(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013150
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】建物連結構造及び建物連結方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240124BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
E04H9/02 301
F16F15/02 L
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115127
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯野 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛士
(72)【発明者】
【氏名】岩間 和博
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡
(72)【発明者】
【氏名】守屋 暁
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB01
2E139AC19
2E139AC40
2E139BA12
2E139BA14
2E139CA00
3J048AA06
3J048AC04
3J048AC05
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】二つの免震建物の棟間変位を低減しつつ、双方に入力されるせん断力を低減する。
【解決手段】建物連結構造は、二つの免震建物10、20が粘性系ダンパー30で連結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの免震建物が粘性系ダンパーで連結された建物連結構造。
【請求項2】
前記二つの免震建物はそれぞれ固有周期が異なる、請求項1に記載の建物連結構造。
【請求項3】
前記二つの免震建物はそれぞれ減衰定数が異なる、請求項2に記載の建物連結構造。
【請求項4】
前記二つの免震建物を連結する前記粘性系ダンパーは一層のみに設けられ、
前記粘性系ダンパーは、少なくとも一方の前記免震建物の免震層の直上階又は地上階に連結されている、請求項1~3の何れか1項に記載の建物連結構造。
【請求項5】
前記二つの免震建物は竣工時期が異なり、
後から竣工した前記免震建物の固有周期が先に竣工した前記免震建物の固有周期より長い、請求項1又は2に記載の建物連結構造。
【請求項6】
前記二つの免震建物は竣工時期が異なり、
後から竣工した前記免震建物の固有周期が先に竣工した前記免震建物の固有周期より長く、
後から竣工した前記免震建物の減衰定数が先に竣工した前記免震建物の減衰定数より大きい、
請求項1~3の何れか1項に記載の建物連結構造。
【請求項7】
第一免震建物を建設する工程と、
前記第一免震建物と前記第一免震建物に近接して建設する第二免震建物の固有周期及び減衰定数を変数として、前記第一免震建物と前記第二免震建物とを連結する粘性系ダンパーの総量を示す係数に応じた、前記第一免震建物と前記第二免震建物との棟間変位、前記第一免震建物に入力されるせん断力、及び、前記第二免震建物に入力されるせん断力を算出する工程と、
前記第一免震建物と前記第二免震建物とが非連結の場合と比較して、前記棟間変位を低減させ、かつ、前記第一免震建物に入力されるせん断力及び前記第二免震建物に入力されるせん断力の双方を低減させる、前記第二免震建物の固有周期、前記減衰定数及び前記係数を決定する工程と、
を備えた建物連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物連結構造及び建物連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、免震装置により免震支持された先行建物と、免震装置により免震支持された増築建物と、を制振部材で連結した免振建物の増築方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制振部材は、ダンパーとして機能する。このようなダンパーとして機能する制振部材として、弾性部材を用いることがある。また、弾性部材を用いるダンパーとしては、鋼材ダンパー、摩擦ダンパー及び鉛ダンパーなどが挙げられる。そして、このような2つの建物を、鉄骨などによって構成される架構、コイルスプリング及び皿バネなどのバネ部材のような弾性部材で連結する場合もある。
