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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131538
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】NMR検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20240920BHJP
   G01R 33/46 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N24/00 560F
G01N24/00 580H
G01R33/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041867
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】戸田 充
(72)【発明者】
【氏名】岡田 輝政
(72)【発明者】
【氏名】山腰 良晃
(72)【発明者】
【氏名】志野 英雄
(57)【要約】
【課題】高周波核種を共振する共振器の照射効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】NMR検出器10は、絶縁体ブロック12と低周波核種用コイル14と高周波核種用コイル20とを含む。低周波核種用コイル14は、絶縁体ブロック12に形成された主貫通孔12fの内面に形成されている。偶数本の貫通孔が、絶縁体ブロック12内において、低周波核種用コイル14及び高周波核種用コイル20の磁場中心に対して対称的に、低周波核種用コイル14に沿って形成されている。高周波核種用コイル20は、絶縁体ブロック12の外周壁面12eに設けられた第1配線部と、偶数本の貫通孔の内面に設けられた第2配線部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波核種を共振する共振器に含まれる高周波核種用コイルと、
低周波核種を共振する低周波核種用コイルと、
前記高周波核種用コイルと前記低周波核種用コイルとを支持する構造体と、
を含むNMR検出器において、
前記低周波核種用コイルは、前記構造体内に設けられ、
偶数本の貫通孔が、前記構造体内において、前記低周波核種用コイル及び前記高周波核種用コイルの磁場中心に対して対称的に、前記低周波核種用コイルに沿って形成されており、
前記高周波核種用コイルは、
前記構造体の表面に設けられた第1配線部と、
前記貫通孔の内面に設けられた第2配線部と、
を含む、
ことを特徴とするNMR検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のNMR検出器において、
前記第2配線部は、前記第1配線部よりも磁場中心に近い位置に設けられている、
ことを特徴とするNMR検出器。
【請求項3】
請求項1に記載のNMR検出器において、
前記共振器はコンデンサを含み、
前記高周波核種用コイルは、
前記コンデンサの一方の電極に接続された第1サドルコイルと、
前記コンデンサの他方の電極に接続された第2サドルコイルと、
を含み、
前記第1サドルコイルと前記第2サドルコイルは、前記第1配線部と前記第2配線部とによって構成されており、
前記第1サドルコイルと前記第2サドルコイルは、前記コンデンサを介して並列に接続されている、
ことを特徴とするNMR検出器。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のNMR検出器において、
外部の二次コイルから前記高周波核種用コイルに供給される高周波の波長をλHFと定義し、m=0,1,2,・・・とすると、
前記低周波核種用コイルからグランドまでの線路長Wは、(2m+1)×λHF/4である、
ことを特徴とするNMR検出器。
【請求項5】
請求項4に記載のNMR検出器において、更に、
前記低周波核種用コイルの両端から延びるノード同士を接続する接続回路を含み、
前記接続回路は、前記低周波核種用コイルから線路長Ws(=(2m+1)×λHF/8)の位置にて前記ノード同士を接続する、
ことを特徴とするNMR検出器。
【請求項6】
請求項5に記載のNMR検出器において、
前記接続回路は、LC直列回路である、
ことを特徴とするNMR検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)信号を検出する検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)プローブの一種として、検出系冷却型NMRプローブ(クライオプローブ)が知られている。検出系冷却型NMRプローブにおいては、真空容器が用いられる。NMR信号を検出するNMR検出器等の部品が、真空容器内に配置され、極低温状態に冷却される。
【0003】
また、いわゆるクロスコイルを用いたNMR検出器が知られている。一般的に、NMR検出器は、低周波核種(例えば13C核や15N核)を共振するLF回路(低周波回路)と、高周波核種(例えばH核)を共振するHF回路(高周波回路)と、を含む(例えば特許文献1,2,3)。
【0004】
LF回路は、低周波核種用コイルと、同調/整合回路と、を含む。低周波核種用コイルは、低周波核種の共振周波数に同調及び整合することが可能な送受信コイルである。例えば、低周波核種用コイルは、ソレノイドコイルである。低周波核種用コイルの両端には、同調/整合回路が接続される。低周波核種用コイルと同調/整合回路は、上述した真空容器内に配置され、極低温状態に冷却される。
【0005】
HF回路は、HF一次共振器と、二次コイルと、HF用給電線と、マッチングボックスと、を含む。HF一次共振器は、高周波核種用コイルの一例であるヘルムホルツコイルと、コンデンサと、を含む共振回路である。HF一次共振器と二次コイルとは、無線によって互いに結合される。HF用給電線は、二次コイルの両端に接続される。少なくともHF一次共振器は、上述した真空容器内に配置され、極低温状態に冷却される。
【0006】
LF回路とHF回路との間における高周波的な干渉を最小化するために、低周波核種用コイルが生成するラジオ波磁場の軸と、HF一次共振器のヘルムホルツコイルが生成するラジオ波磁場の軸とが、互いに直交するように、各コイルが配置される。
【0007】
従来において、露出した金属による放電が真空中にて発生することを防止するために、低周波核種用コイルとHF一次共振器は、絶縁体ブロック上に設けられる。具体的には、絶縁体ブロックの表面に溝が形成され、HF一次共振器のヘルムホルツコイルを構成するコイル要素が、その溝の中に設けられる。ヘルムホルツコイルは、ブレード状の形状を有し、その大半が絶縁体ブロックで被覆されている。高周波電流は、金属-絶縁体界面(ブレード状の形状を有するコイル要素の内側の部分)に集中して分布するため、超高真空中での放電が発生し難い。ヘルムホルツコイルと低周波核種用コイルが絶縁体ブロック上に設けられることで、機械的、電気的及び耐放電的に安定な検出器が形成される。
【0008】
図11から図13を参照して、従来技術に係るNMR検出器について説明する。図11は、従来技術に係るNMR検出器を示す斜視図である。図12は、従来技術に係るHF一次共振器の展開図である。図13は、従来技術に係るHF一次共振器の等価回路を示す図である。
【0009】
従来技術に係るNMR検出器100は、絶縁体ブロック102と、低周波核種用コイル104と、HF一次共振器106と、を含む。
【0010】
絶縁体ブロック102は、低周波核種用コイル104とHF一次共振器106とが設けられる構造体である。絶縁体ブロック102は、コイル設置部102aと、コイル設置部102aから突出して設けられた突出部102bと、を含む。主貫通孔102cが、コイル設置部102aに形成されている。突出部102bは、互いに対向して配置された平行板102b1,102b2を含む。
【0011】
低周波核種用コイル104は、主貫通孔102cの内面に設けられている。例えば、低周波核種用コイル14は、ソレノイドコイルである。
【0012】
HF一次共振器106は、コンデンサ108と、高周波核種用コイル110と、を含む。
【0013】
