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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131574
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】リード及びリードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/035 20200101AFI20240920BHJP
   G10D 9/08 20200101ALI20240920BHJP
   G10D 7/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G10D9/035
G10D9/08
G10D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041923
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰子
(57)【要約】
【課題】植物材料以外で形成されたリードによって様々な音色を実現する。
【解決手段】一実施形態によれば、気鳴楽器用のリードであって、前記リードの長手方向に垂直な方向に積層された複数のプラスチックシートを含み、前記複数のプラスチックシートのうち少なくとも一つのプラスチックシートが積層方向及び前記長手方向の両方に垂直な方向における弾性率よりも前記長手方向における弾性率の方が大きい、リードが提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気鳴楽器用のリードであって、
前記リードの長手方向に垂直な方向に積層された複数のプラスチックシートを含み、
前記複数のプラスチックシートのうち少なくとも一つのプラスチックシートが積層方向及び前記長手方向の両方に垂直な方向における弾性率よりも前記長手方向における弾性率の方が大きい、リード。
【請求項2】
前記長手方向の弾性率は、前記リードの短手方向の弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である、請求項1に記載のリード。
【請求項3】
前記少なくとも一つのプラスチックシートは、第1層、及び前記第1層に対して前記積層方向に隣接する第2層を含み、
前記第1層の弾性率の異方性は、前記第2層の弾性率の異方性とは異なる、請求項1に記載のリード。
【請求項4】
前記積層方向は、前記リードの短手方向である、請求項1に記載のリード。
【請求項5】
前記積層方向は、前記長手方向及び前記リードの短手方向に対して垂直な方向である、請求項1に記載のリード。
【請求項6】
各々が異方性を有する複数のプラスチックシートを準備し、
前記異方性が揃うように前記複数のプラスチックシートを重ねて積層体を形成し、
前記積層体から短手方向よりも長手方向の弾性率が大きい板を切り出すこと、
を含む、リードの製造方法。
【請求項7】
前記積層体の前記長手方向の弾性率は、前記短手方向の弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である、請求項6に記載のリードの製造方法。
【請求項8】
前記前記複数のプラスチックシートのうち少なくとも一つのプラスチックシートは、第1層、及び前記第1層に対して前記複数のプラスチックシートを積層した方向に隣接する第2層を含み、
前記第1層の弾性率の異方性は、前記第2層の弾性率の異方性とは異なる、請求項6に記載のリードの製造方法。
【請求項9】
前記板を切り出すことは、前記複数のプラスチックシートを積層した方向に沿って前記積層体から前記板を切り出すことを含む、請求項6に記載のリードの製造方法。
【請求項10】
前記板を切り出すことは、前記複数のプラスチックシートを積層した方向に対して垂直な方向に沿って前記積層体から前記板を切り出すことを含む、請求項6に記載のリードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器のリード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管楽器のマウスピースに取り付けられるリードは、一般的にはケーンといわれる植物材料によって形成される。近年では、樹脂材料によって形成されたリードも開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-075556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物材料で形成されたリード(以下、植物由来リードという)は、樹脂材料で形成されたリード(以下、樹脂由来リードという)とは物性が異なる。