(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131595
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240920BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B7/025
C23C14/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041962
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
4F100AA28B
4F100AA33B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EH66B
4F100JA02
4F100JG01B
4F100JK05B
4F100JK12A
4F100JL00
4F100JN01B
4K029AA11
4K029BA45
4K029BA47
4K029BA50
4K029CA06
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC39
4K029JA10
(57)【要約】
【課題】加湿信頼性に優れる透明導電性フィルムを提供すること。
【解決手段】透明導電性フィルム1は、基材層2と、透明導電層3とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。厚さ方向と直交する面方向において、透明導電性フィルム1の、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における、90℃以上160℃以下の線膨張係数α
bの、40℃以上90℃以下の線膨張係数α
aに対する比(α
b/α
a)が、3.50以上である。透明導電層3は、透明導電性フィルムにおける熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が710MPa未満である。透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、透明導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルムであって、
前記厚さ方向と直交する面方向において、前記透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における、90℃以上160℃以下の線膨張係数αbの、40℃以上90℃以下の線膨張係数αaに対する比(αb/αa)が、3.50以上であり、
前記透明導電層は、前記透明導電性フィルムにおける熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が710MPa未満であり、
前記透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する、透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材と透明導電層とを順に備える透明導電性フィルムが知られている。このような透明導電性フィルムは、各種デバイス(例えば、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置など)において、好適に用いられる。
【0003】
このような透明導電性フィルムとして、例えば、ダイヤホイルT910E125(透明樹脂基材)の厚み方向一方面に、スパッタリング(成膜圧力0.2Pa)により、透明導電層を配置することにより得られる透明導電性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1の実施例5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1の透明導電性フィルムを、加湿条件下(例えば、65℃、相対湿度95%)に置くと、透明導電層にクラックが発生することがある。そのため、特許文献1の透明導電性フィルムは、加湿信頼性が低下するという不具合がある。
【0006】
本発明は、加湿信頼性に優れる透明導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、基材層と、透明導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルムであって、前記厚さ方向と直交する面方向において、前記透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における、90℃以上160℃以下の線膨張係数αbの、40℃以上90℃以下の線膨張係数αaに対する比(αb/αa)が、3.50以上であり、前記透明導電層は、前記透明導電性フィルムにおける熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が710MPa未満であり、前記透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する、透明導電性フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の透明導電性フィルムでは、厚さ方向と直交する面方向において、透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における、90℃以上160℃以下の線膨張係数αbの、40℃以上90℃以下の線膨張係数αaに対する比(αb/αa)が、3.50以上である。透明導電層は、前記透明導電性フィルムにおける熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が710MPa未満である。透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。そのため、加湿信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態を示す。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、透明導電性フィルムの製造方法の一実施形態を示す。