コンデンサ108は、主電極板P1,P1’と副電極板P2,P2’とを含む。主電極板P1は、平行板102b1の内側の面に設けられており、副電極板P2は、平行板102b1の外側の面に設けられている。主電極板P1’は、平行板102b2の内側の面に設けられており、副電極板P2’は、平行板102b2の外側の面に設けられている。誘電体板112が、主電極板P1と主電極板P1’との間の空間に挿抜されることで、コンデンサ108は、可変容量Cvを有するコンデンサとして機能する。このとき、絶縁体ブロック102は極低温下に設けられ、誘電体板112は室温下に設けられる。
【0014】
平行板102b1が、主電極板P1と副電極板P2との間に設けられている。そのため、主電極板P1、副電極板P2及び平行板102b1は、固定容量C1を有するコンデンサとして機能する。
【0015】
平行板102b2が、主電極板P1’と副電極板P2’との間に設けられている。そのため、主電極板P1’、副電極板P2’及び平行板102b2は、固定容量C2を有するコンデンサとして機能する。
【0016】
固定容量C1を有するコンデンサと固定容量C2を有するコンデンサは、付加的なコンデンサであり、副電極板P2,P2’の形状及び面積を変更することで、HF一次共振器106の共振周波数のレンジを微調整することができる。
【0017】
高周波核種用コイル110は、一対のサドルコイルであり、低周波核種用コイル104を囲むように絶縁体ブロック102に設けられている。具体的には、高周波核種用コイル110は、第1サドルコイルと第2サドルコイルとを含む。第1サドルコイルは、コンデンサ108の一方の電極である主電極板P1に接続されている。第2サドルコイルは、コンデンサ108の他方の電極である主電極板P1’に接続されている。
【0018】
第1サドルコイルは、主電極板P1から主電極板P1’までの一連のコイル要素によって構成される。具体的には、第1サドルコイルは、コイル要素として、主電極板P1、外ブレードB1、下ブレードB2、外ブレードB3、上ブレードB4、折り返しブレードB5、天板ブレードB6及びショートカットブレードB7を含み、これらのコイル要素が、その順番で接続されている。これにより、第1サドルコイルが構成される。
【0019】
第1サドルコイルと同様に、主電極板P1’から主電極板P1までの一連のコイル要素が順番に接続されることで、第2サドルコイルが構成される。具体的には、第2サドルコイルは、コイル要素として、主電極板P1’、外ブレードB1’、下ブレードB2’、外ブレードB3’、上ブレードB4’、折り返しブレードB5’、天板ブレードB6’及びショートカットブレードB7を含み、これらのコイル要素が、その順番で接続されている。これにより、第2サドルコイルが構成される。
【0020】
副電極板P2は、天板ブレードB6に接続されており、副電極板P2’は、天板ブレードB6’に接続されている。
【0021】
従来技術に係るサドルコイルは、外部の二次コイルとの磁気結合性を確保するために、1ターン以上の閉じたループとして形成される必要がある。すなわち、サドルコイルの両端が、コンデンサ108を構成する電極に接続される必要があるため、折り返しブレードB5,B5’を設ける必要がある。
【0022】
しかし、折り返しブレードB5は、サドルコイルの直線部である上ブレードB4とは逆方向に延在するため、高周波照射磁場を弱め、高周波照射磁場の効率を低下させる。また、折り返しブレードB5が、コンデンサ108の副電極板P2に近接するため、沿面放電を誘発し易いという問題がある。折り返しブレードB5’と上ブレードB4’についても同様である。
【0023】
図12は、HF一次共振器106を展開した状態を示す図である。HF一次共振器106は、ヘルムホルツコイルによって構成される共振回路である。そのヘルムホルツコイルは、一対のサドルコイル(第1サドルコイルと第2サドルコイル)によって構成される。第1サドルコイルと第2サドルコイルは、コンデンサ108の主電極板P1,P1’を中心に二回転対称に配置されている。そのヘルムホルツコイルが形成する磁場の中心(つまり試料の中心)に、振動磁場が形成される。
【0024】
図13には、HF一次共振器106の等価回路が示されている。インダクタンスLS1を実現する第1サドルコイルが、可変容量CVを有するコンデンサ108の一方の電極に接続されている。インダクタンスLS2を実現する第2サドルコイルが、コンデンサ108の他方の電極に接続されている。これにより、第1サドルコイルと第2サドルコイルが、コンデンサ108を介して直列に接続される。この回路を構成するコイルは、シングルコイルと呼ばれる。
【0025】
HF一次共振器106の全体のインダクタンスLは、以下の式(1)で定義されるように、インダクタンスLS1とインダクタンスLS2との直列の和である。
=LS1+LS2・・・(1)
【0026】
インダクタンスLS1とインダクタンスLS2とが同じである場合(LS1=LS2である場合)、インダクタンスLは、以下の式(2)で定義される。
=LS1×2・・・(2)
【0027】
HF一次共振器106の共振周波数ω は、以下の式(3)で定義される。
【数1】
なお、単純化のため、C及びCは、その効果が無視できるほど小さい値とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第6931565号公報
【特許文献2】米国特許第9411028号明細書
【特許文献3】米国特許第5539315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
一般的に、高周波は観測周波数でないため、低周波(観測核の搬送周波数)を高感度で検出する上で、高周波信号の検出効率の良さは必要条件ではない。しかしながら、有機物のような試料を観測する場合、観測時のデカップリング(パルス系列によって内部相互作用(特に、異種核間の双極子相互作用)を平均化する手法)に要する高周波の照射効率は、スペクトル分解能の観点から非常に重要である。上述した特許文献に記載されたHF一次共振器は、試料に対してHF搬送波の振動磁場を与えることができるが、その照射効率が低いという問題がある。
【0030】
本発明の目的は、高周波核種を共振する共振器の照射効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の1つの態様は、高周波核種を共振する共振器に含まれる高周波核種用コイルと、低周波核種を共振する低周波核種用コイルと、前記高周波核種用コイルと前記低周波核種用コイルとを支持する構造体と、を含むNMR検出器において、前記低周波核種用コイルは、前記構造体内に設けられ、偶数本の貫通孔が、前記構造体内において、前記低周波核種用コイル及び前記高周波核種用コイルの磁場中心に対して対称的に、前記低周波核種用コイルに沿って形成されており、前記高周波核種用コイルは、前記構造体の表面に設けられた第1配線部と、前記貫通孔の内面に設けられた第2配線部と、を含む、ことを特徴とするNMR検出器である。
【0032】
前記第2配線部は、前記第1配線部よりも磁場中心に近い位置に設けられてもよい。
【0033】
前記共振器はコンデンサを含み、前記高周波核種用コイルは、前記コンデンサの一方の電極に接続された第1サドルコイルと、前記コンデンサの他方の電極に接続された第2サドルコイルと、を含み、前記第1サドルコイルと前記第2サドルコイルは、前記第1配線部と前記第2配線部とによって構成されており、前記第1サドルコイルと前記第2サドルコイルは、前記コンデンサを介して並列に接続されてもよい。
【0034】
外部の二次コイルから前記高周波核種用コイルに供給される高周波の波長をλHFと定義し、m=0,1,2,・・・とすると、前記低周波核種用コイルからグランドまでの線路長Wは、(2m+1)×λHF/4であってもよい。
【0035】
前記低周波核種用コイルの両端から延びるノード同士を接続する接続回路を含み、前記接続回路は、前記低周波核種用コイルから線路長Ws(=(2m+1)×λHF/8)の位置にて前記ノード同士を接続してもよい。
【0036】
前記接続回路は、LC直列回路であってもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高周波核種を共振する共振器の照射効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施形態に係るNMR検出器を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る絶縁体ブロックを示す斜視図である。
