(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131593
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】楽器
(51)【国際特許分類】
G10C 3/06 20060101AFI20240920BHJP
G10D 3/02 20060101ALI20240920BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20240920BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20240920BHJP
G10C 5/10 20190101ALI20240920BHJP
【FI】
G10C3/06 100
G10D3/02
H04R1/00 310F
H04R7/04
G10C5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041958
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】澄野 慎二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祥也
【テーマコード(参考)】
5D002
5D016
【Fターム(参考)】
5D002CC01
5D016AA04
5D016FA02
(57)【要約】
【課題】駆動力が向上された加振装置を取り付けられた楽器を提供することにある。
【解決手段】一実施形態に係る楽器1は、発音源の振動が伝達される響板7と、入力信号に応じて前記響板7を加振する加振装置50と、を含み、前記加振装置50は、前記響板7に接し、前記響板7を加振する加振器51と、前記響板7に取り付けられ、前記加振器51を支持する支持部52と、を備え、前記支持部52は、前記響板7に対して弾性的に変位する弾性変位部521を有し、前記弾性変位部521は、前記加振器51の周波数特性の複数のピークのうち最も高いピークに対応する周波数以下の固有振動数を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音源の振動が伝達される響板と、
入力信号に応じて前記響板を加振する加振装置と、
を含み、
前記加振装置は、
前記響板に接し、前記響板を加振する加振器と、
前記響板に取り付けられ、前記加振器を支持する支持部と、
を備え、
前記支持部は、前記響板に対して弾性的に変位する弾性変位部を有し、
前記弾性変位部は、前記加振器の周波数特性の複数のピークのうち最も高いピークに対応する周波数以下の固有振動数を有する、楽器。
【請求項2】
前記入力信号は、前記発音源の振動を示す信号に基づいて生成される、請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
前記支持部は、
前記弾性変位部の第1端に接続し、前記響板に取り付けられる固定部と、
前記第1端とは反対側に位置する前記弾性変位部の第2端に接続し、前記加振器が取り付けられる加振器取り付け部と、
をさらに含み、
前記加振器取り付け部は、前記第1端から前記第2端に沿った第1方向に垂直な第2方向の端部に加振器支持部を有し、
前記加振器支持部は、前記弾性変位部が変位する方向に対して、前記弾性変位部よりも高い剛性を有する、請求項1に記載の楽器。
【請求項4】
前記加振器支持部は、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に折り曲げられている折り曲げ部を有する、請求項3に記載の楽器。
【請求項5】
複数の鍵をさらに含み、
前記発音源は、前記複数の鍵の各々への操作に基づいて発音する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
楽器の中には、発音源の振動が伝達される響板等を加振器により振動させて発音させる楽器がある。このような楽器として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、ボディに取り付けられ、該ボディを振動させる加振器が取り付けられたギターが開示されている。また、特許文献3には、響板を振動させる加振器が取り付けられたピアノが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-150235号公報
【特許文献2】特開2017-129694号公報
【特許文献3】特開2014-142378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加振器によって楽器の響板を振動させる場合、楽器の種類、又は楽器の響板の大きさ又は構造などによっては、加振器の駆動力が足りず、響板を所望の大きさで振動させることができないという問題がある。例えば、楽器がピアノである場合、小型の加振器による駆動力では、特に低音域で響板を所望の大きさで振動させることができない。駆動力の高い大型の加振器を使用した場合、加振器自体の重量によって響板の振動が妨げられ、楽器の音響が変化してしまう。
【0005】