図2Aは、第1工程において、基材を準備する工程を示す。
図2Bは、第1工程において、基材の厚み方向一方面に、硬化樹脂層を配置する工程を示す。
図2Cは、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層を配置する第2工程を示す。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、特許文献1の透明導電性フィルムおよび本発明の透明導電性フィルムにおける基材層の収縮と透明導電層3の収縮とを比較する模式図である。
図3Aは、特許文献1の透明導電性フィルムにおいて、基材層の収縮と透明導電層3の収縮とを比較する模式図である。
図3Bは、本発明の透明導電性フィルムにおいて、基材層の収縮と透明導電層3の収縮とを比較する模式図である。
【
図4】
図4は、スパッタリング法により透明導電層を形成する際の酸素導入量と、形成される透明導電層の比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態を説明する。
【0011】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向)である。また、紙面上側が、上側(厚み方向一方側)である。また、紙面下側が、下側(厚み方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0012】
透明導電性フィルム1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む。)を有する。透明導電性フィルム1は、厚み方向と直交する面方向に延びる。透明導電性フィルム1は、平坦な上面および平坦な下面を有する。透明導電性フィルム1は、好ましくは、可撓性を有する。
【0013】
図1に示すように、透明導電性フィルム1は、基材層2と、基材層2の厚み方向一方側に配置される透明導電層3とを備える。具体的には、透明導電性フィルム1は、基材層2と、基材層2の上面(厚み方向一方側)に直接配置される透明導電層3とを備える。透明導電性フィルム1は、好ましくは、基材層2と透明導電層3とからなる。
【0014】
透明導電性フィルム1は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、透明導電性フィルム1の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0015】
透明導電性フィルム1の厚みは、例えば、400μm以下、好ましくは、200μm以下、また、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。
【0016】
<基材層>
基材層2は、フィルム形状を有する。基材層2は、好ましくは、可撓性を有する。基材層2は、透明導電層3の下面に接触するように、透明導電層3の下面全面に、配置されている。基材層2は、透明導電性フィルム1の最下層である。
【0017】
基材層2は、基材11と、基材11の厚み方向一方側に配置される硬化樹脂層12とを備える。
【0018】
[基材]
基材11は、硬化樹脂層12の下面に接触するように、硬化樹脂層12の下面全面に、配置されている。基材11は、透明導電性フィルム1の最下層である。
【0019】
基材11としては、例えば、高分子フィルムが挙げられる。
【0020】
高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、および、ポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0021】
高分子フィルムの材料として、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。高分子フィルムの材料として、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0022】
また、基材11の厚み方向一方面には、易接着層(図示せず)が設けれていてもよい。
【0023】
基材11の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、より好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、50μm以上、とりわけ好ましくは、100μm以上また、例えば、200μm以下、好ましくは、190μm以下、より好ましくは、150μm以下である。
【0024】
基材11の厚みは、ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、「DG-205」)を用いて測定できる。
【0025】
また、基材11は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、基材層2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0026】
[硬化樹脂層]
硬化樹脂層12は、透明導電層3の下面に接触するように、透明導電層3の下面全面に、配置されている。
【0027】
硬化樹脂層12として、例えば、ハードコート層が挙げられる。ハードコート層は、透明導電層3に擦り傷を生じ難くするための擦傷保護層である。
【0028】
ハードコート層として、例えば、特開2016-179686号公報に記載のハードコート組成物(アクリル樹脂、ウレタン樹脂など)の硬化物が挙げられる。
【0029】
ハードコート層は、基材11の厚み方向一方面に、ハードコート組成物を塗布し、必要により乾燥させ、硬化させることにより、形成される。
【0030】
ハードコート層は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、ハードコート層の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0031】
ハードコート層の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。
【0032】