図3】実施形態に係る絶縁体ブロックを示す斜視図である。
図4】実施形態に係るHF一次共振器の展開図である。
図5】実施形態に係るHF一次共振器の等価回路を示す図である。
図6】入射電力とHF振動磁場強度との関係を示すグラフである。
図7】従来技術に係るNMRプローブの回路構成を示す図である。
図8】実施形態に係るNMRプローブの回路構成の一部を示す図である。
図9】実施形態に係るNMRプローブの回路構成の一部を示す図である。
図10】実施形態に係るNMRプローブの回路構成を示す図である。
図11】従来技術に係るNMR検出器を示す斜視図である。
図12】従来技術に係るHF一次共振器の展開図である。
図13】従来技術に係るHF一次共振器の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1から図4を参照して、実施形態に係るNMR検出器について説明する。図1は、実施形態に係るNMR検出器10を示す斜視図である。図2及び図3は、実施形態に係る絶縁体ブロック12を示す斜視図である。図4は、HF一次共振器16を展開した図である。なお、図4には、絶縁体ブロック12の外周壁面12e上の位置と、HF一次共振器16を構成するコイル要素の位置と、の関係が矢印で示されている。
【0040】
NMR検出器10は、絶縁体ブロック12(図2,3参照)と、低周波核種用コイル14と、HF一次共振器16と、を含む。
【0041】
絶縁体ブロック12は、低周波核種用コイル14とHF一次共振器16とを支持する構造体である。図2及び図3に示すように、絶縁体ブロック12は、コイル設置部12aと、コイル設置部12aから突出して設けられた突出部12bと、を含む。
【0042】
コイル設置部12aは、例えば角柱(例えば、八角形等の多角形の底面を有する柱体)状の形状を有する構造体である。コイル設置部12aは、前側壁面12cと、前側壁面12cに対向する後ろ側壁面12dと、外周壁面12eと、を有する。
【0043】
主貫通孔12fが、コイル設置部12aに形成されている。具体的には、主貫通孔12fは、前側壁面12cから後ろ側壁面12dに掛けて形成されている。
【0044】
上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4が、コイル設置部12aに形成されている。上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、貫通孔である。上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、主貫通孔12fを囲むように、主貫通孔12fに沿って前側壁面12cから後ろ側壁面12dに掛けて形成されている。例えば、上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、互いに等しい間隔をあけて、主貫通孔12fを軸として回転対称の位置に形成されている。後述するように、低周波核種用コイル14が、主貫通孔12fの内面に設けられる。また、高周波核種用コイル20が、コイル設置部12aに設けられる。上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、低周波核種用コイル14及び高周波核種用コイル20の磁場中心に対して対称的に、低周波核種用コイル14に沿って形成されている。
【0045】
例えば、上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、主貫通孔12fに対して平行に形成されており、主貫通孔12f及び外周壁面12eと交差しない。また、後述するように、上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4は、ブレード(HF一次共振器16の高周波核種用コイル20を構成するコイル要素)と交差しない。
【0046】
図1から図3に示す例では、4本のトンネル(上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4)が形成されている。この本数は一例であり、偶数本のトンネル、つまり2×n(nは1以上の整数)本のトンネルが、形成される。
【0047】
導体金属薄膜が、上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4の内周の全面に密着して形成されている。上トンネル12g1,12g3と下トンネル12g2,12g4の内面に形成された導体金属薄膜は、HF一次共振器16の高周波核種用コイル20を構成するコイル要素であり、直線部に相当する。
【0048】
ウェル12h1~12h8が、コイル設置部12aに形成されている。ウェル12h1~12h8は、貫通孔である。
【0049】
ウェル12h1は、前側壁面12cの付近において、上トンネル12g1に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0050】
ウェル12h2は、後ろ側壁面12dの付近において、上トンネル12g1に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0051】
ウェル12h3は、前側壁面12cの付近において、下トンネル12g2に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0052】
ウェル12h4は、後ろ側壁面12dの付近において、下トンネル12g2に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0053】
ウェル12h5は、前側壁面12cの付近において、上トンネル12g3に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0054】
ウェル12h6は、後ろ側壁面12dの付近において、上トンネル12g3に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0055】
ウェル12h7は、前側壁面12cの付近において、下トンネル12g4に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0056】
ウェル12h8は、後ろ側壁面12dの付近において、下トンネル12g4に繋がっており、その部分から外周壁面12eまで形成されている。
【0057】
ウェル12h1~12h8は、各トンネルの軸と直交する。ウェル12h1~12h8は、外周壁面12eにてブレード(HF一次共振器16の高周波核種用コイル20を構成するコイル要素)と交差する。ウェル12h1~12h8は、主貫通孔12fと交差しない。
【0058】
導体金属薄膜が、ウェル12h1~12h8の内周の全面に密着して形成されている。ウェル12h1~12h8の内面に形成された導体金属薄膜は、HF一次共振器16の高周波核種用コイル20を構成するコイル要素であり、トンネルの内面に形成されたコイル要素(導体金属薄膜)とブレードとを接続する接続部に相当する。
【0059】
突出部12bは、互いに対向して配置された平行板12b1,12b2を含む。平行板12b1,12b2は、コイル設置部12aから突出して設けられている。
【0060】
絶縁体ブロック12は、低誘電率・低誘電損失の絶縁体である。例えば、絶縁体ブロック12は、高純度(例えば99.9%)のサファイアやアルミナ等によって構成されている。
【0061】
低周波核種用コイル14は、主貫通孔12fの内面に設けられている。例えば、低周波核種用コイル14は、ソレノイドコイルであり、前側壁面12cから後ろ側壁面12dに掛けて設けられている。なお、低周波核種用コイル14は、主貫通孔12fの内面から露出していてもよいし、コイル設置部12aに埋め込まれていてもよい。低周波核種用コイル14は、リボン形状の導体(リボン導体)によって構成されている。磁場軸に沿った方向のリボン導体の幅を「リボン幅D1」と定義し、互いに隣り合うリボン導体の間の隙間の距離を「リボン間隔D2」と定義する。
【0062】
