(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013151
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】高圧噴射撹拌工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115128
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(71)【出願人】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】九里 知宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 忠輔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 純一
(72)【発明者】
【氏名】大熊 瑞生
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB03
2D040BA01
2D040BA02
2D040CA01
2D040CB03
2D040FA04
(57)【要約】
【課題】土塊を効率的に減少させるロッドの移動幅を設定する。
【解決手段】地盤10に削孔した孔内20に挿入したロッド100を段階的に引き上げ、ロッド100を回転させながらロッド100の先端部に上下に間隔をあけて形成したノズル112、114からセメント系固化材を噴射して地盤10を切削し土12とセメント系固化材とを撹拌混合して地盤改良体150を造成する高圧噴射撹拌工法であって、ノズル112、114の上下間隔Lとロッド100を段階的に引き上げる移動幅dと地盤10の切削間隔xとの関係を示す下式を用いて移動幅dを設定する、高圧噴射撹拌工法。
2L≧d≧Lの場合 x=max(d-L、L) d<Lの場合 x=max(L-kd、d-(L-kd)) kはL/d以下の最大の自然数
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に削孔した孔内に挿入したロッドを段階的に引き上げ又は引き下げ、前記ロッドを回転させながら、前記ロッドの先端部に上下に間隔をあけて形成したノズルから噴射材を噴射して前記地盤を切削し、土と前記噴射材とを撹拌混合する高圧噴射撹拌工法であって、
前記ノズルの上下間隔Lと、前記ロッドを段階的に引き上げる幅又は引き下げる幅である移動幅dと、前記地盤の切削間隔xと、の関係を示す下記の数式を用いて、前記移動幅dを設定する、
高圧噴射撹拌工法。
2L≧d≧Lの場合
x=max(d-L、L)
d<Lの場合
x=max(L-kd、d-(L-kd))
kはL/d以下の最大の自然数
【請求項2】
前記切削間隔xが同一である前記移動幅dが複数ある場合、最も大きな前記移動幅dを選択する、
請求項1に記載の高圧噴射撹拌工法。
【請求項3】
前記移動幅dを横軸とし前記切削間隔xを縦軸とする前記数式のグラフで、谷の頂点又はその近傍に前記移動幅dを設定する、
請求項1に記載の高圧噴射撹拌工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射撹拌工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地震等において砂地盤等の軟弱地盤が液状化してしまうのを防止する液状化防止技術に関する技術が開示されている。この先行技術の液状化防止工法は、硬化材噴射装置を備えたロッドをボーリング孔内に挿入し、硬化材噴射装置から硬化材を噴射しつつロッドを回転して引き上げて地中固結体を造成する。硬化材噴射装置は所定間隔毎に断続的に引き上げられ、硬化材が到達して地盤が改良される改良領域が、水平方向及びに垂直方向について、隣接する未改良孔における改良領域と接合する様に、硬化材が噴射される。
【0003】
特許文献2には、高圧噴射撹拌工法の効率化及び改良体の品質向上を同時に可能とする技術が開示されている。この先行技術の高圧噴射撹拌工法は、側面にノズルを備えた注入ロッドを改良対象地盤中に挿入し、当該注入ロッドを回転させながら所定距離ずつ段階的に引き上げる際に、ノズルから固化材液を高圧で噴射し、この固化材液の高圧噴流によって土壌を切削すると共に、切削した土壌と固化材液とを撹拌混合し、地盤中に改良体を造成する。そして、注入ロッドを比較的低速な回転速度で所定時間回転させ高圧噴流を比較的遠くまで到達させる改良体径拡張工程と、注入ロッドを比較的高速な回転速度で所定時間回転させ高圧噴流による土壌の撹拌を促進させる改良体高品質化工程と、を交互に実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-144495号公報
