(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131559
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】肌落ち防護ガード
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20240920BHJP
E21F 11/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21F11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041902
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 匡善
(72)【発明者】
【氏名】三浦 良平
(72)【発明者】
【氏名】石橋 宏章
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雄介
(57)【要約】
【課題】作業者が上方の切羽などの状態を目視で確認することが可能な肌落ち防護ガードを提供する。
【解決手段】肌落ち防護ガード100は、開口部11aに金網12が張られた枠体11を有する複数のガード体10と、複数のガード体19をトンネルAの横断方向に連結する連結具20と、連結された複数のガード体10のトンネルAの横断方向の両端部を、ドリルジャンボ40に備わる2つの離間するガイドシェル41の削孔ロッド42にそれぞれ取り付け可能な取付具30とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部に金網が張られた枠体を有する複数のガード体と、前記複数のガード体をトンネルの横断方向に連結する連結具と、前記連結された複数のガード体の前記トンネルの横断方向の両端部を、ドリルジャンボに備わる2つの離間するガイドシェルの削孔ロッドにそれぞれ取り付け可能な取付具とを備えることを特徴とする肌落ち防護ガード。
【請求項2】
前記金網は、前記枠体に巻き付けられたコイル状の金属線によって、前記枠体に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の肌落ち防護ガード。
【請求項3】
前記コイル状の金属線によって、環状部分を有する被連結具が前記枠体に固定され、前記被連結具の環状部分同士が前記連結具にて連結されていることを特徴とする肌落ち防護ガード。
【請求項4】
前記削孔ロッドの外周面を取り囲み、前記取付具が固定された取囲体と、前記取囲体に形成された貫通孔を挿通し、先端を前記削孔ロッドの外周面に押し当てた状態で固定可能な固定具とを備えることを特徴とする請求項1に記載の肌落ち防護ガード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌落ち防護ガードに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル施工においては、爆薬を用いた発破などにより切羽を切り崩し、発生したずり(岩石屑)をトンネル外に搬送してトンネルを掘り進める。切り崩した不安定なトンネル掘削面は、コンクリートを吹付けるなどして補強した後、支保工を設置し、コンクリート覆工する。
【0003】
発破のために爆薬を装填する作業、トンネル掘削面などに浮き出た岩片や岩塊などを鉄棒などで落下させる浮石落し作業(コソク作業)、トンネル掘削面にコンクリートを吹付ける作業、支保工を建て込む作業などを行う際には、作業員は切羽に接近して作業する。
【0004】
その際、切羽からの落石(肌落ち)が発生し、作業員が危険に晒されるおそれがある。従来から、支保工を利用して肌落ちから作業員を防護する装置は存在するが、支保工の設置前には存在しない。そのため、支保工の設置前は、ドリルジャンボに屋根状の防護具を取り付けるなどして作業員を防護していたが、作業員の安全性や防護具が重量物であるために取扱性に課題があった。
【0005】
そこで、特許文献1には、複数の衝撃吸収部材を上面に保持した保持部材の両端部をドリルジャンボのガイドシェルに固定することにより、切羽からの落下物を衝撃吸収材で受け止める防護体が記載されている。ここで、衝撃吸収部材は高発泡ポリエチレン製の板状部材をポリエチレンフィルムで被覆したものからなり、保持部材はポリエステル製の帯状部材からなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の防護体においては、複数の衝撃吸収部材を上面に保持した保持部材が作業者の上方に位置する。