(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131539
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240920BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041870
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田丸 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和人
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 剛史
(72)【発明者】
【氏名】山根 史之
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】燃料物質の複数の燃料物質需要家に対して、それぞれの優先度を考慮した燃料物質供給を可能とする燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、燃料物質供給計画装置100は、複数の燃料物質需要家に関する情報である需要家情報を取得する需要家情報取得部112と、燃料物質製造供給プラントに関する情報である運用情報を取得する運用情報取得部113と、需要家情報に基づいて複数の燃料物質需要家についての優先度を導出する優先度導出部121と、需要家情報および運用情報に基づいて燃料物質製造供給プラントの製造量を算出する計画演算部122と、製造量および需要家情報に基づいて複数の燃料物質需要家への供給計画を作成する燃料物質供給計画部124を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料物質製造供給プラントによる複数の燃料物質需要家への燃料物質の供給を計画する燃料物質供給計画装置であって、
複数の前記燃料物質需要家に関する情報である需要家情報を取得する需要家情報取得部と、
前記燃料物質製造供給プラントに関する情報である運用情報を取得する運用情報取得部と、
前記需要家情報に基づいて、複数の前記燃料物質需要家についての優先度を導出する優先度導出部と、
前記需要家情報および前記運用情報に基づいて、前記燃料物質製造供給プラントの製造量を算出する計画演算部と、
前記製造量、前記需要家情報に基づいて複数の前記燃料物質需要家への供給計画を作成する燃料物質供給計画部と、
を備えることを特徴とする燃料物質供給計画装置。
【請求項2】
前記供給計画は、複数の前記燃料物質需要家ごとの価格の計画を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項3】
前記需要家情報は、燃料物質需要量に加えて、付加情報として、燃料物質需要の遅延許容量、燃料物質需要の遅延許容日数、前記燃料物質需要家の貯蔵タンクの残量のいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項4】
前記燃料物質供給計画部は、前記燃料物質需要量および前記付加情報に基づいて、複数の前記燃料物質需要家ごとの価格の計画を含む供給計画を作成することを特徴とする請求項3に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項5】
前記優先度導出部は、複数の前記燃料物質需要家に対する順位、または、複数の前記燃料物質需要家のそれぞれの重み係数を用いることを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項6】
前記優先度導出部は、複数の前記燃料物質需要家のそれぞれの燃料物質需要量を複数に分割した燃料物質需要に対して優先度を導出することを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項7】
前記計画演算部は、複数の前記燃料物質需要家の燃料物質価格に対する許容度の関係を用いて演算することを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項8】
前記計画演算部は、複数の前記燃料物質需要家の燃料物質需要量に対する燃料物質価格の関係を用いて演算することを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項9】
前記製造量を変化させて利益が最大のケースを供給計画として決定する燃料物質供給計画決定部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項10】
前記供給計画を表示する表示部と、前記優先度導出部、前記計画演算部、前記燃料物質供給計画部のいずれかの演算条件を入力可能な入力部とを有するユーザインターフェースと、
前記ユーザインターフェースに表示させる画像データを作成する画像データ生成部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の燃料物質供給計画装置と、
複数の前記燃料物質需要家との情報の授受と、前記燃料物質供給計画装置との情報の授受を行い、前記燃料物質需要家の要求と、前記燃料物質供給計画装置による前記供給計画との調整を行う燃料物質供給管理装置と、
を具備し、
前記需要家情報取得部は、前記燃料物質供給管理装置からも前記需要家情報を取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料物質供給計画システム。
【請求項12】
燃料物質製造供給プラントによる複数の燃料物質需要家への燃料物質の供給を計画する燃料物質供給計画方法であって、
需要家情報取得部が、複数の前記燃料物質需要家に関する情報である需要家情報を取得するステップと、
運用情報取得部が、前記燃料物質製造供給プラントに関する情報である運用情報を取得するステップと、
優先度導出部が、前記需要家情報に基づいて、複数の前記燃料物質需要家についての優先度を導出するステップと、
計画演算部が、前記需要家情報および前記運用情報に基づいて、前記燃料物質製造供給プラントの製造量を算出するステップと、
燃料物質供給計画部が、前記製造量、前記需要家情報に基づいて複数の前記燃料物質需要家への供給計画を作成するステップと、
を有することを特徴とする燃料物質供給計画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動対策の一環で、脱炭素に向けた新たなクリーンエネルギーとして、水素エネルギーが注目されている。国内では、2030年に水素の導入量300万トンを目指しており、今後水素などの燃料物質の需要が急速に増加することが考えられる。
【0003】
