する溶解性の低下が抑制される。Rの炭素数は、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点から、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましい。
炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-へキシル基、1-メチルへキシル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、直鎖状又は分岐状のヘプチル基、直鎖状又は分岐状のオクチル基、直鎖状又は分岐状のペンタデシル基、直鎖状又は分岐状のヘキサデシル基、及び、直鎖状又は分岐状のヘプタデシル基等のアルキル基;これらのアルキル基において、いずれか1つの炭素原子間の単結合(C-C)が二重結合(C=C)に置換された基であるアルケニル基等が挙げられる。中でも、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点から、Rとしては、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。更に、2-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、直鎖状又は分岐状のヘプチル基、直鎖状又は分岐状のオクチル基、直鎖状又は分岐状のペンタデシル基、及び、直鎖状又は分岐状のヘキサデシル基等の炭素数5~16の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数6~12の直鎖状又は分岐状のアルキル基がより好ましく、直鎖状又は分岐状のヘプチル基、及び、直鎖状又は分岐状のオクチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルキル基が更に好ましく、直鎖状又は分岐状のヘプチル基がより更に好ましく、分岐状のヘプチル基が特に好ましい。分岐状のヘプチル基としては、例えば、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
なお、上記一般式(1)において、複数あるRは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0017】
上記一般式(1)におけるnは1又は2であり、特に限定はされないが、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点からは、nは2であることが好ましい。
【0018】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物に含まれる上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物の含有量は、特に限定はされないが、本発明のシラン組成物の反応性及び成膜性を向上する点から、シラン組成物100質量%に対し、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、保存安定性を向上する点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.6質量%以下、更に好ましくは98質量%以下、より更に好ましくは96質量%以下である。また、シラン組成物の保存安定性が向上すると、自己重合又は分解によって反応性を失う(A)オルガノアシロキシシラン化合物の割合が減少するため、シラン組成物は反応性に優れ、シラン組成物による疎水性付与効果が向上する。
なお、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物として、上記一般式(1)で表されるオルガノアシロキシシラン化合物を、1種単独で、又は2種以上組み合わせて含むことができる。
【0019】
上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物を合成反応で得る方法としては、種々の方法が知られており、特に限定されないが、例えば、クロロシラン化合物と脂肪族カルボン酸を、3級アミン等の塩基存在下で反応させる方法、及び、n-ヘキサン等の非極性溶媒中にて、クロロシラン化合物を、脂肪族カルボン酸ナトリウム等の脂肪族カルボン酸金属塩と反応させる方法等が挙げられる。更に、オルガノアシロキシシラン化合物と、脂肪族カルボン酸との交換反応によって、所望の構造とした上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物を得ることもできる。当該交換反応に用いるオルガノアシロキシシラン化合物としては、市販品を用いてもよい。
【0020】
(B)脂肪族カルボン酸
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、水酸基を有していてもよい炭素数3~18の直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸((B)脂肪族カルボン酸)を含む。当該(B)脂肪族カルボン酸は、炭素数が18以下であるため、水及び溶剤に対する溶解性が良好である。また、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点から、当該(B)脂肪族カルボン酸の炭素数は、5以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましい。
【0021】
上記(B)脂肪族カルボン酸が有する脂肪族基は、飽和又は不飽和であってよいし、直鎖状又は分岐状であってよいが、分岐状飽和脂肪族基であることが好ましい。また、上記(B)脂肪族カルボン酸は、モノカルボン酸又は多価カルボン酸であってよい。
