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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131508
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01B1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041817
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田上 安宣
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301DA03
5G301DA06
5G301DA12
5G301DA23
5G301DA26
5G301DA43
5G301DA44
5G301DA51
5G301DA53
5G301DA55
5G301DA57
5G301DA59
5G301DD01
5G301DE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パターンのカスレ、欠け、印刷線幅の設計値からの大幅な乖離などの印刷不具合や、膜中における絶縁成分の残存が生じにくい導電性組成物を提供する。
【解決手段】(a)炭素数8~18の脂肪族モノカルボン酸、(b)式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体、(c)導電性粒子を含有し、成分(a)~(c)合計100質量%に対し(a)の含有率0.1~10質量%、(b)の含有率0.1~10質量%、(c)の含有率80~99.8質量%である導電性組成物。

[R1~R4は、それぞれ独立して水素原子またはR5-CO-、R1~R4のうち少なくとも1つはR5>-CO-である。R5は炭素数が3~24のアルキル基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素数が8~18の脂肪族モノカルボン酸、
(b)下記式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体、及び、
(c)導電性粒子を含有し、
成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、成分(a)の含有率が0.1~10質量%、成分(b)の含有率が0.1~10質量%、成分(c)の含有率が80~99.8質量%である導電性組成物。
【化1】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子または、R-CO-のいずれかであり、R~Rのうち少なくとも1つはR-CO-である。Rは炭素数が3~24のアルキル基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、電子部品における電極形成方法において、工程中に多量の廃液を排出する従来のウェットエッチング法から、各種印刷機を用いた印刷法への置き換えが進められている。その中で、汎用的な印刷法であるスクリーン印刷機を用いた電極形成技術の開発が盛んに行なわれており、その材料としてスクリーン印刷性と硬化膜の導電性に優れた導電性ペーストの組成開発が進められている。
【0003】
スクリーン印刷を用いた電極形成のメリットとして、メッシュサイズや乳剤厚などスクリーン版の仕様を調整することで印刷膜厚のコントロールが可能であるため、電子部品の回路設計や必要とされる要求特性に合わせて様々な膜厚の印刷パターンが形成可能である点が挙げられる。
【0004】
例えば特許文献1には、スクリーン印刷で厚膜パターンを形成でき、加熱によって導電性に優れた、膜厚30μm以上の硬化膜を得ることが可能な導電性ペーストが開示されている。また、特許文献2には、スクリーン印刷で薄膜パターンを形成でき、加熱によって導電性に優れた、膜厚10μm以下の硬化膜(薄膜電極層)を得ることが可能な薄膜用導電性ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-049735号公報
【特許文献2】特開2021-180079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示された導電性ペーストは、膜厚30μm以上の厚膜パターンの印刷性や得られた硬化膜の導電性は優れるものの、膜厚10μm以下の薄膜パターンを印刷した場合に、ペーストのレベリング性が不十分なために硬化膜のカスレや欠けによる印刷不具合が生じるおそれがある。
【0007】
