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特開2024-131490車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ
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  • 特開-車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131490
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240920BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240920BHJP
   F16L 11/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K5/13
F16L11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041770
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA03
3H111BA15
3H111BA34
3H111CB02
3H111CB14
3H111DA11
3H111DA26
3H111DB09
3H111EA04
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB211
4J002BP021
4J002EJ006
4J002EJ016
4J002EJ036
4J002EJ046
4J002FD010
4J002FD076
4J002GN00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】高温押出可能で耐熱性および内面平滑性に優れる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供する。
【解決手段】下記の(A)および(B)を含有する車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物とする。車両用冷却液輸送チューブは、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂
(B)融点100℃以上の老化防止剤
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)および(B)を含有する、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂
(B)融点100℃以上の老化防止剤
【請求項2】
前記(B)が、分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)の分子量が、500以上である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)の融点が、150℃以上である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)の含有量が、前記(A)100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)が、フェノール系老化防止剤である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)が、ヒンダードフェノール系老化防止剤である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)が、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項9】
前記(B)が、分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤であり、
前記(B)の分子量が、500以上であり、
前記(B)の融点が、150℃以上であり、
前記(B)の含有量が、前記(A)100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下であり、
前記(B)が、ヒンダードフェノール系老化防止剤であり、
前記(A)が、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる車両用冷却液輸送チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関し、さらに詳しくは、自動車等の冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして好適な車両用冷却液輸送チューブ用の樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車や電気自動車などの冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして、冷却液輸送チューブがある。冷却液輸送チューブには、耐熱性の観点から、ポリアミド樹脂がよく採用されている。近年、冷却液輸送チューブの材料として、コスト的に有利なポリプロピレン系樹脂が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-091730号公報
【特許文献2】特開2006-194318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却液輸送チューブは、長尺であり、配管においてコーナー部が多い。このため、流れ抵抗が大きい。チューブ内面の平滑性が低いと、局所的に応力がかかり、亀裂が生じる可能性がある。そして、チューブの押出温度が低いと、チューブ内面の平滑性が低下しやすい。一方、押出温度を高くすると、チューブの物性が低下しやすい。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高温押出可能で耐熱性および内面平滑性に優れる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)および(B)を含有する。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂
(B)融点100℃以上の老化防止剤
【0007】
前記(B)は、分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤であるとよい。前記(B)の分子量は、500以上であるとよい。前記(B)の融点は、150℃以上であるとよい。前記(B)の含有量は、前記(A)100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下であるとよい。前記(B)は、フェノール系老化防止剤であるとよい。前記(B)は、ヒンダードフェノール系老化防止剤であるとよい。前記(A)は、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体であるとよい。
【0008】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【0009】
(1)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)および(B)を含有する。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂
(B)融点100℃以上の老化防止剤
【0010】
(2)上記(1)において、前記(B)は、分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤であるとよい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記(B)の分子量は、500以上であるとよい。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1において、前記(B)の融点は、150℃以上であるとよい。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1において、前記(B)の含有量は、前記(A)100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下であるとよい。