具体的には、植物由来リードは、その先端部において、リード本体の延在方向(縦方向)に略直交する横方向の剛性が、縦方向の剛性に比べて相対的に低く、縦方向に比べて横方向の弾性率が低く曲がり易いという特徴を有している。このような剛性の異方性により、植物由来リードは様々な音色を実現することができる。一方、樹脂由来リードは、植物由来リードとは異なり、縦方向及び横方向の剛性に異方性がない。そのため、樹脂由来リードは、植物由来リードの音色を再現することができない。樹脂由来リードによる発音を、植物由来リードによる発音に近づけることを含め、樹脂由来リードによって様々な音色を実現することが望まれている。
【0005】
樹脂材料から削り出す又は射出成形により作製される樹脂由来リードには、所望の剛性の異方性を付与することが困難である。
【0006】
本発明の目的の一つは、植物材料以外で形成されたリードによって様々な音色を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態によると、気鳴楽器用のリードであって、前記リードの長手方向に垂直な方向に積層された複数のプラスチックシートを含み、前記複数のプラスチックシートのうち少なくとも一つのプラスチックシートが積層方向及び前記長手方向の両方に垂直な方向における弾性率よりも前記長手方向における弾性率の方が大きいリード、が提供される。
【0008】
本開示の一実施形態によると、各々が異方性を有する複数のプラスチックシートを準備し、前記異方性が揃うように前記複数のプラスチックシートを重ねて積層体を形成し、前記積層体から短手方向よりも長手方向の弾性率が大きい板切り出すこと、を含む、リードの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、樹脂材料で形成されたリードによって様々な音色を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る吹き込み部を示す図である。
図2】一実施形態に係るリードとマウスピースとを示す図である。
図3】一実施形態に係るリードのヒールを長手方向から見た拡大図である。
図4】一実施形態に係る複数のプラスチックシートを含む積層体を示す概略図である。
図5図4におけるA1-A2に沿ったプラスチックシートの積層体の断面図の一例である。
図6】一実施形態に係るリードの製造方法の一例を示すフロー図である。
図7】一実施形態に係るリードの製造工程を説明するための図である。
図8】一実施形態に係るリードの製造工程を説明するための図である。
図9】一実施形態に係るリードの製造工程を説明するための図である。
図10】別の実施形態に係るリードのヒールを長手方向から見た拡大図である。
図11】別の実施形態に係る複数のプラスチックシートを含む積層体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、Bなど付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。図面は、説明を明確にするために、寸法比率が実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりして、模式的に説明される場合がある。
【0012】
一実施形態における吹き込み部は、例えば、サクソフォンに用いられるシングルリードの吹き込み部であって、リードを含む。リードは、樹脂材料で形成されている。
【0013】
[第1実施形態]
(リードの構成)
図1は、本開示の第1実施形態に係る吹き込み部1を示す図である。図1では、吹き込み部1を側方から見た場合の例を示している。図2は、本実施形態に係るリード10とマウスピース30とを示す図である。
【0014】
図1に示すように、吹き込み部1は、リード10、マウスピース30およびリガチャ80を含む。リガチャ80は、リード10とマウスピース30とを固定する部材である。
【0015】
図2に示すように、マウスピース30は、テーブル301、サイドレール303、及びティップレール300を含む。2つのサイドレール303は、テーブル301から延在する。ティップレール300は、2つのサイドレール303から延在する。サイドレール303の端部には、ティップレール300が配置される。
【0016】
リード10は、基材部101およびヴァンプ103を含む。図2に示すように、基材部101は、平面部151、裏面153、及びヒール157を含む。平面部151は、基材部101の少なくとも一方の面に配置されている。裏面153は、平面部151とは反対側の面である。この例では、裏面153は、マウスピース30に取り付けられるときに、テーブル301と接触する平面の少なくとも一部に対応する。ヒール157は、ヴァンプ103とは反対側の位置する基材部101の端部である。
