(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131580
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240920BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20240920BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20240920BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 J
H01F37/00 T
H01F41/12 C
H01F27/06
H01F27/32 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041931
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和樹
【テーマコード(参考)】
5E044
5E059
【Fターム(参考)】
5E044CA09
5E059LL12
(57)【要約】
【課題】一次モールド樹脂から二次モールド樹脂がより剥離し難いリアクトルを提供する。
【解決手段】コイル3を被覆する一次モールド樹脂5と、コア2と一次モールド樹脂5を被覆する二次モールド樹脂6とを備えるようにした。そして、一次モールド樹脂5からフック51を繋ぎ目無く延出させるようにした。フック51は、一次モールド樹脂5の表面から二次モールド樹脂6が離間する方向に対して交差する障壁52を有する。また、二次モールド樹脂6のうち、一次モールド樹脂5との対面から係合部67を繋ぎ目無く延出させ、係合部67がフック51の障壁52と一次モールド樹脂5の表面との間に入り込み、フック51に引っ掛かるようにした。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線が巻回された巻回体であるコイルと、
磁性体を含み、前記コイルが装着されたコアと、
前記コイルと前記コアのうちの一方を被覆する一次モールド樹脂と、
前記コイルと前記コアのうちの他方と前記一次モールド樹脂を被覆する二次モールド樹脂と、
前記一次モールド樹脂から繋ぎ目無く延出し、前記一次モールド樹脂の表面から前記二次モールド樹脂が離間する方向に対して交差する障壁を有するフックと、
前記二次モールド樹脂のうち、前記一次モールド樹脂との対面から繋ぎ目無く延出し、前記フックの前記障壁と前記一次モールド樹脂の表面との間に入り込み、前記フックに引っ掛かる係合部と、
を備えること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記二次モールド樹脂の表面から繋ぎ目無く突き出し、リアクトルの取り付け穴を有するタブ状固定部を備え、
前記フックは、前記タブ状固定部内に埋設されていること、
特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項3】
前記二次モールド樹脂は、前記一次モールド樹脂が露出する開口部を有し、
前記フックは、前記開口部の近傍に形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル。
【請求項4】
前記二次モールド樹脂の表面から繋ぎ目無く突き出し、リアクトルの取り付け穴を有するタブ状固定部と、
前記コイルから引き出された前記導電線であり、少なくとも1本は、リアクトルのうち、前記タブ状固定部が延出する面から引き出される引出線と、
前記一次モールド樹脂及び前記二次モールド樹脂から露出した前記コイルの露出面と、
前記二次モールド樹脂は、前記二次モールド樹脂を形成するための金型が前記一次モールド樹脂と接触した金型痕であり、前記一次モールド樹脂を露出させる開口部と、
を有し、
前記フックは、前記タブ状固定部内に前記開口部の近傍に位置して埋設されること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項5】
前記フックは、環形状、T字形状又はL字形状を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル。
【請求項6】
前記フックは、環形状を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルとコアを備えるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは主としてコイルとコアとから成る。コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させる。以下、外部から通電されて磁束を発生させることにより誘導性リアクタンスとして機能するコイルを主コイルと呼ぶ。コアは、コイルが発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。このリアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0003】
このようなリアクトルは、多種多様の用途に使用されている。代表的なリアクトルとして、昇圧リアクトル、直列リアクトル、並列リアクトル、限流リアクトル、始動リアクトル、分路リアクトル、中性点リアクトル及び消弧リアクトル等が挙げられる。