上記(B)脂肪族カルボン酸としては、例えば、水酸基を有していてもよい脂肪族炭化水素骨格に1つのカルボキシ基が付いた脂肪族モノカルボン酸、及び、水酸基を有していてもよい脂肪族炭化水素骨格に2つ以上のカルボキシ基が付いた脂肪族多価カルボン酸等を挙げることができる。
上記脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リンデル酸、マッコウ酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ヒラゴ酸、モロクチン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸、イソパルミチン酸、イソペラルゴン酸、2-エチルヘキサン酸、ステアリン酸、リシノール酸、ネオデカン酸、ネオペンタン酸等の水酸基を有しない脂肪族モノカルボン酸、並びに、リシノール酸等の水酸基を有する脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
上記脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等の水酸基を有しない脂肪族ジカルボン酸、並びに、クエン酸、酒石酸及びリンゴ酸等の水酸基を有する脂肪族多価カルボン酸等が挙げられる。
【0022】
また、上記(B)脂肪族カルボン酸としては、本発明のシラン組成物の保存安定性、反応性及び成膜性を向上する点から、水酸基を有していてもよい脂肪族モノカルボン酸が好ましく、水酸基を有しない脂肪族モノカルボン酸がより好ましい。
水酸基を有していてもよい脂肪族モノカルボン酸としては、中でも、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リンデル酸、マッコウ酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ヒラゴ酸、モロクチン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸、イソパルミチン酸、イソペラルゴン酸、2-エチルヘキサン酸、ステアリン酸、リシノール酸、ネオデカン酸、ネオペンタン酸等の炭素数5~18の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数7~12の脂肪族モノカルボン酸がより好ましい。
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、上述した(B)脂肪族カルボン酸を、1種単独で、又は2種以上組み合わせて含むことができる。
【0023】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物においては、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と、上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときに、上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量が0.1~35質量%である。上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量が0.1質量%より小さいと、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物の水に対する安定性が乏しくなり、シラン組成物の保存安定性が不十分になる。また、上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量が35質量%より大きいと、シラン組成物に含まれる上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物の含有割合が少なくなるため、シラン組成物の反応性が不十分になる。上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量は、下限としては、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、上限としては、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0024】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物においては、保存安定性が向上する点から、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRの炭素数と、上記(B)脂肪族カルボン酸が含む脂肪族基の炭素数の差が、0~10であることが好ましく、0~7であることがより好ましく、0~3であることが更に好ましい。シラン組成物の保存安定性安定性が向上する点からは、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRと、上記(B)脂肪族カルボン酸が含む脂肪族基が、同じ構造であることが特に好ましい。
なお、(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含むRが複数種類ある場合、(B)脂肪族カルボン酸を含む脂肪族基が複数種類ある場合、又はこれら両方の場合においては、(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRと、(B)脂肪族カルボン酸が含む脂肪族基の組み合わせのうち、炭素数の差が最も大きくなる組み合わせにおいて、炭素数の差が上述した範囲内であることが好ましい。
【0025】
(C)アシロキシシロキサン化合物