【0014】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1において、前記(B)は、フェノール系老化防止剤であるとよい。
【0015】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1において、前記(B)は、ヒンダードフェノール系老化防止剤であるとよい。
【0016】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1において、前記(A)は、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体であるとよい。
【0017】
(9)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記(1)から(8)のいずれか1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、特定のメルトフローレートで高融点のポリプロピレン系樹脂に対し、高融点の老化防止剤を配合するものである。このため、高温押出可能であり、高温押出により樹脂組成物の流動性が向上し、チューブの内面平滑性に優れるものとすることができる。また、耐熱性に優れる。このため、押出温度を上げても物性低下が抑えられる。
【0019】
ここで、前記(B)が分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤であると、熱分解されにくく、より耐熱性に優れる。また、酸素原子量が少なくなり、極性が下がるため、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が上がってチューブの内面平滑性が向上する。
【0020】
そして、前記(B)の分子量が500以上であると、高分子であるポリプロピレン系樹脂との相溶性が上がってチューブの内面平滑性が向上する。
【0021】
そして、前記(B)の融点が150℃以上であると、より熱分解されにくく、より耐熱性に優れる。
【0022】
そして、前記(B)の含有量が、前記(A)100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下であると、(B)の配合による効果と物性のバランスに優れる。
【0023】
そして、前記(B)がフェノール系老化防止剤であると、より耐熱性に優れる。また、前記(B)がヒンダードフェノール系老化防止剤であると、特に耐熱性に優れる。
【0024】
そして、前記(A)がプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体であると、物性に優れる。
【0025】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。このため、高温押出可能で耐熱性および内面平滑性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用冷却液輸送チューブを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブについて詳細に説明する。
【0028】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物(以下、本樹脂組成物ということがある。)は、下記の(A)および(B)を含有する。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(以下、MFRということがある。)が0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂
(B)融点100℃以上の老化防止剤
【0029】
本樹脂組成物は、特定のメルトフローレートで高融点のポリプロピレン系樹脂に対し、高融点の老化防止剤を配合するものである。このため、高温押出可能であり、高温押出により樹脂組成物の流動性が向上し、チューブの内面平滑性に優れるものとすることができる。また、耐熱性に優れる。このため、押出温度を上げても物性低下が抑えられる。高温押出とは、260℃~280℃の温度範囲で押出を行うことをいう。
【0030】
(A)のポリプロピレン系樹脂は、特定のMFRを示すものである。(A)のポリプロピレン系樹脂のMFRが2.0g/10分超であると、高温物性を確保できない。また、耐熱性に劣る。また、高温押出ができない。(A)のポリプロピレン系樹脂のMFRが0.2g/10分未満であると、押出時の流動性が確保できない。(A)のポリプロピレン系樹脂のMFRが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であることで、高温物性、耐熱性、流動性を確保でき、高温押出可能とすることができる。(A)のポリプロピレン系樹脂のMFRは、より好ましくは0.3g/10分以上1.8g/10分以下、さらに好ましくは0.4g/10分以上1.6g/10分以下、特に好ましくは0.5g/10分以上1.5g/10分以下である。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。
【0031】
(A)のポリプロピレン系樹脂は、特定の融点を示すものである。(A)のポリプロピレン系樹脂の融点が145℃未満であると、高温物性を確保できない。また、耐熱性に劣る。(A)のポリプロピレン系樹脂の融点が145℃以上であることで、高温物性、耐熱性を確保でき、高温押出可能とすることができる。(A)のポリプロピレン系樹脂の融点は、より好ましくは148℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは155℃以上である。(A)のポリプロピレン系樹脂の融点の上限値は、特に限定されるものではないが、粘度が高すぎない、押出時の流動性を確保できるなどの観点から、175℃以下が好ましい。融点は、例えば、JIS K7121-2012に準拠する方法により測定することができる。
【0032】
(A)のポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、これらの酸変性物などが挙げられる。(A)のポリプロピレン系樹脂は、これらの1種単独で構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。(A)のポリプロピレン系樹脂がこれらの2種以上で構成されている場合には、各成分がそれぞれ上記MFR、融点の範囲内であってもよいし、全体として上記MFR、融点の範囲内となるものであってもよい。これらのうちでは、物性に優れるなどの観点から、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体が特に好ましい。
【0033】
プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単量体が連続してなるブロックと、α-オレフィン単量体が連続してなるブロックとを少なくとも有するブロック共重合体である。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、上記に限られず、プロピレンの単独重合体等のポリプロピレン成分を海相とし、ポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分を島相とする海島構造を有するアロイ(混合物)であってもよい。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、このようなアロイを包含する概念である。