水素製造プラントとして、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大に伴う電力系統の調整力不足に対して、Power to Gas(P2G)を用いた水素などの燃料物質の製造が期待されている。国内においても、燃料物質製造供給プラント、いわゆる、P2Gプラントは、大規模化が進む傾向にある。このため、1か所の燃料物質製造供給プラントから様々な燃料物質需要家へ燃料物質が配送されることが想定される。このとき、国内ではパイプラインのインフラ設備が整っていないため、トレーラーやカードルに燃料物質を充填し、車両で輸送することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/172224号
【特許文献2】特許第6480276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国内では車両で燃料物質を配送することが主な輸送手段となる。このとき、燃料物質の配送可能な地域において、必ずしも燃料物質の需要と供給のバランスが一致するとは限らない。例えば、燃料物質製造供給プラントの燃料物質供給能力よりも燃料物質需要量が上回る場合が生ずる可能性がある。このような状況において、複数の燃料物質需要家への燃料物質量を製造・供給するとき、燃料物質製造供給プラントとして各燃料物質需要家へ供給する量、その時の燃料物質価格等を決定することが望まれるが、従来、それには、多くの調整を必要とし、実現は容易ではなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、燃料物質の複数の燃料物質需要家に対して、それぞれの優先度を考慮した燃料物質供給を可能とする燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係る燃料物質供給計画装置は、燃料物質製造供給プラントによる複数の燃料物質需要家への燃料物質の供給を計画する燃料物質供給計画装置であって、複数の前記燃料物質需要家に関する情報である需要家情報を取得する需要家情報取得部と、前記燃料物質製造供給プラントに関する情報である運用情報を取得する運用情報取得部と、前記需要家情報に基づいて、複数の前記燃料物質需要家についての優先度を導出する優先度導出部と、前記需要家情報および前記運用情報に基づいて、前記燃料物質製造供給プラントの製造量を算出する計画演算部と、前記製造量、前記需要家情報に基づいて複数の前記燃料物質需要家への供給計画を作成する燃料物質供給計画部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る水素供給計画システムと水素製造供給プラントおよび水素需要家との関係を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る水素供給計画システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る水素供給計画方法の手順を示すフロー図である。
【
図4】第1の実施形態に係る水素供給計画装置が取得した水素需要家情報の第1の例を示す第1の水素需要家情報表である。
【
図5】第1の実施形態に係る水素供給計画装置が取得した水素需要家情報の第2の例を示す第2の水素需要家情報である。
【
図6】第1の実施形態に係る水素供給計画装置におけるモデルの状態変数を示すブロック図である。
【
図7】第1の実施形態に係る水素供給計画装置による水素供給計画の第1の例を示す第1の水素供給計画表である。
【
図8】第1の実施形態に係る水素供給計画装置による水素供給計画の第2の例を示す第2の水素供給計画表である。
【
図9】第1の実施形態に係る水素供給計画装置による水素供給計画の第3の例を示す第3の水素供給計画表である。
【
図10】第1の実施形態に係る水素供給計画装置における計画演算部の変形例を示すブロック図である。
【
図11】第1の実施形態に係る水素供給計画装置における収支の水素製造量への依存性を示すグラフである。
【
図12】第1の実施形態に係る水素供給計画装置のユーザインターフェースによる表示画像を示す画面図である。
【
図13】第2の実施形態に係る水素供給計画装置に用いる水素価格と許容度との関係の一例を示すグラフである。
【
図14】第3の実施形態に係る水素供給計画装置に用いる水素需要量と水素価格との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重畳する説明は省略する。なお、「燃料物質供給」とは、燃料物質たとえば水素ガスあるいは水素含有ガスの供給を言うものとする。
【0010】
なお、以下では、燃料物質として水素の場合を例にとって示している。燃料物質供給計画装置、燃料物質供給計画システムおよび燃料物質供給計画方法については、以下の「水素」の部分を「燃料物質」と読み替えるものとする。ここで、燃料物質としては、水素の他に、例えば、アンモニア、メタン、メタノール、ナフサ、ガソリン、灯油、ジェット燃料(SAF)、軽油、重油、エタノール、エチレン、LPG、一酸化炭素などでもよい。アンモニアは、水素製造後や水素貯蔵後や水素輸送後に水素をアンモニアに変換したものでも良いし、水素製造装置の代わりに電力から直接アンモニアを製造する装置を用いて製造したアンモニアでもよい。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る水素供給計画システム200と水素製造供給プラント10、水素輸送装置16および水素需要家2との関係を示すブロック図である。
【0012】
まず、水素供給計画システム200が対象とする水素製造供給プラント10について説明する。
【0013】
水素製造供給プラント10は、再生可能エネルギー発電装置11、所内母線12、水素製造装置13、水素貯蔵装置14、水素供給装置15を有する。
【0014】
再生可能エネルギー発電装置11は、たとえば、太陽光発電や風力発電などの装置であり、所内母線12に給電する。再生可能エネルギー発電装置11は、図示しないパワーコンディショナー(「PCS」)を有してもよい。ここで、PCSは、再生可能エネルギー発電装置11により発生した直流電力を入力として交流電力を出力するとともに、出力する交流電力のレベルを入力電力レベル以下の所定の値に調整するものである。また、再生可能エネルギー発電装置11は、別に、調整力としての対応を行うものであってもよい。
【0015】
所内母線12は、実線で示すように、再生可能エネルギー発電装置11から受電するほか、電力系統1との間で電力の授受を行う。また、所内母線12は、水素製造装置13、水素貯蔵装置14、および水素供給装置15に電力を供給する。
【0016】
水素製造装置13は、破線で示すように水の供給と、所内母線12からの電力の供給を受けて、水の電気分解により水素を生成する。
【0017】
水素貯蔵装置14は、たとえば貯蔵タンクであり、水素製造装置13から受け入れた水素を一時貯留する。