そして、透明導電性フィルム1の厚さ方向と直交する面方向において、透明導電性フィルム1の、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向(具体的には、MD方向)と直交する方向(具体的には、TD方向)における、90℃以上160℃以下の線膨張係数αbの、40℃以上90℃以下の線膨張係数αaに対する比(αb/αa)が、3.50以上、好ましくは、3.70以上、より好ましくは、3.80以上、また、例えば、5.00以下、好ましくは、4.00以下である。
【0033】
上記比が、上記下限以上であれば、加湿信頼性を向上させることができる。また、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックが発生することを抑制できる。
【0034】
一方、上記比が、上記下限未満であれば、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックが発生する。
【0035】
線膨張係数αaおよび線膨張係数αbの測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0036】
また、透明導電性フィルム1の、上記熱収縮率が最大である方向は、例えば、基材層2または透明導電性フィルム1において任意の方向に延びる軸を基準軸(0°)として、当該基準軸から15°刻みの軸方向での加熱処理前後の寸法変化率を測定することにより、求められる。透明導電性フィルム1の、上記熱収縮率が最大である方向は、透明導電性フィルム1のMD方向(即ち、ロールトゥロール方式での後述の製造プロセスにおけるフィルム走行方向)である。上記熱収縮率が最大である方向が、MD方向である場合には、上記熱収縮率が最大である方向と直交する方向は、TD方向である。
【0037】
<透明導電層>
透明導電層3は、フィルム形状を有する。透明導電層3は、基材層2の上面に接触するように、基材層2の上面全面に、配置されている。透明導電層3は、透明導電性フィルム1の最上層である。
【0038】
透明導電層3の材料としては、例えば、導電性酸化物が挙げられる。導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、および、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または半金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子または半金属原子をドープしていてもよい。
【0039】
導電性酸化物としては、例えば、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物として、例えば、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、および、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。
【0040】
導電性酸化物として、透明性および電気伝導性を向上する観点から、好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。以下の説明では、透明導電層3の材料が、インジウムスズ複合酸化物(ITO)である場合について、詳述する。
【0041】
インジウムスズ複合酸化物(ITO)において、酸化スズの濃度は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、例えば、30質量%以下である。
【0042】
また、透明導電層3は、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。透明導電層3は、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有すれば、後述する透明導電層3の収縮B(
図3Aおよび
図3B参照)を大きくすることができる(透明導電層3が、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子に代えて、アルゴン原子を含む場合に比べて、透明導電層3の収縮Bを大きくできる。)。
【0043】
上記希ガス原子は、後述するスパッタリングガスに由来する希ガス原子であって、例えば、クリプトン原子およびキセノン原子が挙げられる。上記希ガス原子として、好ましくは、クリプトン原子が挙げられる。
【0044】
上記希ガス原子の含有割合は、透明導電層3において、例えば、1原子%以下、好ましくは、0.5原子%以下、より好ましくは、0.3原子%以下、さらに好ましくは、0.1原子%以下、また、例えば、0.0001原子%以上である。
【0045】
なお、上記希ガス原子の存在は、蛍光X線分析により確認することができる。また、希ガス原子の含有割合は、ラザフォード後方散乱分光法により測定することができる。
【0046】
また、希ガス原子の含有割合が、ラザフォード後方散乱分光法の検出限界値以下であれば、希ガス原子を定量できないが、蛍光X線分析によって、希ガス原子の存在を確認できるときは、透明導電層3における希ガス原子の含有割合は、0.0001原子%以上であると判断できる。
【0047】
また、透明導電層3は、上記希ガス以外の他の希ガス原子(例えば、アルゴン原子)を含有することもできる。他の希ガス原子は、後述するスパッタリングガスに由来する希ガス原子である。すなわち、透明導電層3が他の希ガス原子を含む態様としては、例えば、スパッタリングガスとして、アルゴンより原子番号が大きな希ガスと、他の希ガスとを併用する態様が挙げられる。
【0048】
透明導電層3は、好ましくは、他の希ガス原子を含まず、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子のみを含む。
【0049】
また、透明導電層3は、結晶質である。透明導電層3が結晶質である場合には、例えば、透明導電層3を、5質量%の塩酸水溶液に15分間浸漬した後、水洗および乾燥し、透明導電層3の表面において15mm程度の間の二端子間抵抗を測定し、二端子間抵抗が10kΩ以下である。
【0050】