【0005】
しかしながら、二つの免震建物を弾性部材で連結する場合は、何れか一方の免震建物に入力されるせん断力が増幅され易い。入力されるせん断力が増幅されると、せん断力に抵抗するために建物の構造を補強する必要がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、二つの免震建物の棟間変位を低減しつつ、双方に入力されるせん断力を低減し易い建物連結構造及び建物連結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の建物連結構造は、二つの免震建物が粘性系ダンパーで連結されている。
【0008】
請求項1の建物連結構造では、二つの免震建物が粘性ダンパーで連結されている。これにより、二つの免震建物の相対変位または速度に対してエネルギーを吸収できるため、二つの免震建物が非連結の場合と比較して、二つの免震建物の棟間変位を低減し易い。
【0009】
また、二つの免震建物が弾性部材で連結されている場合と比較して、二つの免震建物の双方に入力されるせん断力を低減し易い。これにより、二つの免震建物の補強構造を軽微にできる。
【0010】
請求項2の建物連結構造は、請求項1に記載の建物連結構造において、前記二つの免震建物はそれぞれ固有周期が異なる。
【0011】
請求項2の建物連結構造では、二つの免震建物はそれぞれ固有周期が異なる。すなわち、一方の免震建物の固有周期が、他方の免震建物の固有周期より長い。これにより、一方の免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0012】
請求項3の建物連結構造は、請求項2に記載の建物連結構造において、前記二つの免震建物はそれぞれ減衰定数が異なる。
【0013】
請求項3の建物連結構造では、二つの免震建物の減衰定数が異なる。すなわち、一方の免震建物の減衰定数が、他方の免震建物の減衰定数より大きい。これにより、二つの免震建物の棟間変位を低減し易い。また、他方の免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0014】
請求項4の建物連結構造は、請求項1~3の何れか1項に記載の建物連結構造において、前記二つの免震建物を連結する前記粘性系ダンパーは一層のみに設けられ、前記粘性系ダンパーは、少なくとも一方の前記免震建物の免震層の直上階又は地上階に連結されている。
【0015】
請求項4の建物連結構造では、粘性系ダンパーが一層のみに設けられている。これにより、多層に設ける場合と比較して施工が容易である。
【0016】
また、粘性系ダンパーは、少なくとも一方の免震建物の、免震層と最も近い地上階に連結されている。これにより、免震層と離れた場所に連結されている場合と比較して、免震層で生じる棟間変位を低減し易い。この結果、免震層よりも上の上部構造においても棟間変位を抑制することができる。
【0017】
請求項5の建物連結構造は、請求項1又は2に記載の建物連結構造において、前記二つの免震建物は竣工時期が異なり、後から竣工した前記免震建物の固有周期が先に竣工した前記免震建物の固有周期より長い。
【0018】
請求項5の建物連結構造では、後から竣工した免震建物の固有周期が先に竣工した免震建物の固有周期より長い。これにより、後から竣工した免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0019】
請求項6の建物連結構造は、請求項1~3の何れか1項に記載の建物連結構造において、前記二つの免震建物は竣工時期が異なり、後から竣工した前記免震建物の固有周期が先に竣工した前記免震建物の固有周期より長く、後から竣工した前記免震建物の減衰定数が先に竣工した前記免震建物の減衰定数より大きい。
【0020】
請求項6の建物連結構造では、後から竣工した免震建物の固有周期が先に竣工した免震建物の固有周期より長い。これにより、後から竣工した免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0021】
また、この建物連結構造では、後から竣工した免震建物の減衰定数が先に竣工した免震建物の減衰定数より大きい。これにより、二つの免震建物の棟間変位を低減し易い。また、先に竣工した免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0022】