【0018】
水素供給装置15は、水素需要家2のもとに水素を供給するにあたり、水素輸送装置16に、水素を充填する。水素供給装置15は、たとえば圧縮機などを含む。
【0019】
水素需要家2は、
図1に示す第1の水素需要家2aないし第nの水素需要家2nなど複数の水素需要家を含むこれらの総称である。
【0020】
水素輸送装置16は、たとえば、列車に積載する水素ボンベや水素輸送車などである。水素輸送装置16は、これらの複数の水素需要家2のそれぞれのもとに水素を輸送する。
【0021】
水素供給計画システム200は、水素供給計画装置100および水素供給管理装置210を有する。水素供給計画装置100は、水素製造供給プラント10による複数の水素需要家2への水素の供給に関して、各水素需要家2に関する情報(需要家情報)と、水素製造供給プラント10の運用に関する情報(運用情報)にもとづいて、水素供給の計画を作成する。また、水素供給管理装置210は、水素供給計画装置100による計画と、複数の需要家2の要求との調整を行う。なお、以下では、水素供給管理装置210が独立して設けられている場合を例にとって示しているが、水素供給計画装置100が、水素供給管理装置210の機能を含めて有していてもよい。
【0022】
水素供給計画装置100と水素供給管理装置210との間では、情報の授受が行われる。また、水素供給計画装置100と水素製造供給プラント10との間で、情報の授受が行われる。さらに、水素供給管理装置210とそれぞれの水素需要家2(第1の水素需要家2aないし第nの水素需要家2n)との間で、情報の授受が行われる。これらの情報の授受については、後に、
図3を引用しながらその詳細を説明する。
【0023】
図2は、第1の実施形態に係る水素供給計画システム200の構成を示すブロック図である。前述のように、水素供給計画システム200は、水素供給計画装置100および水素供給管理装置210を備える。
【0024】
水素供給計画装置100は、取得した需要家2に関する情報(以下、「需要家情報」)と、水素製造供給プラント10との情報の授受に基づいて、水素製造供給プラント10と水素輸送装置16による需要家2への水素の供給に関する計画(水素供給計画)を行う。
【0025】
水素供給管理装置210は、需要家2との情報の授受を行い、水素供給計画装置100による需要家2への水素供給計画に基づく需要家2との調整、および需要家2との調整結果に基づく水素供給計画装置100への水素供給計画の条件の変更の指示等を行う。
【0026】
ここで、水素供給計画装置100の構成を説明する。水素供給計画装置100は、入力部111、需要家情報取得部112、運用情報取得部113、演算部120、記憶部130、およびユーザインターフェース140を有する。
【0027】
入力部111は、演算部120が行う演算に用いる条件値、定数等の外部情報(以下、「条件情報」)を入力として受け入れる。
【0028】
需要家情報取得部112は、水素供給管理装置210が取得した水素需要家情報を水素供給管理装置210から受け入れる。また、
図1では表示していないが、需要家情報取得部112が、直接に水素需要家2から水素需要家情報を取得することがあってもよい。
【0029】
運用情報取得部113は、水素製造供給プラント10の各部の状況あるいは電力系統1との電力の授受などに関する過去の実績、現在の状況、および将来の計画に関する情報(以下、「運用情報」)を取得する。
【0030】
演算部120は、優先度導出部121、計画演算部122、コスト演算部123、水素供給計画部124、水素供給計画決定部125、画像データ生成部126を有する。
【0031】
優先度導出部121は、水素需要家情報に基づいて、水素需要家2のそれぞれすなわち、第1の水素需要家2aないし第nの水素需要家2nの優先度を導き出し、決める。
【0032】
計画演算部122は、水素需要家情報および運用情報に基づいて、最適な製造量を含む運用計画を算出する。ここで、最適化は、たとえば、製造コスト最小化を行うものでよい。
【0033】
コスト演算部123は、計画演算部122で行った最適化の結果得られた運用計画に基づいて、その他のコスト要因を考慮したコストを算出する。なお、コスト演算部123を設ける代わりに、計画演算部122における演算において、その他のコスト要因を考慮したコストを用いてもよい。
【0034】
水素供給計画部124は、計画演算部122で行った最適化の結果得られた運用計画、コスト演算部123により得られたコスト、および優先度導出部121が導出した水素需要家2内の優先度に基づいて、各水素需要家2への供給計画を作成する。
【0035】
水素供給計画決定部125は、水素供給計画部124により得られた複数の供給計画の候補のうちから、実施すべき供給計画を決定する。
【0036】
画像データ生成部126は、ユーザインターフェース140に表示させるべき供給計画の画面データを作成する。
【0037】
記憶部130は、入力情報記憶部131、水素需要家情報記憶部132、および運用情報記憶部133を有する。入力情報記憶部131は入力部111が取得した条件情報を、水素需要家情報記憶部132は需要家情報取得部112が取得した水素需要家情報を、また、運用情報記憶部133は運用情報取得部113が取得した運用情報を、それぞれ収納、記憶する。
【0038】
ユーザインターフェース140は、画像データ生成部126が作成した画面データに基づいて、供給計画の画像を表示する。ユーザインターフェース140は、各種情報をユーザ(管理者)に対して表示する表示部と、ユーザが各種情報を入力する入力装置とを備える。表示部は、例えば、ディスプレイなどで構成される。また、表示部は、表示用の画面の機能を備えるとともに、画面に直接入力可能な入力装置としての機能を備えるタッチパネルで構成されてもよい。入力装置は、例えば、キーボードやマウスなどで構成されてもよい。入力装置は、各演算条件などの入力を、所定のフォーマットで入力可能とする入力画面、あるいは、USBポートなどとの情報授受端末を有する。なお、前述のように、表示部の入力機能を用いる場合があってもよい。
【0039】
水素供給計画装置100は、たとえば、計算機システムであるが、個別の装置の集合であってもよい。
【0040】
図3は、第1の実施形態に係る水素供給計画方法の手順を示すフロー図である。
【0041】
前述のように、水素供給計画方法の手順は、水素供給計画システム200内の水素供給計画装置100と水素供給管理装置210との間での情報授受や、水素製造供給プラント10、需要家2との情報の授受を含めたフローとなる。
【0042】
まず、水素供給管理装置210は、水素需要家2の情報、すなわち水素需要家情報を取得する(ステップS11)。これにより、各水素需要家2の水素需要の規模、過去の購入実績、将来の需要計画、所有する水素貯蔵装置の容量、水素購入の際の条件、転売先に緊急性のある顧客があるか等の転売先の内容、水素需要家2自体が水素を原料として生産する場合の内容、さらには可能であれば、業界での信用度などを含めた水素需要家情報を取得する。水素需要家情報は、水素需要家情報記憶部132に収納、記憶される。