【0004】
昇圧リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等の車載用の昇圧回路に組み込まれる。直列リアクトルは、電動機回路に直列に接続し短絡時の電流を制限する。並列リアクトルは、並列回路間の電流分担を安定させる。限流リアクトルは、短絡時の電流を制限しこれに接続される。始動リアクトルは、機械を保護する電動機回路に直列に接続して始動電流を制限する。分路リアクトルは、送電線路に並列接続されて進相無効電力の補償や異常電圧を抑制する。中性点リアクトルは、中性点と大地間に接続して電力系統の地絡事故時に流れる地絡電流を制限するために使用する。消弧リアクトルは、三相電力系統の1線地絡時に発生するアークを自動的に消滅させる。
【0005】
コイルとコアとを電気的に絶縁するため、コイル又はコアの一方を一次モールド樹脂で被覆する。そして、一次モールド樹脂を介してコイルをコアに装着する。更に、コイルとコアとを一体化するために、一次モールド樹脂で被覆しなかったコイル又はコアの他方と一次モールド樹脂を二次モールド樹脂で被覆する。
【0006】
このようなリアクトルでは、リアクトルを外部部材に取り付ける際に固定部に付加されるトルクや、リアクトル搭載機器の振動等によって、二次モールド樹脂が一次モールド樹脂から剥離してしまう虞がある。そこで、一次モールド樹脂と二次モールド樹脂とを係合させるリアクトルが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1のリアクトルでは、一次モールド樹脂の表面に凹部を設ける。次に、二次モールド樹脂の成型時に当該開口部に樹脂を入り込ませることで、二次モールド樹脂に開口部に嵌まり込む突出部を設ける。この凹部と突出部の係合により、一次モールド樹脂と二次モールド樹脂との剥離を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のリアクトルでは、二次モールド樹脂が一次モールド樹脂の表面から離れる方向、即ち一次モールド樹脂の表面と直交する方向には引っ掛かりが無い。従って、二次モールド樹脂が外力に対して変形し易かったり、外力が大きい場合には、外力に抗することはできず、一次モールド樹脂から二次モールド樹脂が剥離してしまう虞がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、一次モールド樹脂から二次モールド樹脂がより剥離し難いリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るリアクトルは、導電線が巻回された巻回体であるコイルと、磁性体を含み、前記コイルが装着されたコアと、前記コイルと前記コアのうちの一方を被覆する一次モールド樹脂と、前記コイルと前記コアのうちの他方と前記一次モールド樹脂を被覆する二次モールド樹脂と、前記一次モールド樹脂から繋ぎ目無く延出し、前記一次モールド樹脂の表面から前記二次モールド樹脂が離間する方向に対して交差する障壁を有するフックと、前記二次モールド樹脂のうち、前記一次モールド樹脂との対面から繋ぎ目無く延出し、前記フックの前記障壁と前記一次モールド樹脂の表面との間に入り込み、前記フックに引っ掛かる係合部と、を備える。
【0012】
前記二次モールド樹脂の表面から繋ぎ目無く突き出し、リアクトルの取り付け穴を有するタブ状固定部を備え、前記フックは、前記タブ状固定部内に埋設されているようにしてもよい。
【0013】
前記二次モールド樹脂は、前記一次モールド樹脂が露出する開口部を有し、前記フックは、前記開口部の近傍に形成されているようにしてもよい。
【0014】
前記二次モールド樹脂の表面から繋ぎ目無く突き出し、リアクトルの取り付け穴を有するタブ状固定部と、前記コイルから引き出された前記導電線であり、少なくとも1本は、リアクトルのうち、前記タブ状固定部が延出する面から引き出される引出線と、前記一次モールド樹脂及び前記二次モールド樹脂から露出した前記コイルの露出面と、前記二次モールド樹脂は、前記二次モールド樹脂を形成するための金型が前記一次モールド樹脂と接触した金型痕であり、前記一次モールド樹脂を露出させる開口部と、を有し、前記フックは、前記タブ状固定部内に前記開口部の近傍に位置して埋設されるようにしてもよい。
【0015】
前記フックは、環形状、T字形状又はL字形状を有するようにしてもよい。
【0016】
前記フックは、環形状を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一次モールド樹脂の表面から二次モールド樹脂が離間する方向に対して交差する障壁を有するフックにより、一次モールド樹脂から二次モールド樹脂が剥離することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】二次モールド樹脂の金型の配置位置を示す模式図である。
【
図8】二次モールド樹脂を透過して示したリアクトルの上面図である。
【
図9】二次モールド樹脂を透過して示したタブ状固定部付近の拡大図である。
【