透明導電層3において、透明導電性フィルム1における上記熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が、710MPa未満、好ましくは、700MPa以下、より好ましくは、680MPa以下、さらに好ましくは、650MPa以下、とりわけ好ましくは、635MPa以下、また、例えば、0MPa以上である。
【0051】
上記圧縮応力が、上記上限未満であれば、加湿信頼性を向上させることができる。
【0052】
一方、上記圧縮応力が、上記上限以上であれば、加湿信頼性が低下する。
【0053】
透明導電性フィルム1における上記熱収縮率が最大である方向は、基材層2における熱収縮率が最大である方向と一致するか、または、相異なる。透明導電性フィルム1における熱収縮率が最大である方向が、基材層2における熱収縮率が最大である方向と一致する場合には、透明導電性フィルム1における上記熱収縮率が最大である方向は、基材層2におけるMD方向である。
【0054】
上記圧縮応力は、後述するスパッタリング時の気圧、および、スパッタリングガスの種類によって、調整することができる。
【0055】
圧縮応力の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0056】
透明導電層3の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、また、例えば、1000nm以下、好ましくは、200nm以下、より好ましくは、100nm以下、さらに好ましくは、50nm以下である。
【0057】
透明導電層3の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、また、例えば、100%以下である。
【0058】
透明導電層3の表面抵抗は、例えば、2000Ω/□以下、好ましくは、100Ω/□以下、また、例えば、0Ω/□超過である。表面抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定できる。
【0059】
透明導電層3の比抵抗は、例えば、5.0×10-4Ωcm以下、好ましくは、2.5×10-4Ωcm以下、より好ましくは、2.0×10-4Ωcm以下、さらに好ましくは、1.8×10-4Ωcm以下、また、例えば、0Ωcm超過である。比抵抗は、表面抵抗に厚みを乗じて得られる。
【0060】
<透明導電性フィルムの製造方法>
図2A~
図2Cを参照して、透明導電性フィルム1の製造方法を説明する。
【0061】
透明導電性フィルム1の製造方法は、基材層2を準備する第1工程と、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を配置する第2工程とを備える。また、この方法では、各層を、例えば、ロールトゥロール方式で、順に配置する。このような場合には、搬送速度は、例えば、1.0m/分以上、また、例えば、20.0m/分以下である。
【0062】
[第1工程]
第1工程では、基材層2を準備する。
【0063】
基材層2を準備するには、
図2Aに示すように、基材11を準備する。
【0064】
次いで、
図2Bに示すように、基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置する。
【0065】
基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置するには、基材11の厚み方向一方面に、ハードコート層組成物を塗布し、必要により乾燥させ、硬化させる。これにより、基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置し、基材層2を準備する。
【0066】
[第2工程]
第2工程では、
図2Cに示すように、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を配置する。
【0067】
スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を順に配置するには、必要により、基材層2の厚み方向一方面に表面処理を施す。
【0068】
表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、および、ケン化処理が挙げられる。
【0069】
次いで、スパッタリング法では、真空チャンバー内にターゲット(透明導電層3の材料)および基材層2を対向配置する。次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を基材層2の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、透明導電層3を形成する。また、スパッタリングにおいて、基材層2は、成膜ロールの周方向に沿って、密着している
【0070】
スパッタリングガスとしては、例えば、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)が挙げられる。不活性ガスは、アルゴンより原子番号が大きな希ガス(例えば、クリプトンガス、キセノンガス)と、必要により、アルゴンガスを含む。不活性ガスは、好ましくは、アルゴンガスを含まず、アルゴンより原子番号が大きな希ガスのみを含む。不活性ガスとして、好ましくは、クリプトンガスが挙げられる。
【0071】
スパッタリングガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)を併用する。
【0072】
反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)の導入量は、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)の総量に対して、例えば、1.0流量%以上、また、例えば、15.0流量%以下である。
【0073】
スパッタリング時の気圧(成膜圧力)は、例えば、0.5Pa以上、好ましくは、0.6Pa以上、より好ましくは、0.9Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.2Pa以下である。
【0074】
成膜圧力が、上記範囲内であれば、後述する基材層2の収縮Aと透明導電層3の収縮Bとの差(A-B)(