請求項7の建物連結方法は、第一免震建物を建設する工程と、前記第一免震建物と前記第一免震建物に近接して建設する第二免震建物の固有周期(T2)及び減衰定数(h2)を変数として、前記第一免震建物と前記第二免震建物とを連結する粘性系ダンパーの総量を示す係数(β)に応じた、前記第一免震建物と前記第二免震建物との棟間変位、前記第一免震建物に入力されるせん断力、及び、前記第二免震建物に入力されるせん断力を算出する工程と、前記第一免震建物と前記第二免震建物とが非連結の場合と比較して、前記棟間変位を低減させ、かつ、前記第一免震建物に入力されるせん断力及び前記第二免震建物に入力されるせん断力の双方を低減させる、前記第二免震建物の固有周期(T2)、前記減衰定数(h2)及び前記係数(β)を決定する工程と、を備える。
【0023】
請求項7の建物連結方法では、第一免震建物と第二免震建物とが粘性系ダンパーで連結されている。これにより、第一免震建物と第二免震建物とが非連結の場合と比較して、二つの免震建物の棟間変位を低減し易い。また、第一免震建物と第二免震建物との双方に入力されるせん断力を低減し易い。
【0024】
また、この建物連結方法では、第一免震建物と第二免震建物とを粘性系ダンパーで連結する際に、2つの建物の棟間変位を低減させ、かつ、二つの免震建物に入力されるせん断力の双方を低減させる、第二免震建物の固有周期(T2)、減衰定数(h2)及び粘性系ダンパーの総量を示す係数(β)を決定する。これにより、より確実に、二つの免震建物の棟間変位を低減し、二つの免震建物に入力されるせん断力の双方を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、二つの免震建物の双方に入力されるせん断力を低減し易い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(A)は本発明の実施形態に係る建物連結構造を示す立面図であり、(B)は一方の免震建物が地下階を有する変形例を示す立面図であり、(C)は双方の免震建物が地下階を有する変形例を示す立面図であり、(D)は双方の免震建物が地下階を有する別の変形例を示す立面図であり、(E)は免震建物の間に擁壁を有する変形例を示す立面図であり、(F)は免震建物の間に擁壁を有する別の変形例を示す立面図である。
【
図2】(A)は免震建物と免震建物との無次元化棟間変位、免震建物に入力されるせん断力倍率を、粘性系ダンパーの総量を示す係数βの関数として表したグラフであり、(B)は諸元を変更した場合のグラフであり、(C)は諸元を別の態様で変更した場合のグラフである。
【
図3】免震建物と免震建物との無次元化棟間変位、免震建物に入力されるせん断力倍率を、弾性部材の総量を示す係数αの関数として表した比較例のグラフである。
【
図4】(A)は免震建物と免震建物との無次元化棟間変位、免震建物に入力されるせん断力倍率を、粘性系ダンパーの総量を示す係数βの関数として表したグラフであり、(B)は免震建物の固有周期を変更した場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る建物連結構造及び建物連結方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0028】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する、異なる構成と入れ替える、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いる等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0029】
<建物連結構造>
本発明の実施形態に係る建物連結構造は、
図1(A)に示すように、二つの免震建物10及び20が、粘性系ダンパー30で連結されて形成されている。
【0030】
免震建物10は、免震装置12を介して基礎スラブ14に支持された、所謂基礎免震の構造物である。同様に、免震建物20は、免震装置22を介して基礎スラブ24に支持された、所謂基礎免震構造物である。基礎スラブ14、24はそれぞれ一体化してもよいし、別体としてもよい。
【0031】
免震建物10、20は、それぞれ竣工時期が異なり、免震建物10が先に竣工した建物であり、免震建物20が後に竣工した建物である。免震建物20は、免震建物10と間隔を空けて構築されている。
【0032】
免震建物10と免震建物20との間には、粘性系ダンパー30が配置されている。免震建物10と免震建物20とは、この粘性系ダンパー30によって連結されている。粘性系ダンパー30は、例えばオイルダンパー、粘性体ダンパー、粘弾性体ダンパー等により構成されている。
【0033】
粘性系ダンパー30は一層のみに設けられ、免震建物10、20におけるそれぞれの免震層(免震装置12、22が配置された層)の「直上階」同士を連結している。
