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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131596
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20240920BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B7/025
C23C14/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041963
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
4F100AA28B
4F100AA33B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EH66B
4F100JG01B
4F100JG04
4F100JK12A
4F100JL04
4F100JN01B
4K029AA11
4K029BA45
4K029BA47
4K029BA50
4K029CA06
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC39
4K029JA10
(57)【要約】
【課題】透明導電層を加熱して結晶化させる際に、クラックの発生を抑制でき、かつ、結晶後に低抵抗を有する透明導電性フィルムを提供すること。
【解決手段】透明導電性フィルム1は、基材層2と、透明導電層3とを、厚み方向一方側に向かって順に備える。熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、基材層2または透明導電性フィルム1は、30℃以上140℃以下の間にピークを有する。寸法変化率は、厚さ方向と直交する面方向における、基材層2または透明導電性フィルム1の、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における寸法変化率である。透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、透明導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルムであって、
熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、前記基材層または前記透明導電性フィルムは、30℃以上140℃以下の間にピークを有し、
前記寸法変化率は、前記厚さ方向と直交する面方向における、前記基材層または前記透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における寸法変化率であり、
前記透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する、透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材と透明導電層とを順に備える透明導電性フィルムが知られている。このような透明導電性フィルムは、各種デバイス(例えば、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置など)において、好適に用いられる。
【0003】
このような透明導電性フィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート基板上に、スパッタリング法(スパッタリングガスとして、クリプトンを用いるスパッタリング法)により、透明導電膜を配置することにより得られる透明導電性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1の実施例3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-334924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、目的および用途に応じて、透明導電性フィルムにおける透明導電膜を加熱して、結晶化させる場合がある。このような場合には、透明導電性フィルムにおける基材層が加熱により膨張すると、基材層と透明導電膜との寸法変化率の差に起因して、透明導電膜にクラックが生じることがある。
【0006】
また、透明導電性フィルムには、低抵抗が要求される。
【0007】
本発明は、透明導電層を加熱して結晶化させる際に、クラックの発生を抑制でき、かつ、結晶後に低抵抗を有する透明導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、基材層と、透明導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルムであって、熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、前記基材層または前記透明導電性フィルムは、30℃以上140℃以下の間にピークを有し、前記寸法変化率は、前記厚さ方向と直交する面方向における、前記基材層または前記透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における寸法変化率であり、前記透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する、透明導電性フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透明導電性フィルムでは、所定の条件に基づいて、熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、基材層または透明導電性フィルムは、30℃以上140℃以下の間にピークを有する。また、透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。そのため、透明導電層を加熱して結晶化させる際に、クラックの発生を抑制でき、かつ、結晶後に低抵抗を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態を示す。