本発明の目的の一つは、駆動力を向上させた加振装置が取り付けられた楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、発音源の振動が伝達される響板と、入力信号に応じて前記響板を加振する加振装置と、を含み、前記加振装置は、前記響板に接し、前記響板を加振する加振器と、前記響板に取り付けられ、前記加振器を支持する支持部と、を備え、前記支持部は、前記響板に対して弾性的に変化する弾性変位部を有し、前記弾性変位部は、前記加振器の周波数特性の複数のピークのうち最も高いピークに対応する周波数以下の固有振動数を有する、楽器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動力が向上された加振装置を取り付けられた楽器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る楽器の内部構造を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る加振装置の外観の一例を示す図である。
【
図3】
図2のA1-A2線に沿った加振装置の断面を示す概略断面図である。
【
図4】楽器における加振装置の取り付け位置の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る加振装置の振動の大きさと、加振器のみの振動の大きさを示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る加振装置を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量と、加振器のみを響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係る加振装置を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量と、加振器のみを響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、Bなど付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。図面は、説明を明確にするために、寸法比率が実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりして、模式的に説明される場合がある。
【0010】
一実施形態に係る楽器は、所定の重量を有する加振器を音響部材に取り付け可能である。一実施形態に係る楽器において、加振器を支持する支持部を備えた加振装置が、楽器の響板に取り付けられる。支持部は、加振器の一部が響板に接するように、加振器を支持する。支持部は、響板に対して弾性的に変位する弾性変位部を有する。この弾性変位部の変位による支持部の振動によって、加振装置の駆動力が向上される。
【0011】
以下、一実施形態に係る楽器について、図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態では、一例として、楽器が鍵盤楽器である場合を説明する。尚、本発明に係る楽器は、鍵盤楽器に限定されるわけではない。
【0012】
[楽器の構成]
図1は、本実施形態に係る鍵盤楽器1の内部構造を示す図である。本実施形態において、鍵盤楽器1はピアノである。以下、鍵盤楽器1をピアノ1と呼ぶ。また、本実施形態において、ピアノ1はアップライトピアノである。ピアノ1は、演奏者によって演奏操作がなされる鍵(演奏操作子)2が複数配列された鍵盤、およびペダル3を有する鍵盤楽器の一例である。ピアノ1のペダルは複数存在するが、ペダル3は、ダンパペダルを示す。
図1では、各鍵2に対応して設けられている構成については、図示する1つの鍵2(この例では白鍵)に対応して設けられている各構成に着目して示し、他の鍵2に対応して設けられている各構成については記載を省略している。
【0013】
ピアノ1は、制御装置10を有する。制御装置10は、操作パネル(図示せず)、表示部(図示せず)、タッチパネル(図示せず)などの何れかを有する。ユーザの指示は、操作パネル又はタッチパネルが操作されることにより、制御装置10に対して入力される。制御装置10は、ユーザの指示に基づいて、ピアノ1の各構成の動作を制御する。
【0014】
各鍵2の後端側(演奏するユーザから見て鍵2の奥側)の下部には、ソレノイドを用いて鍵2を駆動する鍵駆動装置30が設けられてもよい。鍵駆動装置30は、制御装置10からの鍵制御信号に応じてソレノイドを駆動する。
【0015】
ハンマ4は、各鍵2に対応して設けられる。ハンマ4は、鍵2が押下されるとアクション機構45を介して力が伝達されて移動し、各鍵2に対応して設けられた弦5を打撃する。弦5は、ハンマ4からの打撃により、発音する発音体である。弦5は、それぞれ、各鍵2に対応した振動周波数を有する。
【0016】
ダンパ8は、ダンパ動作機構80によって移動される。ダンパ8と弦5との接触状態の制御は、鍵2の押下量、およびペダル3の踏込量に応じて、ダンパ動作機構80によって行われる。接触状態の制御とは、ダンパ8と弦5とが接触して弦5の振動を抑制する位置(以下、制振位置という)から、弦5がダンパ8から解放される位置(以下、解放位置という)までの範囲で、ダンパ8を移動させることを意味する。
【0017】