低周波核種用コイル14の材料として、例えば、常温下及び低温下において高い電気伝導度(低い高周波抵抗)を有する導体(例えば高純度の無酸素銅)が用いられる。
【0063】
図示しない試料管が、主貫通孔12f内に挿入されて配置される。例えば、試料管は、低周波核種用コイル14の中央に配置される。試料管が、いわゆるマジック角を持った傾斜姿勢で配置されるように、NMR検出器10が設置される。低周波核種用コイル14は、試料中の低周波核種(例えば13C核や15N核)のNMR信号の送受信を行うための送受信コイルに相当する。HF一次共振器16は、その試料中の高周波核種(例えばH)のNMR信号の送受信を行うための送受信コイルに相当する。
【0064】
HF一次共振器16は、コンデンサ18と、高周波核種用コイル20と、を含む。
【0065】
コンデンサ18は、主電極板P1a,P1bと副電極板P2a,P2bとによって構成されている。なお、副電極板P2bは、図1に示されておらず、図4に示されている。
【0066】
主電極板P1aは、平行板12b1の内側の面に設けられており、副電極板P2aは、平行板12b1の外側の面に設けられている。主電極板P1aと副電極板P2aは、平行板12b1を挟むように設けられている。
【0067】
主電極板P1bは、平行板12b2の内側の面に設けられており、副電極板P2bは、平行板12b2の外側の面に設けられている。主電極板P1bと副電極板P2bは、平行板12b2を挟むように設けられている。
【0068】
誘電体板22が、主電極板P1aと主電極板P1bとの間の空間に挿抜されることで、コンデンサ18は、可変容量Cvを有する主コンデンサとして機能する。このとき、絶縁体ブロック12は、極低温下に設けられ、誘電体板22は、室温下に設けられる。
【0069】
平行板12b1が、主電極板P1aと副電極板P2aとの間に設けられている。そのため、主電極板P1a、副電極板P2a及び平行板12b1は、固定容量C1を有する副コンデンサとして機能する。
【0070】
平行板12b2が、主電極板P1bと副電極板P2bとの間に設けられている。そのため、主電極板P1b、副電極板P2b及び平行板12b2は、固定容量C2を有する副コンデンサとして機能する。
【0071】
固定容量C1を有する副コンデンサと固定容量C2を有する副コンデンサは、付加的なコンデンサであり、副電極板P2a,P2bの形状及び面積を変更することで、HF一次共振器16の共振周波数のレンジを微調整することができる。
【0072】
高周波核種用コイル20は、一対のサドルコイルであり、低周波核種用コイル14を囲むように絶縁体ブロック12に設けられている。具体的には、高周波核種用コイル20は、第1サドルコイルと第2サドルコイルとを含む(図4参照)。第1サドルコイルは、コンデンサ18の一方の電極である主電極板P1aに接続されている。第2サドルコイルは、コンデンサ18の他方の電極である主電極板P1bに接続されている。第1サドルコイルと第2サドルコイルは、コンデンサ18を介して並列に接続されている。高周波核種用コイル20の材料としては、常温下及び低温下において高い電気伝導度(低い高周波抵抗)を有する導体(例えば高純度の無酸素銅)が用いられる。
【0073】
第1サドルコイルは、主電極板P1aから主電極板P1bまでの一連のコイル要素によって構成される。
【0074】
具体的には、第1サドルコイルは、天板ブレードB1a、外ブレードB2a、コイル要素T1a、外ブレードB3a、コイル要素T2a、内ブレードB4a、下ブレードB5a、内ブレードB6a及び天板ブレードB1bによって構成されている。天板ブレードB1a、外ブレードB2a、コイル要素T1a、外ブレードB3a、コイル要素T2a、内ブレードB4a、下ブレードB5a、内ブレードB6a及び天板ブレードB1bは、第1サドルコイルを構成するコイル要素である。
【0075】
天板ブレードB1a、外ブレードB2a、外ブレードB3a、内ブレードB4a、下ブレードB5a、内ブレードB6a及び天板ブレードB1bは、絶縁体ブロック12の外周壁面12e(つまり表面)に形成されたコイル要素である。例えば、外周壁面12eに溝が形成され、天板ブレードB1a、外ブレードB2a、外ブレードB3a、内ブレードB4a、下ブレードB5a、内ブレードB6a及び天板ブレードB1bは、その溝の中に設けられている。
【0076】
天板ブレードB1a、外ブレードB2a、外ブレードB3a、内ブレードB4a、下ブレードB5a、内ブレードB6a及び天板ブレードB1bは、第1サドルコイルを構成する第1配線部の一例に相当する。
【0077】
コイル要素T1aは、下トンネル12g2の内面に形成された導体金属薄膜である。コイル要素T2aは、上トンネル12g1の内面に形成された導体金属薄膜である。コイル要素T1a及びコイル要素T2aは、第1サドルコイルを構成する第2配線部の一例に相当する。
【0078】
天板ブレードB1aの一端は、主電極板P1aに接続されている。天板ブレードB1aの他端は、外ブレードB2aの上端に接続されている。外ブレードB2aは、上下方向に延在するコイル要素であり、天板ブレードB1aの他端からウェル12h4まで設けられている。外ブレードB2aの下端は、ウェル12h4の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。外ブレードB2aの下端は、ウェル12h4内に形成された導体金属薄膜を介して、下トンネル12g2の内面に形成されたコイル要素T1aの後端に接続されている。
【0079】
コイル要素T1aの先端は、ウェル12h3の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。コイル要素T1aの先端は、ウェル12h3の内面に形成された導体金属薄膜を介して、外ブレードB3aの下端に接続されている。
【0080】
外ブレードB3aは、上下方向に延在するコイル要素であり、ウェル12h3からウェル12h1まで設けられている。外ブレードB3aの上端は、ウェル12h1の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。外ブレードB3aの上端は、ウェル12h1内に形成された導体金属薄膜を介して、上トンネル12g1の内面に形成されたコイル要素T2aの先端に接続されている。
【0081】
コイル要素T2aの後端は、ウェル12h2の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。コイル要素T2aの後端は、ウェル12h2の内面に形成された導体金属薄膜を介して、内ブレードB4aの上端に接続されている。
【0082】
内ブレードB4aは、外ブレードB2aよりも内側の位置にて、上下方向に延在するコイル要素である。内ブレードB4aの下端は、下ブレードB5aの後端に接続されている。下ブレードB5aは、内ブレードB4aの下端から前側壁面12cへ向けて延在して設けられている。
【0083】
下ブレードB5aの先端は、内ブレードB6aの下端に接続されている。内ブレードB6aは、外ブレードB3aよりも内側の位置にて、上下方向に延在するコイル要素である。内ブレードB6aの上端は、天板ブレードB1bの一端に接続されている。天板ブレードB1bは、コンデンサ18を間にして天板ブレードB1aの反対側に設けられている。天板ブレードB1bの他端は、主電極板P1bに接続されている。
【0084】
以上のようにして、複数のコイル要素によって第1サドルコイルが構成される。
【0085】
第1サドルコイルと同様に、主電極板P1bから主電極板P1aまで一連のコイル要素が順番に接続されることで、第2サドルコイルが構成される。
【0086】
具体的には、第2サドルコイルは、天板ブレードB1b、外ブレードB2b、コイル要素T1b、外ブレードB3b、コイル要素T2b、内ブレードB4b、下ブレードB5b、内ブレードB6b及び天板ブレードB1aによって構成されている。天板ブレードB1b、外ブレードB2b、コイル要素T1b、外ブレードB3b、コイル要素T2b、内ブレードB4b、下ブレードB5b、内ブレードB6b及び天板ブレードB1aは、第2サドルコイルを構成するコイル要素である。
【0087】