【0017】
ヴァンプ103は、ヒール157とは反対側に基材部101から延在する。すなわち、ヴァンプ103は、リード10の長手方向D1の一端部に配置される。ヴァンプ103は、基材部101とは反対側に先端部155を有し、先端部155に向かってその厚さが徐々に薄くなる。
【0018】
リード10は、樹脂材料で形成され、長手及び短手を含む。リード10の長手方向D1と短手方向D2は互いに垂直である。リード10の長手方向D1の弾性率は、短手方向D2の弾性率よりも相対的に大きい。リード10の長手方向D1における弾性率は、リード10の短手方向D2における弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である。換言すると、リード10の短手方向D2の剛性よりも、リード10の長手方向D1の剛性が相対的に高い。
【0019】
図3は、図2に示されたリード10のヒール157を長手方向D1から見た拡大図である。図3に示すように、リード10は、複数のプラスチックシート20を含む。リード10は、複数のプラスチックシート20が互いに積層されている積層体からなる。複数のプラスチックシート20は、リード10の長手方向D1及び短手方向D2の両方に垂直な、リード10の厚さ方向D3に沿って積層される。つまり、本実施形態において、複数のプラスチックシート20の積層方向は、リード10の厚さ方向D3に一致する。
【0020】
図4は、複数のプラスチックシート20を含む積層体200の側面を示す概略図である。積層体200は、互いに積層された約5枚以上約200枚以下のプラスチックシート20を含む。プラスチックシート20は、剛性に異方性を有するLCP(Liquid Crystal Polymer)シートであってもよいが、これに限定されない。プラスチックシート20は、LCPの他、PC(polycarbonate)、PP(polypropylene)、ABS(Acrylonitrile-butadiene-styrene)、TPI(thermoplastic polyimide)、PEI(polyetherimide)などの剛性に異方性がある樹脂シート、或いは剛性に異方性を持たせやすい樹脂シートを使用する。プラスチックシート20の厚みは、限定されるわけではないが、通常5μm以上5mm以下であり、好ましくは10μm以上1mm以下であり、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。ここで、プラスチックシート20の厚みは、積層体200におけるプラスチックシート20の積層方向に沿った厚みである。
【0021】
複数のプラスチックシート20を含む積層体200は、プラスチックシート20以外の構成を含んでもよい。積層体200は、2つの隣接するプラスチックシート20の間に介在する任意の層を含んでもよい。図示はしないが、例えば、積層体200は、2つの隣接するプラスチックシート20の間に介在する接着層を含んでもよい。また、積層体200は、複数のプラスチックシート20とは異なる、別の種類の樹脂からなるシートを含んでもよい。
【0022】
リード10を構成する複数のプラスチックシート20のうち、少なくとも一つのプラスチックシート20は、延伸方向と非延伸方向とを有する。延伸方向及び非延伸方向は、ともにリード10の厚さ方向D3、つまり複数のプラスチックシート20の積層方向に対して垂直であり、且つ延伸方向と非延伸方向とは互いに垂直である。プラスチックシート20の延伸方向における弾性率は、プラスチックシート20の非延伸方向における弾性率よりも相対的に大きい。換言すると、プラスチックシート20の延伸方向における剛性は、非延伸方向における剛性よりも相対的に高い。プラスチックシート20において、延伸方向における弾性率は、非延伸方向における弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である。
【0023】
例えば、図4に示す積層体200を構成する各プラスチックシート20において、リード10の長手方向D1はプラスチックシート20の延伸方向に一致し、リード10の短手方向D2はプラスチックシート20の非延伸方向に一致する。積層体200からリード10を切り出す際、各プラスチックシート20の延伸方向がリード10の長手方向D1に一致し、非延伸方向がリード10の短手方向D2に一致するように、積層体200からリード10を切り出す。
【0024】