一方、上記特許文献2に開示された導電性ペーストは、膜厚10μm以下の薄膜パターンの印刷性や得られた硬化膜の導電性は優れるものの、膜厚30μm以上の厚膜パターンを印刷した場合に、ペースト中に気泡や溶剤等の絶縁成分が残存しやすくなることで導電性粒子の近接により形成される導電パスが遮断されやすくなり、硬化膜の導電性が悪化するおそれがある。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、スクリーン印刷で電極パターンを形成した場合に、電極パターン或いは硬化膜の膜厚に関わらず、パターンのカスレ、欠け、印刷線幅の設計値からの大幅な乖離などの印刷不具合や、膜中における絶縁成分の残存が生じにくく、優れた印刷性と導電性を得ることが可能な導電性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、導電性粒子と所定の脂肪族モノカルボン酸に加えて、特定の構造を含むアスコルビン酸誘導体を、それぞれ所定の含有率の範囲で配合することにより、上記課題を解決できる導電性組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(a)炭素数が8~18の脂肪族モノカルボン酸、(b)下記式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体、及び、(c)導電性粒子を含有し、成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、成分(a)の含有率が0.1~10質量%、成分(b)の含有率が0.1~10質量%、成分(c)の含有率が80~99.8質量%である導電性組成物に関する。
【0011】
【化1】
【0012】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子または、R-CO-のいずれかであり、R~Rのうち少なくとも1つはR-CO-である。Rは炭素数が3~24のアルキル基である。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、スクリーン印刷で電極パターンを形成した場合に、パターン或いは硬化膜の膜厚に関わらず、電極パターンのカスレや欠けなどの印刷不具合や、膜中における絶縁成分の残存が生じにくく、優れた印刷性と導電性を得ることが可能な導電性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。
なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上かつ5以下を表す。更に、濃度または量を特定した場合、任意のより高い方の濃度または量と、任意のより低い方の濃度または量とを関連づけることができる。例えば「2~10質量%」および「好ましくは4~8質量%」の記載がある場合、「2~4質量%」、「2~8質量%」、「4~10質量%」および「8~10質量%」の記載も包含される。
【0015】
本発明の実施形態に係る導電性組成物は、(a)炭素数が8~18の脂肪族モノカルボン酸、(b)下記式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体、及び(c)導電性粒子を含有する。そして、成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、成分(a)の含有率が0.1~10質量%、成分(b)の含有率が0.1~10質量%、成分(c)の含有率が80~99.8質量%である。
【0016】
【化2】
【0017】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子または、R-CO-のいずれかであり、R~Rのうち少なくとも1つはR-CO-である。Rは炭素数が3~24のアルキル基である。]
【0018】
以下、各成分について説明する。
【0019】
〔成分(a):脂肪族モノカルボン酸〕
本発明で用いられる成分(a)は炭素数が8~18の脂肪族モノカルボン酸(以下、単に「脂肪族モノカルボン酸」と称する場合がある。)である。脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸、直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。上記化合物から選ばれる一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。
【0020】
炭素数8~18の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸が挙げられる。炭素数8~18の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などが挙げられる。炭素数8~18の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0021】
成分(a)の炭素数は、8~18であるが、導電性の観点から、8~16が好ましく、8~12がより好ましい。
【0022】
成分(a)の含有量は、成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、0.1~10質量%であり、好ましくは0.2~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%である。成分(a)の含有量が0.1質量%未満の場合、また、10質量%を超える場合、導電性組成物を用いて得られた硬化膜の体積抵抗率が増加する場合がある。
【0023】
〔成分(b)式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体〕