本実施形態では、ダンパ動作機構80を駆動するためのダンパ駆動装置38が設置されてもよい。ダンパ駆動装置38は、制御装置10からのダンパ制御信号に応じてソレノイドを駆動することができる。
【0018】
また、本実施形態では、ペダル3を駆動するペダル駆動装置33が設けられてもよい。ペダル駆動装置33は、制御装置10からのペダル制御信号に応じてソレノイドを駆動して、ペダル3が演奏者によって踏み込まれた状態を機械的に再現することができる。
【0019】
ストッパ40は、音源を用いて発音する際に、ハンマシャンクと衝突して、打弦前にハンマ4による弦5への打撃を阻止する部材である。ストッパ40は、制御装置10からのストッパ制御信号に応じて、ハンマシャンクと衝突する位置(以下、阻止位置という)と、ハンマシャンクと衝突しない位置(以下、待避位置という)とのいずれかに移動する。
【0020】
鍵センサ22は、各鍵2の下部に設けられる。鍵センサ22は、鍵2の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、鍵センサ22は、鍵2の押下量を連続量(微細な分解能)で検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、鍵センサ22は、鍵2の押下量に応じた検出信号を出力する代わりに、鍵2が特定の押下位置を通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよい。特定の押下位置とは、鍵2のレスト位置からエンド位置に至る範囲のいずれかの位置であり、発音開始、ダンパ8の移動の開始等の発音状態に変化を与える複数箇所であることが望ましい。このように、鍵センサ22が出力する検出信号は、鍵2の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0021】
ハンマセンサ24は、各ハンマ4に対応して設けられる。ハンマセンサ24は、ハンマ4の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、ハンマセンサ24は、ハンマ4による弦5の打撃直前の移動速度を検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、この検出信号は、ハンマ4の移動速度そのものを示すものでなくてもよく、別の態様での検出信号として、制御装置10において移動速度が算出されるようにしてもよい。例えば、ハンマ4が移動中にハンマシャンクが通過する2つの位置について、ハンマシャンクが通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよいし、一方の位置を通過してから他方の位置を通過するまでの時間を示す検出信号が出力されるようにしてもよい。このように、ハンマセンサ24が出力する検出信号は、ハンマ4の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0022】
ペダルセンサ23は、各ペダル3に対応して設けられる。ペダルセンサ23は、ペダル3の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、ペダル3の踏込量を検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、ペダルセンサ23は、ペダル3の踏込量に応じた検出信号を出力する代わりに、ペダル3が特定の踏込位置を通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよい。特定の踏込位置とは、ペダルのレスト位置からエンド位置に至る範囲のいずれかの位置であり、ダンパ8と弦5とが完全に接触する状態(制振位置)と非接触の状態(解放位置)とを区別できる踏込位置であることが望ましい。このように、ペダルセンサ23が出力する検出信号は、ペダル3の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0023】
なお、鍵センサ22、ペダルセンサ23、およびハンマセンサ24から出力される検出信号によって、制御装置10が、弦5に対するハンマ4の打撃タイミング(キーオンのタイミング)、打撃速度(ベロシティ)、およびその弦5に対するダンパ8の振動抑制タイミング(キーオフのタイミング)を、各鍵2(キーナンバ)に対応して特定することができるようになっていればよい。したがって、鍵センサ22、ペダルセンサ23およびハンマセンサ24は、鍵2、ペダル3、ハンマ4の挙動を検出した結果を、上記の態様とは異なる検出信号として出力してもよい。また、鍵センサ22、ペダルセンサ23、およびハンマセンサ24のうち少なくともいずれか一つは、ピアノ1の構成から省略されてもよい。
【0024】
響板7は、響棒75および駒6が接続され、駒6を介して響板7の振動を各弦5に伝達するとともに、各弦5の振動が駒6を介して響板7に伝達される。すなわち、響板7と弦5とは連成振動する。ここで、駒6が接続する側を響板7の表面7aとし、その反対側を裏面7bとする。響板7の表面7aには、加振装置50が取り付けられている。加振装置50は、加振器の一部が響板7の表面7aに直接するように、響板7に取り付けられる。以下、加振装置50の構成については、詳述する。
