(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131545
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041878
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 瞳
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 昌志
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC19
3D131EA02U
3D131EA08U
3D131EA10U
3D131EB24V
3D131EB24X
(57)【要約】
【課題】新品時における転がり抵抗の低減と摩耗時におけるウエット性能の改善を両立させることを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドゴム層20はトレッド部1の踏面をなす第一トレッドゴム層21とこの第一トレッドゴム層21のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層22とを有し、第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ
1と第二トレッドゴム層22の0℃のtanδ
2とは1.1≦tanδ
2/tanδ
1≦4.0の関係を満たし、第二トレッドゴム層22は主溝9に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部23を有し、この凸部23における主溝9の溝底から凸部23の頂部までの高さHは2mm以上かつ主溝9の深さ未満であり、凸部23に隣接する主溝9の溝幅W1と凸部23の高さHの中間位置で測定される幅W2とは0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記トレッド部における前記ベルト層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝とこれら主溝により区画された複数列の陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッドゴム層が前記トレッド部の踏面をなす第一トレッドゴム層とこの第一トレッドゴム層のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層とを有し、前記第一トレッドゴム層の0℃のtanδ1と前記第二トレッドゴム層の0℃のtanδ2とが1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たし、前記第二トレッドゴム層が前記主溝に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部を有し、この凸部における前記主溝の溝底から前記凸部の頂部までの高さHは2mm以上かつ前記主溝の深さ未満であり、前記凸部に隣接する主溝の溝幅W1と前記凸部の高さHの中間位置で測定される幅W2とが0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記凸部の高さHと前記主溝の深さD1とが0<(H-2.0)/(D1-2.0)≦0.75の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記凸部に最も近い主溝の端部から前記凸部の頂部までの距離Aと前記凸部に隣接する主溝の溝幅W1とが0.03≦A/W1≦1.30の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部の接地幅WTと前記凸部の幅W2の総和WRとが0<WR/WT≦0.2の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第二トレッドゴム層と前記主溝との距離Tが1.0mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、新品時における転がり抵抗の低減と摩耗時におけるウエット性能の改善を両立させることを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、転がり抵抗の低減とウエット路面での制動性能(以下、ウエット性能という)の改善を両立するために、トレッド部を複数層のトレッドゴム層で構成し、かつトレッドゴム層の層間でゴム物性を異ならせることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1で提案された空気入りタイヤでは、摩耗時に、30℃のtanδが相対的に低い(グリップ力が劣る)トレッドゴム層が表出するので、ウエット性能の悪化が顕著であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新品時における転がり抵抗の低減と摩耗時におけるウエット性能の改善を両立させることを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記トレッド部における前記ベルト層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝とこれら主溝により区画された複数列の陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、前記トレッドゴム層が前記トレッド部の踏面をなす第一トレッドゴム層とこの第一トレッドゴム層のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層とを有し、前記第一トレッドゴム層の0℃のtanδ1と前記第二トレッドゴム層の0℃のtanδ2とが1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たし、前記第二トレッドゴム層が前記主溝に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部を有し、この凸部における前記主溝の溝底から前記凸部の頂部までの高さHは2mm以上かつ前記主溝の深さ未満であり、前記凸部に隣接する主溝の溝幅W1と前記凸部の高さHの中間位置で測定される幅W2とが0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、第一トレッドゴム層の0℃のtanδ1と第二トレッドゴム層の0℃のtanδ2とは1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たし、第二トレッドゴム層が主溝に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部を有し、この凸部の高さHは2mm以上かつ主溝の深さ未満である。