【特許文献2】特開2022-10456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧噴射撹拌工法は、撹拌翼によって地盤を切削して撹拌する機械式撹拌工法よりも未改良の土塊が残りやすいとされている。そして、地盤改良体中の土塊は強度低下等の品質低下につながる。
【0006】
土塊の残留を低減させるためには、ロッドを引き上げる幅又は引下げる幅(以降「移動幅」と記す場合がある)を小さくすることが望ましい。しかし、ロッドの移動幅を小さくすると、地盤改良体を構築する効率が低下する。また、構築する地盤改良体の仕様や品質等によって必要とする土塊の残留量等が異なる。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、高圧噴射撹拌工法において、土塊を効率的に減少させるロッドの移動幅を設定する方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、地盤に削孔した孔内に挿入したロッドを段階的に引き上げ又は引き下げ、前記ロッドを回転させながら、前記ロッドの先端部に上下に間隔をあけて形成したノズルから噴射材を噴射して前記地盤を切削し、土と前記噴射材とを撹拌混合する高圧噴射撹拌工法であって、前記ノズルの上下間隔Lと、前記ロッドを段階的に引き上げる幅又は引き下げる幅である移動幅dと、前記地盤の切削間隔xと、の関係を示す下記の数式を用いて、前記移動幅dを設定する、第一態様に記載の高圧噴射撹拌工法である。2L≧d≧Lの場合 x=max(d-L、L) d<Lの場合 x=max(L-kd、d-(L-kd)) kはL/d以下の最大の自然数
【0009】
第一態様の高圧噴射撹拌工法では、ノズルの上下間隔Lとロッドを段階的に引き上げる移動幅dと地盤の切削間隔xとの関係を示す式を用いて、移動幅を設定する。
【0010】
ここで、地盤の切削間隔xは、ロッドを段階的に引き上げる移動幅又は引き下げる移動幅を小さくしても一律に小さくならない。また、土塊の残留は移動幅よりも切削間隔と相関がある。よって、上下間隔Lと移動幅dとから求まる切削間隔xを用いてロッドの移動幅dを設定することで、土塊を効率的に減少させることができる。
【0011】
第二態様は、前記切削間隔xが同一である前記移動幅dが複数ある場合、最も大きな前記移動幅dを選択する、第一態様に記載の高圧噴射撹拌工法である。
【0012】
第二態様の高圧噴射撹拌工法では、地盤改良体の仕様等から必要とする切削間隔xを決定し、その切削間隔xとなる最も大きな移動幅dを選択するので、土塊を効率的に減少させることができる。
【0013】
第三態様は、前記移動幅dを横軸とし前記切削間隔xを縦軸とする前記数式のグラフで、谷の頂点又はその近傍に前記移動幅dを設定する、第一態様に記載の高圧噴射撹拌工法である。
【0014】
第三態様の高圧噴射撹拌工法では、数式の移動幅dを横軸とし切削間隔xを縦軸とするグラフで、谷の頂点又はその近傍に前記移動幅dを設定するので、土塊を効率的に減少させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高圧噴射撹拌工法において、土塊を効率的に減少させるロッドの移動幅を設定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】高圧噴射撹拌工法で地盤改良体を造成する造成工程を示す工程図である。
【
図2】(A)は移動幅dが上下間隔Lと同じ25mmの場合の切削間隔xを説明する説明図であり、(B)は移動幅dが15mmの場合の切削間隔xを説明する説明図であり、(C)は移動幅dが13mmの場合の切削間隔xを説明する説明図である。
【
図5】(A)は実験結果における移動幅dと土塊残留率との関係を示すグラフであり、(B)は実験結果における切削間隔xと土塊残留率との関係を示すグラフである。
【
図6】実験結果における切削間隔xと土塊残留率との関係を示すグラフである。