【0025】
[加振装置の構成]
図2は、本実施形態に係る加振装置50の外観の一例を示す図である。
図2では、響板7の表面7a側から見た加振装置50を示している。換言すると、
図2では、響板7の表面7aに対向する加振装置50の一面を示している。
図3は、
図2のA1-A2線に沿った加振装置50の断面を示す概略断面図である。尚、
図3においては、
図2に示すキャップ514の一部を省略して示している。
【0026】
加振装置50は、加振器51および支持部52(ブラケット)を備える。加振装置50は、端子部53をさらに備えてもよい。加振器51は響板7に接して、響板7を加振する。支持部52は、加振器51の一部が響板7の表面7aに接するように、加振器51を支持する。また、支持部52は、響板7に取り付けられ、加振器51を固定する。
【0027】
図2及び
図3に示すように、加振器51は、接続部511、変位部513、及びフレーム517を有する。加振器51は、図示しない出力装置に接続される。出力装置は、予め記憶された楽曲データ、音響・音声のデータ、又は鍵センサ22、ペダルセンサ23、およびハンマセンサ24から出力される検出信号の少なくとも一つに基づいて生成される、駆動用の入力信号を加振器51に出力する。出力装置は、図示しない配線を介して端子部53と接続されてもよい。この場合、加振器51は、端子部53を介して出力装置から出力された入力信号を受信してもよい。端子部53は、端子部53と加振器51とを電気的に接続する配線531を介して、出力装置から出力された駆動信号を加振器51に供給する。尚、加振器51は、出力装置と無線で接続されてもよい。加振器51は、入力信号に応じて響板7を加振する。
【0028】
具体的には、入力信号に基づいて、変位部513が響板7に対して変位する。換言すると、変位部513は、入力信号に応じて振動し、接続部511を介して響板7を振動させる。
【0029】
図3に示すように、加振器51では、変位部513と接続部511との間に弾性部515が設けられる。弾性部515は、接続部511の振動をガイドする。弾性部515は、可撓性を有している。弾性部515は、樹脂材料や金属材料などから構成することができる。
【0030】
図2に示すように、加振器51の響板7に面する側には樹脂等のキャップ514が取り付けられている。キャップ514は、響板7に接触する接続部511を含む。接続部511は、響板7に接触して、響板7に加振する。接続部511を含むキャップ514は、ポリイミド等の樹脂あるいはアルミ素材の金属などの軽い素材で形成される。
図3においては、接続部511を除くキャップ514の構成は省略して示されている。
【0031】
加振器51は、例えばボイスコイル型のアクチュエータであってよい。この場合、変位部513が磁性体部を有し、接続部511はボイスコイルと一体で移動する。変位部513の重量は、接続部511の重量よりも重い。これにより、変位部513の振動により接続部511を振動させることができる。
【0032】
フレーム517は、変位部513と接する。また、フレーム517は、変位部513の一部が収納されてもよい。フレーム517と変位部513とは、接着剤、両面テープ(図示せず)などにより接着される。また、接続部511とフレーム517とを直接接着させず、着脱自在に固定するための中継部材を介して両者を接続してもよい。フレーム517は、ねじ止めによって支持部52に固定される。しかしながら、フレーム517を支持部52に固定する方法は、ねじ止めに限定されない。フレーム517は、ポリイミド等の樹脂によって構成される。
【0033】
支持部52は、加振器51の接続部511が響板7に接するように、加振器51を固定する。支持部52は、所定の第1方向D1に長手を有する板状部を有する一体構造のブラケットである。支持部52は、鉄、ステンレスなどの金属、樹脂などから構成される。支持部52は、フレーム517を介して、加振器51の変位部513と接続する。支持部52は、弾性変位部521、固定部523および加振器取り付け部525を有する。
【0034】
図2を参照すると、支持部52は、中央に加振器51が取り付けられる加振器取り付け部525が設けられる。加振器取り付け部525の第1方向D1の端部は、弾性変位部521に接続する。弾性変位部521は、第1方向D1に長手を有する板状部である。弾性変位部521の一端521a(第1端)は、固定部523に接続する。換言すると、弾性変位部521の一端521a(第1端)には、固定部523が接続し、他端521b(第2端)には、加振器取り付け部525が接続する。
【0035】
弾性変位部521は、可撓性を有し、変位部513の振動によって振動する。換言すると、弾性変位部521は、響板7に対して弾性的に変位する。弾性変位部521は、加振器51の周波数特性の複数のピークのうち最も高いピークに対応する周波数以下の固有振動数を有する。ここで、複数のピークのうち最も高いピークは、低周波数帯側における最も高いピークである。「低周波数帯側」とは、具体的に、1000Hz(1kHz)以下の周波数帯である。つまり、弾性変位部521は、加振器51の周波数特性の複数のピークのうち、1000Hz以下の最も高いピークに対応する周波数以下の固有振動数を有する。具体的には、弾性変位部521は、100Hz以上200Hz以下の間の周波数帯で固有振動数を有する。弾性変位部521の固有振動数は、弾性変位部521の長さ、幅、厚さなどを調整することにより調整することができる。ここで、弾性変位部521の長さは、第1方向D1の長さである。弾性変位部521の幅は、第1方向D1に垂直な第2方向D2方向の幅である。弾性変位部521の厚さは、第1方向D1および第2方向D2に垂直な第3方向D3の厚さである。