【0043】
水素供給管理装置210は、水素需要家情報を水素供給計画装置100に出力し(ステップS12)、水素供給計画装置100はこの水素需要家情報を取得する(ステップS21)。
【0044】
一方、水素供給計画装置100は、水素製造供給プラント10の運用計画に関する情報、すなわち運用情報を取得する(ステップS22)。運用情報は、運用情報記憶部133に収納、記憶される。
【0045】
優先度導出部121は、ステップS21で取得された水素需要家情報に基づいて、各水素需要家2の優先度を導出する(ステップS23)。
【0046】
また、計画演算部122は、ステップS21で得られた水素需要家情報と、ステップS22で取得された運用情報とに基づいて、運用計画を作成する(ステップS24)。演算内容の詳細は、後に説明する。
【0047】
次に、コスト演算部123は、ステップS24で得られた運用計画に基づいて、運用コストを算出する(ステップS25)。
【0048】
次に、水素供給計画部124は、ステップS23で得られた優先度、ステップS24で得られた製造量などの運用計画、およびステップS25で得られた運用コストに基づいて、水素供給計画を導出する(ステップS26)。また、水素供給計画決定部125は、ステップS26で得られた供給計画のうちで、最適な計画を選択し、水素の供給計画を決定する(ステップS27)。
【0049】
次に、水素供給管理装置210は、ステップS27で決定された水素供給計画を受けて、水素需要家情報に照らしたそれぞれの水素需要家2への供給条件を確認(ステップS13)し、供給条件が成立するか否かを判定する(ステップS14)。ステップS27で決定された水素供給計画が必ずしも水素需要家情報における水素需要家2の希望を100%満たすものではない場合があるが、水素供給管理装置210は、その水素需要家2の希望との差異が許容できるものか否かを判断する。判断に際しては、それぞれの水素需要家2の重要度、水素需要家2を全体的にみた上での、それぞれの水素需要家2との長期的な関係などを判断基準とする。
【0050】
水素供給管理装置210により供給条件が成立すると判定された(ステップS14 YES)場合には、水素供給管理装置210は、その水素需要家2に供給条件を提示する(ステップS15)。
【0051】
水素供給管理装置210により供給条件が成立すると判定されなかった(ステップS14 NO)場合には、水素供給管理装置210は、その水素需要家2と調整を継続するか否かを判定する(ステップS16)。調整継続の判定の際には、水素供給管理装置210は水素需要家情報によるその水素需要家2の重要度、長期的な関係などを判断基準とする。
【0052】
水素供給管理装置210によりその水素需要家2と調整を継続するかと判定されなかった(ステップS16 NO)場合は、水素供給管理装置210は、その水素需要家2に対して断りの通知、すなわち水素の供給ができない旨の通知を行う(ステップS17)。
【0053】
水素供給管理装置210によりその水素需要家2と調整を継続するかと判定された(ステップS16 YES)場合は、水素供給管理装置210は、水素供給計画装置100に対して、その水素需要家2に関する変更条件を出力する(ステップS18)。ここで、変更条件とは、当該需要家2の取り扱いに関する条件の変更部分であり、たとえば、当該需要家の優先度を上げる、当該需要家の最低限必要な水素量を確保するなどである。水素供給計画装置100は、この変更条件を受けて、ステップS21においてその水素需要家2に関する条件を変更したたうえで、ステップS27までを再度実施する。水素供給管理装置210は、その結果を受けて、ステップS13以降のステップを再度行う。
【0054】
次に、ステップS23において、優先度導出部121が行う優先度の導出の詳細を説明する。
【0055】
図4は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置が取得した水素需要家情報の第1の例を示す第1の水素需要家情報表である。
【0056】
水素需要家情報としては、対象とする日の水素需要量(Nm3)および、付加情報として、遅延許容量(Nm3)、遅延許容日数(日)、タンク残量(Nm3)を示している。なお、付加情報としては、さらに、水素使用量の実績を取得してもよい。また、タンク残量を定時的に、あるいはリアルタイムで取得してもよい。
【0057】
ここで、対象とする日は、たとえば、本日、あるいは翌日、場合によってはさらに後の日であるが、以下では、これらを、「当日」と表記して説明する。したがって、「翌日」の表記は「当日」の次の日を意味する。水素需要家2として、水素需要家A、水素需要家B、水素需要家C、および水素需要家Dの場合を示している。ここで、この水素需要家情報は、毎日、一定値ではなく、水素需要家の状況により、日々、変化するものである。すたがって、
図4は、ある日の水素需要家情報を示すものである。
【0058】
4つの項目についての、各水素需要家の値については、水素需要家Aは、1000(Nm3)、0(Nm3)、0(日)、200(Nm3)、水素需要家Bは、5000(Nm3)、2000(Nm3)、1(日)、1000(Nm3)、水素需要家Cは、10000(Nm3)、3000(Nm3)、2(日)、3000(Nm3)、水素需要家Dは、7000(Nm3)、4000(Nm3)、1(日)、2000(Nm3)である。この結果、当日の水素需要量の合計は、23,000Nm3である。
【0059】
ここで、計画演算部122の演算の結果としての水素製造供給プラント10の運用計画において、1日の水素製造量が20,000Nm3であった場合、水素需要量の総量23,000Nm3の全ての水素需要量を供給することができない。このような場合は、各水素需要家の優先度を決める必要がある。
【0060】
各水素需要家2の優先度の決め方の基準例の第1は、1日の水素需要量が多い順に優先度を決定する方法である。この第1の基準例によれば、
図4の場合、水素需要家Cの優先度が最も高く1位となり、水素需要家Aの優先度が最も低く4位となる。
【0061】
各水素需要家2の優先度の決め方の基準例の第2は、遅延許容量、遅延許容日数に応じて優先度を決定する方法である。この第2の基準例によれば、遅延日数が0日の水素需要家Aの優先度が1位、続いて遅延許容日数が1日の水素需要家B、Dにおいて、遅延許容量が少ない水素需要家Bの優先度が2位、遅延許容量が多い水素需要家Dの優先度が3位、遅延許容日数が2日の水素需要家Cが優先度4位となる。
【0062】