【
図7】上下間隔Lが25mmの場合の移動幅dと切削間隔xとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態の高圧噴射撹拌工法について説明する。
【0018】
[構成]
まず、高圧噴射撹拌工法に用いる地盤改良装置について説明する。
【0019】
図1に示すように、地盤改良装置50は装置本体52を有している。装置本体52には造成用のロッド100が装着されている。
図2(A)に示すように、ロッド100の先端部には、噴射装置の一例としてのモニター110が装着されている。
【0020】
モニター110の側面110Aには、セメントミルク等の液体状のセメント系固化材と空気とを含むジェットJ等を噴出するノズル112、114が形成されている。一方(下側)のノズル112はモニター110の下部に形成されている。他方(上側)のノズル114はモニター110の上部に形成され且つ一方(下側)のノズル112に対して平面視で反対方向に形成されている(
図3も参照)。つまり、一方(下側)のノズル112と他方(上側)のノズル114とは、上下方向に間隔をあけて形成され且つ反対方向に向けてジェットJ等を噴出するように形成されている。なお、一方のノズル112と他方のノズル114との上下方向の間隔を上下間隔Lとする。
【0021】
[高圧噴射撹拌工法の概要]
本実施形態の高圧噴射撹拌工法の造成工程の概要について説明する。なお、以下の造成工程は、一例であってこれに限定されるものではない。また、
図1では、一方(下側)のノズル112と他方(上側)のノズル114とが同じ高さに図示されているが、実際には
図2(A)及び
図3等に示すように、ノズル112とノズル114とは、上下方向に間隔をあけて形成されている。
【0022】
・掘削工程
図1(A)に示すように、地盤10に地盤改良装置50を設置し、ロッド100で削孔し、削孔した孔内20にロッド100が挿入された状態とする。
【0023】
・プレジェット工程
図1(B)及び
図1(C)に示すように、ロッド100の先端部のモニター110のノズル112、114から水と空気とを含んだジェットMを噴出させながらロッド100を回転させた状態でロッド100を引き上げる。そして、造成する地盤改良体150(
図1(F)参照)の上端となる位置まで地盤10の土12をジェットMで切削して撹拌混合したプレジェット後対象土領域14を作成する。
【0024】
・造成工程
図1(D)に示すように、造成用のロッド100を、プレジェット後対象土領域14の底部まで挿入して、ロッド100の先端部に装着したモニター110の側面110Aのノズル112、114(
図2(A)参照)からセメントミルク等の液体状のセメント系固化材と空気とを含んだジェットJを径方向外側に向けて高圧で噴射すると共にロッド100(モニター110)を回転させる。なお、ジェットJは噴出材の一例である。
【0025】
図1(E)及び
図1(F)に示すように、ジェットJの高圧噴流によって地盤10内の土12が切削されると共に切削された土12がセメント系固化材と撹拌混合される。そして、このロッド100(モニター110)を引き上げることで、地盤10内に円柱の地盤改良体150が鉛直方向に造成される。
【0026】
ここで、本実施形態の造成工程では、ロッド100の引き上げは、段階的に行われる。具体的には、ロッド100(モニター110)の上下方向位置を固定した状態でロッド100を回転させながらジェットJを噴出させる。一回転すると、ロッド100を予め定めた幅を引き上げる。そして、再度ロッド100を回転させながらジェットJを噴出させる。この工程を繰り返すことで、地盤10内に円柱の地盤改良体150が鉛直方向に造成される。このロッド100を段階的に引き上げる幅を移動幅dとする。この移動幅dの設定方法は、後述する。
【0027】
なお、上記では、引き上げ中はロッド100(モニター110)の回転を止めていたが、これに限定されるのではなく、引き上げ中もロッド100(モニター110)を回転させていてもよい。
【0028】
また、上記では、ロッド100(モニター110)を一回転させたが、これに限定されるものではなく、ロッド100(モニター110)を一回転以上させてもよい。また、地盤改良体の断面形状が円形状以外の場合は、断面形状に合わせてロッド100(モニター110)を回転させる。例えば、ロッドの左右にそれぞれ断面扇状(断面蝶々形状の壁状)の地盤改良体を形成する場合は、ロッド100(モニター110)を一回転でなく、所定角度だけ回転(揺動)させればよい。