【0036】
固定部523は、響板7に取り付けられて、支持部52全体を響板7に固定する。固定部523は、ねじ止めによって、響板7に取り付けられる。しかしながら、固定部523の響板7への取り付け方法は、ねじ止めに限定されない、固定部523は、接着剤、両面テープ(図示せず)などにより接着されてもよい。また、固定部523と響板7とを直接接着させず、着脱自在に固定するための中継部材を介して両者を接続してもよい。固定部523は、弾性変位部521の一端521aに接続する。
図2に示すように、固定部523は、弾性変位部521の一端521aから第3方向D3に沿って折り曲げられた折り曲げ部と、折り曲げ部に接続し、第1方向D1に沿って延長された平面部を有してもよい。
【0037】
加振器取り付け部525には、加振器51が取り付けられる。加振器取り付け部525は、加振器51の接続部511を響板7側に露出するための開口526を有する。開口526は、端子部53と加振器51とを電気的に接続する配線531を設けるスペースを確保するために、端子部53が設けられた側が開放されていてもよい。
【0038】
加振器取り付け部525は、第2方向D2の端部に加振器支持部527を有する。加振器支持部527は、弾性変位部521が変位する方向、即ち、第3方向D3に対して、弾性変位部521よりも高い剛性を有する。加振器支持部527は、例えば、第3方向D3の厚さが弾性変位部521よりも厚くてもよい。また、
図2に示すように、加振器支持部527の第2方向D2の端部には、第3方向D3に折り曲げられる折り曲げ部529が設けられてもよい。折り曲げ部529は、加振器支持部527の剛性を向上させる。加振器支持部527は、第3方向D3に対して弾性変位部521よりも高い剛性を有することにより、加振器51が加振器取り付け部525に取り付けられる際に、加振器51は安定して保持される。
【0039】
図4は、ピアノ1における加振装置50の取り付け位置の一例を示す図である。
図4に示すように、響板7の表面7aにはフレーム9が配置され、弦(図示せず)が架設される。また、表面7aには、駒(図示せず)が接続される。表面7aの反対側の裏面7bには、複数の響棒75が互いに所定の間隔を空けて設置される。加振装置50は、加振器51の接続部511が響板7の表面7aに接するように、響板7の表面7aに取り付けられる。
図4に示すように、加振装置50は、響板7の表面7aにおける、互いに隣接する響棒75の間に位置する領域に加振器51の接続部511が接するように取り付けられてもよい。この場合、加振装置50の支持部52における固定部523は、響板7の裏面7bに設置された響棒75に重畳して、響板7に固定されてもよい。
【0040】
本実施形態において、ピアノ1は、ピアノ1の低音域側(
図4に示す響板7の左側)に取り付けられた加振装置50L及び高音域側(
図4に示す響板7の右側)に取り付けられた加振装置50Rの2つの加振装置50を備える。加振装置50(50L、50R)は、響板7に取り付けする際の簡便性を考慮し、響板7とフレーム9とが重畳せず、且つ弦(
図4においては図示せず)が架設されない位置に取り付けられることが好ましい。尚、響板7における加振装置50(50L、50R)が取り付けられる位置は、
図4に示す位置に限定されず、フレーム9の構造、弦の架設位置などに応じて適宜設定することができる。
【0041】
図5は、70Hz超~2000Hz(2kHz)以下の範囲における、本実施形態に係る加振装置50の振動の大きさと加振器51の振動の大きさとを示すグラフである。以下、支持部52が省略された加振器51を比較用加振器と呼ぶ。
図5に示すグラフでは、横軸に周波数(Hz)、縦軸に振動レベル(dB)を示し、加振装置50の周波数特性を実線、比較用加振器の周波数特性を破線で示している。ここでは、加振装置50における加振器及び比較用加振器として、質量約109.5g、定格入力15W(最大入力30W)、定格インピーダンス4Ω、700Hzでのインピーダンス約4.4Ω、1Vでの最低共振周波数(f0)約215Hz、磁束密度約1.20Tのアクチュエータを使用した。加振装置50としては、上記の加振器とともに、加振器が取り付けられる支持部(ブラケット)を使用した。支持部(ブラケット)は、
図2に示した支持部52と同様の形状を有し、弾性変位部の1次モードの共振周波数は119.45Hzであった。換言すると、支持部(ブラケット)の弾性変位部は、加振器の周波数特性の最も高いピーク(f0)に対応する周波数(約215Hz)以下の固有振動数を有している。
【0042】
図5に示すように、100Hz~200Hzの範囲において、実線で示す加振装置50の振動の大きさは、破線で示す比較用加振器の振動の大きさよりも大きい。換言すると、100Hz~200Hzの範囲、特に約100Hz~約160Hzの範囲において、加振装置50による駆動力は、比較用加振器による駆動力を上回っている。これにより、加振器に取り付けられた支持部(ブラケット)の振動が、加振装置50全体の駆動力の向上に寄与していることが分かる。