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、更に、アシロキシシロキサン化合物を含んでいてもよい。アシロキシシロキサン化合物とは、1分子中にアシロキシ基とシロキサン結合を含む化合物である。本発明においては、アシロキシシロキサン化合物を、単に「(C)アシロキシシロキサン化合物」と称する場合がある。
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、(C)アシロキシシロキサン化合物を更に含むことによって、有機溶剤への溶解性や保存安定性が一層向上する。
(C)アシロキシシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物、及び下記一般式(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができ、少なくとも下記一般式(2)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0026】
【化1】
(一般式(2)及び(3)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、Rは、炭素数1~17の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基であり、mは1~20の整数である。)
【0027】
上記一般式(2)及び(3)中のR及びRについては、上記一般式(1)中のR及びRと同様であり、上記一般式(1)において好ましいR及びRが、上記一般式(2)及び(3)においても同様に好ましい。
上記一般式(2)及び(3)において、複数あるRは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。複数あるRは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物が、上記(C)アシロキシシロキサン化合物として上記一般式(2)又は(3)で表される化合物を含む場合、当該一般式(2)又は(3)におけるR及びRは、それぞれ、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物における一般式(1)中のR及びRと、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0028】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物が上記(C)アシロキシシロキサン化合物として上記一般式(2)又は(3)で表される化合物を含有する場合、シラン組成物の保存安定性が向上する点から、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRの炭素数と、上記(C)アシロキシシロキサン化合物が含む一般式(2)又は(3)中のRの炭素数の差が、0~10であることが好ましく、0~7であることがより好ましく、0~3であることが更に好ましい。シラン組成物の保存安定性が向上する点からは、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRと、上記(C)アシロキシシロキサン化合物が含む一般式(2)中のRが、同じ構造であることが特に好ましい。
なお、(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含むRが複数種類ある場合、(C)アシロキシシロキサン化合物が含むRが複数種類ある場合、又はこれら両方の場合においては、(A)オルガノアシロキシシラン化合物が含む一般式(1)中のRと、(C)アシロキシシロキサン化合物が含む一般式(2)又は(3)中のRの組み合わせのうち、炭素数の差が最も大きくなる組み合わせにおいて、炭素数の差が上述した範囲内であることが好ましい。
【0029】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物が、上記(C)アシロキシシロキサン化合物を含む場合は、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物の含有量と上記(B)脂肪族カルボン酸の含有量の合計を100質量%としたときに、上記(C)アシロキシシロキサン化合物の含有量が、0.01~50質量%であることが好ましい。上記(C)アシロキシシロキサン化合物の含有量が0.01質量%以上であると、本発明のシラン組成物の保存安定性を向上する効果に優れる。この観点から、上記(C)アシロキシシロキサン化合物の含有量は、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、1質量%以上であることがより更に好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。一方、上記(C)アシロキシシロキサン化合物の含有量が50質量%以下であると、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物の粘度増加を抑制し、粘度増加による性能の悪化を抑制することができる。この観点から、上記(C)アシロキシシロキサン化合物の含有量は、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
なお、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、上記(C)アシロキシシロキサン化合物を、1種単独で、又は2種以上組み合わせて含むことができる。例えば、上記(C)アシロキシシロキサン化合物として、重合度の異なる複数のアシロキシシロキサン化合物、すなわち上記一般式(2)又は(3)中のmが異なる複数のアシロキシシロキサン化合物を含んでいてもよい。
【0030】
(D)添加剤