図2図2Aおよび図2Bは、透明導電性フィルムの製造方法の一実施形態を示す。図2Aは、第1工程において、基材を準備する工程を示す。図2Bは、第1工程において、基材の厚み方向一方面に、硬化樹脂層を配置する工程を示す。図2Cは、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層を配置する第2工程を示す。
図3図3は、スパッタリング法により透明導電層を形成する際の酸素導入量と、形成される透明導電層の比抵抗との関係を示すグラフである。
図4図4Aおよび図4Bは、熱機械分析装置により測定される寸法変化率の結果を示す。図4Aは、実施例1における熱機械分析装置により測定される寸法変化率の結果を示す。図4Bは、比較例1における熱機械分析装置により測定される寸法変化率の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態を説明する。
【0012】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向)である。また、紙面上側が、上側(厚み方向一方側)である。また、紙面下側が、下側(厚み方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0013】
透明導電性フィルム1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む。)を有する。透明導電性フィルム1は、厚み方向と直交する面方向に延びる。透明導電性フィルム1は、平坦な上面および平坦な下面を有する。透明導電性フィルム1は、好ましくは、可撓性を有する。
【0014】
図1に示すように、透明導電性フィルム1は、基材層2と、基材層2の厚み方向一方側に配置される透明導電層3とを備える。具体的には、透明導電性フィルム1は、基材層2と、基材層2の上面(厚み方向一方側)に直接配置される透明導電層3とを備える。透明導電性フィルム1は、好ましくは、基材層2と透明導電層3とからなる。
【0015】
透明導電性フィルム1は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、透明導電性フィルム1の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0016】
透明導電性フィルム1の厚みは、例えば、400μm以下、好ましくは、200μm以下、また、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。
【0017】
<基材層>
基材層2は、フィルム形状を有する。基材層2は、好ましくは、可撓性を有する。基材層2は、透明導電層3の下面に接触するように、透明導電層3の下面全面に、配置されている。基材層2は、透明導電性フィルム1の最下層である。
【0018】
基材層2は、基材11と、基材11の厚み方向一方側に配置される硬化樹脂層12とを備える。
【0019】
[基材]
基材11は、硬化樹脂層12の下面に接触するように、硬化樹脂層12の下面全面に、配置されている。基材11は、透明導電性フィルム1の最下層である。
【0020】
基材11としては、例えば、高分子フィルムが挙げられる。
【0021】
高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、および、ポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0022】
高分子フィルムの材料として、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。高分子フィルムの材料として、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0023】
また、基材11の厚み方向一方面には、易接着層(図示せず)が設けれていてもよい。
【0024】
基材11の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、より好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、50μm以上、とりわけ好ましくは、100μm以上、また、例えば、200μm以下、好ましくは、190μm以下、より好ましくは、150μm以下である。
【0025】
基材11の厚みは、ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、「DG-205」)を用いて測定できる。
【0026】
また、基材11は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、基材層2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0027】
[硬化樹脂層]
硬化樹脂層12は、透明導電層3の下面に接触するように、透明導電層3の下面全面に、配置されている。
【0028】
硬化樹脂層12として、例えば、ハードコート層が挙げられる。ハードコート層は、透明導電層3に擦り傷を生じ難くするための擦傷保護層である。
【0029】
ハードコート層として、例えば、特開2016-179686号公報に記載のハードコート組成物(アクリル樹脂、ウレタン樹脂など)の硬化物が挙げられる。
【0030】
ハードコート層は、基材11の厚み方向一方面に、ハードコート組成物を塗布し、必要により乾燥させ、硬化させることにより、形成される。
【0031】
ハードコート層は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、ハードコート層の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0032】
ハードコート層の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。
【0033】
<透明導電層>
