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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131459
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】塗工方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20240920BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B05D7/00 A
B05D7/00 K
B05D7/24 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041728
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 千丈
(72)【発明者】
【氏名】厨子 卓哉
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA63
4D075AA76
4D075AC02
4D075AC80
4D075AC82
4D075AC88
4D075BB05Z
4D075BB24Z
4D075BB33Z
4D075BB57Z
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA03
4D075DA04
4D075DC16
4D075DC19
4D075EA05
4D075EA10
4D075EA33
4D075EC10
4D075EC30
(57)【要約】
【課題】粘着剤層の電解質膜に対する粘着力を適度に抑えつつも、触媒インクの塗工に伴って電解質膜が膨潤変形することを低減できる技術を提供する。
【解決手段】塗工方法は、電解質膜11と、電解質膜11を支持するための支持フィルム12とを含む積層基材1を準備する準備ステップS1と、積層基材1における電解質膜11の表面に触媒インクを塗工する塗工ステップS2とを含む。支持フィルム12は、ベースフィルム121と、ベースフィルム121の一方の面を覆う粘着剤層122とを有する。粘着剤層122の厚さは、50μm以上である。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工方法であって、
電解質膜と、前記電解質膜を支持するための支持フィルムとを含む積層基材を準備する工程と、
前記積層基材における前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する工程と、
を含み、
前記支持フィルムは、
ベースフィルムと、
前記ベースフィルムの一方の面を覆う粘着剤層と、
を有し、
前記電解質膜に貼合される前の前記粘着剤層の厚さは、50μm以上である、塗工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工方法であって、
前記粘着剤層は、シリコーン系粘着剤を含む、塗工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塗工方法であって、
JISZ0237の試験方法により測定した場合の、前記電解質膜に対する前記粘着剤層の粘着力は、0.1N/15mm以上1N/15mm以下である、塗工方法。
【請求項4】
請求項1に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜は、補強層を有し、
前記電解質膜は、前記補強層に起因する凹凸を有する、塗工方法。
【請求項5】
請求項4に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の前記凹凸は、規則性を有する、塗工方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の表面粗さを示す最大高さは、10μm以上である、塗工方法。
【請求項7】
請求項6に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の厚さは、50μm以上である、塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池又は水素製造用の膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-Coated Membrane)の製造においては、水およびアルコールを溶媒とした触媒インクが電解質膜に塗工される場合がある。このとき、電解質膜はインクの溶媒を吸収して膨潤変形する。電解質膜の厚さが大きくなると、変形力が強くなり、変形によるシワ等の発生を抑えつつ塗工や乾燥を行うのが困難である。