本発明で用いられる成分(b)は前述の式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体である。式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子または、R-CO-のいずれかであり、R~Rのうち少なくとも1つはR-CO-である。R-CO-の数は、特に限定はなく、1~4個のいずれでも良い。また、その数が1~3個である場合、その位置は特に限定はない。Rは炭素数が3~24のアルキル基である。アルキル基の構造は、直鎖でも良いし、分岐鎖を有してもよい。
【0024】
式(1)で示されるアスコルビン酸誘導体におけるRのアルキル基の炭素数は3~24であり、8~18が好ましい。Rのアルキル基の炭素数が3未満の場合や24を超える場合、導電性組成物を用いて得られた厚膜パターンの特性や薄膜パターンの特性が不十分となり体積抵抗率が増加する場合がある。
【0025】
成分(b)の具体例としては、例えば、2,6-ジ-O-ブチリル-L-アスコルビン酸、6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸、6-O-ステアロイル-L-アスコルビン酸、テトライソパルミトイルアスコルビン酸などが挙げられる。
【0026】
成分(b)は、式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体の一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。例えば、2,6-ジ-O-ブチリル-L-アスコルビン酸、6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸、6-O-ステアロイル-L-アスコルビン酸、テトライソパルミトイルアスコルビン酸から選択される一種を単独で、または二種以上組み合わせて用いることができる。特に、6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸及びテトライソパルミトイルアスコルビン酸から選択される一種または二種を選択して用いることが印刷性の観点から好ましく、6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸が粘度特性や印刷性の観点からより好ましい。
【0027】
成分(b)の含有量は、成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、0.1~10質量%であり、好ましくは0.2~5質量%、より好ましくは0.3~3質量%である。成分(b)の含有量が0.1質量%未満の場合や10質量%を超える場合、導電性組成物を用いて得られた厚膜パターンの特性や薄膜パターンの特性が不十分となり体積抵抗率が増加する場合がある。
【0028】
成分(b)は、アスコルビン酸と所定の脂肪酸を用いたエステル化反応などの公知の方法に従い製造することができるが、市販品としても入手可能である。
【0029】
〔成分(c):導電性粒子〕
成分(c)は導電性粒子であり、例えば、銅粒子などの無機導電性粒子を用いることができる。銅粒子は、銅のみからなっていてもよいが、銀や白金などの銅以外の金属、金属酸化物、金属硫化物を更に含有していてもよい。銅粒子が銅以外の金属、金属酸化物、金属硫化物を更に含有する場合、銅粒子中の銅の質量比率は50質量%以上とすることが好ましい。また、銅粒子は表面層や突起物が形成された形状であってもよい。
【0030】
導電性粒子は市販のものをそのまま用いても良いが、耐酸化性の向上などを目的に、表面を被覆した表面被覆導電性粒子を用いることが好ましい。中でも、アミン化合物により表面を被覆した表面被覆導電性粒子を用いることが好ましく、下記式(2)で表されるアミン化合物により表面が被覆された表面被覆導電性粒子を用いることがより好ましい。
【0031】
【化3】
【0032】
[式(2)中、mは0~3の整数、nは0~2の整数であり、n=0のとき、mは0~3の何れかであり、n=1又はn=2のとき、mは1~3の何れかである。]
【0033】
上記式(2)で表されるアミン化合物などのアミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子は、より良好な耐酸化性を得る観点から、脂肪族モノカルボン酸でさらに被覆された表面被覆導電性粒子とすることが好ましい。これにより導電性粒子表面は、アミン化合物により形成された第1被覆層と、脂肪族モノカルボン酸により形成された第2被覆層とで被覆される。好ましくは、第1被覆層は導電性粒子表面に形成され、第2被覆層は第1被覆層上に形成される。
【0034】
第2被覆層を形成する脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数8~24の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。このような脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸、直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0035】