図10】二次モールド樹脂を透過して示したリアクトルの作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のリアクトルについて説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態のリアクトル1の主構成を示す斜視図であり、説明の都合上、各部を被覆する部材を省いて示してある。リアクトル1は、1個の環状のコア2と2個のコイル3を備えている。2個のコイル3はコア2に装着されている。コイル3は、リアクトル1が組み込まれる回路からの通電により巻数に従って磁束を発生させるインダクタであり、回路に誘導性リアクタンスを導入する。コア2は、コイル3が発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、リアクトル1は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0021】
コア2は、圧粉磁心、フェライト磁心、メタルコンポジットコア又は積層鋼板等の磁性体を含んでいる。圧粉磁心は、磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を焼鈍したものである。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。磁性粉末は、アモルファス合金でもよいし、ナノ結晶合金粉末であってもよい。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成るコアである。
【0022】
このコア2は環形状を有し、磁性体は途絶することなく環状に分布していてもよい。また、コア2の途中に、インダクタンス低下を防止する磁気的なギャップが設けられていてもよい。磁気的なギャップとしては、非磁性体、セラミック、非金属、樹脂、炭素繊維、若しくはこれら2種以上の合成材、ギャップ紙又はエアギャップを用いることができる。
【0023】
コイル3は共に、エナメル被覆等の絶縁被覆が施された導電線を筒状に巻いた巻回体であり、巻軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に巻回することで形成される。コイル3の導電線は、例えば平角線であり、コイル3は、導電線の幅広面がコイル3の巻軸との直交方向に拡がるように、導電線が巻回されて成る螺旋状のエッジワイズコイルである。コイル3としては、例えばフラットワイズコイルを採用することもできる。
【0024】
2個のコイル3は直列に接続されており、2個のコイル3からは横側引出線41と端面側引出線42が引き出されている。横側引出線41は、コイル3の側面31と直交する方向に引き出されている。端面側引出線42は、コイル3の側面31と平行に引き出されている。コイル3の側面31は、コア2の環状面21と直交し、且つリアクトル1の外形側の面である。横側引出線41と端面側引出線42は、外部との電流入出力のためにバスバー(不図示)に接続されている。横側引出線41と端面側引出線42がバスバーに接続されることで、コイル3に対して外部から電流供給される。
【0025】
図2は、リアクトル1の外観を示す斜視図である。
図2に示すように、このような主構成を有するリアクトル1は、一次モールド樹脂5及び二次モールド樹脂6で被覆されている。一次モールド樹脂5及び二次モールド樹脂6の材質は、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合等であり、絶縁性及び耐熱性を備えている。一次モールド樹脂5及び二次モールド樹脂6には熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0026】
一次モールド樹脂5は、コイル3とコア2とを電気的に絶縁する。即ち、一次モールド樹脂5は、コイル3の一部又は全部を被覆しており、コイル3は一次モールド樹脂5を介してコア2に装着される。一次モールド樹脂5は、コイル3のうち、コア2と近接する箇所を少なくとも被覆していればよい。また、コイル3とコア2とを電気的に絶縁するために、一次モールド樹脂5は、コア2の一部又は全部を被覆していてもよい。また、リアクトル1は、コイル3を被覆する一次モールド樹脂5と、コア2を被覆する一次モールド樹脂5の両方を備えていてもよい。即ち、一次モールド樹脂5は、コイル3とコア2のうちの一方又は両方を被覆している。
【0027】
二次モールド樹脂6は、コイル3とコア2とを拘束して分離しないように一体化する。この二次モールド樹脂6は、コイル3又はコア2のうちの一次モールド樹脂5で被覆されていない方と一次モールド樹脂5とを被覆する。この二次モールド樹脂6には、リアクトル1を回路上に実装したり、ケース内に固定するためのタブ状固定部61が形成されている。タブ状固定部61は、二次モールド樹脂6の表面から突き出したタブ形状であり、二次モールド樹脂6と共に射出成型により樹脂成型され、二次モールド樹脂6と繋ぎ目無く一続きに形成されている。
【0028】
このタブ状固定部61は、タブ形状の両側平坦面を貫く取り付け穴62が貫設されている。この取り付け穴62にボルトやネジが挿通し、締結によりリアクトル1と回路又はケースが締結される。タブ状固定部61は複数配置されており、1箇所のタブ状固定部61は、二次モールド樹脂6のうちの引出線導出壁面63に形成されている。
【0029】
引出線導出壁面63は、横側引出線41が引き出されているコイル3の側面31に被さっている二次モールド樹脂6の領域である。ここで、
