(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131492
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブ
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240920BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240920BHJP
F16L 11/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K3/04
F16L11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041772
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA03
3H111BA15
3H111BA32
3H111BA34
3H111CB02
3H111CB14
3H111DA12
3H111DB09
3H111EA04
4J002BB122
4J002BB213
4J002BP021
4J002DA036
4J002FD010
4J002FD046
4J002FD070
4J002FD096
4J002GN00
4J002GT00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】物性および耐候性に優れる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供する。
【解決手段】下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が75質量%以上99質量%以下、前記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、前記(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物とする。車両用冷却液輸送チューブは、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体
(C)カーボンブラック
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が75質量%以上99質量%以下、前記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、前記(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体
(C)カーボンブラック
【請求項2】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが、10g/10分以上50g/10分以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が、エチレン-プロピレンブロック共重合体である、請求項1または請求項2に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が、5g/10分以上であり、
前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが、10g/10分以上50g/10分以下であり、
ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であり、
前記(A)が、エチレン-プロピレンブロック共重合体である、請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる車両用冷却液輸送チューブ。
【請求項8】
前記(B)は、前記車両用冷却液輸送チューブの径方向の内部よりも外部に多く存在している、請求項7に記載の車両用冷却液輸送チューブ。
【請求項9】
レーザー溶着用である、請求項7または請求項8に記載の車両用冷却液輸送チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関し、さらに詳しくは、自動車等の冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして好適な車両用冷却液輸送チューブ用の樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車や電気自動車などの冷却システムにおける冷却液を輸送するためのチューブとして、冷却液輸送チューブがある。冷却液輸送チューブには、耐熱性の観点から、ポリアミド樹脂がよく採用されている。近年、冷却液輸送チューブの材料として、コスト的に有利なポリプロピレン系樹脂が検討されている。また、ポリプロピレン系樹脂には、着色などを目的として、カーボンブラックが配合されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-091730号公報
【特許文献2】特開2006-194318号公報
【特許文献3】特開平1-225655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリプロピレン樹脂にカーボンブラックを多く配合すると、チューブの物性が低下する。特に、低温物性が低下しやすい。一方、カーボンブラックの配合量が少ないと、耐候性が低下する。ポリプロピレン系樹脂を用いた冷却液輸送チューブにおいて、物性と耐候性を両立することは困難であった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、物性および耐候性に優れる車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が75質量%以上99質量%以下、前記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、前記(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体
(C)カーボンブラック
【0007】
前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差は、5g/10分以上であるとよい。前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。ポリマー成分100質量%中、前記(A)は90質量%以上97質量%以下、前記(B)は3質量%以上10質量%以下であるとよい。前記(A)は、エチレン-プロピレンブロック共重合体であるとよい。