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じ、増粘剤や酸化防止剤、重合禁止剤などの各種添加剤を含むことが可能である。
増粘剤としては、例えば、ポリイソブチレン、エチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ジ亜リン酸ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ベンゾキノン、tert-ブチルヒドロキノン、4-tert-ブチルピロカテコール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。
【0031】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物が、上述した(A)オルガノアシロキシシラン化合物、(B)脂肪族カルボン酸及び(C)アシロキシシロキサン化合物とは異なる材料を含む場合、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物に含まれる上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物、(B)脂肪族カルボン酸及び(C)アシロキシシロキサン化合物の総量は、本発明のシラン組成物の反応性及び保存安定性の低下を抑制する点から、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物、(B)脂肪族カルボン酸及び(C)アシロキシシロキサン化合物の総量の上限は、99.9質量%以下であってもよく、99.5質量%以下であってもよい。上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物、(B)脂肪族カルボン酸及び(C)アシロキシシロキサン化合物の総量が100質量%未満の場合とは、例えば、粘度調整によるコーティング性の改善のために、増粘剤等の添加剤を更に含む場合等が挙げられる。
【0032】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、灰分量が5~25質量%であることが好ましく、8~20質量%であることがより好ましく、10~18質量%であることが更に好ましい。灰分量が上記範囲内であると、基質との反応性が向上する。
なお、シラン組成物の灰分量は、例えば、シラン組成物を大気雰囲気下、400~800℃で2~12時間焼成した後の残渣(ケイ素酸化物)の質量と、焼成前のシラン組成物の質量とから、下記数式(I)により算出することができる。
【0033】
【数1】
【0034】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、25℃での動粘度が、10~20mm/sであることが好ましく、12~18mm/sであることがより好ましい。25℃での動粘度が上記範囲内であると、成膜性が向上し、基質との反応性が向上する。シラン組成物の動粘度は、上記(A)オルガノアシロキシシラン化合物及び(B)脂肪族カルボン酸の種類及び質量比を変えることにより調整することができる。また、本発明のシラン組成物は、(A)オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性に優れるため、動粘度が安定しやすい。
なお、シラン組成物の動粘度は、JIS Z 8803に準拠して、キャノンフェンスケ粘度計により測定することができる。
【0035】
本発明のオルガノアシロキシシラン組成物の用途は、従来のオルガノアルコキシシラン化合物及びオルガノアシロキシシラン化合物と同様の用途に使用することができ、特に限定はされない。本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は保存安定性に優れるため、上述したように、例えば、樹脂変性剤、塗料添加剤、含浸材、コーティング剤、又は表面処理剤等として好適に用いることができる。
【0036】
また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物を、酸性水溶液に添加してコーティング剤として用いることができる。そのようなコーティング剤としては、例えば、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物、水及びアルコール等の溶媒、及び酸触媒を含むコーティング剤を挙げることができる。
当該コーティング剤において、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物の含有量は、反応性を十分に発揮する観点から、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上であり、塗布性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、酸及び水に対する安定性に優れるため、当該コーティング剤は、pHを2以下とすることができる。
また、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物は、酸及び水に対する安定性に優れるため、当該コーティング剤においては、シラン組成物に対する水の質量比(水/シラン組成物)を、例えば、5~20とすることができる。
【実施例0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
[オルガノアシロキシシラン組成物の評価]
各合成例で得たオルガノアシロキシシラン組成物について、以下に示す評価を行った。
【0038】
(1)灰分量の測定
精秤したオルガノアシロキシシラン組成物を、大気雰囲気下、600℃で3時間焼成し、当該焼成後の残渣(ケイ素酸化物)の質量を精秤して、上記数式(1)により灰分量を算出した。
【0039】