透明導電層3は、フィルム形状を有する。透明導電層3は、基材層2の上面に接触するように、基材層2の上面全面に、配置されている。透明導電層3は、透明導電性フィルム1の最上層である。
【0034】
透明導電層3の材料としては、例えば、導電性酸化物が挙げられる。導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、および、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または半金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子または半金属原子をドープしていてもよい。
【0035】
導電性酸化物としては、例えば、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物として、例えば、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、および、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。
【0036】
導電性酸化物として、透明性および電気伝導性を向上する観点から、好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。以下の説明では、透明導電層3の材料が、インジウムスズ複合酸化物(ITO)である場合について、詳述する。
【0037】
インジウムスズ複合酸化物(ITO)において、酸化スズの濃度は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、例えば、30質量%以下である。
【0038】
また、透明導電層3は、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。透明導電層3は、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有すれば、比抵抗を小さくすることができる。
【0039】
上記希ガス原子は、後述するスパッタリングガスに由来する希ガス原子であって、例えば、クリプトン原子およびキセノン原子が挙げられる。上記希ガス原子として、好ましくは、クリプトン原子が挙げられる。
【0040】
上記希ガス原子の含有割合は、透明導電層3において、例えば、1原子%以下、好ましくは、0.5原子%以下、より好ましくは、0.3原子%以下、さらに好ましくは、0.1原子%以下、また、例えば、0.0001原子%以上である。
【0041】
なお、上記希ガス原子の存在は、蛍光X線分析により確認することができる。また、希ガス原子の含有割合は、ラザフォード後方散乱分光法により測定することができる。
【0042】
また、希ガス原子の含有割合が、ラザフォード後方散乱分光法の検出限界値以下であれば、希ガス原子を定量できないが、蛍光X線分析によって、希ガス原子の存在を確認できるときは、透明導電層3における希ガス原子の含有割合は、0.0001原子%以上であると判断できる。
【0043】
また、透明導電層3は、上記希ガス以外の他の希ガス原子(例えば、アルゴン原子)を含有することもできる。他の希ガス原子は、後述するスパッタリングガスに由来する希ガス原子である。すなわち、透明導電層3が他の希ガス原子を含む態様としては、例えば、スパッタリングガスとして、アルゴンより原子番号が大きな希ガスと、他の希ガスとを併用する態様が挙げられる。
【0044】
透明導電層3は、好ましくは、他の希ガス原子を含まず、アルゴンより原子番号が大きな希ガス原子のみを含む。
【0045】
また、透明導電層3は、非晶質である。透明導電層3が非晶質である場合には、例えば、透明導電層3を、5質量%の塩酸水溶液に15分間浸漬した後、水洗および乾燥し、透明導電層3の表面において15mm程度の間の二端子間抵抗を測定し、二端子間抵抗が10kΩ超過する。
【0046】
透明導電層3の厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、また、例えば、1000nm以下、好ましくは、200nm以下、より好ましくは、100nm以下、さらに好ましくは、50nm以下である。
【0047】
透明導電層3の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、また、例えば、100%以下である。
【0048】
後述する方法によって、透明導電層3を結晶化させる場合において、結晶質の透明導電層3の表面抵抗は、例えば、2000Ω/□以下、好ましくは、100Ω/□以下、また、例えば、0Ω/□超過である。表面抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定できる。
【0049】
結晶質の透明導電層3の比抵抗は、例えば、4.0×10-4Ωcm以下、好ましくは、2.0×10-4Ωcm以下、より好ましくは、1.7×10-4Ωcm以下、また、例えば、0Ωcm超過である。比抵抗は、表面抵抗に厚みを乗じて得られる。上記上限未満の場合は、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置などにおいて透明導電層に求められる低抵抗性を確保するのに適する。
【0050】
<熱機械分析装置により測定される寸法変化率におけるピーク>
透明導電性フィルム1では、熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、基材層2または透明導電性フィルム1は、30℃以上140℃以下の間にピーク(寸法変化率が最大となる極大値)を有する。
【0051】
なお、寸法変化率は、厚さ方向と直交する面方向における、基材層2または透明導電性フィルム3の、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向(具体的には、基材層2または透明導電性フィルム3のMD方向)と直交する方向(具体的には、基材層2または透明導電性フィルム3のTD方向)における寸法変化率である。
【0052】