【0029】
[高圧噴射撹拌工法の要部]
段階的に引き上げていった際の上下のノズル112、114の通過軌跡を含めた上下方向の最大の間隔を切削間隔xとする。この切削間隔xは、ジェットJが地盤10内の土12を切削する最大幅である。そして、ノズル112とノズル114との上下間隔Lと、ロッド100(モニター110)を段階的に引き上げる移動幅dと、切削間隔xと、の関係を示す式が下記である。なお、下記式を以降「切削間隔式」と記す。
【0030】
2L≧d≧Lの場合
x=max(d-L、L)
d<Lの場合
x=max(L-kd、d-(L-kd))
kはL/d以下の最大の自然数
【0031】
次に、上下間隔Lと移動幅dと切削間隔xとの関係、つまり、上記切削間隔式について詳しく説明する。なお、以下の説明では、ノズル112とノズル114との上下間隔Lは25mmである。
【0032】
図2(A)に示すように、移動幅dが上下間隔Lと同じ25mmの場合は、切削間隔xは25mmとなる。
図2(B)に示すように、移動幅dが15mmの場合は、切削間隔xは10mmとなる。
図2(C)に示すように、移動幅dが13mmの場合は、切削間隔xは12mmとなる。)
【0033】
このように、移動幅dを小さくするにしたがって、常に切削間隔xが小さくなるわけではない。そして、このことを表す式が前述の「切削間隔式」である。なお、移動幅dの上限は2Lとしている。これは、これよりも大きいとジェットJが当たらない又は殆ど当たらない箇所、つまり未改良部分が発生する可能性が高いからである。
【0034】
図7は、上下間隔Lが25mmで移動幅dを1mm単位で大きくしていった場合の切削間隔xである。このように移動幅dを大きくしていくと、切削間隔xは山谷を繰り返して大きくなる。
【0035】
[上下間隔Lと移動幅dと切削間隔xと土塊との関係]
前述したように、高圧噴射撹拌工法は、
図1に示すように、高圧のジェットJを噴射して地盤10の土12を切削しながら、土12とセメント系固化材とを混合撹拌して地盤改良体150を造成する工法である。
【0036】
したがって、高圧噴射撹拌工法は、一般的に、撹拌翼によって地盤を切削撹拌する機械式撹拌工法と比較し、地盤改良体150中に未改良部、つまり残留する土塊が発生しやすいとされている。
【0037】
しかし、切削間隔xを小さくすると、土12が切削される間隔が小さくなるので、残留する土塊の発生を低減することができると考えられる。よって、このことを実験装置によって確認した。
【0038】
図3は、実験装置500の概要図である。実験は模擬地盤510に対してモニター110のノズル112、114から水と空気とを含むジェットMを噴射して切削撹拌を行った。模擬地盤510は赤玉土、硅砂、水及び早強セメントを混錬して型枠502に流し、2週間養生したものである。切削撹拌する上下距離は400mmである。そして、ジェットMで切削して発生する土塊512を収集し計測する。土塊512を収集する金網メッシュ514の目の大きさは、φ4.75である。型枠502の底部には、モニター110の下側ノズル112よりも下の部分を収納するため塩ビ管504を設置している。
【0039】
実験ケースは
図4に示すCase1~Case7の7通りとした。収集された土塊512の模擬地盤510の切削体積の実測値から算出した切削重量に対する収集された土塊の重量比を土塊残留率と定義した。なお、いずれの実験ケースも切削撹拌する上下距離の400mm中に噴出するジェットMの水の注入量が等しくなるように、モニター110(
図3参照)の回転速度を調整した。つまり、移動幅dが大きいほどモニター110の回転速度を遅くした。
【0040】
図5(A)はCase7を除く移動幅dと土塊残留率との関係を示すグラフであり、
図5(B)はCase7を除く切削間隔xと土塊残留率との関係を示すグラフである。
図6は、Case7を含む切削間隔xと土塊残留率との関係を示すグラフである。
【0041】
図5(A)のグラフをみると判るように、移動幅dが小さくなっても土塊残留率は必ずしも減少していかない。これに対して
図5(B)及び
図6のグラフを見ると分かるように、切削間隔xが小さくなるにしたがって土塊残留率が小さくなっている。つまり、土塊512の土塊残留率は、切削間隔xと相関があることが確認された。