【0034】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。なかでも、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0035】
ポリエチレン成分としては、エチレン単独重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等のエチレン系共重合体が挙げられる。エチレン系ゴム成分としては、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)等が挙げられる。アロイ(混合物)全体に対するポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分の含有割合は、1~49質量%が好ましく、2.5~20質量%がより好ましい。
【0036】
酸変性物における酸またはその誘導体としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。
【0037】
(B)の老化防止剤は、特定の融点を示すものである。(B)の老化防止剤の融点が100℃未満であると、耐熱性が低下する。(B)の老化防止剤の融点が100℃であることで、耐熱性を確保でき、高温押出可能とすることができる。(B)の老化防止剤の融点は、耐熱性の向上、高温押出によるチューブの内面平滑性の向上効果などの観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上、特に好ましくは230℃以上である。一方、(A)のポリプロピレン系樹脂との相溶性、(A)のポリプロピレン系樹脂の耐熱性などの観点から、(B)の老化防止剤の融点は、280℃以下が好ましい。より好ましくは270℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。融点は、例えば、JIS K7121-2012に準拠する方法により測定することができる。
【0038】
(B)の老化防止剤は、(A)のポリプロピレン系樹脂との相溶性が向上し、チューブの内面平滑性が向上するなどの観点から、分子量は大きいほうがよい。(B)の老化防止剤の分子量は、500以上が好ましい。より好ましくは600以上、さらに好ましくは700以上である。(B)の老化防止剤の分子量の上限は、特に限定されるものではないが、融点上昇による、(A)のポリプロピレン系樹脂との相溶性、(A)のポリプロピレン系樹脂の耐熱性などの観点から、1300以下が好ましい。より好ましくは1200以下、さらに好ましくは1000以下である。
【0039】
(B)の老化防止剤の含有量は、(A)のポリプロピレン系樹脂の物性確保などの観点から、(A)のポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、1.0質量部以下が好ましい。より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。また、(B)の老化防止剤の配合効果に優れるなどの観点から、(B)の老化防止剤の含有量は、(A)のポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましい。より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上である。(B)の老化防止剤の含有量が、(A)のポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上1.0質量部以下であると、(B)の老化防止剤の配合による効果と物性のバランスに優れる。
【0040】
(B)の老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、リン酸系老化防止剤などを挙げることができる。(B)の老化防止剤は、これらの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。これらのうちでは、より耐熱性に優れるなどの観点から、フェノール系老化防止剤が好ましい。また、フェノール系老化防止剤のなかでも、耐熱性の観点から、ヒンダードフェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0041】
ヒンダードフェノール系老化防止剤としては、2,4,6-トリス(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルベンジル)メシチレン(例えばBASF製「イルガノックス1330」、融点248-252℃、分子量775)、4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(例えばADEKA製「AO-30」、融点183-185℃、分子量545)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(例えばBASF製「イルガノックス3114」、融点220-222℃、分子量784)、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド](例えばBASF製「イルガノックス1098」、融点156~161℃、分子量637)、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](例えばBASF製「イルガノックス1010」、融点110~125℃、分子量1178)、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](例えばBASF製「イルガノックス259」、融点104~108℃、分子量639)などが挙げられる。
【0042】
(B)の老化防止剤は、分子骨格中にエステル結合を有していないものが好ましい。分子骨格中にエステル結合を有していない老化防止剤であると、熱分解されにくく、より耐熱性に優れる。また、酸素原子量が少なくなり、極性が下がるため、(A)のポリプロピレン系樹脂との相溶性が上がってチューブの内面平滑性が向上する。
【0043】
分子骨格中にエステル結合を有していないヒンダードフェノール系老化防止剤としては、2,4,6-トリス(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルベンジル)メシチレン(例えばBASF製「イルガノックス1330」、融点248-252℃、分子量775)、4,4’,4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(例えばADEKA製「AO-30」、融点183-185℃、分子量545)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(例えばBASF製「イルガノックス3114」、融点220-222℃、分子量784)などが挙げられる。
【0044】
本樹脂組成物は、(A)のポリプロピレン系樹脂を主成分とする。主成分とは、本樹脂組成物100質量%に対し、50質量%以上を意味する。好ましくは55質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは65~80質量%である。
【0045】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。他の樹脂成分としては、(A)に含まれないポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。他のポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、これらの酸変性物などが挙げられる。これらは、他の樹脂成分として1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、他の樹脂成分として、(A)と(A)に含まれない非変性のポリプロピレン系樹脂とともに、これらを相溶化させる変性樹脂が含まれていてもよい。このような変性樹脂としては、酸変性あるいはカルボキシ変性されたポリプロピレン系樹脂を挙げることができる。変性樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは0.5~5質量部である。