図3Aおよび
図3B参照)が小さくできる。
【0075】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0076】
放電出力は、例えば、1.0kW以上、好ましくは、10.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0077】
ターゲットの水平磁場強度は、例えば、10mT以上、好ましくは、60mT以上、また、例えば、200mT以下、好ましくは、100mT以下である。
【0078】
また、成膜ロールの温度は、例えば、100℃以下、好ましくは、80℃以下、より好ましくは、50℃以下、さらに好ましくは、25℃以下、とりわけ好ましくは、0℃以下、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0079】
その後、透明導電性フィルム1において、透明導電層3を加熱して、結晶化させる。
【0080】
加熱方法として、例えば、赤外線ヒーターおよびオーブン(熱媒加熱式オーブン,熱風加熱式オーブン)が挙げられる。
【0081】
加熱条件として、加熱温度は、例えば、120℃以上、好ましくは、140℃以上、また、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である、また、加熱時間は、10秒以上、また、例えば、6時間以下である。
【0082】
これにより、基材層2と結晶質の透明導電層3とを厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルム1を製造する。
【0083】
<作用効果>
透明導電性フィルム1では、厚さ方向と直交する面方向において、透明導電性フィルム1の、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における、90℃以上160℃以下の線膨張係数αbの、40℃以上90℃以下の線膨張係数αaに対する比(αb/αa)が、3.50以上である。透明導電層3は、透明導電性フィルム1における熱収縮率が最大である方向において、圧縮応力が710MPa未満である。透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。そのため、加湿信頼性を向上させることができる。
【0084】
詳しくは、特許文献1の透明導電性フィルム1を、加湿条件下(例えば、65℃、相対湿度95%)に置くと、透明導電層3にクラックが発生することがある。より詳しくは、
図3Aが参照されるように、特許文献1の透明導電性フィルム1では、加湿条件下において、基材層2(透明樹脂基材)の収縮に対して、透明導電層3の収縮が相対的に小さくなる傾向(詳しくは、透明導電層3は、低い成膜圧力(0.2Pa)において製造されるため、透明導電層3の収縮が小さくなる傾向がある。)がある。そうすると、基材層2(透明樹脂基材)の収縮Aと、透明導電層3の収縮Bとの差(A-B)が大きくなる。その差に応じて、透明導電層3に圧縮応力がかかり、その結果、透明導電層に、クラックが生じる。そのため、特許文献1の透明導電性フィルム1は、加湿信頼性が低下するという不具合がある。
【0085】
一方、透明導電性フィルム1では、透明導電層3の圧縮応力が710MPa未満に調整されている。つまり、透明導電性フィルム1では、基材層2の収縮Aと透明導電層3の収縮Bとを同程度に調整することにより、これらの差(A-B)が小さくなるように調製されている。具体的には、
図3Bが参照されるように、透明導電性フィルム1では、上記比(α
b/α
a)を、3.50以上とすることで、基材層2の収縮を調整する一方、透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有することにより、透明導電層3の収縮を、基材層2の収縮と同程度となるように、大きくする。そうすると、基材層2の収縮Aと、透明導電層3の収縮Bとの差(A-B)が小さくでき、透明導電層3の圧縮応力を、710MPa未満に調整できる。その結果、透明導電層3に、クラックが生じることを抑制でき、加湿信頼性を向上できる。
【0086】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0087】
また、上記した説明では、基材層2は、基材11と硬化樹脂層12とを備えるが、硬化樹脂層12を備えず、基材11のみを備えることもできる。
【実施例0088】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替できる。
【0089】
<成分の詳細>
基材1:易接着層付きPETフィルム、厚み125μm、三菱ケミカル社製、
基材2:PETフィルムとハードコート層とを順に備えるフィルム(厚み54μm、きもと社製)
基材3:ハードコート層とPETフィルムと光学調整層とを、厚み方向一方側に向かって順に備えるフィルム(厚み52μm、三菱ケミカル社製)
【0090】
<透明導電性フィルムの製造>
実施例1
[第1工程]
基材として、基材1を準備した。
【0091】
[第2工程]
以下の条件基づき、スパッタリング法によって、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層を配置した。具体的には、基材層を真空スパッタ装置に設置して、到達真空度が0.9×10
-4Paとなるよう十分に真空排気し、基材層の脱ガス処理を実施した。その後、基材層を成膜ロールに沿うように搬送しながら、スパッタリングガスとして、クリプトンガス、および、酸素(反応ガス)を導入した減圧下(0.6Pa)で、酸化インジウムおよび酸化スズの焼結体であるITOからなるターゲットを設置し、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層(厚み44nm)を配置した。なお、酸素の導入量は、
図4に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域R内であって、形成されるITO膜の比抵抗の値が6.8×10
-4Ω・cmになるように調整した。
図4に示す比抵抗-酸素導入量曲線は、酸素導入量以外の条件は上記と同じ条件で透明導電層を反応性スパッタリング法で形成した場合の、透明導電層の比抵抗の酸素導入量依存性を、予め調べて作成できる。