基材層2または透明導電性フィルム1の、上記熱収縮率が最大である方向は、例えば、基材層2または透明導電性フィルム1において任意の方向に延びる軸を基準軸(0°)として、当該基準軸から15°刻みの軸方向での加熱処理前後の寸法変化率を測定することにより、求められる。基材層2または透明導電性フィルム1の、上記熱収縮率が最大である方向は、基材層2または透明導電性フィルム1のMD方向(即ち、ロールトゥロール方式での後述の製造プロセスにおけるフィルム走行方向)である。上記熱収縮率が最大である方向が、MD方向である場合には、上記熱収縮率が最大である方向と直交する方向は、TD方向である。
【0053】
基材層2または透明導電性フィルム1は、好ましくは、40℃以上、より好ましくは、60℃以上、さらに好ましくは、70℃以上、また、好ましくは、100℃以下、より好ましくは、90℃以下の間にピーク(極大値)を有する。
【0054】
上記ピークを有すれば、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックが発生することを抑制できる。
【0055】
また、基材層2または透明導電性フィルム1は、好ましくは、30℃以上140℃以下の間に、寸法変化率が最小となる極小値を有する。上記極小値を有すれば、基材層2または透明導電性フィルム1の寸法変化をより一層小さくできる。その結果、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックが発生することをより一層抑制できる。
【0056】
基材層2または透明導電性フィルム1は、好ましくは、105℃以上、より好ましくは、110℃以上、また、好ましくは、150℃以下、より好ましくは、130℃以下の間に極小値を有する。
【0057】
また、詳しくは後述するが、上記寸法変化率は、基材層2または透明導電性フィルム1を、30℃から160℃まで昇温することにより測定される。その後、160℃から30℃まで、降温する際には、上記寸法変化率は、次第に小さくなる。そして、30℃において、好ましくは、降温後の寸法変化率は、昇温前の寸法変化率よりも、小さくなる。具体的には、降温後の寸法変化率は、例えば、-0.1%以下、好ましくは、-0.2%以下、より好ましくは、-0.3%以下、さらに好ましくは、-0.4%以下である。降温後の寸法変化率が、上記上限以下であれば、再加熱時のクラック抑制に優れる。
【0058】
熱機械分析装置により測定される寸法変化率の測定については、後述する実施例において詳述する。
【0059】
<透明導電性フィルムの製造方法>
図2A図2Cを参照して、透明導電性フィルム1の製造方法を説明する。
【0060】
透明導電性フィルム1の製造方法は、基材層2を準備する第1工程と、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を配置する第2工程とを備える。また、この方法では、各層を、例えば、ロールトゥロール方式で、順に配置する。このような場合には、搬送速度は、例えば、1.0m/分以上、また、例えば、20.0m/分以下である。
【0061】
[第1工程]
第1工程では、基材層2を準備する。
【0062】
基材層2を準備するには、図2Aに示すように、基材11を準備する。
【0063】
次いで、図2Bに示すように、基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置する。
【0064】
基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置するには、基材11の厚み方向一方面に、ハードコート層組成物を塗布し、必要により乾燥させ、硬化させる。これにより、基材11の厚み方向一方面に、硬化樹脂層12(ハードコート層)を配置し、基材層2を準備する。
【0065】
[第2工程]
第2工程では、図2Cに示すように、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を配置する。
【0066】
スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、透明導電層3を順に配置するには、必要により、基材層2の厚み方向一方面に表面処理を施す。
【0067】
表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、および、ケン化処理が挙げられる。
【0068】
次いで、スパッタリング法では、真空チャンバー内にターゲット(透明導電層3の材料)および基材層2を対向配置する。次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を基材層2の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、透明導電層3を形成する。また、スパッタリングにおいて、基材層2は、成膜ロールの周方向に沿って、密着している
【0069】
スパッタリングガスとしては、例えば、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)が挙げられる。不活性ガスは、アルゴンより原子番号が大きな希ガス(例えば、クリプトンガス、キセノンガス)と、必要により、アルゴンガスを含む。不活性ガスは、好ましくは、アルゴンガスを含まず、アルゴンより原子番号が大きな希ガスのみを含む。不活性ガスとして、好ましくは、クリプトンガスが挙げられる。
【0070】
スパッタリングガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)を併用する。
【0071】
反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)の導入量は、不活性ガスおよび反応性ガス(好ましくは、酸素ガス)の総量に対して、例えば、1.0流量%以上、また、例えば、15.0流量%以下である。
【0072】
スパッタリング時の気圧(成膜圧力)は、例えば、0.9Pa超過、好ましくは、1.0Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.2Pa以下である。
【0073】