各水素需要家2の優先度の決め方の基準例の第3は、各水素需要家2におけるタンク残量が少ない順に優先度を決定する方法である。または、水素需要量に対するタンク残量の比率の小さい順に優先度を決定してもよい。水素需要量に対するタンク残量の比率は、水素需要家Aは20%、水素需要家Bは20%、水素需要家Cは30%、水素需要家Dは29%となる。この場合、水素需要家A、Bにおいては、遅延許容量と遅延許容日数を考慮して、水素需要家Aが1位、水素需要家Bが2位、水素需要家Dが3位、水素需要家Cが4位となる。
【0063】
ここで、優先度として各水素需要家2に対する順位を決定したが、各水素需要家2の水素需要を分割した水素量に対して順位を決定してもよい。
【0064】
図5は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置が取得した水素需要家情報の第2の例を示す第2の水素需要家情報である。
図5に示すように、水素需要家情報として、水素需要家2の水素需要を分割している。
図5の場合は、水素需要家B、C、Dの水素需要量を遅延が許容できる/できないで分割しており、この情報に基づいて水素需要家2の水素需要を分割した水素量に対して順位を決定する。すなわち、水素需要家Bについては、3000Nm
3のB1と1日の遅延を許可する2000m
3のB2に分割する。水素需要家Cについては、7000Nm
3のC1と2日の遅延を許可する3000m
3のC2に分割する。また、水素需要家Dについては、3000Nm
3のD1と1日の遅延を許可する4000m
3のD2に分割する。なお、分割後のそれぞれの分、たとえばB1についても水素需要家B1のように呼ぶものとする。
【0065】
ここで、優先度導出部121は、それぞれの水素需要家2についての遅延可能日数、タンク残量および水素需要量の合計値を考量して優先度を導出する。この結果、優先度導出部121は、たとえば、優先度は、水素需要家A、B1、C1、D1が1位、水素需要家B2が2位、水素需要家D2が3位とする。
【0066】
なお、優先度の順位は同率があってもよい。また、優先度として、各水素需要家2の順位ではなく、重み係数を決定してもよい。さらに、水素需要家情報に水素需要家2の優先順位の情報が含まれる場合は、そのままの優先度を利用する場合であってもよい。水素需要家情報に、各水素需要家との契約情報(長期契約、短期契約など)が含まれる場合は、その契約情報を用いて優先度を決定してもよい。
【0067】
次に、ステップS24において、計画演算部122が行う運用計画の詳細を説明する。
【0068】
計画演算部122で行う運用計画として数理最適化技術により運用計画を立案する場合を例にとって説明する。
【0069】
数理最適化技術では、目的関数と最適化変数を用いてプラントの運用をモデル化し、目的関数を最小とする運用を求める。以下では、最適化変数、定数、制約条件式、および目的関数の順に、計画演算部122が行う最適化演算の数理最適化モデルを示す。
【0070】
図6は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置100におけるモデルの状態変数を示すブロック図である。
図6は、各種の状態変数のうち、電力、水素および水の収支に関する状態変数を示している。
【0071】
電力は、実線で示しており、再生可能エネルギー発電装置11の発電電力予測値(kW)はXPV(t)、所内母線12の電力系統1からの受電電力(kW)はXELIN(t)、所内母線12の電力系統1への売電電力(kW)はXELOUT(t)、水素製造装置13の消費電力(kW)はXECEL(t)、水素貯蔵装置14の消費電力(kW)はXTANK(t)、水素供給装置15の消費電力(kW)はXSUPPLY(t)で表す。
【0072】
また、水素に関しては、水素製造装置13での水素製造量(Nm3)はXECH2(t)、水素貯蔵タンク装置14での貯蔵量(Nm3)はXH2ST(t)、水素供給装置15による水素供給量(Nm3)はXH2OUT(t)、水素輸送装置16による1日の輸送量(Nm3)はXH2OUT(d)で表す。なお、図示していないが、水素輸送装置16による輸送量の1日の水素供給不足量(Nm3)はXH2PENA(d)で表す。
【0073】
また、水素製造装置13による水道使用量(m3)はXECWA(t)で表す。
【0074】
以上の各変数が、計画演算部122による最適化演算の対象となる最適化変数(下限は0、上限は∞)である。
【0075】
次に、最適化演算の際に用いる定数は、以下のとおりである。なお、時間依存の定数、すなわち例えば1日の時刻に応じて値が変化する定数もある。
【0076】
t:時刻、T:計算対象時刻の集合(tは集合Tの要素)、d:日、D:計算対象日の集合(dは集合Dの要素)、CELIN_COST(t):受電電力コスト単価、CELOUT_COST(t):売電電力コスト単価、CWACOST(t):購入水道コスト単価、CH2PENA:水素供給ペナルティ単価、CH2OUT(d):1日の水素需要量、CECGAS_EF:水素製造装置電解効率(Nm3/kWh)、CGAS_WA_EF:水素製造装置水道使用効率(m3/Nm3)、CECEL_LL:水素製造装置下限電力(kW)、CECEL_UL:水素製造装置上限電力(kW)、CH2ST_LL:水素貯蔵タンク貯蔵下限容量(Nm3)、CH2ST_UL:水素貯蔵タンク貯蔵上限容量(Nm3)、CELIN_UL:水素製造供給プラント契約電力(kW)、CPV_UL:再生可能エネルギー発電装置11の発電電力定格(kW)、CH2_UL:1日の水素製造量上限値(Nm3)、COperation(t):水素製造供給プラント稼働フラグ(0:停止、1:運転)。
【0077】
次に、計画演算部122が最適化演算で用いる制約条件式を示す。制約条件としては、以下のように、電力需給バランス関連、水素製造装置関連、および水素貯蔵関係がある。
【0078】
<電力需給バランス関連の制約条件>
XECIN(t)-XECOUT(t)=XECEL(t)+XTANK(t)+XSUPPLY(t)-XPV(t)
【0079】
XELIN(t)≦CELIN_UL
【0080】
XPV(t)≦CPV_UL
【0081】
<水素製造装置関連の制約条件>
XECH2(t)=XECEL(t)×COoeration(t)×CECGASEF
【0082】
XECH2(t)≦CH2_UL
【0083】
XECEL(t)≧CECEL_LL
【0084】
XECEL(t)≦CECEL_UL
【0085】
XECWA(t)=XECH2(t)×CGAS_WA_EF
【0086】
<水素貯蔵関連の制約条件>
XH2ST(t)=XH2ST(t-1)+XECH2(t)+XH2OUT(t)
【0087】
XH2ST(t)≧CH2ST_LL
【0088】
XH2ST(t)≦CH2ST_UL
【0089】
<水素供給関連の制約条件>
Σ(XH2OUT(t))≧CH2OUT(d)-XH2PENA(d)