炭素数8~24の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸などが挙げられる。炭素数8~24の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などが挙げられる。炭素数8~24の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。上記脂肪族モノカルボン酸として、上記化合物から選ばれる一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。
【0036】
表面被覆導電性粒子を製造する方法は特に限定されない。アミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子を得る方法としては、例えば、導電性粒子を例えば塩化アンモニウム水溶液などにより洗浄した後、該洗浄後の導電性粒子をアミン化合物の溶液中に添加し、必要に応じて加熱する方法、導電性粒子を例えば塩化アンモニウムとアミン化合物を含む溶液に添加し、必要に応じて加熱する方法などが挙げられる。
【0037】
アミン化合物により形成された第1被覆層と、脂肪族モノカルボン酸により形成された第2被覆層とで被覆された表面被覆導電性粒子の製造方法としては、例えば、アミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子を、脂肪族モノカルボン酸の溶液に添加する方法が挙げられる。なお、脂肪族モノカルボン酸の溶液に添加した後に、必要に応じて、加熱してもよい。
【0038】
導電性粒子の平均粒径(D50)については、特に限定されないが、成分(c)としての導電性粒子を含有する導電性組成物をディスペンサー印刷やスクリーン印刷などの各種印刷方法において良好に印刷可能とするためには、導電性粒子の平均粒径(D50)を制御することが好ましい。具体的には、導電性粒子の平均粒径(D50)は、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましい。
【0039】
なお、導電性粒子の平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)により測定することができる。
【0040】
また、導電性粒子のBET比表面積は0.05~400m/gであることが好ましく、0.1~200m/gであることがより好ましい。なお、導電性粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(例えば、ユアサアイオニクス株式会社製、モノソーブ)を用いてBET1点法により測定することができる。
【0041】
導電性粒子の形状やアスペクト比(粒子の長径と短径との比)に特に制限はなく、球状、多面体状、扁平状、板状、フレーク状、薄片状、棒状、樹枝状、ファイバー状等の各種形状のものを用いることができる。導電性粒子は、構成成分、平均粒径、形状、アスペクト比等の異なるもの中から選ばれる一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。
【0042】
成分(c)の含有量は、成分(a)~(c)の合計100質量%に対して、80~99.8質量%である。成分(c)の含有量の下限は、好ましくは85質量%であり、より好ましくは90質量%である。
【0043】
〔その他の成分〕
導電性組成物は、上記の成分(a)~(c)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、バインダ樹脂、溶剤、酸化防止剤、滑剤、レベリング剤、分散剤、硬化剤、硬化促進剤、粘度調整剤、発泡剤、消泡剤等の各種添加剤を含有していてもよい。また、導電性組成物は、原料成分および製造過程の装置等から不可避的に混入し得る不純物を含んでいてもよい。尚、これらの成分の何れかを含む場合は、合計で、(a)~(c)の合計含有量100質量部に対して、0質量部より多く70質量部以下とすることができ、0質量部より多く50質量部以下が好ましい。
【0044】
(バインダ樹脂)
導電性組成物は、成膜性や粘度の調節を目的に、バインダ樹脂を含有していてもよい。バインダ樹脂は、導電性組成物等に用いられる公知のバインダ樹脂を用いることができ、加熱や光照射により硬化する熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂などを例示することができる。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。バインダ樹脂は、一種を単独で使用し、または二種以上を混合して使用することもできる。二種以上を混合する場合の混合比率は特に制限されない。バインダ樹脂の種類としては、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびポリビニルフェノール樹脂から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。これらのバインダ樹脂を二種以上混合する場合の混合比率も特に制限されない。
【0046】
導電性組成物がバインダ樹脂を含有する場合、バインダ樹脂の含有量は、固形分基準で、成分(a)~(c)の合計含有量100質量部に対して、好ましくは0.5~50質量部であり、より好ましくは1~30質量部である。