電解質膜の変形を回避するため、粘着剤層付きの支持フィルムが貼合された電解質膜に、触媒インクの塗工が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-001123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電解質膜を支持フィルムの粘着剤層に貼合した際、電解質膜と粘着剤層との界面に気泡が発生する場合がある。特に、電解質膜の表面が凹凸を有する場合、界面に気泡が発生しやすくなる。このような気泡は、膨潤変形の起点となり得るため、望ましくない。一般的に、支持フィルムの粘着剤層の粘着力を強くすることにより、電解質膜の膨潤変形を抑えることができる。しかしながら、粘着力が大きくなると、電解質膜を支持フィルムから剥離したときに電解質膜に粘着剤が残る、いわゆる糊残りが発生しやすくなる。このため、粘着力を抑えつつも、膨潤変形の発生を低減する技術が求められていた。
【0005】
本発明の目的は、電解質膜に対する粘着剤層の粘着力を抑えつつも、触媒インクの塗工に伴って電解質膜が膨潤変形することを有効に低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1態様は、塗工方法であって、電解質膜と、前記電解質膜を支持するための支持フィルムとを含む積層基材を準備する工程と、前記積層基材における前記電解質膜の表面に触媒インクを塗工する工程と、を含み、前記支持フィルムは、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの一方の面を覆う粘着剤層と、を有し、前記電解質膜に貼合される前の前記粘着剤層の厚さは、50μm以上である。
【0007】
第2態様は、第1態様の塗工方法であって、前記粘着剤層は、シリコーン系粘着剤を含む。
【0008】
第3態様は、第1態様または第2態様の塗工方法であって、JISZ0237の試験方法により測定した場合の、前記電解質膜に対する前記粘着剤層の粘着力は、0.1N/15mm以上1N/15mm以下である。
【0009】
第4態様は、第1態様の塗工方法であって、前記電解質膜は、補強層を有し、前記電解質膜は、前記補強層に起因する凹凸を有する。
【0010】
第5態様は、第4態様の塗工方法であって、前記電解質膜の前記凹凸は、規則性を有する。
【0011】
第6態様は、第4態様または第5態様の塗工方法であって、前記電解質膜の表面粗さを示す最大高さは、10μm以上である。
【0012】
第7態様は、第6態様の塗工方法であって、前記電解質膜の厚さは、50μm以上である。
【発明の効果】
【0013】
第1態様から第8態様の塗工方法によれば、粘着剤層の厚さを充分厚くすることによって、電解質膜が有する凹凸を粘着剤層により埋めることができる。したがって、電解質膜と粘着剤層との界面に新たに空気が入り込むルートを低減できる。すなわち、電解質膜が粘着剤層から剥がれる起点を低減できる。したがって、粘着剤層の電解質膜に対する粘着力を適度に抑えつつ、触媒インクの塗工後における電解質膜の膨潤変形を有効に低減できる。
【0014】
第2態様の塗工方法によれば、アクリル系粘着剤またはウレタン系粘着剤を用いた場合よりも、電解質膜から支持フィルムを剥離したときに電解質膜における糊残りの発生を低減できる。
【0015】
第3態様の塗工方法によれば、電解質膜の膨潤変形を低減しつつ、電解質膜から支持フィルムを剥離した際に、電解質膜に粘着剤が付着することを低減できる。
【0016】
第4態様の塗工方法によれば、電解質膜の補強層による凹凸を粘着剤層により埋めることができる。
【0017】
第5態様の塗工方法によれば、電解質膜が規則性を有する凹凸を有している場合であっても、当該凹凸を粘着剤層により埋めることができる。
【0018】
第6態様の塗工方法によれば、電解質膜が、表面粗さを示す最大高さが10μm以上の凹凸を有する場合であっても、当該凹凸を粘着剤層により埋めることができる。
【0019】
第7態様の塗工方法によれば、電解質膜が50μm以上の厚さを有する場合であっても、電解質膜が膨潤変形することを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る積層基材を示す上面図である。
図2】積層基材の断面を示す図である。
図3】塗工処理の流れを示す図である。
図4】塗工処理の様子を概略的に示す図である。
図5】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0022】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態に係る積層基材1を示す上面図である。図2は、積層基材1の断面を示す図である。積層基材1は、膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)の製造工程に用いられる基材である。積層基材1は、固体高分子形燃料電池用のCCMの製造、あるいは、固体高分子形水電解用のCCMの製造に用いることができる。また、積層基材1は、例えば、トルエンなどの芳香族化合物を水素化することにより、有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を製造するLОHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)プロセスに使用されるCCMの製造に用いることができる。