リード10は、積層体200を切削加工することにより積層体200から切り出される。図3に示すように、リード10の厚さ方向D3とリード10を構成する複数のプラスチックシート20の積層方向とが一致している場合、積層体200における複数のプラスチックシート20の積層方向に対して、垂直な方向にリード10の長手及び短手が位置するように、積層体200から板状のリード10が切り出される。この場合、リード10の長手方向D1の弾性率が短手方向D2の弾性率よりも大きくなる。換言すると、リード10の長手方向D1の剛性が、短手方向D2の剛性よりも大きくなる。プラスチックシート20の大きさに応じて、一つの積層体200から複数のリード10を切り出すことができる。
【0025】
図5は、図4に示した積層体200をA1-A2線に沿ってリード10の短手方向D2及び厚さ方向D3で定義される平面で切った断面図である。図5では、リード10の長手方向D1から見た断面図を示す。図5に示すように、プラスチックシート20は、第1層201と第2層203とを含む。第2層203は、第1層201に対して複数のプラスチックシート20の積層方向(リード10の厚さ方向D3)に隣接する。プラスチックシート20の第1層201の弾性率の異方性は、第2層203の弾性率の異方性とは異なる。例えば、第1層201の弾性率の異方性よりも第2層203の弾性率に異方性が大きくてもよい。或いは、逆に、第2層203の弾性率の異方性よりも第1層201の弾性率に異方性が大きくてもよい。このようなプラスチックシート20を複数積層して積層体200を形成することにより、積層体200の少なくとも一部において、第1層201及び第2層203がプラスチックシート20の積層方向に沿って交互に存在する。
【0026】
リード10を構成する複数のプラスチックシート20のうち、2つ以上のプラスチックシート20が剛性に異方性を有する場合、当該プラスチックシート20は、剛性の異方性が相対的に強い方向を揃えるように積層されてもよい。これにより、剛性の異方性がある積層体200を形成することができる。
【0027】
積層体200における剛性の異方性を調整する場合は、複数のプラスチックシート20を積層する際、剛性の異方性が相対的に強い方向が敢えて揃わないように複数のプラスチックシート20を積層してもよい。また、複数のプラスチックシート20の間に別の部材を介在させることにより、積層体200における剛性の異方性を調整することができる。また、プラスチックシート20の厚さをより薄くし、積層体200におけるプラスチックシート20の積層枚数をより多くすることにより、積層体200における剛性の異方性が相対的に大きな第1層201又は第2層203の割合を調整し、積層体200における剛性の異方性を調整することができる。
【0028】
このように、剛性の異方性を有するプラスチックシート20を複数積層することにより、剛性に異方性のある積層体200を形成する。この積層体200から切り出されたリード10は、積層体200と同様に剛性に異方性を有する。換言すると、植物由来リードの剛性の異方性と同様の剛性の異方性をリード10に付与することができる。したがって、リード10は、植物由来リードと同様の音色を実現することができる。
【0029】
また、リード10の剛性の異方性は、リード10の表面だけではなく、リード10を構成する複数のプラスチックシート20によって実現される。そのため、積層体200からリード10を切り出した後にヴァンプ103等を形成するために、リード10を表面処理し、リード10の表面を削ったとしても、リード10の剛性の異方性は維持される。
【0030】
(製造方法)
図6は、本実施形態に係るリード10の製造方法の一例を示すフロー図である。図7図9は、リード10の製造工程を説明するための図である。
【0031】
まず、図6及び図7に示すように、剛性の異方性を有する複数のプラスチックシート20を準備する(S601)。プラスチックシート20は、例えば、約5枚以上約200枚以下準備する。プラスチックシート20の各々は、延伸方向の弾性率が非延伸方向の弾性率よりも大きい。ここでは、プラスチックシート20の延伸方向の弾性率は、非延伸方向の弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である。
【0032】
プラスチックシート20の構成は、図5を参照して説明したとおり、第1層201と、第1層201に隣接した第2層203を含む。第1層201の弾性率の異方性は、第2層203の弾性率の異方性とは異なる。第2層203は、第1層201に対して複数のプラスチックシート20の積層する方向に隣接する。
【0033】