【0034】
なお、
図1(A)に示した例では、免震建物10、20における免震層の高さ位置が一致しているが、
図1(B)に示すように、免震建物10、20は、免震層の高さ位置が異なっていてもよい。
【0035】
この図に示した例では、免震建物20は地下階を有し、免震建物20の免震層は、免震建物10の免震層の位置より低い位置に形成されている。このような場合においては、粘性系ダンパー30は、免震建物10における免震層の「直上階」と、免震建物20において免震層と「最も近い地上階」とを連結する。
【0036】
また、
図1(C)、(D)に示すように、免震建物10、20がそれぞれ地下階を有していてもよい。例えば
図1(C)に示した例では、粘性系ダンパー30は、地下において、免震建物10、20双方における免震層の「直上階」同士を連結している。また、
図1(D)に示した例では、粘性系ダンパー30は、地下において、免震建物20における免震層の「直上階」と、当該「直上階」に対応する高さの免震建物10の階と、を連結している。
【0037】
さらに、
図1(E)、(F)に示す例では、地下階を有する免震建物10、20の間に、擁壁40が設けられている。これらの図に示した例では、粘性系ダンパー30は、免震建物10、20におけるそれぞれの地上階同士を連結している。このように、擁壁40やその他の障害物により、地下階を有する免震建物10、20の何れの免震層の直上階にも粘性系ダンパー30を連結できない場合もある。このような場合は、粘性系ダンパー30は、免震建物10、20の免震層と最も近い地上階に連結してもよい。
【0038】
すなわち、本発明において、粘性系ダンパー30は、少なくとも一方の免震建物(免震建物10または20)の、免震層の直上階又は地上階に連結されていればよい。
【0039】
これら2つの免震建物10、20は、それぞれ、固有周期及び減衰定数が異なる。具体的には、後から竣工した免震建物20の固有周期T2が、先に竣工した免震建物10の固有周期T1より長く、1.1倍程度以上とされている。また、後から竣工した免震建物20の減衰定数h2は、先に竣工した免震建物10の減衰定数h1より大きい。例えば減衰定数h2は減衰定数h1の1.1倍程度以上とされている。
【0040】
<建物連結方法>
本発明の実施形態に係る建物連結方法は、以下に示す工程を備えている。なお、以下の説明で用いた各数値は、説明を簡略化するために仮に用いた値であり、実際の建物連結方法においては、個別具体的な数値が採用される。また、各図に示されるグラフも模式的なものである。
【0041】
(工程1)
まず、第一免震建物としての免震建物10を建設する。
【0042】
(工程2)
次に、免震建物10と免震建物10に近接して建設する第二免震建物としての免震建物20の固有周期T2及び減衰定数h2を変数として、免震建物10と免震建物20とを連結する粘性系ダンパー30の総量を示す係数βに応じた、免震建物10と免震建物20との棟間変位、免震建物10に入力されるせん断力、及び、免震建物20に入力されるせん断力を算出する。
【0043】
工程2について、より具体的に説明する。
【0044】
免震建物10は建設済であるため、その重量、固有周期T1、減衰係数C1、減衰定数h1は既知の値である。
【0045】
そこで、2棟連結2質点モデル(免震建物10及び免震建物20の2棟をそれぞれ1質点とし、質点同士を連結したモデル)に対する周波数応答解析を行って、
図2(A)~(C)の模式的なグラフに示される関係を導出する。
【0046】
これらのグラフの横軸は、粘性系ダンパー30の総量を示す係数βの値を示す。免震建物10と免震建物20とを連結する連結部の減衰係数Cjは、免震建物10における免震層の減衰係数C1及び係数βを用いてCj=β・C1と表される。
【0047】
粘性系ダンパー30の総量が「0」、すなわち免震建物10及び免震建物20が非連結の場合、係数βの値は0である。粘性系ダンパー30の総量が増えると、係数βの値は大きくなる。
【0048】
また、これらのグラフの縦軸は、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)を示す。
【0049】
すなわち、これらのグラフには、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)が係数βの関数として示されている。
【0050】
「無次元化棟間変位」とは、地動変位に対する棟間変位の応答倍率である。この値が大きいほど、免震建物10と免震建物20との棟間変位が大きい。
【0051】