第2サドルコイルを構成するコイル要素は、主貫通孔12f(つまり低周波核種用コイル14)を間にして、第1サドルコイルを構成するコイル要素の反対側に設けられている。具体的には、外ブレードB2b、コイル要素T1b、外ブレードB3b、コイル要素T2b、内ブレードB4b、下ブレードB5b及び内ブレードB6bは、主貫通孔12fを間にして、外ブレードB2a、コイル要素T1a、外ブレードB3a、コイル要素T2a、内ブレードB4a、下ブレードB5a及び内ブレードB6aの反対側に設けられている。
【0088】
天板ブレードB1b、外ブレードB2b、外ブレードB3b、内ブレードB4b、下ブレードB5b、内ブレードB6b及び天板ブレードB1aは、絶縁体ブロック12の外周壁面12e(つまり表面)に形成されたコイル要素である。例えば、外周壁面12eに溝が形成され、天板ブレードB1b、外ブレードB2b、外ブレードB3b、内ブレードB4b、下ブレードB5b、内ブレードB6b及び天板ブレードB1aは、その溝の中に設けられている。
【0089】
天板ブレードB1b、外ブレードB2b、外ブレードB3b、内ブレードB4b、下ブレードB5b、内ブレードB6b及び天板ブレードB1aは、第2サドルコイルを構成する第1配線部の一例に相当する。
【0090】
コイル要素T1bは、下トンネル12g4の内面に形成された導体金属薄膜である。コイル要素T2bは、上トンネル12g3の内面に形成された導体金属薄膜である。コイル要素T1b及びコイル要素T2bは、第2サドルコイルを構成する第2配線部の一例に相当する。
【0091】
天板ブレードB1bの一端は、主電極板P1bに接続されている。天板ブレードB1bの他端は、外ブレードB2bの上端に接続されている。外ブレードB2bは、上下方向に延在するコイル要素であり、天板ブレードB1bの他端からウェル12h7まで設けられている。外ブレードB2bの下端は、ウェル12h7の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。外ブレードB2bの下端は、ウェル12h7内に形成された導体金属薄膜を介して、下トンネル12g4の内面に形成されたコイル要素T1bの先端に接続されている。
【0092】
コイル要素T1bの後端は、ウェル12h8の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。コイル要素T1bの後端は、ウェル12h8の内面に形成された導体金属薄膜を介して、外ブレードB3bの下端に接続されている。
【0093】
外ブレードB3bは、上下方向に延在するコイル要素であり、ウェル12h8からウェル12h6まで設けられている。外ブレードB3bの上端は、ウェル12h6の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。外ブレードB3bの上端は、ウェル12h6内に形成された導体金属薄膜を介して、上トンネル12g3の内面に形成されたコイル要素T2bの後端に接続されている。
【0094】
コイル要素T2bの先端は、ウェル12h5の内面に形成された導体金属薄膜(コイル要素の一例)に接続されている。コイル要素T2bの先端は、ウェル12h5の内面に形成された導体金属薄膜を介して、内ブレードB4bの上端に接続されている。
【0095】
内ブレードB4bは、外ブレードB2bよりも内側の位置にて、上下方向に延在するコイル要素である。内ブレードB4bの下端は、下ブレードB5bの先端に接続されている。下ブレードB5bは、内ブレードB4bの下端から後ろ側壁面12dへ向けて延在して設けられている。
【0096】
下ブレードB5bの後端は、内ブレードB6bの下端に接続されている。内ブレードB6bは、外ブレードB3bよりも内側の位置にて、上下方向に延在するコイル要素である。内ブレードB6bの上端は、天板ブレードB1aの一端に接続されている。
【0097】
以上のようにして、複数のコイル要素によって第2サドルコイルが構成される。
【0098】
第1サドルコイルと第2サドルコイルは、低周波核種用コイル14を両側から挟むように設けられている。第1サドルコイル及び第2サドルコイルを構成する複数のコイル要素を立体的に交差させることで、コイルの巻き数及びインダクタンスを増加させることができる。
【0099】
また、副電極板P2aは、天板ブレードB1bに接続されており、副電極板P2bは、天板ブレードB1aに接続されている。
【0100】
HF一次共振器16は、ヘルムホルツコイルによって構成される共振回路である。図4に示すように、そのヘルムホルツコイルは、一対のサドルコイル(第1サドルコイルと第2サドルコイル)によって構成される。第1サドルコイルと第2サドルコイルは、コンデンサ18の主電極板P1a,P1bを中心に二回転対称に配置されている。そのヘルムホルツコイルが形成する磁場の中心(つまり試料の中心)に、振動磁場が形成される。
【0101】
図5には、HF一次共振器16の等価回路が示されている。インダクタンスLD1を実現する第1サドルコイルが、可変容量CVを有するコンデンサ18の一方の電極に接続されている。インダクタンスLD2を実現する第2サドルコイルが、コンデンサ18の他方の電極に接続されている。これにより、第1サドルコイルと第2サドルコイルが、コンデンサ18を介して並列に接続される。この回路を構成するコイルは、ダブルコイルと呼ばれる。
【0102】
HF一次共振器16は、ダブルコイルによって構成されているため、HF一次共振器16の全体のインダクタンスLは、以下の式(4)で定義されるように、第1サドルコイルのインダクタンスLD1と第2サドルコイルのインダクタンスLD2との並列の和である。
=LD1D2/(LD1+LD2)・・・(4)
【0103】
インダクタンスLD1とインダクタンスLD2が同じである場合(LD1=LD2の場合)、インダクタンスLは、以下の式(5)で定義される。
=LD1/2・・・(5)
【0104】
HF一次共振器16の共振周波数ω は、以下の式(6)で定義される。
【数2】
単純化のため、C及びCは、その効果が無視できるほど小さい値とした。
【0105】
実施形態についての式(6)(ダブルコイルについての式)と、従来技術についての式(3)(シングルコイルについての式)と、を比較する。実施形態と従来技術とで共振周波数は同じ値に設定される(ω =ω )。そのため、実施形態に係るインダクタンスLD1と従来技術に係るインダクタンスLS1との間には、以下の式(7)に示す関係が成立する。
D1=LS1×4・・・(7)
【0106】
つまり、ダブルコイル方式におけるサドルコイル1個当たりのインダクタンスは、シングルコイル方式におけるサドルコイル1個当たりのインダクタンスの4倍となる。
【0107】
一般的に、第1サドルコイルと第2サドルコイルが同相モードで振動磁場を誘起する場合、ヘルムホルツコイルの磁場中心Oにおける磁場強度は、第1サドルコイルが発生する磁場の強度と第2サドルコイルが発生する磁場の強度との合成である。この場合、磁場中心におけるシングルコイル方式の磁場強度B (O)と、磁場中心におけるダブルコイル方式の磁場強度B (O)との間には、以下の式(8)に示される関係が成立する。
(O)=B (O)×4・・・(8)
【0108】
従って、実施形態に係るHF一次共振器16において磁場中心に発生するHF搬送波の照射磁場効率は、従来技術に係るHF一次共振器106において磁場中心に発生するHF搬送波の照射磁場効率の4倍となる。
【0109】
以下、低周波核種用コイル14の形状がHF搬送波に与える影響について説明する。
【0110】
低周波核種用コイル14(ソレノイドコイル)の磁場軸と高周波核種用コイル20(ヘルムホルツコイル)の磁場軸は、互いに直交する。
【0111】
磁場軸に沿った方向をアキシャル方向とし、アキシャル方向に直交する方向をラジアル方向とする。上述したように、低周波核種用コイル14は、リボン形状の導体によって構成されている。その導体の面の法線は、ラジアル方向に平行である。そのため、高周波核種用コイル20の磁場中心にHF搬送波を誘起しようとすると、HF振動電磁波がリボン状導体を貫通する際に生じる渦電流損、又は、リボン導体での反射の効果によって、低周波核種用コイル14が存在しない場合と比べて、磁場中心における照射磁場効率が低下する。一方、互いに隣り合うリボン導体の間の隙間が大きい場合、HF振動磁場の照射効率の低下は生じにくくなる。
【0112】