(2)動粘度の測定
動粘度測定用プローブ及び恒温水槽を用いて、JIS Z 8803に準拠し、キャノンフェンスケ粘度計で、温度25℃でのオルガノアシロキシシラン組成物の動粘度を測定した。
【0040】
オルガノアシロキシシラン組成物のプロトン核磁気共鳴スペクトルは、日本電子社製のAL400型を用いて測定した。溶媒にクロロホルム-dを使用し、クロロホルム-dに含まれるトリメチルシランのピークを内部標準(0.00ppm)とした。
【0041】
[合成例1]
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸99.9g(0.69mol)、及びトリアセトキシメチルシラン50.0g(0.23mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を90℃まで加熱して昇温させた。系内を30torrまで減圧し、反応によって出てくる酢酸を回収した。6時間減圧下にて加熱攪拌し、トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランを含む淡黄色溶液を得た。トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン/2-エチルヘキサン酸の質量比が95.3/4.7となるように、得られた淡黄色溶液に2-エチルヘキサン酸を加え、オルガノアシロキシシラン組成物1とした。
得られたオルガノアシロキシシラン組成物1をプロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl)により測定し、分析した結果を以下に示す。
δ2.27(1H,m)、1.30(8H,m)、0.88(6H,m)、0.717(0.95H,s)
【0042】
[合成例2]
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸257.9g(1.79mol)、及びジアセトキシジメチルシラン100.0g(0.83mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を90℃まで加熱して昇温させた。系内を30torrまで減圧し、反応によって出てくる酢酸を回収した。6時間減圧下にて加熱攪拌し、ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(ジメチル)シランを含む淡黄色溶液を得た。ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(ジメチル)シラン/2-エチルヘキサン酸の質量比が91.3/8.7となるように、得られた淡黄色溶液に2-エチルヘキサン酸を加え、オルガノアシロキシシラン組成物2とした。
得られたオルガノアシロキシシラン組成物2をプロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl)により測定し、分析した結果を以下に示す。
δ2.27(1H,m)、1.3 (8H,m)、0.88(6H,m)、0.505(0.91H,s)
【0043】
[合成例3]
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸102.6g(0.71mol)、ジアセトキシジメチルシラン5.6g(0.02mol)、及びトリアセトキシメチルシラン50.0g(0.23mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を120℃まで加熱して昇温させた。系内を30torrまで減圧し、反応によって出てくる酢酸を回収した。6時間減圧下にて加熱攪拌し、トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランと、2-エチルヘキサン酸由来の構造を含むアシロキシシロキサン化合物とを含む淡黄色溶液を得た。トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン/2-エチルヘキサン酸/2-エチルヘキサン酸由来の構造を含むアシロキシシロキサン化合物の質量比が88.4/4.8/6.8となるように、得られた淡黄色溶液に2-エチルヘキサン酸を加え、オルガノアシロキシシラン組成物3とした。
なお、2-エチルヘキサン酸由来の構造を含むアシロキシシロキサン化合物は、上記一般式(2)で表されるアシロキシシラン化合物であって、上記一般式(2)中のRがメチル基であり、Rが2-エチルヘキサノイル基であり、mが1~12であり、一般式(2)中のmが異なるアシロキシシロキサン化合物を複数含んでいた。
得られたオルガノアシロキシシラン組成物3をプロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl)により測定し、分析した結果を以下に示す。
δ2.27(1H,m)、1.30(8H,m)、0.88(6H,m)、0.717(0.88H,s)、0.541(0.07H,s)
【0044】
[合成例4]
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸95.0g(0.66mol)、トリアセトキシメチルシラン50.0g(0.23mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を90℃まで加熱して昇温させた。系内を30torrまで減圧し、反応によって出てくる酢酸を回収した。6時間減圧下にて加熱攪拌し、トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランを含む淡黄色溶液を得た。トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン/2-エチルヘキサン酸の質量比が99.6/0.4(質量比)となるように、得られた淡黄色溶液に2-エチルヘキサン酸を加え、オルガノアシロキシシラン組成物4とした。