「せん断力倍率」とは、各棟(免震建物10及び免震建物20)が「非連結時」の無次元化せん断力の最大値に対する、「連結時」の無次元化せん断力の最大値の割合である。この値が1.0未満であれば、連結時に入力されるせん断力が、非連結時より小さい。この値が1.0以上であれば、連結時に入力されるせん断力が、非連結時以上である。
【0052】
そして、これらの関係は、免震建物20の固有周期T
2及び減衰定数h
2を変えて導出する。
図2(A)~(C)において、免震建物10の固有周期T
1は3[sec]、減衰定数h
1は0.2で一定である。一方、
図2(A)において、免震建物20の固有周期T
2は4[sec]、減衰定数h
2は0.1である。
図2(B)において、免震建物20の固有周期T
2は3[sec]、減衰定数h
2は0.3である。
図2(C)において、免震建物20の固有周期T
2は4[sec]、減衰定数h
2は0.3である。
【0053】
このように、固有周期T1が3[sec]、減衰定数h1が0.2である免震建物10に対して、建設予定の免震建物20の固有周期T2及び減衰定数h2を入れ替えて、粘性系ダンパー30の総量を示す係数(β:横軸)に応じた、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)を算出する。
【0054】
(工程3)
次に、免震建物10と免震建物20とが非連結の場合と比較して、棟間変位を低減させ、かつ、免震建物10に入力されるせん断力及び免震建物20に入力されるせん断力の双方を低減させる、免震建物20の固有周期T2、前記減衰定数h2及び係数βを決定する。
【0055】
工程3について、より具体的に説明する。
【0056】
・減衰定数h
2の検討
例えば
図2(A)、(C)において、免震建物20の固有周期T
2は4[sec]で等しい一方、
図2(A)では免震建物20の減衰定数h
2が0.1、
図2(C)では免震建物20の減衰定数h
2が0.3である。
【0057】
これらの図に示された関係を比較すると、免震建物20の減衰定数h
2が大きいほう(
図2(C))が、無次元化棟間変位が小さく(曲線K1)、また、免震建物10に入力されるせん断力も小さい(曲線K2)ことがわかる。一方、免震建物20の減衰定数h
2が大きいほう(
図2(C))が、免震建物20に入力されるせん断力は大きいこと(曲線K3)がわかる。
【0058】
このように、免震建物20の減衰定数h2を変化させることで、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)がどのように変化するかの傾向を把握できる。
【0059】
なお、この傾向は必ずしも上述したように一意的に定まるものではない。免震建物10の重量、固有周期T1、減衰定数h1、免震建物20の重量、固有周期T2として採用する値等に応じて、この傾向は変わり得る。
【0060】
・固有周期T
2の検討
また、例えば
図2(B)、(C)において、免震建物20の減衰定数h
2は0.3で等しい一方、
図2(B)では免震建物20の固有周期T
2は3[sec]、
図2(C)では免震建物20の固有周期T
2は4[sec]である。
【0061】
これらの図に示された関係を比較すると、免震建物20の固有周期T
2が長いほう(
図2(C))が、無次元化棟間変位は大きく(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力も大きい(曲線K2)ことがわかる。一方、免震建物20の固有周期T
2が長いほう(
図2(C))が、免震建物20に入力されるせん断力が小さいこと(曲線K3)がわかる。
【0062】
このように、免震建物20の固有周期T2を変化させることで、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)がどのように変化するかの傾向を把握できる。
【0063】
なお、この傾向は必ずしも上述したように一意的に定まるものではない。免震建物10の重量、固有周期T1、減衰定数h1、免震建物20の重量、減衰定数h2として採用する値等に応じて、この傾向は変わり得る。
【0064】
・減衰定数h
2、固有周期T
2の選定
減衰定数h
2、固有周期T
2は、
図2(A)、(C)に示す領域Dが存在するように選定する。領域Dとは、次の3条件を全て満たす係数βの値の領域である。
【0065】
(条件1)
無次元化棟間変位(曲線K1)を非連結時(β=0)より低減できる。
【0066】
(条件2)
免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)を非連結時(β=0)以下にできる。