次に、図6及び図8に示すように、複数のプラスチックシート20を延伸方向及び非延伸方向の両方に垂直な方向に積層して積層体200を形成する(S603)。複数のプラスチックシート20の積層方向は、リード10の厚さ方向D3に一致する。このとき、複数のプラスチックシート20各々の剛性の異方性が揃うように、複数のプラスチックシート20を積層してもよい。具体的には、複数のプラスチックシート20各々の剛性の異方性が相対的に強い方向が揃うように、複数のプラスチックシート20を積層してもよい。
【0034】
また、積層体200の剛性の異方性を調整するため、複数のプラスチックシート20を積層する際、剛性の異方性が相対的に強い方向が敢えて揃わないように複数のプラスチックシート20を積層してもよい。複数のプラスチックシート20が積層された積層体200の長手方向の弾性率は、短手方向の弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である。
【0035】
尚、図示はしないが、積層体200には、複数のプラスチックシート20のうち隣接する2つのプラスチックシート20の間に介在する部材を含んでもよい。2つのプラスチックシート20の間に介在する部材としては、プラスチックシート20とは異なる、別の種類の樹脂からなるシート、接着層などであってもよい。
【0036】
複数のプラスチックシート20は、圧着されることにより互いに接着されてもよい。複数のプラスチックシート20を圧着する際の、温度、圧力、プレス時間などの各種の条件は、プラスチックシート20に用いられる樹脂の種類に応じて適宜設定される。また、複数のプラスチックシート20は、隣接する2つのプラスチックシート20の間に介在する接着剤によって互いに接着されてもよい。
【0037】
次に、図6及び図9に示すように、切削加工により積層体200から板210を切り出す(S605)。この際、板210の長手方向が積層体200の長手方向に一致し、板210の短手方向が積層体200の短手方向に一致するように積層体200から板210を切り出す。即ち、積層体200における、複数のプラスチックシート20の積層された積層方向に対して垂直な方向に沿って板210を切り出す。したがって、板210の長手方向の弾性率は、板210の短手方向の弾性率よりも大きい。
【0038】
S605の工程により切り出された板210がリード10となる。つまり、リード10の長手方向D1と板210の長手方向は一致し、リード10の短手方向D2と板210の短手方向は一致する。図示はしないが、板210は、リード10のヴァンプ103などを形成するため、その表面が加工されてもよい。以上が、本実施形態に係るリード10の製造方法である。
【0039】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態に係るリード10Aについて説明する。リード10Aの外観は、図2に示した、第1実施形態に係るリード10と同様である。以下では、リード10Aについて、第1実施形態に係るリード10とは異なる点を説明する。
【0040】
図10は、リード10Aのヒール157Aをリード10Aの長手方向D1から見た拡大図である。図10に示すように、リード10Aは、複数のプラスチックシート20を含む。リード10Aは、リード10とは異なり、複数のプラスチックシート20がリード10Aの短手方向D2に沿って積層された積層体からなる。つまり、本実施形態において、リード10Aの短手方向D2と複数のプラスチックシート20の積層方向とは一致する。
【0041】
図11は、複数のプラスチックシート20を含む積層体200Aを示す概略図である。積層体200Aは、互いに積層された約5枚以上約200枚以下のプラスチックシート20を含む。プラスチックシート20は、第1実施形態における積層体200を構成するプラスチックシート20を使用することができる。
【0042】
積層体200Aは、プラスチックシート20以外の構成を含んでもよい。積層体200Aは、2つの隣接するプラスチックシート20の間に介在する任意の層を含んでもよい。図示はしないが、例えば、積層体200Aは、2つの隣接するプラスチックシート20の間に介在する接着層を含んでもよい。また、積層体200Aは、複数のプラスチックシート20とは異なる、別の種類の樹脂からなるシートを含んでもよい。
【0043】
リード10Aは、積層体200Aを切削加工することにより製造される。図10に示すように、リード10Aを構成する複数のプラスチックシート20の積層方向とリード10Aの短手方向D2とが一致している。この場合、積層体200Aにおける複数のプラスチックシート20の積層方向がリード10Aの短手方向にD2に一致し、プラスチックシート20の延伸方向がリード10Aの長手方向D1に一致するように、複数のプラスチックシート20の積層方向に沿って、積層体200Aから板状のリード10Aが切り出される。したがって、積層体200Aから切り出された板状のリード10Aは、リード10Aの長手方向D1の弾性率が短手方向D2の弾性率よりも大きい。換言すると、リード10Aの長手方向D1の剛性は、リード10Aの短手方向D2の剛性よりも大きい。プラスチックシート20の大きさに応じて、一つの積層体200Aから複数のリード10Aを切り出すことができる。