【0023】
図1および図2に示されるように、積層基材1は、電解質膜11と支持フィルム12とを有する。電解質膜11は、イオン伝導性を有する薄膜(イオン交換膜)である。電解質膜11は、水素イオン(H)を伝導するプロトン交換膜である。電解質膜11の材料には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質樹脂が用いられる。具体的には、電解質膜11の材料には、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質樹脂が用いられる。(山本:他の件でもプロトン交換膜について記載していますので、同様に修正します。今後の案件でも留意願います。)
【0024】
図2に示されるように、電解質膜11は、触媒インクが塗工される第1面111と、第1面111の裏面である第2面112と、を有する。
【0025】
電解質膜11は、図1の拡大図に示されるように、補強繊維13を含む補強層を有する。補強繊維13は、電解質膜11を構成する電解質樹脂よりも機械的強度が高い。補強繊維13は、網目状または多孔質状の繊維である。補強繊維13には、例えば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)繊維が用いられる。電解質膜11は、補強繊維13に電解質樹脂を含浸させることにより形成される。このため、電解質膜11の表面は、補強繊維13の形状に沿った凹凸を有する。すなわち、電解質膜11は、補強層に起因する凹凸を有する。また、電解質膜11の表面は、所定ピッチで繰り返す規則性を有する凹凸を有する。電解質膜11の表面粗さを示す最大高さ(ISO 25178により規定される最大高さSz)は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0026】
電解質膜11は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜11は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。また、電解質膜11は、触媒インクが塗工されたときに、触媒インク中の溶媒を吸収することによって、膨潤変形する。このような膨潤変形は、電解質膜11の厚さが大きくなるほど、発生しやすくなる。本例の電解質膜11の最大の厚さt1は、例えば、50μm以上である。詳細には、図2に示されるように、補強繊維13が位置する部分の厚さが、50μm以上である。このような厚さを有する電解質膜11では、上述の膨潤変形が起こりやすい。
【0027】
支持フィルム12は、電解質膜11の変形を低減するための支持体である。支持フィルム12は電解質膜11に、貼合される。これにより、電解質膜11が、支持フィルム12に支持される。電解質膜11を、単体で取り扱うのではなく、支持フィルム12に支持された状態で取り扱うことにより、電解質膜11が膨潤変形することを低減できる。また、支持フィルム12を用いることによって、機械的強度が低い電解質膜11を、安定して搬送できる。
【0028】
図2に示されるように、支持フィルム12は、ベースフィルム121と、粘着剤層122とを有する。ベースフィルム121は、電解質膜11よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂製のフィルムである。ベースフィルム121の材料には、PET(ポリエチレンテレフタレート)が用いられる。ただし、ベースフィルム121の材料として、PETに代えて、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)、延伸ナイロン、延伸硬質ポリ塩化ビニル、OPP(オリエンテッドポリプロピレン)が用いられてもよい。ベースフィルム121の厚みは、例えば、50μm以上300μm以下である。
【0029】
粘着剤層122は、ベースフィルム121の一方の表面を覆う粘着剤の層である。電解質膜11は、支持フィルム12の粘着剤層122に貼付される。より具体的には、電解質膜11の第2面112が、粘着剤層122に貼付される。粘着剤層122には、熱可塑性の粘着剤が用いられる。粘着剤層122には、シリコーン系、エポキシ系またはアクリル系の無機溶剤系粘着剤が用いられる。ただし、後述するように、電解質膜11から支持フィルム12を剥離したときに電解質膜11に粘着剤が残る、いわゆる糊残りの発生を低減する観点から、粘着剤層122には、好ましくは、シリコーン系の粘着剤が用いられる。