【0043】
図6及び
図7は、本実施形態に係る加振装置50を響板に取り付けて駆動させた場合と、比較用加振器を響板に取り付けて駆動させた場合とにおけるピアノの音量の周波数依存性を示すグラフである。ピアノとしてはアップライトピアノを使用し、ピアノの演奏者の位置、つまり、ピアノの略正面でマイクを用いてピアノの音圧を測定した。ここで使用した加振装置50及び比較用加振器の特性は、
図5に示した響板の振動の測定で使用した加振装置50及び比較用加振器と同様である。また、加振装置50又は比較用加振器は、
図4に示すように、ピアノの響板において2箇所に設置した。
【0044】
図6は、
図4に示すピアノの低音域側に加振装置50Lまたは比較用加振器を設けたピアノの音量の周波数依存性を示すグラフである。
図6に示すグラフでは、横軸に周波数(Hz)、縦軸に振動レベル(dB)を示し、加振装置50を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を実線で示し、比較用加振器を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を破線で示している。
図7は、ピアノの高音域側に加振装置50Rまたは比較用加振器を設けたピアノの音量の周波数依存性を示すグラフである。
図7に示すグラフでは、横軸に周波数(Hz)、縦軸に振動レベル(dB)を示し、加振装置50を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を実線で示し、比較用加振器を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量を破線で示している。
【0045】
図6及び
図7に示すように、ピアノの低音域側及び高音域側の双方において、100Hz~200Hzの範囲において、実線で示す加振装置50(50L、50R)を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量は、破線で示す比較用加振器を響板に取り付けた場合におけるピアノの音量よりも大きい。したがって、加振装置50を響板に取り付けた場合において、ピアノの音響特性が向上されたことが分かる。また、
図6及び
図7に示すように、加振装置50を響板に取り付けることにより、特、ピアノの低音域側の音響特性を向上することができる。
【0046】
以上に述べたように、加振装置50において、加振器51を支持する支持部52(ブラケット)に、響板に対して弾性的に変位する弾性変位部521を設けることにより、加振装置50全体の駆動力を向上させることができる。このような加振装置50をピアノ1の響板7に取り付けることにより、ピアノ1の音響特性、特に低音域側の音響特性を向上させることができる。
【0047】
[変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は以下のように、様々な態様で実施可能である。
【0048】
(1)上述した実施形態では、本発明を鍵盤楽器として適用した場合について説明した。ここで、鍵盤楽器は、アップライトピアノに限定されず、例えば、グランドピアノやクラヴィコードなどであってもよい。また、本発明は、鍵盤楽器に限定されず、鍵などの操作子を含まない発音装置であってもよい。
【0049】
(2)上述した実施形態では、
図4に示したように2つの加振装置50が響板7に取り付けられる例を説明した。しかしながら、響板7に取り付けられる加振装置50の数は、2つに限定されるわけではなく、1つ、または3つ以上の加振装置50が取り付けられてもよい。
【0050】
(3)複数の加振装置50には、同一の入力信号が入力されてもよく、互いに異なる入力信号が入力されてもよい。例えば、2つの加振装置50が用いられる場合、それぞれに対応する入力信号は、低音域側に設けられた加振装置50(50L)用の入力信号と高音域側に設けられた加振装置50(50R)用の入力信号としてもよい。
【0051】
(4)また、複数の加振装置50の周波数特性は、異なっていてもよい。例えば、高音域側に設けられた加振装置50(50R)の弾性変位部521の共振種波数は、低音域側に設けられた加振装置50(50L)の弾性変位部521の共振周波数よりも高くてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1・・・ピアノ、2・・・鍵、3・・・ペダル、4・・・ハンマ、5・・・弦、6・・・駒、7・・・響板、8・・・ダンパ、9・・・フレーム、10・・・制御装置、22・・・鍵センサ、23・・・ペダルセンサ、24・・・ハンマセンサ、30・・・鍵駆動装置、33・・・ペダル駆動装置、38・・・ダンパ駆動装置、40・・・ストッパ、45・・・アクション機構、50・・・加振装置、51・・・加振器、52・・・支持部、53・・・端子部、511・・・接続部、513・・・変位部、514・・・キャップ、515・・・弾性部、517・・・フレーム、521・・・弾性変位部、523・・・固定部、525・・・加振器取り付け部、527・・・加振器支持部、529・・・折り曲げ部