そのため、作業者は、上方の切羽などの状態を目視することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、作業者が上方の切羽などの状態を目視で確認することが可能な肌落ち防護ガードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の肌落ち防護ガードは、開口部に金網が張られた枠体を有する複数のガード体と、前記複数のガード体をトンネルの横断方向に連結する連結具と、前記連結された複数のガード体の前記トンネルの横断方向の両端部を、ドリルジャンボに備わる2つの離間するガイドシェルの削孔ロッドにそれぞれ取り付け可能な取付具とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の肌落ち防護ガードによれば、ガード体は枠体の開口部に金網が張り渡されたものであるので、上記特許文献1に記載の技術とは相違して、金網を介して作業者の上方に位置する切羽などを、作業位置から目視で観察することが可能となる。
【0011】
本発明の肌落ち防護ガードにおいて、前記金網は、前記枠体に巻き付けられたコイル状の金属線によって、前記枠体に固定されていることが好ましい。
【0012】
この場合、金網を簡易に枠体に固定することが可能となる。
【0013】
また、本発明の肌落ち防護ガードにおいて、前記コイル状の金属線によって、環状部分を有する被連結具が前記枠体に固定され、前記被連結具の環状部分同士が前記連結具にて連結されていることが好ましい。
【0014】
この場合、ガード体を簡易に連結すること及び連結を解除することが可能となる。
【0015】
また、本発明の肌落ち防護ガードにおいて、前記削孔ロッドの外周面を取り囲み、前記取付具が固定された取囲体と、前記取囲体に形成された貫通孔を挿通し、先端を前記削孔ロッドの外周面に押し当てた状態で固定可能な固定具とを備えることが好ましい。
【0016】
この場合、固定具によって取囲体を削孔ロッドに固定することにより、取付具が削孔ロッドに対してずれ動くことを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る肌落ち防護ガードの設置状態を示す模式側面図。
【
図3】削孔ロッドの先端部にずれ止め機能付きの取付具を固定した状態を示す模式拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る肌落ち防護ガード100について図面を参照して説明する。なお、図面は本実施形態を模式的に説明するための図であり、寸法はデフォルメされている。
【0019】
肌落ち防護ガード100は、開口部11aに金網12が張られた枠体11を有する複数のガード体10と、ガード体10同士をトンネルAの横断方向(図中のX軸方向)に連結する連結具20と、連結された複数のガード体10の両端部を、ドリルジャンボ40に備わる2つの離間するガイドシェル41の削孔ロッド42にそれぞれ取り付け可能な取付具30とを有している。
【0020】
連結されたガード体10の両端部が離間する2本の削孔ロッド42に取付具30にて取り付けられた肌落ち防護ガード100は、削孔ロッド42の先端が切羽Bの近傍に位置されることにより、トンネルAの切羽Bに近接した状態に配置される。これにより、切羽Bからの落石などを金網12で受け止めることにより、肌落ち防護ガード100の下方にて作業する作業者Cは防護される。
【0021】
枠体11は、内側に開口部11aが形成された上面視矩形状であり、トンネルAの横断方向(図中X軸方向)に延びて互いに対向する2本の横枠部13と、トンネルAの奥行き方向(図中Y軸方向)に延びて互いに対向する2本の前後枠部14とから構成されている。これら枠部13,14は、一例として、それぞれ直径20mmの鋼管からなっている。ただし、枠部13,14は、これに限定されず、角管、丸棒、角棒などであってもよく、アルミニウム合金などの他の金属からなるものであってもよい。
【0022】
そして、ここでは、横枠部13と前後枠部14とのそれぞれ端部が近接する隅部は固定されていない。ただし、これら端部は溶接などによって固定されていてもよい。枠体11は、1人の作業者Cが取り扱い易い大きさであり、一例として、X軸方向の長さは1.5m、Y軸方向の長さは1.1mである。
【0023】
金網12は、ここでは、菱形金網であるが、矩形金網や亀甲金網などであってもよい。ただし、線材の隙間から上方が目視できるように、線材の隙間はある程度大きいものが好ましい。金網12は、一例として、線径が3.2mmの鋼製線材であって芯々空間が50mmX50mmの菱形金網である。ただし、金網12は、これに限定されず、他の寸法を有するものであってもよく、ステンレス製などの他の金属製の線材を用いたものであってもよい。
【0024】