低周波核種用コイル14のリボン幅D1とリボン間隔D2との比率に着目すると、リボン間隔D2に対してリボン幅D1が大きいと、過電流損や反射によって、HF振動磁場の照射効率が低下する。一方、リボン幅D1に対してリボン間隔D2が大きいと、低周波核種用コイル14の抵抗が増大し、LF振動磁場の照射効率又はLF観測核の測定感度が、低下する。高周波の照射磁場効率の低下防止と、低周波の照射磁場効率の低下防止と、を両立させるためには、例えば、リボン幅とリボン間隔との比率として、リボン幅:リボン間隔=1:1、又は、その付近が設定される。
【0113】
例えば、リボン幅D1とリボン間隔D2との比率が、以下の式(9)を満たすように定められる。
0.9/1.1≧リボン幅D1/リボン間隔D2≧1.1/0.9・・・(9)
【0114】
実施形態に係るHF一次共振器16の動作は、特許第6931565号公報に記載されている動作と同じである。つまり、HF一次共振器16は、外部の二次コイルと誘導結合することで、共振回路として機能し、試料が配置される空間にHF磁場を照射する。これにより、試料中のHF核種の共鳴信号を検出することができ、また、HF核種をデカップリングしてLF核種の信号を高分解能で測定することができる。
【0115】
具体的な実施例として、HF信号磁場の照射効率を測定した。9.4Tマグネット下(HF搬送周波数=400MHz)において、NMR検出器が搭載されたクライオコイルMASプローブを極低温状態(<20K)に冷却した。試料は室温下に置かれた。H-13C二重共鳴NMR実験法(CPMAS法)に基づき、H磁化のニューテーション周波数を間接測定した。これにより、従来技術に係るNMR検出器100をクライオコイルMASプローブに搭載した場合と、実施形態に係るNMR検出器10をクライオコイルMASプローブに搭載した場合のそれぞれにおいて、入力電力に対するHF振動磁場強度の依存性を測定した。
【0116】
図6には、その測定結果が示されている。横軸は入力電力を示しており、縦軸はHF振動磁場強度を示している。
【0117】
例えば、入力電力が89Wである場合、実施形態のHF振動磁場強度(~80kHz)は、従来技術のHF振動磁場強度(~22kHz)の約4倍となっている。ダブルコイル方式によれば、シングル方式と比較して、照射効率が向上することが分かる。
【0118】
実施形態に係るNMR検出器10によれば、トンネルの内面に形成されたコイル要素T1a,T1b,T2a,T2bは、絶縁体ブロック12の内部に形成され、絶縁体ブロック12の表面よりも試料に近い位置に配置される。つまり、コイル要素T1a,T1b,T2a,T2bは、従来技術に係るブレード状のコイル要素よりも、試料に近い位置に配置される。それ故、試料が配置される空間における磁束密度が高くなり、HF照射磁場の効率を向上させることができる。
【0119】
また、実施形態では、トンネルの内面に形成されたコイル要素以外のコイル要素(B1a~B6a,B1b~B6b)は、低周波核種用コイル14からなるべく離れた外周壁面12eに形成されている。そのため、これらのコイル要素(B1a~B6a,B1b~B6b)と低周波核種用コイル14との相互作用の影響を極力抑えることができる。
【0120】
つまり、高周波核種用コイル20の一部のコイル要素(コイル要素T1a,T1b,T2a,T2b)を試料になるべく近い位置に配置することで、HF照射磁場の効率を向上させると共に、高周波核種用コイル20の他のコイル要素(B1a~B6a,B1b~B6b)を、低周波核種用コイル14からなるべく離れた位置に配置することで、低周波核種用コイル14との相互作用による影響を極力抑えることができる。
【0121】
また、高周波核種用コイル20を構成する複数のコイル要素が立体的に交差するため、高周波核種用コイル20の巻き数を、従来技術に係る高周波核種用コイルの巻き数よりも増やして、ダブルコイル方式に必要なインダクタンスを確保することができる。
【0122】
また、実施形態によれば、従来技術に係る折り返しブレードが不要となるため、HF照射磁場の効率を向上させることができる。
【0123】
また、副電極板P2a,P2bと上トンネル内のコイル要素T2a,T2bとの間には、肉厚の絶縁体が設けられているため、原理的に沿面放電は発生しない。それ故、HF磁場を安定的に照射することができる。
【0124】
HF一次共振器16を構成するコイル要素は、めっき等によって絶縁体ブロック12上に形成される。例えば、レーザー加工等によって、外周壁面12eに、HF一次共振器16を構成する各コイル要素の形状を有する溝を形成する。次に、外周壁面12eに対して銅めっき等のめっき処理を施し、銅等の金属によって溝を埋める。そして、溝以外の面の金属をエッチング等によって剥離する。また、絶縁体ブロック12に上トンネル12g1,12g3及び下トンネル12g2,12g4を形成し、上トンネル12g1,12g3及び下トンネル12g2,12g4の内面に、銅等の金属薄膜を形成する。また、絶縁体ブロック12の外側面の全体をアルミナ粉末等の絶縁材料でコーティングすることで、HF一次共振器16の全面を絶縁体で覆う。また、コイル設置部12aに形成された主貫通孔12fの内面全体に対してめっき処理を施すことで、導体膜を形成する。その後、導体膜に対してパターニングを施した上で、エッチング処理を施すことで、低周波核種用コイル14が形成される。
【0125】
以下、実施形態に係るNMRプローブの回路構成について説明する。
【0126】
実施形態に係るNMRプローブの回路構成を説明する前に、従来技術に係るNMRプローブの回路構成について説明する。図7には、従来技術に係るNMRプローブの回路構成が示されている。
【0127】
真空容器200内には真空断熱空間202が形成されている。低周波核種用コイル204、HF一次共振器206、チューニング可変コンデンサ208、バランス可変コンデンサ210、マッチング可変コンデンサ212、LF用伝送線路(極低温用同軸ケーブル)214、デュプレクサー216、及び、プリアンプ218が、真空断熱空間202内に設けられている。これらは真空容器200内にて冷却され、これにより、NMR信号の検出感度が向上する。
【0128】
低周波核種用コイル204の一端にチューニング可変コンデンサ208が接続され、低周波核種用コイル204はチューニング可変コンデンサ208を介してグランドに接続されている。また、低周波核種用コイル204の他端にバランス可変コンデンサ210が接続され、低周波核種用コイル204はバランス可変コンデンサ210を介してグランドに接続されている。これにより、同調が行われる。また、低周波核種用コイル204の一端はマッチング可変コンデンサ212に接続されており、これにより整合が行われる。その一端は、マッチング可変コンデンサ212を介してLF用伝送線路214に接続され、更に、LF用伝送線路214を介して、デュプレクサー216及びプリアンプ218に接続されている。これらの構成要素は、真空断熱空間202内にて冷却される。低周波核種用コイル204の導体部分の温度を極低温に下げることで、低周波核種(LF)のNMR信号の検出感度が向上する。また、デュプレクサー216にはLF送信ポート220が接続されており、プリアンプ218にはLF受信ポート222が接続されている。デュプレクサー216は、送信時には、LF送信ポート220を介して分光計から送られた送信信号を低周波核種用コイル204に送り、受信時には、低周波核種用コイル204にて検出されたNMR信号をプリアンプ218に送る。NMR信号はプリアンプ218によって増幅されて、LF受信ポート222を介して分光計に送られる。
【0129】
低周波核種用コイル204を囲むようにHF一次共振器206が設置されている。HF一次共振器206は、一対のサドルコイル(サドルコイル224,226)からなるヘルムホルツコイルと、サドルコイル224,226の間に設けられた副コンデンサ228及び主コンデンサ(可変コンデンサ)230と、を含み、これらの構成要素によってLC共振回路として構成されている。これらの構成要素は、真空断熱空間202内にて冷却される。低周波核種用コイル204の導体部分の温度を極低温に下げることで、低周波核種(LF)のNMR信号の検出感度に影響を与えないようになっている。真空容器200の外部には、HF一次共振器206に対応する位置にHF二次コイル232が移動可能に設けられている。HF一次共振器206は、そのHF二次コイル232とワイヤレスに結合している。HF二次コイル232は、HF用伝送線路(同軸ケーブル)234を介してHF送受信ポート236に接続されている。これにより、HF一次共振器206は、HF二次コイル232とHF用伝送線路234を介してHF送受信ポート236に電気的に接続されている。また、HF送受信ポート236は、マッチング可変コンデンサ238を介してHF送受信ポート240に接続されている。HF送受信ポート240は電気的に分光計に接続されている。また、マッチング可変コンデンサ242が、HF送受信ポート236に接続されている。上記の構成によれば、高周波に対応する電磁波をHF一次共振器206から試料に照射することが可能となる。