【0047】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)(B)に加え、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、充填剤、耐候安定剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤、補強剤などが挙げられる。
【0048】
充填剤としては、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、アパタイト、雲母等の無機フィラーが挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、押出加工性、補強性等の観点から、タルクが好ましい。
【0049】
充填剤の含有量は、特に限定されないが、強度の観点から、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、1~100質量部であり、好ましくは10~70質量部である。
【0050】
以上の構成の本樹脂組成物によれば、特定のメルトフローレートで高融点のポリプロピレン系樹脂に対し、高融点の老化防止剤を配合するものであるから、高温押出可能であり、高温押出により樹脂組成物の流動性が向上し、チューブの内面平滑性に優れるものとすることができる。また、耐熱性に優れる。このため、押出温度を上げても物性低下が抑えられる。
【0051】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ(以下、本樹脂チューブということがある。)は、本樹脂組成物から得ることができる。本樹脂チューブは、例えば、図1に示すような単層構造の樹脂チューブ10として好適に実施される。また、必要に応じ、他の樹脂層や補強糸層を更に積層して多層構造の樹脂チューブとしてもよい。
【0052】
本樹脂チューブは、その用途上の観点から、内径が2.5~30mm、特には4~25mmの範囲であり、厚みが0.5~5.0mm、特には0.75~4.0mmの範囲であるものが好ましい。
【0053】
本樹脂チューブは、例えば、自動車内における冷却液の配管に用いられるものであり、具体的には、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに好適に用いられる。
【0054】
本樹脂チューブは、本樹脂組成物をチューブ状に溶融押出成形することにより製造することができる。本樹脂組成物は、(A)(B)および必要に応じて配合される成分を配合し、混練することにより、得ることができる。
【0055】
本樹脂組成物の混練工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。混練温度としては、190℃~230℃が好ましい。混練時間としては、0.01~10分が好ましい。
【0056】
本樹脂組成物の押出工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。押出温度としては、高温押出によるチューブの内面平滑性の向上の観点から、260℃~280℃が好ましい。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【実施例0058】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0059】
(実施例1-4、比較例1-3)
表に示す配合割合(質量部)にて各成分を配合し、二軸混練押出機(東芝機械製「TEM-18SS」)により200℃で5分間混練して混練物を得た。つぎに、上記混練物をペレット化し、そのペレットを、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機(プラスチック工学研究所製「GT-40」)により、270℃でチューブ状に溶融押出成形することにより、内径18mm,外径20mmの樹脂チューブを得た。
【0060】
用いた材料は、以下の通りである。
(A)ポリプロピレン系樹脂
・ポリプロピレン系樹脂<1>:プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、プライムポリマー製「E-702MG」、MFR1.4g/10分、融点162℃
・ポリプロピレン系樹脂<2>:プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、プライムポリマー製「E-701G」、MFR0.5g/10分、融点163℃
(A’)ポリプロピレン系樹脂
・ポリプロピレン系樹脂<3>:プロピレン単独重合体、プライムポリマー製「J106MG」、MFR16g/10分、融点160℃
(B)老化防止剤
・老化防止剤<1>:フェノール系老化防止剤、BASF製「IRGANOX1330」、融点248-252℃、分子量775、エステル結合数0
・老化防止剤<2>:フェノール系老化防止剤、ADEKA製「AO-30」、融点183-185℃、分子量545、エステル結合数0
・老化防止剤<3>:フェノール系老化防止剤、BASF製「IRGANOX3144」、融点220-222℃、分子量784、エステル結合数0
(B’)老化防止剤
・老化防止剤<4>:フェノール系老化防止剤、BASF製「IRGANOX1035」、融点63-78℃、分子量643、エステル結合数2
・老化防止剤<5>:BASF製「IRGANOX1076」、フェノール系老化防止剤、融点50-55℃、分子量531、エステル結合数1
【0061】
得られた各樹脂チューブに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0062】
<断面発泡>
得られた樹脂チューブを半割し、目視で空隙がみられないものを「〇」、空隙が見られたものを「×」とした。
【0063】
<平滑性(高温押出)>
得られた樹脂チューブを半割し、ノギスで中心部、左右断面近傍を合計3カ所計測し、狙い厚み(1.00mm)に対して、3ヶ所のうちいずれかが0.03mm以上外れたものを「×」、3ヶ所のいずれも0.03mm未満のものを「〇」とした。
【0064】
<耐熱性>
樹脂チューブを160℃1時間熱処理後、半割し、幅10mm、長さ15cmの短冊状に打ち抜いた。得られた短冊状のサンプルに熱老化処理(130℃×500時間の熱処理、130℃×750時間の熱処理)を実施した後、破断時の伸び[Eb]を、JIS K 6251に準拠し、引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)により測定した。750時間後の破断時の伸びが200%以上のものを「◎」、500時間後の破断時の伸びが200%以上のものを「〇」、500時間後の破断時の伸びが200%未満のものを「×」とした。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例1~2は、融点100℃未満の老化防止剤を用いている。比較例1では、チューブ内面の平滑性は向上できていない。また、耐熱性が悪い。比較例2では、高温押出により、発泡現象が生じており、高温押出可能となっていない。比較例3は、MFRが2.0g/10分超のポリプロピレン系樹脂を用いている。比較例3では、耐熱性が悪い。
【0067】
これに対し、実施例では、高温押出でも発泡現象は生じていない。また、耐熱性に優れており、押出温度を上げても物性低下が抑えられている。このため、高温押出可能である。また、高温押出により樹脂組成物の流動性が向上し、チューブの内面平滑性に優れるものとなっている。以上より、(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上2.0g/10分以下であり、融点が145℃以上のポリプロピレン系樹脂および(B)融点100℃以上の老化防止剤を含有する樹脂組成物とすることで、高温押出可能で耐熱性および内面平滑性に優れることが確認できた。
【0068】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 樹脂チューブ
図1