【0047】
(溶剤)
導電性組成物は、塗工性の改善や粘度の調節を目的に、溶剤を含有していてもよい。溶剤の種類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのエーテル系アルコール類;プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの非エーテル系アルコール類;シクロヘキサノールアセテート、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、1,6-ヘキサンジオールアセテートなどのエステル類;イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピニルアセテート、イソボルニルシクロヘキサノールなどのテルペン類;オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、炭酸プロピレンなどのその他の炭化水素類等が挙げられるが、これらに限定されない。溶剤は、一種を単独で使用し、または二種以上を混合して使用することもできる。二種以上を混合する場合の混合比率は特に制限されない。
【0048】
溶剤の種類としては、上記エーテル系アルコール類、上記エステル類および上記テルペン類から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。これらの溶剤を二種以上混合する場合の混合比率も特に制限されない。
【0049】
導電性組成物が溶剤を含有する場合、溶剤の含有量は、成分(a)~(c)の合計含有量100質量部に対して、好ましくは1~30質量部であり、より好ましくは2~20質量部である。
【0050】
(酸化防止剤)
導電性組成物は、保管中に生じる各成分の性能維持を目的に、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤の種類としては、特に制限はなく、用途等に応じて、様々な酸化防止剤を用いることができる。例えば、2,2-ビピリジル、1,10-フェナントロリン等の含窒素複素環化合物類、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-プロパンジアミン、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-フェニレンジアミン等のシッフ塩基類、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル1,4-フェニレンジアミン、N,N-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン類、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、カテコール、4-tert-ブチルカテコール、ピロガロール、オイゲノール、没食子酸プロピル等のフェノール類等が挙げられ、これらに限定されないが、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミンが好ましい。酸化防止剤は、一種を単独で使用し、または二種以上を混合して使用することもできる。二種以上を混合する場合の混合比率は特に制限されない。
【0051】
導電性組成物が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の含有量は、成分(a)~(c)の合計含有量100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0052】
前述の導電性組成物は、前述の各成分を所定量配合し、定法に従い混錬することで得ることができる。また、導電性組成物を定法に従いスクリーン印刷などにより基材表面に所望のパターンを印刷した後、加熱処理等を施すことで硬化膜を得ることができる。また、導電性組成物は前述の所定の成分組成を含有することで、導電性組成物中での導電性粒子の分散性が良好であり、スクリーン印刷で膜厚に関わらず印刷パターンを形成するのに適した粘度特性を有する。そのため、膜厚に関わらず電極パターンのカスレや膜中における絶縁成分の残存が生じにくい。特に薄膜の電極パターンであっても硬化膜の外観が良好である。以上の結果、得られる硬化膜は、膜厚に関わらず良好な導電性を有する。つまり、前述の導電性組成物は、印刷パターンの膜厚が薄膜でも厚膜でもスクリーン印刷での印刷性が良好である。このように、前述の導電性組成物は、印刷パターンの膜厚に関わらず良好な導電性を有する硬化膜を形成可能であることから、例えば、電子部品の電極形成材料として好適である。特にスクリーン印刷用として好適である。なお、導電性組成物の硬化膜の粘度特性および印刷性は例えば後述する実施例の欄において行う方法で評価することができる。
【実施例0053】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。まず、実施例および比較例で用いた各成分を下記に示す。なお、各成分の物性は、本明細書に記載の方法により測定された値である。
【0054】
〔成分(a):炭素数が8~18の脂肪族モノカルボン酸〕
・2-エチルヘキサン酸(炭素数が8の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸)