通常のタイヤでは、摩耗時に主溝の溝体積が減少してウエット性能が低下するのに対し、本発明では、摩耗時に、0℃のtanδが相対的に高い(グリップ力が優れた)第二トレッドゴム層の凸部が表出するので、摩耗時におけるウエット性能の低下を補い、ウエット性能を向上させることができる。特に、凸部を主溝に隣接して配置することで、第二トレッドゴム層が接地し易くなるため、更にウエット性能を向上させることができる。また、凸部に隣接する主溝の溝幅W1と凸部の幅W2とが0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たすことで、新品時の転がり抵抗を低減させつつ、摩耗時のウエット性能を改善することができる。
【0007】
本発明の空気入りタイヤにおいて、凸部の高さHと主溝の深さD1とは0<(H-2.0)/(D1-2.0)≦0.75の関係を満たすことが好ましい。これにより、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させつつ、摩耗時のウエット性能を効果的に改善することができる。
【0008】
凸部に最も近い主溝の端部から凸部の頂部までの距離Aと凸部に隣接する主溝の溝幅W1とは0.03≦A/W1≦1.30の関係を満たすことが好ましい。これにより、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させつつ、摩耗時のウエット性能を効果的に改善することができる。
【0009】
トレッド部の接地幅WTと凸部の幅W2の総和WRとは0<WR/WT≦0.2の関係を満たすことが好ましい。これにより、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させることができる。
【0010】
第二トレッドゴム層と主溝との距離Tは1.0mm以上であることが好ましい。これにより、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させることができる。
【0011】
本発明において、上述した各種の寸法は、新品時の空気入りタイヤで測定される寸法である。また、トレッドゴム層を構成するゴムの0℃の損失正接(tanδ)は、JIS K6934に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用いて周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度0℃の条件での測定結果をいう。接地幅は、タイヤをJATMAの標準リムにリム組みし、内圧230kPaを充填した状態における負荷能力の77%の荷重を加え、該タイヤを平面に対して垂直に置いたときの平面との接触面におけるタイヤ軸方向の最大直線距離である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【
図2】第二トレッドゴム層に形成された凸部の一例を示す断面図である。
【
図3】(a)~(e)はそれぞれ第二トレッドゴム層に形成された凸部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0015】
一対のビード部3間には、複数本のカーカスコードをラジアル方向に配列してなる少なくとも1層(
図1では1層)のカーカス層4が装架されている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、ナイロンやポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用される。各ビード部3には環状のビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ外周側には、複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0017】
ベルト層7のタイヤ外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層(
図1では2層)のベルトカバー層8が配置されている。
図1において、タイヤ径方向内側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の全幅を覆うフルカバーを構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝9が形成されている。この実施形態では、トレッド部1に4本の主溝9が形成され、これら主溝9により、タイヤ周方向に延在する5列の陸部10が区分されている。
【0019】
また、上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1にはトレッドゴム層20が配置されている。このトレッドゴム層20は、少なくとも2層のゴム層で構成されている。この実施形態では、トレッド部1の踏面をなす第一トレッドゴム層21と、この第一トレッドゴム層21のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層22の2層で構成されている。なお、第二トレッドゴム層22のタイヤ径方向内側に、更に任意の層数のトレッドゴム層を配置することもできる。
【0020】