ここで、Σは、計算対象時刻の集合Tに属する時刻tについての和である。
【0090】
<目的関数>
次の目的関数OBjを最小化する。
【0091】
OBj=Σ[XELIN(t)×CELIN_COST(t)-XELOUT(t)×CELOUT_COST(t)+XECWA(t)×CWACOST(t)]+XH2PENA(d)×CH2PENA
ここで、Σは、計算対象時刻の集合Tに属する時刻tについての和である。
【0092】
水素供給関連の制約条件では、水素供給不足量の変数を導入し、これを目的関数にペナルティ項として考慮している。これにより、水素需要量が水素供給能力を上回った場合でも、制約違反により最適化の解が求まらないことを回避することができる。
【0093】
以上の数理モデルを解くことで、目的関数を最小とする最適化変数の値を求め、水素製造供給プラントの運用計画を立案することができる。また、目的関数からペナルティ項の影響を除外すれば水素製造供給プラントの運用費を算出することも可能となる。
【0094】
次に、ステップS25におけるコスト演算部123によるコスト演算の例を説明する。
【0095】
コスト演算部123は、ステップS24での計画演算部122による水素製造供給プラント10の運用計画に基づいて、受電電力、売電電力、水素製造量販売収入、消費水道量などを用いて水素製造供給プラント10の運用コストを算出する。この運用コストを水素製造量の総量で除することにより、1Nm3あたりの水素製造に関する水素製造供給プラント10の運用コスト(製造コスト)を算出することができる。
【0096】
例えば、水素製造供給プラント10の運用計画において製造量が20,000Nm3で合計の水素製造コストが400,000円の場合は、水素製造コストは20円/Nm3となる。また、運用費だけでなく、設備投資分を考慮してもよい。設備の減価償却費も考慮して、1日あたりに換算した費用を運用費に加算して水素製造コストを演算してもよい。さらに、水素製造・販売に関して、補助金がある場合は、その補助金を運用費に加算して水素製造コストを演算してもよい。
【0097】
次に、ステップS26の水素供給計画部124による水素供給計画の詳細を説明する。
【0098】
水素供給計画部124は、計画演算部122で演算した製造量を含む水素製造供給プラントの運用計画と、コスト演算部123で演算した水素製造コストと、優先度導出部121で演算した各水素需要家2の優先度を考慮して、水素供給計画を立案する。ここで、計画演算部122での最適演算の結果、当日の製造量が、20,000Nm3であるとする。
【0099】
図7は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置100による水素供給計画の第1の例を示す第1の水素供給計画表である。この第1の例は、前述の、ステップS23における優先度導出部121が行う優先度の導出の説明で引用した
図4の第1の水素需要家情報表に対応するケースである。前述の各水素需要家2の優先度の決め方の基準例の第2または第3に基づく場合は、水素需要家Aが1位、水素需要家Bが2位、水素需要家Dが3位、水素需要家Cが4位となる。
【0100】
図7は、このケースの場合の水素供給計画部124による水素供給計画の一例を示している。すなわち、水素供給計画部124による水素供給計画では、当日は、水素需要家Aは1000Nm
3(100円/Nm
3)、水素需要家Bは5000Nm
3(70円/Nm
3)、水素需要家Cは7000Nm
3(50円/Nm
3)、水素需要家Dは7000Nm
3(60円/Nm
3)である。また、1日後は、水素需要家Cが3000Nm
3(30円/Nm
3)である。
【0101】
この水素供給計画部124による水素供給計画の第1の例は、以下のような調整が水素供給計画部124により行われた結果である。
【0102】
優先度が最も低い水素需要家Cに対しては、水素需要量の全量の供給はできないため、一部残りの分を1日後に供給する計画となっている。
【0103】
水素価格については、
図7に示すように、水素需要量に応じて価格を変えてもよい。
図7では、水素需要量が少ない水素需要家に対しては価格を高く、水素需要量が多い水素需要家に対しては価格を低くしている。また、1日後に繰り越す水素量に対しては、水素価格をさらに低く設定している。
【0104】
水素価格の決定については、たとえば、水素製造コスト20Nm3/Nm3を基準として、これに一定の利益を加算する形でもよい。あるいは、水素需要量に応じて加算する利益分を変更してもよい。また、水素製造供給プラントと各水素需要家2との距離に応じて加算する利益を変更してもよい。さらに、予め各水素需要家2の水素価格の基準値の情報がある場合は、水素製造コストと各水素需要家2の水素価格の基準値をもとに、水素供給計画の水素価格を決定してもよい。
【0105】
なお、再生可能エネルギー発電装置11の発電量が極端に少ない場合は、水素製造供給プラント10の契約電力の制約により、1日の水素製造量がたとえば10,000Nm3という値まで低下する計画になる可能性もある。この場合は、1日後だけでなく、2日後以降も含めて水素供給計画を立案してもよい。
【0106】
次に、前述の、ステップS23における優先度導出部121が行う優先度の導出の説明で引用した
図5の第2の水素需要家情報表に対応するケースについて説明する。
【0107】
このとき、水素需要家A、B1、C1、D1は水素供給を遅延することができない一方で、これらの合計の水素需要量は14,000Nm3となり、1日の水素製造量10,000Nm3を超過している。水素供給計画の第1の方法としては、製造できない4,000Nm3を各水素需要家2の需要量の比率で供給できない量として分配してもよい。また、第2の方法としては、水素需要量に対するタンク残量の比率から供給できない量を分配してもよい。さらに、第3の方法として、いずれかの水素需要家2の供給を諦めてもよい。
【0108】
図8は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置による水素供給計画の第2の例を示す第2の水素供給計画表である。この第2の例は、上述の第3の方法、すなわち、いずれかの水素需要家の供給を諦めたケースの水素供給計画の一例である。
【0109】
水素供給量の当日分については、需要量の多い水素需要家C1、D1を優先して供給する計画となっている。当日に供給できなかった水素需要家A、B1については1日後に供給する計画となっている。ここで、1日遅延することによる補償として、当日に供給する場合よりも水素価格を安く設定している。続いて、優先度に基づき水素需要家B2、D2へ、2日後に水素需要家C2に供給する計画としている。
【0110】