金網12は、枠体11の開口部11aの形状に合わせてその外形が矩形状に切断されている。そして、各枠部13,14には、それぞれ金属線15がコイル状(スパイラル状)に巻き付けられており、この金属線15によって枠部13,14と金網12とが連結され、枠体11の開口部11aに金網12が張られた状態となっている。なお、金属線15は、ここでは、枠部13,14毎に1本ずつ巻き付けられているが、1本の金属線15が複数の枠部13,14に亘って連続して巻き付けられていてもよく、また、複数本の金属線15が1つの枠部13,14に巻き付けられていてもよい。
【0025】
さらに、金属線15によって枠体11に、金網12の他に被連結具16も巻き付けられて固定されている。ただし、被連結具16は、枠体11に溶接、接着、締結などによって固定されていてもよい。被連結具16は、ここでは、アイやリングなどの環状部分を端部に有するワイヤーや金具などの部材であり、環状部分が枠体11の外部に突出している。ここでは、4つの被連結具16が、一対の横枠部13の両端部からそれぞれX軸方向に環状部分が突出するように固定され
ている。
【0026】
そして、隣接する被連結具16が連結具20を介して連結されることにより、複数のガード体10がX軸方向に延びるように連結されている。連結具20は、ここでは、シャックルである。シャックルを用いることにより、環状部分を有する被連結具16同士を簡易かつ確実に連結することができる。ただし、連結具20として、シャックルの他に、カラビナ、リングキャッチ、タイベルトなどを用いてもよい。
【0027】
連結されるガード体10の個数は、トンネルAのX軸方向の長さに応じて定めればよい。なお、連結される個々のガード体10のX軸方向の長さは異なっていてもよい。
【0028】
連結されたガード体10のX軸方向の両端部には、それぞれ、一対の取付具30が取り付けられている。取付具30は、ドリルジャンボ40に備わるガイドシェル41の削孔ロッド42に肌落ち防護ガード100を取り付けるためのものである。
【0029】
ここでは、取付具30は、フックからなる。このフック30は、被連結具16に連結具20を用いて連結されて取り付けられる。一例として、フック30には環状部分が基端部に形成されており、この環状部分と被連結具16の環状部分とに、連結具20であるシャックルを掛けることにより、フック30とガード体10とを連結している。ただし、取付具30として、フックの他に、シャックル、カラビナなどを用いてもよい。
【0030】
また、
図3を参照して、ずれ止め機能付きの取付具50を削孔ロッド42に取り付けることも好ましい。このずれ止め機能付きの取付具50は、削孔ロッド42の外周面を取り囲む取囲体51と、取囲体51に固定されたフック52と、取囲体51の後部に形成された貫通孔を挿通する持ち手付きのボルト53と、このボルト53と螺合するナット54とから構成されている。取囲体51は、金属、プラスチック、木などの剛体からなるものであっても、バリスティックナイロン(登録商標)やアラミド繊維ケブラー(登録商標)等で形成された丈夫な布などからなるものであってもよい。そして、フック52の代わりにシャックル、カラビナなどを用いてもよい。なお、ボルト53が本発明の固定具に相当する。
【0031】
ずれ止め機能付きの取付具50は、取囲体51で削孔ロッド42の先端の削孔ビット42aを包み込み、ボルト53の先端を削孔ロッド42の傾斜部42bを押し当てた状態でナット54により固定する。これにより、ずれ止め機能付きの取付具50は、削孔ロッド42の先端部に固定され、フック52のずれ動きが防止される。
【0032】
なお、
図3においては、取囲体51は後方(図面右方)だけが開口しているが、前方(図面左方)も開口していてもよい。これにより、削孔ロッド42の先端部以外にも、ずれ止め機能付きの取付具を取り付けることが可能となる。また、この場合、取囲体の前部にても、後部と同様にボルトとナットを用いて固定してもよい。さらに、取囲体51は、削孔ロッド42の外周面を全周に亘って取り囲むものに限定されず、脱落しない程度に部分的に取り囲むものであってもよい。
【0033】
ドリルジャンボ40は、所定位置に固定可能な自走する車両43と、車両43の前方において旋回及び伸縮が自在な少なくとも2本のブーム44と、2本のブーム44の先端にそれぞれ揺動可能に装着されたガイドシェル41と、ガイドシェル41に案内されて進退するドリフタ(削岩機)45と、ドリフタ45に装着されて岩盤を削孔する削孔ロッド42とを備えている。ドリフタ45は、爆薬を装填するための孔を削孔ロッド42によって切羽Bに穿孔するものである。
【0034】
なお、ドリルジャンボ40は、ドリフタ45以外、例えば、コンクリート吹き付け装置、ロックボルト打ち込み装置、ケージなどが装着されたブーム44を有するものであってもよい。また、ドリルジャンボ40は、自走可能である場合に限定されず、レールに案内されて走行されるものや、移動不能なものであってもよい。