スパッタリング時の気圧が、上記範囲内であれば、透明導電性フィルム3が、上記ピーク(極大値)を有する。その結果、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックの発生を抑制できる。
【0074】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0075】
放電出力は、例えば、1.0kW以上、好ましくは、10.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0076】
ターゲットの水平磁場強度は、例えば、10mT以上、好ましくは、60mT以上、また、例えば、200mT以下、好ましくは、100mT以下である。
【0077】
また、成膜ロールの温度は、例えば、100℃以下、好ましくは、80℃以下、より好ましくは、50℃以下、さらに好ましくは、25℃以下、とりわけ好ましくは、0℃以下、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0078】
これにより、基材層2と非晶質の透明導電層3とを厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルム1を製造する。
【0079】
<作用効果>
透明導電性フィルム1では、所定の条件に基づいて、熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、基材層2または透明導電性フィルム3は、30℃以上140℃以下の間にピーク(極大値)を有する。また、透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する。そのため、透明導電層3を加熱して結晶化させる際に、クラックの発生を抑制でき、かつ、結晶後に低抵抗を有する。
【0080】
詳しくは、目的および用途に応じて、透明導電性フィルム1における透明導電層3を加熱して、結晶化させる場合がある。このような場合には、透明導電性フィルム1における基材層2が加熱により膨張すると、基材層2と透明導電層3との寸法変化率の差に起因して、透明導電層3にクラックが生じることがある。とりわけ、透明導電層3がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する場合には、加熱による透明導電層3の収縮が大きくなる。上記観点から、上記寸法変化率の差が大きくなり、クラックが生じやすくなる傾向がある。
【0081】
一方、この透明導電性フィルム1では、所定の条件に基づいて、熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、基材層2または透明導電性フィルム1は、30℃以上140℃以下の間にピークを有する。
【0082】
通常、基材層2または透明導電性フィルム1を、30℃から160℃まで加熱すると、寸法変化率が上昇し続ける傾向があるが(例えば、後述する比較例1(図4B)参照)、この透明導電性フィルム1では、基材層2または透明導電性フィルム1は、30℃以上140℃以下の間にピーク(極大値)を有する(具体的には、後述する実施例1(図4A)参照)。換言すれば、寸法変化率は、加熱によって上昇するが、ピーク温度を境に、下降する。そのため、基材層2または透明導電性フィルム1の寸法変化を小さくできる。その結果、上記寸法変化に起因するクラックの発生を抑制できる。また、好ましくは、基材層2または透明導電性フィルム1が、30℃以上140℃以下の間に、寸法変化率が最小となる極小値を有する。これにより、上記ピーク温度を境に下降する寸法変化率が、過度に低くなることを抑制できる。その結果、上記寸法変化に起因するクラックの発生をより一層抑制できる。
【0083】
また、透明導電層3を加熱して、結晶化させる方法として、例えば、赤外線ヒーターおよびオーブン(熱媒加熱式オーブン,熱風加熱式オーブン)が挙げられる。
【0084】
加熱条件として、加熱温度は、例えば、120℃以上、好ましくは、140℃以上、また、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である、また、加熱時間は、10秒以上、また、例えば、6時間以下である。
【0085】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0086】
また、上記した説明では、基材層2は、基材11と硬化樹脂層12とを備えるが、硬化樹脂層12を備えず、基材11のみを備えることもできる。
【実施例0087】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替できる。
【0088】
<成分の詳細>
基材1:易接着層付きPETフィルム、厚み125μm、三菱ケミカル社製、
基材2:PETフィルムとハードコート層とを順に備えるフィルム(厚み54μm、きもと社製)
基材3:ハードコート層とPETフィルムと光学調整層とを、厚み方向一方側に向かって順に備えるフィルム(厚み52μm、三菱ケミカル社製)
【0089】
<透明導電性フィルムの製造>
実施例1
[第1工程]
基材として、基材1を準備した。
【0090】
[第2工程]
以下の条件基づき、スパッタリング法によって、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層を配置した。具体的には、基材層を真空スパッタ装置に設置して、到達真空度が0.9×10-4Paとなるよう十分に真空排気し、基材層の脱ガス処理を実施した。その後、基材層を成膜ロールに沿うように搬送しながら、スパッタリングガスとして、クリプトンガス、および、酸素(反応ガス)を導入した減圧下(1.0Pa)で、酸化インジウムおよび酸化スズの焼結体であるITOからなるターゲットを設置し、基材層の厚み方向一方面に、透明導電層(厚み44nm)を配置した。なお、酸素の導入量は、図3に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域R内であって、形成されるITO膜の比抵抗の値が6.8×10-4Ω・cmになるように調整した。図4に示す比抵抗-酸素導入量曲線は、酸素導入量以外の条件は上記と同じ条件で透明導電層を反応性スパッタリング法で形成した場合の、透明導電層の比抵抗の酸素導入量依存性を、予め調べて作成できる。