【0030】
<塗工処理>
続いて、積層基材1の電解質膜11に、触媒インクを塗工する塗工処理について説明する。図3は、塗工処理の流れを示す図である。図4は、塗工処理の様子を概略的に示す図である。塗工処理が開始されると、まず、積層基材1が準備される(図3:準備ステップS1)。具体的には、図4に示されるように、支持フィルム12の粘着剤層122に対して、電解質膜11が貼合されることにより、積層基材1が準備される。
【0031】
支持フィルム12に対して電解質膜11が貼合される前の粘着剤層122の厚さは、膨潤変形の発生を低減する観点から、好ましくは、50μm以上である。なお、粘着剤層122の全領域において、厚さを50μm以上とすることが好ましいが、一部の領域(例えば、電解質膜11が貼合される領域)のみ、粘着剤層122の厚さを50μm以上としてもよい。また、支持フィルム12に対して電解質膜11が貼り付けられた直後における、粘着剤層122の粘着力(初期粘着力)は、JISZ0237の試験方法により測定した場合、糊残りの発生を低減する観点から、好ましくは、0.1N/15mm以上、且つ1N/15mm以下である。
【0032】
準備ステップS1の後、積層基材1の電解質膜11に対して、触媒インクが塗工される(図3:塗工ステップS2)。触媒インクの塗工は、例えば、図4に示されるように、吸着ステージ20に吸着保持された積層基材1に対して、ノズル30を相対的に移動させつつ、ノズル30から触媒インクを吐出することによって行われる。ノズル30は、触媒インクを吐出する吐出口を有する。ノズル30は、例えばスプレーノズルである。触媒インクは、触媒材料(例えば、白金(Pt))を含む粒子を、水およびアルコールなどを含む溶媒中に分散させたスラリー(電極ペースト)である。
【0033】
塗工ステップS2の後、積層基材1に塗工された触媒インクが乾燥される(図3:乾燥ステップS3)。触媒インクの乾燥は、例えば、図4に示されるように、積層基材1に塗工された触媒インクに、乾燥器32から加熱された気体を吹き付ける。そうすると、積層基材1に塗工された触媒インクが加熱され、触媒インク中の溶媒が気化する。これにより、触媒インクが乾燥されて、電解質膜11の第1面111に触媒層が形成される。なお、触媒インクの乾燥には、光照射や減圧などの他の方法が適用されてもよい。
【0034】
また、図4に示されるように、必要に応じて、加熱ローラ34で積層基材1を押圧してもよい。加熱ローラ34の押圧により、触媒インクの乾燥が促進される。
【0035】
<実験例>
続いて、上記実施形態の効果を実証するための実験例について、説明する。図5は、実験結果を示す図である。この実験では、図3および図4に示される塗工処理を行ったときの、積層基材1についての、「気泡量」、「膨潤発生」および「糊残り」をそれぞれ評価した。「気泡量」は、準備ステップS1において、支持フィルム12に対して電解質膜11を貼合したときの、電解質膜11と粘着剤層122との界面における気泡量を評価したものである。また「膨潤発生」は、塗工ステップS2の後における膨潤変形の発生を評価したものである。「糊残り」は、乾燥ステップS3後に電解質膜11から支持フィルム12を剥離したときの電解質膜11における糊残りの発生を評価したものである。
【0036】
なお、塗工ステップS2では、塗工直後の膜厚(WET膜厚)が300μmとなるように、電解質膜11に触媒インクを塗工した。また、乾燥ステップS3では、積層基材1の温度が125℃まで温まる条件で、積層基材1に対して3分間温風を当てた。また、実験に用いた電解質膜11は、表面に規則的な凹凸を有しており、表面粗さを示す最大高さ(ISO 25178により規定される最大高さSz)は、10μm以上20μm以下であった。
【0037】
図5に示されるように、比較例1~5で用いた、支持フィルム12における粘着剤層122の、電解質膜11に対する初期粘着力は、順に、1N/15mm、0.05N/15mm、0.1N/15mm、4N/15mm、0.1N/15mmであった。また、比較例1~5で用いた支持フィルム12の粘着剤層122の厚さは、順に、20μm、50μm、20μm、50μm、50μmであった。さらに、比較例1~4で用いた粘着剤層122の粘着剤は、いずれもシリコーン系であり、比較例5で用いた粘着剤層122の粘着剤は、アクリル系であった。
【0038】
また、図5に示されるように、実施例1,2で用いた、支持フィルム12における粘着剤層122の、電解質膜11に対する初期粘着力は、順に、1N/15mm、0.1N/15mmであった。また、実施例1,2で用いた支持フィルム12の粘着剤層122の厚さは、いずれも50μmであった。さらに、実施例1,2で用いた粘着剤層122の粘着剤は、いずれもシリコーン系であった。