【0067】
(条件3)
免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)を非連結時以下にできる。
【0068】
例えば
図2(B)では、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)が1より大きいため、条件3が満たされない。このため、免震建物20の固有周期T
2としては、
図2(B)の3[sec]ではなく、
図2(A)、(C)の4[sec]を採用する。
【0069】
そして、
図2(A)、(C)を比較すると、
図2(C)のほうが
図2(A)より免震建物20に入力されるせん断力(曲線K3)は大きくなるものの、
図2(A)より無次元化棟間変位(曲線K1)の低減度合いが大きい。このため、免震建物20の減衰定数h
2としては、
図2(A)の0.1ではなく、
図2(C)の0.3を採用する。
【0070】
このように、減衰定数h2、固有周期T2は、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)を総合的に評価して選定される。
【0071】
なお、ここに示した減衰定数h2、固有周期T2の選定方法は一例であり、必要とされる条件に応じて、選定方法は適宜変更することができる。
【0072】
・粘性系ダンパー30の総量を示す係数βの検討
係数βは、領域Dに含まれる値のなかから仮決定される。係数βを仮決定する基準としては、無次元化棟間変位(曲線K1)を最小化できる値、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)を最小化できる値、または、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)を最小化できる値など、必要とされる条件に応じて適宜決定できる。
【0073】
また、上記の領域Dを規定する条件に加え、例えばβ>0.1等の条件を付加してもよい。
図2(A)、(C)においてβ≦0.1の領域では、非連結時と比較した場合の無次元化棟間変位(曲線K1)の低減効果が小さいからである。閾値である0.1は、適宜変更できる。
【0074】
(工程4)
次に、決定された免震建物20の固有周期T2、前記減衰定数h2及び仮決定された係数βを基に、免震建物20及び粘性系ダンパー30の構造を検討する。
【0075】
(工程5)
工程2~4を繰り返し、免震建物20及び粘性系ダンパー30の構造を検討する。また、免震建物20の設計が進むことに応じて、2質点モデルに代えて、多質点モデルや立体モデルなど、より複雑なモデルに対する地震周波数応答解析を実施することが好ましい。そして、工程2~4を繰り返すことで、係数βを最終決定する。
【0076】
(工程6)
工程4、5で検討された免震建物20及び粘性系ダンパー30の構造に基づいて、免震建物20を建設し、免震建物10と免震建物20とを粘性系ダンパー30で連結する。
【0077】
<作用>
本発明の実施形態に係る建物連結構造及び建物連結方法では、
図1(A)に示すように、二つの免震建物10、20が粘性系ダンパー30で連結されている。これにより、二つの免震建物10、20の相対変位(または速度)に対してエネルギーを吸収するため、二つの免震建物10、20が非連結の場合と比較して、二つの免震建物10、20それぞれの棟間変位を低減し易い。
【0078】
また、免震建物10、20を一体的に利用するために、これらの建物を通路で連結する場合でも、棟間変位を低減できるため、エキスパンションジョイントの構成を軽微にできる。
【0079】
そして、免震建物10、20が粘性系ダンパー30で連結することにより、二つの免震建物10、20の双方に入力されるせん断力を低減し易い。これにより、二つの免震建物20、30の補強構造を軽微にできる。
【0080】
これに対して、二つの免震建物が弾性部材で連結されている比較例(剛性連結)では、
図3に示すように、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)が、非連結時より増幅され易い。また、図示は省略するが、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)が、非連結時より増幅される場合もある。すなわち、何れか一方の免震建物に入力されるせん断力倍率が、非連結時より増幅され易い。
【0081】
なお、
図3に示したグラフの横軸は、弾性部材の総量を示す係数αの値である。免震建物10と免震建物20とを連結する連結部の剛性K
jは、免震建物10における免震層の剛性K
1及び係数αを用いてK
j=α・K