【0044】
リード10Aを構成する複数のプラスチックシート20の各々は、第1実施形態におけるプラスチックシート20と同様であるため、図示を省略する。プラスチックシート20は、第1層201と、第1層201に隣接した第2層203を含む。第1層201の弾性率の異方性は、第2層203の弾性率の異方性とは異なる。第2層203は、第1層201に対して複数のプラスチックシート20の積層方向に隣接する。
【0045】
リード10Aを構成する複数のプラスチックシート20のうち、少なくとも一つのプラスチックシート20は、プラスチックシート20の積層方向に垂直な延伸方向における弾性率が、該積層方向に垂直な非延伸方向における弾性率よりも相対的に大きい。換言すると、プラスチックシート20の延伸方向における剛性は、非延伸方向における剛性よりも相対的に大きい。プラスチックシート20において、延伸方向における弾性率は、非延伸方向における弾性率の1.1倍以上2.0倍以下である。
【0046】
例えば、図11に示す積層体200Aを構成する各プラスチックシート20の積層方向に垂直な延伸方向の弾性率が、積層方向及び延伸方向の両方に垂直な非延伸方向の弾性率よりも大きくてもよい。この場合、延伸方向は、リード10Aに長手方向D1であってもよく、非延伸方向はリード10Aの厚さ方向D3であってもよい。
【0047】
このように、剛性の異方性を有するプラスチックシート20を複数積層することにより、剛性に異方性のある積層体200Aを形成する。この積層体200Aから切り出されたリード10Aは、積層体200Aと同様に剛性に異方性を有する。換言すると、植物由来リードの剛性の異方性と同様の剛性の異方性をリード10Aに付与することができる。したがって、リード10Aは、植物由来リードと同様の音色を実現することができる。
【0048】
また、リード10Aの剛性の異方性は、リード10Aの表面だけではなく、リード10Aを構成する複数のプラスチックシート20によって実現される。そのため、積層体200Aからリード10Aを切り出した後にヴァンプ103等を形成するために、リード10Aを表面処理し、リード10Aの表面を削ったとしても、リード10Aの剛性の異方性は維持される。
【0049】
本実施形態に係るリード10Aの製造方法は、複数のプラスチックシート20の積層方向、及び複数のプラスチックシート20を含む積層体200Aからリード10Aとなる板を切り出す際に、複数のプラスチックシート20の積層方向に沿って積層体200Aから板を切り出すことを除き、図6図8を参照して説明したリード10の製造方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0050】
[変形例]
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、各実施形態の構成の一部が、他の構成に置換されてもよいし、削除されてもよい。以下、一部の変形例について説明する。以下に示す変形例は、上述した第1実施形態及び第2実施形態のいずれかに適用することができる。
【0051】
(変形例1)
本開示の吹き込み部1は、サクソフォンの吹込み部に限定されるわけではなく、気鳴楽器の吹込み部であればよい。気鳴楽器は、木管楽器であってもよい。木管楽器としては、サクソフォンの他、例えば、クラリネット、オーボエ、ファゴット(バスーン)などが挙げられる。また、バグパイプなどの民族楽器、ショームなどの古典楽器にも適用可能である。
【0052】
(変形例2)
上記実施形態では、リードは、剛性に異方性を有する複数のプラスチックシート20が積層された構成される。プラスチックシート20の各々は、弾性率(剛性)が互いに異なる第1層201及び第2層203を含む。しかしながら、本開示のリードはこれに限定されない。例えば、シートそのものに剛性の異方性が均一にあるプラスチックシートを複数積層することにより、複数のプラスチックシートを含む積層体が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:吹込み部、10,10A:リード、20:プラスチックシート、30:マウスピース、80:リガチャ、101:基材部、103:ヴァンプ、151:平面部、157:ヒール、200,200A:積層体、210:板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11