【0039】
比較例1,3では、粘着剤層122の厚さが20μmと比較的小さいため、貼合直後に電解質膜11と粘着剤層122との界面において、大量の気泡が発生した。また、触媒インクを塗工した際に、電解質膜11の膨潤変形が発生した。
【0040】
比較例2では、粘着剤層122の電解質膜11に対する初期粘着力が0.05N/15mmと比較的弱いため、電解質膜11の膨潤変形が発生した。
【0041】
比較例4では、粘着剤層122の電解質膜11に対する初期粘着力が4N/15mmと比較的大きい場合、糊残りが発生した。
【0042】
比較例5では、粘着剤層122がアクリル系粘着剤であるため、粘着剤層122の初期粘着力を0.1N/15mmと小さくしても、糊残りが発生した。
【0043】
一方、実施例1,2では、粘着剤層122の厚さが50μmと比較的大きいため、気泡がほぼ発生しない状態で支持フィルム12に対して電解質膜11を貼合できた。また、粘着剤層122の電解質膜11に対する初期粘着力を、0.1N/15mmまたは1N/mmと比較的小さいため、糊残りは発生しなかった。さらに、初期粘着力を、0.1N/15mmまたは1N/mmと比較的小さくしても、電解質膜11の膨潤変形は発生しなかった。すなわち、実施例1,2では、粘着力を適度に抑えつつも、触媒インクの塗工による電解質膜11の膨潤変形が発生することを有効に低減できた。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る塗工処理は、電解質膜11と、電解質膜11を支持するための支持フィルム12とを含む積層基材1を準備する準備ステップS1と、積層基材1における電解質膜11の表面に触媒インクを塗工する塗工ステップS2とを含む。ここにおいて、支持フィルム12は、ベースフィルム121と、ベースフィルム121の一方の面を覆う粘着剤層122とを有する。粘着剤層122の厚さは、50μm以上である。この構成によれば、粘着剤層122の厚さを充分厚くすることによって、電解質膜11が有する凹凸を粘着剤層122により埋めることができる。そうすると、電解質膜11と粘着剤層122との界面に新たに空気が入り込むルートを低減できる。すなわち、電解質膜11が粘着剤層122から剥がれる起点を低減できる。したがって、粘着剤層122の電解質膜11に対する粘着力を適度に抑えつつも、触媒インクの塗工後における電解質膜11の膨潤変形を有効に低減できる。
【0045】
また、粘着剤層122は、シリコーン系粘着剤を含む。この構成によれば、アクリル系粘着剤またはウレタン系粘着剤を用いたとき場合よりも、電解質膜11から支持フィルム12を剥離したときの電解質膜11における糊残りの発生を低減できる。
【0046】
また、JISZ0237の試験方法により測定した場合の、電解質膜11に対する粘着剤層122の粘着力は、0.1N/15mm以上1N/15mm以下である。この構成によれば、粘着剤層122の電解質膜11に対する粘着力を比較的小さくすることで、電解質膜11から支持フィルム12を剥離した際に、電解質膜11に粘着剤が付着することを低減できる。
【0047】
また、電解質膜11は、補強層を有し、電解質膜11は、補強層に起因する凹凸を有する。この構成によれば、電解質膜11の補強層による凹凸を、粘着剤層122により埋めることができる。
【0048】
また、電解質膜11の凹凸は、規則性を有する。この構成によれば、電解質膜11が規則性を有する凹凸を有している場合であっても、当該凹凸を粘着剤層122により埋めることができる。
【0049】
また、電解質膜11の表面粗さを示す最大高さは、10μm以上である。この構成によれば、電解質膜11が、表面粗さを示す最大高さが10μm以上の凹凸を有する場合であっても、当該凹凸を粘着剤層122により埋めることができる。
【0050】
また、電解質膜11の厚さは、50μm以上である。この構成によれば、電解質膜11が50μm以上の厚さを有していても、電解質膜11が膨潤変形することを低減できる。
【0051】
<2.変形例>
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば、上記実施形態では、ノズル30が、触媒インクをスプレー状に吐出するスプレーノズルであった。しかしながら、ノズル30は、スリット状の吐出口から触媒インクを吐出するスリットダイであってもよい。
【0053】
上記実施形態では、積層基材1は、単枚のシート状であったが、ウェブ状(長尺帯状)であってもよい。この場合、積層基材1をロールtoロール方式で長手方向に搬送しつつ、積層基材1の第1面111に触媒インクが塗工される。
【0054】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 積層基材
11 電解質膜
12 支持フィルム
13 補強繊維(補強層)
121 ベースフィルム
122 粘着剤層
図1
図2
図3
図4
図5