得られたオルガノアシロキシシラン組成物4をプロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl)により測定し、分析した結果を以下に示す。
δ2.27(1H,m)、1.30(8H,m)、0.88(6H,m)、0.717(0.99H,s)
【0045】
[合成例5~7、10]
トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランと2-エチルヘキサン酸とが表1に示す質量比となるように、合成例1で得たオルガノアシロキシシラン組成物1に、更に2-エチルヘキサン酸を加えて、オルガノアシロキシシラン組成物5~7および10とした。
【0046】
[合成例8]
トリアセトキシメチルシラン/2-エチルヘキサン酸の質量比が70/30となるように、トリアセトキシメチルシランに、2-エチルヘキサン酸を混合して、オルガノアシロキシシラン組成物8とした。
【0047】
[合成例9]
トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン/2-エチルヘキサン酸/リシノール酸の質量比が76.2/3.8/20となるように、合成例1で合成したオルガノアシロキシシラン組成物1に、更にリシノール酸を加えて、オルガノアシロキシシラン組成物9とした。
【0048】
[合成例11]
ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(ジメチル)シラン/2-エチルヘキサン酸の質量比が60/40となるように、合成例2で合成したオルガノアシロキシシラン組成物2に、更に2-エチルヘキサン酸を加えて、オルガノアシロキシシラン組成物11とした。
【0049】
[合成例12]
合成例1で調製したトリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランを含む淡黄色溶液を、トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン単体とした。
トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン単体をプロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl)により測定し、分析した結果を以下に示す。
δ2.27(1H,m)、1.30(8H,m)、0.88(6H,m)、0.717(1H,s)
【0050】
[合成例13]
トリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン/酢酸の質量比が90/10となるように、合成例1で調製したトリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シランを含む淡黄色溶液に、酢酸を加えて、オルガノアシロキシシラン組成物13とした。
【0051】
【表1】
【0052】
合成例1~9で得たシラン組成物は、灰分量及び25℃での動粘度が上述した好ましい範囲内であった。
【0053】
[コーティング剤の調製]
(実施例1)
蓋付きの容器に、合成例1で得たオルガノアシロキシシラン組成物1を1.0g、水を10.0g、6MのHClを1.0g、エタノールを20.0gそれぞれ量り入れ、蓋をしてよく振り混ぜた。これを12時間静置して、実施例1のコーティング剤を調製した。
【0054】
(比較例1)
合成例1で得たオルガノアシロキシシラン組成物1に代えて、トリメトキシメチルシラン(25℃での動粘度:0.7mm/s、灰分量:43.6質量%、油水分離時間:3秒)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1のコーティング剤を調製した。
【0055】
(実施例2~9、比較例2~5)
合成例1で得たオルガノアシロキシシラン組成物1に代えて、表2及び表3に従って、合成例2~13で得たオルガノアシロキシシラン組成物2~13又はトリス(2-エチルヘキサノイルオキシ)(メチル)シラン単体を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2~9及び比較例2~5のコーティング剤を調製した。
【0056】
(ブランク)
蓋付きの容器に水を10.0g、6MのHClを1.0g、エタノールを20.0gそれぞれ量り入れ、蓋をしてよく振り混ぜた。これを12時間静置して、ブランクのコーティング剤を調製した。
【0057】
実施例1~9及び比較例1~5で調製したコーティング剤、及びブランクのコーティング剤は、いずれもpHが2であった。
【0058】
[コーティング剤の機能評価]
(1)疎水性付与効果(反応性)
ガラス基板をコーティング剤に4時間浸漬した。ガラス基板をコーティング剤から取り出してから、ガラス基板をエタノールで洗浄し、未反応のコーティング剤を取り除いた。洗浄後のガラス基板を80℃で15分予備乾燥した後、300℃で2時間焼結することにより、表面にコーティング膜を形成した評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルについて、コーティング膜の室温での水に対する接触角を測定した。
【0059】
(2)クラック(成膜性)
上記の接触角の測定に使用した評価用サンプルのコーティング膜表面を、光学顕微鏡を用いて倍率50倍で観察し、5mm四方の範囲に観測されるクラックの数を測定した。なお、最大径が0.1mm以上の傷をクラックと認定した。成膜性の評価として、5点で測定したクラック数の平均が、10個以上の場合を×、4~9個の場合を△、1~3個の場合を〇、0個の場合を◎と評価した。
【0060】