{成膜設備・条件}
電源:DC電源
ターゲットの水平磁場強度:90mT
成膜気圧:0.6Pa
成膜ロール温度:-5℃
【0092】
その後、140℃の熱風オーブンで、透明導電性フィルムを、1時間加熱した。これにより、透明導電層を結晶化させた。
【0093】
実施例2、比較例1~比較例7
実施例1と同様の手順に基づいて、透明導電性フィルムを製造した。但し、表1の記載に基づいて、基材層、スパッタリングガス、成膜圧力、および、酸素の酸素導入量を変更した。
【0094】
<評価>
[厚み]
各実施例および各比較例の透明導電層の厚みを測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、各実施例および各比較例の透明導電性フィルムの断面を調製した。次いで、透明導電層の断面を、FE-TEM観察し、透明導電層の厚みを測定した。その結果を表1に示す。
【0095】
なお、装置および測定条件を以下に示す。
FIB装置; Hitachi製 FB2200、加速電圧:10kV
FE-TEM装置;JEOL製 JEM-2800、加速電圧:200kV
【0096】
また、基材の厚み、ハードコート層の厚み、光学調整層の厚み、および、易接着層の厚みを、膜厚計(Peacock社製 デジタルダイアルゲージDG-205)を用いて測定した。
【0097】
[圧縮応力]
各実施例および各比較例の透明導電性フィルムにおいて、透明導電層の圧縮応力を、透明導電層の結晶格子歪みから間接的に求めた。具体的には、透明導電性フィルムから、矩形の測定試料(50mm×50mm)を切り出した。次に、粉末X線回折装置(商品名「SmartLab」,株式会社リガク製)により、測定試料の透明導電層について、測定散乱角2θ=60~61.6°の範囲で、0.02°おきに、回折強度を測定した(0.15°/分)。次に、得られた回折像のピーク(ITOの(622)面のピーク)角2θと、X線源の波長λとに基づき、測定試料における透明導電層の結晶格子間隔dを算出し、dを基に格子歪みεを算出した。dの算出には、下記式(1)を用い、εの算出には、下記式(2)を用いた。下記式(1)および下記式(2)において、λはX線源(Cu Kα線)の波長(=0.15418nm)であり、d
0は無応力状態のITOの格子面間隔(=0.1518967nm)である。上記のX線回折測定を、フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψが65°、70°、75°、および85°のそれぞれについて実施し、それぞれのΨにおける格子歪みεを算出した。フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψは、測定試料(透明導電性フィルムの一部)における透明基材フィルムのTD方向(面内においてMD方向と直交する方向)を回転軸中心として試料を回転することによって、調整した(角Ψの調整)。ITO膜面内方向の残留応力σは、Sin
2Ψと格子歪εとの関係をプロットした直線の傾きから下記式(3)により求めた。求められた残留応力σ(負の値をとる)の絶対値を、MD方向における圧縮残留応力(MPa)とした。下記式(3)において、EはITOのヤング率(=115GPa)、νはITOのポアソン比(=0.35)とした。また、X線回折測定における上述の角Ψの調整を、測定試料における透明基材フィルムのTD方向に代えてMD方向(面内においてTD方向と直交する方向)を回転軸中心として試料を回転することによって実現したこと以外は、MD方向における圧縮残留応力と同様にして、TD方向における圧縮残留応力(MPa)を導出した。得られた結果から、MD方向が、熱収縮率が最大である方向であるとした。その結果を表1に示す。
【数1】
【数2】
【0098】
[線膨張係数]
各実施例および比較例の基材層を50mm(TD方向)×4mm(MD方向)にカットして測定サンプルとした。サンプル測定長が16mmになるように測定サンプルを取り付け、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番「TMA7100」)を用いて、測定サンプルを30℃から160℃まで昇温して、再び30℃に降温した際の長さ方向(TD方向)における寸法変化率を測定した。なお、昇温/降温速度は10℃/分とした。測定結果より基材層の40℃から90℃までの線膨張係数αa、90℃から160℃までの線膨張係数αbを算出した。αaとαbを用いて比αb/αaを算出した。その結果を表1に示す。
【0099】
[透明導電層内のKr原子の確認]
実施例1、実施例2および比較例1~比較例5における各透明導電層がクリプトン原子を含有することは、次のようにして確認した。まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」,リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。そして、作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、透明導電層にクリプトン原子が含有されることを確認した。
{測定条件}
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100~300
【0100】
[加湿信頼性]
各実施例および各比較例の透明導電性フィルムを30cm×5cmのサイズに調整し、これを3枚ずつ準備し、サンプルとした。このサンプルの両短辺を耐熱テープで固定し、140℃の熱風オーブンで1時間加熱した。その後、このサンプルを、85℃85%の恒温恒湿オーブンに72時間投入した。次いで、5cm×5cmのサイズに細分化して、18枚にした。18枚のサンプルについて、顕微鏡を用いて、クラックが存在するか確認した。結晶化クラックについて、以下の基準に基づいて、評価した。その結果を表1に示す。なお、比較例2~比較例5については、透明導電層の結晶化において、クラックが発生したので、評価しなかった。
{基準}
○:18枚のうち、クラックが確認されたものが9枚以下であった。
×:18枚のうち、クラックが確認されたものが10枚以上であった。
【0101】