・ラウリン酸(炭素数が12の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)
・ステアリン酸(炭素数が18の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸)
【0055】
〔成分(b):式(1)で表されるアスコルビン酸誘導体〕
(b1):2,6-ジ-O-ブチリル-L-アスコルビン酸(東京化成工業株式会社製)
(b2):6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸(東京化成工業株式会社製)
(b3):6-O-ステアロイル-L-アスコルビン酸(東京化成工業株式会社製)
(b4):テトライソパルミトイルアスコルビン酸(NIKKOL VC-IP、日光ケミカルズ株式会社製)
【0056】
〔成分(b’):成分(b)とは異なるアスコルビン酸誘導体〕
(b5):L-アスコルビン酸(ビタミンC(L-アスコルビン酸)、扶桑化学工業株式会社製)
【0057】
アスコルビン酸誘導体b1~b5と式(1)の構造との関係を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
〔成分(c):導電性粒子〕
・銅粒子(1):球状銅粒子[表面被覆銅粒子(1)、下記合成例1に製造方法を示す。]
・銅粒子(2):板状銅粒子[表面被覆銅粒子(2)、下記合成例2に製造方法を示す。]
【0060】
〔その他の成分〕
(酸化防止剤)
・N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン
(バインダ樹脂)
・レゾール型フェノール樹脂[PL-5208、群栄化学工業株式会社製、固形分60.0質量%、溶剤:ジエチレングリコールモノエチルエーテル]
(溶剤)
・テルピネオール
【0061】
〔合成例1〕
(銅粒子(1):表面被覆銅粒子(1)の製造)
水100gに対し塩化アンモニウム5gを溶解した塩化アンモニウム水溶液を調製した。銅粒子a[三井金属鉱業(株)製「1200Y」;粒径(D50)2μm、BET比表面積0.40m/g、形状:球状]50gを、塩化アンモニウム水溶液に添加し、窒素バブリング下、30℃で60分間攪拌した。撹拌は、メカニカルスターラーを使用し、回転数150rpmで実施した。以下、撹拌は同様の撹拌装置を使用して同じ回転数で行なった。撹拌終了後、5C濾紙の桐山ロートを用いて減圧濾過にて銅粒子を濾別し、つづいて、桐山ロート上で150gの水により銅粒子の洗浄を2回行なった。
洗浄した銅粒子を、40質量%のジエチレントリアミン水溶液250gに添加し、窒素バブリンクをしながら60℃下で1時間加熱撹拌を行なった。
撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去した。つづいて、沈殿物に洗浄用溶剤としてイソプロパノール200gを添加し、30℃で3分間撹拌を行なった。撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去し、その後、2質量%のラウリン酸イソプロパノール溶液250gを添加した後、30℃で30分間攪拌した。
撹拌終了後、5C濾紙の桐山ロートを用いて減圧濾過にて銅粒子を濾別した。得られた銅粒子を25℃で3時間減圧乾燥することにより、表面被覆銅粒子(1)(銅粒子(1))を得た。
【0062】
〔合成例2〕
(銅粒子(2):表面被覆銅粒子(2)の製造)
銅粒子aを銅粒子b[三井金属鉱業(株)製「1400YP」;粒径(D50)6μm、BET比表面積0.60m/g、形状:板状]に変更した以外は合成例1と同様にして、表面被覆銅粒子(2)(銅粒子(2))を得た。
【0063】
〔実施例1〕
(導電性組成物の製造)
成分(a)としてラウリン酸を1.0g、成分(b)として(b1)2,6-ジ-O-ブチリル-L-アスコルビン酸を1.0g、成分(c)として表面被覆銅粒子(銅粒子(1))を70.0gおよび表面被覆銅粒子(銅粒子(2))を28.0g、その他の成分として、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミンを1.0g、レゾール型フェノール樹脂[PL-5208、群栄化学工業株式会社製、固形分60質量%、溶剤:ジエチレングリコールモノエチルエーテル]を15.0g(固形分として9.0g)、テルピネオールを4.0g混合した。次に、プラネタリーミキサー[ARV-310、株式会社シンキー製]を用いて、室温下、回転数2000rpmで60秒間撹拌し、1次混練を行なった。次に、3本ロールミル[EXAKT-M80S、(株)永瀬スクリーン印刷研究所製]を用いて、室温、ロール間距離5μmの条件下で5回通すことで、2次混練を行なった。2次混練で得られた混練物を、プラネタリーミキサー[ARV-310、株式会社シンキー製]を用いて、室温、真空条件下、回転数1000rpmで90秒間撹拌し脱泡混練することにより導電性組成物を製造した。導電性組成物の各成分の配合割合を表2に示す。
【0064】
<粘度特性の評価>
(チクソ比の評価方法)
E型粘度計[TVE-25H、設定温度:25℃、コーンローター:3°×R7.7、東機産業株式会社製]を用いて、前述のようにして得られた導電性組成物の粘度を所定の回転数で測定し、以下の数式(1)を用いてチクソ比を算出した。