ここでは、水素供給が遅延することに対しては、水素価格を安く設定する例を示したがこれに限定されない。水素価格を安く設定することは、水素製造供給プラント10に対するペナルティと等価である。これとは異なる方法として、例えば、各水素需要家2へ補償金額(インセンティブ)を付与する方法がある。また、次回以降の水素供給を優先するポイントを付与してもよい。さらに、このペナルティやインセンティブ、ポイントの程度を、水素供給の遅延量や遅延日数に応じて変更してもよい。
【0111】
ここで、水素需要家情報取得部にて取得した各水素需要家の水素需要家情報に、最低限必要な水素需要量や水素価格の上限の情報が含まれることが考えられる。この場合は、水素供給計画部124が立案する水素供給計画において、最低限必要な水素量や水素価格の上限値を制約と考えて水素供給計画を立案してもよい。
【0112】
図9は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置による水素供給計画の第3の例を示す第3の水素供給計画表である。
【0113】
図9では、全ての水素需要量を当日に製造できる場合を示しており、各水素需要家2の水素需要量に対して、供給する水素量に応じて段階的に水素価格を変化させている。段階的に変化する水素量の閾値は、水素需要量に対する割合パラメータとして予め設定してもよい。
【0114】
なお、以上の計画演算部122では、たとえば水素需要家情報が3日分の場合でも、1週間分の再エネ予測や電力価格の情報を運用情報取得部113にて取得し、4日目以降の運用計画を立案してもよい。この場合は、4日目以降の水素需要家情報は、仮の値として3日分の平均値や代表日の値を利用して運用計画を立案してもよい。
【0115】
以上の説明では、計画演算部122が、数理最適化技術により運用計画を立案する場合を例にとって示したが、これに限るものではない。例えば、機械学習により運用計画を立案してもよい。
【0116】
図10は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置100における計画演算部122の変形例を示すブロック図である。
【0117】
機械学習により運用計画を立案する場合、計画演算部122は、運用計画モデル学習部122aと運用計画推定部122bから構成される。
【0118】
運用計画モデル学習部122aは、過去の水素製造供給プラント10の運用情報や立案した運用計画を用いて、例えば運用コストを低減する運用計画モデルを学習する。学習手法は、例えば、ニューラルネットワークやランダムフォレスト、強化学習などを用いることができる。
【0119】
運用計画推定部122bは、学習した運用計画モデルを用いて、運用コストを低減する運用計画を推定する。
【0120】
図11は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置100における収支の水素製造量への依存性を示すグラフである。
図11を引用しながら、水素供給計画決定部125について説明する。
【0121】
図11は、1日の水素製造量の条件を複数変更した場合の収支の変化の例を示している。各水素需要家2の水素需要の合計値を基準として1日の水素製造量の条件を変更し、計画演算部122にて水素製造供給プラントの運用計画における水素製造量の上限制約として考慮する。すなわち、水素製造量の上限制約を変更し、ステップS21ないしステップS26をそれぞれ実行した結果である。
【0122】
それぞれの水素供給計画における収支を算出した
図11の結果に基づいて、水素供給計画決定部125は、収支が大きくなる水素供給計画、すなわち利益が最も大きな水素供給計画に決定する。
【0123】
なお、変更する条件として水素製造量に限定されない。水素製造供給プラントの稼働条件であれば、受電電力の上限や水素製造供給プラントの稼働時間などでもよい。
【0124】
図12は、第1の実施形態に係る水素供給計画装置のユーザインターフェース140による表示画像を示す画面
図136aである。表示画像126aの画像データは、画像データ生成部126により生成される。ユーザインターフェース140は、たとえば、ユーザインターフェースであり、タッチスクリーンを有するものである。
【0125】
「水素製造供給プラント」の表題の下に、水素製造装置から水素輸送装置までの概念図、水素需要家情報を示す表、水素供給計画の表が表示されている。
【0126】
表の下には、「水素供給計画合意」および「水素需要家情報修正」が表示されている。「水素需要家情報修正」をタッチすると、たとえば、水素需要家情報を示す表の優先度の欄の数値を変更できるものである。なお、演算部の演算の条件(演算条件)として、優先度以外の条件を入力可能としてもよい。
【0127】
以上のように、本実施形態の水素供給計画装置100によれば、水素製造供給プラント10の供給能力よりも水素需要量が上回った場合に、各水素需要家2への水素供給量と水素価格を決定することが可能となる。また、水素供給管理装置210によれば、水素供給計画装置100による水素供給計画と各水素需要家2との間の調整を行うことができる。
【0128】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態の変形であるが、水素価格と許容度との関係を用いた例である。
【0129】
図13は、第2の実施形態に係る水素供給計画装置100に用いる水素価格と許容度との関係の一例を示すグラフである。第2の実施形態における計画演算部122は、この情報を利用して、たとえば以下に説明する数理最適化により、水素価格を決定する、
【0130】
まず、水素価格決定演算において使用する定数、変数などは、以下のとおりである。
【0131】
<定数>
i:水素需要家の集合、q(i):: 水素需要家の重み係数
【0132】
<最適化変数>
XH2COST(t):需要家iの水素価格(円/Nm3)、XALLOW(i):需要家iの許容度(%)
【0133】
<関数>
f(i,X):水素需要家iの水素価格Xから許容度を計算する関数
【0134】
<制約式>
XALLOW(i)=f(i,XH2COST(i))
【0135】
次の制約式は、各水素需要家2の水素価格を統一させる場合に用いる。
XH2COST(1)=・・・=XH2COST(I)
【0136】
<目的関数>
次の目的関数OBJを最大化する。
OBJ=Σ[XH2COST(i)+q(i)×XALLOW(i)]
【0137】
式(16)の目的関数を用いることにより、各水素需要家2の水素価格を最大化させると同時に許容度も最大化させる。このとき、許容度は各水素需要家2に対して重みを付与している。許容度を重視する場合は、全ての水素需要家2の重みを大きくすることで対応可能である。なお、水素需要家2の間で水素価格や許容度に差が発生した場合は、水素需要家2の間でインセンティブ等のやり取りをすることで、公平性を保つことが可能となる。
【0138】
[第3の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態の変形であり、水素価格の水素需要量への依存性を用いる点が第1の実施形態と異なる。