【0035】
各削孔ロッド42がX軸方向に離間してそれぞれY軸方向に延在し、かつ、各削孔ロッド42の先端が切羽Bの近傍に位置するように、ドリルジャンボ10を操作する。これにより、肌落ち防護ガード100は、切羽Bの近傍において、X軸方向に延在され、その下方に位置する作業員Cを肌落ちから防護することが可能となる。肌落ち防護ガード100は、トンネルAの横断方向の略全長に亘って延在されることが好ましいが、これに限定されず、その一部にだけ延在されるものであってもよい。また、肌落ち防護ガード100の配置高さは、作業者Cの身長を少なくとも超えていればよい。
【0036】
肌落ち防護ガード100は、水平方向に平面状となるように張り渡されることが好ましい。ただし、ガード体10同士、及びガード体10と削孔ロッド42とは連結具20を介して連結されており、連結角度は限定されないので、肌落ち防護ガード100は少し撓むようにして張り渡されていてもよい。
【0037】
なお、各削孔ロッド42の先端を切羽Bに押し付けるように、ドリルジャンボ10を操作することが好ましい。さらに、切羽Bを少し削孔して各削孔ロッド42の先端が切羽Bに埋め込まれた状態とすることも好ましい。これにより、削孔ロッド42が安定的に支持され撓みが抑制されるので、肌落ちが発生しても、肌落ち防護ガード100によって作業者Cをさらに確実に防護することが可能となる。
【0038】
次に、上述した肌落ち防護ガード100を構築する方法について説明する。
【0039】
まず、適宜な枚数のガード体10を用意する。次に、ガード体10を連結具20を用いて連結する。次に、連結されたガード体10の両端部を、ドリルジャンボ10に備わるガイドシェル41の削孔ロッド42に取付具30を用いて取り付ける。なお、2枚のガード体10の一方の端部を、2本の離間する削孔ロッド42に取付具30を用いて取り付けた後に、これらガード体10の間に適宜な個数のガード体10を連結具20を用いて連結してもよい。
【0040】
次に、2本の削孔ロッド42がX軸方向に離間し、その延在する方向がY軸方向となる状態で、2本の削孔ロッド42を伸長させる、又は、ドリルジャンボ10を切羽Bに向かって走行させる。そして、削孔ロッド42の先端を切羽Bに押し付ける。これにより、肌落ち防護ガード100が、切羽Bの近傍においてX軸横断方向に延在して設置される。
【0041】
なお、肌落ち防護ガード100を除去するときは、2本の削孔ロッド42を収縮させた後、又は、ドリルジャンボ10を切羽Bから離れるように走行させた後、取付具30による取り付けを解除して、肌落ち防護ガード100を削孔ロッド42から取り外せばよい。
【0042】
上述した肌落ち防護ガード100においては、適宜な個数のガード体11を連結具20によって連結して、その両端部を、削孔ロッド42に取付具30によって取り付けているので、削孔ロッド42の間隔に亘ってトンネルAの切羽B付近で作業する作業員Cを防護することが可能となる。
【0043】
そして、ガード体10は枠体11の開口部11aに金網12が張り渡されたものであるので、上記特許文献1に記載の防護体とは相違して、金網12を介して作業者Cの上方に位置する切羽Bなどを、作業位置から目視で観察することができるので、危険を予知することが可能となる。
【0044】
さらに、作業者Cが一人で各ガード体10を持ち運ぶことが可能であるので、作業者Cは一人でも肌落ち防護ガード100を設置、除去することができる。そして、ガード体10は、枠体11の開口部11aに金網12が張り渡されたものであって頑丈であるので、肌落ちから作業員を確実に防護することが可能である。また、肌落ち防護ガード100を構成する各構成部材は、全て市販品を流用することができるので、簡易に肌落ち防護ガード100を作製することが可能である。
【0045】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載した肌落ち防護ガード100に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。例えば、Y軸方向にもガード体10を連結してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…ガード体、 11…枠体、 11a…開口部、 12…金網、 13…横枠部、 14…前後枠部、 15…金属線、 16…被連結具、 20…連結具、 30…取付具、フック 40…ドリルジャンボ、 41…ガイドシェル、 42…削孔ロッド、 43…車両、 44…ブーム、 45…ドリフタ、50…ずれ止め機能付きの取付具、 51…取囲体、 52…フック、取付具、 53…ボルト(固定具)、 54…ナット、 100…肌落ち防護ガード、 A…トンネル、 B…切羽、 C…作業者。