上記空気入りタイヤにおいて、下層の第二トレッドゴム層22の0℃のtanδ2は、上層の第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ1よりも大きく設定されている。具体的には、第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ1と第二トレッドゴム層22の0℃のtanδ2とは、1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たすように構成されている。特に、第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ1と第二トレッドゴム層22の0℃のtanδ2とは、2.0≦tanδ2/tanδ1≦3.0の関係を満たすことが好ましい。その際、第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ1は、0.25~0.40の範囲にあることが好ましく、0.29~0.32の範囲にあることがより好ましい。
【0021】
第二トレッドゴム層22には、タイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部23が形成されている。この凸部23は、第二トレッドゴム層22における陸部10の下部に位置する部位が一様に突出したものではなく、当該部位の一部分が突出したものである。このような凸部23は、第二トレッドゴム層22において主溝9に隣接する位置に配置されている。また、凸部23の高さH(
図2参照)は、主溝9の溝底から凸部23の最も高い頂部Pまでの高さである。この凸部23の高さHは、2mm以上かつ主溝9の深さD1未満となるように構成されている。
【0022】
このような凸部23は、その頂部Pから底部に向かって拡幅するように形成されていると良い。また、凸部23の主溝9側の側面は、隣接する主溝9の溝壁面と略平行になるように形成されていると良く、凸部23の反対側の側面は、主溝9側と対称又は非対称のいずれで形成されても良い。また、凸部23は、タイヤ周方向に連続して形成されていることが望ましいが、タイヤ周方向に断続的に形成されていても良い。
【0023】
凸部23に隣接する主溝9の溝幅W1と凸部23の幅W2(
図2参照)とは、0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たす。特に、主溝9の溝幅W1と凸部23の幅W2とは、0.3≦W2/W1≦0.5の関係を満たすことが好ましい。ここで、主溝9の溝幅W1は、タイヤをJATMAの標準リムにリム組みし、標準空気圧を充填し、無負荷状態において測定される主溝9の開口部での溝幅(主溝9の開口部に面取り部が形成されている場合は当該面取り部を含む最大溝幅)である。また、凸部23の幅W2は、凸部23の高さHの中間位置(0.5×Hの高さ位置)において測定される幅である。
【0024】
なお、凸部23の断面形状は、特に限定されない。また、凸部23の先端部について、
図2に示すように平坦で形成しても良く、
図3(a)に示すように傾斜面を有するように形成しても良く、
図3(b)に示すように先鋭化させても良く、
図3(c)に示すように階段状に形成しても良く、
図3(d)に示すように単一の円弧で形成しても良く、
図3(e)に示すように複数の円弧で形成しても良い。更に、凸部23の根元は、屈曲していても良く、或いは曲線で形成されていても良い。
【0025】
上述した空気入りタイヤでは、第一トレッドゴム層21の0℃のtanδ1と第二トレッドゴム層22の0℃のtanδ2とは1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たし、第二トレッドゴム層22が主溝9に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部23を有し、この凸部23の高さHは2mm以上かつ主溝9の深さ未満である。通常のタイヤでは、摩耗時に主溝の溝体積が減少してウエット性能が低下するのに対し、本発明では、摩耗時に、0℃のtanδが相対的に高い(グリップ力が優れた)第二トレッドゴム層22の凸部23が表出するので、摩耗時におけるウエット性能の低下を補い、ウエット性能を向上させることができる。特に、凸部23を主溝9に隣接して配置することで、第二トレッドゴム層22が接地し易くなるため、更にウエット性能を向上させることができる。また、凸部23に隣接する主溝9の溝幅W1と凸部23の幅W2とが0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たすことで、新品時の転がり抵抗を低減させつつ、摩耗時のウエット性能を改善することができる。
【0026】
ここで、比W2/W1が0.1未満であると、摩耗時のウエット性能を向上させることができない。また、比W2/W1が0.7を超えると、第二トレッドゴム層22の体積が大きくなり過ぎるため、新品時の転がり抵抗が悪化する。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、凸部23の高さHと主溝9の深さD1とは、0<(H-2.0)/(D1-2.0)≦0.75の関係を満たすことが好ましく、0.4≦(H-2.0)/(D1-2.0)≦0.6の関係を満たすことがより好ましい。このように上記関係式を満たすことで、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させつつ、摩耗時のウエット性能を効果的に改善することができる。ここで、比(H-2.0)/(D1-2.0)が0.75を超えると、第二トレッドゴム層22の体積が過大きくなり過ぎるため、新品時の転がり抵抗が悪化する。
【0028】
凸部23に最も近い主溝9の端部から凸部23の頂部Pまでのタイヤ幅方向の距離A(
図2参照)と凸部23に隣接する主溝9の溝幅W1とは、0.03≦A/W1≦1.30の関係を満たすことが好ましく、0.10≦A/W1≦0.90の関係を満たすことがより好ましい。このように上記関係を満たすことで、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させつつ、摩耗時のウエット性能を効果的に改善することができる。なお、
図3(e)に示す凸部23の場合には、凸部23の先端部のうち主溝9に最も近い円弧部分を頂部Pと見做して距離Aを測定するものとする。
【0029】
ここで、比A/W1が0.03未満であると、主溝9周辺のゴムの変形が大きくなり、転がり抵抗が悪化する。また、比A/W1が1.30を超えると、凸部23が主溝9から離れた位置にあるため、摩耗時のウエット性能の改善効果を十分に得ることができない。
【0030】