図3は、二次モールド樹脂6の金型の配置位置を示す模式図である。
図3に示すように、コイル3の一面には、コイル3の放熱性の観点から、露出面32を設けることが有益である。但し、横側引出線41が存在する場合、この露出面32に二次モールド樹脂6の樹脂が入り込まないようにするためには、コイル3の筒軸と平行な方向から横側引出線41に向かう下型102で一次モールド樹脂5を押え、コイル3の筒軸と直交する方向から横側引出線41に向かう上型101で一次モールド樹脂5を押える。
【0030】
そのため、横側引出線41が引き出されているコイル3の側面31は、全域を二次モールド樹脂6で覆うことはできない。従って、
図2に示すように、二次モールド樹脂6のうち、引出線導出壁面63は、第1開口部65と第2開口部66を有し、一次モールド樹脂5のうち、引出線導出壁面63の内側に位置する内側壁面55の一部は、第1開口部65と第2開口部66から露出する。第1開口部65は、コイル3の筒軸と直交する方向から横側引出線41に向かう領域であり、上型101の金型痕である。第2開口部66は、コイル3の筒軸と平行な方向から横側引出線41に向かう領域であり、下型102の金型痕である。
【0031】
タブ状固定部61は、引出線導出壁面63のうち、第1開口部65に面するエッジ64に寄せて形成されており、このエッジ64の延び方向と平行な取り付け穴62が形成され、換言すればボルトやネジのトルクの進行方向と直交する取り付け穴62が形成されている。
【0032】
図4は、一次モールド樹脂5を示す斜視図である。
図4に示すように、一次モールド樹脂5の表面には、フック51が形成されている。このフック51は、一次モールド樹脂5のうち、内側壁面55の表面から突き出すように形成されている。内側壁面55は、二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63と当接する壁面である。また、複数の膨出部54が内側壁面55から膨らみ出て筋状に延びている。
【0033】
図5は、フック51の拡大図であり、
図6は、フック51の上面図であり、
図7は、フック51の側面図である。フック51は環形状を有している。即ち、フック51の2本の脚部53が内側壁面55に立設され、2本の脚部53間にフック51の障壁52が架設されている。障壁52は、一次モールド樹脂5の内側壁面55と二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63とが離間する方向に対して交差する方向に延びている。典型的には、障壁52は、一次モールド樹脂5の内側壁面55と二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63とが離間する方向に対して直交して延びている。
【0034】
図8は、二次モールド樹脂6を透過して示した上面図であり、
図9は、二次モールド樹脂6を透過して示したタブ状固定部61付近の拡大図である。
図8及び
図9に示すように、フック51は、タブ状固定部61に埋設される位置に形成されている。タブ状固定部61に埋設されるように、フック51はタブ状固定部61と平行に拡がっている。換言すれば、フック51は、取り付け穴62と直交する方向に拡がっている。フック51の厚みは、タブ状固定部61の厚みの範囲内に収まる。
【0035】
また、フック51は、引出線導出壁面63のエッジ64の近傍に位置している。タブ状固定部61がエッジ64に寄せて形成されているため、フック51をタブ状固定部61に埋設しつつ、引出線導出壁面63のエッジ64の近傍に位置させることが両立している。このフック51は、一次モールド樹脂5と共に射出成型により樹脂成型され、一次モールド樹脂5の内側壁面55と繋ぎ目無く一続きに形成されている。
【0036】
二次モールド樹脂6は、このフック51が形成された一次モールド樹脂5の上に被さるように射出成型される。そのため、二次モールド樹脂6の樹脂は、内側壁面55とフック51の障壁52とが画成する隙間領域にも流れ込み、二次モールド樹脂6には、フック51に引っ掛かる係合部67が形成される。
【0037】
図10は、二次モールド樹脂6を透過して示したリアクトル1の作用図である。
図10に示すように、タブ状固定部61の取り付け穴62にボルトやネジを締結する。このとき、ボルトやネジを締め付けるトルクがタブ状固定部61を介して引出線導出壁面63に掛かる。このトルクは、引出線導出壁面63を内側壁面55から引き剥がそうとする。引出線導出壁面63は、第1開口部65の存在によって、二次モールド樹脂6の他の領域と断絶しているエッジ64があり、内側壁面55から剥がれ易くなっている。
【0038】
しかし、一次モールド樹脂5にはフック51が形成されており、二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63は、このフック51に対して係合部67により引っ掛かっている。そして、フック51は、一次モールド樹脂5の内側壁面55と二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63とが離間する方向に対して交差する方向に延びる障壁52を有している。
【0039】
そのため、フック51は、内側壁面55から引出線導出壁面63が剥離することを抑制する。フック51は、タブ状固定部61に埋設しているため、トルクに直接抗するように作用でき、また引出線導出壁面63のエッジ64の近傍に位置しているため、引出線導出壁面63の剥離をより効果的に抑制することができる。