【0042】
したがって、土塊512の発生を低減させるためには、単純に移動幅dを小さくするのではなく、切削間隔xを小さくすることが重要であることが確認された。
【0043】
[移動幅の決定方法]
次に、移動幅dの決定方法の例について説明する。
【0044】
前述したように、切削間隔xを小さくすると土塊の発生が低減する(
図6(B)参照)。よって、土塊を低減させるためには、切削間隔xが小さいほどよい。一方、移動幅dが小さいほど、地盤改良体150の造成に時間がかかる。
【0045】
ここで、地盤改良体150は、現場毎に目標性能が異なる。例えば、現場毎に、許容される土塊(大きさや量)、ジェットJの到達距離、ジェットJの材料構成、地盤改良時に出る汚泥量、地盤改良体150の要求品質及び地盤改良する地盤10の土質等が異なる。
【0046】
よって、地盤改良体150の目標性能を満足させることを総合的に検討する際に、土塊を効率的に低減させる観点から「切削間隔式」を用いて移動幅dを設定する。
【0047】
例えば、土塊量が目標値を満足する切削間隔xが決定され且つこの切削間隔xとなる移動幅dが複数ある場合は、最も大きな移動幅dを選択する。あるいは、目標値を満足する切削間隔x以下の範囲において、
図7の谷の頂部(底部)又はその近傍の移動幅dとする。
【0048】
或いは、例えば、地盤改良体150の目標性能を達成できる仕様が複数ある場合、土塊を効率よく減少させることできる仕様を選択する際に、「切削間隔式」を用いて移動幅dを設定する。
【0049】
[設定例]
次に具体的な移動幅dの設定例について説明する。
【0050】
・第一例
上下間隔Lが25mm、移動幅dが25mm及び切削間隔xが25mmの条件において粘性土地盤で試験的に造成した地盤改良体150に対してコアボーリングを実施した結果、30mm以上の土塊が20%混入し品質不良と判定された、言い換えるとコア採取率80%で品質不良と判定されたとする。
【0051】
なお、この判定基準は、日本建築センターの地盤改良指針に基づいている。具体的には、品質確認としてコアボーリングを実施して土塊がコア面積の50%以上混入していた場合、未改良部として扱われる。粘性土地盤の場合、改良範囲として認められるためには全長平均で未改良部が10%以下であることが(改良部としては90%以上、この改良部の割合をコア採取率と称する)であることが必要とされている。
【0052】
そこで、現在土塊の混入が20%であるが、これを前述の日本建築センターの地盤改良指針の10%以下を満足させるようにする。具体的には、
図6に示す切削間隔xが25mmの土塊残留率である80%を1/2以下、つまり土塊残留率を40%以下に減少させる。そして、
図6の実験結果から1/2以下にするためには切削間隔xを12mm以下とすればよいことが判る。
【0053】
切削間隔式を用いて作成した
図7のグラフから切削間隔xが12mmとなる移動幅dは18.5mmと13mmである。よって、移動幅dを18.5mmとすることが、効率的であり合理的である。
【0054】
なお、ばらつき等を考慮すると、切削間隔xを12mm未満とすることが望ましいと考えられる。その場合、
図7の谷の頂部までの移動幅dが16mm~18.5mmの間が適当である。更に、施工効率に問題がない場合は、移動幅dを谷の頂部である16mmとすることが適当である。
【0055】
・第二例
上下間隔Lが25mmである場合、
図6のグラフから
移動幅dが12mmで切削間隔xが11mmでの土塊残留量は40%である。
移動幅dが16mmで切削間隔xが9mmでの土塊残留量は32%である。
移動幅dが7mmで切削間隔xが4mmで土塊残留量10%である。
【0056】
これらより、初期計画の施工仕様である切削間隔x0と比較対象となる施工仕様の切削間隔xiの比である切削間隔比M%及びその時の土塊残留量の低下率を表す土塊残留比N%は、下記式で求められる。なお、切削間隔比M%は施工速度を表す指標(大きいほど施工速度が速い)であり、土塊残留比N%は改良体品質を表す指標(大きいほど品質が良い)である。
【0057】
M=[1-(x0-xi)/x0]×100
N=100-(R2-R1×M)
【0058】
なお、「x0」は当初計画切削間隔であり、「xi」は比較対象となる切削間隔である。
また、係数R1は0.5であり、係数R2は50である。これらは前述した実験(
図6)に基づいて設定されている。