【0130】
従来技術においては、低周波核種用コイル204の主要な照射磁場の向きとHF一次共振器206の主要な照射磁場の向きとが直交するように、低周波核種用コイル204とHF一次共振器206とが配置される。そのため、LF回路とHF回路との相互インダクタンスに基づく誘導性結合は生じない。また、HF一次共振器206のサドルコイルを構成するコイル要素と低周波核種用コイル204を構成するコイル要素との間隔は、リボン状のソレノイドコイルの有限長の幅に比べて、比較的に離れている。サドルコイルを構成するコイル要素の形状がブレード状であり、互いに向き合っている電極の面積が小さい。そのため、容量性結合も抑制されて非常に弱い。
【0131】
HF回路とLF回路との相互干渉性は、LFポート(LF送信ポート220、LF受信ポート)とHF送受信ポート236との間の透過特性によって測定される。LFポートの周波数(例えば、実測値で100MHz)のオーダーは、容量性結合の影響を無視できるオーダーであり、相互干渉性も低いため、透過損失は大きい。また、HF送受信ポート236の周波数(例えば、実測値で400MHz)についても、透過損失は大きく(例えば、実測値で-30dB以下)、LF回路の共振周波数を調節してもHF回路の共振周波数に影響がない。そのため、試料が配置されている空間への低周波磁場及び高周波磁場の効率的な照射は阻害されない。
【0132】
実施形態においても、低周波核種用コイル14の主要な照射磁場の向きとHF一次共振器16の主要な照射磁場の向きとが直交するように、低周波核種用コイル14とHF一次共振器16とが配置されている。そのため、相互インダクタンスに基づく誘電性結合は生じない。
【0133】
一方で、図1に示すように、HF一次共振器16の高周波核種用コイル20(サドルコイル)を構成するコイル要素(コイル要素T1a,T1b,T2a,T2b)が、低周波核種用コイル14の側面に近接して配置される。そのため、特にHF搬送周波数(例えば、実測値で400MHz)においては、容量性結合に起因する回路間の相互干渉性によって、透過損失が小さくなる。例えば、透過損失は、実測値で0dB~10dBとなる。そのため、試料が配置されている空間への高周波磁場の効率的な照射が阻害されることになる。
【0134】
以下、実施形態において、HF回路とLF回路との間の相互干渉性を抑制するための構成について説明する。
【0135】
NMR測定における高周波の周波数は、400MHz~1GHzのVHF帯に含まれる。そのため、低周波核種用コイル14と可変コンデンサ(チューニング可変コンデンサ208、バランス可変コンデンサ210)とを接続する線要素の長さが、その波長と同程度又はそれ以下(例えば、数cm~10cm)である場合、その線要素上に生じる電流密度分布の変化を無視することができない。LF回路は、線路長が導入された分布定数回路として扱うことが適当である。
【0136】
以下、このような回路において、HF搬送波を試料の中心に安定して照射する構成、及び、高周波磁場がLFポートへと漏れない構成について説明する。
【0137】
図8を参照して、HF搬送波は試料の中心に安定して照射する構成について説明する。図8には、実施形態に係るタンク回路の構成が示されている。
【0138】
実施形態においては、線要素であるノード30が、低周波核種用コイル14の一端とチューニング可変コンデンサ208との間に設けられ、線要素であるノード32が、低周波核種用コイル14の他端とバランス可変コンデンサ210との間に設けられている。具体的には、ノード30の一端が低周波核種用コイル14の一端に接続され、ノード30の他端がチューニング可変コンデンサ208に接続されている。また、ノード32の一端が低周波核種用コイル14の他端に接続され、ノード32の他端がバランス可変コンデンサ210に接続されている。これにより、仮想的なバランスループ回路が構成される。ノード30,32の線路長は同じである。ノード30,32とグランド(共通グランド)との間に設けられている可変コンデンサ(チューニング可変コンデンサ208、バランス可変コンデンサ210)の容量は、HF周波数との関係で十分に大きいため、可変コンデンサの長さは、HF周波数との関係では実質的に一定とみなすことができる。これらの可変コンデンサの容量を変えることで、LF搬送波に対する同調が行われる。
【0139】
ここでは、低周波核種用コイル14(ソレノイドコイル)は、その中央で高周波核種用コイル20(サドルコイル)との容量性結合を有するものとする。HF搬送波がバランスループ回路上に定常波を形成する条件は、以下の式(10)で定義される。
線路長W=(2m+1)×λHF/4・・・(10)
m=0,1,2,・・・
【0140】
線路長Wは、以下に示すように定義される。
線路長W=[低周波核種用コイル14の全長の半分の線路長]+[ノード(ノード30又はノード32)の線路長]+[可変コンデンサ(チューニング可変コンデンサ208、バランス可変コンデンサ210)からグランドまでの線路長]
【0141】
λHFは、HF搬送波の波長である。
【0142】
つまり、線路長Wが、HF搬送波の波長λHFの四分の一の奇数倍である場合、HF搬送波がバランスループ回路上で定常波を形成する。
【0143】
グランドにて、上記の定常波の電位振幅は0となり、電流振幅は最大となる。低周波核種用コイル14の中央(つまり試料の中心)にて、上記の定常波の電位振幅は最大となり、電流振幅は0となる。そのため、HF回路とLF回路は、相互に非干渉的に振る舞うことができる。
【0144】
図9を参照して、高周波磁場がLFポートに漏れない構成について説明する。図9には、実施形態に係るタンク回路の構成が示されている。
【0145】
図8に示されているバランスループ回路を、そのままLF回路として適用する場合、チューニング可変コンデンサ208及びバランス可変コンデンサ210の容量を変化させたときに、線路長Wが、上記の式(10)の条件を満たさなくなることがある。この場合、HF搬送波の定常波が形成されず、HF回路とLF回路とが相互に干渉するという問題が生じる。また、HF回路のマッチング可変コンデンサへの分岐をノード32の途中に設けた場合、HF搬送波がLFポートに透過し、HF回路の独立性が損なわれる。
【0146】
HF搬送波の共振周波数を有するLC直列共振トラップ34を、バランスループ回路の中間点(シャント点)に設けることで、これらの問題は解消される。LC直列共振トラップ34は、接続回路の一例である。具体的には、LC直列共振トラップ34の一端(例えばコイルの一端)が、ノード30の途中の位置に接続され、LC直列共振トラップ34の他端(例えばコンデンサの一方の電極)が、ノード32の途中の位置に接続される。この場合、HF搬送波がバランスループ回路上に定常波を形成する条件は、以下の式(11)で定義される。
線路長Ws=(2m+1)×λHF/8・・・(11)
m=0,1,2,・・・
【0147】
線路長Wsは、以下に示すように定義される。
線路長Ws=[低周波核種用コイル14の全長の半分の線路長]+[低周波核種用コイル14の端部からノード上でLC直列共振トラップ34が挿入される位置までの線路長]
【0148】
つまり、LC直列共振トラップ34は、低周波核種用コイル14の中央から線路長Wsの位置(シャント点)にて、ノード30,32に接続され、ノード30,32は、その位置(シャント点)にて、LC直列共振トラップ34を介して互いに接続される。線路長Wsが、HF搬送波の波長λHFの八分の一の奇数倍である場合、HF搬送波がバランスループ回路上で定常波を形成する。
【0149】