【0139】
図14は、第3の実施形態に係る水素供給計画装置に用いる水素需要量と水素価格との関係の一例を示すグラフである。横軸は、水素需要量[Nm
3]、縦軸は水素価格[円/Nm
3]である。
【0140】
本実施形態における計画演算部122は、この情報を利用して、たとえば以下に説明する数理最適化により、水素価格を決定する、
【0141】
<定数>
t:時刻、T:計算対象時刻の集合(tは集合Tの要素)、d:日、D:計算対象日の集合(dは集合Dの要素)、i:水素需要家、I:水素需要家の集合(iは集合Iの要素)、CELIN_COST(t):受電電力コスト単価(円/kW)、CELOUT_COST(t):売電電力コスト単価(円/kW)、CWACOST(t):購入水道コスト単価(円/Nm3)、CH2PENA:水素供給ペナルティ単価(円/Nm3)、CH2OUT(d):1日の水素需要量(Nm3/d)、CECGAS_EF:水素製造装置電解効率(Nm3/kWh)、CGAS_WA_EF:水素製造装置水道使用効率(m3/Nm3)、CECEL_LL:水素製造装置下限電力(kW)、CECEL_UL:水素製造装置上限電力(kW)、CH2ST_LL:水素貯蔵タンク貯蔵下限容量(Nm3)、CH2ST_UL:水素貯蔵タンク貯蔵上限容量(Nm3)、CELIN_UL:水素製造供給プラント契約電力(kW)、CPV_UL:再生可能エネルギー発電電力定格(kW)、CDEMANDPENA(i):水素需要家iの水素供給ペナルティ単価(円/Nm3)
【0142】
<最適化変数>
以下の最適化変数の下限は0、上限は無限大とする。
XELIN(t):受電電力(kW)、XELOUT(t):売電電力(kW)、XECEL(t):水素製造装置消費電力(kW)、XECWA(t):水素製造装置水道使用量(m3)、XECH2(t):水素製造装置水素製造量(Nm3)、XH2ST(t):水素貯蔵タンク貯蔵量(Nm3)、XH2OUT(t):水素供給量(Nm3)、XPV(t):再生可能エネルギー発電電力予測値(kW)、XTANK(t):水素貯蔵装置消費電力(kW)、XSUPPLY(t):水素供給装置消費電力(kW)、XH2PENA(d):1日の水素供給不足量(Nm3)、XPLANT(t):水素製造供給プラントのコスト(円)、XDEMAND(i,t):水素需要家iのコスト(円)、XDEMANDCOST(i,t):水素需要家iの水素価格(円/Nm3)、XDEMANDIN(i,t):水素需要家iへの水素供給量(Nm3)、XDEMANDPENA(i、d):水素需要家iへの1日の水素供給不足量(Nm3)
【0143】
<関数>
fDEMAND(i,d,X):水素需要家iの日dにおける水素需要量Xから水素供給価格を計算する関数
【0144】
<コスト関連の制約式>
XPLANT(t)=XELIN(t)×CELIN_COST(t)-XELOUT(t)×CELOUT_COST(t)+XECWA(t)×CWACOST(t)
【0145】
XDEMAND(i,t)=XDEMANDIN(i,t)×fDEMAND(i,d,XDEMANDIN(i,t))
【0146】
<電力需給バランス関連の制約式>
XECIN(t)-XECOUT(t)=XECEL(t)+XTANK(t)+XSUPPLY(t)-XPV(t)
【0147】
XECIN(t)≦CELIN_UL
【0148】
XPV(t)≦CPV_UL
【0149】
<水素製造装置関連の制約式>
XEC2(t)=XECEL(t)×CECGAS_EF
【0150】
XECEL(t)≧CECEL_LL
【0151】
XECEL(t)≦CECEL_UL
【0152】
XECWA(t)=XECH2(t)×CGAS_WA_EF
【0153】
<水素貯蔵装置関連の制約式>
XH2ST(t)=XH2ST(t-1)+XECH2(t)+X2OUT(t)
【0154】
XH2ST(t)≧CH2ST_LL
【0155】
XH2ST(t)≦CH2ST_UL
【0156】
<水素供給装置関連の制約式>
Σ[XH2OUT(t)]≧CH2OUT(d)-XH2PENA(d)
【0157】
ここで、Σは、dに属するt(tは集合dの要素)についての和を示す。
【0158】
<水素需要家との需給関連の制約式>
【0159】
【0160】
【0161】
<目的関数>
以上の条件のもとに、次の目的関数OBJを最小化する。
【0162】
【0163】
この目的関数OBJの場合、水素製造供給プラント10のコスト、水素製造供給プラント10の供給不足によるペナルティ項に加えて、各水素需要家2のコスト、各水素需要家2への供給不足によるペナルティ項を考慮している。各水素需要家2のコストを評価関数で考慮することで、水素製造供給プラント10だけでなく各水素需要家2の水素価格なども最適化することが可能となる。また、各水素需要家2の水素供給ペナルティ単価は、例えば、水素需要家2が工場の場合は、水素の供給不足により製造ラインが停止することによる損失などから決定できる。
【0164】
制約条件では、各水素需要家との需給バランスを考慮している。水素製造供給プラント10の水素製造量と各水素需要家への水素供給量の合計が一致、水素製造供給プラント10の水素供給不足量と各水素需要家への水素供給不足量の合計が一致、とさせる制約条件となる。
【0165】
以上の最適化問題を解くことで目的関数を最小とする最適化変数の値を求め、水素製造供給プラント10の運用計画に加えて、各水素需要家2への水素供給量、水素価格を含む水素供給計画を立案することが可能となる。なお、水素需要家2間で水素供給量や水素価格に差が発生した場合は、水素需要家2間でインセンティブ等のやり取りをすることで、公平性を保つことが可能となる。
【0166】
以上、説明した実施形態によれば、水素の需要に対して、それぞれの優先度を考慮した水素供給を可能とする水素供給計画装置および水素供給計画方法を提供することが可能となる。
【0167】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0168】
1…電力系統、2…水素需要家、2a…第1の水素需要家、2n…第nの水素需要家、10…水素製造供給プラント、11…再生可能エネルギー発電装置、12…所内母線、13…水素製造装置、14…水素貯蔵装置、15…水素供給装置、16…水素輸送装置、100…水素供給計画装置、111…入力部、112…水素需要家情報取得部、113…運用情報取得部、120…演算部、121…優先度導出部、122…計画演算部、123…コスト演算部、124…水素供給計画部、125…水素供給計画決定部、126…画像データ生成部、130…記憶部、131…入力情報記憶部、132…水素需要家情報記憶部、133…運用情報記憶部、140…ユーザインターフェース、200…水素供給計画システム、210…水素供給管理装置