【0008】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【0009】
前記(B)は、前記車両用冷却液輸送チューブの径方向の内部よりも外部に多く存在しているとよい。また、レーザー溶着用であるとよい。
【0010】
(1)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が75質量%以上99質量%以下、前記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、前記(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体
(C)カーボンブラック
【0011】
(2)上記(1)において、前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差は、5g/10分以上であるとよい。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、10g/10分以上50g/10分以下であるとよい。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1において、ポリマー成分100質量%中、前記(A)は90質量%以上97質量%以下、前記(B)は3質量%以上10質量%以下であるとよい。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1において、前記(A)は、エチレン-プロピレンブロック共重合体であるとよい。
【0015】
(6)本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記(1)から(5)のいずれか1に記載の車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。
【0016】
(7)上記(6)において、前記(B)は、前記車両用冷却液輸送チューブの径方向の内部よりも外部に多く存在しているとよい。
【0017】
(8)上記(6)または(7)において、レーザー溶着用であるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物は、上記のように、高粘度のブロックポリプロピレンと低粘度のホモポリプロピレン、カーボンブラックを特定割合で配合することで、物性および耐候性に優れる。
【0019】
ここで、前記(A)と前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートの差が5g/10分以上であると、前記(B)および(C)がチューブ表面に現れやすく、耐候性が向上する。また、レーザー溶着性に優れる。
【0020】
そして、前記(B)の230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および耐候性を高度に両立する。また、レーザー溶着性に優れる。
【0021】
そして、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が90質量%以上97質量%以下、前記(B)が3質量%以上10質量%以下であると、物性および耐候性を高度に両立する。
【0022】
そして、前記(A)がエチレン-プロピレンブロック共重合体であると、チューブの物性とチューブ内面の平滑性を両立する効果に優れる。
【0023】
そして、本発明に係る車両用冷却液輸送チューブは、上記車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物からなる。このため、物性および耐候性に優れる。また、冷却液輸送チューブは、長尺であり、配管においてコーナー部が多い。このため、曲げ加工性に優れるとよい。
【0024】
そして、前記(B)が、前記車両用冷却液輸送チューブの径方向の内部よりも外部に多く存在していると、(C)がチューブ表面に現れやすく、耐候性が向上する。また、レーザー溶着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用冷却液輸送チューブを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物および車両用冷却液輸送チューブについて詳細に説明する。
【0027】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ用樹脂組成物(以下、本樹脂組成物ということがある。)は、下記の(A)~(C)を含有し、ポリマー成分100質量%中、前記(A)が75質量%以上99質量%以下、前記(B)が1質量%以上25質量%以下であり、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、前記(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である。
(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体(以下、ブロックポリプロピレンということがある。)
(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体(以下、ホモポリプロピレンということがある。)
(C)カーボンブラック
【0028】
(A)のブロックポリプロピレンは、特定のMFRを示すものである。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが1.5g/10分超であると、物性を確保できない。また、耐熱性が低下する。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが0.2g/10分未満であると、押出時の流動性が確保できない。(A)のブロックポリプロピレンのMFRが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であることで、物性、流動性を確保することができる。また、耐熱性に優れるものとすることができる。(A)のブロックポリプロピレンのMFRは、より好ましくは0.3g/10分以上1.5g/10分以下、さらに好ましくは0.5g/10分以上1.5g/10分以下、特に好ましくは1.0g/10分以上1.5g/10分以下である。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。