1と表される。
【0082】
図3に示した例では、
図2(C)と同様に、免震建物10の固有周期T
1は3[sec]、減衰定数h
1は0.2、免震建物20の固有周期T
2は4[sec]、減衰定数h
2は0.3である。
【0083】
また、本発明の実施形態に係る建物連結構造では、二つの免震建物はそれぞれ固有周期が異なる。すなわち、一方の免震建物の固有周期が、他方の免震建物の固有周期より長い。これにより、一方の免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0084】
具体的には、後から竣工した免震建物20の固有周期が先に竣工した免震建物10の固有周期より長く、1.1倍程度とされている。これにより、後から竣工した免震建物に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0085】
なお、
図4(A)には、免震建物10の固有周期T
1を3[sec]、減衰定数h
1を0.1、免震建物20の固有周期T
2を3.15[sec](すなわち、T
1の1.05倍)、減衰定数h
2を0.15とした場合の、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)が係数βの関数として示されている。
【0086】
上述した領域Dにおいて、係数βの決定条件を「免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)を最小化できる値」とした場合、βは約0.15であり、このβに対応する無次元棟間変位は、2棟が非連結の場合(β=0)の約0.8倍程度である。
【0087】
一方、
図4(B)には、免震建物10の固有周期T
1を3[sec]、減衰定数h
1を0.1、免震建物20の固有周期T
2を3.3[sec](すなわち、T
1の1.1倍)、減衰定数h
2を0.15とした場合の、免震建物10と免震建物20との無次元化棟間変位(曲線K1)、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)、及び、免震建物20に入力されるせん断力倍率(曲線K3)が係数βの関数として示されている。
【0088】
上述した領域Dにおいて、係数βの決定条件を、
図4(A)と同様に「免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)を最小化できる値」とした場合、βは約1.00であり、このβに対応する無次元棟間変位は、2棟が非連結の場合(β=0)の約0.4倍程度である。
【0089】
すなわち、免震建物20の固有周期T2を免震建物10の固有周期T1の1.1倍とした場合の無次元化棟間変位の低減効果が、免震建物20の固有周期T2を免震建物10の固有周期T1の1.05倍とした場合より顕著である。
【0090】
なお、本発明においては、必ずしも免震建物20の固有周期T2を免震建物10の固有周期T1の1.1倍とする必要はなく、1.1倍より小さくてもよいし大きくてもよい。また、免震建物20の固有周期T2を免震建物10の固有周期T1と同等以下としてもよい。
【0091】
また、本発明の実施形態に係る建物連結構造では、二つの免震建物の減衰定数が異なる。すなわち、一方の免震建物の減衰定数が、他方の免震建物の減衰定数より大きい。
【0092】
具体的には、後から竣工した免震建物20の減衰定数h2が先に竣工した免震建物の減衰定数h1より大きい。これにより、二つの免震建物の棟間変位を低減し易い。また、先に竣工した免震建物10に入力されるせん断力が低減されやすい。
【0093】
一例として、
図2(C)に示した例では、
図2(A)に示した例と比較して、無次元化棟間変位(曲線K1)が小さく、免震建物10に入力されるせん断力倍率(曲線K2)が小さい。
【0094】
なお、本発明においては、必ずしも免震建物20の減衰定数h2を免震建物10の減衰定数h1より大きく必要はなく、免震建物20の減衰定数h2は免震建物10の減衰定数h1と同等以下としてもよい。
【0095】
また、この建物連結方法では、免震建物10と免震建物20とを粘性系ダンパー30で連結する際に、2つの建物の棟間変位を低減させ、かつ、二つの免震建物に入力されるせん断力の双方を低減させる、免震建物20の固有周期T2、減衰定数h2及び粘性系ダンパーの総量を示す係数βを決定する。
【0096】
これにより、より確実に、二つの免震建物10、20の棟間変位を低減し、二つの免震建物に入力されるせん断力の双方を低減することができる。
【符号の説明】
【0097】
10 免震建物
20 免震建物
30 粘性系ダンパー