(3)保存安定性
コーティング剤100mlを、PE製中蓋付き透明ガラス瓶に入れて、気温20℃湿度50%の空間で1週間静置した。その後、コーティング剤を5Cのろ紙にてろ過し、ろ紙の上の沈殿物を得た。得られた沈殿物の重量を測定し、当該沈殿物の重量、及びコーティング剤に含まれていたシラン組成物の重量から、下記数式(II)にて沈殿物の重量比(%)を評価した。沈殿物の重量比が少ないほど、シラン組成物及びコーティング剤は保存安定性に優れると評価される。
【0061】
【数2】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
オルガノアシロキシシラン組成物1~9を含むコーティング剤を用いてコーティング膜を形成した実施例1~9の評価用サンプルは、水に対する接触角が、ブランクの評価用サンプルに比べて大きく、疎水性付与効果が良好であり、すなわち反応性に優れていることが示された。これは、(A)オルガノアシロキシシラン化合物に、特定量の(B)脂肪族カルボン酸が混合されたことによって、コーティング剤に含まれるオルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性が優れていたため、オルガノアシロキシシラン化合物の自己重合及び分解が抑制されて、オルガノアシロキシシラン化合物がもつ高い反応性をガラス基板に対して十分発揮することができたためと推定される。
また、実施例1~9のコーティング剤は、(A)オルガノアシロキシシラン化合物に、特定量の(B)脂肪族カルボン酸が混合されたことによって、オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性が優れていたため(B)脂肪族カルボン酸を添加していない比較例4のコーティング剤に比べて、保存安定性に優れていた。中でも、(C)アシロキシシロキサン化合物を含むオルガノアシロキシシラン組成物3を用いた実施例3では、保存安定性が特に優れていた。これは、(C)アシロキシシロキサン化合物によって、(A)オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性がより一層向上したためと推定される。
また、実施例1~9のコーティング膜にクラックはほとんどなく、オルガノアシロキシシラン組成物1~9を含むコーティング剤の成膜性が良好であることが示された。これは、オルガノアシロキシシラン組成物の動粘度が高いことにより、コーティング剤が適度な粘度を有し、スピンコートした際に良好な塗膜を形成したためと推定される。
【0065】
それに対して、本発明のオルガノアシロキシシラン組成物の代わりにトリメトキシメチルシランを含むコーティング剤を用いてコーティング膜を形成した比較例1の評価用サンプルは、水に対する接触角が若干増大したものの、実施例1~9に比べて小さく、疎水性付与効果は劣っていた。これは、トリメトキシメチルシランの反応性が低いため、ガラスに対する疎水性付与効果が抑制されたためと考えられる。
また、比較例1のコーティング剤は保存安定性に劣っていた。これは、トリメトキシメチルシランの酸に対する安定性が低く、コーティング剤に含まれる塩酸によって自己重合反応が促進されたためと推定される。
また、比較例1のコーティング膜にはクラックが多く、比較例1のコーティング剤は、成膜性も劣っていた。これは、トリメトキシメチルシランの動粘度が低いことにより、コーティング剤が適度な粘度にならず、スピンコートした際の膜形成が不良であったためと推定される。
【0066】
(B)脂肪族カルボン酸の含有量を35質量%超過としたオルガノアシロキシシラン組成物10、11を含むコーティング剤を用いた比較例2、3の評価用サンプル、(A)オルガノアシロキシシラン化合物単体を含むコーティング剤を用いた比較例4の評価用サンプル、(A)オルガノアシロキシシラン化合物に酢酸を混合したオルガノアシロキシシラン組成物13を含むコーティング剤を用いた比較例5の評価用サンプルは、いずれも、ブランクの評価用サンプルに比べて、水に対する接触角が若干増大したものの、実施例1~9に比べて接触角は小さく、疎水性付与効果が劣っており、すなわち反応性に劣っていた。比較例2、3で反応性が劣っていたのは、オルガノアシロキシシラン組成物8、9に含まれるオルガノアシロキシシラン化合物の含有割合が少なかったことにより、ガラス基板の表面と反応したオルガノアシロキシシラン化合物の量が不十分となったためと推定される。比較例4で反応性が劣っていたのは、成分として(B)脂肪族カルボン酸を含んでいないため、オルガノアシロキシシラン化合物の酸及び水に対する安定性が不十分となり、オルガノアシロキシシラン化合物が自己重合したことにより、ガラス基板の表面と反応したオルガノアシロキシシラン化合物の量が不十分となったためと推定される。比較例5で反応性が劣っていたのは、脂肪族カルボン酸の鎖長が短かったことにより、オルガノアシロキシシラン化合物の安定性向上に寄与せず、オルガノアシロキシシラン化合物が自己重合したことにより、ガラス基板の表面と反応したオルガノアシロキシシラン化合物の量が不十分となったためと推定される。
また、比較例4~5のコーティング剤は、脂肪族カルボン酸を含んでいない、或いは脂肪族カルボン酸の鎖長が短かったことにより、脂肪族カルボン酸によるオルガノアシロキシシラン化合物の安定性向上効果が得られず、保存安定性に劣っていた。
また、比較例2~4のコーティング膜にはクラックが多く、比較例2~4のコーティング剤は、成膜性も劣っていた。比較例2、3で成膜性が劣っていたのは、2-エチルヘキサン酸の含有量が増えたことにより、シラン組成物の動粘度が低下したためと推定される。比較例4で成膜性が劣っていたのは、オルガノアシロキシシラン化合物の水及び酸への安定性が低下し、一部のオルガノアシロキシシラン化合物が重合物を形成したことにより、塗膜が均一にならなかったためと推定される。