【0029】
(A)のブロックポリプロピレンは、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体である。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単量体が連続してなるブロックと、α-オレフィン単量体が連続してなるブロックとを少なくとも有するブロック共重合体である。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、上記に限られず、プロピレンの単独重合体等のポリプロピレン成分を海相とし、ポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分を島相とする海島構造を有するアロイ(混合物)であってもよい。プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体は、このようなアロイを包含する概念である。
【0030】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。なかでも、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンが好ましく、特にエチレンが好ましい。(A)のブロックポリプロピレンがエチレン-プロピレンブロック共重合体であると、チューブの物性とチューブ内面の平滑性を両立する効果に優れる。
【0031】
ポリエチレン成分としては、エチレン単独重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとα-オレフィンの共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体)等のエチレン系共重合体が挙げられる。エチレン系ゴム成分としては、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)等が挙げられる。アロイ(混合物)全体に対するポリエチレン成分および/またはエチレン系ゴム成分の含有割合は、1~49質量%が好ましく、2.5~20質量%がより好ましい。
【0032】
(B)のホモポリプロピレンは、特定のMFRを示すものである。(B)のホモポリプロピレンのMFRが70g/10分超であると、物性の低下が大きくなる。(B)のホモポリプロピレンのMFRが2g/10分未満であると、(B)のホモポリプロピレンがチューブ表面に現れる効果が低下しやすく、(C)のカーボンブラックが(B)のホモポリプロピレンとともにチューブ表面に現れる効果が低下するため、耐候性が低下する。(B)のホモポリプロピレンのMFRが2g/10分以上70g/10分以下であることで、チューブの物性と耐候性を確保することができる。(B)のホモポリプロピレンのMFRは、より好ましくは5g/10分以上50g/10分以下、さらに好ましくは10g/10分以上50g/10分以下である。(B)のホモポリプロピレンのMFRが10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および耐候性を高度に両立する。また、レーザー溶着性に優れる。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件にて測定されるものである。
【0033】
(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンは、MFRの差が大きいことが好ましい。(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差が大きいことで、(B)のホモポリプロピレンがチューブ表面に現れやすく、(C)のカーボンブラックが(B)のホモポリプロピレンとともにチューブ表面に現れる効果が向上するため、耐候性が向上する。また、レーザー溶着性が向上する。この観点から、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差は、好ましくは5g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは15g/10分以上である。一方、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンのMFRの差の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは45g/10分以下である。
【0034】
ポリマー成分100質量%中、(A)のブロックポリプロピレンは、75質量%以上99質量%以下、(B)のホモポリプロピレンは、1質量%以上25質量%以下である。(A)のブロックポリプロピレンが75質量%未満であると、物性を確保できない。(A)のブロックポリプロピレンが99質量%超であると、押出時の流動性が確保できない。また、(B)のホモポリプロピレンの量が少なすぎて、(C)のカーボンブラックがチューブ表面に現れる効果が低下するため、耐候性が低下する。また、レーザー溶着性が低下する。(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの割合が上記範囲内であると、物性および押出時の流動性を確保でき、また、耐候性、レーザー溶着性を確保できる。また、この観点から、(A)のブロックポリプロピレンは、ポリマー成分100質量%中、より好ましくは85質量%以上97質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上97質量%以下である。また、(B)のホモポリプロピレンは、ポリマー成分100質量%中、より好ましくは3質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。そして、ポリマー成分100質量%中、(A)のブロックポリプロピレンが90質量%以上97質量%以下、(B)のホモポリプロピレンが3質量%以上10質量%以下であると、物性および耐候性を高度に両立する。また、レーザー溶着性も向上する。
【0035】