式(11)の条件が満たされるとき、低周波核種用コイル14との容量性結合によって流れ込んだHF搬送波は、ノード30上のシャント点とノード32上のシャント点との間に90°の位相差を伴って分布する。この状態で、LC直列共振トラップ34が、シャント点にてノード30,32に接続されると、LC直列共振トラップ34の中央におけるHF搬送波の位相差は180°となる。その結果、低周波核種用コイル14と、低周波核種用コイル14からノード30,32のシャント点までの部分と、LC直列共振トラップ34と、によって形成される閉ループ上で、定常波が形成される。
【0150】
式(10)で定義される条件に基づき、低周波核種用コイル14の中央(つまり試料の中心)にて、上記の定常波の電位振幅は最大となり、電流振幅は0となる。また、LC直列共振トラップ34の中央にて、電位振幅は0となり、電流振幅は最大となる。従って、HF回路とLF回路は、相互に非干渉的に振る舞うことができる。
【0151】
HF搬送波は、上記の閉ループ上にて定常波となり、シャント点からグランドまでに存在する回路要素にほとんど漏れない。従って、チューニング可変コンデンサ208及びバランス可変コンデンサ210の容量変化、及び、LFポートとの整合を取るマッチング可変コンデンサ212の容量変化が、HF回路の共振条件に与える影響は、図8に示されている構成と比べて、少ない。
【0152】
なお、LC直列共振トラップ34に含まれるコンデンサの容量Csが大きいと、NMR信号の誘導起電力を得るための低周波核種用コイル14両端の電位差が減少し、検出感度が低下する。容量Csを、チューニング可変コンデンサ208の容量CT又はバランス可変コンデンサ210の容量CBよりも十分に小さくすることで(例えば1/10以下)、検出感度の低下を防止することができる。
【0153】
図10には、実施形態に係るNMRプローブの回路構成が示されている。図10に示されている回路構成は、図9に示されている構成を含む。つまり、式(10)で定義される線路長Wを形成するためのノード30,32が設けられ、また、式(11)で定義される線路長Wsの位置(シャント点)にて、LC直列共振トラップ34がノード30,32に接続されている。
【0154】
図10に示されている回路構成について説明する。この回路は、実施形態に係るNMR検出器10を含む。
【0155】
真空容器200内には真空断熱空間202が形成されている。低周波核種用コイル14、HF一次共振器16、LC直列共振トラップ34、チューニング可変コンデンサ208、バランス可変コンデンサ210、マッチング可変コンデンサ212、LF用伝送線路(極低温用同軸ケーブル)214、デュプレクサー216、及び、プリアンプ218が、真空断熱空間202内に設けられている。これらは真空容器200内にて冷却され、これにより、NMR信号の検出感度が向上する。
【0156】
低周波核種用コイル14の一端にチューニング可変コンデンサ208が接続され、低周波核種用コイル14はチューニング可変コンデンサ208を介してグランドに接続される。また、低周波核種用コイル14の他端にバランス可変コンデンサ210が接続され、低周波核種用コイル14はバランス可変コンデンサ210を介してグランドに接続される。これにより、同調が行われる。また、低周波核種用コイル14の一端はマッチング可変コンデンサ212に接続されており、これにより整合が行われる。その一端は、マッチング可変コンデンサ212を介してLF用伝送線路214に接続され、更に、LF用伝送線路214を介して、デュプレクサー216及びプリアンプ218に接続されている。これらの構成要素は、真空断熱空間202内にて冷却される。低周波核種用コイル14の導体部分の温度を極低温に下げることで、低周波核種(LF)のNMR信号の検出感度が向上する。また、デュプレクサー216にはLF送信ポート220が接続されており、プリアンプ218にはLF受信ポート222が接続されている。デュプレクサー216は、送信時には、LF送信ポート220を介して分光計から送られた送信信号を低周波核種用コイル14に送り、受信時には、低周波核種用コイル14にて検出されたNMR信号をプリアンプ218に送る。NMR信号はプリアンプ218によって増幅されて、LF受信ポート222を介して分光計に送られる。
【0157】
低周波核種用コイル14を囲むようにHF一次共振器16が設置されている。HF一次共振器16は、一対のサドルコイル(高周波核種用コイル20)からなるヘルムホルツコイルと、一対のサドルコイルの間に設けられた副コンデンサ36a,36b及びコンデンサ(主コンデンサ)18と、を含み、これらの構成要素によってLC共振回路として構成されている。副コンデンサ36a,36bは、平行板12b1,12b2、主電極板P1a,P1b及び副電極板P2a,P2bによって構成される。これらの構成要素は、真空断熱空間202内にて冷却される。低周波核種用コイル14の導体部分の温度を極低温に下げることで、低周波核種(LF)のNMR信号の検出感度に影響を与えないようになっている。真空容器200の外部には、HF一次共振器16に対応する位置にHF二次コイル232が移動可能に設けられている。HF一次共振器16は、そのHF二次コイル232とワイヤレスに結合している。HF二次コイル232は、HF用伝送線路(同軸ケーブル)234を介してHF送受信ポート236に接続されている。これにより、HF一次共振器16は、HF二次コイル232とHF用伝送線路234を介してHF送受信ポート236に電気的に接続されている。また、HF送受信ポート236は、マッチング可変コンデンサ238を介してHF送受信ポート240に接続されている。HF送受信ポート240は電気的に分光計に接続されている。また、マッチング可変コンデンサ242が、HF送受信ポート236に接続されている。上記の構成によれば、高周波に対応する電磁波をHF一次共振器16から試料に照射することが可能となる。
【0158】
一般的に、固体NMR測定では、CPMAS法や、信号観測時のHデカップリング法等、(100W-数ms~200ms程度)の高デューティー・高出力パルスを照射する手法がしばしば行われる。実施形態に係るLC直列共振トラップ34の箇所は、固体NMR測定時において、局所的にHF搬送波の電流振幅が最大となる定常波が発生する箇所である。そのため、LC直列共振トラップ34において局所的にジュール熱が発生し、観測時間内における受動素子の温度上昇を招きやすい。特に、強誘電体製の積層セラミックコンデンサは電気容量の温度依存性が高いため、高デューティー・高出力パルス照射時に、LC直列共振トラップ34の共振周波数がHF搬送波の周波数から著しく外れて、定常波が形成されないことが生じ得る。その結果、試料が配置されている空間において十分なHF振動磁場強度が得られなかったり、低周波の検出コイルの感度効率が低下したりするといった問題が生じ得る。
【0159】
減圧真空中に設置されているLC直列共振トラップ34を構成する積層セラミックコンデンサを、より積極的に冷却することで、上記の問題を解消することができる。具体的には、積層セラミックコンデンサを、極低温下で熱伝導率の高い絶縁体(例えば、サファイア性のブロック)を介して熱交換器と熱的に接触させることで、局所的な温度上昇を抑制することができる。
【0160】
固体NMRプローブは、溶液NMRプローブと比べて、HF搬送波の照射磁場強度の強さが重視される。有機物試料の測定に際して、例えば、13C-NMRのスペクトル分解能は、観測時のHデカップリングによってH-13C双極子相互作用をいかに低減するかに依存する。従って、HF搬送波の照射磁場効率が高いことが要求される。実施形態に係るNMR検出器10によれば、そのような要求に対応することができる。
【0161】
また、本実施形態によって、HF搬送波の照射磁場効率が高いH-X(他核種)二重共鳴クライオコイルMAS-NMRプローブが実現すると、その適用範囲は、有機固体材料にも拡大する。有機物の固体NMR測定は、無機物の固体NMR測定よりも汎用性及び実用性が高い。固体NMR測定の観測感度が4~5倍程度に向上すれば、観測時間が16倍~25倍に短縮される効果が得られる。
【符号の説明】
【0162】
10 NMR検出器、12 絶縁体ブロック、14 低周波核種用コイル、16 HF一次共振器、18 コンデンサ、20 高周波核種用コイル、22 誘電体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13