【0065】
【数1】
【0066】
本試験では、チクソ比の値が下記評価基準の「◎」又は「○」に該当する範囲内であり、回転数5.0rpmでの粘度測定値が5~100Pa・sの範囲であれば、厚膜パターンの特性と薄膜パターンの特性の両立が可能である。
◎: チクソ比が2.0以上、3.6未満である。
○: チクソ比が3.6以上、4.6未満である。
△: チクソ比が4.6以上、5.6未満である。
×: チクソ比が5.6以上である。
【0067】
<厚膜パターンの特性評価>
(導電性の評価方法)
前述のようにして得られた導電性組成物を、線幅×長さ=1mm×100mmのパターンが描かれたスクリーン版(SUS200メッシュ)上に展開し、スクリーン印刷機(MT-320、マイクロ・テック株式会社製)で印刷速度50mm/secでガラス基板上に塗布した。導電性組成物を塗布したガラス基板を対流オーブン内で150℃、30分間加熱することにより硬化膜を作製した。硬化膜の膜厚を触針式膜厚測定器(DEKTAK XT-S、Bruker社製)を用いて測定した。
続いて、作製した硬化膜の両端に抵抗計[RM-3544、日置電機株式会社製]の測定プローブを押し当てることで硬化膜の抵抗値を測定し、硬化膜の体積抵抗率を算出した。
【0068】
本評価では、体積抵抗率の値が小さいほど電流が流れやすく、導電性が優れていることを示す。評価基準は下記のとおりである。
◎: 体積抵抗率が50μΩ・cm未満である。
○: 体積抵抗率が50μΩ・cm以上、75μΩ・cm未満である。
△: 体積抵抗率が75μΩ・cm以上、100μΩ・cm未満である。
×: 体積抵抗率が100μΩ・cm以上である。
【0069】
<薄膜パターンの特性評価>
(硬化膜の外観評価)
前述のようにして得られた導電性組成物を、線幅×長さ=1mm×100mmのパターンが描かれたスクリーン版(SUS500メッシュ)上に展開し、スクリーン印刷機(MT-320、マイクロ・テック株式会社製)で印刷速度50mm/secでガラス基板上に塗布した。導電性組成物を塗布したガラス基板を対流オーブン内で150℃、30分間加熱することにより硬化膜を作製した。レーザー顕微鏡(VK-9700、株式会社キーエンス)を用いて、得られた硬化膜のカスレや欠けの有無の確認および、線幅の測定を行ない、以下の基準で評価した。
◎: 印刷パターンにカスレ、欠けともになく、線幅の測定値と設計値(1mm)の差異が10%未満である。
○: 印刷パターンにカスレ、欠けともになく、線幅の測定値と設計値(1mm)の差異が10%以上、20%未満である。
×: 印刷パターンにカスレまたは欠けがある。または、線幅の測定値と設計値(1mm)の差異が20%以上である。
【0070】
(導電性の評価方法)
上記の「硬化膜の外観評価」における方法と同様の方法で得られた硬化膜の膜厚と抵抗値を、「厚膜パターンの特性評価」の場合と同様に測定し、体積抵抗率を算出した。
【0071】
本評価では、体積抵抗率の値が小さいほど電流が流れやすく、導電性が優れていることを示す。評価基準は下記のとおりである。
◎: 体積抵抗率が50μΩ・cm未満である。
○: 体積抵抗率が50μΩ・cm以上、75μΩ・cm未満である。
△: 体積抵抗率が75μΩ・cm以上、100μΩ・cm未満である。
×: 体積抵抗率が100μΩ・cm以上である。
【0072】
〔実施例2~7、比較例1~2〕
各成分の配合割合を表2に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして導電性組成物を製造した。さらに、得られた各導電性組成物を用いて、実施例1と同様にして、粘度特性、厚膜パターンの特性、薄膜パターンの特性を評価した。
【0073】
以上の結果を表2に示す。なお、表2におけるフェノール樹脂の配合量は固形分換算量である。
【0074】
【表2】
【0075】
表2より以下のことが分かる。
実施例1~7では、導電性組成物のチクソ比が2.0~4.2であり、硬化膜の体積抵抗率が、厚膜では32~65μΩ・cmで、薄膜では36~72μΩ・cmと、膜厚に関わらず概ね同程度であり、薄膜であっても硬化膜における印刷パターンのカスレは見られなかった。
これに対して、成分(b)を配合せずに導電性組成物を調製した比較例1では、チクソ比が4.9で、硬化膜の体積抵抗率が、厚膜では72μΩ・cmで、薄膜では180μΩ・cmと特に薄膜で非常に高く、薄膜の硬化膜における印刷パターンにはカスレと欠けが見られた。また、成分(b)に代えて成分(b)’としてL-アスコルビン酸を用いて導電性組成物を調製した比較例2では、チクソ比が5.7で、硬化膜の体積抵抗率が、厚膜では590μΩ・cmで、薄膜では1000μΩ・cmを超える値で、何れの膜厚でも非常に高く、薄膜の硬化膜における印刷パターンにはカスレと欠けが見られた。
以上のように、成分(a)~(c)を所定の比率で含有する導電性組成物は、厚膜、薄膜の印刷に適したチクソ比を示し、得られた硬化膜の体積抵抗率が膜厚に関わらず良好であった。また、印刷の難易度が厚膜よりも高い薄膜であっても印刷された硬化膜の外観も良好であった。以上のことから、前述の所定の導電性組成物は、電子部品の電極形成材料として好適であることが分かる。