(C)のカーボンブラックは、耐候性の向上を目的に配合する。また、レーザー溶着用には、レーザー溶着性を付与する目的で配合する。(C)のカーボンブラックの種類は、特に限定されるものではない。(C)のカーボンブラックの配合量は、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの合計100質量部に対し、0.1質量部以上2.5質量部以下である。(C)のカーボンブラックの配合量が0.1質量部未満であると、配合効果が少なく、耐候性、レーザー溶着性が低い。一方、(C)のカーボンブラックの配合量が2.5質量部超であると、物性、特に低温物性が低下する。そして、これらの観点から、(C)のカーボンブラックの配合量は、(A)のブロックポリプロピレンと(B)のホモポリプロピレンの合計100質量部に対し、好ましくは0.2質量部以上2.2質量部以下、より好ましくは0.3質量部以上2.0質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下である。
【0036】
本樹脂組成物は、上記のように、高粘度のブロックポリプロピレンと低粘度のホモポリプロピレン、カーボンブラックを特定割合で配合することで、ブロックポリプロピレンによる物性を確保するとともに、耐候性、レーザー溶着性を確保することができる。本樹脂組成物では、物性確保に(A)のブロックポリプロピレンを用いている。ベースポリマーが(A)のブロックポリプロピレンのみであると、(C)のカーボンブラックの配合量の調整が難しい。(C)のカーボンブラックが多いと、物性が低下する。(C)のカーボンブラックが少ないと、耐候性、レーザー溶着性が低下する。高粘度のブロックポリプロピレンに低粘度のホモポリプロピレンを少量加えることで、(C)のカーボンブラックが表面に偏在し、少ないカーボンブラック量でも耐候性、レーザー溶着性が確保できるため、物性低下が抑えられる。
【0037】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)(B)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。他の樹脂成分としては、これらを相溶化させる変性樹脂が含まれていてもよい。このような変性樹脂としては、酸変性あるいはカルボキシ変性されたポリプロピレンを挙げることができる。変性樹脂の含有量は、特に限定されないが、(A)のブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは0.5~5質量部である。
【0038】
酸変性物における酸またはその誘導体としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。
【0039】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(A)(B)(C)に加え、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、充填剤、耐候安定剤、滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、可塑剤、老化防止剤などが挙げられる。
【0040】
充填剤としては、タルク、シリカ、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、アパタイト、雲母等の無機フィラーが挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、押出加工性、補強性等の観点から、タルクが好ましい。
【0041】
充填剤の含有量は、特に限定されないが、強度の観点から、(A)のブロックポリプロピレン100質量部に対して、1~100質量部であり、好ましくは10~70質量部である。
【0042】
老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、リン酸系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。これらのうちでは、より耐熱性に優れるなどの観点から、フェノール系老化防止剤が好ましい。また、フェノール系老化防止剤のなかでも、耐熱性の観点から、ヒンダードフェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0043】
老化防止剤の含有量は、特に限定されないが、(A)のブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.05~1.0質量部であり、好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0044】
本発明に係る車両用冷却液輸送チューブ(以下、本樹脂チューブということがある。)は、本樹脂組成物から得ることができる。本樹脂チューブは、例えば、
図1に示すような単層構造の樹脂チューブ10として好適に実施される。また、必要に応じ、他の樹脂層や補強糸層を更に積層して多層構造の樹脂チューブとしてもよい。
【0045】
本樹脂チューブは、その用途上の観点から、内径が2.5~30mm、特には4~25mmの範囲であり、厚みが0.5~5.0mm、特には0.75~4.0mmの範囲であるものが好ましい。
【0046】
本樹脂チューブは、例えば、自動車内における冷却液の配管に用いられるものであり、具体的には、ラジエーターホース、ヒーターホース、エアコンホース等や、電気自動車や燃料電池自動車用の電池パックの冷却用チューブに好適に用いられる。
【0047】
本樹脂チューブは、本樹脂組成物をチューブ状に溶融押出成形することにより製造することができる。本樹脂組成物は、(A)(B)(C)および必要に応じて配合される成分を配合し、混練することにより、得ることができる。
【0048】
本樹脂組成物の混練工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。混練温度としては、190℃~230℃が好ましい。混練時間としては、0.01~10分が好ましい。
【0049】
本樹脂組成物の押出工程は、例えば二軸混練押出機などを用いて行うとよい。押出温度としては、低温押出による物性の向上の観点から、190℃~255℃が好ましい。
【0050】