【0059】
そして、土塊量以外の品質、例えば地盤改良体の直径及び噴流の圧力等を満足する施工仕様を種々検討した結果、ロッド100の引上速度(L/min)、ジェットJの圧力(MPa)及びロッド100(モニター110)の回転数(rpm)等が異なる仕様A、仕様B及び仕様Cが、ほぼ同コスト(効率)で地盤改良体150を造成できることが判ったとする。
【0060】
なお、上下間隔Lはいずれも25mmである。そして、仕様A、仕様B及び仕様Cにおける移動幅dは下記である。
【0061】
仕様A:移動幅d:25mm
仕様B:移動幅d:17mm
仕様C:移動幅d:13mm
【0062】
前述した「切削間隔式」から求めた仕様A、仕様B及び仕様Cにおける切削間隔xは下記である。
【0063】
仕様A:切削間隔25mm
仕様B:切削間隔9mm
仕様C:切削間隔12mm
【0064】
そして、前述の切削間隔xの切削間隔減少率(切削間隔比)M%及び土塊残留量の土塊低下率(土塊残留比)N%から
【0065】
仕様Aの切削間隔比Mを100%で土塊残留比Nが100%とすると、
仕様Bは切削間隔比Mが36%で土塊残留比Nが68%であり、
仕様Cは切削間隔比Mが48%で土塊残留比Nが74%となる。
【0066】
これらから切削間隔減少率Mが36%で最も小さく、土塊低下率Nが68%で最も小さい仕様Bの移動幅d17mmが、改良体品質の観点から最適とされる。
【0067】
<作用>
次に本実施形態の作用について説明する。
【0068】
本実施形態の高圧噴射撹拌工法では、ノズル112とノズル114の上下間隔Lとロッド100を段階的に引き上げる移動幅dと地盤の切削間隔xとの関係を示す式を用いて、移動幅dを設定する。
【0069】
ここで、前述したように、地盤10の切削間隔xは、移動幅dを小さくしても一律に小さくならない。また、土塊の残留は移動幅dよりも切削間隔xと相関がある。よって、上下間隔Lと移動幅dと切削間隔xとの関係を示す切削間隔式を用いてロッド100の移動幅dを設定することで、土塊を効率的に減少させることができる。
【0070】
また、地盤改良体150の仕様等から土塊量を目標以下となる切削間隔xを決定し、その切削間隔xとなる最も大きな移動幅dを選択することで、土塊を効率的に減少させることができる。
【0071】
あるいは、
図7のグラフで谷の頂点又はその近傍に移動幅dを設定することで、土塊を効率的に減少させることができる。
【0072】
また、切削間隔式と土塊残留率の実験結果とから導いた切削間隔減少率M%及び土塊残留量の土塊低下率(土塊残留比)N%を用いて、改良体品質の観点から最適とされる仕様を選択できる。
【0073】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0074】
例えば、上記実施形態では、ロッド100を段階的に引き上げて地盤改良体150を造成する場合に本発明を適用したが、これに限定されるものではない。ロッド100を段階的に引き下げて地盤改良50を造成する場合に本発明を適用してもよい。
【0075】
また、例えば、上記実施形態では、ノズル112、114からセメント系固化材を含むジェットJを噴射して土とセメント系固化材とを撹拌混合して地盤改良体を造成する場合に本発明を適用したが、これに限定されるものではない。ノズル112、114から水と空気とを含んだジェットMを噴出させてプレジェット後対象土領域14を作成する場合に本発明を適用してもよい。
【0076】
また、例えば、上記実施形態では、ノズル112とノズル114との上下間隔Lは25mmであったが、これに限定されるものではない。上下間隔Lはモニター110の仕様に合わせて設定すればよい。
【0077】
なお、上下間隔Lに対応する、
図5及び
図6のようなグラフを作成するために必要な実験を行うことが望ましい。
【0078】
また、移動幅の設定方法は、上記に限定されるものではない。移動幅の設定は、土塊を効率よく減少させる際に用いればよい。
【0079】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0080】
10 地盤
12 土
20 孔内
50 地盤改良装置
100 ロッド
110 モニター
110A 側面
112 ノズル
114 ノズル
J ジェット(噴出材の一例)
M ジェット(噴出材の一例)
L 上下間隔
d 移動幅
x 切削間隔