【0040】
以上のように、このリアクトル1では、コイル3を被覆する一次モールド樹脂5と、コア2と一次モールド樹脂5を被覆する二次モールド樹脂6とを備えるようにした。そして、一次モールド樹脂5からフック51を繋ぎ目無く延出させるようにした。フック51は、一次モールド樹脂5の表面から二次モールド樹脂6が離間する方向に対して交差する障壁52を有する。また、二次モールド樹脂6のうち、一次モールド樹脂5との対面から係合部67を繋ぎ目無く延出させ、係合部67がフック51の障壁52と一次モールド樹脂5の表面との間に入り込み、フック51に引っ掛かるようにした。
【0041】
これにより、一次モールド樹脂5の内側壁面55から二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63が剥離することを抑制できる。特に、引出線導出壁面63にタブ状固定部61が存在して、剥離させようとするトルクが強く働く場合であっても、フック51は、一次モールド樹脂5の表面から二次モールド樹脂6が離間する方向に対して交差する障壁52を有するため、剥離を効果的に抑制する。また、引出線導出壁面63に第1開口部65が存在し、引出線導出壁面63が剥離し易い場合であっても、フック51は、一次モールド樹脂5の表面から二次モールド樹脂6が離間する方向に対して交差する障壁52を有するため、剥離を効果的に抑制する。
【0042】
尚、一次モールド樹脂5はコア2を被覆し、二次モールド樹脂6はコイル3と一次モールド樹脂5を被覆するようにしてもよい。この場合であっても、コア2を覆う一次モールド樹脂5からフック51を繋ぎ目無く延出させるように、その上から二次モールド樹脂6を射出成型するようにすれば、引出線導出壁面63の剥離を抑制することができる。即ち、一次モールド樹脂5はコイル3又はコア2の一方を被覆し、二次モールド樹脂6はコイル3又はコア2の他方と一次モールド樹脂5を被覆するようにすればよい。
【0043】
また、本実施形態では、二次モールド樹脂6の引出線導出壁面63が被さる位置にフック51を設けるようにした。但し、これに限らず、二次モールド樹脂6が一次モールド樹脂5から剥離し易い箇所であれば、フック51を設けることができる。
【0044】
また、二次モールド樹脂6の表面から繋ぎ目無く突き出し、リアクトル1の取り付け穴62を有するタブ状固定部61を備え、フック51は、タブ状固定部61内に埋設されているようにした。これにより、フック51は、ネジやボルトを締結しようとするトルクに直接抗するように作用でき、強いトルクに対しても剥離抑制効果を働かせることができる。また、フック51を二次モールド樹脂6内に埋設するために、二次モールド樹脂6を厚くする必要がなく、リアクトル1の大型化及びコスト増を回避しつつ、一次モールド樹脂5から突出するフック51を設けることができる。
【0045】
また、二次モールド樹脂6は、一次モールド樹脂5が露出する第1開口部65や第2開口部66を有し、フック51は、第1開口部65や第2開口部66の近傍に形成されているようにした。引出線導出壁面63は、第1開口部65や第2開口部66と面するエッジ64から剥がれ易いが、フック51がこの位置に形成されているために、引出線導出壁面63の剥離を効果的に抑制することができる。
【0046】
特に、リアクトル1において、コイル3の側面31と直交するように横側引出線41を引き出し、一次モールド樹脂5及び二次モールド樹脂6から露出するコイル3の露出面32を存続させる場合がある。この場合、二次モールド樹脂6を形成するための金型によって、金型痕として第1開口部65や第2開口部66が発生してしまう。この場合であっても、第1開口部65や第2開口部66が開口した二次モールド樹脂6の壁面にタブ状固定部61を形成し、フック51を埋設することで、第1開口部65や第2開口部66とのエッジ64から引出線導出壁面63が剥離しようとする事態を抑制することができる。
【0047】
ここで、フック51は環形状を例に採った。しかし、一次モールド樹脂5の表面から二次モールド樹脂6が離間する方向に対して交差する障壁52があれば、フック51は環形状に限られない。例えば、
図11に示すように、フック51はT字形状としてもよい。また、
図12に示すように、フック51はL字形状としてもよい。
【0048】
もっとも、環形状のフック51は、T字形状及びL字形状と比べて、一次モールド樹脂5の樹脂が流れ込む末端が存在しない。そのため、環形状のフック51には、一次モールド樹脂5の樹脂が良好に流れ込み、十分な強度となる。従って、フック51は、好ましくは環形状である。
【0049】
以上の本発明の実施形態は例として提示したものであって、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 リアクトル
2 コア
21 環状面
3 コイル
31 側面
32 露出面
41 横側引出線
42 端面側引出線
5 一次モールド樹脂
51 フック
52 障壁
53 脚部
54 膨出部
55 内側壁面
6 二次モールド樹脂
61 タブ状固定部
62 取り付け穴
63 引出線導出壁面
64 エッジ
65 第1開口部
66 第2開口部
67 係合部
101 上型
102 下型