本樹脂チューブにおいては、(B)のホモポリプロピレンがチューブ表面に現れることで、(B)のホモポリプロピレンがチューブの径方向の内部よりも外部に多く存在していることが好ましい。本樹脂組成物を用いることで、本樹脂チューブにおいて(B)のホモポリプロピレンを上記のように偏在させることができる。そして、このような構成により、(C)のカーボンブラックが(B)のホモポリプロピレンとともにチューブ表面に現れるため、耐候性、レーザー溶着性が向上する。チューブの径方向の外部とは、チューブの径方向において表面あるいは表面近傍に位置する部分であり、チューブの外周面や内周面、チューブの外周面近傍やチューブの内周面近傍の部分を表す。チューブの径方向の内部とは、外部よりも径方向の内部に位置する部分であり、例えば、径方向の中央部などを含む部分である。
【0051】
本樹脂チューブは、上記するように、(C)のカーボンブラックを配合することから、レーザー溶着によってコネクタと溶着することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0054】
(実施例1-9、比較例1-3)
表に示す配合割合(質量部)にて各成分を配合し、二軸混練押出機(東芝機械製「TEM-18SS」)により200℃で5分間混練して混練物を得た。つぎに、上記混練物をペレット化し、そのペレットを、円筒状ダイが装着された溶融押出成形機(プラスチック工学研究所製「GT-40」)により、250℃でチューブ状に溶融押出成形することにより、内径18mm,外径20mmの樹脂チューブを得た。
【0055】
用いた材料は、以下の通りである。
(A)プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体
・ブロックPP<1>:プライムポリマー製「E-702MG」、MFR1.4g/10分
・ブロックPP<2>:プライムポリマー製「E-701G」、MFR0.5g/10分
(B)プロピレン単独重合体
・ホモPP<1>:プライムポリマー製「F113G」、MFR3.0g/10分
・ホモPP<2>:プライムポリマー製「J106MG」、MFR16g/10分
・ホモPP<3>:プライムポリマー製「J108M」、MFR45g/10分
・ホモPP<4>:Lyondellbasell製「C14EP348U」、MFR70g/10分
(C)カーボンブラック
・カーボンブラック:東海カーボン製「TOKABLACK#7360SB」よう素吸着量77m2/g、DBP吸収量87cm3/100g
【0056】
得られた各樹脂チューブに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。分散度は、レーザー溶着性を図る指標となる。溶着痕が幅広であるほど、レーザー溶着性に優れる。
【0057】
<物性>
樹脂チューブを160℃1時間熱処理後、半割し、幅10mm、長さ15cmの短冊状に打ち抜いた。得られた短冊状のサンプルの破断時の伸び[Eb]を、JIS K 6251に準拠し、引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)により測定した。破断時の伸びが300%以上のものを「◎」、破断時の伸びが250%以上300%未満のものを「〇」、250%未満のものを「×」とした。
【0058】
<耐低温衝撃性>
-30℃雰囲気下で250mm上方から500gの落錘を落下させて樹脂チューブに衝突させたとき、樹脂チューブが割れるものを「×」、樹脂チューブが割れないものを「○」と評価した。
【0059】
<耐候性>
キセノンアークランプ式耐候試験機(スガ試験機製「300サンシャインウエザノメーターS300」)を用い、樹脂チューブに500時間照射した後、樹脂チューブを90度折り曲げたとき、割れなかったものを「〇」、割れたものを「×」とした。
キセノンアークランプの照度:0.35W/m2(at340nm)
散水:120分照射中18分
プラックパネル温度:63±3℃
【0060】
<分散度(溶着幅)>
筒状成形体の開口端縁内に樹脂チューブを1.5cm挿入し、その状態のまま、筒状成形体の外側から樹脂チューブとコネクタの重なり始める位置から10mmの部位に、レーザー出力40W,1秒/周の条件で1060nmのレーザー光を照射し、筒状成形体と樹脂チューブの界面に溶着処理を行った。次いで、樹脂チューブを半割し、筒状成形体を樹脂チューブからニッパーで剥離した。筒状成形体と樹脂チューブの溶着痕が2mm以上のものを「◎」、1.8mm以上2mm未満のものを「○」とした。1.8m満のものを「×」とした。
【0061】
【0062】
比較例1は、カーボンブラックの量が少なすぎる。このため、耐候性に劣っている。また、レーザー溶着性にも劣っている。比較例2は、カーボンブラックの量が多すぎる。このため、低温物性に劣っている。比較例3は、ホモポリプロピレンの量が多すぎる。このため、物性に劣っている。
【0063】
これに対し、実施例は、物性および耐候性に優れる。また、レーザー溶着性にも優れる。以上より、(A)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが0.2g/10分以上1.5g/10分以下であるプロピレン-α-オレフィンブロック共重合体と、(B)230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートが2g/10分以上70g/10分以下であるプロピレン単独重合体と、(C)カーボンブラックを含有し、ポリマー成分100質量%中、(A)が75質量%以上99質量%以下、(B)が1質量%以上25質量%以下であり、(A)および(B)の合計100質量部に対し、(C)が0.1質量部以上2.5質量部以下である樹脂組成物とすることで、物性および耐候性に優れることが確認できた。
【0064】
そして、実施例どうしの比較では、実施例1~4から、(A)と(B)のMFRの差が5g/10分以上であると、レーザー溶着性により優れる。また、実施例1~4から、(B)のMFRが10g/10分以上50g/10分以下であると、物性および耐候性を高度に両立することがわかる。また、レーザー溶着性により優れる。また、実施例2,7,8から、ポリマー成分100質量%中、(A)が90質量%以上97質量%以下、(B)が3質量%以上10質量%以下であると、物性および耐候性を高度に両立することがわかる。また、レーザー溶着性により優れる。
【0065】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。