{成膜設備・条件}
電源:DC電源
ターゲットの水平磁場強度:90mT
成膜気圧:1.0Pa
成膜ロール温度:-5℃
【0091】
実施例2、比較例1~比較例7
実施例1と同様の手順に基づいて、透明導電性フィルムを製造した。但し、表1の記載に基づいて、基材層、スパッタリングガス、成膜圧力、および、酸素の酸素導入量を変更した。
【0092】
<評価>
[厚み]
各実施例および各比較例の透明導電層の厚みを測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、各実施例および各比較例の透明導電性フィルムの断面を調製した。次いで、透明導電層の断面を、FE-TEM観察し、透明導電層の厚みを測定した。その結果を表1に示す。
【0093】
なお、装置および測定条件を以下に示す。
FIB装置; Hitachi製 FB2200、加速電圧:10kV
FE-TEM装置;JEOL製 JEM-2800、加速電圧:200kV
【0094】
また、基材の厚み、ハードコート層の厚み、光学調整層の厚み、および、易接着層の厚みを、膜厚計(Peacock社製 デジタルダイアルゲージDG-205)を用いて測定した。
【0095】
[抵抗値]
各実施例および各比較例の透明導電性フィルムを160℃の熱風オーブンで1時間加熱した後、JIS K7194(1994年)に準じて四端子法により、抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
[透明導電層内のKr原子の確認]
実施例1、比較例1および比較例2における各透明導電層がクリプトン原子を含有することは、次のようにして確認した。まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」,リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。そして、作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、透明導電層にクリプトン原子が含有されることを確認した。
{測定条件}
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100~300
【0097】
[熱機械分析装置による寸法変化率の測定]
各実施例および各比較例の基材層または透明導電性フィルムを、50mm(TD方向)×4mm(MD方向)にカットして測定サンプルとした。サンプル測定長が16mmになるように測定サンプルを取り付け、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番「TMA7100」)を用いて、測定サンプルを30℃から160℃まで昇温して、再び、30℃に降温した際の長さ方向(TD方向)における寸法変化率を測定した。なお、昇温/降温速度は10℃/分とした。基材層または透明導電性フィルムにおいて30℃から160℃まで昇温中の温度変化に対する寸法変化をプロットした際に、ピークが存在するか確認した。その結果を表1に示す。なお、図4Aには、実施例1の透明導電性フィルムについての、熱機械分析装置により測定される寸法変化率を示し、図4Bには、比較例1の透明導電性フィルムについての、熱機械分析装置により測定される寸法変化率を示す。図4Aによれば、82℃付近にピーク(極大値)が観測されたとわかる。また、図4Aによれば、120℃付近にピーク(極大値)が観測されたとわかる。また、降温後の寸法変化率が、-0.4%以下になるとわかる。このことから、透明導電性フィルムの寸法変化が小さいことがわかる。一方、図4Bによれば、30℃から160℃まで加熱すると、寸法変化率が上昇し続け、30℃から140℃において、ピーク(極大値)が観測されなかったとわかる。
【0098】
[結晶化クラック]
各実施例および各比較例の透明導電性フィルムを50cm×5cmのサイズに調整し、これを3枚ずつ準備し、サンプルとした。このサンプルの両短辺を耐熱テープで固定し、160℃の熱風オーブンで1時間加熱した。次いで、5cm×5cmのサイズに細分化して、30枚にした。30枚のサンプルについて、顕微鏡を用いて、クラックが存在するか確認した。結晶化クラックについて、以下の基準に基づいて、評価した。その結果を表1に示す。
{基準}
○:30枚のうち、クラックが確認されたものが5枚以下であった。
×:30枚のうち、クラックが確認されたものが6枚以上であった。
【0099】
【表1】
【符号の説明】
【0100】
1 透明導電性フィルム
2 基材層
3 透明導電層
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、透明導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備える透明導電性フィルムであって、
熱機械分析装置により測定される寸法変化率において、前記基材層または前記透明導電性フィルムは、30℃以上140℃以下の間にピークを有し、
前記寸法変化率は、前記厚さ方向と直交する面方向における、前記基材層または前記透明導電性フィルムの、165℃で60分間の加熱処理後の熱収縮率が最大である方向と直交する方向における寸法変化率であり、
前記透明導電層がアルゴンより原子番号が大きな希ガス原子を含有する、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物を含む、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記希ガス原子が、クリプトン原子である、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記基材層は、基材と、前記基材の厚み方向一方面に配置される易接着層とを備える、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記基材層は、基材を備え、
前記基材は、ポリエステル樹脂を含む、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。