トレッド部1の接地幅WTと凸部23の幅W2の総和WRとは、0<WR/WT≦0.2の関係を満たすことが好ましく、0.08≦WR/WT≦0.15の関係を満たすことがより好ましい。このように上記関係を満たすことで、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させることができる。ここで、比WR/WTが0.2を超えると、第二トレッドゴム層22の体積が大きくなり過ぎるため、新品時の転がり抵抗が悪化する。
【0031】
第二トレッドゴム層31と主溝9との距離T(
図2参照)は、1.0mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましい。このように凸部23を設けるにあたって距離Tを適度に設定することで、新品時の転がり抵抗を効果的に低減させることができる。ここで、距離Tが1.0mm未満であると、主溝9周辺のゴムの変形が大きくなり、転がり抵抗が悪化する。
【0032】
上述した実施形態では、主溝9のタイヤ幅方向両側に凸部23を設けた例を示したが、凸部23を片側のみに配置しても良い。また、トレッド部1の全ての主溝9に対して凸部23を設けた例を示したが、凸部23をトレッド部1の一部の主溝9に対してのみ配置することもできる。更に、第二トレッドゴム層22に形成された複数の凸部23が互いに同じ形状を有していなくとも良い。
【実施例0033】
タイヤサイズ215/55R17で、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、一対のビード部間に装架されたカーカス層と、トレッド部におけるカーカス層の外周側に配置されたベルト層と、トレッド部におけるベルト層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝とこれら主溝により区画された複数列の陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、トレッドゴム層はトレッド部の踏面をなす第一トレッドゴム層とこの第一トレッドゴム層のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層からなり、第二トレッドゴム層は主溝に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部を有し、比tanδ2/tanδ1、比W2/W1、比(H-2.0)/(D1-2.0)、比A/W1、比WR/WT、距離Tを表1のように設定した比較例及び実施例1~6のタイヤを製作した。
【0034】
なお、比較例及び実施例1~6において、凸部の高さHは2mm以上かつ主溝の深さ未満である。
【0035】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、新品時の転がり抵抗と摩耗時のウエット性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0036】
新品時の転がり抵抗:
新品状態の各試験タイヤをリムサイズ17×7.0のホイールに組み付けて、空気圧210kPaを充填し、ISO28580に準拠して、ドラム径1707mmのドラム試験機を用いて転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0037】
摩耗時のウエット性能:
第二トレッドゴム層の凸部が露出した摩耗状態の各試験タイヤをリムサイズ17×7.5のホイールに組み付けて、空気圧を180kPaとして排気量2000ccの試験車両に装着し、ウエット路面において速度65km/hの走行状態から制動し、完全停止までの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどウエット性能が優れていることを意味する。
【0038】
【0039】
この表1から判るように、実施例1~6の空気入りタイヤは、比較例に比べて、新品時における転がり抵抗の低減と摩耗時におけるウエット性能の改善を両立させることができた。
【0040】
本開示は、以下の発明[1]~[5]を包含する。
発明[1]は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記トレッド部における前記ベルト層の外周側に配置されたトレッドゴム層とを備え、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝とこれら主溝により区画された複数列の陸部とが形成された空気入りタイヤにおいて、前記トレッドゴム層が前記トレッド部の踏面をなす第一トレッドゴム層とこの第一トレッドゴム層のタイヤ径方向内側に位置する第二トレッドゴム層とを有し、前記第一トレッドゴム層の0℃のtanδ1と前記第二トレッドゴム層の0℃のtanδ2とが1.1≦tanδ2/tanδ1≦4.0の関係を満たし、前記第二トレッドゴム層が前記主溝に隣接する位置にタイヤ径方向外側に突出した少なくとも一つの凸部を有し、この凸部における前記主溝の溝底から前記凸部の頂部までの高さHは2mm以上かつ前記主溝の深さ未満であり、前記凸部に隣接する主溝の溝幅W1と前記凸部の高さHの中間位置で測定される幅W2とが0.1≦W2/W1≦0.7の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤである。
発明[2]は、前記凸部の高さHと前記主溝の深さD1とが0<(H-2.0)/(D1-2.0)≦0.75の関係を満たすことを特徴とする発明[1]に記載の空気入りタイヤである。
発明[3]は、前記凸部に最も近い主溝の端部から前記凸部の頂部までの距離Aと前記凸部に隣接する主溝の溝幅W1とが0.03≦A/W1≦1.30の関係を満たすことを特徴とする発明[1]又は[2]に記載の空気入りタイヤである。
発明[4]は、前記トレッド部の接地幅WTと前記凸部の幅W2の総和WRとが0<WR/WT≦0.2の関係を満たすことを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
発明[5]は、前記第二トレッドゴム層と前記主溝との距離Tが1.0mm以上であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載の空気入りタイヤである。